二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

71話 「暴食横町」 ( No.249 )
日時: 2015/10/04 00:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

 殺した。
 ドライゼの主を。
 月光と呼ばれた、かの神話を。
 ——殺した。
 彼女は、確かにそう言ったのだった。
 だが、ドライゼはその言葉に、異を唱える。
「……アルテミスは死んじゃいない。勝手に殺すな」
「ですが、力に飢え渇いた彼が、彼女の命の根源とも言える力を略奪したのは、紛れもない事実……そして彼女は、死の淵へと追いやられた。違いますか?」
「……違わない。だが、それでもだ。それが俺があんたを撃つ理由にはならない」
 ハーデスの野郎ならともかくな、とドライゼは銃身を撫でながら言う。
 ドライゼが女好きだとかフェミニストだとか、そんなことは関係なくとも、ライを撃つことはできない。
 《冥界神話》の暴走を抑えられなかったライにも確かに非はあるだろう。だが、それ以上に罪深いのは、《冥界神話》の方ではないのか。
 ドライゼの主を殺したというのも、それは《冥界神話》が為したことであり、ライが直接手を下したわけではない。
 直接的な関係があったならともかく、そうでないのなら、ドライゼが彼女を撃てない。一般的見解としても、語り手としても、彼個人としても。
「……そうですか」
 相変わらずの無感動さのまま、しかしどこか残念そうに、彼女は言った。
「貴方の銃を受けることが、私の贖罪になり得ると考えたのですが……いいでしょう。そう簡単に罪は償えるわけもありません。私の考えが浅慮でした」
 どうにもこちらの意図が伝わっていないようだが、それでも妙な要求は途切れた。
 同時に、ライは大鎌を担いで、スッと立ち上がる。
「……もう、行きます」
 ライはスッと立ち上がり、大鎌を担ぎ上げる。
「え、どこ行くの?」
「他の、断罪すべき罪を裁きに、です。断罪すべき悪魔龍は近い……この街道を脇道に逸れれば、暴食の罪があります。さらにそこを抜ければ、憤怒の罪があります。そして、さらに進めば、次は嫉妬と邪淫の罪……」
「スケジュールが詰まってて大変ね。で、どうする?」
 このまま彼女について行くか、はたまた地球に帰るか。
 目的は、果たしたと言えば果たした。ライは語り手のクリーチャーであり、噂の死神である。
 彼女のことも知ることができた。これ以上、彼女に付きまとう理由はないが、
「……そうだね。彼女は、コルル君たち同様、語り手のクリーチャーだ。もう少しだけ、彼女を知ることも大事だと思う。そういうわけだから、僕らも同行してもいいかな?」
「ご自由に……私には、貴方たちの意志を束縛する権利などありません。私は罪人であり断罪者。罪を償うことと、罪を裁くこと以外、意志を持ちません」
 そう言って、ライは歩き出し、建物から出る。



 強欲街道(グリードストリート)のメインストリートから外れ、小さな脇道に逸れて進むと、そこはもう、強欲が支配する場所ではなくなる。
 支配者が強欲すぎた結果か、大罪都市を分割するほど巨大な地域であった強欲街道とは、比べるべくもないほどに小さな町。
 それがここ、暴食横町だった。
 下町のように質素で素朴でありながら、飲食街のようでもある横町。いたるところから、食べ物のにおいが漂ってくる。
 ただし、
「うえぇ、なにこのにおい、くさい……」
「その女の子らしからぬ反応はどうにかならないものかしらね……気持ちは分かるけれど。生物が腐ったみたいな、酷いにおいだわ。鼻がおかしくなりそう」
 彼女たちが言うように、そのにおいはすべからく腐敗していた。
 見れば、道端には残飯のようなものがあちらこちらに転がっており、小さくも異形の虫のようなクリーチャーがたかっていた。
「……血生臭いな。腐敗臭に混じって、血のにおいも紛れている」
「そこ……赤い」
「あぅぅ、な、なにがあったのでしょうか……?」
 暴食横町。そこは、食に飢えた悪魔龍が、あらゆる食物を喰い荒らす場所。
 そして喰い散らかされた残飯は、非力なファンキー・ナイトメアや、その他の惰弱なクリーチャーたちの糧となる。
 清潔さなど微塵もない。この町に住むものは皆、すべからくなにかを食べることのみに生きている。
「……これが、暴食の罪がもたらした惨状ですか」
 横町の一光景を見て、ライは声を漏らすように呟く。
 その罪の結果を忌むように。そして、己の罪を嘆くように。
「参りましょう……暴食の罪を、断罪するために」
「あ……ちょっと、待ちなさいっ」
 腐敗した悪臭に鼻を押さえていた一同を置いて、ライは一人歩き出す。この臭気にまったく動じていない。
 そもそもが人間とクリーチャーという違いもあるのだろうが、しかし彼女からは、それ以上に強い、使命感を覚えた。
 いや、罪悪感、と言うべきか。
 ライは散らかった残飯などに目もくれず、それらを踏みにじりながら、横町を進んでいく。
 一同も、この腐乱の町を進むことに対し、少しばかり躊躇はあったが、彼女の後を追った。
「ねぇ、ライ。あなた、その暴食の罪とやらの場所は分かるの?」
「明確な場所は分かりません。しかし、感じます。忌々しく、禍々しい、醜悪な罪を」
 それはこの先にある、と彼女の感覚は告げている。彼女は、それに従うだけだった。
 そしてそれは、その罪の形は、すぐそこにあった。

「ウ、ウ、ウグ、ウゥゥゥゥゥ、アァァァ……」

ポタ……ポタ……

 赤い雫が落ちる。一滴一滴、零れ落ちる。一つの筋となって、流れ落ちる。

ボタッ

 なにかが落ちた。雫が落ちるような音ではない。もっと大きな、塊が落ちる音だ。
 それは、真っ赤に染まっていた。
 黒ずんだ肌のようなもの、剥がれた皮のようなもの、砕かれた骨のようなもの。
 すべてが、もとあった“生”を失い、ただの物体に成り果て、そこに転がっていた。
「……アァァ……?」
「ひ……っ」
 それは、こちらを向き、混濁したような呻き声をあげる。
 青紫色の身体に、骨を纏ったかのような姿。鋭利な黒爪は赤い血に塗れ、肉片がこびりついている。
 そしてなによりも、すべてを喰らってきた悪魔の牙。そこから滲み、零れる唾液。すべてを貪る、大罪を証明する瞳。
「なに、こいつ……」
「スプラッタというか、グロテスクというか……ヤバそうな奴だな……」
 さしもの暁や浬も、その存在には身が竦む。柚など、もはや泣き出しており、沙弓がなだめている。
「《暴食の悪魔龍 グラトニー》……暴飲暴食が支配する町、この暴食横町の統治者だ」
 統治というにはお粗末な食事しかしてないけどね、とリュンは冗談めかして言う。しかし、こうして本人を目の前にしたら、冗談でも笑えない。
 口から零れ落ちた肉塊。元々は他のクリーチャーだったのだろうか。
 グラトニーは焦点が定まらないような眼で、こちらを見据えている。
「ウ、ウゥ……ウグ、ウ、ハアァ……」
「っ、なにっ……うっ!」
 猛烈な吐き気が襲い掛かる。凄まじい臭気だ。今まで漂っていた腐乱臭の比ではない。この町に慣れた鼻を、一瞬で捻じ曲げるほどの悪臭。
 血と肉に塗れた、生を踏み躙ったにおい。かつてはそこにあった命が、ただの血と肉の塊となって、そして消えて行った、死のにおい。
 これが、暴食の姿なのか。
「……ッタ」
「ふぇ……?」
「腹ガ、減ッ、タアァァァァァァァッ!」
 突如、グラトニーは叫ぶ。呻き声ではない、確かな言葉を放つ。
 だがその言葉は、暴食の本能がもたらした行動原理の確認に過ぎない。
「アァァァァァァァァァァァァァァッ!」
 そして、確認は終わった。
 後はその本能と、大罪の証明のために、動くだけ。
「ヤバいよこいつ……ぶ、部長……」
「…………」
 柚を抱き寄せる沙弓に、暁も縋ってくる。浬も、流石に青ざめている。
 そんな中、スッ、と自分の横を黒い影が通り過ぎる。
「ライ……!」
 大鎌を担ぎ、ローブを翻し、黒髪をなびかせ、彼女は進み出る。
 そして、暴食の悪魔龍の前に立った。
 まるで物怖じせず、顔色一つ変えず、ただそれが当然のように。
 彼女は、そこに存在していた。
「……汚らわしく、愚かしく、忌々しい……暴食の罪」
「アァァ……?」
「私の名前はライ。《冥界の語り手 ライ》です……貴方を、断罪しに参りました」
 風を切る音と共に鎌を振り、ライはグラトニーと相対する。
 己が使命を全うするために。
「暴食は、最も罪深き大罪。生を蹂躙し、欲望のままに突き動かされる、穢れた所業……その罪を裁き、そして、贖罪を為します」
 貴方と、そして私も……
 その言葉と共に、彼女たちの周囲が歪む。
 そして彼女たちは、飲み込まれた。

 断罪と贖罪の、神話空間へと——

71話 「暴食横町」 ( No.250 )
日時: 2015/10/05 00:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「……《爆弾魔 タイガマイト》を召喚。マナ武装3発動。手札を一枚墓地へ」
「ウゥー、グァー……食イデエェ……《ポーク・ビーフ》召喚……」
「《プライマル・スクリーム》を発動。カードを四枚、墓地へ送り、墓地より《ガナル・スクリーム》を手札へ」
 食欲を垂れ流しにしているグラトニーのことなど意にも介した様子も見せず、ライは淡々とクリーチャーを並べていく。
 だが、突如、グラトニーがけたたましい雄叫びをあげる。

「アアァァァァッ! 腹ガ、減ッタアァァァァァッ!」



暴食の悪魔龍 グラトニー 闇文明 (6)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 6000
このクリーチャーが攻撃する時、自分のクリーチャーを好きな数破壊してもよい。こうして破壊したクリーチャー1体につき2枚、カードを引く。
W・ブレイカー



 本能のままに食欲をまき散らす、大罪の一角、暴食の悪魔龍が姿を現した。
 しかしライは、食欲を剥き出した《グラトニー》にも、まったく物怖じすることがない。
「……《絶叫の影 ガナル・スクリーム》を召喚」
 《ガナル・スクリーム》の絶叫は、死者すらも目を覚ますほどにおぞましい。
 山札から四枚のカードが墓地へ落ちると、少女はその中から一枚をすくい取った。
「《ウルボロフ》を手札に……ターン終了」
『ウ、ガ、ア、ガガ、ガアァァァァァァァッ! ハラアァァァァァァッ』
 《ポーク・ビーフ》がもう一体現れるが、《グラトニー》はもう我慢が利かなかった。
 すぐさま巨大な大口を開くと、二つの肉塊を貪る。
 食欲という本能のみに突き動かされ、ぐちゃぐちゃと下品な音を立て、二つの肉の塊は、肉片をまき散らす。
「……やはり、醜いものですね、暴食の罪というものは……」
 ライは《グラトリー》が肉塊を一心不乱に貪る姿を見て、嘆くように、懺悔でもするかのように、痛ましい表情で呟く。
 《グラトニー》は意地汚く二体の《ポーク・ビーフ》を喰らったが、勿論ただ喰っただけではない。
 暴食の罪は、喰ったものから、新たな知識を得るのだ。
「グルルゥゥ……カードを四枚、ドロー。さらに、《ポーク・ビーフ》二体が破壊され、二枚ドロー。そして、《グラトニー》で、Wブレイク!」
 《グラトニー》は食物から知識を喰らう。さらに《ポーク・ビーフ》そのものが持つ能力も併せて、一気に六枚もの手札を補充した。
 そして腹を満たしたい欲求だけで叫び散らしていた《グラトニー》は落ち着きを取り戻し、そのままライのシールドを喰い破る。
 破片が舞い、ライの身体を刻むが、彼女は動じた素振りをまったく見せない。
「……暴食の罪……罪には罰を……」
 そう言って、少女はクリーチャーを呼び込む。
 《ガナル・スクリーム》の絶叫で目を覚ました、悪夢の死者を。
「……《龍覇 ウルボロフ》を召喚」
 現れたのは、赤いグローブをはめた人狼のようなクリーチャー。
 どことなくコミカルさはあるものの、その眼差しは《グラトニー》に負けず劣らず飢えており、ギラギラと黒く輝いている。
「《ウルボロフ》の能力により、超次元ゾーンからコスト4以下の闇のドラグハートをバトルゾーンへ呼び出します。魔界より、罪の凶器をここへ——《滅殺刃 ゴー・トゥ・ヘル》」
 超次元の彼方より、地獄の闇の中に封じられた刃が呼び起こされる。
 それは、禍々しい狂気を放つ、鎌のような刃物。それ自体の纏うおぞましい障気が、見るものを恐怖させる。
 《ウルボロフ》はその鎌を握ると、鋭い眼光をさらに光らせた。
「《ゴー・トゥ・ヘル》を《ウルボロフ》に装備……そして、能力発動」



滅殺刃 ゴー・トゥ・ヘル ≡V≡ 闇文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
このドラグハートをバトルゾーンに出した時、または、これを装備したクリーチャーが攻撃する時、コスト5以下のファンキー・ナイトメアを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
龍解:自分のターンの終わりに、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップして置いてもよい。そうした場合、自分のクリーチャーを4体破壊する。



 《ウルボロフ》は鎌を振るう。すると、地獄の底より、亡者の嘆く声が聞こえてくる。
 やがてその声は、本物の死者として——蘇る。
「墓地からコスト5以下のファンキー・ナイトメアをバトルゾーンへ……《タイガマイト》を復活」
 地獄への呼びかけが、死者を蘇らせる。《ゴー・トゥ・ヘル》は《タイガマイト》の魂を目覚めさせ、死した身を戦場へと再び駆り出した。
 少女のマナが黒く光り、《タイガイマイト》はその光で武装する。そうして着火したダイナマイトを《グラトニー》に投げつけ、手札を爆破した。
 《グラトニー》は大量にカードを引いているため、今更一枚や二枚の手札破壊では動じないだろう。
 しかしここで《タイガマイト》を復活させたのは、単純に手札を破壊したいからではない。
 それ以上に、“クリーチャーを増やすこと”が、ライにとっては必要だったのだ。
「……ターン終了」
 する時に。
 《ゴー・トゥ・ヘル》の刃が、黒く光る。
 そして、ライは断罪を宣告する。
「貴方の罪を、数えましょう」
 まるで、歌うように。
「私の罪と、比べましょう」
 そして——
「——二人一緒に、罰しましょう」
 時が来た。
 断罪の時が。
「暴食の罪に、魔界の罰を——龍解」
 《ゴー・トゥ・ヘル》に秘められた、龍の魂が、解放される——

「——《魔壊王 デスシラズ》」



魔壊王 デスシラズ ≡V≡ 闇文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 12000
このクリーチャーが龍解した時、相手のクリーチャーを1体破壊する。
このクリーチャーが攻撃する時、進化ではない闇のクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー



 おぞましく、地の底から這い寄るような唸り声が響き渡る。
 黒い瘴気が包み込み、生を忘れさせるような、闇の力が充満する。
 悪魔龍の頭を半身とし、赤き呪印が刻み込まれた黒い大鎌を携える。
 命という概念すらをも壊し、死を知ることのない、死なない死神。
 《魔壊王 デスシラズ》が——降臨した。
「龍解……完了……そして」
 《デスシラズ》は鎌を振るう。
 そして——命を刈り取った。
 二体の《タイガマイト》《ガナル・スクリーム》そして《ウルボロフ》——四体ものクリーチャーが、破壊された。
『アァァ……?』
 《デスシラズ》が振るう鎌は、すべてライのクリーチャーに向けられる。
「《ゴー・トゥ・ヘル》は龍解した後、自分のクリーチャーを四体……破壊します」
 《滅殺刃 ゴー・トゥ・ヘル》自体は、龍解するための条件がない。無条件で龍解することが可能だ。
 しかし龍解した後に、《デスシラズ》のための生贄を捧げなければならない。
 クリーチャーの命という、生贄を。
「……そして、《デスシラズ》が龍解したことで、《グラトニー》を破壊」
『アァァ!?』
 一度は降臨するための生贄を求め、ライのクリーチャーに振るった《デスシラズ》の鎌。
 しかし、二度目は大罪へ罰を科すために、振るわれる。
 《デスシラズ》の鎌が、《グラトニー》を切り裂いた。
『グアァ、アァァァァァァァァァッ!』
 だがそれは、ただの破壊ではない。
 あくまで悪魔龍が、《デスシラズ》が下すのは、断罪だ。
 大罪には、それ相応の罰を与えなければならない。
 そして《グラトニー》には、暴食の罰が科される。
『アァァァ! オデノグイモンガアァァァァァッ!』
 《グラトニー》は、その腹を、切り裂かれた。
 赤黒い血と共に、彼が今まで暴食してきたものがすべて、腹から流れ出る。
 肉塊、骨、繊維——あらゆるものが、血と胃液に塗れたまま、グラトニーの中から流出する。そのすべてが原形をとどめないほどにぐちゃぐちゃになっていた。
 それは見るに耐えないほどにグロテスクで、そして暴食を求めるグラトニーには凄惨な罰だった。
「アァ、アァ、ハラガアァァァァッ!」
 ザックリと開かれた腹をそのまま、《ステーキ・バーグ》と《ダンゴ・スポポン》を並べるグラトニー。
「……《爆霊魔 タイガニトロ》《爆弾団 ボンバク・タイガ》を召喚。《ボンバク・タイガ》のマナ武装3で、《ステーキ・バーグ》のパワーを−3000」
 だが、既に断罪は始まっている。
 大罪に罰が下されることは、決しているのだ。
 その罰から逃れることはできない。
「《デスシラズ》で攻撃……その時、墓地から《惨事の悪魔龍 ザンジデス》をバトルゾーンへ……そして、その能力で、相手クリーチャーのパワーをすべて、−2000」
 《ザンジデス》が現れたことで、グラトニーのクリーチャーのパワーがすべて2000下げられる。
 よってパワー2000の《ダンゴ・スポポン》に加え、《ボンバク・タイガ》でパワーを3000下げられた《ステーキ・バーグ》も破壊された。
「T・ブレイク」
 魔界の王はグラトニーのシールドを三枚、まとめて薙ぎ払う。
 さらに、それだけでは終わらない。
「ターン終了……その時、《タイガニトロ》のマナ武装5が発動」
 グラトニーの手札が爆発する。
 そして、頭が、脳が、爆破される。
 暴食の罪が喰らってきたあらゆる知識が、爆散した。
「ウ、ウ、ウ、ア、アァァァァァ……!」
 その叫びは、呻きへと変化しつつある。腹を裂かれ、頭を潰され、もはや正常に思考し、行動できるような状態ではない。
 グラトニーはガチガチと歯を鳴らす。まるで、なにかを食べるように。
 飢え、求めるように。
「アァァァ! アァ! ァァァァァァッ……!」
「……醜いものですね。死の際までも、暴食を求めますか」
 そんな様子のグラトニーを、ライは侮蔑する。
 いや、そもそも断罪する者である彼女にとっては、あらゆる罪は、罰を与えられるべき存在でしかない。
 そこに、同情や酌量の余地はないのだ。
「……《ザンジデス》でWブレイク」
 残ったシールドを、《ザンジデス》で砕く。
 これで、グラトニーを守るものはなくなった。
 最後の断罪が、下される。
「《魔壊王 デスシラズ》……貴方の刃で、罪を裁きましょう」
 《デスシラズ》は振るう。暴食を司る悪魔龍へと、断罪の刃を。
 腹を裂かれ、頭を潰された暴食は、その大罪を——裁かれた。

「暴食の罪、断罪しました——」

72話 「『死神』」 ( No.251 )
日時: 2015/10/04 16:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)

「暴食の罪、断罪しました——」
 鎌を担ぎ直す。
 彼女は、まっすぐにグラトニーを見据えた。
 これから為すべき、“罰”を与えるべく。
「——それでは、贖罪の時です」
 ライは静かに歩を進める。そして、断罪された暴食の大罪龍の前で、止まった。
「貴方に罰を与えましょう。暴食の罪は最も重い大罪。皮を破られ、肉を裂かれ、骨を砕かれ、血を啜られた、生者の苦痛——それを、知ってもらいます」

ガッ!

 彼女は鎌の柄を、グラトニーの口に差し込んだ。
「!」
「アグァ……ッ!」
 そしてそのまま鎌を振り上げて、グラトニーの口を強引に押し開ける。
「やはり何度見ても、何とも醜いものですね……これが暴食の罪の形ですか」
 悍ましい、とライは言った。
 黒々とした口腔。唾液に塗れたその空間に踏み込む。酸性の液体が、じゅわっと化学反応を起こし、上気を上げるが、気にしない。むしろ、この空間を踏み躙るように、歩を進めていく。
 そして、自分のすぐ横に垂れ下がる、白く長大な牙に目を向けた。
「……この牙は、数多の生者を貫いた、罪の牙……その罪は、取り払わなくてはなりません」
 彼女は、その牙の根本に、鎌の切っ先を突き刺した。
「アガァ……ッ!」
「罪には、罰を」
 彼女は、告げた。
「っ!」
「部長っ?」
「ふえっ?」
「っ……?」
 ほぼ反射的に、沙弓は暁と柚、そして恋を抱き寄せる。
 胸に押し付け、腕で彼女たちの頭を覆うように。
 その、直後だった。

「その牙は……罪、ですね」

 力ずくで、その牙を抉り取った。
 歯肉と共に。
「ア、ガ、ガァ……ッ!」
「まだ、ですよ……この牙だけではないでしょう。ここに並ぶすべての歯牙が、貴方の罪の証明——すべて、罰を与えなければなりません」
 と、彼女は宣告する。
 直後。
 ぶんっ、という風切り音が鳴り、同時にグラトニーの口から、白いなにかが吹き飛んだ。
「ギャガァッ!」
「残り、いくつ残っているでしょうか……」

 ガスッ! ガスッ! ガスッ!

 と、グラトニーの巨大な口の中で、鎌を振り回すライ。
 また、三つの白いものが、口の中で弾け飛んだ。
「……数えました。四十三本、でしょうか……」
 ガッ、と足元に歯に柄を突き込むと、梃子の原理で抜き取る。
 上顎に生える長大な牙を掴み取り、力任せに引き抜く。
 鎌を振るい、歯茎を裂き、まとめて切り落とす。
「……あと、三十三本……」
 鎌の柄で突き、砕く。
 切っ先を振り下ろし、貫く。
 破片が飛ぼうが、血を浴びようが、唾液に塗れようが、彼女は鎌を振るい続ける。
 暴食を、断罪するために。
「ア、ア、アァァァ……! ガハァッ!」
「……あぁ、忘れていました」
 もうほとんど、白い部分が見えなくなったグラトニーの口腔。
 その中で、ライは視線を彷徨わせる。
「牙が暴食のすべてではありませんね……その“頬”は、どれほどの命を蓄えたのでしょうか」
「!? ガ、アァァァァァッ!」

 ザシュッ

 濁った音が、響いた。
 鮮血が散る。そして、ライの視界は、少しばかり明るくなった。
 ただし、右側だけだ。
「こちらも……同様に」
 ザシュッ、と音が鳴り。
 ボタボタ、と穢れた音が響く。
 その口から、血と唾液が流れ出る。下品で、汚らしい、体液が。
「ア、アァァ……ガ、ア……ッ」
「…………」
 乾いた声をあげるグラトニー。ライは、助けを請うように蠢く舌を、掴んだ。
 潰してしまうほど強く、握り締める。
「これは、この舌は、どれほどの命を味わったのでしょうか……告白と、懺悔の時間を与えましょう」
「アガガガガ、ガ、アァ、ガ……」
「……懺悔はない、ですか」

 ブチッ

「アガアァァァァァァァァァァァァァァッ!」
 グラトニーの口から、大量の赤が溢れ出る。
 とめどなく、氾濫するように、流れ出て来る。
「…………」
 ライは、手にした赤いものを放り投げると、グラトニーの口から下りる。
 そして見えるのは、暴食に直結する罪の形を、破壊された悪魔龍。
 しばしその姿を見つめると、ライはその顎を蹴り上げる。
「ガファ……ッ」
 そして、今度はその顎を、踏みつける。
 さらに手にした大鎌を、再び口腔へと押し込んだ。
 刃が下に、下顎に当たるように。
「この顎は、どれほどの命を噛み砕いたのでしょうか」

 ザクリ

 バキッ

 同時に、破壊音が響く。
 鎌の切っ先は、顎を突き貫く。
 断罪者の足は、顎を踏み砕く。
「その鼻は、どれほどの命を嗅いだのだでしょうか」
 再び、足を振り上げ、そして振り下ろした。
 グシャッ、という気味の悪い音が鳴る。
 血が噴き出る。踏み潰し、踏み躙る。
 吐き気を催すほどの、濁った血の匂いが鼻につく。それでも構わず、彼女は足に力を込める。
「ア、ア、ァ、ハグァ……」
 やがて、足を退けた。
 グラトニーは、助けを請うように、這いつくばる。目の前にいるライに、許しを請うように、その手を伸ばす。
「……それは」
 ライは、その手を掴んだ。
 そして、地面に押し付ける。
「その手は、爪は、どれほどの命を掴み、裂いてきたのでしょうか」
 断罪者に、温情は存在しない。
 ただ、目の前の罪を、裁くことのみに終始する。
 鎌を振り下ろす。切っ先を、爪先に突き立てる。
「ガハ……ッ!」
 黒い爪が四散する。赤い体液が飛び散り、ドクドクと流れる。
「そうですね……この爪も、罪の証ですね」
「アァ、ハッ、ハ、ガ、ア、ア、アァァァ……!」
 爪が砕かれ、肉が剥き出しになり、鮮血が溢れ出る爪先。
 そこにライは、鎌の柄を、捻じ込んだ。
「ハガア、ァ……ッ!」
「……痛いですか?」
 ライは問う。しかし、元々暴食という本能だけで動き、まともな思考回路を持ち合わせていないこの悪魔龍に、正常な問答など通じない。
 そうでなくても、すべての歯を砕かれ、舌を抜かれているのだ。喉を震わせて、不明瞭な嗚咽の音を鳴らすことくらいしかできない。
「その痛みは、貴方に喰らわれた魂の痛みです……貴方もよく、味わってください」
 その歯牙を砕いたように、ライは鎌を振るった。
 柄で砕き、刃で切り、切っ先で剥がす。
「……左も、平等に」
 悪平等が、痛みを伴ってやって来る。
 右手に走る激痛が、左からも襲ってくる。
 さらに、手甲に刃を突き刺す。そのまま引き込み、縦に引き裂く。
「……そうでした。爪は裂く凶器……命を鷲掴む穢れた手は、ただ裂くだけでは足りませんね。その手首ごと、落としましょうか」
 躊躇いはない。
 すべての爪を剥がされたその手は、根元から切り落とされた。
「さて、貴方は如何にして命を味わっていたのでしょうか。血に染まった味と、肉と骨を磨り潰す食感と、身を引き裂く心地と……あれも、ありましたね」
 暴食の罪を考える。どのように、罪を犯してきたのかを。
 どのような感覚を持って、暴食という罪を為してきたのかを。
 指折り数え、考える。
 そして、彼女は口を開いた。
「……喉越し」
 再び、ライはグラトニーを蹴りあげた。
 そして、彼の腹に乗り、歩を進め、頭と体を接続する、そこへと刃を当てる。
 刹那。
 黒い刃が煌めく。
 直後。
 血が飛沫く。
「…………」
 手首のように、切り落としてはいない。
 喉を、切り裂いた。
 続けて、切っ先を差し込む。さらに、柄を捻じ込む。
「どれほどの命が通ったのでしょうか……この食道の穢れは、貴方の罪の重さを示しているようです……」
「ア、ハッ、ハ、フ、ヒュ……」
 喉に風穴を空けられたグラトニーは、もはやまともに発生できない。ヒューヒューと、空気が喉を通り抜ける音ばかりが、虚しく響く。
「貴方の食したものは、ここを通り……そして」
 ここに、辿り着く。
 彼女が指し示すのは、閉じかけた腹。
 一度、暴食がすべてを吐き出した、もはやなにも入っていない、胃袋。
「ここが……貴方の大罪の、根源」
 裁かねばなりません。
 その一言で、再び、その腹は開かれた。
 血と胃酸の混合液が溢れ出る。臓物が飛び出す。切り目の入った胃袋が見える。だらしなく伸びる小腸が垂れ下がる。真っ黒な肝臓が零れ落ちる。潰れた腎臓が弾ける。
 悲鳴のような音が聞こえた。それはもう、声とは言えない。ただ、風が吹き抜けるだけの、音だ。痛みを訴える術すらも、なくなっている。
 牙も、歯も、頬も、舌も、顎も、爪も、手も、喉も、腹も、すべてを破壊しつくされた暴食の大罪。
 いや、その姿は大罪でも、悪魔龍でもない。
 己の存在理由のすべてを否定され、存在証明のすべてを破壊された、ただの惨めで醜悪な怪物。
 もはや存在価値すら存在しない、なんの変哲もない、ただの肉塊だった。
 かつては己の手で裂き、己の口で砕き、己の喉を通し、己の腹にあった、肉と皮と骨がと血が綯い交ぜになった、混沌の物体。
 己が今、その姿であった。
 これが、暴食の罰。
「……さぁ、終わりです。罪を清め、悔い改めてください」
 そして暴食の悪魔龍は。
 肉塊のまま——消えて行った。

72話 「『死神』」 ( No.252 )
日時: 2015/10/05 08:44
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: .HplywZJ)

「……酷い」
 沙弓は、抑えきれず、言葉を漏らす。
 目の前で起こった惨劇。
 それは、断罪でも、贖罪でも、なんでもない。
 ただの一方的な虐殺だ。
 嗜虐的で、凌辱的な、凄惨な行い。
 これが、冥界の語り手の在るべき姿なのか——
「……ゆみ姉、もうそいつら離してやれ」
「あ……ごめんなさい」
 覇気のない声だが、浬は沙弓に声をかける。
 そこで初めて、ハッとする沙弓。もはやそこに、裁かれた暴食の悪魔龍が存在しないことを確認してから、抱き寄せた二人を解放した。
「二人とも、大丈夫?」
「……正直、なにも見えなかったし、よく聞こえなかったんだけど……」
「なんだか……とってもこわい感じが、しました……」
「とりあえず……だいたい察した」
 あの惨劇は、この三人には見せられない。本来なら浬にも見せたくはない。自分だって見たくない。
 だが、とにかくこの三人に、あんな暴虐な一部始終を見せるわけにはいかなかった。あんなものを見ては、おかしくなる。
 今、正に自分も、気が狂いそうだった。
 返り血を浴び、肉片を付け、唾液に塗れた、死臭漂う『死神』の姿が、そこにはある。
 それは静謐だった『死神』ではない。
 残虐で暴虐な、『断罪者』だった。
「……僕は確かに言ったよ。『死神』は、多くのクリーチャーを“惨殺”した、って」
「……ごめんなさい。私が甘かったわ」
 惨殺。
 それは書いて字の如く、惨たらしく殺すこと。
 正に、先ほどまでの惨状そのものだった。
 肉体という肉体をすべて壊され、命を削られ、魂までもを刈り取られる。
 言葉の上では分かっていた。分かった気になっていた。
 だが、その認識は甘かったのだ。
 知識として知る惨殺は、現実のそれとは程遠い。
 今ここにあった行いことが、その言葉の真の意味だった。
 沙弓は、引いた血の気をなんとか呼び起こし、それとは逆に、湧き上がる吐き気を押し戻し、一歩を踏み出す。
 死を纏った、『死神』へと、近づく。
「……なんで、こんなに酷いことができるの?」
「酷い、ですか……」
 ライは表情を変えぬまま、振り向く。
 その表情そのものは、今まで見たそれとなにも変わらない。しかし、返り血に濡れたその姿のままでも、彼女は顔色一つ変わらない。
 断罪を為し、罰を与えた彼女と、今ここに立つ彼女は、まったく同じ存在だった。『死神』としても、断罪者としても、そして《語り手》としても。
「私はただ、罰を与えただけです」
「“あれ”が、あなたの言う罰?」
「そうです。罪には罰を。その罪の大きさに比した罰を与えなければなりません。それが、私の役目……断罪者としての、私の使命です」
「へぇ、それはそれは、随分なご身分ね。でも、あなた自身、罪人だって話じゃなかったかしら? それが断罪とか、罰を与えるとか、そんな大それたことを言えるのかしらね」
「……えぇ、そうですね……」
 確かに、その通りだ。
 ライは己の使命を果たせず、主の暴走を許してしまった、罪がある。
 罪人が罪人を断罪し、裁き、罰を与えるなど、酷い矛盾だ。
「本来ならば、私は罪人を裁くなどと言えるような身分ではありません。最も罪深きは私であり、私が最も裁かれなければならない存在です」
 しかし、とライは続ける。
「罪は裁かねばならない、罪には罰を与えなければならない……そして、それを行うべきは私であり、それが私の使命です。私はこれ以上、己の使命を投げることは許されません。今の使命を全うすることが、私の贖罪の一つ……」
 だが彼女の贖罪は、一つではない。
 かつて果たせなかった使命を、今は断罪という別の形で果たす。その行為が、彼女にとって罪を償うことの一つ。
 そして、もう一つは。
「私は、罰を受ける覚悟はできています。裁きを受ける覚悟が、とうにできているのです。ゆえに、私を裁く者がいれば、私は喜んでこの首を差し出しましょう」
「……口でならいくらでも言えるわよね。あなたは、本当に自分の罪を償う気があるのかしら」
「……当然です。私の罪が償われるのであれば、私は破壊的な痛苦でも、暴虐的な辛苦でも、凌辱的な責苦でも、屈辱的な憂苦でも……如何なる罰をも受けましょう。この私を殺し、壊し、害し、犯すことが贖罪になるのならば、私は殺され、壊され、害され、犯されることを切望します」
 すべては贖罪のために。
 罪を償うためならば、なにも厭わない。
「私は言いました。あなたが従える語り手に」
 彼女は、繰り返す。
 己への罰となるはずの、言葉を。
「“私を撃ってください”」
 ——と。
 確かに、彼女はそう言った。
「その言葉に、偽りはありません。貴女が、私の所業を許せないと言うのであれば、どうぞ、私を裁いてください」
 彼女は鎌を落とした。
 そして一歩、また一歩と、沙弓へ歩み寄る。
 無防備に、隙だらけのまま。
 彼女へと、歩み寄る。
「その覚悟は——できています」
「っ……!」
 その一言で、分からされた。
(この子——)
 彼女の声、眼、仕草——彼女が纏う、あらゆる意志と思念を内包した空気が、すべてを教える。
 彼女の、《冥界の語り手》の、在り方を。
(——本物だわ……!)
 その瞳は、暗い。
 常闇の暗夜よりも、地獄のさらに奥にある冥府よりも、深淵を超えた暗黒よりも、なによりも暗く、深い。
 それは、かつての恋のような揺らぎもない。確固たる暗黒の証明。
 絶対的な罪の意識と、自責の念、そして使命感から湧き上がる、脅迫的なまでの贖罪への渇望。
 彼女は、罪を償うため“だけ”に生きている。
 罪を裁くという使命を全うすることで、そして、己へ罰を与えられることを求めて、すべてを己への贖罪とするため。
 ただそのためだけに、彼女はここに存在している。
「……分かったわ」
「私を、裁いてくださるのですか?」
「いいえ」
 沙弓は首を横に振る。
「あなたがどれだけ残虐でも、あなたにはあなたの意志がある。それを一方的に非難はできないわ」
 目的のために手段を選ばないと言えば聞こえは悪い。
 しかし、その目的の重さを考慮すれば、どうか。
 それを考えた結果、沙弓は一つの答えを出す。
「だから、あなたを見極める。もう少し、あなたに着いて行かせてもらうわ」
「……私は構いません」
 ライは拒絶しない。それだけの権利は、自分にはないと主張する。
 沙弓は振り返った。その先にいるのは、部員たちと、一人の少女。皆に、彼女は言う。
「ごめんなさい皆。でも、これは私の我儘だから、無理についてくる必要はないわ」
 浬以外には直接は見せていないとはいえ、ライの今の姿を見れば、どれだけ凄惨な所業であるかを察することはできる。
「ここから先はもっと酷いことが起こるかもしれない。もっと酷い場所を訪れるかもしれない。私はあなたたちに、それを感じさせたくはない……だから」
 一緒に来る必要はない。
 そう、続けるが、
「……やだなぁ、なに言ってんのさ。部長が行くなら、私たちも一緒に行くに決まってんじゃん。ねぇ、ゆず」
「は、はひ……ぶちょーさんだけに、おまかせするわけにはいきません……っ」
 軽く笑う暁。それに従うような柚。
「……あきらがいくなら、わたしも……」
 さらに、暁の腕を抱き寄せる恋。
 最もあの惨状から遠ざけるべきだと思っていた三人は、なんの躊躇いもなく、彼女の後ろに着いた。 
「……だそうだ、部長。まあ、あんた一人っていうのも不安だし、俺も行くつもりだ」
 そして、唯一の男子部員も、同じように、続く。
 遊戯部の面々と、もう一人の少女。およそ仲間と呼べる彼女たちは皆、この背の裏にいる。
 部長という、自分の背に、付き従っている。
「あなたたち……まったく、怖いもの知らずなんだから……」
 結局は、いつもと同じだった。
 いつもと同じメンバーで、いつもと同じように活動して、いつもと同じように戦う。
 それが、自然なことなのだ。
 この遊戯部においては。
「……では、参りましょう」
 血振りし、こびり付いた肉片を払い、返り血を拭い。
 ライは大鎌を担ぐと、背を向けて踏み出した。

「次に裁くは——憤怒の罪」

Re: デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.253 )
日時: 2015/10/04 18:17
名前: Orfevre ◆ONTLfA/kg2 (ID: EVVPuNrM)


こんばんは

いや、今回はシリアス路線ですね。

ゾクゾクするというかなんと言うか、そしてライという新キャラクター。由来はlie(嘘)ですかね?

あくまで、勘ですがw

しかし、沙弓ドライゼ回の予感かと思いきやの展開、今後が気になりますね……。

それでは、この辺で


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