コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.477 )
- 日時: 2013/06/04 17:42
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「なに…言ってん…の?母さんなら平気…だよ?ちゃんと入院してるんだもの…。
だから私…健人くんと一緒に来たんだよ…?
それなのに帰っていい…って…どういうこと?なんで…そんなこと言うの?
ねぇ…なんで…。なんで今そんなこと言うの…。」
あまりにも突然な健人の言葉に雪見は激しく動揺した。
ほんの数分前までの幸せな浮かれ気分は、この世の終わりが訪れたかのごとく
一瞬にして瓦礫と化した。
心臓がドクドクと耳にまで聞こえるような大きな音を出し、呼吸が苦しくなってくる。
大きな瞳からはポロポロポロと涙がこぼれては落ちた。
ケッコンシキガスンダラ…ニホンニモドッテイイヨ…
その言葉の意味を理解しようにも、頭の歯車が上手く回転しなくて
真意を読みとる機能が停止してた。
最後に病室で見た母の、娘の背中を力強く押し出すようなエールを込めた笑顔と、
今目の前で見てる健人の優しくも悲しい笑顔…。
その両方が交互にまぶたの奥に映っては消える。
ここへたどり着くまでにつけたはずの心の決着…。
それが振り出しに戻ってしまう恐怖を、雪見は感覚的に感じ取った。
健人が肩をギュッと抱き寄せる。
泣きやまない雪見を強く強く抱き締めて「ごめん…。」と小さく呟いた。
その一言が、さらに雪見を泣かせるとも気付かずに…。
「なんで謝るの…。何がゴメンなの…?」
「やっぱ今回は…ゆき姉を連れてくるべきじゃなかったんだ。
今野さんが言ってた。
『お袋さんの容体はかなり悪い。でも、もし留学中に何かあったとしても
健人には伝えないでくれって口止めされた。』って。
それでも今野さんは俺に教えてくれたんだ。
『お前も雪見も、一生消えない後悔だけはしちゃいけない。』って…。
俺のワガママに付き合わせて、もしもゆき姉の留守中におばさんに何かあったら…。
だから帰った方がいい…。俺のことは心配しないで。」
健人は抱き締めた手をほどき、雪見の目を見て真剣に訴えた。
言葉の最後に柔らかく優しい笑顔を添えて。
だが…今の雪見に健人の本心を汲み取る余裕などなかった。
全てを突き放されたように感じてパニックに陥り、心が悲鳴をあげていた。
「私…ちゃんと覚悟決めて付いてきたんだよ?
いっぱいいっぱい考えて、それでも健人くんのそばにいたいと思ったから付いてきたの。
それなのに、なんで今そんなこと言うの?
今野さんに聞いても黙ってて欲しかった…。
聞かなかったフリして、明日も一緒に笑ってて欲しかった!」
雪見は湧き出す感情を剥き出しのままぶつけ、今度はワーワー泣き出した。
まだ自分を上手く表現出来ない幼子みたいに…。
一体何に対して泣いてるのか。
誰に対して怒りをぶつけてるのかさえも、自分でわからない。
ただ、上手く隠れ切ったと思ってたのに見つけられてしまった隠れんぼのように、
目の前にいる鬼に八つ当たりしてることは、うっすらと自覚していた。
本当はどんな時も、健人の言ってることが一番正しいと知っているのに…。
ひとしきり泣くに泣いたあと、雪見が小さく溜め息をつく。
それを合図に、健人がゆっくりと抱き締めてた腕を緩めた。
「少し落ち着いた?これ飲んで。今日はちゃんと話し合おう。明日は休みだしね。」
健人は努めて穏やかな声でそう言いながら、雪見の手にワイングラスを持たせ、
その指先で頬に残る涙を拭い取った。
雪見がワインを一息に飲み干し、また溜め息をつく。
健人は、雪見が次に語り出すのを待っていたが、まだ心の整理がつかないようなので
ワインを一口こくりと飲み下してから静かに口を開いた。
どこまでも穏やかに誰よりも優しい声で、雪見の心を両手で包み込むように…。
「ゆき姉は…お母さんのそばに居てあげるべきだよ。
辛いけど、事実をちゃんと受け止めなきゃ…。
お母さんが最後の時間を一緒に過ごしたいのは看護師さんだと思う?
違うだろ?ゆき姉だよね。
後で後悔しても取り返しがつかないことって、この世の中にはあるんだ。
だから…今、俺と一緒に居るのは間違ってる。」
やっと心に折り合いをつけ、母の言いつけを守ることこそが最後に出来る親孝行と
自分に言い聞かせて日本を旅立ったのに…。
それをあっさりと否定されてしまった…。
雪見は再びワインを息継ぎもせず飲み干した。
飲んでも飲んでも酔えない自分と、逃れられない現実とに苛立ちを覚えながら。
「わかってるよ…。そんなこと前からわかってる…。
でもこれは母さんと私で決めたことなの。母さんと約束したことなの!
健人くんのお嫁さんになるからには、何があっても健人くんを第一優先に生きる!って。」
「……なに?それ…。誰がそれを望んでんの…。」
黙って雪見の言葉を受け止めてた健人が、表情を無にして言った。
「えっ…?」
「俺がそれを望んでるとでも思ってんの?
俺一人が何も知らされないで、誰かが俺の犠牲になって…。
それでも斉藤健人が活躍してくれればそれでいいって、つまりはそう言うことでしょ?
みんなそうなんだ…。俺を無菌室に入れたがる…。
斉藤健人の周りからマイナスになるものを排除して、悪い話には耳を塞いで…。
斉藤健人って一体何者?俺ってそんなに偉いやつ?
それが俺の幸せのためだって、本気で思ってんの?
ゆき姉はこれからも俺のために、隠し事をするんだ…。」
「そ、それは…。」
健人が悲しい目をしてこっちを見てる。
潤んだ大きな瞳はどこか虚ろで、愛する人さえも信じられないのかと
絶望の淵で心が膝を抱えてるのが透けて見えた。
「だってそれは……。健人くんは、あの斉藤健人なんだよ?
日本中の誰もが認める、凄い役者さんなんだよっ!?
私が一番良く知ってんの!健人くんがどれだけ凄い人か。
本当は…私なんかが一緒にいられるような人じゃないのに…。
そんな人のお嫁さんにしてもらうの、私は…。
すべてを捨ててでも全力でサポートしないと、みんなに申し訳ないじゃない…。」
「それが本心なんだ…。俺が斉藤健人で在る限り、ゆき姉は俺の犠牲になって
生きてくってことね。リョーカイ。
ふふふっ…お笑いだな…。なんなんだろね、斉藤健人って…。
あはははっ!めっちゃ可笑しい!」
健人の冷たく乾いた笑い声が広い部屋に大きく響く。
その声にハッと我に返った雪見が健人を見ると、子鹿のように大きな瞳からは
今にも涙がこぼれ落ちそうだった。
「違うっ!犠牲なんかじゃないっ!私は大好きな健人くんの力になりたいだけなのっ!
ダメッ!そんなふうに思わないで!ダメだよっ!」
雪見が健人を力の限り抱き締める。
いつもはたくましく思う胸板も温かなぬくもりも、今はとてもか弱くて儚げで
雪見の力で簡単に砕け散りそうに感じた。
それでもなお強く強く抱き締め続けたのは、この手を離すと永遠に戻ってこない
風船のようにも思えたから…。
雪見はある決心を健人に伝えることにした。
健人がそれを望むのであれば…。
「わかった。私、挙式が終わったら日本に帰る…。」
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.478 )
- 日時: 2013/06/15 22:54
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
昨日と変わらない夜明け。昨日と同じ朝陽。昨日の続きの爽やかな風…。
バルコニーから見える景色に昨日との違いは何も無い。
ただひとつ違うことと言えば…この景色を眺められる期限が短くなったことだけ…。
そう…たったそれだけのこと…。何の問題もない。
そうでしょ?雪見…。
ニューヨーク2度目の夜明け。
雪見はベッドに健人を残し、一人バルコニーでオレンジ色の朝陽を浴びていた。
ほとんど眠らず朝まで健人の寝顔をぼんやり眺めてたことは、酔って熟睡してた健人には
気付かれはしなかっただろう。
昨夜はあれから二人でとことん飲んで、とことん語り合った。
今までも充分語り合ってきたつもりだったが、まだまだ知らないことが多すぎた。
私たちは、まだすべてをさらけ出してはいなかったのだ。
でも…。昨日私たちは、またひとつ絆を強くした自負がある。
誰よりも相手を愛する気持ち、お互いを思いやる心、その家族にも注ぐ愛…。
ひとつひとつ身も心も裸にし、確認し合った。
嬉しかったのは、健人がいつの間にか母のことを「おばさん」ではなく
「お母さん」と呼んでたこと。
だから私は素直に健人の助言を受け入れられたのかも知れない。
結果的に二人揃ってのNY生活は、雪見の帰国により大幅に縮小されるが
ここで暮らす12日間は、きっと今までに過ごしたどの時間よりも濃厚で濃密で、
一生忘れられない日々となるだろう。
さぁ今日も一日が始まる。
挙式まであと8日。一分たりとも無駄には出来ない。
2ヶ月かけて撮る予定だった健人の写真を、挙式までに撮り終えなければならないのだ。
全身全霊、自分の命を賭けて健人を撮そう。
「うーん…!おはよ。もう早、起きてんの…?」
健人が寝ぼけ眼をこすりながらバルコニーへやって来た。
「あ、おはよう!健人くんこそ、もう起きちゃったの?
今日はお休みなんだから、まだ寝てても良かったのに。」
「すっげー熟睡したから大丈夫。今日はゆき姉とデートだもん、寝ちゃいられないよ。
…って、めっちゃ身体冷えてるやん!風邪引くよ。中に入ろ?」
「あと少しだけ朝陽を浴びさせて。
このオレンジ色が一日のエネルギーをくれる気がするの。綺麗だよね…。」
「ほんとだね…。」
健人が雪見の身体を暖めるように、背中から優しく包み込む。
二人ひとつに重なって、お互いの体温を感じながら同じ方向の同じ太陽を望む。
あ…もしかして、これこそが私たちの望む生き方なのかも知れない。
どんな時でも二人心を一つに重ね合い、同じ方を向いて同じ目的地に向かって歩いてく。
お互い時には手を引いて、時には背中を押し、同じ山を登って行く。
その山の頂上から見える景色に、同じ感動の涙を流す…。
それこそが『結婚』という名の、愛の形ではなかろうか。
目的地が一緒なら、たとえ別々の道を歩いてたとしても行き着く先は同じ場所。
そう!同じ場所にたどり着くんだ。
「よーし!エネルギー満タン入りましたー!(笑)
さ、温かいカフェオレ飲みながら、朝ご飯作ろーっと。
あ、今日からは容赦なくバチバチ撮るからね!覚悟しといて。」
「わかってるって!世界一の写真集を作るんでしょ?
勿論全面的に協力しますとも。でーも!その前に…愛を深めてからねっ♪」
そう言いながら健人は、雪見をひょいとお姫様抱っこしてバルコニーから連れ去った。
油断してた雪見は足をばたつかせたが、下ろすつもりはないらしい。
「えーっ!昨日充分深めたでしょ!?朝ご飯作る時間がなくなるよー!」
「朝飯はその辺でサンドイッチでも買えばいいの!
俺のエネルギーも満タンにしないと、今日一日良いモデルはできません!(笑)」
いつもは寝起きの悪い健人なのに、今朝はエンジン全開フルスロットル。
残された時間を惜しむように、何度も何度も雪見の愛を確かめた。
この人の全てが永遠に俺のものでありますように…と。
「じゃ健人くん、場所を移動しよう。まずはどこに行きたい?」
近所にある公園のサンドイッチワゴンの前で、カフェオレ片手にローストビーフサンドを
美味しそうに頬張る健人。
それを一通り撮影し、カメラを下ろした雪見が聞いた。
「えっ?どこでもいいの?俺が決めていいの?」
「そうだよ。今回の写真集はカメラマン主導じゃなく被写体主導だもの。
健人くんの本物のニューヨーク生活を撮すんだから。
うーん、そうだな。例えるなら斉藤健人のドキュメンタリー写真集って感じかな。
リアルに斉藤健人を感じられる写真集にしたいの。
あ、そーだ!いい題名思いついちゃったぁ〜♪
『REAL〜リアル〜』にしよーっと!メモっとかなきゃ。」
雪見がキャッキャ言いながら、冷めたカフェオレを飲み干す。
ファインダーを覗いてる雪見はプロの鋭い目をしてるが、一旦カメラを下ろすと
今が楽しくて仕方ないという顔で健人を見るので、健人の顔も思わずほころんだ。
街中を移動中、雪見と手を繋いで歩いてても誰も振り返らない。
スクランブル交差点の真ん中でキスしたって、誰も気に留めない。
博物館の中でも、美術館の有名な彫刻の前でも、黒山の人だかりは
健人を見てるわけではなく、みな展示品を向いている。
日本と違い、なんて自由で気の使わない時間。二人きりの世界。
だが…。はたと気付いた。
この人達が、誰もが振り返るほどにならなきゃ、世界に出たとは言えないんだ…。
けれど…それは自由と引き替えに得なければならないもの。
だけど…いつかは必ず手に入れたいもの。
…そっか!ゆき姉さえそばにいてくれたら、自由なんて取るに足らないや!
「よしゃ!次行こ、次っ!」
「めめー!ラッキー!ただいまー!遅くなってゴメンね!すぐご飯あげるから。
あー久々にいっぱい歩いたら、もう足がパンパン!お風呂入ろーっと!」
今日一日の撮影ノルマをこなし、カジュアルなフレンチレストランで
美味しいディナーとワインを楽しんだ二人は、上機嫌でアパートへと戻って来た。
窓の外には、煌めく夜景が広がる時間。
バスルームから雪見の鼻歌が聞こえてる。
このペントハウスでもっとも綺麗な夜景を眺められるのは、贅沢な造りのバスルームなのだ。
「俺も入ろーっと!」
「キャーッ!なんで入ってくんのよー!後から入ってよー!」
突然健人がドアを開けて入って来たので、雪見は慌ててバスタブに身を沈める。
普段はあまりしないのだが、この時はバブルバスにしておいた自分を褒めてやった。
どうもベッド以外で裸の健人と向き合うのは照れて仕方ない。
あまりにも眩しすぎる肢体。
たくましくしなやかに鍛え上げられた筋肉。
絶妙なバランスで散りばめられたホクロ。
その存在を主張する喉仏。
そして…私を優しく撫でる無骨な指…。
ファインダーを通してなら見れるのに、生身のセクシーな男の身体は刺激が強すぎた。
と言うよりも、それなりに努力してるとはいえ、自分の裸身を一回りも若い男に晒すのは
酔ってでもいない限り勇気がいることだ。
なのに…。
「なにやってんの?一緒に夜景見ようと思ったのに。スッゲー!めっちゃ綺麗やん!
にしてもこのバスルーム、完璧二人で入るように造られてるよね。
きっと愛は大事だよ、ってことなんだな♪」
ザブンとバスタブに飛び込んだ健人は雪見と向かい合い、「愛してる。ゆき姉は?」
と強制的に返事を求めた。
「そりゃ決まってるでしょ?」
「どう決まってんのさ。」
「愛してるに決まってんでしょっ!もーぅ!意地悪だなー。」
「へへっ!良く出来ました。よしよし!」
子供のような笑顔で頭を撫でた後、健人は雪見を引き寄せキスをした。
宝石を散りばめたような窓の外の夜景が、二人の儀式をそっと見守る。
この愛が永遠でありますようにと祈りながら…。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.479 )
- 日時: 2013/06/15 12:53
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「おはようございます、斉藤さま。もうご登校なさるのですか?」
一階エントランスで出勤する住人を見送るコンシェルジュのマーティンが、
健人と日本語で挨拶を交わす。
「おはようございます!あ…6時から学校が使えるって聞いたんで、
早めに行って準備しようかなと。
そうだマーティンさん!ちょっと写真を撮らせてもらってもいいですか?」
忘れ物を取りに戻った雪見がちょうどエレベーターから下りてきたので、
健人は手招きしてツーショットを撮ってもらうことにした。
雪見がカメラを構えると、彼はあたかも執事役を演じる現役俳優であるかのように
完璧な微笑みとポージングで、健人と共にカメラに収まった。
「ありがとうございます!さすが元俳優さん!健人くんに負けないくらい素敵に撮れました。
写真集出来上がったら必ず送りますねっ♪楽しみにしてて下さい。
じゃ、行って来まーす!」
「お気を付けていってらっしゃいませ、斉藤さまご夫妻。今日も素敵な一日を。」
柔らかな眼差しに見送られ、外に出て歩き出した途端雪見がクスクスと笑い出した。
「ねぇ。斉藤さまご夫妻って言い方、なんか笑えるー。」
「いんじゃね?俺たち、あと6日で本物のご夫妻だもん。」
健人が笑いながら右手を差し出した。
「そうだねっ。私たち、本物の斉藤さまご夫妻になるんだねっ!
えへへっ、なんか照れるなぁー。」
健人の右手を両手で掴んだ雪見は、イタズラな目をして「よろしくねっ!ご主人さま♪」
と健人の顔を見上げた。
その頭上には抜けるような青空が、今日一日の始まりを手放しで喜んでくれてる。
さぁ、ニューヨーク生活5日目の月曜日。
今日からいよいよ本格レッスンのスタートだ。
「ハーイ!ケント。素敵な週末を過ごせた?」
「今日からまたよろしく頼むぜ!」
「おはよう、ユキミ!俺のこともイケメンに撮ってくれよ♪」
健人の編入する上級者クラスでは、授業開始までまだ1時間半もあるというのに
すでに何人もの生徒が柔軟体操をしたり発声練習したりして、思い思いに
ウォーミングアップを始めていた。
「やっべ!俺が一番乗りだと思ったのに…。
さすが上級者クラスともなると、気合いの入りがハンパないわ。
ゆき姉…。俺、明日からもっと早くに来ても…いい?」
健人が教室の風景を見渡した後、少し申し訳なさそうな顔で隣の雪見を見る。
すると雪見は嬉しそうに笑って大きくうなずいた。
「あったり前でしょ?明日からは、ぜぇーったいに一番乗りするよっ!
よーし!めっちゃ気合い入ったぞー!負けるもんかー!!」
そう言いながら雪見は、嬉々として撮影の準備をし始めた。
「てか、それって俺のセリフでしょ?(笑)
よしゃ!じゃあ俺もゆき姉に負けずに頑張りますか!」
笑いながら健人も教室の隅に行き、一人黙々と柔軟体操を開始した。
遠くからファインダー越しに見るその顔は、いつもの健人らしく一見淡々としてる。
が、雪見の目には、こんこんと湧き出る闘志と蒼白き炎が見えた。
しかしそれよりも何よりも、その底辺にあるのが母の懐に抱かれてるかのような
安心しきった顔であることを、シャッターを切りながら幸せな気持ちで眺めてた。
健人くんの心に、私がゆとりをもたらしてるのなら嬉しい。
私が帰国しても…どうかそのままでいてね…。
少しの不安は鼻で笑い飛ばすことにしよう。
もう子供じゃないんだから、私が居なくたって大丈夫に決まってる。
外食ばっかじゃいけないから、おかずを作り置きして冷凍庫に入れておこう。
あ、あと洗濯も溜め込んじゃうだろうから、下着の替えをいっぱい用意して…と。
そんなことばかりが次々思い浮かぶ自分にふと気付き、急に笑いがこみ上げた。
『私って、留学する息子に付いて来たお母さんみたい。』
クスクス笑う雪見に気付いた健人が、首を傾げて『どうしたの?』とジェスチャーする。
『なんでもないよ。』と首を横に振った後、雪見は思いついたように口を大きく開けて
遠くの健人にメッセージを送った。
『 あ・い・し・て・る 』
夕方5時。今日のレッスンがすべて終了。
放課後も居残りして自主練する生徒が多いだろうと思いきや、教室に残ったのはわずか3人。
あとは凄い勢いでシャワールームへと流れていった。
「みんな帰っちゃうんだ。なーんだ…。」
少し拍子抜けしたように健人が呟く。
すると日本語の話せる韓国人クラスメイトが近づいてきて、健人に色々教えてくれた。
「みんなこれから違うスクールに行くんだ。
ダンスのレッスンやボーカルトレーニングとかが多いかな?
あ、小さなシアターでミュージカルの舞台に立つ奴もいるし。
それ以外の奴らは映画やお芝居を見に行く。
なんでかわかる?みんな自分磨きしてるんだよ。」
「自分…磨き…?」
健人がボーっとしながらオウム返しする。
「そう、自分磨き。だからこのアカデミーは金曜が半日で土日が休みなのさ。
レッスンはみんなが平等に、同じカリキュラムを受けられる。
けどそれは役者としての技術だったり応用であったりするだけ。
あとはそれぞれ個性を磨いて自分を仕上げなさいってこと。
この世に二人同じ個性の役者はいらない。
一人一人が唯一無二の存在になりなさい、ってこと。
あ、唯一無二の使い方って、これであってる?」
髪を金色に染めた彼は、人懐っこい笑顔で健人に聞いた。
彼も相当な努力家のようだ。
こんなにも自在に日本語を操るのだから。
「うん、あってる。すっげー日本語上手だね。ビックリした。
いっぱい教えてくれてありがとう。で、君はどこにも行かないの?」
「あ、俺?俺はいつも居残り組。金が無いからさ。
ここのアカデミー代だけで精一杯。親にこれ以上迷惑は掛けられない。
夜は飲み屋でバイトしてるんだ。これ、学校にはナイショね。
ちっとも自分磨きしてないから。」
そう言ってアハハッ!と大声で笑ったあと、健人に右手を差し出した。
「俺、ホンギ。なんかケントとは気が合うんじゃないかって、今日思った。
これからよろしく!」
「あ…こっちこそよろしく!なんかめっちゃ嬉しい!
まさか日本語で話せる友達が出来るなんて、夢にも思わなかったから。」
健人が嬉しそうに握手を交わしてる所へ、夕飯の買い物に出かけてた雪見が
両手に袋を提げて戻ってきた。
「あ、ずっと聞こうと思ってたんだけど、ユキミってもしかして…ケントの彼女?」
突然金髪の、ほぼ初対面に近いイケメン男に日本語で話しかけられた雪見は
驚いて目をパチクリ。
すると健人が隣に来て「持つよ。」と、立ち尽くす雪見の手から袋を受け取った。
「そっ!俺の彼女。てか、もうすぐ俺の奥さん!」
「ワォ!すっげー!その若さで結婚しちゃうの?やるねぇー!」
彼は目の前の二人を冷やかし始める。
話したこともない男にいきなり馴れ馴れしくされた雪見は「なに?この男!」
という少しムッとした顔をしたのだろう。
慌てて健人が話を変えたのだが…。
「そーだ!これからバイトなの?」
「いや、今日は休みだから居残りしようかと…。」
「じゃ、俺んちで一緒に晩飯食わない?ゆき姉って料理の腕前プロ級なんだ。
酒もめっちゃ強いし!」
「ええーっ!?ちょ、ちょっと健人くんっ!」
いきなりの訳のわからぬ展開に驚く雪見。
嬉しそうに「うん!行く行く!」とうなずくホンギ。
そして…『俺、こいつと気が合うかも…』とワクワクし出した健人。
どうやら雪見帰国後の寂しさは、この出会いによって回避されそうだ。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.480 )
- 日時: 2013/06/17 10:02
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「うそっ!こんなスゲーとこに住んでんのっ!?ケントって何者!?」
ホンギがリゾートホテルのようなアパートを見上げ、本気で驚いてる。
夜8時近くのライトアップされたアパートは、住人である健人が見上げても
スゲーや!と思う。
確かに…。ここに住んでるって言ったら、当麻も優も驚くだろうなぁ。
翔平は…ズルイ!って騒ぐよな(笑)
ふと日本の親友たちを思い出し、あいつら元気かなぁ…と顔を思い浮かべた。
「まぁ話は部屋に行って、ゆっくり飲みながらしよ!
ゆき姉がご飯並べて待ちくたびれてるかも。」
「ただいまー!ゆき姉、連れてきたよ!
あ、ストップ!ここで靴は脱いで!日本式にしてあるから。」
玄関先から健人の声が聞こえ、雪見はパタパタと急ぎ足で二人を出迎えた。
「お帰りなさい!お疲れ様っ。お腹空いたでしょ?
ホンギくんもようこそ!中へどうぞ。」
「おじゃましまーす♪」
健人は、雪見が機嫌良くホンギを迎え入れたことに安堵。
本当はちょっとだけ、まずかったかな…と内心ヒヤヒヤしてた。
第一印象が良くはなさそうだったし、今まで会ってすぐの人を自宅に招き入れるなど
したことがなかったから。
だけど…なぜか彼とは、もっと色んな話をしてみたいと思ったのだ。
「なにこれ?スッゲーご馳走っ!ここはホテルのバイキング?
ケントって、毎日こんな美味そうなもん食ってんの!?
それになに?この部屋っ!えーっ!?こんな広いとこに二人で住んでんのぉ!?信じられん!
お宅らって、ほんと何者っ!?」
リビングに入った途端、テーブルいっぱいに並んだご馳走を見てホンギが大騒ぎ!
それにしても日本語が上手いことには関心する。
「お宅ら」って言い回しには雪見と顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
同年代の日本人に紛れてお喋りしても、多分彼が韓国人だとは誰も気付かないだろう。
まぁ、テンションの高さは…翔平の上を行くな。
健人は苦笑いしながら、ホンギが一通り部屋を見て回ってる間に着替え、
コンタクトを外してリビングへと戻ってきた。
「めっちゃ腹減ったー!喉もカラッカラ!まずはビールで乾杯しよう。
ゆき姉もここ座って!じゃ今日も一日お疲れ〜!カンパーイ!」
「カンパーイ!うっめ〜♪ねーねー、これ食べていいの?
俺、昼飯食ってないから、死にそうに腹減ってるんだけど。
いただきまーす!なにこれ!スゲーうまいっ!
こっちは日本食?あーっ!俺の大好きなチヂミもあるーっ!」
凄い勢いで食べ出したホンギに、一瞬呆気にとられる。
だが、彼があまりにも美味しそうに幸せそうな顔して食べるのを見て、
今夜彼を招いたことは間違いじゃなかったと、二人とも微笑んでその様子を眺めた。
「俺たちも食べよっか。久々にめっちゃ身体動かしたから腹ペコ!
いただきまーす!うん、間違いなくうまいっ♪
急に頼んだのに、いっぱい作ってくれたんだね。ほんと、ありがと。」
「だって健人くんの初めてのお友達を招待するんだもん。うーんと張り切っちゃった!
にしても…作り過ぎちゃった?」
雪見がビールを飲みながらケラケラと笑ってる。
そんな彼女が大好きで、どうしようもないほど愛しくて。
今すぐ抱き締めてキスしたくなったが、目の前には友がいる。
グッと堪えて雪見の頭をポンポンと撫で、健人はもう一度「ありがとう!」
と優しく微笑んだ。
それから三人は、時間を忘れて飲んで食べて語っての大忙し!
健人の直感通り、ホンギはとてもいい奴で会話が面白く、しかも頭が良かった。
韓国ですでに俳優業はしていたが、脇役ばかりで芽が出ず、これではダメだと
一念発起して渡米してきたらしい。
なのに家はめっちゃ貧乏だ!ともアッケラカンと笑って言う。
「だけどね、親がさ。お前なら出来るよ!って俺の夢を後押ししてくれるんだよね。
一度も辞めろとは言わないの。ビンボーなんだよ?それなのにさ(笑)
だから俺は何としてでも役者として成功して、親に恩返しがしたいんだ。
そーだ!売れたらここみたいな、でっかい家を建ててやろう!
あ、でも掃除が大変そうだから、もうちょっと小さくてもいいや(笑)」
酔いも手伝ってか、底抜けに明るく笑い飛ばす。
だけどこの人の明るさは、きっと底辺を知ってるからこその明るさだと思った。
つらさも痛みも知り尽くしてるからこそ、どんな小さなことも笑い飛ばせる勇気がある。
メンタル面の強さがきっとこいつの強みだろう、と健人は少し羨ましくも思った。
翔平や当麻、優とも、絶対気が合うだろうな…。
と、そんな事を思った時だった。
「うわっ!」とホンギが突然大声を上げた。
見ると、雪見手作りのキムチに箸を付けている。
「ごめんなさい!お口に合わなかった?
あーバカだなぁ、私!本場の人にこんな浅漬けのキムチ出すなんて。
こっちに来てからすぐ漬けたんだけど、まだ5日しか経ってないもんね。
サラダ代わりにと思ったんだけど…。」
雪見が申し訳なさそうにホンギの顔色を伺った。
すると、彼は思いも寄らぬ言葉を口にしたのだ。
「このキムチ…。母さんのキムチと…同じ味だ…。」
「えっ…?」
ホンギの瞳には…見る見る間に涙が浮かび上がった。
だけど顔は嬉しそうに微笑んで、懐かしい母の味をむさぼるように
口いっぱいにキムチを頬張った。
「母さんも…キムチは浅漬けが好きだったんだ…。
ちょうどこれくらい…。うん…これくらい…。」
「お母さま…。」
亡くなったのか…?と口から出掛かった言葉を、雪見は飲み込んだ。
答えは…思ってる通りだろう…と。
これ以上、彼を泣かす必要もなかった。
健人もそれ以上は何も聞かず、雪見の作ったキムチを口に運ぶ。
「これ…うちの母さんの?」
「そう、おばさんから教わったレシピで作ったの。
疲労回復にいいし、健人くんもお母さんの味を食べたいかなーと思って。
おばさんの味にするには、もっと長く漬けとかなくちゃいけないんだけどねっ。
あ、そーだ!ホンギくん。もし良かったらこのキムチ、もらってくれないかなぁ?
健人くん一人で食べるには、たくさん漬け過ぎちゃって。」
「えっ…?いい…の?もらう、もらうっ!」
なんて嬉しそうな顔!
この人のそばにいる人はきっと、どんな時もつられて笑顔になっちゃうね。
……そーだ!
「ねぇ、ホンギくん!
あと一週間したら私とバトンタッチして…ここに住まないっ!?」
「え?ええーっ!?」
にっこりと微笑んだ雪見が、ホンギには女神さまに見えた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.481 )
- 日時: 2013/06/24 18:39
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「バトンタッチ…ってケントとユキミ、もうすぐ結婚するんでしょ?
どーゆーことっ?」
ホンギは「あと一週間で」と言う意味がわからず、雪見と健人の顔を交互に見る。
「私ねっ、結婚式終わったら日本に帰ることにしたの。」
「えっ?」
さすがに笑える状況ではないと判断し「どうしたの?」と真面目な顔して聞いてきた。
それから雪見は事情を話して聞かせた。
母の状況を、まるで他人事かのように淡々と。いや、むしろ努めて明るく。
ホンギが亡くした母を思い出し、涙した後に更に涙の上乗せはしたくなかった。
「あのね、健人くんってね、こー見えても寂しがり屋さんなの。
だーれも居ないお家が大っ嫌いなんだよ(笑)」
「え?そーなの?めっちゃカワイイじゃん♪」とホンギが健人を冷やかす。
「いや違うって!俺、別に嫌いでもなんでもないから!
帰って来た時にさ、家ん中がシーンとしてたら寂しいなぁって思う瞬間、あるじゃん!」
「やっぱ寂しいんだー!俺、ぜーんぜん思ったことない!
けどそーいうのって女子のポイント高いよねー!母性本能くすぐるって言うんだっけ?
俺も、もうちょっと寂しがっておくかな?
いや、そーなるとケントとキャラかぶるから人気が分散しちゃうな。」
「かぶんねーよっ!お前とはまったくキャラかぶんない!(笑)」
やっぱり思った通り。ホンギくんには嘘がない。
だから健人くんも警戒心ゼロで心から笑えてる。本当に楽しそう。
居心地いい相手なんだよね…。
こんな人が私の代わりに健人くんのそばに居てくれたら…。よしっ!
「ねぇねぇ!ここの家賃はこっちで払うからさぁー。
私が帰国した後の二ヶ月間、ホンギくんが一緒に住んでやってくれない?
そしたら私、安心して母さんの看病がしてられる。
ねぇ、悪い話じゃないと思うけど…どう?」
つい何時間か前に初めて話したばかりの相手に、なんてお願いしてんだろ
とは思ったが、自分の直感は正しいはずと信じてアタック、アタック!
「そ、それって…マジで言ってんの?」
ホンギも健人も、目をまん丸にして雪見を見てる。
「もちろんっ!あ、ただし一つだけ条件があるの。
アカデミーでは健人くんに、一切日本語で話しかけないで欲しい。」
「え?」
「私ねっ、今回の留学で健人くんには完璧に英語を話せるようになって欲しいんだ。
いつか必ず…彼は世界で仕事をする人だと知ってるから。」
「ゆき姉…。」
ニコッと微笑んで健人を見つめる瞳は確信に満ちていた。
もうすでにその姿を見てるかのように、目を輝かせて…。
「だけどね、ここに帰ってきた時には心からホッとしてもらいたいの。
それでねっ、凄くわがままなお願いなんだけど…。
この家に居るときだけは今みたいに日本語で会話してあげて欲しいんだ。私の代わりに…。」
本当はそれが私の役目だったんだけど…と一瞬雪見が悲しげな目をしてうつむいたのを
健人もホンギも見てしまった。
だが雪見は、すぐ笑顔を作り直しておどけてみせた。
「て言うかねっ。寂しがり屋の健人くんを一人残して帰って、もし浮気でもされたら
やだなぁー!って。
で、用心棒を置いときたい!ってのがホンネなんだけど(笑)」
雪見は見え透いた嘘を言ってケラケラ笑ってる。
本当は健人を疑ったことなど、ただの一度もないのに…。
「ほーんと、これじゃあ健人くんの生涯マネージャー失格だよなぁー。
思いっきりタンカ切って出てきたのに今野さんと常務に怒られちゃう。カッコ悪ぅ!」
「ゆき姉っ!まだそんなこと言ってんの?いい加減、俺怒るよっ!
おばさんは俺の母さんでもあるんだよ?ちゃんと看病してくれないと困るのっ!
ホンギ!ゆき姉がこんなだからさ、ここ来てくんない?
じゃないとこの人、帰る直前に気が変わった!とか言い出しかねないからさ。」
健人がホンギに両手を合わせてお願いしてる。
きっとその方が彼も気兼ねなくYesと答えられるだろう。
そんなさりげない気遣いが健人の優しさだ。
「…わかった。そこまでお願いされたら来ないわけにはいかないな。
よしっ!二ヶ月間イチャイチャ同棲しちゃう?俺、ケントみたいなイケメン大好きよ♪」
ホンギが健人に向かってウインクした。
「え…?う、うそっ!?」
「やだぁ!ウソでしょーっ!!??」
しまったぁーっ!そんな可能性、これっぽっちも疑ってなかった!
ヤバイっ!どうしよう!健人くんが狙われてるぅぅぅ!!
「ププッ…ギャハハハッ!お宅らのリアクション面白すぎーっ!
嘘に決まってんだろ!俺は女の子にしか興味ないのっ!」
ホンギがお腹を抱えて笑い転げてる。
それを見た健人と雪見も顔を見合わせ、吹き出して大笑い。
久しぶりに涙が出るほど笑った。そして安心した。
彼なら健人くんと、きっと上手くやっていける。良かった…。
その夜は新しいルームメイト決定祝賀会と称し、ホンギを泊めることにして
心おきなく飲んだ。
まるでずっと以前から親友同士であったかのように、楽しく心地よい時間が流れる。
そのうち健人とホンギは、床に敷いてある毛足の長いムートンラグの上に
ゴロンと転がり語り合うも、いつしか気持ち良さげに寝息をたてた。
「おやすみなさい。また明日…。」
二人にそっと毛布を掛け、あくびをしながら寝顔を何気なく覗いてみた。
ホンギくんも、健人くんに負けず劣らず綺麗な寝顔だなぁ…。
二人とも天使みたい。凄く写りがいい顔だと思うんだけど…。
…って、ヤバッ!仕事を忘れてたぁ!飲んでるとこを撮る約束してたのにぃ!
雪見は大慌てでカメラを持ち出し、二人が爆睡してるのをいいことに
バシャバシャと間近でシャッターを切り続けた。
良かったぁ!私が寝る前に気付いて。
初めてのお客様を載せないわけにはいかないもんね!
NYで初めて出来たお友達だもん。
いや、お友達と言うよりはきっと…もう親友だよね。
うん!思った通りホンギくんもフォトジェニック♪
これ健人くんの写真集出たら、出版社に問い合わせが殺到するんじゃない?
一緒に写ってたイケメン寝顔君は誰ですか?って。
そこからホンギくんが注目され出して、この二人が日本のドラマで共演でもしたら…。
キャーッ!絶対大人気ドラマになるでしょ!
なんかホンギくんのこと、応援したくなってきた!
よーし!何が何でも注目集める写真集を作ってやる!
一人で盛り上がった真夜中の撮影会は終了。
食器を静かに片付けた後、部屋の明かりを消して雪見は寝室へ。
時計の針はもう午前2時を指していた。
ベッドの上には先回りしためめとラッキーが、健人のいない場所を埋めている。
日本は今頃、午後3時か…。
そうだ。母さんに電話してみよう。
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