二次創作小説(紙ほか)
■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)
- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 28話「英雄」 ( No.94 )
- 日時: 2014/05/24 01:44
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
「わたしのターン。《カチュア》の能力発動ですっ。《カチュア》で攻撃する代わりにタップして、山札からドラゴンを出します。出すのは《帝王類増殖目 トリプレックス》です! その能力で、マナゾーンから《結界の面 ブオン》と《緑神龍バルガザルムス》をバトルゾーンへ」
「おおぅ、やるねぇ、ゆず」
「これなら《カチュア》の能力で破壊される《トリプレックス》を、《ブオン》のセイバーで守れるな」
「はい。そしてスピードアタッカーになった《トリプレックス》で攻撃! その時《バルガザルムス》の能力で山札を捲って……ドラゴンなので手札へ加えます。そして、Tブレイクですっ」
「S・トリガーは……ないわね」
「では、ターン終了です。《カチュア》の能力で《トリプレックス》は破壊されちゃいますが、《ブオン》のセイバー能力で代わりに破壊します」
「じゃあ私のターンね。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》召喚」
「え?」
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の能力で、私の闇クリーチャーはすべてスレイヤーになるわ。《グール》で《トリプレックス》に攻撃、スレイヤーで相打ちよ。ついでに《バイス・カイザー》でWブレイク」
「せっかく残した《トリプレックス》が……で、でもまだ終わりじゃありません。わたしのターン《エコ・アイニー》と《ミルドガルムス》も召喚しますっ。さらに《カチュア》の能力で《カチュア》をタップして、山札から《ドラピ》をバトルゾーンに——」
「出すのいいけど、《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》の効果で全部タップされてるわよ」
「えぇ!? そうなんですか……?」
「ああ。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》は闇のクリーチャー以外がバトルゾーンに出る時、タップさせる能力があるからな」
「《ブオン》もいないし、《カチュア》で出した《ドラピ》はただ破壊されるだけだね」
「うぅ……ターン終了、《ドラピ》を破壊です……」
「じゃ、私のターン。墓地進化《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》を召喚。《バルガザルムス》を破壊してWブレイク」
「あぅあぅ……」
「《バイス・カイザー》で残りのシールドをブレイク。《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》でとどめ」
「あうぅ……」
容赦のない一撃が加えられ、沙弓と柚のデュエルは、沙弓の勝利となる。
「負けちゃいました……」
「うん。テストプレイに付き合ってくれてありがとうね、柚ちゃん」
「これテストプレイだったんですか!?」
というより、ここ数日、柚以外の三人の対戦はすべてテストプレイのようなものだった。
「とりあえず悪魔龍じゃない《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》だけで動かしてみたけど、いい感じね。これならもう片方を入れても問題なさそう」
「あ、部長あの時の《リュウセイ》片方しか入れてなかったんですか」
「まあね。とりあえず片方の使い勝手を見てからって思ったのよ」
「最初から両方入れた方が効率良さそうですが……」
しかし浬は、彼女が効率ばかりを重視しないことを知っているので、それ以上は言わないでおく。
それよりも。
「今日もまだ来てないな、リュンの奴——」
「やぁ、お待たせ」
「——来たか」
気付けばそこにリュンがいた。実に二日ぶりだが、随分と懐かしく感じる。
「あ、リュン! 今までどこに行ってたのさ!」
「ちょっと色々とね。それよりどうだった? この二日間」
「そうね……こっちも色々あったわ」
「かいりくんと、ぶちょーさんが、新しいクリーチャーを仲間にしたんです」
正確には、浬は仲間にしたというよりも研究成果等を譲り受けたのだが。
「みんな僕がいない間に、新戦力を獲得したんだね」
「そうなるわね」
「私も《ドラゴ大王》がいるし、これならあの子にも勝てるよね!」
「どうだろうな」
ポジティブになっている暁に、浬の冷めた言葉が割って入る。
「俺も直に奴と戦っているから分かるが、あいつは強い。今のままでも厳しいだろう」
「確かに、傍から見てても強かったものね、あの子」
「むぅ……!」
「正直、もう一戦力欲しいところだな」
だがその辺のクリーチャーを倒してカードにしたところで、大した戦力にはならない。それこそ《ドラゴ大王》や《リュウセイ》のように、かつて十二神話と共に戦ったようなクリーチャーならともかく。
「もう一戦力ねぇ……」
「心当たりがあるんですか、リュンさん?」
「うん、まあ一応ね。知り合いから少し聞いた話なんだけど——」
リュンは前置きして、語り始めた。
十二神話と密接に関わりながらも、独立した強さを誇った龍たちのことを。
「——君たちは“英雄”って知ってるかい?」
俗にドラゴン・サーガと呼ばれる世界は、その名の通りドラゴンが支配する世界だ。その世界の中では、各文明の領地のエネルギーを身に纏い“武装”することで強力な力を発現させる龍——英雄と呼ばれるクリーチャーが存在している。
どこかの世界に存在すれば、そのクリーチャーは別の世界に存在する可能性が大いにあり得る。その英雄と呼ばれるクリーチャーは、ドラゴン・サーガの世界だけではなく、十二神話が治めていたこの世界にも存在していたようだ。
「とはいえ、表舞台に出て来るようなクリーチャーじゃないみたいだけどね。ドラゴン・サーガの世界と同じく、文明ごとに勢力が分かれているこの世界において、各文明の十二神話と英雄が手を結ばない理由はなかった」
しかし英雄は英雄という立場があったため、十二神話に服従することなく、独立して存在していたようだ。
「それでも十二神話との結びつきは強かったから、十二神話と関わりの強い地に眠っている。英雄と呼ばれるだけあって、彼らの力も相当強いはずだし、もし仲間になれば即戦力になると思うよ」
「よし行こう!」
「即答ですっ!?」
大人しくリュンの話を聞いていた暁は、話が終わるや否や、椅子を蹴飛ばして勢いよく立ちあがった。
「あ、あきらちゃん、もうちょっと考えた方が……」
「考えるまでもないよ。だってその英雄ってクリーチャーは強いんでしょ? だったら今すぐ仲間にしない手はないって」
「確かにその通りだな。少し性急な気もするが、あまりゆっくりしていられないのも事実だしな」
「早くて悪いこともないしね。いいんじゃないかしら」
三人の強い意向に対し、柚はもはや首を縦に振るしかなくなった。別段、否定していたわけではないが。
「……あ、そうだ。ねえリュン」
「なにかな?」
「これ、なにか知ってる?」
そう言って暁は、鞄からあるものを取り出した。
それは、漆黒の翼に抱かれた太陽。一昨日、《ドラゴ大王》より譲渡された物体だった。
「《ドラゴ大王》から貰ったんだけど……なんなのかよく分からないんだ」
「そういえば俺も、あの学校で似たようなものを貰ったな」
《語り手》が封印されていたものとそっくりだが、それらよりも一回り小さく、細部も異なる。触れてもなにも起こらず、クリーチャーが生まれることもなかった。
「コルルにも聞いてみたんだけど、強い力を感じる、としか言わなくてさ」
「うーん、僕にはちょっとよく分かんないなぁ……形状から察するに、コルルくんたち《語り手》のクリーチャーに関係してるっぽいけど」
「リュンでも分からないのか」
「僕は十二神話が存在していた頃には生まれてなかったしね。彼らが後世に残したものについてもさっぱりだ」
「え? そうだったんですか?」
十二神話やクリーチャー世界のことについて詳しいので、てっきり十二神話が存在していた頃からクリーチャー世界にいたものだと思っていた。
「僕は他のクリーチャーと比べて誕生の経緯が特殊だしね。でも十二神話についてはよく知ってるつもりだよ」
「まあ口振りからしてそうなんでしょうね。それより、英雄を探しに行く話はどうしましょうか」
沙弓が逸れた話の軌道を修正する。英雄探しに行くことはほとんど確定だが、肝心のどこに行くかまでは決まっていない。
「僕が掴んでいる英雄の所在は、火文明の《撃英雄》、水文明の《理英雄》、闇文明の《凶英雄》、そして自然文明の《牙英雄》の四つだけだ」
「ちょうど私たちの使うデッキカラーとぴったり合ってるね」
「ただ、光文明の英雄だけどうしても見つからなかったんだよね」
光文明。その一つのワードで、部内が静まり返った。
特に、暁の表情が引き締まる。
「……あの子も、英雄のクリーチャーを手に入れてるのかな」
「どうだろうね。何度も言うけど、クリーチャー世界は広い。一日二日程度の情報収集じゃあ、居場所がつかめないことも多い。単純に僕が見つけ切れていないだけという可能性も否定できない」
「だが、奴が英雄を味方に付けている可能性も否定できない、だろう」
「……そうだね」
あの実力に加えて、さらなる戦力も隠し持っているとすれば、かなりの脅威だ。だが力量を低く見積もっても意味はない。彼女なら、英雄の力も味方に付けていてもおかしくはないし、そう考えるのが自然だろう。
「……うん、やっぱり迷うことなんてないよ」
暁は静かに声を漏らす。そして内に秘めたものはどんどん熱くなり、燃え上がる。
そして、
「行こう! 英雄たちを探しに!」
- 東鷲宮中学校放送部 第三回 「卯月 沙弓」 ( No.95 )
- 日時: 2014/05/24 02:40
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
青葉
「さあさあ皆さん今日も始まりました、お昼の放送のお時間です。今回も司会進行は放送部一年の青葉が務めさせていただきます。そして今日のゲストはこの人! 二年五組の卯月沙弓さんです!」
沙弓
「どーもー、卯月沙弓です」
青葉
「今日はよろしくお願いします、卯月さん」
沙弓
「うん、よろしくね」
青葉
「さてさて、空城さん、霧島さんと今までは一年生をゲストにお迎えしていましたが、今回は初の二年生ゲストです。相手が上級生で、柄にもなく緊張しておりますよ」
沙弓
「とてもそうは見えないけど」
青葉
「これでも放送部ですからね、インタビューの際、感情を表に出さないようポーカーフェイスに修行をしてるんですよ。いつも部活でやってます」
沙弓
「向こうで上級生っぽい人が首を振ってるけど、あれはどういう意味なのかしら」
青葉
「さてさて、とりあえず卯月さんをゲストにお迎えしたのはいいものの……相手が先輩なので、今までのゲストと同じノリで進行すると流石に失礼にあたってしまいそうで、少々やりにくいです」
沙弓
「そんなに気にしなくてもいいのに。自然体でいいのよ」
青葉
「そう言われましてもね。まあとりあえず、卯月さんにはお尋ねしたいことがあるんですよ」
沙弓
「? なにかしら」
青葉
「卯月さんは遊戯部の部長だという噂を耳にしたのですが、本当ですか?」
沙弓
「本当よ」
青葉
「おぉ、あっさり言った!」
沙弓
「隠してるつもりはないしね」
青葉
「そうですか……せっかくですし、遊戯部の実態を少し探ってみましょう。では、部員は何名いるのでしょうか?」
沙弓
「現時点では私とカイ、空城さんと柚ちゃんの四人ね。みんな個性的で楽しいわ」
青葉
「柚というのは、一年二組の霞さんですね。で、カイというのは……?」
沙弓
「この前の放送でもゲスト出演してたわよね? 霧島浬」
青葉
「あぁ、霧島さんですか。あの人も遊戯部員だったんですね」
沙弓
「設立して間もない部だけど、最初に入部してくれたのがカイだったの。というか、私が入部させたんだけど
青葉
「はぁ……しかし、カイとはまた親しい呼び名ですね。付き合いが名gそうですが、家が近所とか、小学校からの知り合いとかだったんですか?」
沙弓
「いや、カイと初めて会ったのは私が中学に上がる直前だったから、付き合いは一年ちょっとね。色々と事情があって私は両親と別れて、それから霧島家にお世話になってるのよ。だからカイは弟みたいなものかしら」
青葉
「随分とひねた弟さんですね」
沙弓
「まったくその通りだわ。もう少し愛想良くならないのかしら、あの子」
青葉
「クラスでも睨み利かせてるように見えますしね……さて、話を少し戻しますが、遊戯部はそもそもどんな活動をしているんですか?」
沙弓
「古今東西の遊戯を文化として見て研究する部活、っていうのが一応の活動内容ね。ただ最近だと、大体デュエマやってるわ」
青葉
「あ、卯月さんもデュエマやるんですね」
沙弓
「まあね。デッキの中身とか知りたいかしら?」
青葉
「おおぅ、こっちが言う前に言われてしまいました……」
沙弓
「この流れだと、またデッキ紹介するかもって思ったのよ」
青葉
「結構鋭いですね、卯月さん……まあいいです。では、デッキの紹介、お願いしてもいいでしょうか?」
沙弓
「はいはい。今私が使用してるデッキは、こんな感じよ」
枚数:コスト:文明:名前
1:8:闇:《悪魔龍王 デストロンリー》
2:8:闇:《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》
1:7:闇:《復讐のバイス・カイザーΖ》
2:7:闇:《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》
4:7:闇:《黒神龍グールジェネレイド》
2:6:闇:《暗黒導師ブラックルシファー》
2:6:闇:《絶望の悪魔龍 フューチャレス》
4:6:闇:《黒神龍オドル・ニードル》
4:4:闇:《黒神龍アバヨ・シャバヨ》
4:2:闇:《特攻人形ジェニー》
4:2:闇:《ブラッディ・イヤリング》
4:3:闇:《ボーンおどり・チャージャー》
2:4:闇:《リバース・チャージャー》
1:5:闇:《インフェルノ・サイン》
3:6:闇:《デーモン・ハンド》
青葉
「闇単色のデッキですね」
沙弓
「基本の動きは、序盤に《特攻人形ジェニー》や《ブラッディ・イヤリング》で相手の行動を妨害しつつ、《ボーンおどり・チャージャー》で墓地とマナを増やす。そうして中盤以降からは相手のクリーチャーを破壊しながら大型ドラゴンを呼び出してフィニッシュ、という感じね」
青葉
「上手く《グール》を墓地に落とせれば《アバヨ・シャバヨ》と組み合わせて相手クリーチャーを破壊しながらこちらはクリーチャーを並べられますね」
沙弓
「《リュウセイ・イン・ザ・ダーク》が墓地にいれば、そのまま回収もできるしね。こういう粘り強く場に並べられるドラゴンを展開して押し切るのもいいけど、場をリセットする《デストロンリー》や、墓地進化で手軽に確定除去を撃てる《ヴァーズ・ロマノフ》みたいに、単体で突破口を開くようなクリーチャーも積んであるわ」
青葉
「ふむふむ。改造のポイントとかはありますか?」
沙弓
「そうねぇ……このデッキはわりと多くの戦術を取り込んでいるから、なにをするにしても少し中途半端なところがあるわ。例えば墓地に《グール》を送り込むにしても、墓地肥やしが《ボーンおどり・チャージャー》と《ブラックルシファー》、あとは《フューチャレス》くらいしかないし、墓地回収の手段も乏しい。低コストのカードも少ないから、その辺を留意する必要があるわね」
青葉
「具体的には、どんなカードを入れればいいんでしょう?」
沙弓
「墓地肥やしなら、《プライマル・スクリーム》で墓地回収とセットで行うことができるわね。墓地回収はS・バックの《煉獄陣》がお勧めだけど、手に入らなければさっき言った《プライマル・スクリーム》や《白骨の守護者ホネンビー》みたいなのでも十分だと思うわ。あとは、回収じゃなくてリアニメイトだけど、《地獄門デス・ゲート》とかでも墓地肥やしを生かせるわ」
青葉
「《ホネンビー》はブロッカーですし、相手の攻撃を防げるのはいいですよね」
沙弓
「そうね。このデッキは序盤の動きが遅いから、軽量ブロッカーやハンデスで凌ぐようにできてるけど、そこを補強して《ゴースト・タッチ》とかを入れてもいいかも」
青葉
「序盤からのハンデスはきついですもんねぇ……逆に手札補充とかはどうしていますか?」
沙弓
「その辺は墓地回収で補ってるけど、《邪魂転生》みたいなスーサイド系のドローを組み込んでもいいわ。ただ、場にクリーチャーが並びにくいデッキだから《封魔妖スーパー・クズトレイン》みたいな置きドローの方がいいかもしれないけど」
青葉
「相手クリーチャーも破壊することが多いデッキですし、確かに《クズトレイン》の方がドロー効率はいいかもしれませんね」
沙弓
「除去を増やすなら、《ブラックルシファー》とコンボを見せる《オルゼキア》や《デッドリー・ラブ》、あとは全体除去の《炎獄デス・サンライズ》とかかしら。ドラゴンが多いことを生かして、墓地肥やしとハンデスも兼ねる《黒神龍デヴォリューション》もいいわね」
青葉
「はぁー……結構色んな方面に改造できるんですね」
沙弓
「まあね。でも一つに特化すると他のところが弱くなるから、今のところはこの形でバランスを取ってるわ。その辺は、使う人の好みね」
青葉
「そうですか……おっと、今回はこの辺でお時間のようです」
沙弓
「なんか早くない?」
青葉
「そんなことないですよ、いつも通りです。ではでは皆さん、今回の放送はここまで。今回はゲストに卯月沙弓さんに来ていただきました。次回の放送もお楽しみに」
- 烏ヶ森編 1話「並行」 ( No.96 )
- 日時: 2014/05/24 13:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
某県某所に存在する中高一貫校、烏ヶ森学園。
その校舎の一角を走る少年の姿があった。
少年は焦っているような、不安に駆られているような表情で、教師に呼び止められそうな速度で廊下を駆ける。
そして、ある扉の前で止まり、その扉を勢いよく開け放った。
「ミシェル!」
「おー、一騎ぃ。どうしたよ、そんなに慌てて——」
「恋、見なかった!?」
一騎と呼ばれた少年は、ミシェルと呼ぶ金髪碧眼の少女に向かって、叫ぶように問う。
「……まーたそれかよ」
かなり必死な一騎に対して、ミシェルはどこか呆れたように声を漏らした。
「さっき教室に行ったんだけど、クラスの子はいつの間にかいなくなっていたって言うし、家に電話しても出ないし……もしかしたら、ここにいるかもって思ったんだけど……」
「見てないね。あたしはずっとここにいたから、どこにいるかも知らない」
「そ、そうか……」
肩を落とす一騎。
そこに、別の声が飛んでくる。
「恋って……四月の頭に体験入部に来た子、でしたよね?」
「あー、あの一年生ですかー。正規部員じゃないですし、普通はこんなとこにいないと思いますけどー」
聞こえてきたのは、男女の声。
眼鏡を外して拭いている女子生徒、黒月美琴と、こちらは普通に眼鏡をかけている男子生徒、焔空護だった。
「黒月さん、焔君……二人は見なかった?」
「見てません。私もショートホームルームが終わってからは、四天寺先輩や焔君とずっとここにいました」
「右に同じく」
その言葉を聞いて、さらに肩を落とす一騎。
そこに、ミシェルの鋭い一声が放たれる。
「つーか一騎、お前いつまでそんなことしてるんだ?」
「え?」
どこか非難するのようなミシェルの言葉に、一騎は呆けたような表情となる。
「中学生、しかも一年生なんてまだガキだけど、一人でいたいことだってあるだろうし、一人でできることだって増える。一人でできることっていうのは他人にやってほしくないことである場合も多いし、他人に干渉して欲しくないことも多くなる。だから年頃の中学生に干渉しすぎるなよ、かなり迷惑がってるかもしれないぞ」
「っ、それは……そうかも、しれないけど……」
優しさと過保護は違う。特に自立心が強ければ強いほど、過保護な扱いは拒絶されるものだ。
「だけど、心配なんだ……前までは電話には出てくれてたし、メールを入れたら返してくれたんだけど……」
「そろそろ見限ったってことじゃないのか」
「最近は一緒に登校しなくなったし、俺を避けてるみたいに会わなくなって……なにかあったのかもって、心配で……」
「それは剣埼先輩が原因だと思うんですけど……」
「僕も同意しますー」
と、部員からの反応は散々だが、一騎は鞄を放り投げ、
「俺、もう一度探してくる! 家にも一旦帰るから、先に部活始めてて!」
「っておい! 人の話聞けよ! 先に始めててじゃねーぞ部長!」
ミシェルの怒声など聞く耳持たず、そのまま走り去ってしまった。
「ったく、ほんとどうしようもないな、あいつ……」
「……ずっと気になってたんですけど」
一騎の姿が見えなくなって、美琴が口を開く。
「剣埼先輩って、最近よくああしてますよね……日向恋さん、でしたっけ?」
「何者なんですかー? まるで妹みたいに思ってるようですけど、苗字違いますし」
「……あたしも詳しくは知らないんだがな」
そう前置きしてから、神妙な面持ちでミシェルは語り始める。
「こういう関係をなんと言えばいいのやらだが。そうだな、日向恋、あいつは一騎の——」
「遅れたっすぅ! 先輩方! 申し訳ありませんっしたぁ!」
語り始める——寸前に、勢いよく扉が開かれ、体格の良い男子生徒が突入してくる。
「……空気読めよ、馬鹿野郎。犬でも空気ぐらい読めるぞ」
「いや、その理屈は無理があるかと」
「あれー? なんかミッシェル先輩起怒ってるっすか? 自分、なにかしました?」
「気安く名前で呼ぶなハチ公。つーかあたしの名前はミシェルだ。促音はいらないんだよ」
「それは失礼したっす! ミッシェル先輩!」
「直ってねーし……!」
ハチ公と呼ばれた少年——夢谷八は、ミシェルの凄まじい眼光を前にしてもへらへらと笑っていた。
「……で、ハチ君の乱入で話が中断されましたけど、一体なんなんですか、一騎先輩とあの一年生の関係って」
このままでは逸れていく一方になる話の流れを、空護が修正する。それでミシェルも八に付き合うのをやめ、咳払いをして仕切り直した。
「ゴホン。まー、あいつと日向はだな」
「なんすかなんすか? なんの話っすか!? 自分も混ぜて欲しいっす!」
「だぁ、もう! だったら黙って聞いてろ! ハチ公らしく大人しくしてやがれ!」
「あ、流石に犬扱いは酷いっす! いくら自分でも怒るっすよ!」
「二人とも落ち着いてください。これじゃあいつまで経っても話が進みません」
火花を散らし始めたミシェルと八の間に、美琴が割って入る。その後もなんやかんやとあって、やっと場は静かになった。
「はぁー……なんか疲れた」
溜息を吐きながら、ミシェルはまた神妙な面持ちに変化する。
「一騎の奴と、日向恋。この二人の関係を一言で表すなら、日向は一騎の——」
少しだけ溜める。ほんの少しだけ声を止めてから、ミシェルは次の言葉を紡ぎだす。
「——妹分だ」
「図書室にもグランドにもトイレにもいなかったし、どこに行ったんだ、恋……?」
学校をもう一周してから、一騎は校舎を出た。ちなみに女子トイレの中を彼が直接探したわけではなく、ちょうど出て来た生徒から聞いて回ったのだ。勿論、白い目で見られたが。
校舎から出て、校門を潜る。中途半端な時間なので、帰宅している生徒は少なかった。
一騎は家に向かって走り出す——が、その途中で、近くを通りがかった女性に話しかける。
「あ、あの! 女の子を見ませんでした? 烏ヶ森の制服を着てる、背の低い子なんですけど……」
見てないと言われた。あまりに必死すぎたためか、向こうも軽く引いている。
と、こんな風に、家に帰るだけでもその道中に通行人から話を聞く一騎であった。だが必死すぎる一気に引いてしまう者や、まともに取り合ってくれない者も多く、そうでない者も知らないと返すばかり。
そんな折、一騎は一人の青年に声をかける。
「あの! お尋ねしたいことがあるんですけど」
「ん……? いいよ、なに?」
人の良さそうな青年だった。キョロキョロと物珍しそうに周囲を見回しているという点が若干挙動不審であるが、一騎の方が遥かに不審なので、あまり気にならない。
「女の子を見ませんでしたか? 小学生くらい背が低くて、華奢で、烏ヶ森の一年生なんですけど……」
「からすがもり……? ごめん、僕まだこっちの世界のことには疎いんだ。その子の姿が分かるものとかない?」
言葉の端橋が少しばかり違和感を感じさせるが、焦燥に駆られている一騎はそんなことを気にするはずもない。
「えと、ちょっと待ってください。携帯に写真が……」
とその時、はっと思い出したように、
「やば、携帯鞄に入れっぱなしだった……ええと、じゃあ……」
ならばと制服の内側をまさぐって出て来たのは、写真だった。携帯にデータとして入っている写真ではなく、現像された写真である。
「この子です。見てませんか?」
写真に写っているのは、色素の薄いロングヘアーの、華奢な少女。見たところかなり幼く、まだ小学生の頃の写真のようだ。仏頂面をしていても分かる。
その写真を見て、青年は、
「っ! この子……!」
目を見開いて、そんな声を漏らす。その反応に、一騎も食いついた。
「知ってるんですか!? あの、どこで見ました? まさか、事故とか事件に巻き込まれてるとか……?」
「どこで見たって言うか、えーっと……どっちかって言うと巻き込まれたのはこっちなんだけど、なんて言ったらいいのか……」
言葉選びに苦悩する青年。まるで伝えてはいけないことを省いて伝えようとしているかのようだった。
だが、
「…………」
「うーん……」
一騎の必死で真剣な眼差しを見ると、どこか観念したように、すべてを話すべきだと思ったかのように、息を吐く。
「こういうところで立って話すようなことでもないし、どこか落ち着いて話せる場所はないかな?」
「えーっと……じゃあ、うちの部室とか、大丈夫ですか? 部員が何人かいますけど」
「部員……ここにもそういう人たちっているのか。うん、いいよ」
そうして、二人は歩を進める。
その時、青年は念を押すように言った。
「先に言っておくけど、覚悟しておいてね」
「えっ?」
「僕はこの世界には疎いけど、こういうことが君らにとって大きなことだっていうのは、理解してるつもりだから」
「世界……? どういうことですか?」
一騎の問う世界という言葉と、その前の言葉の意味を合わせて尋ねる一騎。そしてその答えは、その二つの疑問両方に対する答えであった。
「そうだね……詳しいことは君が連れてってくれるところで話すけど」
今この場で言えることとしたら、と青年は、ゆっくりと言葉を発す。
「さっきの女の子は……こことは違う世界にいる」
- 烏ヶ森編 2話「クリーチャー世界」 ( No.97 )
- 日時: 2014/05/24 14:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
一騎が飛び出してから十数分後、ガラガラと部室の扉が開かれた。
「おぅ、早かったな一騎。やっとお前も諦めがつい——」
「ここです」
「お邪魔します」
「……いや誰だよ!」
一騎がいるのは理解できるが、その隣には見たこともない青年の姿があった。
「リュンさんっていうんだって。家に帰る途中に会ったんだ」
「よろしく」
「いやいや、よろしくじゃないだろ。なにをどういう経緯でここに部外者がいるんだよ」
「リュンさんは、恋のことを知ってるみたいなんだ」
その一言で、ミシェルは口をつぐんだ。
「知ってるって言うほどじゃないんだけど……どこから話せばいいのかな。とりあえず大前提として——」
リュンは言葉を続ける。しかしその大前提は、あまりにも突飛すぎた。
「——僕は超獣世界、つまりクリーチャー世界から来たんだ」
「帰れ」
リュンが告げた言葉を、ミシェルは即座に撥ね退けた。
「ミ、ミシェル、いきなりそんな……」
「一騎、妹分のことになると前が見えなくなるのが、おまえの悪い癖だ。だが流石にこれはどうなんだ。もう手遅れかもしれないが、そのうち騙されるぞ」
「確かに、いきなりクリーチャー世界から来たとか言われても、冗談にしか聞こえません。四天寺先輩の言う通りです」
「同意ですー。ちょっとこれは虚言癖か厨二病を疑いますよねー」
「どうなんすかね? でも本当にクリーチャーの世界から来てたら凄いっすよね」
他の部員からの反応も、そんな感じだった。
「そういうわけだ。あたしらはあんたみたいな不審者に構ってる暇はない。とっとと帰れ」
「ちょっ、ミシェル……」
「うーん、全部本当なんだけどな」
辛辣な言葉を浴びせるミシェルに対し、首をひねるリュン。
「だったら実際に見てもらうしかないかな」
「なにをだ?」
「クリーチャー世界。実際に行って見れば、流石に納得せざるを得ないよね」
「見せられるものならな」
リュンに疑いの眼差しを向けるミシェル。対するリュンは、ポケットから古びた携帯電話を取り出した。
「場所はどこにしよう。せっかく新しい人を見つけたわけだし、この前ダメだったあそこを……」
「なんか、ぶつぶつ言い始めたっすよ?」
「あれも厨二病ですかねー?」
と、そんな扱いを受けるリュン。
「ミシェル……いくらなんでも、初対面の相手にあれはないだろう」
「こういうのはきつすぎるくらいに言うのがちょうどいいんだよ。つーかお前も、あんま部外者を学校に入れるなよ」
「よし、準備できた」
と、リュンが携帯片手に手招きする。
「一応言っとくと、こっちも無理強いするつもりはないから、来たくない人は来なくてもいいよ」
「なに言ってんだか……連れて行けるものなら連れてってみろ」
「俺は行くけどね」
前に出て来たのは、一騎とミシェル。一騎は半ば本気で信じているようだが、ミシェルの方は行けないと証明するという方向性で出て来たのだろう。
「じゃあ転送するよ」
そう言って、リュンは打ち込んだアドレスに向けて送信する。
刹那、一騎とミシェル、そしてリュンの三人が——この世界から消得去った。
「……ここは」
そこには広大な砂漠が広がっていた。見渡す限り砂ばかり。
しかし目の前には、巨大な廃墟がそびえ立っている。
「な……なんだここは!」
そして一騎の傍らでは、ミシェルが叫んでいた。
「クリーチャー世界だよ。お望み通り、連れてきてあげたんだ」
「リュンさん……」
「本当にこんなことが……いや、なにかのトリックかもしれないし……」
仮にクリーチャー世界でなくとも、こんな瞬間移動染みたことを見せつけられてしまえば、納得するしかないが、ミシェルはまだリュンを疑っている様子だ。
「とりあえず、こっち。この世界については歩きながら話すよ」
そう言ってリュンは歩き出す。目の前の廃墟に向かって。
「……行こう、ミシェル」
「チッ、仕方ないか……」
そしてその後を、一騎とミシェルが追うのだった。
リュンが言うに、このクリーチャー世界は今、軽く混乱状態にあるらしい。
十二神話と呼ばれるこの世界を統治していた存在がいなくなり、各地でクリーチャーたちはバラバラになり、規律も統制もない世界となってしまった。リュンはそんな今の世界の現状を救うべく、他の星——地球の人類の力を借りて、活動しているらしい。
「それで、恋はどこにいるんですか?」
「それは僕にも分からないな。僕は君らの他に、四人の人間をこの世界に導いているんだけど、彼女はそれに該当しないイレギュラーだ。どうやってこの世界に来ているのかも、この世界に来ている目的も分からない」
「っ、そうですか……」
項垂れる一騎。だが、悪いことばかりではなかった。
「でも、もしかしたら恋が最近おかしいのは、クリーチャー世界に来ていることとなにか関係があるのかも……」
「まあ、そう考えるのが普通かもなぁ……」
「恋の悩みの原因をつきとめられれば、また元気になってくれるかもしれないし……リュンさん」
一騎は決心したように、リュンをまっすぐに見据える。
「俺、恋を見つけるまで、リュンさんに協力します。だから、これからもこの世界に連れてってください」
「おい、一騎……!」
流石に性急ではないのか、もっと考えてから決断すべきではないのか。そう思うミシェルだったが、一騎の目は本気だった。
そこに、迷いはなかった。
「……ったく、仕方ないな。おまえ一人じゃ心配だし、あたしも付き合ってやるよ」
「ミシェル……ありがとう」
「事情を話せば、あいつらも同じこと言うだろ。乗りかかった船だし、付き合ってやる」
「協力してくれるのは、僕としてもありがたいよ」
そこで、とリュンはさらに続ける。
「話を戻すけど、僕の目的はこの世界に新しい秩序を作ること。そのためには新しい統治者が必要になるんだけど」
過去の統治者、十二神話はもうこの世界にはいない。なので、
「その十二神話が各地に封印した、自身の最も信頼する配下を目覚めさせて、代わりにこの世界を統治してもらおうと思っているんだ」
「ってことはもしかして、この廃墟にそのクリーチャーが眠っているんですか……?」
「そうだよ。察しがいいね」
「なんだよ。じゃあこの世界の統治者って、簡単に席捲できんじゃん」
とミシェルが言うが、リュンは首を横に振った。
「僕も最初はそう思ってたんだけどね。ただ、その配下のクリーチャーたちは、どういうわけかかなり力が弱いんだ。今のところ四体——いや、五体のクリーチャーを目覚めさせているけど、この世界を統治する力は、彼らにはない」
「え? じゃあ、どうするんですか?」
「分からない。ただ、配下のクリーチャーは他の星の生命体の力を借りることで目覚めるんだけど、最近はそれだけじゃないと思ってるんだ」
「どういうことだ?」
「デュエル・マスターズ」
ミシェルの問いに、リュンはそんな言葉で答える。
「君らの世界では、クリーチャーを使役して戦うことを、こういうんだろう? そしてその者のことを、デュエリストという」
「まあ、そうなりますね……」
「僕も君ら以外の人間を見て来たけど、その中で思ったんだ。配下のクリーチャーたちは、君ら人間と共にあることで強くなるのでは、とね」
クリーチャーの成長。その先にあるものが、この世界の統治者。
つまり、リュンの考えとは、
「君らに配下のクリーチャーを育ててもらって、やがてこの世界を治めるクリーチャーにしてもらおうと思うんだ。勿論、そのために僕は協力するし、統治の前に各地で暴れているクリーチャーも鎮圧しなきゃだけどね」
となると。
一騎たちの目的は、日向恋の捜索。
リュンの目的は、この世界の安定。
恋を探すことに関しては、手探りでこれから方針を固めていくことになるのだろうが、それと並行してリュンの目的についても進めていくことになるだろう。
「っと、着いたよ。ここだ」
リュンは足を止める。そこは、小部屋だった。壁面には幾何学模様が走り、中央には祭壇のようなもの。そこには台座もあり、その上には岩のようなものが置かれていた。
焼け焦げた岩塊に一本の剣と無数の槍が突き刺さり、岩塊から銃口があらゆる方向へと向いているという、凄まじい物体だ。
「なんだ、あれ……?」
「十二神話の配下が眠っている……そうだね、卵みたいなものかな」
「どうやったら目覚めるんですか?」
「触ればいいんだよ。適合者なら、クリーチャーが目覚めるはずだ」
随分と簡単だった。
まず最初に、一騎が前に出る。そして、台座の前に立った。
(恋はこの世界に来ている……その謎を解き明かす一歩が、これなんだ)
一騎はそう思いながら、岩塊に手を伸ばす。
刹那、焦土の殻が破れる——
- 烏ヶ森編 3話「焦土の語り手」 ( No.98 )
- 日時: 2014/05/24 17:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)
中から熱気と火花を発しながら、焦土の殻が綻び、破れる。そして——
「……僕を目覚めさせてくれたのは、君かな」
二頭身の体躯だが、人の形をしている。侍のような羽織と各所を覆う部分的な鎧、そして腰に差した軍刀が目を引く。
「え、あ、うん……君は?」
「僕の名はテイン。《焦土の語り手 テイン》だよ」
「俺は一騎……えっと、よろしく?」
「うん、よろしく」
テインは物腰柔らかに言う。
「……あれが十二神話の配下とやらか?」
「そうだね」
「火文明のクリーチャーにしては、随分と落ち着いてるもんだな」
「僕も少しびっくりだけど、まあそういうクリーチャーもいるんじゃない?」
鎧やら軍刀やら、物騒なものを携えてはいるものの、テイン自体は非常に温厚そうだ。
「さて、一騎だっけ……君がこれから僕の主になるんだね」
「えっと、たぶんそうなるのかな……」
「だったら、君に渡しておきたいものがある」
そう言ってテインは、フワッと浮きながら壁の一ヶ所まで飛んで行く。そして、幾何学的な模様に手を触れた。
「ここは僕だけじゃなくて《焦土神話》……マルス隊長と共に戦った戦友が眠る地でもあるんだ。そして同時に、武器庫でもある」
「武器庫?」
「そう、武器庫。彼は様々な武器もここに封印したみたいなんだけど、そのうちの一つ、超次元ゾーンからやってきた龍の力を宿す武器を、解放するよ」
すると、テインが触れた箇所から火の玉が発生し、ゆっくりと一騎の下へやって来る。そして、一騎の目の前で止まり、手の上にカードとして落ちた。
「これは……」
「銀河の剣、そしてそれを扱う者……彼らも君の力になってくれるよ。あと、確かもう一体、封印が解けたはず……」
そう言って今度は別の壁面へ移動し、また幾何学模様に触れる。そして再び火の玉が発生し、それが一騎の下へと向かっていくのだが、
「っ、なに……!?」
「炎がでかくなってる……!」
火の玉は途中でさらに燃え上がり、巨大な炎の塊となった。
そしてその炎の中から、なにかが飛び出す。
「なっ、なにあれ!?」
「《涙の終撃オニナグリ》……火文明の進化ヒューマノイドだ!」
オニナグリは降り立つと、拳を振り上げて雄叫びを上げる。そしてその振り上げた拳を、地面に振り下ろした。
地面が抉れ、岩の破片が四方八方に飛び散る。
「な、なんかやばくないか、これ……?」
「テイン、これって……」
「暴走か……永い眠りから目覚めたせいで力の制御が利いていないか、寝起きで気が立ってるのかも。僕の仲間だったクリーチャーたちは、血の気が多いから」
そう説明するテイン。そして目の前のオニナグリは、拳を振り上げたままこちらを睨みつけ、のしのしと向かってくる。
「なんか、こっち来るんだけど……!」
「寝起きで機嫌が悪いなんて理由で殺されたらたまんないっての! どうにかならないのか?」
「僕にはどうしようもないけど……一騎くんとテインくんなら、どうにかなるかもね」
「俺……?」
「そうだよ」
リュンの言葉を受けて、テインが一騎の傍に寄る。
「お頭さんを倒して、気を落ち着かせるんだ」
「いやむしろ怒りそうだけどな、それ……」
ミシェルの言うことももっともだが、しかし実際は戦うことでクリーチャーは鎮まるのだ。それを知るのは、この後の事である。
「で、でも、どうやって戦うんだ? 殴り合いなんて無理だよ」
「僕が戦いの場を用意する。だから、君の力と、君の仲間の力で彼を倒すんだ」
「俺の仲間……?」
ふと一騎の目に留まったのは、腰に吊り下げていたデッキケース。
もしや、と一騎の中でとあるイメージが像を結んだ。
「行くよ一騎! 準備はいいかい!」
「……ああ! 頼む、テイン!」
刹那、テインを中心とする、一騎とオニナグリの周囲の空間が歪みだす。
そして三者は、その歪んだ空間の中へと導かれていった。
自分の周囲を回っているのは、五枚の盾。
目の前に浮いているのは、五枚の手。
そして残る三十枚が、自身の横に積み重なって置いてある。
「デュエマ……」
そう、その光景は、まるでこれからデュエマの対戦を始めるかのようであった。
「戦えって、そういうこと……」
「そうさ」
「テイン……!」
いつの間にか、すぐ横にテインが浮いていた。
「ここは神話空間。君たち他の星の生命体が、僕らクリーチャーと同じ立場に立って戦う場所さ。ルールは君たちの知る戦い方と同じ。だから、戸惑うことはない」
しかし、
「お頭さんは強いよ。なにせ、マルス隊長も一目置いていた特攻隊だからね。一筋縄でいく相手じゃない」
「……大丈夫だよ」
一騎は目を瞑ると、目の前に浮く五枚の手札を取った。
「デュエマなら……勝つ自信はある」
「うん。じゃあ見せてもらうよ、君の戦い方を」
そう言って、テインは少しだけ一騎から離れる。
そして一騎とオニナグリのデュエルが今、開始された。
「まずはマナだ。《ピーカプのドライバー》でマナチャージ!」
「ウゥ——」
オニナグリもマナチャージをして、一騎のターン。
「俺のターン、ドロー。次は……《氷牙フランツⅠ世》をマナチャージ。そして出て来て。《熱湯グレンニャー》を召喚!」
《グレンニャー》が出た時の能力で、一騎はカードを一枚引く。
「グウゥゥゥ……!」
「《爆裂B—BOY》か……俺のターン! 呪文《超次元キル・ホール》!」
オニナグリの場にはブロッカーがいないので、超次元ゾーンからサイキック・クリーチャーのみが出て来る。
「出すのはこのクリーチャーだ! 《時空の戦猫ヤヌスグレンオー》!」
時空の戦猫(せんびょう)ヤヌスグレンオー 火文明 (4)
サイキック・クリーチャー:フレイム・モンスター 4000+
M・ソウル
K・ソウル
このクリーチャーに覚醒した時、バトルゾーンにある自分のクリーチャーを1体選ぶ。そのターン、そのクリーチャーは「パワーアタッカー+2000」と「スピードアタッカー」を得る。
ループ覚醒—自分のターン中に水のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、このクリーチャーを《時空の戦猫シンカイヤヌス》のほうに裏返す。
超次元の門が突き破られ、炎を纏う戦猫が姿を現す。
ループ覚醒により、水文明のクリーチャーが出れば《時空の戦猫シンカイヤヌス》に覚醒する《ヤヌスグレンオー》。このクリーチャーを核に、水と火のクリーチャーを交互に繰り出しながら攻めていくのだ。
だがオニナグリのターン。突如として《ヤヌスグレンオー》は爆散した。
「っ、なに……!?」
爆炎シューター マッカラン 火文明 (3)
クリーチャー:ヒューマノイド爆 3000+
マナ武装:このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに火のカードが3枚以上あれば、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでもよい。そうした場合、その選んだクリーチャーとこのクリーチャーをバトルさせる。
バトル中、このクリーチャーのパワーは+1000される。
オニナグリの場にも、崩れ落ちていくクリーチャーの姿があった。
「強制バトル……《マッカラン》のマナ武装で、相打ちにされたのか……!」
相手も《ヤヌスグレンオー》が厄介なのは分かっているようで、
「まだだ! 《アクア・ジェスタールーペ》を召喚! 連鎖で山札を捲って……《グレンニャー》をバトルゾーンに! 《ジェスタールーペ》の能力も合わせて、二枚ドロー。もう片方の《グレンニャー》でシールドをブレイク!」
「グウアァ!」
《グレンニャー》がブレイクしたシールドが、光の束となって収束する。そしてその光は、一体のクリーチャーとなった。
「《タイガーグレンオー》……! くっ」
S・トリガーの《火焔タイガーグレンオー》の能力で、登場時にパワー2000以下の《グレンニャー》と《ジェスタールーペ》が焼き払われる。
これで一騎のクリーチャーはゼロになった。
「っ、まずい……!」
Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114