二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 烏ヶ森新編 27話「■龍■報」 ( No.229 )
- 日時: 2016/03/14 06:59
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
灼熱の太陽が降り注ぐ。雲一つない青空は、遙か遠くの宇宙から届けられる熱と光を遮ることなく、地上へとそれらを通過させる。
地面は熱され、足下が熱い。目の前に広がる、土と空の間に見える黒い影は、ゆらゆらと蠢いている。
「…………」
なにかが唸っているようだった。身体の芯が熱を帯びているようだった。
なにかを語りかけているのだろうか。なにかを呼びかけているのだろうか。
だとすれば、応えなければならない。警報のように、意識のどこかではそれを拒んでいるが、見て見ぬふりも、聞いて聞かぬふりもできない。
彼らは、なにを言って、なにを伝えようとしているのかーー
「——一騎! そっち行ったぞ!」
「……え?」
バンッ!
と、顔面に凄まじい衝撃を受け、その激痛によって一騎は現実に引き戻された。
一騎は盛大に後ろ向きに倒れ込む。一拍遅れて、横でポーンポーンと、ボールが弾む音が聞こえる。
同時に駆け足の音も聞こえてきた。一騎が上体を起こすと、すぐ横にはサッカーボールが、目の前には級友の姿があった。
「おーい、一騎! なにやってんだよ! 大丈夫か?」
「う、うん、大丈夫……ごめん、ちょっとぼーっとしてた」
「熱中症かー? なんでもいいけど、気をつけろよ。ただでさえ、夏の体育にもかかわらずプールも使えないんだからな」
そう言うと、彼はボールを回収して、また走り出した。一騎も立ち上がり、今が体育の授業中だったことを思い出す。
そしてまた、走り出した。
どこか不安を煽る足取りで。
「なにやってんだ、あいつ……」
ミシェルはふと呟く。
女子がハンドボールをしている傍ら、男子はサッカーをしているのだが、一騎が顔面にボールを食らってノックダウンしたのが見え、思わず口に出てしまった。
「つきにぃ……痛そう」
「あれは完全にあいつの不注意だけどな……って、お前いたのかよ!」
いつの間にか真横に現れていた恋。影が薄いわけではないのだが、小柄なせいもあり、いまいちそこにいるという実感の薄い後輩だ。
「お前も同じグラウンド組だったか……自分のクラスの授業はどうした?」
「……休憩中」
「サボるなよ」
「そういうミシェルは……?」
「休憩中だ。つーか、二つも上の先輩を馴れ馴れしく呼び捨てるな」
恋が入部してそれなりに月日が経ったが、いくらミシェルが指摘しても、彼女の口は相変わらずだった。
部活に馴染んでいるのは構わない、むしろいいことだ。上下関係も、そこまで強く押し付けるつもりはない。しかし、せめて礼儀として、形の上だけだけでも先輩に対する口の利き方ができないものか、とも思う。
(とか、そんなこと考えても無駄なんだろうな……)
妙に我が強いというか、意固地というか、もっと控え目な性格かと思っていたが、話してみると案外そうでもなかった。感情の起伏が乏しいからそのような先入観があったが、それは元々そういうものであって、特に関係はないようだ。
そんな生意気な彼女だが、決してこちらをからかっているのではなく、素というところがまた悩ましい。悪気はないと好意的にとるべきか、余計にタチが悪いと考えるべきか。
(……ま、あいつは少なくとも、前者だろうけどな)
などと思いながら、ふと視線を動かす。
だが、ミシェルに届いた情報は、視覚よりも、聴覚が早かった。
張り裂けるような、大声が響き渡る。
「——一騎!」
それは叫び声だった。
向こうで、混乱したように男子生徒たちが騒いでいるのが見える。そして、その中心には、
「つきにぃ……!」
ダッ、と。
恋は瞬時に駆け出していた。大して速くもない足で、まっすぐに、横たわる一騎の下へと。
ミシェルも一騎の姿を見るや否や、即座に走りだした。
そして、倒れた一騎へと、叫ぶように呼びかける。
「一騎! どうした!? しっかりしろ!」
「つきにぃ……ねぇ、つきにぃ……!」
しかしミシェルや恋がいくら呼びかけても、一騎が起きる気配はない。固く目を閉じたままだ。
揺すっても叩いても、まったく反応がない。ただ、呼気だけが、苦しそうに荒くなっている。
このままではどうしたって一騎が目を覚ますことはなさそうだと判断を下したミシェルは、野次馬のように集う他の生徒たちに向かって、怒鳴るように叫んだ。
「おい、誰でもいい! 今すぐ、こいつを保健室に——」
暗い。
真っ暗な空間だ。
だが、熱い。
焼けつくような熱さだ。
そして、燃えるような熱さでもある。
今にも焦げてしまいそうなほどに熱い。
いや、実際に身を焦がされているかのようだ。
なにかが見える。
影、だろうか。
ゆらゆらと、陽炎のように揺らめく、影。
その姿形は、どこかで見たことがあるような気がする。
「《ガイバーン》……《ガイギンガ》……《グレンモルト》……」
呼びかける。
反応はなかった。
というより、こちらの言葉が届いていないのか。
こちらの言葉に、耳を貸そうとしていないのか。
感情が高ぶって、こちらの声が聞こえていないようだ。
なぜ、感情が高ぶっているのか。
咆えているようだ。
暴れているようだ。
頭が痛くなる。
警報が鳴らされているかのように、頭に響く。
その高ぶる感情が、体の内側に、身体の芯に、心に、強く、痛ましいほど、響き渡る。
「怒ってる、の……?」
分からない。
影が動く。
ゆらゆらと、ゆらりと動く。
こちらへ、近寄ってくる。
ゆらゆらと、ゆらりと迫る。
こちらへ、近づいてくる。
金色の切っ先が、巨大な刀身が、燃える刃が、この身に触れる。
皮が破れ、肉が薄く斬れた。
それに、熱い。
焼きゴテをおしつけられたかのように、熱い。
燃え盛る炎に投げ込まれたかのように、熱い。
怒り狂った剥き出しの感情が、内面で爆発したかのように、熱を帯びている。
「え……な、なにを……?」
力が込められるのが感じられた。
柄を握る手が、強くなる。
そして。
その力強さのまま。
勢いに任せて。
感情に任せて。
怒りに任せて。
己に触れる剣が。
皮を破り。
肉を斬り。
この身を——断った。
「——っ!」
「お、起きたか」
「ミシェル……ここは……?」
「少しは周りを見て判断しろ。言うまでもなく保健室だ」
上体を起こしてから、言われて一騎は首を回す。仕切りのカーテンや、その隙間から覗く薬品棚。さらに、鼻につく消毒液のにおいも、確かに保健室のものだ。
「ん? 恋……?」
そして、ふと目線をベッドの方へと向けると、恋の顔が目に入った。
彼女は目を閉じて、すぅすぅと小さな寝息を立てている。
「こいつ、相当お前のこと慕ってんだな。放っておいても大丈夫だって言ったんだが、残りの授業全部サボって、お前に付き添ってたみたいだし」
「付き添って……?」
「……一騎。お前、自分がどうなったか覚えてるか? 体育の時間にきなりぶっ倒れたんだぞ? ボールが当たってとかじゃなくて、急にだ。自分の状況、分かるか?」
「あ、あぁ……うん。そっか、そうだったんだ……」
「大丈夫かよ……」
やや呆れ気味に、それでも心配そうな眼差しのミシェル。
「保健の教師が言うには、貧血だとさ。このクソ暑い中で動いてたんだ、熱中症になってもおかしくない。とにかく水分補給をマメに、塩分補給を忘れずに、しっかり休め、ってさ」
「そっか……ごめん、迷惑かけた。部のみんなは?」
「一応、あたしが指示はしといた。やることもほとんど作業だから、お前がいなくても大体はなんとかなったな。とはいえ、どいつもこいつも気が散ってて、今日は早めに切り上げて帰らせたけど」
帰らせた、という言葉を聞いて、一騎は時計を見上げた。もう下校時間だ。
「まあ、そういうわけだから、お前もさっさと帰ってとっとと休め。部長がそんなんだと、下の連中が不安がるだろ。人手が足りてないからって、無理はすんな」
「う、うん。本当にごめん。今日は、すぐに休むよ。恋、起きて」
「んん……つきにぃ……?」
一騎が揺すると、恋が目を覚ます。ボーっとした無感動な眼で、こちらをじっと見据えている。
「つきにぃ、目、さました……よかった……」
「ごめんな、恋。お前にも迷惑かけた。今日はもう帰ろう」
「うん……」
「後始末はあたしがやっとくから、早く帰れ」
「ありがとう、ミシェル。じゃあ、また明日」
「あぁ」
そう言って、一騎は恋を連れ、ミシェルと別れる。
最近不調続きだったが、まさか倒れるとは、一騎も自身も思いもよらなかった。
暑さにやられてしまったのだろうか。
(……体調管理、しっかりしないとな)
心中でそう呟く一騎。
しかし、本心はどうだろうか。
彼の中で燃え盛る炎は、次第に勢いを増すばかり。
それが爆発する時は、そう遠くはないだろう——
- 63話 「アイドル」 ( No.230 )
- 日時: 2015/09/01 23:04
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
叫びにも等しい、人々の歓声が聞こえる。
熱を帯びた光を浴び、彼女は歌い、踊り続ける。
曇りのない笑顔。たった一人の笑顔なのに、これだけの人に、その笑顔を分け与えている。
隣に座る彼女は、今まで見たことのない笑顔を見せている。
少しだけ、羨ましいと思った。
今まで自分には見せたことのなかった表情を、彼女は引き出した。
それが、ほんの少しだけ悔しくて、妬ましくて、でも、やっぱり羨ましい。
あの人と同じところに立ちたい。
一瞬だけ、そんなことを思った時だった。
『入場№——84番!』
自分を導く声が、聞こえたのだ——
ステージ上で、数多のスポットライトを浴びながら、一人の少女を歌い、踊る。
その姿は華々しく、可憐で、そして躍動的。
空間を震撼させるほどの声援を、たった一人のステージで浴び、数多くの視線を受けながらも、彼女は物怖じ一つしない。むしろ、この状況を楽しんでいる。
そんな楽しみが、こちらにも伝わって来るからこそだった。
「——那珂川亜夢。『あなたの心に夢をお届けっ!』というキャッチコピーで売り出し、デビューから二年経った今も人気上昇中のソロアイドル……か」
パンフレットに挟んであった紹介記事を読み上げると、浬はそれを閉じた。
そして、再びステージへと目を向け、隣に座る沙弓に言う。
「アイドルって、グループを組んでいるイメージがあったが、これは一人なんだな」
「今時じゃ珍しいわよね、ソロアイドルなんて。でも、それゆえにってところもあるのよね。彼女の支持者は多いわ。ほら、一人で健気に頑張る女の子って、素敵じゃない?」
「あの顔は健気にって感じではないがな……」
『——手札に溜め込んだ、その思い。捨てられちゃう前に、ぜ・ん・ぶ、だしちゃってー——』
非常に愛くるしく爽やかな笑顔で、少女——那珂川亜夢は、透き通るような声で歌い、軽快なステップで踊る。
周りの観客で座っている者などいない。誰もかれもが、声援と共に光る棒を振り回していた。
明らかに自分たちは周りから浮いている。周囲が完全に亜夢に熱中しているため、浮いた空気は完全に飲まれているが、正直ついていけない。
なにが楽しいのかもまったく理解できず、浬からしたらかなりの苦痛だ。
「はぁ、なんで俺はこんなとこにいるんだろうな……熱気が熱すぎて、もう帰りたいんだが」
「まあまあ、ここまで来たなら諦めなさい。せっかく柚ちゃんがチケットをくれたんだから」
「そうは言っても、俺はこういうの苦手なんだよ……」
ことの始まりは、柚が那珂川亜夢のライブチケット四人分を手に入れたことだった。
曰く「お兄さんがお仕事中に手に入れたみたいです」らしく、せっかくだからとそのチケットを貰い受け、こうしてライブに訪れているというわけだ。
「でも、あの子のお兄さんの仕事って……あれよね?」
「元は他人のものだったかもしれないと思うと、物凄い罪悪感が襲ってくるな」
あまり深く突っ込むと、なにか底知れぬ闇を見そうなので、その辺りでこの話は打ち切った。
浬は改めて、会場を見渡す。暗い会場内には、無数の光が手の動きと共に上下し、ステージでは一人の少女がマイクを片手に踊っている。
少女の一挙一動に、人々の反応は盛り上がる。轟くような声援が、空気を震えさせ、熱気と共に会場を満たしているかのようだ。
「しかし、やっぱこの空気はダメだな……」
「私もアイドルのライブなんて初めて来たけど、確かにちょっと気後れしちゃうわよね」
「隣には熱心にペンライト振り回す奴がいるし……」
浬は、呆れたように隣に視線を向ける。
そこでは、光る二本の棒をリズムに合わせて振る、暁の姿があった。しかも、どこから取り出したのか、法被と鉢巻まで付けて、完全に他のファンと同化している。
「うおぉぉぉぉぉっ! 亜夢ちゃーん!」
「うるせぇ……!」
「で、でも、暁ちゃん、楽しそうですし……」
「それにしても、少し意外だったわね。暁って、アイドルとかに興味あったのね」
沙弓がそう言うと、たまたまそこだけ聞こえたのか、暁はキラキラした目でこちらに向いた。
「そりゃあもう! 私はこれでも亜夢ちゃんの大ファンだからね!」
「へぇ……」
「亜夢ちゃん非公式ファンクラブ会員№2411番は伊達じゃないよ!」
「非公式なんですか……」
「あと、これはペンライトじゃなくてサイリウム! 残念だけど使い捨てなんだよ」
「知らねぇよ……」
ペンライトは電池式で、電池を交換すれば何度も使える。
しかしサイリウムは、別名ケミカルライトといって、化学反応を起こすことで発光しているので、カイロのように化学反応が終わってしまうと使えなくなってしまう。
なお、サイリウムは液漏れの危険もあるので、使用後は会場内の指定されたゴミ箱に捨てるか、家に持ち帰るべし。またライブなどでは使用できるライトスティックに規約があったりするので、注意するべし。ライブを楽しむマナーだ。
「ってことだから、みんなも気を付けて、楽しいライブにしようね!」
「誰に言ってんだよお前」
「それにしても、随分と盛り上がってるわね、暁」
「当然っ! いやー、亜夢ちゃんのライブって、超大人気でなかなかチケット取れないんですよー。お陰で私、何回もライブ逃しちゃってて……でも、今回はタダで、しかもこんないい席で見れて、超ラッキーだよ!」
「そら良かったな」
「わたしも、あきらちゃんがよろこんでくれて、よかったです」
暁の隣で、にっこり微笑む柚。暁の熱心なヲタ芸に対して、唯一にこやかな笑顔を向けている。
(でも、あきらちゃんが本当によろこんでいるのは、わたしに対してではないんですよね……)
ふと、そんなことが頭をよぎった。
しかしすぐにその考えを振り払い、ステージを見る。そこには、笑顔を振りまく亜夢の姿がある。
(すごいなぁ……こんなたくさんの人の前で、あんなに楽しそうに歌ったり踊ったり……それに——)
——ファンの人たちも、楽しそう。
誰かを喜ばせる。誰かを楽しませる。誰かを笑顔にする。
それがどれだけ尊く、そして望まれているものであるか。それは、ここにいる観客たちを——そして暁の幸せそうな表情を見れば分かる。
柚はそんな彼女に、少しだけ羨望を抱いたのだった。
『みんなぁーっ! 今日も亜夢ちゃんの歌を聞きに来てくれて、ほんっとうにありがとぉーっ!』
「ん、なんだ。歌、終わってたのか」
「気づかなかったの……どんだけ興味ないのよ」
呆れ顔で浬を見つめる沙弓。
今更だが、この近辺だけ、明らかにライブの空気から独立した別空間と化していた。
しかし当のライブはそんな別空間のことなどお構いなしに進行していく。
『それじゃぁ、今回もいっくよぉーっ! ナンバー・チェックぅ!』
「来た来た来たぁ! ナンバー・チェック! 当たれ当たれ当たれぇ……!」
「な、なんですか……!?」
亜夢の声と同時に、暁と、そして周りのファンたちも、一斉に、そして一気に、沸き上った。
一体これから何が始まるのかと、浬と柚は訳も分からず混乱していた。
そんな二人に、沙弓は言葉を添える。
「デュエマアイドル那珂川亜夢。この肩書きだけで、分からない?」
「……おいまさか」
「そのまさかよ。彼女はいつも、ライブの途中でファンとデュエマをするの」
「デュエマ、ですか……? アイドルと……?」
普通ならあり得ないというか、そんなことをするアイドルは、現時点では那珂川亜夢以外には存在しない。それが、彼女の人気の理由の一つだ。
彼女はライブのたびに、ナンバー・チェックと言って、ランダムに数字を一つ選択する。その数字と同じ入場№を持つ入場者は、一戦だけ、亜夢とデュエマで対戦できるというわけだ。
「受付でもらったこの数字の書いてる紙って、そういうことだったんですね」
「俺はアイドルとデュエマなんてしたくなんだが」
「じゃあその時は私にちょうだい!」
「好きにしろ……」
ファンの人間からしたら、人気アイドルと直接デュエマができる貴重なチャンスだ。誰もかれもが、自分が当たることを、神頼みでもなんでもして、望んでいるのだろう。それが自分にとっての最大の特別隣、あわよくば亜夢に自分のことを覚えてもらえるのだから。
会場の九割九分九厘以上の人間が祈る(残る一厘以下は浬)。亜夢の口から告げられる、番号を待ち侘びる。
そんなファンたちの心中を察してか否か、亜夢は朗らかで明るい語調のまま、ハイテンションで進めていく。
『今日、亜夢ちゃんとデュエマしてくれるのはぁー?』
ステージ上のモニター映像では、スロットのように数字が目まぐるしく変化していく。
亜夢の合図でスロットは一つ、また一つと止まって行き、やがて、すべてのスロットが停止する。
そうして出て来た数字は、
『入場№——84番!』
「……82番か。危なかった……」
「うぁー! 私83番だ! 惜っしい!」
ホッとする浬と、とてつもなく悔しそうな暁。
周りを見てみても、観客たちは皆、悔しそうに拳を握りしめたり、髪を掻き毟ったり、涙を流したりしている。そこまで悔しいのか。
しかしこれだけの人数の中で、当たるのはたった一人。むしろ当たらない方が自然なのだ。
「ねー、柚は何番だっけ?」
「えっと、わたし……」
悔しそうな表情から一転、案外切り替えの早い暁は、隣に座る柚の顔を覗き込む。
柚は、受付で貰った、入場№の書かれた紙を広げて、改めて自分の番号を確認すると、
「……84番、です」
そこには、確かに『入場№84』と、大きく太字で書かれていたのだった。
それを見た暁たちも、吃驚する。
「え、うっそ!?」
「おい、マジかよ……!」
「良かったじゃない、柚ちゃん」
「で、でも、わたしなんかが行っても……」
『入場№84番、どこかなぁー?』
ステージ上では、亜夢がわざとらしくキョロキョロして、呼びかけていた。早く名乗りを上げた方が、進行的にも良さそうだ。
「あの、これ、あきらちゃんに……」
「えー? 嬉しいけど、いいよ、ゆずが行ってきなよ」
「で、でも……」
「いいからいいから! ゆずが亜夢ちゃんと対戦してるとこも、見てみたいし!」
と言って、半ば無理やり柚を押し出す暁。果ては、「84番ここでーす! この子でーす!」と叫んで、居場所アピールをする。
「俺の分は躊躇いなく貰いに来たのに、霞は行かせるんだな」
「暁なりに、色々考えているんでしょう、きっと。それに暁の意見には私も大いに同意するわ」
「……で、なにしてんだ、部長」
「ちょっとねー」
沙弓はそんな暁たちをよそに、ガサゴソと鞄を漁っていた。一体、なにを取り出しているのか。
「……それじゃあ、いってきます……」
「あ、待って、柚ちゃん」
暁に背中を押され、周囲の目線も突き刺さり、ステージ上では本物のアイドルが待っている中、緊張した面持ちでステージへと向かおうをとする柚を、沙弓が引きとめる。
「ぶちょーさん……?」
「これ、持っていきなさい」
「? デッキ……?」
沙弓が柚に手渡したのは、一つのデッキだった。
「どうせなら、そのデッキを使いなさい。大丈夫、柚ちゃんなら使えるわ。超次元ゾーンはいつも通りでいいから」
「はひ……わ、わかりました」
いまいち沙弓の意図は読めないが、言われたとおり、そのデッキを持って、柚はステージへと降りて行く。
「ひ、人がたくさん……!」
ステージに立つ柚。そこから見えるのは、大量の人、人、人。
暁たちの姿も、ここからでは確認できない。暗い観客席には、サイリウムの光だけが煌々と灯っており、非常にたくさんの人間に見られている、ことだけが柚の脳内を支配する。
こんな大勢の人間の前に立ったことなんてない柚は、緊張で体が震え、完全に飲み込まれてしまっていた
そんな柚に、亜夢はマイクを差し向ける。
「今日は来てくれてありがとう! お名前は?」
「あ、えっと……柚、です……」
「柚ちゃん! 素敵な名前だねっ!」
にっこりと笑顔で柚を迎える亜夢。そんな彼女は、女である柚の目から見ても、可愛い。
さらさらの黒髪。ぱっちりとした眼。きめ細かい肌。
アイドルという先入観も働いているのだろうが、彼女の衣装、メイク、どれを取っても、それらを加味したとしても、そのじょそこらの中高生では太刀打ちできない容姿を持っている。
いや、違う。単純な容姿ではない。
彼女の魅力、と言うべきだろうか。単なる見た目の可愛さではない、彼女が持っている天性の魅力が、彼女を引き立てている。
柚には、そう感じられた。
(でも……あきらちゃんがあんなに好きになる人ですし、あたりまえのことですよね)
魅力的だからこそ、彼女も亜夢に惹かれたのだろう。彼女には、暁を引き付けるほどの魅力がある。
自分とは、違うのだ。
そんなことを思っているうちに、いつの間にか、亜夢が柚の腕を掴んでいた。
「はいっ! それじゃぁ、デュエマ・フィールド、セット! 危ないからこっち来てね。あとこれ付けて」
「は、はひ……」
亜夢に手を引かれ、柚はステージの端に寄る。同時に、インカムを渡された。
柚が言われたとおりインカムを付けた次の瞬間、ステージ中央が割れる。ウィーンと、分かりやすい機械音を鳴らして、ステージの下から直方体の箱のようなものが出てくる。
いや、それは箱ではない。柚がいつも見慣れている、デュエマ・テーブルだ。
(あきらちゃんとライブをテレビでみたこともありましたけど……たしか、このデュエマって……)
最新鋭の技術によって、出したカードが実体化するのだ。
実体化と言っても、柚たちが神話空間で体験しているそれとはまったく違う。あくまで実体化というのは、立体映像のことであり、本当にクリーチャーが飛び出しているかのように感じられる、というものでしかない。つまり危険性はほぼ皆無だ。
まだこの技術は一般には普及していないが、一部の規模の大きな大会や、デュエリストの養成学校など、一部の場所で使われている。このライブも、その一つだ。
「それじゃぁみんな、いっくよぉー! せぇーのっ!」
台の両端に立ち、柚と亜夢はそれぞれ、デッキを定位置に置く。
そして亜夢は、ビシッと、人差し指を観客——ファンの人々に向けて、叫ぶ。
高らかに、対戦開始の合図を、告げる。
『デュエマ・スタートっ!』
- 63話 「アイドル」 ( No.231 )
- 日時: 2015/09/01 23:05
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
柚と亜夢のデュエル。
柚の場にはなにもない。《霞み妖精ジャスミン》でマナを加速しただけだ。
対する亜夢の場には《一撃奪取 ブラッドレイン》が一体。
「うぅ、緊張します……えっと、とりあえず……これ、でしょうか……?」
大観衆の前で、それらの(九割以上亜夢に対する)声援を浴びながら、柚はどう動くべきかを考える。
沙弓から渡されたデッキなので、デッキの中身は分からない。しかし自然単色デッキのようなので、自分の使い慣れた文明だ。
とりあえず、柚は目についたカードを一枚、手に取った。
「それじゃあ……3マナで、《歌姫の面 エリカッチュ》を召喚します」
現れたのは、仮面をつけた少女。それもガスマスクのような無骨な仮面だ。
しかし、ビーストフォーク號にとっては非常に大切なその仮面を、少女は祭りで買ったお面でもつけるように、頭の横側にずらして付けている。
長い髪もあり、素顔こそはっきりとは見えないが、それでも非常に愛嬌のある——というより、愛嬌をふりまいている少女だった。
彼女は戦場に立つと、片手にはスタンドマイクを持ち、もう片方の手で、顔の横で三本指を立ててピースしている。
あくまでこれはホログラムであり、クリーチャーはただのプログラムでしかない。そこにクリーチャーの意志など存在するはずもないのだが、しかし少女は観客にアピールするかのように、その笑顔と声を魅せつける。
その挙動に、若干の困惑混じりながらも、観衆は、少なからず興味を惹かれたようだった。中には吼えるように雄叫びをあげる者もいる。
「……部長、霞になんてカード使わせてるんですか」
「面白いかなーって思ってね。アイドルにアイドルをぶつける、それもホログラムありの迫力、場所はアウェー、大観衆の前。これだけ条件が揃った中で、柚ちゃんが健気に頑張ってアイドルカード使ってるだなんて、凄く萌えるじゃない」
「そんなくだらない理由で妙なデッキ渡さないでくださいよ……」
「ゆずー! ファイトー!」
そんな暁たちの声は、残念ながら大観衆の圧倒的声量の壁に阻まれ、柚には届かないが。
「アイドル対決かぁ、燃えちゃうねっ! 亜夢ちゃんも負けてられないよっ!」
亜夢は本物のアイドルに対してアイドルカードを使うという挑発的な行為に対して、怒りを見せるどころか、むしろ乗り気で対抗心を燃やしてきた。
彼女はいつも以上にテンションを上げ、カードを引き、そして、
「《ブラッドレイン》を進化! 《夢幻騎士 ヴィシャス・デスラー》に!」
トップスピードで、柚を攻めたてる。
「《ヴィシャス・デスラー》で攻撃! その時、《ヴィシャス・デスラー》の能力で、柚ちゃんの手札をフルオープン!」
「ふぇ……?」
開いた柚の手札には、《有毒類 ラグマトックス》と《フェアリー・ライフ》の二枚があった。
「おっとっと、危ないなー。《ラグマトックス》で《ヴィシャス・デスラー》がやられちゃうところだったよ。と、いうわけで、《ラグマトックス》を墓地に捨てちゃうよ!」
「あ……っ、《ラグマトックス》が……」
夢幻騎士 ヴィシャス・デスラー 闇文明 (4)
進化クリーチャー:ダーク・ナイトメア 6000
進化—自分の闇のクリーチャー1体の上に置く。
このクリーチャーが攻撃する時、相手の手札を見て1枚選び、捨てさせる。
W・ブレイカー
相手の手札を見て、その中からカードを捨てさせる。それは《解体人形ジェニー》の例を見れば分かるように、非常に強力な能力だ。
《ヴィシャス・デスラー》は攻撃時に発動する分、攻撃的でビートダウン時の妨害に適している。攻撃しながら相手の手札のキーカードを捨てさせ、シールドブレイクしても相手に与える手札が実質的に一枚減るのだ。
「……しかし、ピーピングハンデスとは、アイドルとかいう割に陰湿なことするな」
「エンターテイメント性はともかくとして、わりとガチなデュエリストであることも、那珂川亜夢が人気な理由の一つなのよ。ほら、歌って踊れて可愛くて、そのうえデュエマが強いだなんて、最強じゃない?」
「んなこと言われましても……」
「ゆず、まだ行けるよ! 頑張れー!」
デュエマも押し出すようなアイドルは他にもいるが、亜夢はその中でも、デュエリストとしての側面が特に強い。
ことデュエマに関しては、魅せるよりも、強さを見せつけることを優先させる。
ファンからしたらその容赦のなさというか、笑顔でハンデスや除去を叩き込む姿がいいらしいが、浬には理解できなかった。
「そしてぇ、Wブレイク!」
「あぅ……っ!」
《ヴィシャス・デスラー》によって砕かれたシールドの破片が、柚に降りかかる——ようなヴィジョンが、ホログラムにより浮かび上がる。
思わず顔を守るように腕を出してしまう柚だが、実際は破片など降りかかることはなく、その動作も無意味なわけだが。
「わ、わたしのターンです……」
そんな勘違いに、一人で赤面しながら、カードを引く柚。
ちょうど、今しがた引いたカードと、シールドブレイクで手に入ったカードで、柚は前に出る。
「《龍覇 マリニャン》を召喚しますっ」
まず現れたのは、桜色の髪と衣装、花弁のような意匠の、仮面をつけた少女。
両手両足の毛皮と爪、そして縞模様の白い尻尾が獣らしさを醸し出しているが、その姿は少女そのもの。
しかしただの少女ではない。《マリニャン》は《エリカッチュ》同様に、古代龍を鎮める巫女であり、そして龍と魂と心を通わせるドラグナーだ。
「《マリニャン》の能力で、コスト3以下のドラグハート——《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》を、超次元ゾーンからバトルゾーンに出します。そして、わたしのドラグハートが出たので、《エリカッチュ》の能力でマナを追加。さらに、《エウル=ブッカ》の能力で、わたしの自然クリーチャーのコストは1軽減されるので、《エリカッチュ》で増やした1マナをタップして、《愛嬌妖精 サエポヨ》を1マナで召喚しますっ」
歌姫の面(ディーヴァ・スタイル) エリカッチュ 自然文明 (3)
クリーチャー:ビーストフォーク號 2000
自分のドラグハートをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から1枚目をマナゾーンに置いてもよい。
龍覇 マリニャン 自然文明 (5)
クリーチャー:ビーストフォーク號/ドラグナー 5000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト3以下のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
愛嬌妖精サエポヨ 自然文明 (2)
クリーチャー:スノーフェアリー 1000+
自分の他のクリーチャーがバトルゾーンに出た時、そのターン、このクリーチャーのパワーは+3000される。
神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ 自然文明 (3)
ドラグハート・フォートレス
自分の自然のクリーチャーの召喚コストを1少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
龍解:自分のターンのはじめに、バトルゾーンに自分の自然のクリーチャーが2体以上あれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。
流れるようにクリーチャーとドラグハートを展開していく柚。本来ならば使いにくいカードを存分に生かした展開だ。
しかも、ビジュアル的に映える《エリカッチュ》《マリニャン》《サエポヨ》というアイドルカードを並べているため、よりいっそうそのプレイングには華がある。
少なからず観衆の注目は、柚にも向いていた。
「いっぱい出たねぇ。でもでも、まだまだ亜夢ちゃんが有利! 私の夢の王子様で、みんなの心と一緒に、つかむよ勝利を! 《暗黒秘宝ザマル》を召喚! 《ヴィシャス・デスラー》で攻撃して、ワンモアチャーンス! もう一回、手札を見せてねっ!」
再び柚の手札が開かれる。とはいえ、そのカードはたった一枚だが。
「《増強類 エバン=ナム=ダエッド》を捨てるよっ! そしてぇ、行っちゃって! Wブレイク!」
飛び出した悪夢の騎士は、無情に柚のシールドを打ち砕く。
対戦が始まって僅か4ターン。たった4ターンで、柚のシールドは残り一枚になってしまった。
しかし、柚の勝ち目までもが、なくなったわけではない。
「……わたしのターンの初め、わたしの自然のクリーチャーが二体以上います」
「ん? それがどぉしたの?」
「この時、《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》の龍解条件を達成しましたっ!」
突如、《エウル=ブッカ》が揺れ動く。
なにかが目覚めるかのように。
それは、遺跡に眠る、龍の魂。
あらゆる神秘が集まる遺跡の核に封じられた、龍の魂が今、解き放たれる。
「《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》、龍解——《遺跡類神秘目 レジル=エウル=ブッカ》!」
遺跡類神秘目 レジル=エウル=ブッカ 自然文明 (6)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 5000
自分のクリーチャーの召喚コストを最大2少なくしてもよい。ただし、コストは1より少なくならない。
「《レジル=エウル=ブッカ》の能力で、わたしの召喚するクリーチャーのコストは2軽くなります。なので、2マナで《養卵類 エッグザウラー》を召喚ですっ! さらに4マナで、《龍覇 サソリス》を召喚しますっ! 超次元ゾーンから《始原塊 ジュダイナ》をバトルゾーンに出して、《サソリス》に装備! ドラグハートが出たので《エリカッチュ》の能力でマナを増やしますっ! 今度は《ジュダイナ》の能力発動です! 各ターンに一回だけ、わたしはマナゾーンからドラゴンを召喚できますっ! 《レジル=エウル=ブッカ》でコストを下げて、1マナで《地掘類蛇蝎目 ディグルピオン》を召喚!」
「え、ちょ、ちょ、ちょっと待って——」
「《ディグルピオン》の能力で、わたしの他のドラゴンがいるので、山札からマナを追加します! さらに《エッグザウラー》の能力で、カードを一枚ドローします! 続けて2マナで《増強類 エバン=ナム=ダエッド》を召喚ですっ!」
亜夢のことなど待つつもりはさらさらなかった。今の柚は、完全にスイッチが切り替わっている。
今の彼女は、古代龍を鎮める巫女と同じ。数多の龍を操る者だ。
龍たちの力を如何なく発揮し、次々と古代龍たちを場に並べていく。
「これでわたしのターンは終了ですが、ターン終了時にわたしのドラゴンが三体以上いるので、《ジュダイナ》の龍解条件を満たしました」
一度、展開を終える柚。だがそれは、最後の締めを意味する。
これだけドラゴンが展開されているのだ。三体などとみみっちい言葉は必要ない。条件はとっくの昔に満たされている。
あとはただ、裏返るだけだ。
真の姿を現すために。
「《始原塊 ジュダイナ》、龍解——《古代王 ザウルピオ》!」
- 63話 「アイドル」 ( No.232 )
- 日時: 2015/09/03 07:55
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「来ったぁ! ゆずの切り札!」
「あんなふざけたカード使ったデッキでも、ここまでやれるのか……」
「当然よ。いつもと違うデッキでも、本質的な部分はまったく変えていないからね。いつも柚ちゃんが操るデッキ、そしてその龍たちと、まったく同じよ」
それゆえに、彼女はその力を十全に引き出す。
ホログラムの中で、《ザウルピオ》は威嚇するように咆える。その咆哮が、会場を震撼させる。
「でもでも、亜夢ちゃんの勝利は揺るがないからね。勝利は目前! 全力ダッシュだよ!」
その雄叫びに、観衆の中で少しばかりの沈黙があったが、そんな古代龍を目前にした亜夢は微塵も動じることなく、笑顔のままだった。
それは無知ゆえか、それとも彼女の気質に起因するものか。恐らく、両方だろう。
「《オタカラ・アッタカラ》を召喚! さらにさらにぃ、墓地の《爆弾魔 タイガマイト》二体を進化元にして、墓地進化! 《死神術士デスマーチ》を二体召喚だよっ!」
残りシールド一枚の柚に対して、一気に進化クリーチャーを二体も並べる亜夢。
そして、彼女は攻める。とどめを刺すべく、最後の一撃を与えるべく。
「《ヴィシャス・デスラー》で攻撃! 最後の一枚の手札を墓地に送ってね! それからシールドブレイクだよっ!」
柚の手札を毟り取りながら、《ヴィシャス・デスラー》が彼女の最後のシールドを砕く。
「そしてそして、《暗黒秘宝ザマル》で、ダイレクトアタック——」
「——させません」
《ザマル》が飛び出し、柚へと向かって行く。シールドを失った柚は、その攻撃を甘んじて受けるしかない——わけではない。
彼女へと向かう一撃は、《ザマル》の突撃は、巨大な大槌に弾かれて止められた。
「……あり?」
「《ザウルピオ》の能力です。わたしのシールドがゼロ枚のとき、わたしへの攻撃はとどきません……っ」
柚は強気な眼差しで、亜夢に言い放つ。《ザウルピオ》も大槌を構え、柚には指一本触れさせまいと言うように、ギラギラとした眼で睨み、低い唸り声を上げ、威嚇していた。
《ヴィシャス・デスラー》が亜夢に勝利をもたらす王子ならば、《ザウルピオ》は柚を守り抜く騎士。この古代の王が、亜夢たちにとっての最大の壁となる。
「う、うっそぉ……そんなのあり!? 攻撃できないってことは、ダイレクトアタックできないってことだから……このターンこれで終わりっ?」
そういうことだ。
亜夢は焦り、冷や汗を流しながらも、ターンを終える。
「わたしのターンです! 《連鎖類覇王目 ティラノヴェノム》を召喚! 能力で《連鎖類大翼目 プテラトックス》をバトルゾーンに出して、その能力で《連鎖庇護類 ジュラピ》をバトルゾーンに出しますっ! 《エッグザウラー》の能力でカードを三枚引いて、最後に《エバン=ナム=ダエッド》を二体召喚ですっ!」
ダメ押しとして、さらにクリーチャーを大量に並べる柚。
「《ザウルピオ》と《ディグルピオン》で攻撃ですっ!」
「二体の《デスマーチ》でブロックだよ!」
「《エバン=ナム=ダエッド》でシールドをWブレイクですっ!」
そして、柚の展開した龍たちによる一斉攻撃が始まる。
《ザウルピオ》と《ディグルピオン》の攻撃は、事前に召喚していた《デスマーチ》が受け止める。ブロッカーを出せていたのは、不幸中の幸いだったか。
続けて《エバン=ナム=ダエッド》の一撃がシールドを砕くが、そのうちの一枚が、光の束となり収束する。
「……来たよ、来た来た! S・トリガーだよっ! 《凶殺皇 デス・ハンズ》を召喚! 《レジル=エウル=ブッカ》を破壊!」
「なら……《サエポヨ》でシールドブレイク! 《マリニャン》でもブレイクですっ!」
物量に任せて、次々とシールドを粉砕していく柚に対し、ブロッカーとトリガーでそれを防いでいく亜夢。
「《エリカッチュ》でシールドをブレイク!」
「S・トリガー、《地獄門デス・ゲート》! 《エッグザウラー》を破壊して、墓地から《タイガマイト》をバトルゾーンに! 手札を捨ててねっ!」
最後にクリーチャーを破壊され、手札も捨てさせられた柚。
しかし、これで亜夢のシールドはゼロ。柚にはまだ《サソリス》が残っている。
あとはとどめを刺すだけだ。
柚は最後に残った《サソリス》を横向けに倒す。そして、とどめの一撃を放つ——
「《龍覇 サソリス》で、ダイレクト——」
「ニンジャ・ストライク! 《光牙忍ハヤブサマル》!」
——瞬間、彼女の手札から、一体のクリーチャーが飛び出した。
「っ……!?」
「亜夢ちゃんはこのくらいのピンチじゃ挫けない! 必ず乗り越えて見せるんだからっ! 《タイガマイト》をブロッカーにして、《サソリス》の攻撃をブロック!」
《ハヤブサマル》の能力で、亜夢の《タイガマイト》はブロッカーと化す。
《タイガマイト》はダイナマイトを手に、《サソリス》の攻撃を受け止める。そして、手にしたダイナマイトの爆発に巻き込まれ、《サソリス》諸共破壊された。
「《サソリス》さんが……うぅ、ターン終了です……」
最後の一撃を防がれ、攻撃の手がなくなった柚は、これでターンを終える。
しかし、柚にはまだ《ザウルピオ》がいる。《ザウルピオ》がいる限り、柚に負けはない。
なので《ザウルピオ》さえ守りきれれば、次のターンこそ、確実にとどめが刺せるはずだったが、
「そしてぇ、ピンチはチャーンス! 亜夢ちゃんのターン! レッツ・ゴー! 大逆転ターイム! 呪文《魔狼月下城の咆哮》! 《エリカッチュ》のパワーを3000下げて破壊! さぁーらぁーにぃー?」
亜夢の五枚のマナが、黒く光を放つ。
「マナ武装5、はっつどーぅ! 《ザウルピオ》も破壊だよ!」
「っ、あぅ、《ザウルピオ》が……っ」
《魔狼月下城の咆哮》のマナ武装5によって、《ザウルピオ》が直接破壊されてしまった。
柚の身を守るクリーチャーはいなくなる。
それは、つまり——
「これでおっしまぁーい! 《夢幻騎士 ヴィシャス・デスラー》でぇー——」
亜夢は絶えず笑い続けていた。にこやかな笑顔を崩すことなく。
この瞬間。
——柚の敗北が確定した。
「——ダイレクトアターック!」
「残念だったね、ゆず」
「あと一歩だったが、トリガーは仕方ないと割り切るしかないだろう。それにしても、随分と都合よくトリガーしたものだな……」
「よくあることよ、彼女のライブでは、ね」
どこか含みのある言い方で、沙弓は続ける。
「今のところ、彼女はデビュー当初からずっとこの対戦をやり続けているけれど、勝率は100%、負けなしよ」
「うわっ、すごい。強いっていうのは知ってたけど、負けなしなんだ」
「……なんかキナ臭いな。プロでもない奴が、デュエマにおいて無敗とは」
「ファンは大抵、彼女を持ち上げようとするし、ガチなファンっていうのも案外少ないんだけどね。それでも対戦相手はランダムで選ばれるし、中には那珂川亜夢をデュエリストとして見る人もいる」
それでいて、彼女は無敗なのだ。
そこになにが隠されているのか。なにがあるのか。
単純に彼女が強いのか。彼女の運が良かっただけなのか。
それは分からない。確かめる術もない。ただあるのは、浮かび上がった疑念のみ。
暁は沙弓の言葉を聞き、どういうことかを考える。ふと顔をあげると、亜夢の姿が映った。
『楽しいデュエマだったねっ! もっともっと対戦していたかったけど、残念ながら、今日のデュエマはこれでおしまい。だけど、ライブはまだまだ続くからね! だからみんな、最後まで亜夢ちゃんの歌、聞いていってねぇー!』
「うーん、まあ、細かいことはいっか! ゆずが負けちゃったのは残念だけど、今日はライブを一緒に楽しんで帰ろう!」
「切り替え早いな、お前……」
「まあ、所詮は個人のクレームだしね。それに、これが暁らしいと言えば、らしいわけだし」
結局、三人はそれ以上追及することはなく、暁もライブに集中することにした。
とその時、誰かがこちらへ向かってくる影が見えた。
「あ、柚! 帰ってきた!」
「負けちゃったけど、大健闘だったし、ちゃんと出迎えてあげましょう」
「そうだな。観客どもや運営側からしても、十分エンターテイメントな対戦にはなっただろう」
「おーい、ゆずー! おっつかれー!」
暁たちは、こちらへ歩いてくる彼女を出迎える。
紛れもない笑顔で。
それは、歌や踊りでもたらされるものではない。
熱い戦いを感じることで得た、心からの笑顔だった——
(負けちゃいました……)
対戦が終わり、柚はステージから退いた。
そして、亜夢が先のデュエルについて感想などを述べている間に、自分の席に戻っていた。
その道中、ふと柚は思う。
(でも、少しだけ、わかった気がします)
彼女が、人を笑顔にする理由が。
人が、彼女に惹かれる訳が。
(やっぱりわたしには、まねできないですけど……でも、がんばろうって、思えました)
他人に笑顔を与えるアイドル。
他人を元気にする彼女。
去り際に、彼女は言っていた。
——あなたも自分をもっと出してみて。そうしたら、すっごく好きになるよ——
好きになる。
それがなにを指しているのかは分からなかった。
しかし柚は、その言葉で、勇気づけられたのかもしれない。
元気を分け与えられたのかもしれない。
そう思うと、自然と笑顔がこぼれる。
「——あきらちゃんっ、ぶちょーさんっ、かいりくんっ」
自分は彼女のようにはなれないけども。
(わたしらしくいることが、大事なんですね)
心の中で呟いて、柚は一歩を踏み出す。
彼女たちが待つ場所へ向けて。
笑顔を向ける、彼女に向けて——
「ただいま、もどりました——」
- 64話 「アカシック・∞」 ( No.233 )
- 日時: 2015/09/17 20:25
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: arA4JUne)
「——『死神』? なにそれ?」
「聞いたことありませんか? グリモワールの方ではかなり名の知れたクリーチャーらしいですが」
「ここじゃあんなとこの情報なんて入ってこないよ。で、なんなの、その『死神』ってのは」
「さっき言った通りです。大罪都市グリモワールに現れるクリーチャーらしき存在。その名の通り、死神のような出で立ちで、数々の悪魔龍たちを襲撃しているんだとか」
「ふぅん。なんていうか、すっごいそれっぽいね。ベタっていうかさー。分かりやすいけど」
「ただ、やられているのが領主級の悪魔龍ばかり——つまり、大罪を司るクリーチャーばかりみたいですね」
「ファンキー・ナイトメアの反乱……でもないか。あの連中はみんなマゾだしね。どんだけ虐められても喜ぶだけだし、反乱なんて起こさないか」
「そうなんですよね。それに、単体のファンキー・ナイトメアでそこまで大きな力を持つクリーチャーなんて、聞いたことがありません」
「言っとくけど、あたしはそんなこと知らないからね。他の文明の事なんて、まったくこれっぽっちも耳にしないよ」
「やっぱりそうですか……」
「とゆーかさ、リュンはそれなりに見当ついてるんじゃない? わざわざここ来る意味あった?」
「……仰る通りですよ。ウルカさんに聞いてみたのは、単なるもののついでです。一応、聞いてみたかったんですよ」
「もののついでって……まあいいけど」
「僕の予想が正しければ、『死神』の正体は、ただのファンキー・ナイトメアじゃない。恐らくは、“彼”の……」
「あぁ……それは、ありえるね」
「もしもそうなら、あなただって無関係ではないはずです」
「……関係ないよ。あたしは、連中とは全然まったくこれっぽっちも関係ない。あたしらは統治者にはなれなかったはみ出し者だよ」
「…………」
「ま、あたしのことはどうでもいいっていうか、そーゆーわけであたしはそのことに関しては本当になにも知らないから。ごめんね」
「いえ……いいんです」
「でもさ、その『死神』とやらが想像通りのクリーチャーなら、おかしくない? だって、あいつらは単体じゃ動けないはずじゃ」
「それもそうなんですよね。あなたのような存在でもないですし、なぜ自由に動けているのか、謎は残ります。なので今度、調べに行ってきます」
「調べにって、どこに?」
「……図書館ですよ」
東鷲宮中学校。
その校舎の一角。あまり人目につかない部室で、彼女たちはいつものように、部活動に励んでいた。
「——《ジャックポット・バトライザー》で《ザンジデス》を攻撃!」
「《グレイブモット》でブロックよ」
「なら、《ジャックポット》がバトルに勝ったから、能力発動! 山札の上三枚から、ドラゴンをバトルゾーンに出すよ! 《龍世界 ドラゴ大王》をバトルゾーンに! 《ジャックポット》と《ザンジデス》をバトル!」
「ここで《ドラゴ大王》はきついわね……」
「山札の上三枚から、《熱血龍 メッタギルス》をバトルゾーンに出して、もう一体の《グレイブモット》を破壊だよ! 《バトライオウ》で、シールドをWブレイク!」
「……S・トリガー《インフェルノ・サイン》。墓地から《グレイブモット》を呼び戻すわ」
「ターン終了だよ」
——ただし、それはイコール彼女たちの趣味とも繋がっているが。
テーブルを挟む暁と沙弓。その脇で、柚と浬が二人の様子を眺めている。
「あきらちゃん、調子いいですね」
「あぁ。だが、部長がこれで終わるとも思えないがな」
「カイの言う通りよ。ここから抗ってみせようじゃない。《グレイブモット》を進化、《悪魔龍王 デストロンリー》!」
「うげ……!」
「すべてのクリーチャーを破壊、そして《デストロンリー》でTブレイクよ」
《デストロンリー》の登場で場をリセットされてしまった暁。一気にペースを崩され、苦しくなる。
「う、うーん……まずいなぁ。とりあえず、《コッコ・ルピア》と《ボルシャック・NEX》を召喚! 《ボルシャック・NEX》の能力で、二体目の《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに! これで次のターンに攻めきるよ!」
「残念だけど、これでゲームセットよ。《デストロンリー》を進化、《悪魔龍王 ドルバロムD》」
「うっそ! それはまずいよ……!」
「闇以外のクリーチャーとマナをすべて破壊ね」
一瞬にして、暁の場が空になる。掛け値なしで、なにもないのだ。
「《ドルバロムD》でTブレイク。ターン終了よ」
「私のターン、マナチャージして……ターン終了」
クリーチャーも、マナも、シールドも、すべてを失った暁には、なにもできることがない。
たった一枚のマナを置くだけで、ターンを終えるしかなかった。
「じゃ、《ドルバロムD》でとどめね」
「負けたぁ……うー」
「惜しかったですね、あきらちゃん」
とどめを刺され、テーブルに突っ伏す暁。広げたカードを片付けようともしない。
暁は突っ伏したまま、不貞腐れたように言う。
「コーヴァスがいればなぁ、あのターンで勝負ついてたのに」
「確かに、彼の能力は強烈よね」
「……プルさんたちも、コーヴァスさんのように、進化するのでしょうか?」
ふと、柚が言った。
「どうだろ? 私の時は、アポロンっていうクリーチャーが出て来て、力をくれたよ。その力で、コルルはコーヴァスに進化できたんだ」
コルルは暁と恋のデュエルの中で、コーヴァスへと進化した。
それは彼の本来の姿であり、そして彼が受け継いだ神話の力を纏ったもの。《太陽神話》と呼ばれた、アポロンが授けた力によるものだ。
「アポロン……確か、十二神話とかいう、あの世界を治めていたクリーチャーの一体よね」
それがコルルに力を与えたという。
それならばと、沙弓はその例を発展させる。
「私たちの語り手にそれぞれ対応した十二神話が存在していたのなら、暁以外の私たちの語り手にも、そういうことが起こりうる可能性があるってことよね」
「まあ、そういうことだね」
「うわっ、リュン!? いつの間に!?」
「随分とナチュラルに来たな……」
急に声がしたかと思うと、いつの間にか部室に、リュンが訪れていた。
向こうの世界からワープで直接部室に来るので、急なのは毎度のことだが、しかし何分久し振りに会ったものだから、少なからず驚いてしまう。
「色々あったあの時以来ね。しばらく振りだけど、どうしたの?」
「いや、ちょっと調べものをね……今回もその続きなんだけど。図書館で調べることがあるから、一緒に来てもらおうかと思って」
「えー! 図書館で調べものー……?」
露骨に嫌そうな表情をする暁。彼女としては、頭を使うより体を動かす方が性に合っている。いや、それ以前に、頭を使うことが非常に苦手なのである。
「というより、お前の調べものを、俺たちに手伝わせるっていうのか?」
「いやいや、そこまでは言わないよ。僕の調べものは僕がやる。でも」
「でも、なに?」
「今回、行く図書館が、君らとしても無視できないものだと思うんだよね」
もったいぶったように言うリュンは、一呼吸置き、さらに一拍溜めてから、口を開いた。
「これから行くのは、かの賢愚神話がもう一つの自分自身と謳った、あらゆる知識の眠る海底図書館。その名も——アカシック・∞(インフィニティ)」
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