コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.252 )
- 日時: 2011/07/21 19:19
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
e さんへ
ごめんなさい!なんて言う題名か教えてください。
なんて名前で書いてますか?
読みたかったのですが、探せなくて…。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.253 )
- 日時: 2011/07/23 17:05
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
突然、トーク中のステージから雪見が消え去り、後に残された健人と当麻は
雪見が戻るまでの間、必死に場を取り繕っていた。
夏美も、雪見がなかなか戻って来ないので、ステージ横でイライラし始める。
「ねぇ、全国ツアーって楽しみじゃない?
この三人でコンサートができるなんて、夢みたいな話だよね!」
当麻が、ツアーの話で何とか時間稼ぎをしようと、健人に話を振る。
「ほんとだね。ついこの前までそんなこと、思いもしなかったな。
でもさ、CDデビューしたらいつかはきっと!ってみんなが夢見る全国ツアーを、
デビューから二十日後には実現しちゃうって、なんか怖い気がする。
ほんとに俺たち、大丈夫なの?って。」
実は健人も、雪見と同じような気持ちで揺れ動いていた。
自分には、そこまでの実力があるのだろうか、と…。
「俺はさ、一人なら無理かもしれないけど、健人とゆき姉が一緒なら
なんとかなると思ってるよ。絶対楽しいでしょ!めっちゃワクワクする!」
そう思えるのが当麻のいいところだった。
見た目、健人はあまり物事を深くは考えないように見られがちだが、
実は何事においても慎重派で、よく考えてからでないと行動には移さない。
反対に当麻は、まず行動に移してから考えるタイプで、健人に比べると楽天的とも言える。
だから今回のツアーに関しても、デビュー出来ること自体は嬉しいが、
まだそんな時期ではないのではないか、と言うのが健人の正直な気持ちで、
いやいや、三人力を合わせれば何とかなるさ!と言うのが当麻の考えであった。
「だって、これが最初で最後だよ!三人でツアー出来るの。
ゆき姉は、三月一杯しかアーティスト活動しないんだから、幻のコンサートツアーでしょ!
あ!記者さんたち、ここ強調しといて下さいねっ!
今回限りの三人でのツアーだから、皆さんお見逃しなく!って。」
当麻がそう言って会場を見渡し、念を押した。
するとそこへ、「みなさん、ただいまぁー!」と雪見が元気良くステージに戻って来た!
夏美が止める間もなく、手で何やらコロコロと押しながら…。
「遅いよ、ゆき姉!家のトイレまで行っちゃったのかと思った!」
当麻が、やっと戻った雪見に胸をなで下ろした。
「ホント、もう帰って来ないのかと思って心配したんだから!」
健人の本心でもあった。
「ごめんごめん!ちょっと良いこと思いついちゃって。」
雪見が手を合わせて二人に謝る。
「あれ?何持ってきたの?まさかそれって…。」
「ピンポーン!当麻くん、正解です!カラオケ借りて来た!
歌お!私達の課題曲!なんか急に歌いたくなってさ、『ヴィーナス』の
吉川編集長にお願いして、違う部署にあったの借りてもらっちゃった!
だって、私の歌はこれから披露するけど、二人の歌は今日はまだ発表出来ないでしょ?
それじゃ、せっかく集まってもらったこんなに大勢の記者さん達に、
申し訳ないじゃない。
だからあの歌で今日の所は、勘弁してもらおうと思ってさ。」
雪見は、ニコニコしながら二人を交互に見つめる。
さっきまで泣いていた事など、おくびにも出さずに…。
健人と当麻は顔を見合わせて笑ってた。ゆき姉らしいや!と思いながら。
「よっしゃ!そんじゃ歌っちゃいますか!俺ね、この後カラオケ行きたいと思ってたのよ!
さっすが、ゆき姉!俺の事、わかってるぅ!」
当麻のテンションが上がってきた。
「そう言う理由で借りてきたんじゃないんだけど…。まっいいか!
健人くんも歌ってくれるでしょ?」
「もちろん!ありがとね、ゆき姉。みんなのこと考えてくれて。
ゆき姉は…、もう大丈夫だよね?」
健人が雪見の目を真っ直ぐに見つめ、瞳で会話する。
「大丈夫!ちゃんと歌えるよ。でもその前に…。
ビール一杯だけ飲ませて!走り回って準備したから、喉がカラカラ!」
雪見が美味しそうにビールを一気に飲み干し、「うまいっ!」と叫ぶと、
その飲みっぷりに会場からは「いいぞーっ!」と拍手が起こる。
雪見がその声援に応えるかのように、ステージの前方ギリギリに立ち、
会場に集まった記者達に話しかけた。
「えっと、皆さん!今日は本当にお忙しい所、私達の為にお集まり頂き有り難うございました!」
突然雪見が挨拶を始めたので、健人と当麻も慌てて雪見の横に勢揃いする。
「私達はなにぶん俳優と猫カメラマンです。
そんな三人が歌う歌ですから、下手くそ!と思われるかも知れません。
ですが、心から楽しんで歌う事に関しては、誰にも負けてないつもりです。
これから三人で歌わせてもらうのは、絢香×コブクロの『WINDING ROAD』です。
当麻くんのラジオ番組向けに練習した曲ですが、今の私達を表現するのにピッタリな
一曲だと思います。
その後に歌う私のデビュー曲『君のとなりに』と、二曲続けてお聞き下さい。」
そう言って頭を下げたあと、三人は胸元のピンマイクを外し、ステージ中央に置かれた
カラオケの前に移動して、雪見を真ん中にマイクを握る。
曲をセットしてから三人、目と目を合わせにっこりと笑った。
♪曲がりくねった道の先に 待っている幾つもの小さな光
まだ遠くて見えなくても 一歩ずつ ただそれだけを信じてゆこう
出だしのフレーズの息がピッタリと合い、三人がホッとした瞬間
会場からは地鳴りのようなどよめきと共に、割れんばかりの拍手が湧き起こる。
予想もしてなかった反応に一瞬ビビッた三人だったが、みんなが受けてくれたと嬉しくなり、
今までで一番楽しんで歌う事が出来た。
歌い終わった時の喝采は、たった一曲のカラオケの後とは思えないほどで、
いつまでたっても拍手と声援が鳴りやまず、ステージ横で見ていた常務の小野寺を始め
プロデューサーの三上、夏美、今野らも、この三人の成功を改めて確信した。
拍手の渦の中、雪見がステージ左に用意されたグランドピアノの前に静かに座る。
健人と当麻も、雪見を見守るようにピアノを取り囲んだ。
ふぅぅぅ…。いつもと同じに雪見は目を閉じて、大きく息を吐く。
パッと瞳を開けた時、雪見は『YUKIMI&』に変身を遂げていた。
大勢の人を前に、初めて歌うとは思えないほどの落ち着きを見せているのは、
もはや周りの景色など目に映らないからで、ゆっくりと鍵盤に指を下ろし、
穏やかな顔で前奏を弾き始める。
♪はるか遠くに忘れた日々を 君と一緒に取りに戻ろう
たったのワンフレーズで、ざわついた会場は水を打ったかのように静まり返えった。
そこにいるすべての人が雪見の声に心奪われ放心し、やがて涙をこぼす。
それはまるでマリア様に偶然出会い、今までの罪を懺悔して流す涙にも似ている。
地上に降りた聖母マリアが、そこにいた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.254 )
- 日時: 2011/07/24 20:00
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
クスクスッ!「おっこるだろうなぁ、ゆき姉!」
あれっ?なんか健人くんの笑い声がしたような…。
夢の中で聞こえたのかなぁ?
なんか飲み疲れて、目が開かないや。うわぁ、頭も痛ーい!
お寝坊さんの健人くんが、私より先に起きるわけないし…。
まだ目覚まし鳴らないから、もうちょっと寝てようっと。
デビュー記者会見の翌朝。
雪見は昨夜の飲み過ぎがたたって、まだベッドの中にいる。
昨夜の記者会見は雪見がデビュー曲を歌い終わったあと、大変な騒ぎとなってしまった。
ただの酒飲みのお姉ちゃん!ぐらいに雪見を見ていた記者達は、まず
『WINDING ROAD』の声量あるパンチの効いた歌声に聴き惚れ、次に
『君のとなりに』のささやくようなウィスパーヴォイスに驚く。
誰もが聞いたこともないのに、なぜかマリア様のささやきが頭に思い浮かび、
自然と涙が頬を伝った。
おじさん記者も、雪見を煙たがっていた女性記者も、健人も当麻も…。
会見が全て終了した時、記者達は少々ふらつく足で先を争うように出口へ向かい、
それぞれの社へと大慌てで戻って行った。
「何としてでも明日の朝刊に間に合わせなければ!久々の大発見だぞ、これは!」
一気に会場から人が居なくなり、残された健人たち三人と小野寺や三上らは
呆気にとられたあと、なぜか可笑しくなってみんなで大笑い。
「よしっ!残った酒で打ち上げだ!」
三上の音頭でお疲れ様の乾杯をし、『ヴィーナス』編集長の吉川を始め
進藤、牧田らスタッフも含めて全員が、三人のデビューに向けて全力で
サポートすることを誓い合う。
雪見たちも、「悔いが残らないように頑張ろうねっ!」とお互い心を一つにした。
笑い声の絶えない、楽しい打ち上げのあとには…二日酔いが待っていた。
最悪だぁ…と思いながら、雪見はベッドの中でうつらうつらとしている。
半分寝てるような、起きてるような…。
だがさっきから、どうも健人の気配を頭の辺りで感じる。
クスクス笑ったり独り言を言ったり…。
え?えっ?まさか…!?
「うっそぉ!?健人くん、もう起きてるの!?やだ、寝坊しちゃった!
なんで起こしてくんないの!早く朝ご飯作らなきゃ、仕事遅れちゃう!
あ痛たたっ!最悪だ…。頭は痛いし寝坊はするし…。」
雪見が一人で慌てふためいているというのに、なぜか健人は余裕の表情で
ベッドに腰掛け、新聞を読み散らかしている。
「おはよ!ゆき姉。なに一人で慌ててんの?
今日の仕事は夕方からだって、昨日常務が言ってたじゃん。」
「うそ!?そうだっけ?今何時?」
「今?六時だよ。」
「なんで健人くんがそんな時間に、私より先に起きてんの?」
「これだよ、これ!朝刊が楽しみで寝てなんていられないから!
朝っぱらから走ってコンビニ行っちゃった!
あ、いっぱいサンドイッチ買ってきたから、朝ご飯はそれでいいよ。
ゆき姉はまだ寝てていいけど、これだけ見てから寝て!」
そう言いって健人は、ニコニコしながらベッドの上に散らかしたスポーツ紙を集めて、
眼鏡と共に雪見に手渡した。
ボーッとしてズキズキと痛む頭に手をやりながら、見出しに目をやる。
「『健人&当麻+変幻自在化け猫カメラマン、デビュー決定!』って、ちょっと何よこれ!
こっちは『猫を被った歌姫YUKIMI&』って、ひどすぎない?
なんでどこも猫扱いなわけっ!?」
雪見は一気に寝ぼけ眼が覚めた。
怒りまくる雪見を見て、健人がお腹を抱えてベッドの上を笑い転げる。
「やっぱ怒った!思った通り!」
「あったりまえでしょ!これ、怒らない人いる?」
「まぁまぁ!ちゃんと中の記事読んでみなよ。どの新聞もゆき姉のこと、大絶賛してるから。
俺と当麻のことも、褒めてくれてた!『見た目だけじゃなく、実力も充分な二人』だって!
スポーツ紙の見出しなんてインパクト第一なんだから、その点から言えば
満点のインパクトでしょ!
大体ゆき姉が自分の事、猫カメラマンって呼ぶからだよ。
俺のことだって写してんだから、ただカメラマンでいいのに。」
「それにしたって、あんまりだぁ!」
雪見は嘆きながらも新聞記事に目を通す。
読んでみると、確かにどの記事にも雪見の事を「奇蹟の歌声」とか「久々の超大型新人現る!」
とか、褒め言葉が並んでいた。
が、スポーツ紙が褒めて終る訳はなく、その他にも酒豪だの、話し言葉と歌声、
見た目のギャップが激しいだの、好き放題書かれている。
まぁ、完全否定できないのが悔しいが…。
しかしただ一つ胸をなで下ろしたのは、どこにも健人と雪見の関係を疑う記事が
載っていなかったこと。
どの新聞も、健人と雪見は仲の良い姉弟のような親戚同士と伝えていた。
「良かったぁ!私達のこと、どこにも書かれてなかった!
どうにかお芝居がバレないで済んだ。」
ホッとしたら、また眠気が襲ってきた。
雪見がベッドにバタンと寝転がって目を閉じると、健人がその隣りに転がって、
チュッとほっぺたにキスをした。
「ねぇ!せっかく夕方まで仕事ないんだから、久しぶりに二人でどっか出掛けようよ!
この先はびっしり仕事が詰まってるから、半日も休めるのは今日だけだって、
今野さん言ってたよ!」
健人が雪見を寝かさないようにと、何度もキスをする。
「うーん。どこ行きたいの?健人くん。」雪見がベッドに寝ころんだまま伸びをした。
「コタとプリンに会いたい!実家に取りに行きたい物がある。」
「えっ?取りに行きたい物って?」雪見が上半身を起こし、健人に聞いた。
「秘密ぅ!ねっ、これから出発すれば仕事に間に合うよね?高速飛ばして行けばさ!」
「うん、まぁ…。よっしゃ!じゃあ久々に埼玉までドライブでもしてきますか!
その代り、そんなにものんびりしてられないからね。
日曜だから道路混んでるだろうし…。」
「わかった!じゃ早く準備して!いや、準備なんていいや。そのまま出掛けよう!」
健人が今にも玄関を飛び出しそうな勢いだったので、雪見は慌てた。
「たんま!私に十五分だけ時間を頂戴!大至急準備するから、健人くんはその間、
ラッキーたちに餌をあげて!」
「OK!任せて!」
雪見は大急ぎで着替えて顔を洗い、化粧をする。
冷蔵庫から野菜ジュースを取り出し、健人が買ってきたサンドイッチと共に鞄に入れた。
さぁ!少々痛い頭は気にせずに、二人だけのドライブに出発だ!
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.255 )
- 日時: 2011/07/26 01:07
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
今朝の朝刊に大々的に三人が取り上げられ、いよいよ慎重に行動しなければならなくなった健人と雪見。
マンションの地下駐車場を出る時が要注意と、雪見が辺りを見回しながらアクセルを踏み込み、
黒縁眼鏡にキャップを被った健人は、助手席のシートを倒して身体を低くした。
「もう起きても大丈夫だよ、健人くん。見つからないで出れたから。」
「ほんとに?あー、ドキドキした!週刊誌のカメラマンが大勢いたらどうしようかと思った!」
「誰も私になんか興味ないって!それよりお腹空いた!朝ご飯にしよう。」
助手席に座ってる健人が、サンドイッチを包みから一つ取り出して、
運転中の雪見の口に入れてやる。
「うーん、美味しい!飲んだ次の日の朝ご飯が美味しいなんて、健康的だなぁー!
そう言えば、前に健人くんちに泊まりに行った時も、車ん中でサンドイッチ食べたよね?」
「あぁ、家で真夏のチゲ鍋パーティーやった時ね。
あの帰り道にゆき姉が、俺に告ったんだよねっ!」
健人がサンドイッチを頬張りながら雪見の顔を見て、にやっ!と笑った。
「それ、一生言おうとしてるでしょ!
私からすれば、まんまと健人くんの誘導尋問に引っかかったと思ってるんですけど。」
雪見が口を尖らせて言ったが、健人は真剣な目をして雪見を見てる。
「あの日があったから、今一緒に暮らしてるんだよね、俺たち。
なんか夢見てるみたいだな。ゆき姉と毎日一緒にいれるなんて。」
最後はちょっと照れて、健人は窓の外を見た。
そんな健人が可愛くていとしくて胸がキュンとした雪見は、何か気の利いた返事を捜したが、
口から出てきた言葉は照れ隠しに素っ気なかった。
「なに言ってんの!夢だったらこまるでしょ!
それより、おばさんに電話入れた?これから行くって。」
「あ!まだしてない!まぁ留守でも鍵あるし…。」
「だめっ!ちゃんと電話入れないと。つぐみちゃんもいるかなぁ?
日曜だから朝からデートにでも出掛けてるかな。」
「ないない!あいつに彼氏なんているわけないから!」
健人は妹の話となると、途端にお兄ちゃんの顔になる。
「つぐみちゃんだって、いつまでも子供じゃないんだよ!
春には大学生かぁ!早いなぁ。ほら!いいから電話、電話!」
残念ながらおばさんはいなかった。
昨日から、おじさんの単身赴任先に出掛けてるらしい。
つぐみがいて、「待ってるよ!」と言っていた。
途中、通りがかったケーキ屋さんに寄り、美味しそうなケーキを買って健人の自宅へ。
「ただいまぁ!つぐみぃ!ケーキ買ってきたぞー!」
「お帰りー!」パタパタとつぐみが二階から降りてくる。
久しぶりに会う妹に健人は、嬉しいくせにそんな顔は見せない。
相変わらず、お互い憎まれ口を叩き合う。
「お前も暇だねぇ!日曜だってのに家にいるんだから!」
「受験生に日曜は関係ないの!それより、なんで急に帰って来たの?
お母さんだって、もっと早くに電話くれてたらお父さんの所行かなかったのに、って言ってたよ!」
おばさんのがっかりした顔を思い浮かべ、可哀想な事をしたと雪見は思った。
「仕方ないだろ!今朝突然思いついたんだから。」
「今朝思いついて、ゆき姉に迎えに来てもらったわけ?
随分と偉そうな芸能人になったもんね、お兄ちゃんも。」
まさか二人が一緒に暮らしてるなど、夢にも思っていないつぐみは、
朝っぱらから健人が雪見を呼びつけたと思い、兄のわがままを雪見に詫びる。
「ごめんねぇ!ゆき姉。いっつもお兄ちゃんが迷惑かけてるんでしょ?
ゆき姉だって暇じゃないのにね!
ラジオでゆき姉の歌、聞いたよ!デビュー決定おめでとう!
もう、みんなに自慢しまくっちゃった!私の親戚なんだよ!って。
サインいっぱい頼まれちゃったから、今度お願いねっ!」
「おいっ!お前の兄ちゃんもデビューするのに、おめでとうの一言もないわけ?冷たい妹だ!」
「だって、お兄ちゃんの歌はたかが知れてるもん!
まぁ、当麻くんと二人でやれて良かったね!ぐらい?当麻くんのお陰でそこそこは売れるかな?」
「てっめー、言いたい放題言いやがって!とっとと二階上がって勉強しろってーの!」
「はいはい!ケーキ頂いて邪魔者は消えるわ!ゆき姉、ゆっくりしてってね!」
つぐみはお皿を三枚出し、その内の一枚に大好きなミルフィーユを乗せ、
牛乳をグラスに注いで自分の部屋へと上がって行った。
「ふふっ!つぐみちゃんもケーキには牛乳なんだ。健人くんと同じ!」
雪見はつぐみが可愛くて仕方ない。
つぐみと話してるお兄ちゃんぶった健人の顔も、大好きだった。
「いいよなぁー、妹!私も妹が欲しかった!」
「あんなんでいいなら、ゆき姉にやるよ!そのうちね。」
「えっ?どういうこと?」
「い、いや別に…。あ!それより俺たちもケーキ喰お!
今、コーヒー入れて来てあげる!ほんっと、あいつは気が利かないんだから!
ゆき姉にコーヒーぐらい、入れてから行けっつーの!」
そうブツブツ言いながら、健人はキッチンに消えて行った。
雪見が座るソファーの隣りに、虎太郎とプリンが先を争うように飛び乗る。
よしよし!と二匹の頭を交互に撫でながら、さっき健人が言った言葉の意味を何となく考えた。
『別に深い意味はないか!そうだよね、あるはずはない!』
お待たせ!と言いながら、健人が雪見にコーヒーを運んで来る。
自分には牛乳を、大きなグラスに入れて持って来た。
「ありがと!なんか、健人くんにコーヒー入れてもらうの初めてかも?
料理は無理でも、コーヒーは入れられるんだ。味わって飲まなくちゃ!」
「大袈裟な!俺だって、コーヒーぐらい落とせるさ!
だって、水とコーヒー豆セットするだけじゃん!
ねぇ。ゆき姉は俺が当麻みたいに、料理が出来た方が嬉しい?」
健人がケーキを口に運びながら、雪見の顔を伺う。
「え?料理?料理は私が好きだから、出来なくても全然何とも思わないよ。
それより部屋の片付けを、もう少し頑張って欲しい!自分の部屋だけでもいいから。」
「うーん、それは厳しい!生まれ変わらないと無理かも?
でも嫌いにならないでね、俺のこと。」
「あははっ!そんなことぐらいで、嫌いになんかならないって!変なの!健人くん。」
健人は安心したように、コタとプリンを二匹膝に乗せる。
二匹も久々の健人の温もりに、安心しきって目を閉じた。
幸せな光景は、写メして永久に保存しておこう。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.256 )
- 日時: 2011/07/28 00:47
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「ねぇ、ここに何を取りに来たの?」
コタとプリンと遊んでる健人に、雪見が久しぶりにカメラを向けながら聞いてみる。
猫と戯れる健人は自然体で、どの角度から狙ってもやっぱりフォトジェニックだった。
「そうそう!肝心な事を忘れてた!コタ、プリン、今度はこれで遊んでて!」
健人が部屋の隅に、ぽーん!と魚の形のおもちゃを放り投げると、二匹は先を争うようにして
健人のそばを離れて行った。
その隙に健人は二階へ駆け上がり、自分の部屋を物色し始める。
部屋は健人が高校を卒業し上京した時のまま、手付かずにそこに存在した。
まるでこの部屋だけ時間が止まっているかのように、勉強机の上には辞書やら教科書、
筆記用具などが整頓されて置かれている。
健人のあとを付いて二階に上った雪見は、その部屋を一目見て、母親の深い愛を身体に感じた。
「おばさんの中で健人くんは、ここにいた時のまんまなんだよね、きっと。」
「俺さ、高校の教科書とかいらない物、もう全部捨ててくれって言ってあるんだよ!
なのにそのまんまなんだから。
そういや二年ぐらい前までは、壁に学ランまでぶら下がってた!
それじゃ俺、死んじゃった可哀想な息子みたいでしょ?
さすがに、それだけはやめてくれ!って言ったら押し入れに仕舞っちゃった。どうすんだろ?あれ。」
「母親ってさ、きっとどこの親もそんなもんだよ。
いくつになっても、どこにいても子供の事を思ってる。
たとえ百歳になったって、母親という事実は変化しないんだ。」
「そんなもんかなぁー。」
健人は押し入れを開けて、何やら捜し物をしている。
そして「あった!」と叫んでアルバムを取り出した。
それは小学、中学、高校の卒業アルバム三冊と、母親が作ったであろう
赤ちゃんの頃からのアルバムが五冊だった。
「重っ!ゆき姉、こっち持って!」と卒業アルバムを手渡され、部屋を出る。
階段を降りながら雪見は、「でも健人くんがいた時の部屋は、あんなに綺麗なわけないよねーっ!」
と言ったら健人に怒られた。
二人でソファーに座り、アルバムを開く。
雪見にとっては懐かしい十歳頃までの健人や、全く知らないそれ以降の健人が、
ページをめくるたびに次々と飛び出した。
「へぇーっ。高校時代はもう今の健人くんなんだ。
そうだよね、まだ卒業して四年も経ってないんだもんね。
こんなイケメンが学校にいたら、みんな毎日が楽しくって仕方ないよなぁ!」
雪見は、自分が健人のクラスメイトだった場合を想像する。
「それって、どこから目線なわけ?目の前に実物がいるでしょ!」
健人が顔をぐっと雪見に近づけた。
頭の中で女子高生になってる雪見は、ドキドキして思わず視線をそらしてしまう。
「そーゆーの、高校ん時もよくやってたの?」
「なに?そーゆーのって。え?俺、そんな軟派な高校生活を送ってたと思ってる?」
「だってモテないわけはないでしょ!この健人くんが学校の中にいるんだよ!
隣のクラスにいてもドキドキでしょ!」
「だーかーらぁ!ゆき姉の想像してるような高校生じゃなかったって!
結構地味な存在だったと思うよ、俺って。
あ!そうだ!なんでアルバムを捜したかと言うとね…。
確か二組だったと思うんだけど…、あ、いた!こいつだ!」
健人が高校の卒業アルバムを開いて、誰かを指差した。
「誰?クラスメイト?」
雪見が健人の指先を覗き込むと、そこには黒髪を二つに縛り、焦げ茶の眼鏡を掛けた
明らかに今どきの女子高生とは違う、地味めな女の子が写っている。
「この子がどうかしたの?」
「今度のドラマで俺の同僚役に決まった、うちの事務所の新人なんだけど、
俺んとこ挨拶に来た時に、俺と同じ高校で隣のクラスだったって言うのよ。
名前を聞いても全然ピンとこなかったんだけど、アルバム見たら思い出した!
あのガリ勉くんが、なんでうちの事務所に入ったんだろ?」
健人が首を傾げて不思議がる。
「凄いね!新人の女優さんなのに、健人くんの同僚役なんて。」
「バーターってやつ?俺を使う代りにこいつもよろしく!みたいな。
新人を売り込む時に事務所が使う手さ。
けど、この写真とは別人になってたから、まったく判らなかった!
高校ん時はガリ勉くんって呼ばれてたのは知ってるけど、多分一度も話した事なかったと思う。
来週のオンエアかな?出て来るから見てやって。」
「うん、見てみる。」
そう言いながらも雪見は、根拠のない不安を感じてしまった。
『いかんいかん!いちいち健人くんの共演者をそんな目で見てたら、身体がもたないぞ!
健人くんは人気があって当り前なんだから。
その人気者が私を彼女にしてくれてるなんて、よく考えたら奇蹟みたいな話だよね!
しかも私達、一緒に住んじゃってるんだよ?今更ながらビックリな話。
でも、つぐみちゃんやおばさんが知ったら、悲しむだろうな…。』
母が注ぐ愛は、残された健人の部屋を見ると一目瞭然であった。
健人とは一緒にいたい。けどおばさんを悲しませたくはない。
雪見の心は、健人と付き合い出してから常に、葛藤と共にある。
「あっ!」 いきなり健人が大声を出したので、雪見はドキッとした。
「なによ!ビックリするでしょ!また何を思い出したの?」
「ねぇ、今日は何月何日?」
「今日?10月31日だけど、それがどうかした?」
「『秘密の猫かふぇ』行って、会員証の更新してこないと!
せっかくの会員なのに、更新して会費払ってこないと無効になっちゃうよ!」
「やだ!じゃ東京戻ろう!今から手続に行けば、仕事にも間に合うから。」
二人はバタバタと帰り支度をし、階段の下から二階のつぐみに声を掛ける。
「つぐみぃ!用事を思い出したから帰るからぁ!」
「えーっ!もう帰っちゃうのぉ!?」二階からつぐみが慌てて降りてきた。
「もっとゆっくりして行けばいいのに!」
「そうしたいのは山々なんだけど、どうしても夕方の仕事前に行かなきゃならないとこ、
思い出したの。また今度、ゆっくりお邪魔するね!
おばさんにも、よろしく伝えて。」
「ねぇ!今度友達と東京に買い物に行くんだけど、ゆき姉んちにも寄っていい?」
つぐみが雪見に笑顔で聞いてくる。
「だめっ!お前は受験生なんだから、大人しく部屋で勉強してろ!」
健人が大慌てで、力一杯阻止しようとする。
「なんでお兄ちゃんがだめ!とか言うわけ?お兄ちゃんには関係ないでしょ!」
「ゆき姉だって一躍有名人になったんだから、これから忙しくなるのっ!」
なんとかつぐみをはぐらかし、健人と雪見は東京に戻って来た。
真っ直ぐに『秘密の猫かふぇ』へと向かった二人が見たものは…。
「都合により当分の間、休業致します」の張り紙だった。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111
この掲示板は過去ログ化されています。