二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

128話「円筒の龍」 ( No.394 )
日時: 2016/05/22 14:06
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 龍程式を解き明かし、円筒シリンダーの中で生まれた革命軍の結晶龍、その名は《革命龍程式 シリンダ》。
 後にノミリンクゥアの最高傑作の一つとして数えられることとなる、革命の力を持つクリスタル・コマンド・ドラゴンだ。
「《シリンダ》の能力発動。まずは、私の水のクリーチャーの数だけカードを引かせてもらおうか。二体いるから、二枚ドローだ」
 ミリンの場には《シリンダ》と《クロック》、二体の水のクリーチャーがいる。《シリンダ》は仲間の数に呼応して、知識を増やしていく。
 曇った結晶の身体を鈍く光らせ、《シリンダ》は増大した知識をミリンへと分け与える。
「ふむ、いい引きだな」
「革命軍のクリーチャー……!」
 奇々姫は、ミリンの呼び出したクリーチャーに戦慄を覚えていた。
 感覚で伝わってくる、逆転の気配。いつだって不確定な賭博においては、大番狂わせが起こりうる。ある時は奇跡的な豪運で、ある時は神がかり的な技能で、敗北寸前の窮地を切り抜けるギャンブラーは存在する。
 それと同じものを、今のミリン——そして《革命龍程式シリンダ》から感じる。
「で、でも、そんな上手い話がそう何度もあるわけではないですからね! どのみち、あなたはこのターンには勝てません! 次のわたしのターンで、ゲームセットですよ! お金を払っていただけるのなら、話は別ですが!」
「それをさせないのが、革命なのさ。金など払うまでもない。見たまえ。これが、これこそが、君たちの侵略に対抗すべく、私が研究を重ねて生み出した、革命の力だ!」
 突如、《シリンダ》の動きが止まる。
 まだ《シリンダ》は完全ではない。すべてのデータがインストールされ切っていない状態なのだ。
 あと少し。もう目前。残り僅かな時を経ることで、《シリンダ》は勘全体となる。
 ミリンは、その最後の仕上げを為す。
「プログラム発信。浸透率、10%……50%……80%……100%! 全領域凍結!」
 すべてのデータのインストールが完了した。
 曇った結晶の身体は透き通り、光を反射するほどに輝きを放つ。
 それが、反旗を翻す合図だ。
「革命発動!」



革命龍程式 シリンダ VR 水文明 (5)
進化クリーチャー:クリスタル・コマンド・ドラゴン/革命軍 6000
進化−自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、バトルゾーンにある自分の水のクリーチャー1体につき、カードを1枚引いてもよい。
革命2—このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分のシールドが2つ以下なら、次の自分のターンのはじめまで、相手のクリーチャーはすべて、攻撃もブロックもできない。
W・ブレイカー



 刹那、《シリンダ》が咆哮する。
 それと同時に、《シリンダ》の両腕から放たれる光線が不規則に折れ曲がり、旋回し、奇々姫のクリーチャーを取り囲む。
 光線を浴びたクリーチャーはみな、一様にして動かなくなってしまった。まるで、身体が凍てついてしまったかのように。
 いや、実際に凍っている。
 一瞬にして奇々姫のクリーチャーたちは、《シリンダ》の力で凍結してしまったのだ。
「《革命龍程式 シリンダ》の革命2によって、君のクリーチャーはすべて凍結だ。もう動くことはできない」
「え、えぇ!? う、動けないって、それって……」
「攻撃、及びブロックができないということだ。まあ、1ターンしか凍結効果はもたないが、1ターンもあれば十分だ」
 革命の合図は、反旗を翻す報せ。
 今のこの瞬間から、革命軍は侵略者への反撃を開始する。
「《革命龍程式 シリンダ》で、シールドをWブレイク!」
 《シリンダ》が空を翔け、そのまま急降下。奇々姫のシールドを二枚、打ち砕く。
「続けて《クロック》でシールドをブレイクだ!」
 さらに《クロック》も連撃を叩き込み、一気に三枚のシールドを割る。これで、奇々姫のシールドはミリンと同じ、残り二枚だ。
 しかしその砕かれたシールドが、光の束となって収束した。
「! き、きましたっ! S・トリガー《機術士 ゾローメ》!」
 シールドから、侵略者に侵されていないマジック・コマンドのギャンブラー、《ゾローメ》が現れる。
「《ゾローメ》の能力は意味ないですけど、一応《シリンダ》を選んどきますね! なんでもいいですけど、とにかく! これで次のターン、まだわたしの勝ちは見えますね!」
 このターンのクリーチャーの攻撃はすべて停止されている。だが《シリンダ》が出た瞬間にはバトルゾーンにはおらず、S・トリガーで出た《ゾローメ》だけは、その縛りから外れている。
「《ギャンブル》や《ダイスダイス》のおかげで手札はたくさん、進化クリーチャーもたくさんいます! 単調に侵略するだけが【鳳】ではありませんっ! 宣言通り、このターンがゲームセットです!」
 再び宣言し直して、奇々姫は手札のクリーチャーを並べていく。
 《シリンダ》の能力は、攻撃的な奇々姫には効果的ではあったが、しかしその効果適用範囲は既に場にいるクリーチャーのみ。《シリンダ》が出た時点でバトルゾーンにいるクリーチャーしか、凍結範囲は及ばない。
 つまり、S・トリガーで出た《ゾローメ》もそうだが、奇々姫がこのターンに召喚するクリーチャーも、《シリンダ》の能力の影響を受けないのだ。
「まずは《アクア・ベララー》と《マリン・フラワー》を召喚! 《アクア・ベララー》の能力で、あなたの山札の一番上を見て……山札下へ。さらに《アクア・ベララー》を進化! 《奇天烈 コイコイ》!」
「アタッカー二体か……まだ打点は足りていないが」
「足りない打点は、侵略すれば大体解決します! 《ゾローメ》で攻撃する時、侵略発動!」
 奇々姫は《ギャンブル》で唱えたミリンの《ストリーミング・シェイパー》に、《ギャンブル》の能力、加えて先ほどのシールドブレイクで手に入った潤沢な手札がある。
 大量の手札によって、手札消費の激しい侵略には困らない奇々姫は、最後の一押しを決める。
 ミリンのシールドは残り二枚。奇々姫の攻撃できるクリーチャーは二体。まだ一打点だけ足りていないが、その足りない一打点を、侵略が叩き込む。
 滝のようにコインが降り注ぎ、《ゾローメ》はその中で、己の姿を変える。否——侵略される。

「オールイン——《超奇天烈 ベガスダラー》!」

 《ゾローメ》が侵略し、二体目の《ベガスダラー》が姿を現す。
 同時に《アクア・ベララー》の能力も発動し、奇々姫はミリンの山札の上を見るが、それは山札の下へ。
「ではでは、ラストゲームです! 種も仕掛けもございません! ルーレット・スタート!」
 トランクを蹴り開けて、回転盤ホイールが戦場にて回る。《ベガスダラー》は、そこに一球を投げ入れた。カンカン、とボールが跳ねる。
 直前に《アクア・ベララー》でトップを確認してはいるものの、まだ固定されていない。確率的には奇々姫が自身の勝率を上げるようにはしているが、確定ではない。
 ミリンは静かに山札の一番上を捲った。
 捲られたのは、《一撃奪取 マイパッド》。
 コスト2のカードだった。
「むー、ここでの賭けには負けましたが……しかーし! これで終わりですよ! カードを二枚引いて、《ベガスダラー》で最後のシールドをWブレイク!」
 《ベガスダラー》がミリンの最後のシールドをすべて粉砕する。
 もしここでS・トリガーを引けば、ミリンはこのターンを耐え凌げるだろう。
 しかし、
「……トリガーはない」
 ニタァ、と奇々姫は微笑む。
「こいこい! 攻撃続行です!」
 いつも都合よくトリガーを引けるわけではない。
 ミリンは最後の二枚のシールドから、トリガーを引くことができなかった。
 シールドのなくなったミリンに、《コイコイ》がとどめの一撃を繰り出す。

「《奇天烈 コイコイ》で、ダイレクトアタック——」

128話「円筒の龍」 ( No.395 )
日時: 2016/05/22 19:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「——革命0トリガー発動!」

 《コイコイ》の攻撃が届く寸前。
 ミリンは手札から、一枚のカードを晒した。
「呪文——《革命の水瓶》」



革命の水瓶 R 水文明 (2)
呪文
革命0トリガー—クリーチャーが自分を攻撃する時、自分のシールドがひとつもなければ、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
自分の山札の上から1枚目を表向きにする。それが水のクリーチャーなら、クリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。
この呪文を唱えた後、墓地に置くかわりに山札に加えてシャッフルする。



「え? な、なんですか、それは……?」
 唐突に放たれる呪文に、戸惑う奇々姫。
 混乱する彼女を待たずして、巨大な水瓶がミリンの前に現れた。
「私の仲間たちが繋いでくれた、とっておきの一枚さ。こいつは山札の一番上を捲り、それが水のクリーチャーであれば、相手クリーチャーを一体手札に戻す」
 とどめを刺される寸前で仕様することができる、革命0トリガー。
 山札の一番上次第では《コイコイ》の一撃を防ぐことが可能。つまり、このターンを凌ぐ可能性ができてきたということだ。
 今まで散々、奇々姫のギャンブルで引っ掻き回されてきた山札。その一番上を、ミリンは捲る。
 捲られたのは、《K・マノーミ》。
 水のクリーチャーだ。
「ビンゴだ。《革命の水瓶》の効果で、《コイコイ》を手札に戻してもらおうか」
「う、うぅー……!」
 山札で眠っていた《K・マノーミ》の、敵を押し流そうとする意志を汲み取り、その意思の水を瓶の中に満たす。
 そして、瓶が倒れる。
 瓶の中から流れる水は激流となり、《コイコイ》を奇々姫の手札に戻した。これでミリンはこのターンを凌いだ。
「そういえばさっき、次のターンでゲームセットと言ってなかったかね?」
「う……お、覚えてませんね! ターン終了です!」
 奇々姫はターンを終えるが、しかし勝ちを諦めてはいない。
 まだ、勝てる可能性は残っている。
「念のためにブロッカーも出しましたし、このターンは凌げるはずです……」
「させんよ。《マイパッド》を召喚し、進化! 《大船長 オクトパスカル》!」
「う、進化クリーチャーですか……!」
 《シリンダ》《クロック》《オクトパスカル》。W・ブレイカーが二体と、シングルブレイカーが一体。ブロッカーがいようと関係なく、このターンにとどめを刺すだけの打点が揃った。
「これでも君は耐えられるかな? 行きたまえ、《オクトパスカル》でWブレイク! 《オクトパスカル》はブロックされない!」
「ト、トリガーは……!?」
 《オクトパスカル》の攻撃が、奇々姫のシールドを砕く。
 ここでトリガーを引かなければ、奇々姫に活路はないが、しかし盾は収束しない。光もなにも見せず、手札に収まった。
「《クロック》でとどめだ!」
「あ、う………《マリン・フラワー》でブロックです!」
 無駄なブロックだ。その攻撃を防いだところで、最後の一撃を防ぐことはできない。
 無防備を晒す幼い賭博者に、革命の結晶龍が迫る。
 これで、このゲームは終幕だ。

「《革命龍程式 シリンダ》で、ダイレクトアタック——!」



 神話空間が閉じる。
 ゲームは終わったのだ。
 勝者はノミリンクゥア。
 ミリンは白衣を翻して、奇々姫を見ることもなくスタスタと歩いていく。
「はぁ……負けちゃいましたか。ま、仕方ないですね。ギャンブルやってればこーゆーこともあります!」
 一方、敗者である奇々姫は、少々憂いげではあったが、負けたにしては存外あっさりしたものであった。
 これでこの研究所が爆破されることだけは防げたが、しかし相手は【鳳】だ。このあっさりした反応といい、もしかしたら事前の約束も反故にするのではないかと、浬は身構えていたが、
「ご安心ください! わたしから提案した賭けですし、ゲームのルールは守りますよ。ルールのないゲームなんて楽しくないですし、価値もありません。ルールを破るなんてもってのほかです!」
 浬の心中を読んだかのように、奇々姫はそんなことを言う。
 その言葉もどこまで信用できるのかと思うが、奇々姫はトランクを立て、その上に跨った。
「それではみなさん! 本日のゲームはこれにて終了です! お疲れさまでした! また会うときまで!」
 そうして奇々姫は、何事もなかったかのように去ってしまった。
 長い長い出来事のようだったが、終わってみれば呆気ない。さっぱりしているとは言い難いが、変な後味もなく終わったのだった。
「できれば、もう二度と会いたくないね」
 ビーカーの中に透明な液体を満たしたミリンが戻ってきた。一見して水に見えるそれを、ミリンは床にぶちまける。まだ散らばったままのサイコロ型の爆弾を濡らすためだろう。
「地上のモニターを見る限りでは、本当に撤退するようだね。それを望んでいる私がこう言うのもなんだが、一隊長としては良い判断とは言えないな。そのあたり、奇天烈隊は甘いというか、おかしいというか。思考回路が奇怪な連中だ」
 出て言ってからも奇々姫らに毒づくミリン。彼女も彼女で、案外毒舌家なのかもしれない。
「さて、浬君」
「……なんだ」
「私はこの研究所を出ようと思うのだが、君はどうかね? 一緒に来るかい?」
 唐突な誘いだった。
 しかし、彼女の選択は理解できる。いくら奇々姫を追い払ったとはいえ、この場所は【鳳】既に知られてしまった。賭けの内容に、この場所を口外しない、などというようなことは含まれていない。
 この秘密基地の場所が割れてしまえば、ここに居座るのは得策ではないのは確かだ。
「私は仲間を探さなければいけないからね。ここでしかできないこと——革命の力の開発は、君の協力で達成できた。私としては、もうここに残る意味はないのだ」
 だから、ここから出ていく。
「君のことはずっと見ていたが、君にも仲間がいるんだろう? その仲間を探すならば、私も手を貸そう」
「……いいのか?」
「構わんよ。君は私の研究に協力してくれた恩人であり、研究者仲間とも言える。いや、いっそ同志と言ってしまってもいいかもしれないな」
 流石にそこまで言われると、買いかぶりすぎというか、否定しないところではあるが、ミリンとしては浬と共に行動することを歓迎しているようだった。
 打算的に考えれば、浬としてもミリンと行動することには意味がある。彼女の知識と経験、技能、そして力があれば、心強い。
 仲間を探すと言っても、まるでアテはないのだから、それならばミリンの有する科学力に縋りたい、というのもある。
「…………」
 少しだけ感情的に考えるなら、歓迎されているのであれば、拒否するのは悪いと、思わないでもない。
 なんにせよ断る理由はなかった。
「分かった。よろしく頼む」
「うむ。こちらこそだ」
 話はまとまった。
 二人はすぐに準備を済ませ、共に仲間を探すために、研究所——そしてこの広大な砂漠から出ていく。



「——む、浬君。生体反応だ。三つある。二つはクリーチャー、もう一つは君とよく似た反応だな」
「俺と? ということは……」
「あぁ、十中八九、人間だろう。なにやら急にレーダーに引っかかって急停止したが……どうする?」
「どうするもこうするも、行くしかないだろう。もし人間なら、クリーチャーのうち一体は語り手のはずだ」
「問題は、もう一体のクリーチャーですね。敵——【鳳】の侵略者に捕まった、とかだったら……」
「その時は救出するしかないな。私も手を貸すよ」
 そう言って、ミリンはアクセルを強く踏む。
 一体、誰がそこにいるのか。沙弓は捕縛なんてされそうにないが、柚ならありえそうだ、などと部員たちの顔を思い浮かべる浬。
「……しかし、この生体反応が本当に人間のものなのかは分からないな。君に似ているとはいえ、決定的に違うところもある」
「今ここでそれを言うのかよ……」
「だがクリーチャー反応のうち一つは、恐らく【フィストブロウ】のものだ。波動を解析するうちに、その可能性が高まった」
「俺とあんたみたいな関係の連中が、他にもいるかもしれないってことか」
「その可能性は十分あるね」
 走り続けていると、人影が見えてくる。人影は二つだ。
 一つは、長い白銀の髪の女性。
 そしてもう一つは——
 アクセルを弱めて徐行しながら、二人の前で止まる。
 ミリンは運転席から首を伸ばした。
「レーダーを見てたら【フィストブロウ】らしき反応に、他のクリーチャーの反応、あとはよく分からない生体反応もあって、一体なんなのかと少しばかり混乱したけれど、君だったか、ルミス」
「ミリンさん……っ!?」
 ミリンの顔を見るなり、吃驚の表情を見せる、ルミスと呼ばれた女性。
 どうやら、一人はミリンの仲間であったようだ。
 浬は、もう一人の人間と思しき生体反応——遊戯部の部員の誰がいるのかと、期待のようなものをしていたのだが、その期待は裏切られた。
 いや、正確には、探していた面々には含まれるのだが、個人的事情と感情によってどうにも納得できない。
 浬が思った言葉をそのまま吐き出すのとほぼ同時に、向こうから声がかかった。
「……メガネ」
「お前か……」

 こうして、霧島浬とノミリンクゥアは、日向恋とクルミスリィトの二人と、合流することができたのであった。

129話「奇襲」 ( No.396 )
日時: 2016/05/22 23:35
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 暗い世界。
 気持ち悪いくらいに生暖かくて、息苦しい。
 閉ざされた空間には、誰もいない。自分一人しかいない。
 いや違う。自分一人だけになったのだ。
 吐き気を催すような異臭が鼻を突く。体も動かせない。
 逃げられない場所。
 いつまでもここに幽閉され、光からも隔絶されてしまった。
 意志も尊厳も関係なく、精神も主張も無意味であり、肉体も生命も蹂躙される、壊れた世界。
 壊された世界。 
「——み——ん!」
 二度と光を浴びないと思っていた。
 なのに、一筋の光が射している。
 なぜだろうと、手を伸ばした——
「——沙弓ちゃん!」
「……一騎、君……?」
 その時、沙弓は覚醒した。
「よかった、目が覚めたんだね」
「……ここは?」
「分からないけど、テインたちが言うには、自然文明の領地らしいよ」
「自然文明……」
 意識が戻ったばかりで、まだ朦朧としかけている。
 息を吸い込む。少し冷ややかだが、澄んだ空気が鼻孔を通り抜け、肺に入ってくる。
 手がなにかを掴んだ。草だ。恐らくは雑草だろうが、それが地面いっぱいに広がっている。
 視線をさまよわせる。見渡す限り、木だ。ぐるりと首を回しても、高い樹木しか見えない。
 木々の切れ間からは木漏れ日が差し込み、不完全な暗黒を演出している。あまりに不完全なので、不思議と安心感があった。
「大丈夫? 怪我とかしてない?」
「……大丈夫よ」
 少々痛む頭を押さえて、沙弓は上体を起こした。見れば、すぐそこにはドライゼとテインもいる。
「えーっと、状況を整理させてくれるかしら」
「うん、どうぞ」
「……なにがどうなってるの?」
 少し考えるも、整理するほどの情報もなく、沙弓は率直に思ったことを口にした。
 しかしそれで、明確な答えが返ってくることはない。一騎も困り気味に口を開く。
「ごめん、俺にもよく分からないんだ。氷麗さんを仲介して転送してもらって、気づいたらこうなってたから」
「転送中に、妙な衝撃があったがな」
「うん。それも外部からね」
 ドライゼとテインが言葉を添える。
 転送中に外部からの衝撃があった。言われてみれば、そんな気もする。
「もしそれが事実なら、転送中に攻撃を受けた、ってこと?」
「可能性としては十分にあり得るだろうな」
「でも、転送っていつも一瞬だよね? なのに、その途中に攻撃なんてできるの?」
「僕らもその辺は詳しくないけど、たぶんできるよ。転送の仕組みをちゃんと理解している人なら、たぶんね」
「本当かしら……?」
 疑ってみるが、しかし今ここで疑ったところで、証明する手段がない。
 転送中の事故という可能性もある。その場合はリュンを問い詰める必要があるだけだ。
 何者かによる攻撃を受けたのであれば、その何者かを見つけなければならない。
 しかしそれよりも先に、すべきことがある。
「とりあえず、皆を探さないといけないわね。特に暁と柚ちゃんが心配だわ」
「俺も恋が心配だよ。あいつを一人にしてたら、どこで行き倒れるか分かったものじゃないし……」
「れんちゃんはこっちの世界にいた時間も長いし、それなりになんとかしそうな気もするけど」
「でも、掃除洗濯炊事、全部できないから、心配だよ」
「掃除と洗濯はさておき、食料の確保は重要ね。そういう意味では、暁はなんとかやってそうな気がしたわ」
「食料か……俺たちもそれについては考えないとね」
「私は料理できないし、そこは一騎君に任せるわ。期待してるから」
「いや、ここじゃ料理できる環境なんてないし、俺も最大限のことはするつもりだけど、沙弓ちゃんも手伝ってよ……」
 苦笑いを浮かべる一騎。沙弓も合わせるように軽く微笑んだ。
 どこかも分からない場所に飛ばされ、仲間とも散り散りになり、行き先は全く見えないほどに悲惨な状況に遭ったが、しかし話すうちに、だんだんと二人はいつもの調子を取り戻していた。
 その様子を見ていたドライゼは、訝しげに顔をしかめる。
「……おいテイン。なんかあの二人、前よりも妙に親しくなってなか? 前は名前で呼び合ったりなんかしてなかったぞ。なぜだ」
「僕だって知らないよ、ドライゼ。あ、でも一騎が前に、合宿で仲良くなった、って言ってた気がする」
「合宿だぁ? んだそれは」
「遠征、みたいなものかな……? 志を同じくする仲間たちと遠方に赴いて、目的を達することだね。ずっと集団行動で、寝食も共にするから、確かに仲間同士の信頼は生まれる。僕も水領遠征の時に、モルトやマッカランと仲良くなったなぁ、懐かしいや」
「寝食を共に、って……おい、まさか変なことしてねーだろうな……?」
「沙弓についてはよく分からないけど、一騎に限ってそれはないんじゃないかな?」
「はー……そうかよ」
 言いながら流れるような自然な動きで、テインに方へと体を倒す。その動きに、テインは少しだけ眉根を寄せた。
 ドライゼが、テインに囁く。
(テイン、気づいてるか?)
(うん、さっきね。どうする? 叩く?)
(あぁ。まずは沙弓たちの安全を確保。それから炙り出すぞ。俺が先行する)
(了解だよ)
 耳打ち会議を終え、二人はそれぞれの持ち主の元へと行く。
「それで、どうするんだい?」
「皆を探す。とにかく、今するべきことはそれだよね」
「食料とか水については……後で考えましょう。あなたたちなら、この世界の食べ物くらい分かるでしょう?」
「まあな。この世界についてはお前らよりも断然詳しい。この世界には脅威が多いからな、それにも注意しないといけない」
「脅威? クリーチャーに襲われるとでも言うの?」
「そうだ。連中はいつどこから、俺たちを狙ってるか分からないからな。たとえば——」
 と、その時。
 ドライゼはホルスターから素早く拳銃を抜き、テインも刀の柄を握る。
 そして、鋭い眼光を向けて、銃を向けた。
「——その茂みの中とかな!」
 トリガーを引き、銃口から亜音速の弾丸が飛ぶ。弾は茂みの中に吸い込まれていくが、その直前、黒い影が茂みから飛び出した。
 その姿を見て、沙弓たちは息を飲む。
 大男だ。背が高く、体格もがっしりしているが、筋骨隆々というわけではない。絞られているような、引き締まった肉体だ。
 しかしこの男、体が大きい割に、妙に存在感がない。こうして対面しているにも関わらず、うっかり見逃してしまいそうなほど、気配が希薄だ。
「軍人……?」
 ぽつりと一騎が呟いた。
 男は軍服のような服装をしていた。濃緑色を基調とした迷彩柄。上手く森に溶け込めそうな色合いで、視覚的にも存在を見失ってしまいそうだった。
 軍人のような男に対して、ドライゼが一言問うた。
「誰だお前?」
「……あなたたちに名乗る名はないであります」
 低く重い声が、森の中に響いて消える。
「【フィストブロウ】の残党かと思ったでありますが、そうではない様子……しかしその可能性も捨てきれない。いずれにせよ、ここで処理するに越したことはないと判断するでありますよ」
 刹那。
 男が動いた。
「っ! テイン!」
「分かってる!」
 テインがドライゼの脇を通り過ぎ、軍刀を抜く。その切っ先は、男へと向いていた。
 刃が男に迫るも、男はそれを受け止め、火花を散らしながら弾く。男の右手には、無骨大振りなサバイバルナイフが鈍く光っていた。
 弾かれてもすぐに立て直し、二の太刀、三の太刀と刀を振るうが、すべていなされる。
「くっ、この……!」
「成程。腕前は良いでありますな。身体の動きも洗練されている……しかし」
 何度目になるのか、テインの斬撃を受け止めると、男は今まで一切動かさなかった左手を振るう。
 すると、テインの手から、軍刀が払い落とされた。
「あ……」
「流石に体格差がありすぎるのでありますよ」
 ゴスッ、と鈍い音が聞こえる。
 男の拳が、テインの腹に叩き込まれた。テインはバタリと地に伏せる。
「テイン!」
「ちっ……クソがっ!」
 FF(フレンドリーファイア)を避けて撃たなかった弾丸を、ドライゼは二丁の拳銃から放つ。
 フルオートの全射で、あらん限りの弾を撃ち尽くした銃撃だ。
 しかし、
「……なんでありますか? この鉛弾は」
「んな……!?」
 確かに銃弾は男に命中した。それも、少なくない数。
 しかし弾は貫通せず、パラパラと地に落ちる。男も、少しのけぞる程度で、まるで堪えていない。
「防弾繊維か……!」
「戦う者としては当然の装備でありますよ。それに、銃というものは、こうやって使うものであります!」
 言って、男もどこからか銃を抜く。ドライゼのものよりもずと大きく、これまたナイフと同じように無骨なハンドガンだ。
 拳銃をドライゼに向け、撃鉄を落とし、トリガーを引く。真っ直ぐ、弾丸は飛んで行った。
 ——ドライゼの脳天目掛けて。
「うぉ……っ!?」
「この距離で避けたでありますか。そちらの技能はまずまずでありますね」
 だが、その隙に男の接近を許してしまった。
 もはや肉弾戦の距離だ。コルルならともかく、この距離ではドライゼが銃を構える暇などなく、テインと同じく男の拳によって叩きのめされる。
 地に伏した二体の語り手を流し目で見て、男はぼそりと呟いた。
「……処理完了」

129話「奇襲」 ( No.397 )
日時: 2016/05/24 11:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「テイン……!」
「ドライゼ……!」
 地に伏した二体の語り手を見つめる二人。その二人の前には、軍服の男。
「さて、次はあなたたちでありますか」
「っ!」
「沙弓ちゃん!」
 一騎が、沙弓の盾になるようにして、前に出る。
「逃げて! ここは俺がなんとかするから」
「で、でも、一騎君……」
「その見るからに貧弱な肉体で、自分を相手できると? 力量の判断も戦士には重要な資質でありますよ」
 諭すように語りかけてくる男。しかしその手には、テインの刀を捌いた大振りのナイフが握られている。
 勿論、一騎だって分かっている。力の弱い姿とは言え、テインとドライゼを下した男だ。武道の経験が授業でやった程度の一騎では、足止めすらもできないだろう。
 それでも男として、年長者として、なにより友人として、仲間として——彼女の盾にならないわけにはいかなかった。
「一騎……」
「テイン……!」
 その時、テインが起き上がった。
 ダメージは残っているようだが、彼はまだ立てる。
「ダメだよ、一騎。君は僕らの指揮官なんだから……前線に出るのは僕らだ」
 そう言って、テインはカードの姿になって、一騎の手元まで飛ぶ。
「僕とドライゼじゃ無理だったけど、君とならあいつを倒せるかもしれない。君の指揮があれば、僕はより力を引き出せる。だから頼むよ、一騎」
「……分かった。任せてくれ」
 そして、一騎と男の周囲が、歪んでいく。
「一騎君……」
「沙弓ちゃん、君は先に逃げて。後から追いかけるから」
 沙弓の返事は待たずにそう言い残して、一騎は神話空間に飲み込まれていった。



「少しばかり様子を見ていたでありますが、この空間は……」
「こうなれば、こっちのものだよ。僕ら焦土隊の兵士たちに、一騎の指揮が合わされば、負ける気はしない」
「そうでありますか……ならば、比べてみるでありますか?」
「なんだって?」
 テインが聞き返すと、男は初めて見せる笑みを浮かべて、言い放った。
「獣軍隊長たる自分の指揮と、あなたの指揮。そして我らが獣軍隊とあなた方の部隊——どちらがより優れているか」



 一騎と軍人のような男のデュエル。
 一騎の場にはなにもないが、シールドは五枚。《爆砕面 ジョニーウォーカー》と《フェアリーの火の子祭》でマナを伸ばしている。
 対する男の場には《成長の面 ナム=アウェイキ》が一体。
「《青銅の面 ナム=ダエッド》を召喚。マナ武装3発動であります、マナを一枚追加。そして《ナム=アウェイキ》で攻撃、こちらもマナ武装3でマナを一枚追加でありますよ。そのままシールドブレイク」
「自然単色の、ビートダウン……? S・トリガー《フェアリー・ライフ》。マナを一枚増やすよ」
 男の場には二体の小型アタッカー。男のデッキはかなり攻撃的に見える。となれば、できればクリーチャーは減らしておきたい。
「俺のターン。《ウインドアックス》をチャージして、これで7マナか……だったら、《ジョニーウォーカー》を召喚。破壊してパワー2000以下の《ナム=アウェイキ》を破壊するよ!」
「《ナム=アウェイキ》はマナ武装5でマナに置かれるであります」
「まだだ! 《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》を召喚!」



斬英雄 マッカラン・ボナパルト 火文明 (4)
クリーチャー:ヒューマノイド爆 3000+
ガードマン
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでもよい。このクリーチャーと選んだクリーチャーをバトルさせる。
マナ武装7:自分のマナゾーンに火のカードが7枚以上あれば、このクリーチャーのパワーは+4000され、「W・ブレイカー」を得る。



 現れたのは、友のために英雄となった《マッカラン》——《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》だ。
「《マッカラン・ボナパルト》の能力発動!  バトルゾーンに出た時、相手クリーチャー一体とバトルするよ! 《ナム=ダエッド》とバトルだ!」
「どちらもパワーは3000、相打ちであります」
「いいや! 《マッカラン・ボナパルト》のマナ武装7がある! 俺のマナゾーンに火のカードが七枚あるから、《マッカラン・ボナパルト》はパワー+4000されて、Wブレイカーを得る! 《ナム=ダエッド》は一方的に破壊だ!」
 マナゾーンから火の力を得て、《マッカラン・ボナパルト》は刃を振るう。《ナム=ダエッド》の槍を打ち砕き、破壊する。
 これで男の場にはクリーチャーがいなくなった。加えて一騎は、場に殴り返しができるクリーチャーを残すことができた。
 たった4コストで、パワー7000のWブレイカー、おまけにガードマンも備えている。これで男が攻撃して来ても、並大抵のクリーチャーであれば殴り返すことが可能だ。
「ターン終了」
「……成程。こちらの攻撃を迎え撃つクリーチャーでありますか」
 男も一騎の考えに気付いたようで、素直にクリーチャーを出して殴る手が止まる。
 しかし、それはあくまで、素直に殴る手だ。
 殴れば殴り返される。それならば、殴り返されないように殴ればいいだけだ。
「《ランキー》を召喚、《ランボンバー》に進化! シールドをWブレイクであります!」
「っ!?」
 一瞬で、一騎のシールドが二枚削り取られた。しかし、気づいた時には場にクリーチャーはいなくなっていた。
 男はいつの間にかターン終了を宣言しており、一騎のターンだ。
(今、どこから……それに、どこへ……?)
 とりあえずカードを引くが、先ほどの攻撃が気になる。
 いつの間にか攻撃されて、いつの間にか消えていた。その姿は見えない。男のマナもいつの間にか一枚増えていた。
 謎のクリーチャーによる奇襲が、一騎に不安感を抱かせる。
 残りシールドは二枚。このターンでマナは8マナになる。こちらも、いつまでももたもたしていられない。
「とりあえず、マナを溜めようかな……《フェアリーの火の子祭》を発動! 山札の上から二枚を見て……」
 山札の上から二枚を捲る。捲られたのは、《龍覇 グレンモルト》《暴龍事変 ガイグレン》。
「ん……《ガイグレン》をマナへ」
 一騎は捲られた《ガイグレン》を、残念そうにマナに落とす。
「《ガイグレン》がマナに行っちゃったか……」
 《ガイグレン》は一騎のデッキにおける最大のフィニッシャーだ。一度出すことができれば、そのまま勝利に直結する。このデッキのマナ加速も、ほぼ《ガイグレン》のためだと言ってもよいほどに、一騎は《ガイグレン》の攻撃性能を頼りにしていた。
 だがそれがマナに落ちてしまったので、《ガイグレン》を引いて押し切るという手はなくなった。
 それならそれで、別の作戦を考えるまでだ。
「だったら……もう一度《フェアリーの火の子祭》を唱えてマナを加速。《マッカラン・ボナパルト》でWブレイクだ!」
 残り数ターンの短期決戦を見た一騎は、こちらもシールドを削っておこうと《マッカラン・ボナパルト》で攻撃するが、
「S・トリガー《瞬撃の大地 ザンヴァッカ》を召喚であります」
「っ、ここでS・トリガーのクリーチャー……!」
 前のターン、男は謎の奇襲でシールドを二枚割った。
 同じことをこのターンにもできるのであれば、残りシールドが二枚の一騎は、とどめを刺されるだけの打点を揃えさせてしまったことになる。
「《ナム=ダエッド》を召喚」
 男は《ナム=ダエッド》を召喚し、マナを増やす。前のターンは見えない攻撃のみを行ったが、このターンは違うのか。それとも、その攻撃はこのターンではできないのかと、期待を抱いたが、
「マナゾーンから《獣軍隊 ランキー》を召喚! この《ランキー》を、マナゾーンの《獣軍隊 ランボンバー》へ進化!」
「マナゾーンから召喚、それに進化……!?」
「そうであります。《獣軍隊 ランキー》《獣軍隊 ランボンバー》は、マナゾーンから召喚可能。そして《ランボンバー》は、ターン終了時にマナへと還るでありますよ」
 つまりはそういうことだ見えない奇襲の謎は解けた。
 あれは、男が瞬く間に《ランキー》を《ランボンバー》へと進化させ、攻撃し、ターンを終えただけに過ぎない。ターン終了時に《ランボンバー》がマナに送られたため、場にはなにも残らなかったのだ。マナが増えていたのは、《ランキー》か《ランボンバー》、どちらかのクリーチャーを手札から召喚したからだろう。
 なんにせよ、これで一騎を倒すだけの打点が揃ってしまったことになる。
「しかし、念には念を……《ランボンバー》で攻撃する時、侵略発動であります」
「っ、侵略……!?」
 聞き覚えのある言葉だった。
 いつか、彼女——恋が打ちのめされた、未知なる力。
 それが今、この場でも発現する。
「誘導作戦発令。ここは我らの戦場、敵を誘い込み、迎撃せよ! そして——侵略であります!」
 大地から現れ、進化する兵隊は、吃驚を司る。
 闇に潜み、準備を整え、驚愕させ、隙を窺う。
 そうして、自分たちの戦場を作り上げていく。
 地の利を最大限に利用し、人の和を限界まで引き出し、今、兵隊たちに一つの作戦が発令された。
 その先陣を切り、統率する者が——進軍する。

「作戦開始——《超獣軍隊 ゲリランチャー》!」

129話「奇襲」 ( No.398 )
日時: 2016/05/25 11:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 筋骨隆々で屈強な肉体。鬣のように逆立った髪。右手で担いだミサイルランチャーが鈍い煌めきを放ち、左手に握った征服を示す軍旗がなびく。
 威風堂々とした立ち振る舞い、全身の傷、出で立ち——その風格は、戦場を渡り歩いた戦士そのものだ。
「《ランボンバー》を、《ゲリランチャー》へと侵略進化であります」
 《ランキー》が《ランボンバー》に、《ランボンバー》が《ゲリランチャー》に、マナから進化し、手札から侵略し、様々な場所から目まぐるしく進化を繰り返す獣軍隊の侵略者。その前線に立つのは《超獣軍隊 ゲリランチャー》。
 自分に有利な戦場で戦うように仕向ける、獣軍隊のリーダーだ。
「侵略完了……で、ありますが、このままだと侵略の意味もなく終わるでありますよ。《ゲリランチャー》でWブレイク!」
「く……っ!」
 《ゲリランチャー》は担いだミサイルランチャーから何発ものミサイルを撃ち出し、一騎の残ったシールドをすべて爆撃する。
 硝煙のにおい、噴き出す黒煙、熱風、飛び散るシールドの破片を肌で感じながら、その中身を確認していく。
「これでとどめであります。《ザンヴァッカ》でダイレクトアタック!」
「ま、待った! S・トリガー発動だよ!」
 《ザンヴァッカ》が一騎に向かって突貫していく。しかし一騎の最後のシールドから、灼熱の魔手が伸びた。
「S・トリガー《イフリート・ハンド》! 相手のコスト9以下のクリーチャーを破壊する! 《ザンヴァッカ》を破壊だ!」
「凌がれたでありますか……まあ、手は打ってあるので、問題ないでありますが。ターン終了であります」
 《イフリート・ハンド》は《ザンヴァッカ》の身体を焼き、握り潰して破壊する。
 一騎のシールドはゼロ。紙一重の防御だ。
「あ、危なかった……」
「もう盾は残ってない。ここで決めないと後がないよ、一騎!」
「分かってる。俺のターン」
 ドローして、一騎は考え込む。
 いまいち手札が良くない。《ガイグレン》がいれば話は早かったのだが、それは既にマナに落ちている。
 手札には《テイン》と《レーヴァテイン》も揃っているが、
「マナはチャージすれば11マナあるけど、《テイン》と《レーヴァテイン》は同時には出せないな。バトルを起こせるクリーチャーもいないし……」
 そうなると、賭けてみるしかない。
「とりあえず、これかな。マナチャージして、3マナタップ! 《爆熱血 ロイヤル・アイラ》を召喚だ。マナ武装3発動、手札の《焦土と開拓の天変》を捨てて二枚ドロー!」
 一騎は、《ロイヤル・アイラ》に賭ける。
 これで引いたカード次第では、このターンに決着をつけることも可能なはずだ。
 逆転のための一手を願い、カードを引く。
 一枚目は、《龍覇 グレンモルト》。
 二枚目は——
「——! 来たよ! 7マナで《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を召喚!」



次元龍覇 グレンモルト「覇(ヘッド)」 火文明 (7)
クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン/ヒューマノイド爆/ドラグナー 7000
スピードアタッカー
W・ブレイカー
マナ武装 7:このクリーチャーが攻撃する時、自分のマナゾーンに火のカードが7枚以上あれば、次のうちいずれかひとつを選ぶ。
▼コスト6以下のウエポンではないカードを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
▼このクリーチャーにウエポンが1枚も装備されていなければ、コスト6以下のウエポンを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。(それをこのクリーチャーに装備して出す)



 《ガイギンガ》の雄叫びが轟くき、二重に勝利を重ねた龍に騎乗した《グレンモルト》が現れる。
 それは修行を重ね、成長し、ドラグナーとしてだけでなく、あらゆる次元へとアクセスすることが可能となった《グレンモルト》——《次元龍覇 グレンモルト「覇」》だ。
「このターンで決めるよ!《グレンモルト「覇」》で攻撃! マナ武装7発動!」
 《ガイギンガ》の咆哮が次元を歪ませ、《グレンモルト「覇」》は歪んだ次元から魂を引き寄せる。
 《グレンモルト「覇」》はサイキック・クリーチャーも呼び出せるが、一騎の超次元ゾーンにはドラグハートしか置いていない。
 そのため、呼び寄せる魂は、龍の魂。そしてそれが封印された刃だ。
「超次元ゾーンから《銀河大剣 ガイハート》を呼び出して、《グレンモルト「覇」》に装備!」
 呼び出されたのは《ガイハート》。《グレンモルト「覇」》が騎乗していた《ガイギンガ》は大剣の中に自らの魂を封じ、《グレンモルト「覇」》に右手に握られる。
 これで準備は整った。あとは、攻めるだけだ。
「《ガイハート》の龍解条件は、ターン中に二回攻撃すること……《グレンモルト「覇」》と《マッカラン・ボナパルト》でシールドを割り切って、そのまま《ガイギンガ》に龍解するよ!」
 現時点で考えられる突破方法はこれしかない。S・トリガーで邪魔される可能性は十分考えられるが、最後のシールドから《ザンヴァッカ》が出てくるくらいであれば、《ガイギンガ》の龍解時能力で焼き払えるため問題ない。とはいえ男のマナには《エウル=ブッカ》なども見えるため、安心はできない。それに、この攻撃でS・トリガーが出てしまえば、なにが来ようと同じだ。
 だから祈るしかない。この二回の攻撃で、S・トリガーが出ないことを。
 まずはこの一撃に賭ける。
「行くよ! 《グレンモルト「覇」》で、シールドをWブレイク——」
 《ガイハート》を携えた《グレンモルト「覇」》が、男のシールドを切り裂く——

「——させないでありますよ。《ゲリランチャー》!」

 ——ことは、できなかった。

「な……っ、《グレンモルト「覇」》!?」
 《グレンモルト「覇」》は、《ゲリランチャー》へと向かっていた。手にする大剣は、兵器を手にした軍人へと振り下ろされる。
 当然、それに対して《ゲリランチャー》も、己の得物を手に迎え撃つ。
 大剣を振るう《グレンモルト「覇」》。ミサイルランチャーを連射する《ゲリランチャー》。両者の戦いが始まった。
 それは、一騎の望まない戦だ。
「どういうこと……なんで……!?」
 確かにシールドを狙ったはずだ。なのに、気付けば目の前に《ゲリランチャー》がいた。プレイヤーを攻撃するつもりだったのに、いつの間にか違う方向へと攻撃していた。
 それはまるで、攻撃先を誘導されたかのような気持ち悪さがあった。。
「言ったはずでありますよ。ここは我らの戦場だと」
 ぴしゃりと、男の声が冷たく響く。
「あなたは、自分たちの戦場に誘い込まれたのでありますよ。敵地で戦うということは、こちらの掌の上にいるも同然であります。あなたたちの動きは見えている。ゆえにその誘導も容易い」
 掌の上で踊らされていた。
 そんな言葉が、一騎の脳裏によぎる。
 その瞬間、《ゲリランチャー》が咆えた。
「《ゲリランチャー》の能力発動! 相手の攻撃は《ゲリランチャー》へと誘導されるでありますよ!」



超獣軍隊 ゲリランチャー SR 自然文明 (6)
進化クリーチャー:ゲリラ・コマンド/侵略者 11000
進化—自分の自然のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—自然のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーが、相手のターン中にタップしていて、そのターンまだ攻撃されていなければ、相手のクリーチャーは可能ならこのクリーチャーを攻撃する。



 攻撃の誘導。それが《ゲリランチャー》の能力。
 自分にとって有利な戦場で戦うことを、《ゲリランチャー》は強要する。否、仕向ける。
 如何なる理由があろうとも、一度《ゲリランチャー》が攻めれば、相手は彼の戦場へと誘き出されてしまう。
 そして、そこで迎撃するのだ。
 それが《ゲリランチャー》の得意とする作戦だ。
「攻撃強制か……! ということは、《グレンモルト「覇」》は……」
「《ゲリランチャー》とバトルであります。こちらのパワーは11000。勝てると申すならば、証明して見せればよろしいかと!」
 無論、勝てるわけがない。《グレンモルト「覇」》のパワーは7000だ。
 《ガイハート》の斬撃は《ゲリランチャー》に掠りもせず、むしろミサイルの乱射によって近づくことすらできない。
 やがて向こうから接近してくる。振り下ろした大剣の一撃を軍旗で受け止められ、払われる。さらに押し倒され、ミサイルランチャーを向けられた。終わりだ。
 《グレンモルト「覇」》は倒れたまま、ミサイルランチャーの爆撃を間近で受け、あえなく破壊されてしまう。
「パワー差4000じゃ《ガイオウバーン》でも対処できない、一回だけの攻撃誘導なら、《グレンモルト》の方を出すべきだったかな……くっ、ターン、終了……!」
 このターン、これ以上できることはない。
 《マッカラン・ボナパルト》で攻撃しても、とどめまでは刺せない。《ゲリランチャー》を破壊することも不可能だ。
 一騎はもう、為す術がなくなったのだ。
「……これで終わりでありますな」
 《ゲリランチャー》はミサイルランチャーの発射口を、一騎へと向ける。
 その一撃が、終戦の一撃となった。

「《超獣軍隊 ゲリランチャー》で、ダイレクトアタック——」


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