二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 60話 「『popple』」 ( No.219 )
- 日時: 2015/08/16 13:06
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
暁と姫乃のデュエル。
暁の場には《コッコ・ルピア》が一体。対する姫乃の場には《光器ユリアーナ》。
「わたしのターン、いくね。マナチャージして、5マナ。全部使って《光器パーフェクト・マドンナ》を召喚するよ」
「うーん、困ったなぁ……」
返しのターン。早速、暁は困ったような表情を浮かべていた。
「とりあえず、呪文《メテオ・チャージャー》を使うけど……」
それでは、なにも起きない。
《ユリアーナ》は選ばれないブロッカーなので、対象にはできない。しかし《パーフェクト・マドンナ》はパワー低下以外では場を離れない。
ゆえに、《メテオ・チャージャー》は実質的な空撃ちとなり、暁のマナに送られるのだった。
「《熱血龍 バクアドルガン》を召喚! スピードアタッカーだからすぐに攻撃して、山札の上の《ガイアール・アクセル》を手札に加えるよ! シールドブレイク!」
「《パーフェクト・マドンナ》でブロックするよ」
「……だよねー」
《パーフェクト・マドンナ》によって《バクアドルガン》の攻撃は止められる。
暁のデッキでは、どう足掻いても《パーフェクト・マドンナ》を除去することはできない。なので、毎ターン攻撃しようとも、毎ターン一回は攻撃を止められてしまうのだ。
ビートダウンでとにかく殴る暁にとって、このクリーチャーの存在は非常に大きく、辛いものだった。
「むぅ……でも、《バクアドルガン》の能力で、山札を捲ってドラゴンなら手札にできます。さぁ来い!」
そうして捲れたのは《ガイアール・アクセル》。ドラゴンなので手札に入った。
とはいえ、これだけでは突破口は開けそうにはない。
「じゃあ、わたしのターンだね。えっと……《知識の精霊ロードリエス》を召喚。カードを一枚引いて、ターン終了だよ」
姫乃の動きは、まだ大人しい。しかし《ロードリエス》を召喚することで、手札の源泉を作り出した。
暁もあまりもたもたしていられない。早く姫乃の防御を突破しなければ。
「《ガイアール・アクセル》と《熱血龍 タイマンド・ツクデ》を召喚! 《タイマンド・ツクデ》の能力で私のドラゴンは、アンタップしているクリーチャーを攻撃できる! 《バクアドルガン》で《ユリアーナ》を攻撃!」
「《パーフェクト・マドンナ》でブロックだよ」
アンタップキラーでアンタッチャブルの《ユリアーナ》を破壊しようとするも、やはり《パーフェクト・マドンナ》壁が立ちふさがる。
それでも、《バクアドルガン》の能力でカードを手に入れようとするが、
「う……《コッコ・ルピア》か……」
捲れたのは、ドラゴンではない《コッコ・ルピア》。なので手札には入らず、山札に戻される。
「まずいなぁ、どうやって攻めよう……あ、ターン終了です」
暁も暁でクリーチャーを展開してきたが、しかし相手のブロッカーの壁は高い。そろそろ一発逆転できるような大型ドラゴンでも引いて、一気に攻め込みたいところだ。
だが、しかし、
「じゃあ、《パーフェクト・マドンナ》を召喚するよ」
「げ……!」
現れたのは二体目の《パーフェクト・マドンナ》。これで暁の攻撃は、毎ターン確実に二回は止められる。
(このおねーさん、恋よりも守りが堅いよ……コーヴァスがいてくれれば、一気に攻められるんだけど……)
生憎、コーヴァスどころかコルルすらここにはいない。
コーヴァスでバトルを発生させて、大量のドラゴンを並べることができれば、無敵の《パーフェクト・マドンナ》の守りでも防ぎきれない物量で攻め込むことができれば、勝機が見えるのだが。
「! そうだ……これだ!」
そんなことを思いながらカードを引いた暁は、引いたカードを見るや否や、瞳の炎を燃え上がらせる。
溜めこんできた攻めの意志を、爆発させるかのように、そのカードを盤面に叩きつけた。
「さぁ、頼んだよ! 《ジャックポット・バトライザー》を召喚!」
暁が召喚するのは、コーヴァスほどではないが、類似した踏み倒し能力を持つドラゴン、《ジャックポット・バトライザー》。
このドラゴンを起爆剤に、暁は一気に攻勢に出る。
「《ジャックポット》で《ロードリエス》を攻撃!」
「ん……《パーフェクト・マドンナ》でブロックするよ」
突貫する《ジャックポット》の攻撃を《パーフェクト・マドンナ》は受け止める。その攻撃は完全に防がれるが、
「攻撃はブロックされたけど、《ジャックポット》がバトルに勝ったことに変わりはないよ! だから、山札から三枚を捲るよ!」
《ジャックポット》の呼び声によって、新たな龍が呼び覚まされる。
暁が捲った三枚は、《天守閣 龍王武陣》《コッコ・ルピア》《龍世界 ドラゴ大王》。
それを見た瞬間、暁はほぼ反射でそのカードを掴み取り、バトルゾーンへと投げつける。
「よし来た! 頼んだよ! 《龍世界 ドラゴ大王》をバトルゾーンに! 《ドラゴ大王》の能力で、《ジャックポット》と《ロードリエス》を強制バトル!」
「あ……ってことは……」
「その通りですよ。もっかい《ジャックポット》の能力発動! 山札の上から三枚を捲って——」
捲られたカードは、《ネクスト・チャージャー》《怒英雄 ガイムソウ》、そして——
「——《勝利天帝 Gメビウス》! そのままバトルゾーンへ!」
《ドラゴ大王》と並ぶ、暁のデッキにおける最重量ドラゴン。
強烈にシナジーし合う三つの能力によって、圧倒的な攻撃力、破壊力を叩き出す勝利の龍。
ドラゴン以外の存在を許さず、相手を束縛する《ドラゴ大王》とは対極にある強さ。それを、今ここで示す。
「ドラゴンは揃ったし、一気に攻めるよ! 《Gメビウス》で攻撃!」
「《パーフェクト・マドンナ》でブロックするよ……っ」
「でも、このターン初めてタップされたから、《Gメビウス》はアンタップ! もう一度攻撃!」
「《ユリアーナ》でブロック……!」
アタックトリガーによる6000火力は、《ユリアーナ》が選べないため、場を離れない《パーフェクト・マドンナ》しか対象なので効果がないが、それでもTブレイカーの大型獣が二連続で攻撃するとなれば、相当な脅威となり得る。
実際、《Gメビウス》の二連撃で、姫乃のブロッカーはすべて行動不能になった。もはや、暁の猛攻を止める壁は存在しない。
「よーし、ガンガン行くよ! 《ドラゴ大王》でTブレイク! さらに、《ガイアール・アクセル》でWブレイク!」
これで姫乃のシールドはゼロになる。さらに暁の場には《コッコ・ルピア》《バクアドルガン》《タイマンド・ツクデ》と、三体のアタッカーが並んでおり、除去トリガーの一枚や二枚では止められない。
「んぅ……S・トリガー発動、《スパイラル・ゲート》だよ」
《ガイアール・アクセル》のブレイクした一枚目のシールドが、トリガーに引っかかった。
しかし、たった一体のクリーチャーを除去する《スパイラル・ゲート》では暁は止まらない。
姫乃はどのクリーチャーを除去するか悩んでいるようだった。そして、やがて一体のクリーチャーに、おずおずと指を向ける。
「……《ドラゴ大王》を手札に戻すよ」
「《ドラゴ大王》? まあ、いいですけど……攻撃できるクリーチャーを減らさなくていいんですか?」
「うん、いいよ。一体だけ戻しても効果は薄そうだし、ドラゴン以外が召喚できない方が困っちゃうし……」
それでも神様頼みになっちゃうけど、と姫乃ははにかむような、困ったようでありながらも微笑むような表情を見せる。
まるでこの危機的状況を楽しんでいるかのように。
いや、この対戦そのものを、喜んでいるかのようだった。
「……まあいいか。最後のシールドもブレイクですよ!」
《ガイアール・アクセル》が最後のシールドを砕く。これで、本当に姫乃のシールドはなくなった。
あとは、残ったクリーチャーでとどめを刺すだけ——
「……来たよ」
——と、思った刹那。
姫乃のシールドから、一枚のカードが飛び出す。
「S・トリガー——《ヘブンズ・ゲート》」
「え?」
「手札から、《勝利の女神ジャンヌ・ダルク》と《天国の女帝 テレジア》をバトルゾーンに出すよ」
勝利の女神ジャンヌ・ダルク 光文明 (7)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/ハンター 7500
ブロッカー
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、または、このクリーチャーが攻撃あるいはブロックした時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを2体まで選び、タップしてもよい。
W・ブレイカー
火の呪文または火のクリーチャーの能力によって、相手がバトルゾーンにあるクリーチャーを選ぶ時、このクリーチャーを選ぶことはできない。
天国の女帝 テレジア 光文明 (8)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/ハンター 8000
ブロッカー
自分のターンのはじめに、「ブロッカー」を持つ光のクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
W・ブレイカー
天国の門扉より現れたのは、勝利を確約する救世主と、麗しき美貌を持つ女帝。光に導く二体の女神だった。
まずは、戦乙女の女神が、その光を放つ。
「《ジャンヌ・ダルク》の能力で、《バクアドルガン》と《タイマンド・ツクデ》をタップするよ」
「っ、止められちゃった……!」
これで暁の攻撃可能なクリーチャーは《コッコ・ルピア》のみ。しかし、新たに現れたブロッカー二体の前に、小さな火の鳥が攻められるわけもなく、暁の攻撃はここまでだった。
「ふぅ、危なかった……じゃあ、わたしのターンだね。カードをドローする前に、《テレジア》の能力を発動するね」
次に、愛慕の女神が輝きを放つ。
「手札から光のブロッカー、《知識の精霊ロードリエス》をバトルゾーンに出すよ。《ロードリエス》の能力でカードをドロー」
「さらに、もう一体《ロードリエス》を召喚。二体の《ロードリエス》の能力で、カードを二枚引いて……《光器ユリアーナ》を召喚。《ロードリエス》二体の能力で、カードを二枚引くね」
ドローを重ねる姫乃。その行為になにか嫌なものを感じる暁だが、まだ自分の勝ち目は十分あると言い聞かせる。
事実、現実的に考えて、暁はまだ十分勝てる状況にあるのだ。姫乃のアタッカーは《ジャンヌ・ダルク》と《テレジア》だけなので、このターンではとどめは刺されない。返しのターンに《ドラゴ大王》でブロッカーを薙ぎ払いつつ、シノビなどもロックすれば、いくらブロッカーを並べようと、姫乃はジリ貧になるだけ。
なので暁は自分の勝利をまだ信じていた——この瞬間までは。
「あ……引けた」
《ロードリエス》で度重なるドローを続けていた姫乃の顔が、パァっと明るくなる。
しかし彼女のマナは既にゼロ。すべて使い切ってしまった。なにかキーカードを引いたとしても、このターンには使えないはず。
そんな暁の考えを否定するようなカードが、姫乃の手札から飛び出す。
「G・ゼロ——《光器の裏技ディーヴァ・ライブ》」
光器の裏技ディーヴァ・ライブ 光文明 (5)
呪文
G・ゼロ—バトルゾーンに自分のメカ・デル・ソルがあれば、この呪文をコストを支払わずに唱えてもよい。
このターン、自分のクリーチャーの、攻撃できない能力はすべて無効になる。(ただし、召喚酔いは無効にならない)
ターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のクリーチャーをすべてアンタップする。
「わたしの場にメカ・デル・ソルがいるから、G・ゼロ発動。タダでこの呪文、《ディーヴァ・ライブ》を唱えるよ」
「な、なにそれ……?」
「《ディーヴァ・ライブ》はね、このターンに限り、わたしの攻撃できないクリーチャーすべてを、攻撃できるようにするの」
召喚酔いは解けないけどね、と付け足すように姫乃は言うが、そんなことはどうでもよかった。いや、召喚酔いまで解けないだけましではあるが、どちらにせよ暁の危機は変わらなかった。
姫乃のアタッカーは《ジャンヌ・ダルク》と《テレジア》に加え、二体の《パーフェクト・マドンナ》も追加されることとなる。
つまり、このターンに暁にとどめを刺すだけの戦力が揃ってしまったのだ。
「やっば……!」
「《テレジア》でシールドをWブレイクだよ」
まずは《テレジア》の攻撃が、暁のシールドを吹っ飛ばす。どうにかして姫乃の攻撃を止めなければ、暁の負けだ。
そう、暁が思った瞬間、
「っ! S・トリガー! 《天守閣 龍王武陣》!」
《テレジア》が割ったシールドから、S・トリガーが飛び出す。
《龍王武陣》の能力で、暁は山札を捲る。一枚ずつ、ゆっくりと捲っていく。
《コッコ・ルピア》《メテオ・チャージャー》《撃英雄 ガイゲンスイ》《爆竜 バトラッシュ・ナックル》——
「——これだ! 《爆竜勝利 バトライオウ》! 《ジャンヌ・ダルク》を破壊!」
五枚目に捲れた《バトライオウ》を掴み取り、暁は《龍王武陣》の火力を放つ。
《バトライオウ》のパワーは8000、《ジャンヌ・ダルク》のパワーは7500。
ギリギリだが破壊することのできる圏内だ。《龍王武陣》の砲撃によって《ジャンヌ・ダルク》は破壊され、姫乃の攻撃は止められる。
——と、暁は思っていたが、
「あ……ごめんね、それはできないの」
「え? な、なんで!?」
「《ジャンヌ・ダルク》は火のクリーチャーの効果や呪文では選ばれないから……だから、《龍王武陣》では、《ジャンヌ・ダルク》は選べないの」
その火力は、《ジャンヌ・ダルク》には向かわなかった。
「うっそ……じゃ、じゃあ、《パーフェクト・マドンナ》を……」
「《パーフェクト・マドンナ》はパワーがゼロにならないと場を離れないよ?」
「あー、そうだった! てことは、どれを破壊すればいいの……!?」
「他のクリーチャー……?」
というわけで《テレジア》を破壊した暁だが、この時点で絶望感が一気に襲ってくる。
火のカードでは選ばれない《ジャンヌ・ダルク》とパワー低下以外では場を離れない《パーフェクト・マドンナ》。
この二体が攻撃してくるとなれば、火単色デッキの暁では、どう考えても止めようがなかった。
《ディーヴァ・ライブ》を唱えられた瞬間に、勝ち筋は完全に潰されていたのだ。
「えっと、それじゃあ《ジャンヌ・ダルク》でWブレイク。それから、《パーフェクト・マドンナ》でシールドをブレイク」
「……トリガー、ないです……」
たとえあっても、《ジャンヌ・ダルク》も《パーフェクト・マドンナ》も止めようがない。いや、実際は《熱血龍 バトクロス・バトル》や《めった切り・スクラッパー》をトリガーしているのだが、出す意義を見出せず、そのまま手札に加えた。
不可能という壁によって押し潰された暁は、諦念のまま、手札を置いた。
「《光器パーフェクト・マドンナ》で、ダイレクトアタックだよ」
- 60話 「『popple』」 ( No.220 )
- 日時: 2015/08/17 04:38
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「はぁー、結局ブロッカーに押し潰されちゃった……選ばれないとか、場を離れないとか、あんなの反則だよぅ……」
「ご、ごめんね……」
しかし、こればっかりは相性が悪かったと言わざるを得ないだろう。
メカ・デル・ソルを軸とした姫乃のデッキは、ブロッカー破壊が得意な火文明に滅法強い。それは、《パーフェクト・マドンナ》や《ジャンヌ・ダルク》の存在を見れば一目瞭然だろう。
「でも、相性とかよりも、おねーさんも強かったですよ」
「ありがとう。妹ちゃんも、すごかったよ。《ジャックポット・バトライザー》で《ドラゴ大王》と《Gメビウス》を出された時は、負けちゃうかと思ったもん」
「むしろ、あれだけのことをやったのに逆転されたんですよね、私……」
最重量切り札を二体並べて、完全に勝ったと思った直後にあっさり逆転された。そのことは、それなりに暁には堪えていた。
(あの二体を並べた状態から逆転するなんて、恋くらいしかできなかったのに……このおねーさん、本当に強い……)
顔立ちは幼いし、自分より小さいし、なんだかぽわぽわしているが、秘めた力は相当なもの。
デッキ相性なんて関係なくても、今回のデュエルは、地力で暁が負けていた。そう感じさせるほど、彼女は強かった。恐らく遊戯部や烏ヶ森の面々でも、もしかしたら汐やこのみといった者たちも——ともすれば、自分の兄でさえも、彼女には敵わないかもしれない。
そう考えると、目の前の少女はほんのすこしだけ、物凄い存在に見えてきた。どこか遠くの存在のような——いや、近いからこそ感じる、凄みか。
見た目はこんなにもゆるゆるしているというのに、中身との落差が激しい。それもこれも、勝手に暁が思っていることではあるのだが。
暁がそんな風に姫乃を見つめていると、姫乃はにこにこした笑みを浮かべたまま、口を開く。
「妹ちゃんは、やっぱり空城くんとちょっと似てたね。連ドラっぽい構築にしてたり、ファイアー・バード使ったり」
「昔はもちょっと違うデッキ使ってたんですけど、最近はいろいろあってこのデッキ使ってるんです。お兄ちゃんとかぶるのは、なんか嫌ですけど……」
「え、どうして? お兄さん……なんだよね? それなのに、嫌って……?」
首を傾げる姫乃。とても純粋な眼で、暁を見つめる。
こんなにも純真な少女が、自分より三つも年上であるということが暁には信じがたいほど、素直すぎるほどに素直な眼に、暁は困惑する。
意地悪く言われたなら笑って返せたが、こんなにも素直に訊かれてしまえば、適当なことは言えない。
「どうしてって……別に……」
それゆえに暁は困ったような表情を見せる。もごもごと口を中で動かしており、言葉を紡ぎたくなさそうな仕草だ。
「……それよりも、あの……また来ていいですか?」
「ふぇ?」
「いや、だから、またデュエマしてもらってもいいですか、っていうか……」
「あぁ、そういうこと。わたしでよければ、ぜんぜんいいよ」
にっこりと笑顔で返す姫乃。中身がどうとか、勝手なことを思ってしまったが、性格は素直でいい人だった。なんとなく天然っぽかったが。
しかし今回は、その天然さに救われたかもしれない。
あんなにも露骨な話の転換、普通ならほぼ必ずと言っていいほど指摘されそうなほど強引だったが、姫乃はその不自然さを疑うことなく、暁の言葉を受け取っていた。
「ふぅ……よかった、助かった」
「? なにか言った?」
「いえ、なんでも」
「はいはーい、ご注文の品を持ってきたよー」
と、ちょうどそこで、このみがトレイを持ってやって来た。
そして、暁の座るテーブルに、カップを置く。
「今お勧めの紅茶だよー。なんかよくわかんないけど、いいお茶葉なんだって。おねーちゃんが言ってた」
「おぉ、ありがとうございます! いい香りだなぁ」
ここに彼女の兄がいれば、適当すぎるだろ、とか、お前に紅茶の香りの違いとか分かるのかよ、とか、そんな口うるさい言葉が聞こえてきたことだろうが、今はそんな野暮なことを言うものはいない。
「それじゃ、わたしもお仕事に戻るよ。妹ちゃん、またね」
「あ、はい。今日はありがとうございました、おねーさん」
そう言って、姫乃はトタトタと仕事に戻っていった。
それと同時にこのみも、暁に手を振りつつ、同じように仕事に戻っていく。
「……おねーさんには負けちゃったけど、でも、楽しかったな」
暁はそう呟いて、出された紅茶に口をつけた。
「……ねぇ、このみちゃん」
「どったの姫ちゃん?」
暁が店を去った後。
本当の休憩時間に入った姫乃は、同じく休憩に入ったこのみ(そもそもこのみはバイトではないので厳密なシフトが組まれていない)に問いかける。
「妹ちゃんのことなんだけど」
「きらちゃん? きらちゃんがどうかした?」
「あの子、お兄さん——空城くんと、なにかあったの?」
幼さの残る声で、姫乃は尋ねる。
そこにあるのは、ゆるふわな雰囲気を醸し出す光ヶ丘姫乃だが、今のぽわっとした空気の中には、暁には見せなかった鋭さが垣間見える。
姫乃は、暁がなにかを隠したことに気付いていた。当然と言えば当然だ、あんな露骨な話の転換に、違和感もなにも感じない人間なんていない。必ず、なにかあったのか、と考えてしまうはずだ。いくら姫乃が天然でも、それと同時に聡明であるために、彼女はそこに辿り着く。
本来なら、これは本人に聞くべきことなのかもしれない。しかし彼女が隠したということは、彼女はそれを言いたくないということだ。
そのことを無理やり聞き出すのは、流石に憚られた。なのであの時は、あえて聞かずに暁に話を合わせたが、やはり気になることには気になる。
空城兄妹——空城夕陽と、空城暁の関係というものが。
「うーん、あたしにもよく分かんない。ゆーくん、家のことはぜんぜん話さないし、きらちゃんともそーゆー話はほとんどしないからなぁ……別に仲悪いわけじゃないんだけどね、ゆーくんときらちゃんは。仲の良さではあたしとおねーちゃんには敵わないかもだけど。でも、普通の兄妹だよ」
「そうなの?」
少し意外そうに、自分の予想を外されたような表情の姫乃。
姫乃は、てっきり兄妹仲が険悪で、だから暁はあんなことを言ったのかと思っていた。
夕陽の方はともかく、暁は反抗期になっていてもおかしくない年齢だ。一般的に反抗期というものは親に反抗心が向くものだが、その矛先が兄に向いてもなんらおかしいことはない。
なので姫乃は、そういう予想をしていたのだが、このみの弁を聞く限り、どうやらそうではないようだ。
「ただ、なんていうのかな。きらちゃんもいろいろ考えてるんじゃないかな? ほら、ゆーくんって、優しいんだけど、優しくする仕方が雑っていうかさ、よくわかってないところあるじゃん」
「あるじゃん、って言われても……わたしにはピンとこないよ。わたしのときは、すごく優しかったよ? 家まで運んでくれたり、お昼をごちそうになったりもしたもん」
「あたしには厳しいのにねー、ひいきだよ……って、そうじゃないそうじゃない。なんていうかさ、ゆーくんはきらちゃんに対して、あたしと同じことしてるんだよ」
「同じこと?」
いまいち、意味が分からなかった。
このみは言葉足らずながらも、説明を続ける。
「たぶんゆーくんからしたら違うように接してるつもりなんだろうけど、あたしはそうは思わないなー。きらちゃんはそれを感じ取ってるんじゃないかな?」
「んー……?」
「姫ちゃんにはわかりにくいかもね。兄妹とか姉妹って、そーゆーのは結構気にするんだよ。特に妹からしたら。ゆーくんともっと仲良くなれば、もしかしたら姫ちゃんにもわかるかもしれないけどね」
結局、このみの言いたいことは、半分ほどしか伝わらなかった。
そして暁のことも、よくわからなかった。いや、これについてはこのみもよく分かっておらず、憶測でものを言っていたので仕方ないのだが。
このことを知りたくば、やはり本人に聞くしかないのだろう。
「まあ、きらちゃんもそのうちわかってくれるよ、きっとね」
「?」
最後にこのみは、意味深な言葉を呟いて、視線を少しばかり動かす。
そして、彼女は立ち上がった。
「うわっと。そろそろ休憩終わりだよ、姫ちゃん」
「え……あ、いけない、もうそろそろ時間だ」
姫乃もこのみに続いて立ち上がり、彼女の後を追うように部屋から出て行く。
- 烏ヶ森新編 27話「■■■■」 ( No.221 )
- 日時: 2016/03/14 06:54
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)
「……暑いな」
「暑いっすね」
ここは烏ヶ森学園の一角にある一室。
そこでは、部活動と称して、三人の男女が完全に暑さにやられてダウンしていた。
「冷房が壊れて扇風機もない……最悪な状態だと言わざるを得ませんねー……」
「まるで一騎の家だ……せめて夏休みまでに直ってもらわないと困るんだが」
「さっき部長と美琴先輩が出ていったっすから、たぶん問題ないっすよ」
「だといいんだがな……」
なんにせよ、この暑さは死活問題だ。一刻も早く冷房を取り戻さなくてはならない。
とミシェルが思っていると部室の扉が開いた。
「ただいま、今戻ったよ」
やって来たのは、待ち人たる一騎と美琴だった。
そして美琴の手には、大量に積み重なったプリントの束がある。
「少し遅かったですねー」
「荷物運びでもさせられたか?」
ミシェルは美琴の持つ大量のプリントを見てそう言う。部の関係上、なにかの運搬や、この部室を一時的な物置に利用されることは少なくない。なので今回もそのパターンかと思っていたが、少し違った。
「いや、これは冷房について聞きに行くついでに、必要な書類を受け取っただけだよ。ただ……」
「そこの廊下で剣埼先輩がよろけて転んでしまったので、プリントを回収するのに手間取っただけです」
「……大丈夫かよ、お前。暑さでやられたんじゃないだろうな?」
心配そうに一騎を覗き込むミシェル。一騎は、たぶん大丈夫だよ、と笑いながら返すが、彼の大丈夫はあまり信用ならない。
「それより黒月さん、本当にごめん……こんな多いのに、女の子に持たせることになってしまって……」
「それは別に構いませんが、大事なプリントなんですし、もっと大切に扱ってください。恐らくは全部回収できたと思いますが、一応、ちゃんとすべてそろっているか確認しますよ」
少し刺々しい口振りだったが、しかし一騎は自分に非があるので、と黙ってプリントをチェックする作業に入った。
「もうすぐ忙しくなるな、この部も……なおさら早く冷房をどうにかしてほしいところだ」
「あぁ、冷房だったら、すぐに直るってさ。なんか、既に他の教室で冷房が不調で、長年使ってるからガタが来たんじゃないかって、全部取り替えることになるらしいよ」
「マジっすか。てことは、ここにも新品のエアコンが!」
「……ところで、氷麗さんと恋は?」
「氷麗は知らんが、たぶんあっちの世界でなんかしてんだろ」
そもそも彼女はそういう役目を担っている存在だ。恋のことが解決しても、まだあの世界ですべきことがあるには違いない。
「前の妹分は……お前がいないってなると、すぐいなくなった。自由すぎるだろ、あいつ……」
「それでも自分から部室に顔を出すようになったんだ。よかったよ」
「まあ、そこだけはある意味、進歩かもしれないが……」
「でも、彼女も正式な部員になったわけですし、ちゃんと部活動には出席してもらわないといけませんよ。先輩からもしっかり言ってください」
「あ、うん……分かったよ」
いまいち美琴には強気に出られない一騎は、その後は黙々とプリントをチェックする作業に入った。
一枚一枚に目を通し、必要書類がすべて揃っているか。種別ごとに整理するついでに、確認する。
部員総出でそんな作業をしていると、ふと、一騎は疼きを感じた。
(ん……?)
なにか、聞こえたような気がする。
初めは気のせいかと思ったが、違う。確かに聞こえる。
ただしそれは、鼓膜を通して聞こえる声ではない。頭の中で、響くような声だ。
——グ……ン……イグ……ン……ガ……ン……
(え、なに——)
と、次の瞬間。
「う……っ」
一騎は、手にしたプリントを取り落としてしまった。
「おい、一騎。プリント落ちたぞ……一騎?」
「あ、うん、ごめん……」
「どうしたお前、なんか物凄く顔色悪いが……熱中症か?」
「いや、ちょっと頭痛が……大したことないよ、大丈夫」
「……本当かよ」
訝しむような視線を浴びせるミシェルだったが、結局、その後に一騎が体調不良らしき症状を見せることはなかった。
- 61話 「確立途中」 ( No.222 )
- 日時: 2015/08/18 21:56
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「——《Q.E.D.+》でダイレクトアタックだ」
そのカードを横向きに倒す。
次の瞬間、大きな歓声が、場を包み込んだ——
「——ふぅ」
とある大型デパートの一角。カードゲームを始めとして、玩具や工具など様々なものが置いてあるホビーショップ。
そのベンチに座り、霧島浬は一息ついていた。
そんな浬に、一つの影が近寄ってくる。
「浬」
「っ! 形人さん……!?」
浬はその人物を見て、目を見開く。まさか、この人物とこんなところで出会うとは思わなかった。
黒村形人。浬の従兄で、憧れであり、浬にデュエマを教えた師匠のような人物だ。
少し上ずった声で、口を突くように浬は問うた。
「な、なんでこんなところに……!」
「少し用があってな。それより、先の対戦、なかなか良かったぞ。随分と腕を上げたようだな」
「……見てたんですか」
珍しく、少し照れたような表情を見せる浬。恐らく、黒村相手でなければ絶対に見せないだろう表情だ。
「とりあえず、お前の優勝を称賛するとしよう」
「いや、そんな、大したことじゃないですよ……そんな大きな大会じゃないですし、相手は小学生だって多かったんですから」
「それでも、連続で勝利を得るのはそう簡単ではない。相手の実力を観測できるのも、対戦して初めて分かること。妙な謙遜はせず、結果の勝利を喜べばいい」
「はぁ……」
曖昧に頷く浬。しかし、憧れの相手に称賛されて、嬉しくないわけがない。
なんとなく暇だったから近くの大会に出場してみたが、まさか黒村と会えるとは、僥倖だった。
「……お前、今から暇はあるか?」
「え……はい、この後は特になにもありませんが……」
「そうか」
言って黒村は、歩を進める。相変わらず言葉数の少ない後の行動に、浬は面喰ってしまう。
黒村は首だけで浬に向き、そして、開口する。
「ついて来い。お前が磨いてきた、お前だけの技。俺に見せてみろ」
「まさか、黒村さんの方からデュエマに誘ってくるなんて……」
「俺も少しばかり時間を持て余していてな。まあ、多少の気まぐれだ。あまり気にするな」
そう言って互いにデッキを取り出し、シャッフル。シールドを五枚展開し、手札を取った。
場所は先ほどまで浬が大会として対戦していたホビーショップの、フリー対戦ゾーン。
ついさっきまで行われていた大会の優勝者ということもあり、浬に目を向ける者も何人かいたが、対戦中なので、流石に声まではかけて来ない。もしかしたら、黒村と浬、互いに人を寄せ付けないオーラと顔つきをしているから、声をかけたくてもかけられないだけかもしれないが。
そんな中で始まった、浬と黒村のデュエル。
互いにシールドは五枚。浬の場には《アクア少年 ジャバ・キッド》。黒村の場にはまだなにもないが、
「《ダンディ・ナスオ》を召喚」
黒村は、一体目のクリーチャーを召喚する。
彼のデッキを支える、大事な一体目だ。
「能力で山札から《闇戦士ザビ・クロー》をマナゾーンに置き、マナゾーンから《解体人形ジェニー》を墓地へ置く。さらに1マナをタップ、《死神術士デスマーチ》を召喚し、そのままシールドをブレイクだ」
黒村のデッキは闇と自然の進化速攻。1ターン目にアタッカーを呼ばれなかったことは幸運だが、《ダンディ・ナスオ》から奇襲気味に《デスマーチ》で殴られてしまった。
だが、まだ一枚だ。ここからならいくらでも巻き返しを図れる。
「俺のターンです。呪文《ピーピング・チャージャー》。シールドを一枚見ます」
浬が選んだのは、右端のシールドだ。それを、そっと捲る。
(《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》か……トリガーではないな)
しかし、序盤に相手の手札にあってほしくないカードでもある。
浬は下手なシールドブレイクはしないべきだと思いながら、そのカードを伏せた。
「もういいのか?」
「あ、はい。ターン終了です」
「なら俺のターン。《青銅の鎧》を召喚。《デスマーチ》でシールドをブレイクだ」
「っ、S・トリガー《アクア・サーファー》を召喚! 《ダンディ・ナスオ》をバウンス!」
追撃を止めるために《ナスオ》を手札に戻す浬。しかしここは《デスマーチ》を戻して、《ナスオ》を殴り返しても良かったかもしれないと、思い直してしまう。
(とはいえ今更思ったところで後の祭り……それよりも《青銅の鎧》か。速攻に入らないわけではないが、速攻よりも若干速度を落としたビートダウンか……?)
先ほど殴ってきた《デスマーチ》の進化元も《解体人形ジェニー》と、速攻に入れるには重いカードだ。この攻めの姿勢から見てビートダウンには間違いないだろうが、速攻というにはやはり遅い。
最初に1コストのクリーチャーを展開しなかったのも、速度を落としたからだと考えれば、納得はいく。
そして速度が遅いなら、なおさら追いつきやすくなるということだ。
「呪文《ブレイン・チャージャー》! カードを一枚引いて……続けて呪文《スパイラル・ゲート》! 《デスマーチ》をバウンス!」
チャージャーでマナを伸ばしつつ、バウンスで妨害し、準備を進めていく浬。
だが、黒村もただ殴るだけではなかった。
「《ダンディ・ナスオ》を召喚、山札から《福腹人形コダマンマ》をマナに置き、マナから《変身人形イルルカ》を墓地へ。そして4マナをタップ、《解体人形ジェニー》を召喚」
「っ……!」
《デスマーチ》を手札に戻したことが仇となった。まさか、このタイミングで《ジェニー》を呼ばれるとは、と浬は歯噛みする。
「手札を見せろ」
「……はい」
浬が公開した手札は《スパイラル・フォーメーション》《龍素力学の特異点》《龍覇 メタルアベンジャー》の三枚。
「龍解を狙っていたか。思い通りにやられるのも癪だな。《メタルアベンジャー》を捨てろ」
「く……っ」
次のターンに龍解を狙っていた浬だが、ピンポイントなタイミングでドラグナーを落とされる。逆転を図るキーカードだったがゆえに、この一撃は手痛い。
苦しい表情でカードを引く浬。しかし、
「! 来たぞ……! 呪文《セイレーン・コンチェルト》!」
「ほぅ」
「マナゾーンから《龍覇 M・A・S》を回収し、手札の《スパイラル・フォーメーション》をマナゾーンへ! そして全てのマナを使い、《M・A・S》を召喚! 《青銅の鎧》をバウンスし、超次元ゾーンから《真理銃 エビデンス》を装備! カードを一枚引きます!」
序盤にマナに置いていた《M・A・S》を回収しつつ、呪文を唱え、クリーチャーを召喚する。
《M・A・S》が装備したのは《エビデンス》。フォートレスの《エビデゴラス》ではない。除去耐性の低い《M・A・S》いウエポンを装備するのはややリスクが高いが、しかし、それならばこのターン内に龍解条件を満たしてしまえばいいのだ。
「さらに、水のドラグナーがいるから、G・ゼロで《龍素力学の特異点》をタダで唱えます!」
浬はカードを二枚引き、手札を一枚山札の下に戻す。
そして、これで、水のカードを三回使用した。
つまり、
「ターン終了時、《デビデンス》の龍解条件達成により、《エビデンス》を龍解!」
浬は《エビデンス》に手を掛け、そして、指を繰る。
その動作によって、《エビデンス》は裏返った。
「龍解——《龍素王 Q.E.D.》!」
- 61話 「確立途中」 ( No.223 )
- 日時: 2015/08/19 06:06
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
《エビデンス》は龍解し、《龍素王 Q.E.D.》へと成る。
呪文では選ばれないので、場から退かすには、バトルで破壊するかクリーチャーの能力に頼るしかない。しかし、ほとんど小〜中型クリーチャーで占められている黒村のデッキでは、クリーチャーで《Q.E.D.》を除去することは非常に困難だろう。
場に留まらせておけば、《Q.E.D.》は多大な恩恵をもたらす。少し間を置いて莫大なアドバンテージを得てから、物量で一気に攻め込もうと、浬は考える。
「……俺のターン。《ジオ・ナスオ》を召喚。山札の上から一枚をマナへ置き、マナから《ザビ・クロー》を墓地へ送り、この《ザビ・クロー》を進化元に《デスマーチ》を召喚。さらに、俺の場にデスパペットが二体。シンパシーでコストを2軽減し、《無双恐皇ガラムタ》を召喚だ」
「《ガラムタ》……」
無双恐皇ガラムタ 闇/自然文明 (6)
クリーチャー:ダークロード/アース・ドラゴン 5000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
シンパシー:デスパペットおよびビーストフォーク
このクリーチャーが攻撃する時、このターンの終わりまで、誰も「S・トリガー」を使うことはできない。
ようやく、浬は謎が解けた。
黒村が速攻ではなく中速気味なビートダウンにしている理由は、ひとえにこのクリーチャーにあったのだ。
《ガラムタ》は攻撃すると、そのターンに限りS・トリガーを一切合切封殺するクリーチャー。相手の逆転を許さない、詰めの一手になる。
シンパシーがあるとはいえコスト6。速攻に入ろうはずのないクリーチャーを採用するため、そしてシンパシーを生かすため、速攻では敬遠しがちな3〜4コストのデスパペットやビーストフォークを採用していたのだろう。
「ですが、《Q.E.D.》が出たからには、安易に攻めさせませんよ。《Q.E.D.》の能力で、俺は各ターン一度ずつ、コストを支払わずに水のクリーチャーの召喚と、水の呪文を唱えられます。その能力で、タダで《龍素記号IQ サイクロペディア》を召喚! カードを三枚ドロー! 続けて《Q.E.D.》の能力発動! タダで《龍素解析》を唱えます!」
手札をすべて山札に戻し、浬は新たにカードを四枚引く。
そして、その中からコスト7以下のコマンド・ドラゴンを呼び出す。
「《理英雄 デカルトQ》をバトルゾーンへ! カードを五枚引き、手札とシールドを一枚ずつ入れ替えます。」
立て続けに大型のクリスタル・コマンド・ドラゴンを展開する浬。これほど巨大なクリーチャーを並べられれば、黒村の小型クリーチャーは押し潰されてしまうことだろう。
「《ジャバ・キッド》を進化! 《超閃機 ジャバジャック》! カードを四枚引き、二枚を山札下に! さらにシンパシーでコストを下げ、1マナで呪文《スパイラル・フォーメーション》! 《ガラムタ》をバウンス!」
今度は通常のマナを支払い、《ジャバジャック》、《スパイラル・フォーメーション》とカードを使用する。
「ターン終了です」
しかしこのターンはまだ攻めない。まだ攻め時ではない。
ビートダウン相手に、下手に手札を増やすのは危険だ。特に黒村は、場のクリーチャー以外から進化する進化クリーチャーをふんだんに使用した、闇と自然の速攻を雛型にしたデッキだ。いつ、どのように奇襲されるかわかったものではない。
ゆえに、戦力を整えてから、確実に決める。展開したクリーチャーの召喚酔いが解ける次のターンまで待つのだ。
「……《ジオ・ナスオ》を召喚。マナを追加し、マナゾーンから《ガラムタ》を墓地へ。さらに《父なる大地》を発動し、《デカルトQ》をマナゾーンの《アクア超人 コスモ》と入れ替える」
対する黒村は、特にすることもなさそうに、とりあえず手札にあるカードを使ったという感じで、クリーチャーを並べる。
《デカルトQ》は除去されたが、ブロッカーはいない。
攻めるなら今だ。
「俺のターン! 《Q.E.D.》の能力で《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚! 《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンへ! 続けて《Q.E.D.》の能力で《龍素解析》を唱えます! 手札をすべて山札に戻し、四枚ドロー……手札から《龍素記号Tb ドロダブルBros.》をバトルゾーンへ!」
またも《Q.E.D.》のコスト踏み倒しでアドバンテージを稼いでいく浬。どれだけ大きなカードでも、一回はタダで使えるので、1ターン内に取れるアドバンテージはかなり大きい。
ターンが進めば進むほど、その得られるアドバンテージはどんどん大きくなっていくので、必然的に流れは浬へと向いていた。
「さらに! このターン、俺はカードを五枚以上引いたので、《エビデゴラス》を龍解! 《最終龍理 Q.E.D.+》!」
このターン中に呼び出したフォートレスなので、このターンにすぐに攻撃はできないが、《エビデゴラス》も龍解し、威圧するように《Q.E.D.+》へと裏返る。
「《龍素記号JJ アヴァルスペーラ》《アクア・ソニックウェーブ》を召喚! 《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》を手札に加え、《デスマーチ》をバウンス!」
通常マナも支払い、クリーチャーを大量展開する浬。
邪魔なブロッカーも退かし、これで完全にとどめまで刺す体勢に入った。
「《ジャバジャック》でシールドをWブレイク! 《サイクロペディア》でWブレイク!」
二体のクリーチャーが、一気に形人のシールドを砕く。
「S・トリガーだ。呪文《インフェルノ・サイン》」
「……っ」
一瞬、焦りが生じた浬だが、すぐに安堵する。
(《インフェルノ・サイン》なら問題ない……墓地の《イルルカ》をリアニメイトしても、俺の攻撃は防ぎきれないはず)
そう考える浬だが、しかし黒村の取った行動は、彼の考えの先を行っていた。
「《インフェルノ・サイン》で墓地の《ガラムタ》をバトルゾーンへ」
「《ガラムタ》……?」
ここで戻すクリーチャーとして、《イルルカ》ではなく《ガラムタ》を選んだ黒村。その選択は、些か不可解だ。
しかし、考えられないわけでもない。ただ、
「トリガー頼りだなんて、らしくないですね、形人さん」
「それしか道はなさそうだからな」
確かに、黒村の言うとおりだ。
《イルルカ》を戻しても勝ち目がないなら、もう一枚のトリガーに賭け、次のターンの反撃に備えるのも分かる。それでも、もう一枚のトリガーが分からないなら、ブロッカーの《イルルカ》を戻す方が無難な気はするが。
しかし浬は、ほとんど勝利を確信して、攻め続ける。場には呪文では選ばれないアタッカーがいるのだ。そう簡単には凌げまい。
「《アクア・サーファー》で最後のシールドをブレイク!」
「…………」
これで、黒村のシールドはなくなった。
この一枚がトリガーでなければ、彼の敗北は確定するが、
「S・トリガーだ。《地獄門デス・ゲート》」
「……っ! でも、俺の場には《Q.E.D.》が……」
「ならば《M・A・S》を選ぶだけだ」
このターンに攻撃できる浬のクリーチャーは、《ジャバジャック》《サイクロペディア》《アクア・サーファー》《Q.E.D.》《M・A・S》の五体だ。このうち、前の三体は既に攻撃した。
そして残るのは、後ろの二体だが、《Q.E.D.》は呪文では選ばれない。
しかし、《M・A・S》は、呪文で選ばれるクリーチャーだ。
「《ジェニー》でドラグナー落とされ、返しのターンで即座にリペアしたのは良かったが……そいつは《メタルアベンジャー》ではない。《デス・ゲート》の生贄となってもらうぞ」
「ぐ……!」
《デス・ゲート》に飲み込まれる《M・A・S》。これで浬のアタッカーが一体減り、
「墓地からコスト6未満のクリーチャー……《変身人形イルルカ》をバトルゾーンへ」
黒村にブロッカーができてしまった。
これでは、形人のシールドがゼロとはいえ、《Q.E.D.》のダイレクトアタックが届かない。
「蛇足だが、俺は《ダンディ・ナスオ》で事前に山札を見ていた。ゆえに、シールドの中身も把握している。お前がこのターンにシールドを割りに来たからこそ、俺は反撃準備を整えることができた」
「くっ……《Q.E.D.》で攻撃! ダイレクトアタック!」
「《イルルカ》でブロック」
ダメ元でダイレクトアタックを仕掛ける浬だが、その一撃は防がれてしまう。
これで浬のアタック可能なクリーチャーはいなくなった。このターン、浬はこれ以上のことはできず、ターンを終えるしかない。
そして、来たる黒村のターン。
「《密林の総督ハックル・キリンソーヤ》二体をマナ進化で、《死神術士デスマーチ》を墓地進化でそれぞれ召喚」
黒村はダメ押しのように、一気に進化クリーチャーを並べて来る。
浬のブロッカーはたった一体。十体近く並んだ黒村の大量のクリーチャーを防ぎきることはできない。
《デカルトQ》でS・トリガーこそ仕込んだが、それも、《ガラムタ》の前では意味をなさない。
「《ガラムタ》で攻撃、このターンのトリガーを封じるぞ」
「く……っ! 《アヴァルスペーラ》でブロック!」
しかし、結果的にそのブロックは無意味だった。
《ジェニー》《青銅の鎧》《ハックル・キリンソーヤ》と、黒村のクリーチャーが連続で浬のシールドを打ち砕く。
その中には、浬が仕込んだ《終末の時計 ザ・クロック》や元々シールドにあった《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》などもあったが、今は《ガラムタ》によってすべてのS・トリガーが封殺されている。どれだけ強力なトリガーが出ようと、それはすべて闇に潜ってしまう。
そして、シールドがすべて割られた浬は、最後の一撃を喰らうだけだ。
「《死神術士デスマーチ》で、ダイレクトアタックだ」
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