コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.407 )
- 日時: 2012/03/20 08:15
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「翔平っ!?」
「翔平くんっ!!」
「よっ!お疲れぇ〜!」
雪見らが撮影中であることなどお構いなしに、翔平がスタジオに入って来た。
仲良しな友達と、スーパーのお菓子売り場でばったり会った幼稚園児みたいに、
それはそれは嬉しそうに「いぇ〜い!」と健人らにハイタッチまでするものだから、
当然のごとく雪見はため息をつき、カメラを下ろす。
「どしたの?仕事?」
健人が雪見の顔を見て、苦笑いしながら翔平に聞いた。
「そ!隣りのスタジオで、これからグラビア撮んの。
こっちで健人たちがやってるって聞いたから、陣中見舞いに来たわけ。
しっかし、相変わらずカメラマンのゆき姉、かっけー!
いいなぁー!健人と当麻ぁ!俺も一緒に写っていい?」
「だーめっ!これは私達のツアー用の写真なんだからっ!
それに陣中見舞いなら、なんか差し入れぐらい持って来なさいよっ!
てゆーか、通りがかりの素人じゃあるまいし、普通は入って来ないでしょ、撮影中に!」
相変わらずの翔平と雪見のやり取りに、健人がまた始まった!と笑ってる。
当麻は、この二人の不思議な関係性に目を丸くした。
「なに…?ゆき姉と翔平って、どーいう関係?」
「うーん、しんのすけとみさえ的…な?」
そこへ隣のスタジオからスタッフが、スタンバイが出来たのでお願いします!
と翔平を呼びに来た。
「おっ!じゃ俺も一丁、格好良く撮られてきますかっ!ゆき姉、またねー!」
俺たちには何にもないのかよっ!と健人と当麻が突っ込もうと思ってると、
翔平は小声で何かを二人につぶやいて、スッとその場を立ち去った。
「えっ!?」
健人と当麻が驚いて振り返った時、すでに翔平の姿はそこになかったが、
耳に残る残響は、確かに翔平の口からもたらされた言葉に違いなかった。
『ゆき姉との同棲バレたっぽい。外に週刊誌が来てる。気を付けろ!』
翔平は撮影中を承知で、慌ててそれを伝えに来てくれたらしい。
集中力が大事な雪見には動揺を与えぬよう、二人だけにそっと…。
健人にしたって、動揺は大きいに決まってる。頭ん中が真っ白になった。
今まで事務所に言われた通り、細心の注意を払ってきたのに…。
だが今、雪見に非常事態を悟られる事があってはならない。
二人は俳優としての演技力を最大限に駆使して、何事もなかったかのように、
撮影を再開させた。
何も知らない雪見の顔とカメラを見つめながら、この後どうするのが
最善なのかを考える。どうしよう…。
「OK!終了!お疲れ様でしたぁ!みなさん、ありがとうございましたっ!!」
雪見が撮影に携わったスタッフ全員に頭を下げ、大きな声で礼を述べると、
周りからは温かな拍手が巻き起こり、にこやかに雪見の労をねぎらってくれた。
「あー終ったぁ!もしかして、これがSJを写す最後の仕事だったんだね…。
集中してたから、そんな事ひとつも頭に浮かばなかった。
ありがとねっ!ポートレートに自信が持てるようになったのは、二人のお陰だもん。
本当に…感謝してる。」
健人と当麻に歩み寄り、改めて礼を言って頭を下げた瞬間、フッと肩から力が抜け
強気なカメラマンからただの雪見に戻り、急に涙がこみ上げてきた。
「なんでだろう…。これでお別れじゃないのに…。
これからもずっと近くにいるのに、一歩ずつ遠ざかってく気がする…。
私が事務所を辞めても、みんな友達でいてくれる…よね?」
ついさっきまで自由の身になれる日を、あんなに楽しみにしてたはずなのに…。
事務所を辞めてフリーに戻った途端、今まで出会ったこの業界の人達が
「あんた誰?」という顔でこっちを見るさまを、雪見は想像してしまったのだ。
「なに言ってんの!あったり前じゃん!
ゆき姉はただの浅香雪見に戻るんじゃない。斎藤雪見になるんだろっ?
だったら一生、俺の親友の奥さんじゃん!」
当麻が雪見にささやいて、にっこりと微笑んだ。
すると雪見の頬にパッと赤みが差し、本当に嬉しそうに健人に目を向けた。
胸がキュンと熱くなり、危うく抱き締めてしまいそうになるほど愛しい笑顔。
だが、その笑顔の下には未来への不安と恐怖も隠されていて、それを自分一人で
どうにかしようと、もがいてることも健人には判っていた。
『決めた…。今までは、俺がゆき姉に全部支えてもらってた。
ここからは、俺がゆき姉を支えて守ってく。
きっと…今が行動に移すべき時なんだ!』
「ゆき姉、帰ろっか!」「うんっ!」
そう言いながら健人は、左手人差し指のリングを、そっと薬指に移し替える。
当麻は、なんとなく健人が起こすであろう次の行動が予測でき、
「頑張れよっ!」と一言だけ健人に残して、先にスタジオを後にした。
「予定よりずいぶん早く終ったよね!久々に家でのんびりできるー!」
「翔平くんが乱入してこなかったら、もっと早くに終ったのにねっ。」
今野の車に乗り込みながら、健人が窓の外を見渡した。
だが、どこにもマスコミらしき人影は見当たらない。
きっと動かぬ証拠を掴むため、二人のマンションに先回りしてるに違いなかった。
どこかに寄り道し、この緊急事態を取りあえずは回避する方法だってある。
だが健人は、もうマスコミから逃げ回る気など更々なかった。
早く雪見を不安定な状況から解放してあげたくて、あえて渦中に飛び込む決意を固めてた。
ただ、健人の独断ゆえ、今野にだけは見つからないようにしないといけない。
「あ、今野さーん!帰りにビール買って帰りたいから、近所のコンビニで
降ろしてもらえますか?」
「え?ビールなら冷蔵庫に入ってるよ?」
「他にも買いたい物があんのっ!」
健人に言われた通り、今野は二人をマンション手前のコンビニで降ろし
Uターンして帰って行った。
これから起こるであろう大騒動など想像もせずに「気を付けろよっ!」
とだけ言い残して…。
コンビニでワインと牛乳、酒のつまみや健人が載ってる雑誌を買い込み店を出る。
外はまだ薄明るい。
なのに健人が「さ、帰ろ!帰ろ!」と言いながら雪見の手を取り、恋人つなぎをした。
「ちょ、ちょっと健人くん!誰かに見られちゃうでしょっ!」
いつもは絶対にしない行動をとった健人に、雪見は言いしれぬ不安を瞬時に抱いた。
「いいじゃん、別に。俺たち恋人同士でしょ。」
「どうしたの?急に。なんか変だよっ!?」
無意識に足にブレーキがかかる雪見を、健人が引っ張って歩く。
いたっ!!マスコミだっ!
マンション前にたむろするカメラマンらを視界に捉えて、健人は高鳴る鼓動を
落ち着かせるように、その繋いだ手をギュッと握り直した。
「うそっ!?健人くん、マスコミっ!どうするのっ!?」
「いいから、一言も声を出さないでっ!」
怯えた目をして見上げる雪見に、健人は優しい目をしてニコッと微笑んだ。
握り締めた指に輝く二人のリングが、永遠の勇気を与えてくれますように…。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.408 )
- 日時: 2012/03/22 10:53
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「帰って来たぞっ!斎藤と浅香だっ!」
一人のカメラマンの声に反応し、マンション前にいた4人が戦闘態勢に入る。
そこまでの距離、三十メートルほどか。
どうやら健人と雪見の同棲をすっぱ抜いたのは、女性週刊誌一誌だけの様子。
完全なる特ダネスクープだ!
「なーんだ。どうせなら、みんないっぺんに集まって欲しかったな。」
健人は余裕とも取れる言葉をつぶやいて、雪見の顔を見た。
「ゆき姉は、何にもしゃべんなくていいからね。全部俺に任せて。
そんな顔すんなって!大丈夫だよ。ゆき姉には俺が付いてんだから!」
そう言って健人は、繋いだ手を改めてキュッと結び、完璧な笑顔で微笑んで
雪見を見つめてる。
どうして…?なぜ逃げないの?
いいの?今みんなにバレても…。
一歩また一歩と迫り来る敵から逃れようともせず、健人は前を向いて足を進める。
キャップこそ目深に被ってはいたが、その奥の瞳は新しい事に立ち向かう時の
雄々しき挑戦者の目をしていた。
だが…恋人つなぎをした雪見の指は、ジンジンするほど強く結ばれている。
笑顔の裏に隠された健人の心の内が、その指先の痺れから痛いほど伝わってきた。
健人くんが…私のために行動を起こそうとしてる…。
大変な事になっちゃうのに、本当は自分だって怖いのに、私のために…。
健人の気持ちに気付いた時、雪見も覚悟を決めた。
もう健人くんを止めはしない。あなたの決めた事について行く。
私も一緒に戦うよ!だって私はあなたの彼女だもん!
そうと心を固めたら、雪見の中から恐怖は消え去り、反対にムクムクと
闘争心が湧き上がった。
「健人くん。やっぱ私も喋っていい?」
「えっ!?」
驚いて健人が雪見を見ると、雪見は隣でいたずらっぽく笑ってみせた。
さっきの怯えた目とは別人で、カメラを構えてる時と同じ挑戦的な目をしてる。
健人が優しく微笑み返した。
二人の心が重なれば、もう怖いものなど何もないと…。
「よしっ!ゾンビの中に突入といきますかっ!」
「おっ!いいねぇーそれ!ゲームみたいじゃん!
ゆき姉はあのゲーム、めっちゃ下手くそだけどねっ!」
二人は顔を見合わせ、声を上げて笑ってみる。
すると最後まで残ってた少しの緊張も、みんな笑い声と共にどこかへ飛んでった。
よしっ!いざ、突入!
「斎藤さーん!お帰りなさーい!ここ、浅香さんのマンションですよね!?
いつからお二人は一緒に暮らしてるんですかー?」
「お付き合いしてる事に、間違いないですよねっ!?」
「結婚はもう決まったんですか!?」
「来月、お二人でニューヨークへ行かれるとお伺いしましたけど、正式発表は?」
「もしかして浅香さん、オメデタですかーっ!?」
マイクを突き出し、矢継ぎ早に繰り出される質問とフラッシュの光。
通りがかりのおじさん達たちが、何事か!と足を止めるのも無理はなかったが、
それより何より、健人と雪見は最後の質問に大受けしてた。
「やだっ!私のお腹が出て来たってこと!?お酒の飲み過ぎ?
明日から腹筋しなくちゃ!」
「なんで明日からなの?今日からやんなさいっ!」
二人が大笑いしてるのを、カメラマンや記者達が豆鉄砲を食らったような顔して見た。
「あ、あの、お付き合いはされてる…んですよねっ?」
「見ての通りです!」
そう言って健人は、つないだ手を上に掲げて見せた。
二人の愛を誓った指輪が、みんなによく見えるように…。
「あ!ゆき姉の名誉の為に言っときますけど、オメデタはないです。」
記者らの前に並んだ二人は、実に仲良さそうにニコッと笑って見つめ合った。
その瞬間、連写でフラッシュがたかれ、特ダネ写真が完成される。
「来月から二ヶ月間、ニューヨークで芝居の勉強をして来ます!
ずっとやりたかった事なんで、やっと夢が叶ってすっごい嬉しいです。
許可してくれた事務所には、ほんっと感謝してますよ!
ゆき姉は英語が話せるんで、通訳として一緒に来てくれるんですけど、
向こうじゃ部屋を借りての自炊なんで、食事とか洗濯とか生活全般お世話になります。
僕は芝居の勉強だけに専念できる訳で、有り難いっす、マジで。」
そう言いながら健人は、雪見に向かって頭をぺこんと下げた。
その仕草が可愛かったのと、やっと自分を彼女だと公表してもらえたのが嬉しくて、
雪見はニコニコといつまでも健人の顔を見上げてる。
健人と付き合い出してから、一日も取れることの無かった胸のつかえがストンと落ちて、
やっと楽に呼吸が出来るようになった気がした。
きっとこの後、話はあっという間に広まり、報道各社が押しかけることになるだろう。
事務所にしたって、ごく限られた一部の人しか知らなかったのだから、
驚きつつも外の対応に大わらわだろうし、インターネットでも瞬時に世界中に話が広まり、
色々な人からバッシングも大いにされるだろう。
しかしそれはいつ発表したところで、どのみち同じ反応だ。
だったらもっと早くに、とっとと発表すれば良かった!と健人は少し後悔した。
なーんだ!こんなに簡単なことだったんだ!と。
当麻と違い、慎重すぎる性格がずっと雪見に苦しい思いをさせてたかと思うと、
申し訳なくて「今までごめんねっ!」と早く謝りたかった。
これで堂々と外でデートも出来るし、彼氏彼女は居ません!と言う偽りの
後ろめたさからも解放される。
離れていくファンがいたとしてもそれは致し方ないし、それでも応援してくれるファンこそ
大事にしようと二人は思う。
とにかくとにかく、あースッキリしたぁ!と言う感じ。
あとは順番にひとつひとつ対処していけばいい。そう思っていた。
安堵感と開放感に包まれた二人は、早く部屋に戻ってのんびりしたかった。
際限なく繰り出される質問を遮って、健人が終了を宣言する。
「あのー詳しい話は事務所にしておくんで、あとは事務所を通してお願いします!
これからファンに向けて、ブログも書かなきゃならないし…。
みなさんもこの後、忙しいでしょ?
今日はわざわざ来てくださって、ありがとうございましたっ!失礼しまーす!」
健人が雪見の手を引いて、その場を立ち去ろうとした時だった。
雪見が突然クルッと後ろを振り返り、記者達に向かって初めて口を開いた。
「あのっ!私が健人くんの人生の、専属マネージャーになるだけですからっ!
斎藤健人はこの先もずっと、斎藤健人のままです!
絶対凄い俳優に進化し続けるんで、楽しみにしてて下さい!」
そう大きな声で言った後、丁寧に頭を下げてニコッと健人に微笑み、
「行こっ!」とまた手をつないで歩き出した。
健人の胸が熱くなる。
「ありがと!いい締めの挨拶だったよ。」
本当はすぐにも雪見を抱き締めたかったが、まだみんなが後ろで見てる。
マンションのエレベーターに乗り込んだ途端、二人は熱いキスを交わした。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.409 )
- 日時: 2012/03/25 15:16
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「よしゃ!まずは事務所に連絡しなきゃね。
今野さん、ビックリすんだろうな。さっき別れたばっかだもん。」
玄関を上がった途端、めめとラッキーがゴロゴロ擦り寄って来た。
しゃがみ込んだ健人が、その頭を一匹づつゆっくりとなで回しながら、
手のひら全体で柔らかな感触を楽しんでいる。
雪見にはそれが、心を落ち着かせるための健人の儀式である事がよく判った。
なぜなら、自分も同じような場面で同じ事をするから。
「おしっ!電話するかっ!」
心の準備が整ったらしく、スクッと立ち上がった健人がケータイを取り出した。
が、それを阻止するように、その背中に雪見がふわっと抱き付いた。
「ねぇ…。本当にこれで良かった?後悔してない?」
背中にぺたっと顔をくっつけて、雪見がつぶやくように健人に聞く。
「ゆき姉は…後悔してんの?」
「ぜんぜん!すっごい嬉しかったよ。健人くんは?」
「俺は…もっと早くに言えば良かったって後悔してる。
今までゆき姉に、ずっとつらい思いさせてきたよなって。ほんっとゴメン…。
もしかしたら…またつらい思いさせちゃうかもしんないな…。
けど俺、絶対ゆき姉を守るから。だからちょっとだけ我慢してね。」
そう言いながら健人は、後ろにいる雪見を胸に抱き寄せ、優しいキスをした。
「大丈夫。私のことなら心配しないで。
これから一番大変なのは健人くんなんだから。私は健人くんの方が心配…。」
健人の胸の中で雪見は、浮かれ気分が落ち着いて現実を見つめてた。
「平気だよ。俺はゆき姉さえそばにいてくれたら、なんだって乗り越えられる。
っつーか、今ならなんだって出来ちゃう気分!そーいう子でしょ?俺って。」
健人が、ニコッと笑って雪見に聞いた。
「思い出したっ!昔、ちぃばあちゃんに戦隊ものの変身グッズ買ってもらった時、
成り切って健人くん、滑り台から飛び降りておばさんに叱られてた!」
「なんで今、そんなこと思い出しちゃったの?いつの話だよっ!」
二人で声を上げて笑ったら、幸せで胸がいっぱいになり涙が滲んだ。
私には、私だけしか知らない健人くんの思い出がたくさんある。
誰にも絶対負けない、健人くんへの強い愛もある。
だから私は大丈夫!どんな目にあっても、必ず笑顔であなたを支えてみせる!
そんな決意も揺らぐほどに大変な毎日が待ってるとは、まだこの時は
想像もつかなかった…。
「な、なにぃ!?交際宣言しただとぉぉぉ!?」
小野寺常務は電話の向こうでそう叫んだあと、なぜか黙りこくった。
健人は、小野寺が受話器を握り締めたまま気でも失ったかと、一瞬焦りまくる。
「常務!申し訳ありませんっ!常務っ!」
「……何回も呼ぶな!聞こえとるわっ!
いいか、よーく聞け!お前、自分が何をしたのか判ってんだよな?」
「もちろん判ってます!事務所にも凄い迷惑かけたと思ってます!
けど俺にとって、今一番大事な事だと思ったから、自分の判断で行動しました!
ゆき姉は悪くありません!」
「そんな事、判ってる!すべてはお前の自己責任だ!
だが…お前達の事を知ってたにも関わらず、マスコミからガードしきれなかったのは
事務所にも責任がある。
だから、ここからのマスコミ対応はすべて事務所で処理するからな!
何をどう記者に話したのか、一つ残らず教えろ!」
小野寺は、口調こそきつく早口でまくし立てたが、最後にこう付け加えた。
「お前達は…うちの事務所の大事な宝なんだよ。
そんな宝石を、マスコミごときに傷付けられちゃたまらんからな。」
その言葉に、健人は心から感謝して電話を切った。
それから三日間、毎日ドキドキして過ごしたが何事も起こらず、とうとう四日目の朝。
例の週刊誌が特大スクープとして、ドーンと二人の写真と記事をぶちまけた。
それからの騒ぎときたら、健人と雪見の想像の範疇を遙かに超えていた。
マンション周りは勿論の事、行く先々で大勢の記者にあっという間に囲まれ、
マイクを向けられてはフラッシュを浴びる。
だが二人は事務所の指示で一切口を開かず、世間に向けてのコメントは
唯一お互いのブログでのみ発表することに。
事務所サイドからも、二人を温かく見守ってやって下さい、とのコメントを発表した。
地上での騒ぎもさることながら、インターネット上も二人に関する話題で埋め尽くされた。
あちこちで膨大な数の書き込みがされ、騒ぎは日本中をも揺るがした。
予想通り二人の交際宣言には賛否両論あり、おめでとうの声が多数とはいえ
嫌いになった!最悪!などと手厳しい感想も多くある。
だが、これほどまでに騒がれるのは、それだけ健人が老若男女を問わず人気者であり、
雪見も今まさに話題の人だと言う証拠だから、と今野が二人を慰めた。
そして今日中にファンに向けてのメッセージを、ブログにアップするよう言い渡される。
その日の夜。
健人も雪見もパソコン前で、ずっと悩みに悩んでる。
どう書けばみんなに伝わるのか、ここ何日もいろんな言葉を探してた。
だが、きっとどの言葉も舌足らずで、すべてを伝えきれる言葉の組み合わせなんて
見つからないに決まってた。
雪見がため息をついたあと、「よしっ!」と言って健人を振り向いた。
「これ以上考えても、これしか思い付かないや。もう決めたから、健人くんも決めて!
せーのーで同時にアップしよう!」
「そだねっ。今日一日で全部伝えようと思わないで、明日もあさっても、
わかってもらえるまで毎日伝えればいいんだ!」
顔を見合わせ、やっと二人とも笑顔になった。
いつも応援して下さってる皆様へ
『未来は誰にもわからないけど ひとつ確かに言えるのは
君のとなりに 僕がいること
緑の風に二人でふかれて 今より遠くへ飛んで行けたら
きっとつないだ手の中に 夢のかけらが入っているはず』
この詞を書いた時、私はすべての思いを込めました。
大切な人への思い。未来への希望。自分を奮い立たせる勇気。
そして今、それらが現実に向かって動き始めたのです。
自分でも信じられないことに…。
来月、夢のかけらを拾いにニューヨークへ行って来ます。
大切な人の夢のかけら。私も一緒に拾って彼に手渡そうと思います。
大切な大切な彼、斎藤健人のために…。
『YUKIMI&』浅香雪見
ファンのみんなへ
あのですね、このたびはお騒がせしてます!
ごめんなさい!ビックリさせて。
けどね、嘘みたいなホントの話なのです。
夢みたいです。けど夢じゃ困るのです。
中には夢であってくれぇ〜!と願う人もいるかもしんないけど
僕は夢だったら困るのです。
だから、そーっとそーっと寝かしといてね。
眠りから覚めた僕は、きっとパワーアップしてるはず。
あれ?なんか矛盾してる?ま、いいや。
てことで、斎藤健人と浅香雪見をこれからもよろしくっ!
by 斎藤健人
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.410 )
- 日時: 2012/03/29 06:08
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
3月4日金曜日、午後11時40分。
二人同時にアップされた健人と雪見のブログは、その日の週刊誌と共に
週末の夜を大いに騒がせた。
街で酔って盛り上がってる若者達も、夜勤のナースステーションでも、
可哀想な事に、最後の追い込みをしてる受験生までもが、健人と雪見の
話題一色の夜を過ごしていた。
週刊誌のスクープは『斎藤健人&浅香雪見 堂々交際宣言!』と見出しが付き
二人が見つめ合い、幸せそうに微笑んでる写真が大写しになっている。
記事には「二人は浅香のマンションで、すでに同棲中。」であるとか
「ニューヨークで挙式の可能性も?」だとか「浅香は現在妊娠しておらず…。」
など、健人が実際話した内容と記者側の憶測記事とが、ごちゃまぜに並んで掲載されていた。
一方、二人が初めて公式に出したメッセージでもあるブログも、はっきり書いてあるのは
来月ニューヨークへ行くと言うことぐらいで、健人のブログに至っては
いつもの如く、抽象的な表現だけに留まっている。
その可愛い言い回しが健人ブログの人気のひとつなのだが、考えようによっては
どうにでも解釈出来るわけで、健人ファンたちはインターネット上で、
早くも色んな論争を繰り広げていた。
『二人が付き合ってるのはショックだが、どこにも結婚するとは書いてない!』
『少しの辛抱!今に夢から覚める時が来る!』
『他の変な奴よりはゆき姉の方がまだましだけど、はとこ同士ってのはどうよ?』
『健人がそんな年上好きだったとは!そっちの方がショック!』
『みんな!少しは健人を祝福してあげようよ!いっぱい悩んで発表した事なんだから。』
他に大事件が起こらなかったせいで、このニュースで埋め尽くされた週末だった。
それから一週間。
健人ら一行は全国ツアー四ヶ所目の地、福岡空港へと降り立った。
早朝便にも関わらず、健人と雪見が交際宣言後、初めてツーショットで現れるとあって、
到着ロビーには大勢の報道陣やファンが押しかけ、身動きが取れぬほどに混雑してる。
ここまでの騒ぎになってるとはと、みんなの顔に緊張が走った。
「いいか!三人のガードをしっかり頼むぞ!」「はいっ!」
当初今野は、健人と雪見を大きく離して歩かせるようスタッフに指示した。
だが、あまりに殺気だったロビーの様子に、身の危険を感じた雪見が怯えてる。
それを見たすっぴんに黒縁眼鏡の健人が、頭を下げて頼み込んだ。
「今野さん。俺にゆき姉を守らせて下さい。お願いします!」
二人でファンの前に現れた時の騒ぎを想像すると、今野は躊躇していたが
雪見の安全を守るにはその方がいいのではないか、と当麻が意見したことで
今野はそれを了承した。
健人が隣りにいる事で、誰も雪見に手出しは出来ないだろう、と。
「よしっ、行くぞっ!当麻の周りもしっかりガードしとけ!」
大勢のスタッフに囲まれた当麻が先に出ると、悲鳴にも似た歓声が上がり、
当麻はそれに笑顔で答えた。
次は健人と雪見の番。初めてのツーショットお披露目である。
離れないよう、健人が雪見の手を力強く握り笑顔を見せる。
「大丈夫だよ!俺が守ってんだから。最強のボディガードだろっ?」
「うん!ギャラが高そうなボディガードだけどねっ!」
やっと雪見も笑顔を見せる。
健人の手の温もりと眼鏡の奥の優しい瞳が、何よりも確かな安心を与えてくれた。
二人が一歩報道陣の前に姿を現すと、辺りが真っ白になるほどのフラッシュがたかれ、
ファンの悲鳴と黄色い歓声が耳をつんざく。
雪見はヤジも覚悟していたが、みんなから掛けられた言葉は思いがけず
「おめでとう!」の嵐だった。
「けんとーっ!ゆきねぇーっ!おめでとーっ!!」
「ゆき姉、健人くんをよろしくねーっ!」
「ずっと応援してるからー!!」
「ライブ、頑張ってーっ!」
祝福の言葉のシャワーを浴びながら、健人は大歓声にかき消されないよう
雪見の耳元で大声を出す。
「なんか結婚式みたいじゃね?」「ほんとだねっ!」
にっこり笑って一瞬見つめ合った二人に、一斉にフラッシュがたかれる。
報道各社はその幸せそうな笑顔を、次の誌面のトップに据えた。
そして午後五時。いよいよ開演の時がやって来た!
二千人以上を抱えたそのホールは、明らかにそれまでの三会場とは空気が違い、
雪見も健人も今までで一番緊張してる。
「大丈夫だって!みんな祝福してくれたじゃん!
今まで通りにやればいいんだよ。二人は何一つ、変わっちゃいないんだから。」
当麻が笑いながら、健人と雪見の肩をポンポンと叩いた。
「そっか…。そうだよねっ。
俺たちって、交際宣言したからって、どこも変わっちゃいないよね…。
名古屋のライブん時と俺、なんか変化してる?」
健人が真顔で雪見に聞いてみる。
「うーん、花粉症が悪化してるくらい?なんかね、今日は顔がクシャクシャしてるっ!」
そう言いながら、雪見がクスクス笑った。
「そう!かーなーりっヤバイ!…って、そんな変化かー!!」
三人で大笑いしたら、緊張なんてどこかへ飛んでった。
健人は、いつも絶妙な切り返しで自分を笑わせてくれる雪見が、大好きだと思った。
「よっしゃ!じゃあ今日も派手に、ぶちかまして来ますかぁ!」
健人と当麻がハイタッチしてから、ステージにぴょんと飛び出して行く。
『SPECIAL JUNCTION』の登場に会場中が絶叫し、デビュー曲「キ・ズ・ナ」の
イントロを合図に、福岡公演が幕を開けた。
当麻のバラードあり、健人の得意なブレイクダンスあり、二人のデュオありの
バラエティーにとんだ四曲を歌い終わり、とうとう雪見の出番がやって来る。
健人の事はなんとか笑わせて送り出せたのに、雪見自身は怖くて足がすくんでた。
空港でかけられた祝福の言葉が、本物かどうかわからない…。
そんな雪見の背中を今野がポンと叩く。
「ほら、そんな顔してたら健人が可哀想だろ。
あいつ、いつも以上にファンサービスして、お前の事も受け入れてもらえるよう、
盛り上げてくれてるじゃないか!当麻だってそうだよ。
お前はいつでも笑ってなきゃダメだ。
健人にとってお前は、いつでも太陽でいなきゃだめなんだよ!」
健人を輝かせる太陽…?この私が…?
そう…それが斎藤健人と生涯を共にする者に与えられた、使命かも知れない。
日本中のファンが、斎藤健人の更なる輝きを待っている。
それを託されたのが…私なんだ!
今野の言葉が雪見を目覚めさせた。
「はいっ!私、健人くんを輝かせるために行って来ます!」
颯爽とステージに登場した雪見は、健人たちに負けないほどの大歓声を浴び、
笑顔がキラキラと太陽のように輝いてる。
それを眩しそうに見つめる健人も、太陽からのエネルギーを吸収し、
今まで以上に輝きを増すのだった。
交際宣言後初のライブは、こうしてどこの会場よりも熱く盛り上がり、
大成功を収めて幕を閉じた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.411 )
- 日時: 2012/03/30 11:32
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「あー、お休みが欲しーよー!
健人くんのプレゼントが買いに行けなーいっ!!」
進藤に髪をセットしてもらいながら、雪見が鏡の前で嘆いてる。
一週間後の3月21日は、健人の22歳の誕生日。
なのに雪見は殺人的スケジュールのお陰で、プレゼントを買いに行くどころか
食材さえも買い出しする暇がない。
25、26日とツアー最後の東京公演があり、そのリハーサルや準備に
追われてるせいもあるが、健人との交際宣言後一気に大ブレイクしてしまい、
あと半月で引退だと言うのに、駆け込み需要の仕事が押し寄せていた。
今から行われる『ヴィーナス』のグラビア撮影もそのひとつ。
引退前に発売されるグラビアは、各誌共すでに撮り終えていたのだが、
大ブレイクした雪見をどうしてもあと一度だけ載せたいと、吉川編集長が
娘の真由子を動員してまでの泣き落とし作戦に出て、雪見の特別グラビアと
ロングインタビューの掲載が決定したのだった。
これは、ツアースポンサーである『ヴィーナス』だからこそ、OKをもらえた企画で、
他誌からの依頼を事務所はすべて断っていた。
「でもさ、なんか恥ずかしいな。
だってこれが発売される頃には私、ただのカメラマンに戻ってんだよ?
きったない格好で猫追っかけてたりとか…。
そんな頃にこんな綺麗な衣装とヘアメイクの私が出るのって、めっちゃ恥ずかしいっ!」
雪見が今更そんなことを言う。
「ダメだよ、雪見ちゃん。これからはずっと綺麗な格好してないと!
だって日本中の人が雪見ちゃんのこと、斎藤健人の彼女だ!って認識しちゃったんだから。
芸能界を引退しても、まったく元の猫カメラマンに戻れる訳じゃない。
これからは、イケメン俳優斎藤健人の彼女であり、フリーカメラマンの
浅香雪見にならなくっちゃ!」
進藤が雪見をたしなめる。
「そうそう!間違ってもボサボサ髪にヨレヨレのスウェットなんかで、
近所のコンビニとか行ってないでしょうねっ!」
スタイリストの牧田までもが念を押した。
「ヨレヨレのスウェットはないけど、ボサボサの髪と眼鏡は…ちょっとある。ダメだった?」
「だーめっ!!」
牧田と進藤のダブルパンチで叱られた。
準備が出来て、雪見が照れながらスタジオのドアを押し開ける。
「おはようございまーす!って、なんか恥ずかしいなぁー。
こないだの撮影が最後だと思ったから、さんざん別れを惜しんで帰ったのに。
嫁に行ってすぐ出戻ってきた感じ?」
「おいおいっ!縁起でもないこと言うなよっ!
俺らは大歓迎なんだから、いつも通りにやろうぜっ!」
カメラマンの阿部が、巨体を揺すりながらガハハッ!と笑う。
いつ来ても家族のように迎えてくれて、リラックスして仕事が出来る
この現場が大好きだと雪見は思った。
「じゃ始めるよー!」
阿部の声を合図に撮影がスタートする。
雪見はもうプロのモデルそのものだった。
カメラの前に立てばプロのモデル、自分がカメラを握ればプロのカメラマン。
そしてステージに立てばプロのアーティストになるのだから、誰もが
その才能を封印して引退する事を惜しんだ。
「くどいようだけどさ、本当に辞めちゃうのかな?雪見ちゃん…。
どう考えても、もったいないよね。」
スタジオの後ろで撮影を見守ってる牧田が、隣りの進藤にぼそっとつぶやいた。
「仕方ないですって!彼女、一度決めた事は貫きますよ。
それにこれからは、健人くんのサポートが一番の仕事になるんだし…。
あの幸せそうな顔!この前の撮影とはまったく違う顔してる。」
「ほんとだねっ!なんか堂々としてるって言うか、自信に満ち溢れてる!
彼女としてお披露目されたからには、健人くんのために綺麗に撮られなくちゃ!
って感じだね、きっと。」
見ているスタッフ誰もが、同じ思いを抱いていた。
それからも撮影は順調に進み、グラビア撮影は夕方無事終了。
次は場所を高級ホテルの最上階スィートルームに移し、初のロングインタビューに挑む。
スタッフ全員、道具を車に積み込み移動する。
「うわぁーっ!すっごい部屋ぁ!見て見てっ!絶対夜景が綺麗だよ、ここっ!
こんなとこで仕事なら、毎日でもいいや!『ヴィーナス』って太っ腹っ!」
部屋のドアを開けた途端、目に飛び込んできた地上53階からの景色は、
すでに沈み掛けてる太陽が、最後の力で東京の街全体を柔らかく抱きかかえ、
完璧な夜景にバトンタッチするまでの、時間稼ぎをしているようだった。
そんな絶景を、雪見は子供のようにはしゃぎながら眺めてる。
「さっきまで、お休みが欲しいよーっ!って叫んでたのは、どこの誰だっけ?」
進藤と牧田が、腕組みしながら笑ってた。
「よーし!陽が沈まないうちに急ごう!」
雪見が大至急衣装を着替え、まずはこの絶妙な色加減の東京をバックに
阿部がシャッターを切る。
続いて、雪見がカメラを構えて窓の外を写してるシーンを、阿部が再び横から狙った。
「ほんっと、綺麗…。」
雪見は自分が被写体であることも忘れ、夢中でカメラのシャッターを切り続ける。
カメラを手にすると、際限なく幸せな気持ちが溢れ出すのだった。
「OK!あとはインタビュー中のショットをもらうから。
しっかしさ、雪見ちゃんはカメラ持つと豹変するよね。
来月からはガチで俺のライバルだしな。やっべぇ!仕事持ってかれるかも!」
阿部が冗談とも本気ともつかぬ顔で牧田を見る。
「そうね!撮られる方だって、こんなヒゲ面でお腹の出たオッサンより、
綺麗なお姉さんに写される方が、嬉しいに決まってるもんねー!」
牧田と進藤が大笑いしながら、次の仕事のスタンバイをした。
インタビュー用の衣装に着替え、雪見が身を縮めるようにして出て来る。
オフホワイトのサテン生地で出来た膝丈ドレス。
半袖のパフスリーブで、胸の前にはピンク色の濃淡二本の大きなリボンが結ばれている。
まるでプレゼントの入った箱のように。
「なんか、可愛いけど恥ずかしいなぁ、この大きいリボン!
こんなドレスでインタビュー受けるの?ライターさんに笑われない?」
雪見が自分を鏡に映しながら、うーん!と唸った。
「大丈夫、大丈夫!雪見ちゃんの特別企画だから、ライターさんにも
ちゃんと正装して来てもらってるし。
あ!言い忘れたけど、そのための高級ホテルなんだよ!
編集長が、無理言って頼んだ仕事だから、これくらいの特別企画にしないと、って。」
「えーっ!そうだったの?気を使わなくても良かったのに!後でお礼のメールしとこっ。」
「じゃあ、インタビューは隣りの部屋でねっ!ちゃんとお酒も用意してあるから。」
みんなで隣の部屋へと移動を開始する。
「良かったぁ!初めてのロングインタビューだから、めっちゃ緊張して話せないかも
って思ってたんだ!嬉しいっ!」
お酒を飲みながらと聞いて、一気に雪見のテンションは上がったようだ。
カードキーでドアを解錠し、牧田を先頭に隣のスィートルームにガヤガヤと入ると…。
「えっ…?健人くん…?」
「うそっ!?ゆき姉!?」
隣りの部屋で待っていたのは、タキシード服姿の健人であった!
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