コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.497 )
- 日時: 2013/08/24 18:26
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「うそ…。健人…くん?え…?
ちょっ、ちょっと止めてっ!Pull over!(車を止めてっ!)」
おいおい、またトイレかい?
このお嬢さんに止めてと言われたのはこれで2度目だぜ、まったく…。
…と、従順な執事と言えども思ったに違いない。
幸いにして、雪見が一足先に会場を後にしたお陰で後続車はない。
運転手は緩やかに車を止め、「どうぞ。」と言うように雪見を振り向いた。
「Thank you!」
雪見がブルーのドレスの裾をつまみ、スッと車から降りる。
その途端、ホワイトハウスから出てくる有名人を一目見ようと集まった人々から
キャーッ!と黄色い歓声が上がった。
その歓声の向こうに立っていたのは…まぎれもなく健人である。
「健人…くん?本物…?私…夢を見てるの?」
ここに居るはずのない健人が、すぐそこにいる。
会いたくて会いたくて仕方なかった人が、今ここにいる…。
雪見は周りの視線も声も一切届かない、雲の上を歩いてるような心地で
一歩ずつ確かめるように足を前へ進めた。
「お帰り、ゆき姉。迎えに来たよ。」
健人はなぜか黒のタキシード姿でそこに立っていた。
穏やかな笑みをたたえ、まるでシンデレラを迎えに来た王子様のように…。
「うそ…健人くんは今頃ニューヨークにいるはずなのに…。
私やっぱり…夢見てる…?」
「オバケじゃないよ。ほら、ちゃんと足がある。
早くゆき姉に会いたいって願ったら、ドラえもんがどこでもドアを出してくれた(笑)」
目の前の人が笑ってる。
私の大好きな笑顔で、顔をクシャクシャにして嬉しそうに…。
あぁ本物の健人くんだ…。神様、ありがとう…。
その姿が涙にぼやけてゆらゆら揺れた時だった。
横から大きな声がした。
「誰がドラえもんやねんっ!」
「…えっ?…ゆ、優くんっ!?」
「健人ぉ!それを言うなら、どこでもドアじゃなくてタケコプターでしょ(笑)
ヤッホー!ゆき姉ーっ!俺も迎えに来たよー!」
「うそっ!?翔ちゃん!」
「ついでに俺もお供しました、ワンッ!」
「ホンギくんまで!…ねぇ、なんで今『ワンッ!』て吠えたの?」
「うらしまたろう?…いや違った。犬がお供したのって、ももたろう?
なんかそんな感じで付いてきたから、急に吠えたくなった(笑)」
健人も優も翔平も、お腹を抱えて大笑いしてる。
まるでずっと前から親友だったみたいに居心地良さそうに…。
「予想外にめっちゃ面白いヤツだよ、こいつ。
俺、ここに着くまでに何回も車ん中でビール吹いたもん。
タキシードの股間が、いい感じにまだ濡れてる(笑)」
翔平とホンギが、じゃれ合って仲良く肩を組んでる光景が信じられない。
健人と優が、顔を見合わせて目の前で笑ってるのが信じられない。
だってここは、みんなが居るはずのない遠く離れたワシントンなのだから。
「やっぱり私、夢の中…?それとも酔ってる…?
だって優くんと翔ちゃんは日本に居るはずだもん…。
それに健人くんとホンギくんだって、今頃はレッスン終わってヘトヘトで
NYの家に居るはず…。
しかもなんで4人ともタキシード姿なの?あり得ない…。」
「おいっ!ゆき姉がユーレイでも見てるみたいな顔してるぞ。
早く誰か説明してやれよ(笑)」
優が翔平に向かって大笑いしながら言う。
「えー!めんどくせー!それよか早くここを退散しようぜ。
なんか盛り上がってるうちに、めっちゃ写メられてんですけどー!」
翔平が自分らの状況に気付き、辺りをキョロキョロ見回した。
確かに、出待ちをしてる人達以外にも報道陣のカメラさえこっちを向いてる。
「みんな勘違いしてるみたい。
あなた達がそんな格好だから、パーティーの招待客と勘違いされてるのよ。
私、早く帰りたくて先に出て来ちゃったけど、これからここにいっぱい
ハリウッドスターや著名人の乗った車が出て来るの。」
「え?そーなの!?それでゆき姉にまで黄色い歓声が上がったんだ。
あの人達はゆき姉を、女優さんかなんかと勘違いしてるってわけね。
てか、その衣装綺麗だねー!」
「マゴニモイショウ!」
「ホンギ、ナイス突っ込み!」
イェーッ!とホンギと翔平がハイタッチしてはしゃいでる。
雪見は「相変わらず失礼なヤツ!」と頬を膨らませ、翔平の腹に軽くジャブをお見舞いした。
健人がキャハハ!とお腹を抱えて笑いながら、幸せそうに嬉しそうにその光景を見てる。
その横顔を眺めながら優は、日本から飛んで来たことは間違いじゃなかった、と
親友にプレゼント出来た笑顔を嬉しく思った。
「せっかくだから、帰る前にここで記念写真撮ろうぜ!
もう撮られまくっちゃってるから、どーせなら開き直って『俺たちハリウッドスターだぜ!』
って顔でさ。」
優の面白そうな提案に翔平は大乗り気。
「いいねいいねー!どーせツイッターなんかで拡散されるなら、
思いっきりカッコイイ写真にしようぜ!世界が勘違いするようなさ♪」
「じゃあ私、運転手さんに頼んでくるっ!」
雪見は、乗ってきたリムジンの窓をコンコン♪
「Could you take our picture,please?」(シャッター押してもらえますか?)
デジカメの使い方を知らない運転手に、操作を説明しシャッターを切ってもらう。
カメラマンの腕は定かではないが、なんせモデルは超一流。
雪見と健人を真ん中にして、両側に優、翔平、ホンギが勢揃い。
まるで何かのレッドカーペットだ。
この時の画像は瞬く間にネット上に拡散し、日本ではこのメンバーで新作映画か?
とまことしやかに噂が流れた。
「じゃあ、騒ぎが大きくならないうちに、そろそろトンズラしようぜ!
車があっちで待ってるし。」
そう言いながら翔平とホンギは、肩を組んで歩き出す。
それに続いて健人と優も歩き出すと、雪見が慌てて後ろから声を掛けた。
「ちょっと待ってぇ!もちろん私もそっちの車に乗せてくれるんでしょ?
こっちの運転手さんに、乗らないって言ってくるー!」
雪見は、散々世話を掛けた運転手に多めのチップを手渡し謝りながら、
ホワイトハウスに戻って学を乗せてやって欲しいと頼み込む。
そして了承した車が、ゆっくり走り出そうとしたその時だった。
「あ、待ってーっ!STОP!!」
何を思ったか雪見が突然車の前に飛び出し、両手を大きく広げて立ちはだかるではないか!
急ブレーキを踏む音に誰もが悲鳴を上げ、健人は血相を変えて駆け寄った。
「何やってんだよ!バカじゃないのっ!」
普段大声を出したりしない健人が凄い勢いで雪見を叱った。
心臓が破裂しそうになった。目の前で愛する人が轢かれでもしたら…。
「ごめん…。車に大事な物を忘れたの…。取ってくるね。」
雪見が車に乗り込んで取って来た物。
それは健人への大事なお土産『ホワイトハウス・ハニー・エール』であった。
「これ、どうしても健人くんに飲ませてあげたくて…特別に大統領から頂いてきたの。
帰ったらすぐ乾杯できるようにって、車の冷蔵庫で冷やしてたのを忘れてた…。」
ビールの由来と共にもらえた訳を伝えた雪見は、健人にビールを差し出し、
にっこり微笑んでこう言った。
「次はホワイトハウスでこれを一緒に飲もう。」
「ゆき姉…。」
大統領と雪見からのエールを、健人は一生忘れないだろう。
『101回目のプロポーズ』よろしく車に飛び出した雪見の勇姿と共に…。
まぁ一番忘れられないのはきっと、3回も車を止められた運転手に違いないが。
「おーい!そろそろ次行くぞー!時間が押してるから早くー!」
「???」
「翔ちゃん、またリムジンなのぉ!?」と憎まれ口を言いながら雪見と健人が乗り込むと、
白い大きな車は滑るように発進。
「なぁ、次行くぞって、真っ直ぐニューヨークに帰るんじゃないの?」
「お前らの送迎のために、俺と翔平がわざわざ日本から来たと思う?」
不思議顔した健人の質問に、優が翔平と目を合わせてニヤリと笑う。
それを合図に、あっという間に目隠しされてしまった二人。
「お前ら、またリムジンに目隠しかよぉぉぉ!」
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.498 )
- 日時: 2013/08/29 22:31
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
ホワイトハウスを出発してから小一時間ほどの夜10時過ぎ。
あんなに騒がしかった車内は静まり返り、ただ寝息だけがスヤスヤと聞こえる。
やっとお互いの元に戻って来た健人と雪見は、心から安堵したのだろう。
手を繋ぎ、頭を寄せ合って仲むつまじく眠ってる。
日本から13時間もかけてバタバタとやって来た優と翔平も、健人とホンギを
ワシントンに呼び出すという最初のミッションを無事クリアし、満足して眠りについた。
ホンギは…と言うと、ただ一人眠らずにこの不思議な日本人4人をしげしげと眺めてる。
ユウとショウヘイも人気俳優だって言うから、めちゃ忙しいはずなのに
ケントをユキミに合わせるために、わざわざ日本からやって来るなんて…。
しかも見ず知らずの俺まで一緒にヘリコプターに乗せてくれて、こんな高そうな
タキシードまで買ってくれるって…一体何者?
「…俺たちを不思議に思ってんだろ。」
「あれ?ユウ、起きてたの。」
「そんな熱い視線浴びせられたら寝てられんわ。」
優は笑いながらリムジンの冷蔵庫から冷えたビールを取り出し、一本をホンギに手渡した。
「俺たちはね、みんな事務所が違うけどライバルじゃなくて同志なの。
親友を通り越して心の友、心友なんだ。あ、ちょっと難しい?」
「ムズカシイ…けど、ちょっとわかる。」
「健人が今頃、ゆき姉を想って辛い気持ちでいるんだろうな…って考えたら
居ても立ってもいられなくなってさ…。
あ、これがもし翔平だとしても同じだよ。俺と健人はきっと翔平の元に駆け付ける。
たとえそれが地球の裏側だとしてもね。
頭で考えるより先に身体が動くんだ。俺達きっと、一心同体なんだな。」
「イッシンドウタイ…?」
「そう、一心同体。心も体も一つになるほど強く結びつくこと。
だから健人の悲しみは俺らの悲しみ。健人の喜びは俺らの喜び。
健人はホンギが友達になってくれて、本当に嬉しそうに俺らにメールを送ってきた。
だから俺と翔平にとって、ホンギは最初から友達。
健人が気に入ったヤツだもん、間違いない。」
「俺もトモダチ…?韓国人の俺を…ユウのトモダチにしてくれるの…?」
ホンギの目は、見る見る間に涙で満たされた。
「アメリカに一人で渡って来て…必死に毎日生きて…。
芝居に対する情熱は誰にも負けないつもりだけど、お金がないから…
クラスメートとは遊びにも行けない。
そのうち誰も誘いもしなくなって…。
そんな時、ケントが日本から来たんだ。
俺は貧乏だから、って開き直って笑ったらケントは、じゃあうちでご飯食べよう!
ゆきねぇの作るメシはプロ級だから!って誘ってくれて…。
ユキミは、私が帰国した後この家にケントと住んでやって、って…。
初めて会った俺に…だよ?そんなこと…初めて会ったヤツに言う?」
話しながらその時の感情を思い出したのだろう。
手を繋いで眠る健人と雪見を見つめて、ホンギは瞳からポロポロと涙をこぼし始めた。
「そっか…。そんなことがあったんだ。らしいな…。うん、健人とゆき姉らしい。
ホンギも…この二人が好きだろ?俺たちも大好きなんだよ。
だから今日からホンギも友達。俺たちの心友に仲間入りだ!」
「トモダチ…。俺もシンユウ…?うん…トモダチでありがとう…。」
オイオイと泣き出したホンギに優は慌てた。
「泣き上戸かよぉ!」と笑いながら、だけどちょっぴりもらい泣き。
異国の地で頑張ってるホンギを、心から応援したくなった。
「あ…運転手さん!もうすぐですよね?ホンギ、泣いてる場合じゃないぞ!
いよいよ本日最大のミッション現場に到着だ!
いいか?名付けて『トモダチ作戦』。手はず通り、抜かりなくやろーぜ!」
「ラジャ!」
車はニューヨークへ戻る途中の、ある田舎町に着いた。
爆睡最中に起こされた翔平は、まだ寝ぼけ眼。
健人と雪見は、アイマスクをしたまま車から降ろされた。
健人はホンギに手を引かれ、雪見は翔平に手を引かれてそろそろと歩く。
「ゆき姉、足元に気をつけて!
翔平っ!寝ぼけてないで、ちゃんとゆき姉のガイドになれよ!」
荷物を抱えて先頭を歩く優が、後ろを振り向いて叱咤する。
「やだー!こわーい!翔ちゃんのガイド、まったく信用ならない!」
「なんだとぉ!?」
「ねぇ!俺たちを、どこに連れてこうとしてるわけ?
ここどこ?静かだから街の中じゃなさそうだけど…。」
健人と雪見は、優たちの企みがまったくもって想像もつかない。
リムジン+目隠し=サプライズ…であることは間違いないと思うのだが…。
程なく、ギギーッ!と重たいドアの開く音がした。
「ようこそ。お待ちしてましたよ。さぁ、中へ。」
出て来たのは、穏やかな声の老人らしい。
まるで拉致でもされてきたかのような、目隠しの男女を見ても驚かない所を見ると、
どうやらこの老人も優たちの共犯者なのだろう。
「遅くなって申し訳ありません!大至急準備を整えますから、今しばらくお待ちを。
健人、ゆき姉!アイマスク、外していいよ。」
優が流暢な英語で老人に詫びたあと、やっと二人に目を開くことを許可した。
そこで健人と雪見が見たものは…。
「えっ…?マリア…像?ここ…教会?」
「どーゆーことっ?」
驚く二人を前に、ホンギが緊張の面もちで高らかと宣言した。
「只今より、サイトウケントとアサカユキミの結婚式を執り行います!
ふぅぅ…ちゃんと言えた。」
「うそっ!結婚式ぃ!?」
「ちょっ、ちょっと!俺たちの結婚式は3日後なんだけど?」
「3日後は俺も翔平も仕事だよ。だから今日に繰り上げさせてもらった。
二人っきりの結婚式なんて、寂しいこと言うなよ。」
「えっ…?」
「今日も3日後も変わりねーじゃん!
あ!そっちの教会とゆき姉のレンタルドレス店、調べられなかったから
キャンセルしてないんで。
2回やってもいいし、お好きにして(笑)」
「なによ、それ…。私達に何の断りもなく…。
まだ一つも心の準備が出来てないじゃない…。」
雪見は思いもしなかったサプライズに、涙をポロポロこぼしてる。
健人も、優と翔平がわざわざ日本から来てくれた本当の意味を今、理解した。
「お前らってヤツはまったく…。ありがとなっ。サンキュ…。」
健人が声を詰まらせてるのを見て、優と翔平は心底来て良かったと、
サプライズの成功にハイタッチして喜んだ。
ホンギはと言うと、またしても目をウルウルさせて…。
「俺も…看取り人に呼んでくれたんだ…。ユウとショウヘイが…。」
「それでホンギも一緒に呼び出されたのかー!
…って、看取り人って(笑)俺たちこれから息絶えるみたいじゃね?
誰だよ!ホンギに変な日本語教えたヤツ。どーせ翔平だろ(笑)」
「あ、バレた?(笑)ホンギすまん!間違えた。
看取り人じゃなくて見届け人ね。ニホンゴ ムズカシイ(笑)」
みんなの泣き笑い声が、小さな教会の中にこだました。
「じゃあ、ゆき姉。これに着替えてきて。俺たちからのプレゼント。」
優は抱えてきた大きな白い箱を雪見に手渡す。
そっと開けてみると…中には純白のウエディングドレスが入ってた。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.499 )
- 日時: 2013/09/01 00:42
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「これを…私…に?」
信じられない気持ちで箱から取り出し、そっと広げてみる。
それはシルクサテンで出来たマーメイドラインのウェディングドレス。
箱に再び目をやると、なんと雪見が今着てるブルーのドレスと同じブランドではないか。
「うそ…。このブランド…。」
「気に入ってくれた?俺と翔平からの結婚祝い。当麻とみずきとTakaも出資したから。
あ!あとホンギも頑張って一口乗ったよ。」
「晩ご飯一回分だけ…。そんなんでゴメンナサイ…。」
「ホンギくんまで…。ありがとう…。」
お金がなくて朝も昼も食事を抜くのを知ってるから、雪見は有難くて涙が止まらない。
それを見てホンギが「泣かないで。」と優しく頭を撫でた。
「当麻たち…どうしても都合つかなくて来れなかったけど、スゲェ来たがってたよ。
ゆき姉のウエディングドレス姿、写メして送ることになってるから。」
「あのねあのね、言っとくけどそれ、めーっちゃ高かったから!
俺、思わずゼロの数かぞえ直したもん!え?えぇーっ!?て(笑)
けど…健人がその青いドレスに、負けるわけいかねぇだろ?」
「えっ?」
翔平が言う「青いドレス」とは、学を指してるとすぐにわかった。
だが優と翔平は、肩を組みながら不敵な笑みを浮かべてる。
俺たちをナメんじゃねぇーぞ!と言わんばかりに…。
「もしかして…それでわざわざ日本から飛んできた…の?
健人くんを心配して…?」
「ほんとはさ、『ホワイトハウスゆき姉救出作戦』ってのも計画にあったんだけど、
どーみてもムリそうだから止めといた(笑)
ゆき姉が一人で出てきた時はホッとしたよ。」
「ごめん…私のせいで…。」
ゲラゲラ笑う翔平の横で、優が反対側の手を健人の肩に回した。
「こいつの大事なお姫様は、みんなでお守りしないとねっ。
健人の泣き顔なんて、俺たち見たくないから…。」
「あれ?そう?俺は健人の泣き顔も結構好きよ♪」
「優…。翔平…。」
健人が自分より20センチも高い優を横から見上げてる。
いつも自分を雨風から守ってくれる、揺るぎない大木のような優…。
その向こうで翔平は、草原にそよぐ若草のように屈託なく笑ってた。
「ホンギも来いよ!俺たち今日から心友だろ?神様に永遠の友情を誓おうぜ!」
黒のタキシードを着たイケメン4人が、幸せそうに肩を組んでふざけ合ってる。
顔をくしゃくしゃにして笑う健人の嬉しそうな声ときたら…。
こんな幸せな光景は久しぶりに見た気がする。
みんな…本当にありがとう。
いつまでも健人くんのこと、よろしくお願いします…。
「あー、お取り込み中のところ申し訳ないが、そろそろ始めようか?」
待ちくたびれて苦笑いの神父様。
雪見は「ごめんなさいっ!」と大慌てでドレスを抱え、着替えに出て行った。
翔平が言うところの見届け人である3人は、最前列に着席。
これから行われるセレモニーを前に、我が事のように神妙な顔してる。
そして健人はと言うと、ドアの手前で雪見の登場をドキドキしながら待っていた。
本当は3日後に、二人きりで挙げるはずだった結婚式…。
介添人どころか親も友人もなく、新郎新婦と神父様だけでひっそりと執り行われるはずだった。
それが今、ここに3人の親友が見守ってる。
信仰心はないけれど、今日ばかりは神に感謝しよう。
この生涯に素晴らしい友と出会えたこと…。
そして何より、命を懸けて守りたいほど愛する人を、花嫁としてここに
迎えることが出来ることを…。
その時だった。
ギギーッと聖堂のドアが開き、純白のウエディングドレスに身を包まれた雪見が
恥ずかしげにゆっくりと、健人の隣りへとやって来た。
手には野の花のブーケを持って…。
「これ、神父様のお母様に頂いたの。
何も無いと手が寂しがるでしょ?って。綺麗でしょ?」
嬉しそうに健人の目の前に突き出したそれは、つい今しがた夜の庭先から摘んできたらしい草花に
ピンク色のリボンを掛けた、急ごしらえのブーケ。
だけどとても良い香りがして可憐で、まるで雪見のような花束だった。
「良かったねっ。綺麗だよ、ゆき姉も花束も。」
「えへへっ。このドレス、似合ってる?」
「うん、似合ってる。このブランドのモデルになれば?」
「ならないよ。これから健人くんのお嫁さんになるんだから。」
「そっか。俺のお嫁さんか…。」
健人は雪見が可愛くて愛しくて、嬉しくて仕方なかった。
今すぐ抱き締めて、百万回のキスをしたいほど。
だけどレースのヴェールが邪魔だった。
「ねぇ。これって被ってないとダメなの?」
健人が雪見の顔に掛かるヴェールを上げようとした時だった。
「コッホン!誓いのキスはまだ後です。それよりも、二人ともこちらへ来なさい。
そんなところに居たんじゃ、神様に誓いの言葉が聞こえませんよ。」
「あ…!」
健人と雪見はまだ聖堂入り口でいちゃついてたのだ。
慌てて腕を組み、神父様の前へ歩み寄る。
すぐ後ろからは「クックック…。」と3人の噛み殺した笑い声が聞こえてきた。
「健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、
これを愛し、これを敬い、これを慰め、これを助け、その命ある限り、
真心を尽くすことを誓いますか?」
「はい、誓います。」「誓います。」
「では、誓いのキスを。」
「キスだってー!」「シーッ!静かにっ。」
翔平が優に怒られた。
目の前で3人が、固唾を呑んで凝視してるのがわかる。
雪見は恥ずかしくて仕方なかった。
みんなは俳優だから、人前でするキスなんて慣れっこかも知れないけど、
私は女優じゃないのよ!と…。
「やだ…。みんな見てるもん。」
「ヤダ…ってったって、誓いのキスしないと式が終わんないでしょ?」
やっと訪れたこの時に、何を言い出すのやら…と健人が溜め息をつく。
「だって翔ちゃん、絶対ヒューヒュー♪とか言いそうだもん!」
「言わねーよっ!小学生のガキじゃあるまいし。」
「コホン!では誓いのキスを!」
再び神父様に促され、健人が両手でそっと雪見のヴェールを持ち上げて瞳を見つめる。
「愛してる。一生変わらずに…。」
「私が健人くんを幸せにしてあげる。永遠の愛は…ここにあるよ。」
お互いの柔らかな微笑みが、お互いの心を真綿のように包み込む。
永遠の愛なんて無いと思って生きてきた健人が、確かに今ここにあると信じることが出来た。
二人の唇が静かに重なった時、やはり翔平は「ヒューヒュー♪」とはやし立て、
優はパチパチと拍手をし、ホンギはウルウルと涙ぐんでた。
永遠の愛の見届け人として…。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.500 )
- 日時: 2013/09/04 22:35
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「今日はご無理を聞いて頂き、ありがとうございました。
他に何件も当たったのですが、なんせ信者でもないしこんな時間だし、
急な話過ぎてどこも断られて…。
神父様が快く引き受けて下さったお陰で、大切な友人の門出を皆で一緒に
祝福してやることが出来ました。」
式が滞りなく終わり、この教会を手配した優が神父様に握手を求めて礼を言う。
「いいえ、あなたの熱意がきちんと伝わったからですよ。
わざわざ日本から親友のために飛んでくるなんて、ここでお引き受けしなければ
私が神様から叱られてしまいます。」
神父様がそう微笑みながら健人、雪見とも握手する。
「あなた達も良い友人をお持ちで幸せだ。
今度はあなた達が、その幸せを皆に分け与えなさい。
イエス様の教え『汝の隣人を愛せよ』とは、あなたに関わるすべての人を
大切にしなさいと言うことです。
友人は勿論、今一番感謝して大切にすべきはご両親だ。
たとえすでに天国に召されていたとしても、二人が出会い伴侶となることが出来たのは、
あなた達をこの世に生んでくれたご両親なのですから。」
神父様の言葉に雪見も健人もハッとした。
そうだ、日本にいる家族に結婚の報告をしなくては。
まさか今日、式を挙げるなんて思ってもいないからビックリするだろうな。
当麻やみずきや多くの友達、スタッフ、応援してくれたファンのみんなにも
写真と共に感謝の気持ちを伝えよう。
幸せな今があるのは、支えてくれたみんなのお陰なのだから。
そして母にはこう伝えよう。『産んでくれてありがとう』と…。
雪見は病床の母の顔を思い出し、幸せそうな娘の写真を見たら少しは元気になってくれるよね、
と淡い期待を抱いた。
「翔ちゃん、写真撮って!ルミックスフォンに変えたんでしょ?
この中で一番いいカメラ機能搭載してるのはそれだもん。
私、カメラなんて持ってきてないし。」
「えーっ!俺が撮るのぉ?俺も写りたいのにー!」
「あとで撮ってやるって!
まずは新郎新婦を撮って、ウエディングドレスの出資者にも報告メール送らないと。」
優になだめられ、翔平は渋々スマートフォンを構えた。
目の前の二人は、幸せオーラを全開にしてキラキラと輝いてる。
普段から仲良しでお似合いの美男美女だとは思ったが、今日はいつもの百倍増しに見えた。
『結婚ってやっぱ、いいもんなんだね。俺にもいつかこんな日が来るかな…。』
画面を覗きながら、絵になる二人をボーっと眺める。
すると被写体である雪見から、すかさず叱責が飛んだ。
「翔ちゃん!撮影中は考え事しないっ!ちゃんと集中して!
いい?綺麗に撮ってくんないと怒るからっ!」
「ちょっとぉ!俺、素人だよ?プロのカメラマンにそんなこと言われたら泣くよ?」
みんなで大笑いしながら撮影会は続く。
優、翔平、ホンギが健人と交代。新郎のフリして雪見と写真に収まったり、
神父様とも一緒に記念撮影したり。
最後の一枚は、神父様に何度もシャッターの切り方を教えて優、健人、
雪見、翔平、ホンギが勢揃いして撮してもらった。
「わ!神父様が撮してくれたのが一番素敵♪
ありがとうございました!本当に何とお礼を申し上げたらいいのか。
お母様にも、こんな素敵なブーケをプレゼントして頂いて…。
遅い時間になってしまったから、お母様はもう休まれてしまったかしら。
もしよろしければ…お礼と言っては何ですが、お母様に私から一曲、
歌をプレゼントさせていただけませんか?」
「えっ?」
突然の申し出に、神父様は目をパチクリ。
だが、すぐに何かを思い出したように「あなたはもしや…。」と雪見に尋ねた。
「あなたたち、ホワイトハウスからここへ来たと言いましたよね?
もしかして…大統領がおっしゃってた日本の歌姫とは、あなたのことでは?
パーティーで『アメイジンググレイス』を歌いませんでしたか?
ここへ来た時に着ていたブルーのドレスにも見覚えがある…。
そうだ!さっき、あなたをニュースで見た!」
「ええーっ!ニュースぅぅう!?」
「なになに?神父様、何て言ったの?」
英語が得意ではない翔平が、隣の優に通訳を求める。
「ゆ、ゆき姉が…どうやらアメリカの有名人に仲間入りしちゃったみたい…。」
優が訳したことは、微妙に間違いだった。
なぜなら、神父様が言った「ニュースで見た!」とは、アメリカの
ニュース番組だけの話ではなかったから。
なんと、雪見が大統領ファミリーの前で歌い大絶賛された時の映像が、
何者かの盗撮によってYou TubeにUPされてしまったのだ。
その事をアメリカのテレビ局が大々的に報じたのだが、知らぬは本人ばかりなり…。
ホワイトハウスを後にして、この教会で健人と誓いのキスをしてる頃には、
その動画再生回数は百万回を突破。
すでに雪見は世界の歌姫になっていた。
「是非とも歌を聴かせて頂きたい!今、母を呼んで来ます!」
慌てて聖堂を出て行った神父様の後ろ姿を、ただボーゼンと眺めるだけの雪見。
「うそ…。またおかしな事態になってる…。どーしよ…。」
「一体ホワイトハウスで、何やらかしてきたんだか。」
さっき雪見に叱られた仕返しとばかりに、翔平が大袈裟に呆れてるところへ、
神父様が高齢の母の手を引きながら聖堂へと戻って来た。
「先程はこの花束、ありがとうございました。
とっても嬉しかったので何かお礼をと思ったのですが、生憎何も持ち合わせてなくて…。
昔たった一回だけ、教会で歌ったことがあるのを思い出したんです。
中学生の頃に入ってた合唱団でのことなんですけどねっ。」
「20年も前に歌ったきりで、上手く歌える保証はないんですけど。」
と笑いながら雪見が歌い出したのは…。
シューベルト作曲「エレンの歌第3番」の『アヴェマリア』
いつものごとく目を閉じて歌い出したのだが、その瞬間皆は身動き一つ出来なくなった。
聖堂に響き渡る歌声は柔らかく、だけど力強い聖母マリアの声そのものだと
誰もが錯覚してしまったのだ。
「おぉ、なんてことでしょう…。マリア様が降臨された…。」
神父様の母が、涙を流しながら十字を切る。
その年老いて小さくなった肩を抱き締めながら、神父様も涙していた。
もちろん優も翔平もホンギも。
しかし健人だけは、泣くのを忘れて見とれてる。
こんなに凄い人なんだ、ゆき姉は…。
なのに歌をやめちゃったなんて…。俺の…ため…に?
「はぁあ!?結婚指輪、日本に忘れて来ちゃったのぉ!?
だから誓いのキスしか無かったってわけ?どんな結婚式だよ、まったくー!」
「翔ちゃん!健人くんが泣くから言わないで!」
「あははっ!健人らしからぬ失態だな、そりゃ。
ま、どーせ日本に戻って落ち着いたら、身内だけでもう一回やるんでしょ?
そん時に忘れなきゃ、それでいいさ(笑)
それより、まだ乾杯してなかったな。
ニューヨーク着くまであと3時間はかかるから、車ん中で祝賀会やろうぜ!」
やっと癒えた傷を再び翔平に突かれ、落ち込む健人を優が笑いながら慰める。
ホンギはよっぽど翔平とウマが合うのか、絶妙なボケとツッコミで漫才コンビのよう。
結婚式帰りのリムジンの騒がしさは、いつもながら小学生の遠足バスだった。
「じゃ、健人とゆき姉の結婚を祝して、カンパーイ!
うめーっ!さすがドンペリくんだぁ♪これ、優のおごりだよね?」
「翔平と全部ワリカンだよっ(笑)」「うっそーっ!?」
ワイワイがやがや大はしゃぎしてるところへ、雪見のケータイがふいに鳴る。
見ると…それは学からの電話であった。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.501 )
- 日時: 2013/09/09 20:33
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: nVQa3qMq)
「ねーねー、誰かのケータイ鳴ってるよ?」
『しまった!ホンギくんに気付かれちゃった!』
雪見は慌ててバッグの中でこっそり電源を切り、素知らぬ顔をする。
今ここで学からの電話に出ることなど、到底出来るはずがない。
なんせ今は、車の中での結婚披露宴真っ最中。
純白のウェディングドレス姿で健人の隣りに座ってるのに、元カレからの電話になぞ
どうして出られようか。
一瞬焦ったが、その直後に鳴った優のケータイに救われた。
「え?…あぁ俺だわ。当麻からのメールだ!
『なんでみんな黒のタキシードなんだよっ!誰が新郎かわかんねーよ!』だって(笑)」
優が、健人と共通の友人らに一斉送信した教会での記念写真。
それにいち早くおめでとうの返信をしてきたのはやはり、一番付き合いの長い当麻だった。
「確かにこの写真、俺たちみんな新郎に見えるー!」
「みーえーなーいっ!」
翔平の言葉を雪見が全力で否定すると健人が笑ってくれた。
その笑顔を曇らせたりはしない。
私はあなたのためにだけ生きる。
この世でたった一人、あなたの奥さんにしてもらえたのだから…。
「ねー翔ちゃん、私と健人くんを撮って!みずきや友達にも直接報告したいから。
あ!うちの母さんや弟夫婦にもまだ報告してなかった!
健人くんもまだ実家にメール入れてないでしょ?
みんな3日後だと思ってるから、今結婚式終わったよ♪って写真送ったら
ビックリするだろうなー。だって自分でも信じられないもん(笑)
うーんと幸せそうな写真、送ってあげよーっと。」
そう言いながら雪見は健人の腕にギュッとしがみつき、その肩に頭をちょこんと乗せた。
健人の胸が雪見の温もりにキュッと鳴る。
二人きりになって、思い切り抱き締めたい。
何度も何度もキスをして、その白い肌に触れたい。
いや…。俺の知らない空白の時間を…早く塗り潰したいんだ…。
やっぱ、もうこんな思いはゴメンだよ…。
健人は雪見にしがみつかれた腕をほどき、肩を抱き寄せ耳元で小さく囁いた。
「帰ったら…一緒にお風呂入ろっか。」
「ピピーッ!ちょっと、そこっ!くっつき過ぎっ!イエローカード!」
翔平が笑いながらシャッターを切る。
優もホンギも、心友の幸せそうな笑顔に思わず自分の頬も緩んでることに気付く。
心友の幸せは自分の幸せ。ここまで来た甲斐があったよ…。
「あれ?ちょっと待って。俺んとこにも、めっちゃメールが来だしたんだけど。
……え?
『お前ら、アメリカで何しでかしたの?スゲェ騒がれてるけど?』
って…なにがぁ!?」
翔平が素っ頓狂な声を上げたところに、今度は健人のケータイが鳴った。
見るとそれはチーフマネージャーだった今野からの電話である。
「もしもし?今野さん?お久しぶりです!
え?あ…当麻のマネージャーさんから聞いちゃいました?
スミマセン!そーいうことなんです。
本当は三日後だったんですけど、優たちがサプライズで用意してくれて…。
いや、マジ、たった今報告しようと思ってたんですって!ほんとです!
…えっ?ゆき姉?いますよ、隣りに。
ゆき姉、ケータイ切ってるの?今野さんが話あるから繋いどけって。」
「えっ?私に?もしかして今野さん…怒ってる?報告入れてなかったから…。
やだなー電源入れるの。どうしても入れなきゃ…ダメ?」
「きゃははっ!ゆき姉が、おーこらぁれるぅー!」
はやし立てる翔平にベェーと舌を出しながら、雪見はバッグから渋々ケータイを取り出し、
電源を入れて素早く着信履歴も消去した。
と同時に掛かってきた今野からの電話。
『よぅ!結婚おめでとう!随分と電撃婚だったな(笑)』
「す、すみませーんっ!(あれっ?思ったより機嫌がいいぞ?)
ほんと、ちょっと前に教会を出たんで、これからゆっくりご報告しようと…。」
『そんなことはどうでもいい。』
「えっ?どーでもいいって…。」
(失礼でしょ!結婚をどーでもいい呼ばわりは)
『お前…今日ホワイトハウスのパーティーに招待されたそうだな。
こっちはなーんにも聞いちゃいねーけどよ。』
(ヤバッ!事務所に了承採らなきゃマズかったかー!)
「あ、あのっ!それも合わせて今ご報告しようかと…。
これには深ーいワケがありまして。
そのぉ…元カレ、いや、ナシドマナブって言う科学者が招待されたんですけど、そいつが…」
丁寧に全容を報告しようとしたが、その前に今野に遮られた。
『事務所が大変なことになってるぞ。』
「えっ!?大変なことって…。キャーッ!やっぱマズカッタですぅ?
(どーしよ!勝手に出席しちゃったもんな…)
あのっ!今回のことは健人くんには一切関係ありませんっ!
だから処分されるのは私であって、健人くんは何も関わりない事ですから!
そーですそーです!パーティーは結婚式挙げる1時間前のことだから
まだ夫婦じゃなかったし、連帯責任とか…」
『は?なに言ってんだ?お前だよ、お前っ!
お前さんに世界中からオファーが殺到して、さっきから事務所の回線がパンク状態だ!』
「…え?……おっしゃる意味が…。」
「なにっ?どうしたの?ゆき姉っ!」
今野と雪見のやり取りを心配そうに見守ってた健人が、雪見のケータイを奪い取り
今野に慌てて詰め寄った。
「ゆき姉が処分されるんですかっ!?
ホワイトハウスのパーティー出席は、俺が承知したことです!
事務所に報告しなかった俺が悪いんであって、ゆき姉は何も…」
『おいっ!俺の話をちゃんと聞けっ!まったく似たもの夫婦で困った奴らだ(笑)
いいか?驚くなよ?
雪見に、いや『YUKIMI&』に…世界デビューの話が来たぞっ!」
「…えっ?」
健人は意に反して頭の中が真っ白になった。
それを今野はビッグニュースとして興奮気味に伝えてきたが、自分の内側にある扉は
その話の続きをシャットアウトしたがってた。
でも…。
これはゆき姉本人が聞くべき話。
俺が聞いて、どうこう言うべきことじゃない…。
たとえ結婚してたとしても、ゆき姉の人生はゆき姉のもの。
俺はそれを受け止め、支え、見守るだけ…。
ついさっき思った事とは裏腹な定義を頭に教え込む。
たった今、急ごしらえで立てた夫婦の定義…。
もしそれが綺麗事に聞こえたとしても、自分の本心に鎧を着せてたとしても
愛する人が望むのであるなら、甘んじてそれを受け入れよう。
「わかりました。詳しい話は直接ゆき姉にしてやって下さい。喜ぶと思います。
俺は彼女の決定に従いますから…。」
そう言うと健人は「今野さんからビッグニュースだって。はいっ。」
と雪見にケータイを手渡した。
程なく、暗がりの窓の外に目を移した健人。
すれ違った車のヘッドライトが、綺麗で寂しげな横顔を浮かび上がらせる。
大丈夫。私はここにいるよ。いつでも健人くんの隣りに…。
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