コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.242 )
- 日時: 2011/07/11 20:18
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
健人たちは今野を『どんべい』に連れてってやろう!と意見がまとまりタクシーへ。
「はぁぁ…。それにしても忙しい日だったね。けど、課題曲が上手く歌えたから
一つはクリアしたって感じ。」
健人が、疲れたけれど満足!と車のシートに身体を預ける。
「三上さんたち、もう帰れたかなぁ?なんせゆき姉の歌が反響凄すぎ!
俺たち今日歌わなくて良かったよね!」
当麻が健人に同意を求めると、健人は「ホントホント!」とうなずいた。
「お前達が今日デビュー曲を歌ってたら、それこそ三上さん、朝まで帰れなかったぞ!
課題曲であの反応だ。明日の会見以降、お前達のデビューは相当な話題になることは間違いない。
一気に取材が殺到するから覚悟しとけよ。」
「今野さん、脅かさないで下さいよ!デビューは嬉しいんだけど、
これ以上スケジュールがきつくなるのだけは勘弁して欲しいなぁ。」
「なに贅沢なこと言ってんだよ!
世の中には、どんなに努力したって売れない奴の方が、絶対に多いんだぞ!
お前達二人は成功組なんだから、多少の事は我慢しないと。」
「はぁーい…。あれ?この人、また一人でなんか考え込んでる。」
健人が、隣りに座る雪見の顔を覗き込む。
「だって…。健人くんは心配じゃないの?さっき夏美さんが言った言葉…。」
雪見はそれだけが気がかりで、本当は酒を飲むような気分ではなかった。
「はい、わかりました。」と返事だけしておいて、苦手なタイプでも我慢して
マネージャーになってもらった方が、後々良かったのではないか?
彼女を怒らせた事によってこの四人が、同じ事務所の中に敵を作って
しまったのではないか?
だとしたら、自分は当事者だから仕方ないにしても、あとの三人には
なんの落ち度もないのに、また迷惑をかけてしまう…。
「雪見ちゃん、大丈夫だよ。そんなこと、タレントが心配する事じゃない。
マネージャー交代は、俺が勝手にしたことであって、雪見ちゃんは一切
関わってないんだから。何も心配しなくていい。」
タクシーの助手席に座った今野が、前を向いたままそう言った。
「あ!運転手さん、その角曲がってすぐでいいです!」
タクシーを降り立った四人は人目に付かぬよう、サッとビルの地下へ。
「居酒屋『どんべい』?また、随分と渋い好みだなぁ!
三上さんにでも連れて来てもらったのか?」
店の暖簾の前で、今野が健人に聞いてみる。
すると、健人と当麻が同時に雪見を指差し、「ゆき姉!」と答えた。
「あー、なるほどね!」
「なるほどね!って、なに納得してるんですか!失礼しちゃう!
ここは今野さんが思ってるような、オヤジっぽいお店じゃありませんよーだ!
ほんと、なんでマスター、こんな店名にしたんだろ?
私の趣味まで疑われちゃう!」
ぶつぶつと独り言を言いながら、雪見を先頭に暖簾をくぐる。
「いらっしゃい!よう!久しぶりだね。三人とも元気そうで何よりだ!
新しいお客さんも、ようこそ!最初はビールでいいだろ?
すぐに持ってくから、部屋に入りな!」
マスターは相変わらず威勢が良い。
金曜の夜とあってほぼ満席状態だが、マスターの前のカウンター席だけは
客が帰ってすぐらしく、まだジョッキや皿が片付いていなかった。
小上がりに続く通路を歩きながら今野が、「随分おしゃれな店じゃないか!」と驚いてる。
だから言ったでしょ!と、雪見が得意顔をした。
マスターがいつも通り、ビールとおまかせ料理をテーブル一杯に運んで来る。
まずは今日の課題曲大成功と、明日の記者会見が無事終了することを祈って乾杯!
「うめーっ!今日のビールは特別旨いわ!」健人が一気にジョッキ半分を喉に流し込む。
「ホント、生き返ったぁ!俺、課題曲が緊張して喉カラッカラだった!」
さすがの当麻も、今日の課題曲はいつもの月なんかと比べものにならないほど緊張したらしい。
しばらくはお腹と喉が落ち着くまで飲み食いし、それから明日の打ち合わせに入る。
「多分、一通りの形式的なやり取りが終った後、どっかの記者から必ず三人の関係について、声が上がるだろう。
事務所は、外部からの質問は一切受け付けない方針だが、俺は、上がった声を
すべて無視するのも、どうかと思うんだよね。」
今野が、ビールのあとの芋焼酎をロックで飲みながら話を続ける。
「俺はね、今は昔と違うんだから、アイドルだって恋愛したって大いに結構!と思うわけ。
でもな、会社としてはそんなこと、大っぴらにされちゃ売り上げに大きく響くから、
もちろん面と向かって許せるわけはないんだよ。
けどな!じゃあなんで常務がお前達に、あんな名前を付けてくれたと思う?
『YUKIMI』のあとに読みもしない『&』を付けたんだぜ!
ツアータイトルも『絆』だよ?俺は初めて聞いた時、感動したよ!
さすがは若き次世代の常務!頭の堅いお偉いさんどもとは別格だ!ってね。」
「ま、まさか今野さん、健人たちに明日の記者会見で、付き合いを公表しろ!
とか言うんじゃないよね?んなわけ、ないか!あははっ!ごめん。」
当麻が笑いながらビールを飲み干す。
「いや、そう言う展開も有りなんじゃないか、って事。」
「嘘でしょ!?」健人たち三人は、一様に驚きの声を上げた。
「今野さん!酒のピッチ早いですって!いくら何でも明日の会見で、そりゃないでしょ!」
当麻が、隣りに座る今野の背中をぺしっと叩く。
「痛ってぇ!あれぇ?俺が思ってる以上にお前らって常識人っつーか、根性無しなわけぇ?
もっとさ、若いんだから今までの芸能界の常識を
ぶっ壊してやる!ぐらいの勢いはないの?」
「どうしちゃったのさ、今野さん!今日はなんか変だよ?
なんでそんなに俺たちのこと、気にしてくれてるの?」
健人は急に今野の事が気がかりになってきた。
「いや、別に…。ただ健人と雪見ちゃんには、ずっと幸せでいて欲しいから。
誰かに引き裂かれる前に、しっかり絆を結んで欲しいから…。」
今野はそう言いながら酔い潰れ、テーブルの上に突っ伏して寝てしまった。
「絶対変だよね、今野さん…。ねぇ、今日は家に泊めてあげよう。
私、今野さんの奥さんに電話入れておくから。」
だが、いくら雪見が今野の自宅へ電話をしても、誰も出ることはなかった。
この時は、なぜ今野がそんな話をしたのか不思議に思ったが、家に誰もいないのは、
奥さんが子供を連れて実家にでも遊びに行ったのかな?ぐらいにしか思わなかった。
後に及川から、今野が奥さんと別居した、と聞かされたのはレコーディング前日の事だった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.243 )
- 日時: 2011/07/11 23:16
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
o さんへ
読んで下さってありがとうございます。
ここのサイトは分類検索がないので、キーワードを設けていませんが
キーワード検索するとしたら
イケメンアイドル、年下彼氏、ラブラブ、ご都合主義ってとこです。
自分の出来ないことを雪見にやらせてるんで、もちろん雪見一番のお話です。
これからも多分そんな話が展開して行くので、ご了承ください。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.244 )
- 日時: 2011/07/12 17:28
- 名前: o (ID: we2hcjMK)
分かった。 もう来ない
サヨナラ
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.245 )
- 日時: 2011/07/13 00:43
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
健人たち三人は酔うタイミングを逃したので、取りあえず今日は今野を連れて
もう帰ろう、とタクシーに乗り雪見のマンションへ。
健人と当麻が両側から今野を支え雪見が靴を脱がし、やっとソファーにゴロンと寝かす。
時計を見ると、針はすでに十二時を回っていた。
「当麻くん、今日は仕事何時から?もし良かったら、当麻くんも泊まってけば?」
「いや、遠慮しとく。朝六時に迎えが来るからこのまま帰るわ。
今野さんをよろしく。じゃ、夜にね!」
そう言い残し当麻は帰って行った。
雪見は今野に毛布を掛けてやり、それからお風呂にお湯を張りに行く。
その間健人は猫たちの相手をして遊ばせ、雪見は冷蔵庫の中を覗いて
朝食の献立を考えた。
「健人くーん、お風呂湧いたよー!」
「よしっ、じゃあ風呂入って来るから、めめとラッキーはこれで遊んでて!」
そう言って健人が、ねずみのおもちゃをポーンと放り投げた。
健人がお風呂を出た後、続いて雪見も入り、湯上がりは二人が一番大切にしている
一杯飲みながらのお喋りタイム。
この時間が一日の疲れを癒やし、穏やかな睡眠へと繋げるのだ。
にしても、今日は外で飲んできたと言うのに、本当に酒好きな二人。
「ねぇ。今野さん、どうしちゃったんだろうね。絶対いつもと違ってた。」
雪見と健人は、手に缶ビールを持ってベッドの上で壁に寄りかかり、
足を投げ出して座ってる。
「俺もそう思うんだけど、理由が解らない。」
「じゃ、夏美さん…てどんな人?会社じゃどんな存在?」
「俺も周りから聞いた話しか知らないけど、女の子の大型新人はみんな
夏美さんが担当して、育ててた時期があったみたいだよ。
前に今野さんが言ってた。夏美さんはマネジメントをしながら営業職もこなす、
スーパーマネージャーだ、って。」
「そんなにやり手なの…。」雪見の不安は募る一方だ。
「でもね、二年前だったかな?夏美さんに悪い噂が立って…。
それでマネージャーから外されたらしいんだけど…。」
健人が言葉を濁そうとしたのがわかった。
「ねぇ、それってどんな噂?」
「う、うん、あのね…。女の武器を使って仕事を取ってくる…みたいな…。」
「そうだったんだ…。ごめんね!嫌なこと聞いちゃって。」
健人が言いずらそうにしてたので、雪見はそれ以上聞くのは止めにした。
「さてと、もう寝よっか。明日は健人くん、何時だっけ?」
「明日じゃなくて今日ね。八時に及川さんが迎えに来る。
ここに迎えに来てもらうの初めてだから、なんか照れるなぁー。」
「今野さんに私達のこと聞いて、きっとビックリしただろうね、及川さん。」
「うん、多分ね。でも明日目覚めた今野さんこそ、ビックリすると思うよ!
ここはどこだ!?ってね。」
「ほんとだね!えへっ、楽しみ。じゃ、歯磨きして寝よ!」
寝相のいい二人は、一つの布団にくるまって寝ても、ずっと同じ体勢で寝ていた。
健人の左腕に雪見が抱きつくようにして…。幸せそうな寝顔である。
朝六時。健人より一時間早くに起きるのが雪見の日課だ。
今野もまだ眠っているので、起こさないように静かに顔を洗い、化粧をしてキッチンに立つ。
朝ご飯の準備が終る頃、居間から「ここはどこだっ!?」と、大声がした。
「ふふっ!やっぱりだ!」雪見が冷たいお水をトレーに乗せて、今野に運ぶ。
「おはようございます!ソファーじゃ身体が痛かったでしょ?はい、お水!」
「ええっ!?雪見ちゃん!?ここもしかして、雪見ちゃんち?」
今野の驚き方が予想通りだったので、雪見は可笑しくて仕方ない。
「そうですよ!昨日はここまで今野さん運ぶの、大変だったんですから!
まぁ、大変だったのは健人くんと当麻くんなんだけど。
あ!奥さんに電話して、この事伝えようと思ったんですけど、誰もおうちに
いらっしゃらなくて。週末だからお子さん連れて、ご実家にでも?」
「え?あ、あぁ!そうなんだ!子供がおばぁちゃんっ子でね。
それより健人は?まだ寝てるの?」
今野が慌てて話題を替えた。
「あ、まだ起こさないで下さいね。下手に起こすと機嫌が悪いから。」
「じゃ、どうやって起こすの?」「卵焼きの匂いで!」
贅沢な目覚まし時計だ!と今野が笑ってる所へ、健人があくびをしながら
珍しく自分で起きて来た。
「おふぁようございます…。今野さん、早起きですね。」
「よう!おはよう。昨日は済まんかったな!みんなに迷惑かけて。」
「ほんとですよ!今野さん、いきなりわけわかんない話したかと思ったら、
バタンキューで寝ちゃうんだもの。お陰で二日酔いにはならなかったけど。」
「ほんと、すまん!なんか新婚家庭にお邪魔したみたいで、バツ悪いな。
車も取りに行かなきゃならんし、すぐ帰るわ!」
「何言ってんですか!朝ご飯食べてってからにしてくださいよ!
もう用意が出来てるから、健人くんは顔を洗ってきて!」
雪見の言葉に、健人がまたあくびをしながら、「ふぁ〜い!」と返事する。
三人で食卓を囲みながら、話は今日の記者会見の話題に。
「小林が司会を務めるが、100%の信頼はしない方が賢明だ。
なんせ彼女は手負いの狼だからな。」
今野の言葉に健人たちはびびっている。
「脅かさないで下さいよ!記者会見、さぼりたくなっちゃう。」
雪見は冗談なんかじゃなく、一瞬本気でそう思った。
「大丈夫だよ。ゆき姉の隣りには、いつだって俺と当麻がいるじゃない!」
健人がにっこり笑って雪見を見る。
その笑顔に答えるように、こくりとうなずく雪見を見て今野は、
やはり二人の仲を壊される前に世間に公表した方が、良いのではないか?
と言う思いを強くした。
八時少し前。健人と今野が玄関にいた。
「じゃ、行ってきます!今日はまたゆき姉がデビュー曲を披露しなきゃ
ならないんだから、夜までしっかり練習しといてよ!」
「またぁ!わざと私を緊張させようとしてるわけ?
健人くんこそ、夏美さんが急にデビュー曲をアカペラで歌え!とか言ってくるかもよ!」
健人の言葉に雪見が反撃する。
「その辺にして行かないと、及川が下で待ってるぞ!
じゃ雪見ちゃん、お世話になったね。朝飯も旨かったよ!
今日は一日健人に付いてるけど、会見場では雪見ちゃんのマネージャーだからね。
健人が言った通り、なんにも心配しないで会見場においで。
じゃ、行ってきます!」
いよいよ新人アーティストとしての生活が始まる!
期待と不安を心の中で丸め込んで、雪見は静かにピアノの前に座った。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.246 )
- 日時: 2011/07/14 14:08
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
午前中はずっとピアノの練習をしていた雪見。
今日の記者会見で、デビュー曲『君のとなりに』を弾き語りすることになってたので、
とにかく何度も何度も繰り返し練習し、不安をひとつでも減らしておきたかった。
時間を忘れるほどに集中し、気が付いたらすでに午後一時を回っている。
『なんかお昼ご飯って気分でもないな…。そうだ!久しぶりにドーナツ食べたい!』
ぶらぶら歩いていつものドーナツショップへ。
土曜日の昼下がりだけあって、店内は混み合っている。
いつもの席も空いているはずはなく、店員が真ん前に見えるカウンター席に座った。
大好きなカフェオレとオールドファッション。
店内の甘い香りを嗅ぐだけで、雪見は疲れが癒やされ心が幸せを感じ始める。
するとそこへ店員が、ささっと雪見の前にやって来た。
「あのぉ…。雪見さん…ですよね?」
「え?あ、はい。そうですけど…。」
顔なじみの店員ではあったが、注文以外で言葉を交わしたことなどない。なぜ私の名前を?
「私、斎藤健人くんのファンなんです!健人くんのブログに出てた雪見さんを見て、
『あっ!うちのお客様だ!』って、もう嬉しくって!」
「え?私、健人くんのブログになんて出てるんですかぁ!?」
そう言えば、しばらく健人のブログなんてチェックしてなかった。
『一体どんな顔の私をアップしたのよ、健人くん!』
知らないって恐ろしい!
「今度CDデビューするんですよね?おめでとうございます!
健人くんのブログのコメント欄にも、雪見さんファンが大勢書き込んでますよ。
これからもお店に来て下さいねっ!待ってます。」
そう言うと彼女はペコンと頭を下げ、また忙しそうにお客の元へ飛んでいった。
雪見さんファン?そんな人、いるの?
帰ったら健人くんのブログ、久々に覗いてみよう。
そんなことを考えていると、ケータイにメールが着信した。真由子からだ。
どうやら、またしても父親に頼み込んで、マスコミ以外来場不可の記者会見に来るらしい。
え?香織と一緒に?あらまぁ!なかなか気が利くじゃないの、真由子さん!
多分、深くは考えずに香織を誘ったとは思うけど、当麻の喜ぶ顔を想像すると、
でかした、真由子!と褒めてあげたくなった。
家に帰り、パソコンで健人のブログを開く。
さかのぼって見てみると、かなり以前から雪見は、健人のブログに登場していた。
『知らなかった!最初のうちは毎日チェックしてたんだけど…。』
なぜ、雪見はブログを見なくなったのか。
ファンからのラブレターとも言えるコメントを、読むのがつらくなったから。
健人の文章だけ読めればいいのだが、どうしてもファンのコメントにも目が行ってしまう。
それらを読むにつけ、健人と付き合っているという事実に、罪悪感さえ覚えてしまうのだ。
だが健人は、あらゆる言葉を使って、雪見の事をアピールしてくれていた。
良い所も悪い所も、賢い所もドジな所も、丸ごとの雪見が伝わるように。
決して、暗に雪見が彼女だと匂わせている文章ではない。
健人ファンのみんなにも、人間としての雪見を好きになってもらいたい。
そんな健人の想いが感じられる言葉が並んでいた。
結果、昨日のブログコメントには大勢の健人ファンや、純粋に雪見だけのファンから、
雪見宛のたくさんの応援メッセージが寄せられていた。
みなラジオを聴いて雪見たちのデビューを知り、それに対して温かい声を寄せている。
なんと有り難く嬉しいことか。
だが、そのメッセージが温かければ温かいほど、雪見にはみんなを騙している
と言う想いが一層つのり、居たたまれなくなってパソコンを閉じた。
みんな、私が健人くんの親戚だと思って、応援してくれてるんだよね。
ごめんね、みんな…。
夜八時。雪見はすでに、会見が行なわれる出版社ビルのメイク室にいる。
健人と当麻は、仕事で到着がギリギリになりそうだが、雪見は予定が入ってないので
会見一時間前には来るように、と呼ばれていた。
久しぶりに進藤と牧田が、笑顔一杯で雪見を出迎えてくれる。
「おめでとう、雪見ちゃん!
まさかここのメイクルームで、アーティストになった雪見ちゃんをメイクするなんて、
夢にも思わなかったよ!ほんと、牧田さんとひっくり返りそうになるほど驚いた!」
雪見に会見用の、たくさんのフラッシュを浴びる場合のメイクを施しながら
雑誌『ヴィーナス』ヘアメイクの進藤が、嬉しそうに雪見に話しかける。
「ひどいなぁ!ひっくり返りそうになるって、どんだけ驚いたんですか!
って、実は私が一番驚いてるんですけどね。」
そう言いながら雪見はカラカラと笑った。
「けど良かった!進藤さんと牧田さんに会って、少し落ち着いた。
知らない場所での会見だったら、緊張してきっと何にも話せなかったと思う。
ここなら健人くんの写真集の会見で一度来てるから、気持ちがぜんぜん楽!」
「だって、もうツアーも決まってるんでしょ?三人で。
『ヴィーナス』がスポンサーなら私達の出番、また有るといいな!」
スタイリストの牧田が、後でやって来る健人たちの衣装を準備しながらそう話す。
「よしっ、完成!アーティスト『YUKIMI&』の出来上がり!」
進藤の声に雪見が椅子から立ち上がり、全身を鏡で見てみる。
昨日、ラジオ終了後に急遽、今日の会見用のスタイリングを頼まれ
売り出したいイメージを、事務所側から伝えられてた進藤らは、
今日の朝からお披露目にふさわしい衣装とメイクを話し合い、
今までの雪見のイメージも壊さぬよう、スタイリングを決めた。
「これがアーティストの『YUKIMI&』なの?」 自分の姿を不思議な気持ちで眺めてる。
大人のような、少女のような、年齢不詳という言葉が頭に浮かぶほど透明感のある、
ふんわりと優しい雪見がそこに立っていた。
「けど、話したらこのイメージ、ぶち壊しちゃうと思うんだけど…。」
雪見が心配そうに振り向いて、牧田に意見を求める。
するとその時、ノックの音と共に誰かが入って来た。
それは、マネージャーを下ろされた夏美であった!
「あら、いいじゃない!さすが『ヴィーナス』の腕利きスタイリストさんたちね。
昨日の今日なのに、私が伝えた通りのイメージに仕上がったわ!」
「えっ!?」 夏美の言葉に雪見が驚いた。
「私、マネージャーは下ろされたけど、キャラクタープロデュースからは降りてないから。
『YUKIMI&』は、私のイメージでプロデュースされていくの。
ってことで、改めてよろしくね!雪見。」
妖しく微笑みながら差し出した夏美の右手に、雪見は恐る恐る手を伸ばす。
手と手が触れた瞬間、後戻りの出来ない暗闇に引きずり込まれた錯覚を覚えた。
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