二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

114話「欲望——愛欲」 ( No.334 )
日時: 2016/03/10 10:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「そんな、ゆずが……」
 沙弓と浬から、すべてを聞かされる。
 柚が突然、襲ってきたこと。暁もそれでやられたこと。
 にわかに信じがたいことだった。
「あの時の柚ちゃんは、明らかにおかしかったわ。私たちはクリーチャーの仕業だと睨んでる。日向さんはこっちの世界に詳しいと思うのだけれど、なにか知らないかしら?」
「わからない……【秘団】にいた時も、あんまり、気にしてなかったから……」
「【秘団】の中に、他人を操れるような団員はいなかったのか?」
「……いない……と、思う……私も、【秘団】で面識のある相手は、少なかったし……」
「そうなの?」
「うん……そこにいた期間も、短かったから……」
 そういえば、恋が【秘団】に属していた時のことを、沙弓たちはよく知らなかった。
 いずれはそのことも聞き出さなければならないのだろうが、今はその時ではない。
「参ったわね。情報がなさすぎるわ。どうすれば柚ちゃんを元に戻せるのか、具体的な打開策が浮かばない」
「クリーチャーの仕業かもしれないってのも、憶測にすぎないしな」
「しかし、他の生命体を操るようなクリーチャーには前例もありますし、その類だとは思います。まさか、柚さんが自分の意志であんなことをしているとは思えませんし……」
「そうね。それでも、クリーチャーの仕業だと分かったところで、それがあの子を元に戻せるきっかけになるとは限らない」
 仮にクリーチャーに操られているとして、そのクリーチャーを叩けば元に戻る保証もない。そもそも、操っているクリーチャーがどこにいるかなんて、まったく見当がつかないのだ。それが原因だと予想しても、探せるはずもない。
 今はっきりしている事実は、柚がおかしくなったこと。それだけだ。
「…………」
「恋? どうしたの?」
「……私も、行ってくる……」
 恋は、スッと立ち上がった。
 それに対し、浬が声を荒げる。
「ちょっと待て! 正気か、お前!」
「ゆずを、助けなきゃ……あきらが、そうしたように……」
 踵を返し、歩を進めようとする恋。
 だが、今度は沙弓が、彼女の肩を掴んで止めた。
「落ち着きなさいな。私の助言があった暁だって勝てなかったのよ。今の柚ちゃんは、私たちの知る柚ちゃんじゃないわ。闇雲に突っ込んだところで、どうにもならない」
「だからなに……関係ない……このままジッとしてても、なにも解決しない……」
「それでも、無意味に被害を増やす方が愚策よ。それに、剣埼さんの時も、あなたが突っ走って解決したかしら?」
 沙弓の言葉に、恋は驚いたように瞳を揺らした。
 そして同時に、不審な目で彼女を睨むように見つめる。
「……なんで、知ってるの……?」
「シェリーから聞いたわ。あなたのこと、少しでも知っておきたくてね。時々連絡取ってるのよ」
「ミシェル……余計なことを……」
 キュプリスではないが、痛いところを突かれた。
 しかし、だからと言って、恋は止まらない。
「……それでも、私は……行く」
「おい、お前いい加減に……」
「止めないでよ、メガネ君」
 沙弓に続き、浬も立ち上がって恋を引き留めようとするが、今度は違う方向から、ストップにストップがかかった。
 止めようとする浬を止めたのは、キュプリスだった。
「少しは慈愛の語り手らしいところを見せてもいいじゃん。誰かを救いたい、守りたいって思った恋を、止めてあげないでよ」
「……それとこれとは関係ないだろう。今は慎重に動くべきだ。もっと考えてから行動に起こせ」
「眼鏡野郎と同じ意見なのが癪だが、その通りだな。下手に突っ込んで怪我して帰っただけじゃ、目も当てられないぞ」
「でも、情報が足りないんだよね? ないものを考えても、なにも出て来ないよ」
「しかしだな……」
「……カイ、ドライゼ」
 沙弓から、声がかかった。
 悩ましい表情をしている。彼女は、重そうな口を、ゆっくりと開いた。
「あなたたちの言い分も、もっともだわ。けれど、私は日向さんの意志次第だと思う。彼女が本気で柚ちゃんのことを思って出るというなら、私は止めないわ」
「ゆみ……部長、いいのかよ」
「この子を止めることはできなさそうだからね。無理やり飛び出されるよりは、ちゃんと話してから、送り出した方がいいわ」
「そんな消極的な考えでいいのか……?」
「今の私たちに大事なのは、繋がっていることよ。ただでさえ柚ちゃんが欠けているんだもの、これ以上バラバラになったら、収拾がつかなくなるわ」
 マイペースかつゴーイングマイウェイの恋を説き伏せるのは、そう簡単ではない。彼女は、ひとたび自分の意志を持てば、その決意のままに、決してぶれることなく行動を起こす。それには一騎もかなり手を焼いている。
 しかし、それは彼女の短所であり長所でもある。一度、自ら決定した彼女の意志は固い。
 その意志をもってすれば、あるいは……そんな夢を、沙弓は見たのかもしれない。
 今の彼女ならば、やってくれるかもしれないと。
「だから、出る前に、少し私たちの話を聞いていきなさい。あの子がどう変わってしまったのか、教えてあげる」
「まあ、部長がそう言うなら、それで手を打つか」
「さゆみ……ありがとう」
 そうして、もう一度腰を落ち着けて、三人は向かい合う。
 沙弓と浬が戦った柚のスタイル。それは、今までの彼女と通ずるものこそあれ、大きく異なっていた。
「まず気になったのは、柚ちゃんのデッキには、あの子が今まで使ってたジュラシック・コマンド・ドラゴンがほとんど入ってなかったわ」
「フィニッシャーが、全部抜けてた……? それじゃあ、どうやって……」
「今のあの子の脅威となり得るのは、ドラグハートよ」
 ドラグハート。それは、以前の柚も使用していた、龍の力が込められた武器や要塞。
 しかし、彼女の用いるドラグハートすらも、今の彼女は使わなかった。
「《邪帝斧 ボアロアックス》《邪帝遺跡 ボアロパゴス》、そして《我臥牙 ヴェロキボアロス》……他にも気になるカードはいくつかあったけど、核となっているカードは、やっぱりあの3D龍解するドラグハートよね」
「いずれもマナゾーンからクリーチャーを呼ぶドラグハートだったな。《ボアロアックス》と《ボアロパゴス》はコストに制約があるようだが、呼び出しているクリーチャーを見る限り、上限は5といったところか」
「ただ、ドラグハートばかりに気を取られていたら、“私たちの力”にやられるから、気を付けないとダメだけどね」
「私たちの……?」
 小首を傾げる恋。
 私たちの力。言葉通り受け取るなら、沙弓や浬の力ということだが、その意味がいまいち分からない。
「カイは見てないみたいだけど、私が柚ちゃんと戦った時には、《デカルトQ》を使われたわ」
 《理英雄 デカルトQ》。浬が有する、英雄のクリーチャーだ。
 私たちの力。それはつまり、沙弓や浬が持つカードの力、という意味。
 しかしそれだけでは、腑に落ちない点がある。
「色は……? デッキカラー……」
「そこもポイントかしらね。私が戦った時には、あの子のデッキには《デカルトQ》以外は自然単で、召喚する色がなかった」
「じゃあ、どうやって……?」
「恐らく、染色よ」
 沙弓は言った。これも憶測なのだろうが、しかしどこか確信めいたものを持って。
「染色……《コートニー》のようなカードか?」
 染色とは、デュエル・マスターズにおける俗語だ。本来一枚のカードは、そのカードが持つ文明しか持たない。マナゾーンにある時も、そのカードが持つ文明のマナしか生み出せない。
 だが、《薫風妖精コートニー》などがいれば、バトルゾーンやマナゾーンにあるカードに、他の文明に追加したり、すべての文明を持たせたりすることができる。
 デュエル・マスターズにおいては、それぞれのカードにある文明を色で表現することが多いため、違う色を加えるこの能力を染色と呼んでいるのだが、今の柚はその戦略を用いている。
「あの子のデッキに《コートニー》に類するカードは入ってないように見えたけど、他に染色役がいるわ。私が睨んでるのは《龍覇 イメン=ブーゴ》よ」
「《イメン=ブーゴ》……あのドラグナーか」
「《イメン=ブーゴ》はコスト7とドラグナーとしては割高のコストの代わりに、パワー7000でWブレイカーも持ってる。だけど、きっとそれだけじゃない。恐らく、《コートニー》のような、マナゾーンを染色する能力を持ってるのよ」
 沙弓と戦った時の柚は、除去に備えてなのか、二体目以降の《イメン=ブーゴ》をあらかじめ確保するような動きを見せていた。ドラグハートを出すだけの存在なら、《ボアロパゴス》に龍解してからもわざわざ握っておく必要はない。
 それでも彼女がそうしたのは、それだけ《イメン=ブーゴ》が彼女のデッキにとっては重要な役割を担うからだ。
「《イメン=ブーゴ》を出した次のターンに、《デカルトQ》も出て来たしね。それに、柚ちゃんが使ってた《デカルトQ》は、召喚しただけじゃなくて、マナ武装も使ってた。さらに、私のデッキからは《ツミトバツ》が、暁のデッキからは《ガイゲンスイ》が抜けてた。これらのことから、柚ちゃんはマナ武装を持つ私たちのカードを集めて、自分の力にしていると推理できるわ」
 それが彼女の目的なのかもしれない。そう考えれば、光の英雄を有する恋の下にも、いずれ向こうから現れるかもしれなかった。
「俺たちの使うマナ武装7のクリーチャー……英雄のクリーチャーを使うために、染色能力を持つ《イメン=ブーゴ》を使っている、ということか」
「《ボアロアックス》はコスト4の自然のドラグハート。それを使うだけなら、コストが軽い《サソリス》でもいいしね。まあ、1コストの差が龍解に関わっているのかもしれないし、そもそも今のあの子が《サソリス》を持っているのかは、分からないけど」
 使用するカードが今までの大きく違っていたため、今の彼女が、今までの彼女と同じカードを持っているのかは分からない。
 そこで、恋はふと思い出した。
「……そういえば、プルは……?」
「分からないわね。あの子は、プルを連れていなかったみたいだけど」
「プルさんの気配も感じませんでしたね。柚さんが抑えつけているのか、そもそも一緒にいないのかは、分かりませんが……」
 柚も大事だが、プルのことも考えなくてはならない。
「今のあの子と戦うなら、《ボアロアックス》の龍解と、染色からのマナ武装の両方に気を付けないといけないわ。場のクリーチャーをできるだけ除去しつつ、《イメン=ブーゴ》を残さないことが大事」
「そうなると、やはり短期決戦に持ち込むのが無難だな。時間が経てば経つほど、あいつの展開力は増していく。もたもたしていると、龍解も止まらなくなるからな」
 最後に、締め括るように二人は助言する。
「……さゆみ、メガネ……ありがとう」
 そして、恋は立ち上がった。
 柚を、大事な人の親友を、救うために。
「わたし……ゆずのところに、行ってくる……」

「その必要は、なさそうですよ?」

 その時、木々の間から、一人の少女が姿を現した。
「っ……ゆず……」
「こんにちは、こいちゃん」
 柚は微笑を見せる。
 恋でもすぐに分かった。その笑みは、いつもの柚ではない。笑顔の裏側に、とんでもない闇が潜んでいる。
 笑みだけではない。乱れた着衣。焦点がどこに定まっているのか分からない瞳。おぼろげな足取り。彼女の姿、発言、一挙一動すべてが、狂っているようだった。
 柚は、恋から視線を外し、浬と沙弓に目を向ける。
「かいりくんとぶちょーさん、あきらちゃんも……みなさん、おそろいですね」
「柚ちゃん……!」
「どうしたんですか、ぶちょーさん? 目が、こわいですよ?」
「それはこっちの台詞だけどね。あなたこそ、どうしたのかしら」
「だから、どうもこうもないんですけど……まあ、いいですよ。わたしは、こいちゃんにご用事があるので、すみませんが、ぶちょーさんのお話は、それが終わってからでおねがいします」
 そう言って、柚はまた、恋に視線を戻す。
「ゆず……私も、ゆずに用がある……」
 恋は一歩踏み出すと、真っ直ぐに柚を見据えた。
「どうして、あきらを……大切な人、なのに……」
「おかしなことを言いますね。親友でも、デュエマくらいしますよ?」
「あんな……気を失うほど……?」
「あきらちゃん、疲れていたんですよ」
「……話にならない」
 恋の方から意志疎通を放棄したくなる。それほどに、今の柚はおかしかった。
 加えて柚は、棘のある言葉を受けても、不気味な微笑を絶やさない。
 まったく別の、異形の怪物とでも対面しているような気分だった。
「悲しいこと、言わないでください……わたしは、こいちゃんにご用事が、あるんですから……」
 用事。
 彼女が、なにを求めているのか。
 それは既に知っていた。
「私の英雄も、欲しい……?」
「……くれるんですか?」
「無理……でも」
 恋はそっと手を添える。
 そこにあるのは、彼女が欲する、恋の“力”。
 渡せと言われて渡せるものではない。だが、これで彼女を誘えるのならば、恋は自分の力そのものであっても、餌とすることも辞さなかった。
「そんなに欲しければ……無理やり奪い取ればいい……」
「乱暴なことしないでもらえるなら、そっちのほうがいいんですけど……こいちゃんがそう言うなら、そうしましょうか」
 本気で言っているのかどうかは分からないが、柚はそんなことをのたまう。
 彼女はゆらゆらとした足取りで、恋に肉薄する。
「それじゃあ……」
 ゆっくりと、手を伸ばす。
 なにもかもを欲する、欲望に塗れた、邪な手を。
 そして——
「こいちゃんのことも……無理やり、奪っちゃいますね?」

 ——神話空間が、開かれた。

114話「欲望——愛欲」 ( No.335 )
日時: 2016/03/12 04:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 恋と柚のデュエル。
 互いにシールドは五枚。恋の場には《聖龍の翼 コッコルア》《閃光の精霊龍 ヴァルハラ・マスター》。柚の場には《青銅の面 ナム=ダエッド》《ベニジシ・スパイダー》。
「私のターン」
 恋はカードを引く。そして、相手を——柚を見遣った。
(やっぱり、いつものゆずとちがう……)
 そんなことは今更確認するまでもないことだが、実際にこうして対面すると、どう違うのかが分かる。
 静かすぎるのだ。彼女本来の気質を抑え込んで、違う彼女が演じられているかのような、そんな違和感。
(さゆみも言ってた……あんまりゆっくりしてると、展開されて押し負ける……なら)
 恋はカードを操る。
 いつもと違うと言えば、自分もそうだ。この戦い方は、自分が今まで積み上げて、作り上げてきたものとは、少し違う。だが、暁たちと共にいない間も、烏ヶ森で学んだ、もう一つの自分としての力が、恋にはあった。
 それを、彼女にぶつけるのだ。
「まずは……呪文《グローリー・スノー》……私のマナが相手より少ないから、2マナ加速」
「自然文明を使うわたしを追ってきますか……追い抜かれちゃいました」
「さらに、《ヴァルハラ・マスター》で攻撃……その時、能力発動」



閃光の精霊龍 ヴァルハラ・マスター VR 光文明 (5)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 5500+
このクリーチャーが攻撃する時、名前に《スパーク》とある呪文を1枚、自分の手札からコストを支払わずに唱えてもよい。
バトルゾーンに相手のアンタップされているクリーチャーがなければ、このクリーチャーのパワーは+5500され、「W・ブレイカー」を得る。



「手札から、《スパーク》呪文をタダで唱える……呪文《マスター・スパーク》……相手クリーチャーをすべてタップ」
 恋の手札から光球がこぼれる。それを拾い上げ、《ヴァルハラ・マスター》はその力を取り込んで、眩い閃光を放つ。
 その光によって、柚のクリーチャーはすべて、地に伏した。
「そして、相手クリーチャーがすべてタップされている時、《ヴァルハラ・マスター》は強化される……パワーは11000。そして、Wブレイク」
 《ヴァルハラ・マスター》は二度目の閃光を放つと、今度はそれが雷撃となり、柚のシールドを貫いた。
「さらに《コッコルア》で、《ナム=ダエッド》を破壊……」
「……攻めますね、こいちゃん。こいちゃんらしくないかんじです」
「それは、お互いさま……」
「そんなことないですよ。わたしはわたしです。これが、わたしなんですよ、こいちゃん」
 割られた二枚のシールドを弄びながら、柚はカードを引く。
 そして、原始的な欲望に駆られたシャーマンが、姿を現す。
「《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚です。能力で、超次元ゾーンから《邪帝斧 ボアロアックス》をバトルゾーンにだして、《イメン=ブーゴ》に装備です」
 ザクリ、と。
 超次元の彼方から落下した戦斧が地面に食い込み、それを《イメン=ブーゴ》が引き抜く。
 そして《イメン=ブーゴ》は、《ボアロアックス》を振りかぶった。
「《ボアロアックス》の能力で、マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンにだします。マナを一枚追加です」
 振りかぶり、振り降ろし、叩き割った地面から、《ベニジシ・スパイダー》が這い出て、マナを肥やす。
「コスト合計は……20になってませんね。ターン終了です」
 柚はこれだけでターンを終えた。
 この時点で、柚の場のクリーチャーのコスト合計は、5+7+5、合計17。まだ《ボアロアックス》の龍解条件が不成立だ。
 《コッコルア》でクリーチャーをタップキルした甲斐があった。《ナム=ダエッド》を破壊したお陰で、ギリギリ龍解には至らない。
 この隙に、恋はさらに攻める。
「《慈悲の精霊龍 イヴローラン》を召喚……《ヴァルハラ・マスター》で攻撃する時に、呪文《マスター・スパーク》」
「またですか。ということは」
「そう……Wブレイク」
 《ヴァルハラ・マスター》の閃光によって、柚のクリーチャーは倒れる。そして、敵がすべて伏せているこの状態が、《ヴァルハラ・マスター》の力が発揮される時。無防備になった柚へと、力を発揮した《ヴァルハラ・マスター》の電撃が迸り、シールドをさらに二枚、粉砕する。
「……《鳴動するギガ・ホーン》を召喚です。山札から《ナム=ダエッド》を手札に加えて、そのまま召喚です」
 残りシールド一枚と追いつめられた柚だが、焦る素振りも、不安がる様子も、一切見せない。
 どころか、今のこの状況を愉しんでいるかのように、彼女の表情は蕩けている。
「いきますよ、こいちゃん。《イメン=ブーゴ》攻撃です。そのとき、《ボアロアックス》の能力も発動します」
「攻撃時に、発動……」
「そうですよ。すごいですよね。《ボアロアックス》は、装備したクリーチャーが攻撃するときにも、マナゾーンからクリーチャーを呼べるんです」
 《イメン=ブーゴ》は《ボアロアックス》を振るって駆ける。同時に、再び地面を叩き割り、新たなクリーチャーを呼び出した。
「でてきてください。マナゾーンから二体目の《ギガ・ホーン》をバトルゾーンに。そして、能力で山札から《天真妖精オチャッピィ》を手札にくわえます。そして、《ヴァルハラ・マスター》を攻撃です」
「……《コッコルア》でブロック」
 《ボアロアックス》の刃が《ヴァルハラ・マスター》に襲いかかるが、《コッコルア》が代わりにその刃を受け止める。
 なんとか《ヴァルハラ・マスター》の破壊は免れた。だが、このターン、柚は三体のクリーチャーを並べている。
「ターン終了……するときに、わたしのバトルゾーンにいるクリーチャーのコスト合計が20以上なので、《ボアロアックス》は龍解します」
 柚の場にいるクリーチャーのコスト合計は、5+7+5+5+3+5=30。
 このターンで13コスト分のクリーチャーを並べることで、《ボアロアックス》の龍解条件を満たしてしまった。
「2D龍解——《邪帝遺跡 ボアロパゴス》」
 《ボアロアックス》はその姿を変える。
 多くのクリーチャーの力を取り込み、《ボアロアックス》は邪悪な龍の遺跡——《ボアロパゴス》へと、龍解した。
「……呪文《ジャスティス・プラン》」
 2D龍解されても、恋にはそれに対抗したり、除去する手段はない。
 なので、今できることを、こなすだけだ。
 山札からめ捲られたのは《殉教の翼 アンドロ・セイバ》《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》《聖龍の翼 コッコルア》。
「三枚とも対応カード……ぜんぶ手札に加えて、《コッコルア》を召喚。そして、《イヴローラン》で攻撃……するときに、能力発動」



慈悲の精霊龍 イヴローラン VR 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 6500
ブロッカー
このクリーチャーが攻撃する時、進化ではない光の「ブロッカー」を持つクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー



 《イヴローラン》が吠えると、恋の墓地が白い光を発する。
 その光は死した守り手に、再び命を吹き込んだ。
「墓地の光のブロッカー、《コッコルア》をバトルゾーンに……シールドブレイク」
「S・バック発動です。《ドクゲーター》を捨てて、《天真妖精オチャッピィ》を召喚します。そして《オチャッピィ》を召喚したことで、《ボアロパゴス》の能力発動。マナゾーンから《次元流の豪力》をバトルゾーンに」
 《イヴローラン》がブロッカーを蘇らせつつ、シールドを砕くが、そのシールドを糧に、《オチャッピィ》が飛び出す。
 そして、その《オチャッピィ》の登場を引き金に、今度は《ボアロパゴス》が動き出した。
 邪悪なる遺跡の中から、次元を操る獣人が、大地の中から呼び覚まされ、超次元の扉が開かれる。
「《次元流の豪力》の能力で、超次元ゾーンから《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》をバトルゾーンに」
「……《ヴァルハラ・マスター》でダイレクトアタック……呪文は唱えない」
「もう手札にスパーク呪文はないんですね。安心しました。では、《ユリア・マティーナ》でブロックです。強化されていなくても、《ユリア・マティーナ》が負けちゃいますが、《ユリア・マティーナ》の能力でシールドを追加します」
 ブロッカーは破壊されたものの、代わりにシールドを追加し、守りを固める柚。
 だが彼女は守り以上に、次のターンで驚異的な攻撃力を、欲望を最大限に解き放つ破壊力を、見せつける。
「では、わたしのターン……《ボアロパゴス》の龍解条件成立です」
 《オチャッピィ》《次元流の豪力》の二体を加え、柚の場にいるクリーチャー合計は、38。
 悠々と《ボアロパゴス》の龍解条件を満たしている。
「わたしの欲望がうずまいて……わたしの牙にひれ伏して……邪悪なわたしはここにいます……3D龍解」
 すべてのクリーチャーの生命力を糧として、《ボアロパゴス》は、姿を変える。

「あなたのすべてを、わたしにください——《我臥牙 ヴェロキボアロス》」

114話「欲望——愛欲」 ( No.336 )
日時: 2016/03/12 12:22
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 内に秘めた邪な欲が蠢動し、《邪帝遺跡 ボアロパゴス》は龍解する。
 原始的なまでの強大な欲望に取り憑かれ、五文明を飲み込む邪悪なる存在。
 すべてを我が物とするために、あらゆる命を地に臥し、己が牙を突き立てる古代龍——《我臥牙 ヴェロキボアロス》へと。
 柚は巨大な《ヴェロキボアロス》を従え、静かにカードを繰る。
 その刹那。
「ドローして、マナチャージ……そして、このクリーチャーを召喚です」
 ぞわり、と悪寒が走る。
 今にも、すべてを飲み込まれてしまいそうなほどの欲望を、肌で感じた。

「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」

 大きな欲望の塊が、また一つ、現れる。
「《ドミティウス》がバトルゾーンにでたとき、山札の上から五枚をみて、コスト7以下のちがう文明のクリーチャーを一体ずつ、バトルゾーンにだせます」
「……つまり、最大五体のクリーチャーを踏み倒せる……でも、そんなに都合よくいくわけが……」
「それはどうでしょう? さぁ、きてください——」
 《ドミティウス》が咆哮する。大いなる資産の大地を掘り返し、そこに眠る英雄たちを、目覚めさせるために。

「——《理英雄 デカルトQ》《凶英雄 ツミトバツ》《撃英雄 ガイゲンスイ》《牙英雄 オトマ=クット》」

 《ドミティウス》の雄叫びが、飲み込んだ文明の力を解き放つ。
 柚が捲った五枚のカードのうち四枚、四体の英雄が、その姿を現した。
「《イメン=ブーゴ》のおかげで、わたしのマナゾーンはすべての文明になっています。なので。すべてのマナ武装が使えるんですよ」
「やっぱり、《イメン=ブーゴ》が……さゆみの、言ったとおり……」
「まずは《デカルトQ》のマナ武装7、カードを五枚ドローします。次に《ツミトバツ》のマナ武装7で、こいちゃんのクリーチャーのパワーは、ぜんぶ−7000です」
「っ……クリーチャーが……」
 《デカルトQ》によって大量の知識を得る。さらに《ツミトバツ》が千本の刃を放ち、恋のクリーチャーを根絶やしにする。
 これだけでも多くのアドバンテージを得た柚だが、彼女の欲望は、まだ止まらない。
「さらに《ガイゲンスイ》のマナ武装7で、わたしのクリーチャーはすべてパワー+7000、そしてシールドを一枚、多くブレイクできます」
「《ガイゲンスイ》……あきらのカード……」
「はい。あきらちゃんの力、つかわせてもらっています」
 淫靡に微笑む柚。大事な人を、大切な恋人を、奪われたような、穢されたような気分だ。
 しかし、この状況は、今に恋にはどうしようもない。なにも、手出しができないほどに、彼女は遠のいてしまっている。
「最後に《オトマ=クット》のマナ武装7発動です。わたしのマナゾーンのカードを七枚アンタップします」
 《オトマ=クット》は原生林を繁茂させ、再びマナに活力を与える。
 これで、《ドミティス》に使ったマナのほとんどを取り戻したことになる。
「《ドミティウス》を召喚したことで、《ヴェロキボアロス》の能力発動です。マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンに。マナをふやして、今度は手札から《ベニジシ・スパイダー》を召喚します。《ヴェロキボアロス》の能力で、マナゾーンから《ギガ・ホーン》をバトルゾーンに。能力で山札から《ナム=ダエッド》を手札にくわえます。その《ナム=ダエッド》召喚して、マナゾーンから《ドクゲーター》をバトルゾーンに」
 《デカルトQ》で大量に増やした手札、《オトマ=クット》で起き上がらせたマナ。そこに《ヴェロキボアロス》の能力を加え、柚はクリーチャーを並べる柚。
 その様に、恋は絶句していた。
「…………」
 凄まじい展開力。
 ただ、その一言に尽きる。
 柚の展開力、爆発力は凄まじい。そのことに限れば、遊戯部でも暁と肩を並べられるほどだ。それは恋もその身をもって感じている。
 だが、ここまでの展開力は、かつての柚にはなかった。
(やっぱり、なにかあった……そのなにかの、力……?)
 それがなんなのかは分からない。
 だが、とても邪悪で禍々しいものであることは、感じられる。
「おまたせしました。それじゃあ、いきましょう——こいちゃん」
 柚は宣告する。
 すべてを奪わんとするほど大きく、凶悪で、原始的な“欲”をぶつけることを。
「《ヴェロキボアロス》で攻撃。そのとき、マナゾーンから《ブロンズザウルス》をバトルゾーンにだします……そして、Tブレイク」
 邪悪な気を発しながら、《ヴェロキボアロス》は巨大な戦斧を振り降ろす。
 その一撃は凄まじく、一瞬で恋のシールドを三枚叩き割ってしまう。
「さらに《ガイゲンスイ》の能力で、シールドをもう一枚、追加でブレイクです」
 地に食い込んだ斧を、空間を抉るように無理やり刃の向きを変え、薙ぐように引き戻す。
「……っ」
 粗雑で、粗暴で、荒々しく、豪快に、《ヴェロキボアロス》は四枚のシールドを砕き散らす。
「S・トリガー《ヘブンズ・ゲート》……《音感の精霊龍 エメラルーダ》《天団の精霊龍 エスポワール》をバトルゾーンに……」
 《エメラルーダ》の能力で、先んじてシールドのカードを見る恋。どうせ相手クリーチャーはすべてWブレイカー以上なのだ。残り一枚のシールドを二枚にしたところで、なにも変わりはしない。
 そう思って、残り一枚のシールドを開くと、
「来た……S・トリガー《聖歌の聖堂ゾディアック》……《イメン=ブーゴ》《ナム=ダエッド》《ガイゲンスイ》をフリーズ……《エメラルーダ》の能力で、手札を一枚、シールドへ……」
「《ベニジシ・スパイダー》で、シールドをブレイクです」
 トリガーが出ようと、柚は止まらない。味方の動きが封じられても、お構いなしで攻撃を続ける。
「S・トリガー《ヘブンズ・ゲート》……」
 今度は天国の門が開かれる。
 恋の手札から、二体のブロッカーが舞い降りた。
「《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》……そして」
 《ゾディアック》に続き、聖なる賛美歌が響き渡る。
 これは前奏だ。その音色と共に、かの英雄が、姿を現すのだ。
 響き渡る楽曲が最高潮に達した刹那、

「私の世界の英雄、龍の力をその身に宿し、聖歌の祈りで武装せよ——《護英雄 シール・ド・レイユ》」

 光のマナの力を一身に受け、白き英雄が姿を現す
「……来ましたね」
 その姿を見るなり、柚は小さく、蠱惑的な微笑みを見せる。
 《シール・ド・レイユ》が戦場に立つと、さらなる讃美の歌を促し、己もそこに透き通るような声を混ぜる。恋のマナから、さらなる力を受け取るのだ。
「《シール・ド・レイユ》のマナ武装7、発動……《ベニジシ・スパイダー》と《ギガ・ホーン》を、シールドへ……」
 沙弓のマナから光が迸ると、それは聖なる盾となる。賛美を示す盾が、《シール・ド・レイユ》の身を守り、武装する。
 そして、盾から放たれた神々しき光は、柚のクリーチャーを照らし、その力を肉体ごと、盾の中へと封じ込める。
 これで柚のクリーチャーが二体減り、残るブロッカーでも辛うじて防げるようになった。
「まだ……《ヴァルハラナイツ》の能力で、もう一体の《ギガ・ホーン》をフリーズ……」
「かたいですね、こいちゃん。でも、わたしも止まりませんよ。《オチャッピィ》と《次元流の豪力》で、ダイレクトアタックです」
「《エスポワール》《エメラルーダ》で、ブロック……」
 攻撃を防ぐも、相手は《ガイゲンスイ》のマナ武装で強化されている。こちらが中〜軽量のブロッカーでは、チャンプブロックにしかならなず、展開したブロッカーも、多くがあえなく破壊されてしまった。
 それでもギリギリ、恋は柚の猛撃を耐えきって見せた。
 もっともそれは、耐えただけであって、反撃の芽は完全に摘み取られてしまっていたが。
「く……っ!」
「おしかったですね、こいちゃん。でも、すごいですよ。わたしの攻撃を、1ターンでもたえきるなんて……さすがです。あきらちゃんもそうでしたけど、二人とも、すごいです」
 うらやましいくらいです、と柚は微笑む。
 羨望なのか。本気で言っているのか、冗談なのかも分からない。
 ただ分かることはひとつだけ。
「《龍覇 セイントローズ》召喚……《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》をバトルゾーンに……ターン終了時に、《龍覇 エバーローズ》をバトルゾーンに……《不滅槍 パーフェクト》を装備……」
「ドラグハート……ちょっとこわいです。でも、もう、わたしの勝ちですよ」
 この対戦の勝敗は、完全についてしまっている、ということだけだ。 
「《ナム=ダエッド》を召喚、《ヴェロキボアロス》の能力を発動です。《ドクゲーター》をバトルゾーンに出して、《パーフェクト》を超次元ゾーンに戻します」
「《パーフェクト》が……」
「ふふっ、続けて《有毒目 ラグマトックス》を召喚です。《ラグマトックス》の能力で、お互いのクリーチャーをマナに置きますよ。わたしは《ラグマトックス》です」
「《エバーローズ》……」
 《ドクゲーター》が除去するのは、クリーチャーだけではない。コスト4以下のカードであれば、如何なるものでも毒する。
 そのため、コスト4のドラグハート・ウエポンである《パーフェクト》もその毒息で腐食し、《エバーローズ》は除去耐性を失ってしまい、《ラグマトックス》の毒に蝕まれる。
「まだですよ、こいちゃん。《ヴェロキボアロス》の能力で、マナゾーンから《ラグマトックス》をバトルゾーンに。お互いのクリーチャーをマナに送ります。わたしは、《ラグマトックス》です」
「《セイントローズ》……」
「《オチャッピィ》を召喚です。墓地のカードをマナに置いて、マナゾーンから《ラグマトックス》をバトルゾーンに。《ラグマトックス》をマナゾーンへ」
「……《シール・ド・レイユ》」
 《セイントローズ》に続き、《シール・ド・レイユ》までが《ラグマトックス》に毒され、苦しみもがきながら土へと還る。
 残っているのは、《ヴァルハラナイツ》が一体のみ。
 しかしその《ヴァルハラナイツ》の前に立つ《ヴェロキボアロス》が、戦斧を振り上げた。
「それでは、そろそろ終わらせましょう。《ヴェロキボアロス》で攻撃する時にも、能力発動です。《ラグマトックス》をバトルゾーンに出して、そのままマナへ。こいちゃんの場に残った《ヴァルハラナイツ》をマナ送りです」
「…………」
 言葉も出て来ない。
 全滅だった。空には《ヘブンズ・ヘブン》だけが虚しく浮かんでいる。
 すべてのクリーチャーが、毒され、もがき苦しみ、絶えてしまった。
 結局、なにも救うことはできなかった。
 救われても救えない、己の無力さが憎い。
 嘆こうが悲しもうが、もはや意味はない。
 すべての守りを突き崩された。貪り尽くすように、欲望をぶちまけるかのように、暴力的な原始の力が恋のすべてを潰していく。
 あらゆる生命が、欲望が、力が、恋を蹂躙する——

「聖歌の英雄の力……いただきます、こいちゃん——」

烏ヶ森新編 27話「■龍警報」 ( No.337 )
日時: 2016/03/14 07:00
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「——そういえば、火文明の方で、なにかあったみたいですね」
「なにか、といいますと?」
「うーん、まあ大したことではないと思うんですけどね。でも、暴れていることに違いはないわけですし、ちょっと厄介なクリーチャーかもしれませんよ」
「火文明はこんな世界になっても血気盛んですね……わかりました。では、近々私の方でなんとかします」
「ありがとうございます。それじゃあ僕も、すぐにあそこに向かいますか」
「あ、そのことなんですけど……」
「?」
「私たちの方の、“彼女”が、そちらに同行したいとのことでして——」



 いつも通りの烏ヶ森学園、中等部にある部室棟の一角。そこでは、部員たちがせっせとそれぞれの作業をしている。
 そして部の長たる一騎は、少々特殊な部員である氷麗と向かい合っていた。
 そう表現すると、若干の仰々しさが感じられるが、立ち話で、業務連絡と言ってもいい内容だ。形式的ではあっても、そして一般人に伝わるようなそれではなくとも、それほど堅苦しいものではない。
「——というわけですので、後日、彼女を向こうに転送しますね」
「うん、分かった。俺の方からも連絡を入れられたらいいんだけど、最近ちょっとゴタゴタしてるから、無理かもしれないなぁ……最近は忙しいんだよね、人手も足りてないし」
「まったくだ」
 横から声が飛ぶ。槍のような鋭い声で、正に横槍を入れる声だった。
「ミシェル……」
「こんなクソ忙しい時にぶっ倒れる部長様がいるくらいだしな」
「ご、ごめん。今度からは気をつける」
「マジであんなのは勘弁してくれよ。特に、お前は色々と危なっかしいからな」
 書面にペンを走らせながら、刺々しい言葉を浴びせるミシェル。しかしその裏に込められた心配の念は、誰もが感じ取っていた。
 先日、体育の授業中に一騎が倒れたことは、軽く校内で話題になっている。季節が季節なので単なる熱中症という認識しかされていないが、人ひとりが倒れるとなると、やはりそれなりに噂になるものだ。
「その噂はうちのクラスでも聞きましたけど、部長はもう大丈夫なんですかー?」
「剣埼先輩ですしね。私のクラスでも、結構心配している人の声は多かったですが」
「あ、自分のクラスもっす。部長が倒れたって、その話で持ちきりっすよ」
 そこかしこから、そして部員からも、その噂は流れてくる。体育の授業という目立つ時だったがゆえに、当然のことかもしれないが。
「そ、そんなに広まってるんだ……俺は大丈夫だよ。ちょっと疲れてただけだから」
「本当に……? つきにぃ……」
「本当だよ、恋。心配しなくていいから」
「それは無理だろ。ひづき先輩も、卒業するまでずっと言ってたしな」
「……俺、そんなに信用ないかな?」
 確かに今まで多少の無茶をやって来た自覚はあるが、それでも節度は守っていたつもりだ。恋について探るためにあちらの世界に向かった時は、その無茶が過ぎることもあったが、それでもそこまで信用を失うようなこともなかったはず。
 そう思いつつ部員たちを見回し、疑問を投げかけるも、
「自分の行いを省みろ。自覚してないなら自覚しろ。お前は自分が思っている以上に無茶苦茶やってるからな」
「その通りですね」
「異議なしですー」
「……ごめん」
 思っていた以上に辛辣で正直な部員たちだった。言葉が返せない。
 自覚はある、だなんて思い上がりだったのかもしれない。実際には自覚などできていなくて、それがより無茶することに繋がっているのかもしれない。ここまで言われるということは、そうなのだろうと思う。
 実際に部員からこんな評価を受けている上に、少なくとも一度は倒れて皆に迷惑をかけてしまったので、今後はもっと自覚を持って、無茶しないように考えるべきなのだろうと、深く反省する。というより、これは反省せざるを得ない。部員の目が痛すぎた。
「……こんな話の最中に申し訳ないですが、向こうの世界でちょっと困ったことがあるんです」
「あっちで? なにがあったの?」
「おい、一騎のお人好しスキルが発動したぞ。誰か止めろ」
「とりあえず話くらいは聞きませんかね。部長を止めるか否かは、それを聞いてからでも遅くはないかとー」
「実は、火文明の領土で、大きな反応が発見されました」
 空後がミシェルを宥めるように言うのも無視するかのように、氷麗は続ける。
「どのようなクリーチャーなのかは、まだ情報不足ですが……決して弱いクリーチャーではなく、むしろ強大な力を持つクリーチャーだと思われます。このまま放っておくわけにもいきませんし、早急に処理したいのですが……」
「鷲中の連中はどうした? あいつらには頼めないのか?」
「無理とは言いませんが、語り手を多く有しているあちらはあちらで、忙しいようです。重要度的には、語り手が絡まないこちらの方が低いので、私たちで対処してしまいたいところですね」
 氷麗や、東鷲宮でナビゲーターをしているリュンにとって、重要なのは語り手のクリーチャーだ。こちらは一騎と恋の二人が所有しているが、向こうは四人が所有している。より大事な案件は、向こうに委ねたいことだろう。
 だが、そもそも原点の行動が、自分たちと東鷲宮の面々では違いがある。ナビゲーターの都合で差別をされたような気分になり、ミシェルは舌打ちした。
「ちっ、あたしらは連中の露払いじゃないんだがな」
「結果的にそうなっているだけとはいえ、概ね同意です」
「日向さんがこうしてここにいる時点で、僕らの目的は遂行されたようなもんですし、それ以上付き合うメリットはないという考え方もできますねー」
「ま、まあまあ、東鷲宮の人たちにはお世話になってるし、このくらいは助けてあげようよ」
「すみません。皆さんを軽んじているつもりはないのですが……」
 美琴と空護がミシェルに便乗し、一騎がそれを宥める。氷麗も申し訳なさそうな表情を見せていた。
「別にいい。ちょっとばかし愚痴りはしたが、そっちの仕事も忘れたつもりはない。露払いでもなんでやってやる」
 自棄になったかのように、椅子を蹴飛ばして、ミシェルは立ち上がる。
「それじゃあ、俺も……」
「お前も行くのかよ?」
「いや、だって、テインのこともあるし、俺も行った方がいいかなって……今までずっとそうやってきたしさ」
「また無茶して倒れたりしないか?」
「だから、もう大丈夫だって。心配しすぎだよ」
「……そうですね。リュンさんの言っていた“継承”にも関わってくることですし、とりあえず一騎先輩には来ていただきたいです」
 神話継承。
 恋がこうしてここにいるに至るまでにあった大きな出来事。空城暁という少女が、恋に光を与える時に見せた、語り手の進化。
 一騎にも《焦土の語り手》があり、同じ語り手である以上は神話継承の可能性がある。なにがきっかけで継承するかは語り手によるため、少しでも多く試しておきたい。
 それが、自分たちと一応は協力関係にあるリュンや氷麗の根底にある目的だ。こちらとしても、それを蔑ろにできるわけがなく、ミシェルはまた舌打ちし、渋々ながらも頷いた。
「ちっ、仕方ないか。ただし無茶しそうなら、全力であたしが止めるからな。多少強引な手段も厭わない。覚悟しろよ」
「……私も」
 恋が乗り出す。元々部の活動に消極的な彼女だが、向こうの世界に行くことに関しては積極的だった。
「人手がいなくなると大変だろうから、こっちは三人で行く。お前ら、しっかりやれよ。特にハチ公!」
「はいっす! わかってるっすよ」
「行ってらっしゃい。早く帰ってきてくださよー」
「お気をつけて、先輩方」
 後輩たちに見送られつつ、一騎たち三人は氷麗に誘導され、別の世界へと飛び立つ。

烏ヶ森新編 27話「暴龍警報」 ( No.338 )
日時: 2016/03/16 22:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「しかし、三年が総抜けしてあいつらだけ置いて来たが、まずかったか?」
「確かに少し心配だけど、黒月さんと焔君がいるし、大丈夫じゃないかな」
「……ま、そうだな。来年のことも考えると、あいつらだけにしとくのも、悪くはないか」
 そんな会話をしながら、三人は氷麗に連れられて歩を進める。
 ここは火文明の領土の西部。火文明領は中央に巨大な山脈——太陽山脈が連なり、四方の他文明との境界付近にそれぞれ、焦土神話の建てた要塞がある。
 今はその四つある要塞の一つ、西部要塞サード・フォートレスへと向かっているところだ。
 そしてしばらく歩くと、氷麗が足を止めた。
「ここですね」
「これは……要塞っつーか」
「闘技場、かな?」
 見上げた先には巨大な建造物がそびえ立つ。
 古代ローマ時代のコロッセオのような、円形の建物。外壁には錆びついたり折れたり崩れたりしている砲塔がいくつも見られるため、要塞と言えば要塞のようだが、見た目は闘技場そのものだ。
「確か、テインと初めて会ったところも、ここと同じ部類の場所だったよね」
「僕や他の仲間、武器が眠っていた場所は北部要塞フォース・フォートレス。あそこは、なんていうか、僕たちの最後の拠点というか、最終防衛ラインみたいなところだったんだよね。普段は使わないけど、他の要塞が機能しなくなったりしたら、あそこに移るんだ」
「場所によって要塞の用途が違うのか」
「そうだよ。西部要塞は見ての通りの闘技場。仲間内で競い合ったり、他文明との戦いでも、一騎討ちの場として使われてた場所だね」
「……要塞、なんだよな」
 自分たちの知る要塞の定義が少し揺らいだ。それはもはや、要塞とは名ばかりのただの闘技場ではないのかと思う。
「それで氷麗さん、大きな反応っていうのは?」
「この闘技場の中から、ですね」
 言われて一騎たちは入口を探した。意外と要塞らしいところもあるというか、入口は一つしかないようで、巨大な要塞の周りを歩き続けてようやく見つけ、中へと入る。
 中はかなり単純な造りとなっていた。天井は高く、柱だけが等間隔で並び、なにもない空間が広がっている。
 奥には光が差していた。闘技場へと繋がる入口だろう。
 一騎たちはそこへ向かって、一直線に進む。
 そして——



「ウオォォォォォォッ!」
「うるせっ!?」
 入口を潜ると、そこは予想通り、広い闘技場だ。
 遮蔽物が一切なく、地面は土を踏み固めただけ。壁は高めで垂直なので、よじ登ることはできなさそうだ。非常に見晴らしがよく、ぐるりと囲む客席がはっきりと見える。
 そんな闘技場内に、怒号が轟く。
 声の主は、闘技場の中央に鎮座していた。
「……こいつは」
「《熱血龍 バリキレ・メガマッチョ》」
 氷麗が、目の前のクリーチャーの名を告げる。
「テインさんは、ご存知でしょうか」
「一応ね。まさか、こんなとこにいるとは思わなかったけど」
 テインはどこか懐かしむように、目の前の巨大なクリーチャーを見上げる。
「それに、ドラグハート・クリーチャーが自力で龍解後の姿になって、しかもそれを保ってられるだなんて」
「ドラグハートなの?」
「そうだよ。それも、3D龍解の力を得た、数少ないドラグハートさ」
 3D龍解。一部の特殊なドラグハートのみが行使することのできるシステムだ。
 武器、要塞、そしてクリーチャーと、三段階に分割されたドラグハートは、力としての強大さと安定性を両立させた、画期的な機構。
 東鷲宮の空城暁は、彼女の切り札の一つである《バトライオウ》を、一騎の《グレンモルト》と共に戦場に送り出すことで、3D龍解のドラグハートへと昇華させたのだが、当の一騎は通常のドラグハートしか持ち合わせていない。恋にしてもそうだ。
 それほどに、3D龍解というのは希少な力なのだ。それでいて強力なため、確かに放置すると危険そうだった。
「とにかく、彼を放ってはおけないよ。バリキレは焦土軍の中でも、かなり気性の荒い戦士だったしね」
「そんな奴が野放しになってるって、この世界、結構ヤバいことになってるな」
「自力で龍解するくらいだし、かなりの強敵っぽいね」
「そもそも、自力で龍解なんてできるのか?」
「さぁ……?」
「昔のよしみだ。一騎、バリキレは僕らで彼を鎮めるよ」
「分かった。恋、ミシェル、ここは俺に任せてもらってもいいかな?」
「正直、止めたいところではあるが、ひとまずは見逃してやる。無理そうだったら乱入するからな」
「つきにぃ……がんば」
 二人に送り出され、一騎も、テインと進み出た。それに合わせて、デッキに手をかける。
 今日握るデッキは、いつもよりどこか熱いように感じた。
「よし……行くぞ」
 そして、神話空間が開かれる——


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