コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.247 )
日時: 2011/07/16 09:42
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

「キャラクタープロデュースって…。
一体どういう事ですか?私は私でいちゃ、ダメって事ですか?」
雪見は、魔術にでも掛けられたかのように、ふらふらと握手してしまったが、
手を離した瞬間はっと我に返り、夏美から聞かされた言葉に突然、強い違和感を感じた。

「あら、このスタイリングに何かご不満でも?
あなたを売り出す戦略に、寸分の狂いもない見事なスタイリングかと思うけど?」
夏美は、またしても豊かな胸を誇示するように腕組みをし、わざと雪見の質問を
はぐらかしてニコリとした。

「そんな事聞いてるんじゃありません!
私に、作られたキャラクターを演じろ、ってことですか?
だったら、まったく納得なんてできませんけど!」
雪見の凄い剣幕に、理由の解らない進藤と牧田は驚いている。

「雪見ちゃん!ちょっと落ち着いて!
よく事情はわからないけど、私達のスタイリング、あんまり気に入ってもらえなかった?
私達は少なくとも雪見ちゃんのこと、よく知ってるつもりで仕事させてもらったんだけど…。」
牧田が少し寂しげに雪見に聞いた。

「違うの!牧田さん、誤解しないで!私、そんなつもりで言ったんじゃないから!
ごめんなさい…。緊張しててちょっとカリカリしてた…。」
そう牧田に言い訳したが、本当は夏美に対して怒っている。


その時だった。ノックの音と共にドアの向こうから「入ってもいい?」
と声が聞こえた。健人の声だ!
だが、メイク室の中は声を発するような空気ではなく、間の悪い健人のタイミングに
誰一人として返事をする者はいなかった。

少しして夏美が「入りなさい!」とドアを開け、廊下に突っ立っていた
健人を中に招き入れる。
そして背中を向けて立っている雪見を指差し、「どう思う?感想聞かせて。」
と腕組みし直し、健人に聞いた。

「ゆき姉?だよね?」
健人の声に渋々振り返る雪見。顔はふてくされた子供のように下を向いている。
しかし健人には、うつむいている雪見の表情など、全く目に入らなかった。
そこに立っているのがすでに雪見ではなく、健人が思い描いていた通りの
アーティスト『YUKIMI&』であることに、目が釘付けになったからだ。

胸まである長い髪をふわふわの巻き髪にし、生成り色がかった白い木綿のワンピースは
ゆったりとしたシルエットで、胸元に淡いピンクの大きなコサージュを付けている。
だが、上半身の少女っぽさとは裏腹に、足元だけはハードな黒のエンジニアブーツを履いていた。

「スッゲーや!俺の頭ん中で妄想してた『YUKIMI&』が、ここにいるみたい!
俺のイメージ通りだよ!夏美さん!」
健人は一目見るなりテンション高く、ニコニコしながらそう言う。

「も、妄想って!何を妄想してたわけ?健人くん!」
進藤がお腹を抱えて笑った。

「そっ!それは良かった。どう?雪見。健人はこう言ってるわよ。
あなた、キャラクタープロデュースの意味、随分と誤解してるようだけど?」

「えっ!ゆき姉のキャラクタープロデュースって、夏美さんがやるんですか!?」
健人がびっくりして、大声で聞いた。

「そうよ。マネージャーは下ろされたけど、かえってその方がプロデュースに専念できて
好都合だったわ。
最初は兼任で引き受けた話だったけど、よく考えたら大変だもの。」

「あの…。私、女優じゃないから、仕立てられたキャラクターを演じるなんて無理です。」
雪見は、もうどうしたら良いのか、まるで方向を見失っていた。
話す声にも力がない。

「ゆき姉、それは違うよ。ゆき姉の方が誤解してる。
夏美さんも、最初にちゃんと説明してやって下さいよ!
ゆき姉はこの業界の人じゃないんだから!」
健人は、この部屋に入って来た時に、なぜ場の空気がおかしかったのか
なんとなくわかった気がした。

「ゆき姉、ごめん。俺ももっと色んな事、教えてあげればよかったね。
そしたらこんなにゆき姉が、戸惑うことも無かったのに…。ごめんね。
だけど大丈夫だよ。夏美さんは、新人のプロデュースに関してはプロだから。
俺も方向性は全然間違ってないと思う。」
雪見に話したあと健人は、夏美の方を見た。

「新人ってね、デビューの時はまったく無の状態にあるでしょ?
誰もその人のことを良く知らない。
だから有る程度の方向性を決めて、その人をイメージしやすいように
まずはビジュアルで表現する。
あなたの場合、歌声からのイメージを表現するのが一番いいと思った。
大人なんだけど少女のような、透明なんだけど力強く心に響いてくる歌声。
凄く難しい宿題を、このお二人は完璧に解いてくれたわ。」
そう言って夏美は、進藤と牧田をにこやかに褒め称える。

「私達ね、昨日仕事の移動中に車の中で、偶然雪見ちゃんのデビュー曲を耳にしたの。
二人とも、気が付いたらボロボロ泣いてた。
その後今日のスタイリングの依頼があって、すぐに頭に浮かんだのがこの組み合わせ。
私が歌声から受けたイメージと、夏美さんから依頼されたイメージは
まったく同じだと思った。
素の雪見ちゃんも、充分表現できたと思ってるよ。」
牧田は、今度は自信を持って雪見に伝えることができた。

「でも…。記者会見で喋ったらきっとぶち壊しちゃう。
普通に話したら私って、こんなピュアなイメージじゃないと思うし…。
ずっと喋らないで、黙っていようかな…。」
雪見は困惑していた。

「ほんとにあなたって人は、思った以上に世話が焼けそうね。
誰もスタイリングだけであなたを印象付けようなんて、思っちゃいないわ!
普段のあなたと、歌を歌い出した時のあなたとのギャップが狙いなんじゃない!
あとは、猫カメラマンなのに!?と、三月までの限定アーティスト!?
ってとこも、おいしい売りよね!」
夏美は、早く雪見の生の歌声をお披露目して、みんなの驚く顔が見たかった。
健人と当麻が話題を呼ぶのは当然だが、この無名のアーティストの出現も
下手すると、健人たちを喰ってしまうほどの騒ぎになる予感がしている。

「私に任せなさい!会社にとっての大事な金の卵を、この私が潰すわけないでしょ?」
夏美はにっこりと雪見に向かって微笑んだ。

今はまだ、ね…。


その時、スタッフが当麻の到着を知らせに来た。
「じゃあ、あとは健人と当麻をお願い!時間が迫ってるから急いでね!」

それだけ言い残して夏美は、一足早く会場へと移動する。
これから巻き起こるセンセーショナルな風に、胸を高鳴らせて…。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.248 )
日時: 2011/07/17 10:24
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

会見十五分前。
健人と当麻も準備が整い、雪見と三人で大ホールステージ横へと移動する。

「ゆき姉、メッチャ可愛い!俺のイメージ通りの『YUKIMI&』だ!
で、どう?俺たちは。SJっぽい?カッコいいでしょ!」
当麻はこのビルに着いた時点から、すでにハイテンションだったらしく、
移動しながらも大声で喋りまくるので、スタッフから「シーッ!」と
注意を受けるありさまだ。

「SJって略するんだ!『スペシャルジャンクション』じゃ、ちょっと長いもんね。
でもかっこいいよ!二人も私のイメージ通り!当麻くんもダンスが上手そうに見えるし。
さすが牧田さんと進藤さんのコンビは最強だわ!」

「上手そうに見えるって、どういうことよ!失敬な。
俺のデビュー曲の振り付け、まだ見た事ないでしょ!ゆき姉は。」

「見なくても大体想像つくもん!健人くんはダンスが特技だから勿論上手いけど、
当麻くんはなんか身体が硬そうで…。」

「そんな理由かよっ!」

雪見も、さっきまでの情緒不安定さはどこへやら。
緊張感のカケラも見えず、当麻との掛け合い漫才を楽しんだかと思ったら、
どうやら控え室で、ワインを一杯飲んできたらしい。

緊張し過ぎて一言も喋らなくなった雪見を、見るに見かねたマネージャーの今野が
近くのコンビニまで全速力で走って、ワインを買って来たのだ。

「まぁ、もう夜の九時だし、記者会見の景気付けに一杯ずつ飲め!
特別に俺が許可する!」
控え室に顔を出した常務の小野寺も、雪見が歌えなくなったら元も子もない!
と、とにかく緊張をほぐしてもらうため、自ら三人にワインを注ぐ。

「じゃ、会見の成功を祈って乾杯!」

結局、健人は一杯、当麻と雪見は二杯ずつ一気に飲み干し、控え室をあとにした。


酒の力は偉大だった!
しかもつまみ無しで一気飲みした赤ワインは、酒に弱い人ならばあっという間に酔いが回り
会見どころではなくなると思うのだが、日頃酒の鍛錬を怠らないこの三人は、
この程度の酒では酔うに及ばず、文字通り潤滑油となって口も滑らかだ。

「よっしゃ!明日の一面トップ記事は、全社俺たちが独占しようぜ!
ゆき姉も、歌で会場にいる全員を泣かしちゃいなよ!話題になるよ!」
当麻が、ステージ横で気合いを入れる。

「なんでみんな、泣くかなぁ?あの歌は泣き歌じゃないと思うんだけど。」
雪見が小首を傾げて不思議がる。


その時、今日の司会を務める夏美の声で、記者会見の開会を告げるアナウンスが入った。
「本日はお忙しい所を当会場に足をお運び頂きまして、誠に有り難うございます。
只今より、斎藤健人、三ツ橋当麻、並びに浅香雪見のCDデビュー発表
記者会見を開催させて頂きます!」

「始まった!こうなったらいつも通り、楽しくやろうぜ!」
「OK!任せといて!」

三人はお互いに握手を交わし、夏美のアナウンス順にステージ上へと出て行った。
その瞬間、健人と当麻に女性記者たちから、思わず仕事を忘れた黄色い悲鳴が上がる。
三人が勢揃いしたステージ中央めがけ、会場全体が白くなるほどの無数の
フラッシュが一斉にたかれた。

「すっごいね!俺、今までで一番の記者の数だと思う。」
健人が横に立つ当麻に話しかける。

「俺、鳥肌立った!なに?このフラッシュの数!」

「私、やっぱ帰りた〜い!」


続いて夏美からデビューの概要が発表される。
「斎藤健人と三ツ橋当麻のユニット名…『SPECIAL JUNCTION』(スペシャルジャンクション)
デビュー曲…『キ・ズ・ナ』
浅香雪見のアーティスト名…『YUKIMI&』(ユキミ)
デビュー曲…『君のとなりに』
CD発売日は共に2011年1月5日予定でございます。

なお、すでにこの二組による、全国五大都市ツアーが決定致しておりますので、
合わせてご報告させて頂きます。
『YUKIMI&SPECIAL JUNCTION 絆 2011』と題しまして、1月25日の札幌を皮切りに、
東京、大阪、名古屋、福岡でコンサートを開催致します。
これは例年、斎藤健人と三ツ橋当麻がそれぞれに東京、大阪で行なっていた
ファンミーティングを、形を変えて五大都市に拡大し、浅香雪見と合同で
開催するものでございます。
浅香雪見に関しましては今回のツアー会場で、写真展『斎藤健人キズナ三ツ橋当麻』展も
同時開催されますので、合わせてご覧頂ければ幸いです。

では皆様、これより先はトークショー型式でお送り致します。
デビューに対しての熱い想いと、三人の素顔に迫ってまいりたいと思いますので
どうぞご期待下さい!
ただいま準備を致します。今しばらくお待ち願います。」

そつなく司会をこなす夏美に対して、ワインの効果も薄れ始めた雪見は
徐々に襲ってくる緊張の波に、飲み込まれる寸前だった。


ステージ上に背の高い椅子四脚とテーブルが一つ用意され、健人たち三人と夏美とが着席する。
そこへスタッフが、それぞれの胸元にピンマイクを付けてゆく。
別のスタッフは、見覚えのあるワゴンをカラカラ押しながら、なにやら飲み物を運んで来た。
見るとそれは、先週放送の『当麻的幸せの時間』で使った、ありとあらゆる種類の
酒が乗っているワゴンであった。

「えっ?これってラジオの飲み友企画で使った酒ワゴン?
わざわざ持って来たの?っつーか、これからここで飲むのぉ!?」
当麻がひどく驚いている。無論、他の二人もだ。

「なんで?一言も聞いて無かった!けど、ちょっと嬉しい!」
健人がニコニコしながら、ワゴンを早々と覗き込む。

「サプライズって嬉しいでしょ?
あのラジオの企画が大好評だったから、三上プロデューサーが第二弾として
会見場でやったらどうか?って。

ツアーのスポンサーでもある『当麻的幸せの時間』及び『ヴィーナス』様より、
会場にお集まりの皆様にも、後ろのテーブルにお飲み物をご用意させて頂きました。
但しお車でご来場の方のご飲酒は、固くお断り致します。
アルコール以外のお飲み物も多数ご用意致しておりますので、どうぞここからは
お飲み物片手に、リラックスした会見をお楽しみ下さい。」

夏美のアナウンスにどよめきが起こり、一人が立ち上がると皆が次々と
飲み物を求めて後ろのテーブルに集まった。


『予測不能の飲み友パーティー!』第二弾の幕開けだ。





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.249 )
日時: 2011/07/19 00:23
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

三人の中で、真っ先にワゴンに手を伸ばしたのは雪見だ。

控え室で飲んだワインの効き目は、このとんでもない記者の数を目にした途端、
アルコールが一気に身体の中で蒸発して、しらふに逆戻り。
緊張で顔がこわばり、一つも笑顔など作れる状況にはなかった。
そこへ三上が、救いの手を差し伸べるかのように、このワゴンを送り込んでくれたのだから、
雪見は思わず、神様、仏様、三上様!と叫びそうになった。

「私、シャンパン!誰か栓抜いて!先に飲んでもいい?」

「まだっ!俺たちまだ選んでないでしょ!
あ、でもせっかくシャンパン開けるなら、まずはみんなで乾杯しよっか。」

健人の提案に当麻も賛成し、さっそく栓を抜くことに。
ポンッ!という乾いた音がステージ上に響き、上手く開ける事が出来た当麻は
にっこりと微笑みながら、真っ先に雪見のグラスに黄金色の液体を注いだ。
夏美にも注いで四人がグラスを手にした時、おもむろに夏美が立ち上がった。

「では皆様。グラスのご準備はよろしいでしょうか。
ここにいる三人の、CDデビュー決定を祝して、乾杯!」

会場中が夏美のアナウンスにつられ、思わずグラスを高く掲げて
「乾杯!」と発声してしまう。
一体ここは何の会場なのか、自分は何をしにここへ来たのか、多分記者達は
一瞬自分の立ち位置を見失ったかと思う。
が、それこそが事務所の狙いでもあった。

酒というのは、良くも悪くも物事の輪郭を薄ぼんやりとさせてしまう。


「うまいっ!最高だねっ、今日の酒は!」
健人が、本当に幸せそうに笑ってる。

三人とも、ほぼ同時に最初のグラスを飲み干したので、夏美が慌てて小声で言った。
「ちょっと、あんたたちっ!飲み屋に来たんじゃないんだからねっ!
まだ一言も肝心な話、してないんだから!」
小声で三人にだけ話したつもりだったが、悲しいことにピンマイクが付いていては
内緒話など不可能である。
会場からどっ!と笑いが起こり、さすがの夏美も冷静さを失った。

「え、えーと、じゃあまずは健人くん、お願いっ!」

「え?え?いきなり俺?しかも、お願い!って、何をお願いされればいいわけ?」

またしても笑い声が巻き起こり、予測不能の記者会見がスタートした。

「ま、いいや!じゃ、せっかくの飲み友企画第二弾なんだから、
堅苦しいインタビューとか無しにして、俺たち勝手に喋ってもいい?
会場の皆さんも、居酒屋で喋ってる俺たちの隣で、聞き耳立ててるつもりで聞いてて下さい。
あ、スポンサーさんのおごりだから、遠慮しないで飲んでね!」
健人の提案に、会場からは「いいぞー!」と声が上がるが、夏美の目は吊り上がっていた。

『なに勝手なこと言ってんのよ!こっちで質問、用意してるって言ったでしょ!』
そんな心の声を目で表現したつもりだったが、すでに健人たちは
三人だけの世界に入り込み、誰も夏美の方を振り向く者はいなかった。


「まぁまぁ、お次はビールでしょ?じゃ、改めてカンパーイ!
なんか、いよいよ今日から活動開始な気分だけど、よく考えたらレコーディングって
まだ二十日ぐらいも先の話なんだよね?
1月5日デビューって、二ヶ月も先だよ!なんか遅くね?」

「しょうがないじゃん!俺も当麻も、年内はドラマと映画で一杯一杯なんだから。
俺ね、レコーディングも楽しみなんだけど、もっと楽しみなのがPV撮影!
ゆき姉のPVに俺と当麻が出演して、俺たちのPVにゆき姉が出てくれるんだよねっ!」

「私、無理だって断ったんだよ!だって、本職の俳優二人のプロモーションビデオで、
私にどんな演技しろってーの?私、猫カメラマンなんですけど。」
雪見はシャンパンとビールのお陰で、いつもの調子が戻ってる。
が、やはり、木綿のワンピースにコサージュ付けてる人の言葉遣いとしては、いかがなものか?

「あのね、誰もゆき姉の演技に期待なんてしてないから安心して!」

「それまた失礼な話じゃない?健人くん。」

「そうそう!けど俺と健人は思いっきり本気の演技で、ゆき姉のPV
盛り上げてやるからねっ!期待しといて!」

「けどさぁ。これって事務所の戦略だよね、きっと。
私のPVに二人が出たら、絶対二人のファンの人達、私のCD買ってくれるでしょ?
私としては有り難い話だけど、申し訳ない!って気持ちもある。」
そう言いながら雪見は、三杯目のビールを飲み干した。

「なに言ってんの!俺たちのファンは、そんな心の狭い人達じゃないから!
それに、結構俺のブログに『ゆき姉ファンになりました!』って書き込み、最近多いんだよね。
なんかね、『ヴィーナス』のグラビアで見る可愛い系のゆき姉と、
当麻のラジオで話す、姉貴っぽいゆき姉とのギャップがいいらしい。
あと断トツなのは、猫カメラマンなのに歌がメチャ上手い!ってとこ。
ギャップってさ、なんでみんな惹かれるんだろ?
俺もそーいうの、欲しい!」
健人が羨ましそうに雪見を見る。

すると雪見は、
「えーっ!健人くんだってギャップあるよ!
見た目は完璧そうなのに、部屋が汚い!整理整頓ができない!鞄の中がグチャグチャ!」

「なにその汚いシリーズ三連発のギャップは!マイナスでしょ、完全に!
まぁ、嘘ですから!って否定出来ないのが悲しい…。」
健人がふざけてうなだれる。

「当麻くんのギャップはね…。あれ?思いつかないや。
きれい好きだし料理も得意だし…。ほんとに見た目通り完璧ってこと?
あ、ひとつ見つけた!彼女がいそうでいない!ってこと。
結構振られるよね、当麻くん。
多分世の中の人は、振られる当麻くんを想像できないと思う。
ある意味、凄いギャップだよ。」

「ひっでーなぁ!ゆき姉のギャップ、もひとつ見つけた!
可愛い顔して毒舌を吐くこと!」

「俺も当麻に賛成!」


記者会見の前半は、何度も笑いが巻き起こりながらも和やかに、スムーズに進行していった。

後半にはいよいよ、雪見の生歌が披露されるのだが、そんなこと忘れたかのように
雪見の酒のピッチは勢いを増している。

誰かそろそろ、止めてやった方がいいんじゃない?










Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.250 )
日時: 2011/07/21 13:04
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

雪見の目には、もはやここが記者会見場とは映っていないようだった。
たくさんの人で賑わってる、週末の居酒屋にでもいるかのような気分で辺りを見回す。

「おじさんたちぃー!飲んでるぅ?
あとで私がとっておきの歌、歌ってあげるから、まだ帰らないでねー!」
雪見の呼びかけに、いい感じに酔っぱらったおじさん記者の間から
「まだまだ帰らんよー!」と返事が来る。
だが、酒を飲んでいない記者達の中には、この状況を冷ややかな目で見る者も、もちろんいた。

「なんなの?この記者会見。夜の九時に呼び出したのは、ただお酒が飲みたかっただけ?
こっちの質問は一切シャットアウトだし、公式発表以外に大した情報はくれないし。」

「いいじゃん。酔った健人と当麻が見れただけでも。
あの二人って、ほんっと仲いいよね!もう、めっちゃ可愛い!
けど、あの雪見ってのは少々目障り。すっかり二人の姉さん気取りだし。」
同年代の女性記者達は、嫉妬心を剥き出しにして雪見を見ていた。


「健人くんも当麻くんも、よく家に泊まってくんだよねっ!
外で飲むと落ち着いて飲めないからって、家に飲みに来るんですよ!
行きつけの居酒屋みたいに。
で、次の日の仕事が午後からだったりすると、そのまんま寝ちゃうの。
でね、しょうがないなぁーまったく!とか言いながら私、こっそり二人の寝顔を撮って、
コレクションしてるんです。
カメラマンに戻ったら、健人くんと当麻くんの寝顔だけ集めた写真集でも作ろうかなと思って。
今までにないでしょ?そんな写真集。」

「うそっ!いつから撮ってんの?そんな写真!全然知らなかった!
当麻知ってた?」

「まったく気付かなかった!大体が仕事の疲れと酒のせいで、爆睡してるもん。
ゆき姉に叩き起こされるまで。」

「えへへっ!知らなかったでしょ!
めっちゃいい写真ばっかなんだよ!健人くんの寝顔なんて天使みたいなの。
あ、でも出す時は事務所通さないとまずいか!写真集は。
あとで常務に交渉してこよーっと。
と、その前に、ビール飲み過ぎてトイレ行きたくなっちゃった!
あとはよろしく!お二人さん。」

「え?えーっ?ゆき姉、ちょっと!」


雪見は、健人たちが驚いてる隙に、あっという間にステージ上から消え去った。
だが、その様子を会場の隅で見ていた真由子と香織は、雪見の様子が
何となくおかしい気がして、雪見を探しに会場を飛び出した。

会場横にあるトイレに雪見の姿は見当たらない。
「おっかしいな、どこ行ったんだろ、雪見…。」

ずっと通路を小走りにたどって行くと、『浅香雪見様控え室』と張り紙がしてある部屋があった。
トントン! ノックをしてみるが返事はない。
真由子がそーっとドアを開けてみる。
すると…。見覚えのある後ろ姿があった。雪見だ!

「雪…見?」 真由子が声を掛けた背中が、微かに震えている。
「どうしたの?雪見?」 香織が前へ回ると、雪見は…泣いていた。

たった一人で窓の前に立ち尽くし、ビルの最上階から東京の煌めく夜景を眺めている。
しかしその夜景の映った瞳からは、キラキラと光る涙が次から次へと溢れては落ちた。

「綺麗な夜景だねぇ。パパの会社からこんな綺麗な夜景がタダで見れるなら、
今度ここで彼氏とデートしよっかな?
ねぇ…。なんかあった?嫌なことでも。」
真由子が窓の外だけを見つめながら、隣りに立つ雪見に話しかける。
香織は、そっと雪見にハンカチを差し出した。

「思い出してた…。健人くんがアイドルの斎藤健人だって判った日、
初めて二人で行ったレストランで見た夜景…。
健人くんが、私に見せてやりたかった、って…。」

「そうなの。で、懐かしくなっちゃった?出会った頃が。」
香織が穏やかな微笑みをたたえて雪見を見る。

「どうなって行くのかな、私達…。
一緒に暮らしてるのに不安で怖くて、急に現実から逃げ出したくなる。
健人くんとの事も、これからの仕事の事も、全部全部先が見えない…。
怖いよ、香織…。」

「今も?今も逃げ出したくなっちゃったんだ…。
けど、健人くんも当麻くんも雪見の後ろ姿、心配そうに目で追ってたよ。
健人くんね、本当に雪見の事大切に思ってると思う。
当麻くんだって、『健人とゆき姉には、心から幸せになってほしいと願ってる。』
って、私にメールくれたよ、昨日。」
香織の声はいつでも温かで、雪見の心をまあるく包み込む。
が、真由子の声は…。

「ちょっと、香織っ!あんた、いつ当麻とアドレス交換したわけ?信じらんない!
なんであたしが知らない当麻のアドレスを、香織が知ってんのよ!
っつーか、私にメールくれたよ、ってあんたたち、まさか付き合ってるの!?」

「そんなんじゃないよ。たまに当麻くんの相談に乗ってあげるだけで…。」
真由子のまくし立てるような攻撃に、いつも香織はマイペースで答える。

「当麻からの相談事ぉ!?あんたとあたしって、雪見の友達としては対等なはずなのに、
なんであたしはアドレスも知らないで、あんたは当麻の人生相談に乗ったりしてるわけ!?」
雪見は、いつもよりさらに強い口調で香織を問いつめる真由子に慌てた。

「ちょっと、真由子!少し落ち着きなさいよ!香織は何にも悪くないでしょ!
当麻くんだって、誰かに話を聞いて欲しい時ぐらいあるんだから!」
香織をかばうように間に割って入ると、なぜか真由子が微笑んだ。

「ふふっ。やっといつもの雪見に戻った。やっぱ雪見はそうでなくっちゃ!」

「えっ!?」

真由子の言葉にふと我に返ると、いつの間にか、さっきまでのグチャグチャな気持ちは
どこかへ飛んで行き、いつもの自分に戻ってる。

「私達の関係、昔も今も、なーんにも変わってないでしょ?
私が真由子に怒られて、それを雪見が仲裁に入る。
人間ね、一度しっかり結ばれた関係って、そうやすやすと変わるものではないと思うよ。
大丈夫!雪見と健人くんの絆は、しっかりと結んであるでしょ?」
香織の言葉が胸に染み込む。

「そうそう!私がぶち切ろうとしたって絶対切れそうもないんだから!
もうちょっとさ、健人を信用してやんないと可哀想だよ。
さ!みんな待ってるから会場に戻ろう!
酔っぱらいのおっさん達にとっととデビュー曲聞かせて、家帰って健人と
イチャイチャしなさい!不安なんて吹き飛ばすようにね!」

「真由子。相当おっさん化が進んできたけど…。」
そう言いながら雪見が大笑いした。


この二人がいてくれるから、私は大丈夫!
長い通路を戻りながら、もう少し頑張ってみようと自分自身と話し合う。
そう!私には、かけがえのないあの人が待っている!








Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.251 )
日時: 2011/07/21 14:02
名前: e (ID: ..HtOTtM)

新小説つくりました♪
よろしければ見に来てください!


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