コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
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- アイドルな彼氏に猫パンチ@
- 日時: 2011/02/07 15:34
- 名前: め〜にゃん (ID: AO7OXeJ5)
今どき 年下の彼氏なんて
珍しくもなんともないだろう。
なんせ世の中、右も左も
草食男子で溢れかえってる このご時世。
女の方がグイグイ腕を引っ張って
「ほら、私についておいで!」ぐらいの勢いがなくちゃ
彼氏のひとりも できやしない。
私も34のこの年まで
恋の一つや二つ、三つや四つはしてきたつもりだが
いつも年上男に惚れていた。
同い年や年下男なんて、コドモみたいで対象外。
なのに なのに。
浅香雪見 34才。
職業 フリーカメラマン。
生まれて初めて 年下の男と付き合う。
それも 何を血迷ったか、一回りも年下の男。
それだけでも十分に、私的には恥ずかしくて
デートもコソコソしたいのだが
それとは別に コソコソしなければならない理由がある。
彼氏、斎藤健人 22才。
職業 どういうわけか、今をときめくアイドル俳優!
なーんで、こんなめんどくさい恋愛 しちゃったんだろ?
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- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.232 )
- 日時: 2011/07/02 13:34
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
う さんへ
始めに、こんなお話をなんだかんだと言いながらも155話まで読んでくださり
本当に有り難うございます!
題名の件ですが、最後まで書いてみて猫パンチな場面が出てこなかったら
『アイドルな彼氏と猫トーク!』に変更します。
あ!やっぱ、もう少しよく熟考してから付け直します。
まさか、そんなに題名にこだわられるとは思いもしなかったので、
書き出す時に適当につけました。
とにかく『アイドル』『彼氏』『猫』のお話になることは間違いなかったので。
『猫』とくれば『パンチ』しか思いつかなかったので。
『パンチ』がいけなかったのですね、きっと。
だから、いつ喧嘩シーンが出て来るのかと…。
でも、多分この先もたいした喧嘩はしない二人だと思います。
だって雪見は一回りも大人だし、健人は雪見に甘えたい人だから…。
大体、まだ同棲して一晩しか過ごしてないのに、ラブラブじゃないのもイヤです!
一日の話を、実際は何日にも渡って書いてるので、お気付きにならないかと思いますが
実はまだ二人が出会って、四ヶ月ほどしか経ってないのです!
たった四ヶ月でこれだけの出来事があるのも驚きですが、四ヶ月で喧嘩をするような
恋人同士もイヤです。っつーか、それなら同棲しない!です。
なので、ラブラブ期間はまだしばらく続く予定です。
このお話にそんなに期待しないで下さいね。
書いてて自分が暗くなるお話はイヤなんで、基本毎シーン、ハッピーエンドですので。
まぁ、もっと後には「雪見の誤解で健人と喧嘩し、のちによりを戻す」
的なお話も出るはずです。
そこまで読んじゃいられないわ!って場合はゴメンナサイです。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.233 )
- 日時: 2011/07/03 14:16
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
「やっぱ、戦隊ヒーローの人気って絶大だよね!
だってもう番組終ってから何年?健人が高三の時でしょ?てことは三年前だ。
それなのに、まだあの子たち信じてたもんね。俺もヒーロー物、やってみたかったなぁ!」
汗を滲ませキムチ鍋を頬張る当麻が、うらやましそうに健人に言った。
「まあね。あの時は学校との両立でしんどかったけど、あれが無かったら
今の俺の人気はないからね。やらせてもらえて感謝してる。
戦隊ものってさ、大体親子で見るじゃん。
だから、一家でファンになってくれる確率が高い!」
健人がビールを飲みながら笑ってる。
「そうか!だから健人のファン層は厚いんだ。納得!
でも、まさか健人のいとこが写真誌のカメラマンだなんてね。
ゆき姉からメールもらって、ビックリしたよ。もう現れないといいけど…。」
「きっと目をつぶっててくれるよ。俺の事、可愛がってくれてた人だから…。」
健人は願いを込めて、そうつぶやく。そしてキッチンに立った雪見に、礼を言った。
「ゆき姉、ありがとね。俺だったらこんな作戦、思いつかなかった。
もしかしたら、お金で解決しようとか思ったかも知れない。
だったら俺って、最低だよね。ゆき姉一人も守れないなんて…。」
そう言って健人はビールを飲み干し、手の中の缶をグシャッと握り潰した。
雪見が冷えたビールを持って戻り、健人の隣りに座る。
「健人くん、それは違うよ。今回は私が健人くんを守りたかっただけ。
健人くんと思い出を守ってあげたかったの。
だって、健人くんにとっては大切な人でしょ?あの人。
私も血が繋がってるわけだし、悪い結果にだけはしたくなかったから。
健人くんが、いつも私を守ってくれようとしてるのは、ちゃんとわかってるよ。
だから危険を承知で、私と一緒に暮らそうと思ったんでしょ?」
「ゆき姉…。俺、本当に何があってもゆき姉を離さないから。
ゆき姉がいない毎日なんて、もう考えられない。」
「健人くん…。」
二人は、ただお互いの瞳を熱く見つめ合った。
雪見が健人の頬に手を伸ばし、ゆっくりと顔を近づける。
と、その時!
「ストーップ!間違っても俺の前で、キスとかしないでよ!」
慌てて当麻が止めにかかる。
「フフフッ…。もうダメッ!
アーッハッハ!見た?今の当麻の顔!最高だったよ!」
「やだ、可笑しすぎてお腹が痛いっ!当麻くん、やっぱ可愛いっ!」
健人と雪見が、お腹を抱えて笑い転げてる。
「うそっ!?もしかして、今の芝居だったの?ゆき姉まで?なんだよ、それ!?」
当麻が、バツ悪そうに顔を赤らめる。
「ゆき姉、完璧っ!役者の当麻をだませちゃうんだから。
歌手の次は女優になりなさい!そんでこの三人でドラマに出よう!」
健人が嬉しそうに言う。
「うーん、それはない。三月まで思いっきり歌ったら、早く猫カメラマンに戻らなきゃ。」
雪見は笑いながら言ったが、健人はおろか当麻までもが、急にしゅんとした。
「ねぇ…。なんでそんなに三月にこだわるの?
別に猫カメラマンに戻るのに、約束の期限なんてないじゃん。」
健人が、ずっと気になってたことを、思い切って雪見に聞いてみる。
「そう、期限なんてないよ。だから自分で期限を決めてるの。
じゃないと、いつまでたっても戻れない…。」
当麻もこの際だからと、思ってる事を口にした。
「もし、ゆき姉のデビュー曲がヒットして、事務所が契約の延長を申し入れたら?」
「あははっ!そりゃない!ヒットだなんて、あり得ないから心配ご無用!
あ、もう一つ理由があった。三月は健人くんの誕生日があるから。」
「えっ?俺の誕生日?それと何の関係があるのさ。」
「21日の誕生日に、ファンとのバースディイベントがあるでしょ?
それを最後の仕事にしたいんだ。健人くんの専属カメラマンとして、
22歳のパーティーを最後に写して終るなんて、すっごく素敵じゃない?
絶対に、一生忘れられない仕事になると思う。」
雪見は一瞬、カメラマンの顔になった。
「やだよ!俺は。悲しくて一生忘れられない誕生日になる。」
そう言って健人は、悲しげに目を伏せる。
「ねぇ、健人くん。ごめんね、今日ははっきり言っとく。
この世界は、やっぱり私のいるべき場所じゃない。
なんだか、私の夢からどんどん遠ざかってる気がするの。
だから早くに軌道修正しないと。
健人くん達より私は、十二年も夢を実現する時間が短いんだから…。
それにさ、こうやって一緒に住み始めたんだし、離ればなれになるわけじゃないんだから
今の生活と何にも変わらないって!
あー、やめやめっ!また年の話で暗くなっちゃう!
やだ!お鍋も煮詰まってるじゃない!少しお湯を足さないと…。」
雪見はキッチンへお湯を沸かしに立った。
残された健人と当麻は、すっかり考え込んでいる。
「夢を実現する時間、か…。当麻はそんなの、考えたことある?」
「無い。健人は?」
「俺も無い。っつーか、夢自体ぼんやりしてて、よくわかんないや。
けどゆき姉には、はっきりと夢が見えてるんだよね。
ある意味うらやましいな…。」
そこに雪見が戻ってきて、健人と当麻に聞いた。
「ねぇ。夢の実現の方法って知ってる?
急がば回れで、一番小さな夢から一つずつ叶えていくの。
一つ夢が叶うと、『あぁ、夢が叶うってこんなに嬉しいものなのか!』
って思って、もう一つ夢を何か叶えたくなる。
で、一歩ずつ大きな夢に近づいていくんだ
私は、わらしべ長者方式って思ってるんだけどね。
健人くんの一番小さな夢ってなに?」
「一番小さな夢?なんだろ。最初に頭に浮かんだのは、お休みもらって
一週間ぐらい、のんびり旅行がしたいかな?」
「じゃ、当麻くんは?」
「俺?そうだなぁ。あ!ダブルデート!彼女を連れて健人たちとダブルデートがしたい!」
「いいねぇ、それ!楽しそうじゃん!ディズニーランドとか行けたら最高だねっ!」
「よしっ、決まり!まずは当麻くんの夢、叶えよう!
で、昨日は香織のアドレス、聞き出せたのかな?当麻くん。」
「いや、それが…。真由子さんの邪魔が入って…。」
「ほんとに真由子ったらもう!
当麻くんが自分で聞き出すことに、意義があるんだけど…。
仕方ない!教えてあげるから、あとは作戦考えてどうにかしよう!
きっと叶えるぞ!ダブルデート!」
いやに雪見が盛り上がってる。
それにつられて健人と当麻も、俄然夢の実現が楽しみになってきた!
今夜の飲み会も、まだまだ終わりは遠いに違いない。
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.234 )
- 日時: 2011/07/04 13:15
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
健人と雪見が同居を始めてから一週間。
今日10月29日(金)は、いよいよラジオで課題曲を発表する日。
そう、『当麻的幸せの時間』の中で三人に出された課題曲『WINDING ROAD』を
初めてラジオで披露する日なのだ。
ここ一週間、健人と当麻はなんせ仕事が忙しく、デビュー曲のレッスンさえもままならない。
よって課題曲の練習も、三人で合わせたのはいつだったっけ?と言う状態だった。
その日の朝。
昨夜も遅くまでドラマの撮影が続いていた健人を、七時過ぎまでは
寝かしておいてやろうと、雪見はそっとベッドを降りる。
今日は八時に今野が迎えに来る予定。
健人は、「美味しそうな匂いに起こされるのが夢だった!」らしいから
毎日雪見は早起きして朝食を用意する。
準備が整ったところで健人を起こしに寝室へ。
毎朝のお楽しみは、起こす前に健人の寝顔をじっくりと鑑賞すること。
翼の折れた天使が飛び立てずに疲れ果て、ここで寝てしまったのか?
そんな錯覚を覚えるほどに、綺麗で可愛い寝顔を独り占めできるのは、
『神様、ありがとう!』と、天に感謝しなければ罰が当たる。
一時間でも二時間でも眺めていたいのは山々だが、いい加減にして起こさなければ!
「健人くん、朝ご飯出来たよ!起きて!」
「うーん…。もう朝なの?」 天使のお目覚めだ。
だが、この天使は少々寝起きが悪い。
別に低血圧って訳でも無さそうだが、パッと飛び起きたためしがない。
しばしベッドの上でゴロゴロし、自然と覚醒するのを待つ。
その間、雪見もベッドに上がり、一緒に隣でゴロゴロするのは
至福のひとときと言わずして、なんと言おう。
「今日はいよいよ、課題曲発表する日だよ!
後半、あんまり三人で合わせる時間無かったから、なんか心配。」
雪見は、朝のこの時間に大体のスケジュールを確認したり、意志の疎通を図ったりする。
健人の仕事が忙しい為、思いの外、二人でゆっくりと語らう時間が持てない。
だから毎朝のこの『ベッドごろごろタイム』は、二人がすれ違いにならない為にも、
貴重で大切な時間なのだ。
「大丈夫だよ。俺とゆき姉はここんとこ毎日ハモってるし、当麻だって
ちゃんと練習してるから。うまく合わせられるって。」
「三人で出す初めてのCDだもんね!出来上がりが楽しみ!」
「まぁ俺達の歌は、当麻のCDのおまけみたいなもんだけどね。
こんな豪華なファンプレゼント、聞いたことないよ!」
「三上さん、太っ腹!」
こんな他愛もない話をしてるうちに、健人はシャキッと目覚める。
今日も忙しい一日のスタートだ!
健人を「じゃ、夕方ね!」と見送り、窓を開けて部屋を掃除する。
今日は出版社に出社予定はないので、ラジオ局へ出向く四時までは家にいられるのだが、
今日一日は歌のレッスンに費やすつもりでいた。
まずは今日が一発勝負の『WINDING ROAD』を、これでもか!と言うぐらいに歌い込む。
まぁ、この歌は、雪見一人がいくら練習したところで三人の息が合わなければ、
どうもこうもないのだが。
最近益々強まった三人の絆で、なんとかなるでしょう!と思うことにする。
次に一番時間を費やしたのは、勿論デビュー曲。
レコーディングまでは、あと三週間ほどしかない。
今日みたいに三人で、お遊び的に吹き込むレコーディングとは訳が違い
誰を頼ることもできない、自分との孤独な戦いだ。
レッスン初日に、トレーナーの柴田からもらった、ただ一つのアドバイス。
『誰のアドバイスも聞かない方がいい。』その言葉も、一層雪見を孤独にした。
はぁぁ…。なんか、大好きな歌を歌ってるのに、ちっとも楽しくならないってどういうこと?
こんな気持ちでいくら歌っても、聞いてる人に伝わらない気がする…。
もう今日はこれでおしまいにしようかな…。
そうだ!今日香織、仕事が休みだって言ってたっけ。
ちょっと、メールしてみよう!
雪見は香織に「今、何してる?」とメールする。
するとすぐに「部屋の模様替え」と返信が来たので、「うちに来ない?」と誘ってみた。
「いいよ!」の返事にやった!と雪見は小さくガッツポーズ。
どうやら当麻のダブルデートのお膳立てを、密かに企んでいる様子。
急いでランチの支度に取りかかる。
三十分後、香織がケーキを手土産にやって来た。
「いらっしゃい!会いたかったよ!」「なによ、それ?気持ち悪いなぁ。」
雪見は時間がもったいないと思い、パスタを食べながら早速本題に移る。
「ねぇねぇ。当麻くんからメール来た?」
「え?あぁ、来たよ。雪見が教えたんでしょ?私のアドレス。」
「だってこの前は、真由子に邪魔されて聞けなかったって、当麻くん、
悲しそうだったから。で、なんて書いてあったの?」
「今度みんなでどっか行きませんか?って。
みんなでって、健人くんや雪見、真由子とって事でしょ?」
「真由子はどうかなぁ?私的には四人でって意味かなぁと思うんだけど。四人じゃイヤ?」
「別に雪見もいるし嫌じゃないけど、真由子が聞いたらどうなると思う?」
一番の難関は、香織を誘い出すことではなく真由子だった!と、この時初めて
気が付いた雪見であった。
バレた時の事を考えると身も縮む思いだが、当麻のためだ!仕方ない。
真由子抜きに多少の難色を示した香織を説き伏せ、何とかダブルデートの約束を取り付けた!
後は健人と当麻のスケジュール次第なのだが、これまた忙しすぎる二人のこと、
休みがぶつかる日なんて、いつ来るのだろう…。
と言うか、この先レコーディングに写真集出版イベント、限定コンサート、
デビュー前キャンペーンと、年内のスケジュールはドラマ以外にも目白押し。
ほとんど絶望的だったが、取りあえずは当麻に喜んでもらえるかな?
ラジオ局に行くのが楽しみになってきた。
午後三時半。香織と一緒に車で家を出て、途中買い物をして帰ると言う香織を降ろし、
雪見はラジオ局へと向かう。
少し早くに着いたが、家でじっともしていられず、スタジオのドアを開ける。
「おはようございまーす!」 目の前に当麻が立っていた。
思わずニヤッとしたのだろう。当麻が怪訝な顔をして雪見を見た。
「当麻くん、おはよう!いよいよ今日だね!調子はバッチリ?」
「うーん、ところがそうでもない。なんかここんとこ、疲れが溜まってきて…。」
「あれぇ?こんな大事な日に、テンション低いんじゃない?いかんなぁ!
どれ!お姉さんが元気の出る魔法をかけてあげる!耳貸して。」
雪見がささやいた、ダブルデートの約束交渉成立!の知らせは、
当麻に栄養ドリンク百本飲ませるよりも、確かな効き目があった!
さぁ!あとは健人の到着を待って、最後の音合わせをしよう!
なんだか楽しい歌が歌えそうだ!
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.235 )
- 日時: 2011/07/05 11:49
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
「おっはよーございまーす!」
健人がやっと到着した。入ってくるなり、テンションが高い。
何か良いことでもあったのか?
「お疲れ様!ずいぶんとご機嫌じゃない?健人くん、なんかあった?」
雪見がすかさず健人に聞いてみる。
「11月のスケジュールもらったんだけど、一日だけ休みがあったから
もう、メッチャ嬉しくて!ゆき姉も、15日は休みを取ってよね!」
「えーっ!健人、休みもらえたの?俺、また一日も休み無かった…。」
当麻ががっかりした顔して言う。
「良かったね!年内はお休みもらえないと思ってた。」
「俺も!でも、その後はしばらく休めなさそうだから、覚悟しとかなきゃ。
あれ?当麻は?なんでマネージャーんとこ行ったんだ?」
ガラスの向こうで当麻が、マネージャーの豊田に両手を合わせて、
何かをお願いしている。
その姿を見て、雪見はすぐにピンときた。
必死にお願いする当麻の姿が、なんともいじらしい。
「なにやってんだろ?当麻。」
健人が不思議そうな顔をしたので、香織の話を教えてやった。
「え?そうなの?じゃ、あとは当麻が15日に休みをもらえれば、
ダブルデートが実現できるってわけ?そう!それであんなに必死なんだ。
けど、当麻は俺よりスケジュール詰まってるからなぁ…。
豊田さんにお願いしたって、無理なんじゃね?」
「まぁね。けど取りあえずは全力でお願いしてみるとこが、当麻くんらしいじゃん。」
そこへ三上が入ってきて、本日の打ち合わせがスタート。
「今日は大事な事が二つある。一つめはもちろん課題曲の録音だ。
課題曲は番組のエンディングで歌ってもらう。
一発録りだから、みんな準備だけはしっかり頼むぞ。
打ち合わせが終ったら、すぐに最後の音合わせをしてくれ。
もう一つ、こっちの方が今日は重要だ。
さっき、健人たちの事務所と打ち合わせた結果、今日の放送内で急遽、
三人の来年1月5日CDデビューを、発表することに決まった!」
「ええーっ!?今日、いきなり発表しちゃうんですかぁ!?」
三人が驚くのも無理はない。
報道各機関にも、まだどこにも発表していないのに、いきなりラジオで告知するなんて!
来月20日のレコーディング後に発表と聞いてた三人は、まだしばらくは
のんびり生活できると考えていたのだが、今日発表となると明日から、
いや放送直後から生活は一転するだろう。
きっと蜂の巣を突いたような騒ぎになることは、間違いない。
三上が言葉を続ける。。
「今日の放送は、当麻と健人のファンのみならず、今までこの放送を聞いたことの
なかった層にまで口コミで広がって、三人の歌は今、相当な注目を集めている。
だから今日、本人たちの口から直接発表するということは、マスコミが
事務所の公式文書をそのまま発表するよりも、はるかに衝撃的だろう。
もちろん明日にはマスコミ各社に正式発表をするがな。
『誰よりも先に、ファンのみんなに自分たちの口から直接知らせたかった。』
そう伝えるんだ。きっとさらに一生懸命応援してくれることだろう。」
「えーっ!てことは、課題曲が上手く歌えなかったらすべてが台無しと言うか、
下手したら前評判ガタ落ちで、デビュー後の人気にも影響が大きいじゃないですか!
こんなことしてる場合じゃない!早く音合わせしないと!」
当麻たちは焦っていた。
こんなことになるのなら、もっと真剣に三人で歌い込めば良かった!と。
いつも思うのだが、どうもタレントというのは、会社の中の一つの駒に過ぎないらしい。
現場の都合で駒をあっちに動かされたり、こっちに動かされたり。
そこに駒の都合などは、まったく関係ないのだ。
健人は、『あぁ、これで休みは無くなった…。』とぼんやり思った。
いつものことだと諦めようとする自分に、ずいぶん大人になったもんだと苦笑いをする。
「よし!そうと決まったら、やるっきゃないでしょ!
絶対に完璧に歌うからね!健人くんも当麻くんも、気合い入れて歌ってよ!」
雪見は、健人が何を感じているのかを読み取れた。
だから自分が二人の気持ちを盛り上げていかないと、モチベーションが下がって
いい歌など歌えないと思った。
「そうだね。みんなが俺たちのデビューを、ワクワクして待っててくれるような
そんな『WINDING ROAD』を歌おう!じゃ、ギリギリまで練習、練習!」
当麻も気持ちを切り替えて、その場の空気を盛り上げる。
健人はやっと微笑んで、「よっしゃ!やりますか!」と椅子から立ち上がった。
♪ 曲がりくねった道の先に 待っている幾つもの小さな光
まだ遠くて見えなくても一歩ずつ ただそれだけを信じてゆこう
三人は、出だしだけを何度も何度も繰り返し歌う。
ここさえ完璧に歌えれば、あとは問題なかった。
「もうここまで来たら、お互いを信頼して楽しく歌おうよ。
自分たちが楽しんで歌えば、多少コケたってみんなに伝わるさ!」
当麻の意見に二人とも賛成だった。
「そうだよね。それにさ俺たち、元々は俳優とカメラマンなわけだし、
みんなだってそのつもりで聞いてるよ、きっと。
だから失敗しても、『まぁ良くやった!』と思ってくれるだろうし、
成功したら、『凄い凄い!』って褒めてくれるだけさ。」
健人が笑って言った。
雪見は、二人がそう言ってくれて、少し気が楽になる。
健人と当麻の人気に傷を付けてはいけないと、いつの間にか肩に力が入っていた。
「良かった!そう思っててくれるなら、私も失敗を恐れずに、力一杯歌うことが出来る。
そうそう!私はなんたって猫カメラマンですから!
もし失敗したら、『誰よ?猫カメラマンなんかに歌わせたのは!』って、
三上さんのせいにしちゃおうっと!」
雪見が笑いながら三上に視線を向けると、ガラスの向こうで三上が首をすくめた。
「よーし!じゃあそろそろスタンバイして!
デビューの告知は、こっちで流れを見て指示出しするから。
リスナーの反響を知りたいんで、わりと早めのタイミングで告知になると思う。
伝えなきゃならない事は、そこに書いてある通り。
それだけきちんと告知したら、あとはそれについて、三人で自由に喋ってかまわないよ。
当麻、頼んだぞ!上手くリスナーを盛り上げてくれ!」
「OK!まかせて下さい、三上さん。絶対にみんなの記憶に残る放送にしてみせるから!
じゃ、よろしくお願いしまーす!」
いよいよ、運命の時間がやって来た!
- Re: アイドルな彼氏に猫パンチ@ ( No.236 )
- 日時: 2011/07/06 16:46
- 名前: め〜にゃん ◆qUW4buJWjM (ID: AO7OXeJ5)
「みなさーん!元気でしたか?今週も金曜日がやって来ましたよ!
『当麻的幸せの時間』お相手の三ツ橋当麻です。
今日は何の日か知ってる人!そうです!毎月最後の金曜日は、課題曲の発表会の日です!
と言うことで、先週に引き続きこの二人も一緒だよ!」
「どーもー!斎藤健人です!いやぁ、今日の緊張感は身体に悪いわ!
俺、腹痛くなってきたもん。」
「おいおい!初っぱなから、それはないでしょ、健人くん。
今日は大事な日なんだから頼むよ!
あれ?隣の人もビミョーな顔してるし!大丈夫?ゆき姉!」
「ぜんぜん大丈夫じゃない。どうしよう、私もお腹痛くなってきた。」
「な、なんでこの一族は、すぐお腹が痛くなるの?
やめてよ!歌ってる途中で、二人してトイレに抜けるのだけは。
今日は三人揃っての課題曲なんだからねっ!」
「わかってるって!どうでもいいから、早く進行して。」
健人のドキドキ感が、隣りに座る雪見にも伝わってくる。
「よし!ホントはもっと引っ張ってから、告知しようかと思ったんだけど、
多分リスナーさんからの反響が凄いと思うから、もう、さっさと発表しちゃいましょう!」
「えーっ!もう早、言っちゃうのぉ?当麻、もうちょっとじらすとか
何とかすれば?もったいなくね?」
「だってさ、俺らがゴチャゴチャ言ってても、聞いてる人は何の話か
さっぱり見当も付かないで聞いてるんだよ?
面白くないでしょ、それじゃ。それよりとっとと発表して、みんなで盛り上がりたいじゃん!」
「それもそうだね。じゃ、代表して年長者のゆき姉、お願いします!」
健人にいきなり振られて、雪見はびっくり!
「うそっ!?私が言うのぉ?やだ、当麻くんが言ってよ!」
「じゃ、こうしよう。自分の事は自分で言う。これならいいでしょ?」
「うん、わかった。では、お先に発表させて頂きます。
えーと、わたくし浅香雪見は来年1月5日、CDデビューさせて頂くことになりました!
ふぅぅ…。では次、当麻くん、どうぞ!」
「ええーっ!?それだけで終わり?」
「いや、詳しい話は後でいいでしょ。私一人がデビューすると思われても困るから。
いいから、早く当麻くんたちも発表しちゃって!」
「よし!じゃあ発表します!俺、三ツ橋当麻と斎藤健人は…。
結婚することになりましたっ!」
「違うだろっ!何いきなり、訳わからんこと言ってんだよ!
どうすんの?明日のスポーツ紙一面トップ記事が、それだったら!
早く訂正しないと、ツィッターで流されちゃうよ!」
ガラスの向こうのスタッフ達も、みんなで大受けしてる。
「ごめんごめん!じゃ、改めて発表します!
俺と健人もユニットを組んで、ゆき姉と同じ1月5日、念願のCDデビューを
果たす事が決まりました!イェーイ!どう?これでいい?」
「OK!取りあえずはいいでしょう!あー、疲れた。やっとお腹痛いの治ってきた。」
健人がホッとした表情を見せた。
「じゃあ、もっと詳しく伝えた方がいいんじゃない?
これだけの情報だと、二人のファンは混乱するよ、きっと。」
「そうだね。じゃあ今度は俺から話させて。
俺と当麻は、踊りに力を入れたツインボーカルのユニットになる予定。
俺、高校ん時ずっとダンス習ってたから、ほんとに念願の!なんだよね。
歌はまぁ普通だとは思うけど大好きだし、何より当麻とユニットを組めるって言うのが
今回は一番嬉しい!当麻は?」
「俺もね、実はCD出せる事よりも、健人と一緒にやれるのが一番嬉しいんだよね。
こんなことをプロデュースしてくれた、この番組のプロデューサー、
三上さんに感謝感謝の日々です。頑張ろうな!健人。」
「はいはい!そのまんま、本当に結婚しちゃいなさい!
まったく、どこまで好き合ってんのよ、この二人。」
「あー、妬いてんだ、ゆき姉!ごめんね、しばらく健人を借りるから。」
「ちょ、ちょっと!変なこと言わないでよね、当麻くん!
もういいでしょ?二人の告知は。じゃ、次は私の番!
えーと、私はアーティスト名がローマ字表記で『YUKIMI&』と言います。
最後につく『&』は発音しないんだけど、健人くんと当麻くんにつながってる、
って意味があるんだよね。めっちゃ気に入ってます!
で、デビュー曲はとっても素敵なバラードで、歌詞は私が書かせてもらいました。
『君のとなりに』って言う題名をつけたの。どう?」
「えーっ、そうなの?いいじゃん、いいじゃん!
あのね、みなさん。ゆき姉の歌は泣けます!あ、悲しい歌って意味じゃないよ!
心に染み込んできて、自然と涙が溢れるって言うのかな?知らないうちに涙が出てるの。
俺と当麻は泣きました!もちろんです。」
「あっれー?あんな所になぜかキーボードが置いてある!
あ!きっと神様が、一足早くみんなに聞かせてあげなさい!って置いてったんだ!」
当麻がわざとらしい演技で、誰に言うともなくニヤニヤと言った。
「んなわけないでしょ!どーりでさっき、ADさんがキーボードだけ片付けないで行ったから
おかしいと思ったんだ!ダメでしょ?レコーディング前に歌っちゃ!」
「プロデューサーが向こうでOKサインを出してるんだから、いいんだって!」
当麻が強引に押し切ろうとする。
「もし事務所に怒られたら、みんなのせいにするからね!知らないよ!」
雪見は健人に笑顔で背中を押され、渋々キーボードの前に座る。
「はぁぁ…。まさかここで歌うことになるとは…。仕方ない!
猫カメラマンが歌う歌だから、期待しないで聞いて下さいね。
では『君のとなりに』、聞いて下さい。」
雪見は少し目を閉じた後、静かにキーボードを奏で始める。
すでに自分だけの世界に入り込み、何かが乗り移ったかのように
先ほどまでとは明らかに違う瞳をしていた。
雪見が歌い終わったあと、とんでもない騒ぎになるとはこの時
まだ誰も気がつかなかった。
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