コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.482 )
- 日時: 2013/06/28 18:16
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「もしもし、母さん?」
健人とホンギはリビングで熟睡中。
寝室のドアも閉めてるとは言え、真夜中の静まり返った家の中に
雪見の良く通る声は思いのほか響いた。
しまった!と小さく舌を出し、今度はヒソヒソと呼びかける。
「母さん?雪見だけど。どう?調子は。」
「あ…お姉さん!?ひろ実です!ご無沙汰してましたぁ。
え?今、ニューヨークからですか?時差って確か13時間?」
「…えっ?うそ、ひろ実ちゃん!?久しぶりー!元気だった?
あれぇ?私、間違えてひろ実ちゃんにかけちゃったぁ?」
ひろ実とは雪見の弟、雅彦の嫁である。
雪見の5歳年下で28歳。結婚3年目で、まだ子供には恵まれない。
結婚当初は横浜に住んでたが、去年雅彦の転勤で神戸に引っ越した。
「あ、違います違います!私、お義母さんのお見舞いに来てるんです。
お義母さん、今…熟睡してて…。」
「そうなの?ごめんねー!わざわざ来てくれてるのに。
今日は東京に泊まるの?あ、もしかして留守宅を見に来てくれた?」
「あ…。はいっ!そうです。雅彦が行って来いって。
しばらくお義母さんとこに泊まらせてもらいます。」
「偉そうだなぁー相変わらず(笑)。ひろ実ちゃんも大変なダンナを持ったもんだ。
でもありがとねっ!私も助かるし母さんも喜んでるでしょ。
あーあのね、母さんには怒られると思うんだけど…。
私、来週結婚式終わったら…日本に帰ることにしたから。」
「えぇーっ!?帰る…って、新婚早々健人くんを一人置いて来ちゃうんですかぁ!?」
ひろ実の声は確実に病室内にこだましたはず。
母さんが起きちゃうよ!と笑いながらたしなめて、そうなった経緯を話した。
「健人くんがねっ、ゆき姉の母さんは俺の母さんでもあるんだから、
ちゃんと看病してくれないと困る、って。
健人くんて、ほんとはすっごい寂しがり屋さんなんだけどねっ。
でも私の代わりにそばに居てくれる人、今日みっけたんだぁ!だから大丈夫なの♪」
新婚の奥さんの代わりになる人って?…と疑問符が浮かんだが、雪見の上機嫌な声と
のろけ混じりの話に少なからず安堵する。
「お姉さん…幸せそうで良かった!お義母さんも安心して寝てられる…。」
「…えっ?」
「あ…いや、お昼寝から起きたら話しておきますねっ。」
「あーちょっと待って!やっぱ話さなくていい。
母さんに言ったら『帰ってこなくていいから!』って絶対言われそうだもん。
結婚式の二日後には帰るつもりだけど、母さんにはナイショにしといて。
わっ、ヤバッ!健人くんが起きちゃったかも。大きな声で喋りすぎた(笑)
ひろ実ちゃん、ずっと母さんに付いてなくてもいいからね!
たまには羽伸ばして、買い物でもしておいで。じゃーまたねっ!」
義姉らしい、早口で慌ただしい電話だったとクスッと笑いながらケータイを切り、
それを義母の枕元にそっと置いた。
「お義母さん、聞こえた?お姉さんからの電話だったよ。
元気そうだったから安心してね。凄く幸せそうな声してた。
良かったね、お義母さん…。」
ひろ実は…出来ることなら目覚めて欲しいと義母の耳元で話して聞かせた。
「もう少し頑張ってね。お姉さんが帰って来るから…。
あれで良かったんでしょ?早く帰れって言わなくて良かったんだよね?
私、お義母さんとの約束、ちゃんと守ってるよ…。
手紙に書いてあった通りにしてるから…。
お姉さんに黙ってるの辛いけど…お義母さんと約束したもんね…。
ごめんね…。何にもしてあげられない嫁で…。ごめ…ん…。」
ベッドサイドでとうとうひろ実は泣き出した。
苦しくて苦しくて、背負い込んだものが辛すぎて…。
だけれど嫁として最後の仕事をやり遂げなければと自分に言い聞かせ、
涙を拭いて義母を見る。
義母の返事がうっすらとでも聞こえるのではないかと、しばし耳を傾けた。
が…そんなことはあるはずもなく、義母は堅く目を閉じたまま眠り続けてる。
この世とあの世の、境界線ギリギリに置かれた白いベッドの上で…。
もう永遠に覚めることのない昼寝中…。
「ゆき姉…?まだ起きてるの?」
寝室を小さくノックして健人が入って来た。
ベッドの上で本を読んでたフリをした雪見は、別に隠すことでもないやと本を閉じ、
母に電話したら義妹が来てたと報告した。
「そう!良かったね。これで少しは安心できるじゃん!
まぁ、ゆき姉の嬉しそうな声が聞こえたから、そんなことだろうと思った。」
「あ…やっぱ聞こえてた?」
「聞こえてた(笑)。
で、お母さんの具合はどうだった?少しはいいみたい?」
「今、お昼寝中だったの。向こうは3時だもん。ちょうど眠くなる頃だよね。
今度起きてそうな時間に電話してみる。
でもついついタイミングを逃しちゃうんだよなぁー。
13時間の時差って、病人相手だと難しい(笑)」
「アラームでも掛けておきなさいっ!」
健人は笑いながらベッドに腰を下ろし、雪見の手から本を抜き取ったあと
両手でそっとメガネを外して本の上に重ね、サイドテーブルにぽんと置いた。
「ゆき姉の隣じゃないと眠れない。」
「うそだー!ホンギくんの隣で気持ちよさそうに寝てたからっ。」
真剣な目をして言う健人がおかしかった。
まるで夜中に目を覚まし、子供部屋を抜け出してきた男の子みたいに可愛くて、
クスクス笑いながら雪見は軽くキスをした。
「こんなことじゃ先が思いやられますけど?」
「大丈夫。その時が来たらガマンする。でも今はガマン出来ない。」
雪見に唇を押しつけながらベッドに倒れ込み、何度も何度もキスをする。
が、突然顔を離して何を言い出すのかと思ったら…。
「さっきの電話みたいな声は出さないでねっ。
ゆき姉の声って、この家じゃスゲェ響く事がよくわかった。」
「じゃあ、ずっと唇ふさいでて…。」
二人は再びキスを重ね、お互いを熱く激しく求め合うも、永遠の愛を誓うかのように
最後のその瞬間まで唇を離すことはしなかった。
白々と夜が明ける。
このベッドの上で二人揃って朝陽を浴びられるのも、あとわずか…。
雪見は、隣で眠る天使の長いまつげがキラキラ光を弾くさまを、飽きずに眺めてた。
右側を下にして眠る彼と、左側を下にしなきゃ眠れない私。
目を覚ますといつも目の前にいた人が居ない朝ってきっと…寂しいよね…。
ごめんね、健人くん…。
頬のほくろにそっと口づけて、雪見は静かにベッドを下りる。
また新しい朝が生まれた。
昨日に留まっていたくても、否応なしに今日は生まれる。
明日もあさってもその先も、新しい朝と共に今日が生まれる。
窓の向こうの景色は、どんな一日を補償してくれるのか。
それさえも解らぬ自分に微かな不安を覚えながらも雪見は
今日をスタートさせる扉を開いた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.483 )
- 日時: 2013/07/06 12:17
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「あ、おはよ!ホンギくん♪よく眠れた?…って床の上じゃ身体痛かったでしょ?」
「あ…おはよございます…。もしかして俺…そーとー飲んだ?めっちゃ頭イテェ…。」
「うん。ゲストルームに連れて行こうとしたけど全然起きてくれないぐらいは飲んだ。」
あっちこっちに跳びはねた金色の髪が可愛くて、思わずクスクス笑ってしまう。
雪見は薬の入ったカゴから頭痛薬を取り出し、冷えたミネラルウォーターと共に
「はいっ。」とホンギに手渡した。
「お酒は私達ほど強くはないってことね。了解!じゃあ、これからのアドバイス!
健人くんのペースで飲んだら確実に今日みたいになるってこと、覚えといてねっ(笑)」
「わかった…。肝に銘じておく…。」
「あははっ!朝から完璧な日本語だー!素晴らしいっ(笑)
ホンギくんに日本語を教えたお婆さまも素晴らしいのね、きっと。
さ、朝ご飯用意しておくからバスルーム使って!着替えは健人くんのでガマンしてね。
レッスンまでにシャキッとしなくちゃ!」
ユキミって朝から元気だな…。朝飯なんか食えるかな…。
頭痛薬を流し込み、痛む頭に手をやりながらホンギはバスルームの扉を開けた。
「な、なにーっ!?このバスルームぅぅ!!」
ホンギの驚く声が家中に響き渡る。まぁ無理もない。
贅沢な造りの大きなバスタブとこの家一番の絶景が、ドアを開けた瞬間
彼を待ち受けていたのだから。
「どんな大声だよっ!あれだけ元気なら二日酔いのレッスンでもOKだな(笑)。
おはよ!ゆき姉、ほとんど寝てないんじゃない?大丈夫?」
キッチンで朝食の準備をしてた雪見の元に健人がやって来た。
後ろからギュッと抱きかかえるようにして、心配そうに顔色を覗き込む。
「大丈夫だよ。平気平気!
健人くんの寝顔見てる方が、自分が寝るより百倍疲れが取れるもん。」
「んなわけ、あるかっ!」
健人が雪見の背中で笑ってる。
が、首筋に健人の吐息を感じ、雪見は思わず肩をすくめた。
「だめっ!ジッとしてて。」
いつものごとく後ろから雪見を抱き締めて、うなじにそっと口づける。
料理をする時とカメラの仕事中にだけする、長い髪をクルクル丸めて留めただけの
無造作アップヘア。
健人は、後れ毛がフワフワしたその中に顔をうずめ、雪見の匂いに包まれて
首筋にキスするのが好きだった。
それは時に身体を求める合図の場合もあるのだが、大抵は心の安らぎを得るため。
以前飲みながら、その行動の理由を聞いてみたことがあるが、健人は
「なんか落ち着く」と表現した。
何かの本で読んだことがある。
子供が母に抱きつくのは、母の匂いに包まれると自分は守られてると安心するから、と。
多分それと同じ原理。だから雪見は、健人の心の母でいようと決めたのだ。
心が満たされると健人は最後に頬に口づけて朝の儀式を終える。
「ねぇ。朝飯作ったら少し眠れば?夜までもたないよ。
今夜はミュージカルを観に行くのに。」
「ありがと。でも大丈夫。もったいなくて寝てなんかいられないの(笑)」
「もったいないって…なにが?」
健人は横から手を伸ばしてサラダのミニトマトをつまみ、自分の口にポンと放り込む。
「健人くんとね…ここに一緒にいる時間。
不思議だよね。東京でだって一緒に暮らしてたのに、なんだかここには
違う時間が流れてる…。
眠っちゃうとね、時間があっという間に進んじゃう気がしてもったいないの。」
そう言う雪見を、健人は思わず力一杯抱き締めた。
愛しくて、けれども切なくて…。頬ずりしながら頭を撫でた。
「なに言ってんだか…。ほんの少し離れるだけじゃん。あっという間に俺も東京帰るよ。
俺が帰ったらすぐ…二人で婚姻届を出しに行こう。
自分たちで出しに行くのが夢だったんでしょ?」
「そう!窓口の人が書類を確認した後に『おめでとうございます!』
って祝福してくれるの。それって嬉しくない?」
「別にさ、窓口の人じゃなくても、みんなが言ってくれるでしょ(笑)
ま、いいや。で、その後お母さんの病院寄って報告するってのはどう?」
「うん!母さん、きっと喜んでくれるねっ!ありがと、健人くん。」
「あ…婚姻届出した瞬間から、俺のこと君付けで呼んだら罰金もーらおっと!」
イタズラな目をして健人が言った。
「えーっ!そんなのずるーい!じゃあ私のことも『ゆき姉』って呼んだら罰金!
私、健人くんのお姉さんじゃないもーん!」
「げ!俺も、ゆきみ…とかって呼ぶの?うわ、めっちゃハズいしヤベェ!
俺の方が罰金取られるかも。てか…ゆき姉はゆき姉でいんじゃね?」
健人が笑いながら、そそくさとキッチンを退散。
入れ替わるように窓からサラサラと入る風が心地よい。なんだか今しがたの健人みたいに…。
今日は自主トレをやめにして、ゆっくり朝食を楽しんだあとに三人揃って登校した。
ホンギはクラスでも人気者らしく、彼の周りにはたくさんのクラスメイトが集まってくる。
当然、一緒にいる健人にも皆が英語で話しかけ、どうやら健人の英語力は
たくさんのネイティブな先生によって、グングン上達しそうだった。
本日のレッスンがスタート。
健人は英語のウォーミングアップのお陰で、先生とのコミュニケーションもバッチリ。
雪見が通訳として必要とされる場面など、どこにもなかった。
良かった…。これだけ意志の疎通が出来るなら、もう何も心配はいらないや…。
自分の役目がひとつ減り、ちょっぴり寂しい気持ちと嬉しい気持ち。
よしっ!と頭を仕事モードに切り替える。
朝から精力的に動けたお陰で、お昼前にはレッスン場面をほぼ撮りきり、
最後にクラスメイトとのランチ風景を撮影してその日の仕事は無事終了。
「ゆき姉は一旦帰って夕方まで寝ておいで。
ミュージカル観てる最中に、隣で爆睡されると困るし(笑)」
「ひっどーい!いくら私でも、そんなことしませんて!(笑)
でもカメラバッグを置いて来たいから、そうしよっかな?
健人くんのレッスンが終わる頃に迎えに来るね。じゃ午後も頑張って!」
雪見は、街角の恋人同士がごく自然にキスして別れるように健人に口づけて
アカデミー内のカフェを後にした。
地下鉄駅まで歩く道すがら、なぜか足は途中にある大きな公園へ。
ここには野良猫がたくさんいると聞き、一度来てみたいと思ってたのだ。
『えへへっ、ちょっとだけ寄り道しちゃお♪健人くんが心配するから少しだけね。
うわ、猫ちゃんがいっぱいいるぅ〜♪NYの猫ちゃん、初めまして!』
雪見は、久々に出会った野良猫が可愛くて嬉しくて!
一気にテンションが上がり、カメラを素早く手にすると広い公園内を
縦横無尽に、興奮しながら猫の撮影を始めてしまった。
すると彼女は案の定、周りが何も見えないほど撮影に熱中。
いつものごとく、所構わず腹這いになっては猫目線でシャッターを切るものだから
彼女の周りにはいつの間にか、ちょっとした人垣が出来ていた。
「さっき彼女に聞いてみたらね、日本から来た猫カメラマンだって言うのよ。
見て見て!あんなに可愛らしいのに、服が泥だらけ!」
見物人のそんな声を耳にして、足を止めた男がいた。
人垣の後ろから覗き込んだその長身の男が、驚いたように声を掛ける。
「雪見…?雪見っ!どうしてここにいるの!?」
「えっ…?う、うそっ!まな…ぶ?」
そこに立っていたのは、雪見の大学時代の恋人。
今は世界的に有名になってしまった科学者の…学であった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.484 )
- 日時: 2013/07/07 21:23
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「どうしたのっ!?どうして学がここにいるの?」
びっくりして立ち上がった雪見の服は泥だらけ。
だが本人は、まだその事実に気付かない。
ただただ目の前に現れた元カレが信じられず、ボーゼンと立ち尽くしてる。
立ち尽くしてたのは学も同じなのだが…。
「どうして…って、それ俺のセリフだけど…どうしたの?その服…。」
「え?…服?…キャーッ!なにこれっ!なんでこんなに泥んこなのぉぉ!?」
日本語のわからない見物人たちも、パントマイムのように一人で大騒ぎしながら
泥を払ってる雪見に大笑い。
「相変わらずだな、雪見は…。」
苦笑いした学が懐かしそうに歩み寄る。
そして仕立ての良いのスーツのポケットから、真っ白なハンカチを取り出し
「はい。」と雪見に差し出した。
「あ…ありがと。でも…いい。汚しちゃうから。
あーあぁ…。このお洋服買ったばっかりなのにな…。」
『雪見は…俺に会ったことよりも、洋服の心配をするのか…。』
学は少し気落ちしたが、このままここで別れるわけにはいかない、と
雪見を連れて立ち去ろうとした。
「雪見!こんなとこじゃ何だから、とにかく行こう。」
「ちょ、ちょっと!まなぶっ!」
学が右手で雪見の手首をつかみ、左手でカメラバッグを持ち上げて
見物人の間を抜けようとしたその時だった。
「もしかして…サイエンスティーチャーのマナブ?」
「えっ?ほんとだっ!テレビに出てるマナブ先生だー!」
「テレビで見るよりずっとステキッ!先生、サイン下さいっ!」
「私と写真撮ってーっ!!」
突然その場が騒然とし、雪見も学も囲まれて身動きが取れなくなってしまった。
日本で雪見が健人と共にファンに囲まれることはあっても、まさかこんな
ニューヨークの公園で、元カレが原因で取り囲まれる日が来ようとは!
「なっ、なんなのっ?サイエンスティーチャーのマナブ…って!
テレビに出てるの?学が?ウソでしょ?
あんなに凄い賞を獲ったのに…辞めちゃったの?科学者…。」
『雪見が悲しそうな顔をした!?俺のために…?』
雪見はまだ俺のことを気に掛けてくれてたのかと、なんだか嬉しかった。
久々に心が沸き立った。
「違うよ。辞めてなんかないさ。
でもデンマークの研究所から、こっちに拠点を移したんだ。
そしたら今の上司の命令で、どーゆーわけかテレビに出ることになっちゃって。
まぁ詳しい話は後でしよう。ちょっとだけ、ここで待ってて。」
そう言いながら学は「サインだけなら応じます。」と雪見から集団を離すため、
少し離れた場所へと移動した。
その様子をぼんやりと、雪見が木陰で眺めてる。
学がサインなんかしてる…。みんなが写真撮ってる…。
どうしたんだろ?こっちの芸能事務所にでも入っちゃったのかな…。
この人…こんなに洗練されてた人だっけ?随分高そうなスーツ着てるし…。
やっぱり学ってイケメンなんだ。ふーん…。
てか…なんで私、こんなとこに居るんだろ…。
そうだ、帰って着替えて健人くんを迎えに行く準備しなくちゃ!
雪見は我に返ったようにカメラバッグを手に持ち、学が忙しそうにサインしてるうちに
黙って公園出口へ向かおうと歩き出した。
ところが…。
「マナブ先生っ!彼女、帰っちゃいますよ!いいんですかっ!?」
「大事な話があるんでしょっ!私達はいいから早く追いかけてっ!」
またしても後ろから、見物人たちの大騒ぎが耳に飛び込んできた。
な、なんなのよっ!
まさか学、あのおばちゃん達に私のこと「元カノ」とかって話したんじゃ…!?
英語が出来るって良いことばかりじゃない!と、この時初めてそう思った。
もしも私が英語を理解できなかったら、何も気に留めることなくスタスタと
ここを立ち去れたのに、と…。
「雪見、待てよっ!
せっかくこんなとこで奇跡の再会したのに、それはないだろ?」
学が日本語でそう言った後、スーツの内ポケットにペンを仕舞い込み
「じゃ、ありがとう。」と見物人に軽く手を挙げ笑顔を見せる。
それからおもむろに向かって来たのだが、冷ややかな目をした雪見が待ち受けた。
「随分とエライ先生になったものね。
まぁ、なんとか賞を獲った世界的権威なんだから偉いんだろうけど。
でも何なの?いつからそんな気取った嫌なヤツになっちゃったわけ?」
「相変わらず容赦ないね、雪見は。何をそんなにいらついてんの?
ま、いいや。ここじゃなんだから、近くでお茶でも飲みながら話そう。
それぐらいの時間はあるよね?
俺が声を掛けなかったら、まだまだ猫を追っかけてただろうから。」
「ま、まぁ…。」
さすがに言い返す言葉もなかった。
事実、学に声を掛けられてなかったら、健人を迎えに行く時間も忘れて
猫を追いかけてた可能性が非常に高い。その点は学に感謝しよう。
「じゃ…少しだけね。私も夕方から用事があるから、帰って着替えないと。
…て言うか、この格好じゃカフェにも入れないよ…。」
どこにどう寝っ転がればこんなに服が汚れるのか、我ながら不思議だ。
あーあぁ…。これ健人くんが、似合うねっ!て言ってくれたのに…。
今日のミュージカルデート用に買ったお洋服だったのにな…。
自分の服を見ながらしょんぼりしてる雪見を、学がいきなり手を引いた。
「おいでっ!少し早いけど誕生日プレゼントを買ってあげる。タクシーっ!」
「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!どこ行く気っ!?」
雪見は、公園出口に停まってたタクシーに無理矢理押し込められ、
学によって風のごとく連れ去られた。
この広い地球上のこの場所この時間に、元カレと元カノが偶然にも出会う確立とは
一体如何ほどか。
科学者先生ならそれぐらいの計算、ものの数分で答えをはじき出すだろう。
もちろんそんな先生と机を並べた雪見にも、その気があれば計算できる。
だが…。
奇跡と呼ばれる事例の中には、少なからず人為が加わってる場合があることを
雪見はもっとよく知っておくべきである。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.485 )
- 日時: 2013/07/09 20:23
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「雪見、着いたよ!降りて。まったく、どんだけ眠たかったんだか(笑)」
「えっ?着いた…って、ここ…!?」
どうやら雪見はタクシーに乗り込んだ瞬間、爆睡したらしい。
まぁ無理もない。
健人、ホンギと飲んだ後、ほとんど眠らず朝まで健人の寝顔を見てたうえ、
ついさっきまで公園を駆け回ってたのだから。
時間にしてほんのわずかだった気がするのに、いきなり場所がワープしてて驚いた。
学に促されて降り立った先…。
そこは世界の高級ショップがずらりと並ぶ、言わずと知れたニューヨーク五番街であった。
「ちょ、ちょっとぉ!人が寝てる間に、何てとこに連れてきたのよ!
こんなお店に、このカッコで入れるわけがないでしょ!?
大体、少しだけお茶しよって話だったのに、なんで五番街になんか…」
「ストーップ!それ以上店先でわめくなら、その口を縫いつけてもらうぞ!
お前が泥だらけでカフェにも入れないって言うから連れて来たんだろーが!
誕生日プレゼント買ってやるって言ってんだから、つべこべ言わずに、とっとと入れっ!」
「な、なによっ!えらそーに!学が恥かいても知らないからっ!」
いつになく強気な態度に憤慨したが、学がさっさと店に入ってしまったので
仕方なく雪見も後に続いてドアを押し開けた。
…が、足を踏み入れた瞬間、回れ右して帰りたくなった。
あまりにも自分の格好が場違いで、恥をかくのはやはり自分だとすぐ気付いたのだ。
ところが…。
「いらっしゃいませ、ナシド様。お待ちしておりました。どうぞこちらへ。」
店にはすでに何人かの上客が品定めしてたのだが、その金持ちそうなご婦人方が振り向く前に
スッと出迎えた店員によって、店の二階へと案内された。
訳もわからず雪見は学の後について、入り口すぐ横にある重厚な階段を上っていく。
すると真っ先に目に飛び込んできたのは緋色の絨毯と、これまた高級そうな応接セット。
その向こうにはブティックハンガー3台に、何やら女性服がずらりと並んでるではないか。
状況が把握できないまま立ち尽くした雪見をよそに、学はまるで常連客かのような落ち着きで
ブロンドヘアの美人店員と会話してる。
「電話した物はチョイスしておいてくれましたか?」
「もちろんでございます。お見受けしたところ、当店のモデルより着こなして下さりそうで
嬉しゅうございますわ。」
「は、はいっ!?」
思わず雪見は日本語で反応してしまった。
なに言ってんの?この人。
モデルより着こなして下さりそうで…って、私はご覧の通り洋服を泥だらけにする
猫カメラマンだっちゅーのっ!
こんな高級店にはご縁がございませんっ!イヤミかっ!!
まったく、なんで学も私をこんなとこに連れてくるかなーっ!
5年も付き合った彼女の服の傾向くらい、覚えとけっ!
…て、いかんいかん。
どーも同い年の学に対してはキカナイ私が出現する。
健人くんと一緒だと、優しい自分でいられるのにな…。
健人くん、レッスン頑張ってるかな…。やっぱり帰らないで見てれば良かったな…。
会いたくなっちゃったよ…健人くん…。
そーよ!こんなとこで時間食ってる場合じゃないっ!
ここは大人しく学のしたいようにさせて、さっさとお茶も済ませて
健人くんを迎えに行かなくちゃ!
ブランド服なんて興味ないから何だっていいや。選ぶのもメンドクサイ。
うん、どーせお金出すのは学だし、その辺のやつにテキトーに着替えてここを出よう!
「この中から好きなの選んでいいの?私にプレゼントしてくれるんでしょ?学が。
じゃ、これでいい!これ下さいっ!
あ、着替えて行きたいんで、この値札取ってもらえますか?
……え?う、うそっ!こんなに高いのぉ!?ただの白シャツがぁあ!?」
雪見は、ふと目にした値札に驚き、思わず本音をぶちまけた。
しかし「え?うそっ!」以降は日本語で叫んだので、店員は何を言われたのか解らず
取りあえずの愛想笑いをして、タグを外しにその場を離れた。
「お前なぁ!なんてこと言うんだよっ!この店がどんな店だか知ってんの?」
学が呆れ顔して雪見を見る。
「失礼ねっ!さすがに私だって知ってるわよ!
英国王室御用達!各国のセレブがこぞって着るドレスが有名なお店でしょ?
だ・か・らっ!なーんでそんなお店に、カフェに着てくようなカジュアル服を買いに来る?
まぁ、Mr.ナシドは世界に名の知れた科学者さんで、仕立ての良さそうなスーツ着てるし、
こんなとこに躊躇せず入るくらいだから、研究以外でもお金稼いでるようだけど…。
もう、そんなことどーでもいいから、早く着替えてお茶しに行こう!」
何の変哲もない白シャツだろうが、高級品を買ってもらうには違いない。
なのに散々悪態をつく自分を大人げないなと思いつつ、戻ってきた店員から
シャツを受け取り、試着室に入ろうとした時だった。
「雪見!ちょっとこれも着てみて。」
学が後ろから付いてきて、何やらもう一枚手渡された。
スルッと広げてみるとそれは…淡いブルーの柔らかな生地で出来た…
ロングドレスであった。
「な、なによ、これっ!
いくら誕生日プレゼントったって、こんな高い物もらえないからっ!
第一、私の生活にドレスなんて、まったく必要なしっ!
着ないもの買ったって無駄にするだけ!戻してきて。」
雪見はスパッと言い放ち、その超高級ドレスを学に突き返した。
だが…学はなぜかとても真剣な眼差しで雪見に懇願するのだ。
「頼むから、着るだけ着てみて…。」
なに?どうしたっていうの?
こんなドレス、私の趣味じゃないことぐらい知ってるよね?
まさか元カノに、こんなの着せてみたかった願望があったの?
はぁぁ…。ここで揉めたって時間がかかるだけか…。
しょうがない…。着るだけタダだもんね。早くこの店から出たいよ、まったく…。
「わかった!貸してっ!着て見せればいいんでしょ?
言っとくけど似合っちゃうよ!けど、ぜーったいに『イ・ラ・ナ・イ』からねっ!」
雪見がしつこく念押ししてから試着室のドアを閉める。
それから程なくして出てきた彼女に、ブロンド店員が「Wow!」と目を丸くした。
淡いブルーの細身のロングドレスは、雪見のためにしつらえたかのように
サイズ、デザイン共にぴったりと馴染んでる。
見るからに柔らかそうな手触りの生地は、学の前では強気な雪見をふんわり包み、
おしとやかに、だけど知的に演出してた。
「とても良くお似合いですよ!あ、髪はアップにした方がもっと引き立つかと。
ちょっと失礼!ほらっ!いかがです?この方がグッと洗練されますでしょ?」
店員が、店の売り物と思われるヘアアクセサリーを手に取り、慣れた手つきで雪見の髪を
くるくるっとアップにして見せた。
どうです!私の見立てに間違いはないでしょ?と言うようなドヤ顔で、店員は学を見る。
雪見も自分の格好が恥ずかしくてたまらないのだが、早く学を満足させ
この店を出たいので、モデル並みのポージングをして見せた。
「どう?案の定、似合ってるでしょ?満足してくれた?
わ!もうこんな時間!早く着替えてお茶しに行こう。
あ、このシャツ、ありがとねっ!有り難く着させてもらいます。
じゃ、すぐ着替えるから待ってて。」
無言で見つめてる学を構ってる暇はない。
こんな高いドレス、汚したら大変!早く脱がなきゃ、と雪見が試着室のドアを
閉めようとしたその時だった。
「一生に一度の頼みがある…。
そのドレスを着て明後日、俺と一緒にパーティーに出て欲しい。」
「…えっ?あ、あさってぇ!?」
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.486 )
- 日時: 2013/07/12 14:50
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「言ってる意味がわかんないんだけど…。
私達ついさっき、久しぶりに会ったばっかなんだよ?
それも、こんなニューヨークのド真ん中で奇跡的に…。
これからお茶して『元気だった?』とか『こっちで何してんの?』とか
まずは近況報告でしょ?普通。
それをいきなり、一生に一度のお願いだからパーティーに同伴してくれ
って、そんな話あるっ?
…えっ…?ちょっと待って…。
まさか…会ったのは偶然じゃない、とか…言わない…よね?」
「悪い…。偶然…じゃないよ。雪見がこっちに来てることは知ってた。
日本のネットニュースとか見てるから。」
「嘘でしょ!?私が健人くんとニューヨークにいて、どこで何してるのか全部知ってて
あの公園にいたって言うのっ!?」
「違うよ。公園で雪見を見つけたのは本当に偶然なんだ。
ほんとはあのアカデミーに行って、話をしようと思ってた。
だけど早く着きそうだったから、時間調整しようと思って公園に行ったら
人だかりが出来てて…。」
「まさか…健人くんの前で、そんなずうずうしいこと頼もうとしてたのっ!?
信じられないっ!一体どーいうつもり!?ちゃんと説明しなさいよっ!!」
雪見はドレスを着たまま試着室に仁王立ちになり、凄い剣幕で学を怒鳴り散らす。
それに慌てたのは店員だった。
日本語はひとつも解らないが、それが痴話喧嘩であることぐらいは察しが付いた。
「あ、あの、お客様っ!ただいまお飲物をご用意致しますので、お着替えになって
どうぞあちらのソファーでお休み下さい。
そのドレスは試着室に掛けたままで結構です。
コーヒーがよろしいですか?それとも紅茶になさいます?」
「えっ?あぁ…じゃ私は紅茶を…。」
「僕はコーヒーをお願いします。」
「かしこまりました。ただいまお持ち致します。」
上品な笑顔で丁寧に一礼したブロンド美人は、そそくさと階段を下りて行く。
その後ろ姿を見送って、雪見は図らずも冷静さを取り戻した。
『ちょっと聞いてっ!二階の日本人カップル、いきなりケンカ始めちゃってさぁ!
あのドレス、買ってくれるの?どうなの?って微妙な感じ。』
とか、このあと同僚に話すんだろうな…と。
まぁいいや。まずはこんなドレス、早く脱いでしまおう。
試着室のドアをパタンと閉めた…まではよかったが、目の前にある高級白シャツと
泥だらけの自分のシャツの間で思案した。
果たしてこんな状況で、この高級シャツに袖を通して良いものか?
たとえ誕生日プレゼントという名目であっても、これを受け取ると言うことは…だ。
あさってのパーティーとやらに、同伴してもいいですよー!という
暗黙の了承と受け取られやしないか?
てか、そもそもあと何日かで結婚するってのに、元カレからこんな高い
誕プレ受け取るってどうなの?健人くんになんて言う?
学に偶然出会って、カフェでお茶しようと思ったら服が泥んこで、恥ずかしいから
新しい服を買ってもらっちゃった!えへっ♪…て?
「雪見、まだなの?紅茶が冷めちゃうよ。」
「あ…今行く。」
結局…雪見は白シャツを着て試着室を出た。渋々と…。
最後まで心が抵抗したが、カフェに行く以前の問題で、元の泥んこ服で
この二階から下りてく勇気がなかったのだ。自分の意気地なしっ!
「やっぱり雪見には、白い服が昔から良く似合う。」
コーヒーカップ片手に、目を細めて嬉しそうに言う学が何だか憎たらしい。
結局着てんじゃん!とか内心思ってるかと思うと、敗北感さえ覚える。
「ありがと。でも全然嬉しくないし。それって白衣が似合ってた、ってことでしょ?」
「相変わらず素直じゃないねー。彼氏の前でもそんななの?」
「悪いけど、素直になれないのは学の前だけですっ!
健人くんの前じゃ…って、そんなことはどーでもいいのよ!
なんなのよ、もぅ!いきなり目の前に現れて、一体私にどうすれって言うの!?」
段々とこの状況が面倒くさくなってきた。
いつまでも聞く耳持たないでいても、時間がただ過ぎてゆくだけ。
私にはこの後、健人くんとの大事なデートが待ってるのよ!
どーせカフェに行ってもこの話で終わるなら、とっととここで片を付けよう。
「だから…明後日のパーティーに俺と同伴して欲しい。」
「ねぇ。それって普通、自分の彼女に頼むことだよね?
こんなニューヨークで、わざわざ私を探し出してまで頼むってことは、
あなたはまだ結婚してないどころか彼女もいないってわけね。
女性同伴が決まりなら、研究所の同僚にでも頼めばいいじゃない!
なんで元カノの私が、のこのこ付いて行かなきゃならない…あ!この紅茶!
私の大好きなアールグレイだ…。美味しいっ♪」
「雪見、紅茶ならアールグレイが好きだったよね。
コーヒーは、カフェオレじゃなきゃ飲めないし。」
「えっ?これ…もしかして学がリクエストしてくれたんだ…。ふーん…。」
きっと私が着替えてる間に、店員に伝えたのだろう。
紅茶はアールグレイで、と…。
昔から、さりげなく私を喜ばすのが好きな人だった。
勉強一筋でセンスがなくて、気の利いた会話も出来ない人だったけど、
私にだけはどんな時も一途に向かってきて…。
「はぁぁ…。どんなに出世しても、世話が焼けるのだけは昔と一緒ね。
で、そのパーティーとやらは、どこでやるわけ?何のパーティー?」
「えっ!行ってくれるのかっ?助かったぁー!恩にきるよ。
じゃ、そのドレスに合う靴を選ぼう!髪飾りも一緒にね。
あとは何がいる?バッグとか?俺、よくわかんないから自分で好きなの選んで。
あ、お金は心配しなくて大丈夫だから。これでもテレビで結構稼がせてもらってる。
ほら、ドレス持って下に行くぞ!さっきの店員がヤキモキしてるだろうから。」
学は、契約成立!とばかりにコーヒーを飲み干し、雪見を置いてさっさと
階段を下りてしまった。
「ちょっとぉ!もぅなんて自分勝手なヤツ!情けなんか掛けなきゃ良かった!」
ドレスをそっと抱え、プンプン怒りながら階段を下りると、学はまたしても
セレブなご婦人方に囲まれてサインをしてる。
「どんだけ人気者なの?まぁいいや。今のうちに靴を選んじゃお♪
Excuse me!すみませーん!このドレスに合う靴はどんなのがいいですか?」
ドレスに関しては、まったくセンスも知識も持ち合わせてないので、
ここはさっきのブロンド店員にお任せするのが間違いないだろう。
「このブルーのドレスには、こちらの靴をお薦めします。
あぁ、それと髪飾りは先程のがお似合いですよ。
あとネックレスとイヤリングはこのセット、バッグはこれで。」
彼女がここぞとばかりに次々持ってくるので、雪見は慌ててストップをかける。
「待って!いくら彼が買ってくれるといっても、こんな高い物全部は買えませんっ!
どうせちょっとしたパーティーだろうから、最低限靴があればいいんです!
あ、やっぱティッシュとハンカチぐらい持たなきゃならないから、バッグもいるかな?」
「何をおっしゃるのっ!?
ホワイトハウスにご招待されてるのですから、きちんとしなければなりません!」
「ほ、ほわいとはうすぅぅう!?」
雪見の大声に、店内の客が一斉に振り向いたのは言うまでもない。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111
この掲示板は過去ログ化されています。