二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

烏ヶ森編 12話「太陽山脈」 ( No.169 )
日時: 2015/05/20 00:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: RHpGihsX)

「……3D龍解、完了。ここからが、本番ですよー」
 《カラクリガエシ》から《ウツセミヘンゲ》へと3D龍解を果たした空護。ここから、彼の反撃が始まる。
 空護は残り少ないマナを払って、手札を切った。
「呪文《デッドリー・ラブ》! 《ウツセミヘンゲ》を破壊して、《ゴシック・ヘレン》も破壊!」
『っ、直接狙いますか、しかし残念でしたね。《フィルミエ》のセイバー能力発動! 私の破壊を防ぎます。そして私の能力で、山札から《オリオティス》をバトルゾーンへ!』
「ですが、僕の《ウツセミヘンゲ》も破壊される代わりに、墓地のカード四枚を山札に戻して、場に留まりますよー」
 一度は爆散したかと思われた《ウツセミヘンゲ》だが、しかしそれは身代わり。空蝉の術によって、死した魂を贄とし、《ウツセミヘンゲ》は生き残る。
「《ウツセミヘンゲ》で《ゴシック・ヘレン》を攻撃!」
『《オリオティス》でブロックです! 私の能力で、山札から新しく《アリシオン》をバトルゾーンへ!』
「《ヴォルグ・ティーガー》で攻撃!」
『《アリシオン》でブロック! 山札から《コッコルア》をバトルゾーンへ!』
「《フドウガマオウ》で攻撃!」
『《コッコルア》でブロック! 《フィルミエ》をバトルゾーンへ!』
 空護の連続攻撃をことごとく防ぐ《ゴシック・ヘレン》。攻撃をすべて防御し、その防御が緩む気配は見えないが、彼はどこか焦っているように見える。
「では、貴方のターン始めに、《フドウガマオウ》の能力で、《フィルミエ》を選択しますねー」
『くっ……《導きの精霊龍 サリヴァン》を召喚! 互いにカードを二枚引き、私は手札から《フィルミエ》を二体バトルゾーンへ! そして、前のターンに出した《フィルミエ》で《フドウガマオウ》を攻撃します……!』
 《フィルミエ》はなす術もなく《フドウガマオウ》に消されるが、《ゴシック・ヘレン》の能力で、新しく《蒼天の翼 ラウ》が現れる。
『私で最後のシールドをブレイク!』
「……終わりですかねー?」
 空護の最後のシールドが破られるが、しかし彼はまだまだ余裕だ。
 狐面のような顔には、はっきりとした表情は浮かばない。しかし彼の纏う雰囲気が、彼に流れを手繰り寄せているかのように、彼の優勢を示していた。
「では、僕のターン。まずは、僕の場に闇のクリーチャーが二体以上いるので、《魂食いの魔狼月下城》龍解——《魔狼の悪魔龍 ミナゴロッセオ》」
 ターン開始時、《魔狼月下城》が龍解し、《ミナゴロッセオ》となる。
 しかし、これだけでは終わらない。
「《シバカゲ斎》のマナ武装5、発動。山札を五枚削って、墓地からバトルゾーンへ。さらに、《深淵の悪魔龍 バセオアビス》を召喚」


深淵の悪魔龍 バセオアビス 闇文明 (6)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のクリーチャーを1体破壊してもよい。そうした場合、そのターン、バトルゾーンにある相手のクリーチャーすべてのパワーは−3000される。
W・ブレイカー


 現れたのは、深淵に潜む悪魔龍、《バセオアビス》。
 他人の罵声がなによりの好物で、罵られることで、その力を高め、発現させることができる。
 だが、仮にも仲間のクリーチャー。共に戦う仲間が罵声を浴びせようだなんて、そうあることではない。
 なので《バセオアビス》は、最上の罵声を得るために、罪を犯す。
「《バセオアビス》の能力で、《ウツセミヘンゲ》を破壊。そして、相手クリーチャーのパワーをすべて−3000!」
『な……!』
 罵声を得るために、《バセオアビス》が犯す罪。それは単純明快、仲間を殺めることだ。
 《バセオアビス》は《ウツセミヘンゲ》を切り裂く。そして、それを見た他のクリーチャーからの罵声を浴びる。
 その罵声が力となり、《バセオアビス》の身体から溢れる瘴気が、《ゴシック・ヘレン》のクリーチャーを闇に侵していく。
 だが、《ゴシック・ヘレン》の能力があれば、クリーチャーが破壊されようと、新たなクリーチャーを生み出せる。《ゴシック・ヘレン》を破壊しなければ、場数が減ることはない。
 そう思ったが、しかし、
『……《聖歌の翼 アンドロム》《蒼天の翼 ラウ》《不屈の翼 サジトリオ》をバトルゾーンに……!』
「やっぱり、思った通りですねー」
 ニヤリと微笑む空護。その理由は、《ゴシック・ヘレン》が呼び出したクリーチャーの数にある。
 《バセオアビス》の能力で、《ゴシック・ヘレン》のクリーチャーは、彼自身と《コッコルア》《サリヴァン》を残し、消し飛んだ。その数は計六体。
 しかし、《ゴシック・ヘレン》の能力で現れたクリーチャーは三体。これは一体、どういうことか。理由は単純明快だ。
「もうそのデッキに、3コスト以下のクリーチャーはほとんどいないようですねー」
『ぬぅ……!』
 空護の言葉は、《ゴシック・ヘレン》に深く刺さる。
 確かに、《ゴシック・ヘレン》のデッキは3コスト以下のクリーチャーが多くい。アタッカーを削ってまで、それらのクリーチャーで守りを固めている。
 しかし、だからと言ってそのようなクリーチャーばかりではないだろう。先ほど《サリヴァン》を出していたように、4コスト以上のクリーチャーや、防御用S・トリガー、呪文なども投入しているはず。
 度重なる破壊により、《ゴシック・ヘレン》は山札の3コスト以下のクリーチャーを、ほとんど使い切ってしまったのだ。
 もはや、彼に救済を与える力は残されていない。
『《アンドロム》の能力で、《ヴォルグ・ティーガー》をフリーズ!』
「それくらい構いませんよ。二体目の《学校男》を召喚。自身と《ウツセミヘンゲ》を破壊、する代わりに《ウツセミヘンゲ》は墓地のカードを山札へ戻します」
『《サジトリオ》を破壊! 私と《サジトリオ》の能力、山札を捲り——《ラウ》を、バトルゾーンへ……!』
 やはり、クリーチャー数が残り少なくなっているようだ。二枚と三枚、合計で五枚捲っても、出せたのは一体。それも1コストの軽量ブロッカーである《ラウ》。
 もうあと一押しといったところか。
「《ウツセミヘンゲ》《フドウガマオウ》で《ゴシック・ヘレン》を攻撃」
『二体の《ラウ》でブロックです!』
 同時に、《ゴシック・ヘレン》の能力が発動するも、もうなにも出ては来なかった。
「なら、《学校男》で攻撃」
『《アンドロム》でブロック……!』
「もうなにも出ませんね? なら、これで終わりですよー……《ニンジャリバン》で、《ゴシック・ヘレン》を攻撃」
 《ニンジャリバン》は《ミナゴロッセオ》の能力でスレイヤーとなっている。
 闇文明秘伝の猛毒を塗り込んだ苦無が、《ゴシック・ヘレン》の首元を掠める。《ゴシック・ヘレン》は《ニンジャリバン》を払い退け、そのまま破壊するが、一撃貰った時点で、彼は終わっている。
 猛毒が天使龍の身体を駆け巡り、ほどなくして、《ゴシック・ヘレン》は墓地へと堕ちていくのだった。
「ぐうぅ……私のターン……」
 毒の影響か、苦しそうに息を切らすゴシック・ヘレン。
 しかしその瞳は、まだ死んではいない。
「はぁ、はぁ……私をここまで追い込んだのは、貴方が初めてです……しかし、これで終わりですよ! 呪文《聖歌の聖堂ゾディアック》! 《ヴォルグ・ティーガー》《ホネンビー》《シバカゲ斎》をフリーズ!」
「っ……!」
 どこからともなく、聖なる歌声が響き渡る。
 その歌声は、マナから光の力を受け、空護のクリーチャーの心を打った。
 それにより、空護のクリーチャー——特に、ブロッカーの動きを封じられてしまう。空護のシールドはゼロ、対するゴシック・ヘレンの場には、《サリヴァン》が残っている。
「さぁ、これで終わりです! 《導きの精霊龍 サリヴァン》で、とどめ——」
 と、ゴシック・ヘレンが価値を確信した、刹那。
 《サリヴァン》の首が吹き飛んだ。
「……な、なにが……!?」
「ニンジャ・ストライク《威牙の幻ハンゾウ》……このくらいの用心はしてますよ」
 いつの間にかそこにいたのは、巨大な蝦蟇のような悪魔。
 知る者こそ多かれど、その姿を見た者はすべからく闇に葬る悪魔の忍、《ハンゾウ》。
 ニンジャ・ストライクで相手ターン中にも場に現れ、登場時に相手クリーチャーパワーを6000下げるクリーチャーだ。その能力によって、《サリヴァン》も闇へと葬り去られた。
 勝利を確信した瞬間、いきなり攻め手を潰され狼狽えるゴシック・ヘレン。それに対し、空護はさも当然と言うように告げる。
「一度や二度の戦いで手持ちの手段をすべて使い尽くすのは、忍としては半人前らしいんですよねー……そうでなくても、スパーク呪文が飛んでくる可能性もあるのに、ブロッカーだけで守りを固められたなんて思いませんって」
 確かに空護の言う通りではある。タップで相手の守りをこじ開ける光文明相手に、アタッカーを残し、ブロッカーだけで安全だと思うのは甚だ思い上がりである。
 普通に考えればそこまで思考が行きつく。しかしゴシック・ヘレンは、その一歩まで思考を進めることができなかった。
「ま、要するにー——」
 それを、空護は一言で纏める。
 その一刹那、ほんの少しだけ。彼の眼は、敵を射殺さんばかりに暗く光ったような気がした。

「——詰めが甘かったな」

 それは、とても冷たく、突き放したような一言であった。
 まるで、既に目の前の敵は葬り、もはやこれ以上、なにも言うべきないとでも言うかのように。
 結局ゴシック・ヘレンの攻撃は空護には届かず、空護のターンが訪れる。
「さ、後は数で攻め切ってしまいましょうかねー、《学校男》でWブレイク!」
「く……っ!」
 クリーチャーを失ったゴシック・ヘレンのシールドが、遂に破られる。
「《フドウガマオウ》でWブレイク! 《ミナゴロッセオ》でシールドをブレイク!」
 立て続けの空護のクリーチャーが、シールドを食い破るように砕く。S・トリガーはない。
 そして、闇に潜む悪魔龍が、影より天使龍へと忍び寄る——

「《絡繰の悪魔龍 ウツセミヘンゲ》で、ダイレクトアタック——!」

烏ヶ森編 12話「太陽山脈」 ( No.170 )
日時: 2015/05/20 23:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 ミシェルとジーク・キャヴァリエのデュエル。
 ジーク・キャヴァリエは早くも場に《蒼天の翼 ラウ》《救護の翼 フィルミエ》《ポッピ・ラッキー》と、場数を揃えていた。
 一方、ミシェルの場には《白骨の守護者ホネンビー》が一体。
「《救援の翼 サスペーガ》を召喚」


救援の翼 サスペーガ 光文明 (4)
クリーチャー:ジャスティス・ウイング 3000
マナ武装 5:自分のコスト3以下のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンに光のカードが5枚以上あれば、カードを1枚引いてもよい。


「3コスト以下を対象とした置きドローか。厄介だけど、除去はできないな……」
 生憎ながら、今のミシェルの手札に、《サスペーガ》を退かすことのできるカードはない。
 手札補充はさせたくないが、今は見逃すしかないだろう。
「あたしのターン。《アラゴト・ムスビ》を召喚! マーシャル・タッチで《ホネンビー》を手札に戻して、1マナ加速!」
「私のターン。《超過の翼 デネブモンゴ》を召喚。その能力で、カードを引き、今しがた引いた《栄光の翼 バロンアルデ》を場へ。《バロンアルデ》の能力で、マナを追加だ」
「あくまで守りを固めるか。だったら、ここらで攻めるか……《ホネンビー》を召喚! 山札の上から三枚を墓地へ送り、墓地の《爆砕面 ジョニーウォーカー》を回収! そのまま《ジョニーウォーカー》を召喚し、即破壊!」
 《ジョニーウォーカー》は、ヒューマノイド爆がビーストフォーク號と手を組み、現れたクリーチャー。
 場に出た時に自身を破壊する。そうすることで、マナを肥やすか、敵クリーチャーを破壊するかを選択できる。いわば、《霞み妖精ジャスミン》と《自爆屋ギル・メイワク》をまとめて選択制にしたようなクリーチャーだ。
「選択するのはマナ加速だ。1マナ追加し、これであたしの墓地にクリーチャーが六体! G・ゼロ達成! 出て来い《百万超邪 クロスファイア》!」
 ちょうどミシェルの墓地にはクリーチャーが六体いる。先の《ジョニーウォーカー》の自壊で、G・ゼロ条件が満たされたのだ。
「《クロスファイア》でシールドをWブレイク! 続けて、《アラゴト・ムスビ》でシールドをブレイク!」
「ぬ……!」
 ミシェルの猛撃を受け、ジーク・キャヴァリエのシールドは一気に二枚まで減らされてしまった。
「なかなかの攻撃だ。だが、その程度では、まだ温い」
「なに?」
「S・トリガー発動、《グローリー・スノー》。貴様のマナゾーンカードが、私のマナゾーンのカード枚数を上回っている。よって、山札の上から二枚を、マナゾーンに置かせてもらおう」
 これでジーク・キャバリエのマナが一気に増える。 
 ただマナが増えただけで、場にはなんの変化もない。しかし、なにかミシェルは嫌な予感を覚えた。
「では、私のターンだ。まずは《ラウ》を召喚。コスト3以下のクリーチャーなので、《サスペーガ》の能力で一枚ドロー」
 今までと同じようにクリーチャーを並べていくジーク・キャヴァリエ。しかし今回は、その先がある。

「そして、ここから制裁の本懐と行こう——《ラウ》を進化! 《聖霊龍王 ジーク・キャヴァリエ》!」



聖霊龍王 ジーク・キャヴァリエ 光文明 (6)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 11500
ブロッカー
進化−自分の「ブロッカー」を持つクリーチャー1体の上に置く。
W・ブレイカー
自分の他の、「ブロッカー」を持つ光のクリーチャーが破壊される時、墓地に置くかわりにこのクリーチャーの下に置いてもよい。
メテオバーン—このクリーチャーが攻撃する時、このクリーチャーの下にあるカードを10枚選び墓地に置いてもよい。そうした場合、自分はゲームに勝つ。



「出やがった……!」
 《聖霊龍王 ジーク・キャヴァリエ》。ブロッカーから進化する、巨大な進化エンジェル・コマンド・ドラゴン。
 高いパワーとそれなりの打点、ブロッカーという防御能力を備えているが、このクリーチャーの真の力はそこにはない。
 このクリーチャーの真価。それはメテオバーンだ。《ジーク・キャヴァリエ》は光のブロッカーが破壊されるたびに、そのクリーチャーを自分の下へと取り込む。そしてその枚数が十に達した時に攻撃し、メテオバーンを発動すると、そのままゲームに勝利してしまうのだ。
 いわゆる、エクストラウィン能力。条件が厳しいが、相手はブロッカーだらけ。普通に殴っていても、攻撃は通らず、メテオバーンの種を補充されてしまうだけだ。
「どうにかして除去したいが、それも難しいか……」
 その理由の一つは、ここまで大型クリーチャーだと、ミシェルのデッキでは除去手段が限られること。今すぐに倒せるというわけではない。
 そしてもう一つが、相手の場にいる、小さな光の鳥——《ポッピ・ラッキー》だ。



ポッピ・ラッキー 光文明 (3)
クリーチャー:ファイアー・バード 2000
相手がバトルゾーンのクリーチャーを選ぶ時、自分のドラゴンを選ぶことはできない。



 自身のドラゴンをアンタッチャブルにする白いファイアー・バード、《ポッピ・ラッキー》。
 このクリーチャーがいるせいで、さらに除去難度は上がる。この鳥自体が囮のような役割を担うため、先にこちらから除去しなければならないのだが、そんなにもたもたもしていられない。
『さらに場にはエンジェル・コマンド・ドラゴンたる私がいる。G・ゼロ発動《巡霊者ウェビウス》を召喚。《サスペーガ》の能力でカードを引き、二体目の《ウェビウス》を召喚! そして、私で《クロスファイア》を攻撃!』
「っ、ちぃ……!」
 相手の攻撃が放たれ、そこでミシェルも対戦に意識が戻る。
 小型ブロッカーを一気に展開されたばかりか、《ジーク・キャヴァリエ》の攻撃で、《クロスファイア》がやられた。
 ミシェルの攻め手が一つ、潰されたのだ。
『続き、《ラウ》で《アラゴト・ムスビ》を攻撃! 相打ちだ』
 次に《ラウ》が《アラゴト・ムスビ》を攻撃し、《アラゴト・ムスビ》も反撃に出て、両社とも破壊される。
 《アラゴト・ムスビ》は墓地へ。そして《ラウ》は、《ジーク・キャヴァリエ》に吸収される。
『破壊された《ラウ》は私の下へと送り込まれる』
 まずは二枚目。これで、あと八枚。
 ミシェルの敗北へのカウントダウンは、残り八だ。

烏ヶ森編 12話「太陽山脈」 ( No.171 )
日時: 2015/05/21 20:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「ターン終了だ」
「あたしのターン……さて、どうするか……」
 エクストラウィンを成すための下準備が完全に完了し、後はブロッカーを吸収するだけになった《ジーク・キャヴァリエ》。兎にも角にも、まずは《ジーク・キャヴァリエ》をなんとかしたい。
 そのために、まず破壊すべきは《ポッピ・ラッキー》だが、
「それより、こっちの方が厄介かもな……よし」
 ミシェルはなにか別のものをターゲットに据えたようで、《ジーク・キャヴァリエ》と《ポッピ・ラッキー》から視線をずらす。
 そして、手札のカードを抜き取った。
「墓地進化! 《ホネンビー》を進化元に、《暗黒の悪魔神ヴァーズ・ロマノフ》を召喚!」
 ミシェルは、墓地の《ホネンビー》を、《ヴァーズ・ロマノフ》へと進化させる。
 《ヴァーズ・ロマノフ》は登場時、相手クリーチャーを破壊できるのだが、進化クリーチャーは対象外だ。そうでなくとも、《ポッピ・ラッキー》がいるので選択できない。
 なので、ミシェルは違うクリーチャーを狙い撃つ。
「《サスペーガ》を破壊!」
『む……』
 《ヴァーズ・ロマノフ》は、剣のような魔銃から、禍々しい魔弾を放つ。
 その魔弾はまっすぐに飛んでいき、《サスペーガ》を撃ち抜いた。
「ドローソースは潰した。これで、展開力も落ちたろ」
 《ジーク・キャヴァリエ》の能力は、十体ものクリーチャーを自身の下に取り込むという、難度の高い条件がある。
 その条件は、言い換えれば十体のクリーチャーを破壊することだが、それ以前に、十体のクリーチャーを場に出すことでもある。
 十体もクリーチャーを出そうとすれば、自然と手札が足りなくなるものだが、《ジーク・キャヴァリエ》はそれを《サスペーガ》の能力で補っていたのだ。
『……だが、既に我が軍勢は十分な数となった。止められるものならば、止めて見せよ。私のターン』
 これは《ジーク・キャヴァリエ》の言うとおり。《ジーク・キャヴァリエ》は既に、自身の他に五体ものブロッカーを並べている。これを突破するのは難しいだろう。
『《ジャスティス・プラン》を発動。山札よりエンジェル・コマンドとジャスティス・ウイングを手に入れ、《デネブモンゴ》を召喚。カードを引き、手札より《フィルミエ》をバトルゾーンに。さらにG・ゼロで《ウェビウス》も召喚だ』
「これで八体……」
 《ジーク・キャヴァリエ》のブロッカーをすべて破壊して突破しようとすれば、メテオバーン条件を満たしてしまう。
 かといって、ミシェルのデッキに破壊以外の除去手段があるかと言えば、そうでもない。
 だが、
「……突破手段がないわけじゃ、ないな」
 ミシェルはニヤリと微笑む。
「あたしのターン。《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札の上から再毎を墓地へ送り、墓地からクリーチャーを一体回収」
 ここで回収するカードは、一枚しかない。こんな状況でも、一発でひっくり返せる切り札。
「《暴走龍 5000GT》を手札に」
『!』
 ミシェルの狙いに気付いたのか、《ジーク・キャヴァリエ》の表情が一変する。
 だが、今更彼女を止めることなど、不可能だ。
「あたしの墓地のクリーチャーは八体! よって、マナコスト−8! 4マナでこいつを召喚だ!」
 数多の屍を踏み越え、加速する暴動者。
 暴れるように戦場を突き進むその姿は、正に暴走龍。

「暴走せし無法の龍よ、すべての弱者を焼き尽くせ! 《暴走龍 5000GT》!」

 轟くような咆哮と共に、《5000GT》が戦場へとやって来た。
 彼の存在は強すぎる。強すぎるがゆえに、惰弱な者は彼の圧力に耐え切れず——消滅する。
「《5000GT》の能力で、パワー5000以下のクリーチャーはすべて破壊だ!」
『な、に……!』
 《5000GT》の圧力で、ミシェルのクリーチャーもそうだが、《ジーク・キャヴァリエ》のクリーチャーがほぼ壊滅した。
 《ジーク・キャヴァリエ》の場にいたクリーチャーは、ほぼすべてパワー5000以下の小型クリーチャーだ。残されたのは、《ジーク・キャヴァリエ》自身のみ。
『だ、だが、破壊されたクリーチャーはすべて、私の元へと吸収される! これで十体! 力は満たされた!』
 そう、すべてのブロッカーを破壊するということは、即ち、《ジーク・キャヴァリエ》の下へと送り込まれるということだ。
 元々二枚装填しており、場に八体のクリーチャーを並べていた《ジーク・キャヴァリエ》は、これでメテオバーン発動に必要なクリーチャー十体を、吸収したのだった。
「だが、お前にブロッカーはいない! G・ゼロで《クロスファイア》を召喚! そして、《5000GT》でTブレイク!」
『く……っ!』
 ミシェルの狙いは、これだった。
 場にメテオバーンに必要な数のブロッカーを並べられてしまえば、もう《ジーク・キャバリエ》本体を狙うしかないのだが、そうしようにも、《ポッピ・ラッキー》や《フィルミエ》が邪魔だった。
 ちまちま殴っても弾が装填されるだけ。ならば、とミシェルは発想を転換した。
 すべての弾を装填されても構わない。相手のブロッカーを殲滅し、そのままメテオバーンを発動されることなく、とどめを刺せばいい、と。
 《5000GT》の破壊的な攻撃が、《ジーク・キャヴァリエ》のシールドを次々と粉砕する。
『ぬぅ……S・トリガー! 《交錯の翼 アキュール》を召か——』
「それは叶わないな。《5000GT》がいる限り、パワー5000以下のクリーチャーは召喚できない!」
 《アキュール》のパワーは2000、《5000GT》の圧力には耐えられず、場に出ることが許されないのだった。
 ミシェルの猛攻を止めることもできず、《ジーク・キャヴァリエ》はただ一人、最後の一撃を叩き込まれる。

「《百万超邪 クロスファイア》で、ダイレクトアタックだ!」

烏ヶ森編 12話「太陽山脈」 ( No.172 )
日時: 2015/05/25 19:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

 ミシェルと空護の開いた神話空間が閉じたのは、ほぼ同時だった。
 二人の目の前には、それぞれ倒されたジーク・キャヴァリエとゴシック・ヘレンの姿がある。
 ここにいる光軍の統率級のクリーチャーがやられたということで、周りのクリーチャーたちが怯み、一斉に後ずさって道が開けた。
 それを機と見たミシェルは、後方で待機しているはずの一騎に叫ぶ。
「一騎! 走れ!」
 たった二つの短い単語だったが、それだけで十分だ。
 一騎は身を潜ませていた岩陰から、韋駄天の如く飛び出して疾駆する。その後には、氷麗も続いていた。
 指揮官がやられ、相手の援軍のらしき者たちも現れ、一般兵の動きはさらに鈍る。現に、あっさりと一騎たちを通してしまい、二人は瞬く間に山脈を上っていく。
 ミシェルと空護もその後に続こうとしたが、流石に相手も怯んでばかりではない。正気を取り戻した者から、これ以上通すのはまずいと今更ながら気づいたようで、ミシェルたちの進行だけでも止めようと、立ちふさがった。
「ちっ、しゃらくせぇ。こいつら片づけてからじゃないと追えないか……」
「ミシェル! 焔君!」
「一騎! こっちは大丈夫だ! ここはあたしたちに任せて、お前らはさっさと頂上に行け!」
 ミシェルは再び叫ぶ。
 一騎はその言葉を聞いても、戻るべきかどうか躊躇する。ここは二人に任せて、自分たちだけでも直ちに上へ向かうべきか。
 いや、やはり仲間は見捨てられない。そんな風に考えた一騎は踵を返そうとするが、氷麗がそれを阻んだ。
「氷麗さん……」
 彼女はなにも言わなかったが、しかし目で、ここは先に進むべきだと伝えていた。
 自分たちがここへ、この世界へ来た目的は、一騎にある。一騎が先に進まなくては、なにも始まらないのだ。
 それを理解した一騎は、最後にミシェルたちを見て、叫びながら山脈を駆け上がる。
「……ごめん、二人とも! 無理しないでね……頼んだよ!」



「……少しベタだったか」
「っていうか、今の完全に死亡フラグでしたよねー」
「構わねえよ、立てたフラグはへし折ればいい」
「まあ、同感ですかねー……それじゃあ」
「もう一仕事と行くか!」



「恋は……恋は、本当にここにいるのかな?」
「……いきなりどうしたんですか?」
 頂上へと向かう途中、ふと一騎がそんなことを漏らした。
「この世界に来てから、俺たちもそれなりになる。だけど、恋の情報は全然見つからない……実は、恋はこの世界にはいないんじゃにかって、本当は別のことで苦しんでいるんじゃないかって……そう、思うようになったんだ」
 日向恋という少女のことになると、盲目で、過保護で、冷静さを欠く一騎だが、しかし今の今まで、本当になにも考えていなかったわけではない。
 ただし、その考えはマイナスの方向に進むだけであったが。
 最初は微かな希望でも縋ろうとこの世界に来たが、今の今まで、まったく彼女についての情報が得られていない。となると、彼女はこの世界にいないのではないかと考えるのも、無理からぬ話である。
 元々は聡明な一騎だ。少しでも冷静さを取り戻せば、そのくらいの思考までは進められる。
 そして、この世界に来てから時間が経って、本来の彼を少しでも取り戻し、冷静さが僅かでも戻ったがゆえに、彼の口からは弱音のような言葉が漏れ出てしまった。
 氷麗は、そんな一騎の言葉に、 
「……私は、その恋という人物については、見たことも話したこともないのですが、しかしリュンさんの話によると、その人物はこの世界にいると言っているそうじゃないですか」
 リュンはこんなことで嘘をつくような性格ではないし、彼の勘違いでなければ、一騎の探し人はこの超獣世界にいるはずだ。
 それに、
「真実がどうであれ、手がかりの有無がどうであれ、今は先に進むしかありません。この先になにが待っているのかは、あなた自身の目で確かめて、そこからどうするのかは、あなた自身の手で選択しなければいけないのです」
 この世界に来ることを選んだのは、他ならぬ一騎自身だ。ゆえに、日向恋の存在に望みをかける場所を探すのもまた、一騎なのだ。
 ただし、今は目の前の問題を解決しなければならない。そこでも彼女の手がかりが見つからなければ、またその時に考えればいい。むしろ、今はそうするとしかないといえる。
 一騎にも、それが分かったようで、
「……うん、そうだね」
 まだどこか弱々しくはあったが、そう答えた。
「さて……そろそろ頂上に着くはずですが——」
 と、そこで。
 一騎たちの目に、ある光景が飛び込んできた。
 太陽山脈には、先ほどの光軍が駐留していたような、開けた場所がいくつも存在するのだが、山の中腹から頂上にかけての道中にも、それは存在する。
 その場所に、いくつもの人影が見えたのだ。
 リュンや氷麗などの例もあるので、人型というだけではクリーチャーである可能性も否定しきれないのだが、なんとなく彼らからはクリーチャーらしさを感じない。
 人影は、三つと二つ。長身の少年と少女に、袴姿の小柄な少女。
 そして、最後に見た二つの影。突如として姿を現した少女が二人。
 いきなり姿を現した二人だが、その現象は一騎も知っている。あれは神話空間が閉じて、両者が元の空間へと戻ってきたときに見られる光景だ。つまり、その少女たちは、今の今まで神話空間の中で対戦していたことになる。
 片や、赤を基調とした服装の少女。少々小柄に見えるが、全体的に特徴のあるものはなく、とても平凡に見える。
 そしてもう片方の少女。この中では最も小柄で、病的なまでに華奢な体躯。長く伸びた色素の薄い髪。
 そしてなによりも、この世のすべてを見限ったような、なにもかもを捨てたかのような、ただひたすらに冷たく、昏い眼。
 間違えるはずもなく、間違えようもなく、間違えるべきでもなく。
 砂漠の果てに見つけたオアシスのように、遙か遠くの恋人を見つけたかのように。
 一騎は衝動のままに、彼女の名を呼ぶ。



「——恋!」

44話 「日向恋」 ( No.173 )
日時: 2015/05/26 02:28
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: rGbn2kVL)

「恋!」
 神話空間が閉じるや否や、どこからか、叫ぶような声が聞こえてきた。まるで長年捜し求めてきた秘宝を見つけたような声だったが、そのうちには、焦燥や混乱などの感情までもが入り交じっているように感じた。
 暁は、悔しそうに目の前の少女——ラヴァー——を見て歯噛みしていたが、その声によって、意識がそちらへと引き寄せられていった。
 声の方へと目を向けてみると、そこには、一人の少年と、少女その姿。少女はどことなく人間らしからぬ雰囲気を醸し出しており、彼女の表情からなにかを読みとることは、暁にはできなかった。
 しかし、もう一人の少年からは、はっきりとした強い感情が剥き出しになっていることが、見て取れた。必死なようで、焦っているようで、それでいて安心したようで。多くの感情が、混沌なまでにない交ぜになっている。
 そしてそれとは別に、彼からは、なにか感じるものがあった。自分に近いものと言うのだろうか。なにか、共通するようななにかを、感じ取った。
 しかしそれは酷く曖昧で、希薄なものだった。感覚的すぎて、その感覚をはっきりと感じることができない。それほどに微かなものだった。
 なので暁は、その感覚をはっきりと認識する前に、その少年へと、完全に意識が向いてしまったのだった。
「恋……やっぱり恋だ……!」
 少年は感極まったように、ラヴァーを見て、その息を漏らす。
 その言動を見る限り、ラヴァーとなにか関わりがある人物のようだ。それも、深く親しいような仲。彼がラヴァーへと向ける視線は、親愛のそれに近い。
 しかし、対するラヴァーは、酷く冷たい。この世のすべてを否定するかのような、昏い眼のままだ。
 そんな眼で、彼女は少年を見据えている。
 そしてやがて、くるりと踵を返した。
「……キュプリス」
「いいのかい? 彼、君の知り合いじゃないのか?」
「……いいから」
「はいはい、了解したよ」
 と、次の瞬間。
 ラヴァーの姿は、完全に消えていた。
「っ! 恋! 待て!」
 少年は再び焦ったような、必死の形相で手を伸ばすが、時は既に遅し。遅すぎた。
 その手は虚空以外のなにものも掴むことはなく、ただただ、空振りするだけだ。
「恋……やっぱり、あいつはこの世界にいたんだ……よかった……」
 少年は空振った勢いのまま、地面に膝をつくが、なぜだか、どことなくほっとしたような表情をしていた。
「……えーっと、これは一体、どういうことなのかしら……?」
 と、流石に状況が飲み込めず、今まで唖然としていた沙弓が、やっとのことで声を上げる。
 明らかに戸惑った様子を見せるこちらを考慮したのか、それを見て少女の方が、こちらに向いた。
「……あなた方が、リュンさんが導いてきたという、人間の方々ですね」
「そうだけど……リュンのことを知ってるのね。しかもその物言い……あなたたちもクリーチャーかしら?」
「その通りです。正確には、私は、ですけども」
 つまり、少年の方はクリーチャーではない。人間であるということか。
 自分たちやラヴァー以外にも、まだ人間がこの世界に来ていたということに、驚きを禁じ得ない暁たち。ラヴァーを知っているらしい少年のことも含めて、聞きたいことが多く生まれる。
 そんなこちらの心情を、またも察してか、少女はこう言った。

「こんなところで立ち話をするのもなんですし、とりあえずピースタウンにでも行きましょう。私たちの仲間にも連絡して、そこで落ち合うことにします」



 ところは変わり、ピースタウン。例の、ウルカの工房。
 そこには、暁たち四人のほかに、先ほどの少年少女二人、さらにその仲間だと言う、もう一組の少年少女の、計八人が集まった。
 ウルカは、今は席を外している。
「……大体、そっちのことは理解できたわ。リュンが私たち以外にも声をかけていたのね……私たちの他にもそんな人間がいたなんて、少し驚いたけど、ちょっと考えればその可能性もあったと気付けたことね」
 それでも、私たちになにか一言伝えておいてもいいでしょうに、と沙弓は愚痴るように呟く。
 少女——氷麗と名乗った彼女から話を聞くに、少年らは自分たちと同じように、リュンに導かれて、このクリーチャー世界へとやってきたらしい。だがリュンは暁たちのサポートをする必要があるため、こちらのサポートは氷麗が担当しているのだとか。
 しかしこの少年たちの目的は、自分たちとは、厳密には少し違う。
 彼らは、ラヴァーのことを知っているらしい少年——剣崎一騎の個人的事情と、リュンの目的との利害が一致していることから、この世界に来ているらしい。
 一騎には妹のような、大切な少女がいるとのこと。
 その少女の名は、日向恋。
 彼女を探すべく、一騎はクリーチャー世界にまで乗り込んできた。とのことらしい。
 行方不明になったわけでも、家出したわけでもなく、またそうであっても、クリーチャー世界に行く理由になんてならないだろうと、沙弓や浬なんかは思っていた。
 だが、彼の言う日向恋と、自分たちの因縁の相手とも言うべき少女が重なった時、その謎も解決されるのだった。
「俺は、恋を探して、ここまで来ました。そして遂に、見つけたんです」
「……それって、やっぱり、あの子なのよね……」
「はい。さっきの、小さな女の子——あれが、恋です」
 一騎は、はっきりと、断言した。
(あの子、恋って名前だったんだ……)
 何気なしに、暁はそんなことを思う。だからどうというわけでもないが、ふと思った。
 ラヴァーなんて世界から切り離したような名前ではなく、人間としての、ちゃんとした名前。それがあると分かったことで、暁の中で、何かが芽生えたような気がした。
 しかしこれも、とても小さく、存在が希薄なもの。それに気づく前に、一騎らの話へと引き寄せられる。
「俺は、恋を連れ戻すのが目的です。やっとあいつを見つけた……次こそは、必ずあいつと話がしたい」
「それについては、私たちも協力するわ。あのラヴァーという女の子については、私たちよりも、あなたたちの方が上手く対応できると思うし、あなたたちがそれを望むなら、譲らないわけには行かないしね」
 存外あっさりと、沙弓はラヴァーについての案件を、一騎に託す。暁としては少し言いたいこともあったのだが、しかしなんと言えばいいのか分からない。沙弓の言うことももっともなので、結局、黙っていることしかできなかった。
「ありがとう……でも、あいつは、恋はまた姿を消してしまった。また、一から探さないと——」
「それには及ばないよ」
 と、一騎の言葉を遮り、工房の入り口から聞きなれた声が聞こえてきた。
 そして、そこにいたのは、
「リュンさん……! お久しぶりです」
「リュン、今までどこに行ってた?」
「そ、そうですよ……今日はなにも連絡なしで、いなかったなんて……」
「ごめんごめん。ちょっと手間のかかる作業もあったものだから、つい連絡を忘れちゃってたよ。でも、タイミングとしてはちょうどよかったみたいだね」
 どこか勿体ぶるように言うリュン。
「どういうことよ」
「僕だって、現状を早く打開したいと思ってるってことだよ。君らが合流して、戦力も大きく向上した。彼女を落とすなら、これが好機だ」
「だからなにが言いたいんだよ、お前は。はっきり言え」
「流石に要領を得ませんねー」
 リュンの歯に衣を着せたような物言いに立腹したように、一騎らの仲間だという少女、四天寺ミシェルが声を荒げ、それに焔空護が同意を示す。
「悪かったよ。つまり、僕は彼女にこちらから接触する機会を作ってきたんだよ」
 リュンのその一言で、一同はざわめく。
 今までは相手からの接触、もしくは偶発的な遭遇でした出会うことのできなかった暁たち。ラヴァーとは今まで接触さえできなかった一騎たち。双方ともに、こちらから接触できる機会があるということの重要性は、理解していた。
 だからこそ、リュンのその発言には驚きを禁じ得ない。
「どうやってそんなことを……?」
「ちょっと手間はかかるけど、そう難しいことじゃないですよ、氷麗さん。あの子の目的と行動原理を考えれば、誘導して接触の機会を作るくらいはできますよ」
 ラヴァーの目的とは、この世界に新しい秩序を作ること。
 具体的にどうするのかは分からないが、しかし今までの彼女の行動や、太陽山脈を進軍していた光文明のことを考えると、なんとなくその姿は見えてくる。
 恐らく彼女は、光文明を軸とし、他文明を少々強引な方法ででも統率し、支配する。そうやってすべての地域を支配すれば、全体の統制となる。そこから、秩序を作るつもりではないのだろうか。
「ある種の絶対王政を作るつもりなのか……?」
「その可能性も否定できないね。そして、こういうやり方をやってるわけだけど、彼女は軍略の才には欠けているようだね。正直、手際が悪すぎる。まだこの世界の一割も制圧できてはいない」
 ラヴァーがこの世界に現れてからどの程度の時間が経っているのかは分からないが、リュンがそう言うなら、そうなのだろう。
 そもそもラヴァーは、どこかクリーチャーを舐めている節があった。
「制圧した場所の、原住民への拘束が甘すぎるね。一度制圧しても、他の場所を制圧しているうちに反乱を起こされて、領地を取り戻されているケースが少なくない。そういった場所は、また決まって制圧し直して、二度目は拘束力を強めているけれど、二度手間だ」
 学習能力が低いのか、はたまた他の目的があるのかは分からないが、そんな調子でラヴァーの制圧の効率は非常に悪い。
「それで、どうやって彼女と接触するのかしら?」
「簡単だよ、どこかで反乱を起こせばいいんだ。そうしたら、彼女はいずれやってくる」
 要するに、ラヴァーに制圧された地の原住民に手を貸して反乱を起こし、ラヴァーを誘い出そうというのだ。
「実は、もうその準備は整ってるんだ。もうすぐにでも反乱は起こるし、目立つ場所だから、彼女も見て見ぬ振りはできないはずだよ」
「……急だな」
「でも、早いに越したことはないわ。私たちも準備して、あの子に立ち向かわないと——」
「待って」
 今後の方針が決まり、全体の空気も前向きになってきたその時。
 一騎が、立ち上がった。
 立ち上がって、一言。鋭い刃の一閃のように、告げる。

「俺に、俺一人に……やらせて欲しい」

 彼は、そう言った。
 それを見て、隣に座っていたミシェルは、咎めるような視線を向ける。
「おい、一騎……!」
「これは俺の問題です。俺と、恋の……俺がもっとしっかりしていれば、もっとちゃんと、あいつのことを見ていれば、こうはならなかった」
 ミシェルの眼による制止も聞かず、一騎は吐き出すように、悔いるように、続けるのだった。
「だから、俺のけじめをつける意味でも、ここは俺にやらせて欲しいんです。俺が、恋をなんとかしなくちゃいけない……だから、俺にやらせて欲しい!」
 身を乗り出し、懇願する一騎。その必死で一途な彼の、懺悔にも似た嘆願を、誰が拒絶できようか。
 沈黙が空間を支配し、ややあって。
「……分かったわ。それじゃあ、あの子については、そちらに任せます。私たちはサポートに回るわ。でも、なにかあったら、必ず連絡をください」
「僕も、まだ残ってる準備を急ぐよ。すべての準備が整ったら、すぐ氷麗さんに連絡する」
「……ありがとう」
 こうして、これからの活動は決定した。
 一騎たちがラヴァーと接触、こちらはそのサポート。
 確かに、ラヴァーは一騎と関わりが深いようだ。自分たちよりも、よほどよく知っているはず。
 だからこそ、ここは彼らに任せるのが得策なのだろう。そんなことは、頭では分かっている。
 だが、頭よりも感情で動く暁には、なにか引っかかるものが、心の隅で、蟠るものがあった。
 それがなんなのかは分からない。分からないが、

(なんか……もやもやする……)

 これが解消される日はいつか。
 その時は、いつになったら訪れるのか。
 一騎がラヴァーと相対して、解決されるのだろうか。
 それは、暁には、分からなかった。


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