二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.556 )
- 日時: 2017/05/06 01:35
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: joK8LdJj)
「さぁ、殴るぜっ! 《アルファリオン》でTブレイク!」
リオンのすべてを出し切った、力の権化。それは確実に彼女の最強を表している。
最強の三体が揃った今、彼女は躊躇しない。すべて内に向けられた力を、外向きに放つだけだ。
先陣を切った《アルファリオン》の大剣が、恋のシールドに向けて振り下ろされる。
「ブロックしにゃいのか?」
「……しない……受ける……」
残り三枚のシールド。
恋のすべての盾で、《アルファリオン》の攻撃を受け止める。そして、
「……S・トリガー」
一筋の閃光が、煌めいた。
「《閃光の守護者ホーリー》を……召喚」
「っ」
「相手クリーチャーを……すべて、タップ……」
最後に断ち切ったシールドから飛び出した、眩い光を放つ守護者。
《ホーリー》の光が、リオンのクリーチャーの動きを停止させる。
「にゃはは、参ったぜ。まさか普通にそんにゃのがいるとはにゃ。デカいブロッカーばっかにゃのかと」
「普段なら、そうかもしれない……でも、リオンが相手、だから……」
「オレ用に弄ったってか? お前もそーゆことすんだにゃ」
「……まあ、つきにぃに影響された……かも、しれない……」
「ふーん、ま、いいけどよ。にゃんにせよ、オレの攻撃はこれでストップ。ターン終了しかにゃいな」
完全に攻撃を止められ、ブロッカーも寝かされているリオンだが、焦った様子はまったくない。
それもそのはず。ブロッカーが機能せずとも、彼女の防衛線は盤石なのだから。
「わざわざ言わにゃくてもわかるだろうけど、一応言っとくぜ。《レオザワルド》がいる限り、オレは自分のドラグハート以外のクリーチャーを犠牲にすれば、敗北を免れるぜ」
「……うん」
「さらに《ザ・ライオネル》の能力で、お前が最初にブレイクする光のカードは、すべてS・トリガーだ」
「……わかってる」
リオンのシールドは五枚。クリーチャーは《レオザワルド》を除き七体。
恋が勝つには、トリガーの付与された五枚のシールドを乗り越えた上に、七回以上の攻撃を叩き込まなくてはならないのだ。
しかも、《アルファリオン》の能力により、呪文は唱えられず、クリーチャーの召喚コストも5重くなっている。
雁字搦めに制圧されたこの状況では、《エバーラスト》がいようとも、突破は困難を極める。
あらゆる力に押し潰される寸前のような状況だ。
「……リオン……前に、言ってたよね……」
「ん?」
そんな中。
恋はカードを引きつつ、か細い声で伝える。
「力は……強くて、危険なもの……だって」
「……まあにゃ。厳密には使い方と、使い手の意志によって、剣にも盾にもにゃるってこった。ただし剣として使うにゃら気をつけろ。それは錆びついた剣で、一振りで折れるかもしれない。もしくは諸刃の剣で、振れば己を切り裂くかもしれない。力はそこにあるだけで影響を及ぼすもんだ。ってことはつまり、同時に危険を孕むって意味ににゃる」
昔そんなことも言ったにゃ、とリオンは笑う。
「それがどうした?」
「……リオン……久しぶりだからって……手、抜いてないよね……」
「ったりめーよ。お前とのガチバトルで手にゃんか抜けるかよ」
「じゃあ……気は、抜いてない……?」
「……にゃにが言いたい?」
「リオンの、無敵の布陣……“穴だらけ”……」
《レオザワルド》《アルファリオン》《ザ・ライオネル》。
三体の力の権化によって構築されたリオンの布陣を、恋は、穴だらけと評した。
さしものリオンも笑うことなく、ピクリと眉根を寄せる。
「言ってくれるな……じゃあ、お前はこの布陣を、どう突破するんだ?」
「たった一枚で……突破できる……」
「マジでか。そりゃ面白いにゃ!」
にゃはははは、とまたしても笑うリオン。
恋の言葉をハッタリと踏んでいるのか。それとも、本当にたった一枚で突破できることを面白いと思っているのか。
「……《コッコルア》三体でマナコストマイナス3、《アルファリオン》でプラス5、差し引きプラス2……9マナで《護英雄 シール・ド・レイユ》を召喚」
「あ……? そのクリーチャーは……?」
「……英雄の、力……マナ武装7……《レオザワルド》と《ザ・ライオネル》をシールドへ……」
「っ!?」
《シール・ド・レイユ》は武装する。光の加護を受けた、聖なる力を。
武装した《シール・ド・レイユ》が放つ光は投獄を示す。光を受けた《レオザワルド》《ザ・ライオネル》。二つの力の権化は、盾へと封印されてしまった。
リオンの過ちはたった一つ。力の合わせ方を間違えたことだ。
強大な力は、上手く混ざり合えばより強力になるが、失敗すればたがいに衝突し、力を打ち消し合ってしまいかねない。
今の状態がそれだ。
《レオザワルド》自身に付与される不滅の力は、リオンのシールドが存在しない時にのみ発揮される。本来なら、《レオザワルド》の龍解時には、その条件はほぼ満たされているはずだった。しかしリオンは自らシールドを増やして補填してしまったがゆえに、その不滅の力を失わせてしまったのだ。
その極致が《ザ・ライオネル》だ。シールドを増やした分、S・トリガーで対応するというのは、一見すれば《レオザワルド》の不滅喪失を代償と考えれば釣り合うだろうが、同時に隙ができてしまっていた。
たった一体の英雄によって、守りの要が同時に消えてしまったのだ。リオンの無敵であるはずの布陣は、いとも簡単に瓦解する。
残るのは規制の《アルファリオン》のみだが、《アルファリオン》が規制するのは後から現れる者のみだ。現行で存在する者には影響は及ぼさない。
力と力がかち合い、補完されていたようで、その実、相互に穴が生まれていた。
「《エバーラスト》……Tブレイク」
その穴を穿つように、《エバーラスト》の槍が突き出される。
元々残っていたシールドと、《ザ・ライオネル》で追加したシールドの一枚、それから《ザ・ライオネル》が埋まっているシールドが、砕かれる。
「トリガーは……ちぃっ、にゃしか」
「なら……《コッコルア》で、シールドをブレイク……」
「こっちもトリガーは、にゃいぜ」
「もう一体の《コッコアルア》でブレイク……」
「これもにゃい」
「三体目の《コッコルア》でもブレイク……」
これで、リオンのシールドがすべて砕かれた。
最後のシールドを手にするリオン。しかし、
「……ノートリガー」
その最後のシールドにも、トリガーはなかった。
《ヘブンズ・ゲート》軸デッキそのものが、ブロッカー主体というだけあって防御力が高いのだ。そこに《レオザワルド》の敗北回避や《ザ・ライオネル》のトリガー付与能力まであるため、デッキに投入されているトリガー率は、それほど高くない。むしろ低いと言えるだろう。そこまで防御に枠を割く必要がないのだから。
結果として、軸となる防御手段をすべて潰されたリオンは、恋の攻撃を防ぎきれなかった。
「オレの負けだ」
シールドをすべて失い、ブロッカーも存在しない中で、リオンは諸手を挙げて言い放った。
「ここまでやって負けるにゃんざ格好悪ぃが、オレの力はその程度だった、ってことだにゃ」
「リオン……」
「ほら、これで決着だぜ。終わらせてくれよ、ラヴァー」
「……うん」
最後に、彼女は清々しく笑っていた。
禍根も遺恨も残さず、すべての力を出し切って、最後の結末を受け入れる。
「《龍覇 エバーローズ》で、ダイレクトアタック——」
- 烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.557 )
- 日時: 2017/05/21 23:53
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: joK8LdJj)
「あーあー、負けた負けた。にゃはははは!」
対戦後、リオンは快活に笑っていた。
己の敗北など、微塵も興味がないと言うかのような、清々しい笑顔だった。
「なんだこいつ、ピンピンしてるぞ……」
「まーにゃ。正義だのにゃんだの、口ばっかのユースティティアとは違うのさ。力を担ってるオレとしちゃな」
などと笑い飛ばすリオンだが、すぐに、ふっと笑みが消える。
「……ま、ラヴァーが手ぇ抜いてとどめ刺さにゃきゃ、もうちっとヤバかっただろうけどにゃ」
「…………」
「恋……」
最後の一撃を、《エバローズ》で決めた恋。
それは対戦の過程として、恋が決着をつけるために必要な一手であったが、それだけではない。
ユースティティアの戦いは、過去の清算という意味もあった。
しかし今回は、そんな、らしくない意味は含まれていない。
「ま、にゃんでもいーけどよ。どっちにせよ、楽しかったことに変わりはねーし」
「……リオン、私、勝ったよ……約束……」
「おっとっと、そうだったにゃ。楽しすぎて忘れるところだったぜ」
リオンが恋と戦うにあたって提示した条件。恋が勝てば、《守護の語り手》の情報を教えるというものだ。
ただリオンは恋と戦いたかった。語り手の情報はそのダシにされただけのように思えるが、それでも語り手の情報はこちらが欲しているものであり、その情報を得る権利を得ているのだ。
その権利を行使しない理由は、存在しない。
「覚えてるか? ラヴァー、お前が持ち帰った《守護の語り手》のタマゴのこと」
「ん……うん……覚えてる……」
「ぜってー忘れてたにゃ。まあいいけどよ。その語り手のタマゴ、今どうなってるか、知らないだろ?」
「……うん」
暁たちから聞いた話によると、守護神話の支配領域に存在していたはずの《守護の語り手》の神核は、恋——当時のラヴァー——に回収されているだろう、と推測されていた。
「私は、あの神核から、語り手を呼び覚ますことが、できなかった……あの時は、あんまり興味なかったし……ユースティティアに渡して、それっきり……」
「その正義野郎——ユースティティも、あのタマゴを持て余してたみたいだぜ? 笑っちまうよにゃ、語り手の重要性を一番説いてたのがあの野郎だってのに、そいつが語り手のタマゴになにもできにゃかったっていうんだからよ」
「…………」
「ま、んにゃことはどーでもいい。問題は、ユースティティアが消えた今、あのタマゴの管理権は誰にあるか、ってこった」
確かにその通りだ。
手に入れたのは恋でも、当時の彼女は神核を手放し、実質的に【秘団】が神核を所有していることになる。
主に管理していたのは、恋の直接的な上司と言えるユースティティアだったようだが、彼女も恋の手で引導を渡されている。
となれば、今、《守護の語り手》の神核を管理しているのは、誰なのか。
「……デウス、とか……?」
「いや、違う。あいつが直接管理するなら、はなっからそうしてるっての。ま、実はそのあたりについては色々揉めたんだが……結論から言っちまうぜ」
今現在、《守護の語り手》が眠る神核を所有し、管理しているのは誰か。
リオンは八重歯を覗かせながら、言葉を紡ぐ。
「——フォルトゥナを探せ」
短く、リオンはそう言った。
しかし恋は、かくんと首を傾げる。
「フォルトゥナ……? 誰……?」
「あ、お前知らなかったのか。こいつは想定外だぜ……ま、大体察してると思うが、オレたちの同類だよ。今はフォルトゥナが《守護の語り手》のタマゴを管理してるはずだぜ」
「……その、フォルトゥナって、どこ……?」
「さーにゃ、そこまでは知らね。オレも接点あんまねーし」
「なんだよそれは……」
どこにいるのかわからなければ、意味がない。
結局は、自分たちで居所を探るしかないということなのか。
「だが一応、注意だけはしといてやるぜ。フォルトゥナは10番の座、『運命の輪(Wheel of Fortune)』の担い手……序列だけにゃらオレの一個下だが、『運命の輪』は【秘団】において、特に重要な役目を背負ってる。本人も、クセ者っつーか、面倒くさいっつーか、一筋縄じゃいかねーだろうにゃ」
「……そう」
「にゃははははは! そんな辛気くせー顔すんにゃよ、ラヴァー!」
恋の表情に陰りが見えたと思ったら、それを難なく笑い飛ばすリオン。
語り手のことなんてどうでもいいと、ひいては恋と【秘団】との因縁なんて関係ないと言わんばかりの、快活な笑いだった。
ひとしきり笑った後も、野性味あふれる微笑は絶やさなかった。
「……とにかく楽しかったぜ、ラヴァー」
「リオン……」
しかし対照的に、恋はここまでずっと浮かない表情だ。
いつも感情を表情に出さない彼女だが、その無表情に、少しばかりの影が差している。
その影を見透かしたかのように、リオンは言った。
「……気ににゃることがあんのはわかるが、そんな暗い顔してんじゃねーよ」
「…………」
「お前はずっと、オレがなんでこんにゃことしてまで、お前を呼んだのか気にしてんだろうが……んにゃこと、考えるだけ無駄ってもんだぜ」
「無駄……?」
「あぁ、無駄だ、無駄無駄。無意味だぜ」
恋の懸念を、不安を、無駄と言って切り捨てるリオン。
絶対的に否定的な言葉を吐いているにも関わらず、そこに負の念は一切感じない。
その否定は、なにかを払拭するかのように、吐き出される。
「意味も理由もにゃいんだよ。オレとお前の仲だ、ちぃっと心配になったら様子を見たくなるし、遊びたいと思ったら遊ぶための場を取り付ける。ただそれだけだ。ほら、親はガキの様子をよく見に来ようとするもんだろ?」
「……知らない」
「愛さんはよく電話かけてくるよ」
「ま、にゃんでもいいけどよ。つまりはそーゆーこった。オレはただ、お前が心配で、心配ついでに遊びてーなーって思ったから呼んだだけだ」
理屈ではない。衝動的で感情的な、なんてことはない思考と行動
裏はなく、そこにあるのは表だけの原理のみだ。
「ま、元気そうだしよかったぜ。久々に遊べて楽しかったし、オレは満足したぜ。サンキュー、ラヴァー」
「……ん」
しかしまだ、腑に落ちなさげな恋。
清々しい笑顔を見せるリオンのよういかないのは、単なる性格や気質によるものなのか。
はたまた、彼女の抱える“因縁”ゆえか。
「……まー、そう簡単にゃ割り切れねーわにゃ。お前はそーゆー奴だし、オレたちの関係はそうなっちまった」
だがにゃ、とリオンは続ける。
「お前はその道を選んだ。ユースティティに牙を剥いた時点で、お前は自分で選んだ“運命”に立ち向かわにゃければにゃんねーんだ。お前がイヤイヤ言おうが、その運命は変えられないぜ」
「ん……」
「もし、お前が少しでも未来への不安を感じるにゃら、オレが手を貸してやる」
「……手……?」
「おう、猫の手だ」
そう言ってリオンは、恋に向けてシュッとなにかを投げ放った。
鋭利に光るそれは、恋の胸を貫く寸前に、恋の手に落ちた。
「……え……これ……」
「オレのワガママに付き合ってくれた礼だ。持って行きにゃ」
恋の手元に落ちたそれは、一枚のカードだった。
三重に重なったかのように見える、光るカード。
さっきまでリオンの手にあり、自分に向けられた白き武器だ。
「……いい、の……?」
「遠慮にゃんてすんにゃよ、オレとお前の仲だろ?」
「……ありがと、リオン……」
「おうよ、にゃはははは!」
手にしたそれを、静かに胸に抱く恋。
友に託された武器。猫の手と称するにはあまりにも大きな力が、その手にある。
それだけで、彼女の抱える実体のない影が、薄らいだような気がした。
「じゃーにゃ、ラヴァー! 次会う時は敵同士にゃ気がするけど、また遊ぼうぜ!」
「……うん、また……」
かくして、【神劇の秘団】の11番、『力』のリオンが企てた“遊び”の計画は、全行程が終了した。
「——ずっと気になってんだが、俺らがこいつを管理する意味ってあんのか?」
「わかってないなぁ、君は。それが僕らに託された宿命であり、大いなる意志の導きによるものだからに決まっているじゃないか。それはつまり、僕らの支配する意識領域の外からなる——」
「うるせぇ、とっとと言え。死ね、殺すぞ」
「君はせっかちだな」
「てめぇはもったいぶりすぎだ。うぜぇ、死ね」
「少し静まれ」
「む……すまない」
「俺は自分の疑問をぶつけただけだ」
「ならば私が答える。我々がこれを管理する意味。大局的に見れば様々な思惑が交錯した結果と言えるが、それらをすべて解明して説明するのは難解だ」
「だな。それに、そんなクソ遅ぇ理屈は聞いてらんねぇよ」
「然り。しかし、それを端的に言い表す言葉が存在する。我々が司り、担うものと同義の概念が」
「あぁ……」
「まあ、そうだよね。僕らはいつも、それに従っている」
「馬鹿か、死ね。てめぇと同じにすんな、殺すぞ。俺はいつでも自分の意志にのみ従ってるっつうの」
「はいはい。それじゃ、その可憐な言の葉を聞かせてくれたまえ」
「手短にな」
「……我々が語り手を管理する理由、意義。それはこの一言で片づけられる——」
「——それが“運命”であるからだと」
- 142話 「部長の昔話」 ( No.558 )
- 日時: 2017/05/28 18:27
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: joK8LdJj)
夜だった。
四方八方上下左右。どこを見渡しても、月一つすら見えない深き森の暗夜。
唯一の光は、テインが起こした焚火のみ。
見張りにドライゼとテインを置き、沙弓と一騎はその焚火を囲んでいた。
「……沙弓ちゃん。どうしようか」
「どうにかするしかないわね。騙し騙しでザキを利用しつつ、皆を捜すしかないわ」
「もっと短期的な意味で言ったつもりだけど……それも、どうなんだろうね」
現状、沙弓たちはメラリヴレイムの名前を餌に、ザキという獣を操っているに過ぎない。
そしてその餌は、少しでも突かれたら虚無だと分かる、頼りないハリボテである。
「目の前にぶら下がっている餌が偽物だとばれた瞬間、私たちを引っ張る豚は猪に変わる。そうなったらアウトね」
「沙弓ちゃん、その場凌ぎの発言でとんでもないリスクを投げ放つよね」
「ちょっと申し訳ないとは思ってるわ」
「申し訳ないって言うなら、俺こそ現状の打開を君に任せちゃってるから、なにも口にする権利がないんだけど……」
「不満はあるって?」
「いや。和解案があったんじゃないかって気はするけど、こうなっちゃった以上は仕方ないし、それ相応のリスクは覚悟しなくちゃいけないと思うよ。だから現状は現状として受け入れるとして、どうしようか、って」
今はアテもなく、ザキにに付いているだけだが、それもいつまでもつかわからない。
いずれ自分たちがメラリヴレイムの情報など持っていないとばれるだろうし、それまでに為すべきことを為すか、身の振り方を考えなければならない。
「とりあえず、俺たちの目的としては、恋や暁さんら……皆と合流することだけど」
「どこにいるのかしらね、あの子たち」
なぜバラバラになってしまったのか。その原因究明は後回しだ。
今は帰還手段も仲間の居所も分からない状況。絶対になくてはならないものを確保することが、最優先事項だ。
ゆえに当面の目的は、仲間探しということになる。
「そもそも、この近くにいるのかしら」
「微かだけど、皆のマナの流動は感じるよ」
「そんなことがわかるの?」
「なんとなく、だけどね。語り手特有の波動みたいなのがあって、フィーリングでキャッチできるんだ。かなり弱いけど、まったく感じないほど遠くもない」
「具体的にはどのくらい?」
「少なくとも、がむしゃらに歩き回る価値はなくもない、ってところだな。歩いても出会える可能性が、微塵くらいはある程度の距離にはいると思うぜ」
「頼りないわね……」
信じる価値があるかどうか、非常に微妙だった。
期待値は決して高いとは言えないが、可能性がそこには存在する。
効率性と合理性を考えるか、希望と期待を望むか、といったところだろう。
(カイなら絶対に安全確保を最優先で考えるでしょうね。暁なら、アテがなくても一人で歩き回ってそう。柚ちゃんはどうするかしらね……誰かに助けを求める?)
では、自分ならどうする?
今、自分たちが持ち得るものは、なにもない。
現状を理解するだけの情報、現状を自力で打開するだけの力もない。
力があるなら、それだけのことを実現できるが、力がないのならどうしようもない。
弱者はまず、自分の弱さを自覚しなければならない。そして、弱者としてなにをするべきかを考えなければ、生き残れない。
弱者は弱者らしく、強者に付き従うのが常。
智略に謀略、詐欺と欺瞞、悪知恵も浅知恵もすべて使い尽くして、強者に寄生し生きる。
それが自分たちにできる最善の行動だと、沙弓は結論づけた。
反逆せずに従属する。それでいて抗うことが、現状の最善手だ。
「だけど、肝心のザキはどこ行っちゃったのかしら」
「さぁ……なにも言わずにどこか行っちゃったよね」
「置き去りにされたかしら」
「正直その可能性が普通にあり得そうだから、俺は結構戦慄してるよ……」
自分たちの同行を常に渋っていたザキなら、自分たちを置いて去ってしまうというのもあり得る。彼は夜目も利く。暗夜でも活動に支障はないだろう。
しかし沙弓は、一騎の考えはないと思っている。そもそも、自分たちを見捨てるのなら、最初から相手にしていない。目障りなら殺すだろうし、関心がなければ無視を決め込む。彼との付き合いは一日にも満たないが、そのくらいにドライな性格であることはわかった。
だがそれでいて、情に厚い。メラリヴレイムの名前を出すだけで、その存在に強く引っ張られている。ゆえに自分たちはこうして生きているのだから、その結びつきは相当だ。口では否定しているが。
そこから導き出される結論としては、ラーザキダルクはまだ、自分たちからなにかしらの利益を見出しているということ。何度も言うように、その利益はハリボテだが、彼がそれを信じる限り、自分たちは捨てられないはずだ。
そうに違いない。というより、そう思わないと生きていけない。
(結局は希望的観測なんだけどね)
しかし絶望で前には進めない。
状況を好転させたいのならば、希望に縋るしかないのだ。
「とりあえずザキが戻ってくるのを待つしかないわね。それまでお喋りでもしてましょう」
「気楽だね、沙弓ちゃんは。でもまあ、確かに気が滅入っててもなんにもならないし、気晴らしは必要だね」
「そうそう。じゃあなにを話しましょうか。定番の恋バナ?」
「ちょっとそれは俺にはハードルが高いかな……あ、じゃあ聞きたいことがあるんだけど」
「聞きたいこと? なにかしら?」
「純粋な興味なんだけど、遊戯部って去年まではどうしてたの?」
「これまた予想外な覚悟ね……去年まで? 私が一年の頃ってこと?」
「うん。暁さんたちが入る前から、沙弓ちゃんは部員だったんだよね。その時の話、ちょっとだけ興味があるんだけど」
暁たちがいない頃の遊戯部。
半ば学内の都市伝説的に語られていた、隠れがちな部活動として、遊戯部は古くから存在していたらしい。古くからと言っても、いつから存在しているかはまったく定かではないのだが、それほど昔というわけでもないらしい。
今の遊戯部は、全員が語り手の所有者で、こちらの世界と現実世界を行ったり来たりする、言うなれば“関係者”が集う場所となっているが、それはどちらかと言えば異常だろう。
では、通常はなんなのか。
そこは本来、どのような場所だったのか。
少なくとも、一年前の“普通の遊戯部”を、沙弓は知っているはず。
本当に単純な興味本位だ。この機に、ふと思いついたという程度の軽い気持ちで、一騎は尋ねた。、
「去年ねぇ……まあ、今よりもうちょっとフリーダムで、まともな活動してたわね」
「今はまともじゃないんだ……」
「こんなとこにいる時点で、およそまともとは言えないからね。今に比べたら、それはもう物静かで大人しい部活動だったわ」
「物静かで、大人しいか……」
「なにか気になる?」
「いや、あんまり沙弓ちゃんっぽくないというか……沙弓ちゃんはもっと、混沌を楽しむ人だと思ってたから」
「サラリと酷いことを言われたわ。否定はしないけど」
飄々と一騎の言葉をいなす沙弓。
別に混沌が好きなわけではない。だが、混沌は不確定要素の集合体であり、予想も予測もできない状態を作り出す。
それがただのゲームであれば、混沌ほど楽しいものはないだろう。予想できる結果にに楽しみなどない。予想を裏切られるからこそ、楽しいのだ。
(ま、カイならクソゲーって言うんでしょうけど)
打算と合理と効率だけでゲームを楽しむ眼鏡には理解できないだろう楽しみ方だ。恐らく暁ならわかってくれる。
今の遊戯部が混沌かと言われると、素直に頷けないが、かつての遊戯部がそうであったかと言われても、やはり同じだ。
「沙弓ちゃんは、どうして遊戯部に?」
「んー、理由は色々あるわね。単純に楽しいことが好きだから、楽しそうな部活に入ったってのもあるけど、それ以上に、憧れの人がいたから、かしらね」
「憧れの人? なんか意外な言葉だ」
「そう? まあ、憧れってより恩人と言う方が正しい気もするけどね。小学校も一緒の先輩が、去年の遊戯部の部長だったのよ。小学校の時の恩人がいる部だったから、私も入った。大体そんな感じ」
思ったよりも単純だった。
それこそ意外だが、表面をなぞるだけのことなど、そんなものだろう。
問題は、その中身である。
「私の両親がどっちも死んじゃったことは、もう言ったわよね。それで精神的に参ってた時期が何度かあったのよ。特に酷かったのは二回くらい? で、その時に私を助けてくれた恩人が、二人いる」
沙弓は、二本の指を立てた。
「一回は、こっちに引っ越してきてすぐくらい。もう一回は、小学校の高学年……何年生だったかしら。四年生とか五年生くらいの頃に、両親のことと折り合い付けられたと思ったら、またぶり返したことがあってね。あの頃の私は鬱病だったんじゃないかしらってくらい、沈んでたわ。その時に出会ったのが」
「去年度の遊戯部の、部長さん?」
「そう。北上先輩っていうんだけどね……家が雀荘なことと、家族構成がギャルゲーみたいなこと以外は、普通の人だったわ。成績も平凡、程よく気さくで、変な趣味もない。部長であることがアイデンティティみたいな人だった」
「酷い言い様だね……」
「でも、私は救われたのよ、あの人に」
本人にその気はまったくなかったっぽいけどね、と沙弓は笑う。
「そもそも私の事情なんて、ちゃんと話してなかったし。小学校の頃はクラブ活動とかもしてなかったから、凄く交流があったわけでもないわ。でも、私は確かにあの人から“楽しむ心”みたいなのを、教えてもらった」
「楽しむ心……?」
「退かぬ、媚びぬ、顧みぬ、ってやつよ」
「それは違うんじゃないかな」
「似たようなもんよ」
なにが似てるのか。
そう切り返そうとしたら、それよりも前に、沙弓は少し声を低くして、言った。
「先輩に言われた言葉は今でも覚えてる。『どんなに逆境でも諦めるな。どれほど不利でも喰らいつけ。どん底に突き落とされても抗い続けろ。そうすりゃ、それまでの絶望がチャラになるような最高に楽しい一瞬が待ってるかもしれないぜ』……ってね」
「抗い続ける……」
それは、沙弓の口からよく聞く言葉だった。
「そんな格好いい言葉が言えるんだね、小学生で」
「まあ、断ラスのオーラスに国士無双を狙ってる状況で言われたんだけどね」
「……俺、麻雀はあんまり詳しくないんだけど、苦し紛れで言ってるような気がするよ」
「そうかもね。でも、それでもいいの」
抗い続ければ、たった一瞬の“楽しみ”を掴めるかもしれないのだから。
時にそれは非合理的で、非効率的かもしれないけども。
そこに存在する可能性は、否定できるものではない。
彼はそれを、教えてくれた。
その“楽しみ”と“心意気”は、希望であり、救いだった。
「私はその一言に感化されちゃってね。それ以来、諦め悪く楽しむこと覚えて、その精神で遊戯部で過ごしてたわ。そんな生き方が性に合ったのかなんなのか、今じゃ結構楽しんでやれてる」
「……いいね、そういうの」
「一騎君にはないの? 今の部に入った理由とか」
「うーん、俺はスカウトされて入ったからなぁ。本当は生徒会に入ろうと思ったんだけど、ちょっといざこざがあってね」
「なにそれ。滅茶苦茶気になるんだけど。そんな面白話を隠してたのね」
「別に隠してるつもりは……そんな面白い話じゃないよ? 俺の失敗談みたいなものだし」
「面白いかどうかは私が決めるわ。いいから話してよ」
「気が進まないなぁ」
と、沙弓と一騎が談笑しているところに、声。
「……盛り上がってるところ悪いけど、二人とも」
視線を向ける。するとそこには、剣と銃をそれぞれ抜いた、テインとドライゼの姿が映る。
そして、彼は言った。
現状を一言で、言い表す言葉を。
「やべぇ——敵襲だ」
- Re: デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.559 )
- 日時: 2017/05/30 11:53
- 名前: 大光 ◆qywHv.OLwI (ID: j5WpSu7v)
どうも大光です。
デュエル・マスターズ Another Mythologyの閲覧35000突破おめでとうございます。最近小説よりも優先することが学業でも趣味でも増えてきているようですが、なんとか完結することを願っています。気分の乗らない時に書いてもいい作品にならないと今期の某アニメで言われたのでペースはモノクロさんの思う通りでいいと思っています。
FGOを始めたようですが、それについて頼みたいことがあります。ネタバレを極力伏せていうとストーリーのラスボスが属するカテゴリにデュエマのクリーチャーであるシャングリラと似ているかです。インターネット上にそんなことを考えている人はたぶんいないので、モノクロさんがもしFGOのストーリークリアした時に教えてほしいです。
では失礼しました。
この投稿は小説の残り返信数を消費することを避けるために雑談板のほうに投稿しましたが、あそこの投稿に気づく見込みがないと思ったので、こちらにも投稿にしました。
- デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.560 )
- 日時: 2017/05/31 01:07
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: joK8LdJj)
大光さん
ありがとうございます。確かに、色々と手を出し過ぎて、かなり処理不足になっている感じがありますけど……完結まで進みたいですね。とか、作者が言うことではないですけど。
しかし続ける気がある限りは、続けられると思います。今のところ、やめる気もないので……ちょっと、デュエマの二次創作と、架空デュエマの違いについて悩んだりしたので、こっちの作風を変えるとかあるかもしれませんが。
あぁ、FGOですか……まあこの作品も、もう誰が見てるのやらって感じですし、別に構わないのですが、ツイッターのDMとかの方がわかりやすかったかもしれなかったですね。
それはそれとして、今モノクロは五章の半分くらいまで進んで、一応ラスボスらしきものと対面はしましたけど……現時点では、《シャングリラ》とは似ても似つかぬというところです。まったく違う思想、理念、存在だと考えます。
まあ、まだ顔を見て少し対話した程度なので、最後までストーリーを見たら、また違う感想が出て来そうですけど。
それに、属するカテゴリ、の意味するところが少々曖昧なので、その点もはっきりさせないと、なんとも言えないかもしれません。
こんな自分なんかの意見で良ければいくらでもお話しますが、ストーリークリアはまだもうちょっと長引きそうなので、気長にお待ちいただけると。
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114