コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.122 )
- 日時: 2011/04/25 05:31
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
夕日が海に潜り、ジュッと音が聞こえそうな瞬間を見届けて
石垣島一日目の撮影がすべて終了した。
スタッフ一同お互いに「お疲れ様!」と労をねぎらう。
健人と当麻、雪見の三人も真っ先に、今日のカメラマンである愛穂に
向かって「お疲れ様でした!ありがとうございます!」と頭を下げ、
『ヴィーナス』初仕事の無事完了を祝うように、拍手をした。
仕事中は強気で押し通した愛穂も、撮影が終了すると同時にホッとした
表情を見せ、26歳らしい一人の女性に戻っていた。
愛穂が三人の元に歩み寄る。
「絶対にいい写真が撮れてる自信があるから、楽しみにしててねっ!
それと雪見さん。撮影中はごめんなさい、生意気な事ばかり言って。
先輩に対して取るべき態度じゃないことは、わかっていました。
でも私、撮影中はああやって自分も追い込まないと、うまく撮れないんです。
米国じゃ、自分に負けた者は去って行くしかないですから…。」
そう言った愛穂が、かすかに作り笑いをしたのが雪見にはわかった。
それは、自分で自分のことを笑ったかのようにも見えた。
雪見は愛穂のそんな表情が、いつまでも心に引っかかる。
「ねぇ、愛穂さん!今日は私もとても勉強させてもらったわ。
たまには撮られてみるのも、良いものねっ!
反対側に立ってみて、初めて気づくこともたくさんあった。
ホテルの部屋一緒だって言ってたから、あとで色んなお話聞かせてね。
あ!愛穂さんはお酒飲める人?」
「え?あぁ、あんまり強くはないですけど、お酒は好きです。」
「そう、良かった!私ね、お酒は人と人とを結ぶものって思ってるの。
じゃあ今晩は愛穂さんと、もっと親しくなれそうねっ!楽しみ!」
雪見が嬉しそうにそう言うと、横から健人と当麻が口を出した。
「愛穂さん!ゆき姉には気をつけた方がいいですよ。
この人、かなーり飲みますから!」
「そうそう!俺たちも今までどんだけ飲まされたことか!
俺なんて、ゆき姉と知り合ってから確実に二日酔い率上がったもん。」
「ちょっと、当麻くん!私がいつ無理矢理飲ませたって言うのよ!
人聞きの悪い。あんた達の修行が足りないだけでしょ!」
そばで愛穂がクスクスと笑ってる。
「本当に三人とも、仲がいいんですね!
ファインダー覗いてても、それは凄くよくわかったけど。
いったい三人って、どういう関係なんですか?」
愛穂に質問され、健人たちは顔を見合わせた。本当のことは話せない。
「あぁ、私たち?私と健人くんが、おばあちゃん同士が姉妹の
はとこっていう関係で、健人くんと当麻くんは同じ事務所で親友同士。
どういう訳かつい最近、私まで同じ事務所に入っちゃったから
二人は私の先輩でもあるの。」
それが公式に発表されてる三人の関係だ。
愛穂とは、どこか似た性格を感じ仲良くできそうな気がしたが、
やっぱり本当のことは話せない。
どうしてもあなたは、霧島可恋の姉だから…。
バスに乗り、三十分程で今回の旅の宿に着く。
そこは石垣島随一の景勝地、川平湾を望む全8室オーシャンビューの
プチリゾートホテルで、吉川編集長の知人が支配人を務めていた。
その支配人自らが健人たち一行を出迎える。
「ようこそ!お待ちしておりました。吉川さんにはいつもお世話に
なっております。本日は全館貸し切りとさせていただきましたので、
どうぞごゆっくりとおくつろぎ下さいませ!」
全8室のホテルと言うから、随分と小さな所を想像していたが、
案内された館内に一歩入って驚いた!ロビーの広くて開放的なこと!
広いラウンジの正面は、一面の大きなガラス張りになっており
日中はそこが一枚の絵のように、窓の外に青い海と白い砂浜が広がって
いると言う。
館内はベージュを基調に、アジアンテイストのインテリアでまとめられ
その空間一つ一つがとてもゆったりとした造りになっていた。
それぞれ部屋の鍵を受け取り、まずは一息つくことに。
進藤、牧田のペアと雪見、愛穂のペアはデラックスツインの部屋で、
その他の男性陣は各一人ずつ、シングルとツインの部屋が
藤原によって割り振られた。
雪見が愛穂と共に部屋に入る。二人同時に歓声を上げた。
「うわぁーっ!こんなに広い部屋、私たちが使っていいの?
すっごいおしゃれなインテリア!アジアのリゾートだね、完璧に!」
雪見のテンションが相当高い。
愛穂もニコニコと嬉しそうだ。
「連れてきてもらって良かったぁー!私、沖縄は初めてなんです。
雪見さんは?」
「私?私は沖縄が日本で一番好きな場所だから、一年に一度は来るよ。
最後に来たのは去年の十月から今年の四月までかな?半年間いた。」
「え?ええーっ!半年間も?何やってたんですか?」
「あ、話してなかったっけ?私、普段は猫だけを撮して歩くカメラマン
なの。だから一年の半分くらいは放浪の旅に出てるかな?」
愛穂のびっくりした顔!そんなカメラマンがさっきの撮影で、あんなに
凄いオーラを見せたの?今はちっとも何も感じないのに…。
「知りませんでした!雪見さんが動物写真家だなんて。」
「動物写真家じゃないよ!猫カメラマン!」
雪見が、ふかふかなソファーにすとんと腰を下ろしながら笑う。
愛穂は雪見を、初めて出会った人種のように好奇心を持って見た。
「雪見さんの話をいっぱい聞きたい!今日はたくさんお話しましょうねっ!」
「いいわよ!お酒を飲みながらじっくりとね。
じゃ、そろそろ下に降りてレストランに行こうか。食事の時間だよ!
もう、お腹がぺっこぺこ!」
そう言いながら、二人揃って一階にあるレストランへ行くと
みんなはもう席に着いていた。
「遅いよ、ゆき姉!俺、腹減って死にそうなんだから!
喉もカラカラ。早く乾杯しよう!」 健人が雪見を急かす。
「ごめんごめん!皆さんもお待たせしました。」雪見と愛穂が急いで席に着く。
「じゃあ全員揃ったようなので、これから沖縄ロケ一日目の反省会を
したいと思います。なーんて、堅苦しいことは抜きにして、今日は
思いっきり食べて飲んで、お互いの親睦をはかりましょう!
吉川編集長からも、先ほどワインの差し入れが届きました。
みんなで感謝して飲もうではありませんか!では、カンパーイ!!」
阿部の音頭で、今夜の楽しい宴がスタートした。
みんなが笑顔の食事会は、お酒もどんどん進んでいく。
ここにいる誰もが幸せな時間を満喫していた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.123 )
- 日時: 2011/04/25 13:36
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
ホテルの中には、健人たち一行の他は従業員しかいない。
それのいかに快適なことか!
健人や当麻は、いつもはロケに行ってホテルで食事をしても、
必ず大勢の人に取り囲まれてしまい、食事を味わうどころか
周りのお客さんから白い目で見られることさえある。
ところが今日はホテル丸ごと貸し切りなので、誰の目を気にすることもなく
食事やおしゃべりを楽しむことができた。
健人たちに配慮してくれた吉川編集長には、心から感謝だ。
そんな旅先の開放感と、身内だけしかいないという安心感も手伝って
みんなの酒のピッチはかなり速い。
「いやぁー、命の洗濯って感じだな!
こういうロケ、これからもちょいちょいやりたいね!」
日焼けのせいなのか酒のせいなのか、すでに顔が真っ赤の今野が
そう言うと、すかさずお調子者の健人が得意顔で言い返した。
「でしょー?今回は俺のお陰だから、今野さん俺に感謝してねー!
だって記者会見で、当麻と旅行行った!って話さなかったら
無かったでしょ、このロケは。」
「バカ野郎!おめぇのお陰でうちの事務所も吉川さんとこも、
みんなが慌てて調整にかかったんだぞぉ!
たまたまこの三日間だけ、奇跡的に当麻とお前のスケジュールが
なんとかなりそうだったから良かったものの、次のドラマが始まる時期
なら完全アウトだよ!っとにもう、みんなに迷惑かけやがって!」
お酒が入ってることもあって、今野の口調はかなりきつかった。
健人も調子に乗って今まで何度同じ事を言って、何度叱られた事か!
まったく懲りない男だ。
「まぁまぁ!今野さん今野さん!今回は俺たちも健人のお陰で
楽しませてもらってるから、許してやりましょうよ。
それよりまた明日からのために、エネルギーを補給しとかないと!
さ、飲んで飲んで!」
今野の隣りに座る大酒飲みの阿部が、今野のワイングラスに
吉川の差し入れワインをなみなみと注いだ。
「ちょっと阿部ちゃん!ダメだよ、阿部ちゃんのペースで飲ませちゃ!
今野さん!阿部ちゃんに合わせてたら、すぐ潰れちゃいますからね。
気をつけて下さいよ!」
進藤が心配そうに今野を気遣う。
叱られた張本人の健人はと言うと、すでにどこ吹く風といった様子で
向かい合わせに座った雪見や愛穂、隣りに座る当麻に猫自慢をしてた。
「昨日の夜拾った子猫、めっちゃ可愛いんだよ、真っ白で小さくて。」
「えーっ!昨日拾ったばかりなのに、家に一匹で留守番させて
来ちゃったんですかぁ?可哀想に。」 愛穂が顔をしかめて言う。
「違うよ、ゆき姉んちに吉川さんの娘さんが来てくれて面倒見てくれるんだ。
朝早くに見に行ったけど、元気になってて安心したよ!
この人の髪がボサボサだったのが笑えたけど!」
「なによ!健人くんがあんな朝っぱらから、いきなり来るからでしょ!
しかも、見てなかった振りしてちゃんと見てるしぃ!」
雪見は今朝の自分を思い出し、恥ずかしかった。
健人と雪見の楽しそうなやり取りを、お酒を飲みながら当麻は黙って
聞いている。ほんの少し、寂しげな笑顔を浮かべて。
今日一日当麻を観察してきた愛穂には、その寂しげな横顔の理由が
何となくわかってしまった。
きっとこの人は、雪見さんに片思いしてるんだ。
雪見さんは気づいてないのかなぁ…。
そんな愛穂は、自分が少しずつ健人に興味を持ち始めてることに
薄々気が付いていた。
健人も当麻も、撮影中は女子のハートを鷲づかみするような視線を
カメラに向かってガンガン投げかける。
最初のうちは、この二人の人気って、屈託のない笑顔と目力にあるんだ
と思ってファインダーを覗いていたが、段々と健人の視線にドキドキ
する自分がいた。
そうわかると、黙ってはいられない性分の愛穂だった。
恋は積極的に攻めるのが信条で、言葉に出さなきゃ何事も伝わらない!
が座右の銘である。
お酒の勢いも借りて、いきなりの健人アタックが始まった。
「ねぇ、健人くんって、誰か付き合ってる人いるの?彼女は?
私みたいな年上の女って、どう思う?」
急に健人たち三人の、場の空気が変った。
雪見は結構飲んではいたが、愛穂の言葉に一気に酔いが醒め、
胸がドキドキと鼓動が激しくなった。
健人が何と答えるのか、当麻も雪見も注目する。
一瞬の静けさ…。
健人はあんなに酔っていたはずなのに、今はすっきりした顔をしてる。
そしてテーブルの上にほおづえを付き、少し愛穂の方に身を乗り出して
「いるよ、彼女。」と目を見て伝えた。
雪見のドキドキは、アルコールのせいでかなりスピードを上げている。
健人は、愛穂から視線をそらさずに、その隣りに座る雪見を視界の中に
入れながら話を続ける。
「彼女はいる。年上の人だけど、別に年上が好きだって訳でもない。
上か下かは関係なくて、その人そのものが好きなんだ。」
「そうなの…。で、どんな人?健人くんを射止めたラッキーな人は。」
愛穂が少し苦笑いをする。
健人は、少しも雪見には目を合わせず、微笑みながらはっきりと言った。
「綺麗で可愛くて、料理が抜群に美味くて家庭的で。
泣かせるような感動的な歌が歌えて、生きてる全ての者に優しくて。
なにより俺の事を全力で守ってくれようとする人。
たぶん、その人以上に俺が好きになる人は、もう現れないと思う。」
聞いていて、雪見は胸が熱くなった。
当麻は、胸が痛くなった…。
「そんな完璧な人、いるわけないじゃない!」
愛穂の大声に、進藤と牧田も気が付き耳をそばだてる。
健人はにっこりと笑って愛穂に告げた。
「ぜんぜん完璧なんかじゃないよ!すぐ怒るし泣くしわがままも言う。
そばかすも目尻のシワもいっぱいあるし、運転すると人が変って暴走するし。
人にお酒をガンガン飲ませて潰すのに、自分は平然としてる。
だけどね、ぜーんぶ引っくるめての彼女が好きなんだからしょうがない。」
「私の割り込む隙間はない、ってこと?」
「ないよ…。」
「そう。わかった。」
最後に愛穂の瞳が、キッと健人をにらんだかのように見えたのが
当麻には気にかかった。
雪見は隣りにいる愛穂を見ることができず、ただ健人を見つめる。
別の敵がすぐ隣りに生まれてしまったことにも気づかずに…。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.124 )
- 日時: 2011/04/26 10:57
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
石垣島二日目の朝。
部屋のカーテンを開けると目に飛び込む、窓の外一面に広がる青い海と
それにつながる青空に白い砂。
その沖縄らしい晴天の朝に感動する健人たち一行…のはずだったが、
進藤と牧田、愛穂と当麻のマネージャーの四人を除いては
感動する胸ではなく、ムカムカする胸を抱えている。
前夜、宴の途中で支配人から差し入れられた泡盛を、うまいうまい!と
調子に乗って飲んでた六人が、二日酔いの洗礼を受けていた。
まぁ、泡盛には何の罪もない。
大量のオリオンビールから始まって、吉川差し入れの赤と白のワインを
八本、その後の泡盛一升なのだから当然と言えば当然の結果である。
二日酔いを免れた四人は、何のことはないお酒のあまり飲めない四人だ。
結論として、お酒は程ほどに飲むのが丁度良い!と言う事。
「やばいよ…。これでフェリーに乗るの?どうなると思う?」
まったく朝食など食べる状況にはないが、今日一日のスケジュール確認のため、
とぼとぼと集まったレストランで健人が当麻に聞いた。
「沖縄の綺麗な海を汚すだろうね、きっと…。」
その横で進藤と牧田が、美味しそうにサラダを頬張っていた。
「ちょっと、お二人さん!せっかくの朝食が不味くなるような話、
隣でするのやめてくれる?
大体なにその顔?どうやっていつものイケメンに修正すればいいのよ!
雪見ちゃんもまずいよ。目が死んでる!」
ヘアメイクの進藤が、さてどうしたものかと、仕事の手間を増やした
三人を交互に見ながら思案している。
が、今日ばかりはこの三人だけを責めるのは可哀想。
一番しっかりしていなくてはならない、マネジメント担当の藤原を始め
カメラマンの阿部、健人のマネージャー今野の三人はさらに重症だ。
今野に代り当麻のマネージャーが、みんなにスケジュールを確認する。
だが冷静に考えても、このあとすぐにフェリーに乗るのは無理に思う。
石垣島から今日の撮影地、竹富島までは高速船で十分ほど。
普段ならあっという間に着く距離だが、今日の十分間の船旅は
この六人にとって、二十四時間地獄旅行並みの辛さであろう。
「どうします?」
当麻のマネージャー豊田が、隣でうなだれる今野に聞く。
「みんなには本当に申し訳ないが、予定を変更してもらえないか?
阿部さん、どうだろう。午前中の連載の撮影は、ホテルの前の川平湾で
という訳にはいきませんか?」
今野の提案に、これまた肩で息するほど重症な阿部は、二つ返事でOKした。
「ええ、そうして下さい!ここの前の背景で充分です!
で、予定より開始時刻を二時間繰り下げましょう。
今日の天気なら、十時スタートで大丈夫です。
だからそれまで各自体調を整えて、九時半に集合と言うことで…。
午後は健人たちに好きに撮らせて、俺たちはホテルで待機と。」
全員一致で予定が変更された。
爽やかな顔をした進藤と牧田は、そのままティーラウンジに移動して
窓の外の絶景を眺めながら、モーニングコーヒーを楽しむ。
当麻のマネージャーは今野から雑事を引き継ぎ、
二日酔い六人組は速攻部屋に戻って、再びベッドへと倒れ込んだ。
愛穂は、と言うと…。
雪見をそっと寝かしてやるために、ひとり海岸線を散歩しに外へ出た。
朝七時の海辺の空気は凛と澄んでいて、身も心も浄化してくれる気がする。
なぜ私は昨夜、健人に敵意を抱いたのだろう。
一目惚れしてすぐに振られるなんてことはよくある事なのに。
朝の潮風に当たっていると、すごく冷静に物事を考えられた。
あんなにも健人が愛す年上の人って、どんな人なのか見てみたい。
雪見がその年上の人だとは、思ってもいなかった。
集合時間の午前九時半。
まだ酒は抜けきりはしないが、二時間ほど眠ったお陰で今朝よりは
みんな少しはましになった。
「よーし!ここからは私たちの出番ね!大至急、元のイケメンに
戻さなくちゃ!牧田さんも愛穂ちゃんも手伝ってね!」
そう言いながらメイクの進藤が、ホテルから借りてきたホットタオルを
三人の顔に乗せ、次々と手際よくリンパマッサージをしていく。
これでかなり顔のむくみは取れるはず。
あとはなんとかメイクでカバーするしかない。進藤の腕の見せ所だ。
撮影開始予定時間から十分遅れで、どうにか三人を元通りに見えるよう
応急措置が完了。さすが、進藤!お見事であった。
「さーてと、始めますか!じゃあ雪見ちゃん、撮影開始して!
ここからは雪見ちゃんがカメラマンだから、ご自由にどうぞ。
俺のことは気にしないで、ガンガンやってね。
俺は適当なとこから撮影開始するから。じゃ、お願いしまーす!」
阿部の大声が、頭に響く。
雪見は気合いを入れて、自分の仕事に集中した。
健人と当麻もプロ意識を発揮し、平然とした顔をして雪見のカメラの
前に立つ。
が、この撮影はどちらかというと、雪見が主役で健人達は脇役だ。
健人の写真集を撮影中の雪見にスポットを当てるという連載なので、
健人も当麻も、適当に撮られてればいいさと高をくくっていた。
その時である。雪見から二人に檄が飛んだ!
「ちょっと、二人とも!私との真剣勝負から逃げる気?
こっちは命がけで撮ってるんだから、あんた達もそれに答えなさいよ!
そんな顔で写真集に載りたいの?」
離れて見ていたスタッフが、雪見の怒声にビックリした。
一番驚いたのは、叱られた当の本人たちだが…。
なんだか阿部も、自分が怒鳴られたような気がして気を引き締める。
阿部のアシスタントとして付いていた愛穂は、雪見の中に
自分と同じような匂いを感じていた。
『この人もカメラを手にすると人格が変るんだ。
昨日モデルとして私に見せた表情とは、全くの別人みたい。
それに写すスタイルが私とは違う。まるで猫を追いかけてるみたい。』
愛穂は同じ女性カメラマンとして、とても雪見に興味が湧いた。
と同時に、この三人の関係にも何かがあるような気がしている。
愛穂は、あとで妹の可恋に、何か知っていないかメールで聞いてみようと思っていた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.125 )
- 日時: 2011/04/27 14:08
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
午前中の撮影は、阿部のテキパキとしたさすがの仕事ぶりで
一時間ほどで終わった。
テキパキというか、さっさと終わらせて早く二日酔いの身体を
休ませたかったというか…。
だが、この暑さで大汗をかいたお陰か、二日酔い六人組はみな酒が
抜けてきた様子で、段々と調子が戻ってきた。
「ふぅーっ、暑かった!早く中に入って冷たいビールを飲もう!」
今朝は肩で息するほど具合が悪かったのに、大酒飲みの大男 阿部は
性懲りもなくそんなことを言いながら、ホテルの中へと入って行った。
健人たち三人以外は、これで今回の仕事はすべて終了だ。
あとは夕食まで自由行動となる。
観光に出掛けてもよし、ショッピングしても昼寝をしてもよしだ。
夜にはまた打ち上げと称して、大宴会が繰り広げられるはずだから
それまでしばしの間、体力の回復を図るのが二日酔い組の使命だろう。
「健人くん達も気をつけて行って来てね。日焼け止めだけはこまめに
塗り直してよ!帰ってきて変に焼けてたら明日からが大変だからね。」
ヘアメイクの進藤が、これから竹富島へ撮影に出掛ける健人たち三人に忠告した。
健人は昔から野球をやってきたので日焼けには強いが、色白の当麻は
へたに焼くと肌が真っ赤になって大変な事になる。
だから日焼け止めは欠かせないのだ。
雪見だってそれは鉄則である。三十代の肌は、間違っても焼いてはいけない。
回復力が十代二十代の頃に比べると、恐ろしく遅いしあとでシミ、しわという
大きなお土産も付いてくる。
その上雪見の顔には子供の頃からそばかすがあって、一年中必死に防衛している。
が、猫写真家は一年の内ほとんどを外で仕事するので、攻防空しく年々
そばかすは増える一方。雪見の永遠の悩みであった。
健人達は一度部屋に戻りシャワーを浴びて、日焼け止めを塗り直した。
それからカメラとケータイ、財布だけを持って、念願の三人旅に
いざ、出発!
ホテルからタクシーで離島桟橋へ。
そこから高速船に乗って十分ほどで、周囲十㎞にも満たない沖縄の離島竹富島に到着だ。
健人らは、注意深くタクシーを降り高速船に乗り換える。
この時点でファンの子にでも見つかったら、小さな島に人が殺到して
プライベート旅行でもなんでも無くなってしまう。
船の中では三人バラバラになり、到着まで息を潜めた。
程なくして竹富島に上陸!
海が穏やかだったので具合も悪くならず、一安心。
さぁ、いよいよ半日間の休暇の始まりだ!
港から集落の中心までは、船の到着に合わせて停まっている
マイクロバスに乗る。まぁ、三分ほどの距離なので歩いても二十分。
時間のある時には歩いたってかまわない。
ちなみに島内には、タクシーもレンタカーも無いので悪しからず。
バスを降りてすぐの所に、雪見が定宿にしている民宿があった。
「ここ、ここ!いっつもこの島に来たらここを拠点にして仕事するの。
おじさん、いるかなぁ。あ、おじさんは健人くん達のこと、絶対に
知らないと思うから安心して!
夜は三線弾きながら泡盛飲んでばっかで、テレビ見てる姿は今まで
見たことないもん。」
「へーっ!やっぱ、そういう人もいるんだ!ゆき姉みたいだね。」
と、健人が笑いながら雪見を見る。
「なんで私みたいなのよ!私そんなに毎晩は酔っぱらってません!」
「違うよ。ゆき姉もテレビあんまり見ないから、俺のこと知らなかった
じゃん!この島にいたせいなんだ!」
「また昔の話を蒸し返す!あの時は大変失礼致しましたっ!」
入り口付近でごちゃごちゃと騒いでた声を聞きつけて、中から色黒の
おじさんが顔を出した。
「あれぇ?雪見ちゃんでないさぁ!どうしたの、突然!また撮影?」
おじさんがビックリした顔で三人を見た。
「おじさん、元気だったぁ?撮影は撮影なんだけど、今回は猫じゃ
ないんだ。モデルさんを撮しに来たの。」
いきなりモデルと紹介された二人は、取りあえずそれらしく挨拶する。
「こんちはー!」 「どうもでーす!」
「いらっしゃい!ようこそ、竹富島へ。また二人とも色男だなぁ!
雪見ちゃんが男連れで来る日が来たなんて、感無量ださぁ!」
ひょうきんなおじさんが泣きまねをした。
「だから、仕事だって!そんなことはどうでもいいや。
おじさんに頼みがあるの。カイジ浜まで乗せてってもらえないかな?」
「おぉ、いいさぁ。どうせ客なんて来ないし。」
この民宿の一階部分はレンタサイクル屋になっていた。
タクシーもレンタカーもない島では、自転車が旅行客の足代わりだ。
だが、雪見はいつもこのおじさんに撮影地まで、車で送り迎えしてもらっている。
「ゆきねぇ!せっかくなんだから自転車借りて行こうよ!
その方があっちこっち回れるし。なっ、当麻!」
「そうだよ。もったいないよ、いいお天気なんだから。
おじさん、自転車三台貸して下さい!」
そう言われて、なぜかおじさんは困り顔で雪見を見た。
「どうする?雪見ちゃん。」
「どうするもなにも、無理!絶対無理!」
健人と当麻は、雪見が何を言ってるのか理解できなかった。
「無理、ってなにが?」 健人の問いに雪見が小声で答える。
「自転車…。」
「はぁぁ?」
雪見がヤケクソ気味に大声で叫ぶ。
「ダメなの!自転車が乗れないのっ!!」
「うそだろーっ!!」 健人と当麻が同時に叫んだ!目を見開いて。
「嘘だよね?冗談でしょ?そんな人、いる?」
当麻の半信半疑な言葉に雪見が、「ここにいるっ!」と自分を指差す。
「ゆき姉、昔俺に自転車の鬼特訓したよね?俺が半べそかいても乗れる
まで許してくれなくて。
あれって、自分が乗れないのにあんな鬼みたいな事してたわけ?」
健人が雪見を白い目で見る。
「でも、そのお陰で健人くんは今、自転車に乗れるでしょ?
もしあの特訓が無かったら、今頃自転車乗れなくて笑われるアイドルに
なってたかもよ!」
雪見の屁理屈に、「んなわけ、ないだろっ!」と健人が突っこんだ。
「いいよ、俺が後ろに乗せてやるから。おじさん、二人乗りOK?」
「OK!気をつけて乗りなさい。クーラーバッグに冷たい飲み物持って
いかんと。今、準備するから。」
二台の自転車は青い空の下、青い海を目指して勢いよく出発した。
「おもーい!ゆきねぇ!」
「うるさい!当麻くんに置いてかれるよ!がんばれ〜!」
健人の背中がいつもよりたくましく見えた雪見だった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.126 )
- 日時: 2011/04/27 17:01
- 名前: e (ID: ZpTcs73J)
そういえば、男キャラ少なかったですねww
名前 小日向 勇
25歳
職業 俳優
様々な有名映画.ドラマ.ミュージカルに出ている実力派俳優。
「小日向勇の出るドラマや映画は、ドラマ通や映画通に好評だ。」と言われるほど。 演技力は滅茶苦茶すごくて、リーダー存在の兵隊さんの役をやった直後のドラマで冷静な刑事役を完璧にこなすなど… 海外からも注目を集めている。 顔はイケメンだげど、それを武器にはしていない。 ツンヅレ。でもほとんどがツン。 雪見の恋心は0。
自由人で、ちょいs。 俳優仲間以外には冷たい。 でもかっこいい♪
「俺は、顔で売るつもりはない。いや、しない。」
「お前それでも俳優か? 俳優なめてるなら辞めろ。 俺は別に辞めても悲しくないから。」
「俺のファンはみんないい人。 俺の演技を見てくれている。 もし
俺の顔だけを見ている人が一人でもいるならばそれは俺は今すぐにでも演技の修業をしに宇宙まで行ってもかまわない。」
名前 丘野 芳樹
21歳
職業 声優
いま最も人気のあるアニメの主役を熱演している。 体調管理は物凄くよくて、一回も休んだことがない。 僕の役を本当にいるような錯覚に子供たちを落とす! と、前向き。 いま、4つ位のアニメを掛け持ちしていて、そのうちの一つ1はなんと女性役らしい。
物まねもうまく、よく昼辺りに放送されるバラエティに出ている。
前向き!純粋!熱血!正義感丸出し!のいい子ちゃん4条件を見事にクリアしている。 でも、恋にはオクテというより恋を知らない。
梨弩 学
34歳
職業 科学者
最近、ノーベル賞を受賞したとかなんとか… でも、すごい発見をしたのは事実。 未確認生命体を研究していて実際に見つけたとか。
とにかく超すごい科学者。
大人っぽくて成績優秀。そんでもってかっこいい♪♪なんと、雪見の初恋相手。 (一時期結ばれそうになるが…俺は身を引きますみたいな感じでお願いします。) 頼りになるまさに出来る男。
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