コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

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アイドルな彼氏に猫パンチ@
日時: 2011/02/07 15:34
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。

なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。

女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。


私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。

同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。

なのに なのに。


浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。

それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。


彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!

なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?


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Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.76 )
日時: 2011/04/01 12:27
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

健人と当麻と雪見は、すでにいい感じに酔いが回り
楽しそうにじゃれ合いながら、カラオケボックスへと移動した。

『どんべい』の入っているビルの五階。
マスターが店を抜け出し、三人の為に部屋を予約しておいてくれた。


「雪見ちゃん!明日記者会見だって覚えてるよねぇ?
俺、テレビの前に正座して雪見ちゃん達を待つんだから、
二人で二日酔いの顔して出て来ないでよ!
もう十二時を回ってんだから、お肌のためにも今日は早めに切り上げて
さっさと寝るんだよ!」

マスターが、店を後にする雪見に向かって声をかける。


「大丈夫、大丈夫!これぐらいのお酒でどうにかなる雪見さんじゃ
ありませんからぁ!
マスター、どうもねっ!今日も美味しかったよぉ!また来ま〜す!」

明らかに、酔っぱらいオヤジと大層変わりのない足取りで
雪見は『どんべい』の暖簾から出て行った。



カラオケボックスは超満員!
マスターの口利きがなけりゃ、入ることは難しかった。

健人と当麻は二人とも目が悪いので、仕事以外ではコンタクトを外し
眼鏡を掛けているのだが、これだけではすぐにバレてしまう。
そこで二人してマスクをかけ、帽子を目深にかぶるのだが
人混みの中ではこれが異様に目立ってしまう。
かと言って眼鏡だけだと、一瞬でみんなに取り囲まれてしまうのは
目に見えてるので、奇異の瞳にさらされながらも足早に
待ち客の前を通り過ぎた。

だが、三人の後ろから何人かの客の声で
「ちょっと!あれって当麻と健人に似てなかった?背も同じ位だよ!」
と言う、結構大きな声が聞こえてきた。


「やばっ!早く部屋に入って!」 健人が雪見の背中を押す。

「バレちゃった?大丈夫だよね?」 当麻が心配そうに言う。

「なんとかセーフ!って感じ?出る時も気をつけないと。」

健人と当麻は一気に酔いが引き、冷静になっていた。
それに引き替え雪見は、相変わらずの上機嫌で二人の間に挟まって、
健人と当麻と腕を組んでいる。


「ねぇねぇ!早く歌おうよぉ!健人くんはミスチルだっけ?
当麻くんはいっつも何歌うの?」

ハイテンションな雪見を間にして、健人と当麻は顔を見合わせた。


「今日はほんと、ほどほどにして帰ろう!
このままじゃ明日のゆき姉は散々だよ、きっと。」

当麻が心配そうに健人に言う。


「そうだな。カラオケは当麻を慰めるためだったらしいけど、
『どんべい』だけで、今日は解散しときゃ良かったかな?
でも珍しいよ、ゆき姉がここまで酔ったのは。
いっつもは俺の方が酔っぱらって、ゆき姉に怒られてるのに…。」

健人が隣の雪見を見ながらつぶやく。

雪見はと言うと、さっさと勝手に、健人が好きだと言っていた
ミスチルの曲を、三曲も連続で入れていた。


「おーい!なんでいきなり三曲も入れちゃうの!
ゲッ!始まっちゃったよ!仕方ない。
斎藤健人ミニコンサートへようこそ〜!
みんな、今日は楽しんで行ってねーっ!」

さすが、エンターティナー健人!切り換えが早い。
本当にここが健人のコンサート会場に見えてきた。
歌はまぁ、そこそこに上手い。が、歌手デビューはないな、って感じ。
ただし、ノリだけは最高だった。
きっと、毎年所属事務所の若手仲間でやっているステージも、
こんな風にみんなを乗せて盛り上がるんだろうな。


三曲続けて歌わされた健人は、さすがにヘロヘロだった。

「あー、汗かいちゃったよ!喉が渇いた!」
そう言いながら、最初に注文しておいた梅サワーを一気飲みした。

「あー、生き返ったぁ!もう、ぶっ倒れるかと思ったよ!
もうやめてね、連続で入れるのは。じゃあ、次は当麻いく?」

「いや、俺はあとでいい。ゆき姉、先に歌って!
ゆき姉の歌が聞いてみたい!いっつも誰の歌、歌うの?」

当麻が隣の雪見に聞いた。


「うーん、だいたい何でも歌えるけど、一番多いのは今井美樹かな?
あ、でも最初に歌うのはいっつもこの曲!私のテーマソング!」

そう言いながらかけたのは、中島美嘉の『雪の華』だった。


雪見はマイクを持って立ち上がり、テーブルの横に空いている
広いスペースに出てきた。
そして、「雪見の華、歌いま〜す!」と高らかに宣言!
だがさっきまで、あんなに酔ってはしゃいでいたのが嘘のように、
前奏が鳴り出した途端、落ち着いた表情の雪見に変っていく。
まるで、「本番!」と声がかかった女優のように、精神を統一して。

「のびた人陰(かげ)を…」とスッと歌い出した瞬間、
健人と当麻はお互い顔を見合わせた。

「なんか、超上手くね?俺、ゆき姉の歌初めて聞いたけどビックリ!」
健人が当麻に言うと、当麻も興奮した様子で

「俺、今一瞬で鳥肌立ったんだけど!見て、この腕!」
当麻が健人に腕を差し出す。

「ねぇ、ゆき姉って前に歌手かなんかやってたの?」

「いや、そんな話は聞いたことがない。あ、小学校と中学校の時は
合唱団にいたっていうのは前に言ってた気がする…。」


間奏中も雪見は歌の世界に入り込み、ただそこに一人だけがいるように
健人と当麻の存在など、全く気にも留めていない様子だ。

二番の頭の小節を歌い出した時、すでに健人と当麻は
何も言葉を発することが出来なくなっていた。
それはまるで、魔法にでもかかったかのような瞬間であった。


健人は、この歌は俺の事を歌ってるんじゃないかと思いながら聞いている。

『雪見がいると、どんなことでも乗り切れる気がする。
だから俺は、こんな毎日がずっと続いてって欲しいと願ってる。』

自分がまさに今思っていることを、この曲は歌っていると思った。

今まで、何度も聞いたことのある曲だったが、
こんなにも深く心の中に染み込んできたことはない。胸が熱くなった。
雪見の声質は、聞く者の心を捉えて離さない不思議な何かがある。


心を捉えられたのは、隣で聞いていた当麻もその一人であった。

目は雪見だけを一点に見据えていた。なぜか、ドキドキが止まらない。
酒のせいか?いや、違う。じゃ、なんで…。
自問自答してみるが、答えを問いつめていくのが怖くなった。
そのうち段々と、また視界がぼやけてきて…。

雪見が歌い終わった時には健人も当麻も、二人で涙を浮かべていた。

それを見た雪見はハッと我に返り、目の前の二人の状況が理解できずに
慌てふためいた。

「ちょっとぉー!なんで二人して泣いてんのぉ?
そんなに私の歌、へたくそだったぁ?やだ、もう!
アイドル二人を泣かした私って、どうすりゃいいのよー!!」


涙をポロポロこぼすイケメン二人を前にして、すっかり酔いも醒め
途方に暮れる雪見であった。






Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.77 )
日時: 2011/04/02 09:55
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

いよいよ写真集制作発表記者会見の当日。
雪見はそんな大事な日の朝だと言うのに、案の定最悪な気分でいた。

昨日は二時間ほど三人でカラオケを楽しんで、また来ようね!と
健人と当麻と別れ、それから真っ直ぐ帰ったまでは記憶にあるが、
どうやら家に着いた途端、ベッドに倒れ込んで寝てしまったらしい。

化粧は落とさずそのまま寝たので顔がヨレヨレ、
お気に入りの買い取ったばかりの服はシワシワ、
ふわふわにカールしてあった髪はグチャグチャ。
しかも、相当に頭が痛い。

「はぁーっ…。なにやってんだろ、私。33にもなって…。
こんなことじゃイカンよねぇ。しっかりしろよ、雪見!」

そう言いながら自分の頬を両手でパン!と叩き、
よっしゃ!と気合いを入れてベッドから飛び降りた。

『一時からの記者会見に間に合うように、最高の私を作らなくちゃ!』

まずはお風呂に入りながら、顔のマッサージを念入りに。
深酒のせいでむくんだ顔を、何とか元に戻しホッとする。
あとは爪の手入れと、まだ少し腫れぼったい目をどうにかして、と。

十一時にはまた、会見場でもある『ヴィーナス』出版社での
事前打ち合わせと着替えがあるので、十時半には家を出たい。
まだ一時間半はあるか。健人くんはどうしてるかなぁ…。
そんなことを考えてた時、ケータイにメールが届いた。

健人くんからかな?ちょっと期待して開いてみると、
それは真由子からのメールであった。

    
    元気?いよいよだね。
    私も珍しくドキドキ!
    仕事が手につかない!
    どーしよう(Q_Q)↓
    とにかく落ち着いて、
    堂々と雪見らしく稟と
    して会見に臨んで。
    私も一時には会見場に
    行くから!パパにお願
    いしちゃった!(^_^)V
    じゃ、またあとで!

        mayuko


ええーっ!会見場に来るのぉ?嘘でしょ?
あ痛たたっ!また頭痛がしてきた。勘弁してよ!
真由子に見られてると思ったら、益々緊張してきた!
まぁ、真由子の目的は私じゃなくて、健人だろうけど…。

はぁーっ、と深くため息をつき、真由子に返信を送った。

 
    来るのはいいけど恥ず
    かしいから、あんまり
    こっち見ないでね!
    まぁ、恥をかかないよ  
    うに祈ってて。
    最大の難関に挑む私に
    パワーを送ってよ!
    では、また後で。

       by yukimi


真由子の父にも、娘の前で恥をかかせる訳にはいかなくなった。
よし!少し気合いが入ったぞ!頑張らなくちゃ。

雪見はめめに餌をやり、水を取り替えて頭をなでてやる。
めめにもパワーをもらって行かなきゃね。

そして準備を整えて、少し早めに家を出た。

いつものドーナツショップに立ち寄り、いつもの席でカフェオレと
オールドファッションの軽い朝食。
段々と心が落ち着いてきた。
こういう時こそ、いつもと変わりない行動が心を静める。
大丈夫、大丈夫。きっと上手くいく。自分に暗示をかけた。
そしていよいよ会見場へと出向く。


一方健人は、朝の八時からすでに雑誌のインタビューに答えていた。
昨日の酒と涙と花粉症のせいで、少し腫れた目をしながら…。

「今度、新しい写真集を出すんです。今、撮影の真っ最中なんですけど
カメラマンが親戚のお姉さんなもんで、リラックスして撮ってます。
素顔の斎藤健人をお見せできると思いますよ!
是非、今年のクリスマスプレゼントにどうぞ!(笑)」

やっと今日からこの話題が解禁になったので、健人は嬉しそうに
インタビューに答えていた。
その後も立て続けに二つの取材をこなし、急いで出版社へと向かう。


会見場となる出版社の大ホールでは、粛々と準備が進められていた。
このビルの最上階にはワンフロアを使った大ホールがあり、
この出版社から出す本の制作発表や、受賞記念パーティーなどは
すべてここで行なわれている。

打ち合わせの行なわれる会議室に行く前に、チラッと会場を見ようと
雪見がドアを少し開けてホールをのぞいた。

『えーっ!?こんな広い会場でやるの?うそだぁー!』

雪見は、見なきゃ良かったと後悔したが後の祭り。
一気にドキドキが加速して、せっかく取り戻した平常心を
またしても失ってしまった。


ため息をつきながら会議室に入ると、すでにプロジェクトメンバーは
先に打ち合わせ中であった。
程なくして真由子の父である編集長の吉川と健人、
マネージャーの今野が会議室に入ってきた。
健人は雪見の姿を見つけて、ニコッと笑って席に着く。

「それではみんな揃ったようなので、予定時刻より早いが打ち合わせを
始めよう。いよいよ今日の記者会見から全てがスタートする。
みんなには気を引き締めて臨んでもらいたい。
今回の会見は、いつもの斎藤健人一人の会見とは大きく訳が違う。
ほとんど無名に近い雪見さんが隣りにいるからだ。
記者の注目は、今回ばかりはすべて雪見さんに集中すると言っても
いいだろう。
そこで、手っ取り早く雪見さんを理解してもらうために、会場で
これを配ることにした。進藤くん、みんなにも配ってくれたまえ。」

それは、手のひらサイズの健人の写真集であった。

「今まで撮した中から何枚かを選んで、こんなのを作ってみたが
どうだろう。いいと思わないか?本編を期待させる出来だと思うが。」

こういうのを作りたいから写真を送ってくれ、と言われ
デジカメで撮った中からお気に入りを何十枚かパソコンで送信したが、
実際出来上がった実物を見ると、自分で撮った写真とは思われないほど
お洒落なレイアウトが施され、完成度が高かった。
きっとこれをそのまま売っても売れるだろう。そんな写真集だった。

健人と今野も、初めて見る雪見の写真に目を見張った。

『俺のことを、こんな風に撮してくれたのはゆき姉が初めてだ。
まったく今までの写真とは違う。本当の俺がここにいる!』

健人は嬉しかった。

『やっぱり思ってた通りだ。ゆき姉にしか本当の俺は撮せない。
ずっとずっと、ゆき姉にだけ俺を撮してて欲しい!』

そんな気持ちで胸がいっぱいになった。

でも雪見の気持ちは変らない。これが完成したらまた猫の元に帰ろう。
そう思って打ち合わせを聞いていた。


「じゃあ、あとはまた進藤くんと牧田くんに任せたよ!
最初の印象が肝心だからね。よろしく頼むわ!」
そう吉川が言って先に会議室を出て行った。

「じゃ、私たちもメイク室に移動しよう。雪見さん、頑張ろうねっ!」
進藤と牧田の心強い応援に雪見は、「はいっ!」と笑顔で答えた。


いよいよ人生最大の大舞台に立つ時がきた!

高潮した頬の雪見を、横で健人が少し寂しげに見つめていた。


Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.78 )
日時: 2011/04/03 10:15
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

メイク室で今日の衣装を渡され、雪見が着替えをして出てきた。

今日の衣装は、昨日の女の子チックなワンピースから一転、
真っ白なシャツに、カーキ色の細身のカーゴパンツというスタイルだ。
雪見のいつものスタイルに近く、だがキリッとして仕事のできる
女性カメラマンを演出した。
靴は、本当なら記者会見なのでお洒落にハイヒールを
合わせたいところだったが、健人とのバランスを考えて、
Dr.マーチンのベージュ色のワークブーツに。
これは雪見も、まったく同じ物を仕事で履いている。
なるべく普段の雪見に近い物をチョイスした。

「うん、いいね!今日のキーワードは『腕利き美人カメラマン』
だからね。そのつもりでいてねっ!」

スタイリストの牧野が雪見に笑顔で言う。

「えーっ!またそれですかぁ?」 雪見は不満そうだ。

「我慢して!編集長のどうしても外せないこだわりだから。
多分、ずっと『美人カメラマン』路線で行くと思うよ。諦めて!」

メイクの進藤も、笑いながら雪見を促した。

「ほら、次はデキる女のヘアメイクをするから、そこに座って。」

「はーい。」

今日の髪はダウンスタイルで、大きめなカーラーでゆるく巻き髪を作り
またふんわり感を出していた。

「服がわりとボーイッシュだから、髪の毛はあえて女性っぽくね。
みんなが憧れる、仕事のできる綺麗なお姉さんがイメージかな?
でも、女っぽすぎても同性の反感を買いやすいから、ほどほどに。
いくら健人くんの親戚だって言っても、あまりに女を感じさせると
ファンの嫉妬の対象になっちゃう。」

「そうだよ。今回一番気をつけなくちゃいけないのが、
健人くんのファンの目だからね。
だからあえて女性らしさより、私はカメラマンです!っていうのを
全面に押し出した格好にしたの。
あとは小道具としてカメラを持って出るのをお忘れなく!」

牧田が念を押した。

進藤が雪見にメイクをしながら聞いてくる。

「ねぇ、なんだか昨日より目が腫れぼったいけど、もしかして昨日
飲み過ぎた?健人くんと。」

「え?私昨日、健人くんと飲みに行くって言いましたっけ?」

「あ!いや、なんとなーくそうかなー、と思って…。」

「いやぁ、実は飲み過ぎちゃったみたいで。今朝は最悪でした!
途中から当麻くんも来て、居酒屋で飲んだあとにカラオケ行って…。」

「えーっ!当麻くんって、あの三ツ橋当麻くん?
なんて豪華な飲み会なのぉー!羨ましすぎるよ、雪見さん!
イケメン二人に囲まれて飲んでたんでしょ?そりゃお酒も進むわ!」

横から牧田が興奮して口を挟んだ。

「ねぇねぇ、当麻くんってどんな感じ?
あの子も綺麗だよねぇー!肌が透き通るように白くて、セクシーで。
健人くんは可愛い系のイケメンだけど、当麻くんは綺麗系だね。」

「えーっ!当麻くんってセクシーですかぁ?全然違いましたよ!
私には、泣き虫って印象しか残ってないなぁー。」

「うそぉ!当麻くん、泣いたの?雪見さんの前で?どうして!」

「なんか、二回とも私が泣かしたって、健人くんが人聞きの悪いこと
言うんだけど…。彼女の事聞いた時と、私の歌聞いて泣いたんです。
だから、泣き虫だと思う、彼は。
健人くんも割とよくウルウルしちゃう方だから、泣き虫仲良しコンビ
なんです、健人くんと当麻くんは。」


そう話していた時、鏡の前の雪見のケータイがメールの着信を伝えた。

「あれ?誰からだろ?うそ!当麻くんからだ!噂してたのバレた?」


       元気?ゆき姉!
       昨日は楽しかったね!
       すぐに俺を仲間に入れ
       てくれてありがとう!
       さすが親友の彼女だけ
       あるわ。
       俺もすっかりゆき姉の
       ファンになりました。
       また一緒にカラオケ
       行って下さい m(__)m
       今日は俺もテレビで見
       てるからね!頑張れ!
       あ、俺がメールした事
       は健人に内緒ね。
       あいつ心配性だから。
       じゃ、また会える日を
       楽しみに!

            BY TOUMA


メールを読んで雪見はドキッとした。
どういう意味でこのメールを送ってきたのか…。

健人の前で普通にアドレス交換したのに、健人に内緒ってどういう事?
それとも私の考えすぎで、単純に親友の彼女に昨日のお礼を
言いたかっただけ?
そうだよね!私ったらバカみたい。仲良しに送る普通のメールじゃん!
それだけ三人は、昨日で仲良しになったって言うことだよね。
うん、そうだ!別にやましいメールなんかじゃないよ!

自分の中でそう決着をつけた。
ただ一つ、このメールを健人に内緒という事だけが心に引っかかるが。


「なになに!当麻くんからのメールなのぉ?
いいなぁー!羨ましすぎる!で、なんて?」

「もしかして牧田さんって、当麻くんのファンだったりします?」

「えー!バレちゃった?私、ああいう綺麗な顔に弱いんだよねぇー。」

「じゃあ今度、当麻くんを撮して、写真プレゼントしますね!」

「ほんと!?やだ、嬉しい!ありがとう、雪見さん!」

牧田が少女のように喜ぶ姿が微笑ましかった。



準備の済んだ雪見と健人が、吉川に大ホール横の控え室に呼ばれた。
部屋には他に誰もいない。

「最後に念を押しておきたいのだが、くれぐれも君たちの関係は
親戚同士ということを忘れずに。
多分、この前の噂を質問してくる記者が必ずいるだろう。
でも毅然とした態度で堂々と、二人は親戚関係以外の何者でもない事を
宣言するんだ。まぁ、二人にとっては辛い宣言だがな…。
だが、ここをクリアしない限り、次には進んで行けないんだ。
わかってくれるよな?」

吉川の言葉に、二人は黙ってうなずいた。

「よし!その後のことは全部俺たちに任せろ!
必ずこの写真集をヒットさせてみせるから。
発売までいろんな企画を仕掛けるつもりだから、益々忙しくなるのを
覚悟しといてくれ。じゃ、健闘を祈る!」

吉川の言葉が胸にずっしりと重くのし掛かった。
だが健人も雪見も、吉川の言うことは今の時点ではそれが正しい
とわかっていたので、他に何も言うことはなかった。

この控え室を出た瞬間から、私と健人は以前のように
ただの遠い親戚同士に戻らなくてはならない。

こんなにも好きになってしまった今、
とても辛いことを宣言しなければならない会見が待っているけれど、
二人の絆さえしっかりと結ばれていれば何も心配はいらない。
そう自分の心に言い聞かせ、雪見は健人と最後に握手をした。


どんなことにも負けない、二人の愛を約束して…





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.79 )
日時: 2011/04/04 08:27
名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)

吉川が気を利かせて、会見の前に健人と雪見二人だけにしてくれた。


「なんだか凄い緊張しちゃう。どうしよう、上手く話せるかな…。」

雪見が大きくため息をついた。

「大丈夫だよ。ゆき姉一人じゃないんだから。俺が隣りにいるよ。
もし言葉につまる事があっても、俺がフォローするから心配しないで。
ゆき姉はプロのカメラマンとして、自信を持ってみんなの前に
出ればいい。俺も俳優 斎藤健人として、いつも通りキメるから。」

そう言って健人はすでに人気俳優の顔になり、にっこりと微笑んだ。


「健人くん。私もしかしたら会見で、凄い冷たい事言うかもしれない。
でも、それは本心では無いって事、覚えておいてね。」

「わかってるよ。全ては二人の写真集のため、だよね。
ねぇ、今日の仕事が全部終わったら、また猫かふぇ行かない?
当麻も仕事が終わったら行くって言ってたからさぁ。」

「え?当麻くんも行くの…。うーん、でも私たち、会見終わったあと、
取材が八本も入ってるんだよ、八本も!一体何時に終わるわけ?」

「八本だって、そんなに掛らないさ!今日の取材は全部写真集関連の
話だし、ここの場所で受ける取材だから次々に終わらせれるよ。
じゃ、俺、当麻にメール入れとくね!ゆき姉の芸能界デビューを祝う
ワインを持ってこい!って。」

「芸能界デビューって、そんな大げさな!」

「あれ?まさかゆき姉、今野さんから話聞いてない!?
今日からゆき姉はうちの事務所の所属タレントだって!」

健人がビックリした顔して言う。
が、それ以上に驚いているのは、もちろん当の本人の雪見であった。


「なにそれ!!そんな話、ひとつも聞いてないよ!
どういう事?私が健人くんの事務所の所属タレントって!」

雪見が大声を張り上げて健人に詰め寄る。

「ちょっと落ち着いて!昨日のグラビア撮影の後、
吉川さんがうちの事務所に来て、これからの戦略を話し合ったらしい。
で、いろんな企画をやる上で、ゆき姉がただのフリーカメラマンで
いるよりも、うちの事務所所属のタレント兼カメラマンでいた方が
仕事をやりやすいって言うことになったみたい。
俺は今朝の仕事前に今野さんから聞いた。」

「本人が何も知らされて無いって、どういう事!
私、今野さんに聞いて来る!」

雪見が興奮して控え室を出て行こうとしたその時、
健人が「待てよ!」と、雪見の腕をつかんで引き留めた。


「落ち着けって!落ち着いてよく考えてみて。
これから十二月の発売まで、いろんな企画を仕掛けるって
さっき吉川さんが言ってただろ?
多分ゆき姉は、カメラマンとはかけ離れた事までやることになるよね。
そうなった時、やっぱりマネジメントする人がいないと無理だと思う。
で、来年の四月まではうちの事務所所属ということにして、
当分の間は今野さんがマネジメントするらしい。」

「そんな大事なこと、私に一言の相談もなく…。」

雪見の不快感があらわになった顔を見て、健人が慌てた。

「きっと今野さん、早くにゆき姉に話すとまた緊張すると思って
ギリギリまで黙ってようとしたんだと思う。」


そこに、控え室をノックして今野が入ってきた。

「もうそろそろ時間だから、出る準備してね!」

「今野さん!私、今聞いたんですけど、どういう事ですか!
当の本人に何の説明も無いって!それにまだ契約もしてませんけど!」

「あぁ、ごめんごめん!はい、契約書!話は健人から聞いたでしょ?
そういう事で、今日から俺が二人のマネージャーだからよろしくね!」

「よろしくねっ!って、それだけですか?何にも了承してないのに!」

「みんなが二人の事を考えて、一番いい方法を選んでくれてるんだよ。
本当はこの記者会見のサプライズとして、会見中に雪見さんに発表して
壇上で契約書にサインしてもらう予定だったんだけど、
それは取りやめにした。雪見さんの反応が予想できなかったから。
やっぱり嫌かい?芸能事務所なんか…。」

今野が静かな口調で雪見に聞いた。

「嫌っていうか…。本当にそれでいいのかわかりません…。」

雪見はそうすることによって、これから自分はどうなっていくのか、
想像も付かずに頭が混乱していた。
ただみんなが、私たちに一生懸命力を貸してくれていることだけは
よく伝わってきた。

黙って健人の方を見てみる。

すると健人はにっこりと微笑んで、こくんと一つうなずいた。
大丈夫だよ!いつもの笑顔で、そう雪見に言ってる気がした。


「今野さん。本当にそれが一番いい方法なんですよね?
……わかりました。今日からよろしくお願いします!」

「よかった!どうなることかと思ってヒヤヒヤしたよ!
こちらこそよろしく、新人タレントさん!
じゃ、この契約書に目を通してサインを。」

今野が額の汗を手で拭った。ホッとした表情に安堵感が伺える。

健人もまた、喜びを爆発させたいのを押し殺して、
ただ黙ってニコニコと契約の様子を見守るだけだった。

「よし!これで決まりだ!あと十分で控え室を出て、ステージ横に
移動してて。俺は契約完了を吉川さんに伝えてくる!」

そう言って今野は、控え室を勢いよく飛び出して行った。


今野がドアをガチャンと閉めた瞬間、
健人が「やったぁ〜!」と叫びながら、雪見に抱きついた!

「やった!ゆき姉が俺の後輩になった!サイコ〜!!
ってことは、当麻もゆき姉の先輩になったってわけだ!
あいつ、ビックリするだろうなぁー!メールしなきゃ。」

そう言いながら健人は、当麻にビッグニュースの報告をした。

すぐさま返ってきたメールには、当麻の喜びの言葉が。


       嘘みたいな話だけど!
       マジ!?だとしたら俺
       超嬉しい!今日からゆ
       き姉が俺の後輩なの?
       めっちゃ今日の仕事、
       張り切って早く終わら
       せるから、健人たちも
       猛スピードで終了して
       猫かふぇ集合!
       お祝いのワイン買って
       待ってるよ〜(^_^)V
       んじゃ、この後の会見
       頑張れって、ゆき姉に
       伝えてね!見てるよー


         BY TOUMA

       


一気に序列が逆転し、雪見は新人として二人の大先輩に
教えを請う立場になってしまった。

はたしてこれで本当に良かったのか、未だに明確な答えは出せないが
とにかく動き出してしまった船から今、飛び降りることは出来ない。


心にもやが架かったまま、雪見は健人と控え室を後にした。





Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.80 )
日時: 2011/04/04 09:17
名前: e (ID: ZpTcs73J)

今野たひれ。
雪見には芸能界をやめて、猫のカメラマンを続けて欲しいです。

おねがい
おねがい
おねがい
おねがい
おねがい


そうじゃなきゃ荒らす


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