コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.97 )
- 日時: 2011/04/09 10:22
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
結構店が混み出したと見えて、健人たちのいるスペースを通り越して
さらに奥へと進む人が多くなってきた。
ここから先は、健人と雪見は行ったことが無かったが
店の端まで探検したという当麻によれば、まだまだ先にたくさんの
お洒落なスペースが用意されてると言う。
賑やかにお酒を楽しんでいる三人の横を、何人かの人がチラッと横目で
見ながら通り過ぎる。
大体の人は、あ、斎藤健人と三ツ橋当麻だ!と思いながら通るだろう。
だが、まったく芸能界に興味の無い人達の目には
三人は、どんな関係に映るのだろうか。
仲の良い姉弟と、その弟の親友ってところが妥当か。
その弟の親友が、徐々に姉に淡い恋心を抱いて…なんて言う
少女漫画にありがちなストーリーには、なるはずは無かった。
だってゆき姉は健人の姉ではなく、彼女なのだから…。
当麻は目の前の雪見を見ながら、そう自分に確認した。
大事な親友の彼女を、好きになれるはずはない。
だが、心の何割かを占める雪見への感情は、一体なんなんだろう。
会うと嬉しい、楽しい、テンション上がる。
綺麗だと思うし、可愛いと思うし、頭がいいと思う。
話してると勉強になるし、退屈しないし、元気をもらえる。
こういう感情を一般的には、何と呼ぶのだろうか。
当麻は、自分の感情に名称を付けたかったのだが、
いい答えが見つからなかった。
「ねぇ、当麻くんってば!何、人の顔見てぼーっとしてるのよ!
今、ぜんぜん人の話、聞いてなかったでしょ?」
雪見の声に、当麻は我に返った。
「ごめんごめん!あんまりゆき姉が可愛かったから、ぼーっとしてた。
で、なんだっけ?」
「ほーんと、当麻くんって口うまいよねぇ!
今、どこに撮影旅行行こうかって話になってたでしょ!
当麻くんはどこに行きたい?」
「え、俺?俺はこの三人で行けるなら、どこでもいいよ。
健人はどっか行きたいとこ、あんの?」
「俺も、当麻とゆき姉と一緒に行けるなら、どこでもいい。」
「出たぁーっ!優柔不断コンビのどこでもいい発言!
いっつもご飯行く時とかお互い、どこでもいい!って言って、
ぜんぜん決められないでしょ?」
「なんでわかるの?俺たち、行き先決めるのに一時間はかかる!」
健人の言葉に雪見は呆れていた。
その時突然、健人のケータイにメールが届く。
『ヴィーナス』編集部の藤原からであった。
一瞬、メールを開くのをためらうが、恐る恐る開いて見た。
お疲れ様です。
霧島可恋の件の報告。
編集部に顔を出して、
色々と二人の事を聞い
て回ってたそうです。
まぁ、プロジェクトメ
ンバー以外はたいした
情報は持ってないから
取りあえず今日の所は
大丈夫だと思います。
ただ、今後の二人のス
ケジュールを聞いて行
ったらしいので、くれ
ぐれも油断せぬよう。
では、また何か情報が
入り次第知らせます。
藤原より
「ゆき姉!こんなのが来たよ、藤原さんから。今日の所は大丈夫そう、だって。よかった!」
健人が胸をなで下ろす。
メールを読んだ雪見も、多少は安堵の表情を見せはしたが
まだまだどこから攻撃を仕掛けてくるかわからぬ敵に、身震いした。
「ねぇ、なんか今日あったの?」
当麻が、ただならぬ二人の様子に心配そうに聞いてきた。
「え?霧島可恋?俺、知ってる!てゆーか、今一緒に仕事してる!」
予想外の当麻の声に、二人は驚いた。
「えっ!あの子と一緒に仕事してるって、何の仕事?」
雪見が当麻を問いつめる。
「俺も今、『ヴィーナス』で四月からコーナー持たせてもらってて、
それを一緒にやってるのがカレンなんだけど…。」
三人の間に重たい沈黙が広がった。
一気に敵が、陣地に踏み込んできたような気がした。
いくら考えても、今は敵が動き出さない限り、こちらも打つ手はない。
ただむやみに時間だけが過ぎて行くだけで、
今どうすることも出来ないのであれば、
何も考えずに心を無にして、次に素早く一歩目が踏み出せるように
心の準備を整えておくしかないのではないか…。
「ねぇ!カラオケ行こう、カラオケ!この先のトンネルくぐったとこに
確かカラオケのブースがあったはず。またゆき姉の歌、聞きたい!」
当麻が沈黙を破るように、わざと明るい声で言うのがわかった。
「えーっ!また当麻くん達泣いたら困るもん!
私がいじめて泣かしたかと思われちゃう!」
「今日は泣かないから!なっ、健人!」
「そうだな。こんな時は大声出して発散するのが一番かな?
よし!みんなで移動しよう!」
三人は飲みかけのワインとおつまみを持って、カラオケブースへと
大移動した。雪見は足元にいた白い子猫も一緒に連れて行く。
「おーっ!いいね、ここも!なんか自分んちでカラオケするみたい。」
そこはちょっとだけ健人の家の居間に似ているらしく、当麻も
「こんな色の絨毯、健人んちも敷いてるよね。なんか落ち着く!」
と、このスペースが気に入った様子。
「よーし!じゃあ最初は健人くんのミスチルからスタートして!」
「よっしゃ!斎藤健人、歌いまーす!」
そう言って、明るくなる歌をあえてチョイスし、楽しそうに歌った。
「あー、やっぱ歌うって元気が出るわ!次はゆき姉の番だよ!
また、『雪の華』が聴きたい。」
「あれは止めといた方がいいんじゃない?通りがかりの人も
聞くことだし…。今井美樹とか、どう?」
「いや、最初は『雪の華』がいい!あの歌ね、一曲丸ごと俺の気持ちを
歌ってる気がするんだ。だからどうしてもあの曲が聴きたい!」
健人の強いお願いに、雪見は歌うことにした。
「でも、絶対泣かないでね!恥ずかしいから。」
そう言いながら雪見は心を落ち着けて、歌の世界に入り込んで行った。
通りがかりの人が、一人二人と足を止めて雪見の歌に聴き入る。
一人二人が三人四人になり、一番が終わる頃には大勢の人が
立ちつくしていた。
そのスペースの一番後ろに、この店に入って来た時、入り口近くの
バーカウンターでワインを飲んでいた、大御所俳優と若い女性の姿が
あった。二人も雪見の歌にじっと聴き入っている。
雪見が歌い終わった時、期せずして大きな拍手が鳴り響いた。
我に返り周りを見渡した雪見は、驚きと恥ずかしさでいっぱいになり、
健人と当麻と共に急いでその場を立ち去ろうとした。
が、その時、一人の男が雪見に声をかけてきた。
あの、テレビでよく見かける大御所俳優であった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.98 )
- 日時: 2011/04/10 07:31
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
「きみ!ちょっと話をしてもいいかな?」
そそくさと退散しようとしていた三人の背中に、いきなり聞き覚えの
ある声がして、びっくりした三人は足が止まった。
ほぼ同時に振り向き同時に驚きの声を上げる。
「あっ!津山泰三!」
「あ、ごめんなさい!失礼しました!
あまりにもびっくりしてしまって。本当にごめんなさい!」
雪見がペコペコと何度も頭を下げて無礼を詫びた。
健人と当麻は、まだ共演などしたことはないが、
偉大なる大先輩を目の前にして、直立不動で緊張しまくっていた。
「何も、君たちを驚かせるために声をかけた訳じゃないよ。
そんなにかしこまられたら、こっちの方が困るじゃないか。
いや、素晴らしい歌に一言お礼が言いたくなってね。
きみはどこの事務所の歌手なんだい?名前を聞かせてくれないか。」
健人と当麻には目もくれず、雪見の目を優しく見つめて聞いてきた。
「あの、ごめんなさい!私、歌手なんかじゃないんです。
ただのフリーカメラマンで…。」 申し訳なさそうに小さく答える。
「歌い手さんじゃないのかい!そんなに上手いのに!
わしゃ、てっきり有名な歌手なのかと思って聴いてたよ。
若い人の歌はさっぱり聴かないから、わしだけ知らないのかと思った。
どうだい?歌手としてデビューしたいなら、わしがどこでも紹介して
やるんだが。こんなとこだけで歌ってるのは、もったいないよ。」
健人と当麻はびっくりして顔を見合わせる。
その時、後ろから「ダメよ、おじいちゃん!」と声がした。
振り向いた健人と当麻が、二人揃って大声をあげる。
「華浦みずきぃ?」
それは先ほどバーカウンターで、津山とワインを飲んでいた若い女性
だったのだが、薄暗い照明の下でチラッと横目で見ただけでは誰なのか
まったく解らなかった。
華浦みずき、22歳。今、女子がもっとも憧れる超人気実力派女優。
アカデミー賞新人女優賞を取ってから、活躍の場を世界にも拡げた
今や国際派女優の一人である。
健人と当麻とは、二人がまだ新人の頃に学園ドラマで共演して以来の、
気が合う数少ない女優でもあった。
「久しぶりだね、健人くんと当麻くん!
あんた達、相変わらず仲良さそうにつるんでるんだね!元気だった?」
賞を取ってからは、海外と日本を行ったり来たりの生活で
しばらくぶりに会った三人である。
「びっくりしたよ!こんなとこで会うなんて。
そっちこそ忙しそうだけど元気じゃん!いつも影ながら応援してるよ。
今は向こうにいる方が長いんだろ?なのにこっちでも超人気なんだから
凄い役者になったよなぁ、みずきも。」
健人が感心しながら、大女優に成長した友達を眩しそうに見つめた。
「けど、さっき健人くんがお店に入って来たときは、私だって
気が付かなかったでしょ?私はすぐにわかったのに。
ねぇ、この歌の上手い人、健人くんの彼女でしょ?私にも紹介して!」
みずきが雪見に向かってにっこりと微笑んだその時、津山が横から
口を挟んできた。
「おい、みずき!お前こそ、わしにこの若者たちを紹介せんか。
孫が世話になったなら、一言礼ぐらい言わんとな。」
健人と当麻はまたしても緊張で身体がこわばり、顔も引きつっていた。
「やだぁ、二人とも!なにそんなに緊張しちゃってんの!
おじいちゃん、この二人は斎藤健人くんと三ツ橋当麻くん。
二人とも今、日本で一番人気の若手俳優さんなのよ!」
「どっちが一番で、どっちが二番なんじゃ?まぁ冗談だが。
わしと一緒に仕事をしたことはあったかな?」
「いや、まだまだご一緒できるほどの実力はありません。
早く一人前になれるよう、これからも努力します!」
直立不動のまま、健人が答えた。当麻は黙ってうなずくだけである。
「よし!楽しみにしてるよ、共演出来る日をな。
それより君たち。こちらのお嬢さんをわし達にも紹介してくれんか?
まぁ、こんな所で立ち話もなんだから、この先にあるわし専用の
場所に行って話の続きをしようじゃないか。
みずき、三人を案内してあげなさい。酒の注文もしといてくれ。
わしはオーナー室に顔を出してから行くから。」
雪見が白い子猫を抱いたままなのに気が付き、津山が笑顔で言った。
「お嬢さん、その猫ちゃんも一緒にどうぞ。
もし良かったら、連れて帰ってもかまわんのだが。」
え?もしかしてこの人がここのオーナー?
健人たち三人は、みずきの後ろをついて次のトンネルをくぐり、
またその先のトンネルをくぐって、やっと津山専用だという
超豪華なVIPルームにたどり着いた。
「すっげー!なにこの部屋!こんなとこがあったなんて知らなかった。
もしかして、みずきのじいちゃんってこの店のオーナーなの?」
雪見も思っていた疑問を、当麻が質問してくれた。
「あはは!違う違う!さっきの言い方ならそう思っちゃうよね。
お店をオープンした時に、いくらかは出資したらしいけど、
オーナーは、おじいちゃんの同期で昔からの大親友なの。
そう、健人くんと当麻くんみたいな関係かな?
私にとっては第二のおじいちゃん!小さいころから本当の孫みたいに
可愛がってもらってた。
私がアカデミー賞もらった時なんか、うちのおじいちゃんよりも先に
お祝いの電話をくれたんだから。
でもね。今は病気で入院中なんだ。
で、私とおじいちゃんに、見舞いはいいから出来るだけこの店に
いてやって欲しい、って。
お店の事が心配で、猫の事が心配で、お見舞いに行った時も
そんなことばっかり言ってる。
私はこんな生活だから毎日は来れないけど、日本に居るときは
なるべくここにいるようにしてるんだ。
おじいちゃんはほぼ毎日いるかな。すでに自分ちになってる!」
そう言ってみずきは、少し悲しげに微笑んだ。
きっと口には出さないが、あまり容体は良くないのかも知れない。
健人と当麻もそう感じたらしく、二人はみずきを慰めた。
「きっと良くなるって!
俺たちだって、この店があるから頑張れるんだよなっ!」
「ほんと、こんな凄い店を作ってくれてありがとう!って
お礼が言いたいくらい。
大丈夫だよ。そんなにお店のことが気がかりなら、どんなことをしても
病気を克服して帰ってくるって!」
みずきは、容体が心配なのと二人の思いやりが嬉しいのとで
一気に感情が湧き上がり、ポロポロと大粒の涙をこぼして泣いた。
健人と当麻はオロオロとするばかりで、雪見がそっとみずきの背中を
さすりながら、「きっと大丈夫と信じよう!」と耳元でささやいた。
そこへ部屋に津山が入ってきて、みんながみずきを泣かしたと勘違い。
三人はいきなり怒られたのだった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.99 )
- 日時: 2011/04/11 10:45
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
「おじいちゃん、違うの!私が勝手に泣いただけ!
みんなは私のこと慰めてくれてたのに、そんなに怒らないでよ!」
みずきが津山の誤解をみんなに詫びた。
「みんな、ごめんね!おじいちゃんの勘違いだから!
何にも悪い事してないのに怒鳴られるって、ないよね。
でも、おじいちゃんにも悪気は無かったと思うから許してあげてね。
私の事となると、とにかく熱くなっちゃう人だから…。」
「いやぁー、すまんすまん!どうも年寄りはこれだからいかんなぁ。
まぁ許しておくれ。お詫びにこれをご馳走しよう。」
そう言って差し出したのは、最高級シャンパンのドンペリであった。
五つのグラスに注がれたシャンパンからは、綺麗な気泡が上がり
酒好きな健人たち三人のテンションまでも上げてくれる。
「じゃ、若き三人の役者達と一人の才能あるお嬢さんの未来に乾杯!」
津山の乾杯の音頭で、思いもしなかった祝宴が始まった。
今日この店に来た時に、こんな展開になるとは誰が想像しただろう。
目の前に、雲の上の人だと思っていた天才役者がいる。
ここで見かけたとしても店のルールに従い、決して自分達から
声を掛けるなんて事はしなかった。見て見ぬ振りが鉄則だから。
なのに今、ここでこのメンバーでお酒を酌み交わしていることが
夢の中の出来事なんじゃないかと、健人たちは思っていた。
しかし緊張して、せっかくの高級シャンパンの味もわからない。
津山やみずきの話し声さえも遠くに聞こえる気がした。
「ちょっと、三人!いつまで緊張してれば気が済むの?
せっかく美味しいお酒を飲んでるのに、それじゃあ味がわからなくて
もったいないでしょ!もっとこの出会いを楽しんでよ!」
「みずきぃ、それは無理だって!」 当麻が情けない声で言った。
「酒が足りないようだな。みずき、もっと三人についでやりなさい。」
さっきカラオケに移動するまでは、三人ともいい感じに酔っていた。
だが今は、いくら飲んでも酔える気がしない。
そう思ってつがれるままに飲んでいたら、結構酔いがまわってきた。
みずきも津山も上機嫌である。
「雪見さん、でしたっけ?あなたはさっき、歌手じゃなくて
フリーカメラマンと言っていたが、どんな写真を撮っているんだい?」
「主に野良猫の写真です。日本中を旅して猫の写真を撮ってます!
今は健人くんの写真集の専属カメラマンなので、この仕事が終わるまで
猫を撮す旅はお預けなんですけど…。でもいずれは戻るつもりです。
私、このお店に来るようになってから、益々猫が好きになって…。
猫が私に元気をくれて、猫によって生かされてるんだな、って!」
「そのようじゃな。さっきまでのあなたとは別人のようだ。
猫の話をしている顔が、今までで一番輝いてるよ。」
雪見は照れくさかった。自分でもそれがよくわかったから…。
照れ隠しに良いことを思いついた。
「あ!もし良かったら、これを受け取っていただけますか?
私が撮した猫の写真集なんですけど…。」
そう言って、鞄の中からコタとプリンの写真集の小型サイズ版を
二冊取り出し、みずきと津山に一冊ずつ手渡した。
二人共さすが猫好きとあって、一枚ずつ嬉しそうにページをめくる。
すると最後のページを見てみずきが、「あっ!健人くん!」と驚いた。
「そう!この二匹は健人くんちの飼い猫なんです。可愛いでしょ?」
猫の話ですっかり雪見は、みずきと津山に打ち解けた。
「私、ひとつ大きな夢を持ってるんです!
一生懸命お仕事してお金を貯めて、南の島の小さな無人島を買って
そこに猫の島を造るのが夢なんです。
保健所に収容されて殺処分を待つだけの猫たちを、みーんな引き取って
そこに放してやりたい。で、私はそこで猫のお世話をしながら
幸せに暮らす、島のお母さんになりたいの!」
キラキラと夢見る少女のように話をする雪見を、みずきと津山は
なんて可愛い人なんだろうと、微笑みながら見ていた。
「いいねぇー、雪見さんの夢!なんだかこの店の始まりと似てない?
ここのオーナーも、雪見さんと同じような夢を持って
この店を開いたんだから!
まぁ、無人島って発想はなかっただろうけどねっ。」
そうみずきが笑って話す。隣で津山もニコニコと話を聞いていた。
「きみは本当に猫が好きなんだね。それにきみの歌も写真も、
とても心を引きつけられるよ。そして何より魅力的だ!
どうだね、わしの事務所に入らないか?
みずきの後輩として、きみの才能をもっと引き出してみたい!」
突然の津山の誘いに、話を聞いていた当麻と健人も驚いた。
「あの!ダメです!彼女は今朝、うちの事務所と契約して
俺たちの後輩になったばっかりなんだから!」
当麻が慌てて津山の提案を阻止しようとする。
その慌てっぷりに、みずきは何かを感じ取った。
『この三人って、もしかして三角関係?でも、雪見さんと健人くんから
そんな空気は漂って来ないけど…。』
みずきはこの三人の関係に俄然興味が湧いてきて、お酒の勢いもあり
少し意地悪く探りを入れてみることにした。
「ねぇねぇ!健人くんと雪見さんって、いつから付き合ってるの?
遠い親戚って言ってたっけ?一回りも年上の彼女って、どんな感じ?」
しらふの時なら不躾で聞けない質問も、お酒に酔ってることにすれば
ストレートに聞くことができる。
そして、健人と雪見のやり取りを見る当麻に、みずきは注目していた。
「一回り年上って、今まで意識したことないなぁー。
そりゃ子供の頃の十二歳年上は、とんでもなくお姉さんだなぁと思った
けど、お互い大人になっちゃうと、別にそんなに意識はしない。
ゆき姉はどう?俺の事、十二歳も年下だって意識してる?」
「うーん、まったく意識しないわけじゃないけど、十二歳差とは
思ってないかな?健人くんって、高校生の時にこの世界に入って
やっぱりそれなりに苦労してきてるから、同年代に比べると全然大人!
私の方が教えられる事もたくさんあるし、結構頼れる彼氏です!」
「へーっ!俺のこと、そんな風に思っててくれたの?
めちゃめちゃ嬉しい!やっぱりゆき姉、だ〜い好きっ!」
そう言いながら酔った健人は、雪見のほっぺたにキスをした。
そんなはしゃぐ二人のやり取りを、笑顔の消えた当麻が見つめていた。
『ふーん、そういうことね。この三人の関係は…』
みずきが納得したかのようにうなずいた。
すっかり出来上がった健人の、雪見への愛情表現は可愛らしくて
みずきと津山には微笑ましく目に映ったが
当麻には、何もかもが心を傷つける真っ赤な薔薇の棘でしかなかった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.100 )
- 日時: 2011/04/12 07:12
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
「今日はすっかりご馳走になってしまって、ありがとうございました!
本当に楽しかったです!お会いできて光栄でした。」
雪見が部屋を後にする間際、津山とみずきに礼を言う。
「こちらこそ、楽しかったわ!雪見さんとお友達になれて良かった!
私、明後日にはまたロスに戻らなくちゃならないけど、
今度会う時まで、健人くんと当麻くんをよろしくねっ!」
みずきが雪見の手を両手で握りながら、笑顔で言った。
「任せておいて下さい!みずきさんも身体に気をつけて、頑張ってね!
日本からみんなで応援してます。またここでお会いできるのを楽しみに
私も仕事、頑張りますから!」
「今日はいい一日じゃったよ、楽しかった!
若者たちから生きるエネルギーをもらったようだ。
わしもまだまだ頑張らんといかんな。
おい、二人とも!わしが元気なうちに早く天辺まで登ってこい!
わしら三人で、日本中がアッと驚くような映画でも作ろう!」
津山が、健人と当麻に向かってげきを飛ばした。
「おじいちゃん!その中に私は入れてくれないの?
私、おじいちゃんと日本一の映画で共演したくて、頑張ってここまで
登ってきたんだけど!」
みずきが口をとがらせて、津山に抗議する。
「おぉ、お前がおったな!じゃあ、凄い映画が出来上がるじゃないか!
日本一の女優と日本一の俳優三人の、夢の共演じゃ!
お前たち二人が日本一の役者になるには、もう少しかかりそうだが
手の届かん夢ではないぞ!これからの努力が肝心じゃ。
わしの年頃になると、一年先の約束は出来ないもんだ。
だから一刻も早く、わしの所まで登ってきておくれ。
お前たちのこれからの活躍に期待してるよ!」
そう言いながら津山は、健人と当麻に握手を求めた。
身に余る光栄な言葉に、健人と当麻はほぼ泣き出す寸前である。
必死に奥歯を噛み締め涙をこらえていたのだが、
先に当麻の瞳から涙がこぼれ落ちた。
「えーっ!当麻くん、泣いてんのぉ!嘘!健人くんもぉ?」
みずきの素っ頓狂な声に、雪見が隣の二人の顔を覗くと
確かに二人とも、大きな瞳からポロポロと涙を落としている。
「もう、泣き虫コンビなんだからぁ!本当によく泣くんですよ、
この二人。いっつも私が泣かしてるみたいで、困っちゃう!
でも津山さんのお言葉が、本当に身に染みて嬉しいんだと思います。
きっとこの先、今のお言葉を忘れずに努力していくと思いますよ。
どうぞ、二人のことを見守っていて下さいね。」
雪見が、二人の我が子を愛おしそうに見つめるような瞳で
健人と当麻を見ていたのを、津山もみずきも知っていた。
この三人の仲がいつまでも続いて行くことを、みずき達は祈っている。
『秘密の猫かふぇ』を出た時には、閉店時間の十二時を回っていた。
雪見と当麻は、健人に比べるとそんなにも酔ってはいない。
最初に酔った人を見てしまうと、その人の介抱をしなくてはという
意識が働き、後からは酔えない性分の二人だった。
足元のおぼつかない健人を両脇から支え、ゆっくりと夜の街を歩く。
タクシーを拾える通りまでは、ほんのわずかな距離なのだが
身体を預けた健人を支えながらでは、亀のような歩みである。
夜の十二時では、まだ結構な人が歩いている。
途中、何人かの人が健人と当麻に気がつき、声を上げる。
「あれぇ!斎藤健人と三ツ橋当麻じゃねーの?」
「あ、ほんとだ!じゃあ、あの女って、さっきツイッターで見た
雪見とかって言うカメラマン?」
「あの三人が三角関係になっちまってるわけ?
そんなにあの女、いい女かぁ〜?よっぽどお前の方が綺麗だけど!」
若いカップルが笑いながら通り過ぎた。
突然耳に飛び込んできた話に、雪見と当麻の足が止まる。
全身が凍り付いたように、冷たくなってゆくのがわかった。
そのうち雪見がガタガタと震え出す。
「どうしよう…。どうしよう…。」
うわごとのように雪見はつぶやくだけで、他の言葉が出てこない。
涙が溢れてきた。もう、だめだ…。
「とにかく、早くタクシーに乗ろう!」
当麻が雪見を励まし、なんとか三人でその場を立ち去った。
健人、当麻、雪見の順にタクシーに乗り込み、雪見のマンションを
行き先に決める。
一刻も早く、誰の目も届かない所へ避難したかった。
健人は酔いつぶれて眠ってしまったようだ。
「どうしよう…。どうしたらいいんだろう…。」
うわごとのように繰り返す雪見の手を、隣の当麻がギュッと握った。
しばらくは無言のまま、手を握り締めていた。
その温もりが心に染み込んで、またしても雪見の目から涙が溢れる。
「大丈夫だよ、大丈夫!ゆき姉のことは、俺と健人が絶対守るから。
だからもう泣かないで。」
当麻は雪見を安心させるために、わざと笑顔を作って頭を撫でる。
その優しい瞳に、雪見は少し胸がキュンとした。
「いよいよ、敵が戦いを仕掛けてきたな…。どうしようか。
まずはマネージャーに連絡して、今野さんにも伝えてもらおう。
それから『ヴィーナス』の吉川さんにも連絡を入れた方がいい。
ゆき姉、ケータイの番号知ってる?」
「うん、この前聞いておいた。また吉川さんに迷惑かけちゃうな…。」
「そのための吉川さんだろ?ちゃんとその辺は準備してあるさ。
でもこんなに早く、次の攻撃を仕掛けてくるとは思わなかったけど。」
「ごめん、当麻くん。結局当麻くんまで巻き込んじゃったね…。
全てはあの時、大人の対応をしなかった私が悪いんだ。
あの時、彼女にあんな態度さえ取らなければ、当麻くんや健人くんを
こんな目に遭わせなくて済んだのに…。」
そう雪見は自分を責めてまた泣いた。
「ほーんと、なんだかんだ言っても、ゆき姉だって泣き虫じゃないか!
さっきは俺たちだけが泣き虫みたいに言ってたけどさ。
ほらほら、もう泣かない!化粧が落ちて、ほぼスッピンだよ!」
「えっ?うそぉ!やだ!どんな顔してんの?」
そう言いながら鞄から鏡を取り出し、顔を覗いていた時、
ふいに当麻が頬に軽くキスをした。
「えっ!」
驚いて当麻を見たが、彼は雪見をただ見つめるだけで何も言わない。
雪見もそれ以上、何も言えなかった。
二人が見つめ合う隣で、健人はすやすやと寝息を立てている。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.101 )
- 日時: 2011/04/14 07:41
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
雪見は当麻を見つめ、これはデジャヴュなのではないかと思っていた。
以前にも、これと同じようなシチュエーションで頬にキスされた事がある。
あの時も、タクシーの中で泣いた後に鞄の中から鏡を取り出し、
顔を覗いていたときに不意に頬にキスされた。
それは彼氏である健人からの、愛あるキス…。
だが雪見は、当麻のキスの意味がわからなかった。
酔っぱらった上での、何の意味も持たないキスなのか。
それとも、泣いてる私を慰めるため、心優しい友としてのキスなのか。
その真意を知りたいと思った。
「どういう意味?」 雪見はあえて冷めた声で当麻に聞いた。
「えっ?」
当麻は雪見の冷たい声で我に返り、自分の衝動的な行動を後悔した。
自分でも、自分の行動の意味がよく解らなかった。
お酒に酔った勢いでの事か…。
それとも、確かに愛情という意味を持つキスだったのか…。
後者だと答えた時、雪見はなんて答えるだろう。
自問自答しながら当麻は、やっと自分の真意を見つけてしまった。
『確かに俺は、ゆき姉を愛してる…。』
だがそれを、雪見からの質問の答えにしてもいいのか?
いいや、ダメに決まってる。
雪見は親友の彼女なのだから…。
健人から雪見を奪うなんて出来やしない。
健人との関係を壊してまで奪おうなんて、思ってもいない。
ただ俺は、あの時泣いてたゆき姉が愛しくなって、単純にキスが
したかっただけ。
今、それ以上の答えを出す時間は無かった。
もう少し他の答えがあるのは解っていたが、そんな時間の余裕は無い。
タクシーを降りる前に、健人が目を覚す前に決着をつけなければ…。
長い沈黙のあと、当麻がおどけた声で雪見に答えた。
「あー、ごめんごめん!俺、酔って変な事しちゃった?
ショック療法みたいなやつ。ビックリしてた間は、嫌なこと
忘れられたでしょ?」
かなりキビシイ言い訳だったと、言った側から少し後悔したが
取りあえず、これで愛情の隠れ蓑にはなったかな?と安心した。
が、相変わらず雪見は、表情ひとつ変えずに当麻を見つめる。
まるで当麻の腹の内を探るかのように…。
「本当にそうなんだね?別に意味なんか無かったんだよね?
……じゃ、安心した。意味が無いなら、今のは忘れる!」
忘れる…。そう言われて当麻は、悲しいという感情が新たに出現した。
だが今はどうすることも出来ない。
もうこのやり取りを早くに終わらせなければ、雪見のマンションが
近づいてくる。
キス以前の自分に戻ろう。雪見を姉のように慕う健人の親友に…。
「そうそう!忘れちゃって!あ、この辺だっけ?ゆき姉んち。
健人!起きろ!ゆき姉んちに着くぞ!」
「え?ゆき姉んち?なんでゆき姉んちなの?」
まだ酔っている健人には、なぜ三人で雪見の家に向かっているのか
まったく意味が解らなかった。
先ほどのツィッターの話も記憶には無いし、
もちろん、タクシーの中で当麻が雪見の頬にキスしたことも…。
「どうぞ!早く入って!また誰かに見つかると、厄介だから。」
雪見が玄関の鍵を開け、当麻と健人を中へと促す。
「へぇーっ!なんかお洒落じゃん!ゆき姉んちって。」
当麻が健人を支えながら、玄関ホールを見回す。
雪見はナチュラルインテリアが大好きで、アンティーク雑貨を多く
採り入れた部屋作りを楽しんでいる。
それは玄関先から始まって居間から寝室、トイレに至るまで
トータルでコーディネイトされていた。
「健人くん、大丈夫?取りあえず、ここのソファに座って!
今、冷たい飲み物持ってくるから。」
雪見がキッチンに入ってる間、健人はソファにごろんと横になり、
当麻は興味深げに部屋のあちこちを見て歩いた。
居間の壁の一角に、いろんな写真を小さなパネルにして飾ってある
コーナーがあった。その前に立ち止まり、一枚ずつ眺めて見る。
ほとんどが猫の写真なのだが、その中の一枚に目が奪われた。
健人が雪見の肩を抱いて、満面の笑みで映っている写真であった。
それは、雪見が健人の実家に泊まりに行った時に
近くの河川敷で撮した、はじめてのツーショット写真であった。
これを撮した時は、まだ恋人同士になる何時間か前。
シャッターが切れる直前に健人が肩を抱き寄せたので、
健人のイケメンスマイルに対して雪見はビックリ顔をしている。
最初雪見は気に入らない写真だったのに、今は大好きな一枚だ。
当麻が身じろぎもせず、ただじっとその写真の前で立ち尽くす。
健人のこんな嬉しそうな顔を、今まで見たことがあっただろうか…。
「その写真、いいだろ?」
突然、後ろから声がしてびっくりして振り向くと、
当麻のすぐ後ろに健人が立っていた。
「それね、ゆき姉と初めて二人で撮した思い出の写真なんだ。
ゆき姉は、自分が変に写ってるからって嫌がってたけど、
俺にとっては大事な一枚。
この日の帰りにゆき姉が、好きだって言ってくれた
一番大事な思い出の写真。ゆき姉も飾ってくれたんだね…。」
健人はその写真をいつまでも愛しそうにながめている。
その横で当麻も、複雑な思いで同じ写真を見つめていた。
『健人には、どうやっても勝てないのかな、俺…。
ゆき姉が俺を選んでくれるってことは、あり得ないのかな…。』
しばらくの静けさの後、当麻は自分の思いを吐き出したい衝動に
駆られていた。でも、言っちゃいけない。言ったらすべてが終わる。
でも……。
「あのさ、健人。俺ね…。」
当麻が何かを言い出そうとするのを阻止するかのように、健人が話し出した。
「当麻、俺ね。ゆき姉が一緒にいないと、生きていけないんだ。
俺にとってゆき姉は、もうそんな存在になっちゃったんだよ…。」
健人の言葉に、当麻は声を失った。
『健人は、俺のゆき姉への思いに気付いている!』
当麻が衝撃を受けていた時、二人の元へ雪見が飲み物と果物を運んで来た。
「ねぇ!お酒の後にはフルーツがいいんだって!
いろんなの切ってきたから、こっちに座って食べよ!」
雪見の声に、健人と当麻の間の空気がシャッフルされた。
二人の男からの愛情を、雪見はどう受け止めるのだろうか。
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