コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.147 )
日時: 2011/05/12 17:17
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

沖縄の旅から二週間ほどが過ぎ、やっと吹き出した秋風が
まもなく十月が訪れることを知らせてまわる。
九月も残すところ一週間余り。
相変わらず健人は毎日を忙しく過ごし、雪見もそれに連動して精力的に
最後の写真を撮り続けていた。
のんびりと夕日を眺めることができた沖縄時間が、もはや夢の中の
出来事だった気さえする。

その日も二人は午後十一時過ぎに仕事を終え、クタクタになりながら
車に身体を押し込んだ。
「はぁーっ、やっと終ったぁ!
今日は朝が早かったから、めちゃ一日が長かったよ!腹へったぁ…。」
健人が今野の車の後部座席で、シートに深く身体を沈めながらつぶやく。

沖縄から戻って以来休みなどは勿論あるはずもなく、それどころか連日
イベント続きで、さすがの健人もそろそろ充電が切れかかっている。
それは、帯同して歩く雪見も今野も同じなのだが、健人の体力的精神的
エネルギーの消費度合いを考えれば、申し訳なくて弱事など口には出せない。
この先も、まだ当分は休みなど作れないだろう。
今野はここらで一度、健人の充電池を満タンにしてやらないと
近々電池切れを起こしてしまうぞと、ルームミラーで後ろを見ながら思っていた。
よし!雪見にお願いするか!

目を閉じていた健人に今野が声をかける。
「健人!拾ってきた猫はどうした?少しは大きくなったか?」

「え?ラッキー?そういや沖縄から戻って来た日から一度も見てないや。
ゆき姉、ラッキーは元気にしてる?大きくなった?」
健人がシートから身体を起こし、雪見に尋ねた。

「うん、元気にしてるよ!もうすっかりめめとも仲良しになって、
めめの後ろをくっついて歩いてる。めめの事、母親だと思ってるみたい!
本当はオスなのに。」 そう言って雪見は笑った。

「えーっ!めっちゃ可愛いじゃん!ラッキーに会いてぇ!」
それからしばらく、雪見と健人は猫の話で盛り上がっていた。

スーッと車が雪見のマンション前に止まる。
「あ、着いた!今野さん、ありがとうございました!また明日もよろしくお願いします。」
そう言いながら雪見が車を降りようとした時、今野が声をかけた。

「健人!お前も一緒に降りろ!」

「えっ?なに?」

「雪見ちゃん!お疲れのとこ悪いんだけど、健人に猫見せてやってくれるかな。
ついでに何か美味い物でも作って食べさせてやってよ!
明日もまた忙しいのに、このままじゃそろそろこいつ、へばりそうだから。」
突然の今野の言葉に、健人は大喜び!

「うそ!?ほんとにいいの?ラッキー見てきて。ご飯食べてきていいの?」

「あぁ!ただし雪見ちゃんがいいって言ったらの話だけど。」
今野が笑いながら雪見に頭を下げた。

「いいよ!私もお腹ペコペコだから、今なに作ろうか考えてたところ。
あ!今野さんもご一緒にどうですか?」
雪見が今野を誘ったので、健人は一瞬頬を膨らませた。
が、今野が断ったのでまた笑顔に戻る。

「明日は九時に迎えに行くからな!ちゃんとそれまでに用意しとけよ!
じゃ、雪見ちゃん、健人を頼んだわ。」
そう言って二人を降ろし、今野は愛妻の待つ自宅へと帰って行った。

健人と雪見は誰かに見つからないうちに、急いでマンションに駆け込み
エレベーターに乗ってホッとする。

「今野さん、私たちに気を使ってくれたんだね。」
「違うよ!早く奥さんのとこ、帰りたかっただけさ。」
「鈍いなぁ!ご飯の誘いを断った事じゃないよ!
ラッキーの話を突然健人くんに振った時から、今野さんは私たちを
二人きりにさせてくれようとしてたんじゃない!」
「えーっ!そうだったのぉ?ぜんぜん気が付かなかった!」
「まだまだ修行が足りんな!キミは。」

エレベーターが雪見の階に到着し、周りを気にしながら大至急玄関の鍵を開ける。
バタンとドアを閉め鍵を掛けて振り向いた瞬間、いきなり唇をふさがれ
二人は長い長いキスをした。
静かに唇を離したあと健人は、「ずっとこうしていたい…。」と雪見を
抱き締め、しばらくのあいだ玄関先で身じろぎもせずに、ただ雪見の
温もりを感じて心を休めていた。

そこへ、にゃーん!と鳴きながら足元にめめとラッキーが寄って来た。
その瞬間、健人はパッと雪見から身体を離し、身を翻してしゃがみ込んだ。
「ラッキー!元気だったか?なんかしばらく会わないうちに大きくなったな!
めめもお世話をしてくれてありがとな!よしよし!」
と、二匹の頭を交互になで回す。

雪見は、「ラッキーに負けちゃった!」と笑い、少し元気になった健人を見て一安心した。
「よしっ!急いでなんか美味しい物作るねっ!こんな所で遊んでないで
中に入ってラッキーたちの相手をしてやって!」

健人が猫じゃらしやボールで猫の遊び相手をしてやると、二匹は夢中に
なって走りまわる。
その愛らしい仕草に健人は癒やされ、どんどんエネルギーが補充されていくのがよくわかった。
それもそのはず、ラッキーは健人の実家で飼っているプリンの子供時代
にそっくりで、めめは虎太郎と性別こそ違えど全く同じ茶トラ猫であった。
ラッキーを拾ったことで、健人は実家に帰らずして実家の愛猫と遊んでいる感覚を、
ここ雪見の家で味わうことができるのだ。
雪見も健人も、これはただの偶然ではないと思っている。
きっとラッキーは、二人の元にやって来るために生まれたのだ。
そう思うだけで愛しさが倍増する、猫バカな健人と雪見であった。

「健人くーん!ご飯できたよ!」
雪見に呼ばれ手を洗ってダイニングに行くと、テーブルの上にはすでに
たくさんの料理とワインが準備されていた。

「すっげー!俺がラッキー達と遊んでるあいだに、こんなに作ったの?
しかも全部美味そう!ゆき姉ってほんと、いい奥さんに絶対なれるよね!」

「だといいんだけどねっ!さぁ、冷めないうちに食べよう!
もうお腹、ぺっこぺこ!じゃ、お仕事お疲れ、乾杯!」
久しぶりの二人だけの食事は、話もはずみお酒も美味しくて、いつまで
たっても終る気配がなかった。
ふと時計を見ると、すでに日付が変った午前二時過ぎ。

「健人くん、大変!もうこんな時間だよ!タクシー呼んであげるから
急いで帰らないと!」
雪見が慌ててタクシー会社に電話しようとしたとき、健人がぽつりと
「帰りたくない…。」とつぶやいた。

「今日は俺、帰りたくないから…。」

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.148 )
日時: 2011/05/13 22:26
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「帰りたくない、って…。ダメだよ、帰らなきゃ!
明日も仕事だし、もし万が一ここに泊まった事が週刊誌にでもバレたら
大変な騒ぎになっちゃうよ!」

「やだ!ゆき姉と一緒にいたいんだ…。今日は帰らない。」

疲れた身体にワインが効いたのだろう。頬を赤くして目は潤み、
どこかぽわんとした今日の健人は、やけにわがままを言ってくる。
雪見だって、健人と一緒にいたいに決まってる。
だが、今はこれ以上週刊誌を騒がせる訳にはいかない。
ここまでは、なんとか一つずつ取り繕ってこれたが、この先も
上手くいくという保証はどこにもないのだ。

「健人くん。明日も一日、ずっと一緒に仕事だよ!
明日は金曜だから、また当麻くんのラジオの仕事もあるじゃない。
あ、もう日付が変ったから今日がラジオかぁ。また緊張するなぁ!
健人くんと当麻くんのフォローがないと、私無理だからねっ!ヨロシク!」

二週間前に健人と二人でゲスト出演した当麻のラジオ番組が、あまりの
大反響を受けてプロデューサー直々に二人の事務所と交渉が行なわれ、
結局健人と雪見は、隔週で当麻のラジオに出る事になってしまったのだ。
雪見は渋々だったが、健人と当麻はハイタッチをして喜び合った。

「そうだ!明日はラジオ終ったら、久しぶりに三人で飲みに行こうか!
だから今日は帰って身体休めないと。最近、相当疲れが溜まってるよ。
カメラ覗いてると、よくわかるもん。さぁ、帰ろ帰ろ!」
そう言いながら、雪見は健人と手をつなごうとした。
手を握った瞬間、しまった!と思った雪見。

「ち、ちょっと!健人くんの手、異常に熱いんだけど!もしかして熱があるの!?」
おでこに手を当てた雪見が驚いて、すぐに手で健人の頬を挟んだ。

「うそでしょ!凄い熱だよ!なんでもっと早く気が付かなかったんだろ、私。
あんなに赤い顔してたのに。ごめんね、健人くん!
帰りたくなかった訳、今頃気づくなんて…。
とにかく、ここに座って!今、体温計持ってくる。」
雪見が救急箱と毛布を持ってきた。
熱が上がり出した健人は寒気がするらしく、ガタガタと震え出す。

「いやだ!39.4度もあるじゃない!どうしよう!ええと、まずこの解熱剤飲んで!
飲んだ?そしたら私のベッドに寝てて。今、湯たんぽ入れて来る!」
雪見がキッチンにお湯を沸かしにすっ飛んで行った。
お湯が沸くまでの間、今野に連絡を入れなくちゃ!と思いつく。

「今野さん、こんな夜中に怒るだろうなぁ。なかなか出てくれないや。
あ!今野さん?雪見です。ごめんなさい、起こしちゃって!
健人くんが大変なんです!私の家で凄い熱出しちゃって。39.4度もあるんです!
えーっ!嘘でしょ?今野さんも39度も熱あるんですか?
えっ?そうだったの。じゃ、インフルエンザの可能性が高いですね。
私?私は予防接種受けてます。けど健人くんは受けてませんよね?
はい、はい、ええわかりました!じゃ、今野さんもお大事に!」

「今野さん、なんだって?」うとうとしながら健人が聞いた。

「どうやら今野さんからインフルエンザ、もらったっぽいよ!
今野さんの息子さんが今、インフルエンザで幼稚園休んでたんだって。
それを今野さんと健人くんが、お裾分けしてもらったみたい。
今野さん、健人に申し訳ない!って謝っておいて、って。
明日の仕事はキャンセルしておくから、病院に行ってゆっくり寝てろ!
って言ってたよ。」

「ホントに?明日休んでいいって?やった!ありがとう!今野さんの息子よ!
あ、でも当麻のラジオも出れなくなっちゃった。残念だな。
ゆき姉だけでも出てね!当麻、めちゃめちゃ楽しみにしてたから。」

「うん。それは今野さんにも言われた。最初から二人で穴をあける訳に
いかないから、って。健人くんファンには申し訳ないけど、私だけで
勘弁してもらうよ、明日だけは。」
雪見は気が進まなかったが、健人や当麻、事務所の為と思って我慢だ。

「じゃあ、今晩は安心してゆっくり眠ってね!もう、帰れなんて言わないから。
私は隣の部屋で写真整理してるから、何かあったらすぐ呼んで。
じゃ、お休みなさい!」
そう言いながら、雪見がベッドサイドの電気を消そうとすると、突然
健人が雪見の腕を掴んだ。

「ねぇねぇ。俺が寝るまでここにいて。」
健人は自分に掛けられた布団をめくり、雪見に隣りに来るよう、
熱で潤んだ瞳でお願いした。

「えーっ!もう幼稚園児だってそんなお願いしないよ!困った子供だ。
仕方ない!お母さんが子守歌でも唄ってやるか。」
雪見は笑いながら健人のわがままを聞き入れ、ベッドの中に潜り込む。

「うわっ!まだめちゃくちゃ熱いよ、健人くん!早く薬が効くといいけど。
明日は病院行こうね!私が車に乗せて行くから。」

「ゆき姉とこうしていられるなら、熱なんて下がらなくてもいいや!」
そう言いながら、健人が素早く雪見にキスをした。

「ちょっと!私にも確実にうつるでしょ!いくら予防接種してたって、
完全にうつらないって訳じゃないんだから!
健人くんが治った頃に、私が熱出したらどうすんのよ!」

「そしたら今度は俺が看病してあげる。一晩中ゆき姉の髪を撫でて、
子守歌を唄ってあげるから。
俺、今思い出した!ずーっと子供の頃の夏休みに、
一人でゆき姉んちに泊まりに行って、夜中に熱出したこと。
母さんもいなくて心細くて布団の中で泣いてた時、
ゆき姉がそっと隣りに寝てくれて、子守歌を唄ってくれたんだ。
もう子守歌って年でもなかったけど、妙に安心していつの間にか眠った
記憶がある。
もしかしたら、あの時から俺はゆき姉を好きだったのかも知れない。」

健人が熱い唇で、何か言おうとした雪見の唇をふさいだ。
もうインフルエンザがうつってもいいや!と、雪見が健人を抱き締める。
と、その時!二人の布団の上にドスン!と、めめとラッキーが飛び乗った。

「重っ!重いって!お前達、なんでいいとこで邪魔しに来んだよ!
腹の上じゃなくて、足元に寝てくれよ!」
健人が、めめの重しをお腹に乗せてるあいだに、雪見がぴょんとベッドから降りた。

「はい!じゃあ後はめめとラッキーに添い寝してもらってねっ!
私は仕事の続きがあるから。じゃ、本当にお休みっ!また明日。」

雪見はパチンと部屋の明かりを消し、ドアを閉める。
おやすみなさい、かわいい人よ…。

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.149 )
日時: 2011/05/15 08:26
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

朝六時。結局雪見は一時間ほどソファーで仮眠を取っただけで、あとは
写真の整理と健人の様子見で夜を明かした。
そっと健人のおでこに手を当ててみる。どうやら高熱は下がったようだ。
だが、まだ完全には下がりきってないので、目を覚ますまで寝かせておくことにする。

顔を洗って身支度を調え、静かにフロアモップでフローリングの床を掃除する。
それから家の中にたくさん置いてある観葉植物に水をやった。
健人には、食欲が無くても少しは口に出来そうな物を何品か用意する。
他にすることが無くなったので、健人のベッドサイドにそっと座り、
その美しい寝顔をとくと鑑賞してみた。
ベッドの上の足元には、めめとラッキーが二匹寄り添い丸くなってる。
健人も幸せそうな顔をして、まだ熟睡しているようだ。
朝の光がカーテンの隙間から健人の顔に降り注ぎ、まるでグラビア撮影の
ワンシーンかと錯覚してしまいそうな、絵になる風景だった。

「そうだ!写真に撮っちゃえ!」
小さくつぶやいて、そっとカメラを取りに行く。

『イケメンって、ほんとにどんな時でもイケメンなんだなぁ。
まさかこの写真が39.4度熱を出した後とは、誰も思わないだろうね。』
そう思いながら、シャッター音で健人が目を覚ますことを想定し、
ワンチャンスで完璧な構図を狙う。
「カシャッ!」あれ?起きないや。
「カシャッ、カシャッ!」
まったく目を覚ます気配がないので、少々心配になる。
カメラを置き、またベッドサイドに腰を下ろして健人の頬に触れてみた。
すると突然、ガバッと健人が雪見を抱き締めるではないか!

「やっと捕まえた!なかなかゆき姉、罠にかかってくれないんだもん。」

「罠ぁ?もしかして、ずっと起きてたのぉ?」
雪見がビックリした顔で、目の前の健人に聞いた。

「『そうだ!写真に撮っちゃえ!』で起こされた。
ゆき姉にかかったら、おちおち熱出して寝てもいられないや!
ちゃんとギャラ、もらわないと!」
そう言いながら、健人は雪見にキスをした。

「キスする元気があるなら大丈夫だね!良かった!
でもまだ熱は下がりきってないよ。朝イチで病院に行かなきゃね。
何か食べられる?健人くんの好きそうな物、作ってみたけど。」

「うん!腹減った!けどその前にシャワーしていい?汗かいた。」
健人は雪見から手を離し、猫たちを起こさないよう静かにベッドを降りた。
シャワーを浴びているうちに雪見は、こんな日のために密かに用意しておいた
着替えを脱衣所に置き、野菜スープを温め直す。
さっぱりして気分の良くなった健人は、その食べるスープを美味い!
美味い!と言いながら平らげた。
コーヒーを飲みながら雪見は、健人と一緒に暮らしたら毎日が楽しいだろうな、と思う。
健人もまた、雪見とのこんな日々を夢見ていた。


昨夜今野から教えてもらった、事務所のタレント行きつけの個人病院に
朝イチで電話すると、診療開始前に見てあげると言われ、雪見は健人を
乗せて病院へ向かった。
検査の結果、やはりインフルエンザだったので、すぐさま今野に電話を入れる。

「あーあぁ、やっぱりかぁ!けど今野さん公認でゆき姉んちに泊まれるんだから、ラッキー!」
健人はメチャメチャ嬉しそう。

「そんなに元気なら、仕事に行ってもいいんじゃない?」
雪見がわざと意地悪言うと、健人は
「ダメ!先生も周りにうつすから、まだダメだって言ったもん!」
とムキになった。そんな子供みたいな健人が大好きだ。


雪見のマンションに二人で戻り、健人は病院からもらった薬を飲んで猫と遊び出す。
雪見はその間にベッドのシーツ類一式を取り替え、健人の服や下着と一緒に
洗濯機に放り込み、窓を開けて新鮮な空気を部屋の中に取り込んだ。

「うーん、気持ちいいっ!なんか俺たち、新婚さんみたいだねっ!」
ベランダで伸びをひとつして振り返った健人が、はにかみながら雪見に言った。

雪見もそう思っていたが、なんだか恥ずかしくていつもの口調で
「なに言ってんの!まだ熱があるんだから大人しく寝てなさいっ!」
と、笑いながらつれない返事をする。

思いがけず神様からもらった、幸せな幸せな休日だ。


午後三時。雪見はラジオ局に行くための準備を始める。
健人の夕食にカレーライスを作り、サラダは冷蔵庫に入れた。
着ていく服を迷っていると横で健人が、
「ラジオなんて服は見えないんだから、何でもいいじゃん!」と言う。

「えーっ!健人くんは彼女がどんな格好で出掛けても平気なわけ?
自分は人一倍、着る物にこだわりがあるのに。」
雪見が少しブーたれた口調で健人に抗議する。

「違うよ!当麻のためだけにおしゃれしないで欲しい!」
健人の口から予想外の返事が飛び出し、雪見は驚いて健人の顔を見た。

「えっ?そんなこと考えてたの!?本気でそんなこと言ってんの?」

健人の顔は本気とも冗談ともつかぬ顔をしている。
だが最近、健人の心がさざ波立っていることは、毎日接している雪見が
一番よく知っていた。
理由は多分、あと少しで写真集の撮影を終了するため。
撮影が終れば健人の仕事場に雪見が付いて行く事もなくなる。
二ヶ月間、大好きな雪見が自分のそばで、自分だけを見つめてくれていた。
そんな幸せな日々が、十月に入ると同時に消え去ってしまう恐怖。
ただ二ヶ月前までの生活に戻るだけなのに、健人は雪見のいない仕事場を
想像しただけで気が滅入っていた。

雪見は背中からギュッと健人を抱き締め、穏やかな声で健人に話しかける。
「大丈夫!私はどこへも行かないし、これからもずっと健人くんのそばだけにいる。
他の誰も見つめたりはしないし、第一健人くん以外の人に興味はないから。
毎日は会えなくなっても、心は繋がってるよね?私たち。」

「うん、繋がってる。俺もゆき姉以外は考えられないから。
会いたくなったらまたここに来てもいい?」
健人が振り向いて雪見に聞いた。

「もちろん!そのために合い鍵、作ってあげたでしょ?
今度、健人くんがいつも使ってるシャンプーとか歯磨き粉、買っておかなきゃね。」
雪見の言葉に、やっと健人が笑顔になった。

「じゃ、用意して仕事にいくね!カレーは温め直して食べてよ。
冷蔵庫にサラダも入ってるから。
ラジオ、そこにあるからちゃんと聞いててね!」


雪見は玄関先で健人とハグをし、めめとラッキーの見送りも受けて
当麻の待つラジオ局へと一人で向かった。








Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.150 )
日時: 2011/05/15 13:18
名前: e (ID: ZpTcs73J)

敵キャラです

魅澤 妃奈子
20歳
職業 カメラマン
雪見の後輩の猫カメラマン。最近は兎とか犬とかの写真集にも挑戦している。 雪見を尊敬している。
性格 純粋で前向き。手段を選ばないタイプ。 芸能人になった雪見にショックを受けている。
(ラジオを聞いて、芸能人?になったことを知り、ラジオ局からえた雪見と再会する。)
「返して!猫カメラマンの雪見さんを返して!返してください!」
「あんたらに雪見さんの夢を壊されてたまるか!」(なんと、このときの会話が動画投稿サイトにでてしまう)
「あんたが雪見さんを壊しているのよ!あんたが大好きな雪見さんは本当の雪見さんじゃない!あんたが雪見さんの従弟でも私は許さない!」


出してほしいキャラがあるので、オリキャラ投稿はこれで最後にします。 できれば、美少女の杏ちゃんや霧島の姉の愛穂さん。萌乃ちゃんや勇くんや学さんの登場させてください♪

妃奈子ちゃんがアイドルな彼氏に猫パンチ(ちなみに妃奈子ちゃんによると猫キックもするそうです)してくれるそうですので笑
よろしくお願いします

Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.151 )
日時: 2011/05/16 15:31
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

「今日は私一人で行かなきゃならないのか…。ふぅぅっ、緊張するな。
でも当麻くんがいるから何とかなるよね。よし!乗り込むとするか!」
雪見はラジオ局の入る高層ビルを見上げ、一人自分に気合いを入れてから歩き出す。

「おはようございます!今日は斎藤健人がキャンセルで申し訳ありません!」
放送室のドアを開け、まずは真っ先に健人の急病を詫び頭を下げる。
本来ならマネージャーである今野の仕事だが、今日はその今野さえも
インフルエンザで休みなのだから、雪見が詫びるよりほかなかった。
局には事務所から朝一番に連絡済みなので、雪見は今野の指示通りに
買ってきた、かなり奮発した手土産をスタッフに渡す。

「いやぁ、健人くんもマネージャーさんもインフルエンザだって?
浅香さんは大丈夫だったの?」とか、
「うちの局でも先月流行って大変だったんだから!」などと
スタッフは皆、気を使って優しい言葉を掛けてくれる。
雪見は取りあえずはホッと一安心した。
あとは中にいるプロデューサーとディレクター、それに当麻に挨拶して
打ち合わせに参加しなくてはならない。
急いでブースのドアを開け、中に入る。

「おはようございます!済みません、遅くなりました。
今日は本当に申し訳ありません!私一人になってしまって。」

「おはよう!ゆき姉!待ってたよ。健人は大丈夫?」
マイクの前で台本に目を通していた当麻が、すぐに声をかけてきた。

「うん、大丈夫!今朝病院に連れてったから。まだ熱は下がりきっては
いないけど、猫と遊ぶ元気があるんだから、大丈夫でしょう!」

「なに?健人、ゆき姉んちにいるの?」

しまった!と雪見は自分の無防備な発言を悔やんだが、後の祭り。
プロデューサーもディレクターも、一斉に雪見を見る。
どうしよう!今野に叱られる!

「なになに!健人は雪見さんちで熱出しちゃったわけ?そんでそのまま
雪見さんちにお泊まりしてんの?あいつもなかなかやるねぇ!」
健人と仲の良いディレクターが、真っ先に食いついた。
当麻も、まずいぞ!これは…という顔をして雪見を見た。
そしてすぐに何かいい考えを思いついたらしく、大きな瞳をさらに大きくして
雪見とディレクターに提案する。

「ねぇ!健人が元気なら、電話でラジオに参加させるってのはどう?
先週告知しちゃったから、健人にいっぱい葉書やメール届いてるんだよね。
健人が出るのを楽しみに、ラジオの前で待ってる人が大勢いると思うし
インフルエンザで休みだって言ったら、みんな心配するだろうし。
だから電話でワンコーナーだけでも繋いで、元気な声を聞かせた方が
騒ぎが少なくて済むんじゃない?」
当麻の機転を利かせた意見に、健人が雪見の家に泊まってるという話題
から、パッと話の方向が切り替わった。

「いいねいいね!それで行こう!当麻、健人に電話して説明しておけ!
俺はどのコーナーを健人に繋ぐか、大至急話し合うから。」
ディレクターとプロデューサーがブースを出て、スタッフと相談してる間に、
当麻は健人のケータイに電話を入れる。

「あ、健人?俺!インフルエンザだって?大丈夫か?
まぁ、ゆき姉から話を聞く限りは大丈夫そうだけどね。
でさ、今、急に決まった話なんだけど…。」
そう切り出して当麻は、健人に電話でのラジオ出演を交渉。
健人は即答で了承したらしく、雪見に向かって当麻がOKサインを出した。

「あいつ、本当に熱あんの?電話でラジオに出られる?って聞いたら、
めちゃくちゃハイテンションで騒ぎまくってたけど。
あんだけ元気あるなら心配ないわ。」当麻が安堵の表情を見せる。

「昨日の夜なんて、39.4度も熱出たんだよ!もう、どうしようかと思ったんだから!
今日のラジオ、すっごく楽しみにしてたのに出られなくなった、って
落ち込んでたから、電話ででも出れる事になって嬉しいんだと思う。」
雪見が健人の気持ちを代弁したが、そう言う雪見自信も嬉しかった。
無名に近い雪見だけがラジオに出て、一体誰が喜ぶと言うのだろう。
そんな申訳なさで一杯だったから…。

その時、当麻が「あっ!それ!」と、雪見の耳を指差し微笑んだ。
雪見の耳には、石垣空港で当麻からもらった青いピアスが揺れていた。
まだ一度も付けていなかった、沖縄ブルーのガラスのピアス。
当麻が、健人には内緒だよ!と言いながらくれたので、どうしても健人
の前では付ける気になれなかった。
だが、人からもらった物は、一度はその人の前で付けて見せるのが
大人の礼儀だと雪見は思っているので、そのタイミングを探していた。
それが今日突然やってきたので、スタジオに入る前にトイレでピアスを付け替えたのである。
そんなにコソコソとするのは、自分の中にもどこか後ろめたい気持ちが
あるからか。内緒だよ!なんて当麻が言うから…。

雪見はあえてさらっと流すように言った。
「あぁ、これ?当麻くんがくれたやつだっけ?
今日の服に合うかな?と思って。それにこれとお揃いだし。」
そう言いながら雪見は、左手首の青いブレスレットを当麻の前に突きだした。
すると当麻も左手首を雪見の前に差し出す。
健人と三人でラジオをやる日には、このお揃いのブレスレットを付けて
集合しよう!と、当麻が提案したのだった。

「思った通り、ゆき姉に似合ってるよ、そのピアス。
ぜんぜん付けてくれないから、無くしちゃったのかと思った。」
当麻が嬉しそうに言ったので、やっぱり気にしてたんだと雪見は思う。

「さぁ、今日の相棒は頼りにならない上にしゃべりも苦手なんだから、
当麻くんがしっかりリードしてくれないと、とんでもない三十分になりかねないよ!
自分の番組ぶち壊されたくなかったら、私のコントロールちゃんとお願いね!」

「任せておけって!俺は健人の次にゆき姉のこと、よく知ってるつもりだから。
俺のこと信じて付いてきて。」

「うん!わかった。」


その日の当麻は、いつになくたくましく自信に満ち溢れ、落ち着いた態度が
雪見に安心感を与える。

健人よりもひとつ年下なのに、大人の男を感じさせる瞬間に度々遭遇し
雪見は自分が少しドキドキしていることに気が付いた。





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