二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て6」 ( No.450 )
日時: 2016/08/30 14:21
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「まともな運用方法じゃなかったが、やっぱエクストラターンは強烈だな」
 対戦が終わり、カードを一旦片付けてモノポリーへと戻るミシェルと沙弓。軽く雑談しながらゲームを進める中で、今の話題は先の対戦のことだった。
「そうねぇ、結局トリガー二枚でも押し切られちゃった。《バルガゲイザー》からの《ボルバルザーク》に、《刃隠・ドラゴン》からの《フレミングジェット》とは、運がよかったわね、シェリー」
「そのトリガー二枚で保険の《刃隠・ドラゴン》を使わせたうえに、最速じゃないとはいえ先攻6ターン目に一積みのキクチパトロール決めたお前はどうなんだと言いたいんだが」
 結果としてはどちらも運が良かったが、エクストラターンの膨大なアドバンテージが決め手となったか。
 加えて、ミシェルの挿した《グレンマル》も、働きとしては十分に活躍した。
「じゃあ、私が負けたから、シェリーには800万デュ円を贈呈するわ」
「800万をトップから取れたのはデカいな」
 初っ端から二億デュ円の資産を持つ沙弓との差はまだあるが、着実にその差は詰まってきている。現在二位のミシェルが沙弓に追いつくのも、時間の問題かもしれなかった。



「次は……2か。あ、カードショップマスだ」
「ちょっと待ちなさい、暁。その私の土地は通過するだけで徴収よ。100万デュ円」
「えぇー……わかったよ。うぅ、お金少ないのに」
「だったら節約すればいいじゃない」
「対戦で負け続けてるから、節約しても動きづらくなるだけだろ」
「じゃあカードを買えばいいじゃない」
「そのカードを買う金がないんだろ。節制ではないが、ここは土地を購入したり、不動産を買収したりして、地道に金額を上積みしていくのが吉——」
「いいや! 私はデュエリスト、デュエマで稼ぐよ! カードを買う!」
「……こいつは馬鹿か」
「まあまあ。これが暁さんのやり方なんだよ」
「残りデュ円が初期資産の三分の一を切っても、ですか?」
「う、うーん……うん、たぶん……」
 金がないから土地もカードも買えず、土地が買えないから金が増えない、カードが買えないから対戦に勝てず金が増えない。モノポリーならではの悪循環だ。どこかでボーナスマスに止まるなり、残った土地を買うなりして、金を稼がなくては、暁は厳しい状況となっている。
「——『道端で小太りの中年おじさんからお小遣いとして1000万デュ円を貰った』……あ、やりました。お金がふえましたっ」
「あ、いいなー。私もそのマス止まりたい、お金が欲しい……」
「いや、怪しすぎるだろこのマス……犯罪臭がするぞ」
「金額高めなのが、モラルに反してそうですよねー」
「次はこいちゃんですね」
「ん」
 柚に続いて恋がルーレットを回す。指し示す数字は7。
 止まったマスは空護の土地。彼に300万デュ円ほど献上しなければならないが、もう一つ。
「……ん、同じマス、止まった……みこと」
 恋が美琴を見遣る。
 そう、ここには既に彼女が止まっていた。つまり、対戦勃発だ。
「日向さんね。日向さんのデッキって、確か」
「俺のだったよね」
 恋のデッキは、一騎の作った赤単速攻だ。旧式だが、速攻というコンセプトの性質上、デッキの総合力が低いこのゲームにおいて、かなりの強さとなっている。
「あきらのがよかったのに……ミシェルは許さない……」
「なんであたしなんだよ。ランダムに分配されたんだから仕方ないだろ」
「つきにぃの作ったデッキなんていらないのに……しかも速攻なんて、使いにくいし、面白くないし、捻りもない……」
「そこまで言うか……?」
 暁のデッキを引いたミシェルに妬みの視線を向けつつ、一騎のデッキを貶す恋。今日の彼女は非常に荒れていた。
「今の私のデッキで速攻は辛いけど、レギュレーション次第かしらね。えぇと……」
 美琴はレギュレーションが書いてある紙を引く。そこに書かれていたのは、
「『計略デュエル:個人戦』?」
「お、また結構面白いのが引けたわね。ナイスよ、美琴」
「沙弓が面白いというものにロクなものがない気がするんだけど……これは?」
 美琴が訝しむような、それでいて不安げな視線を沙弓に向けるが、沙弓は楽しそうだった。当事者じゃないからか、単純に対戦のレギュレーションそのものが面白いのか。どちらにせよ、嫌な気しかしないが。
 とりあえず、沙弓の口から今回のレギュレーションについて説明を受ける。
「『計略デュエル:個人戦』は、“計略デッキ”を用いたレギュレーションで、一対一の時の対戦方法ね」
「計略デッキ……?」
「ちょっと待っててね……これよ」
 沙弓がバッグから取り出したのは、一つのカードの束。枚数は普通のデッキ——四十枚ほどに見える。
「これが計略デッキ? これをどう使うの?」
「まず、基本ルールの説明をするわ。『計略デュエル』では、基本的に今現在の殿堂レギュレーションを参照する。デッキ枚数も四十枚、超次元ゾーンは八枚までよ」
「普通だな」
「で、対戦自体も普通のルールで進行するんだけど、ただ一つ違うのは、プレイヤーのデッキの他に、互いのプレイヤーが共有する計略デッキ存在すること」
 つまり、盤面に美琴のデッキ、恋のデッキ、そしてもう一つ、計略デッキと、三つのデッキがあるということか。
 しかし計略デッキは実質的に特殊な別ゾーン扱い。干渉は不可能らしい。
「計略デッキの使い方を説明するわ。互いのプレイヤーは自分のターンの始めに、計略デッキからカードを一枚引いて、それを強制的にプレイしなきゃいけないの」
「強制プレイ? クリーチャーなら絶対に召喚、呪文なら絶対に唱えないといけない、ということか?」
「そうなるわね。クロスギアの場合はジェネレートのみ、城は要塞化のみとなるわ」
 次に、計略デッキから捲られたカードについての説明。計略デッキ自体に干渉できないように、計略デッキから捲られるカードの干渉も、限定的になるようだ。
「計略デッキから捲られたカードは、計略デッキのゾーンとバトルゾーン以外から動かない。クリーチャーならバトルゾーンに出て、呪文は計略デッキに戻されるわ。クリーチャーも破壊されり手札に戻ったら、計略デッキ行きね」
「クリーチャーがいるなら、ビートダウンは有利そうだね。単純に頭数が増えるし」
「ところがどっこい、そうは問屋が卸さないわ。計略デッキから捲れるクリーチャーは、攻撃もブロックもできない。ダイヤモンド状態などの攻撃可能効果などは全部無効よ」
「つまり、場に出たらただのシステムクリーチャーとして置物になる……」
「そういうことね。あ、クロスギアはクロスもできないから、注意よ」
 ということは、計略デッキから捲れるカードは、自分の意志では動かせないということになる。
 ただ、クリーチャーや呪文の効果の対象にとって、場から離したり、詠唱を打ち消すことなどはできるようだが。
「さて、それじゃあ順番も一巡したようだし、美琴、れんちゃん、始めてちょうだい」
 沙弓に促されて、対戦準備を整える美琴と恋。
 恋の赤単速攻に対し、美琴のデッキは柚の作った緑単カチュアシュート。
 速度的にも色的にも、美琴は恋に対してはかなり不利だが、計略デッキから捲れるカード次第では、耐え切れる可能性はある。計略デッキから捲られるカードは攻撃もブロックもできないシステムクリーチャーとなれば、耐える動きをする美琴の方がやや有利だと思われる。
 なんにせよこの対戦。
 計略デッキが勝負を左右することになるだろう。

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て7」 ( No.451 )
日時: 2016/08/30 22:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

『計略デュエル:個人戦』ルール
・基本的なレギュレーション、ルールは今現在のレギュレーション、ルールに沿う。これらに以下のルールを追加する。
・各プレイヤーのデッキとは別に、両プレイヤー共有の計略デッキ(四十枚)が存在する。計略デッキはカードの効果で干渉できない(ドロー、トップデック参照、山札操作、山札削りなどの対象にできない)。
・各プレイヤーはターンの始め(アンタップステップの直前、ターンの始めに発動するカードの効果よりも優先される)に計略デッキからカードを一枚引かなくてはならない。計略デッキからカードを引いたプレイヤーは、計略デッキから引いたカード(以下、計略カード)を使用(クリーチャーなら召喚、呪文なら詠唱、クロスギアならジェネレート、城なら要塞化)しなければならない。
・計略カードは攻撃、ブロックできない。「攻撃できない効果を無効にする」などの効果も受けない。また、クロスギアはクロスすることもできない。
・計略カードはバトルゾーンと計略デッキ以外に存在できない。これら以外のゾーンに計略カードが移動する時、計略カードは計略デッキの一番下に表向きで戻る。
・計略デッキのカードが一周した時、計略デッキに含まれるカードをすべて裏側にして、シャッフルする。



「先攻……まずは計略デッキからドロー……」
 美琴と恋の計略デュエル。先攻を取ったのは恋。速攻なので先手は取らせたくなかったが、こればっかりはじゃんけんに負けた美琴が悪い。
 恋は最初に計略デッキからカードを引く。
「……いらない。《真実の名 アカデミー・マスター》……」
 恋が捲ったのは、手札から唱えた呪文を二連射する《アカデミー・マスター》。確かに、赤単速攻の恋では恩恵を受けにくいカードだろう。
「《勇気の爪 コルナゴ》をチャージ……《凶戦士ブレイズ・クロー》を召喚……」
「1コスのアタッカー……まあ、そう来るわよね」
 赤単速攻の初動と言えば、《凶戦士ブレイズ・クロー》と《螺神兵ボロック》と決まっている。1コストのクリーチャーには《コルナゴ》も採用しているようだった。
 デッキが分配された時点で、安定した強さを誇る恋のデッキは、改造する余地があまりない。ここまでカードをあまり購入していないところを見ても、恐らく無改造だろう。
 だとすれば動きが読みやすい。なんとか耐え忍ぶことができれば、対応は十分に可能だろう。
「私のターン。最初に計略デッキからドロー……」
 問題はその対応だ。いくら動きが読めても、速攻で倒されては意味がない。
 緑単のカチュアシュートでは序盤の防御札などたかが知れている。ブロッカーもいないので、計略デッキから引くカードに祈るしかない。
 そうして、美琴が引いたのは——



怨念怪人ギャスカ UC 闇文明 (1)
クリーチャー:デビルマスク 4000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の手札をすべて捨てる。



「……は?」
 美琴が引いたのは、《怨念怪人ギャスカ》。
 能力は、登場時に自分の手札をすべて捨てること。
「……はぁ!?」
 美琴は後攻1ターン目に、手札をすべて失った。
「い、いきなりハンドゼロ……」
「これはついてないわね」
「だが、そうか。強制プレイっていうのは、“こういうことなんだな”」
 ミシェルは気づいたようだ。
 そう。この計略デッキは、なにもプレイヤーに恩恵を与えるだけではない。むしろ本質は逆だ。
 とにかくプレイヤーを困らせる。プレイヤーにディスアドバンテージを負わせることで、場を動かす。良くも、悪くも。
 普段なら使わないようなカード。使っても、タイミングを選ばなければ自分の首を絞めるカード。そういったカードが詰め込まれているのが、計略デッキだ。
 だからこそ、捲ったカードはすべて、“強制的にプレイさせられる”。
「マナチャージして、ターン終了……」
「ラッキー、余裕かも……計略デッキからは……《ロスト・ソウル》」
「あぁ、どっちにしろ手札は全部落とされてたのね……」
 いきなり手札をすべて叩き落とされたが、しかし美琴はそこまで絶望していなかった。
 これは相手が良かった。速攻の恋なら、殴ることでこちらに手札を与えてくれる。手札がなくて身動きが取れないという事態は、辛うじて防げるかもしれない。
「意味ないけど、いいや……《JK軍曹チョキパン》召喚……じゃんけん」
「じゃ、じゃーんけーん」
 ぽん、という掛け声で、二人は手を出す。
 美琴はチョキ、恋はグーだ。
「私が勝ったから、《チョキパン》はスピードアタッカー……《チョキパン》でブレイク、《ブレイズ・クロー》でもブレイク……」
「トリガーはないわ……」
 早速二枚のシールドが割られた。2ターン目に二枚のシールドをブレイク。恋は相当順調のようだ。
「計略デッキからドロー……!」
 美琴のターン。さっきは絶大なディスアドバンテージを負わされた計略デッキ。次に捲れるカードは、
「! 《漆黒戦鬼デュランザメス》! 墓地のクリーチャーをすべて回収よ!」
 自ら捨てたカードを再び手札に戻す、《デュランザメス》だった。
 墓地の《フェアリー・ライフ》を除いて、四枚のカードが美琴の手札に帰ってくる。
「なんとか立て直せた……マナチャージして、2マナで《霞み妖精ジャスミン》を召喚! 破壊してマナを追加! ターン終了!」
 実質的な1ハンデス。ディスアドであることに変わりはないが、オールハンデスよりよっぽどマシだ。
 とりあえず、コンセプトに沿ってマナを増やす。最初から色々あったが、初動はきっちり決められた。
 そして恋のターン。
「計略デッキからドロー……ん」
「どうしたの?」
「……《魔天降臨》」
 恋が計略デッキから捲ったのは、《魔天降臨》。
 互いのプレイヤーは、手札とマナのカードをすべて交換しなければならない。
「私の手札は二枚、マナも2マナ……変動なし……」
「だけど私のマナは5マナに増えたわ。ラッキーね」
 3マナしかなかった美琴は、五枚の手札をすべてマナに変換し、一気にマナブーストしたことになる。
「結果的に意味のない挙動もあるが、随分とカードの動きが激しいな……」
「それが計略デッキの面白いところだからね。それに、計略デッキの奥深さはこれだけじゃないし、この対戦だけでもないわ」
「マナチャージして、《鬼切丸》を召喚……《ブレイズ・クロー》《チョキパン》《鬼切丸》でシールドをブレイク……」
 恋は計略デッキなんて関係ないと言わんばかりに攻めたてる。3ターン目にはスピードアタッカーの《鬼切丸》。場の三体のクリーチャーで総攻撃を仕掛ける。
「……ラッキーだけど、普通にまずいわね……もうシールドがゼロに……」
 序盤の防御は計略デッキに任せるつもりだったが、肝心の序盤はセルフハンデスからのセルフ回収という無意味なことをしていたので、まったく防御になっていない。
 まあそもそも、なにが捲れるのか分からない計略デッキに身を委ねたことが悪いのだが。
「計略デッキからドロー……」
 幸いなのは、恋の計略ドローも機能していないこと。恋は自らディスアドバンテージを負っていないが、代わりにアドバンテージも取っていない。
 しかしこのドローで、なんとか盤面を覆すカードを引かなくては、普通に押し切られてしまう。そう思いつつ、美琴は計略デッキからカードを引く。
「! これは……」
 引いたカードを見て、口元を綻ばせる美琴。
 そうだ、こういうカードを待っていたんだ、と言わんばかりの微笑を見せ、そのカードを公開する。
「なかなかいいカードを引いたわ。《インビンシブル・オーラ》!」



インビンシブル・オーラ VR 光文明 (13)
呪文
自分の山札のカードを上から3枚まで、自分のシールドに加える。



 捲られたのは、《インビンシブル》の名を冠する13マナの超巨大呪文、光文明の《インビンシブル・オーラ》だ。その効果は、シールドを三枚増やすこと。
 インビンシブル呪文なだけあって豪快だが、13マナも払ってすることではない。勝利に直結する効果でもないため、今ではまず使われないカードだが、今の美琴の状況では、救世主のようなカードだ。
「《インビンシブル・オーラ》の効果で、シールドを三枚回復! さらに《古龍遺跡エウル=ブッカ》! 《鬼切丸》と《チョキパン》をマナゾーンへ!」
「む……凌がれた……」
 シールドを三枚も復活させた上に、場のクリーチャーを二体取り払った。
 恋の手札も切れつつあるため、これでもうしばらく時間を稼げるだろう。
「私のターン……計略ドロー」
 ここから恋はどう動くのか。決まり切っている。赤単速攻なので、攻撃する以外に道はない。
 しかしその道を、閉ざす者がいる。
「……《カビパン男》を召喚」
「そのクリーチャーは、確か……」
 美琴が言う前に、恋は静かに場の《ブレイズ・クロー》を墓地に置いた。
「自分のクリーチャーを破壊した? どういうことっすか?」
「《カビパン男》は、バトルゾーンのクリーチャーすべてのパワーを1000マイナスして、クリーチャーが破壊されるたびに相手にさらにマイナスを押し付けるんだ」
 この時、マイナスされる対象は相手クリーチャーだけではない。
 自分のクリーチャーも含まれる。
「今のれんちゃんの場には《ブレイズ・クロー》のみ。そして、《ブレイズ・クロー》のパワーは1000」
「パワーが0になって、《ブレイズ・クロー》は破壊される……ターン終了……」
 手札にあるカードもすべてパワー1000以下なのか、恋はなにも出せないようで、そのままターンを終了した。
 これは美琴にとっては好機だ。恋のアタッカーは消え、攻め手も止まった。そしてなにより、このターンで7マナになる。
 つまり、
「これで《カチュア》が出せる……!」
 切り札たる《カチュア》さえ呼んでしまえば、あとはカードパワーを押し付けて勝てる。《カビパン男》がいい具合に恋の動きを止め、《インビンシブル・オーラ》で回復したシールドもあるため、押し切れるだろう。
「まずは計略デッキからドローね」
 だがしかし、忘れてはならない。
 序盤の美琴のように、計略デッキは恩恵以外のものももたらす、災厄と混沌の集合体であることを。
「っ! 《エクス・リボルバー・ドラゴン》……!?」


エクス・リボルバー・ドラゴン R 火文明 (9)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 9000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分のマナゾーンからカードを3枚選び、それ以外を自分の墓地に置く。その後、相手は自分自身のマナゾーンからカードを3枚選び、それ以外を持ち主の墓地に置く。
W・ブレイカー



 捲られた計略カードは、《エクス・リボルバー・ドラゴン》。登場時に互いのマナを3マナにするドラゴンだ。
 このタイミングで捲れるカードとしては、美琴にとっては最悪なカードだった。
「マ、マナが……」
 マナを3マナに減らされ、美琴は《カチュア》召喚まで遠のいた。
 対する恋は速攻なので、3マナでも十分動ける。そもそも速攻デッキというものは、3マナ程度までしかマナを溜めないことも多いのだ。このランデスは、恋にとっては大した影響にはならないだろう。
 つまり、美琴だけが一方的に大打撃を受けたようなものだ。
「くっ……《エコ・アイニー》を召喚! マナを追加して、ドラゴンの《ハコオシディーディ》だったからもう一枚追加! ターン終了!」
 このターンに出せると思っていた《カチュア》の召喚は延期。仕方なく《エコ・アイニー》でマナ加速を継続する。
 幸いにも、このターンに2マナ増やせたため、次のターンには7マナ。次のターンこそ、《カチュア》を出せそうだった。
 恋の場には《カビパン男》がいるので、恋もクリーチャーを展開しづらくなっている。まだ、時間は稼げそうだ。
 そう思っていたが、
「……ん、これは……」
「今度はなに……!?」
 恋のターン。恋は計略ドローによって引いたカードを、不思議そうな目で見つめていた。
 良いカードなのか、悪いカードなのか。アドバンテージになるカードなのか、ディスアドバンテージになるかーどなのか。
 彼女はなにを引いたのか。今、公開される。
 次の瞬間、恋の場が吹き飛んだ。

「——《殺戮の羅刹デス・クルーザー》」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て8」 ( No.452 )
日時: 2016/08/31 06:20
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

殺戮の羅刹デス・クルーザー SR 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド 13000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の他のクリーチャーをすべて破壊する。
T・ブレイカー



「《デス・クルーザー》能力……私の他のクリーチャーをすべて破壊」
「これは……!」
 《殺戮の羅刹デス・クルーザー》。コスト7に対してパワー13000のTブレイカーと、コストパフォーマンス良好な大型デーモン・コマンドだが、この手の闇のクリーチャーには大抵、デメリットがある。
 《デス・クルーザー》は登場時、自分の他のクリーチャーをすべて破壊する。それは本来ならば大きなデメリットとなり、展開したところに計略デッキから捲れようものなら、攻める手が止まってしまうだろう。
 しかし、逆に。
 攻める手を止めるクリーチャーを排除するためにも使えるのだ。
「邪魔なバイキンパンは消えた……《マッカラン》と《コルナゴ》を召喚……マナ武装3で《エコ・アイニー》とバトル、破壊……」
 恋の展開を阻害していた《カビパン男》は、《デス・クルーザー》の能力に巻き込まれて破壊された。
 自分にデメリットを及ぼすクリーチャーを、本来ならデメリットになる能力で排除する。これもまた、計略デッキの特徴だった。
「《デス・クルーザー》のデメリットを逆利用して、自分の害になるシステムクリーチャーを排除かぁ……運が絡むけど、思った以上に面白いね、計略デッキ」
「でしょう? 要するにタイミングなのよ、デメリットっていうのは。カードは全部、使い方次第」
 もっとも、それでもどうしようもないカードも少なくないが。
 なんにせよ恋は《カビパン男》を取り払い、《マッカラン》と《コルナゴ》を展開。再び攻めの姿勢を見せる。
「《カビパン男》は散ったけど、まだなんとかなるわ。私のターン……! 計略ドローは……」
 このターン、美琴が計略デッキから引いたのは、《困惑の影トラブル・アルケミスト》。
 登場時に、マナのカードをすべて手札に戻すクリーチャーだ。
「このタイミングで……! マナのカードをすべて手札に……!」
「黒月さん、かなり計略デッキに振り回されてるね……」
「これはこれで、見てて面白いけどね」
 美琴はハンデス、ランデスを繰り返されて、ここまでまともに動けていない。
 計略デッキの影響を受けながらも、自分の勝ち筋を通そうとする恋のようにはいかなかった。
「マナチャージだけして、ターン終了……」
「私のターン、計略ドロー……《スカイ・ジェット》をジェネレード」
「ここでスピードアタッカー付与のクロスギア……流石に美琴の負けかしら」
 追い打ちをかけるようにジェネレートされた《スカイ・ジェット》。これで互いのプレイヤーのクリーチャーはすべてスピードアタッカーになるが、マナがない美琴はその恩恵をほとんど受けず、小型クリーチャーで殴りまくる恋は最大限の恩恵を受けられる。
「2マナで《斬斬人形コダマンマ》を召喚、シールドを一枚手札に……さらに2マナで《究極兵士ファルゲン》を召喚……」
 二体のクリーチャーを追加で並べる恋。これらのクリーチャーはすべて《スカイ・ジェット》でスピードアタッカーなので、これで場には四打点。美琴のシールドは三枚なので、とどめを刺すまでの打点が揃った。
「《コルナゴ》でシールドをブレイク……」
「トリガーは……ないわ」
「《ファルゲン》、《コダマンマ》でブレイク……」
「……S・トリガー《古龍遺跡エウル=ブッカ》、《マッカラン》をマナゾーンへ……」
 なんとかS・トリガーで凌ぐ美琴だが、状況は厳しい。
 このターンを凌いでも、次のターンには2マナ。2マナで残った三体のアタッカーを処理することなどできないし、仮になんとかできたとしても、《スカイ・ジェット》があり、美琴のシールドはゼロなのだ。恋はなにかしらクリーチャーを引けばまず勝てる。
 すべてはこの計略ドロー次第だが、多少シールドを増やそうと、場のクリーチャーを除去しようと、その場凌ぎにしかならない。このままではジリ貧だ。
 ほとんど敗北を感じながら、美琴は計略デッキに手をかける。
「計略ドロー……あ」
 すると、予想もしていないカードが引けた。
「どうしたの……?」
「……まだ、ワンチャンス……!」
 そう小さく呟いてから、美琴は計略ドローの結果を実行する。
 すべてのカードの使用を強制される計略デッキ。その影響力は凄まじく、絶えずアドバンテージ、ディスアドバンテージをふりまき、盤上やリソース、あらゆるゾーンに働きかけ、戦況を目まぐるしく移ろわせる。
 そう、この対戦は、移ろい続けているのだ。
 世界が、変わり続けている。
 その変化が、最大となった。

「——《蒼神龍チェンジ・ザ・ワールド》」



蒼神龍チェンジ・ザ・ワールド SR 水文明 (7)
クリーチャー:ポセイディア・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の手札の枚数を数えてからすべて捨てる。その後、自分のシールドをすべて手札に加える。(ただし、その「S・トリガー」能力は使えない) その後、こうして捨てた手札1枚につき、自分の山札の上から1枚ずつ、裏向きのままシールドに加える。
W・ブレイカー



 計略デッキから現れたのは、変化をもたらす青いドラゴン。《蒼神龍チェンジ・ザ・ワールド》。
 その登場時、目を見開く者もいた。
「このタイミングで《チェンジ・ザ・ワールド》か……!」
「なに? 《チェンジ・ザ・ワールド》ってなに?」
「えっとね、暁さん。《チェンジ・ザ・ワールド》は凄く複雑な能力を持ったクリーチャーなんだけど……」
「《チェンジ・ザ・ワールド》は、手札をすべて捨てて、シールドをすべて回収した後、捨てた手札の枚数分、シールドを復活できるクリーチャーだ。単純な枚数で言えば、手札の枚数がシールドに、シールドの枚数が手札になる」
「? どういうことっすか? よくわかんないすけど……」
「過程よりも結果だけを見た方が早いかしらね。この場合、重要なのは手札の枚数。その枚数が、そのままシールドの枚数に変換されるわ。今の美琴の手札は十三枚。つまり——」
 美琴は、ガバッと、豪快にデッキのカードを掴み取る。
 そしてそれらを、ずらりとシールドゾーンに並べた。

「——シールドを十三枚復活!」

 《チェンジ・ザ・ワールド》は、結果だけを見れば、手札とシールドを入れ替える能力。手札が多ければシールドが増え、シールドが多ければ手札が増える。
 たった一枚のカードでシールドが十三枚。加速したマナを《トラブル・アルケミスト》で回収させられ、手札を大量に抱えてしまった結果だ。
「だが、その代償として、あいつの手札はゼロだ。十三枚のシールドで、どこまで耐えられるか……」
「そもそも、デッキ枚数が危険だな。シールドが増えすぎて、残り四枚だ」
「デッキの残りが少ないから、マナも増やしにくいですね……」
 問題は、そこだ。
 《チェンジ・ザ・ワールド》は実際に手札とシールドを入れ替えているわけではなく、手札は捨てている。つまり、捨てた枚数が多いほど、デッキも多く消費してしまうのだ。
 いくらシールドが多くとも、マナがなく、シールドゼロの状態で出たので、手札も失った。シールドだけで残りデッキが四枚。とても耐えられるような状態ではない。
 ゆえにここから美琴が勝つには、やはり計略デッキに頼るしかないのだ。
「マナチャージだけして、ターン終了よ」
「私のターン……」
 即座にとどめが刺されなくなったので、美琴はその分、計略デッキに頼るチャンスが増えた。
 対して恋は、とどめを刺す機会を失ったが、
(……流石に殴らない方がいいかな……残り3ターン、計略デッキで変なことさえされなければ、LOで勝てるし……)
 恋の負け筋はこの場合、計略ドローによる不確定要素。しかしこれは妨害しようがない。そもそも、赤単速攻に相手への妨害ができるわけがない。
 計略デッキによる負け筋は常に付きまとうので、考慮しない。となればもう一つの負け筋は、増えた手札からの逆転。
 今の美琴は、手札とマナ、両方のリソースが枯渇しており、シールドがあるだけだ。放置していれば、それらのリソースを十分に得ることができず、デッキが尽きる。
 シールドを割って手札を増やしたり、変なトリガーを出されると困る。それなら、なにもせずに放置していたほうがいいはずだ。
「計略ドロー……」
 そう、思っていたのだが。
 恋は引いたカードを見て、ここまでで一番、困ったような呻き声を上げる。
「ん、ぅ……これ、嫌だ……」
 はらりと、恋の手から零れ落ちる。
 彼女の手を離れたカードが、バトルゾーンへと現れた。

「——《無双竜機ボルバルザーク》」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て9」 ( No.453 )
日時: 2016/08/31 18:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「またか!」
 ミシェルは思わず叫んでしまった。二連続で同じプレミアム殿堂カードが出て来たのだ。その気持ちは分からなくもない。
 しかしこれは、ミシェルの時と状況が違う。ミシェルの《ボルバルザーク》は勝利に近い一手だったが、
「あれ? これって……」
「……やばい」
 恋の《ボルバルザーク》は、敗北に近い一手だ。
「《無双竜機ボルバルザーク》の登場で、恋はもう一度自分のターンができるけど、次のターンで勝たなきゃ負けだから……」
「一転して、今度はれんちゃんが追い込まれたわね」
 美琴のシールドは十三枚。普通に殴っていては、1ターンや2ターンでは割り切れないほどのシールド枚数。そこで恋は、そのシールドを無視して、美琴の山札切れを狙っていた。
 しかし、恋は計略ドローで《無双竜機ボルバルザーク》を引いてしまったことで、残されたターンが、このターンを含めて2ターンしかなくなった。ゆっくり倒すつもりが、2ターンの間に美琴を倒す必要が出て来たわけだが、恋が美琴を倒すにはどうすればいいか。
 答えは簡単だ。殴り切るしかない。
 しかしここで問題が発生する。それは、美琴のシールド枚数だ。
「普通に考えて、十三枚のシールドを割り切ってとどめを刺すには、十四体のクリーチャーが必要ですよねー」
「でも、恋の場にクリーチャーは三体しかいないよ? 手札もないし……」
「このターンに召喚しても四体。エクストラターンを考えると、打点は純粋に二倍。このターンには八打点稼げるわね」
 だがそれでは全然足りない。
 追加ターンでもう一体クリーチャーを出したとしても、九打点。やはり足りていない。手札が枯渇していることも、恋に追い打ちをかけていた。さらに計略クリーチャーが攻撃できないというルールも、ここで響いてくる。
 よって恋も計略ドローに頼らざるを得なくなったわけだが、一枚のカードで即時四打点を生成できるものだろうか。それも、他のカードに働きかけるような効果で。
 敗北回避カードなどがあると仮定して、それらのカードを引くこと考え、殴らないという手もなくはないが、しかしあまりに非現実的だろう。そうなれば、
「……これはもう、全力で殴るしかない……《ブレイズ・クロー》を召喚……《コルナゴ》《コダマンマ》《ファルゲン》《ブレイズ・クロー》でシールドをブレイク……」
「トリガーはないわ」
「これだけ殴ってもまだシールド九枚、三分の一も削れてないわね……」
 しかし恋にとっては、《スカイ・ジェット》があることが救いだった。お陰で、どのようなクリーチャーでも、そのまますぐに打点となる。
「私の追加ターン、計略ドロー……」
 ターンを終了し、追加のターンを得る恋。
 この対戦最後となる計略ドロー。最後に彼女が引いたのは、
「……まだ、いけるかも……《偽りの名 スネーク》」



偽りの名(コードネーム) スネーク VR 水/闇/自然文明 (8)
クリーチャー:アンノウン 11000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーまたは自分の他のクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを1枚引き、その後、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置く。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の墓地のカードを裏向きにしてシャッフルし、山札の一番下に置く。
W・ブレイカー



「《スネーク》の登場時、《スネーク》の能力……マナと手札を一枚ずつ増やす……この時、私のマナが六枚以上になったから、《ファルゲン》はパワーが0になって破壊……」
 マナゾーンの枚数分、パワーが下がる《ファルゲン》。恋のマナが6マナに達したため、ここで破壊されてしまった。貴重な打点が一つ減ってしまったことになる。
 しかし、今の恋は考え方を変えていた。
 今は小さな打点を大事にする時ではない。打点が減ったなら、増やせばいい、と。
「《エグゼドライブ》をチャージ……1マナで《コルナゴ》召喚、《スネーク》の能力で手札とマナを追加……《コダマンマ》を召喚、《スネーク》の能力で手札とマナを増やして、シールドを回収……1マナで《螺神兵ボロック》を召喚……《スネーク》がいるから破壊されるけど、《スネーク》の能力で手札とマナを増やす……3マナで《襲撃者エグゼドライブ》召喚、《スネーク》の能力発動……」
 次々とカードを捲っていく恋。美琴は、それをただただ見ていることしかできない。
 なにより、《スネーク》と恋のデッキの噛み合い方が凄まじかった。
「これは凄いわね……赤単速攻で《スネーク》だなんて、計略デッキじゃないと見られないシナジーよ」
「あの、こいちゃんはなにを……?」
「《スネーク》は自分のクリーチャーが出るたびに、手札とマナを増やします。手札とマナはクリーチャーを展開するための根源的なリソース……クリーチャーを並べながらこれらを補充することで、手札もマナも途切れることなく、クリーチャーを召喚し続けられるんですよー」
「と言っても、1コスのクリーチャーばかりでもないだろうから、流石にどこかで尽きるがな。シールドを割り切るほどの打点を生成できるまで、クリーチャーが並べられるかどうか……」
 しかし実質的に、すべてのクリーチャーのコストは1減っているのだ。1コストのクリーチャーも0コストとなり、恋が手札を消費し始める瞬間のマナは7マナあった。場には《スカイ・ジェット》もある。このターン中に十打点以上を作ることは、非現実的でもなければ不可能でもない。
 その後、恋は《ボロック》で手札のみを増やし、《チョキパン》《ブレイズ・クロー》《コダマンマ》とクリーチャーを展開していく。
「遂に九打点揃ったぞ……!」
「なら、もうひと押しね。残りは2マナだから、大抵のクリーチャーは出せるはずよ」
 この時点で、恋は美琴のシールドを割り切るだけの打点を揃えた。後は、とどめを刺す一体を出すだけだ。
「……ダメ押し……《コダマンマ》を召喚、シールドを一枚手札に加える——」
 最後に《コダマンマ》を召喚し、シールドを回収するが、回収したシールドを、恋は即座に手放した。
「——代わりに、墓地へ」
「っ、まさか……」
「そのまさか……《デュアルショック・ドラゴン》を召喚……《スネーク》の能力で、手札とマナが二枚ずつ増える……シールドは焼却」
 これで恋の山札は残り一枚。まだ2マナ残っているが、《スネーク》の能力は強制なので、これ以上は展開できない。
 並べた打点数は十二打点。残り九枚のシールドを貫くには、十分な戦力だ。
「れんちゃんの場には《スカイ・ジェット》がジェネレートされてるから、全クリーチャーはスピードアタッカー……決まるわね」
 後は美琴のトリガー次第。しかしそのトリガーすらも見据えた恋の大群。
 美琴はこの大群の猛攻を、耐えきれるのか。
「《デュアルショック》でWブレイク……」
「トリガーはないわ……!」
「《エグゼドライブ》、《チョキパン》、《ブレイズ・クロー》……シールドをブレイク」
「こっちにもトリガーはなし……」
「……《コダマンマ》でブレイク」
「S・トリガー! 《エウル=ブッカ》で《コルナゴ》をマナゾーンへ!」
「でも、まだ足りない……《チョキパン》でブレイク……」
 これで残りシールドは一枚。
 しかし恋の場には、アタッカーが三体残っている。マナ武装が発動していない《エウル=ブッカ》では、とても止めきれない。
 だからこそ、そういう場面を想定したカードが、役に立つ。
 美琴は捲ったカードを見て、息を吐いた。
「……あぁ、計略デッキに振り回されて、今回は結局なにもできなかったけど……これだけは、自分の力だって言えるかしらね」
「《コダマンマ》でシールド——」
「ちょっと待って。S・トリガーよ」
 その一言で、恋の動きが一瞬、止まる。
「……なに? 《エウル=ブッカ》程度ならまだ問題な——」
「いいえ。これは《エウル=ブッカ》ではないし、そもそも霞さんの入れたカードじゃないわ。日向さんが速攻デッキなのは知ってるから、対策として入れたカードよ」
「……?」
 どうやら理解できていないようだ。確かに、口で言うより、実際に見せた方が早い。
 そう思い、美琴はそのS・トリガーを発動する。

「S・トリガー——《クレイジー・マンドレイカー》!」

「……なにそれ」
 しかし、恋は見ても理解していなかった。そもそも、このカード自体、知らないようだ。
 それもそうだろう。それほど強いカードでもなく、比較的マイナーなカードだ。皆の顔を見ても、どうやら知らない人も結構いる。かくゆう美琴も、ショップマスでこのカードを引くまで効果を知らなかった。
 だが今は、このカードがこの状況で、大きな効果をもたらしてくれる。
「《クレイジー・マンドレイカー》の効果! 次の私のターンの始めまで、パワー3000以下のクリーチャーは攻撃できないわ」
「……え」


クレイジー・マンドレイカー C 自然文明 (2)
呪文
S・トリガー
次の自分のターンのはじめまで、パワー3000以下のクリーチャーは攻撃できない。



 自然文明の防御手段の一つ、攻撃規制。
 規制される対象は自分も含まれるが、全体的なクリーチャーのパワーが低い赤単速攻になら、時間稼ぎには有用だろう。ゆえに美琴は、色も合うということで、恋対策として投入していた。
 恋の場にいるクリーチャーでパワー3000を超えるのは、《デュアルショック》と《コルナゴ》。しかし《デュアルショック》は行動済み。このターン動けるのは、もう《コルナゴ》しかいなかった。
「……《コルナゴ》でブレイク」
「トリガーはないわ」
「……もう、《コルナゴ》いない……攻撃、できない……?」
「そういうこと」
「……ターン終了」
 諦めて目を閉じる恋。大人しくターンを終了する。
 そして、この瞬間《無双竜機ボルバルザーク》の能力が発動する。
 追加ターンの終わりに、敗北する能力。
 即ち——勝者は、美琴だった。

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て10」 ( No.454 )
日時: 2016/09/01 06:14
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……ボルバルマスターズはもうおしまい……こんなの、誰も幸せにならない……」
「まあ、あそこであの引きは、最大級の爆弾だったよね……」
「残念だったわね、れんちゃん。でもあれが計略デッキよ」
 対戦が終わっても、恋はいまいち納得していない様子だった。《無双竜機ボルバルザーク》の特殊敗北によって負けた恋は、渋々美琴にデュ円を渡す。
「……そういえば沙弓。さっきのレギュレーション『計略デュエル:個人戦』ってあったけど、個人があるなら団体とかもあるの?」
「んー? さて、どうでしょうね」
「ちょっと」
「まあでも、計略デッキは色々と応用が利くから、また違う形で使うこともあるわよ」
「違う形、ねぇ……」
 どこか意味深な沙弓の発言だったが、それ以上はなにも言わなかった。ゆえに美琴もそれ以上は追及できず、そのままゲームに戻っていく。



「——じゃあ、暁から600万デュ円を徴収よ」
「うぅ、部長、容赦ないよ……もう2000万デュ円しかない……」
 その後のモノポリーでは、暁が順調に資産を削られていた。
 というより、沙弓が暁を暁を狙い撃ちしている。トップとして最下位を蹴落とす戦略は分からないでもないが、それにしても執拗だ。二位以下との差を広げるよりも優先させているのは、少々妙だった。
「ほら、次。暁の番よ」
「なんか今日の部長、いつもよりもイジワルだよ……えっと、5かぁ」
 ルーレットに示された数字の通り、マスを進める暁。
 そうして止まったのは、対戦マスだ。暁にとっては、あまり踏みたくないマス。このマスを踏むと、強制的に対戦が発生してしまう。
「対戦は嫌だなぁ……えっと、後方の一番近い人、一人と対戦?」
 暁の後ろで、最も近い人物は、
「美琴さん?」
「また私……? まあ、構わないけど」
 先ほどの恋との対戦もあり、美琴は連戦だ。そのためか、やや消極的に見える。
 しかし連戦の美琴以上に、暁の方が対戦意欲がなかった。
「はぁ、私のデッキ作った美琴さんかぁ……」
 資産が残り少ない暁は、あまり対戦をしたくなかった。対戦において勝てないというのも理由の一つだが、もう一つは美琴が相手という点だ。
 暁がまともに扱えない黒単死神は美琴が組んだデッキ。つまり、誰よりもそのデッキを理解している人物との対戦だ。
 既に情報戦で不利が付いているようなものだった。 はっきり言って、暁にはかなり苦しい対戦カードだ。
「まあでも、レギュレーション次第じゃない? さっきの計略デュエマも、私が不利だったのを、計略デッキで突破した感じだったし」
「そうですかねぇ……とりあえず引きますけど。えーっと、なにこれ?」
 とりあえずレギュレーションを決めるために、暁は紙を引く。引いた紙には、『DM Pauper』と書かれていた。
「これ、なんて読むんだろ。パウペラ?」
「それは『DM Pauper(パウパー)』、コモン限定構築戦のことよ」
「コモン限定構築戦?」
 デュエマにおいてコモンと言えば、レアリティだ。最も希少価値の低いとされる種類のカード。
 それ限定というのは、どういうことなのか。
「このレギュレーションは、ルールには干渉せず、構築段階にのみ制約が課されるわ。コモン限定構築、簡単に言うと、レアリティがコモンのカードしかデッキに入れられない構築よ」
「成程な。普通ならよりレアリティの高いカードの下位互換になるカードでも、活用可能ってわけだ」
「除去カードとかは、そういう傾向が顕著だよね。カードプール自体は広いけど、普段は使われないカードもたくさん見られそうで、面白そうだ」
 デュエル・マスターズは、数あるTCG(トレーディングカードゲーム)の中でも、かなり息が長く、長寿の部類だ。
 TCGは商業の側面もあり、その性質上、長く続けば続くほど、カード一枚のカードパワーが上がっていく。基本的に、過去のエキスパンションに収録されているカードよりも、現在のエキスパンションに収録されているカードの方が、総合的にカードパワーが高いのだ。
 そうなると、どうなるのか。結果は様々な形があるが、その一つが、完全上位互換の登場だ。
 たとえば、《地獄スクラッパー》という火の呪文がある。コスト7のS・トリガーで、パワー5000以下になるように割り振り火力を放つ呪文だ。かつては火の主要トリガーとして使われたが、まったく同じ効果、文明で、コスト6の《スーパー炎獄スクラッパー》という呪文が、後に登場した。
 コストの微妙な違いが生かされる場面も稀に存在するが、基本的に同じ効果のカードなら、コストが低い方が有用である。《地獄スクラッパー》は《スーパー炎獄スクラッパー》が出たことで、その存在意義をほぼ失ったのだ。この関係が、《地獄スクラッパー》は《スーパー炎獄スクラッパー》の完全下位互換であり、《スーパー炎獄スクラッパー》は《地獄スクラッパー》の完全上位互換ということになる。
 要するに、カードパワーの上昇によって、過去のカードが新しいカードに淘汰されるのだ。これは、TCGの性質として、仕方ないことではあるのだが。
 しかし『DM Pauper』は、そういった過去の淘汰されたカードにも使う意義が出てくる。
 また、いわゆるエキスパンションのハズレ枠のカード、より汎用性が高く使いやすいカードによって押し潰された、低レアリティのカードなども、価値を持つことになるだろう。
「コモンって、この下にあるのが丸い奴でいいんだよね?」
「そうよ。まあ分からなくなったらこのPCを使ってちょうだい。データは全部入ってるから」
「準備いいな……」
 バッグの中からノートパソコンも取り出す沙弓。どれだけこのモノポリーのために用意しているのだろうか。
 さて、この『DM Pauper』。コモンしかデッキに入らないというレギュレーションの性質上、デッキの内容をかなり弄る必要が出て来る。そのため、暁と美琴はそれぞれ、一巡するまでの短い時間で、デッキを組み直していた。
(初動のカードは色々揃ってるけど……道中で買い集めたカードじゃ、いまいちパンチが足りないわね……)
 美琴はデッキの方向性に悩んでいた。
 コモンのカードしかないということは、一枚のカードパワーはそれほど高くないということだ。一撃で勝負を決するカードがないということは、カチュアシュートのフィニッシャーが軒並み使えないということ。そもそも《カチュア》そのものが使えない。
 マナ加速カードはそれなりにあるが、それだけで勝てるはずもない。かといって、今のカード資産では、どうしたってまともなデッキは作れない。
 デッキのコンセプトがまるで決まらなかった。となると、相手のデッキに対してメタを張るしかない。
(空城さんのデッキは、私が組んだ安価死神。レアリティの低いカードは多い。《デスプルーフ》や《ボーン・アミーゴ》あたりは入ってくるだろうから、ビートダウンで来るかも……なら、受けられるカードは入れておいた方がいいわね)
 低コストの死神を詰め込んだなら、ビートダウンの可能性が高い。本来なら、《ベル・ヘル・デ・バラン》でクリーチャーコントロールしながら、《ギガアニマ》でアンタップキラー付与の弾丸を装填する動きが基本なのだが、暁はそれを理解しておらず、今までの対戦でそのような動きはまったく見せていなかった。恐らく、コントロールが苦手なのだろう。
 しかし《ギガアニマ》のレアリティはレア。今回のレギュレーションでは使えない。他にも《ベルヘル・デ・ディオス》や《死神盗掘男》、《デスライオス》、《死神城》も使えないはずだ。コントロール向きのカードが軒並み使えないため、残るのは殴れる低コスト死神のみ。それらを投入するのであれば、必然的にビートダウンになるだろう。
(ビートダウンなら、《ザマル》や《デスマーチ》が使えないのは嬉しいわね。構築が縛られるけど、ハンデスしながら殴る《ザマル》は強力だし、殴り合いになりそうだから《デスマーチ》も厄介だからね)
 とりあえず美琴は、暁がビートダウンで来ると読み、それに対抗できるようデッキを組む。
「あ、ショップマスだ。どうしよっかな……」
 その間、暁は一巡する直前で、ショップマスに止まっていた。
 残り資産の少ない暁は、あまり無理ができない。かといって、今のデッキのままでいいものだろうか。改造する必要があるのではないか。
 しばらく悩んだ末、暁は口を開いた。
「……1000万デュ円払うよ」
「そんなに払っていいの? 一気に破産に近づくわよ」
「いいよ。ビビってゲームで負けるより、デュエマで全力尽くして負けるなら、そっちの方がいい」
 そう言って1000万デュ円を銀行員と化した一騎に渡し、代わりに1000万デュ円分のカード、百枚を購入。
 それらのカードにサッと目を通すと、その中から何枚か、カードを抜き取った。
「……うん。じゃあ、これはこうかな……あ、これもよさそう」
 美琴の手番が終わるまでに、手に入れたカードでデッキを弄る暁。
 そして、美琴のターンが終わった。対戦の時だ。
「……よしっ、じゃあ美琴さん。私は準備完了しましたよ」
「そう。じゃあ、始めましょうか」
 美琴の方は既にデッキが完成している。
 敗北を重ねる暁と、連戦となる美琴の、コモン限定構築戦、対戦開始だ。


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