コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.462 )
日時: 2013/03/23 12:56
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「健人くんっ!!どーしたのっ!?まだ撮影中のはずでしょ?」

突然目の前に現れた健人に、雪見は驚きながらも嬉しくて顔がほころぶ。
それは健人も同じで、弾んだ息を整えながら雪見を見つめる大きな瞳は
まるで何年も離ればなれの恋人に、今やっと再会できたかのような喜びに溢れていた。

「だってゆき姉、さっき俺に会いに来たよね?あのカフェに。
だから最速で仕事終わらせて飛んできた。」

「あ…!やっぱ…バレてたっ?」

バツ悪そうに照れ笑いし、肩をすくめた雪見が可愛くて愛おしくて。
なのに色気を感じてドキリとした。

今すぐ抱きしめてキスしたい…。

いや、それよりすぐさま雪見の手を引いてここを立ち去り、一番こころ安らぐ
自宅のベッドで、再び愛を交わしたかった。
こんなにも大好きな気持ちを、今はどうすればよいのだろう…。

ここに誰も居なければ…。常務と今野さんさえ居なければ…。
って…え?「マ、マサトさんっ!!なんでここにいるんですかーっ!?」

「遅っ!お前、まさか今頃俺の存在に気付いたわけっ!?
てか健人って、彼女といる時いっつもそんな顔してんの?
見てるこっちの方が恥ずかしくなったわ!」

「うっそ!そんな顔って、どんな顔ですかっ!?」

健人はしまった!と思った。
申し訳ないが本当に雅人は視界に入ってなかった。ここに居ること自体、想定外だ。
小野寺と今野に関しては、もはや何も気を遣わなくていい存在。
だが、雅人の前では無防備な自分を極力見せてはいけなかった。
なぜなら…ラジオのネタにされるからだ!

「いや、いい。教えなーい!
今をときめく斉藤健人のあんな顔、もったいなくて教えらんない!」

「マジ勘弁して下さいよー!!絶対ラジオのネタにするつもりでしょ!?
今度おごりますからぁ!」

「お前さぁー。生きてんだろっ?」

「えっ?」

突然まじめな顔で言った雅人を、やっぱ格好いい人と思った。
この人のカリスマ性は、こんなとこから来るんだ、と…。

「フツーに生きてんだろっ?
だったら色んな感情持って当たり前だし、感情に見合った顔して当たり前じゃん。
それが人間ってもんだろ?」

「まぁ…。」

「だったらもっと堂々としてろよ。彼女が好きなら好きで、堂々としてろっ!」

その言葉は意外と衝撃的だった。
自分の立場上、こと恋愛に関しては堂々としてはいけないと思い込んでいた。
だが雅人の言うことは、いちいちもっともで、話しをさせてもらうといつも
「なるほどっ。そーゆーことか。」とスッと心に落ちる説得力があった。

だけど…ネタにはされちゃうんだよなーいつか(笑)。
でも雅人さんなら許せるんだ。
ネタにしつつもちゃんとフォローしてくれて、みんなを納得させてくれる。
俺にとっては神様みたいな人。
よくよく考えたら、こんな雲の上にいるような人に気に掛けてもらえるって
めちゃ奇跡みたいに、すっげーことだよなっ…。

「いやー、でも興味ある!君ら二人の恋愛にガゼン興味あるっ!!
ってーことで、今夜は飲みに行こう!二人の壮行会をしちゃる!!
あぁ健人、今、おごるって言ったよね?」

「え?ええーっ!?」



「ごめん、こんなことになっちゃって…。嫌じゃない?」

「嫌なんかじゃないよ。ただ緊張してるだけ…。
はぁぁ…どうしよう。きっと私、何にも話せないよ。緊張するー!」

午後8時。雅人の仕事終わりを待って二人でタクシーに乗り込む。
行き先は、何度か連れられて健人も行ったことのある雅人行きつけの居酒屋。
決してお洒落でも今風でもない、焼き鳥の匂いが染み込んだ古びた店。
だけど身体中の力が抜けてホッと出来る、居心地の良い店だった。

「こんばんは!」

少しベタつく縄のれんをくぐると、仕事帰りのおじさん達がすでに上機嫌で飲んでいる。
誰も入り口を気に留めるでもなく、一人で美味そうにコップ酒をちびりと飲んだり
会社の同僚と思われる少々くたびれた者同士が、愚痴をこぼしながらも
楽しそうに笑ってジョッキを傾けていた。

「雅人さん、来てますか?」
カウンターの向こうで汗だくで焼き鳥を焼いてる店主に、健人がぺこりと頭を下げる。

「あぁ、いらっしゃい!電話もらってるよー。
ちょっと遅れるけど急いで行くから、先にやっててくれってさ。
兄さん、奥の小上がり入ったことあるよね?
あそこ取っておいたから入ってて。食いもんはお任せでいいね?
あ、綺麗なお嬢さん。ビールでいいかい?」

「あ、はいっ♪」

『綺麗なお嬢さん』に気を良くしたわけでは決してないが、店の雑多な雰囲気と
60過ぎと思われる店主の、ピカピカ光る禿げ頭に日本手ぬぐい鉢巻き姿が
雪見のツボを刺激して、大いにニコニコしてしまった。

その笑顔を見て、やっと健人も安心する。
これならマサトさんが来ても大丈夫そうだ、と…。

その小上がりは『どんべい』を思い出させた。
こぢんまりしてて妙に落ち着く。
最近はお洒落なフレンチレストランでワインよりも、こんな場所が心地良い。

あれっ?それって私のオヤジ化ってこと?
やばい?いや大丈夫だよね。
だってあの天下の福原雅人でさえ、こんな店が行きつけなんだもの。

無理矢理自分を正当化してる自分に笑えてきた。
ビールをゴクゴク飲み干し、ひとり笑いを誤魔化す。
健人はその隣で、なぜか時計を気にしてた。

「どうしたの?さっきから時計ばっか見て。しかもまだ1杯目も飲んでないしー。」

「ゆき姉はマサトさん来る前にピッチ早すぎだよ!もう3杯目じゃん。
それじゃ来た時には出来上がっちゃう。」

「だって…緊張ほぐすためには飲むしかないんだもん…。」
そう言って溜め息をついた雪見の色っぽい横顔!

ヤ、ヤバイッ!カ、カラダガカッテニハンノウスル…

ちょっと待てっ!俺もヤバイが、マサトさんはもっとヤバイっ!!
色っぽいおねーさん、大好物でしょーっ!!!

「あ、あのさぁ、ゆき姉…。今日は帰らないっ?マサトさん、きっと遅いよ。
俺らも荷造り残ってるし、第一忙しいマサトさんに悪い。
俺たちのために時間やり繰りして壮行会だなんて。それに…。」

「それに…?」

横から身体と顔をグイと近づけ、首を傾げて瞳をのぞき込んだ雪見に
健人はとうとうノックアウト!
たまらずキスして白状した。

「マサトさんに…とられたらヤダ!」

「えっ…!?」
今度は雪見がノックアウトされた。

捨てられた子犬みたいに瞳をウルウルさせて、そんなセリフは反則でしょ!
どうしてくれるの、このドキドキ!可愛くて可愛くて、どうしよう!

「ねぇ…帰ろっか。」


かくして神様みたいな存在であっても、愛のてっぺんにいる二人には
近付けないという事実。
それを、年季の入ったテーブルに置かれた紙切れ一枚で思い知らされた神様は、
今頃意味のわからぬこの状況に苦笑いしてる頃だろう。

『めめとラッキーがお腹を空かせてるので帰ります。』

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.463 )
日時: 2013/03/30 10:07
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

本当にお腹を空かせてたらしいめめとラッキーは、雪見があげたフードを
カリカリと美味しそうに平らげて、満足そうにソファーの上で毛繕いを始めた。

それを見届け二匹の頭を撫でたあと、雪見がキッチンで酒のつまみを作ってると
雅人に詫びの電話をし終えた健人がやって来た。

「雅人さん…怒ってなかった?」恐る恐る健人の表情に探りを入れる。

「大丈夫!俺をすっぽかした奴はお前が初めてだ!って笑ってたよ。
帰国したら今日の埋め合わせはガッツリしてもらうから覚悟しとけ、だって(笑)。
忘れないようにしないとねっ。」
健人は雪見をギュッと抱きしめて安心させ「心配いらないから飲も飲も♪」と笑って言った。


ソファーに二人並んで腰掛け、健人が慣れた手付きでワインオープナーを操る。
二つのグラスに注がれた深紅のワインは、そこはかとない色気を醸しだし
その向こうに見え隠れする少し先の淫靡な景色を想像させた。

「今日も一日お疲れっ!」

小さく合わせたグラスの音が、二人きりの濃密な時間のスタートを告げる。
健人は、はやる気持ちを抑えながらも雪見の作ったつまみに手を伸ばし
「うまっ♪」と嬉しそうにワインを口に含んだ。


酒に強い二人にかかればワイン一本ぐらい、あっという間。
次に開けた白ワインが半分もなくなる頃には、雅人をすっぽかした件など頭から消えていた。

「ねぇ!ほんっとーに次の写真集、またゆき姉が撮ってくれんの?」

「ほんとだよっ。だから打ち合わせよりも真っ先に常務に直談判したでしょ?
手遅れにならないうちにね。」

「初めてゆき姉が事務所に来た時を思い出したよ。デジャヴみたいだった。
そんで部屋を出ようとしてたマサトさんが、ゆき姉の勢いにめちゃビックリして振り向いた!」
健人が雅人の顔を思い出し、ソファーにひっくり返ってお腹を抱えて笑ってる。

「だって…。健人くんの撮影現場眺めてて、また急に思い立っちゃったんだもん。
健人くんの写真は、もう他の誰にも撮らせたくない、って。
私以上に健人くんを撮れる人なんて、いて欲しくないって…。」

真顔で言ってる雪見に、胸を撃ち抜かれた。
鳥肌が立つほど、それは嬉しい言葉だった。
今やっと雪見の愛を手に入れた…そんな気がして、すぐさま雪見を抱きしめキスを繰り返す。
『ありがとう、愛してる』の言葉の代わりに…。


「そだ!そう言えば、おばさん大丈夫だったの?」

「えっ!?あぁ…うん、大丈夫だったよ。
なんか今の抗ガン剤が合わなかったみたい。少しお休みするって…。」
突然話を振られて慌ててしまった。

怪しまれたかな…。でも嘘じゃない。本当に抗ガン剤はやめるんだから。
残り僅かな命を穏やかに全うするために…。
母さんとの約束とは言え、君に隠し事をし続ける自分が悲しい。
でも…これが私なの。ごめんね…。

「そっか…。おばさんも辛いだろうな。俺がゆき姉をアメリカに連れてっちゃうから…。
きっと今一番そばにいて欲しいのは、ゆき姉…だよね。」
健人が少し悲しげな顔をした。やめてよ、そんな顔するのは…。

「違うよっ!お願いだからそんな風に思わないで…。
これは私と母さんが決めたこと。母さんが望んでることなの。
しっかり健人くんをサポートすることが雪見の使命だからね、って言われたわ。
だから大丈夫。私は母さんとの約束を果たすためにも渡米するのよ。何の問題もない。
お願いだから、もうそんな顔しないで…。」

やっと固まった心を、今さら揺り動かさないで欲しい。
私は…私は母よりも、あなたを選ぶ決意をしたのだから…。

「わかったよ…。じゃあさ、あさってはもう仕事無いから一日中病室にいて
二人で親孝行しよう!留守する二ヶ月分の親孝行!
俺、おばさんに頼みもあるし…。」

「えっ…?うちの母さんに頼みって…なんなの?」
親孝行と表現した健人が嬉しかったが、頼みなんて今までしたことないのに…と訝しげに思う。

「まだ教えなーい!」
「ケチっ!気になって眠れないでしょ!」
「いいよ、どうせ今夜は寝かさないから…。」

健人の唇があとちょっとで重なりそうになるその瞬間、雪見はスッと身体を引いた。

「教えてくれないと、キスしてやんない!」
「ひっでぇ!それじゃマサトさんをすっぽかしてきた意味ないじゃん!」
「じゃあ教えてっ!」

しょーがねーなぁ!と言いながら健人は寝室へ行き、一通の封筒を持って戻って来た。
差し出された封筒の中の折り畳まれた用紙を開いてみると、それは…。

それは婚姻届けであった。

「これにさ、証人の欄があってさ。おばさんに署名して欲しいんだよね。
もう一人の署名は、うちの母さんにしてもらってるから。」

「えっ…?」

「ほんとはさ、届け出すのはこっち帰って来てからだから、まだいっかって思ってたんだけど。
でも、今はおばさんを少しでも早く安心させてあげたいじゃん。
だからマネジャーさんに、これもらいに行ってもらった。
で…向こうに行ったら即結婚式っ!」

「ええーっ!?6月の予定だったでしょ!?」
初耳の雪見は驚くより仕方ない。

「だってこっち帰って来たら忙しくて、絶対新婚旅行なんて行けないと思う。
だからアメリカ留学を全部新婚旅行にしちゃえ!って思ってさ。
演劇学校の週末休みに、色んなとこ見て回ろうよ。
俺、ゆき姉と行きたいとこ山ほどあるんだ!今からめっちゃ楽しみっ!
あ…すげー文句言いたそうな顔してるー!
けどもう決めちゃったからね!教会も手配してもらったし。」

健人がサラッと言ってるふうを装って、実は内心ドキドキしてるのが雪見にはよくわかった。
お芝居ならこれくらいのセリフ、いとも簡単に格好良く決めるのに…。
けど今のは早口で声が所々うわずってて、視線があちこちに泳いでた。
俳優斉藤健人としては下手くそすぎるよ!それじゃただの人…。
学芸会から逃走した私のはとこ、健人くんでしょ…。
そう思った途端、涙がポロポロとこぼれ落ちた。

「なんで…なんで勝手に決めちゃうのよ…。
もし私がヤダって言ったら、どうするつもり…?」

「ヤダなんて言わせない。一種類の返事以外は認めないから。」
指先で雪見の涙をぬぐい取り、そっと口づけすると、やっと健人が笑顔を見せた。

「じゃあ…私が違う返事をしないように念押しして。」

「俺と早く結婚しろっ!じゃないとお仕置きっ!」

健人が笑いながら、ヒョイと雪見を抱き上げる。
大好きな人の首根っこにつかまりながら、雪見は熱いキスで返事した。

「望むところよ!一生私から離れられないようにしてあげるから覚悟してねっ!」

二人はリビングの照明も消さないまま、寝室のドアをパタンと閉めた。


幸せな幸せな、再びのプロポーズ。
二人きりの結婚式は渡米十日目の4月17日、日曜日に決定!

なんでこの日かって?演劇学校が休みだから(笑)
別に二人の記念日に特別な日付はいらない。

なぜなら、これからは毎日がMemorial daysだから…。






Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.464 )
日時: 2013/04/01 11:18
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

トントン♪(そーっと…)「母さん、おはよ!調子はどう?」

午前9時半。
回診が終わった頃を見計らい、健人と二人で母の病室を訪れた。
大部屋の場合、午後1時の面会時間を守らぬわけにはいかないが、
個室の面会は看護師も時間外を大目に見てくれる。

が、二人の正体がバレて病院中が大騒ぎになると厄介。
なので、入念に変装して病室に入る。

「えっ?あ…健ちゃん…?忙しいのにわざわざ…。」

「あーおばさん、おばさんっ!起きなくていいですって!寝てて下さいっ!」
身体を起こそうとした母に、慌てて健人が走り寄る。

あれこれ気配りしつつ母に接する健人を、嬉しい気持ちでぼんやり眺めてたら
心のどこかにいつも存在する想いが、ぴょこんと顔を覗かせた。

健人は優しい。いつでもどこでも、どんな人へも。
自信をもって言える。彼と接した人は必ず彼を好きになる。男も女も子供も年寄りも。
その『好き』の頂点に自分はいるつもりなのだが、他人の好き具合は見た目には判らない。
だからこの広い世界には、もしかすると自分よりもっと彼を好きな人がいるかも知れないし
彼もまた、私よりももっと好きな人が現れるかも知れない…。

…って私、なんで今そんなことを考えちゃったんだろ…。


「今日は顔色が良さそうで安心したよ。…って母さん!もしかしてお化粧したの?」
雪見がそれに気付き驚いて母の顔をのぞき込むと、母は照れくさそうに笑って見せた。

「だって…健ちゃんも来るっていうから。
イケメン俳優さんをお迎えするのに、冴えない顔じゃ恥ずかしいでしょ?」

「えーっ!それってファン心理と同じじゃん!母さんも私のライバルになっちゃったのぉ!?
たーいへんっ!盗られないように用心しなくちゃ。」
雪見がそう言って健人の腕にしがみつくと、病室の中には母と健人の笑い声が響いた。

本当に久しぶりに聞いた母の笑い声。健人も顔をくしゃくしゃにして笑ってる。
自分も笑ってるはずなのだが涙が浮かんで、ちゃんと笑えてるか自信がなかった。

それから雪見と健人はベッドサイドの椅子に腰掛け、母も交えて色んなお喋りをした。
明日からの渡米についてや、雪見撮影による写真集をまた企画してること。
猫を預けに行く『秘密の猫かふぇ』がどんな空間であるか、などなど。
二ヶ月留守する間の母が不安を抱かぬよう、健人が心を配って話しているのが
雪見にはよくわかった。

こんなに優しい人が、私の旦那様になるんだね…。

優しいのはずーっと前から変わらないが、今改めてその横顔をうっとりと眺める。
ギリシャ彫刻のように綺麗な顔立ち、長いまつげ、大きな瞳。
右半分に多い色っぽいホクロ、セクシーな唇の輪郭、それから…。

「ちょっと雪見っ!なに健ちゃんに見とれてるのよ。
いいから早く用件済ませて、もう行きなさい。
明日日本を出発するって時にこんなとこに居たんじゃ、貴重な時間がもったいないわ。
で、健ちゃん。その書類を貸して。署名してあげる。
雪見、そこの引き出しのポーチの中に鍵が入ってるから、金庫を開けて印鑑出して。」

二日前の息も絶え絶えな母は幻だったのか?私は夢を見てる…の?
テキパキと指図する姿は元気な頃の母そのものだった。

自分は老眼鏡を掛け、健人が書類を出してくるのをボールペンを持って待ち構えてる。
狐につままれた想いで雪見が金庫から印鑑を取り出すと、健人がおずおずと
例の封筒を差し出した。

「おばさん、これなんだけど…。」

母には昨夜、メールで用件は伝えてあった。
「ちょっと署名捺印してほしい書類があるのだが、印鑑は手元にあるか?」と。
婚姻届に、という主語は使わなかった。なんだか気恥ずかしくて…。

母は封筒から折り畳まれた用紙を取り出し、そっと開いて見る。
その瞬間の表情を、健人と雪見は固唾を呑んで見守った。

一瞬止まった視線。
だがすぐに穏やかな笑みを浮かべ、その薄い紙を凝視したまま「おめでとう。」と言った。

老眼鏡の奥の瞳に涙がゆらゆら揺れている。
ベッドテーブルの上に用紙を広げ口元をキュッと結び、空いてる証人欄に
自分の名前を丁寧に書き込む。
それからゆっくりと生年月日、住所、本籍を書いていったのだが…。
本籍地を書いてるところで用紙の上に、ポトリと涙が落ちてしまった。

「うわっ、ごめんっ!大事な用紙が濡れちゃった!」
母が慌てて落ちた涙をティッシュで吸い取ったあと、感慨深げに言ったのだ。

「もう本籍地なんて、書くこともないと思ってたから…。」
母が見つめるその住所は、亡き父と若き母が結婚生活をスタートさせた思い出の場所だった。

「ここで生まれたあんたが婚姻届とはね…。きっと父さんも喜んでるね。
この署名…父さんにさせてあげたかったな…。」
母の瞳から、また新たな涙がこぼれ落ちる。
それを見守る雪見にも健人にも、その涙は伝染していった。

だが母は…多分、父を想ってだけ泣いてるんじゃない。
自分の命を想って泣いてるんだ。
健人はそのことに…気付いてしまっただろうか…。

でもね、母さん…。私は母さんに署名してもらえた方が嬉しいよ。
今生きてる母さんに祝福してもらえることが、何よりも嬉しいよ…。

「これから新しい本籍を二人で作るんだね。本当におめでとう!
健ちゃん。ふつつかな娘ですが、雪見のこと、どうかよろしくお願いします。」

母は健人に向かってベッドの上で深々と頭を下げた。
健人も慌てて頭を下げたが、その母の姿を雪見はある覚悟をもって眺めてる。

母さん。私なら大丈夫だよ。健人くんについて行けば大丈夫でしょ?
もしも母さんに何かあっても…健人くん最優先で頑張るから。
それで…それでいいんだよね?母さん…。


「母さんの大事な役目は済んだわね?じゃ看護師さんに見つからないうちに帰りなさい。
あ、猫たちを頼んだわよ!みずきさんにもお礼言ってね。
このお金で猫たちに美味しい缶詰買って、最後に食べさせてやって。
お釣りであんたたち、お昼ご飯でも食べなさい。」

「えーっ!私達が猫のおこぼれもらうの!?でも有り難くもらっとく!サンキュ♪」
そう言いながら雪見は、母が用意してあった現金入りの封筒を受け取った。

「じゃ、行くね。二ヶ月向こうで頑張ってくるから母さんも頑張ってよ!
ウェディングドレス姿は、綺麗に撮ってもらえたら送るから。」

「おばさん、ちゃんと送るよ!絶対綺麗だから。」

「あら、健ちゃんも言うわねぇ(笑)じゃ楽しみにして待ってます。
気を付けて行ってらっしゃい!」


病室のドアを閉める最後の最後まで、みんなの笑い声が響いてた。
だが…。

これが永遠の別れになることを、まだ三人は気付いていなかった…。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.465 )
日時: 2013/04/06 05:12
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

母を見舞い病院を出た雪見と健人は、次に雪見の実家へと車を走らせた。
母が飼ってる猫5匹を『秘密の猫かふぇ』へ預けに行くために。

雪見のバッグの中には、母に署名してもらった二人の婚姻届が大事にしまわれている。
健人はこのまま車の進路を変え、区役所に婚姻届を出しに行きたい勢いだった。
が、残念なことに雪見の賛同はどうしても得られず。
雪見の夢は昔から、神父様の前で永遠の愛を誓い、それから婚姻届に二人で署名捺印し、
二人で区役所に届けを出しに行くことだった。
なので雪見の希望通りの手はずを踏むことにする。


「でもさぁ、おばさん元気そうで良かったよ!マジ、ホッとした!
これで安心してゆき姉を連れて行けるから…。
俺…もしおばさんの具合がもっと悪かったら…ゆき姉を置いてこうと思ってた…。」

「えっ…?あ…!」

思いも寄らぬ言葉に、運転中であるにも関わらず助手席の健人を凝視した。
そしてそれと同時に健人の言葉によって、今あることに気付いたのだった。

母は…母は健人に安心して私を連れてってもらうために、思い切り元気なふりを
してたのだと言うことを…。
人気アイドルに嫁がせる娘の母親として、それが使命と命を奮い立たせて…。

「ゆき姉ーっ!前見て運転しろよっ!…ったくもぅ、あっぶねぇなぁ!
明日行けなくなったらシャレになんないからっ!」

「ご、ごめん…。だってぇ…。健人くんがそんなこと言うから…。」

ヤバッ…どうしよう…。今泣いちゃダメだ…。
せっかく何も気付いてないのに…。母さんは元気だって思い込んでるのに…。

「ゆき姉…?なんで泣いてんの?」

運転しながらだと、涙をふき取るタイミングを逃す。
やはり涙を健人に見つかり、今度は健人が不思議顔で雪見を凝視した。
お願いだから気付かないで。涙の本当の理由を…。

「だって…健人くんが優しいこと言うから…。いっつもそうやって私を泣かす…。
あーあぁ!ズルいよなぁー斉藤健人は!」

「なんでぇ!?俺のせい?俺のせいなのぉ?」

「そう!健人くんのせい!私が泣くのはぜーんぶ健人くんのせいっ!
ドラマと同じカッコイイ顔して、そんな優しいセリフ吐くから!
世の中の健人ファンはねぇ、そーいう一撃でみんなやられちゃうのっ!」

ホントの理由を誤魔化すためとは言え、カノジョ的にはかなり苦し紛れの
無茶苦茶な言い訳を吐く。
にも関わらず健人は怒りもせず、さらに優しさの上乗せをしてきた。

「えーっ!?じゃ、どんな顔して言えばいいのさ。こんな顔?それともこんな顔?」
滅多にしないヘン顔を次々として雪見を笑わせようとする。
その優しさにまた泣けて、くしゃくしゃの泣き笑いをしながら前を向いた。

「ゆき姉、こっち見て。」

信号待ちで車を停止した途端、健人はそう言ってカチッと素早くシートベルトを外し
横を向いた瞬間の雪見に、そっと優しいキスをした。

「俺が優しいとしたら、ゆき姉のせいだからっ!俺はなーんにも悪くないっ!」
そう言ってにっこり笑う健人は、やっぱり格好良すぎてズルいと思った。

なんでだろ…。
最近健人くんを『イケメン俳優斉藤健人』として凄く意識する。
前は『はとこでちょっとイケメンの健人くん』と付き合ってると思ってたのが
今は『あの斉藤健人が隣に乗ってるよー!どうしよう!』とドキドキ落ち着かない。
これってただの一ファンと何ら変わりない気がするのだが…。
この変化は一体…いいこと?悪いこと?



実家に到着し、鍵を開け玄関に入ると一斉に猫たちが二人を出迎えた。
だが、明らかに母が帰ってきたと勘違いしたらしい5匹は、健人と雪見に
社交辞令程度に身体を擦りつけた後、1匹を残してまたどこかへと散ってしまった。

「そうだよね…。みんなが待ってるのは母さんだよね…。
ごめんね、母さんはまだ帰って来れないの…。
ほんとはここのお家で待っていたいよね…ごめんね…。」

しゃがみ込み、足元に残った1匹の頭を撫でながら雪見は、自分で言った言葉に
内心シマッタ!と思いながら必死に堪えた。

どうも最近涙腺が弱すぎる。今ここで泣いてしまったら健人の心を傷つける。
母の不在時に雪見を連れて渡米してしまうから、猫さえも寂しい想いをさせてしまう…と。

そうならないために、雪見は慌てて明るい声で猫たちを呼び戻す。
「忘れてたっ!おいでおいでー!美味しいご馳走買ってきたよー!」

5匹が美味しそうに高級缶詰を平らげ、満足そうに毛繕いを始めると
雪見はその間に押入の下から猫を入れて運ぶキャリーバッグを取り出した。
母に聞いてた通り3個しかないので、健人が車からめめとラッキーのバッグを持ってくる。

「ごめんね!めめとラッキーの匂いがして落ち着かないだろうけど、
少しの間だけ我慢してね。」

5匹を5つのバッグに収容した後、素早く猫トイレの中を掃除する。
母の留守中の実家に異常がないか一通り各部屋を見て回り、何事もないことを確認すると
雪見はその場で母にメールを入れた。

   留守宅異常なし!
   猫達も食欲旺盛元気いっぱい!
   これから猫かふぇへ向かうよ。
   母さんから預かったお金、
   ちゃんとみずきに渡すから。
   何も心配せずにゆっくり療養。
   私達も幸せだから大丈夫♪
   あ、留守宅の見張り番に、前に
   3人で写した写真飾っておく。
   病室に置いてくるの忘れてた。
   退院したらこれ見て私達の帰り
   を待っててねっ♪

      by YUKIMI


送信してからその写真立てを、コトンと居間のテーブルの真ん中に置いた。
退院して帰った母が、居間のドアを開けて真っ先に目に留まる場所に。
誰も居ない部屋で「お帰りっ!」と私たちが出迎えてあげられるように。

『YUKIMI&』のラストライヴ終了後、元高校写真部の当麻に写してもらった
プロの雪見をも唸らせるようなベストショット。

健人、母、雪見の3人が、キラッキラな笑顔で写ってる。
きっと母も喜んでくれるに違いなかった。
この写真を目にしたならば…。

だけど…。

母がこの家に戻る日は、もう二度と来なかった。
それを知ってか知らずか、遠ざかる車の中で5匹の猫たちは、
いつまでもいつまでも鳴き続けている。



Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.466 )
日時: 2013/04/10 15:38
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「よーし、到着っ!ゆき姉、そっちの2匹持てる?俺はこいつら3匹連れてくから。」

『秘密の猫かふぇ』地下駐車場で助手席から先に降りた健人は、車のハッチバックを開け
ショルダー式になったキャリーバッグひとつを、まずはひょいと肩に掛けた。
それから両手にも一つずつ持ち「もうすぐ出してやるからなっ!」と
猫たちに優しい声を掛け、雪見と二人、店へと繋がる秘密のエレベーターへと乗り込んだ。

…が、会員証をかざさないと動かない、このエレベーター。
なのに健人がそれを出しておくのを忘れ、慌ててキャリーバッグ3つを床に下ろし
財布の中から会員証を取り出す。

やっとかざされた会員証によって、エレベーターのドアが無事閉まる。
と、その瞬間健人は、両手にバッグを持ち無防備に突っ立ってた雪見に覆いかぶさりキスをした。
地下3階から、たった一階上がるだけのわずかな時間に。

ドアが開くギリギリ2秒前に唇を離し、同じ唇で「好き。」と言う。
そして何事も無かったかのように、おもむろにバッグを手に取りエレベーターを降りてった。
こっちはヒヤヒヤしてドキドキが止まらないっていうのに。
だってこのエレベーターは『秘密の猫かふぇ』直結。
ドアが開いたら、そこはもう店内なのだから。

「ねぇ。いったい一日何回キスすんの?」

受け付けに向かって歩き出した健人の背中に、少々あきれ顔して小声で聞いた。
だってあのタイミングでキスし始めると言うことは、突発的かつ衝動的な行動なんかじゃなく
その手前の段階からすでに用意周到、準備万端なわけで…。

「隙あらば何度でも!明日からは今までの百倍くらいねっ。」

「えーっ!それじゃ外人さんになっちゃうよ(笑)油断大敵だなー。覚悟しとくわ。」

振り向いた健人が修学旅行前日並みのウキウキ感で、なんだかビックリ。
心はもうニューヨークの街を闊歩してるんだなぁと思うと微笑ましくなって、
さっきまでのあきれ顔が笑顔に変わった。


「いらっしゃいませ。お待ちしておりました、斉藤様、浅香様。
ただいま係りの者がご案内に参ります。そちらにお掛けになってお待ち下さい。」

有名人慣れしてる受付の黒服イケメン君が、超人気俳優である斉藤健人を目の前にしても
顔色一つ変えず、ごく自然な笑みをたたえて受付横にある待合い場所を手で示す。

「ども。」
健人がペコッと頭を下げ、雪見にも座るよう目で促した。

だが雪見は、この黒服君の笑みが『もしかしてエレベーターん中でキスしてた?』
と言ってるように思えて、恥ずかしくて顔を上げられない。
それはまったくの被害妄想なのだが。

背の高い観葉植物でさりげなく囲われたそこには、座り心地抜群の革張りソファーが。
その脇に5つの猫入りキャリーバッグを置いて二人で座る。
だが、いくら邪魔にならぬよう配慮して置いたにしても、目を引くのは当然だ。

しかもその時、雪見はハッと気付いた。
朝着替える時に「どうせ母さんのお見舞いと猫を預けてくるだけだから
普段着でいいよね?」
と言って、猫の撮影にでも出かけるような格好にキャップをかぶり、
すっぴんに近いナチュラルメイクで出てきたことを。

後から店に入って来る客、出る客はみんな、それなりの格好をしてる。
そりゃそうだ。客のほとんどがテレビで見たことがある有名人、著名人。
いくらプライベートとはいえ、私服も見られてることを前提に選んで着てるだろう。
それに引き替え、このラフすぎる自分の格好…。

『おい、斉藤健人と彼女じゃね?彼女ってあんな年上なの?しかもどうよ、あの格好。』
通りがかる客みんながそう言う目で自分を見てる気がして、雪見は益々うつむいて
キャップのつばをグイと下げた。

早く係りの人、迎えに来ないかなぁ…。

「あのねぇ、そーいうのを自意識過剰って言うんだよ。」
隣で身を潜めるように小さくなってる雪見に、本心を見抜いた健人が言う。

「自分が思うほど、周りは人を気にしちゃいないから。
ここの会則忘れたの?他人に干渉するべからず。違反者は罰金…」

「一千万!」

「でしょ?(笑)それに今からそんなんだったら、この先気疲れするよ。
ゆき姉には悪いけど、俺と一緒にいると注目されるのは仕方ない。
けどね、いちいち気にしてたら生活なんて出来ないよ。
てか、俺ら結婚すんだよ?なにコソコソする必要あんのさ。」

「そりゃそうだけど…。こんなオシャレじゃない格好見られても…平気?」
雪見がキャップの下から上目遣いで健人の顔色をうかがう。
その表情がドキッと身体を反応させるほど色気があって、ヤバイと思った。

と、健人は何とかそれを誤魔化そうとヒョイとキャップを奪い取り、
「ひゃははっ!」と笑いながら雪見の頭を両手でクシャクシャに撫で回す。

「ちょ、ちょっとぉーっ!ヤダもぅ!髪の毛グチャグチャじゃないのぉ!」
ゆるふわロングヘアがグチャグチャロングヘアになり、雪見は慌てて手で髪を整える。
だが健人は少しも悪びれることなく、雪見の耳元に口を近づけてささやいた。

「どんなカッコでも、どんな髪でも、俺の最強に好きなゆき姉に勝てるヤツなんていないよ。」

健人がする無意識のキメ顔ってずるい。
柔らかで優しい声もずるい。
身体から立ち上る甘い香りもずるい。
何より…こっちからキスしたくなるような、ドキドキするセリフを吐く唇がずるい!

そう思った瞬間雪見の視界からスッと周りが消え、健人の首に手を回し唇を重ねてた。

きっとその場を通りがかった数組の客たちは一様に驚いたことだろう。
いや、一番驚いたのは健人に間違いない。
突然の出来事に目を見開いたままだったし、周りの客も見ない振りして
顔を背けてくれた。
だが、ここは『秘密の猫かふぇ』。それで良いのだ。

「私も外人さんになっちゃった。えへへっ♪」
普段しないことをし、いたずらっぽく笑う今の雪見は、どう見ても
年下の可愛い彼女にしか見えない。

年上の色っぽい綺麗なお姉さんだったり、年下の可愛い女の子だったり。
はたまた美人凄腕カメラマンだったり、地上に降りたマリアと表されるアーティストだったり。
雪見の顔がくるくる変わるたびにドキドキさせられ、胸がキュッと熱くなり
大好きが止まらなくなる。

「じゃ、おーれもっ♪」
今度は健人からキスをしようと顔を寄せた瞬間、「コホン!」と後ろから咳払いが聞こえた。

「お待たせ致しました、斉藤様。その続きはあちらでどうぞ。」

観葉植物のパーテーションの向こうからクスクス笑いながら現れたのは
なんと黒服を着た当麻であった。



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