コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.487 )
日時: 2013/07/17 17:41
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「ホワイトハウスぅ!?」
「ホワイトハウスぅ!?」

「健人くん、ゴメンっ!ほんっとーに、ごめんねっ!
…って、なんでホンギくんもここにいるのっ!?」

「だってこいつ、腹減ったけど給料日前だから、水飲んでバイト行くって言うんだもん。
置いて来れると思う?」

「お世話かけまーす♪」

夕方から健人とデートだというのに、降って湧いたような学との一件で
すっかり時間を食ってしまった。
レッスンが終わる頃、アカデミーに健人を迎えに行く約束だったが
間に合いそうもなかったので、近くのカフェで待っててもらうことに。
それから大至急、学とパーティーの打ち合わせをし、買ってもらったドレスや靴を抱えて
大慌てでタクシーに飛び乗ったのだが、カフェにやって来ると想定外にもホンギがいた。

「取りあえず俺も腹減ったから、今日はここでメシ食お!
適当に注文しちゃうよ?Excuse me!Order,please.」

もうすっかり英語が馴染んでる。
健人が何の躊躇もなく店員との会話を楽しんでるのを見て、短期留学の目的は
すでに半分クリアしたようなもんだと雪見は安堵した。

あとはお互いのノルマをきちんとこなすだけ。
健人は世界にも通用する役者になるため、更に学んで演技に磨きをかけ、
雪見はそんな健人を後押しする写真集を作るため、全神経を傾けてシャッターを切る。
残り少ない二人のニューヨーク時間の中で…。

…のはずだったのに、なんで大事な時間を元カレに費やすことになっちゃったんだろ?

「でもさ、もう返事しちゃったんでしょ?自分の意志で決めたんでしょ?
だったら行くしかないじゃん。
あさって一日ぐらい撮影休んだって、どうにかなるよ。」

今日午後からの一部始終を雪見から聞いたあと、健人はそれだけを言うと
ニコッと笑ってビールを飲み干した。
それから「Give me one more beer.」と、ビールのお代わりを注文。
だが…。
頬杖をつき、窓の外を行き交う人々に視線を漂わせた横顔は、笑顔とは裏腹の
そこはかとない悲しみ色の瞳をしていた。

ごめん…。そうだよね…。いい気はしないに決まってるよね…。
結婚式の三日前に、彼女が元カレと一緒にパーティーだなんて…。
なんでそんなこと了承しちゃったんだろ、私…。バカとしか言いようがないな…。

料理が運ばれてくる間の、永遠にも思える沈黙…。
…は、ものの数分で打ち破られた。

「すっげー!ユキミってそんなに凄い人だったのぉ!?
そう見えないところが凄いー(笑)」

今まで黙ってたホンギがいきなり大声で喋り出すもんだから、雪見も健人も
ビックリして顔を上げた。

「だってホワイトハウスに招待されるって、フツーじゃないでしょ!?
俺、招待されたことないもん!ケントはあるの?」

「あるわけないじゃん。」

「でしょ?だったら凄いことじゃん!もっと喜べば?
俺だったらそんな彼女、鼻高々で自慢しまくるけどなー!」

「いやホンギくん、あのねっ!私は凄くも何ともないの!
元カレがお呼ばれしたのに、同伴する彼女もいないってゆー情けないヤツで、
たまたま私が…」

「…ねぇ。なんでケントは、そんなふくれっ面してんの。」
ホンギが雪見の言葉を無視し、おちゃらけてたのをやめにして真顔で健人を見据えた。

「ふくれっ面なんてしてねーし!」
健人が語気を強めて言い返す。笑い飛ばすでもなく、それが図星であることは明白で…。

「ケントって役者なのに、ユキミに関しては演技が出来ないんだね。バカ正直。」

「………。」

何も言い返さず健人が黙りこくった。
ホンギに対して、かなりイラッとしてる。相当怒ってる。
雪見はそれが健人の怒りの態度と知ってるので焦りまくった。

「あ、あのねホンギくんっ!悪いのは全部私なのっ!
やっぱ今回の件は断る!いくら何でも結婚式の三日前に…」

「ケント!これはセンセンリダツだよ!そいつからのねっ。
上等だよ!受けてやるよっ!ふざけんなっつーの!」

「…え?センセン…リダツ?」

「えーっとホンギくん…。もしかして戦線離脱…じゃなくて宣戦布告って言いたかった?
意味がまったく違うんだけど…。」

「リダツ?フコク…?日本語ムズカシイ!」

思わず健人も雪見も吹き出した。
お腹を抱えて大ウケしたあと、お互いを見てにっこり笑う。
大丈夫。どんな時も俺たちは揺るがないよね…と言うように。

そんな二人を見てホンギもホッとした。
笑ってくれて良かった…。わざと間違えるのも案外ムズカシイや…と。

「じゃあメシ食いながら作戦会議!ちょっと待ってて。シーッ!静かに!」
ホンギがケータイを取り出して、どこかに電話し始めた。

「あ、もしもし?店長?俺です。なんか今日、腹の調子がヤバくって…。
友達に三日前のホットドックもらって食ったからかも…。
う…ヤバ…。ト、トイレ…!てことで、今日から三日間ほど休みます!よろしくっ!
……よしっ、OK!あー腹が減っては作戦会議は出来ぬ!いっただっきまーす!うめぇ♪」

「三日前のホットドックぅ!?」
健人と雪見が目を白黒させてホンギを見る。

「どう?俺の演技。今度のアカデミーの発表会で主役もらえそうじゃない?
あ、さすがの俺でもそれは食わないから安心して。」

ホンギが満面の笑みを浮かべ、向かいに座る二人にウインクした。
作戦会議って一体…?



ニューヨークより13時間先の東京。
都内某所の撮影スタジオにも活気溢れる朝が来た。
今日はここでビールのCM撮影が行われる。撮られるのは健人の親友である、この二人。

「おはようございまーす!よろしくお願いします!」

どこの現場でもスタジオに一番乗りするのは優だった。
準備が整うまでの間、邪魔にならないよう大きな体を小さくし、スタジオの隅で
世界各国のネットニュースに目を通すのが毎日の日課だ。

「おっはよーございまーす!苅谷翔平、只今参上!よろしくお願いするでござる!」

優から遅れること20分。
もう一人のCMキャラクターである翔平が、いつものごとくスタッフを笑わせながら
上機嫌でスタジオ入りした。

「優、おはよっす!なんか二人でCMって、嬉しくて眠れなかったんだけど(笑)
健人や当麻も一緒だったら良かったのにねー!って、なに朝から恐い顔して見てんの?」
翔平が、優の見つめる10インチのタブレット端末を後ろから覗き込む。

「何だよ、これ…。嘘だろ…?翔平、見てっ!」

「ずっと見てる…。けど読めない…。」

「うゎ、ごめんっ!じゃ日本語翻訳に切り替える!
これ、ちょっと前に更新されたニュースなんだけど、もうツイッターにも
目情上がってるし、写真までUPされてるし…。大丈夫かな、健人…。」

「う、うそぉーっ!これ、ゆき姉ぇえ!?
相手の男が健人じゃねーし!てか、ゆき姉の元カレじゃん!
てか、なに?ホワイトハウスに招待ってぇーっ!」

優が、あちこちの情報を大慌てで調べてる。
その大筋を把握した二人は顔を見合わせた。

「…まさかのピンチじゃね!?こいつ…ゆき姉を奪って逃走する…とか?」
翔平が真顔で言うものだから、優は更に慌てた。

「翔平っ!明日のスケジュールは!?」
「え?明日は夕方まで取材で、そのあと久々に二日間オフだけど…?」

「神様が背中押してる!俺も半年ぶりの休みだっ♪」

「え???」

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.488 )
日時: 2013/07/27 17:13
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

『ただいまユナイテッド航空 ワシントン・ダレス国際空港行き804便の
最終ご搭乗案内を致しております。ご利用のお客様は、お急ぎ…』

「しょーへーっ!こっちこっちー!急げぇ〜!!」

今の今まで何とかオーラを消して待ち続けた優だったが、こんな緊急事態だから仕方ない。
人混みの中で大声を出す暴挙の結末は目に見えてたが、なんせ一分の猶予もなかった。

190センチもある優が背伸びをし、向こうに見つけた翔平に向かって
手招きしながら出した大声は、ごった返す人々の頭上を音速で駆け抜けて
ピンポイントで翔平の元までたどり着いた。
…が、その瞬間、居合わせた全員が振り返ったように見えたのは思い違いではないだろう。

「ごめんなさい!時間がないんです!
連れが来たら、猛ダッシュでゲートをくぐらなきゃならないんで!
だからお願い!どうかそっと見逃してー!!」

案の定、囲まれてしまった優。
そこへ、瞬間移動したかのように翔平が息せき切って現れた。

「ハァハァハァ…し、死ぬ…。もう絶対ヤダ!こんな海外旅行…。
ハァハァ…とにかく行こ…。みんな、悪いっ!通してっ!」

あまりにも翔平が、イケメン俳優にあるまじき瀕死の形相だったせいか
スッと道が二つに割れ、いとも簡単に優救出に成功!

「ありがとう!じゃあ、行ってきまーす!」

どこまでも優しい優は、お願いを聞いてくれた人達に飛び切りの笑顔でお礼を言い、
息も絶え絶えな翔平と共に、目指すゲートまで駆け出した。

さぁ!健人にナイショのサプライズ旅行の始まり始まり〜♪


昨日の朝、突如思いついて決めた今回のアメリカ行き。
マネージャーやスタッフらにも驚かれ呆れられたが、快く諸々の手配をしてくれた。
NY在住の古くからの友人は、昨日いきなり頼んだ無理難題をクリアして
全ての手はずを整えてくれた。

そして隣の翔平は…すでに爆睡中。
無理もない。連日のハードスケジュールはお互い様だが、この最終便に乗るために
夕方まで入ってた取材を急遽変更してもらい、すべて午前中に終わらせて
猛ダッシュで駆け付けたのだから。

最初から無謀な思いつきなのはわかってた。
だけど行かずにはいられない気持ちが勝ってた。
きっと翔平もわかってくれたんだと思う。
何も聞かずに「よし!行こっ!」と話に乗ってくれたから。
自分一人じゃ無理だった。ありがとな、翔平…。

親友のピンチには地球の果てからでも駆け付ける。
それが俺たちのキズナ。



機上の人となった二人が早々に寝息をたてる頃、NYの健人と雪見は
微妙な緊張感漂う朝を迎えた。

「おはよ。良く眠れた?何だか寝返りばっか打ってたみたいだけど…。」

寝ぼけまなこでリビングのソファーにドサッと腰を下ろした健人に、
雪見がスッとカフェオレを差し出し、自分も隣に腰掛けた。

「サンキュ。うーん、寝たような寝てないような…。
そーいうゆき姉こそ、ちゃんと寝たの?遅くまでなんかやってたじゃん。」
カップ片手に肩を抱き寄せ、おはよう代わりにほっぺにチュッとキスをする。

「あ、ごめん!だから眠れなかったの?
今日、大統領の娘さん達にプレゼントしようと思って、猫の写真集をラッピングしてたの。
情報によると犬派らしいんだけどねっ(笑)」

「そう!でも喜ぶよ、きっと。あ!うちのコタとプリンの写真集も入れてくれた?(笑)」

「もちろん!だから健人くんとつぐみちゃんも一緒に行くの、ホワイトハウスに。
健人くんが一緒だと思えば、どんなことも楽しめる…。」

楽しめると言いつつ、雪見はちっとも楽しそうじゃなかった。
好奇心旺盛な彼女のこと、本来ならホワイトハウスでのパーティーご招待に
浮かれていてもいいはずなのに…。

「ゆき姉…。俺なら大丈夫だよ。何とも思っちゃいないから。
そりゃ話を聞いた時は多少ムッとしたけど、今は別になんにも思わない。
だから楽しんでおいで。こんな事、もう一生ないんだから。
俺が写った写真集をアメリカ大統領が見るって、よく考えたら凄くね?
まぁ主役はコタとプリンで、俺はおまけだけど(笑)」

そう言って笑った健人が優しすぎて、涙がじんわり滲んでくる。

「あれ?なんで泣いてんの。涙は結婚式まで取っときなさい(笑)
ねぇ…。俺、やっぱ帰りは迎えに行くよ。終わりは9時頃でしょ?」

「無理だよ。だってアムトラック乗ってもNYからワシントンまで
3時間はかかるんだから。
5時までレッスンして、それからなんて無理!
だからホンギくんのユキミ救出作戦とやらも計画倒れになったでしょ?(笑)
大丈夫。学とタクシーで往復するけど料金は学持ちだし、心配することは何にもないから。
ちゃんとベッドで私を待ってて。
ドレスの後ろのファスナー、手が届かないから下ろしてもらわないとねっ♪」

雪見は小さくウインクして健人に口づけた。
私が愛する人はあなただけ…。


「じゃ、行って来る。ゆき姉も頑張ってきて。」

「うん。健人くんもねっ。明日はビシッと仕事するから覚悟しといて(笑)
じゃ、行ってらっしゃい!気をつけて。」

いつもは二人で歩く道を、今日は健人一人で歩いてく。
角を曲がるまでアパートの外で見送って、背中が見えなくなったら気持ちを切り替えた。

よしっ!じゃあ急いで家事をやっつけて、美容室の時間までお肌の手入れでもしますか!
最近ずっとサボってたからなぁー。
あんな高級ショップの美容室なんて、ほんとは行きたくないんだけど…。
だってなに言われるか、わかったもんじゃない!

ぶつぶつ言いながらエントランスを通る。
すると先程は席を外してたコンシェルジュのマーティンが、雪見に声を掛けてきた。

「おはようございます。今日は斉藤さま、お一人で行かれたのですか?
あ…そうでしたっ!今日はホワイトハウスでパーティーのある日!
ネットニュースで拝見致しました。なんと名誉なこと!明日の新聞が楽しみです。」

「えっ!?し、新聞っ??大統領の個人的なパーティーって聞いてるんだけど…。
ご一家が親しくされてる方々を呼んで、飲んで食べながらおしゃべりする、みたいな…。」

「えぇ、そうでございます。でも親しくされている方々と申しましても著名な方ばかり。
ですから毎年その豪華な顔ぶれを一目見ようと、ホワイトハウス前には
多くの観客が集まるのです。もちろん報道陣も多数。」

「う、うそっ!聞いてない…。そんなこと一言も聞いてない…。
くっそぉぉぉお!学のヤツぅぅぅう!」

「く、くそ…でございます…か?」


今までにない形相で雪見が怒り爆発寸前なのを、マーティンは見なかったことにして
エレベーターを下りてきた他の住人に挨拶をした。

「おはようございます。今日も素敵な一日を!」


雪見にとっては素敵な一日になるかどうだか。
でも…こうなったら、やるっきゃないっ!














Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.489 )
日時: 2013/07/30 12:36
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、アサカ様。
お持ちになられたドレスと靴をお預かり致します。バッグとアクセサリーはこちらへ。
では、全身エステルームへとご案内致します。」

「…え?全身エステぇ!?ここ、美容室…ですよね?
私そんなの予約してないし、髪のセットとメイクだけお願いしたいんですけど…。
それに顔のマッサージなら、さっき家でしてきたし…。」

「はぁ?失礼ですが…その状態で当店のドレスをお召しになられる…と?
ホワイトハウスの、あのパーティーへご出席になられるのですよ?」

「い、いけません…か?」 「いけませんっ!!」

ドレスを買った超高級ブランドが経営する美容室は、ショップと同じ五番街の中程にあった。
当たり前の話だが、見ればどの客もセレブそうなマダムばかり。
場違いな客が間違って飛び込んで来たかと、みんなが鏡越しにチラチラこっちを見るので
納得はいかないが、ひとまずエステルームに退散しよう。

『大体、全身エステだなんて、ひとっことも聞いてないっつーの!
その状態で…って悪かったわね!ボロボロで。
33にもなれば、ちょっとの睡眠不足もお肌に出るのよっ!
まったく、どーりで学の予約時間が早かったわけだ!
どーせお店に言われるがままに、あぁそうですか、じゃあお願いします
ってエステも頼んじゃったってとこでしょ。
けど、いくら支払いは全部学持ちったって、エステ受けるのは私なんだから、
それぐらい伝えときなさいよ!
そんなつもりじゃなかったから、油断しまくりの状態で来ちゃったじゃないの!
てか学のヤツ、私に頭下げて頼んどきながら、ことごとく腹立つー!』

生まれたままの姿で、生まれて初めての全身エステを受ける。
まな板の上の鯉は、総出のエステティシャンによって調理スタート。

開始早々、今日のホワイトハウスへの招待がどれほど名誉な事で、
そこに集う女性陣の装いが、アメリカ中の注目をいかに集めるかという話を、
忙しく手を動かしたチーフらしき施術者から散々聞かされた。

『そうか、そーいうことね。やっと把握。
私は今日、ここのブランドの、ちょっとした広告塔ってことだ。
だからドレスを少しでも綺麗に見せるために、私を磨かなきゃならないって訳か。
…って、それも失礼な話でしょ!なんで私がこんな目に遭わなきゃなんないのっ!
全ては学のせいだ!あいつに彼女さえいれば、私はこんなことには…』

学への怒りで眉間に寄ったシワも強制的に排除されると、雪見は意に反して
すぅーっと眠りに落ちた。


「アサカ様!終わりましたよ。起きて下さいっ!
さぁドレスに着替えて、次はヘアメイクルームへどうぞ。」

小一時間も気持ち良く熟睡したせいか、頭も身体もスッキリ冴えてる。
四方が鏡張りのフィッティングルームでガウンを脱ぎ、恐る恐る自分の身体を眺めて見た。

『わ!むくみが取れて全身がキュッと引き締まった感じ♪
なんかメリハリボディになって、胸も大きく見えるのは気のせい?ラッキー♪』
血色も良くなったせいで顔色がワントーン明るくなり、見た目年齢も若返ったようだ。

『へぇーっ!エステの威力って凄いんだぁ!これ、三日後まで持続してるかな?
そーとー高い店だろうから、一週間ぐらいはイケルよね?
私ってば…なーんにも考えちゃいなかったけど、健人くんと結婚するんだもん、
これぐらいのこと、式の前にしとかなきゃダメだったな…。
て言うか、これからはエステとかフィットネスとか一生懸命通って、
綺麗と若さを維持する努力、しなきゃダメだよね…。もっと自覚しなくちゃ…。
私は…あの斉藤健人の12歳も年上の奥さんになるんだから…。』

図らずも挙式前にタダで高級エステを受けられたことを、ラッキー♪と喜ぶ。
しかし一方で、ここんとこずっと忘れてた、変えようのない事実を思い出し、
しばし裸のままで鏡の前に立ち尽くしてた。
そこへ…。

「アサカ様!お伝えするのを忘れてました!
そこにナシド様からのお届け物を置いておきました。
今日のドレスと合わせてお召しになるように、との事です。」

「え?学からの…お届け物?」

フィッティングルームの隅に、ピンクのリボンが掛かった箱が置いてある。
なんだろう…?とリボンを解き開けてみると…

「なっ、なによ、これーっ!?」
なんとそれは、いかにも高級そうな総レースのブラジャーとショーツだった!

『あいつぅぅう!一体どーいうつもりよっ!
もうすぐ結婚する元カノに下着贈るって、どーいう神経!?』
と、またしても息巻いた。
が、少し冷静になると、自分は下着のことなどまったく頭にも無かったことに気付く。
超高級ドレスを着るというのに、普段身につけてるままで家を出てきたのだ。

『ま、まぁ…ね。ドレスが高いんだから、下着もこれぐらいのを付けなきゃ格好悪いよね。
それにこのドレス、背中が開いてるってこと、すっかり忘れてた!ヤバイヤバイ!
…にしても派手な色!地中海ブルーって言うの?水着みたい。
そういや今って、薄い色の服に濃い色の下着をわざと透けさせるのが流行って
どっかの雑誌で見たな…。
これも店員の言いなりになって買わされちゃったんだろーね、きっと。
え?これってドレスと同じブランドだ!ひゃ〜!一体セットでいくら?』

ブランドには一切興味ない雪見だが、庶民の悲しいサガで金額だけはどうも気になる。
「まぁ、いっぱい稼いでるみたいだし…今回はバイト代としてもらっとこ♪」

独り言を言いながら、下着を身につけドレスを着る。
鏡を見ると、その地中海ブルーの下着が淡いブルーのシフォンドレスと重なり合って、
ドレス一枚で着た時よりも、よりアクティブで若々しく見えた。

フィッティングルームから出て靴を履き、全身を鏡で映してみる。
すると、今まで忘れてた記憶がスッと蘇った。

そうだ…。私は昔、ブルーの服が大好きだったんだ…。
今は着ることのないブルーの服が…。

そう…学の恋人だったあの頃…。





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.490 )
日時: 2013/08/02 19:53
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「まぁ!見違えたわ!とっても綺麗!さすが、うちのスタッフね。
これで今日のパーティーの主役は、あなたに決まりよ♪」

「きっと今夜はみんながあなたに注目するわ!明日の反響が楽しみっ!
あなたのお陰で、うちのショップも大忙しになるもの!」

「どーも…。」

ヘアメイクが完了し、外が見える店の入り口付近で迎えの車を待つ間、
雪見は先程のエステティシャンらに囲まれ、ワイワイ騒がれてた。
入店したとき怪訝な顔してた鏡越しのマダム達も、目を見開いてこっちを見てる。

自分を褒めてくれてるのかドレスを褒めてるのか、はたまた腕のいい同僚を褒めてるのか。
いつもなら『なによ、失礼しちゃう!』と多少なりともムカツク場面だが、
今の雪見はそんな心境ではなかった。

ヘアメイクの間中、鏡の中の自分と、ずっと今回の事を考えてた。
学の心が読み切れない…。すべてのことに意味は有るのか、無いのか…と。

元カレに贈られた、過去の自分が好きだった色…。
昔の私なら、着心地の良い色だった。この色を身につけると、いつも冷静でいられた。
だが今は、それを身に付けてることが重大な間違いのような気がして心がざわつく。
そんな時、ふと、一人でいる健人の寂しげな横顔が頭をよぎった。

『ワシントン…行くのやめようかな…。健人くんに…会いたい…。』

一度思い出すと、会いたくて会いたくてたまらなくなる。
おばあちゃんちに預けられた子供のように『うちに帰りたい…。』と思ってしまった。

『私…なんてバカなんだろ…。何をいまさら学の手助けなんて…。
お人好しというよりバカだ!
私が今、寄り添って手助けしなきゃならないのは健人くんだけでしょ?
そのためにNYまで付いてきたんじゃない!
…そうだ…今ならまだ間に合う!』

衝動的にその場を立ち去ろうとしたその時、スーッと店の前に黒塗りのリムジンが滑り込む。
車から降りてきたのは…学だった…。

遅かった…。

雪見が視線を落とし溜め息をついたところへ、黒のタキシードを着こなし
普段はコンタクトなのに何故か黒縁メガネをかけた学が、店のドアを押し開けた。

「お待たせ。迎えに来たよ。」

その瞬間、雪見の周りに居た誰もが、キャーッ!と黄色い声を上げた。
健人の周りで起こる騒ぎようと同じでビックリしたが、学は慣れっこの様子で
別段気に掛けるふうでもない。
アメリカじゃ、そんな存在なの?あなたも…。

「うん。思った通り。雪見にはやっぱりブルーが良く似合う。
綺麗だよ。俺が今まで見た中で一番綺麗だ。」

「そ?ありがと。で、なんでメガネなの?」

「あぁ、これ?サイエンスティーチャーマナブのキャラは黒縁メガネをかけてんの。
言っとくけど、ここから先はどこから写真撮られるかわかんないから
お前も油断した顔すんなよ。」

「嘘でしょ!?私があなたと写真撮られていいはずないじゃないっ!
私、あと三日で結婚…!」

「まぁいい。これからワシントンまで、ちょっとしたドライブだ。
積もる話は車んなかでゆっくりしよう。じゃ、行くぞ!」
学は雪見の言葉を遮るようにいきなり手を繋ぎ、スタスタと店を出てしまった。

「えっ?ちょ、ちょっとぉ!支払いは?私、払ってないよー?」

そんなもん、現金払いなわけないのは解ってる。
いきなり手を繋がれたドキドキを、口が勝手にカモフラージュしただけだ。

リムジンに乗り込むまでのわずかな時間にも、学は通りがかりの人々に握手を求められる。
その光景はまるで日本での健人のようで、先に乗り込んだ車の窓から
雪見は不思議な気持ちでそれを眺めた。


大きなリムジンの中に二人きり…。

いや、正確には運転手も入れて三人なのだが、運転手は二人より遙か向こうで仕事してる。

この不自然な沈黙を、どうしたらよいのだろう…。
私達って、こんなに寡黙だっけ?違うよね。
もっと言いたい放題好き勝手なことを、寄ると触るとポンポン言い合ってたよね…。
心に隠し事が出来ないくらい、素直に言葉をぶつけ合ってた。
なのに何故、今はこんなに言葉を選んでるのだろう…。

学が物言わず、窓の外を流れる景色に目をやってる。

どうして…?どうして何も言わないの?
積もる話は車の中でしようって言ったのはそっちじゃない!
だったら何か話しかけなさいよ!いつまで黙ってるつもりなの。
あ…相変わらず綺麗な横顔…。

昔、私はこの人の横顔を眺めるのが好きだった…。

「あ、あの…さ…。なんでリムジン…?フツーのタクシーで良かったのに。」

我慢しきれず、雪見が先に口を開いた。
いや、またしても口が心をカモフラージュしてくれたのだ。
昔と変わらず綺麗な横顔に、ドキッとした事実を…。

「えっ?あぁ。どうせなら旅の途中も楽しもうと思って。
だって4時間半もフツーのタクシーじゃ、窮屈で疲れるだろ?」

「よ、4時間半っ!?え?ホワイトハウスまで4時間半もかかるのぉ!?
うそっ!じゃアムトラックの方が早いじゃないっ!3時間よ!
いや、飛行機ならもっと早いでしょ!なんで車にしちゃったのよぉ!
てか、それなら向こうに着いてから着替えれば良かったじゃないっ!
髪も崩れたらどうしてくれるの!あードレスもシワになっちゃうー!もーうぅ!!」

雪見は文句を機関銃のように繰り出した。
さっきまでの沈黙は粉々に撃ち抜かれ、一瞬で元通りの雪見に。
それを学がクスッと笑ったあと、嘘とも本気とも解らぬ横顔で、
また窓の外を眺めながらポツリと言った。

「長く一緒に居たかったから…。」

「えっ…?」

すぐには次の言葉が出てこない。
せっかく打ち破った沈黙が、また舞い戻って来てしまった。
だけどこのままでいいわけがない。
私達はこれから4時間半もこの密室に、隣り合っているのだから…。

いや…ある意味、ここが密室で良かったのかも知れない。
時間もたっぷり与えられた。全ての問題を解くための…。よしっ!

「…ねぇ。そこの冷蔵庫にビールは入ってる?あ、シャンパンでもいいけど。」

「えっ?…あぁ、どっちも入ってるけど…。」

「取りあえずビールかな?のど乾いちゃった。
せっかくリムジンで長旅だもん、開き直って楽しむことにする。
じゃ、カンパーイ!うーん、ウマイッ♪
あ…このドレスにビールは、やっぱお洒落じゃなかったな。
これ飲んだらシャンパンにしちゃお♪今日はご馳走になりまーす!
あ、私がリムジンに乗るの、初めてだと思ってたでしょ?
あまーい!乗ったことあるもんねー!」

さっきの言葉を問いただすでもなく上機嫌に飲み出した雪見を、学は訝しげに見る。
だが、そこにいる彼女は恋人だった頃と何一つ変わらず、綺麗で可愛くて
お酒が入ると様々なことを目を輝かせて語る人だった。

俺の初恋の人…。大好きだった人…。
一生一緒に居たかった人…。

そして今も…多分好きな人…。

「何にも変わんないや…。」

シャンパン一本を空ける頃、学がおしゃべり途中の雪見をジッと見つめてポツリと言った。
その瞳は元カノを懐かしんでる瞳ではなく、まるで今愛してる人にキスする手前の瞳…。

「ストップ!そろそろ本題に入らせてもらうよ、学…。」

「えっ…?」

彼は重要なことを一つ忘れてた。
雪見がシャンパン一本と缶ビール3本ごときで酔うはずもないことを…。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.491 )
日時: 2013/08/06 20:49
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「今のうちに…確認しておきたいことがあるの。
私が今日ホワイトハウスへ行く理由は、あなたが女性同伴で招待されたパーティーなのに
連れてく人がいないから…。
それと、余興でやるサイエンスショーのアシスタントには、私が適任だから。
それで間違いない…よね?」

「そうだけど…。」

「つまり、パーティーが終わったら私の任務は全て完了、ってことよね?
私の立場も、同じ大学で科学を学んだゼミ仲間…そうよね?」

雪見は少しの酒の影響もみせず、冷静に論理的に学を問いただした。
それはもしかすると、身にまとってるブルーのお陰かもしれない…
と、頭の隅でぼんやり思う。
だとすると、学が雪見にブルーのドレスを贈ったのは失敗だ。
もし元カノに対して下心があるのなら、もっと冷静さを失わせる色を贈らないと。
たとえば妖艶な深紅のドレスを…。

「昔の恋人…じゃダメなのか…?」

「バッカじゃないの!?アメリカ大統領に向かって『昔の恋人です。』
って紹介が正しいわけないでしょ!?」

「じゃあ…雪見が俺の恋人だったって事実は…もう…なかったことになるのか…?」

学の声が微かに震えてる。
見ると、メガネの奥の瞳に涙が浮かび、それを隠すように視線をそらした。

「ちょ、ちょっとぉ!なに涙ぐんでるのよ!何も泣くことないでしょ!?
なんであんたは昔っから、酔うとすぐ泣くかなぁー!もう飲んじゃダメっ!
ほんっと、相変わらずお酒が弱いんだから。」

雪見は学の手からシャンパングラスを取り上げ、グイッと残りを飲み干した。
恋人同士だった、あの頃のように…。

「あのねっ、もうすぐ私達、34にもなるんだよ?
学だって元カノが私一人なんてこと、ないでしょ?
あんたの履歴書から元カノの一人や二人削除したって、何の不都合もないでしょ。
てゆーか、なんで今、彼女がいないのよ!
あんたに彼女さえいたら、私がわざわざワシントンまで行く必要なかったのにぃ!」

結局話は堂々巡りになってしまう。
だが…学は次に衝撃的なことを口にした。

「今まで好きになったのは…雪見しかいない…。」

「…えっ?」

言葉の意味が咄嗟には理解出来なかった。
イママデスキニナッタノハ ユキミシカイナイ…?

初恋の相手が私だって言うのは、付き合ってた時に何回も聞いてたけど…。

「まさか…私と別れたあと8年間、誰とも付き合ってないって意味!?
なんで?あんたは私が言うのもなんだけど、モテてもいいはずよ?
客観的に見てかなりのイケメンだし、背も高いしスタイルいいし。
頭はもちろんいいに決まってるけど、性格だってそれなりに優しいし…。
しかも今はテレビの人気者なんでしょ?お金も稼いでる。
それなのに、どうして?これじゃ5年も付き合ってた私が、変わり者みたいじゃない!
見る目ないなー世の中の女子は。なんでこんないい男をほっとくかな。
あ、そっか!モテないからヤケになって研究に没頭して、あの何とか賞を獲ったんだ!
それはそれで嬉しいような悲しいような話だけど(笑)」

雪見はケラケラ笑いながら激励のつもりで「ま、頑張りなさいよっ!」
と、隣に座る学の肩をポンと叩く。
全ては可哀想な元カレにかけた最大限の慰めの言葉だった。
が、次の瞬間、あろう事かグイと引き寄せられ、力一杯抱き締められた。

「ちょっ、ちょっと!離してっ!」

「…雪見以上の人はいないから…。雪見より好きになれそうな人を見つけられない…。」

「えっ…?」

軽いめまいがした。
耳元でささやかれた言葉たちが、頭ん中をグルグルと回ってる。
腕の中から逃れようともがいてもみたが、男が本気で抱き締める力に
女が勝てるわけはなかった。

心のどこかで恐れてたことが、姿を現した…。

「……どーゆーつもり?
今、自分が何を言ったか…自分が何してんのか、わかってんの?
私があと3日で結婚式って、知ってるでしょ?なんなの、一体!」

「だから…今しかない…。今日がラストチャンス…だろ?
俺…今でも雪見のこと…愛し…」 

「ストーップ!!止めてーっ!!運転手さん!ここで止めてっ!
It's raining here! ここで降りますっ!」

突然の雪見の大声と急ブレーキに、学は驚いて腕を緩めた。

「お、降りるって、な、なに言ってんだよっ!!
こんなとこで降りて、ヒッチハイクでもしてあいつんとこ帰ろうってのかっ!?
そんなカッコじゃ襲われるに決まってんだろっ!バカかっ!!」

雪見の必死の形相に、学は戦意を喪失した。

「やっぱり玉砕か…。そうだよな…。
いくら俺がこっちの芸能界に入ったとしても、アイツに勝てるわけないか…。
フフッ…。自分でも呆れてるよ。俺の顔見るのも嫌になったんだろ…?」

「ち、違うっ!ト、トイレーッ!そこのトイレに行きたいのっ!
ここで寄らなきゃ車の中で漏らしちゃうーっ!!ドア早く開けてーっ!!」

「…はぃ?」

シャンパン一本と缶ビール3缶は、雪見を酔わせないまでも、トイレを4時間半
我慢させることは出来なかった…。



その頃アカデミーでレッスン中の健人らは、今しがた入ってきた教師に集合をかけられ、
教室の真ん中に集められた。

「みんな、聞いてちょうだい!今年の発表会の詳細が決まったわ。
今年は5月15日!去年がミュージカルだったから今年は舞台。
演目は…『ロミオとジュリエット』に決定しましたっ!」

その瞬間、教室中にワォ!と大歓声が上がった。
だが途中留学で詳しい事情を知らない健人は、隣のホンギに小声で聞いた。

「なに?発表会って。」

「日本じゃ学芸会って言うんだっけ?学習の成果を披露する会みたいなの。
毎年アカデミーの大ホールにタダでお客さん入れて、舞台をやるんだ。
あ、ミュージカルの年もあるけどねっ。
で、この発表会のお客さんってのが、一般の人に混じって業界関係者もわんさか!
良い原石を探しに来るんだよ。だからみんな必死さ。」

「ふーん…。」

健人は、たった2ヶ月短期留学生の自分には関係ない話だなと思い、
次々発表されてくキャストをぼんやり聞いていた。

ゆき姉…今頃、どのあたりかな…。もう着いたのかな…。
ナシドさんとは…何にもないに決まってるか…。

これでも気にしてないつもりだった。
だけど、ふとした瞬間思い出しては頭をよぎる。
学が突然マンションに、雪見を訪ねて来たあの日のことを…。

「…で、ジュリエットは、ローラ!ロミオは…ケントよ!!」

「ケ、ケントだって!やったーっ!凄いよっ!ケントが主役だぁー!」

「……え?」

自分の事のように喜ぶホンギに抱きつかれ、頬にキスされてボーゼンとする。
他のクラスメイト達も「おめでとう!」「スゲーや!」と周りを取り囲み祝福の嵐だ。

よくわかんないけど、なんか嬉しい…。
早く…早くゆき姉に伝えたい…。絶対喜んでくれるから…。
今すぐ会って伝えたい…。会いたいよ…。

その時だった。
事務のお姉さんが教室に入ってきて、先生に何やら耳打ちしてる。

「…そう、わかったわ。ケント!日本のあなたの事務所から緊急連絡よ!
大至急、ダウンタウン・マンハッタンヘリポートまで来るようにって!」

「えっ!?ヘリポート…?」訳がわからず健人は目をパチクリ。

「あ…ホンギも一緒に連れて来るようにって伝言だそうよ。
発表会の稽古開始はあなたの結婚式が済んでからにするわ。さぁ早く行きなさいっ!」

「へ?俺…も!?」

一体この事態は、どーゆーことっ?







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