コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.157 )
- 日時: 2011/05/20 21:31
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
健人は瞬きもせず、ジッと学の目を見つめて自分の気持ちをぶつけた。
「梨弩さん。俺は、ゆき姉に出会うためにこの世に生まれてきたと思ってます。
どうしてもっと早く生まれて来なかったんだろうって、神様を恨んだこともあったけど、
でも最近、十二年遅く生まれたのにも訳があると、やっとそう思えるようになりました。
もし俺がゆき姉と近い年に生まれてたら、あなたが恋のライバルだったかも知れませんね。」
「今はライバルじゃない、とでも言いたいのかい?」
学が苦笑いをした後、キッと健人を真顔でにらんだ。
「俺、ゆき姉をあなたに返す気は更々ありませんよ。
あなたは俺のこと、こんな若造が雪見を幸せに出来るはずはない!とでもお思いでしょうが、
今のゆき姉を幸せに出来るのは、世界中で俺一人しかいないと確信してますから。」
そう言って雪見を見つめ、にっこりと微笑む健人の瞳には一点の曇りも迷いもなく、
ただこうして二人並んでいるだけで、この上ない幸せ!という顔をしている。
健人の自信に満ち溢れた態度と、雪見と互いを見つめ合う熱い視線は、
この二人の間になんぴとたりとも介入は許さず!といった、目には見えない
結界が張られているようにも感じられた。
一体どれほどの時間が経ったのだろう。
かなりの間ジッと健人と雪見を観察していた学は、おもむろに立ち上がり、
「ご馳走様。美味かったよ、カレーもワインも。二人の時間を邪魔して
悪かったね。じゃ、また。」
と、それだけ言うとさっさと玄関から出て行った。
急に夢から覚めたように健人と雪見は、はぁーっと深くため息をつき、
嵐のようにやって来て、嵐のように過ぎ去った学を思い起こしてみた。
「怒っちゃったかな?梨弩さん。俺、強く言いすぎた?」
健人が俳優の顔からいつの間にか素の健人の顔に戻り、少し心配そうに
雪見の顔をのぞき見る。
すると雪見はやっと笑顔になって、
「健人くん、サイコー!」と言いながら、隣の健人の首に手を回し
グッと引き寄せ頬にキスをした。
「これから内緒でカラオケ行っちゃう?なんか、メチャクチャ歌いたい気分!」
それから二人は見つからないように、雪見の車で遠くのカラオケボックスまで出掛け
朝方まで歌いに歌いまくった。
もちろん三人の課題曲、『WINDING ROAD』もたっぷりと…。
健人を家まで送って帰る頃には、もう学の事など頭から消え去った。
「えーっ!なに、そいつ!いきなりゆき姉んちに乗り込んで来たわけ?
で、健人はどうしたのさ?」
インフルエンザも全快し、久しぶりの仕事帰りに当麻の家へ立ち寄った健人。
話は勢い数日前の、学が来た時の話題になる。
「え?俺?そりゃ、バシッと言ってやったさ!」
二つ目の缶ビールをプシュッと開け、ゴクリと喉に流し込み熱く語る健人。
「なんて?なんて言ったの?」
当麻が興味津々、身を乗り出して健人に詰め寄る。
「えっとね…。やっぱ、教えない!
っつーか、今となっては恥ずかしくて言えない!」
珍しく健人が頬を赤くして、照れ隠しにビールを一気飲みした。
「なんだよ、それぇー!ますます聞きたくなるじゃん!
ほらほら、もっと飲んじゃって!で、なんて言ったの?」
どうしても聞かないと気が済まない当麻。
「えーっ!言うのぉ?
…ゆき姉をあなたに返す気は更々ない、って…。」
「それだけ?じゃないでしょ。あとは?」
「あとは?って…。
ゆき姉を幸せに出来るのは、世界中で俺一人しかいない、って…。」
健人が、消え入るような小さな声で言ったあと、当麻が大笑いをした。
「マジでぇ?マジでそんな、ドラマのセリフでもなかなか言わないような
クサイこと言ったのぉ?すっげー!さすが健人!男だねぇ!」
当麻の笑いは当分収まりそうもない。
「だ・か・らぁ!お前には言いたくなかったの!
けど、あの時はそれが勝手に口から出てきた言葉だから…。
俺が本当に心から思ってる事だと思う。」
健人が真面目な顔をして言うので、当麻も笑えなくなった。
「健人は本当にゆき姉を愛してるんだ…。」
きっと寂しげな笑顔を当麻が浮かべたのだろう。
健人の心の中に、その笑顔がいつまでもちらついた。
「ねぇ!ゆき姉、呼ぼうか!十二時半でしょ?まだ起きてると思うから。電話してみる!」
健人が、なぜか当麻に雪見を会わせてあげたいと思いついた。
さっきの寂しげな笑顔のせいだ。当麻があんな顔をするから…。
そう思いながら、健人が雪見に電話する。
「あ!ゆき姉?俺だけど。まだ起きてた?仕事中なの?
今さ、当麻んちで飲んでるんだけど、当麻がどうしてもゆき姉に会いたいって!
これから来れる?あ、ほんと?じゃ、待ってるね!気をつけて来て!」
健人が嬉しそうに、ゆき姉これから来るって!と当麻に伝えた。
当麻の顔もパッと明るくなり、「ズルイよな!本当は健人が会いたかったんだろ?」
と、笑いながら健人を小突く。
しばらく二人でおしゃべりしていると、インターホンが鳴って雪見が到着。
当麻が玄関の鍵を開けドアを押しながら、「いらっしゃい、ゆき姉!」
…と、目の前に立っていたのは雪見ではなく、なんと霧島愛穂だった!
「な、なんで…。」当麻が目を見開いて驚いていると、横から雪見がひょこっと顔を出し、
「驚いた?ようだね、その顔は。私も驚いたもん。タクシー降りた所に
愛穂さんが立ってたんだから。」
愛穂が「しばらくぶり!元気だった?」と当麻に笑顔で挨拶する。
「ゆき姉、遅いよ!」と玄関に出てきた健人も、愛穂の存在にびっくり!
「どういう事?ゆき姉!」健人が険しい顔で雪見を問いただす。
「いや、愛穂さんがマンション見上げて立ってたから…。
雨もポツポツ振ってきてたし、風邪でも引いたら困ると思って…。」
やはり愛穂は招かれざる客に違いないのだ。
それをわざわざ連れてきてしまう雪見。
雪見の人の良さに、健人と当麻は顔を見合わせてため息をついた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.158 )
- 日時: 2011/05/21 11:25
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
雪見を呼び、久しぶりに三人でワイワイ楽しくやろう!と思っていたのに
なぜかここに愛穂も座ってる。
沖縄ロケ以来久しぶりに会い、女同士、同業者同士で話が弾む雪見と愛穂。
その横で、複雑な表情をしてビールをちびちび飲む健人と当麻。
まったくワイワイどころか、シーン…としてしまった二人に雪見が気付いた。
「ちょっとぉ!人をこんな時間に呼び出しといて、二人してその辛気くさい顔はなに?
愛穂さんにだって久しぶりに会ったんだから、少しはイケメンスマイルで
持てなしなさいよ!」相変わらず雪見は容赦ない。
顔を見合わせた健人と当麻は、明らかに作り笑いをして愛穂に聞いた。
「ねぇ、なんでここに来たの?」
健人のあまりにもストレート過ぎる質問に雪見が慌てた。
「健人くん!失礼でしょ?愛穂さんに!」
「いや、いいの。ごめんね、邪魔しちゃって。
まさか雪見さんと健人くんもいるなんて、思ってなかったから…。
ちょっとだけ当麻くんの顔が見たくなって、偶然にでも会わないかなぁ
なんて思って。迷惑だったよね、ごめん。」
愛穂の思いもよらない言葉に、三人は驚いて固まった。
もちろん当麻は、愛穂が自分に対してそんな感情を抱いていたなど初耳だ。
石垣島の夜には、確か健人にアプローチしていたはずなのに…。
当麻は、なんて返したらいいのか迷っていた。
愛穂の言った言葉が、本心なのかどうかもわからない。
ましてや、この三人の中で愛穂の立場というのは、半ば敵に近い立ち位置にある。
沖縄ロケ以来、一度も三人の前に姿を現さなかった愛穂が、なぜ今、
当麻に対してそんな言葉を投げかけるのか…。
当麻は勿論のこと健人と雪見も、嘘と真実が見極められずに困惑していた。
「まぁ、久しぶりに再会したんだから、乾杯でもしようよ!
当麻くん、前にあげた真由子のワイン、もう全部飲んじゃった?」
少しでも考える時間を与えるため、雪見が当麻にワインを探させる。
「どうだったかな?一本ぐらい残ってるかも。ちょっと見てくる。」
そう言って当麻が席を立ち、そそくさとキッチンに入って行く。
「俺も、なんかつまみになりそうな物、探してくるわ!」
健人も当麻の後を追ってキッチンに逃げ込んだ。
「おいおい!一体どういうつもりだろ?本心で言ってると思うか?」
健人が小声で当麻に聞く。
「そんなこと、こっちが聞きたいよ!しかも、なんで今なんだよ!
せっかく三人が集まったんだから、課題曲の練習をしようと思ったのに…。」
当麻が少し腹立たしげに言った。手にはすでに真由子プロデュースの、
カリフォルニア白ワインが用意されている。
「まぁ今日のところは相手の出方を見て、本心を探るしかないな。
けど、さっき言った事が本心だった場合はどうする?当麻。」
健人が当麻の顔を伺う。
「どうするって…。今の時点でそんな感情は一つも湧いたこと無いし、
第一彼女からそんな気配を感じたことも無いんだよ!
それがなんで突然、こういう展開になるわけ?おかしいと思わない?」
「まぁ、おかしいっちゃおかしいんだけど…。ここにいてもらちが明かないから、
そのワインでもう少し彼女を喋らせよう!」
そう言ってからも二人は、あーでもないこーでもないと
キッチンでしばらくの間、立ち話をしていた。
健人がワインとグラスを持ち、当麻がチーズやナッツ、チョコレートなどの
つまみを皿に盛り合わせて、「お待たせ!ワインあったよ!」と、やっとキッチンから出て来る。
「おそーい!待ちくたびれてここにあったお酒、全部飲んじゃったよ!」
雪見の言葉に当麻と健人は、「ええっ!?」と驚いた。
「うそ!?二人でこれ全部飲んじゃったのぉ?」
テーブルの上には、雪見が手土産にコンビニから買ってきたビール六缶と、
チューハイ六缶の潰れた空き缶だけが転がっている。
しかも二人ともすっかりいい気分で意気投合し、仲の良い友達同士にさえ見えた。
「愛穂さんって、あんまりお酒飲めない人じゃなかったっけ?」
健人が、石垣島の夕食時を思い出して愛穂に聞いてみる。
「あぁ、私?飲めないんじゃなくて、飲まないようにしてるだけ。
多分、本気を出したら結構行けると思う。雪見さんほど強くはないけどね。」
上機嫌で愛穂が雪見を見た。
雪見も嬉しそうにニコニコしながら愛穂を見る。
「今度、二人で飲みに行こうよ!私、いいお店いっぱい知ってる!
お酒の事なら任せといて!
それに沖縄行った時から思ってたんだけど、私と愛穂さんって似たとこ
たくさんあるんだよね。いいお友達になれそう!って、ずっと思ってたんだ。」
雪見は、こんな所で愛穂に会えたのはキセキだぁ!と酔って叫ぶ。
「おいおい、ゆき姉!大丈夫かよ?短時間に一気に飲むから、すっかり
酔っぱらってるだろ?しょうがねーなぁ、まったく!」
健人が雪見の隣りに座るとすぐに、雪見が健人に抱きついた。
「けんとぉ!だーい好きっ!」
みんなの前でいきなり頬にキスされ、健人は慌てふためく。
「ち、ちょっとぉ!どんだけ酔ってんのさ!もう帰って寝た方がいいよ。
疲れてんだよ、きっと。悪い!当麻。俺、ゆき姉送って帰るわ。」
「えーっ!帰っちゃうの?せっかくワイン飲もうと思ったのに!」
当麻も慌てている。
「悪いな!けどこの人、明日写真集の編集会議が朝からあるって言ってたから。
俺もドラマの撮影が入ってるし、そのワインは愛穂さんと二人で飲んじゃって!
当麻はどうせ明日、久々に午後からの仕事だろ?」
「まぁ、そうだけど…。」
当麻が、マジで二人で飲めって言うの?的な顔をして健人を見た。
「愛穂さん、ごめんね!せっかく四人で乾杯しようと思ったのに。
今度さ、みんなでカラオケでも行こう!俺たち、当麻のラジオ番組の企画で
今月中にマスターしなきゃならない歌があるんだけど、その感想を聞かせて欲しいんだ。
今、それぞれ自主練の真っ最中だから、もう少し後に…。」
「へーっ!そうなんだ。それは楽しみ!じゃ、誘ってくれるの待ってるね!。」
愛穂が待ち遠しそうに笑って言った。
「じゃ愛穂さん、ごゆっくり!当麻、またな!」と健人が当麻に言ったあと、
雪見を抱きかかえるようにして玄関まで出る。
そして見送る当麻の耳元で「うまくやれよ!」と素早くささやき、ドアを閉めた。
『しまった!そういう事か!やられたな、健人に。』
当麻と雪見が帰ったあとの玄関先で、一人苦笑いをする当麻。
マンションの外でタクシーを待つ間、雪見はいきなりシャキッ!として
「やるじゃん、健人くん!」と、にやっと笑ってみせた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.159 )
- 日時: 2011/05/22 11:35
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
「もしかしてゆき姉、ぜんぜん酔ってない、とか?
まさか、さっきまでのは全部演技だったりするわけ?」
外に出た途端シャキッとした雪見を見て、健人はやっと気が付いた。
「当り前でしょ!あれごときのお酒で酔っぱらう私だと思ってる?
めっちゃ恥ずかしかったよ!みんなの前で健人くんにキスするの。
でも、リアルに酔ってる感じがしたでしょ?」
「役者の俺が太鼓判押すよ!今すぐ転職して女優になれば?
けど、あのキスのお陰で愛穂さんには、俺の彼女がゆき姉だってバレたと思うけど。」
「あっ!!」
その頃、当麻と愛穂はワインを開けて乾杯していた。
「もう遅いから、これ一杯飲んだら帰るね。
けど、やっぱり健人くんの彼女って、雪見さんだったんだ。」
クスッと笑いながら愛穂が言うと、それに反応して当麻がめちゃくちゃ
慌てたのも可笑しかった。
「ええっ?そう見えた?アメリカじゃ仲の良い親戚同士って、ほっぺたにキスしない?」
焦って当麻はシラを切ったが、誰がどう見てもさっきの雪見の態度は、
ただの親戚が取る態度ではない。
「大好き!」と言いながら頬にキスする親戚が、日本にはどれほどいるだろう。
「いいよ、もう隠さなくても。誰かに話したりなんてしないから。
ハリウッドじゃスキャンダルなんて普通に見たり聞いたりするけど、
それを一々誰かに話してなんかいたら、すぐに仕事を無くしちゃう!
石垣島で健人くんから彼女の話を聞いた時は、ちょっと嫉妬したけど
相手が雪見さんだと解ったら、スッと納得できた。
雪見さんとなら応援できる。」
「そう。ならいいんだけど…。」
当麻が胸をなで下ろし、ワインのグラスを一気に空ける。
そして酒の勢いを借りて、『霧島可恋がツィッターを流したり、動画を
流出させた犯人なのか?』という、ずっと健人たち三人の心に溜まって
いた疑問をぶつけてみようかどうしようか、しばらく考え込んだ。
「あのさ…。いや、やっぱやめとく。ごめん…。」
当麻には聞けなかった。
もし万が一にも違っていたら、妹をそんな風に言われた愛穂は傷ついてしまう。
愛穂を傷つけるのは本意ではなかった。
「いいんだよ、何でも言ってくれて。私、当麻くんに少しでも近づきたくて
ここに来たんだから…。」
愛穂が大きな瞳で当麻をじっと見つめる。
けれど当麻は、その瞳に何の興味も湧いてこなかった。
「あのさ。俺たち三人って、愛穂さんから見たらどう見える?」
さっき聞こうとした事とは違うことを口にする。
でも、当麻にとっては大事な質問だった。
「えっ?当麻くんたち三人?
健人くんと当麻くんは本当に仲良しの親友って感じだし、健人くんと
雪見さんは恋人同士に見えなくもないけど、年の離れた仲良し姉弟にも見えるし…。」
「俺とゆき姉は?どう見える?」
これこそが当麻の聞いてみたい事だったのだが、愛穂はそれを察知し
本心とは違うことを口にした。
「当麻くんと雪見さん?そりゃ親友の彼女もしくは親友のお姉さんって
感じ?
そうじゃなかったら、どう見られたいわけ?」
当麻は愛穂に心の中を見透かされた気がして、グッと言葉に詰まった。
ワインを飲み干した後も気まずい沈黙が流れる。
それに耐えきれなくなったのは愛穂が先だった。
「あー、やだ!当麻くんって若いから、もっと恋愛に対してガツガツ
してるのかと思ったのに、お酒を飲んだって指一本触れてこない。
そんなに雪見さんの事が好きなら、健人くんから奪えばいいでしょ!
好きな人より男の友情を取るってことは、その人への思いもその程度ってことね!」
当麻は愛穂に、こてんぱんにやられた。
いかに自分が臆病者で、傷つくのも傷つけられるのも嫌いな平和主義者か。
そのくせ中途半端に愛を表現するから、相手を困惑させる最悪な男!
とまで言われ、相当へこんだ。全てが図星で、ぐうの音も出なかった。
「だけど私は…。そんな当麻くんを好きになっちゃった。」
突然の愛の告白!
ストレートに気持ちをぶつけてきた愛穂に、当麻はドキドキが止まらない。
今までどれほどの恋のアプローチを受けてきたことだろう。
ファンからのブログへのコメントも、真剣な愛の告白ばかり。
だが愛穂ほど、自分の弱さもかっこ悪い所も全部引っくるめて好きだ!
と言ってくれた人は他にはいない。
当麻自身も愛穂になら、すべてをさらけ出して素の自分でいられるような気がした。
少しずつ、雪見と一緒に居るときのような居心地の良さを感じ始めた当麻。
徐々に、愛穂の事をもっと知りたいと思うようになっていた。
当麻の、新しい恋が始まった瞬間である。
それから二日後の九月最終日の朝。
その日は、雪見が健人専属カメラマンとして現場について歩く最後の日でもあった。
健人が、来て欲しくはないとずっと願ってた日が、ついにやって来てしまったのだ。
少し情緒不安定気味になってた健人を見かねて今野が、雪見に少しでも
そばにいてくれるよう頼んで、前夜から健人の家に泊まっていた。
「大丈夫。私はどこにも行かないって約束したでしょ?
身体は別々の場所に立ってても、心はいつも健人くんの隣りにいるよ。
そうだ!これを健人くんにあげる。
私がカメラマンになってから、肌身離さず付けてたお守り代わりのペンダント。
今日からこれが健人くんを守ってくれるから。」
そう言いながら雪見はベッドの上で身体を起こし、ペンダントを外して
隣りに横たわる健人の首に付け替える。
「これで大丈夫!健人くんは、もう私から離れられなくなりました!
離して!って頼まれたって離さないから、覚悟しといて!」
雪見が健人をギュッと抱き締め、優しいキスをした。
そして側らにあるカメラを持ち出し、最後の写真を撮り出す雪見。
健人の胸には、雪見の身体から乗り移ったペンダントが、朝の光を反射して
いつまでもキラキラと輝いている。
カメラを見つめる潤んだ健人の瞳は、生まれたてで無防備な子鹿の
怯える瞳そのものだった。
そんな目をしてこっちを見ないで…。
雪見の心も、風で揺れるカーテンと一緒に揺れていた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.160 )
- 日時: 2011/05/22 15:18
- 名前: e (ID: ZpTcs73J)
いやぁ、そんな展開ですか〜 予想できなかったですねぇ。
ここで妃奈子ちゃんがどう行くか、楽しみです笑
ここで、ストーリーのことですが、テレビ局から出るのを妃奈子ちゃんが見てしまい健人を責める所をぬわぁんと、カレンが動画投稿サイトに撮って投稿してしまう!
とか、健人とのデート?を、先約の女友達とやる同窓会兼旅行をしているところを健人に見られてしまう〜とか(その時は、久々の登場となる真由子さんと、女友達の登場お願いします!)
どうです? あっ、私が言ってもつまらないか。 なんかすみません。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.161 )
- 日時: 2011/05/23 21:05
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
写真集撮影最後の一日は、朝八時からドラマの撮影でスタートする。
都内での撮影だが、七時過ぎには今野が迎えに来た。
「おはようございます。」先に雪見が急いで乗り込むが、気恥ずかしくて
今野の目をまともに見ずに笑顔だけで挨拶をする。
それに続いて健人も「おはようございます。」と素早く乗り込みはしたが、
目深にかぶった帽子の下の瞳は、少しの輝きも持ち合わせてはいなかった。
今野が健人の様子を伺うように、チラッと後ろを振り向く。
ただジッと膝の上に目を落とす健人を見て、雪見でもダメだったか…と言う風に
小さくため息をつき、「よし!出発するぞ!」とだけ言って車を出した。
いつになく静まりかえる車内。
雪見は、このままではドラマの撮影に差し支えるのではと心配になり、
なんとか健人に元気を出してもらいたいと、明るく話しかけてみる。
「ねぇ。あの後、当麻くんと愛穂さん、どうなったかな?
せっかく私達がチャンス作ってあげたんだから、うまくいけばいいんだけど。
私はあの二人、すっごくお似合いだと思うな!
愛穂さん美人だし、当麻くんはイケメンだし、めちゃめちゃ目立つカップルだけど。
二人が付き合い出したらさ、どっかにダブルデートなんてしたいよね!
ディズニーランドなんて四人で行ったら、絶対楽しいよね!
まぁ、目立ち過ぎてどう考えても無理だけど…。」
いつもなら車の中が騒がしくなるほど盛り上がる、憧れのダブルデート話に、
ひとつも健人は乗っかってこない。
と言うか、人の話を聞いてんだか聞いてないんだかさえも判らない。
しょうがない。次の手でいくか!
「ねぇ、当麻くんからなんか連絡あった?」
ぐっと近づき、健人の弱点でもある耳元でささやいた。
いつもなら耳元で話すと、「くすぐったいからヤメテ!」と身をよじり
肩をすくめる健人であったが、今日は何の反応もない。
それどころか、「別に。」の一言でこの話題は呆気なく終ってしまった。
相当重症だ。雪見と一晩過ごしたあとの、不自然なハイテンションさも全く無い。
二人のやり取りを聞いていた今野も、ルームミラーで後ろの健人を見ながら、
今日の仕事は大変かもしれないぞ!と覚悟を決める。
撮影現場の河川敷は、まだ空気が肌寒い。
健人のメイク中からカメラを構える雪見の指も、微かに震える。
だが、寒さのせいだけで震えているわけでもなかった。
一枚また一枚と、シャッターを切るたびに終わりが近づいてゆく。
ついこの前までは、雪見自体この日が来ることに何の感慨も無かった。
それどころか、早く編集作業に入りたくてウズウズしていた。
二ヶ月間撮り貯めてきた健人の写真を、あれこれ皆で悩み選び抜いて
一ページずつ仕上げていく喜び。
それを早く味わいたくて、最後の写真を撮る日の思いなど、深くは
考えてもいなかった。
それが今、その時を迎えてみると指が震える自分がいる。
健人と過ごした丸二ヶ月間が、いかに楽しく充実した毎日であったことか。
明日からは朝、今野の車のドアを開けた途端に聞こえる
「おはよう!ゆき姉!」という、健人の弾んだ声も聞けなければ、
現場でカメラを向けた時に一瞬雪見だけにする、特別な笑顔も見られない。
すべてが長い長い時間に見ていた夢のようにも思えて、急に寂しさがこみ上げた。
『健人くんはこんな気持ちになることを、ずっと前から恐れて暮らしてたんだ…。
それなのに私ったら、大丈夫だよ!って言うばかりで、少しも健人くんの気持ちを
理解しようとしてなかったのでは…。』
雪見は後悔していた。
もう少し自分が健人の心に寄り添って、毎日を過ごしていたなら…。
そしたら健人を、あんな悲しそうな瞳にさせないで済んだかも知れないのに。
ファインダーの奥の健人を見つめるうちに段々と視界がぼやけ始め、
いつの間にか頬を涙が伝っていった。
髪を直してもらってた健人が、涙をこぼしながらもカメラを覗き続ける
雪見に気が付き、慌てて駆け寄る。
「どうしたの?なんか嫌なことでもあった?なんで泣いてるの?」
健人がそっと肩に置いた手の温もりが心に染みて、ますます涙が止まらなくなる。
そのうち堪えきれなくなって、「ごめんね、健人くん!」と、雪見は
カメラを手にしたまま、健人の胸に顔を埋めて泣きじゃくってしまった。
健人はもちろん、そのいきなりの光景にびっくりしたのは、周りにいた
共演者をはじめ大勢のスタッフだった。
そこにいたほぼ全員が、健人と雪見の方を凝視する。
が、次の瞬間、見なかったことにしよう!という感じで、またそれぞれの作業を再開した。
「大丈夫?落ち着いた?」
健人の言葉にハッと我に返り、慌てて健人から離れる雪見。
「ご、ごめん…。なにやってんだろ、私。本当にごめん。」
そう言いながら雪見はその場をそっと立ち去り、ロケ現場から離れた所で川茂を眺めていた。
川を眺めていて思い出した風景がある。
初めて二人で健人の実家へ泊まった翌朝。
前日出会った子供達にもらった蟹を、川に返しに行こうと健人と二人、
朝早くにバケツを片手に河川敷を歩いたっけ。
あの時初めて撮ったツーショット写真は、今でも一番大事な思い出の写真だ。
ふと右手にずっしりとした重さを感じ、カメラの存在に気が付いた。
『このカメラのお陰で私は今、健人くんのそばにいられるんだ。
誰にも負けない写真集を私が作ってあげるって、健人くんに約束してたんだ!』
こんなとこにいる場合じゃない!と雪見は走り出した。
健人の写真を、今日という日が終るまで、最後の一枚まで魂を込めて撮すために。
ロケ現場に戻ってきた雪見は、監督に一礼してから遠くでカメラを構える。
雪見が心配で演技に集中出来ないでいた健人が、雪見の姿を見つけた途端
パッと表情が明るくなり、いつもの健人らしい堂々とした演技を見せるようになった。
『良かった!元の健人くんの顔に戻ってる。
イケメン俳優 斎藤健人は、いつもそうでなくっちゃね!』
ファインダーの奥の健人が、「カット!」の声と同時にこっちに駆けてくる。
「ゆきねぇ!今の演技、どうだった?俺、めっちゃ頑張ったんだけど。」
「うん!頑張った、頑張った!今日は仕事がぜーんぶ終ったら、
二人の打ち上げに『どんべい』にでも行こうか。
健人くんの頑張りのご褒美に、私がおごってあげる!」
「やった!じゃ早めに電話して、食べたい物先に注文しておこうっと!」
「そこまでする?どんだけ楽しみなの!」
やっと二人に笑い声が戻って来た。
どうやらお互いが知らず知らずのうちに、相手の心の傷を癒やしていたようだ。
大丈夫!私はもう、泣いたりしない。
健人くんが毎日笑顔でいられるように、私もずっと笑顔でいるから。
目尻のシワがたとえ増えても、嫌いになったりしないでねっ!
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