コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.207 )
日時: 2011/06/16 21:21
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

e さんへ

私の勘違いなんですね、ごめんなさい。
じゃあ誰かが、あなたが考えた妃奈子ちゃんのキャラと
私の名前を使って、私になりすまして話の続きを書いたって訳ね。

誰だか知らないけど、今度こんな事したら
許さないから!

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.208 )
日時: 2011/06/17 17:02
名前: うちの (ID: YsIqf46g)

えっ、さっきのは偽物だったんですか?
なんかいい展開になるなぁ。 と思って楽しみにしていたのに…
こっちのほうが、新たな敵って感じで面白いのに。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.209 )
日時: 2011/06/17 23:55
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「う、うーん。あれ?俺、また寝ちゃったのか…。ヤバっ!もう朝じゃん!
なんだ、ゆき姉もこんなとこで寝てるよ、風邪引くのに。
あ!歌詞、出来上がってる!頑張ったんだ、ゆき姉。どれどれ?
え?これって…。俺と当麻の事…?」

その歌詞は、一番に当麻のこと、二番に健人のことを書いてあるような
気がする。
今の二人に重なって、読み進めるうちに段々と胸が熱くなり、
自然と涙がこみ上げてきた。

ふと、雪見が突っ伏して眠るパソコンの横を見ると、そこには昨日発売したばかりの
『ヴィーナス』が、雪見たち三人のページを開いたまま置いてある。
それは石垣島で撮影した、あの時のグラビアだった。

健人も昨日は一日忙しかったので、まだ見てはいない。
そーっと手を伸ばし、本を手に取る。
そこには、溢れる笑顔で心の底から幸せそうな顔をした健人、雪見、
そして当麻の三人が、愛穂のカメラによって鮮やかに写し出されていた。

『そう…。この時は毎日が楽しくて仕方なかったなぁ。
三人でバカやって、笑い転げて、一晩中おしゃべりして。
竹富島の夕日を見て、当麻と二人で泣いたっけ…。
またあの時みたいに、三人でどっか行きたいな…。』

健人は、グラビアを一ページめくって眺めるごとに、自分の隣りには
この二人の存在が必要不可欠なんだ、と改めて確信する。

『絶対、ゆき姉のこの歌でデビューしたい!』健人はそう強く願った。




翌日の金曜日。今日は当麻のラジオに健人と雪見が出演する日。
当麻に会うのはあの日以来で、お互いが朝から少し落ち着かなかった。

だが一つだけ、救われることがある。それは二週間前。
次回健人たちが出る時にやって欲しい事を、リスナーに募集したところ
一番多かったリクエストが『三人でお酒を飲みながら話して欲しい!』というものだった。
それに応えて今日の放送は、題して『予測不能の飲み友パーティー!』
という企画になっていた。
初っぱなから、乾杯で始める予定である。
気まずい三人にとって、お酒の力を借りられると言うのは有り難い事で、
そのお陰で三十分間、どうにかやって行けそうな気がした。


放送開始一時間前の午後四時。先ずは当麻がスタジオ入りする。
いつもと違って緊張気味なのにプロデューサーの三上が気付き、当麻に声を掛けた。

「どうした?当麻。いつもより元気が無いけど、お袋さんの具合でも
また悪くなったか?」

「いや、大丈夫です。済みませんでした、家の事で心配かけちゃって。
母さんも月曜には退院出来そうなんで、もう心配ないです。」

「だったらいいけど。明日からレッスン開始だって聞いてるか?」

「あ、はい、聞きました。デビュー曲も決定するって。
三上さんにはほんと、お世話になりっぱなしで…。
また歌の方でもよろしくお願いします!」

「こっちこそ、久々の大型ユニット誕生の瞬間に立ち会えるんだから、
ワクワクしてるよ!
デビューまでかなりキツイと思うけど、みんなで一緒に頑張ろうな!」

「はい!」


当麻は、三上と話しながらもチラチラと、ドアの方を気にしてた。
次に来るのは健人か、雪見か。入ってきたら、なんて声を掛けよう…。
あれこれ頭で考えるうちに、ドアが開いた。健人だ!

「よぅ、お疲れ!お袋さん、大丈夫だった?」
最初に声を掛けたのは、健人の方が先だった。
健人も、ここへ来る車中で悩んでの第一声である。

「う、うん。月曜に退院できるって。色々…、心配かけてごめん。」

「いやいや。もう心配なんかしないから安心して!
それより、今日は酒を飲みながらって聞いたから、昨日は酒抜いといたよ。
めっちゃ楽しみ!これ、いい企画だねぇ!
けど、ゆき姉はあんまり飲ませちゃうと収拾つかなくなるから、俺たちで
うまくコントロールしないとね。」

健人は、当麻よりも多くしゃべることによって、早く自分を解放しようと思っていた。
実際、一気に話したら気持ちが楽になって、当麻への感情が落ち着いた。


しばらくして雪見がやって来た。
「おはようございます…。」みんなに挨拶するが、明らかに元気がない。
目も、泣きはらしたかのように腫れている。

「どうしたの?ゆき姉。なんかあったの?」
ただならぬ雰囲気をいち早く察知した健人が、雪見の顔を覗き込んで聞いてみた。

「いや、なんでもない…。私の事は気にしないで…。」
口ではそう言いながらも、健人と当麻の顔を見た途端、こらえていた
感情がプツリと音をたてて切れ、止めどもない涙になって溢れてしまった。

「どうしたのさ、ゆき姉!ちゃんと話して!」
当麻が雪見の肩に手を置いて、心配そうに問いただす。

「おばさんが…。竹富島のおばさんが…。死んじゃった…。」

「えっ!」

覚悟していた事とは言え、さっき届いたばかりの訃報に
雪見は、心を落ち着かせる時間もなく、ここへやって来たのだ。

「いつ…。いつ、亡くなったの?」

「今朝だって…。今日のラジオ、楽しみにしてるって…。
楽しみにしてるって昨日電話で言ってたのに…。」

それだけ言うのが精一杯で、あとは声にならなかった。
健人と当麻は、取りあえず雪見を椅子に座らせ、プロデューサーの三上と話をした。

「ゆき姉…、今日は無理じゃないですか?こんな状態じゃ…。
あと本番まで時間が無い。」
当麻が、三上と健人を交互に見ながらそう言う。

「うーん…。そうだな。これじゃ、しゃべりは無理だろう。
仕方ない、今日はお前達二人でやってくれ。少し台本を手直しするから
自分たちのとこだけ、取りあえず目を通しておけ!」

三上が慌ただしく放送ブースを出ようとしたその時、
「待って下さい!」と雪見が、うつむいたまま声を掛けた。

「やります…。やらせて下さい。
約束したんです、おばさんと。私、歌うから聞いててね、って…。

三上さん。お願いがあります。
私に、『涙そうそう』を歌わせてください、オンエアで。
一番最後でいいんです!
最後におばさんの大好きだったこの歌で、おばさんを送ってあげたい…。
お願いします!お願いします!!」
雪見はもう泣きやんで、あとはただ三上に必死に訴えるだけであった。

「わかったよ。今日のエンディング曲は、雪見ちゃんの『涙そうそう』だ!
おい!大至急用意をしてくれ!この前の、三線バージョンでいいね?」

「はい!一生懸命歌います!ありがとうございました!」


乾いた涙のあとには、決意の笑顔がのぞいていた。
















Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.210 )
日時: 2011/06/19 08:01
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「本番五秒前!四、三、二…」

「皆さん、こんばんは!今週も『当麻的幸せの時間』がやってまいりました!
一週間元気でしたか?俺はもちろん、元気に決まってるでしょ!
そんじゃ今日のゲストを紹介するね。
今週の相棒はもちろん、皆さんお待ちかねのこの二人です!」

「どうもでーす!めっちゃ今日を楽しみにやって来た、斎藤健人です!
ねぇねぇ、まだ出て来ないの?あれ!」

「私も右に同じく、今までで今日が一番楽しみな、浅香雪見です!
ほんとにいいの?ここでそんなことしちゃって!」

「なに二人で意味深なこと言ってんの、みんなが誤解するでしょ!
二週間ぶりに登場の健人とゆき姉、そして俺の三人でお送りします。
えー本日は、この前皆さんからいただいたリクエストにお答えする第一弾、
題して『予測不能の飲み友パーティー!』と言う企画でお届けします!
なんせ、リクエストで断トツに多かったのが、
『三人で飲みながらおしゃべりして欲しい!』ってリクエスト。
もうすっかり俺たちの酒好きが、みんなに浸透してるようで…。」

「だって、俺たち三人の放送の時って、いっつも酒絡みの話ばっからしいよ、
自分たちじゃ気が付かないけど。
この前飲みに行ったら、友達にそう言われた!」

「ほらほら!言ってるそばから酒絡みの話じゃん!健人の友達は正しいです!
大体、ゆき姉が話す話は99%飲んだ時の話でしょ?」

「失礼しちゃう!それ以外の話だってしてるでしょ!
第一、猫の撮影中の話は酒絡みじゃありませんから!」

「でも、撮影終った後は必ず飲むでしょ?」

「うん、まぁ…。」


こんな感じでスムーズに放送が始まり、本人達はもちろんのこと
直前まで泣いてた雪見を心配してたスタッフ一同も、ホッと胸をなで下ろした。

「よし!じゃあ酒を持って行け!三人ともお待ちかねだぞ!」
ディレクターの指示でアシスタントが、ありとあらゆる種類の酒が
たくさん乗ったワゴンを、ガラガラと押しながら放送ブースに入って行った。

「わーい!やっと来たぞぉ!えー、凄くない?こんなに飲んでいいの?全部タダ?」

「なに健人がちっちゃい事言ってんの!しかもこんなに飲めるわけないでしょ!
っつーか、こんなに飲んじゃったら放送にならんわ!」

「凄いねぇ!色んな種類を用意してくれたんだ!
マッコリに紹興酒、カクテルにテキーラまである!うーん、迷っちゃう!」

「俺はやっぱ、始めはビールでスタートだな!喉乾いたもん!」

「よし、健人はビールね。じゃあグラスをどうぞ。あとは勝手に自分で注いで!
あ!二人とも言っとくけど、この放送は三十分番組だってことをお忘れなく!
二時間の宴会コースじゃありませんから。」

「そうだった!じゃあ一気に酔えるものの方がいいんじゃないの?
健人くん、ビールじゃ酔えないからあとは違うのにしてよ!
リスナーさん達は、酔っぱらった健人くんがどうなるかに興味があるんだから。
じゃ、私は…と。あ、泡盛がある!これにしよう。すぐ酔えるから。」

「大丈夫?いきなり泡盛のストレート!さすがゆき姉、貫禄が違う!」

健人と当麻は、グラス二つに雪見が注いだ泡盛を見て、そのうちの一杯は
今朝亡くなった竹富島の民宿のおばちゃん、ひさえさんに捧げる一杯
なのだな、と思った。

雪見は一つのグラスを自分の前に、もう一つのグラスを隣の空いている
所にそっと置いた。


「じゃ、当麻は何飲む?俺が作ってあげる!」

「いいよ、自分でやるから!健人に作らせたら、とんでもない濃さにするもん!
俺は梅酒のロックにしよ!最近はこればっかだよね、俺って。
じゃあ、とっとと乾杯しよう。時間が無くなる!
じゃ、今日も一日お疲れぇ!カンパーイ!うんめーっ!」

「今のはダジャレ?梅酒を飲んでうんめー!って。オヤジじゃん!」


今日の放送は、合間の曲も挟まずに、おしゃべり中心でいくことになっている。
曲は、最後に雪見が生で歌う『涙そうそう』一曲のみ。
なぜ雪見がこの曲を生で歌うのかの説明は、MCである当麻に一任することにした。

三人は、まるで何事もなく前回の放送から二週間経ったかのように、和気藹々と
聞いている者が、居酒屋にでも三人がいるんじゃないかと錯覚するような、
そんな楽しいおしゃべりを展開してみせた。


お酒も進み、飲み会ならばまだまだこれから!というところだが、
三十分なんて時間はあっという間で、もう早エンディング間近になってしまった。

「えーっ!もうこんな時間!?まだ十分ぐらいしか経ってないんじゃないの?
時計、合ってる?ディレクターが言うんだから間違いないのか。」

「ねぇ!この企画、三十分じゃ足りないって!また来週もやろうよ!」

「来週はダメだよ!忘れたの?俺たちの課題曲の発表会があるんだから。
この後、行っちゃう?カラオケ。最後の練習をしないと。」

健人と当麻がおしゃべりでつないでる間、雪見はスタンドマイクの前に立ち、
エンディングのスタンバイをしている。

三十分の間に泡盛だけを三杯飲み干したが、少しも酔えなかった。
泡盛を一口、口に含むたび、民宿でおばさんと飲んでは歌った夜を
思い出し、涙が滲む。
だが、泣いていては場が白けてしまうので、泡盛と共に涙を飲み込んだ。


「では、そろそろエンディングです。
今日最後にお届けするのは、ゆき姉が生で歌う『涙そうそう』です。
実は今朝、ゆき姉が竹富島のお母さんと慕っていた、民宿のおばさん、
ひさえさんが亡くなりました。
今日のこの番組をとても楽しみにしながら、息を引き取ったそうです。
この曲は、ゆき姉が民宿に滞在中、毎日のようにおばさんにリクエストされて
泡盛を飲みながら歌った、大切な思い出の曲だそうです。
だから今日はゆき姉、泡盛しか飲まなかったんだね…。
大丈夫?歌える?」

「大丈夫だよ。ごめんなさいね、みなさん。
私のわがままで、今日は歌わせてもらうことになりました。
おばちゃん、聞いてる?私の最後の歌だよ!
では、『涙そうそう』です。お聞き下さい。」

雪見はイントロの間、目を閉じて何かを祈っている。

目を開け雪見が歌い出した時、健人と当麻は、沖縄の風が頬を撫で
スッと通り過ぎたのを、確かに肌で感じた。


雪見も、おばさんが側らで聴いているのを感じながら、
最後の歌を心を込めて歌うのであった。








Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.211 )
日時: 2011/06/19 18:07
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

昨日はラジオが終った後、本当に三人でカラオケに行った。
明日からはデビュー曲の練習に忙しくなり、これが課題曲を練習する
最後のチャンスだったからだ。


いくら番組の中の企画とは言え、CDにしてリスナーにプレゼントする以上、
完璧近くには仕上げたい。
そう言うところは三人とも似ていて、真面目で手抜きが出来ない性格である。

すでに酒が入っているので、テンションはマックスに近い。
着いてすぐに『WINDING ROAD』をガンガンかけ、何度も何度も繰り返し歌う。
歌えば歌うほど息がぴったりと合い、気持ち良くて楽しくて仕方ない。

「いいじゃん、いいじゃん!最初っから俺らの歌だったみたいじゃない?」
健人が嬉しそうに当麻に聞く。

「ほんとだね!俺たちのデビュー曲も、こんな風に歌えたらいいね!
明日でしょ?歌が決まるの。どんな歌になるのかなぁー。
ねぇ、ゆき姉はもう歌詞、書き終わってるの?」

「あったり前でしょ!書き終わってなかったら、こんなとこにいませんって!」

「ねぇねぇ、どんな曲だった?良い曲?」
健人は、あの雪見が書いた詞にどんな曲が重なるのか、明日が待ち遠しかった。

「凄くいい曲だったよ!私が借りたデモテープは、バラード調の曲だったんだけど、
サビがとっても印象的でずっと頭に残ってる。」

「えーっ!ゆき姉だけ曲聴いたの?ずるーい!ちょっとさわりだけ歌ってみて!」
当麻が雪見にねだるが雪見は「だめーっ!」と言って、歌わなかった。

「あの歌は、明日、真っさらな気持ちで聴いて欲しいから…。」




そして今日。いよいよデビュー曲が決まる。
夜八時に雪見は、自分の作った歌詞を三上に見てもらい、
デビュー曲に使ってもらえるかの審判を仰ぐ。
ただし、雪見が作ったのはバラードの一曲のみ。
もし三上が違う曲を選んだのなら、その曲はデビュー曲にはなれないのだ。

雪見は、もう一曲あったアップテンポの曲も聴いてはみたが、
どうも自分たちのイメージとはかけ離れてる気がして、そっちに歌詞を
付ける気にはなれなかったのだ。


日中は当麻の現場を訪れ、健人の写真集用のコメントをもらうことに。
昨日は健人も一緒にいたので無理だった。
ドラマ撮影の合間にコメント取りをするので、何時になるのかはさっぱりわからず、
スタジオの隅で待たせてもらった。
どうやらやっと休憩になったようだ。

「お疲れ様!ごめんね、撮影で忙しいのに。」
こっちにニコニコしながら歩いてくる当麻に、声をかける。

「いや、ゆき姉が俺の現場に来るなんて初めてだから、嬉しいよ!」
当麻は、雪見が来てくれて上機嫌だった。
コメント取りを済ませたあとも二人は、まるで仲の良い姉弟のように
ケラケラと笑いながら、時間いっぱいまでおしゃべりを楽しんだ。

その様子を見ていた周りの女優や女性スタッフが、いい思いをするわけがない。
当麻は、他の誰と話している時よりも、明らかにハイテンションで
飛び切りの笑顔を雪見だけに見せていたからだ。

当麻はまったく気付く気配は無かったが、雪見はハッと周りの空気を
感じ取った。
カレンの二の舞だけはごめん、とトラブルになる前に退散することに。
また夜に事務所で会おうね!と言うと、当麻はまたセットの中へと消えていった。



とうとう運命の時間がやって来る。
雪見は一時間も前に退社して、気持ちを落ち着かせるために
いつものドーナツショップに向かった。
昼間とは違いその時間帯は混んでいて、雪見の指定席は空いていない。
仕方なく、隅の方に空いているカウンター席に座り、カフェオレを飲みながら
鞄から出した手書きの歌詞を、もう一度じっくりと読み返してみる。

『大丈夫!強く願えば叶うんだから…。』自分を鼓舞して席を立った。
さぁ!勇気を出して、みんなに聞いてもらおう!


所属事務所の一つ上の階には、小さな歌のレッスンスタジオが五つ、
大きなスタジオが二つあり、その奥には芝居の練習場も二つあった。
常務の小野寺は、その内の大きな方のスタジオで雪見と三上を待っていた。

雪見が到着後、間を置かずに三上も到着。
「どれどれ、早速出来上がったものを拝見しようか。」
二人に、歌詞を書いた手書きのB4用紙を差し出す雪見。

目を通してもらってる間は、生きた心地がしなかった。
が、しばらくすると二人は揃って「これ、いいんじゃない!?」
と、笑顔で言った。

「ほんとですか!?あの、これ、歌ったらもっとよく歌詞が伝わると思うんです!
今歌わせてもらってもいいですか?」

「え?もう歌えるの?それは是非とも聞いてみたい!頼むよ。」

デモテープを用意していると、ガチャンとドアを開け、誰かが入って来た。
それは健人と当麻だった!今日だけ何とか早くに上がらせてもらったらしい。

「間に合った?まだデビュー曲、発表になってない?」
二人はそれが気になって気になって、仕事が手に付かないらしい。

「大丈夫だよ!これから雪見ちゃんが歌ってくれるのを聞いて、決定するとしよう。」

「えっ!ゆき姉が歌うの?」健人の言葉に、雪見は笑顔を返事代わりにした。

呼吸を整え、気持ちを集中させる。
一度だけ天井を見上げ、その後視線を真っ直ぐにした。
印象的なイントロのあと、静かに雪見は歌い出す。


   はるか遠くに忘れた日々を きみと一緒に取りに戻ろう
    
   記憶の糸をたぐり寄せ 僕が最初に見たものは
   きみの笑顔と 差し出す右手
   なのにどうして僕らの右手は
   あの時 空(くう)をつかんだのだろう

   今なら並んで歩いてゆくのに  今ならもう離さないのに
   夢に出てきた きみのくちびる
   「ゴ・メ・ン・ネ」って動いたのかな

   まだ間に合う? もう遅い?
   引き返せない道なんて この世に存在しないから
   勇気を出して一緒に戻ろう 遠くに見える あの日の始めに


   
   夢は強く願えば叶うから 怖がらないで 目を閉じて
   きみのまぶたに写った景色を どうか忘れないでいて
   いつか同じ景色が見えたなら ためらわないで手を伸ばそう

   きみの夢は 僕の夢  きっといつか叶えてあげる
   記念の写真を 二人で写そう

   未来は誰にもわからないけど
   ひとつ確かに言えるのは きみの隣りに僕がいること

   緑の風に二人で吹かれて 今より遠くへ飛んで行けたら
   きっと つないだ手の中に 夢のかけらが入っているはず

   
それは、雪見が健人と当麻に捧げる、愛の歌であった。  










            


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