コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.442 )
日時: 2012/11/03 16:53
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「今日で最後なんだから、頑張らなくちゃ…。」

ツアー最終日を迎えた3月26日土曜朝7時。
ベランダから入る早春の弱々しい光を背にして、雪見はしゃがみ込んで
めめの頭をずっと撫で続けていた。時に溜息をつきながら。
独り言を聞きつけたラッキーも、励ますかのように膝頭に頭をこすり付けてくる。

いつものように、ライブ前の緊張を解くためにだけ猫の助けを借りてるわけではない。
むしろ緊張感だけを味わえる朝だったら、どんなに良かったことか…。
めめの頭を撫で続けたぐらいでは解決しない、入り組んだ感情である事など
当の昔に知っていた。
大事なラストライブの朝なのに…。


昨夜はライブ終了後、久々に四人で「秘密の猫かふぇ」へ行き、軽く飲んで食事した。
猫カフェ再建の手助けを約束した雪見が、どうしても早急に見ておきたいとの
たっての希望で。
思い立ったら即行動の雪見を、すでに三人は重々承知してるので、
誰も異議を唱える者はいなかった。
だが「ご馳走するからみんなでご飯食べに行こう!」と勝手に盛り上がる母軍団を断り
お引き取り願うのは心が痛んだ。

「ごめんねー、母さん!田中さんも、せっかく来てくれたのに…。
ほんとは来てくれたお礼に、こっちの方がご馳走しなくちゃいけないのにね。
でも、今日はどうしても行かなきゃならないとこがあるんだ。
私ね、事務所にあと半年お世話になることになったの。
大きな仕事の手助けをすることになって。
だからニューヨーク行くまでに、少しでもその仕事を進めなきゃ…。
売れっ子もつらいもんだねーっ!」

笑いながら話す娘の中に、身の引き締まるほどの緊張感と暗中模索する心が垣間見えた。
あとは結婚に向かってまっしぐらの、楽しい日々を送るもんだと思っていたのに…。

我が子の苦労を望む親など一人もいない。
だが、いつも自分から苦労を背負い込む娘を、この子はそう言う子なのだと
自分に言い聞かせ、励まし見守るのが母の務めと最近やっと悟った。
今頃悟っても、もう遅いのかも知れないが…。

「そう…。自分で決めたのなら最後まで頑張りなさい。
だけど身体にだけは気を付けて。母さんのことなら心配しなくていいから。
いつも頼れる看護師さんが側にいるんだし。
あんたは健人くんのことだけを考えて、生きて行きなさい。」

そう言って母はにっこりと微笑み、楽屋を後にした。
まるで遺言のような言葉を残して…。

ごめん、母さん。健人くんのことだけってわけにもいかないの。
仲間を助けてあげなくちゃ…。


しばらくぶりの猫カフェは、金曜の夜とは思えないほど閑散としていた。
ライブ前に常務が言ってた通り、この店が消滅の危機にあるというのは本当なのだ。
信じたくない事実を目の当たりにし、お酒が入っているにもかかわらず
四人は食事中も口数が少ない。
疲れも相まって、足取り重く早々に店を後にした。

何が出来る?この私に何が出来るんだろう…。
あまりにも重い任務に、引き受けた事を後悔しそうになる。

そして翌日…。

結局猫カフェ救済方法を何も導き出せぬまま、朝を迎えてしまった。
ライブ前の緊張感に加え、答えの出なかった難題。
それに更にプラスされて、とどめを刺すような事態が待ち受けていた朝…。

「ありがとねっ。大丈夫、頑張るからっ!最後だもん、頑張る!
さてと…そろそろ健人くんを起そうか。」
雪見は自分に言い聞かすように、最後にもう一度二匹の頭を撫で
二度も「頑張る」と口にしながら立ち上がった。

朝早くから付けっぱなしのテレビでは、当麻、健人二組の大型カップル
結婚の話題が流れてる。
芸能ニュースはどの局も、昨日発表されたこの話題一色。
雪見が口にした「頑張る」と言う言葉は、このニュースに目を向けながら
発せられたものだった。

昨日のライブでは、確かにファンみんなが祝福してくれた。
テレビのコメンテーター達も、このビッグニュースに一様に興奮しながら
おめでたい話題として盛り上がっている。だが…。

雪見はそれを他人事のように冷めた目で見てた。
ちっとも自分の事として「嬉しい」という感情が湧いてこない。
世間に正式発表され、やっと結婚に向けてスタートを切った喜ぶべき朝だと言うのに。
それどころか心が暗く沈み込んでる。今日のライブが不安で仕方ない…。

昨日の帰りがけ、常務が言った。
「明日のライブは最高に盛り上がるぞー!絶好の興奮材料を提供したんだからなっ。」
その興奮材料が怖かった。
昨日と同様、祝福されて盛り上がるだろうなどと言う脳天気な確信を、
雪見はまったく持てずにいた。
何故なら、よせばいいのにインターネットを覗いてしまったから…。

ネット上では、このニュース解禁と同時に膨大なる数のツイートや書き込みがされ、
瞬く間にこの話題で埋め尽くされている。
それを見なければ良かったのに、雪見は恐る恐る覗いてしまった。
結果は…ただ傷ついただけ。自信を失っただけ。悲しくなっただけ…。

勿論、二人を祝福する嬉しい声も多数ある。
だがこんな時に目に留まるのは、良い言葉よりも悪い言葉。
感情剥き出しの鋭いナイフのような言葉たちが、雪見の胸を容赦なく斬りつけた。
収拾付かないないほどに心も掻き乱された。
ある程度は覚悟しとけよ、と言う今野の声が蘇る。
これが「ある程度」の事なのか…。

こんなの健人くんには見せられない。絶対に…。

すぐにシャットダウンしノートパソコンをパタンと閉じた。
だがすでに目に焼き付いてしまった忘れてしまいたい言葉たちは
心で増殖を始め浸食し続けて、とうとう何の隙間もなくなってしまった。

どうしよう…。こんな気持ちで歌えるわけがない…。
だけど『SJ』にとっては次に繋がる大事な日。
演技でも何でも、明るく振る舞わなきゃ。
私は健人くんを照らす太陽で有り続けなければいけないんだ…。

時間はお構いなしに一歩ずつ近づく。
もう健人を起こし、準備を始めなくてはいけない。
雪見の心は体勢を崩したまま、見切り発車せねばならなかった。

「健人くん、おはよ!朝…!?えっ?いないっ!!」

寝室でまだ寝てるはずの健人がいない!
ベッドはいつものごとく、ガバッと起きたままに乱れてる。

「健人くんっ、どこっ!?どこにいるのっ!?」

雪見はそう広くはない部屋中を、大声を出しながら捜し回った。
親に置いてかれた子供のように、半ベソをかきながら。
健人が自分から逃げ出してしまったんだと、頭が勝手に解釈してた。

その時だった。ガチャリと玄関で鍵が開く音が聞こえた。
「ただいまー!ゆき姉、朝飯出来てる?めっちゃ腹減ったー!」

バタバタと雪見が駆け出し、玄関に腰を下ろした健人の背中に飛び付いた。
その温もりに触れた瞬間から涙が溢れて止まらない。

「えっ!?なになにっ!ビックリするじゃん!
てか、背中汗びっしょりで気持ち悪いんだけど。どしたの?」
背中越しに健人が笑って聞いた。

「いなくなったかと思った…。どこかに行っちゃったんじゃないかって…。」

「えーっ!なんでなんでぇ?
今日から体作り開始しようかと思って、その辺を走ってきただけなのに。
ニューヨークのレッスンって、体力ないとキツイって聞いてるから。
それよりシャワーしてくっから、朝飯の準備よろしくっ!」

健人は雪見の涙の訳も聞かずに立ち上がり、頭をクシャクシャッと撫でてから
バスルームへと消えていった。それ以上無いほどの飛び切りの笑顔を残して。
その笑顔を見て雪見は、健人が何もかも知っての笑顔であることに気が付いた。


健人はすでに前を向いて歩き出してる。
何物にも囚われず、外の喧噪など興味も持たず、ただ雪見との
希望に満ち溢れた未来だけを、その大きな瞳に映して…。


Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.443 )
日時: 2012/11/05 12:54
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「大丈夫か?雪見…。あと一時間ちょっとしかないんだぞ?
まぁな…。あれだけの叩かれ方されたんじゃ大丈夫なわけないか…。」

ツアー最終日の東京公演二日目。
雪見にとって、これがほんとのほんとのラストライブ。

開始一時間少し前の楽屋は、慌ただしさと沈黙と両方の異空間が同居してた。
楽屋に顔を出した客人たちも、そそくさと退散するほどの居たたまれない空気が
部屋にギュウギュウ詰めに圧縮されている。

リハーサルを終え、早々に引き揚げてきた雪見だったが、ドアを開けてすぐ
力尽きたかのようにバサリとソファーに座り込み、ただボーッと足元を見つめ
さっきから身じろぎ一つしない。

そのうなだれた背中を、あとから入ってきた常務の小野寺と秘書の夏美が
腕組みしながら、どうしたもんかとしばし心配顔で見つめてた。

「…常務。私に雪見を任せてもらえますか?」

腕時計に目をやり猶予はないと見た夏美が、何かを心に決めて小野寺に許可を求める。
その瞳は、上司と言えども有無を言わせぬ威圧感があり、夏美が真剣に
雪見救済を企ててるのがわかったので「頼む…。」としか返事のしようが無かった。

「ありがとうございます。」
そう言って頭を下げた夏美は、最後に小首を傾げてニコリと微笑んだ。
瞬間ザワリと背中に走るものがあったが、小野寺はそれを感じなかった事にする。

そこからの夏美の動きは素早かった。
サッとソファーの前に回り「行くわよ!」と雪見の腕を掴んで一瞬で楽屋から消え去った。
それはまるでイリュージョンを見てるかのように、鮮やかに忽然と。

「ちょ、ちょっと待って下さい!夏美さん!どこ行くんですかっ!
もうすぐ着替えなきゃならないんですよーっ!」
スタイリスト牧田の慌てた声だけが、むなしく楽屋に取り残された。

鏡の前で忙しくメイク道具を並べてた、ヘアメイクの進藤に到っては
牧田の大声に驚き、顔を上げて鏡越しに後ろのソファーを見た時には、
そこにいたはずの雪見の姿がすでに消えていたほどの、それは見事な早業だった。

「何を企んでんだ?あいつ…。」
小野寺の言葉に、牧田と進藤が不安げな顔を見合わせた。



「夏美さんっ!待って!どこ行くのっ!夏美さんってば!」

雪見の大声と夏美のコツコツとした靴音だけが、広い地下駐車場に響き渡る。
ハイヒールを履いてるとは思えないほどのスピードで前を歩くものだから
手首を捉えられた雪見は、歩調を合わせるのに必死だった。

「いいから乗りなさいっ!」

それまで雪見の問いかけに、ウンともスンとも声を出さなかった夏美が
歩きながらポケットの中のキーを取り出し、車のドアを素早く開け
雪見を助手席に押し込む。
それから、ものの何十秒かで夏美の運転する真っ赤なポルシェは、
けたたましい排気音だけを駐車場に残し、あっという間に外へと飛び出して行った。

今起こっているすべての事が受け入れられずに、茫然自失の雪見。
その隣で夏美は、計画通りの鮮やかな手口で拉致を成功させた
ドラマの中の美しい犯人のように、薄微笑みを浮べハンドルを握ってる。

三月下旬の午後五時。
だいぶ陽が長くなったとは言え、外はすでに暮れていた。
もはや口を開く気にもなれない雪見は、どんどん流れる街の明かりを
夢の中の景色と思って、サイドウインドーに頭を預けながら眺めてる。

しばらく頭の中を空っぽにして窓の外だけを見つめる。
すると、ぼんやりとしてた頭が徐々に活動し始めた。

なに?この状況…。
さっきまで楽屋に居たんだよね?私…。
なんで夏美さんの車に私が乗ってんの?
て言うか、今ってライブの前なんだよね?
これから衣装に着替えてメイク直しするんだよね?
…え?夏美さんの横顔ってめちゃ可愛い!
正面から見たらどこか冷たい美人顔なのに、横顔はお人形みたいだ…。
でもさ…スーツにハイヒールに真っ赤なポルシェって、一昔前のベタなドラマでしょ。
…なのに似合い過ぎて笑える。

雪見は思わずクスクスッと声を出して、本当に笑ってしまった。
それから、しまった!と思い慌てて口を押さえたが、夏美が見逃す訳がない。

「何なの?その笑い。言いたい事があるなら、はっきり言いなさい。」

はっきり言いなさいって、そっちこそ!
何にも言わないで、私をどこに連れてく気よっ!
…と、心の中では声を荒げて突っかかったが、口からそのままは出てこなかった。

「どこ…行くんですか…?」

自分でもびっくりするほどの、小さくかすれた声だった。
今朝から、喉の調子があまり良くはないなと感じてはいたが
それは緊張やストレスのせいで、喉に余計な力が入ってるからだと
リハーサルでは思い込んでいた。

大丈夫…。どうにかして本番までに気持ちを立て直してみせる。
喉の力を抜いて、いつも通りに歌えばいいんだ…。
だが、どうやら緊張だけでかすれてる訳でも無さそうな事に今頃気付く。

その時だった。
スッと横から夏美の手が伸び、飴玉3個が雪見の太腿辺りに乗せられた。
「取りあえず、その喉飴を舐めときなさい。もうすぐ着くから。」

「着くって、どこへ?どこに向かってるんですか!?」

「しっ!無駄に大声を出さないのっ!
それ以上喉に負担かけると、本番までに間に合わなくなるわよ!
ほんっとにあなたって人は、最初から最後まで私の手を煩わせて。
キャラクタープロデュースって言うのは、あなたの声を基盤にして
衣装やらメイクやら戦略を決めてるんだから、声が変わっちゃ困るのよ!
『YUKIMI&』のプロデュースを任されてる私の身にも、なってちょうだい!
大体ねぇ…」

普段は無駄口など叩かぬ夏美が、延々と機関銃のごとく喋り続けてる。
雪見に声を出す隙など、まるで与えぬように…。


「さ、着いたわよ!降りなさい。」

大層時間が過ぎた気がしたが車を降りぎわ時計を見ると、まだ5時10分。
スタッと降り立った先に目をやると、そこは大きな寺院であった。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.444 )
日時: 2012/11/09 15:34
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「ここ…お寺?…ですよね。
こんな所にこんな大きなお寺があったなんて…。」

「そう、ご覧の通りよ。さ、時間がないわ。急ぎなさい。」

車を降りてすぐ、スタスタと先を歩き出した夏美に、慌てて雪見も小走りで追いつく。
うっそうと茂った広い境内の大木が、都会の喧噪も街の明かりさえも遮断し、
まだ夕方五時過ぎだというのに真夜中のような恐怖を感じた。

と、その時だった。
薄明かりの雪見の足元を、何かが音もなく通り過ぎた。

「ひゃっ!やだぁー!なんか足に触ったぁ!」

思わず雪見が夏美の腕にしがみつく。
それを夏美はクスクスと笑いながら、「案外怖がりなのね。」とだけ言って
しがみつかせたまま平然と先を急いだ。

玉砂利を踏みしめる二人分の足音だけが、ザクザクと後ろからついて来る。
半分目を閉じ、腕を振り払われぬよう夏美の腕を抱え込みながら歩く雪見には
ここがいつまで経ってもたどり着けない、迷宮のようにさえ感じた。


「あ!待ってて下さった!御前様だわ。」

夏美の、やけに明るく弾んだ声に目を見開くと、寺の本堂と思われる前に
一人の老人がニコニコと出迎えてる。

いや、住職であろうお方を老人だなんて…。
『間違えました、ご住職です!』
罰当たりだった気がして、雪見は慌てて心の中を訂正した。

「いらっしゃったな。待ってましたよ、雪見さん。
こんな老人の元へ、よくおいでなさった。夏美も元気で何より。」

「えっ!?あ、あの…浅香雪見と申します!初めまして…。」
雪見は辛うじてそれだけは挨拶出来たが、心臓がバクバクしてその後が続かない。

なっ、何者!?この人。なんで老人って思ったのがバレたの!?
私の心を読まれた?…なーんて、まさかね。偶然でしょ。
自分でも老人だって自覚してるんだ、きっと…。
にしても、なんで夏美さんは私をここに?
それに住職、随分親しげに夏美さんを呼び捨てにしてたけど、どういう関係?

解らない事だらけで不安になって、隣の夏美にすがるような目を向けたが、
夏美はただ微笑んで目の前の老住職を見つめてた。
それはまるで、愛しい人との再会を喜ぶ少女のような顔をして。

「さぁ、中に入りなさい。時間が無いのだろう。
雪見さんも、そんな顔しないでよろしい。
私はあなたを治療するために待っていたのです。さぁ、中へ。」
本堂に入ろうとした住職に、雪見が驚いて大声を上げる。

「治療!?…ですか?私を?私はどこも悪くなんか…。」

「心と喉が弱っておる。…違いますかな?」
振り向きもせずそう言った住職は、スッと中へと入っていった。

その後を追いながら、上ずった声で夏美に聞いてみる。
「夏美さんが電話で知らせたんでしょ?私のこと。だから知ってるんだよね?
あの方はお医者様なの?これから私、何されるの?」

先の展開が読めぬほど不安な事はない。
もはや雪見は、今がラストライヴ45分前であることなど、頭に浮かびもしなかった。

「お医者様?ふふっ、残念ながら全然違う。
まぁ医者より素早く治して下さるのだから、ある意味スーパードクターかも知れないけど。
さ、時間がないから早く中へ!」

夏美に背中を押されながら、恐る恐る足を踏み入れた寺の本堂。
そこにはゆらりと漂う線香の香りと住職が、すでに雪見を待ち構えてた。
向かい合わせに置いた座布団の一枚に座る住職は目を閉じ、何やら瞑想状態にある。
必然的にもう一枚に座らされたのは雪見で、夏美は斜め後方の板床に正坐した。

声を出すことが許されぬほどの張り詰めた空気。
雪見の心臓音だけが、ひんやりとした本堂に鳴り響いてる気がする。
身の置き所がない沈黙…。永遠にも思える時間…。
その時、スッと住職の両まぶたが見開いた。

「なぜ…彼の言葉を信じない。」

「…えっ!?」

多分、瞬間的に鼓動は止まったであろう。
それほどまでに不意打ちで驚愕の問いだった。
見透かされてると感覚でわかった。心が読まれてるんだ、と…。

雪見の驚きなど意に介さず、住職は言葉を繰り出した。
まるで天からのメッセージを読み上げるかのようによどみなく、一息に。

「守ると言ったであろう…。心配するなと言ったであろう。
なぜ、その言葉を信じない。彼の言葉に一度でも嘘はあったか?
信じられないのは、そなたの心が弱いだけ。
信じてさえいれば、おのずと道は拓ける。」

最初の一言から涙が溢れ出た。止めどもなく流れる涙が膝を冷たく濡らした。

その通りだ。わかってる。そんなこと、とうに知っている。
他人の目や言葉など、彼の前では無効であることぐらい。
なのに、自分が弱いばかりに逃げ出したくなる。
すべてを放り投げて、何処かへ隠れたくなる。
私が弱いから…。私が弱いから…。

「良いことを教えよう。」
住職の顔が能面のような無表情から一転、我に返ったように穏やかに笑ってる。

「彼はこの先、必ず大成するであろう。
だがそれには雪見さん、あなたの手助けが必要だ。
あなたが彼の、心の支えとならなければ成し得ない。
なぜなら、彼があなたを本当に必要としているからです。
あなたと彼の間に、余計な雑音など挟む必要はない。
彼の言葉、彼の心にだけ耳を傾けておればそれで良いのです。

なぜあなたが皆に助けを求められるのか、お分かりかな?
それはあなたが、この世にその使命を受けて生まれて来たからです。
人間誰しも、何かしらの役割を背負って生まれてくる。
あなたに与えられた使命が今、たまたま重なってるだけのこと。
その使命に出会った時、人はすでにそれを成し遂げられるだけの力量を身につけている。
生まれてすぐに、それに出会うのではない。
使命を全う出来るだけの力を蓄えた時、それに出会うのです。
お分かりかな?」

ニッコリ笑ったあと住職はスッと前に手を伸ばし、雪見の喉元に無骨な指を触れる。
二度三度指先で撫でた後「よし、大丈夫じゃ。」と再び穏やかな顔を見せ手を膝に戻した。

「喉はもう大丈夫、これで元通り。ひどくならないうちで良かった。
なんせ時間が無いからのう。今日は応急手当だ。
心の痛みはもう少し時間をかけて、じっくり治した方がよい。
落ち着いたらまたここへ来なさい。
いや、アメリカへ旅立つ前に必ず来なさい。わかりましたね。
さぁ、皆さんがお待ちかねだ。行きなさい。夏美、あとは頼んだよ。」

夏美は嬉しそうに「はいっ。」とだけ答え、スクッと立ち上がった。


夢の中の出来事だったのだろうか。
車の時計はあれから10分しか進んでいない。

赤いポルシェの運転手は、来た時よりも優しい横顔をしてた。










Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.445 )
日時: 2012/11/23 18:03
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「常務っ!なんで夏美さんを止めてくれなかったんですかっ!
こんな時間になっても戻って来ないなんて…。俺…探して来ます!」

「待てっ!お前までいなくなってどうすんだっ!少し落ち着けって!
夏美さんがライヴに穴を空けるわけがない!もうすぐ戻る。必ず…。」

ライヴ開始30分前。
いまだ夏美らとは連絡もつかず、帰ってくる気配さえ無い。
楽屋の小野寺、今野、牧野、進藤の四人は、雪見不在を気付かれぬよう
素知らぬ顔して準備を進めていた。
だが、取材を終え雪見の楽屋を訪れた健人が、それに気付かぬ訳がない。
続いて入ってきた当麻とみずきも、心配顔で壁の時計を見つめてた。

珍しく声を荒げた健人を、今野が肩を叩いてなだめる。
しかし健人は、ライヴ一時間前という非常識な時間に雪見を連れ出した夏美と、
それを止めなかった小野寺に対して、それ以上は何も言わなかったが
明らかに憤っていた。


俺が一緒にいたら絶対止めてたのに!
あり得ねっつーの!一時間前に連れ出すなんて!
もしこのまま時間までに戻って来なかったらどうすんだよっ!

けど俺…なんでゆき姉に付いててやらなかったんだろ…。
リハーサル中だって平気な顔して笑ってたけど、ほんとはちっとも
平気なんかじゃなかったんだよな…。
俺だってあんな中傷凹むけど、いつものことだって流したから…。
でもゆき姉は耐えられなくて当然だった。
今朝、泣いてたのに…。なんで大丈夫だからって安心させてやらなかったんだろ…。
まさか…結婚やめるとかって言い出すんじゃ…!?
なにやってんだよ、俺っ!ばっかじゃねーのっ!

夏美と小野寺への憤りは、いつの間にか自分への怒りにすり替わっていた。
気にしてない振りするのが正しいと思い込んだ自分が、腹立たしくて仕方なかった。
早く謝りたい。俺が守るから心配しないでって伝えたい。
早く…早く…。

その時である。「来たっ!健人!ゆき姉が帰って来たよっ!!」
みずきが笑顔で振り向いた。
その声に小野寺が慌てて廊下へと飛び出し、左右をキョロキョロと見渡してる。
が、あいにく雪見の姿など見つかるわけはない。
何故なら、みずきの目に映ったのは、駐車場に猛スピードで滑り込んだ
夏美の赤いポルシェだったからである。

「おいっ!ただの空耳じゃないか!…ったく…。」
溜息をつきながら戻った小野寺も、夏美を許可した事を今更ながら後悔してた。

と、シーンと静まり返る楽屋に、遠くからバタバタと駆ける足音が近付いてくる。

「ゆき姉だっ!」

みずきが叫ぶよりも先に健人が凄い勢いで廊下へと飛び出す。
そして全速力で駆けてくる雪見を楽屋前で受け止め、力一杯ギュッと抱き締めた。

「遅っせーんだよっ!!」

いきなり進路をふさがれ驚いた。
一分の猶予も無いと夏美に言われ、車が止まると同時に駆けて来たのに。
健人の腕の中で弾む息を整えながらもその力強さに、どれほど心配してたのかを思い知る。

「ほんっとにごめんねっ!!みんなにも謝らなくちゃ。早く衣装に着替えるね!」
そう言いながら雪見が健人の胸から離れようとしたその時だった。

「俺から…逃げ出したのかと思った。もう一人は…やだよ…。」

「えっ…?」

健人の口から思いもよらぬ言葉がこぼれ落ちた。
それは呟きほどの小さな声ではあったが、だからこそ雪見の心は鷲掴みにされた。

モウ ヒトリハ ヤダヨ・・・

いつも側に近づけないほど大勢の人に囲まれてるのに…。
あなたを慕う人は星の数より多くて、私でさえはじき返されるのに…。
それでもあなたは孤独だったの…?
ずっとずっと、ひとりぼっちで生きてきたの?

胸がギュンと縮こまり、可哀想で切なくて思わず健人を優しく抱き締める。
そして今やっと住職からの言葉がストンとみぞおちまで落ちた気がした。

彼が本当にあなたを必要としている…。
あなたに助けを求めている…。
あなたはこの世にその使命を受けて生まれて来た…。

そうか…。だからいいんだ、私で…。
私は健人くんのために生まれてきたんだもの…。
誰の言葉も関係ない。
健人くんの心の声にだけ耳を澄ませていればいいんだ。

懐深くに住職の言葉をしまい込んだら、自分の中のスイッチがやっとONになる。
ギュッとハグしたあと身体を離し、大きいけれど寂しい目をした健人を見つめ
思いっきりの笑顔で言った。彼の心を救うために。

「ごめんね!もう寂しい思いなんて絶対させないから。
私ねっ、健人くんを助けるために生まれて来たんだって!
今、夏美さんに怪しいお坊さんのとこに連れてかれたんだけど、
そのおじいちゃんが霊能者みたいな人でね。
私の心、ぜーんぶ読まれてそう言われたの。
凄くないっ?私が健人くんを助けるために生まれてきたって!
めっちゃテンション上がるでしょ!」

スタンバイまで時間がないので、とにかく早口でまくし立てる。
それを最初はポカンと聞いてた健人だったが、終いには顔をくしゃくしゃにし
本当に嬉しそうに笑ってた。

「マジっ!?マジでそう言われたのっ!?
ゆき姉が俺を助けるために生まれて来たって?それって運命の人ってこと?
やった!!すげーっ!マジすげっ!!めっちゃ嬉しいんですけど!
ねっ!俺もそのじーちゃんに会ってみたい!今度、俺も連れてって!」

健人の喜びようは見てる周りの者が一瞬呆気にとられるほどだった。
まるで新雪に転げ回る子供のように全身で喜びを表し、みんなもつられて笑顔になった。
だが、途中から入って来たこの人だけは…。

「誰が怪しいお坊さんですって!?誰がじーちゃんですって?
いつまでもふざけてないで、とっとと準備しなさーいっ !!」


夏美が落とした雷のお陰でみんなが我に返り、サーキットのピットインよろしく
これ以上無いというスピードで雪見のスタンバイに手を貸す。
こうして『YUKIMI&SPECIAL JUNCTION TOUR 2011 絆』は最後のライヴを
定刻通りに開始した。

ステージ上の雪見と健人、当麻の三人は、思う存分自分らの力を発揮。
翌日のスポーツ紙にも大きく取り上げられるほどの名ステージを繰り広げた。
そして…いつまでも名残惜しく響き渡るファンの歓声を背中に、
今そっとステージの幕を下ろす。

『YUKIMI&』が浅香雪見に戻った瞬間、健人は雪見を抱き締めた。
「よく頑張ったね。泣かないでよく最後まで頑張った。褒めてあげるよ。」

子供を褒めるかのように頭をよしよしと撫でられた途端、雪見の瞳からは
ステージで堪えてた涙がすべて床にこぼれ落ちた。
その場所に確かに居たことの証を、くっきりと刻むかのように…。


こうして期間限定アーティスト『YUKIMI&』は、跡形もなく消え去ったのである。



Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.446 )
日時: 2012/12/08 10:42
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「ちょい待ちっ!お前さぁ!俺の話、聞いてなかったの?
リムジンとかいらねーって言ったんだけど。
ゆき姉の好きそうな店を選んでやってってだけ頼んだんだよ!?」

「聞いてたよ。だからリムジンじゃなくて今回はハマーにしたじゃん!
それにこれから連れてく店は、ぜーったいゆき姉も気に入ってくれるの!
まだ店にも着いてないのに何言ってんの、健人は。」

「目隠しもいらねーって言ったのに、なんだよこれぇ!」


三月最後の日の午後7時半過ぎ。
翔平からの連絡通り、マンション一階のエントランスで車の到着を待ってた健人と雪見は
あまりにも目立ちすぎる超大型高級外車のお迎えに、慌てて車に飛び込んだ。
が、その途端、先に乗ってた翔平にアイマスクを装着され、健人は叫んでる。

「いいじゃないの、健人くん。
せっかく翔ちゃんが無い知恵振り絞ってサプライズしてくれたんだから。
私、こういうの初めてだから、なんかワクワクしてきたっ!」

「お!ゆき姉が喜んでくれたっ!てかなんだよ、無い知恵振り絞って、って!
まぁ翔チャン呼び、嬉しいから許すけどー。
これね、前にやった健人の誕生日企画のパクリなんだけどね。
俺に打ち上げ任せた健人が悪いんだよ。」
そう言って翔平は愉快そうに笑ってる。

そう、今夜はこれから全国ツアーの打ち上げなのだ。
とは言っても本当の打ち上げはすでに済んでるので、今日は気の置けない仲間との
飲み会兼当麻らの結婚を祝う会的なものなのだが、どうやら翔平は
相当張り切ってこれを企画したらしい。
最近仲間内で流行ってるドレスコードまで指定した上、車中ではテンション高く
まぁ喋ること喋ること。

「カジュアル過ぎないフォーマルなカジュアル、ってさぁ…。
翔平の言ってることって、みんな理解できてんの?
俺なんか昼間、スタイリストさんに相談したら笑われたから!」

「いいのいいの!取りあえず胸に赤い薔薇さえ付けてれば。
これから行くとこね、一回だけ偉い人に連れてってもらったんだけど、
絶対ゆき姉も気に入ると思う!
俺、速攻で会員登録したもん。まぁ会費がめちゃ高いのが難点なんだけど。
なんかステータスって感じ?俺も一流の仲間入りしたかなーみたいな。
でね、ほんとは会員制の店だから一般客は入れないんだけど、なんとなんと!
オーナーが偶然知り合いでさぁ!今回は俺の顔で特別にねっ。
あ、もうすぐ到着だ!アイマスクは店ん中に入るまで外すなよ。
地下駐車場に秘密の入り口があるなんて、なんかワクワクでしょ?」

「秘密の…入り口?」


健人と雪見が同時に頭に思い浮かべた通り、アイマスクを外して店内を見回すと
そこはなんと…。

「うそっ!?『秘密の猫かふぇ』じゃん!」

「えーっ、うっそ!?健人、知ってんのぉ?この店!
うわっ、めっちゃショック!絶対みんな来たこと無いと思ってたのに!
て、まさか…ゆき姉も?」

「ごめーん!私達この店の会員なの。」

翔平のハンパない凹み具合に二人が大笑いしてる所へ、胸に赤い薔薇を付け
ドレスアップしたみずきがコツコツと近付いてきた。

「ようこそ『秘密の猫かふぇ』へ!本日はご来場頂き誠にありがとうございます。」
そう言いながら丁寧にお辞儀したみずきは、三人が思わず見とれるほど
凛としたたたずまいで光り輝いている。

「みずき、今日は一段と綺麗!それになんか生き生きとしてる!
なんか良いことでもあった?」
雪見がみずきの顔を覗き込むと「えへっ、ナイショ。」と笑顔を見せた。

「しっかし、みずきも人が悪くね?!
オーナーだってことも最後の最後に言うし、健人とゆき姉が会員だなんて
一言も言わなかったじゃん!
俺がここで披露してみんなを驚かせようと思ったのに、サプライズが一個無くなったぁ!」
子供みたいに口を尖らせた翔平に、すかさず雪見が突っ込んだ。

「ばっかねぇ!たとえ知り合いだとしても、オーナー自ら会則破るわけないじゃない!
読んでないの?ここの会則。他のお客さんのこと口外したら、罰金一千万なんだよ!」

「い、いっせんまんー!?やっべぇ!危なかったぁ!」

ビビリまくる翔平にまたも大笑いしてると、ちょうどよいタイミングで当麻が到着。
「相変わらず綺麗だねぇ!」とニコニコしながらみずきの隣に並んだ。

「ありがと♪ さ、当麻も揃ったことだし中へどうぞ。
あ、今日は私、他のお客様にもご挨拶して回らなくちゃいけないから
バタバタしてるけど、ゆっくり楽しんでってね。
翔平くんが幹事さんってことで、特別に出血大サービスしといたから。」

「そっか…。今日がみずきオーナー最後の日…なんだね。
なんか寂しくなっちゃう…。」
雪見は目を潤ませたかと思うと、すぐにぽろんぽろんと涙をこぼし始めた。

「やだぁ!ゆき姉が先に泣いたら私までつられちゃうでしょ!
今日は最後まで笑顔でいよう、って決めて来たのに…。
なんでそんなに泣き虫なのよ、ゆき姉…。」

「ごめんね、ごめんね…。」

雪見とみずきは、お互いをそっとハグしながら泣いていた。
大好きだった亡き父から受け継いだこの店を手放すみずきの無念さが、
体温を通して雪見の身体に伝わってくる。
つらいよね、悲しいよね…。

この店が今すぐ消えて無くなるわけではない。
だが、明日経営権が事務所に移管してからが正念場なのだ。

みんなの大事な大事な思い出が詰まったこの店を、何としてでも守らなければ。
図らずも、翔平がこの店に今日連れて来てくれたことに感謝する。
ありがとう!明日からの決意が固まったよ。



「よしゃ!では皆さん、お手元のグラスをお取り下さい。
今日は俺の顔で飲み放題となってますんで、どーぞどーぞ盛り上がってね!
それと秘密のオーナーさんのご厚意で、店の半分からこっちは貸し切りになってます。
ずーっと奥の方には特別会員専用のボーリングレーンと、バスケのコートがあるそうで
そこも俺らのために開放してくれたから、思う存分くつろいで遊んじゃって下さい!
ではでは、SJとYUKIMI&のツアー成功と、こいつらの幸せを祈ってカンパーイ!」

「カンパ〜イ♪おめでと〜!!」「おめでとう!!」

翔平の俺様な挨拶にクスッと笑いながら、雪見と健人はグラスを合わせる。
当麻とみずきの周りには大勢の仲間が集まり、二人に祝福の言葉を掛けながら
次々グラスをカチンと鳴らした。

「俺も幸せにすっから安心して。」 「えっ?」

幸せそうに笑ってる二人を眺めてる雪見に、健人がぶっきらぼうに言う。
そして照れ隠しのように琥珀色のシャンパンを一気に飲み干すと、
「遊んでこ!」と雪見の手を引いて店の奥へとズンズン進んで行った。

まだ見ぬ秘密の洞窟探検。

二人は初めてここへ来た時のように胸を高鳴らせ、再び繋いだ手をギュッと握り締めて
長く続くトンネル内で素早くキスをした。

今までの私、バイバイ。明日からの私、こんにちは!






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