コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.11 )
日時: 2011/02/10 15:48
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

鼓膜が破れたかと思った。
まだ耳の奥がキーンとしてる。

「ちょっとぉ!!どんだけ大きな声を出すのよ!
耳が聞こえなくなったら どうしてくれるのさ!!」

「あ、あんた!怒らないから正直に言って。
斎藤健人と どーいう関係?」


真由子の声が、心なしか震えて聞こえる。
やっぱ、鼓膜がいっちゃった?


「どーいう関係って、ばあちゃん同士が姉妹だから
はとこっていうやつ?埼玉に住んでるんだけど、
健人くんが生まれた頃から、よくうちのばあちゃんに
連れられて遊びにいったよ。
ばあちゃんが死んでからは 
ぜんぜん会う機会が無かったんだけど、
先月、十年ぶりに会って、今日会うのが二回目。
あ、大人になってから ね。」

「あんた、今まで隠してたわけ?斎藤健人と親戚だって。
あたしがこんだけアイドルおたくだって知ってての事?」

「ねぇ、なんか勘違いしてるでしょ。
前もあった。これ作ってもらった出版社の人達も
勘違いして、大騒ぎになったんだから。
知ってるよ。同姓同名のイケメン俳優がいるんでしょ?
残念ながら、うちの健人くんは俳優なんかじゃありません。」

「じゃ、なにやってる人?
こんなにうり二つでイケメンなのに。」

「うーんと…。たぶん大学生。」

「どこの大学?
絶対、街歩いてたらスカウトの嵐だと思うけど。
今までテレビのそっくりさん番組に、出たことないのかな?
ぜーったいに優勝して、
賞金がっぽりもらえると思うんだけど。」

「なにいってんの!人の親戚で金儲け企んでるわけ?」

「だって、雪見!これって凄いことなんだよ!わかってる?
こんなにそっくりってことは
あんたがこのコとご飯なんかしてたら、ホンモノの斎藤健人と
間違えられて、フライデーに写真とか売られたらどうすんの!?」

「ちょっと!ホンモノってなによ、本物って!
うちの健人くんだって、本物の斎藤健人なんだから!」


  いつの間にか「うちの健人くん」になってる。

「ねぇねぇ、一回冷静になってよく考えてみよう。
うり二つのそっくりさんであっても、名前まで一緒なんだよ?
今日の二人のご飯風景をシミュレーションしてみて。

周りの誰もが本物の…いや、俳優の斎藤健人だと思うでしょ?
で、ちょっと、ちょっと!斎藤健人が年上のおば…じゃない
女とご飯食べてるよ!って、店中が騒然とするわけ。」

「今、おばさんって言おうとした!!」

「どうでもいいの、そんなこと!
いい?そうなった場合、あんたたちはいいとして、
濡れ衣を被せられる俳優の斎藤健人の立場は どうなるのよ!」

「濡れ衣って、人聞きの悪い…。
だって、私たち何にも悪いことしてないのに、
ご飯も食べに行けないわけ?そんなのおかしいでしょ!」

「あんた、世の中に疎くて、
斎藤健人がどんだけ凄い俳優か 知らないでしょ。
写真集を出せばバカ売れ、
ブログの閲覧数なんかずっと一位なんだから!
ドラマに映画に引っ張りだこだし、コマーシャルもたくさん!
こんな人気者、そうそういないわよ。」

「ふ〜ん。凄い人なんだ…。
けど、じゃあ どうすれって言うのよ。
今日のご飯、キャンセルしなさいってこと?」

「まぁまぁ、そんなにアツくならないでよ。
で、今日の約束は何時から?どこで待ち合わせ?」

「それが…。まだ時間も場所も、連絡こないの。」

「なんで?今日の夜ご飯を食べに行く約束なんでしょ?
もう夕方じゃない!なんで連絡こないのさ。
こっちからメールしてみなよ!」

「だって、連絡を待て!って書いてあったし…。」

「待つにしたって、いつまで待たせるのよ!
これだから若いもんは なってない!
大人の女をなめてるわよっ!!」

「なんで、真由子が怒ってるのさ。
きっと、さっき台湾から帰ってきて、私みたく
疲れて一眠りでもしてるんだと思う。
いいの、いいの。どうせ明日は日曜だし、夜は長いんだから…。」

「はぁ〜っ。そんなペースだから、男に逃げられるんだわ。」

「ちょっと!なによ、逃げられたって!
誰が男に逃げられたってのよ!」

「あんたね、今までの経験を全て思い出してごらんよ。
あんたから男にメールしないから、それをいいことに浮気されて、
挙げ句の果てにケータイの番号替えられてても気が付かないなんて、
お笑い以外の何物でもないわよ。」

「あんた、なにもそんな古い話 持ち出さなくても…。
ご親切は感謝しますけど、そろそろお引き取り下さい。
写真集 ラッピングしたり、カード書いたり
出かける前にやりたいことがたくさんあるのよ。」

「はいはい!これ以上何を言っても無駄のようだから
私はここらで退散するわ。
デート終わったら連絡ちょうだい!」

「デートなんかじゃないから!」

「わかった、わかった。じゃ、帰る。
今度、イケメンの親戚くんを紹介してね。」

「ふふっ、今度ね。今日はありがとね!
また香織も誘って飲みに行こう。じゃ。」



嵐が通り過ぎたあとのような静寂さを取り戻し、
雪見は買ってきたラッピングペーパーで
写真集を一冊ずつ、丁寧に包装し始めた。

健人の喜ぶ顔を想像しながら、心をこめてゆっくりと…。

これから健人に会えるんだと思うと、
不思議と穏やかな平安を覚えた。

それが、すでに心に芽生えた恋心だとは気づかずに…。




Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.12 )
日時: 2011/02/11 11:23
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

だが、いくら待っても健人からの連絡はこなかった。

    どうしたんだろう…
    何かあったのかな…

待ってる時間が永遠にさえ感じていた。


そこに突然、どこからかケータイのバイブ音が聞こえてきた。
が、肝心のケータイが見当たらない。

    え? 私のケータイは?
    しまった!!


ケータイの行方に、なんとなく心当たりがあった。

    犯人は たぶん、めめ!


めめはよく、私が寝ている間に悪さする。

本人的には ただの一人遊びなのだが、
起きて物が無くなってるとびっくりする。

その手口はこうだ。

ベッドやソファ横のサイドテーブルに手を伸ばし、
その日の遊び道具を物色する。

コンタクトレンズのケースであったり、眼鏡であったり。
ケータイをやられた時も 何度かあった。

めめは、それら、程よい大きさのものをテーブルから床に落とし
右へ左へ、猫パンチを繰り広げながら
アイスホッケーのパックさながら部屋中を駆け回るのだ。
フローリングの床は物が良く滑る。

そして最後は大体、冷蔵庫の下かソファの下にシュートして
手が届かなくて試合終了となる。

これをドタバタとやるのだから私も起きれば良いのだが、
なんせ私は超熟睡タイプ。
それごときのうるささでは目覚めないのだ。


    どこどこ?私のケータイ。


音の在りかを探っていって、やっとソファの後ろ側から救出!
急いで開いてみると、待ちに待った健人からのメールであった。


       ゆき姉へ、第2の指令
       七時からの番組に注目せよ。
       その後、第3の指令を待て!

            by KENTO


ええーっ!たったこれだけ?

ご飯の時間は?待ち合わせの場所は?
名探偵コナンの見過ぎじゃないの?

やっときたメールがわからんちんだったので
私はどうすれば良いのか思案していた。


    取りあえず、指令通りにしてみよう。

七時まで あと十分。私は小腹が空いたので、
昼間 羽田のお土産屋さんから買ってきた
一番美味しそうだったフルーツタルトをお皿に載せ
紅茶を入れて、テレビの前でその時を待った。


約束の七時。

私は順番にチャンネルを切り替えていき
それらしい番組を探した。

と、その時、

「本日の生ゲストは今大人気の俳優、斎藤健人さんです!
どうぞ〜!!」

と言うアナウンサーの声が飛び込んできた。


    あっ! 斎藤健人だっ!!


私は画面の前で釘付けになった。

    なんてきれいな瞳なんだろう。
    大きいけれど切れ長で、まるでいたずらっ子の猫の目だ。
    すらっと通った鼻筋。
    薄くて上品な唇。
    目元と口元にあるほくろがポイント高いな。


あれだけ真由子が興奮してた訳が、やっとわかった。
初めてじっくり見たが、本当に綺麗な顔立ちをしてる。

    こりゃ、あの羽田の騒ぎももっともだわ。
    でも、待って。
    健人くんも同じような顔立ちなら
    きっと大学でも モテモテなんだろうな。
    こんな人が同じ大学にいたら、ほっとく訳がない。
    ということは、彼女がいて当然か…
    もしかして、台湾も彼女との旅行だったりして…

    どうして私、そんなこと思いつかなかったんだろ。
    空港だって、ちゃんと彼女が迎えに来てたんだよね。
    
    それなのに私って…。とんだ一人芝居だ。
    笑っちゃう…。


もうそれ以上、「俳優の斎藤健人」を見ているのは辛かった。

好きになりかけてた「親戚の健人くん」を思い出し、辛かった。

もうテレビを消してしまおうかと考えていた時、
画面一杯に きれいな石垣島の海が映し出された。

どうやら、明日から公開される健人主演の映画の
コマーシャルらしい。

そこで泳ぐ健人の上半身は、しなやかに鍛え上げられ
まるでギリシャの彫刻かと見まがう美しさであった。

    すごいな。完璧すぎる。近寄りがたい感じ。


そう思いながら、ただなんとなくテレビの向こう側を眺めていたとき
アナウンサーの一言が耳に入った。


「これからのご予定は?」

「えっと、今日台湾の撮影から戻ったばかりで
まだ日本食を食べて無いんです。
だからこれから、親戚のお姉さんとご飯に行きます。
ゆき姉、待っててね!」

と、「俳優の斎藤健人」がこっちに向かって手を振った。


    ええっ!!? 
    私のことを呼んだ??
    私に手を振った??

    
    「俳優の斎藤健人」が…。
    
    あなたはやっぱり…。


「今日の予定じゃなくて、俳優としての予定は?って
聞いたつもりなんですけど…」
と言ったアナウンサーの言葉に、会場は大爆笑だったけど
もう私の耳には、一切の声も聞こえていなかった。



  あと少しでたどり着く、謎解きの答え…

  私は、その答えを前にして
  
  震えながらケータイを見つめていた。







Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.13 )
日時: 2011/02/15 15:19
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

健人が出演した、生放送の情報番組が終了した後も
雪見はしばらく テレビの前を動くことができなかった。

やっと疑問が解消したはずなのに
まだその状況を飲み込めないでいる。

と言うか、これは夢の続きなのではないかと
80%ぐらいは思っている。


    
    俳優の斎藤健人が
    ちっちゃいばあちゃんちの健人くんだなんて。

    私が昔よく遊んだ健人くんが
    俳優の斎藤健人になっていたなんて。



確かに見た目は同じなのだが(同一人物なのだから当たり前だが)
あの恥ずかしがり屋の健人くんが、
学芸会の劇で、恥ずかしさのあまり
舞台上から逃走したという逸話をもつ健人くんが
俳優という職業についているということに
とても違和感を感じている。

その違和感こそが、今まで疑問を感じながらも
それを心の中で否定してきた根拠なのに…。



まだまだ心の整理がつかないでいるのに、
健人から第3の指令が送信されてきた。


      ゆき姉、見ててくれた?
      まぁ、そおいうことです(^^)v
      さすがのゆき姉でも、薄々は
      気づいていたと思うけど。
      こんなとこで話してても
      なんだから、飯食いながら
      ゆっくり話そう。
      と言うことで第3の指令。

      恵比寿ガーデンプレイス
      時計台広場 午前一時



      …なわけなくて
      その近くの「グランデ」
      っちゅう創作和食の店に予約
      入れといたから、先に行って
      食いたい物 注文しといて。
      この店、激ウマだから(;。;)
      俺は化粧落としてから行く。
      んじゃ、あとで☆

           by KENTO



んじゃ、あとで…って、どんな顔して会えばいいんだろう。
メチャクチャ緊張してきた!
なんで、ちっちゃいばあちゃんちの健人くんに会うのに
こんなに緊張しなきゃダメなの?

私はただ親戚の健人くんに会って
コチとプリンの写真集を渡したいだけなのに…。


いくらたっても心の整理がつきそうもないので
取りあえずはお店の場所を検索し、行ってみることにした。



そのお店は雪見が想像していた和食屋さんとは大違いで、
元フレンチレストランのオーナーシェフが
新しい分野の和食屋さんを創りたいと始めた店だった。

ビルの十八階にあるのれんをくぐる。

が、そののれんだけが和を表しているだけで、
一歩店内に足を踏み入れると
そこには今どきのおしゃれな空間が広がっていた。


店員さんに案内されて、店の一番奥にある窓際の席についた。
バーカウンターのように、窓に向かって横並びに席があり
目の前にはキラキラ光る、東京の夜景が広がっている。


    綺麗な夜景!東京の夜景を見るのは久しぶりだわ。
    でも、こんなところで食事なんて…。
    誰かに見られたらどうするの?  
    個室に替えてもらおうかな…。


そんなことを思っていると、健人が案内されてきた。
先月会った時と同じく、黒縁の眼鏡をかけている。
ほんの一時間前にテレビの中で見た健人とは
別人のようにも見えた。


「お待たせ!! なんか注文しといてくれた?」

「ううん、まだ。私もちょっと前に来たところ。」


店員が「お飲み物は?」と聞いてきた。


「俺はやっぱり、取りあえずはビール! ゆき姉は?」

「私も最初はビール下さい。」


かしこまりました、と店員が下がると同時に健人はメニューを開き、
これとこれと、あっ、こっちも食いたかったんだよなぁーと
次から次へとメニューを指さす。

二人の前に、きれいに注がれたビールが運ばれ
健人おすすめの料理をあれこれ注文し終えて、やっと乾杯。


「お疲れ〜! くーっ、ウマイ!!仕事帰りのビールは最高!」

「なんか変なの。ついこの前まで小学生だった健人くんと
お酒一緒に飲んでるなんて。」

「またぁ!小学生だったのは十年前でしょ?
俺、もう二十一だよ!!立派なお・と・な!」

「だよね。立派に仕事してるし…。」

「ごめん、ごめん!でも俺、隠してたわけじゃないからね!
ゆき姉が勝手に思い込んでただけで…。
先月会わなかったら、ずっと知らないままだったかも。
まぁ、ゆき姉らしいと言えば らしいけど。」

「ねぇ、どうして芸能界に入ったの?
何年前から?どうやって入ったの?」

「まぁまぁ。腹減って死にそうだから、食いながら話そ!」


そう言って健人は、運ばれてきた料理を嬉しそうに、
幸せそうにほおばった。

そんな健人の横顔を眺めているうちに、
雪見はいつの間にか心が落ち着いて
いつもの雪見らしさを取り戻していることに気がついた。


窓の向こうの景色は相変わらず、いや時間と共に
さらにキラキラ感が増し、この景色を眺めている二人は
誰の目から見ても恋人同士にしか見えなかった。


  
      
      



Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.14 )
日時: 2011/02/15 08:24
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

一杯目のビールを飲み干し、少しお腹も落ち着いた頃
健人が雪見に質問してきた。


「ねぇ、ゆき姉はなんでカメラマンになったの?
しかも、猫専門になったのは なんで?」


「ちょっとぉ!私の方が先に質問したんだから、
まずは健人くんが先に答えてよ。
いつから俳優さん、やってるの?」


「高校二年の終わり頃かな。
友達と原宿に遊びに行って、今の事務所にスカウトされた。」


「じゃあ、もう四年になるんだ。全然知らなかった。」


「ねぇ、ゆき姉って、どっか アマゾンとかの奥地にでも行ってた?
もしかして、テレビのない生活してんの?

あ、すいませーん!ビール二つ!
ほら、ゆき姉も早く飲んじゃって!」



健人の声に反応した人が何人か、こっちの方をちらっと見る。


「しーっ!健人くん、大声出しちゃだめだよ!
しかも、なんで個室を予約しなかったの?
ここじゃあ、みんなにバレバレじゃない!」


「ゆき姉に、ここからの夜景を見せたかったから…。

それに俺さぁ、こそこそするのって嫌いなんだよね。
なんか、悪いこともしてないのに、
なんで隠れながら飯食わなきゃならないの?って感じ。」


ちょっと不機嫌にさせてしまった…


「でもさぁ。
私はいいんだけど、健人くんは一応アイドルなわけだから。
私なんかといて、変なうわさとか立てられたら困るでしょ。
今はツィッターとかがあるから…。」


「だからさっき、テレビでわざと言ったんだよ。
親戚のお姉さんと ご飯に行くって。

ねぇ、もう止めよう、こんなつまらない話。
せっかくゆき姉とご飯食べるの、楽しみに来たのに…。」



健人の顔から少しずつ笑顔が消えていくのに気づき、私は慌てた。

「ごめんごめん!そうだね。
よし、今日は健人くんとの初飲みなんだから、
とことん飲むぞぉー!!」


と、一気にビールを喉に流し込んだら
健人が申し訳なさそうに

「あっ、ごめん!明日、映画の舞台挨拶で、朝イチで大阪なんだ。
だから今日は ほどほどに。
その代わり来週の木曜日、俺、ひっさしぶりのオフだから
実家に泊まってこようと思ってんだけど、
良かったらゆき姉も来ない?
あそこでだったらゆき姉も、まわりを気にせず飲めるでしょ?」


突然の誘いに驚いた。

「えーっ、でも…。
せっかくの家族団らんにお邪魔するのもなんだから…。」


「いいじゃん いいじゃん!さっき母さんからメールきて、
ゆきちゃんに会うなら、来週一緒に連れて来いって。
なんか母さん、自慢のキムチでチゲ鍋パーティーするって
張り切ってんだけど。」


「ほんとに!? おばさんのキムチ、食べた〜い!!
メチャクチャ、美味しいもんね!

実は私、おばさんみたく美味しいキムチが漬けたくて、
うちのばあちゃんのお葬式の時、こっそりレシピを聞いたんだけど
どうも今イチ、おばさんの味には近づけないんだよね。
今まで十年間、毎年漬けてんだけど…。」


「うっそ!ゆき姉もキムチ漬けれんの!? すっげー!!
俺、うちの母さんだけかと思ってた!自分ちでキムチなんて漬けるの。韓国人でもないのにさ。」


「おばさんはなんでも料理、上手だもんね。
初めておばさんちでご飯ご馳走になったとき、
あー私も こんな美味しいご飯が作れる女になりたーい!
って思ったもん。で、その後 料理学校に通ったりして、
調理師の免許も取ったんだから!」


「うそみてぇ!ゆき姉、料理作れんの? イメージ違う!」

「ひっどいなぁー!!私のイメージって、どんなのよ。」


「なんとなく、そおいうの苦手にしてる感じ?」

「それって、あんまり女らしくないって事?ひっどいなぁ!」


「あ、でも今日でぜんぜんイメージ変わったよ!
意外と女らしいし、努力家なんだなぁーって。
今までのゆき姉って、体育会系!って感じだったから。」


「それって昔の、自転車と鉄棒の特訓のこと、言ってる?」


「まぁ、あれは一生忘れないと思うよ。
子供心に、こいつは鬼だ!と思ったもん。」


「そっかぁ、やっぱりね。薄々は感じてたけど。

なんか 懐かしいな。
昔は夏休みとか、よく健人くんちに泊まりに行ってたもんね。

そうだな。来週久しぶりに、健人くんちにお泊まりしちゃおうかな?
おばさんにもう一度、キムチのコツ教わりたいし。」


「やった!ほんと?ほんとに来てくれる? 家にメールしよ!」


そう言って、健人はすぐに携帯を開き、誰かにメールした。

雪見はその間、冷めてしまった料理に箸をつけ
残りのビールを飲み干す。


自分でも、思いがけない展開に驚いている。


だが、だんだんと近づきつつある健人との距離に
正直に喜びを感じ、幸せを感じた。


肩の触れあうほど すぐ隣りにいるのは
アイドルの斎藤健人ではなく
子供の頃によく遊んだ 斎藤健人。

私にとっては、彼がアイドルであろうが無かろうが
そんなことは どうでもいい話であった。


21歳という年齢と、かわいい寄りの綺麗な顔。
身長も170㎝ぐらいと、今どきの若者にしては小柄だから
私から見れば、どうしても子供っぽく目に映っていた。

そりゃそうだ。
今まで年下の男の子なんて、眼中になかったから。
いつも、頼れる年上の大人の男にしか心を開けなかったから。

だけど今は違う。


なにも飾らない、自分の心に真っ直ぐな健人が
今はとても男らしく、頼もしく思える。

横顔が幼くて無邪気なんだけど、
それさえも愛おしくて、いつまでも眺めていたくなる。


目の前に広がる宝石のような夜景は
健人からの初めてのプレゼントに見えて、
いつまでも大事に大事に、心の引き出しに入れておこうと思った。



コタとプリンの写真集は、未だ忘れられたまま
じっとテーブルの足元でその出番を待っている。






Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.15 )
日時: 2011/02/19 07:08
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

ビール三杯とお洒落な和食、
そして何より健人の笑顔を間近で眺めて
雪見は上機嫌でマンションへと戻ってきた。

「めめ、ただいまぁ〜!」


めめは、すでに雪見のベッドの上で眠りについている。

ちらっと目を開けたが、雪見が帰ってきたのを確認し
安心したように、また可愛い寝顔を見せた。


「今日ねぇ、健人くんにご飯ご馳走になっちゃった。
ほんとは私がお姉さんだから、おごってあげようと思ってたのに
写真集のお礼だから、って。
危うく肝心の写真集、渡すの忘れそうになったけど
健人くん、大事そうに抱えて持って行ってくれたよ。
よかったね!」

めめを相手に、いつもの独り言。


でも、嬉しくて嬉しくて、
誰か猫以外の人にも聞いてほしかった。

  そうだ!真由子に電話しちゃお!!


夜の十一時だけど、まだ起きてる時間。

一秒でも早く今夜の出来事を、誰かに話したくて仕方なかった。



ケータイの呼び出し音は鳴るけれど、すぐ留守電に切り替わる。


  なんだぁ…。どっかに飲みに行っちゃったのかな。
  せっかく健人くんのこと、教えてあげようと思ったのに。

  今夜は眠れないや…。

そう思いながらベッドへ潜り込んだのに、
今日の出来事を反すうする間もなく、深い眠りに落ちていった。




次の日の朝。メールの着信音に起こされた。

  誰よ、こんな朝っぱらから…。

まだ開き切れない目をうっすらあけて、ケータイを見る。


  健人くんからだ!


がばっ!と身体を起こし、ベッドの上に正座し直して
ケータイを開く。
朝からドキドキが全開になった。


     おっはよ!ゆき姉!
     もしかしてまだ寝てた?
     俺はこれから大阪行って
     朝ご飯にお好み焼き、
     食ってきます!
     うそ、仕事です(^_^)V
     昨日はコタとプリンの
     写真集、ありがとね!
     嬉しくてずっとながめて
     たら朝になってた(;。;)
     つぐみも母さんも、今週
     ゆき姉が来るの楽しみに
     してる。もちろん俺も。
     今度は朝まで飲みましょ
     
     んじゃ行ってきます━★


         by KENTO



息を詰めていたので、ふぅーっと肩の力を抜いた。

昨夜のひとときは夢かと思ったが、
このメールを読んで現実なんだと、嬉しさが倍増した。


  こうしちゃいられない!

  木曜日、健人くんの実家にお呼ばれするんだから
  何か、気の利いた手みやげを用意しなくちゃ!

  なにがいいかな…。


私はパジャマのまま、パソコンの前に座り
あれこれネットで検索してから
日曜日の人混む街へと出かけて行った。


前から気になっていたスイーツのお店がある。

まずは自分の舌で確かめてからじゃないと
人にあげられない性分だ。


お店に併設されたカフェで、エスプレッソと共に
十時のおやつを楽しむ。

街ゆく人が、みんな幸せそうに歩いてる。
なんだか私も幸せだ。

  
  健人くんちのお土産は、これに決めた!

木曜日の開店時刻に取りに来ることで予約を入れ、
私はまた人混みの中に歩き出した。

  
  さーて、お次は虎太郎とプリンのお土産だ。
  あ、うちのめめにも買わなきゃ
  ヤキモチ妬いちゃう!

  猫じゃらしがいいかな?それとも高級缶詰?
  でも、猫缶って好きずきあるしなぁ…。


デパートの上階のペットコーナーに、本当に久しぶりに足を運んだ。

  
  あれ?犬のサークルの前に、見覚えのある… 真由子だ!


「えーっ!雪見ぃ!! こんなとこで会うなんて!
あんた、ペットショップ嫌いじゃなかったっけ?」


「あ、あぁ、そうなんだけど…。真由子は何しに来たの?」


「ジローくんのカット!トイプードルって、結構お金かかるわ。
ねぇ、まだ時間かかりそうだから、お茶でもしない?
昨日のイケメンくんとのご飯の話も 聞きたいし!」


  すっかり忘れてた!どうしよう!!
  昨日は少し酔っぱらってて真由子に電話しようと思ったけど
  よくよく考えたら、やっぱまずいよね。

  親戚はやっぱり俳優の斎藤健人だった!なんて…言えないな。
  とにかく、健人くんにだけは迷惑かけられない。
  昨日のテレビも見てなさそうだし、ここは真由子に悪いけど
  ただの親戚ってことで押し通すしかないな。


短い時間にあれこれ判断し、私は真由子の後をついて
デパートのさらに上の、お洒落なカフェに腰を下ろした。


  大丈夫、大丈夫。親戚ってのは嘘じゃないんだから…。


私は、少しの後ろめたさも手伝って、声がワントーン
違っていたらしい。

それにすかさず真由子が攻撃を仕掛ける。


「ねぇねぇ、それで昨日はどうだったわけ?
昨日の夜、私に電話したでしょ?
彼とカラオケしてたから、気がつかなかったの。ごめんね!」


私は、昨夜の電話が繋がらなかったことに感謝していた。
もし、あの電話で私が本当のことを
お酒の勢いだったにしても 話していたら…。

間違いなく、大変な事態に陥っていただろう。

真由子は姉御肌で、とっても気の合ういいやつなんだけど
ただ一つの欠点は、おしゃべり!だと言うこと。



私は、これから真由子にされるであろう質問の答えを
頭をフル回転させて、素早く用意した。

それから、心を落ち着かせるためにコーヒーをひとくち。



真由子と私の、駆け引きのゴングがいま鳴った。















     




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