コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.392 )
日時: 2012/02/28 18:47
名前: 蓬莱山 輝夜 ◆Q1E4PDAez6 (ID: RSw5RuTO)

>め〜にゃんさん

長い話ですけど結構おもしろいです!!

たびたび更新するのがうれしいです♪

次の更新も楽しみにしてますね★

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.393 )
日時: 2012/02/29 07:40
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「えーっと…。おっしゃってる意味が、あんまり良く解らないんですけど…。
今野さんも今、仕事のオファーがどうのって言いました?」

こんな場面なのに、おっとりのんびりした口調と、ぽわんとした表情でたたずむ雪見は、
お笑い二人組のツボらしい。

「それや、それっ!絶対浅香さんの中に、二人の人格が入っとるでしょ!
今の浅香さん、実にアホっぽい!
カメラ構えとる時や、歌うてる時の目つきとは別人やもん!」

「はいっ?私が二重人格だとでも?」
サル顔の背の低い方が言った言葉に、少しカチンときたらしい雪見。
その語気に気付いた相方が、慌てて釈明しフォローする。

「いや、違いますっ!誤解ですって!そーゆー意味やない!
お前なぁ〜!この大事な話をぶち壊すつもりかぁ!?
ほんま、すんません!もう時間もないし、単刀直入に言います。
浅香さん。僕らの番組のレギュラーに、なってくれませんやろか?」

「えっ?ええーっ!?私が…ですかぁ?」


みんなが立ちすくむこの場に、なにも状況を把握しない健人と当麻が
ノックをして入って来た。

「えっ!?あ、お疲れ様です!本当に来てくれたんですねー!
お忙しいのに、ありがとうございますっ!」
健人は一瞬驚いた顔を見せたが、すぐにニコニコして二人組に礼を言う。
それに続いて当麻も頭を下げた。

「おはようございまーす!すみませんでした、今日は!
せっかく番組に呼んで頂いたのに、都合つかなくて…。
あ、お二人がライブに来てくれるらしいことは、さっき健人に聞いてました。
なんか、ゆき姉ファンだとか?初耳でビックリしたーっ!」
何度も共演したことのある当麻が、親しげに話しかける。
だが…。

「君たちねぇ!間が悪いよ、間がぁ!
なんで顔はええのに、間が悪いの?今入ってきた時、なんか感じんかったぁ?」

「え?いや、別に…。」健人と当麻が顔を見合わせる。

「も、ええわ!ほな二人もゆき姉を説得して!
全国放送のレギュラー番組は、絶対いい経験になる!って。」

「はいっ!?」


それからお笑い二人組は、唖然としたままの健人らはもうほっといて、
時計を気にしつつ、早口に猛スピードで説明と説得に取りかかる。

雪見に、今日出演した番組の金曜日レギュラーになって欲しいこと。
もちろん番組のプロデューサーが、正式に雪見の事務所にオファーしたが、
推薦した自分らも直接説得したいと志願して、こうしてやって来たこと、などなど。

「番組に、新しい風を入れたいんですぅ!
こないだの企画会議じゃ、誰も『うん』とは言うてくれなんだけど、
今日浅香さんに出てもろた30分で、全員納得してくれました。
プロデューサーには、約束を取り付けるまで戻ってくな!言われてます!
どうかお願いしますっ!浅香さんと一緒に仕事がしたいんですっ!!」

この全国区の人気者二人が、無名に近い雪見に最敬礼で頭を下げている。
その光景を周りの者が、息を呑んでボーッと見てた。


しばらくの沈黙のあと、雪見が小さく口を開く。
「すぐ…。すぐ出れるなら…やります。」

「えっ!?すぐ?すぐは無理です!四月の改編からの話やから…。」
背の高い方が、頭をかきながら笑って言った。
それに対して雪見は…。

「じゃあ、私も無理です。四月にはこの仕事、辞めてますから。」
淡々とあっさりと断る雪見に、二人組は慌てた。

「ちょ、ちょーっと待って下さい!
浅香さんが三月一杯で芸能界を引退することは、もちろん知ってます!
けど、それでええんです!
芸能人として出てもらうんやなく、浅香雪見という個人で出てもらうんやから、
職業がカメラマンだろうがフリーターだろうが、関係ないんです!
あ!事務所を出るからマネジメントが大変って意味で、無理や言うてますのん?
そやったら、四月からうちの事務所に籍置きませんかぁ?
うちの事務所、何でもアリな事務所やから…。」

「そうじゃありません。四月だと遅いんです。今からじゃないと…。
あ、でも…。どっちにしろ無理です。
たとえ今から出れたにしても、四月には皆さんに迷惑をかけてしまう。
私…。四月になったら健人くんと一緒に、ニューヨークへ行くから。」
雪見はもうはっきり断ってしまおうと思い、意を決して正直に話をした。

「えっ?ええーっ!?うっそやん!うそやろーっ!?」

「ほんとです。ごめんなさい!わざわざ来て頂いたのに…。
もっと早くお伝えするべきでしたね。
でも、健人くんがニューヨークへ行くと言う話し自体、まだ外部には
公表前だったから…。
ごめんなさい!健人くん!今野さん…。
あの…。健人くんのために、この話は聞かなかった事にしていただけませんか?」

「そんな…。いや、もちろん斎藤くんのニューヨーク行きは黙ってますよ!
そやなくて、浅香さんまで一緒に行かはるなんて…。
ファンとして、めっちゃショックや…。」
うなだれる二人に、慌てて雪見は弁解した。

「あ、あの、私は通訳として帯同するだけです!
健人くんが二ヶ月間演劇の勉強に集中出来るよう、言葉と食事の面で
サポートするのが私の役目なんです!六月の中頃には戻って来ますから。
戻ったら私、今度こそカメラマン一本でやっていこうと思います。
それが天職だって、やっと確信持てたから。」
そう言って雪見は、二人に向かって微笑んだ。

「ほんまですかっ!?じゃあ、七月からならOKしてもらえますか?
カメラマンとして出て下さい!それでええんです!」
雪見の言葉に息を吹き返した二人は、どこまでも食い下がる。
しかし、どうしたって雪見の返事はNOだった。

七月からじゃ、意味が無い。
今すぐじゃなきゃ、ダメなんだ…。
ニューヨークへ旅立つ前に、有名にならないと…。


トントン!

そこへスタイリストの牧田が戻って来て、何も準備が出来てない楽屋の
さっきと同じ状況に大声を上げた。

「雪見ちゃん!衣装…!って、まだぜんぜん用意してないのぉ!?
ちょっと、あんたたちっ!一体、今何時だと思ってるわけぇ!?
もう30分前なんだよっ!?今野さんがいながら、何やってたんですかっ!
男どもは出て行けぇーっ!みんな、大至急用意しなさーいっ!!」


牧田が落とした雷に、お笑い二人組は小さな声で「怖えぇ…。」と言い残し、
そそくさと楽屋を退散した。

雪見からの返事は、もらえぬままに…。









Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.394 )
日時: 2012/03/01 22:04
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

またしてもバタバタと始まりバタバタと終った、大阪公演ラストのライブだった。

「終った…。もうどこにもエネルギーが残ってないや…。」

三度のアンコールに応えた後、健人らと共にステージ裏へと引き上げた雪見は
ヘナヘナとそばにあった椅子に座り込む。
その側らで健人と当麻は、スタッフ達と大はしゃぎでハイタッチして、
ライブの成功を喜び合っていた。

会場からは、衰えることを知らないアンコールの大合唱が聞こえる。
しかし、ファンにとっては無情のアナウンスがライブの終了を告げ、
場内に明かりがついた。

がやがやとファンが引き上げる声や、スタッフが慌ただしく撤収作業を
開始する音を耳にしながらも、雪見は抜け殻のようにそこにいる。
その姿を目にした今野が静かに歩み寄り、真横に立ってポンと肩を叩いた。

「お疲れ様。いいライブだったよ。うん、いいライブだった。
ほんっと、お前って不思議な奴だよな。
歌ってる時はあの二人組が言った通り、まるで別人に変身するもんな。
リアルな仮面ライダー見てるみたいだよ。いや、ウルトラマンか?
戦い終ったらフラフラになって、立ち上がるエネルギーも残ってないんだから…。
さ、楽屋へ戻るぞ!早くエネルギーを補給に行こう!
大阪のエネルギーは、なに食っても美味いぞー!!」

そこへ健人と当麻もやって来て、雪見の頑張りを心からねぎらった。

「ゆき姉、お疲れっ!二回目のライブ、めっちゃ気合い入ってたね。
俺ら、テンション合わせるのに必死だったから!
けどそのお陰で、スタッフさんみんなに誉められた。
近年稀に見る、いいライブだった!って。」
当麻が嬉しそうにニコッと微笑み、健人の顔を見る。

「俺も、スッゲー楽しかった!
この三人でツアー出来るって、よく考えたら奇蹟だよね!
今回のツアーが終ったら、もう二度と起こらない奇蹟なんだなって思ったら、
絶対いいライブにしたかったし、もっと楽しんでやろうと思った。
ゆき姉も…そう思って全力出したんだよね?」

健人の言葉を聞いた途端、雪見の瞳からは大粒の涙がポロッと溢れた。
一粒ポロッ。二粒ポロポロッ…。

「あれ?おかしいな…。何で涙が出てくんだろ。悲しいわけないのに…。
みんなからいっぱい応援してもらって嬉しいはずなのに、なんで涙なんか…。」

雪見の泣き笑いの意味は、みんながなんとなく解ってる。
健人が言う通り、このメンバーでの仕事は、ツアーが終ったらもう二度とないのだ。

あと三ヶ所のライブで終ってしまう…。
あと一ヶ月半ほどで、この世界ともおさらばだ…。
カメラに専念できる日を楽しみにしながらも、この仲間たちとの
別れのカウントダウンが始まった事が無性に悲しくて、雪見の心は素直に反応した。

健人が、よしよしと雪見の頭を優しく撫でる。
それを眺める当麻と今野の瞳も、同じように優しかった。


ひとしきり泣いた雪見は、猛烈にお腹が減ってることに気が付いた。

「あー、お腹減ったぁ!よく考えたら私、サンドイッチしか食べてないんだよねー!
どーりで電池が切れるわけだ!さー打ち上げ、打ち上げっ!」
いきなり椅子からガバッと立ち上がった雪見に、三人は驚かされる。

「なっ、なんだよっ!ゆき姉、立ち直るの早っ!
ま、いいや。俺も腹減ったぁ!とっとと着替えて、飯食いに行こ!
今野さん、打ち上げどこでやるんですか?すっげー楽しみ!」
当麻が今野と話しながら、足早に楽屋へと引き揚げる。
その後ろを健人が、雪見を気遣いながらゆっくり歩いた。

「疲れた?大丈夫?」
「うん、大丈夫。あーあぁ!私も体力落ちたなぁ!最後はバテバテだったもん。
猫、追っかけなくなってから、めっきり運動不足になっちゃった。
東京戻ったら、少し走ってみるかな?」
「うそだー!ゆき姉、走るの嫌いじゃん!」
「あれ?バレた?言ってみただけー。」

さっき泣いてたと思ったらもう笑ってる。
猫の目のようにクルクル変わる雪見の表情は、いつまで見てても飽きることがない。
きっと、この人と過ごす人生は、毎日退屈しない楽しい人生なんだろうな…。

そう思ったら、新生活の始まる四月が楽しみで仕方ない。
ニューヨークでの毎日を想像し、顔がにやけたのを誤魔化すために、
雪見の頭をポン!と叩いて、楽屋まで駆け出した健人であった。



「そうだ!ねぇ、ニューヨークから帰ったら今日のテレビの話、引き受けるの?」
打ち上げ会場である洋風居酒屋の通路を歩きながら、当麻が雪見に質問した。

時計はすでに十一時半を回っていたが、店に顔が利く地元テレビ局の
プロデューサーの口利きで貸し切りにしたため、他に客は誰もいない。

「テレビ?あぁ、あの話?受けない受けない!やらないよ。
帰って来たら私、本当にカメラに専念するから。
もうこの業界になんの未練もないし、充分経験させてもらったしね。
まぁ、かなり先まで写真集とかポートレートの予約もらっちゃったから、
まったくこの世界に縁が無くなる訳でもないけど。」
後ろから聞こえてきた雪見の言葉に、先を歩いてた健人もなんだかホッとする。

「本当にカメラマンに戻るんだ…。なんかもう一緒に仕事出来ないのは寂しいね…。
けど、俺はずっとゆき姉のこと応援してるよ。」

「やだ!なんで今からしんみりしてんの?これから楽しい打ち上げでしょ!?
さぁ、今日は飲むよーっ!!って健人くん、早く中に入ってよっ!」

雪見が飲む気満々で部屋へと入ろうとしたが、なぜか健人が前へと進まない。
どうしたの?と肩越しに前を見て、当麻と雪見は同時に叫んだ。

「ええーっ!?」「うそっ!?」

「あれーっ?奇遇やなぁ!こんなとこで会うなんてぇ!
あ!もしかして、打ち上げってここでやんの?そりゃ、知らなんだ!」


見え見えの芝居とニコニコの笑顔で三人を出迎えたのは、もちろん
あのお笑い二人組であった。




Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.395 )
日時: 2012/03/03 10:44
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「偶然…なわけ、ないですよね!
だってここ、私達の貸し切りなんだから!」

健人と当麻の間を抜け、前に出た雪見が腕組みをしながら
悪ふざけをした生徒を叱る先生のように、キッと睨みを利かせる。
それを見たお笑い二人組は、雪見に嫌われては大変!と
慌てて本当のことを白状した。

「ごめんなさい!ごめんなさい!
ほんまは、うちのプロデューサーに聞いたんです!
この店に口利いたの、うちの番組のプロデューサーやから…。」

「えっ!?そうなんです…かぁ?」

雪見は『しまったぁ!』と思った。
なんだか、また厄介な打ち上げになりそうな流れだぞ、と…。
だが、そうとなれば二人を邪険に扱うことも出来ず、取りあえずは謝ることにする。

「ごめんなさい!なんにも知らなくって…。
あ!今日のライブはどうでしたか?楽しんでもらえました?」

自分でも、取って付けたような豹変ぶりが、いやらしいよなぁ!
とは思ったが、まぁこうなってはしょうがない。
隣で当麻が、クスクス笑ってはいるが…。

「めっちゃいいライブでした!ホンマ、凄かった!
笑えたし泣けたし、めちゃめちゃ良かった!」

「笑えたし泣けた?笑えたっていうのは…どの辺が?」
興奮冷めやらぬ表情からは、満足ゆくライブだった事は伝わってきたが、
今イチこの二人のツボが、よく解らない雪見だった。

「まぁ、まずは中入りぃ!喋りたいこと、いっぱいあんねんて!
ここ、座って座って!
あ、斎藤くんと三ツ橋くんは、奥に偉い人達座っとるから、
まずはそっち行った方がええんちゃう?」
サル顔の背の低い方が、さっそく雪見引き離し作戦に出てきた。
分かりやすい人!

「あ、じゃあ私も挨拶してこなくちゃ!
お二人もこんなとこに座ってないで、もっと奥に行きましょうよ!」
そう雪見が言うと、二人はブンブンと首を横に振った。

「めっそうもない!あんなとこ行かれへん!
僕らは下座でええんです!気にせんといて下さい。
さぁ、主役は行った行った!けど、後から必ずここ来てくださいよ!
浅香さんと飲むの、めっちゃ楽しみにして来たんやから!」

どうやらこの二人は、完璧に打ち上げに参加するつもりらしい。
仕方ない…。二人だけをここに放置しておくわけにはいかないから、
向こうを一回りしたら戻って来るか。
例のテレビ出演の話も、はっきり断らないといけないし…。

「じゃあちょっと失礼して、向こう行って来ますね。また後で!」
雪見はニコッと微笑みを残し、健人と当麻と三人で店の奥へと進んで行った。


「おーっ!本日の主役三人が到着だぞー!」

盛大な拍手で迎えられ、三人は恐縮しながら上座に座る。
まだ作業中で来てないスタッフもいるが、時間も遅いことだし先に始める事にした。
テーブルの上には、食い倒れ大阪の名にふさわしい美味しそうな料理が、
これでもかと並べられていた。

「じゃ、健人!乾杯の音頭を頼む!」

「えっ!俺ですかぁ?じゃあ…今日は皆さん、お疲れ様でしたぁー!
皆さんのご協力の下、ツアー二ヶ所目の大阪公演も無事に終る事が出来ました!
ほんっとに、ありがとうございます!
えー、あと残り三ヶ所になりましたが、最後まで全力で行きたいと思いますので、
どうか僕たちに力を貸して下さい!よろしくお願いしまーす!
では…今日のライブの成功を祝って、カンパーイ!」

「乾杯っ!!」「お疲れぇ〜!」

あちこちからグラスを合わせる音が鳴り響き、宴のスタートを告げる。
健人や当麻も、雪見とグラスを合わせ、お互いに健闘をたたえ合った後
スタッフを一人ずつ周り、労をねぎらって乾杯を繰り返した。

「あー、ほんとーに美味しいっ!生き返ったぁ!」
雪見が一足先に席に戻ってビールを一気に飲み干し、ふぅぅ…とため息をつく。
そしてエネルギーが全身に行き渡るのを感じてから、目の前のご馳走に箸を伸ばした。

「いっただっきまーす!もう、お腹がペッコペコ!
うーん!めっちゃ美味しーいっ!シアワセー!!」
雪見がしばし目をつむり、ウットリと幸せを噛み締めている。すると…。

「な!美味いやろ!?大阪の食いもんは、なーんでも美味いんや!
大阪で仕事すると、毎週こんな美味いもんが食えるんやでぇ!」

「えっ!?」

驚いて目を開けると、なぜか隣りにあのお笑いコンビが座ろうとしてるではないか!
しかも、旧知の友人かと勘違いされそうなほど親しげに…。

「すんませんねぇ!みんな俺らに気を使うてくれて、ありがとう!
いや、みんなええ人やー!カンパーイ!!」
どうやら誰かが気を回して、二人組を雪見の隣りに案内したらしい。
そこは健人と当麻の席だったのに…。

「まずはお疲れさんですっ!あ、浅香さんはビールでええんですか?
ちょっとー!お兄さーん!ここにビール、ようけ持ってきてやー!
あ、これ、うんまいですよー!この店のイチオシ料理や!
ここね、うちのプロデューサーとよう来るんやけど、どれ食っても美味いです!
店もお洒落やろ?絶対気に入ってくれる思うて、僕がこの店推薦したんです!」
通りで我が物顔してる訳だ、と雪見は聞こえないほど小さなため息をついた。

どうもこの手のテンポにはついて行けない。
グイグイ押しまくられるのも、どちらかというと苦手。
関西人が苦手な訳ではないが自分のリズムとは違い過ぎて、話していて
どうしていいのか解らなくなる。
となると…絶対一緒に仕事など、無理に決定だ!


「あのぅ。お仕事のお返事、まだでしたよね?
どう考えても私には無理なので、お断りさせて下さい。ごめんなさい!」

「ええーっ!?いきなりですかぁ!?
これから飲んで喋って、じっくり説得しよう思うたのに、それはあんまりやわ!」

「ほんまや!まだ何にも俺らのこと知ってもろてないのに!
そんな急いで返事せんでもええから、まずは飲みましょ!
ええから飲みましょ!!ほな、カンパーイ!お疲れさんでしたぁ!」
二人組は、強引に雪見とジョッキを合わせた。


これは果たしてライブの打ち上げと呼べるの…か?

捕らわれの身となった雪見は、遠くで健人と当麻が、大笑いしながら
楽しそうにスタッフ達と飲んでる姿を、恨めしそうに目で追った。


ちょっと二人とも!早くこの状況に気付いて、助けに来なさいよっ!!





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.396 )
日時: 2012/03/04 15:41
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「いやぁ、話には聞いとったけど、ほんまにゆき姉って酒好きなんやねぇ!
めっちゃ美味そうに飲まはる!
ええでーっ!どんどん飲んでやー!お兄さん、ビールおかわりぃ!」

「二人も飲んで下さいよぉ!あ、次、ワイン行きません?
お兄さん、ビールの後にワインもらえる?フルボトルで。
甘口の白あるかなぁ?グラスは三つお願いねっ!」

どうやらお笑い二人組は、なかなか良い返事をくれない雪見に対して、
酔わせてOKさせようと言う作戦に出たようだ。
それに呼応して、雪見のピッチもいつにも増して早い。
一見、二人組の戦術にはまったかのように見えて、二人はほくそ笑んでいる。
…が、残念ながら、それは逆に雪見が仕掛けた罠でもあった。


飲みながら二人組を観察していたのだが、どうやらこのコンビ、
酒は好きらしいが、そんなにも強そうではないと見た。
ならば、酒の弱い人が知らず知らずに飲んでしまう、口当たりの良い
甘口の白ワインで、さっさと片を付けるか…。

勝算有り!と雪見がにっこり微笑んだ理由を、二人は知らない。
「ほんま、ゆき姉はべっぴんさんやなぁ!
そうやってにっこりされると、何でも言うこと聞きたなるわ!」

「そやな!でも結構、小悪魔やったりして。
飲み屋のお姉ちゃんでいてるやろ!こういう綺麗で酒の強い人。
その笑顔に騙された男が、今までぎょーさんおるかもしれへんでぇ!
酒の席では特に要注意や!」

ドキッ!このサル顔の人、意外と勘が鋭いかも…。用心、用心!
…って私、本当に悪い人みたいじゃない?

「やだぁ!人聞きの悪いこと言わないで下さいよー、もう!
あ、ワイン来たぁ!ありがとー!うーん、いい香り!
はい、どうぞ!改めて三人で乾杯しましょ!乾杯っ!
うわっ!これすっごく飲みやすい!ほら二人もグイッと空けて!
今日はとことん飲むぞー!」

そう言いながら雪見は、二人の空いたグラスにワインを注ぐ。だが…。
段々と自分が、客を騙す悪徳ホステスにでもなったかのような気分になり、
なんだか酒まで不味くなってきた。
やっぱやめとこうか、こんな手は…。

それからは、肩の力を抜いてお喋りも楽しみつつマイペースで飲む。
心のバリアを解除して色々話してみると、案外この二人は『いい奴』だと思えてきた。

とそこへ、健人と当麻がやっと戻って来る。
「おっそーい!二人が遅いから、この人達に席取られちゃったよ!」

「ひどっ!結構この人、飲むと口悪いわぁ!
あんたが退屈しないよう、相手しとったんやないかっ!
まぁ君たち、そこでええから座りぃ!
あれっ?地震?なんか今、グラッと揺れた気がしたけど?」

「大丈夫ですかぁ!?地震じゃなくて、自分が揺れてますよ!」
当麻と健人が向い側に座り、心配そうに顔を見る。

「あれっ?珍しいね。ゆき姉が甘口の白ワイン飲むなんて。
いっつも甘口は飲んだ気しないからって、辛口しか飲まないのに…。」
そこまで言って健人と当麻はハッと気が付き、顔を見合わせた。
この状況に見覚えがあったのだ。

当麻が雪見と知り合ってすぐ、『どんべい』で三人、飲み比べをしたことがある。
まだ酒歴の浅かった健人と当麻は、まんまと雪見の戦術に引っかかり
この甘口白ワインに、こてんぱんにやられたのであった。
あの時雪見は、「この私に勝とうなんて百年早い!」と高笑いしてたが…。

もしかして、同じ目に遭ってる?この二人…。
じろーっ…。

「ゆき姉。やめときなさいっ。」
「えーっ!私につられて勝手に飲んでるんだよ、この人達!
……はぁーぃ。」

健人に諭され当麻にクスクス笑われ、雪見はイタズラを見つかった子供のように
バツが悪かったが、お笑い二人組には何の事やらさっぱり判りはしなかった。

「ゆき姉、例の話はちゃんとした?
本当は、お酒抜きでしなきゃならない大事な話なんだよ。
わざわざこんなとこまで、ゆき姉を説得しに来てくれたんだから…。」

「うん…。」

健人はある意味、雪見よりもずっと大人だった。
猫ばかりを追いかけ、社会人としてのルールにあまり縛られないで
ここまで来た雪見と違い、彼は高校二年から一人で大人社会に揉まれて生きてきた。
だから21歳にして、すでに考え方は立派な大人だし常識的でもある。

ドラマの役でしか彼を知らない人達の目には、演技はうまいけど中身はまだガキな
今どきのイケメン俳優なんだろ、ぐらいにしか見られてないのが何とも悔しい。

健人に言われて雪見は、自分の態度を恥じた。
一回りも年上の私が、二十歳そこそこの彼に説教されるなんてイカン!と。
反面、でもだからこそ私達は、12歳違っても対等に付き合っていけてるのだと、
都合よく開き直る。

「じゃ、ここからは真剣にお仕事の話をしましょ。
先延ばしにしてたって、良いことは一つもないですもんね。」
そう言って雪見は、グイッとワイングラスを空っぽにした。

「結論からお話すると、やっぱりさっきのお話はお受けできません。」

「なんでやねん!カメラマンに戻たかて、売れた方がええに決まっとるやろ!
うちの番組は全国ネットなんやで?それにレギュラーで出る言うことは
全国津々浦々の人たちに浅香雪見ちゅうカメラマンを知ってもらう、
またとないチャンスやんか!」
少しろれつの怪しくなった口は、気持ちばかりが先走りして言葉がついてこない。
でもその勢いに、思いだけは充分伝わってきた。

「そうですね…。確かにカメラマンだって、売れないと食べていけない。
けど今はそんなこと、どうでもいいかなって思えてきたんです。
三月一杯まで全力で頑張って、これ以上無理っていうほど頑張って、
それでもみんなが認めてくれなかったら、はい、私はそんな人ですよ!
って開き直れる気がする…。
テレビの力を借りて売れても、それはやっぱり自分の自信には繋がらないと思うし…。
写真の世界は、自分の腕だけがすべてなんです。
歌も同じ。自分の実力だけがすべて。
だからライブで勝負して、ダメだったらそれが実力。
テレビに出て周りの人に面白可笑しく取り上げてもらったって、なんの意味もない。

…そうか…。そうなんだ…。
話しててわかることもあるんだねっ!今わかった自分がいた!
…と言うことで私、今のまんまでいいです!
なに血迷ってたんだろ?さっきまで。ほんと、ばっかみたい。
あースッキリしたぁ!よーし、飲も飲もっ!」


気持ち良いほど潔く、自分の心に真っ直ぐに生きようとする雪見を、
お笑い二人組は「かっこええ…。男前やぁ…。」と呟いて叱られてる。

そんな雪見を健人と当麻は『でしょっ!?』と口には出さずに、微笑んで見つめてた。










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