二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

烏ヶ森編 4話「無法の町」 ( No.104 )
日時: 2014/05/25 13:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「ここが神話空間……思ったより、雰囲気あるじゃん」
 立体化されている五枚のシールド。手札の移動もドローも、意志一つでオート操作可能。墓地もリスト化され、確認しやすいようになっている。
 そうして始まった、ミシェルとジャッキーのデュエル。
 ミシェルの場には《一撃奪取 マイパッド》《日曜日よりの使者 メーテル》。シールドは五枚。
 ジャッキーの場には《一撃奪取 ケラサス》。こちらもシールドは五枚。
「俺のターン。《ケラサス》の能力でコストを1下げ、マナ爆誕4! 《馬番の騎手 アリマ&キッカ》をマナゾーンから召喚!」
「ここで《アリマ&キッカ》……? なんかヤバい気がするな……」
 しかし今の手札に除去はない。できることをするしかなかった。
「《マイパッド》でコストを下げ、2マナで《フェイト・カーペンター》を召喚。カードを二枚引いて、手札を二枚捨てるが、この時《メーテル》の能力も発動する」


日曜日よりの使者(ビューティフル・サンデー) メーテル 水/火文明 (4)
クリーチャー:アウトレイジ 3000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
自分がカードを2枚引く時、2枚のかわりに、2枚引いてから自分の手札を1枚捨ててもよい。


「この能力で、カードを一枚引く代わりに二枚引く。この能力は一枚引くごとに発動するから、まず二枚引いて一枚捨て、その後に二枚引いてからさらに一枚墓地へ。最後に《フェイト・カーペンター》の効果で手札を二枚墓地へ」
 少々挙動がややこしいが、一気に山札を掘り進み、かつ墓地にカードを溜めていくミシェル。
「次に呪文《エマージェンシー・タイフーン》。これもカードを一枚引くごとに《メーテル》の能力が発動。カードを二枚引いて一枚捨て、さらに二枚引いて一枚捨て、最後に《エマージェンシー・タイフーン》の効果で手札を一枚墓地へ。これでターン終了」
 《メーテル》の能力を生かし、この早い順目、僅か1ターンで大量に墓地を増やすミシェル。彼女にとって墓地が増えるということは、今後の戦略が組み立てやすくなるということだ。
 だが、
「その程度か、遅いな。俺のターン、呪文《ヒラメキ・プログラム》!」
「《ヒラメキ・プログラム》……まさか……!」
「そのまさかだ。《アリマ&キッカ》を破壊し、山札を捲るぜ」
 破壊された《アリマ&キッカ》のコストは7。なので山札から呼び出されるのは、コスト8のクリーチャー。ここでコスト8のクリーチャーと言えば、
「無限のビートを刻むぜ! この俺《無限皇 ジャッキー》をバトルゾーンに!」


無限皇(インフィニティ・ビート) ジャッキー ≡V≡ 水/火文明 (8)
クリーチャー:アウトレイジMAX 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
スピードアタッカー
このクリーチャーが攻撃する時、自分の山札の上から1枚目を墓地に置いてもよい。そのカードが進化ではないアウトレイジであれば、バトルゾーンに出す。
W・ブレイカー
相手の呪文を唱えるコストは無限のマナを必要とする。


「出たか……!」
『行くぜ! この俺で攻撃! その時、山札の一番上を墓地へ送る!』
 そしてそれが、進化でないアウトレイジならば、コストを踏み倒してバトルゾーンに出せる。
『さあ出てきな! 《天災超邪 クロスファイア 2ed》! こいつもスピードアタッカーだぜ! 俺でWブレイク! さらに《クロスファイア 2ed》でもWブレイクだ!』
「っ! S・トリガー《黒神龍オドル・ニードル》を召喚!」
『なら《ケラサス》で《オドル・ニードル》を攻撃! 互いに破壊だ!』
「くっ……!」
 《ジャッキー》を早出しして高速で打点の高いアタッカーを並べられ、ミシェルには少々苦しい状況だ。
「あたしのターン」
 ミシェルは山札からドローすると、相手の《ジャッキー》を見遣る。
「《ジャッキー》がいるせいで、マナコストを支払って呪文が唱えられない……《白骨の守護者ホネンビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地に送り、墓地のクリーチャーを回収。《マイパッド》《メーテル》《フェイト・カーペンター》でシールドをブレイク!」
『ふん、俺がクリーチャーを攻撃することを期待しているのか? 残念だが、この状況なら攻めあるのみだ。俺のターン《正々堂々 ホルモン》《ケラサス》を召喚。そして俺で攻撃!』
 その時、の山札が捲られる。それがアウトレイジなら場に出るが、ここでスピードアタッカーが出ればまずい。
(《ホネンビー》こそいるが、これ以上打点が増えたら防ぎ切れない。さあ、なにが出る……?)
 《ジャッキー》の咆哮でデッキトップが吹き飛ばされる。そして、墓地に落ちたのは、
『……スピードアタッカー《規格外 T.G.V》だ!』
「な……っ!?」
 恐れていたクリーチャーが現れてしまった。
 直後《ジャッキー》の拳が繰り出される。
「っ、《ホネンビー》でブロック!」
『無駄だぜ! 《クロスファイア 2ed》で最後のシールドをブレイク! そして《T.G.V》でとどめだ!』
 《クロスファイア 2ed》がミシェルの最後のシールドを砕く。
 そして《T.G.V》のとどめの一撃が放たれようとする、その瞬間。
「……S・トリガー《インフェルノ・サイン》! 《ホネンビー》を復活しブロック!」
『っ、耐えたか……』
 ただ耐えただけではない。この1ターンを耐えることは、ミシェルにとっては非常に大きな意味を持っている。
「あたしのターン……ところで《ジャッキー》、突然だがあたしの墓地にクリーチャーは何体いる?」
『……? 数えるのも面倒なくらい多いな。それがどうした』
「そうだな。あたしの墓地にはクリーチャーが大量に落ちている。だから、こいつが1マナで出せるんだよ」
 そう言って、たった1マナだけタップし、ミシェルは自身の切り札を呼び覚ます。

「暴走せし無法の龍よ、すべての弱者を焼き尽くせ——《暴走龍 5000GT》!」

暴走龍(ライオット) 5000GT ≡V≡ 火文明 (12)
クリーチャー:アウトレイジ 12000
このクリーチャーを召喚するコストは、自分の墓地のクリーチャー1体につき1少なくなる。ただし、コストは1より少なくならない。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、サイキック・クリーチャーを全て破壊する。その後、パワー5000以下のクリーチャーを全て破壊する。
誰もパワー5000以下のクリーチャーを召喚できず、サイキック・クリーチャーをバトルゾーンに出すことができない。
スピードアタッカー
T・ブレイカー


『な……《5000GT》だと!?』
「同じアウトレイジのお前なら分かるよな、こちの能力」
 弱者を許さない無法者《暴走龍 5000GT》。その能力は、すべての弱者を根絶する力。即ち、
「パワー5000以下のクリーチャーをすべて破壊だ!」
『だ、だが俺と《クロスファイア 2ed》は残って——』
「悪いが、そいつらも潰すぞ。G・ゼロ《百万超邪 クロスファイア》!」
 墓地にクリーチャーが六体以上いるので、G・ゼロで《クロスファイア》が現れる。
「《5000GT》で《クロスファイア 2ed》を攻撃! 《クロスファイア》で《ジャッキー》を攻撃! パワーアタッカーで攻撃時のパワーはプラス百万だ!」
『ぐあぁぁぁぁ!』
 《クロスファイア》の炎に焼かれ、破壊される《ジャッキー》。返しのターン、スピードアタッカーで勝負を決めたいジャッキーだが、
「《T.G.V》は手札にあるが……《5000GT》のせいで出せねぇ……!」
 《5000GT》はパワー5000以下を破壊するだけではない。その後も、パワー5000以下のクリーチャーを召喚することができなくなるのだ。
 結局なにもできずにジャッキーのターンが終わる。
「あたしのターン。《クロスファイア》でWブレイク!」
「ぐぅ……!」
 S・トリガーも出ず、これでジャッキーのシールドはゼロ。
 そして最後に、暴走龍が駆け抜ける。
「《暴走龍 5000GT》で、ダイレクトアタック!」



 神話空間が閉じ、ミシェルとジャッキーが戻ってくる。
「くっ、まさかこの俺が負けるとはな……!」
「忘れてないよな。あたしが勝った、一騎を離せ」
「……約束だからな。おいてめーら、さっさとその手ぇ離しててやれ」
 ジャッキーの指示で、一騎とテインが解放される。
「助かったよミシェル……ありがとう。流石だよ」
「そうっす! 格好良かったすよ!」
「やめろよ、そういうの……つーか一騎、おまえ簡単に捕まりすぎだ」
「ごめん……」
 一騎が解放され、めでたしめでたし……で、終わりはしない。
 そもそも今回ここに来た目的は、別にあるのだ。
「で、もう一つの約束も忘れてませんよね、ジャッキーさん」
「アリスについてだな……悪いが、アリスのことは俺も知らねぇ」
「えっ!? そうなの?」
 ジャッキーは首肯すると、胡坐をかいて頭を掻きながら答えた。
「俺たちアウトレイジも、神話戦争が終結してからバラバラになっちまってな。なんとか生き残った連中を集めてこの町を作ったんだが、まだ見つかってねぇ奴も多い。アリスもそのうちの一人だ」
「そうですか……」
「悪ぃな。つーかお前ら、アリスになんの用だよ」
「実は、人を探してて……あ、この女の子なんだけど、見たことないかな?」
 一騎が携帯片手に、保存されている写真のデータファイルを開くと、それをジャッキーに見せる。もしかしたらなにか知っているかもしれないと淡く期待したが、
「……いや、知らねぇな。俺はこの町からほとんど出ねぇし、外の情報もほとんど入ってこないからな」
「そう……」
 がっくりと肩を落とす一騎。結局、バタバタしていただけで今回は収穫ゼロだった。
 そんなこんなで、今回は一旦帰ることとなったのだが、屋敷を出た時、ふとリュンが思い出したように振り向いた。
「そういいえば、言い忘れてたんだけど」
「なんですか? リュンさん」
「僕と君との付き合いは、今回が最後だ」
 …………。
 一瞬、思考がフリーズする。
「え、あの……それって、どういう——」
「つまりね」
 要約すると、とリュンは続けた。

「明日から、僕は君らとクリーチャー世界に来ることはないってことだよ」

烏ヶ森編 5話「プルガシオンの街」 ( No.105 )
日時: 2014/05/25 17:02
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「明日から、僕は君らとクリーチャー世界に来ることはないってことだよ」
 リュンから唐突に告げられた、そんな言葉。リュンがいなくては、ではどうやってクリーチャー世界に行けばいいのだろうか。
 そんなことを思ったりしたが、
「大丈夫、ちゃんと代わりの人は見つけてあるよ。僕は元々、違う人間たちをこの世界に導いてきてるんだけど、もう二日も黙って彼らのところに行ってないから、流石にそろそろ戻らないと」
 ということらしい。
「で、その代わりとやらはいつ来るんだ?」
「リュンさんが言うには、そろそろ来ると思うんだけど……」
 だが、来るにしてもクリーチャーなのだろう。どんな人物だろうか。リュンのように人型をしていればビジュアル的にはいいのだが、クリーチャーはその名の通り異形の怪物の方が多い。少なくとも性格はもともだといいのだが……
 などと考えていると、

「——お待たせ」

「っ、いつの間に……っていうか誰……!?」
「女……?」
 気付けば、見知らぬ人影がそこにはあった。
 水色のドレスにと、片足だけのガラスの靴が目を引く女性。その恰好から見ても、烏ヶ森の生徒ではないように見える。
「ここが人間界……少し、息苦しいかも」
「剣埼先輩……もしかしてこの人」
「さっき言ってたリュンとかいう人の代わりじゃないんですかー?」
 美琴と空護が口を添える。
 そして、その女性も、
「あ、申し遅れました。リュンさんの代わりに先導としてクリーチャー世界から来ました、氷麗です。よろしくね」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「……普通の人間にしか見えねぇ……」
 リュンの時もそう思ったものだが、クリーチャーというのは意外と人型が多いのだろうか。
「じゃあ早速だけど、向こうに転送するよ。三人ずつ連れて行けってリュンさんには言われてたけど、今日は誰が行くの?」
「固定の剣埼先輩と、私と」
「僕です」
 今日のメンバーは事前に決めていた。毎回固定の一騎と、美琴と空護だ。
「じゃあ、あたしらは留守番してるから。頑張ってこいよ」
「健闘を祈るっす! 先輩方、ご達者で!」
「ハチ公、それ使い方間違ってるからな」
 と、そんな見送りに見送られ、一騎たちはクリーチャー世界へと飛ぶのであった。



 そこは、プルガシオンという街だった。道も壁も家も白く塗られた、清潔感溢れる町なのだが、
「白すぎて落ち着かないな……」
「もう少し黒っぽいところとかないんですかねー」
 一騎と空護は、その白さに若干参っていた。右も左も真っ白で、違和感を感じるのだろう。
「ここは光文明よりの、光と闇の領地の堺にある街……リュンさんから聞いた話では、あなたたちの探している人は光文明使いらしいから、比較的安定しているこの街のクリーチャーならなにか知っているかと思ったのだけれど」
「……確かに、恋は光文明をよく使ってたな……」
「…………」
 どこか憂うような一騎の言葉に、黙り込む美琴。視線を逸らせば、空護も同じような感じだった。
 一昨日、一騎がリュンを連れて来た日、一騎が飛び出した後のミシェルの言葉を思い出す——



「——妹分だ」
 ミシェルは剣埼一騎と日向恋の関係を、そう表現した。
「妹……分?」
「義理の妹とかではなく、ですか?」
「ああ。血縁関係はないらしい」
「そのわりには剣埼先輩、随分と日向さんのこと気にかけてますよね」
「そこはあいつの性分と、昔なんかあったとか言っていたが、詳しくはあたしも知らない。ただ」
「ただ?」
「『俺は恋を絶対に守らなきゃいけないんだ』とだけ言ってた」
 あまり似ていない一騎の声真似だったが、その言葉だけで一騎がどれだけ必死なのかが、多少なりとも伝わってくる。
「元々あいつと日向は、ここから少し離れたところに住んでたらしくてな。で、なんかあって日向がこっちに引っ越してきた時に、一騎の奴も一緒に引っ越してきたらしい。しかも、わざわざ日向の住んでるマンションの近くのアパートの部屋を借りてな」
「うわ、凄いっすね部長。あの子のために引っ越しっすか」
「流石にそこまで来ると軽く引きますねー」
「でもそれだと、剣埼先輩は一人暮らしということになりませんか? 話を聞く限り剣埼先輩の過保護で引っ越したみたいですし、ご両親とかは……」
「……あいつの両親は他界している。どっちもな」
 刹那、部室の空気が静まり返り、重圧感を持つ。
「他界って、もういないってことですか……そんな大事なこと、本人がいないところで言ってもいいんですか……?」
「あいつもいつ打ち明けようか、とか言ってたから、ちょうどいいだろ。小学校の何年だったかの時に、事故で亡くなったらしい。そしてその時に世話になったのが、日向家だった」
「つまり、部長は日向家の皆さんにお世話になってるから、その子供である日向恋さんのことを大事にしてる、ってことっすか?」
「それもあるんだろうけど……それだけじゃなさげだな。それ以上はあたしも知らないが」
 だが、恐らく今の一騎の過保護を形作っているのは、過去のことが関係しているはずだ。
 日向恋と、剣埼一騎が転校して来る前の、過去の話が——



 プルガシオンの街で情報を集めることが目的なので、そこは昨日と同じ理屈で、とりあえずこの街を取り仕切るクリーチャーに話を聞こうということになった。
 なのでとりあえず、この街の中央にそびえる城を訪ねる一向。今回も門番はいたが、アウトレイジたちのように血の気が多いわけでもなく、氷麗の丁寧な対応で、すんなり通ることができた。
 そして、
「あなた方ですか。私に会いたいという方々は」
 玉座の間。その奥に坐するのは、一体の精霊龍。
 《天団の精霊龍 エスポワール》だった。
「私に何用でしょうか」
「はい。実は私たちは、人間の女の子を探しているんです」
「こんな子なんですけど」
 単刀直入に、一騎は恋の写真を見せる。
「見覚えはありませんか?」
「……今、人間と仰いましたよね」
 エスポワールは少しだけ考え込むと、そう言った。
「私はこの人間を見た覚えはありませんが、人間を見たことがあるという報告を受けたことがあります」
「本当ですか!?」
「はい。この光文明の領地から少し離れた、闇文明の領地で見たそうです」
 早くも見えてきた恋の手がかり。それを聞き一騎は、いても立ってもいられなくなる。
「ありがとうございました! みんな行こう! 急いで恋を——」
「行くのは自由ですが、気を付けてください」
 駆け出そうとする一騎に、エスポワールは忠告する。
「人間を見たという報告は、闇文明の大都市、大罪都市グリモワールの一角でありました。最も光文明の領地に近い場所に位置する、プライドエリアで」
「プライドエリア?」
「リュンさんから聞いたよ。闇文明は、いち早くクリーチャーを集めて集団を形成し、都市を作り上げたと」
 氷麗が言うには、その作り上げた都市は数多くの区画や町に分類されており、その場所を治めるクリーチャーの名前を冠しているらしい。
「でも、かなり強引にまとめた上に都市の政治はほとんど機能していないから、各エリアでほぼ完全な自治区になっているみたい」
「……なんでもいいよ。俺は恋を探す。そこで恋を見たというのなら、行くしかない」
「他に情報もありませんし、とりあえず行ってみるに越したことはなさそうですね」
 一騎に加え美琴も賛同し、一同の方針はひとまずそのプライドエリアなる場所へ向かうということとなったのだが、
「…………」
「焔君? どうしたの?」
「いや、なーんかあのクリーチャー、キナ臭いというか胡散臭いというか、信用ならない気がしましてねー……」
「そうかな? 親切で丁寧なクリーチャーだと思ったけど」
 城を出てから、そんなことを言う空護。しかし一騎には同意しかねる言葉だ。
「まあ、いいんですけど」
「?」
 しかし最終的には、真意を読み取れない一言で片づけてしまう。
 なにはともあれ。
 一行は光文明の地から一旦離れ、闇文明の領地、大罪都市グリモワールの一角に存在するプライドエリアを目指すこととなった。

烏ヶ森編 6話「プライドエリア」 ( No.106 )
日時: 2014/05/28 17:43
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 プライドエリアは、一言で言えば廃墟だった。
 昨日訪れた無法の町も荒れていたが、ここはむしろ廃れているとでも言うよう、生活感が感じられないゴーストタウンの如き場所だ。
「恋、こんなところでなにをしてたんだろう……?」
「あまり穏やかな感じはしませんねー」
 そんなことを言いながら進んでいく一行。そしてたどり着いた、エリアの奥地。
 そこはゴミ捨て場だった。鉄くずや瓦礫や鉄骨、さらにはよく分からないスクラップなど、とにかくそれらが積み上がったゴミの山が形成されている。
 そしてその山の頂に立つのは、一体のクリーチャー。
「なんだお前ら? この《傲慢の悪魔龍 スペルビア》様になんの用だ?」
 蝙蝠のような翼を広げ、そのクリーチャー——スペルビアは威圧するように一騎たちを見下ろす。
「……実は俺たち、人間の女の子を探してるんです。この場所に来たって聞いたんですけど、知りませんか?」
「人間の女だぁ? なんか聞き覚えがあるような……」
 スペルビアはなにか思い出すようにぶつぶつ言っていたが、やがて、
「まあ、知ってたとしてもお前らみたいなどこの馬の骨かも分かんねー奴に言うつもりなんざないがな! ヒャハハハハ!」
「なんかムカつきますねー、このクリーチャー。偉そうで」
 傲慢の悪魔龍などと呼ばれているのだから当然かもしれないが。
「どうします、剣崎先輩。このままだとなんの情報もなく帰ることになりますが」
「せめて知らないなら知らないで正直に話してくれればな……」
 しかしスペルビアの性格から考えると、それは難しそうだ。
 そう思っていると、
「……気が変わった。ファンキー・ナイトメアどもを甚振るのも飽きて暇してたところだし、ちょうどいいカモが来た」
 スペルビアはグイッと一騎たちに顔を近づける。
「俺様を倒せたら、教えてやらんでもないぞ」
「っ、本当ですか!?」
「ああ。俺様はライラライの野郎とは違うからな、嘘はつかねー」
 その発言自体が正直信じがたいものであったが、ここは信じなければ先に進まないだろう。
「よし、じゃあ早速。テイン——」
「待ってください、剣崎先輩」
 一騎がデッキに手をかけて前に出ようとするのを、美琴が制した。
「黒月さん……な、なに?」
「先輩は人が良すぎでまっすぐぎです。こんな見るからに怪しいクリーチャー相手だと、足元をすくわれかねません」
「そ、そんなことないと思うけど……」
「それについては僕も同意ですかねー。部長はお人よしが過ぎるところがあると思いますー」
「ほ、焔君まで……」
「なので、私が行きます」
 そう言って、デッキを手にするが、
「……あ、でも《語り手》のクリーチャーがいないと神話空間は開けないんじゃなかったっけ」
「え……そうだったんですか?」
「神話空間とかいう場所でデュエマするのは聞いてましたけどー、それは初耳ですよー」
 確かあの時、ミシェルはリュンの力でカードに神話空間を開くだけの力を与えていたが、今ここにリュンはいない。しかし、
「あ、それなら大丈夫・リュンさんから力の一部を預かってきてるから、それをカードに押し込めば神話空間を開けるって」
「そうなんだ……よかった」
「いや、力を預かってきたって、そこツッコむところじゃないんですか?」
「部長はたまにボケますよねー……」
 ともあれ。
 リュンの力の一部とやらを美琴のカードに押し込み、準備は完了した。
「もういいか? あんまり俺様を待たせるなよ」
「そんなの、こっちの知ったことではないわ。さっさと終わらせましょう」
「生意気な……後で後悔するなよ!」
 刹那。
 美琴とスペルビアを包む、神話空間が展開される——



 美琴とスペルビアのデュエル。
 美琴のシールドは四枚あり、場には《死神ギガアニマ》《滅城の獣王ベルヘル・デ・ディオス》。
 スペルビアのシールドは五枚。場には《ボンバク・ボッボーン》と《ポーク・ビーフ》が一体ずつ。
「ヒャハハハハ! 見せてやるぜ、俺様のターン! 呪文《キリモミ・ヤマアラシ》!」
 スペルビアが唱えるのは、次に召喚するクリーチャーのコストを1下げつつ、スピードアタッカーを付加する呪文《キリモミ・ヤマアラシ》。
 要するに手札のクリーチャーにスピードアタッカーを付けるような呪文であり、手札消費は激しいが奇襲性は高い。
「そして次に呼び出すのは……この俺様だ! 《傲慢の悪魔龍 スペルビア》を召喚!」
「出て来た……!」
『《キリモミ・ヤマアラシ》の効果で俺様はスピードアタッカー! そして……Tブレイカーだ!』
 直後、美琴のシールドが三枚砕け散る。
 いくら他に能力のない準バニラ染みたクリーチャーとはいえ、この打点はきつい。しかし、割られたシールドの一枚が光の束となり収束する。
「っ……S・トリガー《地獄門デス・ゲート》! 《ボンバク・ボッボーン》を破壊!」
 S・トリガーでアタッカーを潰し、追撃を許さないが、《ボンバク・ボッボーン》はコスト2。墓地に1コストのクリーチャーがいないのでリアニメイトはできない。
「私のターン……呪文《ボーンおどり・チャージャー》、さらに二体目の《死神ギガアニマ》を召喚。一体目の《ギガアニマ》の能力で、墓地の《死神盗掘男》を回収。そして《ベルヘル・デ・ディオス》で攻撃!」 
 《スペルビア》のシールドを二枚割り、ターンを終える美琴。今はまだこれだけだ。
『それだけか? もしかして、俺様がいるからお前の身は安全だとでも思ってんのか?』
「……? どういうこと?」
『なんだぁ? 俺様の能力を知らないのか。だったら冥土の土産に教えてやる。俺たちデーモン・コマンド・ドラゴンは、ファンキー・ナイトメアどもの罪に対して罰を与える存在なんだが、その与える罰ってーのが、俺たちに架せられた罪に対応している。特に俺様に与えられた罰っつーのが強烈でな、この俺《傲慢の悪魔龍 スペルビア》が場にいる限り、俺様はゲームに勝利できねーんだ』


傲慢の悪魔龍 スペルビア 闇文明 (6)
クリーチャー:デーモン・コマンド・ドラゴン 15000
T・ブレイカー
自分はゲームに勝てず、相手はゲームに負けない。


 それでこの破格のスペックなのだ。コストのわりにパワーも打点も高いが、代わりにゲームに勝てなくなる。それが《スペルビア》に架せられた罰。
『だから俺様が、この後いくらお前をぶん殴っても噛み千切っても、俺様の勝ちにはならない』
「…………」
 《スペルビア》が饒舌に語る様を、美琴は黙って聞いていた。《スペルビア》はそれをどう取ったのか、さらに続ける。
『なんでそんなことを言うのか、っつー顔してんな。簡単な話だ、勝つのは俺様なんだからな!』
 勝のは俺様、などと言っているが、それは《スペルビア》自身の能力で不可能だ。美琴が《スペルビア》を除去しないように気を配れば、安全にとどめを刺すことができる。
 ——などという考えは、流石に甘い。
『俺様のターン! 呪文《キリモミ・ヤマアラシ》! そして……《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚!』
「っ!」
 刹那、美琴は理解した。
 《スペルビア》のデメリットは確かに大きい。勝利に辿り着けなくなるその罰は、ゲームの根幹に干渉するがゆえに、かなり手痛いデメリットだ。
 そしてそのデメリットを打ち消すにはどうすればいいか。簡単な話だ——
『《オルゼキア》の能力で俺様を破壊! ヒャハハハハハ!』
 ——自分自身を破壊してしまえばいい。
 幸いにも、闇文明は自壊するカードが多い。《スペルビア》のデメリットを効率よく打ち消すのは簡単なことだろう。
「さぁ、お前はクリーチャーを二体破壊しな!」
「……《ギガアニマ》二体を破壊」
「さらに《オルゼキア》はスピードアタッカーだ! 最後のシードをブレイク!」
 《オルゼキア》の刃が、美琴の最後のシールドを切り裂いた。
「これで次のターンには俺様の勝利だ! ヒャハハハハハハ!」
 高笑いするスペルビア。確かにこの状況はスペルビアが優勢だが、しかし高笑いするにはまだ早い。
 なぜなら、美琴はまだ切り札を隠しているのだから。そして、
「……《電脳封魔マクスヴァル》を召喚。《ベルヘル・デ・ディオス》を進化——」
 死神の明王が、奈落の底より這いずり出す——

「——死神よ! 戦場に蘇れ! 《死神明王バロム・モナーク》!」


死神明王バロム・モナーク 闇文明 (7)
進化クリーチャー:デーモン・コマンド 12000
進化—自分のデーモン・コマンドまたは名前に《死神》とあるクリーチャー1体の上に置く。
自分のデーモン・コマンドまたは名前に《死神》とあるクリーチャーがバトルに勝った時、クリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー


 《バロム》と《モナーク》の血統が混じり合い、地獄の底で死神の力を得て明王となった悪魔神、《バロム・モナーク》。
 その深淵の唸りが響き渡る。
「なに……!?」
「《バロム・モナーク》で《オルゼキア》を攻撃!」
「ちっ、《ポーク・ビーフ》でブロック!」
 アタッカーを消されてはまずい。そう考えたスペルビアは《ポーク・ビーフ》で《オルゼキア》を守るが、その時《バロム・モナーク》の能力が発動する。
「私のデーモン・コマンドか《死神》がバトルに勝った時《バロム・モナーク》の能力発動! 墓地から《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》をバトルゾーンへ!」
「くそっ、俺様のターン!」
 大型クリーチャーを出されて焦りを見せるスペルビア。ここで《マクスヴァル》を除去できればとどめまで行けるが、
「……《ボンバク・ボッボーン》二体と《ポーク・ビーフ》を召喚! 《オルゼキア》でダイレクトアタックだ!」
「《マクスヴァル》でブロック!」
 除去カードが手札になかったようで、とどめまで刺せずにターンを終える。
「私のターン。さあ、ここから反撃よ」
 手札が切れているスペルビアとは対照的に、序盤からしっかりと地盤を固めていた美琴の手札は潤沢、マナも豊潤で、大抵のことはできる。
「まずは《ボーンおどり・チャージャー》を発動。続いて《死神の邪険デスライオス》を召喚して、《デスライオス》自身を破壊。そっちも一体破壊して」
「なら俺様は《ボンバク・ボッボーン》を破壊する! 破壊時能力で《ベル・ヘル・デ・ガウル》のパワーをマイナス2000!」
「だけど、相手クリーチャーが破壊されたことで《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力が発動!」


死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド 6000
相手のクリーチャーが破壊された時、自分の山札をシャッフルした後、上から1枚目を表向きにする。そのカードが進化ではないデーモン・コマンドであれば、バトルゾーンに出す。それ以外の場合、自分の手札に加える。
W・ブレイカー


 相手クリーチャーの破壊に反応し、山札から後続の悪魔を呼び出す《ベル・ヘル・デ・ガウル》。《ボンバク・ボッボーン》の死に反応し、美琴の山札が捲られる。
「……捲れたのは二体目の《デスライオス》よ。再び《デスライオス》を破壊!」
「くっ、二体目の《ボンバク・ボッボーン》を破壊! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》のパワーをマイナス2000!」
「この時《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動! 山札を捲って、《狼虎サンダー・ブレード》をバトルゾーンに! 《オルゼキア》を破壊!」
「ぐぬぬ……!」
 再びスペルビアのクリーチャーが破壊され、山札が捲られる。
「……これは手札へ。さらに、三体目の《デスライオス》を召喚!」
 能力で美琴の《デスライオス》と、スペルビアの《ポーク・ビーフ》が破壊され、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力で山札から《ベルヘル・デ・ディオス》が現れる。
 気付けばスペルビアの場は全滅、美琴の場は悪魔だらけとなっていた。
「《バロム・モナーク》でTブレイク!」
「S・トリガー《デーモン・ハンド》! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》を破壊だ!」
 なんとかS・トリガーで凌ぐスペルビア。しかし、たった一体のクリーチャーを破壊した程度では、戦況は変わらない。スペルビアは返しのターンに軽量ファンキー・ナイトメアを並べるだけで、ターンを終えた。
 そして、そんな傲慢の悪魔龍に、死神明王の罰が課せられる——

「《死神明王バロム・モナーク》で、ダイレクトアタック——!」

烏ヶ森編 7話「策略」 ( No.107 )
日時: 2014/05/29 03:28
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「……畜生、俺様が負けるとは……!」
「なににおいても慢心は命取り。これからは気をつけることね」
「それよりも」
 デュエルが終わり、敗北して悔しさに唸るスペルビア。そこに一騎が割り込んだ。
「人間の女の子は? 見たことあるんですか?」
「知るわけねーだろ、人間なんざ普通は見ねーよ」
「えぇー……」
 ガックリと肩を落とす一騎。美琴や空護はスペルビアの言動から大して期待していなかったが、一騎はそうではなかったらしい。
 さて、スペルビアが人間を見ていないとなると、また行き詰ってしまう。
「どうしようか……一度エスポワールのところに戻る?」
「エスポワールだと? お前、今エスポワールって言ったか!?」
「え、うん……な、なに? エスポワールが、どうかしたの?」
 エスポワールという名前に食いつくスペルビア。さらに、そのまま怒気を込めた唸りを上げる。
「あの野郎、人間どもをけしかけて俺様の領地を奪うつもりか……くそがっ!」
「ど、どうしたの……?」
 急に憤慨するスペルビア。一同がその様子に戸惑っていると、
「お前ら全員騙されてんだよ! エスポワールはお前らを使って俺様の地位を落とし、闇の領地を削るつもりなんだ!」
「そんなこと分かるの?」
「ああ。エスポワールは光の連中の中でも、狡猾な奴だ。光の領地を広げるために、俺様たち闇の領地を削ろうとしたことが今までに何度もあった」
 実際、闇の領地は既に一部が光文明に取り込まれてしまったらしい。
「ってことは、エスポワールがここで人間を見たって情報は……」
「全部でまかせだよ! くそっ、相変わらず気に食わねー……!」
 よほどエスポワールに恨みでもあるのか、怒り心頭で悪態をつくスペルビア。
「こうしちゃいられねー。俺様の安息地のためにも手を打っとかねーと!」
 そして、蝙蝠のような翼を開き、そのままどこかへ飛び去ってしまった。
「……どうする、みんな?」
「あのクリーチャーの言うことが真実なら、私たち、騙されてたみたいですね」
 真実なら、とは言うものの、あの様子が演技だとは思えない。
 やはり一騎たちは、エスポワールにいいように使われていただけなのだろうか。
「自分の領地を増やすために、他文明の領地を削り取るということ自体は、今の世界だと普通にあるって、リュンさんは言ってたかな」
 だが、それは決してほめられたことではない。各文明の領土の広さもまた、最適なバランスが保てるよう十二神話の時代で規定されていたのだ。それが崩されるということは、回り回って見れば世界の調和を乱すことに繋がる。
「流石にこのまま黙って帰る、ということはできませんよねー」
「はい。もう一度エスポワールのところに戻りましょう」
「……氷麗さんは?」
「私は皆さんの意見に賛同するだけだよ」
 リュンさんの代わりだからね、と付け足す氷麗。
「俺としては、あんまりこういうクレームみたいなことはしたくないんだけど……」
「剣埼先輩はそういうところが甘いんですよ。言うべき時にはビシッと文句を言わなくては」
「ですねー。そうでなくとも、このままなにも言わずに帰ると腹の虫が収まりそうにないですしー」
「……分かったよ」
 一騎は乗り気ではないようだが、しかし後輩二人の熱烈な意向により、エスポワールの下へと戻ることとなった。
「あ……その前に氷麗さーん、ちょっといいですかー?」
「なに?」
「先に僕のカードを神話空間を開けるようにしておいて欲しいんですけどー?」
「それは構わないけど……どうしてですか? 必要な時にそうすればいいと思うけど……」
「ただの用心ですよー、こういうのは早い方がいいですしね」
「まあ、確かに……」
 いまいち空護の真意が読み取れないが、ともかく氷麗はリュンから預かった力を空護にカードに押し込み、神話空間展開可能とする。
「……終わった?」
「ええ。そんじゃ、行きましょうかー」
 こうして、一同はプライドエリアから出る。
 そして再びエスポワールの座す、プルガシオンの街へと向かうのだった。



「……でもさ」
 プルガシオンの街、その中央に建つ城を前にして、
「これって、もうただのクレームだよね? わざわざそんなこと言いに来なくても……」
「いいえ、こういうのはきっちりしないといけません。悪いものは悪いとはっきり言うものです」
「でもさ……」
「一騎、ここは逆に考えてみようよ。プライドエリアで人間を見た情報が偽りでも、人間を見たという情報そのものが偽りだとは限らないよ」
「! そうか、そうだよね……!」
「納得早い……」
「あれがうちの部長ですからねー」
 それより、と空護が言う。
「部長の言う通り、これって相手からしたらただのクレームなのには変わらないんですよねー。だから馬鹿正直に文句だけ言っても突っ撥ねられるだけだと思いますよー」
「ん……それもそうね」
「なのでちょっと荒っぽい方法ですけど、人間を見たという情報を聞いて、教えてくれなかったら神話空間に引きずり込んで無理やり白状させればいいんですよ。部長や黒月さんなら、そんじょそこらのクリーチャーに負けはしないでしょう」
 確かにスマートなやり口ではないが、決して悪くはない。一騎たちを騙すようなクリーチャーだ、脅しっぽいが、こちらが戦う姿勢を見せれば臆するかもしれないし、逆に強気に出るかもしれない。相手の対応に対して、こちらの対応も変えるというのだ。
「んー……まあ、焔くんが言うなら、それでいいんじゃないかな……?」
「じゃあ僕は、エスポワールを倒した後に報復してくるクリーチャーが来ないよう、退路を確保しときますねー」
「君は行かないの!?」
「はい」
 じゃないと作戦になりませんよー、と付けす空護。
「なんだかな……でもまあいいか。焔君を信じるよ」
 こうして空護一人を残し、残る三人は城の中へと入っていくのだった。
 そして残された空護は、三人が見えなくなると、
「……さて、僕も行きますかねー」



 最初の時と同じく、すんなりと城の中に入れた一騎たち。そして通された、エスポワールの坐する部屋。
 そこで、エスポワールと再び対面する。
「思ったより早かったですね。またここに来るとは、どうかなさりましたか?」
「えーっと、実はさっき言われたところに行ったんですけど、そこを治めてるっていうクリーチャーが人間は見てないって言ってて……」
「先輩、そんな曖昧な言い方じゃダメです。ここはズバッと言わないと」
 と言って、一騎を押し退けて前に出る美琴は、まっすぐにエスポワールを見据える。
 そして、ズバッと斬り込んでいく。
「あなた、私たちを騙しましたね?」
「その根拠は」
「プライドエリアで出会ったクリーチャー……スペルビアだったかしら。彼の証言よ」
「所詮は闇文明のクリーチャーが言うこと。それを真実と受け取ってよろしいのですか」
「彼の挙動が演技だったとは思えない。それに、彼は私に負けている。その上で演技までして私たちをあなたのところへけしかけるのはリスキーすぎる。以上の事から、あなたが光の領地を増やすために私たちに嘘の情報を吹き込んで、闇文明にダメージを与えようとしたと見るのが自然よ」
「……ふむ」
 エスポワールがそう頷くと、

「そこまで理解しているのならば、このまま帰すわけにはいきませんね」

 刹那、部屋のあらゆる物陰から一斉にクリーチャーが飛び出した。
「っ! これ……!」
「武力行使に訴えて来たみたいです……!」
 クリーチャーは皆、翼を持ったジャスティス・ウイング。見るからにエスポワールの手のかかったクリーチャーたちだ。
「とりあえず、対処しないと……テイン!」
「多勢でかかってくる可能性は予想してなかったわね……!」
 一騎はテインを呼び寄せ、美琴もデッキを構えて応戦しようとするが、
「……《アンドロム》」
「っ!」
 次の瞬間、一騎の身体が硬直し、そのまま受け身も取れず地面に倒れ込む。
「先輩——」
 振り返った美琴も、一騎と同じように体が崩れ落ちた。
「なに、これ……体、動かない……!」
「《アンドロム》の力ですよ。光の力を武装し、相手の動きを封じるのです」
 《聖歌の翼 アンドロム》の能力は、マナ武装で相手クリーチャーをフリーズすること。その能力で、二人の動きを止めたようだ。
「そちらの方はどうしますか? 大人しくしていれば、なにもしませんが」
「……まあ、どうしようもないかな……」
 エスポワールの視線が氷麗に向く。なにもしないというのは、氷麗自身というだけでなく、身動きの取れない一騎や美琴にも、ということもあるのだろう。氷麗は諦めたように両手を挙げた。
 周囲をクリーチャーに囲まれ、一騎も美琴も動けない。
 まさかこんな大量のクリーチャーで反抗して来るとは思わなかった。このままジッとしていてもまずいが、かと言って抵抗することもできない。
 絶望的なまでに危機的な状況。だがこれが、もしも計画されたシナリオだった場合、その危機は危機ではなくなる。

「——予定通りというか予想通りというか、思った通りにことが進んでますねー」

 その時、声が聞こえた——

烏ヶ森編 8話「裏」 ( No.108 )
日時: 2014/06/08 03:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 どこからか聞こえる声。その声は、一騎たちのよく知る彼の声に他ならなかったのだが、
「焔君……? え、どこにいるの?」
「ここです」
 ガコン、と。
 床のタイルが外れ、中から焔が這い出て来た。
「いやー、意外とこの城、抜け道多いですねー。部下に裏切られた時の事でも考えていたんでしょうか? ハハハ」
 などと白々しく笑う焔は、エスポワールに向く。
「まーこんなことだろうとは思ってましたけどー、寸分違わず僕の読み通りに行動してくれるなんて、あなた黒幕には向いてないですよー」
「一人足りないと思っていたら……流石に、少々驚きました」
 エスポワールは静かに口を開く。確かに彼は驚いた。この状況で空護が現れるとは夢にも思わなかった。
 だが、それはそれだ。
 一騎たちと同じように、対処すればいいだけの話。
「アンドロム」
「おっと、危ないですねー」
 しかしアンドロムの対象をフリーズさせる光を、空護は軽く避ける。それが避けたという動作だと認識するために時間を要するほど、自然な動きだった。
「……アンドロム聖歌隊、一斉——」
「させませんよ」
 と、次の瞬間。
 瞬間的に駆け出し、一息でエスポワールとの距離を詰めた空護。そしてその手には、デッキが握られていた。
「氷麗さんに力を貰っといて良かったですー……いや、あれはリュンさんのでしたっけ? なんでもいいですけどー」
 なんにしても、これで誰にも邪魔されず、エスポワールを叩き潰せる。
 胸中でそう呟いた刹那、空護とエスポワールは神話空間の中へと引きずり込まれるのだった。



「まさか、このような伏兵がいるとは……」
「そういう性分というか、性というか、まあ僕はそんな奴なんですよー」
「……まあいいです。この場所での戦闘だからといって、私が負けるということはあり得ません」
「それ、死亡フラグっていうんですけどねー」
 そんなこんなで始まった、空護とエスポワールのデュエル。
 互いにシールドはまだ五枚。ただし空護は《エメラル》でシールドを一枚仕込んでいる。
 空護のバトルゾーンには《土隠妖精ユウナギ》《土隠雲の超人》。
 エスポワールの場には《蒼天の翼 ラウ》《聖歌の翼 アンドロム》《封魔聖者シャックル・アーマ》
「さあ、そろそろ本番ですよ。私のターン! 《シャックル・アーマ》でコストを下げ、呪文《ドラゴンズ・サイン》!」
 《ドラゴンズ・サイン》は、光の新たな踏み倒し呪文の一つ。手札から光のドラゴンを一体コストを踏み倒して呼べる呪文だ。
「その能力で、手札よりこの私《天団の精霊龍 エスポワール》をバトルゾーンに!」
「早速出ましたねー」
 相手の切り札が出たが、さしたる焦りは見せない空護。そのまま、マイペースに自分のターンを進める。
「んー……とりあえず《エマージェンシー・タイフーン》を撃っときますかー。カードを二枚引いて、手札を一枚墓地へ。さらに《アクア・スーパーエメラル》を召喚して、ターン終了ですー」
『そんなことでいいのですか? 私のターンですよ』
 これで、前のターンに呼び出した《エスポワール》が攻撃可能となった。遂に攻めてくる。
『《斬隠テンサイ・ジャニット》を召喚。《ユウナギ》を手札に戻し、私で攻撃。その時、私の能力が発動します』


天団の精霊龍 エスポワール 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 9500
ブロッカー
このクリーチャーが攻撃する時、バトルゾーンにある自分の「ブロッカー」を持つクリーチャー1体につき、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選び、タップしてもよい。
W・ブレイカー


 攻撃時、ブロッカーの数だけ相手クリーチャーをタップするのが《エスポワール》の能力。《エスポワール》の場には三体のブロッカーがいるので、
『あなたのクリーチャーはすべてタップですよ! そしてWブレイク!』
「……S・トリガーは、ないですねー」
『ならば《ラウ》で《土隠雲の超人》を、《アンドロム》で《アクア・スーパーエメラル》をそれぞれ攻撃! 破壊します!』
「うーん、やられちゃいましたねー」
 口ではそう言うものの、やはり口だけに見える空護。
「僕のターン。《エマージェンシー・タイフーン》でカードを二枚引いて、一枚を墓地へ。さらに《ユウナギ》を再び召喚。ターン終了ですー」
『やはりその程度ですか。ならばこのターンで私の勝利です!』
 そう高らかに宣言する《エスポワール》。そして、
『呪文《ダイヤモンド・ソード》!』
「……!」
 ここで、少しだけ目を見開く空護。
 《ダイヤモンド・ソード》の効果で、《エスポワール》のブロッカーはすべて攻撃可能となった。つまり、アタッカーが五体となったのだ。
 対する空護のシールドは残り三枚。
『私で攻撃! その時、《ユウナギ》をタップ! Wブレイクです!』
「…………」
『どうせこのターンで終わりますが、念のためです。《ラウ》で《ユウナギ》を攻撃!』
「おっと、それは通しませんよー。ニンジャ・ストライク4、《威牙忍ヤミノザンジ》を召喚。《ラウ》のパワーをマイナス2000して破壊」
 《ラウ》が《ヤミノザンジ》の吐き出す瘴気にやられ、墓地へと送り込まれる。
『む……』
 その様子を見て、《エスポワール》は少し考え込む。
『クリーチャーを潰してからの方が良いと思いましたが……シノビやS・トリガーでクリーチャーを削られて、とどめを刺せないなどという事態があるのは面白くありません。私のシールドはまだ五枚あることですし、ここは普通に攻撃しましょう。《テンサイ・ジャニット》で最後のシールドをブレイク!』
「……来た」
 ニヤリと、空護が笑みを見せる。
 《テンサイ・ジャニット》に割られた最後のシールド。それは、空護が一番最初に仕込んだシールドだ。
「やっと割ってくれましたねー、街に待って待ちくたびれましたよー」
『……? なにを言っているのですか?』
「こういうこと……S・トリガー発動」
 砕けたシールドの破片が、光の束となり収束する——

「——《霊騎秘宝ヒャックメー》召喚」

霊騎秘宝ヒャックメー 光/闇/自然文明 (5)
クリーチャー:アーク・セラフィム/パンドラボックス 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
S・トリガー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の手札をすべて捨てる。このようにして手札を1枚も捨てない場合、このクリーチャーを破壊する。
W・ブレイカー


 シールドから飛び出したのは、百の目玉を持つ異形のクリーチャーだった。
「《ヒャックメー》の登場時能力発動。僕の手札をすべて墓地へ」
『それは好都合ですね。自ら手札のシノビを捨てるとは』
「なにか勘違いしてません? 確かに僕の手札にはシノビがいますけどー、なにもシノビはニンジャ・ストライクしかしないわけじゃないんですよー」
 次の瞬間、《ヒャックメー》の吐き出す炎が空護の手札を焼き払う。しかし、そのうちの三枚だけは燃えずにバトルゾーンへと飛び込んでいく。
「《斬隠蒼頭龍バイケン》三を体バトルゾーンへ!」


斬隠蒼頭龍(きりがくれそうとうりゅう)バイケン 水文明 (6)
クリーチャー:ポセイディア・ドラゴン/シノビ 6000
W・ブレイカー
相手のターン中にこのクリーチャーが自分の手札から捨てられる時、墓地に置くかわりにバトルゾーンに出してもよい。そうした場合、バトルゾーンにあるクリーチャーを1体選び、持ち主の手札に戻してもよい。
自分のシノビの「ニンジャ・ストライク」能力を使った時、カードを1枚引いてもよい。


 手札から水飛沫を散らしつつ現れるのは、シノビの頭領。
「《バイケン》の能力で《バイケン》がバトルゾーンに現れた時、相手クリーチャーを一体手札に戻します。 三体いるので《アンドロム》《シャックル・アーマ》そして《エスポワール》をバウンス!」
「っ! そんな……!」
 一瞬でバトルゾーンのクリーチャーを吹き飛ばされるエスポワール。しかも、これでエスポワールのターンは終わりだ。
「ターン終了時に《ユウナギ》の能力で《ヤミノザンジ》を山札に戻す代わりにマナゾーンへ! そして僕のターン!」
 フッと空護の引くカードに陰りが見える。その影は、一気に戦況を巻き返した空護と共に、さらに追い打ちをかけるように表舞台へと姿を現すのだった。

「シノビ流狩猟忍法、毒ガマの影討ち! 現れよ、《ゲロ NICE・ハンゾウ》!」


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