コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.177 )
日時: 2011/06/02 01:17
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「ねぇ!なんで昨日メールくれなかったのさ!ずっと待ってたのに。」

早朝六時。徹夜仕事を終え、帰宅してシャワーを浴び仮眠を取ろうと
ベッドに入ったところで、健人から電話がかかってきた。
健人は、今起きたらしい声をしている。
昨日、「明日は十一時からの仕事だから、久しぶりに寝坊ができる!」
と大喜びしてたのに、雪見が心配でこんな時間に起きて電話をかけてきたらしい。
朝には滅法弱い健人なのに…。

「ごめんね!徹夜で残業してて、さっき帰って来たとこなの。
メールしてなかったことに気づいたのが夜中だったから、もう健人くん
寝てるだろうなーと思って。疲れてるのに、起こしちゃ悪いでしょ?」

雪見は、取りあえずの言い訳をして、早々に電話を切りたかった。
いつもなら、会えない時や疲れてる時ほど、切りたくはない健人からの
電話であったが、今日は違う。
長く健人と話すうちに、きっと昨日のことを思い出すだろう。
それが嫌で、今はあまり話したくはなかった。

本当は昨日の出来事を、当麻が言ってた言葉の意味を、
一刻も早くに思い起こして解決しなければならない事ぐらい
雪見にだってわかってた。
だが心が拒否反応を示し、それらを勝手に遠くへ遠くへと追いやっている。
まるで今日やらなくてはならない宿題を、見て見ぬ振りして先延ばしにし、
公園へ遊びに出掛ける子供のように…。

「私なら元気だから安心して!これから一眠りして、また仕事に行かなくちゃ。
健人くんも、まだ時間あるんだからもう一度寝なよ。二度寝は気持ちいいぞー!」
何とかこれで、じゃお休み!となって電話を切りたい。
ところが!「これからそっちに行ってもいい?」と聞くではないか!

「ごめん!今は勘弁して!ほんと、あと二時間ぐらいしか寝れないの。
今日はさすがに残業しないで帰ってくるから、夜は家にいるよ。
健人くんが来たいなら、来てもいいから。じゃ、今日も仕事頑張ってね!おやすみ!」

もう、最後は半ば強引に切ったようなもの。
健人が機嫌を悪くしてない事だけを祈って、ベッドに頭まで潜り込んだ。



その日の夜、十時過ぎ。
お風呂上がりにビールを飲みながら髪を乾かしていると、インターホンが鳴った気がした。
「あれっ?今、玄関のインターホン鳴った?」
ドライヤーの音で聞こえなかったが、ドアを開けると健人が立っていた。

「えーっ!健人くん?やだ!こんな格好なのに。」
「ヤダはないでしょ!今朝、夜なら来てもいいって言ったじゃん!」
「うそ!そんなこと、私言ったぁ?」
雪見は徹夜明けだったせいか、自分で言った言葉を最後の方は覚えていなかった。
健人が来るとわかっていたら、ちゃんと着替えて化粧もしておいたのに。

「別にいいじゃん。ゆき姉のすっぴんなんて、もう何回も見てるんだから。
それより腹減ったぁ!なんか作って!」靴を脱ぎながら雪見に訴える。
健人は、仕事先から真っ直ぐ今野に送ってもらったらしい。

「パスタならすぐに作れるけど、それでいい?」
「やった!ゆき姉のパスタ、食べたかったんだ。ワインもお願いしまーす!」
「了解!じゃ、猫のお父さん、よろしく!」

健人がめめとラッキーの相手をしてるうちに、雪見は手早くナスとベーコンの
トマトソースを作り、茹でたてパスタにからめてたっぷり粉チーズを振ってから
ワインと共に健人の前に並べた。
「めっちゃ美味そう!いただきまーす!ヤバッ!これ、美味過ぎでしょ!
ワインも旨いし、最高の晩ご飯だ!目の前にゆき姉もいるし。」

健人はいつも言葉の最後に、雪見と一緒にいられて幸せ的な事を言ってくれる。
料理も本当に美味しそうに食べてくれるし、お酒も美味しそうに飲む。
何よりその笑顔に癒やされる。
雪見の方こそ、健人からいつもたくさんの幸せをもらっているのだ。

「ありがと!よくよく考えたら私って凄くない?
あの、今をときめく斎藤健人に料理を作って、美味い!って言わせるんだから!」

「俺、ここにいる時は斎藤健人じゃないよ。
昔ゆき姉に自転車の特訓受けた、ただの健人だから。」

「じゃあ、ただの健人くん。今日はうちに泊まってく?」

「もちろん!そのつもりで着替え持って来たもん!」

久しぶりに健人と二人お酒を飲んで、笑った気がする。
その頃にはもう、昨日の当麻のことなど思い出さなくなっていた。
いつまでも思い出さなくていい訳ではないけれど、せめて今日ぐらいはすっかり忘れて、
健人とだけ向き合っていたい。
だけど反対に、今日必ず話しておきたいこともある。

「あのね、昨日ラジオの前にね、『シャロン』の撮影があったんだけど…。」
「えっ!『シャロン』にも出るの?凄いじゃん!すっかりモデルさんになっちゃったね!」
「でね。生まれて初めて対談までやっちゃった!それがビックリだったの!
対談相手がなんと学だったんだよ!笑えるでしょ?」
「えっ!?ぜんぜん笑えないんだけど…。」

ベッドの上に、コタとプリンの写真集を拡げて眺めてた健人に雪見は、
さらっとその経緯を話して聞かせた。
決して心配をさせないように、別にどうって事ないよと言うように…。
それから一呼吸置いて、もう一つの今言っておかなければならない事を話し出す。

「それからね。ラジオが終ったあと、当麻くんと『秘密の猫かふぇ』行って来ちゃった!」
「えーっ!なにそれ!俺も行きたかったのにぃ!なんでそんな話になったわけ?
だってゆき姉、あのあと仕事だったじゃん!」
「そうなんだけど、当麻くんが一時間でいいから歌の練習したいって。
で、近くのカラオケ行こうとしたら、当麻くんがファンに囲まれちゃってさぁ!」

タイムリミットで、歌わずに帰って来たという笑い話に仕立てて健人には話しておいた。
この二つは必ずあとからバレる事なので、時間を置かずに話しておきたかったのだ。
どうやら健人は、雪見の話をそのまま受け取ってくれたようで、特に疑う気配もなく
当麻の話しに関しては、お腹を抱えて笑っていた。
その話の続きはどうしても言えないけれど…。
健人に対する後ろめたさを笑いで隠し通してしまった。

『良かった…。取りあえず、健人くんの悲しい顔を見ないで済んだ。』
雪見は少しだけ安堵して、また健人と頭を突き合わせて写真集を覗き込む。
幸せな時間の続きを二人楽しむように…。


明日こそ、きちんと宿題をやらなくちゃ。
そう思いながら、部屋の明かりを消して寝た。













Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.178 )
日時: 2011/06/03 18:59
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

あれから一週間。
写真集の編集作業は順調に進んでいたが、あの時の宿題にはまだ一つも
手を付けてはいなかった。
自分自身で忙しさを理由にして、先延ばしにしている。
そのうち、あれは無かった事になるんじゃないか…と、心のどこかで
思っているのかも知れない。

その後、当麻には一度も会ってないしメールも来ない。
本当は会って直接、あの時当麻が言った言葉の意味を問いただすべきなんだとは思う。
だが、きっと当麻だって私に会うのは嫌だろう、と勝手に当麻のせいにして
現実から逃げ回る自分に嫌気が差してきた。


『どうして俺の好きになる人はみんな、健人を好きなんだろう…。』

答えを確かめなくても当麻と愛穂の様子を見ていれば、すでに頭の中に
浮かんでる答えで多分正解だ。

もうすぐ五時。今週も『当麻的幸せの時間』が始まる。
当麻は今、どんな思いでマイクの前に座ってるのだろうか…。



明日の土曜日は久しぶりの完全休暇であるために、金曜の夕方だというのに
みんなはかなり張り切って仕事している。
ここまで半月、飛ばし気味に編集作業にあたってきたので、
少し余裕のあるうちに一息ついて、エネルギーを充電しておこうと
健人写真集編集スタッフ全員で、休みを取ることになっていた。

が、雪見だけは完全休暇とまではいかなかった。
健人へのインタビューページも、自分にやらせて欲しいと志願してたので、
健人の仕事の合間をみて、インタビューさせてもらうことになっている。

『あーあぁ。やっぱりライターさんにお願いしとけば良かったかなぁ。
なんか、自分で忙しさを作っちゃった感じ。
けど、写真は素の健人くんなんだから、話しもやっぱり素の健人くんから聞きたいよね。
いや、ファンにとっては絶対その方が嬉しいはず。
よし!どうせやるならファンの人達の間で、伝説になるような写真集に仕上げるぞ!』
自分自身に気合いを入れて、今日の仕事にラストスパートをかけた。

しばらくするとスタッフの一人が、「あっ!忘れてた!」と大声を出し
机の引き出しから小型ラジオを取り出す。
チューニングを合わせて机の上に置いたラジオから、当麻の声が聞こえてきた。
「今日のゲスト、カレンちゃんなんだって!
聞いて下さいね!って言われてたのに、忘れるとこだった。ふぅぅ、危ない危ない!」

雪見は、一週間ぶりに聞く当麻の声に、ドキッとした。
しかも今日のゲストがカレンだなんて!
どういう事だろう。もしかして、カレンがまた次の一手を仕掛けようとしてるのか。


「カレンちゃん、当麻くんと『ヴィーナス』に連載持つようになってから、
一気にブレイクしたもんね!今じゃ人気モデルの仲間入りだもん。」

「それに叔父さんがテレビ局の有名プロデューサーなんでしょ?なんか
今回のラジオ出演も、『叔父さんのコネ、使わせてもらっちゃった!』
とか言ってたよ。いいなぁー!当麻くんと仲良くなれて!」

「それを言うなら雪見さんでしょ!だって健人くんと親戚な上に、
当麻くんとも仲良しなんだよ!羨ましすぎる!」
編集スタッフ達は、みんな健人と当麻が好きらしい。

「羨ましいって言われても…。健人くんの親友がたまたま当麻くんだった、ってだけで…。」

ほんと、どうして当麻くんは健人くんの親友なの…。

まだ当麻の声を聞きたい心境には無かったが、当麻とカレンが何を話すのか気になったので
みんなと一緒に、ラジオに耳を傾けながら仕事を続けることにする。
それにしても、なぜカレンはコネを使ってまで当麻のラジオに?


「えーと、今日のゲストは、今、人気急上昇中のモデルさんで
僕と一緒に『ヴィーナス』で連載コーナーをやってる霧島可恋さんです!
どーも。こんなとこで会うと、なんかヘンな感じだね。」

「ほんと。でも、いつまで経ってもゲストに呼んでくれないから、強引に来ちゃった。
どうしても出たかったから。」

二人の声のトーンが、どこかおかしい。声からは、全く笑顔を感じられなかった。
耳がラジオに釘付けになり、一つも仕事に集中できやしない。
当麻はどんな思いで、愛穂の妹であり私達の敵であろうカレンと向き合い座っているのか…。

「あ!お姉ちゃんも当麻くんにお世話になってるんだよね、色々と。」

「あ、あぁ。カレンちゃんのお姉さんは、ハリウッドでも活躍してたことある
カメラマンなんだよね。先月沖縄でやったグラビア撮影は、お姉さんに
撮してもらったよ。その節は大変お世話になりました。」

「それだけ?もっと他にもお世話になってるでしょ?私生活でも。
あっ!言っちゃった、生放送なのに。ごめーん、当麻くん!」

雪見は心臓が破裂しそうになった。明らかにカレンは攻撃を仕掛けている。
当麻がうろたえて言葉に詰まっていた。
まさかこんな攻撃を打って出るとは!頑張って、当麻くん!

「えーっとね、カレンちゃんにいっぱい質問が来てるから、多かった順番に質問するね。
一番多かったのは、『男の子の好きなタイプを教えて下さい。』っていう
王道の質問が断トツに多かった!
あと、『仲良し姉妹だそうですが、一番仲良しだなと思う所はどんなとこですか?』
だって。どうでしょう、カレンちゃん。」

「最初の質問は即答できます!斎藤健人くんみたいな人が好みです!
ねっ!わかりやすいでしょ?バンビみたいな可愛い人、大好きです。
でもね、カレンとお姉ちゃんって男の子の好みが一緒で、いっつもお互い
かぶっちゃうの。それが一番の仲良しポイントかな?
だからどっちかって言うと、お姉ちゃんも当麻くんより健人くんの方が
好みだと思うんだけど…。」

「え、えーっ!俺ってそんなに人気無いんだぁ。泣いちゃうかも!
まぁ、親友の俺から見ても健人はかっこ可愛いからなぁー!しゃーないか!
では、次の質問…。」

当麻の精一杯の受け答えに、雪見の方が泣きそうになった。

許せない!どうにもならない状況を利用して、当麻くんを集中攻撃するなんて!



雪見は、当麻を苦しめるカレンと、当麻を振ったであろう愛穂を
絶対許さない!と怒りに震えていた。











Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.179 )
日時: 2011/06/04 08:58
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「ごめんなさい!私、急用を思い出した!悪いけど、今日はお先に失礼します!」

「えーっ!雪見さん!今日は帰りに飲みに行って、健人くんの子供の頃の話、
聞かせてくれる約束じゃないですかぁ!」
と、スタッフが最後まで言う前に、雪見はみんなの前から消え去った。

ビルを出てすぐにタクシーに飛び乗り、ラジオ局へ急いでもらう。
どうしようもない怒りだけが、雪見を突き動かしていた。
と同時に、つい一時間前には当麻の声さえ聞くのが嫌だったのに
今は当麻を『助けなくちゃいけない!』と言う強い思いに変わってる。
雪見はジリジリとした気持ちで、『早く!早く!』とタクシーの到着を願った。


ラジオ局に着くと同時に雪見は駆け出し、走りながら首にラジオ局の
身分証明書をぶら下げる。
受付嬢に会釈して、一気に当麻のいる放送スタジオ前まで駆け抜けた。

時計を見ると五時三十五分。
生放送が終了して五分が経過している。だが、まだ誰も出てきてはいないはず。
雪見は息を整えながら、廊下でカレンが出て来る時を待っていた。

少しも怒りなんて収まりはしない。
それどころか、今までカレンから受けた数々の仕打ちを、一つずつ思い出して行くうちに
怒りが怒りを呼んで、頂点にまで達してしまった。

『なんで今まで、あんな奴から逃げ回るだけしかしてこなかったんだろ!
バカだ、私って!もうどこへも逃げも隠れもしないから!
今日、必ず決着をつけてやる!』

普段は穏やかで、のんびりおっとり、いつも笑顔の雪見だったが
本気で怒らせた時には人格が変わる。
元々正義感が人一倍強いので、これは許せない!となると徹底的にやっつける。
どうやらその時が来たようだ。


「お疲れさまでしたぁ!また呼んでくださいねぇ!じゃ、お先に。」
カレンの甘ったるい声が聞こえ、一人でスタジオから廊下に出て来た。

「あれ?雪見さんだ!やーっぱり来てくれたんだ。必ず来ると思ったよ。」

「えっ!?」
雪見は予想外のカレンの言葉に、出鼻をくじかれた。
『必ず来ると思ったよ、って…。』

「まぁ、あの頭の悪そうな『ヴィーナス』の編集部員が、忘れずにラジオを
机の上に置くかが心配だったけど、そこまでお馬鹿さんじゃなかったようね。」

雪見は愕然とした。
全ては計算ずくなの?またしても、まんまとはめられたって事?

「罠…だったってわけ。そう…。そこまでは気が付かなかった。
あなたって、相当なワルね。なら、私も手加減無しでいくわ。」

「どうぞ、ご自由に。私もそろそろこのゲームに飽きてきちゃったから、
もう上がりにしようと思ってたとこなの。
あなたもそう思ってここに来たんでしょ?」
カレンは、不敵な笑みをたたえて雪見の瞳を見据える。
雪見も視線を外すわけにはいかなかった。

「こんな所で立ち話もなんだから、どこか静かなところへ行かない?
また余計な邪魔が入る前にね。」

カレンが当麻の事を、「余計な邪魔」と言った。

「それ以上当麻くんを侮辱すると、ほんとに私、何しでかすかわからないわよ。
私を怒らせたら怖いんだから。」
そう言って雪見はにっこりと微笑んだ。

「そうなの?それはそれで楽しそうね。まぁ、いいわ。まずはここを出ましょ。」

カレンが先に、エレベーターホールに向かって歩き出す。
そのあとを雪見が付いていこうとした時、スタジオのドアが開いて
当麻が出てきてしまった。

「ゆき姉!なんでここにいるの!?」当麻の驚いた顔!

一足遅かった。できることなら当麻の顔を見ずに、この場を離れたかったのに…。
当麻に見られたと言うことは、健人にも話が行くと言うこと。
健人には余計な心配をかけたくはなかった。
幸いカレンはもうエレベーターホールの方へ行ってしまい、ここにはいない。

「あ、当麻くん!今終ったとこなの?お疲れ様。
私は編集部に頼まれた届け物を、そこの制作部に持って行ったとこ。
今日も残業だから、大至急戻らなくちゃ!じゃあねっ!」

そう適当なことを言ってその場を立ち去ろうとした時、雪見の後ろから
「雪見さん!当麻くんに助けを求めて逃げ出すわけじゃないわよね。」
と、カレンの声がした。

「カレン!!
どういう事?ゆき姉!仕事で来たんじゃなかったの?
まさかお前、ゆき姉にまでなんかしようと思ってるんじゃ…。」

「当麻くん!大丈夫だから。
私、本当は当麻くんが思ってるような、か弱いお姉さんじゃないの。
もういい加減、色んな事から逃げ回るのは止めようと思って。
当麻くんからも、もう逃げないから…。
落ち着いたら電話するね!じゃ、また!」
雪見は一番の笑顔で当麻に別れを告げ、カレンと共に歩き出す。

後ろで叫ぶ当麻の「ゆき姉!!」と言う声に、もう振り向くことはしなかった。



タクシーに乗ったカレンと雪見。
カレンが運転手に告げた行き先は、なんと『秘密の猫かふぇ』が入る本屋であった!

「ふふふっ!驚いた?あそこなら誰も邪魔しないでしょ?
なんせ他人に干渉は御法度だから。
私もコマーシャルやドラマに出させてもらって、やっとあそこの会員になれたの。
さすがにあそこだけは、叔父さんのコネも使えなかったわ。
今度、ばったり会っちゃうかもね。
まぁ、あなたがそれまで、健人くんと繋がっていれたらの話だけど。」
どこまでカレンは計算ずくなのだろう。次々に雪見が思いもしない手を打ってくる。

『さすが、ハーバード大学出だけあって頭は良さそうね。
初対面の時に、頭がからっぽそうな女!と思ったのは、この人の演技だったってわけ。
あの時から私は、まんまと騙され続けてたなんて…。』
窓の外を眺めながら雪見は、静かに闘志をかき立てられていた。

『私だって、よくよく考えればそんなバカでもないのよ。
だって、世界の科学者、梨弩学と肩を並べて研究してた時期があったんだから。
見てなさい!必ず今日で決着をつけてみせる!』



カレンと雪見はネオンの街に、それよりもさらに明るい火花を散らして
タクシーを降り立った。

今日ばかりはこの入り口が、お化け屋敷の入り口にも見えている。


















Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.180 )
日時: 2011/06/05 14:02
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

雪見とカレンは、『秘密の猫かふぇ』店内の一番奥にある
リラクゼーションスペースにいた。

心落ち着く環境音楽が流れ、壁一面の水槽には熱帯魚が泳ぎ水草が揺れる。
照明が極限まで落とされ、ライトアップされた水槽の熱帯魚が
空中を自由自在に泳ぎ回っているかのような錯覚を覚えた。

二人は大きなソファーに座るのではなく、
その下に敷いてあるベージュ色の、毛足の長いムートンラグに
テーブルを挟んで向かい合わせに座っている。
そこへ注文しておいたシャンパンが二つ、運ばれてきた。

「じゃ、まずは乾杯しましょ!
あ、毒なんて盛ったりしてないから安心して。お酒くらい美味しく飲みたいもの。
あなたと乾杯するのもおかしな話だけど、こんな事もう二度と無いと思うから…。」

カレンはどこまでも冷静だった。
口角をキュッと上げて薄っぺらな笑みをたたえ、瞳は常に雪見の目を見据えてる。
多分この二人を目にした人は、仲のよさそうな姉妹か年の離れた友人同士が
悩み事の相談でも持ちかけているんだろう、ぐらいに思うはず。
が、幸いにもこの一番奥のスペースまでは、まだ誰もやって来る気配は無い。

雪見は、カレンがグラスに口を付けるのを見届けてから、自分もグラスを手に取った。

「だからぁ!毒なんて盛ってないって。
盛ってたとしても、自分のグラスに入れるバカいないんだから、
私が飲んだの見届けて飲んだってダメでしょう?」

どこまでも人のことをお見通しで、小馬鹿にした口を利く。
こんな友人ごっこを、いつまでもしてるつもりは無いから
雪見が先に口火を切った。

「あなたよね?竹富島の民宿にビデオカメラ仕掛けたの。」

「私じゃないわよ。
私、そんな自分の手を汚すようなまね、したくないもの。
仕掛けたのも回収したのも、見ず知らずの人。
ツイッターの呼びかけに応じてくれた人達よ。
『十万円で簡単なバイトしませんか?』って呼びかけたら、
志願者が殺到しちゃって大変だったんだから!
けど、その割には大した仕事じゃなかったわね。
あんな中途半端な動画、何の役にも立たなかったわ!」

カレンが吐き捨てるように言って、シャンパンを飲み干した。
やはり黒幕は霧島可恋だった。
カレンは作戦の失敗を思い出したのか、少しイライラした口調になっている。
雪見は、少し突破口が見えた気がして、彼女をもっとイライラさせてやろうと、
次の言葉を準備した。

「ねぇ。あなたって結構詰めが甘いよね。
今まで色んなことを私達に仕掛けてきたけど、結局痛くも痒くもなかったもの。
所詮、子供の可愛いイタズラ程度にしか過ぎなかったよ。」

「なんですって!」

明らかにカレンのイライラ度が上昇した。
自ら火に油を注ぐようなものだが、いたって雪見は冷静だ。
カレンは急に立ち上がり、違う行動をして落ち着きを取り戻そうとしたのか、
壁際のインターホンでシャンパンを、ボトルで一本追加注文する。

カレンがどれほどの酒飲みなのかは知らないが、お酒に関しては
こんな小娘ごときに負けるような雪見ではない。
だが、カレンが酔わないうちに決着をつけないと、お酒のせいでうやむやになり
今日の日を繰り返すことだけは避けたかった。

それに、いつまでもこんな奴に関わってる時間はない。
今は十二月に向けて全力で編集作業に取り組み、写真集の完璧な仕上がりを
目指したいんだ!
当麻と三人でカラオケに行って歌の練習もしたいし、三人でお酒も飲みに行きたい。
半日でも三人の休みが重なったら、どこかドライブに出掛けよう!って
約束してるんだ!

もう三人の間に邪魔者はいらない。元通りの三人の関係に戻りたい。

そう思った瞬間、頭の中にもう一人、愛穂の顔が浮かんできた。
それと当麻の顔も…。

愛穂は多分あの時、当麻を振ったのだろう。
当麻と二人、ここで待ち合わせをしてた一週間前に…。
せっかく好きになり出した愛穂に振られて当麻は、自分自身を見失って
私にあんなことをしたんだと勝手に解釈した。

そして愛穂は、当麻を利用するためだけに当麻と付き合い出したはず。
健人に近づくための手っ取り早い手段として…。
だとしたら、突然に当麻の家に現れたわけにも納得が行く。

可哀想な当麻くん…。
この霧島姉妹をどうにかしない限り、私達に平穏な日々は訪れない!

そう強く思った時、雪見には再び怒りの感情が湧き上がり
早く決着をつけて健人に会いに行きたい!と最後の攻撃に出ることにした。

カレンが、店員が注いだそばからシャンパンにすぐに口をつける。
雪見も、新たに注がれたグラスを一息に飲み干して、カレンの瞳をジッと見た。

「ねぇ。あなたと愛穂さんって、さっきのラジオじゃ仲の良い姉妹を
強調してたけど、本当は子供の頃から仲が悪いでしょ。」
カレンの表情がサッと変わった。
その反応を確認してから、雪見は次の言葉をつなぐ。

「あなたって、見栄の塊みたいな人よね。
なんでも人よりいい物が欲しくなるし、人の物を取りたくなる。
そのくせ誰かに寄りかかってないと、生きてはいけない。どう?違う?」

「だから何だって言うのよ!」
図星だったと見え、明らかにカレンは動揺し始める。
雪見はカレンに話す隙を与えぬよう、たたみ掛けるように話を繰り出した。

「大学だってそうでしょ?
ただハーバード大学出って言う、レッテルが欲しくて入っただけ。
でも、男が寄り付かないから今は学歴を隠してる、ってとこかな。
健人くんのことだって、本気で好きなわけじゃない。
ただ一番のアイドルを、自分の彼氏にしたかっただけ。
私なんかに負けるのはプライドが許さないのよね?

ラジオじゃ、愛穂さんと男の好みがかぶるのが仲良しの証拠、
みたいなこと言ってたけど、本当はかぶるんじゃなくてお姉さんの彼氏を
自分のものにしたくなって、奪い取るってだけの話でしょ?」
カレンは黙りこくっている。

「今までのあなたの人生って、いったい何なの?
そんな生き方してて、あなたは自分が幸せだとでも思ってるの?」
雪見はカレンを一喝した。
そのあと強い口調から一転して、うつむくカレンに声を穏やかに語りかける。

「いくらレッテルが欲しかったからって、並大抵の努力じゃハーバードには入れないよね。
いくら叔父さんのコネがあったって、毎日の自分の努力無しには
トップモデルを維持してなんて行けないよね?
本当はあなたって、人一倍の頑張り屋さんなんだよ。
ただ、子供の頃からずっとお姉さんと比べられて育ったから、
いつも一番を手元に置いてないと不安で、何が何でもそれを手に入れようとする。

もっと自分自身を認めて、褒めてあげてもいいんだよ。
よく今まで頑張ってきたね、って…。」

そう雪見が優しい目をして語りかけた時、カレンの瞳から一筋の涙がこぼれ落ちた。

 









Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.181 )
日時: 2011/06/05 14:31
名前: kkko (ID: ZpTcs73J)

kkk---mmo--iiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiiははははははh


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