コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.362 )
- 日時: 2012/01/05 12:37
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
『なんだろ…話しておきたい事って…。
もし…。もしも別れ話だったら、どうしよう…。
他に好きな人が出来たとか、結婚することになった、とか?
え?出来ちゃった結婚とかも、あり得たりする!?』
雪見の頭の中は、ありとあらゆる悪い話で埋め尽くされ、それ以外の思想など
生まれる気配も無い。
当然、目の前に勢揃いしたご馳走よりも、ワインにばかり手が伸びた。
「ちょっと、ゆき姉!なんで自分で全部持って来させたのに、一つも食べないわけ?
これなんて、めっちゃ美味いから!もう二度と食べれないかも知れないじゃん!
あ!それ食べないなら、半分ちょーだい!」
雪見とは裏腹に、今日の健人はよく食べる。
「別に、全部食べてから話を聞こうと思ったんじゃなくて…。」
話の途中で何度も部屋に出入りされたくなかったのだ。
別れ話の途中とか、泣いてる最中に…。
雪見はたまに一口何かをつまむだけで、後はひたすらワインを飲んでいる。
自分の心を手っ取り早く防御するには、ダメージを受ける前に麻酔をかけるのがいい。
グラスを片手に、目の前の人をぼんやりと眺める。
健人は食べ物を本当に美味しそうに食べる人で、テレビのバラエティー番組なんかで
何人かの共演者と料理を食べる場面を見ても、断トツに美味しそうにもりもり食べる。
それが実に若者らしく爽やかで、雪見が健人を好きな理由ベスト5に確実に入るのだ。
「ねぇ。さっきから何でジッと見てんの?
それに、何にも食わないで飲んでばっかいたら、酔っちゃうよ!」
これから重大発表する割に、健人は冷静だった。
「健人くんの食べてるとこ見るの、大好きだから。
私のこと気にしないで、全部食べていいよ。これもあげる!」
「そんなに食えねーって!しょーがねーな!
ゆき姉があんまり酔わないうちに話しとくか。俺ね、四月…」
「ストップっ!ね、もう話ちゃうの?もっと後でもよくない?
ねーねー、うちら明日デビューするんだよ?もうちょっと、明日からの話をしようよ!」
雪見には、まだ心の準備が出来てなかった。
閉店時間の十時半までに話を聞いて、泣いて、泣きやんで、涙を拭いて
何事も無かった顔をして店を出るには、もう本題に入らなければ間に合わない。
だが、ここで時間を気にして泣くよりも、家に帰ってから思う存分泣いた方が良いと判断し、
引き延ばし作戦に出ることにした。
「なんか信じらんないよね!明日から歌番組とかに私達が出るんだよ?
まぁ健人くんはテレビの中の人だから、そんなに違和感無いだろうけど
私なんて、つい何ヶ月か前まで猫追っかけて、草むらとかにいた人なんだから!
学生時代の同期とか、テレビ見てビックリするだろうなぁー!
あー、またドキドキしてきちゃった!明日の歌番組…。
いきなりの生放送って、事務所も冒険し過ぎでしょ!失敗したらどうしよう!」
一人で喋りまくり、明日の事を考えたら本当に緊張してきた。
その時、ガタンと木の床に音を響かせて健人が席を立つ。
そしておもむろに雪見の後ろに回り、そっと背後から雪見を抱き締めた。
「大丈夫。俺が付いてるじゃん!俺たち一心同体だろ?
『YUKIMI&』には必ず『SJ』が一緒についてんだから、大丈夫だよ。
…俺さ。四月になったらニューヨークへ、芝居の勉強に行こうと思ってんだ。」
「えっ!?」
初耳だった。抱き締められ、耳元でささやかれた優しい言葉の余韻に浸る間もなく、
雪見の頭が混乱し始める。
健人がいなくなるってこと…?
突然もたらされた『話しておきたい事』は、出来ちゃった結婚ではなかったにしても、
健人が雪見の前からいなくなるという事実に、何ら変わりはなかった。
「嘘でしょ?そんな話聞いてない!」
真後ろの健人を振り向き、ガッと腕を掴んで離さなかった。
「ごめん!ずっと事務所を説得してスケジュール調整してたから…。
でもやっと四月から時間をもらえたんだ!
仕事の合間にするレッスンじゃなくて、芝居の稽古だけに二ヶ月半どっぷり浸かれるんだよ!」
「え?二ヶ月半?四、五…なーんだ!六月の後半には帰って来るんじゃない!
あービックリしたぁ!もう、脅かさないでよね!
『きちんと話しておきたい事がある』なんて真面目な顔して言うから、私てっきり…。」
「てっきり…って、何の話だと思ったの?」
健人が再び席につき、雪見のグラスと自分のグラスにワインを注いだ。
「い、いや別に…。あー、なんだか今頃お腹空いてきちゃった!
今何時?もったいないから、急いで食べよ!
えーっ!?これ、めっちゃ美味しい!あったかいうちに食べれば良かったぁ!」
すっかりいつもの雪見に戻り、「幸せー!」と言いながら料理をパクつく姿を、
今度は健人がワイン片手に頬杖ついてクスッと笑いながら、さっきからずっと眺めてる。
「やっぱ、決めた!」
「え?何が?」
「俺と一緒にニューヨークに行こう!」
「ええーっ!?」
健人からの突然の誘いに、雪見はデザートのスプーンを落としそうになる。
だが健人の誘いは、それだけには留まらなかった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.363 )
- 日時: 2012/01/06 11:54
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「私…がニューヨークに?健人くんと一緒に行く…の?」
「そう、一緒に行って欲しい。
今、思った。たった二ヶ月半でも俺、離れて暮らすのは無理だわ。
だって、ゆき姉は俺の分身だから…。」
健人が真顔で言った。雪見の瞳だけを真っ直ぐに見つめて…。
相手が真剣に言ってる事ぐらい、重々承知してるつもり。
だが、ついさっき日本を離れると聞いた時、一瞬『何の相談も無しに!』
と頭にはきたけれど、六月の自分の誕生日には帰って来るのだから、まぁいいか!
と思ったばかり。
健人は雪見と違って、言葉も行動も思い付きでは決して発信しない。
この人気絶頂期に事務所を説得してまで、自分のスキルアップに行くのだから
「頑張っておいで!」と笑顔で送り出そうとは思っても、一緒に行こうとは考えもしなかった。
「ち、ちょっと待って!あんまり突然すぎて、頭の中がぐちゃぐちゃ!
えーと、四月でしょ?『YUKIMI&』は三月一杯で引退だから、四月には
元のフリーカメラマンに戻ってる訳だ。
って事は、別に私はどこで何してようとも、構わないっちゃ構わない訳ね…。
けど写真集とかグラビアの仕事、もう受けちゃってるのが何件かあるし、
猫も撮りに行きたいし…。」
結局雪見の中では、なんだかんだ言ってても、すでに答えは出ているのだ。
行きたいならとっくに「うん!一緒に行く!」と即答してるはず。
そう言わないって事は、健人と雪見の恋愛温度の違いか。
はたまた年齢差や性格の違いもあるのかも知れない。
決して愛情レベルが低下してきたとは、思いたくはないのだが…。
しかし、次に発した健人の重大発言が、雪見の心をまたしても大きく揺さぶった。
「そんで…ニューヨークで結婚式して来よう!」
「えっ…?」
それは、あまりにも突然すぎるプロポーズだった。
『プロポーズ…?なに今の?本当に今のはプロポーズだったの?
もしかしてニューヨークのどこかに、模擬結婚式を挙げられるアトラクションでもあって、
そこに遊びに行こうと誘ってる…ってパターンもあるでしょう!
あぁ、きっとそうだ!そうに違いない!
私って、すーぐ早とちりしちゃうから。危ない危ない!』
まったくもって雪見は、この訳のわからぬ状況から現実逃避しようとしていた。
「ねぇ!俺の話、聞いてる?聞いてた?今の。」
「え?あぁ、聞いてたけど。」
雪見は平然とワインを飲んで、またデザートの続きを口に運んだ。
「はぁ?なにそのノーリアクション!
俺、今めっちゃドキドキしながら言ったんだけど!」
健人の声が思わず大きくなる。
「シーッ!声が大きい!ニューヨークに私も一緒に行って、健人くんの勉強の合間に
遊んでこようって話でしょ?ちゃんと聞いてるから!
あー、美味しかった!真由子と香織ぃ!ご馳走様でしたっ!」
雪見が両手を合わせて、親友二人に感謝した。
「な、なに言ってんの!?俺、そんな面倒くさい言い方した?
どこをどう解釈して、そんな話になっちゃったわけ?
つぅーか、めっちゃストレートにプロポーズしたつもりなんだけど。」
「えっ…?プ、プロポーズ?」
それっきり雪見は固まってしまい、時間が止まったかのようだった。
健人が自分にプロポーズするなんて、あり得ない。嘘だ…。
ワインと店の雰囲気に酔って、ちょっとドラマチックなセリフを言ってみたくなっただけ。
そうに決まってる!
またしてもボーッとした顔で、視線を空中に泳がせ始めた雪見を見て、
健人は慌てて再度チャレンジする。
「ほんっとにっ!あと一回しか言わないから、ちゃんと聞いててよ!
どんだけ勇気いるか知ってんの?俺、近々プロポーズしようと決めてから、
ぜんぜんメシが喉通らなくなったんだからっ!」
「その割にはめっちゃ食べてたでしょ、さっき。」
「だって、二人して何にも食べない訳にはいかんでしょーが!
ドラマの撮影だと思って無理矢理食べてたんだぞ!これでも。」
「へー、そうだったの?ぜんぜんわかんなかった!
さすが若手ナンバーワン俳優、斎藤健人だけあるねっ!」
そう雪見が言ったあと、二人ともクスクス笑い出した。
なんて可愛い人なんだろう…。
お互いがそう思って相手を見ていた。
健人がスッと椅子から立ち上がり、壁のクローゼットを開けて、自分の
コートのポケットから何かを取り出す。
「こんな展開になるんなら、始めっからこれ出しときゃ良かったな!」
そう言いながら雪見の横に立ち、小さな箱を差し出した。
「えっ…?」
ガタンと音をたて、雪見が思わず立ち上がる。
恐る恐る箱を受け取り蓋を開けると、中にはキャンドルの炎を映し出し
キラキラと輝くダイヤの指輪が現れた。
「俺と…結婚しよう!いや、結婚して下さいっ!
っつーか、俺、やっぱゆき姉のいない生活は考えれなくて…。
本当はゆき姉の仕事を考えて、こっち帰って来てから式挙げようかと思ったんだけど…」
「わかった!もういい…。」
「え…。」
途中で遮られた言葉に、健人は一瞬不安になる。
だが、指輪を見つめて涙を浮かべる雪見を、絶対に誰にも渡したくはなかった。
そっと引き寄せ、ギュッと抱き締める。すべての想いが伝わるように。
「俺、ずーっと一生ゆき姉を守っていく。
こんな仕事してるから、ゆき姉に嫌な思いさせることもあるかも知れないけど、
それを忘れさせるくらいの楽しい時間を、俺が作ってあげる。
ゆき姉にしたら俺は頼りないかも知れないけど、少しでもゆき姉に近づけるように努力する。
年の差婚なんて言葉、みんなが忘れるくらいに頑張るから…。」
最後に健人は余計なことを言ってしまった。
ほぼ100%固まりかけてた雪見の心を、たった一言で振り出しに戻してしまった。
年の差婚…。
浮かれすぎて忘れてた、今ちまたで流行の言葉。
健人と結婚した場合、必ず言われるであろう一番言われたくない言葉。
スッと引っ込んだ涙を、どう取り繕って健人から身体を離そうかと思案したが、
うまいタイミングでドアの向こうからノックが聞こえた。
「申し訳ございませんが、閉店のお時間でございます。」
雪見の返事は保留のままに、二人は店を後にする。
明日はいよいよデビューだと言うのに、大きな宿題を抱えたまま家路を急いだ。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.364 )
- 日時: 2012/01/07 08:56
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「ただいまぁ!」
二人揃ってご主人さまが帰って来たのだから、迎えるめめとラッキーは忙しい。
雪見にすりすり、健人にすりすり、ひとしきりゴロゴロ喉を鳴らした後は
催促した餌を食べ、満足してまたそれぞれの定位置へと落ち着いた。
一方、ご主人さまである雪見と健人はと言うと、何となく落ち着きのない態度で
そわそわウロウロとしている。
「あ…あぁ、すぐお風呂入れるね!
明日は朝から大忙しだから、お風呂入ったらすぐ寝なきゃ!」
「すぐ寝なきゃって、まだ11時だよ?なんか慌ただしいご飯だったから、飲み直そうよ!」
「だーめっ!デビュー初日から二日酔いでテレビに出るわけにはいかないでしょ!
それに今のテレビは毛穴まではっきり映るんだから、睡眠はたっぷり取らないとダメっ!」
明日のCDデビュー初日は、本当に丸一日大忙しなのだ。
朝から各テレビ局を回り、芸能コーナーに生出演。
午後からは大手CDショップでハイタッチ会。
夕方は各社の取材を受け、そして夜には生放送の歌番組で、いよいよ初歌を披露する。
そのすべてが『SJ』と『YUKIMI&』揃っての出演なので、雪見的にはもちろん
心強くてなんとかこなせそうな気がするが、『SJ』と一緒に行動すると言うことは
どこへ行っても大混乱が予想された。
最近の睡眠不足続きで、本当に今日こそは早く寝ないとマズイのだが、
それとは別の理由で早く寝てしまいたかった。
健人からのプロポーズ…。
それに対しての返事を、ウンともスンとも言わずに店を後にした。
健人に返事を催促される前に寝てしまいたい…。
即答できるほど、健人が思うほど単純な問題ではない。
それでも健人は、雪見に断られる事など選択肢にはない様子で、上機嫌で
バスルームへと消えて行った。
それから四日後のこと。
「プ、プロポーズぅ!?」
「プ、プロポーズぅ!?」
真由子と香織が、同時に同じセリフで大声を上げたが、その次の反応は違ってた。
「キャーッ!おめでとう、雪見ぃ!
やったやった!夢みたい!雪見が健人くんのお嫁さんになるなんて!」
と、キャーキャー言いながら抱き付いてきた香織。
一方、真由子はと言うと…。
「う、嘘でしょ…?健人が…?
あのイケメン俳優で実力派で、まだ21歳の斎藤健人が…あんたと結婚?」
ボーゼンと立ちすくむ真由子の後ろのテレビ画面では、今夜十時からスタートする
健人主演の恋愛ドラマが、今まさに始まろうとしていた。
健人のプロポーズから四日後の1月8日(土)
昼に真由子からのメールで、『香織が夜に来るから、時間があったら飲みにおいで』
と誘いを受けた。
ちょうど、この前の高級レストランのお礼を二人にしなくては、と考えてたとこだったので、
仕事帰りに真由子宅へと駆けつけたのだ。
「見たよ、5日の生放送!もう、こっちの方がドキドキして、生きた心地がしなかった!
けど、歌もいつも通りだったし、あんたにしてはトークもまあまあだったから、
合格点のデビューだったんじゃないの?」
いつもは辛口の真由子が、珍しく批判もせずに白ワインを口にした。
「良かったねー、雪見!めったに誉めない真由子が誉めてくれたよ!
けど、私もテレビ見てて雪見を尊敬した!
いつもの雪見とは別人だったもの。ちゃんとしたアーティストだったよ!」
香織も、自分の事のように雪見のデビューを喜んでくれてる。
「いや、ここまで来れたのも皆さんのお陰です!
って言うか、やっぱ健人くんと当麻くんが一緒にいるっていう、安心感のせいだね。
これ、私一人のデビューだったら、絶対こうはならなかったと思うの。
だから私がアーティストに成り切れてるとしたら、それは『SJ』のお陰だね。」
「ちがーう!この真由子さまと、少しだけ香織のお陰でしょ!
そーそー、あそこのレストラン、どうだった?
料理も美味しいけど、イケメンの黒服がまた良かったでしょ?」
「なによ!真由子の基準って、どこに行ってもイケメンがいるかどうかなわけ?
イケメンなら別に間に合ってるよ。
それにお料理も、美味しかったはずなんだけど、あんまり食べられなくて…。」
で、そこから話が先ほどの健人のプロポーズの話題へと流れたのだ。
「ちょっと待って!私ひと言も結婚するなんて言ってないけど…。」
雪見の言葉に、またしても二人は口を揃えて驚いた。
「断ったのぉ!?」
「断ったのぉ!?」
「あ、あんたっ!私に殺されたいわけ?
折角アンタ達のためにコネを使いまくって、やっと押さえた店の料理も
大して食べなかった上に、健人のプロポーズさえも断ったなんて…。
私に殺されても文句言えないよっ!」
真由子が鬼の形相でワナワナと、今にも雪見の首でも絞めかねない勢いで言った。
「真由子、落ち着いてっ!物騒なこと言わないのっ!」
香織がこの場にいなかったら、私は今頃…。
ってゆーか、この人達も私に違わず案外早とちりするなぁ。
「ねぇ!私、結婚するとも言ってないし、断ったとも一言も言ってませんけど。
ただプロポーズされた、って言ったんだよ?それを勝手にあんた達が…。」
「あの斎藤健人からのプロポーズを断るバカが、この世の中にいるかぁ!?
即答しないバカは世界中捜しても、あんただけだよっ!!」
真由子に相談しようと思った自分がバカなのか。
「だからさぁ…。私だって健人くんとこんなに年が離れてなかったら、
もちろん二つ返事で即答してたかも知れないけど…。
もしも結婚なんて事になったら、絶対『年の差婚』って言われるんだよ?
健人くんが可哀想過ぎる…。」
「年の差婚、かぁ…。」
雪見と同い年の二人は、自分だったらと考えて、やっぱりため息をついた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.365 )
- 日時: 2012/01/09 19:45
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「まったく、誰が言い出したんだろね、『年の差婚』なんて言葉。
男が年上なら、『若いお嫁さんもらって羨ましいねー!』とか言われるんだろうけど、
女が年上の場合はどうすりゃいいのさ!
別に今まで通り、『あねさん女房』でいいじゃないか!」
やけ酒気味に飲んでた真由子が、鼻息荒く怒ってる。
「でも『あねさん女房』って言葉は、健人くん世代は使わないんじゃないの?
だって平成生まれなんだから…。」
香織がそう言うと、またしても三人でため息をついた。
「平成生まれかぁ!若いよなぁ〜!
何かさぁ、そう考えるとうちら、すごーく年取ったみたいに感じない?
昭和生まれが大正生まれを、凄い年寄りみたいに感じたのと一緒でさ、
平成生まれの健人からしたら、昭和生まれの雪見って…。」
「真由子ぉ〜!何て事言うの!」
健人が雪見にプロポーズしたと聞いてから、一気に酒のピッチが上がった真由子は、
何度も失言しては、その度香織に叱られる。
が結局、いくら三人語ったところで、健人と雪見の年齢差は縮まるわけでもなく、
真由子が眠そうにし出したので、その日の飲み会はお開きにした。
タクシーの拾える通りまで、寒い夜道を香織と雪見はゆっくり歩く。
香織は、雪見のゆっくり過ぎる歩調に迷いや悩みを感じ取り、それを何一つ
解消できぬまま家路につく雪見の心中を思いやる。
「ねぇ雪見。健人くんと一緒に住んでる以上、いつまでも返事を引き伸ばす訳にいかないよ。
大きな決断をしなきゃならないんだから、今までで一番正直に健人くんと向き合わないと。」
「うん…。わかってる…。」
「けど、つらいよね…。苦しいよね…。
大好きな人にプロポーズされたのに、好きなだけじゃ決められないんだから…。」
「うん…。」
香織の言葉が優しくて切なくて、雪見は夜空を見上げて泣いていた。
もっと自分が若かったら…。
せめてまだ二十代の後半であるなら年上だったとしても、周りの反応など
もろともせずに、結婚まで突っ走る勢いがあったかも知れない。
だが、今現在33と21。
健人がニューヨークに行く直前22歳になるとしても、いい大人が若い俳優をたぶらかして!
と言う声が、幻聴のように聞こえる気がしてならなかった。
「とにかく、じっくり腹を割って話し合うより仕方ないよ。
大事なことなんだから逃げないで…ね。」
香織の激励を背中に受け帰宅した雪見は、まだ帰ってないはずの健人に出迎えられ驚いた。
「えーっ!いつ帰って来たのぉ!?今日はドラマの撮影、夜中までかかるはずじゃ…。」
「ゆき姉に早く会いたいから、途中で帰って来た!なーんてねっ。
うそうそ!機材の故障で夜のロケが中断しちゃって、結局明日続きを撮る事になったわけ。
メールしようかと思ったけど、せっかく真由子さん達と飲んでるのに、
ゆき姉が俺を気にすると悪いからさ。でも、ほんとは早く会いたかった…。」
玄関を上がってすぐ抱き付いてきた健人に、雪見は何かあったのかと尋ねた。
「何にもないよ。本当に会いたかっただけ。ゆき姉が帰って来るか心配だったから…。」
雪見から返事をもらえてないことに対して、健人が不安をつのらせてると思った。
その不安が大きくならないうちに、きちんと向き合って話し合わねばならないと、
雪見はいよいよ腹をくくる。
「健人くん、少し飲もうか?」
そう言った時の、健人の嬉しそうな顔ときたら!
仕事の忙しい母が久しぶりに遊んでくれる!みたいな、子供のような顔をした。
冷蔵庫にある物で手早くつまみを作り、二人でソファーに腰掛け、ビールで乾杯する。
「お疲れっ!ねぇ、今日のドラマ見てくれた?」
ビールを一口飲んで、健人は早速雪見に聞いた。
「ごめーん!テレビはついてたんだけど、お喋りに忙しくて集中出来なかった!
明日の朝にでも、録画したやつ見るから!」
「なんだぁ!みんなで見てくれたかと思ったのに。
ね、何そんなにお喋りしてたの?」
健人の質問にドキッとした。
まさか『年の差婚』について語り合ってたとも言えず、「女は話題が豊富なのっ!」
とお茶を濁した。しかし…。
「俺のプロポーズの事、相談してたんでしょ?」
「えっ…!?」
やはり健人は、ずっと気にしてたんだ…。
今まで聞きたいのを我慢して、私に時間をくれてたんだ…。
香織の言う通り、もう腹を割って話し合う時が来たようだ。
「健人くん。私ね…色々考えたんだけど、やっぱり…。」
「俺、無理だから!ゆき姉のいない生活はあり得ない!
ゆき姉は俺のこと…嫌いになった…の?」
健人の言葉に雪見は愕然とした。
「嫌いになった?…そんな事あると思う?
大好きだから…大好きだから、いっぱい悩んでるのに!」
「なんで?俺だって、いっぱい考えて決めたんだよ?
わかってるよ、ゆき姉が何を悩んでるのかぐらい…。
でもそんな騒ぎなんて、長い人生の中のほんの一瞬だろーが!
騒ぎたい奴には騒がせておきゃいい!どうせすぐに俺たちの話題なんて、
他のニュースが持ち上がれば忘れ去られるんだから。
他人がどう思うかなんて、俺には関係ない!
人のお節介な評価なんて、どうでもいいことだ!
そんなくだらないことより、俺は一生をゆき姉と過ごせるかどうかの方が百万倍重要だよ!」
「健人くん…。」
すべてお見通しだった。
健人はその後も、雪見が悩んでるだろう事をひとつずつ説得し、何も心配ないよと微笑んだ。
「もう一度聞かせて…。健人くんの人生に、本当に私が必要?」
「絶対必要!ゆき姉の代りなんて、世界中どこを捜したって見つからないよ。
ゆき姉以外はあり得ない。ゆき姉の人生に、俺はいらない?」
「いらなくない!健人くんがいてくれないと困る。
私の料理を美味しいって食べてくれて、めめやラッキーのお世話を一緒にしてくれて、
寒がりな私を隣りで暖めてくれる健人くんがいないと、凍え死んじゃう!」
「はぁ?それって、俺じゃなくても良くね?」
健人が笑って言った。
「良くないっ!だって今すぐ暖めてくれる人は健人くんだけだもん!」
そう言いながら雪見は、健人に抱き付きキスをする。
ひょい!とお姫様抱っこした健人は、寝室のベッドにそっと雪見を下ろす。
側らのサイドテーブルには、やっと持ち主の確定したダイヤの指輪が、
二人の未来を祝福してた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.366 )
- 日時: 2012/01/12 12:27
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「う、うそだろーっ!? け、ケッコン!?お前がぁ?
いつ?どこで?誰とぉ!?」
「誰とぉ?そりゃ、ゆき姉に決まってんだろーが!アホかっ!」
雪見が健人からのプロポーズにOKした翌朝六時過ぎ。
健人は、どうしても一番に当麻に報告したいと、電話で当麻を叩き起こした。
「一応、式は六月に帰国する直前に、ニューヨークで挙げて来る予定。
こっちでだと、マスコミ対応が色々面倒だしね。
それに6月19日はゆき姉の誕生日だから、ちょうどその頃になるんじゃないかな?
え?19日前に挙げろって?ひとつ年が若いうちに?ゆき姉、ここで怒ってるぞー!
まぁ、詳しい話はまた決まったら連絡するわ。じゃ、取りあえずは報告まで。
起こして悪かったな!また寝ていいよ。おやすみっ!」
それだけ伝えると、健人は満足そうに電話を切った。
「あーあぁ!当麻くん、寝てただろうに起こされて…。
きっと半分寝ぼけて聞いてたから、後で忘れてるかもよ!」
健人の向かいでカフェオレを飲みながら、雪見が笑ってそう言う。
「だって当麻は俺の相棒だよ?早く伝えておかないと仕事上マズイでしょ!
ニューヨーク行ってる間は『SJ』も活動停止しなきゃなんないし、
あいつには色々と迷惑かけるから。」
とか何とか、真顔を装って言ってるつもりらしいが、健人の顔は明らかに
嬉しくて嬉しくて、早く誰かに言いたくて仕方なかったという表情をしている。
久しぶりに見た気がする、健人のそんな浮かれた顔を眺めながら雪見は、
『私の決心は、間違ってなかったよね…。』と自分自身に再確認した。
と、そこへ、健人のケータイが突然鳴り出す。当麻からだ!
「もしもし?なに、寝たんじゃないの?」
「寝れるかっ!ブッツリ電話切りやがって!
そこにゆき姉いるんだろ?みずきが、ゆき姉と話したかったのにー!って怒ってるぞ!」
健人にケータイを差し出され、当麻かと思って出てみると、聞こえて来たのは
朝っぱらからハイテンションな、みずきの声だった。
「ゆき姉?結婚するって本当なのっ!?」
「あれっ?みずきさん。おはよう!ごめんねぇー、健人くんが起こしちゃって!
夜にかければ?って言ったのに、子供みたいに言うこと聞かなくて。」
笑いながら健人を見たら、健人はぷくっと頬を膨らませた。
「そんな事より!ねーねー、いつ決めたの?健人はなんてプロポーズしたのっ?
やだ!私、なんか泣きそうになってきた!めっちゃ嬉しいっ!
良かったねっ、ゆき姉!ほんとに良かった…。」
電話の向こうで、みずきの泣いてる気配がした。
「ちょ、ちょっと、みずきさん!なんで泣いてんのぉ!?」
「だって本当に嬉しいんだもん…。自分のお姉ちゃんの結婚が決まったみたいで、
私、本当に嬉しいんだよっ!」
「みずきさん…。ありがとねっ。私もそう言ってもらえると嬉しい。
でも、みずきさん達こそ、もう世間に公表してるんだから、あとはお式をして
婚姻届を出すだけじゃない!
私達はこれからが問題山積みで、ほんとはそんなに浮かれてもいられないの…。」
そう…。雪見と健人の目の前には、富士山…いやエベレスト並みに高い山があって、
まだ今はその麓に立ってるだけなのだ。
二人の幸せな結婚とは、この眼前の大きな山を二人で一歩ずつ登り切った頂上にある。
お互いの親兄弟や親戚への報告、事務所の説得や仕事の調整、マスコミ対応。
そして一番慎重に取り組まなくてはならないのが、ファンへの報告だ。
果たして、日本を旅立つ四月までに、その山の何合目まで登れることだろう。
その日まで、あと三ヶ月…。
時間はたっぷりあるようにも思えたが、実際はそうではなかった。
『SJ』と『YUKIMI&』がデビューしてから、日に日に忙しさは倍増してゆき、
プライベートな時間など皆無に等しくなった。
まずは親兄弟に話してから事務所に報告を、と思っていたのだが、そうも言っては
いられなくなり、まずは取り急ぎ事務所に報告するチャンスをうかがう。
コンサートツアーの打ち合わせで、みんなが事務所の大会議室に集合する今日。
1月25日のツアー初日まで、あと十日ばかりのこの時をチャンスと見て、
雪見と健人は朝から緊張した面持ちで、時間をやり過ごしていた。
夜九時過ぎ。
三時間近くかかったツアーの打ち合わせがやっと終り、みんな疲れ切った顔して
「お疲れー!じゃ、お先に!」と、順に会議室を出て行く。
当麻は、これから健人が挑む大仕事に対して、自分の事のように緊張し
一言「頑張れよ。」とだけ肩越しにささやいて、会議室を出て行った。
常務の小野寺も手元の資料をまとめ、「じゃ、あとはよろしく!」と、
今野マネージャーの肩をポンと叩き、ドアに手を掛けたその時だった。
「小野寺常務っ!ちょっとお話があるんですが…。」
健人が、慌てて後ろから声を掛けて引き留めた。
「俺に?なんだよ、まじめくさった顔して。急ぐ話じゃないなら、またにして…」
「急ぎますっ!どうしても今日中にお話したいんです!
今野さん。今野さんも一緒にお願いします。」
「俺も…?」
健人の隣りにいる雪見が席を外さないので、小野寺は嫌な予感がした。
四人揃って硬い表情で、再び会議室の椅子に座り直す。
今野はなんとなく、いよいよその時が来たのか…と、ぼんやり思った。
「なんだ?話って…。まさか…悪い話じゃないだろうな。」
ただ事ではない場の空気を察知し、小野寺が先に釘を差す。
いつもの柔和な表情とはうって変わり、眼光鋭く健人から視線を外さぬ小野寺の威圧感に、
健人の隣りに座る雪見は震えが止まらない。
『どうしよう…。きっと猛反対される!
もしかしたら私は解雇されるかもしれない…。
私はそれでもかまわない。けど、健人くんだけは…絶対にダメっ!』
雪見は最悪の事態を想定した。
雪見の結婚話など、事務所はなんの関心もないだろう。
年も年だし、どうせあと二ヶ月半ほどでこの芸能界から消える人間だ。
「おめでとう!」の一言で、簡単に話は終る。
だが、その相手が健人となると話は別だ。
健人の結婚は事務所に大損害を与えこそすれ、一円の利益にもならないからだ。
全力で反対することは目に見えていた。
アイドルという職業は、条件がすべて整ってこそ最大の利益を生み出す。
『結婚』の二文字など、アイドルのプロフィールに必要ないのだ。
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