二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て11」 ( No.516 )
日時: 2016/10/22 22:03
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 これで一回戦の試合はすべてが終了した。
 Aブロックで勝ち進んだのは、暁と一騎。
 Bブロックで勝ち進んだのは、美琴と浬。
 Cブロックで勝ち進んだのは、沙弓。
 以上の五人が次の対戦のステージに進むことができるわけだが、ここでシード権が発動する。
 Cブロックを勝ち進んだ者、即ち沙弓は、二回戦シード権を得て、二回戦の対戦が免除される。よって、二回戦はAブロックとBブロックの二試合だけだ。
 二回戦第一試合、まずはAブロックから。
 対戦カードは、暁と一騎だ。
「一騎さん! 一昨日は負けたけど、今日こそは勝たせてもらうよ!」
「一昨日? なにかあったのか?」
「いや……まあ、色々ね」
 あの覗き騒ぎに関しては女子陣に丸投げしたため、どのように処理されているのかわからないが、ミシェルの反応を見る限り、実体は知られぬままらしい。
「あの時は俺もどうにかしてたよなぁ……まあ、一昨日もそうだったけど、今日だって負けるつもりはないよ。沙弓ちゃんにも手伝ってもらって、ずっと調整してきたからね」
「……部長、一騎さんとなにやってたんだ?」
「んー……まあ、色々ね」
 あの夜のことは、いまだ誤解が生まれているのだが、当人たちは気づいていないのか気にしていないのか、誤解は誤解のまま、誰も解こうとしない。
「それなら私だって! 一騎さんは絶対に強敵になると思ってたから、秘密兵器も用意してるしね!」
「秘密兵器……?」
 最後に意味深なことを言って、暁と一騎の対戦は、開始された。



空城 暁
〜爆熱武装のドラゴンビート〜

vs


剣埼 一騎
〜戦場を駆ける炎龍剣士たち〜












超次元ゾーン:暁
《爆熱剣 バトライ刃》×1
《ガイアール・カイザー》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《時空の火焔ボルシャック・ドラゴン》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《ブーストグレンオー》×1
《ドラゴニック・ピッピー》×1



超次元ゾーン:一騎
《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》×1
《大いなる銀河 巨星城》×1
《銀河大剣 ガイハート》×1
《将龍剣 ガイアール》×1
《最前戦 XX幕府》×1
《天守閣 龍王武陣—闘魂モード—》×1
《熱血爪 メリケン・バルク》×1
《熱血剣 グリージー・ホーン》×1



 暁と一騎の対戦。
 どちらもまだシールドは五枚ある。
 一騎は《爆砕面 ジョニーウォーカー》でマナを伸ばしつつ、《爆熱血 ロイヤル・アイラ》で手札を整えている。
 一方、暁はまだ殴り始めておらず、《勝負だ!チャージャー》《メテオ・チャージャー》《ネクスト・チャージャー》でマナを加速するだけだった。
「俺のターン! 5マナで《龍覇 スコッチ・フィデイック》を召喚するよ! 超次元ゾーンから、コスト3以下のドラグハートを出すね」
 一騎は5マナ溜まったところで《スコッチ・フィディック》を召喚するが、そこで出すドラグハートに少し悩む。
(どうしようか。暁さんは赤単、超次元にもブロッカーはいないから、《XX幕府》は効果が薄い。追撃をかけるにはアリだけど、暁さんのデッキの特徴も鑑みるなら……)
 まだ場も整っていない。ここは追撃をかけるより、暁のデッキに対して強く出られるようなカードを選択する。
「《天守閣 龍王武陣 —闘魂モード—》をバトルゾーンに出すよ! ターン終了だ」
「《龍王武陣》かぁ。ちょっと面倒くさいけど、それならこっちも一気に攻めますよ! 私のターン!」
 ここで暁は、連続加速の意味を見出す。
 度重なるチャージャーによって暁のマナは8マナ。そこから、彼女もまた、巨大な城を呼び出すのだ。
「《龍覇 グレンモルト「爆」》、召喚!」
「っ、《グレンモルト「爆」》か……!」
「あきらちゃん……っ」
「ふっふっふ、これが出ればもう私の勝ちみたいなもんだよ! 《爆熱天守 バトライ閣》をバトルゾーンに!」
 8コストの大型ドラグナーゆえに、呼び出されるドラグハートの強さも、《龍王武陣》の比ではない。
 下手すれば、このターンに勝負を決めかねないほど、《バトライ閣》は強力なフォートレスなのだ。
 そして、宣言通り暁は殴りかかる。
「《グレンモルト「爆」》で攻撃! その時《バトライ閣》の能力で山札の一番上をめくって、それがドラゴンならバトルゾーンに出すよ!」
「一騎君の生死は、このトップにかかってるわね」
「サイキックも入れてるから、当たる確率はいつもより低い……けど」
 暁は外さない、と恋が小さく言う。
 そうして捲られた、暁のトップデックは、
「やった! 《熱血龍 バクアドルガン》だよ!」
「よりによってスピードアタッカーか……!」
「バトルゾーンに出して、《グレンモルト「爆」》でWブレイク!」
「まずい……」
「次だよ! 《バクアドルガン》で攻撃! まずは《バクアドルガン》の能力で山札をめくって……《バトライオウ》を手札に! 次に《バトライ閣》の能力だよ! さぁ、出て来てね——!」
 連続で発動する《バトライ閣》。スピードアタッカーが出れば、それだけ《バトライ閣》は龍を出陣させ続ける。
 《バクアドルガン》に次の龍は続くのか。暁が山札を捲ると、
「《爆竜 バトラッシュ・ナックル》! 登場時の能力で《ロイヤル・アイラ》とバトルだよ!」
「おぉぅ、いいとこ引きますねー」
「《龍王武陣》があっても、バトルじゃ勝てないな……それに」
 重なった二枚のトップデックの組み合わせが、最高だった。
 《バトライ閣》から捲れたのは《バトラッシュ・ナックル。その前に、《バクアドルガン》で捲られたのが、
「私の火のドラゴンがバトルに勝ったから、手札から《爆竜勝利 バトライオウ》をバトルゾーンに!」
 《バトライオウ》が立て続けにバトルゾーンへと現れる。
 しかもこれだけでは終わらない。《バトライオウ》がいなくとも、暁はこのターン、ドラゴンを二体以上バトルゾーンに出した。
 つまり、
「《バトライ閣》の龍解条件成立!」
 折り畳まれた天守閣が最大まで開かれ、一枚のカードとなる。
 スッと慣れた手つきで展開すると、暁はその姿を皆に示す。

「3D龍解! 《爆熱DX バトライ武神》!」

 三段変形のカードが最大限に開かれ、《バトライ武神》が巨大な姿を現す。
「これは、まずいな……」
「準赤単でこの数のクリーチャーを処理しきるのは、相当厳しいわね。しかも一騎君のマナは6マナしかないし」
「緑入りの一騎がマナ数で後れを取るとはな。爆発力はどっこいどっこいだし、速度で差がついた時点で、勝負は決まってたのかもしれないな」
 一騎の残りシールドは三枚。暁の場には《グレンモルト「爆」》《バクアドルガン》《バトラッシュ・ナックル》《バトライオウ》そして《バトライ武神》。比較的大型のクリーチャーが多く、その中でも《バトライ武神》が空ずば抜けて強力だ。
 《バトライ武神》を倒したいところだが、《バトライ武神》以外も無視できない。打点だけなら、余裕で射程圏内なのだ。
 そして、これらのクリーチャーすべてを処理する手段を、今の一騎は持ち合わせていない。
「でも、できるだけのことはやるよ。《龍覇 グレンモルト》を召喚! 《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
 6マナに到達した一騎は、《グレンモルト》を召喚し、《ガイハート》を装備。
 強力なドラグハートが来たが、ワンテンポ遅かった。龍解するクリーチャーは揃っているが、このターンではダイレクトアタックを決めることもできない。
「だから、盤面をできるだけ掃除する。《グレンモルト》で《グレンモルト「爆」》を攻撃!」
「そのバトルは《バトライオウ》が代わりに引き受けることができるけど、パワーは勝てないから……そのままバトルするよ」
 《グレンモルト》は自身の能力でバトル中のパワーが7000になる。そこに《龍王武陣》の効果が加算され、バトル中のパワーは9000。《グレンモルト「爆」》も《バトライオウ》もパワーは8000なので、《バトライオウ》の能力は使わず、そのままバトルで破壊された。
 過去の自分に破壊される《グレンモルト「爆」》。なんとも言い難いものがある。
「《スコッチ・フィディック》で《バクアドルガン》を攻撃!」
「そっちは《バトライオウ》が代わりにバトルするよ! こっちのパワーは8000!」
 対する《スコッチ・フィディック》のパワーは、《龍王武陣》があっても7000だ。バトルには勝てず、返り討ちにされる。
 だが、一騎もそれは分かっている。それでもあえて特攻させたのだ。
 《スコッチ・フィディック》の攻撃の意味は、クリーチャーを破壊することではない。
「《フィディック》の攻撃が、ターン中二度目の攻撃だから、《ガイハート》の龍解条件成立だよ」
 たとえ自爆しても、攻撃は攻撃だ。そしてミシェル戦でも見せたように、クリーチャー一体と引き換えに、トリガーを踏むことなく、一騎は安全に《ガイハート》の龍解条件を満たした。
 そして、《銀河大剣 ガイハート》が龍解し、ひっくり返る。

「龍解! 《熱血星龍 ガイギンガ》!」

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て12」 ( No.517 )
日時: 2016/10/22 23:00
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 《スコッチ・フィディック》の自爆特攻の甲斐あって、《銀河大剣 ガイハート》が《熱血星龍 ガイギンガ》へと龍解し、ひっくり返る。
「《ガイギンガ》の龍解時の能力で、パワー7000以下の《バトラッシュ・ナックル》を破壊するよ! さらに《ガイギンガ》で《バクアドルガン》を攻撃だ!」
 龍解時能力で《バトラッシュ・ナックル》を、殴り返しで《バクアドルガン》を破壊し、暁の場のクリーチャーを殲滅するが、それでも倒しきれていない。
 暁の場にはまだ、《バトライオウ》と《バトライ武神》が残っている。
「私のターン……一騎さん対策の秘密兵器は使うまでもなかったなぁ」
「俺対策?」
「そう言えば、なんかそんなこと言ってたわね」
「そーなんだよね。私がサイキックを入れてるのは、一騎さんのためなんだよ」
 言って、暁は手札のカードを引き抜く。5マナタップした。
「呪文《超次元シューティング・ホール》! 《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに!」
 暁が唱えたのは、八戦でも見せた超次元呪文。ただし、火力の《ボルシャック・ホール》ではなく、ブロッカー除去の《シューティング・ホール》だ。
 だが問題なのは、呪文ではない。どちらの呪文でも、この場では関係ない。
 重要なのは、呼び出されるクリーチャーの方。現れたのは、《勝利のリュウセイ・カイザー》だ。
「醤油……あぁ、マナを縛って、切り札の登場を遅らせるんだね」
「そうです。その隙に、私の切り札を先に出しちゃおうってつもりでした」
「なんか思ったよりもしょぼいわね」
「秘密兵器という割には普通だな」
「うるさいな。なんにしたって、こんなことしなくても、私が先に切り札を出せたんだから」
「それについては反論できないね……」
 一騎が加速するより早く暁が加速したため、一騎は完全に後れを取っている。
 そしてその後れが、今や命取りになっているのだ。
「さぁ、決めちゃいますよ! 《バトライ武神》で攻撃! 能力発動!」
 《バトライオウ》と《バトライ武神》。残りシールド三枚の一騎は、この時点で即死圏内に入っているが、暁はさらにダメ押しの追撃をかける。
 《バトライ武神》の攻撃によって、山札の上から三枚が捲られ、その中のドラゴンとヒューマノイドが出て来る。
 いつもよりもドラゴン比率が低いはず。だから、捲られるカードがドラゴンの確率も、いつもよりも低いだろう。
 暁は、そんな希望的感想をぶち破るように、捲ったカードを公開した。
「《熱血龍 バクアドルガン》! 《爆竜 GENJI・XX》! 《龍世界 ドラゴ大王》! 全部ドラゴンだよ!」
「うわ……!」
「相変わらずえげつない引きしてるわね」
 捲られたカードはすべてドラゴン。それにより、暁のクリーチャーはすべてスピードアタッカーになる。
 ダメ押しどころか、オーバーキルの打点が揃ってしまった。
「さぁ、《バトライ武神》でTブレイクだよ!」
 《バトライ武神》が一騎の残ったシールドをすべて薙ぎ払っていく。
 《ドラゴ大王》がいるため、S・トリガーを引いてもドラゴンでなければ場に出せない。呪文でも、一体や二体除去した程度では止まらない。
 暁の場にいる六体のドラゴンは、簡単には止められない。
「……暁さん」
「え? なに、一騎さん?」
 シールドを捲りながら、ふと一騎は暁に呼びかける。
「暁さんが俺の対策をしていたように、俺も暁さんへの対策をしてたんだよ」
「私への、対策?」
「正確には、暁さんだけじゃないんだけどね。俺の見立てでは、東鷲宮も烏ヶ森も、クリーチャーを展開して勝つ人が多いと思うんだ」
 暁の《バトライ武神》からの展開力もそうだが、恋は《ヘブンズ・ゲート》、柚は連鎖類目のクリーチャーたちでクリーチャーを大量展開する。
 浬や沙弓も、盤面をコントロールしつつ、場数を並べてアドバンテージを取っていき、最終的に盤面にクリーチャーが多く並ぶ。
 ロマノフサインで横並びにクリーチャーを展開しながら殴るミシェル、死神を絶え間なく呼び出す美琴、《グレイテスト・シーザー》のための進化元を並べる空護に、小型ハンターを連打する八。
 方法、種類、程度こそ様々だが、確かにクリーチャーを多く展開する、クリーチャーの展開がメイン、という意味では、合宿参加メンバーは皆、その通りだ。
 そんな皆に対して、一騎が選んだ対策。
 それは、

「S・トリガー——《アポカリプス・デイ》」

「うぇ……!?」
 一騎のシールドから捲られたトリガーに、顔を歪める暁。
 当然と言えば当然の反応だろう。マナ加速のための自然のカードを入れた準赤単デッキに、光のS・トリガー、それも使いどころが限定される《アポカリプス・デイ》が入っているだなんて、思いもしない。
「わざわざマナ加速カードを削って、赤の比率を下げてまで、猛攻を止めるカードを入れたんだ。きっちり仕事はしてもらわないとね」
「……そういやあいつ、《天守閣 龍王武陣》で《ボルメテウス・ホワイト・フレア》を捲ってたな……」
 ふと前の対戦を思い返すミシェル。
 あの時はあまり気にしていなかったが、一騎のデッキには少量だが光のカードも入っている。この《アポカリプス・デイ》も、そのうちの一なのだろう。
「もー! なんで《バトライ武神》が出せた時に限って、みんな《アポカリ》なんて撃つのさー!」
 場は一掃され、まっさらな状態となった。喚く暁を置いて、一騎は自分のターンを進める。
「俺のデッキなら、たとえ1ターンでも攻撃できる隙が生まれれば、押し込める可能性がある……この1ターンは大事にするよ。俺のターン!」
 しかし、場をリセットしたとはいえ、一騎の手の中に勝負を決めるようなカードはない。暁の場にはまだ《バトライ閣》があり、そうでなくとも一騎はシールドがないのだ。スピードアタッカーを引かれるだけで負けてしまう。
 となると、やはり多少は賭けなくてはならないようだ。
「《ジョニーウォーカー》を召喚! 即破壊してマナを追加! 続けて《天守閣 龍王武陣》だ!」
「クリーチャーがいないのに、除去カード、ですか……?」
「いや……つきにぃのこれは、サーチ目的……」
 そう。恋の言う通り、一騎は《天守閣 龍王武陣》をサーチカードとして使う。
 マナ武装5は達している。なので、ここでフィニッシャーが捲れれば、次のターンにとどめが刺せる……かもしれない。
 こればっかりは運なので、実際に捲ってみなければ、どう転ぶのかはわからない。
 一騎は一気に五枚のカードを捲っていく。
 《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》《フェアリーの火の子祭》《焦土と開拓の天変》《ボルメテウス・ホワイト・フレア》——
「——来たよ! 《ガイグレン》を手札に!」
「あのカードは……ま、まずいよ……!」
 一騎が手に入れたのは《ガイグレン》。一度動き出せば止まらない、一騎の奥の手。
 次のターンには一騎のマナは9マナになる。暁は返ってきたこのターンにどうにかしなければ、ほぼ敗北決定だ。
「ここでスピードアタッカーが引ければ……うぅ、引けないし。《バトライオウDX》を召喚して、ターン終了だよ。あとはトリガー頼みかぁ……」
 スピードアタッカーを引いたら簡単に勝ちだったが、そう上手くはいかない。
 トップから引いた《バトライオウDX》を一応召喚して、暁はターン終える。
「一気に決着をつけるよ! 俺のターン! 9マナタップ!」
 スピードアタッカーによる強襲もなく、一騎にターンが返ってきた。
 こうなれば、一騎は己の勝利ルートを突き進むだけだ。
「《暴龍事変 ガイグレン》を召喚! 《ガイグレン》で攻撃する時に、マナ武装9発動! 《ガイグレン》をアンタップしてWブレイク!」
「S・トリガー……《バトクロス・バトル》が来たけど、これじゃあ倒せない……」
「二撃目! 攻撃してアンタップ! シールドをWブレイク!」
「S・トリガー《天守閣 龍王武陣》!」
 暁は二回目のWブレイクで、《天守閣 龍王武陣》を引き当てる。
 これでなにか、逆転につながるカードが引ければ、と山札を捲っていく。
 捲った五枚は《コッコ・ルピア》《メテオ・チャージャー》《超次元ボルシャック・ホール》《インフィニティ・ドラゴン》《勝利天帝 Gメビウス》。
「! これだ! 《勝利天帝 Gメビウス》を選ぶよ! パワーは12000!」
「だけど、《ガイグレン》は二回攻撃してる。攻撃のたびにパワーが3000ずつ上がっていくから、今のパワーは17000だよ」
「そうだった! これでも止められないか……」
 とりあえずマナ武装5で《Gメビウス》を手札に加えるが、どうしようもない。
 《ガイグレン》は攻撃するたびにパンプアップし、火力ではまず破壊できない。このままでは《ガイグレン》の暴走を止めることなく、そのまま押し切られてしまう。
「三撃目だ! 《ガイグレン》で攻撃して、マナ武装9でアンタップ! 最後のシールドをブレイク!」
 そして、暁の最後のシールドがブレイクされる。
 その時だ。
「……! 来た! S・トリガー《イフリート・ハンド》だよ!」
「っ、三枚目のトリガー……!」
「コスト9以下のクリーチャー、《ガイグレン》を破壊!」
 最後のシールドから放たれた《イフリート・ハンド》が、《ガイグレン》を破壊し、その猛攻を食い止める。
「っ、まずい……! けど、《ガイグレン》が選ばれたから、《ガイグレン》以下のパワーを持つ相手クリーチャーをすべて破壊するよ!」
 《ガイグレン》もタダではやられない。選ばれたことで暁の場を一掃する。
 だがそれでも、再び暁にターンを返してしまったのは、一騎にとっては大きな痛手だ。シールドもブレイクして、手札を増やしてしまったので、シールドブレイクと今引きで、スピードアタッカーを引かれている可能性がグンと高まる。
「私のターン! やったね! これで逆転——」
 と、暁は喜び勇んでカードを引き、手札からカードを引き抜こうとする。するが、そこで動きが止まった。
 自分の手札をジッと見つめて、そして、

「——できないじゃん」

 ズンッ、と重い一言を吐き出した。
「うわぁぁぁ、スピードアタッカー一枚もないし! いや、あるけど、《Gメビウス》はマナが足りないよ……」
「……あれだけブレイクされても、一枚もないのか……」
「案外、スピードアタッカーの比率も下がっているのかもね」
「いやだが、超次元呪文一枚でも勝てるだろう、ここは」
 なんにせよ、暁がスピードアタッカーを引き入れられなかったのは、まごうことなき事実。
 ここでスピードアタッカーがなければ、次のターン、一騎もスピードアタッカーを出して反撃に出る可能性がある。そうでなかったとしても、そこから先はお互いにトップ勝負だ。胃袋に優しくない展開である。
「いや、でも、まだ可能性はある! 呪文《ネクスト・チャージャー》! 私の残った四枚の手札を全部山札に戻して、その枚数分ドローするよ!」
「手札交換か……まずいかもね」
「さらにチャージャーはマナに置くよ……これで、スピードアタッカーを引く!」
 チャージャーによって暁の残りマナは7マナ。《バルガライザー》などの8コストのスピードアタッカーは出せないものの、7マナであれば大抵のクリーチャーは出せる。
 暁のデッキの中身がどうなっているのかはわからないが、四枚も入れ替えれば、流石になにかしらは引けるだろう。
 そして、
「ひ、いたぁぁぁぁ!」
 手札を入れ替えた暁は、怒号のような大声を轟かせて、ありったけのマナを支払う。
「7マナで《撃英雄 ガイゲンスイ》! 召喚!」
「スピードアタッカー……やっぱり引いたのね」
「流石あきら……引く時はは引く」
 なんにせよ、ここでスピードアタッカーを引いた暁。これでゲームセットだ。
 暁は《ガイゲンスイ》に手を添える。
「マナ武装とかこうなったらどーでもいいよ! 《ガイゲンスイ》で攻撃! 《バトライ閣》は……《コッコ・ルピア》で不発だけど、関係ない!」
 もう、この一撃で、終わらせるのだから。
 そう思って暁は、声高らかに宣言する。
「《撃英雄 ガイゲンスイ》でダイレクトアタックだぁ!」
「ごめんね暁さん。ニンジャ・ストライク4で《ハヤブサマル》を召喚。自身をブロッカーにしてブロックだよ」
「えぇぇぇぇ!?」
 再び絶叫する暁。今回は、いつにも増してオーバーリアクションだった。
 暁の渾身の一撃は、あっけなく《ハヤブサマル》にブロックされてしまう。
「多少は《アポカリプス・デイ》を手打ちできるように、光タッチ気味になってるんだよね……というわけで、俺の勝ちだ」
「い、いや、まだ、スピードアタッカーが来ない可能性とか——」
「《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を召喚」
「なかった!」
 一騎もしっかりとスピードアタッカーを用意していた。
 様々な防御に枠を割いた一騎と違い、暁の防御はS・トリガーのみ。シールドがない時点で、防御手段は尽きていた。
「《グレンモルト「覇」》で攻撃、マナ武装7で《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》を装備して、《ガイゲンスイ》を破壊。そして——」
 ゆえに暁はこの一撃を防ぐことができず、

「——ダイレクトアタックだ」

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て13」 ( No.518 )
日時: 2016/10/23 09:34
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「負けた……《アポカリプス・デイ》だけじゃなくて、《ハヤブサマル》までいるなんて……」
「いつものトリガー枠と、ブーストカードの枠を、ちょっとだけ光のトリガーにしたんだけど、うまく嵌ってよかったよ」
「うぅ、悔しい……」
「ま、どっちも相手のことをメタってたみたいだけど、今回は一騎君のメタの方が上手く嵌ったってことで。暁に対人メタは、まだ早かったかもね」
「銀の弾丸にかけては、なかなか一騎には勝てねぇよ」
 対人を想定したピンポイントのメタは、元々一騎の十八番だ。
 実力は同等でも、相手の土俵で取る相撲は、こちらが不利。今回の暁の敗因は、そこだったのかもしれない。
「じゃ、次は二回戦第二試合ね」
「Bブロック二回戦の方がわかりやすくないか?」
「なんでもいいのよ。とにかく次、美琴とカイ、お願いね」
 次の対戦は、美琴と浬だ。
「なんか、珍しい組み合わせだな」
「本当ならこういうマッチングがもっと欲しかったんだけどね」
 最初の振り分けで、思いのほか見知った面子どうしの対戦になったため、ある意味ではこの対戦カードは、珍しいものとなった。
「それじゃあ、よろしくね。霧島君」
「……よろしくお願いします」



黒月 美琴
〜死神の饗宴—Death carnival—〜

vs

霧島 浬
〜結晶魔術の定理〜












超次元ゾーン:美琴
なし



超次元ゾーン:浬
《龍波動空母 エビデゴラス》×1
《真理銃 エビデンス》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の踊り子マティーニ》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1



 美琴と浬の対戦。
 美琴のシールドは五枚。若干スタートに失敗したようだが、場に《暗黒秘宝ザマル》と《死神盗掘男》を並べ、手札とシールドの削りに入っている。
 一方、浬のシールドは四枚。場にはなにもなく、《連唱 ハルカス・ドロー》で手札を整えつつ、《ブレイン・チャージャー》でマナを伸ばすのみ。
「俺のターン……ここは《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚し、《真理銃 エビデンス》を装備! カードを一枚ドローし、ターン終了」
 浬はここで呼び出すドラグハートに、《エビデゴラス》ではなく、《エビデンス》を選択する。
 置き続ければ安定して手札を供給してくれる《エビデゴラス》は紛れもなく便利で強力だが、膨大なアドバンテージで勝負を決めてしまうほどの決定力を持つのは、《エビデンス》——もとい《Q.E.D.》だ。
 《メタルアベンジャー》は呪文耐性もあるので、1ターンは生き残れると踏み、浬はあえてこちらを装備させたのだが、
「その一手は得策じゃないわね。《死神の邪険デスライオス》を召喚」
「っ、しまった」
「能力で自身を破壊。そして、相手にも破壊を要求するわ」
「《メタルアベンジャー》を破壊……《エビデンス》は超次元ゾーンに戻る」
 その読みは完全に外れ、《メタルアベンジャー》は《デスライオス》の能力で破壊。《エビデンス》も超次元ゾーンに帰ってしまった。
「さらに《死神盗掘男》の能力でドロー。《ザマル》で攻撃する時、相手の手札を一枚捨てるわ。その後、シールドブレイク」
「……トリガーはない」
「なら、ターン終了よ」
 結局、浬は場のクリーチャーを消され、手札もシールドも失い、逆に美琴にはドローされる始末。
 勝負が決まるほどではないにしろ、結構なディスアドバンテージだ。
「除去はないと思ったが、見誤ったか……とりあえず時間を稼ぐか。《龍素記号Sr スペルサイクリカ》を召喚。墓地の《幾何学艦隊ピタゴラス》を唱えて、《死神盗掘男》をバウンス、マナ武装5で《ザマル》もバウンス! 《ピタゴラス》を手札に戻して、ターン終了だ」
「私のターン。《死神城 XENOM》を要塞化! 要塞化時の効果で相手の手札を一枚ハンデス。続けて《XENOM》の効果でコストの下がった《死神亡者ボーン・アミーゴ》を召喚よ」
「《龍素記号IQ サイクロペディア》を召喚! 三枚ドローし、ターン終了」
 とりあえず浬は、盤面のクリーチャーを退かして時間を稼ぎ、そのうちに自分がクリーチャーと手札を揃えていく。
「《死神盗掘男》を召喚。さらに《デスライオス》を召喚して自壊、相手も一体破壊させるわ」
「《スペルサイクリカ》を破壊するが、代わりに山札の下へ戻る」
「私の死神が破壊されたから、《死神盗掘男》の能力でドロー。さらに《死神の影デスプルーフ》を召喚して、ターン終了」
 大きな動きこそないが、美琴は確実に一手一手、浬になにかしらのディスアドバンテージを負わせ、自分はなにかしらのリソースを得るなど、アドバンテージを広げようとしている。
(堅実にアドバンテージを得ていくタイプか……そうなると、除去が弱い俺のデッキだと、競り合ってアド勝負に持ち込むより、爆アド稼いでパワーゲームに持ち込む方がいいな)
 もっとも、浬のデッキで叩き出せるアドバンテージは、わりと限定的だが。
 最初に《エビデンス》を残せなかったことが悔やまれる。
「まずはリソースの確保からか。呪文《スペルブック・チャージャー》。山札を五枚捲り、その中から《スペルブック・チャージャー》を手札に加える。そしてもう一枚、《スペルブック・チャージャー》。山札の上から五枚を捲り、《スパイラル・ゲート》を手札に加える。そして、2マナで《スパイラル・ゲート》。《ボーン・アミーゴ》をバウンス」
 山札を一気に掘り進みつつ、マナを伸ばし、クリーチャーも除去する浬。
 それから、少し考える。美琴のシールドには、《死神城 XENOM》が要塞化していた。
 死神のコストを下げる城。あれを放置するか否か。考えに考え、やがて答えを出す。
「……《サイクロペディア》でシールドをブレイク。《XENOM》のシールドからブレイクする」
「さっき攻撃しなかったから、放置するものだと思ってたけど、先に城を落とすのね。ブロックは……できないんだっけ」
「えぇ、アンブロッカブルでWブレイクです」
「トリガーは……ないわね、どっちも」
「じゃあ、ターン終了で」
 とりあえず《XENOM》は落城させた。手札は増やされたが、これで展開を阻害することができるはずだ。
「《デスプルーフ》《ザマル》《ボーン・アミーゴ》を召喚」
「っ、小型を並べて来たか」
 《XENOM》がなくとも、増えた手札から小型の死神がわらわら出て来る。しかも、場には《デスプルーフ》が二体だ。
「《デスプルーフ》で《サイクロペディア》を攻撃。もう一体の《デスプルーフ》の能力でスレイヤーになってるから、相打ちね。ただ、こっちは《死神盗掘男》の能力でドローするわ」
 相手だけ破壊して、自分はディスアドバンテージをアドバンテージに変換する。非常に闇らしいプレイングだった。
「俺のターン。《スペルブック・チャージャー》を唱えて、山札を五枚捲り……よし、《スパイラル・ハリケーン》を手札に。そのまま4マナで《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7で相手クリーチャーをすべてバウンス!」
「一掃された……!」
「さらに《超次元エナジー・ホール》! カードを引き、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンへ!」
「早く立て直さないと……《デスプルーフ》《ザマル》《ボーン・アミーゴ》を召喚!」
 盤面を一気にひっくり返され、さらに疑似ランデス付きのアタッカーまで出て来た。
 美琴はバウンスされたクリーチャーを再展開して、巻き返しを図るが、
「……勝ったかもな」
「え?」
 浬の宣言に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう美琴。
「呪文《超次元エナジー・ホール》! カードを引き、《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに! 《ボーン・アミーゴ》をロック!」
「《プリンプリン》……まさか」
「さらに《超次元ガロウズ・ホール》! 《ザマル》をバウンスし、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
 立て続けに超次元呪文を撃ち、浬は《勝利のプリンプリン》と《勝利のガイアール・カイザー》の二体を展開。
 既に場に出ていた《勝利のリュウセイ・カイザー》と合わせて、三体のクリーチャーが揃った。
「《勝利のプリンプリン》《勝利のリュウセイ・カイザー》《勝利のガイアール・カイザー》……三体のサイキック・セルが揃ったことで、V覚醒リンク発動!」
 三体のサイキックセルが裏返って覚醒し、連結してリンクする。
 そうして、勝利をもたらす最強のドラゴンが現れた。

「《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》!」

「これはまずいわね……!」
「《勝利のガイアール・カイザー》のアンタップキラーを引き継いでいるため、《オレドラゴン》はアンタップ状態のクリーチャーを攻撃できる……《デスプルーフ》を攻撃!」
 《ボーン・アミーゴ》は《プリンプリン》によって行動を封じられているため、ブロックもできず、《デスプルーフ》は為す術もなく殴り飛ばされる。
「バトルに勝ったことで《オレドラゴン》をアンタップ、そしてシールドを二枚手札へ!」
「……!」
「続けて《ボーン・アミーゴ》を攻撃! アンタップし、シールドを手札へ!」
「S・トリガー《地獄門デス・ゲート》! 《オレドラゴン》を破壊して、墓地から《ボーン・アミーゴ》を復活!」
「リンク解除、《プリンプリン》を超次元ゾーンに戻し、残りの二体を場に残す。この時、《勝利のガイアール・カイザー》はスピードアタッカーだから攻撃可能、そして、《勝利のリュウセイ・カイザー》も前のターンからバトルゾーンに存在していたため、召喚酔いがない」
 破壊しなければ、ブロックされても何度でも殴り続け、破壊すれば、サイキック・セルがそのまま戻ってくる。アタッカーを破壊したのに、むしろ殴り手が増えているとはどういうことなのだろうか。
「《勝利のガイアール・カイザー》でダイレクトアタック!」
「《ボーン・アミーゴ》でブロックよ!」
「《勝利のリュウセイ・カイザー》で攻撃! 前の対戦のように、シノビがあれば耐えられますけど」
「……残念ながら、握ってないわ。私の負け」
 正確には、手札に二枚ほど《威牙忍ヤミノザンジ》を握っていたが、これでは《勝利のガイアール・カイザー》も《勝利のリュウセイ・カイザー》も止められない。
 防御手段は、役に立たなかった。

「《勝利のリュウセイ・カイザー》で、ダイレクトアタック——!」

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て14」 ( No.519 )
日時: 2016/10/25 20:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「さて、これで二回戦までが終了。残すは三回戦という名の準決勝と、決勝戦だけになったわね」
 美琴と浬の対戦が終わって、一度沙弓が場を仕切り直す。
「意外とあっという間だったねー」
「長かったのは一回戦だけだったな」
 ここまでで勝ち残っているのは、三人。
 Aブロックからは、一騎。
 Bブロックからは、浬。
 Cブロックからは、沙弓。
 以上三名だ。
「学年は綺麗に分かれたけど、なんかこう、どこか腑に落ちないわね」
「そう? 結構、面白い組み合わせだと思うけど、美琴は不満?」
「うちの方が参加人数多いのに、一騎しか勝ち進んでないってどういうことだ」
「初戦で負けすぎたのが原因ですかねー。あ、でも、身内同士で対戦した僕らはノーカンで」
「面目ないっす……」
「ハメゲーだったし……」
 参加人数が過半数を上回っている烏ヶ森だが、決勝まで進めるのは一騎一人だけ。一騎の進出そのものは納得だが、残留率の低さが彼らとしては嘆かわしいことだった。
「まあまあ、ミシェル。今回は楽しむことが目的だし、皆が楽しめたならいいじゃないか」
「さらりと勝ってる奴に言われると少しムカつくな、その台詞。お前のことだから他意はないんだろうが」
「烏ヶ森の代表として、俺がきっちり勝ってくるからさ」
「部長! 任せたっす!」
「メガネとさゆみなら……まあいいや。つきにぃ、がんばれ……」
「あらら、れんちゃんにふられちゃった。残念」
「あいつ、まだ一昨日のこと根に持ってやがるな……」
「まあ、俺は三回戦はないけどね」
 一騎は三回戦シードゆえに、三回戦は免除される。つまり実質、決勝戦進出確定だ。
 だからここが、一戦のみの準決勝。
 決勝に進み、一騎と対戦する相手が誰かが、ここで決まる。
 その候補に挙がっているのは、Bブロックから出て来る浬と、Cブロックから出て来る沙弓だ。
「さて、ここでカイと対戦することになるなんてね」
「なんだかんだ、部長とやるのは久し振りだな」
「そうね。でも、あなたは二回も対戦してる。いつものパターンと合わせて、手の内は読めてるわ」
 浬と沙弓。どちらも三回戦に進出しているが、浬が一回戦、二回戦と二回の対戦を経ているのに対し、沙弓は一回戦しか戦っていない。
 対戦回数を重ねれば、それだけデッキ内のカードが公開されるということ。ここまでの二戦で、浬のデッキはほとんど筒抜けになっているだろう。
「それがどうした。まだ俺のデッキは見せてないカードもある。少しばかり情報で勝っている程度で、いい気になるな」
「……ま、それもそうね。だけどカイ。私も一騎君には、一昨日の夜のリベンジがしたいのよ。だから、あなたには悪いけど、今持てるアドバンテージを最大限活用して、勝たせてもらうわ」
「対戦前に勝利宣言とは、遊戯部部長らしからぬ発言だな。あんたは勝利報告の方が似合ってるぞ」
 と言いつつも、浬はすぐさま続ける。
「もっとも、そんな報告をさせるつもりはないがな。負けた後の言い訳でも考えたらどうだ」
「珍しく煽るわねぇ。大好きな一騎君との対戦が目前に迫って、柄にもなく興奮しちゃってる?」
「うるせぇぶん殴るぞ」
「素が出たわね。ふふっ」
 楽しそうに微笑む沙弓。実際、楽しいのだろう。
 この合宿の究極的な目的は、楽しむこと。ただその一点に尽きる。
 これまでの海水浴から、夕食、入浴、モノポリーに至るまで、すべてその目的のために計画されたことだが、それらの中でも、この最後のトーナメント戦は、その目的の最高峰だ。
 見知った仲間同士、全力でぶつかり合う。情報戦にメタゲーム。あらゆる知略謀略戦略を駆使して戦い続けるゲーム。
 たった数試合で終わってしまうことがもったいないくらいだ。そう思えるくらいに、彼女は高揚し、楽しんでいた。
「部長と浬かぁ。どっちも応援したいけど、部長に勝ってほしいかな! 私は!」
「え、えと……その、ど、どっちも、がんばってください……」
(俺に味方はいないのか……)
 わかっていたことだが、なにかこの時点で負けた気分になる。
「さて、うだうだとだべってないで、そろそろ始めましょうか」
「あ、あぁ……」
 かくして、第三回戦、準決勝。

 浬と沙弓の対戦が、始まる——



霧島 浬
〜結晶魔術の定理〜

vs

卯月 沙弓
〜ブラック・マジック・カーニバル〜












超次元ゾーン:浬
《龍波動空母 エビデゴラス》×1
《真理銃 エビデンス》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の踊り子マティーニ》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1



超次元ゾーン:沙弓
《時空の悪魔龍 ディアボロス ΖΖ》×1
《時空の封殺ディアスΖ》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1



 浬と沙弓の対戦。
 互いにシールドは五枚。
 浬の場にはなにもない。《連唱 ハルカス・ドロー》や《ブレイン・チャージャー》で手札とマナを充実させていくが、沙弓の繰り出した《勝利のリュウセイ・カイザー》に足止めを喰らっている。
 そんな沙弓の場には、《超次元リバイヴ・ホール》から現れた《勝利のリュウセイ・カイザー》が一体。マナを縛って浬の動きを鈍らせたうえで、《パニッシュ・チャージャー》《特攻人形ジェニー》によるハンデスを撃ち込んでいる。
「俺のターン……とりあえず、邪魔な醤油を退かせないと、動きにくいままだな。呪文《幾何学艦隊ピタゴラス》でバウンスだ」
「戻されたわね。でも、いい仕事したし、よしとしましょうか」
「浬君のデッキも、始動が遅いからね」
「序盤でここまで動きを鈍らせれば、かなり仕事したと言えるだろうな」
 ここまででも十分仕事はした。マナのタップインは終盤になると効果が薄くなるので、戻されたとしてもあまり痛手ではない。
「じゃあ、お次はこれね。呪文《リバイヴ・ホール》! 墓地の《ジェニー》を回収して、《時空の喧嘩屋キル》《時空の英雄アンタッチャブル》をバトルゾーンに!」
「キルタッチャ……!」
 出て来るクリーチャーを見て、戦慄する浬。特に赤い方のクリーチャーに、睨みつけるような視線を向ける。
「相手が相手だとわかってこのチョイス。当然と言えば当然だけど、やっぱりえげつないわね、沙弓は」
「霧島君のデッキに《キル》は痛いでしょうからねー」
「? なんで?」
「《キル》はサイキック・クリーチャーにバウンス耐性をつけるんだよ。そして、浬君のデッキにおける除去はほとんど手札戻し、つまりはバウンスだ」
「要するに、これで霧島は、ほぼサイキック・クリーチャーを除去できなくなったってことだ」
 水単色では、バウンス以外の除去は見込めない。沙弓が殴ってくるようなことがあれば殴り返しができるが、ハンデスを連打する闇単色のコントロールを使う沙弓が、手札を与えるような攻撃はしないだろうし、殴り返されるとわかっていて攻撃するはずもない。
 《キル》一体だけで、浬の除去の多くは腐ってしまった。
「続けて《ジェニー》を召喚して破壊、一枚ハンデスよ」
「くっ、《龍覇 M・A・S》を召喚! 《龍波動空母 エビデゴラス》を設置!」
 ドローを得意とする水文明単色デッキなだけあって、ハンデスだけなら痛くはない。《エビデゴラス》も設置し、手札は十分に確保できる。
 しかし、サイキック・クリーチャーにバウンス耐性をつける《キル》は、非常に厄介だった。浬のデッキは元々、除去が弱い。バウンスして一時的な足止めをさせるだけなので、それさえも封じられると、盤面の制圧が厳しくなる。
「《超次元ミカド・ホール》を唱えるわ。《M・A・S》のパワーを2000下げて破壊。そして、もう一度出番ね、《勝利のリュウセイ・カイザー》!」
「戻ってきたか……ターン初めに《エビデゴラス》の効果と合わせて二枚ドロー! 俺のターンだ」
 《勝利のリュウセイ・カイザー》で、またマナが縛られる。しかも今度は、《キル》によってバウンスされない状態で。加えて《勝利のリュウセイ・カイザー》自体が《キル》の龍解条件を、さらにその《キル》が《アンタッチャブル》の龍解条件を満たすため、どうにかしたいのだが、
「……これしかないな。《理英雄 デカルトQ》を召喚! マナ武装7で五枚ドロー! 手札とシールドを入れ替え、《エビデゴラス》を《Q.E.D.+》に龍解! 《Q.E.D.+》でWブレイクだ!」
「かいりくんが、攻めてきた……」
「盤面を取ることは諦めて、早期決着を目指したか」
「ま、判断としては正しいんじゃないのかしらね……できるかどうかはともかく、だけど。あ、トリガーはないわ」
「ターン終了だ」
 除去はできない。ブロッカーとシールド交換で守りを固めるだけだ。
 こうなってしまえば、もう盤面を制圧することは諦め、できる限り早く決着をつけるしかない。
 問題は、元々コントロールデッキとして構築された浬のデッキが、どれほどのスピードで沙弓を攻めることができるか、だ。
「私のターン。ターン開始時に、私の場にはパワー6000以上の《勝利のリュウセイ・カイザー》がいるから、《キル》の覚醒条件を満たしたわ。《時空の喧嘩屋キル》を《巨人の覚醒者セツダン》に覚醒! そして5マナで《超次元リバイヴ・ホール》を唱えて、墓地の《ジェニー》を回収。《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに出すわ。《プリンプリン》の能力で《Q.E.D.+》を拘束! 《ジェニー》を召喚して破壊、あなたの手札を一枚墓地へ!」
「一枚のハンデス程度ならさほど効果はないが……」
「えぇ、まだ終わらないわ。ターン終了時、私の《キル》が《セツダン》に覚醒してるから、《アンタッチャブル》の覚醒条件も達成よ。《時空の英雄アンタッチャブル》を、《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》に覚醒!」
 《キル》と《アンタッチャブル》がそれぞれ覚醒し、《セツダン》と《アンタッチャブル・パワード》へ。今までの耐性はそのまま、打点が上がり、さらに対処困難なアタッカーが出来上がってしまった。
 加えて、沙弓の場には《勝利のリュウセイ・カイザー》と《勝利のプリンプリン》がいる。あと一体、《勝利のガイアール・カイザー》が出て来るだけで、《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》が覚醒リンクする。しかもバウンスが効かないため、そのリンクを阻止することも、ほぼ不可能。
 除去も守りも通用せず、巨大なサイキック・スーパー・クリーチャーがリーチをかけている。どんどん浬は追い込まれていた。
「沙弓ちゃん、完全にサイキック主体で盤面取る方向に切り替えてるね」
「《キル》を出して、相手が青単コントロールなら、そうなるだろ。《アンタッチャブル》が最後の詰めになるし、その状態で《オレドラゴン》が完成すればまず勝ちだ」
「浬さん、大丈夫っすかねぇ……」
「……浬君のことだから、なにも考えなしってわけではないだろうし、今もなお、打開策を考え続けているんだろうけど……」
 この盤面は、絶望的だ。簡単にひっくり返せる盤面ではない。沙弓もそれがわかっていて、このようにクリーチャーを展開したのだから、簡単に返せる盤面ではないのだ。
 それに、たとえこの状況を覆す方法があったとしても、その方法を実行できるカードが手札にあるとは限らない。いや、手札だけではない。必要なカードが必要な場所になければいけないかもしれない。相手依存、相手次第になるかもしれない。そうだとすれば、そんな希望的観測は、現実が容易く打ち破る。
 それでもなお、浬は思考をやめない。思案と思索を続け、解決の糸口を見出し、次なる一手を打つ。
「俺のターン。《Q.E.D.+》の能力で、ターン初めに山札の上から五枚を見て、一枚をトップに固定。その後、追加ドロー。そして通常ドローだ」
 《Q.E.D.+》は《プリンプリン》にロックされて動けない。しかし能力は問題なく使える。
 このドローで、なにか逆転につながるカードが引ければいいのだが。
「……《龍素記号Xf クローチェ・フオーコ》をG・ゼロで召喚。互いの墓地をすべて山札に戻すぞ」
「あらら。でも、今更墓地をリセットされても、痛くないわ」
「分かってる。次に《龍素記号Og アマテ・ラジアル》を召喚!」
「!」
 この動きに、反応を示す沙弓。
 浬の場には水のドラゴンがいる。そして、山札から水の呪文を引っ張り出す《アマテ・ラジアル》が出たということは、
「山札からコスト4以下の水の呪文を唱えるぞ。唱えるのはこれだ! 《ヒラメキ・プログラム》!」
「やっぱりか……!」
 浬の必勝パターン。《アマテ・ラジアル》からの、《ヒラメキ・プログラム》。ここから現れるクリーチャーは、決まり切っていた。
「破壊するのは《Q.E.D.+》だ! 龍回避で《エビデゴラス》に戻るが、《ヒラメキ・プログラム》の効果は問題なく発動する!」
 浬のマナには《サイクロペディア》が見える。失敗はない。確実に決めて来るだろう。
 コスト7の《Q.E.D.+》がヒラメキ、コスト8の水晶龍が顕現する。
「さぁ、出て来い……! 《アマテ・ラジアル》から進化!」
 浬は捲られたカードを《アマテ・ラジアル》に重ね、叩きつける。

「——《甲型龍帝式 キリコ3》!」

番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て15」 ( No.520 )
日時: 2016/10/25 22:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「やっぱりそれなのね……!」
 《ヒラメキ・プログラム》によってヒラメかれたクリーチャーを見て、唸る沙弓。
 浬のデッキの切り札、《甲型龍帝式 キリコ3》。
 呪文を唱えるフィニッシャーは数あれど、《キリコ3》は手札を犠牲に呪文を三連射する。アドバンテージを得るという意味では、ここまで巨大なアドバンテージをもぎ取るクリーチャーは、他にいない。それ以前に、純粋にパワーも打点も高いクリーチャーだ。
 浬は手札をすべて山札に戻す。そして、呪文が三枚見えるまで、山札を捲り続けた。
「唱える呪文は……《連唱 ハルカス・ドロー》《ブレイン・チャージャー》《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ」
「ん……雑魚」
「ドローカードばっかじゃん」
「《ピタゴラス》も、《セツダン》がいるから効かないっすしね」
「お前らなに見てんだよ……そうじゃないだろ」
『?』
 ミシェルの言葉を微塵も理解していない様子の三人。
 説明するより見た方が早いと断じ、ミシェルはそれ以上の言葉は紡がず、対戦の方へと視線を戻す。
「《ハルカス・ドロー》と《ブレイン・チャージャー》の効果で、合わせてカードを二枚ドローし、チャージャーはマナへ。《スパイラル・ハリケーン》の対象は……一応、《セツダン》を選んでおく。マナ武装7も発動するな」
「《セツダン》の能力で、相手の呪文や場のクリーチャーの能力によって私のサイキック・クリーチャーは手札に戻される時、戻される代わりに場に留まるわ」
 捲られたドロースペルで失った手札を回復し、無意味な《スパイラル・ハリケーン》を放つ。《キリコ3》の呪文詠唱は強制なので、無駄撃ちとわかっていても撃たなくてはならない。
 だが、それでも構わない。元々除去は期待していない。浬が期待していたカードはきっちり捲れたので、問題はなかった。
「残ったマナで、《ハルカス・ドロー》をリサイクルで唱えてドロー……さて部長、これで俺がこのターンにドローしたカード枚数は何枚だ?」
「え? えーっと、《ハルカス・ドロー》がリサイクルと合わせて二回、《ブレイン・チャージャー》で一回……あぁ、あと《Q.E.D.+》でも引いてたわね。ターン開始のドローも含めると、合わせて五枚——あ」
「そうだ。このドローが、このターン五枚目のドローだ。よって、《エビデゴラス》の龍解条件成立!」
 浬が狙っていたのは、除去ではない。
 《エビデゴラス》の龍解条件を満たすために、カードをドローすることだ。

「龍解! 《最終龍理 Q.E.D.+》!」

 再び、《エビデゴラス》が龍解し、《Q.E.D.+》となる。
「あちゃー……これはまずいわね」
「《ヒラメキ・プログラム》の種にされた《Q.E.D.+》が戻ってきたね」
 浬の目当ては、これだった。
 《ヒラメキ・プログラム》で破壊した《Q.E.D.+》は、《エビデゴラス》に戻る。なので、ターン中にもう一度五枚ドローすれば、再び龍解できる。
「あれ? でも、《Q.E.D.+》は《プリンプリン》で攻撃できないんじゃ……」
「《プリンプリン》に与えられた効果は、龍回避でフォートレスになった時点で消失する。再び龍解すれば、ロックは解除され、攻撃可能だ」
「ということは、これでかいりくんの場には、Tブレイカーが一体、Wブレイカーが二体……」
「沙弓ちゃんのシールドは三枚だから、打点は十分だね」
 《キリコ3》を出した時点で、《デカルトQ》と合わせて打点は揃っているが、追撃の《Q.E.D.+》も並べ、多少のトリガーでは防ぎきれない打点が生成される。
「今思うと、《プリンプリン》のロックは《デカルトQ》に撃つべきだったわね。私としたことが、失敗したわ」
「だとしても打点は足りる。決めるぞ、《キリコ3》でシールドをTブレイクだ!」
「っ……!」
 沙弓の場にブロッカーはいない。シノビもなく、《キリコ3》がシールドを三枚吹き飛ばす。
「S・トリガーよ! 《凶殺皇 デス・ハンズ》を召喚! 《デカルトQ》を破壊!」
「止められたか……だが、まだ《Q.E.D.+》がいる!」
 このようなトリガーを考慮して、わざわざ一度龍回避させてから再龍解し、《プリンプリン》の拘束を解いたのだ。
 《Q.E.D.+》が、シールドがない沙弓にとどめの一撃を繰り出そうとするが、
「もう一枚S・トリガーよ。《魔狼月下城の咆哮》! パワー低下は意味ないけど、マナ武装5で《Q.E.D.+》を破壊するわ!」
「ぐっ、トリガー二枚か……ターン終了だ」
「惜しい! 浬君、あと一歩だったのにな……」
「正直ラッキーだったわ……トリガーに救われたわね。流石デュエマ」
 二枚のトリガーで九死に一生を得た沙弓。
 S・トリガーはデュエル・マスターズが持つ独自の逆転手段。その役割が示す通り、沙弓は逆転した場を、さらに逆転させる。
「どうやら、決めるのは私の方だったみたいね、カイ。私のターン、呪文《超次元ミカド・ホール》! 《クローチェ》のパワーを2000下げて、超次元ゾーンからコスト9以下の闇のサイキック・クリーチャー、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
「出やがった……!」
 やはり持っていた、超次元呪文。
 超次元ゾーンから勝利の名を冠する最後のサイキック・セル、《勝利のガイアール・カイザー》が現れる。
「流石に、これはもう決まりですかねー」
「《オレドラゴン》がリンクしたら、まず勝ち目ないからね」
「今回の部長、サイキック・クリーチャーばっかりだったよ……なんかつまらないな」
「勝てばよかろうなのよ、勝てばね」
「面白さじゃないのかよ」
 とミシェルが言うと、沙弓は笑った。
「負けても面白いものは面白いけど、やっぱり勝負の根底には勝利を目指すということがある。勝負は勝つことを目標にしてるから楽しいのよ」
 だから、勝つことは楽しい。
 勝てば官軍という言葉もある。勝者の優越感が、楽しいという感情に昇華されるものだ。
 そして今、優越という意味では、沙弓は限りなく勝利に近い位置に立っている。ゆえに今の彼女は、高揚していた。
 その高揚感を隠さないまま、三枚のサイキック・セルを裏返し、一体のクリーチャーとして結合させる。

「V覚醒リンク! 《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》!」

 《勝利のプリンプリン》《勝利のリュウセイ・カイザー》《勝利のガイアール・カイザー》。勝利の名を冠する三体のハンターは、覚醒し、リンクして、天下無双の《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》となる。
「《オレドラゴン》は生姜のアンタップキラーを引き継いでるけど、クリーチャー殴る意味はないかしらね。《オレドラゴン》でプレイヤーを攻撃よ!」
「あんたが殴らなくても、ブロック権限はこっちにあるんだよ! 《クローチェ・フオーコ》でブロック!」
「そう来るのね。でも、《オレドラゴン》は《無限掌》を内蔵してるから、バトルに勝ったからアンタップする。そしてあなたのシールドを二枚手札へ加えるわ」
 一撃でワールド・ブレイクを決めれば、S・トリガーで除去されてもシールドをすべて粉砕できるが、小分けにしてブレイクすると、それだけトリガーで除去され、シールドが割り切れない可能性が生まれる。
 ただし今の沙弓の場には《セツダン》がいる。水のS・トリガーでは、沙弓のクリーチャーはまず除去できないだろう。
「《クロック》とかはなさそうだし、《デカルトQ》で仕込んだ方のシールドを含めて、二枚を手札に加えてもらうわ」
「……S・トリガー、《アクア・サーファー》だ。《デス・ハンズ》をバウンス!」
 《デカルトQ》によって仕込んだS・トリガーが捲れたものの、それはバウンス除去の《アクア・サーファー》。
 バウンスでは沙弓のサイキック・クリーチャーを除去できないが、《デス・ハンズ》だけは吹き飛ばす。だが、それだけだ。
 《セツダン》《アンタッチャブル・パワード》そして《オレドラゴン》。強力な三体のサイキック・クリーチャーは、生き残っている。
「トリガーは関係ないし……もう一度《オレドラゴン》で攻撃! 攻撃対象は《キリコ3》よ!」
 《オレドラゴン》が再び攻撃し、《キリコ3》を粉砕する。バトルに勝ったため、起き上がり、浬のシールドを二枚、吹き飛ばす。
 どうせ除去はされない。念のためにクリーチャーは殴るが、《クロック》などで攻撃を止められさえしなければ、なにを踏んでも同じだ。彼女はそう考えていた。
 そうやってタカを括り、詰めが甘いから、痛い目を見る。
 砕かれた一枚目のシールドから、一枚の呪文が放たれた。

「S・トリガー——《龍脈術 水霊の計》!」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。