二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て6」 ( No.511 )
- 日時: 2016/10/18 09:12
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
超次元ゾーン:空護
《魂喰いの魔狼月下城》×1
《悪夢卍 ミガワリ》×1
《激天下!シャチホコ・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《ヴォルグ・サンダー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
超次元ゾーン:美琴
なし
空護と美琴の対戦。
互いのシールドは五枚。
空後の場には《ポーク・ビーフ》が一体。
美琴の場には《死神の影デスプルーフ》《暗黒秘宝ザマル》《死神盗掘男》の三体。
「空護、だいぶ数で差をつけられちゃってるわね」
「《ポーク・ビーフ》で牽制はできているが、早めになんとかしないと厳しいな」
既にクリーチャーの頭数の差が大きく開き、空護がやや劣勢。ブロッカーがいるとはいえ、一回ブロックしたらすぐに破壊される《ポーク・ビーフ》だ。過信はできない。
「僕のターン……さて、ここはどうしますかねー」
カードを引き、少し考える素振りを見せ、空護は手札からカードを抜く。
「とりあえず、《龍覇 ドクロスカル》を召喚ですかねー。《悪夢卍 ミガワリ》を装備して、ターン終了ですー」
「《ミガワリ》か。厄介な一手だな」
「闇に破壊耐性は天敵だものね。」
闇単では処理しづらい《ミガワリ》を装備した《ドクロスカル》。破壊しようとすれば龍解し、龍解すればまた3D龍解に怯えなければならない。
《ミガワリ》は単純な破壊では処理できない厄介なカードだが、しかし、
「黒月さんのデッキは、単なる黒単じゃないからね。なんとかするんじゃないかな」
「? どういうことですか?」
「見てればわかるよ。ほら」
と言って一騎が視線を投げると、
「私のターン。4マナで呪文《陰謀と計略の手》!」
「おっと、そう来ますかー……」
「《ドクロスカル》をバウンス、その後、手札を一枚落とすわ」
シャカシャカと混ぜられた手札から、美琴は無作為に一枚を選ぶ。
叩き落されたのは、《ドクロスカル》だった
「っ、上手いな。不確定とはいえ、《ミガワリ》を龍解させずに《ドクロスカル》を処理した……!」
破壊で龍解するなら、破壊しなければいい。
美琴は一度バウンスして《ドクロスカル》を場から離し、その後、ハンデスで《ドクロスカル》を叩き落す。
「こんなことができるのも、ただの黒単じゃなくて、“準”黒単の黒月さんだからこそだね」
手札を介して墓地に落とすことで、《ミガワリ》を龍解させずに処理した美琴。
これでまた、空護は苦しくなる。
「ふぅ、青を入れておいてよかったわね……」
「黒月さん、運強いですねー。《ミガワリ》の龍解を阻止したうえで、《ドクロスカル》を除去しますかー」
ピンポイントで《ドクロスカル》を叩き落された空護だが、まだ余裕を見せている。
確かに《ミガワリ》を上手く処理されたが、空護のデッキのドラグナーは、まだ他にもいるのだ。一体ハンデスされても、まだ立て直せる。
「《オタカラ・アッタカラ》を召喚して……ターン終了しかないですかねー」
「呪文《死神ハンド》。《ポーク・ビーフ》を破壊、さらに私の場に死神がいるから、相手の手札も一枚墓地へ!」
「ですけど、《ポーク・ビーフ》が破壊されたので、一枚ドローですよー」
「なら、それも叩き落すまで。《ザマル》で攻撃! 攻撃時に相手の手札を一枚墓地に送るわ!」
場のクリーチャーを破壊して、手札を叩き、増えた手札すらも叩き落す美琴。
「やらしいハンデスが始まったわね」
「黒単のビートはこれが強いんだよな」
シールドはブレイクされるが、手札を捨てさせられているので、アドバンテージだけで言えば、結果的に空護のシールドが一枚破られただけ。、
S・トリガー等の不確定要素も絡むが、シールドを削りつつ手札も落とし、ディスアドバンテージを押し付けて少しずつ削って、アドバンテージの差をじわりじわりと広げていく。これが《ザマル》の強さだ。
あまり受け身になっていると、いつ突き破られるかわからない。空護としては、どこかで流れを引き寄せたいところだ。
「《龍覇 ニンジャリバン》を召喚。《ミガワリ》を装備して、ターン終了」
「呪文《死神スクリーム》! 山札の上から六枚を墓地に置くわ。その後、墓地から闇のクリーチャーと闇の進化クリーチャーをそれぞれ一体ずつ回収する。《死神ギガアニマ》と《死神明王バロム・モナーク》を回収」
大量の墓地肥やしからの墓地回収。美琴の手札に、フィニッシャーが握られる。
だがそのフィニッシャーに活躍の場があるかどうか、今の状況からはまだわからない。
「この分だと、《バロム・モナーク》を出すまでもなく終わっちゃうかもね。《デスプルーフ》で攻撃! シールドをブレイクよ」
「トリガーは……ないですねー」
「なら《ザマル》で攻撃! その手札は墓地に行ってもらうわ」
「こっちもトリガーなしですー」
また手札を削ってシールドを失うという結果だけが訪れる。これで空護のシールドは残り二枚だ。
「僕のターン……さて、ようやく動けそうですねー」
スッ、と。
空護の目つきが変わった。
ここまで受け身になってきた空護だが、ここで彼は反撃に出る。
「《ザマル》の弱点は、アドバンテージで差をつけるだけで、ブレイクするシールドが不確定要素となるところ。さっきブレイクされたシールドが、いいカードでしたよー。《オタカラ・アッタカラ》と《ニンジャリバン》はファンキー・“ナイト”メア、即ち種族にナイトを持ちます。なので、このナイト二体を進化元にします」
不確定であろうとも、それは引き寄せられた幸運であり、チャンスだ。
その好機は、生かすも殺すも自分次第。そして、少なくとも空護は、この好機を生かす方向へと持って行く。
いつ引いてもいいように、予め場に並べておいた種が、大きな実を結んで、巨大な暗黒皇帝となる。
「進化V——《暗黒帝グレイテスト・シーザー》!」
ファンキー・ナイトメア軸の変則《グレイテスト・シーザー》。種族カテゴリの隙を突いたデッキ。
小さなぬいぐるみが巨大な悪夢となり、暗黒の皇帝を生み出した。
「遂にお出ましか、空護の切り札」
「アドバンテージの勝負と言うなら、《シーザー》が叩き出すアドバンテージは、《ザマル》で少しずつ広げるアドバンテージの比じゃないからな……」
「ちまちましたアドバンテージなんて、このクリーチャーの前ではまとめて吹き飛びますよー。《グレイテスト・シーザー》で《ザマル》を攻撃。その時、墓地から《超次元ボルシャック・ホール》を唱え、《死神盗掘男》を破壊、超次元ゾーンから《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに出しますねー」
間延びした口調とは裏腹に、巨大な一撃が襲い掛かる。
まずは盤面処理。墓地から唱えられた呪文で《死神盗掘男》が、殴り返しで《ザマル》が破壊される。
「バトルで《ザマル》を破壊、《勝利のガイアール・カイザー》も《デスプルーフ》を攻撃して破壊しますよ」
「っ、全滅……!」
「ターン終了ですー」
最後にきっちりと《デスプルーフ》も殴り倒して、美琴の場を殲滅する空護。
返しのターン、美琴はすぐに《シーザー》を除去したいところだったが、
「呪文《ボーンおどり・チャージャー》! 山札の上から二枚を墓地に置いて、チャージャーをマナへ。さらに《死神ギガアニマ》を召喚! ターン終了よ……」
「残念、除去カードがなかったんですねー」
《シーザー》を退かすことができないまま、ターンを返してしまった。
「序盤に除去カードを使ったのは、美琴の失策だったかもね」
「まあ、《シーザー》には《ニンジャリバン》が装備していた《ミガワリ》を引き継いでいるから、どっちみち破壊では除去できないがな」
闇以外のカードがあると言っても、準黒単だ。除去カードの大半は破壊、水の除去カードはほんの一握りに過ぎない。
二枚目の《陰謀と計略の手》もなく、《グレイテスト・シーザー》は生き残ったままだ。
「《ポーク・ビーフ》と《オタカラ・アッタカラ》を召喚ですよー……と、では、手っ取り早く終わらせてしまいましょうかねー」
そう言って、空護は《シーザー》を横向きに倒す。
「《グレイテスト・シーザー》で攻撃! その時、墓地から《憎悪と怒りの獄門》を詠唱!」
憎悪と怒りの獄門 SR 闇/火文明 (6)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
相手のシールドが自分より多ければ、この呪文を唱えることができる。
自分のシールドと同じ数のシールドを、相手は自身のシールドゾーンから選ぶ。相手は残りのシールドを手札に加える。(その「S・トリガー」を使ってもよい)
「なにあのカード?」
「あんまり見たことないっすね」
「古いカードだしね。使うデッキも限られるし」
「というかハチ公、お前はあいつと何度か対戦したことあるんだから、覚えとけよ。使ってる時もあっただろ」
「そうでした?」
などと外野がすっとぼけているが、当然、美琴はこの呪文を知っている。
「そのカードはまずいわね……!」
「《憎悪と怒りの獄門》の効果で、僕のシールドの枚数になるように、相手のシールドを手札に加えさせます。要するに、疑似的なシールドブレイクですねー……序盤のビートダウンのツケ、きっちり払ってもらいますよ」
刹那、美琴のシールドが三枚まとめて吹き飛んだ。
「僕のシールドは二枚。よって、黒月さんのシールドを三枚、手札に飛ばします」
序盤から殴りつけていただけに、この反撃は美琴にとっては手痛い。瞬間的に打点が三打点増えたようなものだ。
そして、直後には《シーザー》のTブレイクが炸裂する。
「……S・トリガー! 《インフェルノ・サイン》!」
「あ、やったよ、トリガーだ!」
「これでみことさんは、このターンをたえられますね」
「いやいや、あなたたたち、ちゃんと墓地を見なさいって」
沙弓に言われて、暁と柚は美琴の墓地を覗く。
彼女の墓地に眠っているクリーチャーは《死神の影デスプルーフ》《暗黒秘宝ザマル》《死神盗掘男》《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》の四種類のみ。
どれを出したところで、空護の攻撃を防ぐことはできない。
「いいトリガーですけど、今このタイミングで出ても、無意味ですよー」
《シーザー》にブレイクされた最後のシールドからは、《インフェルノ・サイン》がトリガーするが、絶妙にタイミングが悪い。美琴の墓地にはブロッカーも、除去能力を持つクリーチャーもいない。
ゆえに、最後の《勝利のガイアール・カイザー》の攻撃を防ぐ手段を、墓地から用意することはできなかった。
「……《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》を復活させるわ。《ギガアニマ》の能力で、《死神盗掘男》を回収よ」
「では、これでとどめです」
空護は場の《勝利のガイアール・カイザー》に手をかけた。そして、ゆっくりと横に倒す。
「《勝利のガイアール・カイザー》で、ダイレクトアタック——」
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て7」 ( No.512 )
- 日時: 2016/10/18 21:12
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
《勝利のガイアール・カイザー》のダイレクトアタックが繰り出される。その、刹那。
「油断、大敵よ! ニンジャ・ストライク7! 《威牙の幻ハンゾウ》!」
美琴の手札から、クリーチャーが飛び出す。
「《ハンゾウ》を召喚! 《勝利のガイアール・カイザー》のパワーを−6000!」
ニンジャ・ストライクで飛び出した《ハンゾウ》が、《勝利のガイアール・カイザー》のパワーを奪っていく。パワーが0以下となった《勝利のガイアール・カイザー》は、そのまま死に絶えた。
「《ハンゾウ》がありましたかー……まずいですねー」
こおで問題なのは、このターンに決められなかったことと、《勝利のガイアール・カイザー》が“破壊”されてしまったこと。
今の美琴の場には、《インフェルノ・サイン》で釣り上げられた《ベル・ヘル・デ・ガウル》がいる。
「相手クリーチャーが破壊されたことで、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動よ! 私の山札をシャッフルして、その一番上を公開! デーモン・コマンドならそのままバトルゾーンへ!」
美琴の山札がシャッフルされ、トップを捲る。そして、
「《魔刻の斬将オルゼキア》! 《ハンゾウ》を破壊して、相手クリーチャーを二体破壊よ!」
「なら、《グレイテスト・シーザー》と《オタカラ・アッタカラ》を破壊ですかねー……《グレイテスト・シーザー》は《ミガワリ》を引き継いでいるので、破壊される代わりに、《忍者屋敷 カラクリガエシ》に2D龍解ですよー」
さらに、
「同時に闇のクリーチャーが破壊されたので、《カラクリガエシ》をさらに3D龍解……《絡繰の悪魔龍 ウツセミヘンゲ》!」
複数のクリーチャーの破壊によって、《ミガワリ》は《カラクリガエシ》を経て、一気に《ウツセミヘンゲ》まで3D龍解した。
「この辺、一騎の連続龍解に似たものを感じるな」
「そう? 一度に3D龍解するのと、同時に龍解条件を満たすのは、違うと思うけど」
「3D龍解だって、ウエポン面、フォートレス面で龍解条件があるだろ。それを一度に達成しているんだから、似たようなものだ」
「あ、そっか」
それはさておき。
《オルゼキア》の能力で空護のクリーチャーを破壊するも、《シーザー》は生き残り、《ウツセミヘンゲ》の登場も許してしまった美琴だが、これだけでは終わらない。
「クリーチャーが破壊されたから、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動よ!」
《シーザー》こそ生き残ったが、クリーチャーが破壊されたことに変わりはない。
再び、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力が起動する。
「シャッフルして、トップを公開! 二体目の《オルゼキア》! 能力で自身を破壊!」
「まだ連鎖しますかー……ここは《グレイテスト・シーザー》を捨てるしかないですねー。もう一体は《ウツセミヘンゲ》を破壊しますが、墓地のカード四枚を山札に戻して、場に留まりますねー」
「私も《ギガアニマ》の能力で《デスプルーフ》を回収するわ。さらに《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力発動! 山札をシャッフル、トップを捲って……《ハヤブサマル》ね。デーモン・コマンドじゃないから、手札に加えるわ」
「む……《ミガワリ》龍解で打点が揃ったと思ったんですけど、《ハヤブサマル》を引かれてしまいましたか—……まあ、仕方ないですね。シノビを消費させますよー。《ウツセミヘンゲ》でダイレクトアタックです!」
「ニンジャ・ストライク4! 《ハヤブサマル》を召喚して、自身をブロッカーに! 《ハヤブサマル》でブロック!」
最後の攻撃を、美琴は《ハヤブサマル》でブロックする。
《勝利のガイアール・カイザー》の攻撃を利用して、《ハンゾウ》で破壊し《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を起動させた美琴。《ベル・ヘル・デ・ガウル》で捲られた《オルゼキア》を利用して、《ウツセミヘンゲ》を龍解させて打点を揃えた空護。互いのカードを利用し合う攻防戦の最後は、美琴が乗り切った。
「ターン終了です。次のターンが、決着の境目ですねー」
攻めきれなかった空護は、すべてをトリガーに託すしかない。
しかし美琴からしても、彼女自身がそうしたように、トリガーやニンジャ・ストライクで耐えられる可能性は十分にあり得る。
それでも、ここまで来れば余計なことは考えず殴るしかない。
「もう小細工もなにも通用しない。最後は全力で叩き潰すわ! 《デスプルーフ》を召喚! そして進化! 《死神明王バロム・モナーク》!」
最後の最後で、美琴は切り札を召喚する。
やや過剰だが、S・トリガーによる逆転も考慮すると、打点はいくら多くあっても困らない。
《ギガアニマ》《ベル・ヘル・デ・ガウル》《オルゼキア》そして《バロム・モナーク》。
四体の死神たちで、美琴は総攻撃を仕掛ける。
「まずは《バロム・モナーク》で攻撃! シールドをWブレイク!」
「通します……シールド一枚目」
《バロム・モナーク》や《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を誘発させたくないので、空護はまだブロックしない。
そうして捲られたシールドは、
「S・トリガー《地獄門デス・ゲート》! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》を破壊して、《ポーク・ビーフ》を復活!」
一枚目のシールドからは、《デス・ゲート》が飛び出した。
アタッカーを削り、なおかつ二体目の《ポーク・ビーフ》を復活させ、ブロッカーを増やせた。
これで、美琴の残りアタッカーが二体に対し、空護のブロッカーも二体。このターンは耐えられる計算だ。
「続けて二枚目……こちらはトリガーはないですねー」
「《オルゼキア》でダイレクトアタック!」
「《ポーク・ビーフ》でブロックです」
「私のデーモン・コマンドがバトルに勝ったから、《バロム・モナーク》の能力発動! 墓地から《ベル・ヘル・デ・ガウル》を復活!」
《バロム・モナーク》はバトルにさえ勝てれば無制限でクリーチャーをリアニメイトできる強力な能力を持っているが、ロクに肥えていない墓地からいくらクリーチャーを復活させようと、怖くはない。
ここで復活するのは、このターン《デス・ゲート》で破壊された《ベル・ヘル・デ・ガウル》。再びバトルゾーンに戻って来たものの、召喚酔いで動けない。
(ただ一つ懸念があるとすれば、残りアタッカーで突撃されると、《ポーク・ビーフ》が破壊されて《ガウル》の能力が起動してしまう点ですが……流石にスピードアタッカーのようなクリーチャーが捲れることはないはず。ブロッカーならなんとかなりますし、《ギガアニマ》の攻撃なら《バロム・モナーク》の能力も起動させられません)
もうほとんど美琴の攻撃はシャットアウトできたはずだ。彼女は《ハンゾウ》と《ハヤブサマル》、有用なシノビを二枚も消費している。このターンを凌がれたら、後はないはず。
(残っているのは《オロチ》や《ゼロカゲ》くらいですが、死神のシナジーを考えると、防御のためにそこまでシノビに枠を割くとは思えない……何気にアタッカーをほとんど潰されたので、あったらヤバいですね)
と、自分の負け筋を考えて、それを潰す方法を探っていると、美琴からの攻撃宣言が言い渡された。
ここまでは空護の予想の範疇。予想外のことはない。
攻撃する、その時までは。
「《ギガアニマ》でダイレクトアタック!」
「《ポーク・ビーフ》でブロックです。相打ちなので、《バロム・モナーク》の能力も発動しな——」
「待った! ニンジャ・ストライク4! 《威牙忍ヤミノザンジ》を召喚よ!」
「……!」
攻撃後のブロックから、彼のシュミレーションは、綻び始める。
「《ヤミノザンジ》……そんなカードまで握っていたんですかー……?」
これで三枚目だ。色が合うとはいえ、死神でもデーモン・コマンドでもない軽量のシノビを積んでいるとは思わなかった。
《威牙忍ヤミノザンジ》。登場時に2000のパワー低下を放つシノビだ。−2000では、当然ながら《ポーク・ビーフ》を破壊することはできない。そもそも、ブロック宣言をして、ブロックが成立している時にニンジャ・ストライクされたので、いくら破壊しても攻撃は通らない。ブロックされた事実は変えられないのだ。
だが、それでいい。むしろ、その方が好都合だ。
なぜなら、美琴の目的は“バトルで勝つこと”なのだから。
「ブロック時に《ヤミノザンジ》をニンジャ・ストライクで召喚、《ポーク・ビーフ》のパワーを−2000よ。これで《ポーク・ビーフ》のパワーは2000、《ギガアニマ》のパワーは4000だから、《ギガアニマ》の勝ち!」
パワー低下によって、《ポーク・ビーフ》は“バトルに負けて”“破壊される”。
それにより、《バロム・モナーク》と《ベル・ヘル・デ・ガウル》、二体のクリーチャーの能力が起動する。
「《バロム・モナーク》の能力処理は、ひとまず置いておくわ。相手クリーチャーが破壊されたから、先に《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を発動よ! 山札をシャッフルして……トップを捲る!」
美琴としては、問題はここだ。シャッフルしたトップデックを参照するという不確定要因のために、狙ったカードが来る確率は、とても高いとは言えない。
それでも、わざわざ《ヤミノザンジ》を使ってまで呼び込んだチャンスだ。ここで引かなければ、意味がない。
そうして彼女は、混ぜられた山札の一番上を、公開する。
「……! 来たわ! 《死神の邪険デスライオス》! 私の死神を破壊して、相手クリーチャーも破壊!」
捲られたのは、自分の死神の犠牲によって、相手にもその犠牲を強要する《デスライオス》。
そのカードを見て、空護は安堵したように息を吐く。
「残念ですが、その破壊は効きませんね。《ウツセミヘンゲ》を破壊する代わりに、墓地のカードを四枚、山札に戻します。破壊されなければ、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力も使えませんねー」
《ウツセミヘンゲ》は破壊されない。破壊では《ウツセミヘンゲ》は戦場を離れない。アタッカーを減らすことはできない。
しかし、美琴にとって、そんなことは関係なかった。
相手のアタッカーなど、もはや彼女の眼中にはない。
「《ウツセミヘンゲ》を破壊する必要はないわ。だって……もう、私の勝ちだもの」
「?」
疑問符を浮かべる空護。彼女の言っている意味が分からない。
美琴のクリーチャーはすべて攻撃しきってタップ状態。《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力で現れた《デスライオス》では、《ウツセミヘンゲ》も破壊できない。もう彼女にはなにも残っていないはずだ。
残っているとしても、《バロム・モナーク》の能力と、《デスライオス》で自壊するクリーチャーを選ぶ程度。
だがしかし、それこそが、彼女が手繰り寄せた会心の一手だった。
先んじて《ウツセミヘンゲ》の能力を使用した空護だったが、《デスライオス》の能力は、本来ならば美琴の処理が先だ。ここで美琴は、自分の死神を一体、破壊する。
「《デスライオス》の能力で、私は——“《死神明王バロム・モナーク》”を破壊!」
「え……?」
「自分から切り札を破壊したっすよ!?」
「ど、どういうことなんでしょう……?」
既に攻撃済みなので、破壊されようとどうしようと、関係ないと言えば関係ないかもしれない。しかしそれなら、他にも攻撃し終わった《ガウル》や《ギガアニマ》もいるし、召喚酔いしている《デスライオス》でもいいはずだ。《バロム・モナーク》を破壊する意味はない。
傍から見れば、そう思うだろう。
だが、そうではない。意味がないのなら、美琴だってわざわざ切り札を破壊したりはしない。
この自壊は、大きな意味を持つ破壊なのだ。
「そして、ここで待機中だった能力の処理を行うわ。私の《死神ギガアニマ》は、さっき《ポーク・ビーフ》とのバトルに勝ってる。死神がバトルに勝ったことで、破壊されたけど、処理が待機されていた《バロム・モナーク》の能力は発動する!」
「! まさか……」
一つの可能性が彼の頭の中でよぎる。いや、それはもう可能性などという曖昧なものではない。
それは確定した事象。予想ではなく、確信的な予測だ。
気づいた時には、もう遅い。
「《死神明王バロム・モナーク》の能力で墓地から——“破壊された《死神明王バロム・モナーク》を復活”!」
死神の明王は、自らの死を超越し、再び現世の戦場へと舞い戻ってきた。
自らを破壊した《デスライオス》の上に重なり、《バロム・モナーク》は、文字通り自力で復活を果たす。
「《バロム・モナーク》の能力で、《バロム・モナーク》を復活! 進化元は《デスライオス》よ!」
「じ、自分の能力で、自分を復活させるだなんて……!」
さしもの空護も、声が震えている。この一連の流れに、驚きを隠せない。
空護だけではない。一騎も、ミシェルも、沙弓も、誰も彼もが息を飲んで、彼女の操る《死神明王》の復活劇を見届けた。
「これは……実用性とか関係なしに、この局面でこのテクニックを披露できるのは、凄まじいわね……」
「でも、自分で自分を復活なんて、できるんですか……?」
「バトルに勝ったのと、破壊と……処理順、逆じゃない……?」
「能力の処理としては、確か可能だったはずだ。バトル処理の後に、バトル勝利時の能力が処理されて……」
「詳しくは後で俺が説明するよ。それより今は、二人の対戦を最後まで見届けよう」
浬がおぼろげな記憶で説明していると、一旦それを引き留めて、一騎は皆を対戦に引き戻す。
もう勝敗は決したが、この一戦は大事な一戦だ。
一騎としては、自分だけでなくみんなに、最後までちゃんと見届けてほしかった。
「次の《デスライオス》は期待できないし、後はシノビ次第。これがラストアタックよ」
美琴は静かに《バロム・モナーク》に指を添えて、横に倒す。
それが、対戦を終結させる、合図だった。
「《死神明王バロム・モナーク》で——」
そして、勝者が決まった。
烏ヶ森の次期部長として任命されるは——
「——ダイレクトアタック!」
——黒月美琴だ。
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て8」 ( No.513 )
- 日時: 2016/10/20 23:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
Bブロック一回戦、空護と美琴の対戦が終了する。
勝者は、黒月美琴だ。
対戦が終わった直後に訪れる静寂。しばらくして、パチパチと手を叩いたのは、
「まずは二人とも、お疲れさま。いい対戦だったよ」
二人の健闘を称え、労う一騎。
「ありがとうございます……まあ、僕は負けましたけどねー」
「それでもいい対戦だったよ。誇っていい」
「そうね。文句なし、掛け値なしで、最高の一戦だったわ」
「でもやっぱり、最後の《バロム・モナーク》の自力復活に、すべてを持っていかれました」
それについては、皆が同意する。
自分自身の能力で、同一処理中に破壊された自身を復活するという、型破りな蘇生法。
そのインパクトからの追撃で勝利したのだから、それも含めていい対戦だったと言えるだろう。
ただ、
「自分の能力で破壊された自分を復活なんて、本当にできるの?」
ルール上の問題として、疑問を抱く者もいた。
それについては、一騎が説明する。
「クリーチャーのバトルにおける処理順序は、公式のルールで決まっているんだ。ややこしいから、一つずつ順番に説明するよ。まずは、バトルが発生。その時に、バトル時に発生する能力が発動する。ハンティングとか、バトル中にパンプアップする能力とかだね」
ちなみに、このバトル時に発生する能力にも、細かく処理順番が決められていたりする。具体的には、ハンティングなどのバトル中の継続的効果が一番目、《死神術士デスマーチ》や《恐気の覚醒者ランブル・レクター》などのバトル時の常在型能力が二番目、《電磁無頼アカシック・サード》などのバトルする時に発動するトリガー能力が三番目だ。これらが、アクティブ・プレイヤー、非アクティブ・プレイヤーの順番で処理される。
「バトル時の能力がすべて解決されたら、次はパワー比べで勝敗を決定するよ。この時に、《バロム・モナーク》の「バトルに勝った時」に発動するトリガー能力が誘発するけど、ここでは一旦待機されて、次の破壊処理に移るよ」
つまり、勝敗が決した段階では、《バロム・モナーク》の「バトルに勝った時」の能力は、まだ処理されないので、リアニメイトは発生しない。
「勝敗が決定した後は、バトルに負けたクリーチャーを破壊する。いわゆるモヤシ能力とか、エターナル・Ωとかの置換効果を持つクリーチャーは、ここでその能力を解決するよ」
「ん? 破壊する……ってことは」
「そう。ここで、「破壊された時」のトリガー能力が誘発するんだ」
「つまり、「バトルに勝った時」と「破壊された時」、《バロム・モナーク》と《ベル・ヘル・デ・ガウル》、二つの能力が誘発し、どちらも効果の解決が待機された状態になるわけだな」
そしてその後は、それらの効果を解決する段階へと移行するのだが、この効果処理の順番にも、ルールがある。
「同時に効果処理をする場合、そのターンを進行するプレイヤー——いわゆるアクティブ・プレイヤーが、同時発生している効果から好きな順序で効果を解決できるんだ。それに加えて、トリガー能力の解決中に別のトリガー能力が誘発した場合は、同時に誘発したものとして扱われるというルールもある」
これらを踏まえて、今回のケースを見てみる。
《ギガアニマ》が《ポーク・ビーフ》とのバトルに勝ち、《ポーク・ビーフ》を破壊した時、《バロム・モナーク》と《ベル・ヘル・デ・ガウル》の二つの能力が解決される状態にあった。美琴は最初に《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力を解決し、それによって《デスライオス》の能力が新しく待機状態となった。美琴は《バロム・モナーク》よりも《デスライオス》の効果を先に処理した。そして最後に《バロム・モナーク》の効果処理を行う時、《バロム・モナーク》は《デスライオス》に破壊されて墓地に移動していたので、自身の能力で自身を復活させた、というわけだ。
蓋を開ければ特別なことはなにもない。《バロム・モナーク》《ベル・ヘル・デ・ガウル》、《ベル・ヘル・デ・ガウル》の能力で出て来た《デスライオス》。これら三体の効果処理の順番を少し工夫しただけである。
「ということよ。わかった、あなたたち?」
「……まあ、大体は……」
「うーん? トリガー……効果処理……?」
「ごめんなさい、よくわからなかったです……」
しかし、肝心の理解できていない組は、ほとんどわかっていなかった。
「要するに、「バトルに勝った時」に発動する能力と「破壊された時」に発動する能力は好きな順番で発動できて、これらの能力で新しく発生した能力も、好きな順番で発動できるってことよ。だから《ガウル》の能力を使う→踏み倒された《デスライオス》の能力を使う→《バロム・モナーク》の能力を使う、っていう順番で、効果を解決できるってわけ」
「なるほどー、そっちの説明の方がわかりやすいね」
「……ごめん、わかりにくくて」
「いや、複雑な効果処理の話ですし、正確な情報で説明するのが筋ですよ。一騎さんは間違ってません」
と、浬が一騎の肩を持つようなことを言うと、沙弓が悪戯っぽい笑みを浮かべる。
「カイはまたすぐそうやって一騎君に媚びるんだからー」
「媚びてねぇよ!」
思わず声を荒げて怒りを露わにする浬。
流石に怒った。
「……それはそれとして、剣埼先輩。それと、四天寺先輩も。部長就任の件につきましては、また後日、ゆっくりとお話ししましょう」
「あ、うん……わかったよ」
対戦にはかったが、部長就任には納得しきれていない美琴は、圧力のかかった眼差しで一騎らを睨むように見据える。
この合宿の後、彼らの間で一悶着があったりなかったりするが、それはまた別のお話。
今は、二校合同トーナメントの真っ最中。そして次は、Bブロック第二回戦。
浬と柚の対戦だ。
「まあ、さっきの対戦の後だと、見劣りするかもしれんがな」
「別にさっきの対戦と比較することなんてないと思いますけどねー」
「そうそう。自分の思う通りのプレイングをすればいいんだよ。浬君は、いつもそうだったと思うけど?」
「……そうでしたね」
空護と一騎、二人からの言葉を受けると、浬は既に準備を始めている柚に向き直った。
「じゃあ、やるか、霞」
「は。はひっ。よろしくおねがいします……」
Bブロック、第二回戦。
浬と柚の対戦が、開始した。
霧島 浬
〜結晶魔術の定理〜
vs
霞 柚
〜森の妖精さんと恐竜さん〜
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て9」 ( No.514 )
- 日時: 2016/10/21 10:21
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
超次元ゾーン:浬
《龍波動空母 エビデゴラス》×1
《真理銃 エビデンス》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の踊り子マティーニ》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
超次元ゾーン:柚
《始原塊 ジュダイナ》×1
《神秘の集う遺跡 エウル=ブッカ》×1
《卵殻塊 ジュラピル》×1
《革命槍 ジャンヌ・ミゼル》×1
《神光の龍槍 ウルオヴェリア》×1
《二丁龍銃 マルチプライ》×1
《熱血剣 グリージー・ホーン》×1
《龍棍棒 トゲトプス》×1
浬と柚の対戦。
互いにシールドは五枚。
浬は《氷牙フランツⅠ世》が一体。《ブレイン・チャージャー》で少し加速しているだけ。
柚は《霞み妖精ジャスミン》から順調にスタートし、既に《龍鳥の面 ピーア》《地掘類蛇蝎目 ディグルピオン》、そして《養卵類 エッグザウラー》二体を並べている。
「展開がいつもより早いな……俺のターン。呪文《スペルブック・チャージャー》を唱え、山札を五枚見るぞ……《スパイラル・ハリケーン》を手札に加え、《スペルブック》をマナへ。3マナで《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ。マナ武装7を達成しているため、相手クリーチャーをすべて手札へ」
「はわわ……」
「うわ出た、浬の全体除去!」
「青単はこれが強いよね。マナを溜めるのが大変だし、バウンスだけど、たった4マナでアンタッチャブルも全部無視して全体除去ができるだもん」
水文明単色のコントロールデッキが持つ大きな意義の一つ。それが、《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ。
それにより、大量のクリーチャーを展開した柚の場を一掃する浬。
浬のデッキは水単色のコントロールデッキ。ドローでデッキを回転させながら相手のテンポを削ぎ、その隙間を縫ってフィニッシャーを投げるデッキだ。
デッキが呪文主体であるため、盤面の支配力、制圧力に関しては、クリーチャー主体の柚には敵わない。一旦すべてのクリーチャーを場から離すが、
「ピーア》を召喚です。《ピーア》の能力でコストを下げて《エッグザウラー》を召喚、マナを増やします。さらにコストを下げて《ディグルピオン》を召喚、《ピーア》の能力と合わせて2マナ増やして、二体目の《エッグザウラー》を召喚です!」
「……分かってはいたが、すぐに盤面を戻されたな」
前のターンにバウンスしたクリーチャーがすべて戻ってきた。しかもマナは増えているので、その場凌ぎとしても不完全だ。
「能力も再利用されたし、殴られるタイミングをずらしただけで、アドはきっちり取られたわね」
「だが、こっちはまだ動けない……3マナで《ブレイン・チャージャー》だ。一枚ドロー」
アドは取られたが、殴られてからが怖いところではあるので、とりあえずテンポは削げた。前のターンと盤面そのものは変わっていないので、時間は稼いだ。
水文明で重要なのは、稼いだ時間の使い方。
その隙に、浬も少しず準備を進める。柚ほど急激なマナ加速はできないが、地道に、少しずつ、堅実にアドバンテージを得ていく。
「残った6マナで《龍覇 M・A・S》を召喚! 《ピーア》をバウンスし、《真理銃 エビデンス》を装備だ」
「《エビデンス》? 除去される可能性が高い《M・A・S》で《エビデンス》を装備するのか?」
「ってことは、たぶん浬君、あれを握ってるね」
「G・ゼロ、《龍素力学の特異点》! 二枚ドローして、手札を一枚、山札の下へ」
一騎の予想通り、浬はG・ゼロ呪文で三枚目の水のカードを使用。これで、条件は満たされた。。
「ターン終了。その時、俺はターン中に水のカードを三回使ったため、《エビデンス》の龍解条件を達成した。よって、《エビデンス》を《龍素王 Q.E.D.》に龍解だ!」
「あぅ、出ちゃいました……でも、まだ負けませんよっ。わたしのターン! まずは《ピーア》を召喚します。そして次に、《牙英雄 オトマ=クット》を召喚ですっ!」
浬に対抗するように、柚もさらにクリーチャーを並べる。
しかも出されたのは、《オトマ=クット》だ。嫌な予感しかしない。
「マナ武装7! わたしのマナゾーンのカードを七枚アンタップです! さらに《ピーア》の能力でマナを増やします」
「柚ちゃんのこれも強いわよねぇ。実質ノーコストで出せる《オトマ=クット》と《ピーア》のシナジー」
「コスト軽減とマナ加速で、実質的に2マナ増やしてるようなものだもんね。手札さえ確保すれば、どんどんクリーチャーが展開される」
展開が次の展開への布石となり、展開に展開を重ねて次々とクリーチャーを展開していく。それが、柚のスタイル。
そのスタイルに則って、柚はさらにクリーチャーを展開していく。
「6マナで《龍覇 サソリス》を召喚ですっ。《始原塊 ジュダイナ》を装備!」
「《サソリス》が出たな……それに、やはり《ジュダイナ》か」
「はい! 《ジュダイナ》の効果でマナゾーンから《連鎖類大翼目 プテラトックス》を召喚! 《ピーア》の能力でマナを増やして、マナゾーンから《連鎖庇護類 ジュラピ》をバトルゾーンに! 残ったマナで《ディグルピオン》を召喚です!」
《サソリス》によって《ジュダイナ》が、《ジュダイナ》によって《プテラトックス》が、《プテラトックス》によって《ジュラピ》が現れ、連鎖するように次々と盤面が柚のカードに埋められていく。
しかもこれで、柚の場にドラゴンが三体以上だ。
「ターン終了するときに、《ジュダイナ》の龍解条件成立です! 《ジュダイナ》を《古代王 ザウルピオ》に龍解!」
浬の《エビデンス》、《Q.E.D.》に対して、柚も《ジュダイナ》を《ザウルピオ》に龍解。これで互いの場に、ビクトリーの称号を冠するドラグハート・クリーチャーがそれぞれ現れた。
ただし、ほとんど展開していない浬に対して柚の場は、圧倒的な数のクリーチャーが立ち並んでいるが。
「……やっぱり、展開力がとんでもない……」
「1ターンでここまでとは……しかも、打点も決して低くはないですしねー」
「とにかく盤面の差が凄いわ。このフィールドアドは、なかなか返せないわね」
浬の場には《フランツ》《M・A・S》《Q.E.D.》だけ。
一方、柚の場には《エッグザウラー》《ディグルピオン》が二体ずつ、《ピーア》《サソリス》《オトマ=クット》《プテラトックス》《ジュラピ》《ザウルピオ》と、単純な数だけで言えば浬の三倍以上のクリーチャーが存在している。
これらのクリーチャーで一斉に殴られると、流石に厳しいものがあるが、
「俺のターン。まずは《Q.E.D.》の能力発動。各ターン一度ずつ、ノーコストで水のクリーチャーの召喚、呪文の詠唱ができる。まずは呪文からだ。《龍素解析》」
浬には、潤沢な手札を消費し、状況への対応を支援する《Q.E.D.》がいる。
《龍素解析》の効果で手札をすべて山札に戻し、カードを四枚引く。そして、
「コスト7以下のクリスタル・コマンド・ドラゴン……《理英雄 デカルトQ》をバトルゾーンへ! マナ武装7で、五枚ドロー! さらにシールドと手札を入れ替えるぞ」
浬もまた、英雄のクリーチャーを繰り出す。
「次に召喚だ。ノーコストで出て来い、《神託の王 ゴスペル》!」
「《ゴスペル》? 見たことないカードですね。かいりくん、新しいカード入れたんですか?」
「確かに投入したのは今回が初だ」
本来なら《ヒラメキ・プログラム》に引っかからず、《エリクシール》で出すことを想定したフィニッシャーだが、《エリクシール》なしでも運用可能か、またどこまでフィニッシャーとして通用するのかの試験的運用も兼ねてそのまま採用している。
「《ゴスペル》の能力発動! 互いの山札の一番上を捲り、その呪文を使う」
「わ、わたしの山札からも、ですか……?」
「そうだ。まずは相手の山札から捲るぞ」
柚は自身の山札の一番上を捲る。捲られたカードは、《帝王類増殖目 トリプレックス》。呪文ではないので、そのままだ。
「次に俺の山札を捲るぞ……よし、呪文《超次元エナジー・ホール》! カードを引き……ここは、これか。《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンへ」
浬の山札からは、《エナジー・ホール》が捲れる。それにより、《勝利のリュウセイ・カイザー》が現れる。相手のマナをタップインさせる水のドラゴンだが、マナを大量に発生させている柚には、もうほとんど効果がないクリーチャーだ。
「呪文ではないカードが一枚捲れたから一枚ドロー。1マナで《連唱 ハルカス・ドロー》を唱え、一枚ドロー。そして8マナ!」
しかし、浬はタップインのために《勝利のリュウセイ・カイザー》を出したわけではない。
浬にとって《勝利のリュウセイ・カイザー》の重要な部分は、水のドラゴンだという点だ。
「《勝利のリュウセイ・カイザー》を進化——《甲型龍帝式 キリコ3》!」
水文明とドラゴン。その二つの条件を満たせば、《キリコ3》は進化できる。
5マナで相手の動きを鈍らせながら、《キリコ3》の進化元となる《勝利のリュウセイ・カイザー》。浬が超次元ゾーンにサイキック・クリーチャーを採用した理由の一つだ。進化元にならずとも、そのままでも相手の行動妨害と打点にもなるため、使いどころは多い。
「《キリコ3》の能力発動! 手札をすべて山札に戻しシャッフル……その後、呪文が三枚出るまで山札を捲る」
「あ、これ……」
「……メガネの勝利パターン……入った」
「どうだかな。捲れるカード次第だ。一枚目《超次元エナジー・ホール》! カードを引き、《変幻の覚醒者アンタッチャブル・パワード》をバトルゾーンへ!」
言いながら一枚目の呪文が捲れる。最初に放たれるのは《エナジー・ホール》。今度は覚醒した状態のサイキック・クリーチャー、《アンタッチャブル・パワード》が現れる。
「二枚目《スペルブック・チャージャー》。山札の上から五枚を見て、その中の《ハルカス・ドロー》を手札に。チャージャーはマナへ」
次に捲られたのは《スペルブック・チャージャー》。手札やマナを多少増やされても、ここでは大勢に影響はない。手札に加えられたカードも、ただのドロースペルだ。
しかし、三枚目が、柚に大きな一撃を叩き込む。
「三枚目《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7を達成しているため、相手クリーチャーをすべて手札へ戻す!」
「はうぅ……」
その一撃で、柚のクリーチャーがすべて吹き飛んだ。これで盤面の差もひっくり返る。
「《スパイラル・ハリケーン》を引いたのは大きいけど、たぶんこれ、シールドにも埋まってるよね」
「《デカルトQ》で引いた中に入ってたのを埋めたと見たわ。あいつ、想定内の範囲なら抜け目はないからね」
「……ターン終了」
後ろでごちゃごちゃ言われる中、場を一掃した後、浬は少し考え込んでからターン終了を宣言する。
「わ、わたしのターンっ! バトルゾーンはなくなっちゃいましたが、まだ、戦えます……っ」
一方、場を壊滅状態に追い込まれた柚は焦りを見せているが、まだ闘志を燃やしていた。
「9マナで、《帝王類増殖目 トリプレックス》を召喚です! マナゾーンから《ジュラピル》と《サソリス》を出して、《サソリス》に《ジュダイナ》を装備です!」
「また《ジュダイナ》か……しかもこの展開からすると……」
「次に《オトマ=クット》を召喚! マナ武装7でマナを七枚アンタップしますっ。続けて《プテラトックス》を召喚、マナから《ジュラピ》をバトルゾーンへ! 《ディグルピオン》も召喚します!」
手札に戻されたクリーチャーをすべて展開し直すようなことはしなかったが、それでも、戻したクリーチャーの多くが戻ってきてしまった。そしてこれで、柚の場にドラゴンが三体以上。
再び、龍解条件成立だ。
「ターン終了するときに《ジュダイナ》を龍解ですっ! もう一度お願いします! 《古代王 ザウルピオ》!」
幾度倒されようと、戻されようと、不屈の闘志で舞い戻る《ザウルピオ》。
古代の王は、相当しぶとく、屈強であった。
しかしそれでも、龍素王の計略の前には、屈服するしかない。
「俺のターン。まずは《Q.E.D.》の能力で、ノーコストで《アクア呪文師 スペルビー》を召喚。山札の上から三枚を墓地に置き、《スパイラル・ハリケーン》を回収。そのままノーコストで《スパイラル・ハリケーン》! マナ武装7ですべてバウンスだ!」
「ふぁ……っ」
「さらに《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚し、《龍波動空母 エビデゴラス》を設置……まあ、オーバーキルか」
何度立ち上がろうとも、何度でも押し戻す浬。再び場を一掃し、新しくドラグハートも設置して、ここで遂に攻めに出る。
打点は十分にそろっているのだ。ちょっとやそっとのトリガーでは、この軍団は止められない。
「行くぞ。まずは《ゴスペル》で攻撃! 攻撃時に山札をそれぞれ捲るが……どちらもクリーチャーか。二枚ドローして、Tブレイク!」
「し、S・トリガーですっ! 《古龍遺跡エウル=ブッカ》《有毒類緑罠目 トラップトプス》! 《キリコ3》と《デカルトQ》、《フランツ》もマナへ!」
「《Q.E.D.》でWブレイク!」
「S・トリガー《エウル=ブッカ》……《M・A・S》と《スペルビー》をマナへ……」
五枚中、三枚ものトリガーを引き当てる柚だが、それでも足りない。いや、消せない。
最後に残った《アンタッチャブル・パワード》だけは、選べない。
「まあ、《アンタッチャブル・パワード》はどうしようもないね。《Q.E.D.》も呪文アンタッチャブルだったし」
「《チャケの応援》とか引けてれば……ワンチャンあった……」
だが、今回は引けなかった。ただそれだけだ。
これで、この対戦は決着だ。
「《アンタチャブル・パワード》で、ダイレクトアタック!」
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て10」 ( No.515 )
- 日時: 2016/10/22 01:58
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「はうぅ、負けちゃいました……」
「なーんか、あっさり終わったわね」
「これでも結構危なかったぞ。タイミングよく《スパイラル・ハリケーン》を撃てたからいいものの、一手遅れたら死にかねない数だった」
対戦中こそは平静を保っていた浬だが、実際には見た目以上にギリギリな対戦だったのだ。経験が最も浅いとはいえ、柚も今までに相当数の場数を踏んでいる。流石に舐めてかかれる相手ではない。
「さて、Bブロックの対戦も終わったし、次で最後のブロック、最後の対戦ね」
一回戦で残っているのは、唯一人数が二人だけのCブロック。このブロックは二回戦シードとなっており、一回戦を突破すれば、二回戦が免除される。
そして対戦するのは、沙弓と恋だ。
早速対戦準備を始める中、ふと沙弓が言った。
「そういえば、れんちゃんと対戦するのって、これが初めてよね」
「……ずっと気になってたんだけど……れんちゃんって、私のこと……?」
「そうよ。恋だかられんちゃん」
「…………」
恋の名前は訓読みで「こい」と読むが、沙弓は恐らく“恋”という字を音読みしただけなのだろう。
ひねりがあるようでないようなセンスに、恋は微妙な目線を彼女に向けることしかできなかった。
そうこうしているうちに、対戦準備が整う。
Cブロック一回戦にして、第一回戦の最終戦。沙弓と恋の対戦。
対戦開始だ。
卯月 沙弓
〜ブラック・マジック・カーニバル〜
vs
日向 恋
〜天門の向こう側へ—天命の槍を添えて—〜
超次元ゾーン:沙弓
《時空の悪魔龍 ディアボロス ΖΖ》×1
《時空の封殺ディアスΖ》×1
《勝利のガイアール・カイザー》×1
《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》×1
《勝利のリュウセイ・カイザー》×1
《勝利のプリンプリン》×1
《時空の英雄アンタッチャブル》×1
《時空の喧嘩屋キル》×1
超次元ゾーン:恋
《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》×1
《百獣槍 ジャベレオン》×1
《不滅槍 パーフェクト》×1
《浮遊する讃美歌 ゾディアック》×2
《神光の龍槍 ウルオヴェリア》×1
《革命槍 ジャンヌ・ミゼル》×2
沙弓と恋の対戦。
お互いにシールドは五枚。
沙弓は《特攻人形ジェニー》を撃ち、《ボーンおどり・チャージャー》で下準備を整えている。
恋は《制御の翼 オリオティス》《聖龍の翼 コッコルア》を並べていた。しかし手札が切れており、息苦しそうにしている。
「ん……いいところに……《ジャスティス・プラン》……」
「あちゃ。手札補充されちゃうか」
せっかくハンデスしたが、手札を増やされると沙弓としては少し面倒だった。
「《龍覇 エバーローズ》と《音感の精霊龍 エメラルーダ》を手札に……ターン終了」
「《オリオティス》がいるから、サイキックが出せないのよねぇ……とりあえず《特攻人形ジェニー》を召喚して破壊、手札を捨ててもらおうかしら」
「《エメラルーダ》が……」
恋の規制によって、沙弓の行動も控えめだ。手札を一枚落とすだけで、ターンを終える。
「私のターン……マナチャージ、ターン終了」
「私のターンね。《超次元リバイヴ・ホール》を唱えるわ。墓地の《ジェニー》を回収して、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに」
「タップイン……やらしい」
「そういうデッキだからね。ターン終了よ」
既にマナには六枚のカードがあるので、《オリオティス》がいても《勝利のリュウセイ・カイザー》は出せる。
これで鈍足な恋の足をさらに遅くして、その隙に妨害と、フィニッシャーを繰り出す準備を整える算段だ。
「醤油のせいで出せない……《エバーローズ》をマナに……呪文《エンジェル・フェザー》」
「また手札補充かぁ」
「これくらいしか、できないし……《ヘブンズ・ゲート》と《天英雄 ヴァルハラ・デューク》を手札に……ターン終了」
「私のターン。とりあえず、《ジェニー》を撃ち込もうかしらね」
「ん……《ヘブンズ・ゲート》が……」
「当たりの方が落ちたわね。ターン終了よ」
「まあ、手札がないときに《ヘブンズ・ゲート》握ってても、使うタイミングはなさそうだがな」
それが光単色の辛いところである。
手軽な手札補充手段が多くないので、一度手札が切れると、《ヘブンズ・ゲート》の弾がなくなるのだ。
「でも、恋のデッキは《ヘブンズ・ゲート》だけじゃないからね。大丈夫だよ」
暁がそう言うと、その言葉に導かれるかのように、恋は引いた。
天門ではない方の、彼女の切り札を。
「来た……《龍覇 エバーローズ》を召喚」
それは、ドラグナー。
恋のデッキは、天門であり、ドラグナーのデッキ。二つの戦術を使い分け、時に折衷し、合わさる。
手札が切れてもドラグハートは呼べる。今引きの《エバーローズ》から、恋は一つの武器を呼び寄せる。
「《百獣槍 ジャベレオン》を装備……ターン終了」
恋は今引きの《エバーローズ》に、迷わず《ジャベレオン》を装備する。
《ジャベレオン》が装備対象に付与するのは、破壊耐性。さらにその破壊耐性を発揮するためには、シールドを一枚手札に加える必要がある。
これは裏を返せば、破壊を免れつつ、シールドを手札にできるということでもある。破壊を防ぎつつ、その行為が手札補充になるのだ。除去手段が破壊しかなく、ハンデスで動きを縛ってくる沙弓に対しては、かなり効果的だろう。
「でも、ここからなら、まだまだ問題ないわね。《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》を召喚」
「む……」
「《デッド・リュウセイ》の登場時、相手クリーチャーを一体破壊するわ。《コッコルア》を破壊よ」
「結局、まったく仕事しなかった……」
「さらにクリーチャーが破壊されたから一枚ドロー。ターン終了」
「沙弓ちゃんはここで手札補充かぁ。上手く進んでるなぁ」
場に出てから、一度もコスト軽減の働きをしなかった《コッコルア》が破壊される。むしろ、今までなぜ生き残っていたのか。
そして、沙弓はドローソースの一つである《デッド・リュウセイ》から知識を得る。闇単色も、決して手札の管理が得意なわけではないので、この置きドローの存在は大きい。
「私のターン……《龍覇 セイントローズ》を召喚……《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》を設置」
「あらら。面倒くさいのが出ちゃったわね」
「手札がないからマシだが、これは面倒どころのものではないと思うがな……」
「メガネは使ったことないからわからないだろうけど……手札がない《ヘブンズ・ヘブン》は思った以上にただの置物だから……」
「……そうかよ」
ならなんで出したんだ、と言おうとしたが、下手に突っ込んで刺激すると面倒な反感を買いそうだったので、黙した。
「……ターン終了」
手札がないので踏み倒しこそできないが、これで沙弓が唱える呪文のコストは1増加する。マナが増えた終盤では大きな影響はないが、計算が狂うので、地味に面倒ではある。
「おっと、ここでこのカードが来るのね。ごめん、ちょっと考えさせて」
「ん、わかった……」
引いてきたカードを見て、思案する沙弓。
手札をじっと見つめ、一、二分ほど考え込むと、手札のカードをスッと引き抜いた。
「……よし。まずは安全運転。《ヘブンズ・ヘブン》でコストが1増えて、6マナ。呪文《生死の天秤》よ。《オリオティス》のパワーを5000下げて破壊。これでターン終了」
「私のターン……《聖鐘の翼 ティグヌス》を召喚……ターン終了」
「やることなくて暇そうね」
「手札ないし……つまらない」
「だろうな。ハンデスコンはこれだから嫌いだ」
「私のデッキ、言うほどハンデスしないけどね」
なんにせよ、恋は沙弓のハンデスで制されて、動きを封じられてしまっている。
龍解するにしても遠く、手札がないため山札の一番上を投げつけるだけの作業だ。面白いはずがない。
もっとも沙弓のデッキは、相手をそういう、面白くない状況、に引き込むデッキなのだが。
「《地獄門デス・ゲート》で《セイントローズ》を破壊して、墓地から《ホネンビー》を復活。山札を三枚捨てて、《ウラミハデス》を回収よ。で、ターン終了ね」
「私のターン……ここで《ヘブンズ・ゲート》はいらないし、マナチャージしてターン終了」
「じゃあ、私は《ボーンおどり・チャージャー》を唱えるわ」
山札の上から二枚を墓地に置く。
墓地に落とされたカードを見て、沙弓はふっと微笑んだ。
「ふふ、いいカードが落ちてくれたわね。じゃあ今度は、賭けてみようかしら。《呪英雄 ウラミハデス》を召喚。マナ武装7発動よ。墓地から《凶英雄 ツミトバツ》をバトルゾーンへ」
「《ツミトバツ》……」
「《ツミトバツ》のマナ武装7も発動。相手クリーチャーすべてのパワーを−7000!」
マナ武装によって、《ツミトバツ》は強烈な全体除去を放つ。
恋は沙弓の妨害によって、大型クリーチャーを出せていない。クリーチャーすべてが、《ツミトバツ》の射程に収まっている。
「《エバーローズ》に装備された《ジャベレオン》の能力……破壊される代わりに、シールドを一枚、手札に加える……」
「でも、パワー低下は継続中よ。破壊してもらうわ」
「……もう一枚、シールド回収……」
「え? クリーチャーは破壊されるのに、まだシールドを手札に戻すの?」
「手札補充だろ。部長のハンデスで動きをかなり縛られたからな。自分の肉を切り落としてでも、逆転手を探るつもりなんだ」
守りを知識に変換し、反撃の芽を見出そうとする恋。
その分、守りは薄くなるが、元々防御は得意分野だ。減ったシールドもまた戻せる。
恋はシールドを二枚だけ手札に加えて、《エバーローズ》を破壊する。
そして、恋のターン。
「呪文……《ヘブンズ・ゲート》」
「あちゃー……」
「来た! 恋の必勝パターン!」
返しのターン、恋は遂に《ヘブンズ・ゲート》を唱える。
《ジャベレオン》で回収したシールドにあったのか、今引きなのかはわからないが、なんにせよ、手札が増えたこのタイミングでの《ヘブンズ・ゲート》は、沙弓にとってはあまりよくない。
「必勝って言うには、ちょっと微妙だけど……《音感の精霊龍 エメラルーダ》と《龍覇 エバーローズ》をバトルゾーンに……《エメラルーダ》の能力で、シールドを回収……《エバーローズ》に《ジャベレオン》を装備」
「思ったより大きいのは出なかったけど、少し面倒そうね……」
「ターン終了……その時、《ヘブンズ・ヘブン》の効果で、手札から《蒼華の精霊龍 ラ・ローゼ・ブルエ》をバトルゾーンに……さらにターン終了時に私のシールドが三枚以下だから、《ジャベレオン》の龍解条件成立……2D龍解して、《百獣聖堂 レオサイユ》に」
恋はさらに《ラ・ローゼ・ブルエ》も並べ、《ジャベレオン》を《レオサイユ》へと龍解。防御を固める。
「これで恋は、次のターンには《ヘブンズ・ヘブン》を龍解させられる……」
「しかも、除去しようにも《レオサイユ》がある。無理に除去しようとすればシールドを犠牲に守られるし、それで下手にシールドを削れば、《レオサイユ》まで龍解する」
《ヘブンズ・ヘブン》の龍解を阻止するために、クリーチャーを除去したい。しかし、中途半端な除去は《レオサイユ》の龍解を手助けすることになってしまい、むしろ逆効果だ。
こうなると、沙弓としては盤面のコントロールが厳しくなる。
「うーん、いい感じの除去カードもないわね……」
ここでまた《ツミトバツ》のような大きなパワー低下を発生させられれば、かなり盤面は有利にできたかもしれないが、それも都合よく引けるはずもない。
「となると……決めるしかないか」
ここで下手に引き伸ばすのは悪手と考え、沙弓は手札のカード二枚を引き抜く。
この勝負を決定づけるカードを、呼び出すために。
「あんまりスマートなやり方じゃないけど、仕方ないわね。呪文《リバイヴ・ホール》&《ミカド・ホール》!」
「超次元呪文……二枚……」
「これは決まったかな」
このタイミングで二枚の超次元呪文。それがなにを意味するかくらい、誰もが理解していた。
「《リバイヴ・ホール》でコスト5以下のサイキック・クリーチャー、《勝利のプリンプリン》を。《ミカド・ホール》でコスト9以下の闇のサイキック・クリーチャー、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに!」
一度に二枚の超次元呪文を唱え、沙弓は二体のサイキック・クリーチャーを一気に展開する。
呼び出されたのは、勝利シリーズのサイキック・クリーチャー。そして沙弓の場には既に、《勝利のリュウセイ・カイザー》がいる。
よって、
「V覚醒リンク! 《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》!」
三体のクリーチャーは一体のクリーチャーとして覚醒し、リンクして、サイキック・スーパー・クリーチャー、《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》となる。
「《プリンプリン》の能力で《ラ・ローゼ・ブルエ》をロックよ。そして《勝利のガイアール・カイザー》の能力で、このターン《オレドラゴン》はアンタップキラーよ」
「むぅ……」
「ここは無理やり押し切るわ。《オレドラゴン》で《エメラルーダ》を攻撃!」
「ブロックは……しない」
《ラ・ローゼ・ブルエ》の動きを封じ、直接《エメラルーダ》を殴ることでブロックもさせない。《ラ・ローゼ・ブルエ》の能力を発動させることなく、沙弓は恋を殴りつける。
「バトルに勝ったからシールドを二枚手札へ!」
「……トリガーは、ない……」
自らシールドを減らしたことが仇となり、恋は残り二枚のシールドを薙ぎ払われてしまう。《レオサイユ》の効果も、《オレドラゴン》がバトルに勝った時点でシールドがなくなってしまうため、発動できない。
ブロッカーは無意味で、トリガーもない。恋の防御網は、完全に突き崩されてしまった。
「《唯我独尊ガイアール・オレドラゴン》でダイレクトアタックよ」
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