コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.222 )
日時: 2011/06/27 20:12
名前: r (ID: YsIqf46g)

それはやりすぎ

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.223 )
日時: 2011/06/27 23:15
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

「真由子、起きて!もう帰るよ!」

香織の声に起こされた真由子は、「あれ?私、いつから寝てたの?」と
ボーッとした冴えない顔で、雪見に聞いた。

「うーん、かれこれ二時間前かな?幸せそうな顔して熟睡してたよ。
相当疲れてたんでしょ?今日はゴメンネ。来てくれてありがとう!」

「えっ!私、二時間も寝ちゃったのぉ!?
なんでもっと早くに、起こしてくれなかったのよ!せっかくの合コンだったのに!
私が寝てる間に、まさか四人でイチャイチャしてたんじゃないでしょうね?」
真由子は、端から見ていて笑えるほど、一人だけ寝てしまった事を後悔していた。

「また来ればいいでしょ。今日からは、いつ来たって健人くんに会えるんだから。」
そう言いながら雪見は、隣りに寄り添う健人と見つめ合い微笑んだ。

「信じられない!本当にあの斎藤健人が、今日から雪見と一緒にここで暮らすの!?
私、もしかして、まだ夢の続きを見てたりする?」

「夢だったら私が困る!せっかく叶った夢なのに…。」

雪見は急に不安になってきた。朝目覚めて隣りに健人がいなかったら…。
雪見の曇った表情を見て、健人が笑いながら「どこへも行かないよ。」
と頭を撫でた。

「はいはい!いつまでも二人でやってなさい!香織、帰るよ!」
真由子はまだ少しふらつく足で立ち上がり、さっさと玄関へと歩き出す。

それを見て、慌てて香織も自分のバッグと真由子が忘れて行ったバッグを手に取り、
「ごちそうさま!また来るね。雪見なら必ずやれるから、自信をもって
進んで行くんだよ。健人くん、雪見をよろしくお願いします。じゃ!」
と挨拶してから居間を出た。

「あ、俺も帰る!香織さんちって、どこら辺?
俺、タクシーチケット持ってるから送るよ。一緒に帰ろう!」
当麻の言葉に、健人と雪見は顔を見合わせて二ヤッとする。

「じゃ、またな!っつーか、これから毎日歌のレッスンで会うもんね。
頑張ろうな、お互いに。香織さんとお似合いだよ!ファイト!」
健人が、最後に小声で当麻を励ました。隣で雪見も笑ってる。

幸せそうな二人の笑顔を見て、当麻は安心して雪見宅のドアを閉めた。

「当麻くん、香織のことが相当気になってるみたいだね。
あの二人はお似合いだと思うけどな。
うまく香織のアドレス、聞き出せればいいけど…。」
当麻達を見送った玄関先で、雪見がつぶやく。

「なんで?香織さんのアドレスなんて、ゆき姉が当麻に教えてやればいいじゃん。」

「それじゃ意味ないでしょ!自分で聞くから道が開けるんだよ。
キミはまだまだ修行が足りんな!」

「じゃあ、今日からしっかり勉強させてもらいます!」
そう言って健人が笑ったあと、雪見を引き寄せギュッと抱き締めた。

「今日から毎日一緒にいれるんだね。明日もあさっても、ずーっと…。
俺…、もう離さないよ、ゆき姉のこと…。」

「私だって離れないから…。
毎日美味しいご飯作って、健人くんの帰りをここで待ってる。」

「ゆき姉…。」健人が雪見にキスしようとした、その時だった!
かぷっ! 「痛ったーっ!」 
足音も無く忍び寄っためめが、健人の足に噛みついた。

「なんでだよぉ!俺、なんかしたぁ?」

「あ!まだめめ達に、ご飯あげてなかった!
ごめんごめん、お腹空いたよね。今すぐあげるからねっ!」
雪見はそのまま健人を残し、めめとラッキーにご飯をあげに居間へと行ってしまった。

記念すべき同居第一回目のキスは、邪魔が入ってあえなくおあずけとなり
仕方がないので健人は、スーツケース四個分の私服や帽子、靴などを取り出して
雪見が用意してくれたハンガーに掛けた。

ファッションリーダーでもある健人の、私服の枚数は半端ではなく、
とてもじゃないが、一度に全部を持ち出すことは不可能であった。
靴やブーツも相当の数があり、何日かに一回は自宅に戻って
私服を入れ替えることにする。

雪見が居間の片付けをしている間、整理整頓が大の苦手な健人は
四苦八苦しながら荷物の整理をし、その日二人が眠りについたのは
夜中の二時過ぎであった。


翌朝六時。雪見は、隣りに健人が本当に眠っていることに安堵しながら
そっとベッドを降りる。
顔を洗い身支度を調えて、朝八時に仕事に出掛ける健人のために、
美味しい朝食を作ってから起こそうと、冷蔵庫を空けた。
が!そこには何一つ食材など入っていなかった!

『しまったぁ!昨日のヤケ料理で、全部使い果たしたんだった!
一日目の朝ご飯は、絶対におしゃれな洋食にしようと、前から決めてたのに!
仕方ない。コンビニでなんとか食材を調達して来るか…。』
雪見は財布とケータイを持ち、そっと玄関を出て鍵を閉めた。

マンションから最寄りのコンビニまでは、徒歩五分。
普段はこんな朝っぱらからすっぴんで、コンビニになど出掛ける用事はない。
食材にしたってきちんとスーパーで、丸ごとの野菜を吟味して買うのが雪見だ。
だが今日は緊急事態。そんなこと言ってはいられない。

エレベーターが一階に着くのと同時に飛び出し、マンションを出る。
日曜の朝とあって、人通りは確実に少ない。
すっぴんであることを後悔していたが、これならあまり気にすることもないだろう。

外を歩き出してすぐに、遠くの方で「パシャパシャパシャ!」と
聞き覚えのある音が、微かに聞こえた気がした。
振り返って辺りを見回しても、誰もいない。

『おかしいな…。確かにさっきの音はカメラのシャッター音。
この私が聞き間違えるはずがない。
近くの公園ででも、誰かが撮影してるのかな?
最近は密かにカメラブームらしいから…。
そういや昨日当麻くんも、またカメラを持ち歩いて、色んなものを写し出した
って言ってたなぁ。暇をみてアドバイスしてあげよう…。』

そんな事を考えながら、コンビニのドアを押し開ける。
急いで卵やベーコン、キャベツなどを買い込み、またマンションまで
早歩きで戻った。

「パシャパシャパシャ!」

今度は確かに聞こえた!誰かが私を写してる!
目に見えない正体に怯えながら、雪見はマンションに飛び込んだ。


どうしよう!健人くんとのことがバレた!?

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.224 )
日時: 2011/06/28 21:12
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

後ろから誰か付けて来るのではないかと、ドキドキしながら
エレベーターを待つ時間のなんて長いこと!
『早く来てよ!』とひたすら祈り、ドアが開くと同時に素早く乗り込んで
閉ボタンを連打した。

『どうしよう…。絶対に私に向けてシャッターを切ってた…。
でも、どこにいたんだろう?音の方向はわかったけど、姿が見えない。
多分、相当な望遠レンズで狙ったはず…。』

エレベーターのドアが開いたので、考え事の続きをしながら降りる。
しかし!はたと周りをよく見ると、そこはなぜかさっき乗ったのと同じ一階であった!
慌てて飛び乗り、閉ボタンを連打したまではよかったが、何階かを押し忘れてたのだ。

『バッカだなぁ!なにやってんのよ、雪見!
でも…。これって神様が、確かめに行きなさいって言ってるのかな…。』

なぜか雪見はこういうピンチに直面した時、どこからか訳の解らない、
場にそぐわない好奇心のようなものが湧いてきて、よく考えもせずに
ふらふらと直感だけで行動してしまうことがある。

まさしく今がその状態で、雪見を写していたのが誰か?という一番重要な事よりも
どこに身を隠して撮っていたのか?という、どうでもいい事を確かめたくて
キャベツや卵の入った袋を手にぶら下げながら、またマンションの外に出てしまった。


シャッター音がしたと思われる方向に歩き出す。
なぜか、さっきのような恐怖感は影を潜め、代りに、絶対尻尾をつかんでやる!
という反撃精神がメラメラと燃えてきた。

こういう場合、雪見は自分のことを『双子座の二面性が出てきたんだから仕方ない』
と、変ないい訳を自身にして行動する。
まるで、『私が悪いんじゃないのよ。双子座に生まれたせいよ。』と
責任転嫁でもするように。
こんな事、世の双子座仲間がみんなでしてたら、下手すると凶悪事件にでも巻き込まれ
そのうち日本の人口は減りかねない。
と言うか、こんな解釈をして行動するのは雪見だけだと思うのだが…。


その時!ハザードランプをつけて止まっていた無人の車の影から、
大きな望遠レンズ付きカメラを手にした一人の男が、ひょこっと立ち上がった!

一瞬ドキッとしたが、雪見はすぐにその男をキッと睨み付け、
「ちょっと、あんた!さっき私のこと、写してなかった!?」と、大声で怒鳴った。
が、怒鳴ったすぐそのあとに、
『もしも自分を狙って写したんじゃなかったら、超かっこ悪い展開になっちゃうぞ!』
と後悔して、今度はにっこりと微笑みをたたえながら、穏やかに言った。

「あのぉ、私の勘違いだったらごめんなさい。
あなたの手にしてるキャノンの最新カメラ、一体なにを被写体にしてたのかしら?」

雪見はそう優しく言いながら、『またしても双子座だ!』と密かに自分に突っ込んだ。
だからぁ!双子座って、そんなんじゃないっつーの!


車を挟んで目の前に立つ男は、オドオドしている。
最初の、雪見に入れられた渇が相当効いたらしい。
年の頃は四十代前半か?いや、もしかするともう少し若いのかも知れない。
髪はボサボサで、着ている服もイケテない。
どう見ても、写真週刊誌や女性誌のカメラマンではなさそうだが、
こんなプロ仕様の、マニアックなカメラを持ってるとこ見ると
芸能人狙いか何かのカメラ小僧…いや、カメラおっさんか?
もしかして、雪見のマンションに出入りする、当麻や健人を狙っていたとしたら…。
下手なことは聞けないが、それとなく探りを入れてみる。

「あのぉ、何を写してたんですか?この辺りに面白いものでもありました?」
雪見は、数少ないグラビアの仕事で体得した、これ以上ないというくらいの
モデルスマイルで、穏やかーに小首を傾げて聞いてみた。

するとその男は、聞こえるか聞こえないかの小さな声で、あろう事か
「浅香雪見さん、ですよね?」と聞いてくるではないか!

「はぁ?そ、そうですけど、なにか?」

「俺のこと…、覚えてない?」

「えーっ?」 そう言われてマジマジと見つめるが、どこかで会った事
あるような、ないような…。
「ごめんなさい、どこでお会いしたんだろう…。」
雪見は、いくら考えても思い出せなかった。

「むかーし夏休みに、埼玉の健人の実家で…。毎年会ってたよね。」

「えっ!健人くんの実家で、毎年会ってた?あなたと?」

思ってもみなかった言葉に、雪見の思考回路は一瞬停止した。
その後、一つずつ記憶をさかのぼって行くと、確かに昔の夏休み、お盆の前後に
健人の実家には親戚がたくさん集まってた時期があった。
あの時にいた誰かだという事はわかったが、なんせ当時の斎藤家というのは
健人に近い親戚から雪見のように遠い親戚まで、ちいばあちゃんの周りに
実に多くの人達が集まって来ていた。
大人は大人同士、ひとかたまりになって酒を酌み交わし、一年ぶりの再会を喜び合う。
子供は子供だけでテーブルを囲み、ワイワイご馳走を食べては近くの
あの河原に出掛け、虫採りをしたり蟹を捕まえたり、缶蹴りをして遊んだ。

今思えば、誰がどういう繋がりの親戚かなんて、まったく気にも留めていなかった。
この人物の名前さえも思いつかないが、雪見と健人の親戚であることだけは間違いない。

それにしても、なぜ雪見を隠れてまで写していたのか…。
赤の他人よりもたちが悪い予感がして、身震いがした。


その時、手の中のケータイが鳴った。健人からだ!

「もしもし、ゆき姉?今どこにいるの?
目が覚めたらゆき姉がいないんだもん、心配したんだよ!どうしたの?」

「あ、ごめん…。朝ご飯作ろうと思ったら、冷蔵庫が空っぽで…。
コンビニに買い物に出たんだけど、マンションの前で写真を撮られちゃって…。」

「えっ!嘘でしょ!?どこの雑誌に?」

「それが…。雑誌じゃなくて、私達の親戚らしき人に…。」

「誰だよ、それ!」


美味しい朝ご飯を作って健人を起こすという、夢に見てた同居初日の朝は、
この突然現れた冴えない男によって、無惨にも打ち砕かれてしまった。




Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.225 )
日時: 2011/06/28 21:16
名前: 櫻井薫 (ID: qHfVjGdk)

((ヾ(*ゝ∀・*)ノ☆゜+.⊇ωレニちゎ゜+.☆ 私、櫻井薫です。
め〜にゃん さんこれからも頑張って下さい。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.226 )
日時: 2011/06/29 15:16
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)

「もしかしてその電話、健人から?」

雪見の目の前の、名前も思い出せない親戚らしきボサボサ男が、
馴れ馴れしく「健人から?」と聞く。

どうしよう…。なんだか嫌な予感がする。
「違います!」って答えようか。仕事前に健人くんを巻き込みたくない。
それに早く帰って、健人くんに朝ご飯を作ってあげないと…。


取りあえず、「今は急いでるから。」と言おうとしたその時だった!
その男は、いきなり雪見の手からケータイを奪い取り、
「もしもし、健人?」と勝手に話しかけやがった!

「ちょ、ちょっと、アンタ!何すんのよ!
返しなさいよ、人のケータイ!いい加減にしないと、警察呼ぶわよ!」
さすがの雪見も、ブチ切れた!
しかし、元々声が大きい上に、「警察呼ぶわよ!」に反応した通行人が
「どうしましたか?」と集まって来てしまった。

まずい!騒ぎになるのだけはまずい!

「あ、あの、なんでもないです!ごめんなさい!
私、口が悪くって…。あの、この人、親戚なんです。
ちょっとした口げんかで…。ほんと、お騒がせしました!」
雪見が深々と頭を下げるうちに、集まった人々は散ってくれた。

「はぁぁ…。とにかくケータイ、返してくれる?」

「あぁ、ごめん。」
騒ぎになったのを反省してか、素直に雪見に手渡した。

「もしもし、健人くん?悪いけど、今外に出て来れる?
うん、ラッキー拾った公園に行ってるから、急いで来て。
そうだよね、出掛ける準備があるのにね。
でもこの人、このままじゃ帰ってくれなさそうだから…。
取りあえず会うだけ会って、今日は帰ってもらおう。じゃ、待ってる。」

電話を切った雪見は、再び男にきつい眼差しを向け、健人のマネージャーででも
あるかのように、事務的な声で要件だけを伝える。

「健人くんが今降りて来るから、そこの公園に移動しましょ。
こんなとこで話してたら、また人が集まる。
八時にはマネージャーが迎えに来るんで、支度もあるし時間は少ししか
取れません。いいですね。」

本当は、こんな明るい時間帯に健人を公園になど、連れて行きたくはない。
日曜の朝は、早朝散歩を楽しむ人達で、結構賑わう公園なのだ。
けれど、かと言ってこんな男を部屋に上げるのだけは、絶対に御免だ。
親戚だか何だか知らないが、出来ることなら関わりたくない匂いがプンプン漂う。

一体、この男の目的はなに?
私の写真を撮って、どうしようっていうの?
健人に会って、何を言うつもり?

公園への僅かな道のりを、スタスタと先頭を切って歩きながら
雪見は不測の事態に備えて、頭の中で色々とシミュレーションしてみる。

一番に守るべきものは、もちろん健人の命!
まぁ、いくら何でも朝っぱらの人通りがある公園で、親戚ともあろう人物が
健人の命を狙う、なんて事は無いだろうな。
じゃあ、小さなナイフでも隠し持ってて、それで健人をゆするとか…。

雪見の頭の中でこの男は、可哀想に段々と凶悪犯並みに仕立て上げられていく。
そして雪見は、ついには命を張って健人を守る、SPへと変身するのであった!
もちろん妄想の世界で…。


なるべく人目につかない所で健人を待つ。
あまり人目につかなさすぎても、もし事件が起こった場合には困るので
程ほどの場所で。

「あ!健人くん!こっちこっち!」
健人は寝てた時と同じ、杢グレーのスウェットパンツにTシャツ、黒のコンバース姿。
上に黒のロングガウンを羽織り、フードを被って眼鏡を掛けて来た。

「よっ!健人。久しぶり。すっかり大人になったな!」
その男は健人を一目見るなり、馴れ馴れしく言った。
誰だろう?という顔の健人に、「俺だよ、俺!義人兄ちゃん!」

「えーっ!?義人兄ちゃん!?うっそ!マジでぇ?」

雪見は名前を聞いても、あまりピンとはこなかったのだが、
確かに昔、健人が大人の席で酒を飲んでるこの男に、
「義人兄ちゃん、川に魚釣りに行こう!」と、腕を引っ張ってせがむ
景色が思い出された。

「悪いけど、全然わかんなかった!だって激変したでしょ?あの頃と。
昔はもっと…。」

「イケメンだったって言いたいんだろ?あれから十四、五年も経てば
こんなもんだって!お前なんか、俺に一番似てるって言われてたんだから
気を付けないと、こうなっちまうぞ!
しっかし、あのチビ助が、よくもこんな人気者になったもんだ!」

雪見は健人が「こうなっちまう」のはヤダ!とゾッとした。

「あのさぁ、健人くん。私も一応親戚のつもりではいるんだけど、
多分私とは遠い関係の方だよね?こちらさん。」

「あれ?俺と義人兄ちゃんが従兄弟なんだから、ゆき姉とは俺と同じ
はとこなんじゃないの?
あ、ゆき姉覚えてない?俺が幼稚園ぐらいのお盆に、従兄弟とかと
川に蟹捕りに行って、足滑らせて流されかかった時、義人兄ちゃんが
川に飛び込んで俺を助けてくれたの。あんとき、ゆき姉も一緒に居なかったっけ?」

「おうおう、あったな!そんな事。びしょ濡れのお前をおんぶして帰ったら、
ちいばあちゃん達が一斉に仏壇の前に座って、「ご先祖様のお陰です!」
って拝み出したんだよな!
『俺のお陰なんだけど…。』って突っ込みたかったけど。」

二人は楽しそうに、昔話に花を咲かせている。
が、雪見はこの男も自分のはとこだと知って、ショックを受けていた。

「子供の頃はさぁ、『いとこ』だとか『はとこ』だとか、意味わかんなかったもんね。
『はとこ』って、鳩の子かぁ?みたいな。
ぜーんぶまとめて親戚って呼んでたから。でも、あの頃の夏が一番楽しかったなぁ!」

健人は、しばしのタイムスリップを、頭の中で楽しんでいる様子。
だが雪見は、この『はとこ』が何をしに、突然二人に近づいてきたのか
早く知りたかった。

「健人くん。あんまりのんびりとしてる時間も無いよ。
まだシャワーも浴びてないでしょ?」

「あ、そうだった!で、なんか用事があって来たんでしょ?義人兄ちゃん。
よく俺がここにいるって、わかったね。」

「毎日跡を付けてたからな、ここんとこ。俺、今こういう仕事してんの。」


そう言いながらポケットから出した名刺には、有名写真週刊誌の名前と
『専属カメラマン 斎藤義人』と書いてあった。




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