コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111



Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.402 )
日時: 2012/03/12 08:18
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「いらっしゃいませっ!お客様、大変申し訳ございませんが、只今あいにく
満席となっておりまして…。」
店に入って来た六人組の男性客に、受付係のイケメン店員が丁寧に詫びを入れる。だが…。

「ここに、ゆき姉が来てるって聞いたんだけど。どこに座ってんの?奥の方?」
別に食いに来たわけじゃないから、と店員を気にする様子もなく、
勝手に店の中へと進もうとする。

「お客様、困りますっ!」

「だっているんでしょ?ちょっとぐらい会わせてくれたっていいじゃん!
すぐ帰るからさぁ!」
六人組とイケメン店員が押し問答してるところへ、またしても別の客がやって来た。

ゆき姉がここで飲んでるって、ツィート見て来たんですけど…と言う、
若い女性客三人だ。
店の外にも大勢人が集まってますよ!と言うではないか。
入り口付近のテーブルに、飲み物を運んで来た店員も援護に加わり、
他のお客様にもご迷惑がかかりますから、とやんわり説明してお引き取り願おうと
二人で頭を下げる。

そんな緊急事態にも気付かないほど、忙しそうに一人で焼き鳥を焼いてるマスター。
そこへ別の店員が足早に近寄りその騒ぎを耳打ちすると、やっとマスターが顔を上げた。

「やべっ!なんか入り口で大変な騒ぎになってるぞ!
だめだ!雪見ちゃん、振り向くなっ!
トイレに行く振りして、いつもの部屋へ入んな!
由紀恵はもう少しここにいろ!雪見ちゃん、早く早くっ!」

「ごめんねっ!」
雪見は二人に謝ってバッグを手に取り、急いで奥の部屋へと消えてゆく。
すると間一髪、入れ替わりにさっきの六人組が店員の制止を振り切り、
カウンターまでやって来た。

「あれっ?ここ、ずらっと空いてんじゃん!じゃ文句ないでしょ、客なら。」
そう言って六人は座ろうとしたが…。

「あらーっ、ごめんなさいっ!ここね、私の予約席なの。
これから七人来るのよ。高校時代の友達と女子会!
急に決まったから、こんなとこしか空いてなくって。
幹事だから早くに来たんだけど、ちょっと早すぎたわねぇ。
あ、そうだ!あなた達六人?私達八人だから一緒に合コンなんてどう?
もっとお洒落なお店に移動してさ。私達全員47歳なんだけど、あなた達は?二十代よね?
こんなイケメンたちとの合コン、セットしたって言ったら、私の株が上がっちゃう!」
由紀恵が矢継ぎ早に、六人に向かって攻撃をしかける。すると…。

「い、いや、いいです!俺ら、これから行くとこあるんで…。」
なんだ?このおばさん。あんたに用はないよ!という顔をして、
まだキョロキョロと雪見を捜してる。

「えーっ!行っちゃうのぉ!?もうみんな来ると思うから、ちょっと待っててよぉ!」
由紀恵が一人の男の腕にしがみつこうとすると、その男はスッと身をかわし、
全員逃げるようにして店から出て行った。

「一丁上がりっ!」
ニコッと笑って由紀恵が得意げにマスターを見る。

「さっすが、元演劇部!シナリオが怖すぎるっ!
でも助かったよ。ありがとな!あとの奴らは俺らで何とかするから、
お前は雪見ちゃんと一緒にいてやってくれ。」

「うん、わかった。冷たいビールもらってくねっ!」
そう言って生ビールをジョッキ二つに注ぎ、辺りを見回してから奥の部屋へと消えてった。



トントン!「入るねぇー!」
雪見は誰かにメールを打ってる最中だった。

「もうさっきの連中は、追っ払ったから大丈夫よ!
辰巳ちゃんが、外の連中もいなくなるまでは、ここにいろって。
取りあえずは飲み直そっか!」

「本当にごめんなさいっ!私のせいで、ママにもマスターにも迷惑かけちゃった…。」
はぁぁ…とため息をついてから、雪見はビールを一口だけ飲んだ。

「雪見ちゃんのせいなんかじゃないでしょ!
でもさぁ、有名になるって大変なことなんだね。それなりの覚悟が必要ってわけだ…。
雪見ちゃんの彼氏なんか、どれだけ大変な思いしてるんだろね。
みずきちゃんとかも…。のーんびり花屋やってる私には、想像もつかないや。」
由紀恵がグイッとビールを半分飲み干し、あーワインも持って来ればよかったぁ!
と後悔してる。

「人って同じ立場に立たないと、判らないことってたくさんあるんだね。
今日初めて健人くんの大変さが、少しだけ判った。」

「そうだね。私も乳ガンになって、初めて判ったことがいっぱいあった。」
由紀恵が雪見を見て、ニコッと笑った。

「色々私に聞きたい事とか話したい事、あるんでしょ?
今日は何でも聞いていいよ。あ、その前に辰巳ちゃんにワインもらってくる!
お腹空いてきたから、なんか美味しい物とねっ。話はそれから、ゆーっくりしよう!」
そう言い残して由紀恵は、そーっと辺りの様子を伺ってからサッと部屋を出て行った。

そうか…。それでママは飲みに誘ってくれたんだ…。
私が母さんの事やいろんな事で、悩んでると思って…。

ほんわか心が暖かくなって、それだけで元気が出てきた。
自分の事を気にかけてくれてる人がいる…。
そう思うだけで安心して前を向けるし、安心して弱音も吐ける気がした。

雪見を気にかけてるのは、もちろん由紀恵だけじゃない。
最大にして最高に気にかけてる健人からの、突然の電話が鳴った。

「もしもし、健人くん?仕事は終ったの?」
まだ仕事中だと思い、雪見は先ほどの騒動を、メールで短く送ってあった。
思いがけず声が聞けて、雪見は嬉しくて仕方ない。

「今終ったとこ。それよりゆき姉、大丈夫!?
変な奴に、からまれたりしなかった?今どこにいんのっ!?」
健人の声の勢いがその心配さ加減を物語っていて、益々雪見は嬉しくなった。

「今?『どんべい』だよ!私なら大丈夫だから。
マスターや花屋のママさんと一緒にいたから大丈夫っ!
それに私のファンの数なんて、たかが知れてるよ!そのうちみんな帰るでしょ。
もーぅ、健人くんも心配性だなぁ!」
そう笑って答えると…。

「俺、これから迎えに行くからっ!部屋から出ないでそこにいて!じゃ!」

「え?えっ?健人くんっ!ちょっと待って!じゃ!って…。健人くーん!!」


うそでしょーっ!?この状況に健人くんなんか来たら、どんな騒ぎになるのよぉ!!









Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.403 )
日時: 2012/03/12 15:09
名前: ゆい (ID: eR9v1L6x)

名前: 春
これはアメリカのゲームです。1度やってみてください。

これは、たった3分でできるゲームです。試してみてください。
驚く結果をご覧いただけます。


このゲームを考えた本人は、メールを読んでからたった10分で願い事がかなったそうです。このゲームは、おもしろく、かつ、あっと驚く結果を貴方にもたらすでしょう。


約束してください。絶対に先を読まず、1行ずつ進む事。
たった3分ですから、ためす価値ありです。


まず、ペンと、紙をご用意下さい。


先を読むと、願い事が叶わなくなります。


①まず、1番から、11番まで、縦に数字を書いてください。


②1番と2番の横に好きな3〜7の数字をそれぞれお書き下さい。


③3番と7番の横に知っている人の名前をお書き下さい。(必ず、興味のある性別名前を書く事。男なら女の人、女なら男の人、ゲイなら同姓の名前をかく)


必ず、1行ずつ進んでください。先を読むと、なにもかもなくなります。


④4,5,6番の横それぞれに、自分の知っている人の名前をお書き下さい。これは、家族の人でも知り合いや、友人、誰でも結構です。


まだ、先を見てはいけませんよ!!


⑤8、9、10、11番の横に、歌のタイトルをお書き下さい。


⑥最後にお願い事をして下さい。


さて、ゲームの解説です。


1)このゲームの事を、2番に書いた数字の人に伝えて下さい。

2)3番に書いた人は貴方の愛する人です。

3)7番に書いた人は、好きだけれど叶わぬ恋の相手です。

4)4番に書いた人は、貴方がとても大切に思う人です。

5)5番に書いた人は、貴方の事をとても良く理解してくれる相手です。

6)6番に書いた人は、貴方に幸運をもたらしてくれる人です。

7)8番に書いた歌は、3番に書いた人を表す歌。

8)9番に書いた歌は、7番に書いた人を表す歌。

9)10番に書いた歌は、貴方の心の中を表す歌。

10)そして、11番に書いた歌は、貴方の人生を表す歌です。


この書き込みを読んでから、1時間以内に10個の掲示板にこの書き込みをコピーして貼って下さい。


そうすれば、あなたの願い事は叶うでしょう。もし、貼らなければ、願い事を逆のことが起こるでしょう。とても奇妙ですが当たってませんか?




Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.404 )
日時: 2012/03/13 22:10
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

雪見が急いで健人に折り返し電話して、来なくていいからっ!と訴えても、
健人は頑として言う事を聞かなかった。

どうやらすでにタクシーで、こっちに向かってるらしい。さぁ、大変!
店の内にも外にも人がいっぱいいるのに、バレないで入って来れるとは思えない。
でも私、そんなに心配かけるような事、メールに打ったっけ?と考えてるところへ、
由紀恵がワインと料理をトレーいっぱいに乗せて戻って来た。

「ママっ、大変なの!これから健人くんが私を迎えに来るって!」

「ええーっ!?ここへ来るって言うのっ?まだ店の中、超満員だよ!
どうすんの?見つかったら確実に大騒ぎでしょ!」
由紀恵も思わぬ事態に大慌て。
二人で、どうしよう!どうしよう!とバタバタしてる。

「やっぱり…私がお店から出るよ!健人くんが着く前に。
これ以上、みんなに迷惑かけられない。
ごめんね、ママ。女子会の続きはまた今度でもいい?」

「それは構わないけど、まだ外に人が集まってるんじゃない?
大丈夫かなぁ。私も一緒についてってあげる!」

「いいの、ママはここにいて!私なら一人で大丈夫!どうにかするから。
せっかくマスターが作ってくれたご馳走だし、ゆっくり食べて行って。
お会計は私がさせてね!今日は本当に迷惑かけちゃったから。」

「なに言ってるの!私が誘ったんだし、私が食べるんだから雪見ちゃんは
払わなくていいのっ!そんな事、気にしないで。
次はゆっくりお母さんの話、聞くからね。またお見舞いに行く時は寄ってよ!
今日より、もっと素敵なアレンジを考えておくから。」

「ほんとっ!?母さんね、すっごい喜んでくれたの、あのお花!
看護師さんたちにも『おっしゃれぇー!』って言われて、私も鼻高々だった!」

どうして女という生き物は、こうもお喋りが好きなのだろう。
この緊急事態に、どうでもいい事を次から次へとしゃべり出す。
一応、気持ちだけは急いでるらしく早口ではあるのだが、それにしたって
今じゃなくてもいいだろっ!と突っ込みたくなる話ばかりだ。

そういや、よく食事をした後の会計カウンター前で、こういう光景を目にはしないか。
後ろに会計待ちの人が並んでるにもかかわらず、私が払う、いや今回は私に払わせて!
と押し問答してる人達を。
やっと会計が終ったかと思えば今度は出口付近で、永遠の別れを惜しむかのように、
最後の最後まで喋り続ける人達を。

若い子たちではまず見かけない光景。そう、ある年齢から上の世代の光景だ。
いわゆる「おばさん」と呼ばれる世代の…。


その時だった。
「雪見ちゃん、開けるよー。お客さん!」

マスターの声と同時に目に飛び込んで来たのは、なぜか笑顔の健人と
憮然とした顔のマスターだった。

「早っ!!もう来ちゃったのぉ!?来なくていいって言ったのにぃ!」
あなたたちがいつまでも、くだらないお喋りをしてるからでしょっ!

「頼むって!健人が来るって判ってたんなら、早く伝えに来てくれよっ!
いきなりだったから、焦ったのなんのって!
しかもこの人、なんにも変装してないから、客にバレちまったし…。」

「この人…?」

「よっ!ゆき姉!元気だったぁ?」
なんと、マスターの横からひょこっと顔を出したのは、翔平だった!

「うそっ!翔平くんまで連れて来たのぉ!?なんでぇ?」

「だってこいつ、ゆき姉と一緒に飯食いたいって、きかないんだもん!
この店も、前から行ってみたいってずっと言ってて。
で、ゆき姉を迎えに『どんべい』行くって言ったら、俺も行く!って。」

「いいじゃん、いいじゃん!
だって健人から一緒に飯食いに行こう!って誘ってきたのに、急に俺を振って
ゆき姉を迎えに行くって、それひどくね?
だから俺も行く!って付いてきたわけ。ゆき姉にも久々に会いたかったし。
ねーねー、それより女子会会場はこの部屋じゃないの?
何人集まってんの?女子会。可愛い子とか、いるっ?」
翔平がキョロキョロと、隣の部屋辺りを見回した。

「私と雪見ちゃんの二人だけですけど、なにか?」
由紀恵の引きつった笑顔に、マスターが大爆笑した。

「あーっはっは!そりゃいいや!いいねぇー、若者は!
そうでなくっちゃいかんよなぁ、男は!
いついかなる時も、女に飢えてなくちゃ人類は滅びるっ!
君みたいな肉食系が、この地球を救うんだ!気に入った!
さぁさ、とっとと中入って!今ビールと美味いもん、持って来てやるから!
あ、由紀恵はもう用が済んだから、あっちで店を手伝えよ!
今日は猫の手も借りたいくらい忙しいんだ!じゃ、ごゆっくり!」

マスターに手を引っ張られ退場する由紀恵に向かって、雪見は後ろから
「ママーっ!ごめんねぇー!」と最後に叫ぶ。
耳を澄ましてみると、店内は健人と翔平に気付いた客らの声で騒然としていた。


「俺、なんか悪いこと言ったぁ?」

相変わらず、あっけらかんと憎めない顔して聞いてくる翔平に、雪見は
「いいよ、もう。」と答えるしかない。
程なくしてマスターがビールと料理を運んできたので、そこから三人の
思いがけない飲み会がスタートした。

「俺、めっちゃ腹減ってんの!飲むより先に食うからねっ!
いっただっきまーす!うんめっ!なにこれ!めちゃウマなんだけど!」

子供のようにはしゃぐ翔平を見てると、こっちまで自然と笑みがこぼれる。
さっきまでは『なんで来たのよっ!』と思ってたけれど、今は『よく来てくれたね!』
と歓迎の意を表したい気分だ。

「健人くんも、お疲れ様っ!」
一人で飲んで食べて喋ってる翔平は、取りあえず好きにさせといて、
雪見は隣りに座る健人と見つめ合い、静かに乾杯をした。

「ねぇ。私がみんなに騒がれて、店から出られないとでも思った?
助けに来てくれたの?」
なぜ、超満員だとメールした店にわざわざやって来たのかを、健人に聞いてみる。
来ればさらに騒がれて、益々店から出にくくなるのは目に見えてたのに。

「そう!お姫様を助け出しに行かなきゃ!って思った。
っつーか、ただ単純に、ゆき姉に早く会いたくなっただけ。」
健人は表情をあまり動かさずに、キュンとくるセリフだけを吐いた。

「こいつねぇ、普段はポーカーフェイスを装ってるけど、実際は相当な心配性と言うか、
やきもち焼きだと俺は見たっ!」
食べるのに夢中で、聞いてないと思ってた翔平が口を挟んだ。

「んなことないわっ!」
翔平の言葉を健人が全力で否定して、照れ隠しのようにビールを一気に飲み干した。
それがまた可愛くて、雪見はクスッと笑みがこぼれる。

「今日はね、芸能界を堂々と生きるお手本をゆき姉に見せに来たの、健人と二人で。」
そう言って翔平は、にかーっと笑って見せた。


「えっ!?どーゆーことっ?」










Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.405 )
日時: 2012/03/15 14:28
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

「ねぇ、なんなの?芸能界を堂々と生きるお手本って?
意味わかんないんだけど…。」

「まぁ、いいからいいから!まずは飲もうぜっ!せっかく久しぶりに会ったんだし。
ほんとは女子会に突然登場して、『キャーッ!翔ちゃんだーっ!』
ってのを想定してたんだけどなぁー。
おっ!ワインもあるじゃん!次これ飲んじゃお!」

「悪かったわねっ!こんな女子会で。
あとでママに謝ってから帰りなさいよっ!」
相変わらずこの二人の会話は、クレヨンしんちゃんとみさえのようだ、
と健人はクスッと笑いながら眺めてた。

「そうだ、ねぇ!最初のメールはなんだったの?初の単独ライブって。
どこで歌って来たわけ?」
健人が突然思い出して雪見に聞いてみる。

「そうそう!母さんのお見舞いに行ったのに、大変な事になっちゃって!」
雪見は病室に入ってから、ライブが終って病院を出るまでの一部始終を、
健人と翔平に興奮気味に話して聞かせた。

「へぇーっ!凄いじゃん!そんなに騒がれるなんて、ゆき姉も完璧芸能人だ!
やっぱネットって凄い威力だよね!
たった一日で、日本中に顔や名前が知られたりするんだから。
まぁ良くも悪くも、ってとこがミソなんだけど。
今だってきっと、店の外は大変なことになっちゃってんだろうなー。」
他人事のように平然と言いながら、翔平はワインをみんなに注いだ。

「そうよ!だから来なくていいって言ったのに!
益々出られなくなったでしょ!今日はこの店に泊まりってこと?
しかも翔平くん、なんでそのまんまの顔で来たのよっ!
だからバレちゃったんでしょ!?」

「うわっ!人の顔にまでケチつけるわけぇ!?
あのねぇ!俺、指名手配されてる訳でもねーのに、顔隠したり変装するのって嫌なのっ!
たかが飯食いに行くだけで、なんでコソコソしなきゃなんないの?
俺だって芸能人である前に人間なんだから、飯ぐらい食うでしょ!」

あ…前にも同じようなセリフ、聞いた事がある。
そう、初めて健人くんと二人でご飯を食べに行った時…。


「お!翔平も、たまにはまともな事言うね!
じゃそろそろ、堂々と店を出るお手本の実践といきますかっ!」

「えーっ!もう早帰っちゃうのぉ!?まだ飲み足りないのにー!」
翔平が口をとがらせて、ぶーたれた顔をする。

「今日は飲むのが目的で、ここ来たんじゃないだろっ?
ゆき姉に、ファンに囲まれた時の対処の仕方を伝授する!って、
お前も張り切ってたじゃん!
それに俺らは大阪帰りなの。今日は早く帰って休みたいのっ!」
健人がコートを羽織り、お気に入りのハットを被って、早々と帰り支度完了。
翔平と雪見を急かし始める。

「それ、早く帰って、えっちしたいってこと?」
翔平が、真面目な顔で健人に突っ込みを入れた。

「キャーッ!何てこと言うのよぉーっ!」
「アホかぁーっ!そんなこと思っとらんわっ!」

雪見が赤くなったであろう顔を隠すため、そそくさとコートを着てバッグを持ち、
急いで部屋のふすまを開けてブーツをはき始める。

「ねぇねぇ、図星だったの?」
後ろから追い打ちをかけるように、ククッと笑いながら翔平が雪見をからかった。

「いいから早くコートを着なさーいっ!
私、先に行って、マスターとママにお礼言ってからお会計してくるねっ!」

「あ、俺も行くっ!」
健人も急いでブーツを履き、雪見の後を追いかける。
と、二人がホールに姿を現した途端、大きなどよめきと女の子の悲鳴が当然上がった。

「よっしゃ!じゃあここらで翔ちゃんも、登場といきますかっ!」

先に行った二人の騒がれてる声を聞きながら、ブーツの紐をキュッと結んだ翔平は、
たんっ!と立ち上がり、颯爽と奥の通路から広いホールへと出て行った。
が…しかし、視線はすでに健人と雪見に釘付けで、誰も翔平の登場に気付かない。

みんなの視界に入るよう、慌てて健人と雪見に合流しマスターの前に立つ。
すると翔平に気付いた周りから、さらに大きな悲鳴が上がった。

「ごめんね、マスター!本当に今日はお騒がせしましたっ!
この二人、私に芸能界の生き方を、わざわざ教えに来てくれたらしいの。
みんなに囲まれても、毅然とした態度でいなきゃダメなんだって。
そうしないとプライベートが無くなるから、って…。
そうだよね。私達職場が芸能界にあるってだけで、あとは普通に暮らしてるんだもん。」

「そりゃそうだ!飯食わなくても生きてける、サイボーグじゃねーもんなぁ!
酒だって飲みてーし、買い物にだって行きたいわなぁ!
だったら、次も遠慮なんかしないで来てくれよっ!待ってるからなっ!」

「ありがと、マスター!また来ます。
ママもゴメンねっ!今度また仕切り直しで女子会しようねっ!
あ、お会計は私がして行くから、ママはゆっくり飲んでって!」

「なに言ってるの!今日は私が払うって言ったでしょ!」

「だめっ!私達だって散々食べたし飲んだもん!私が払う!」
またしても由紀恵と雪見が押し問答になる。すると…。

「おばさんたちっ!早くしてっ!」

後ろでしびれを切らした翔平が、言ってはならないことを口にした。
その瞬間、じろりとみんなに無言で睨まれ、翔平は逃げるようにその場を退散する。
「ごちそうさまでしたーっ!」

キャーキャー言われながら翔平が出口まで進むと、雪見らを振り向いて
『早く!』といわんばかりに手招きをする。

「さぁ行きなさい!またねっ!」
「雪見ちゃんも健人も、また来いよっ!仕事頑張れ!」
二人はいつもと変わらぬ優しい笑顔で、健人らが無事出口から出て行くのを見送った。


ビルの外に出た途端、待ち構えてた大勢のファンにあっという間に囲まれた三人。
相変わらず「サイン下さいっ!」「写真撮ってもいいですかぁ!」と声が掛かり
手が伸びるのだが、もう雪見の態度に戸惑いはない。
健人と翔平が店内で示した通り、毅然とした態度と言葉で「ごめんなさい!
プライベートな時間だから。」とはっきり断る事が出来た。

よしよしっ!と言う顔で微笑む健人と翔平。
新しく人気者の仲間入りを果たした雪見を、タクシーに乗り込んでから
二人の先輩が誉めてくれた。

「やれば出来るじゃん!」健人が雪見の頭をよしよしする。
「これでゆき姉も一人前だねっ!」偉そうな口ぶりで翔平が言った。

「やだやだ!私これからずっと翔平くんに、先輩づらされちゃうの?
早くカメラマンに戻りたーい!」

「早く人間になりたーい!じゃなくて?」
「なにそれっ?意味わかんないし。」


雪見と翔平のやり取りは、いつもビミョーにずれていて、やっぱり
みさえとしんちゃんを見てるみたいだと、笑いながら健人は思った。

窓の外には雨上がりのぼんやりした月が、あくびでもしたそうにこっちを見てる。

さぁ、帰って寝よ寝よっ!





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.406 )
日時: 2012/03/17 09:07
名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)

大阪公演から二週間。

あのお笑いコンビがあちこちのメディアで、雪見のライブと打ち上げの様子を
面白おかしく話題にしてくれたお陰で、名古屋公演も大盛り上がりで幕を閉じ、
雪見も今やすっかり時の人である。

もちろん健人と当麻は、お笑いコンビとは対極にいるイケメンゆえに、
これまた面白おかしくおとしめられるのは致し方ないのだが、雪見とワンセットで
いつも話題にしてくれるので、三人の人気はさらにヒートアップし、
超多忙な毎日を送っていた。


雪見が今野から言い渡された「三月中に有名になれ!」は、期限を一ヶ月残して
すでに目標を達成し、今野も事務所も思わぬ特需に上機嫌である。

「いやほんと、あの二人のお陰でこんなに『YUKIMI&』が売れるとはな!
カメラマンの雪見も話題にしてくれるから、健人の写真集まで大増刷とは嬉しい誤算だよ!
ま、苅谷翔平の写真集もかなり売れてるらしいがね。」
常務の小野寺が、仕方ないかという苦笑いで今野を見た。

「ええ。今やカメラマンとしても、人気一流どころに名を連ねるぐらい
成長したんですから…。
なんだかそう考えると、あと一ヶ月で雪見がこの事務所からいなくなるのが
どうにも悔やまれますねぇ。
アーティスト活動は、これ以上続ける気はまったく無いようですけど、
カメラマンとして、このまま契約延長と言うわけにはいきませんかね、常務。」
今野が、折角の人気絶頂期に雪見を手放すのは、事務所としても痛手であることを
小野寺に向かって力説する。

「実は俺も、そう思ってたとこだ!
近々雪見を呼んで、このまま事務所に残らないか交渉してみようと思う。
その時は今野もよろしく頼むぞ!」

「わかりました。任せて下さいっ!」



水面下でそんな話になってるとはつゆ知らず、雪見は残すところあと一ヶ月で
元のフリーカメラマンに戻れる事を、毎日楽しみにしていた。

「あー、やっと三月になるぅ!あと二週間で福岡公演でしょ。
で25、26日がツアー最後の東京公演で、四月には自由の身だぁ!やったー!!」
雪見はヘアメイクの進藤に髪をセットしてもらいながら、鏡の前で大声を上げた。

「そんなに嬉しい?私は寂しくなっちゃうけどな…。」
進藤が本心から寂しそうに、うっすら笑みを浮かべて鏡越しの雪見を見る。

「ありがとう。進藤さんと牧田さんには、本当にお世話になりました。
二人がいなかったら私、きっと途中でこの世界から逃げ出してたかもしれない…。
本当に感謝してるの。ありがと!」
雪見の言葉に進藤は、目にいっぱい涙を浮かべてた。

「やだ進藤さん!まだお別れまで一ヶ月もあるのに、つられて泣きそうになるじゃない!」
雪見までもが目を潤ませる。

「だめだめっ!メイクが取れちゃう!泣くのはお互い最終日にしよう!
雪見ちゃんの送別会しなくちゃねっ!」

これから健人、当麻と三人で、東京公演でだけ行われる特別写真展のための
スチール撮影が行われようとしている。
雪見は写される人であり、写す人にも回らなくてはならないので大忙しだ。

「よしっ!『YUKIMI&』一丁上がりっ!
これ終ったら、カメラマンバージョンにチェンジするから、急いで戻って来てね!」
進藤に送り出され、雪見はスタジオ入りする。

「おはようございまーす!よろしくお願いします!」

衣装もヘアメイクも『YUKIMI&』バージョンは、ナチュラルカラーが基本の
ふんわりとした大人可愛い雰囲気だ。
今や大人気の雪見の登場に、スタジオ中が一瞬どよめく。
程なくして健人と当麻も、衣装に着替えてスタジオに入って来た。

「おはようございまーすっ!」
明らかに燦然と光り輝くオーラに、女性スタッフはもちろん、
男性スタッフの目さえも釘付けとなる。

「おはよっ!ゆき姉。今日も変わらず美しいねぇ!」
二週間ぶりに会った当麻が、嬉しそうに雪見に歩み寄る。

「もしかして最近翔平くんと遊んだ?なんか翔ちゃん化してる気がする!」
「うそっ!?マジでっ?おととい一緒に飲みに行った!ヤバイ!」

雪見と当麻のやりとりに、健人が「マジうけるっ!」と大笑いしてる。
気心の知れた仲良し三人組の様子は、周りで見てる者も自然と笑顔になった。

「さーて、準備が出来たから始めようかー!」
カメラマン氏の一声で、和やかな空気がぴりりと引き締まり、三人も一瞬で
写されるプロの顔つきへと変貌する。

これまで四ヶ所のツアー会場は、健人と当麻だけの写真展だったが、
今の雪見人気を受けて急遽東京会場は、『YUKIMI&』の写真プラス
カメラマン浅香雪見による健人、当麻の撮り下ろし写真も加えた
大規模な写真展の開催が決まった。
その為の新しい写真を、これから撮影するのだった。

レンズを向けられた時、雪見は仕草や表情までもがキャラクタープロデュースされた
『YUKIMI&』に成り切り、ポーズをつける事も今では恥ずかしくなくなった。

この写真が、みんなの記憶に残る最後の『YUKIMI&』の姿…。
そう改めて思うと、歌の世界に未練はないけれど、やはりどこか寂しい気もする。
どうか心の片隅にでも覚えておいてね、『YUKIMI&』のこと…。
そんな気持ちで、いつもより丁寧に撮られようと思う。

「思いっきり可愛く撮ってくださいねー!
もう一生、こんな衣装を着ることはないんだから。」

「おっ!ゆき姉、気合い入れ直してる!俺らも負けてらんないねっ!」
当麻の言葉通り、三人一緒のショットは今までで一番の出来になった。


次は雪見がカメラマンになって、健人と当麻を写す番。
三人とも衣装を替えて、再びスタジオに登場。
先ほどの大人可愛い『YUKIMI&』スタイルから一転、髪を無造作にアップにし
真っ白なシャツにカーキ色の細身のワークパンツ姿で現れた雪見は、
すでに凛々しいカメラマンの顔になっていた。

「ゆき姉って、もしかして二人いる?」
さっきまでここにいた雪見とは別人のような雪見を見て、当麻が笑いながら健人に聞く。

「かもな!あっちのゆき姉も捨てがたいけど、俺はやっぱ、こっちがいいや!」

水を得た魚のように、生き生きと仕事する雪見は自信に満ち溢れ、
プロフェッショナルな格好良さに、健人は勿論のこと誰もが惚れ惚れと見とれてた。
もうどこにも「私は猫カメラマンだから…。」と卑屈に言ってた頃の、
自信なさげな態度は見当たらない。

こんなカッコイイ人が、俺の奥さんになるんだ!
早くみんなに自慢したい!!

思わず顔がにやけて雪見に怒られた。
「ちょっと健人くんっ!今違うこと考えてたでしょ?集中してっ!」

プロフェッショナルな人とは、たとえそれが当代一のイケメン俳優な彼氏にであろうとも、
容赦なく手厳しいものなのだ。

「わー!怒られてやんのー!!」

突然聞き覚えのある声が、後ろから聞こえて振り向いた。
そこには、スタジオのドアからちょっとだけ覗かせた、翔平の顔があった。





Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111



この掲示板は過去ログ化されています。