二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

烏ヶ森編 29話「焦土神剣」 ( No.354 )
日時: 2016/04/04 02:40
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

焦土神剣 レーヴァテイン 火文明 (7)
進化クリーチャー:ヒューマノイド/ボルケーノ・ドラゴン 8000
進化—自分の《焦土の語り手 テイン》1体の上に置く。
メソロギィ・ゼロ—バトルゾーンに自分の《焦土の語り手 テイン》または《レーヴァテイン》と名のつくクリーチャーがおらず、自分のヒューマノイドまたはコマンド・ドラゴンを含む火のカードのコストの合計が12以上なら、進化元なしでこのクリーチャーをバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーはバトルゾーン以外のゾーンにある時、進化でないクリーチャーとしても扱う
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または攻撃する時、このクリーチャーにウエポンが1枚も装備されていなければ、コスト5以下の火のウエポンを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出してこのクリーチャーに装備してもよい。または、コスト4以下の火のドラグハート・フォートレスを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
このクリーチャーが攻撃する時、相手のパワー4000以下のクリーチャーを1体選び破壊し、相手のマナゾーンにあるカード1枚を選び持ち主の墓地に置く。
各ターン、このクリーチャーが初めて相手のシールドをブレイクする時、相手が手札に加える1枚目のカードは、手札に加えられる代わりに持ち主の墓地に置く。
W・ブレイカー



 硝煙と爆炎の中から、一人の戦士が姿を現す。
 羽織っているベージュの軍服をなびかせ、腰に差した軍刀を抜いた。その刃は光を反射し、白く煌めく。
 彼は穏やかで、理知的な相貌をしているが、二つの眼には確かな意志の炎が燃え盛っていた。
 血気盛んで熱血の魂を持つ、火の戦士としての炎が。
「テイン……」
『一騎。ありがとう』
 彼は、半身で振り向くと、礼を言った。
『君のお陰で、俺は本来の力を取り戻し、そして、隊長の意志も受け継ぐことができた……今なら分かる。隊長が目指した“戦争”が、どのようなものなのか』
 傷つけ、奪うだけではない。自分の意志を伝えるための手段としての、戦争。
 戦いは凄惨なだけではない。時として、なにかを救うこともある。
 それは、二人とも分かっていた。
『やろう、一騎。僕が君の剣だ。僕たち二人、そして皆の力で、モルトを、ギンガを——ガイグレンを。救うんだ』
「……あぁ、分かってる。俺も、同じ気持ちだ」
 一騎も彼と同じだった。
 目指すはただ一つ。
 暴龍に取り込まれた、二つの魂を解き放つこと。
 即ち、仲間を助けること。
 ただ、それだけだ。
「戦地は任せたよ、《レーヴァテイン》!」
『指揮は君に頼む、一騎!』
 戦士は《レーヴァテイン》、軍師は一騎。
 二人はそれぞれの役割を確認し合い、“戦争”を、再開する。
「行くよ! 《レーヴァテイン》の効果発動! 《レーヴァテイン》がバトルゾーンに出た時、超次元ゾーンからコスト5以下の火のドラグハート・ウエポンを装備できる! 《銀河剣 プロトハート》を装備!」
『モルト、アイラ、フィディック……君たち龍覇の力も、使わせてもらうよ! さあ来るんだ! 《プロトハート》!』
 超次元の彼方より飛来する一振りの剣。龍の力が込められたドラグハート・ウエポン、《銀河剣 プロトハート》。
 ガイギンガの仮の魂が込められたその剣は、《レーヴァテイン》の左手の収まる。《レーヴァテイン》は《プロトハート》を握ると、右手の軍刀と共に構える。
「攻撃開始! 《レーヴァテイン》で攻撃! その時、相手のマナゾーンのカードを一枚墓地へ!」
『ふっ!』
 軍刀を薙ぎ払う《レーヴァテイン》。その一振りで、地面を炎が這いまわる。
 地を這う炎は暴龍のマナまで達し、一枚のカードを焼き落した。
「さらに《レーヴァテイン》は、攻撃時にも超次元ゾーンからドラグハートを呼べる! 今度はコスト4以下の火のドラグハート・フォートレスをバトルゾーンに出すよ! 出すのは《最前線 XX幕府》!」
『拠点設置だ! 速やかに築城開始! 急げ!』
 疾駆しながら叫ぶ《レーヴァテイン》。
 彼と一騎、二人の声に応え、戦場の最前線に《XX幕府》が立った。
 武器を持ち、拠点を整え、遂に《レーヴァテイン》が暴龍を守る城壁へと達する。
「《レーヴァテイン》でシールドをブレイク——する時に!」
『君の仕掛けた罠は——焼き払う!』
 《レーヴァテイン》の振るう刃が炎上し、炎の軌跡を描きながら、暴龍のシールドを斬る。
 その一太刀目は、シールドを砕くことなく、焼き払った。
「《レーヴァテイン》が初めてブレイクするシールドは、その一枚目が墓地に送られる! 残るシールドはブレイクだ!」
 焼け落ちる《天守閣 龍王武人》。その残滓を見送りながら、《レーヴァテイン》は白刃による二の太刀を繰り出す。
『グゥ……!』
「攻撃後、《プロトハート》を装備した《レーヴァテイン》はアンタップする! もう一度攻撃して、効果発動! マナゾーンのカードを一枚墓地に置いて、《大いなる銀河 巨星城》をバトルゾーンに! さらにターン中、二度目の火のクリーチャーの攻撃だから、《XX幕府》の龍解条件も成立! 《最前線 XX幕府》を、《熱血龍 GENJI「天」》に龍解!」
 マナを攻め、新たな拠点を設け、戦士を増やす。
 戦争は一人で行うものではない。仲間の数だけ強力な布陣を敷くことができる。
 一騎当千とでも言わんばかりに単騎で戦う《ガイグレン》とは、違う戦い方だ。
「《レーヴァテイン》でWブレイク!」
 続く三度目の太刀は、《プロトハート》が斬る。
 三枚目、四枚目と暴龍のシールドが切り裂かれ、彼を守る城壁が崩れ去っていく。
 しかし崩れた城壁のうちの一つが、光を放った。
『グガアァァァァァァァァァァァァァイッ!』
 暴龍が、またしても咆える。
『一騎……来るよ!』
 ガイグレンの雄叫びが、法螺貝の音と共に轟く。
 《天守閣 龍王武陣》。
 山札の上から五枚が捲られ、その中のクリーチャーが、射出される。
 放たれるのは——《暴龍事変 ガイグレン》。
「くっ……! 《バリキレ》!」
 《ガイグレン》の大剣が《バリキレ・メガマッチョ》を一刀両断する。
 《レーヴァテイン》はこれ以上の攻撃ができない。《アイラ・ホップ》は残っているが、ダイレクトアタックまでは届かない。
「……ターン終了だ。でも、ターン終了時に《プロトハート》を装備した《レーヴァテイン》は、二回攻撃してタップ状態。龍解条件成立で、龍解するよ! 《星龍解 ガイギンガ・ソウル》!」
 《ガイギンガ・ソウル》を龍解させつつ、ターンを終える一騎。
 一騎の場には切り札となり得るだけのクリーチャーが並んだ。しかし暴龍の手札には《天守閣 龍王武陣》によって加えられた《ガイグレン》がいる。
 今度こそ、《ガイグレン》が現れたら一騎に防ぐ術はない。
 しかしそれは、あくまで現れたらの話である。そもそも出て来ないのであれば、問題ない。
 そのための手は、既に打ってある。
『ガァ……!』
「無駄だよ。君が暴れることは、もう叶わない」
 暴龍は身動きが取れなかった。
 《ガイグレン》自身は手札にある。しかし、彼はもう、出て来れない。
 理由は酷く単純だ。
 彼が存在するだけのマナが、彼にはないのだ。
「マナが足りなければ、クリーチャーは出せない……コスト9の《ガイグレン》を呼び出すだけのマナが、今の君にはないよ」
 マナ。クリーチャーを呼び出すためのエネルギー。
 それが足りないだけ。実にシンプルで、しかしどうしようもないことだった。
 《ガイグレン》の存在は、それだけで莫大なマナを消費する。逆に言えば、マナからの供給を絶ってしまえば、《ガイグレン》は存在できず、暴走することもない。
 《レーヴァテイン》はシールドやクリーチャーだけでなく、マナをも攻める。クリーチャーが存在するための命の源泉を断ち切ってしまう。
 それは戦争が凄惨たる由縁の一つで、悍ましさの一側面であったが、彼らが“戦争”を肯定するためには受け入れなければいけない事実だ。
『グウゥ……ガアァァ……!』
 《ガイグレン》が出せない暴龍は、《神光の龍槍 ウルオヴェリア》を装備した《龍覇 ストラス・アイラ》を二体を召喚し、ターンを終える。
「俺のターン! 俺のバトルゾーンに火のクリーチャーが二体以上いるから、《天守閣 龍王武陣 —闘魂モード—》と《大いなる銀河 巨星城》の龍解条件成立! 《熱血龍 ガイシュカク》! 《星城龍解 ダイギンガ》!」
 戦場に立つ他の仲間たちに呼応して、《天守閣 龍王武陣》と《巨星城》が龍解する。
「ダメ押しだ! 《爆轟 マッカラン・ファイン》《爆山伏 リンクウッド》を召喚!」
 さらに仲間を呼び、一騎の場にはドラグハート・クリーチャーが四体、普通のクリーチャーが三体、そして進化クリーチャーである《レーヴァテイン》が一体。合計八体のクリーチャーが並び、それらすべてがスピードアタッカーだ。
 もはやブロッカーで守りを固めようと、関係ない。
「君の性格で守りに入ったら、その時点で負けだよ、ガイグレン! 俺の妹分に比べれば、そのくらいの守り、なんでもない。力ずくでこじ開ける!」
 いつになく強気な一騎。手が付けられないほど暴力的で攻撃的な暴龍が、守りに入っているという事実が、彼に攻めの姿勢を与えているのか。
 いや、それだけではない。それ以上に、彼を取り囲む戦友たちの勇姿が、彼を奮い立たせているのだ。
「《レーヴァテイン》で攻撃する時、《バルク・アリーナ》を設置!」
 これもダメ押しだ。さらに拠点を作り、《レーヴァテイン》は《GENJI「天」》と共に戦場を駆ける。
 立ちふさがるのは、似合わない槍を携えた《ストラス・アイラ》二体。
「頼んだ《レーヴァテイン》《GENJI「天」》! 君らの力で、あの守りを崩すんだ!」
『了解!』
「まずは《レーヴァテイン》の効果発動! 相手のパワー4000以下のクリーチャーを一体破壊! 一体目の《ストラス・アイラ》を破壊して、マナも一枚墓地へ!」
 《レーヴァテイン》の白刃が《ストラス・アイラ》を切りつける。同時に炎を放ち、マナを焼く。
「続けて《GENJI「天」》の効果発動! 自分のクリーチャーが攻撃する時、相手ブロッカーを破壊する! もう一体の《ストラス・アイラ》を破壊!」
 《レーヴァテイン》の攻撃に合わせて、《GENJI「天」》も刀を振るい、《ストラス・アイラ》を切り捨てる。
 ブロッカーはいなくなった。暴龍を守っているものは、残るは一枚のシールドだけ。
「最後のシールドをブレイク! その時、《レーヴァテイン》の効果で、ブレイクしたシールドを墓地へ!」
『はあぁぁぁっ!』
 しかしその守りも、焼き払われ、燃え尽きる。
 もう、暴龍に続く道を妨げる者はいない。
 戦場は焦土と化した。思いを伝えるべき相手は、すぐそこにいる。
『道は開いた。あとは——伝えるだけだ』
 軍刀を鞘に納め、《レーヴァテイン》は仲間を導く。
 仲間のいない戦場で、ただ一人立ち尽くす暴龍。
 なにも邪魔は入らない。今のすべての思いを、ぶつけるだけだ。
「待ってて、二人とも。今——助けに行く」
 そう言って、一騎は最後の指示を出す。
 彼らの魂を救うための一撃を放つために。
 束縛された暴龍の魂を——斬る。

「《星龍解 ガイギンガ・ソウル》で、ダイレクトアタック——!」

烏ヶ森編 30話「事変終結」  ( No.355 )
日時: 2016/04/11 22:57
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 ガラガラッと部室の扉が開く。この少し乱暴な開け方は、ミシェルだ。
 ミシェルはこちらの姿を認識すると、少しばかり目を見開く。
「今日は早いな」
「まあ、ね。ちょっとやりたいこともあったから」
「やりたいこと?」
「……なに……?」
「うおっ、お前か。急に出て来るなよ……」
 ミシェルに続き、恋も入って来る。
 ——暴龍の一件から数日が経った。生徒会に押し付けられた雑務も、部活としての業務も、向こうの世界でのことも終わっておらず、まだまだやるべきことは多いが、ひとまずの日常だけは、戻って来たのかもしれない。
「つきにぃ……なにしてるの……?」
「デッキを組もうと思ってるんだ」
「デッキ? なんで今更」
「これだよ」
 そう言って一騎は、一枚のカードを机の上に置く。
「これは……お前」
「つきにぃ……」
 ミシェルと恋が、疑心に満ちた目で、一騎を見つめる。
 それはそうだろう。一騎が見せたカードは、《暴龍事変 ガイグレン》。
 昨日の騒動の元凶であるクリーチャーなのだから。
「つーかこいつ、まだこうして残ってたんだな……」
「なんでだろうね」
「知るか。それよりも、大丈夫なのか?」
「たぶん大丈夫じゃない?」
「たぶんっておい……」
「あれから一度も暴れたりしてないし、変な気も感じない。今はただのカードだよ」
「そうかぁ……?」
 疑り深いミシェルだった。
 もっとも、彼女が疑うのも、無理はないが。それだけこのクリーチャーは、大きな傷を、一騎たちにつけているのだから。
「二人の言いたいことは分かるけど、でも、《ガイグレン》は《グレンモルト》であり《ガイギンガ》なんだ。姿形が違っても、俺たちの仲間だよ」
 だから、あの時のことをなかったことにはしたくない。
 少なくとも、あの事変があったから、自分たちは強くなれたのだから。
 その事実だけは揺るがない。そして、忘れてはいけない。
「俺は、もっとずっと、彼らと一緒に戦っていたい。だから、そのことを伝えるために、多少の無茶もした」
「多少ってレベルじゃないけどな」
「それに、《グレンモルト》や《ガイアール》も、新しい力を得たしね」
 そう言って一騎は、《ガイグレン》の横に、さらに三枚のカードを並べる。
「なに? 《次元龍覇 グレンモルト「覇」》……? こいつもドラグナーか」
「《覇闘将龍剣 ガイオウバーン》……新しいドラグハート……」
「あとは、《斬英雄 マカラン・ボナパルト》。《マッカラン》は《グレンモルト》の親友だったみたいだけど、彼のために英雄になるなんてね」
 一騎やテインだけではない。《グレンモルト》や《ガイバーン》も、一騎たちの意志に応え、共に強くなろうとしている。
 そう思うと、仲間に支えられている感覚が、共に歩んでいく実感が、湧き上がってくる。
 そしてそれは、そのまま自分たちの力となるのだ。
「みんなこうして変わってきているんだ。俺自身も、強くなるために、少しは変わろうかなって。だからまずは、デッキから」
「……私も、手伝う……ミシェルも……」
「は? あたしも?」
「うん……」
「仕方ねぇな……少しだけだぞ」
「ありがとう、二人とも」
 穏やかに微笑んで、一騎は作りかけのデッキを出す。
 作りかけと言っても、一度デッキを完全に崩した状態のままで、ほぼゼロの状態だ。
「今までのデッキは中速ビート気味だったけど、《グレンモルト「覇」》や《ガイグレン》を生かそうとすると、マナ武装の達成が難しいんだよね」
「……マナ武装9……あきらでも、そんなにマナ溜めない……」
「ガイグレンがやってたみたいに、火のチャージャーをいっぱい積んでみるとか?」
「そんな半端なことしないで、自然文明を足せばいいんじゃないか? 《ジョニーウォーカー》とか多色のマナ加速を使えば、マナ武装の邪魔にもならないし。ほら、黒月も似たようなデッキ使ってるだろ、準黒単。その要領で、準赤単にすれば」
「その手があった……ミシェル、おてがら……」
「なるほど。そうなると、《フェアリーの火の子祭》とかもよさそうかな。あ、《テイン》も神話継承できるようになったし、クリーチャーも多めにしたいな。《マッカラン》《アイラ》《フィディック》も入れて、ドラグハートは今まで通り使えるようにしよう……そうだ、防御が薄いから、トリガーも考えないと。入れるとしたら、《シュトルム》とかかな?」
「マナ武装使うなら、《天守閣 龍王武陣》とか、《バーニング・銀河》とか……あきらも使ってる……」
「クリーチャーでマナ加速するなら《ウインドアックス》なんかもいいな」
「そういえば、《焦土と開拓の天変》ってカードがあったっけ。あれもテンポアド取れるし良さそうかもしれない」
「超次元はどうするんだ?」
「……これ、ドラグハート以外も出せる……」
「え? あ、本当だ。でも《レーヴァテイン》はドラグハートしか出せないし……悩むなぁ」
「カードパワー的にはドラグハートの方が強いし、とりあえずそっち優先させたらどうだ?」
「じゃあそうしようかな。えーっと、とりあえず入れるのは、《ガイハート》に《ガイオウバーン》に——」
 そうして、三人はデッキを組んでいく。
 かつての反省と、これからの期待を込めて。
 どんな事変にも負けないような、新たな力を宿したデッキを——

115話「欲望——強欲」 ( No.356 )
日時: 2016/04/10 23:31
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「んー……あれ、私……」
「起きたわね、暁」
「部長……?」
 目を覚ます暁。こちらを覗き込んでいる沙弓の顔が見えた。
 元々あまり動いていないが、気を失っていたせいでさらに頭は回転していない。そのため、ほとんど本能で身体を起こそうとするが、
「あれ、身体が動かない……? というか重い?」
「悪いけど、少しそのままでいてあげて」
「え?」
 目だけ動かして下を見ると、色素の薄い髪が視界に飛び込んできた。
 続けて見えるのは、肉薄の小さな矮躯。ところどころ服は裂けており、汚れている。
 暁の服をギュッと握ったまま、目を閉じている少女が、暁の体に乗っかかっていた。
「恋!? な、なんかボロボロだけど……まさか」
「えぇ、柚ちゃんよ」
 暁は恋を起こさないように、ゆっくりと上体だけを起こす。
「恋までやられるなんて……」
「……全滅、だな」
 そう浬が呟いた。
 浬に始まり、沙弓、暁、そして恋。
 四人とも、柚の圧倒的な力の前に、叩き潰されたのだった。
「……いや、まだだよ」
 握る恋の手を解き、暁は木の幹に手を付きながら立ち上がった。
「どこ行くの」
「ゆずんとこ」
「やめておきなさい。無駄よ」
「そんなことない! 柚の目が覚めるまで、私は何度だって戦うよ! 何度も続ければ、もしかしたら、いつか……」
「そんな根性論の話をしているんじゃないわ。そもそもあなた、デッキは足りてるの?」
「あ……」
 言われて暁はハッとする。自然と手はデッキケースに触れていた。
 気を失ってから、デッキの中身は確認していない。しかし、その違和感には気付いた。
 この目で確かめたわけではないが、感覚で分かった。今の自分のデッキには、なにかが足りないことに。
 完全ではない不完全。デッキは、デッキとしての形を完全に保てていない。
 つまり、四十枚のカードで構成されていない。
 英雄のカードが——《ガイゲンスイ》が、欠けている。
「カードが足りてないのに、あの子のところに向かっても、意味はないわ。言葉で分かってもらえると思ってるなら、行けばいいと思うけど」
「それは……」
「私たちのデッキから穴埋めとしてカードを抜くって手もあるけど、明らかに腐るカードが入った欠陥デッキで、あの子に勝てるかどうか」
 この場にいる全員、デッキカラーがバラバラで、しかも単色デッキだ。S・トリガー期待で入れる程度の価値しかない。
 それに、何度でも戦うと言っても、そう何度も戦えるとは限らない。
 一度目は、英雄のカードを失うだけで終わった。
 だが、二度目になったら、一枚や二枚のカードだけで済むとは限らないのだ。
「ここにいる全員、デッキが足りない状況か……笑えないな」
「これからは補充用のカードでも持ち歩こうかしらね」
 笑えないと言いつつも、自嘲気味に乾いた笑みを浮かべる浬。同じように、空虚な表情で冗談めかすように言う沙弓。
 どんよりと濁った、諦めという空気が、二人からは滲み出ていた。
「浬、部長……どうしたの? 二人とも」
 諦念に駆られたような二人に対して、暁は必死な眼で、訴えかける。
「なんでそんな簡単に諦めちゃうの……? デッキのカードが足りないくらいで、諦めちゃダメだよ! そうだ、一度元の世界に戻って、デッキを組み直せば——」
「暁」
 沙弓が暁の言葉を遮る。
 そこには、自嘲的な笑みも、空虚な表情も、諦念も感じさせない。しかしそれでいて、それらすべてを含むようだった。
 彼女は、暁に言い聞かせるように、彼女の肩を掴む。
「私も諦めてるつもりはない。でも、どうしたらいいか分かんないのよ」
「部長……でも」
「デッキが足りてないだけじゃない。あの子の場所も分からない……あの子の目的が英雄なら、私たちはもう、あの子からすべて搾取されてしまっている。あの子が私たちと接触する理由はもうないから、向こうから来ることはまずないと思っていいわ」
 柚の目的が英雄ならば、彼女は目的を完遂している。今、この場にいる全員は、英雄のカードを奪われているのだ。
 目的を達した彼女がこちらに再び接触する理由はないと言っていいだろう。、
「しかも、こんな時に限ってリュンはいない。いつ戻ってくるかなんて分からない。私たちは、少なくともしばらくの間、外界との接触が絶たれているのよ」
「それは……」
「限りなく詰みに近い状況だな」
 自分たちは、地球から離れ、宇宙という広大な海の中で、超獣世界という孤島に放り出されたようなものだ。
 まさかあのリュンに限って、戻って来ないということはあり得ないだろう。しかし、それがいつになるかどうかは分からない。今回のリュン行動も、今までのそれと違い特殊だったのだ。
 先行きは不透明。一寸先は闇だ。
「今の私たちは、悪いことが重なりすぎている。闇雲に動いたら、さらに最悪を重ねるだけよ」
「でも、だからって……!」
「分かってる。私だって、柚ちゃんをどうにかしたいと思ってる……でも」
 解決策が見えない。
 どうすればいいのか、分からないのだ。
 分かっていることと言えば、柚の目的が英雄で、その目的が達成されただろうということ。自分たちがまともに戦えないこと。それくらいだ。
 悪いことしかない。できることは限られているどころか、なにもできないようなものだ。下手になにかをすれば、痛い目を見るだけ。そう疑心暗鬼に陥るほどに、今の状況は悪い。
 どうしようもない状況。それでもどうにかしなくてはいけない。
 そんな苦渋の板挟みになって、身動きが取れない。その苦しさにもがき、喘いでいる。
 その時だった。
 道標の灯のように、“彼”が現れた。

「あ、いたいた」

 穏やかで、柔らかい。しかしそれでいて、芯の通っている声。
 心の奥底から、安心できるような温かさが、滲み出てくる。
「やっと見つけたよ……みんなボロボロだけど、大丈夫?」
「い、一騎さん!?」
 それは、剣埼一騎その人だった。
 森の中を歩き回ったのだろう。頭に枝葉を付け、息も少し上がっている。また、腕の中でなにかを抱えているようだった。
 烏ヶ森の部長である彼が、なぜこの場にいるのか。一同は吃驚と共に、疑念を募らせる。
「どうしてここに……っ!?」
「恋がちょっと心配で……って、恋!? なんか、ボロボロだけど……!?」
「それについては追々説明するわ。それで、剣埼さんは、なんでここに」
「あ、それはね。俺は本当はただの付添いで、本当に用があるのは、氷麗さんの方なんだ」
「どうも」
 一騎の後ろから、氷麗が顔を出した。
「私も用があるというわけではないのですけど、リュンさんから言いつけられていまして」
「リュンから? なんて?」
「『今回は暁さんたちとは別行動をするけど、いつ戻れるか分からないから、帰りが遅いようだったら迎えに行ってください』、と。事前に取り決めた約束では、規定の時刻になるまでにリュンさんからの連絡がなければ、私がこちらに向かう手筈となっていたので、こうして迎えに来た次第です」
「……あの野郎、そういうことは先に言っとけよ」
「なにはともあれ、助かったわ。でも、私たちはまだ帰るわけには——」
「そういえば、道すがらこの子を見つけたんだけど、なにかあったのかな?」
 沙弓の言葉を遮って、一騎は腕を開く。
 すると、腕に抱かれた“彼女”が、視界に飛び込んできた。
「ルー……」
「プル! 無事だったんだ!」
「ルールー」
 力なく声を発するプル。柚とはぐれているようだったが、一騎たちに発見され、回収されていたようだ。
 今まで柚のことばかり気にしていたが、実のところはプルの捜索もしなければいけなかった。しかしこうして無事なところを見ると、少し安心できた。
 ただしそれは、プルのことは、だ。
 根本の大きな問題は、なにも解決していない。
「プルさんだけがはぐれているところを見ると、なにやら不穏なものを感じますね」
「……霞さんに、なにかあったの?」
 暁たちの様子を見てやっと察したのか、今まで陽気な口ぶりだった一騎の声のトーンが落ちる。
 沙弓も、救援に駆けつけてくれた彼らに事情を話さないわけにはいかないので、おもむろに口を開き始めた。
「実は——」



「——成程。そんなことが……」
 一通りの話を聞いて、一騎は目を伏せた。
 一騎が来てくれたことは、純粋に心強い。氷麗もいるので、いつでも帰ることができるという心的余裕も生まれた。
 しかし状況が劇的に変わったわけではない。一騎が来たことで、シューティングゲームの残機が一つ増えたようなものだが、今のゆずを相手にして、残機が一つ増えたくらいで、どうにかなるのかどうか、甚だ疑問である。たとえ一騎であっても、柚に勝てるかどうかと言われると、勝てると断定できない。
 それほどに、今の彼女の力は、彼女と戦った全員に染みついていた。
「ルー、ルー」
「プル?」
「ルールー」
「……なに言ってるのか分かんない」
 彼女の言葉が唯一理解できる柚はいない。なのでプルの言葉は、まったく分からない。
 しかし、彼女の言いたいことが分からないというわけではない。
 言葉が理解できなくとも、プルの言いたいことは、伝わってくる。
 プルも同じなのだ。暁たちと同じく、柚を助けたいと思っている。
 それだけは、暁にも伝わってきた。
「よし! プル、一緒にゆずの目を覚まさせよう」
「ルー!」
「だから、待ちなさいってば。デッキが足りてないって、さっきも言ったと思うけど?」
「あぁ、そうだった……どうしよう」
「……俺のデッキ、使う?」
 頭を抱える暁に、一騎がぽつりと提案した。
「え? 一騎さん?」
「暁さんのデッキは赤単だよね。なら、足りない分は俺のカードを使えば、無理なく補充できると思うけど」
「確かにな。合理的ではある」
 色の合わないカードを穴埋めで入れるよりは、デッキとしての完成度は高くなるだろう。
 だが、色を合わせた程度でなんとかなるのならば、そんなことは問題ではなかった。
「一騎さんの提案はうれしいけど、でも……今のゆずを倒すなら、そのままじゃ……」
「暁さん……」
「…………」
 暁は黙り込んだ。
 今の柚に打ち勝つのなら、今の暁のままでは無理だ。柚は暁のすべてを知っている。その上で、暁の力をも取り込んでいる。
 そして、暁が負けた一因の一つが、柚の見たことのない力。浬、沙弓、恋と、仲間たちから吸収した力。それらを混ぜ合わせた混沌としたものが、彼女の強さの根源だ。
 認めたくないが、今の彼女は、変わってしまった。
 その上で、柚がすべての色を取り込んで、自身の色すらも塗り替え、染め上げたように。
 暁も、別の力を用いなければならないかもしれない。
「……一騎さん」
 暁は静かに口を開いた。
 まっすぐに、真摯な眼差しで、一騎の眼を見つめている。
「一騎さんのデッキ……貸してくれませんか?」
「カードじゃなくて、デッキを、か」
「はい。もちろん、私のカードも使いますけど、今の私のデッキのまま、ちょっとやそっとカードを入れ替えただけじゃ、ゆずには届かないんじゃないかって……私も、本当は分かってるんです」
 彼女と実際に戦って、彼女の力のすべてを味わって、彼女の秘めた欲望を体感して、理解している。
 まともにぶつかっても今の柚には勝てない。
「一騎さんのデッキを私が使っても、ゆずに勝てるとは限らないけど……でも、ゆずに私の言葉を伝えるなら、まず、私が少しでもゆずに近づかないと」
 彼女が変わってしまったのならば。
 自分も一緒に変わってみせる。
 そして、最後には二人一緒に、いつもの自分たちに戻るのだ。
 それが暁の決意で、覚悟。
 ジッと見つめ合う二人。やがて、一騎は口元を綻ばせた。
「……分かった。最初から止めるつもりなんてなかったけど、その決意を聞いちゃったら、渡さないわけにはいかないね」
 そう言うと、一騎はデッキケースから《テイン》のカードだけ抜いて、残りのカードをすべて、暁に手渡した。
「ありがとうございます! 一騎さん!」
「これで俺も、やっと暁さんに恩返しができたよ。ほんの少しだけだけど」
「そんなことないですよ……とても、心強いです」
 恋と——ラヴァーと名乗っていた時の彼女と戦った時と、似た気分だった。
 しかし今度は、誰かのためではない。
 いや、確かに、仲間のため、みんなのため、柚のため、という気持ちはある。恋の時だって、ただ単純に他人の——一騎のために戦ったわけではない。
 だが今は、確かに言える。
 純然たる、自分のためだと。
 自分がこうしたいと思ったから、戦うのだと。
「ルー!」
「うん。プルも、一緒にゆずを元に戻そう」
 進むべき道は定まった。
 そうと決まれば、と暁は自分のデッキを取り出す。一騎のデッキをそのまま使うわけにはいかない。暁なりに調整する必要がある。
 浬と沙弓は、デッキを弄る暁を傍らで眺めながら、言葉を交わす。
「部長、いいのか?」
「正直なところ、少し心配だけど……このまま手をこまねいているわけにはいかないのも確かだし、ここで賭けてみる価値は、ありそうじゃない?」
「……勝率の計算なんて、できないぞ、俺は」
「こういうのは勘よ。なんとなく、やってくれそう、って思ったら勝ち」
「なんだそれは。非科学的だな。理解できん」
「あなたは、そうでしょうね。でも、そういう理解できないものに負けたことのあるあなただからこそ、分かるんじゃない?」
「…………」
「ま、とりあえず今は、信じるしかないわ。暁と柚ちゃんを」
 それが、今の自分たちにできること。
 そう言って、二人は、暁を見つめていた——

115話「欲望——強欲」 ( No.357 )
日時: 2016/04/12 00:50
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

 困った。いやさ、迷った。
 どうすればいいだろうか。
 集めるべきものはすべて集めた。本当ならもっと色々収集したい気もあるが、最低限のノルマはクリアしている。当初の目的は達している。
 だからこれ以上の長居は無用だ。早く奴を呼び戻し、帰るべきだろう。
 それなのに、迷っているのは、まだまだ貪欲になれるかもしれないからだ。
 最低限のノルマで満足せず、より大きな力を得るために動く。それもまた悪くない。
 それに、思った以上に“いい身体”だったことも、効いている。
 このまま使い捨てるには惜しい。勿体ない。
 もっと馴染ませて、完全にしたい。
 そのためには、馴染ませる作業が必要だ。その作業として、適当にまた力を吸収すればいいだろう。
 とはいえ、それにもリスクが伴う。
 完全にするための作業があるということは、今はまだ完全ではない。その隙を突かれて、綻ぶ可能性は否めなかった。
 相手がそれを意図していなかったとしても、どんなきっかけで崩れるか分からないのだ。やはりここは、安全運転で行くべきだ。
 ゆっくりと立ち上がる。片腕を上げて、手を開く——

「——ゆず」
 
 ——開きかけたところで、声がした。
 透き通るような、はっきりとした声。それでいて、耳の奥が熱くなる。その熱さは、自分にとっては甚だ不愉快だった。
 声の主は分かっているが、振り返る。
 その先には一人の少女がいた。
 開きかけた手を結んで、軽く動かす。
 そして、身体を彼女に向けて、その名を呼ぶ。
 少女の記憶のすべてに散らばる、彼女の名前を。

「あきらちゃん」




「……あきらちゃん」
 彼女——柚は振り向いて、暁の名を呼ぶ。
 その前になにやら手を結んだり振ったりと、妙な行動をしていたが、関係ない。
 暁は周りに目配せして、歩を進める。柚に近づいた。
 柚は視線だけで周囲を見渡す。そして、木々の間に立っている人影を見つけて、独り言のように言う。
「ぶちょーさん、かいりくん、こいちゃん……あ、つるぎざきさんもいらっしゃるんですか……みなさん、おそろいで」
 一騎の存在に少し驚きを見せるが、相変わらず、蕩けたような虚ろな眼差しで、虚空を見つめている柚。
 他の面々が動く様子はない。柚と相対するのは、暁一人だけだった。
 それに合わせるように、柚も歩を進め、暁の前に立った。
 少しばかり身長差があるため、柚が少し上向きになる。互いに見つめ合うように向かい合ったまま、暁が先に、口を開いた。
「ゆず。君の目を、覚まさせに来たよ」
「? 言ってることが、よくわかりません……」
 柚は小首を傾げる。その挙動は、いつもなら口元を緩ませる所作になるところだが、今は怒りにも似た、不快な感情を湧き上がらせる。
 拳を握り締め、暁は柚に問うた。
「ねぇ、ゆず。聞いてもいい?」
「なんでしょう」
「どうしてこんなことをするの?」
 率直な問いかけだった。
 しかし柚は、傾げた小首をさらに傾げ、疑問符まで浮かべている。
「こんなこと? なんのことでしょう?」
「とぼけないでよ。浬や部長や私、それに恋……みんなを襲ったことだよ。なにか、理由があるの?」
「うーん、どうしてでしょうね……理由、理由ですか。あるような、ないような……」
 またはぐらかす。
 やはりおかしい、自分の目的を明確にしないことが。
 眼は虚ろだが、やってることは不思議と頑なである。そこに、不安定さは感じられない。
「……君は、本当にゆずなの?」
「なにを言っているんですか、あきらちゃん。わたしは、わたしですよ」
「…………」
 わたしは、わたし。
 霞柚という一人の人間——彼女は、そうは言わない。
 そこに、暁は違和感の正体を掴んだ気がした。
「……私は、どうしていいか分かんない。催眠術の解き方も、憑りついた幽霊を追い払う方法も、人を説得する技術も、なんにもない。私が持ってるのは、二つだけ」
 暁はポケットの中をまさぐり、一つの箱を取り出した。その箱は、デッキケースだ。蓋を開け、デッキを出す。
「このデッキと、ゆず。君との思い出だけ」
「おもいで、ですか……」
「うん。中学生になってから、いろんなことがあったよね」
 デッキを握り、目を瞑り、暁は回想する。
 自分と柚が東鷲宮中学校に入学してからの、様々な出来事を。
「クラスメイトにデュエマ挑んだり、遊戯部に入ったり、リュンにこっちの世界に連れていかれたり……それからも、たくさんのことがあった」
 さらに思い返す。遊戯部に入ってからのこと、こちらの世界であったこと、デュエマを通じて感じたことを。
「ゆずのお兄ちゃんに隠れてデュエマやってるのがばれたし、一緒にアイドルのライブにも行った。青葉に引っ張られて放送室に連れてかれたし、ゆずと恋がケンカしたこともあったよね、あの時は本当に焦ったよ」
 ふっ、と微笑む暁。
 しかし次に暁が目を開いた時、彼女の眼は笑っていなかった。
 暁は、疑ったような眼差しで、柚に詰問する。
「私の中にはゆずとの思い出が全部、詰まってる。ゆずの中には、私との、みんなとの思い出は、あるの?」
「…………」
 柚は答えなかった。
 そこに暁が、すかさず言葉を挟む。
「ないんだね」
「……さぁ、どうでしょう」
 また、はぐらかす。
 しかし今度は間が置かれ、どこか返答に困ったようにも見えた。
 もう少しで見えそうだった。彼女に感じる、不自然さの正体が。
「忘れたなら思い出させてあげる。知らないって言うなら教えてあげる、私たちの思い出……ただし、本当のゆずにだけね」
「本当のわたし、ですか」
 否定もせず、肯定もせず、柚は暁の台詞を反芻する。
 少しずつ、柚の中から違和感、不自然さが滲みだしてくる。
 それを感じるたびに、だんだんと自分のできること、すべきことが分かってきた。
 やはり自分は話し合いで物事を解決するなんて器用な真似はできない。いつだって、誰にだって、自分の思いを力任せにぶつけることしかできない。
 昔からそうだった。そして、今も。
 そう思うと、少しだけすっきりする。やることは単純明快。難しいことは考えず、本能と感情のままに、伝えるだけだ。
「ゆず! 私の、私たちのすべてを、君に叩き込むから! 覚悟してよね!」
「……しかたないですね、あきらちゃんは」
 デッキを突きつけて来る暁。大して柚は、いなすように息を吐く。
 そうしてから、でも、と逆接して言った。
「そうやって熱くなるあきらちゃんのことは、好きですよ」
「私は、そんな冷たいゆずは嫌いだよ!」
 暁も間髪入れずに言い返す。
 刹那。
 二人の間の空間が、徐々に歪み始めた。
「待っててね、ゆず……!」

 ——そうして、神話空間が開かれる。

デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.358 )
日時: 2016/04/24 19:00
名前: ☆★○●◇◇□■△▲▽▼〒♀♂& (ID: QYM4d7FG)

KD175135002009.ppp-bb.dion.ne.jp(副管理人1が編集しました。 2016.04.24)


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