二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て31」 ( No.475 )
日時: 2016/09/07 22:53
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 沙弓と空護の対戦。ルールはバニラ・準バニラ限定戦。
 特殊な能力のないクリーチャーのみ使用可能なこの対戦は、なんの変哲もない殴り合いになるのか、それとも——
「私が先攻ね。《虚空の力 レールガン》をマナに置いて、ターン終了」
 沙弓のマナに置かれたのは、《レールガン》。初期デッキに入っているカードの一枚。この時点で沙弓のデッキカラーは、少なくとも青赤であることがわかる。
 問題は、他に色がないか。そして、このデッキがビートダウンなのかコントロールなのかだ。
 ミシェルとの殿堂ゼロデュエルでは、闇を入れてキクチパトロールでフィニッシュするコントロールのような動きも見せていた。今回は殿堂ゼロではないが、これだけでビートダウンと判断するのは危険だ。
「とりあえず、《霊騎デュナス》をチャージ。終了ですよー」
「私のターン。《エナジー・ライト》をチャージ。2マナで《飛翔する啓示 ゼッツー》を召喚よ」
「《ゼッツー》ですか、普通ですねー」
 それよりも気になるのは、《エナジー・ライト》だ。
 バニラ・準バニラしかデッキに入らないため、墓地を利用したビートダウンは難しいが、それにしても《エナジー・ライト》を入れていることに、少々違和感を覚える。
 単純に数合わせのために、使いやすそうなドロースペルを入れたのか。それとも他の意味があるのか。よくわからない。
「まあ、やるだけやるしかないですよねー。《シープス・キーン》をチャージ。2マナで《鎮圧の使徒サリエス》を召喚ですー」
「《サリエス》……?」
 空護のデッキは、浬の組んだ青緑のバニラビート。そのため、バニラクリーチャーが多いようだが、その中で異彩を放つ軽量準バニラブロッカー。
 バニラビートに入るようなカードではないが、そもそも空護のデッキがバニラビートなのかどうかからして怪しい。というのも、
「バニラビートは《アクア・ティーチャー》と《駱駝の御輿》のサポートに依存しているからな。《アクア・ティーチャー》は《純白設計図》、《駱駝の御輿》は軽量バニラを投入することで、ある程度は補えるが……少なくともメインエンジンの片方が使えなければ、戦術として大きく弱体化する」
「そこが焔君の苦しいところだね」
 《アクア・ティーチャー》《駱駝の御輿》というサポーターがいるからこそ、バニラビートはそのデッキタイプを確立させた。その後もバニラサポートが増えてきているとはいえ、この二体が両方とも使えないのであれば、バニラビートとしてデッキを運用するのは難しいだろう。
 だからなのか、空護のデッキには本来は入らないブロッカーがいる。バニラビートではないのか、それとも特殊なギミックを施したバニラビートなのか。それはまだわからない。
「ブロッカーねぇ……面倒だけど、だったらこうよ。呪文《勝負だ!チャージャー》。《ゼッツー》をアンタップキラーにするわ」
「チャージャー呪文……? 殴り返される前に、殴ってブロッカーを破壊する気ですかねー……」
「そんなところね。《ゼッツー》で《サリエス》を攻撃! 《ゼッツー》はパワーアタッカー+2000だから、攻撃中のパワーは4000。《サリエス》を破壊よ」
 《サリエス》のパワーは3000。パワーアタッカーで強化されている《ゼッツー》には勝てず、破壊された。
 普通にシールドを狙ってくるなら、このターンは通して、返しのターンに殴り返せたのだが、流石にそこまで甘くはないか。
「僕のターン、《イソロック》をチャージ。《蒼狼アクア・ブレイド》を召喚して、終了ですかねー」
「あら、そんな悠長でいいの? あんまりゆっくりやってたら、痛い目見るかもしれないわよ? 《ロスト・ソウル》をチャージ。3マナで《エナジー・ライト》。二枚ドローするわ」
「《ロスト・ソウル》? 黒いカード……」
 マナに置かれたカードを見て、空護は鋭く目を細める。闇入りのデッキ。そして、重量級ハンデス呪文の《ロスト・ソウル》。
 この瞬間、ほぼ確信に近い形で、沙弓のデッキタイプが判明した。
 確信に近いそれは、次の沙弓の一手で、本当の確信へと到達する。
「さらに2マナで《ゴースト・タッチ》! 一枚ハンデスよ」
「この動き……やはり」
 鋭く、しかしながらやや苦しげな目で、空護は呻くように声を絞り出す。

「除去コン……!」

 除去コン、正式には除去コントロールと呼ばれるデッキタイプ。
 その名の通り、相手のカードを片っ端から除去し、場を制圧する。そして、身動きが取れなくなったところを仕留めるデッキだ。
 デッキを回転させるためのドローソースに、動きを封じるためのハンデス。それに確定除去などの除去呪文も入っているだろう。デッキカラーも、除去コンらしい
「やっぱり除去コンか」
「ミシェルは分かってたの?」
「なんとなく察しはついてた。如何にもあいつの考えそうなことだ。このレギュレーションの穴を突いてる」
「穴?」
「『バニラ・準バニラ限定戦』……クリーチャーこそ制限されているこのレギュレーションだが、呪文やクロスギア、城といったカードに制限はない。除去やハンデスの呪文を多く詰んで、それらのカードを上手く利用すれば、除去コンに似たデッキも作れなくはない。勿論、詰めは甘くなるし、完全にコントロールできるとは言えないがな」
 呪文には多くのコントロール向けのカードが存在する。闇文明には確定除去を放つ《デーモン・ハンド》や、オールハンデスの《ロスト・ソウル》。水にはそれらのカードを円滑に回すためのドローソースに《エナジー・ライト》や、万能サーチの《クリスタル・メモリー》。これらのカードを上手く使えば、自分はアドバンテージを稼ぎ、逆に相手のアドバンテージは削り、盤面を支配できる。
 常に場をロックするようなことはできないため、完全に場を制圧しきることはできないだろうが、相手もまずクリーチャーでは盤面をひっくり返すことができない。
 S・トリガーによる逆転を防ぎづらいところはあるものの、バニラと準バニラだけでも、コントロールの動きは可能なのだ。
「最初の《ゼッツー》はブラフなのか、数合わせなのか……なんにせよ、こうなると単純な殴り合いにならない」
 沙弓は空護の手札を削り、場のクリーチャーも徹底的に除去してくるだろう。フィニッシュをどうするつもりなのかはわからないが、少なくともしばらく殴ってくる気配はない。
「なんとなく予想はしてましたけど、少しきついですねー……とりあえず、3マナで《ソーラー・チャージャー》! 《アクア・ブレイド》を指定して、チャージャーをマナへ。残る2マナで《純白設計図》ですよー」
 空護はやはり、元のバニラビートを軸に、バニラサポートを取り入れているようだ。
 捲れた五枚は、《トリプル・ブレイン》《無垢の面 ラニヴ》《月光の守護者ディア・ノーク》《ノウメン》《ポッツーン》。
「《ラニヴ》《ノウメン》《ポッツーン》の三枚を手札に加えますねー。《アクア・ブレイド》で殴って、これでターン終了。《アクア・ブレイド》は《ソーラー・チャージャー》の効果で起き上がりますねー」
「その手札、全部叩き落すわ。2マナで《ゴースト・タッチ》、まずは一枚ハンデスよ」
「っ、《ノウメン》が……」
「まだよ、さらに4マナで《スケルトン・バイス》! 次は二枚ハンデスよ!」
「そして当然のようにプレ殿カード……!」
 《ゴースト・タッチ》から《スケルトン・バイスへ連続でとハンデスが放たれ空護の手札が一気にもぎ取られていく。
 これで空護の手札はゼロ。まずは、カードを使う根源的なリソースを一つ、断ち切った。
「これはまずいですねー……呪文《ライトニング・チャージャー》。《ゼッツー》をタップして、チャージャーをマナに。《アクア・ブレイド》で《ゼッツー》を攻撃!」
「私のターンね。4マナで《ブレイン・チャージャー》。一枚ドローよ。さらに4マナで《サイバー・ブレイン》! 三枚ドローするわ」
「またプレ殿……」
 容赦なく痛烈なカードパワーを叩きつけてくる沙弓。単純にアドバンテージに差をつけてくるカードゆえに、どんどん二人の優位性は広がっていく。
「……6マナで《デス・ブレード・ビートル》を召喚。《アクア・ブレイド》でシールドをブレイク」
「お? トリガーね、《サイバー・ブック》よ。カードを三枚引いて、手札を一枚、山札の下に戻すわね」
「……ターン終了ですー」
 バニラサポートはないが、それでもデッキの方向性はビートダウンなのか、ちまちまと殴る空護。沙弓のシールドは三枚まで減らしたが、代わりに手札を一騎に増強された。
 こちらはトップを投げるだけの作業。相手は潤沢な手札から好き自由な選択が可能。完全に主導権を沙弓に握られてしまった。
「私のターンね。5マナで《死海竜》を召喚よ」



死海竜 R 水/闇/火文明 (5)
クリーチャー:レインボー・コマンド・ドラゴン/エイリアン 12000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。



 あらゆる能力、打点すらをもパワーに変換したエイリアンの龍、《死海竜》。
 パワーしか取り得のないようなスペックだが、並大抵のクリーチャーではこのパワーには届かない。空護のクリーチャーは片っ端から殴り殺されることだろう。
「さらに4マナで《陰謀と計略の手》を唱えるわ。《デスブレード・ビートル》をバウンスして、直後にハンデスよ」
「ハンドが切れてるから、《獄門スマッシュ》の色違いじゃないですかー……僕のターンです」
 当然、殴り返しだけでなく、潤沢な手札から除去も撃ってくる。貴重な二打点が消えてしまった。
「《フェアリー・ライフ》……そのままチャージして、終了ですかねー」
「私のターン。呪文《ドンドン吸い込むナウ》を唱えるわ。山札の上から五枚を見て……お?」
 ここで疑似サーチ兼バウンス除去の《吸い込むナウ》は厳しい、
「いいカードじゃないの。《グラディアン・レッド・ドラゴン》を手札に加えるわ」
「! それは……」
「火のカードを加えたから、《アクア・ブレイド》をバウンス。そして2マナで呪文《ゴースト・タッチ》! その手札も落としてもらいましょう」
 バウンスの直後にすかさずハンデス。どうしても空護に手札をキープさせるつもりはないようだ。
 しかしそれよりも、空護は先ほど沙弓が手札に加えたカードに、気が行っていた。
「さらに3マナ《エナジー・ライト》よ。カードを二枚引いて、ターン終了」
 最後に手札を整えて、沙弓はターンを終える。
 マナは十分すぎるほどあり、手札も豊富。沙弓はこの対戦を掌握したも同然だった。
 一方、空護は手札がなく、マナも沙弓との差が開いている。
「こんな状況でトップ解決がすべてなんて、酷すぎでしょう……クリーチャーは全部バニラか準バニラですし……」
 愚痴るように呟きながらカードを引く。《フェーアリー・ライフ》だ。即座にマナに落とす。
「ターン終了です」
「動かないのね。じゃあ、そろそろ決めにかかりましょうか! 10マナをタップ!」
 沙弓は空護に動きがない隙を好機と見て、あらん限りのマナを支払う。
 そうして現れるのは、巨大であることの象徴。力の化身。
 限りなく始祖に近い巨竜。
 それが今、飛翔する。

「力こそパワーよ! 《グラディアン・レッド・ドラゴン》!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て32」 ( No.476 )
日時: 2016/09/09 07:55
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

グラディアン・レッド・ドラゴン SR 火文明 (10)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン 15000
T・ブレイカー



 沙弓が10マナも支払って呼び出したのは、《グラディアン・レッド・ドラゴン》。
 10マナという膨大なコスト。15000という強大なパワー。Tブレイカーという大量の打点。単純明快に、デカさと力を示すドラゴンだ。
 もっとも、文明や種族が違うものの、同コストに《偽りの名 13》という、よりパワフルなクリーチャーがいるのだが、これは登場時期の問題で、仕方のないことである。
 《グラディアン・レッド・ドラゴン》は旧時代のデュエル・マスターズにおいて、一時は他の追随を許さないほどのファッティだったのだ。巨大な龍の始祖、歴史の始まり。それゆえに、今でも一定の人気を誇っている。
「パワー15000のTブレイカー! この圧倒的なパワーと打点! 返せるものなら、返して御覧なさいな!」
「うわー、部長すっごいノリノリ」
「ただデカいだけのファッティを素出ししたくらいだからなぁ……まあだが、焔にとって、状況は悪くなる一方だな」
 一瞬で沙弓の場には三打点。下手に手札を与えず、一気に殴るつもりなのは明白だが、たった一枚で三打点確保。空護の死へのカウントダウンも、一気に進んだ。
「僕のターン……《光輪の精霊シャウナ》を召喚。ターン終了です」
「いい準バニラね。だけど無意味よ。《執拗なる鎧亜の牢獄》!」
「除去はあると思ってましたけど、よりにもよって《牢獄》なんて……」
「《シャウナ》をバウンスして、即座にハンデス! 捨てられたカードとバウンスしたカードが一致するから、シールドも一枚焼却よ。さらに《レールガン》も召喚! ターン終了!」
 シールドを一枚焼かれ、別の形でカウントダウンが進む。
 沙弓の場には《死海竜》《グラディアン・レッド・ドラゴン》《レールガン》。シールド焼却によって、打点が揃ってしまった。
「しかし、できることはトップを捲ることだけ……僕のターン」
 打点が揃っても、先に手札を叩き落されているため、空護は山札の一番上のカードを捲っていくしかない。対処はすべて山札頼みだ。
「お、これは……3マナで呪文、呪文《ヘブンズ・キューブ》ですー。山札から呪文を一枚サーチしますねー」
 そんな窮地の空護だったが、ここで呪文をサーチできる《ヘブンズ・キューブ》を引いた。
 この場をひっくり返すほどの呪文が持ってこれるとは思わないが、延命するか、なにかしらの逆転の手掛かりを得ることはできるかもしれなかった。
「ふむふむ。それじゃあ、《ライフプラン・チャージャー》を手札に加え、そのまま4マナで《ライフプラン・チャージャー》を唱えますねー。山札の上から五枚を見て……《神銃の精霊ナカツマキ》を手札に」
「《ナカツマキ》……?」
「これでターン終了ですねー」
 なんとか手札を一枚キープした状態で、ターンを返す空護。
 手札を持たれてしまったことは、沙弓にとってはあまり嬉しくないが、それ以上に彼女には気になることがあった。
 しかし沙弓は、もう王手チェックをかけているのだ。今更、一枚の準バニラに怯えているわけにはいかない。
「なーんか、ここに来て怪しいけど……とりあえず私のターン。4マナで《伝説の秘法 超動》を唱えて二枚ドロー。さらに7マナで《激竜王》を召喚よ」



激竜王 R 火文明 (7)
クリーチャー:レッド・コマンド・ドラゴン/ハンター 25000



「《死海竜》と《激竜王》が同じ盤面に揃うなんてね……」
「《激竜王》はバカみたいなパワーでバニラビートに採用される可能性がなくもないが、《死海竜》のスペックがアレだからな……こんなレギュレーションじゃなきゃ、使えないだろ」
 《死海竜》は多色カード特有のマナタップイン能力があるせいで、バニラビートにさえも入れない不遇なクリーチャーだ。
 デュエマにおいては、準バニラが最も不遇なのだということを示すクリーチャーの一体である。
「どうせ《ボルメテウス》とかはいないわけだから、時間をかけても仕方ないわね。打点は足りてるし、ここは攻めるわよ。《グラディアン・レッド・ドラゴン》で攻撃! Tブレイク!」
 空護が手札を一枚握っているのが少々気がかりだが、ハンデスカードはない。握られているのはどうせ準バニラの《ナカツマキ》なのだ。下手に長引かせるより、とっとと決めてしまう方がいいと判断し、沙弓は殴りかかる。
 一番手は勿論《グラディアン・レッド・ドラゴン》。元祖ファッティの三打点が叩き込まれる。
「……! S・トリガー! 《ガールズ・ジャーニー》で、三枚ドローします」
「それなら問題ないわ。《レールガン》で最後のシールドをブレイク!」
 このターンに決めてしまえば、いくら手札が増えようと関係ない。
 空護の最後のシールドがブレイクされる。
 そして、
「……S・トリガー」
 その一撃が契機となり、天の扉が開かれる——

「——《ヘブンズ・ゲート》」

「っ、天門……!?」
 空護の最後のシールドから飛び出したのは、もはやお馴染みのブロッカー踏み倒し呪文、《ヘブンズ・ゲート》。
 シールドブレイクとS・トリガーで一気に増えた空護の手札から、守りの精霊が溢れ出す。
「《神銃の精霊ナカツマキ》と《天海の精霊シリウス》をバトルゾーンに!」



天海の精霊シリウス SR 光文明 (11)
クリーチャー:エンジェル・コマンド 12000
ブロッカー
T・ブレイカー



 現れた精霊は、先ほど《ライフプラン・チャージャー》で手札に加えられた《ナカツマキ》と、古き天門の代表的ファッティ、《天海の精霊シリウス》。
 《グラディアン・レッド・ドラゴン》が巨大な龍の始祖なら、《シリウス》は天国の門から舞い降りた最初の天使、天門の始祖である。
 そしてやはり、現在では《ヘブンズ・ゲート》で踏み倒すクリーチャーとしては、《シリウス》よりもハイスペックなクリーチャーは多く、完全上位互換もいる。それでも、その巨大さ、神々しさ、そして天門の始まりという歴史的意味を持つクリーチャーとして、人気は高い。
 さらにここで、沙弓は今まで空護のデッキに対して抱いていた違和感が、解消された。
「途中から変だと思ってたけど、トリーヴァに仕立ての天門だったのね」
「どうにもカードが足りなかったので、他のカードで誤魔化さざるを得なかったんですよねー。それがいい感じに偽装になってたようですけど」
 今までの空護のカードを見れば、確かに光のブロッカーが何体かいた。
 しかしバニラビートという先入観、バニラサポートや、空護がここまでほとんど動けなかったことなど、様々な要素が重なり、実際に撃たれるまで天門だと完全に気づくことはできなかった。
 空護の場には大型ブロッカーが二体。決して無視できるクリーチャーではない。
「確かに《シリウス》は怖いけど、私のデッキのフィニッシャーは、パワーだけは馬鹿みたいに高いからね。このままだととどめ刺されちゃうし、守りのためにも攻撃を継続させるわ。《死海竜》でダイレクトアタック!」
「《ナカツマキ》でブロック!」
 《死海竜》のパワーは12000。《ナカツマキ》のパワーをギリギリ上回り、一方的に打ち倒す。
 これで空護の場のアタッカーは、Tブレイカーの《シリウス》が一体。沙弓にとどめを刺すことはできず、また沙弓のクリーチャーを止めることもできない。
 しかしそれでも、空護は不敵に笑っていた。
「さて、ここから逆転劇の始まりですよー。3マナで《ロジック・スパーク》! 山札から《調和と繁栄の罠》をサーチして、そのまま唱えますねー。指定文明は火です」
「む……時間稼ぎをされたわね」
 《調和と繁栄の罠》。1ターンの間、指定した文明のクリーチャーの攻撃を封じる呪文。
 たった1ターンだけの拘束だが、後続のスピードアタッカーすらも止められる固有性があり、主にビッグマナ系のデッキにおける防御トリガーとして、よく使われる。
 沙弓のクリーチャーはすべてが火文明を含んでいるため、とりあえずこれで、空護は沙弓の攻撃を1ターンは凌ぐことができる。スピードアタッカーも確実に火文明が混じるので怖くない。進化クリーチャーは考慮してないが、準バニラの進化クリーチャーは限られている。恐らくいないだろう。
 1ターン稼いだこの隙に、空護は攻撃に転じる。
「《シリウス》でTブレイク!」
「トリガーは……残念、ないわね」
 これで沙弓もシールドがゼロ。そして、空護へのダイレクトアタックができない状態にある。
「ちょっと、まずいかもね……でもまだ全然なんとかなるわ」
 しかし、それでも盤上は圧倒的に沙弓が有利だ。手札も多いため、取れる選択肢はいくらでもある。
「とはいえ、わざわざすることもないけども……一応、ブロッカー対策よ。《ゼッツー》二体と、《暗黒の騎士ザガーン》を召喚!」
 ブロッカーで攻撃を止められないよう、オーバーキル気味に打点を並べる沙弓。さらに闇単色の《ザガーン》も呼び、《調和と繁栄の罠》すらもすり抜けようとする。
「《調和と繁栄の罠》はプレイヤーへの攻撃は禁止するけど、クリーチャーへの攻撃までは止められなかったはずよね? その大きなアタッカーにはご退場願うわ。脳筋パワーで踏み潰しなさい、《激竜王》で《シリウス》を攻撃!」
 《シリウス》のパワーは12000、それに向かっていく《激竜王》のパワーは25000もある。元祖、天門デッキのエースでさえも、パワー差を倍以上つけて踏み潰してしまうこのパワー。
 《激竜王》は、一撃で《シリウス》を葬った。
「ターン終了よ」
「では、僕のターン」
 過剰に展開された沙弓のクリーチャー。対する空護の場には、クリーチャーゼロ。
 白青緑トリーヴァではスピードアタッカーもいない。
 しかし、
「……つまらない奴を戦場に出しても、もう無意味なんですよねー」
 空護は既に、勝利への道を見出していた。
「これで終わりです。5マナで《破戒の右手 スミス》を召喚。そして、さらに5マナをタップ」
 本来ならば、守るための盾を刃に変える魔術。
 けれど今は、一閃を解き放つための閃光だ。

「呪文——《ダイヤモンド・カッター》」

「あ……」
 これで、終わりだった。
「《ダイヤモンド・カッター》の効果は……まあ、説明不要ですよね。僕のクリーチャーはすべてダイヤモンド状態、勿論《スミス》の召喚酔いも解除です。シノビはいませんし、ブロッカーもない。これで、とどめです」
 宝玉の閃きを受けた無法者が、とどめの一撃を繰り出す。

「《破戒の右手 スミス》で、ダイレクトアタック——」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て33」 ( No.477 )
日時: 2016/09/10 16:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「あっれー……おかしいわね。絶対に勝ったと思ったのに……」
「絶対に勝ったは絶対に負けるフラグ……思っちゃいけない……」
「まあ正直危なかったですけどねー。盾に《シリウス》《ヘブンズ・ゲート》《スミス》《ダイヤモンド・カッター》と、逆転に必要なパーツが全部揃っていたのはわかってたんですけど、《シリウス》ブレイクされてから天門引かないと負けてましたからねー」
 結局は運が良かっただけですよー、と言う空護。
 しかし運で勝とうとも、勝ちは勝ちだ。トップの沙弓から削り取れたのは、上位を走る空護にとっては嬉しいだろう。
「でも、なんで最後に《シリウス》と《スミス》で殺しにかからなかったの?」
「トリガーで凌がれるのが嫌だったんですよー。エタトラで火文明を選んでおけばとりあず死なないと思ったので、トリガーで《スパイラル・ゲート》やら《デーモン・ハンド》やら踏んで止まらないよう、《スミス》と《ダイヤモンド・カッター》は出し惜しみしてました」
「ブロッカーは考えなかったんですか?」
「出されたら負けでしたねー」
「おい」
「……まあ、元がアウトレイジダッシュでしたし、見た感じブロッカーはいないだろうと踏んでましたよ」
 流石にまったく考えていなかったわけではないが、出された時の対応ができたわけでもないので、出されたら負けというのは避けられなかっただろう。



 一同は固まっていた。
 四人のプレイヤーが、ジッと一点を見つめている。
「サンドイッチ、おいしい……」
「恋、俺のおにぎりもちょっとは食べてくれよ……冷めるぞ?」
「別に……冷めてもいいし……」
「酷い……」
「つきにぃのご飯は、冷めてもまあまあ……おいしい」
「恋……」
「暁のは、冷めても凄くおいしいと思うけど……」
「恋……」
「そこ。いちゃついてないで、ちゃんとこの大きな一戦を見届けなさい」
「あ、ごめん沙弓ちゃん。それで、レギュレーションはどうなったの?」
「ふふふ、まさかこれが引けるとは、嬉しい誤算だわ。今回は『ワンデッキデュエル:タワー』」
 やたら楽しそうな沙弓。ゲームが始まってから大抵は笑っている彼女だが、そのボルテージがどんどん上がっている気がする。このゲームが終わる頃には、魔王のような高笑いをしているのではないだろうか。
「で、これどーするの? 四人が同じマスに止まったけど」
「だから四人用のレギュレーションなのよ、これは」
 そう。
 今回の対戦は、他の対戦とは一線を画す。
 美琴、空護、浬、そして八。四人のプレイヤーが偶然にも同じマスに止まり、対戦が勃発したのだ。
「四人対戦とか嫌な気しかしないが……」
「『ワンデッキデュエル』は一度あったけど、『タワー』ってなにかしら?」
「確か最初の『ワンデッキデュエル』は、『リミテッド』、でしたよねー?」
 リミテッド。事前に用意されたデッキを使用したが、あれは沙弓がハイランダーにするという点だけに気を配って作った、清濁併せ持つあらゆるカードのごった煮デッキ。
 ならば今回の『タワー』というのも、デッキになにかしらの工夫がなされたレギュレーションなのだろうか。
「今回のレギュレーションでは、このデッキを使ってもらうわ」
 と言って沙弓がドンッと差し出したのは、一つの巨大なカードの束。
 『ワンデッキデュエル』でも使用した、ワンデッキだ。しかし、枚数は浬と八が対戦した時よりもずっと少ない。半分以下に見える。
「まあ、『ワンデッキデュエル』と称するからにはワンデッキを使うんだろうけど……」
「確かにこれはワンデッキだけど、正式にはタワーデッキというのよ。『ワンデッキデュエル:タワー』は、タワーデッキを使って対戦してもらうわ」
 タワーデッキ。ワンデッキの種類の一つ、ということだろうか。それを使うから、レギュレーションの名前が『ワンデッキデュエル:タワー』ということか。
「タワーデッキは見ての通り、このどデカいデッキよ。『ワンデッキデュエル:タワー』は全プレイヤーがこのデッキからカードを引いて使うの。墓地とマナも共有よ」
「……リミテッドとほとんど同じじゃねえか」
「それが違うのよねー。まずマナ共有ってところが違うし、リミテッド版は適当なカードをぶち込んで作っただけだけど、タワーデッキはタワーデュエル用に調整されてるから」
 つまり、この対戦のルールに沿って作られているということ。
 デッキ、墓地、そしてマナが共有。人数は四人。通常のデュエマにおける根本的なところまで手が加えられており、確かに『リミテッド』の時よりも勝手は変わりそうだ。
「大体のルールはこんな感じよ」



『ワンデッキデュエル:タワー』ルール
・参加プレイヤーは四人。時計回りでターンを進める。
・デッキは約200枚のワンデッキを使用する。
・山札がなくなったら、墓地のカードをすべて山札に戻してシャッフルする。
・山札、墓地、マナゾーンは全プレイヤーで共有する。
・先攻ドローあり。
・最初の5ターンの間は必ず手札からマナチャージをしなければならない。
・カードの効果は原則として、プレイヤー一人、またはそのバトルゾーンを指定する。
・敗北したプレイヤーは、場のクリーチャー、手札をすべて破棄(墓地に置く)し、その後対戦に関与できない(破壊された時の効果などはすべて無効となる)。
・支払いはトップに対して下位の三人がそれぞれ支払う。



「カードの効果の影響範囲が気になるんだが……」
「それはここで事細かに説明する暇がないから、私がジャッジ代わりに逐一説明するわ」
「沙弓がジャッジ代わりって、不安しかないんだけど……」
「勝った場合の取り分がトップだけっていうのはわかりますけど、それぞれっていうのは?」
「下位の三人が、最初に指定された金額をそれぞれ払うのよ。今回の場合は700万デュ円。だからトップになれば、三位以下が700万ずつ支払って、2100万デュ円ゲットね。」
「勝てば手にはいる金が三倍になるのか……」
 となると、いつも以上に対戦の重要性が高くなる。
 これに勝つだけで、一気に大量のデュ円が手に入る。単純に収入が増えるのだ。悪いことはなにもない。
 多人数ゆえに勝手がよくわからないが、それは全員同じ。如何にこの特殊なレギュレーションに適応できるかの勝負だ。
「それじゃあ、始めるか——」



 順番は、美琴、空護、浬、八。
 まずは美琴のターンから始まる。
「えっと、先攻ドローがありで、最初の5ターンはマナチャージしないといけないのよね。じゃあ、《コマンダー・ラッキーロトファイブ》をチャージ。終了よ」
「僕のターンですねー。《血風精霊ザーディア》をチャージして終了です」
「……俺のターン」
 カードをドローし、手札を見る。
 《未知なる弾丸 リュウセイ》《スカイ・ジェット》《傲慢の悪魔龍 スペルビア》《転生プログラム》《超速リベンジ・ドラゴン》《骨食怪人ボーン・リーパー》。
(なんだこの手札……)
 思ったよりも色が固まっているが、妙に癖のあるカードばかりだった。
 全プレイヤーにランデスを放つ《未知なる弾丸 リュウセイ》。敵味方関係なくスピードアタッカー化する《スカイ・ジェット》。勝てないデメリットを持つ《スペルビア》。手札を捨てなければならない《ボーン・リーパー》。
 下手に使えば自分も被害を被るカードが多く、まだどのようなカードがあるかがわからない現状、軽々にカードは使えない。
(出せるとしたら《ボーン・リーパー》だが、手札を一枚捨てるデメリットつき……だが、《転生プログラム》で化けられる可能性を考えると、案外ありか?)
 今は慎重にならなければいけないが、臆病になりすぎても、逆効果だ。
 他のプレイヤーを出しぬかなければ勝てない。一歩先んじることが、この対戦では重要なはずだ。
「……《スペルビア》をチャージ。《骨食怪人ボーン・リーパー》を召喚。能力で手札の《未知なる弾丸 リュウセイ》を捨てる」
 考えた結果、浬は《ボーン・リーパー》を召喚する。手札が一枚消えたが、どうせいらないカードだ。惜しくはない。
「ターン終了だ」
「自分のターンっすね。《キューブリック》をマナに置いて、終了っす」
 ターンが一周した。ほとんど全員マナチャージのみで、動きを見せたのは浬だけだ。



美琴ターン
マナ:4
手札:5
場:なし



「このターンまでが、強制マナチャージだったわね。《コマンダー・イノセント》をチャージして……うーん」
 美琴は手札を見て、悩んでいる。
 悩んでいうということは、使えるカードがあるのだろうが、単純にアドバンテージを稼いだり、自分が有利になれるカードではないのだろう。浬のように、デメリットにもなりうるカードを持っているのだと思われる。
「なんか、出してもいいのかどうか悩ましいカードばかりだわ……一応出しておきましょうか。《牢黒の伝道師ミリエス》を召喚」



牢黒の伝道師ミリエス UC 光文明 (5)
クリーチャー:バーサーカー 2500
ブロッカー
このクリーチャーがバトルゾーンにある間、闇のクリーチャーを召喚するコストと闇の呪文を唱えるコストは、それぞれ+2される。



(闇メタか……自分にも影響を及ぼすが、このデッキの闇の比率が分からんからな……)
 確かに、出すことを少しためらうカードかもしれない。浬の手札には比較的闇のカードが多かったので、先に《ボーン・リーパー》を召喚して正解だったかもしれない。
「僕のターンですねー」



空護ターン
マナ:5
手札:5
場:なし



 美琴のターンが終わり、空護のターンが訪れる。
「じゃあ僕は、《ヴォルクラウザー》をチャージ。《ミリエス》でコストが2増えて、《センシング・ドラグーン》を召喚しますねー」



センシング・ドラグーン C 闇文明 (4)
クリーチャー:ティラノ・ドレイク 3000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から2枚を表向きにする。そのうちの1枚を山札の一番上に裏向きにして置き、残りを墓地に置く。



「山札を二枚見て……一枚を墓地へ」
 墓地に落とされたのは《インフェルノ・サイン》。殿堂入り呪文で、このルールでも使い勝手の良さそうな呪文だが、墓地に捨てたということは墓地利用でもするのか——と、巡らせたところで気付く。
(……まさか)



浬ターン
マナ:6
手札:3
場:《ボーン・リーパー》



「…………」
 引いて来たのは、《世紀末ヘヴィ・デス・メタル》。
 明らかなはずれを掴まされた。
「《ヘヴィ・デス・メタル》をチャージ」
 どうせ握っていてもまともに使えない。13マナも溜まるまでハンドキープするつもりはさらさらなく、とっととマナに埋めてしまう。
「3マナで《転生プログラム》! 俺の《ボーン・リーパー》を破壊」
 浬は予定通り、《ボーン・リーパー》を転生させ、なにかしらの大型クリーチャーを狙う。
 そこまで大型でなくとも、なにかアドバンテージを得られるようなカードが来れば、と思い、山札を捲る。すると、
「げ……《緑神龍ガミラタール》か……」



緑神龍ガミラタール R 自然文明 (4)
クリーチャー:アース・ドラゴン 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手は自分自身の手札からクリーチャーを1体選び、バトルゾーンに置いてもよい。
W・ブレイカー



 《緑神龍ガミラタール》。コストに対しパワーの高いドラゴンだが、相手に踏み倒しをさせてしまうというデメリットを持つクリーチャーだ。それ以外は少しコストパフォーマンスの良い準バニラというだけなので、どんな大型でも出されてしまうデメリットが強烈すぎるため、普通は採用しない。
「この場合はプレイヤー一人を指定して、そのプレイヤーに踏み倒しをさせるからね」
「あぁ……」
 浬は踏み倒しをさせる相手を選ばなくてはならない。誰がいいだろうか。
 下手したらゲームを終わらせかねないフィニッシャーを出される可能性があるため、クリーチャーを握っていないか、握っていても小型クリーチャー、もしくはデメリット付きのクリーチャーしか持っていないようなプレイヤーが好ましい。それは誰なのか。
(確か黒月さんは、出すクリーチャーに悩んでいた。《ミリエス》の召喚も考えていたし、出せるクリーチャーはいるかもしれない)
 あの思考は、他にも出せるクリーチャーがあったけれども《ミリエス》を出した、というようにも取れるし、手札に大型の闇クリーチャーを抱えているから、《ミリエス》を出しにくかったのかもしれない。もしくは、いざとなれば自分で《ミリエス》を退かす手段があるのかもしれない。そして、それはクリーチャーとは限らない。
(そうなれば焔さんか夢谷だな。手札枚数的には焔さんだが……)
 手札の枚数が少なければ、その分、選択肢も狭い。強いクリーチャーを出されにくいだろう。
 空護は既にクリーチャーを出しているので、さらにクリーチャーが増えるのは好ましくないが、単純に手札枚数が少ない方が、当たる確率が低いだろう。
「……焔さん、出していいですよ」
「ん、僕ですかー?」
「えぇ」
「そうですかー……それはどうも」
 言って、空護は手札のクリーチャーを繰り出した。

「それじゃあ、出しますよー——《星龍グレイテスト・アース》」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て34」 ( No.478 )
日時: 2016/09/10 15:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

星龍グレイテスト・アース 光/水/闇/火/自然文明 (8)
クリーチャー:ワールド・ドラゴン 9000+
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに置く時、タップして置く。
相手のパワー6000以上のクリーチャーは、可能であればこのクリーチャーを攻撃する。
パワーアタッカー+4000
スレイヤー
T・ブレイカー
このクリーチャーが破壊された時、バトルゾーンにある相手のクリーチャーを1体選んでタップし、その後、クリーチャーを1体、バトルゾーンから持ち主の手札に戻してもよい。



「んな……っ!?」
 吃驚を見せる浬。空護の手札から現れたのは、《星龍グレイテスト・アース》。
 珍しい五色クリーチャーのドラゴン。五文明の特徴をすべて取り入れているだけあり、当然ながら強力なクリーチャーである。
 単純に高い打点とパワー。攻撃誘導、強制能力。そして、殴り倒してきた相手を破壊し、クリーチャーを除去、行動不能にする盤面への影響力。
 出されると非常に厄介なクリーチャーであり、それとを浬は早期に呼び出させてしまった。ある程度の大型クリーチャーは覚悟していたが、ここまで巨大だとは思わなかった。
「完全に失敗した……ターン終了」



八ターン
マナ:7
手札:5
場:なし



 《グレイテスト・アース》の存在は非常に大きい。放置すれば、あっという間に空護に場を制されてしまうだろう。
「《食獣セニア》をチャージっす。7マナで《無垢なる大剣士イノス》を召喚! ターン終了っす」
 とはいえこの早いターン。《グレイテスト・アース》を除去できるカードは持っていないのか、それとも使えないのか、八もクリーチャーを出すだけでターンを終える。
「私のターンね」



美琴ターン
マナ:8
手札:4
盾:5
場:《ミリエス》



「うーん、焔君の《グレイテスト・アース》が厄介ね……《スペルビア》をチャージ。《ミリエス》で2コスト増えて9マナ、《従獄の凶獣ドルベロス》を召喚よ」
 マナに二枚目の《スペルビア》を落としつつ、美琴はクリーチャーを並べていく。
 しかしそれも、ただのクリーチャーではなく、一癖も二癖もあるクリーチャーだったが。



従獄の凶獣ドルベロス VR 闇文明 (7)
クリーチャー:デーモン・コマンド 7000
W・ブレイカー
闇以外のクリーチャーを召喚する時、支払うコストは2多くなる。



「闇のクリーチャーのコストが2増えるのに、闇以外のクリーチャーのコストまで2増やすんですかー? どれだけ動きを縛りたいのか…」
 これで全員、クリーチャーの召喚コストが2増えたことになる。マナが伸びやすいルールなので普段の対戦よりもマシだろうが、一度に複数のクリーチャーが出しにくくなったので、動きにくくなることは確かだ。
「ターン終了よ」
「僕のターンですねー」



空護ターン
マナ:9
手札:3
盾:5
場:《センシング・ドラグーン》《グレイテスト・アース》



 今最も怖い空護のターンが回ってきた。
 巨大なアタッカーが一体いるだけで、威圧感がまるで違う。
 さらに空護は、追い打ちをかけるようにさらなるクリーチャーを呼び出す。
「ここは、マナチャージなしで。《ドルベロス》で2コスト増えて、7マナで《緑神龍クスダルフ》を召喚!」
「《クスダルフ》……?」
 見たことのないクリーチャーだ。
 浬はミシェルとの対戦で、カードの効果確認を怠っていたことを反省し、今度はテキストをすぐに確認する。そして、目を見開いた。
「……! ま、マジか……!」



緑神龍クスダルフ R 自然文明 (5)
クリーチャー:アース・ドラゴン 7000+
W・ブレイカー
パワーアタッカー+4000
自分のターンのはじめに、自分のマナゾーンにあるカードをアンタップできない。



 《緑神龍クスダルフ》。コストのわりにパワーが高く、パワーアタッカーまで付いている中型のアース・ドラゴン。
 《ガミラタール》がそうであったように、コストに対して得る高いパワーは、デメリットを持つ証である。《クスダルフ》の場合は、アンタップステップ時、自分のマナゾーンがアンタップしないこと。つまり、《クスダルフ》がいる限り、マナはほとんど使い捨てになるのだ。《クスダルフ》の登場直後は、後続のクリーチャーを出したり、呪文で支援することがほぼできなくなる。
 しかし問題は、《クスダルフ》のデメリットが及ぼす影響範囲だ。そしてその影響がデメリットへと変換される対象だ。
 《クスダルフ》はマナを起き上がらせなくなるクリーチャー。だがこのレギュレーションにおいて、マナゾーンという領域は各プレイヤーに与えられたものではない。
「このレギュレーションはマナ共有。つまり僕のマナゾーンは皆のマナゾーンです。《クスダルフ》の能力は全体に及び、誰もマナはアンタップできませんよー?」
 マナを共有するということは、空護のマナゾーンは他人のマナゾーンでもある。そのため、《クスダルフ》の影響を受けるのは空護だけではなく、全プレイヤーだ。空護は《クスダルフ》のデメリットを全員に向けることで、実質的に自分だけが強力なクリーチャーを出したような結果になる。
 加えて、全員が同じ目に遭うとはいえ、空護の場には《グレイテスト・アース》という巨大なクリーチャーがいる。使えるマナが一気に減ったことで、他の三人は《グレイテスト・アース》を処理することが難しくなり、
 そして追い打ちをかける美琴の《ミリエス》と《ドルベロス》。クリーチャーの召喚コストは常時2増えているうえに、除去呪文に多いだろう闇の呪文も重い。手札からカードを使いづらくなった。
 下手をすれば、このまま《グレイテスト・アース》と《クスダルフ》に全員殴り切られる可能性すらある。
「さて、ここは……夢谷君を殴りますかねー」
「じ、自分っすか!?」
「念のため、ですねー。《イノス》がなにをしでかすかわからないので。《グレイテスト・アース》で攻撃、Tブレイク!」
 空護が最初に矛先を向けたのは、八だった。コストを重くするクリーチャーを置いている美琴は放置として、浬ではなく八を狙ったのは、浬の場のクリーチャーが《ガミラタール》だからだろう。
 《グレイテスト・アース》の能力で、パワー6000以上のクリーチャーはすべて《グレイテスト・アース》に特攻しなければならない。放っておいても浬のクリーチャーは消えるので、それなら消せないクリーチャーを抱えている八を先に倒す、ということなのだろう。
 それが空護の考えなのかどうかはわからないが、この際はどちらでもいい。《グレイテスト・アース》の攻撃が、八のシールドを三枚叩き割る。
「っ! S・トリガーっす!」
「おっと、トリガーですかー……まあ、仕方ないですねー。そのは覚悟の上ですけど、なんですかねー?」
 空護がこのまま全員を殴り殺すつもりなら、全員のシールド計十五枚を砕き、ダイレクトアタックすることになり、必要な打点は十八。このデッキにどれほどのS・トリガーが積まれているのかはわからないが、シールドを割っていく間にトリガーを踏むことは、十分にあり得るだろう。
 早速その一枚目を、空護は踏んでしまったわけだが、
「……《フューチャー・カプセル》っすよ。山札の上から五枚を操作するっす」
 捲られたトリガーは、山札操作の《フューチャー・カプセル》。除去カードではなく、盤面になんの影響も及ぼさない呪文だ。
「! えーっと、これはこうで、こうして……この一枚は山札の下にこう置いて、終わりっす」
 できればここは、なにかしらの除去呪文で《グレイテスト・アース》か《クスダルフ》を退かしてほしかったところだが、今の手札ではなにもできない浬が言えることでもない。山札を掘り進んで、いいカードをトップに持ってきてもらうことを期待するしかない。
「《センシング・ドラグーン》で……こっちは霧島君を攻撃しますかねー」
「……トリガーはないです」
「なら、ターン終了ですー」
 八のシールドは二枚。次のターン、《クスダルフ》でWブレイク、《センシング・ドラグーン》でとどめということだろうか。
 美琴は最後に残すようで、浬も地味に被害を被ったが、シールド一枚なら、まだ微々たるものだ。
「俺のターン……」



浬ターン
マナ:2/9
手札:4
盾:4
場:《ガミラタール》



 八が操作した山札の一番上を引く浬。引いたのは、《シナプス・キューブ》。
 1マナの水の呪文。山札の上から四枚を操作できる効果を持つ。
(このカードは……この状況だと、既に操作した山札を操作してもあまり意味はないが、どうする? 山札共有のこのルールなら、手札に持っておくだけでも意味はありそうだが……)
 浬は考える。
 ここで重要なのは、今の山札のトップは、八が操作しているということ。
 そして、今の空護は、三人にとって脅威であるということが、、共通認識だということだ。
(あいつが自分のドローする位置に除去札を置いている可能性はあり得る……いや待て、除去札を置くなら、他の誰かのところに置くよな? 《グレイテスト・アース》と《クスダルフ》、どちらを先に除去したいか、今の手札にもよるだろうが、ただ除去することだけを考えるなら、自分が除去札を使う必要はない。誰かに除去させればいいだけだ)
 たとえばそれは、今ここでドローした浬でもいい。たとえば、ここで浬が《クスダルフ》を除去すれば、八は次のターンにはマナがフルで使えるようになるのだから。
 仮に八が自分のドローする位置に除去札を置いたとして、その意図はなにか。なぜ、自分の手で空護のクリーチャーを退かそうとするのか。
(さっきのトリガーで、夢谷は《フューチャー・カプセル》を唱え、山札を操作した。つまりこれは、奴が思い描く“なにか”が想定されて選ばれた山札だ。そこには、あいつの意図するなにかが、あいつが求める意味が必ずある)
 正直、まったくの考えなしの可能性も否めなかったが、そのことを想定しても無意味だと思ったので、そこは考えないことにした。
(考えろ、この局面、この状況、このタイミングで、あいつがこのカードを俺の手元へと持って来た理由を……)
 盤面を見る。自分の手札は、ドローしてきたカードと合わせて四枚。
 美琴の場には《ミリエス》と《ドルベロス》。二体のクリーチャーで全クリーチャーのコストが2増えている。
 空護の場には《センシング・ドラグーン》と、浬が呼んでしまった《グレイテスト・アース》。タップされているので、パワー6000以上のクリーチャーは、《グレイテスト・アース》に攻撃しなければならない。
 八の場には《イノス》。どんな種族の進化クリーチャーにでも進化できるが、八は進化クリーチャーを抱えているのか。
 そして浬の場には《ガミラタール》。《グレイテスト・アース》を呼び、このターン、《グレイテスト・アース》に特攻して死ぬ予定だ。自分で呼んだ敵のフィニッシャーに自ら突っ込んで死ぬという道化を演じている。
 最後にマナ。マナゾーンのカードは二枚。このターン、マナチャージしても3マナしかない。《ミリエス》と《ドルベロス》でコストが上がっているので、クリーチャーはまず出せないだろう。それに、マナにあるのは《スペルビア》二枚だけ。闇のカードだけだ。使える文明すら縛られている。
 と、そこで、浬の脳になにかが走った。
 このトップデックから八が伝えようとしたことが、わかったかもしれない。
「……これか?」
 浬はこのターンに引いたカードを抜き取り、スッとマナに置いた。
「《シナプス・キューブ》をチャージ。《ガミラタール》で《グレイテスト・アース》に攻撃です」
「いいんですかー? カード使わなくても」
「えぇ、使えるカードもないですし……とりあえず強制攻撃ですね。《ガミラタール》で《グレイテスト・アース》に攻撃。《ガミラタール》はバトルに負けて破壊されます。夢谷、お前のターンだ」
「はいっす! いくっすよー!」



八ターン
マナ:3/10
手札:6
盾:2
場:《イノス》



 浬に除去札を渡してもできず、八のターンに除去札を渡せばできること。
 その一つ目の意味は、恐らくマナ数。
 《クスダルフ》でマナが縛られ、《ミリエス》と《ドルベロス》が存在しているこの状況では、使えるカードに大きな制限がかかる。そのため、単純にカードを使うためにマナが多くかかるのだ。
 そして二つ目。八としては、こちらの方が重要だったかもしれない。
 浬が思考を巡らせた小さな結果が、現れる。
「まずは、《ベルフェギウス》をチャージ!」
 アンタップされたマナが増える。しかしそのほとんどは、黒い。
 その中でたった一枚だけ見える、浬の溜めた水のマナ。それを含む四枚のマナが、倒される。

「4マナタップ! 《コマンダー・ラッキーロトファイブ》を召喚っす!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て35」 ( No.479 )
日時: 2016/09/10 18:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

コマンダー・ラッキーロトファイブ 水文明 (2)
クリーチャー:キカイヒーロー 6000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、相手は自分自身の山札の上から進化クリーチャーではないクリーチャーが出るまでカードを表向きにする。相手は出たクリーチャーをバトルゾーンに出し、その後、表向きにしたそれ以外のカードをすべて、好きな順序で山札の一番下に戻す。



 八がアンタップされているマナをすべて横に倒して出したのは、《コマンダー・ラッキーロトファイブ》。滅多にお目にかかれないようなクリーチャーだ。
 2コストに対し、Wブレイカーは持っていないが、6000という高いパワー。そして当然のようにあるデメリット。
 《ラッキーロトファイブ》のデメリットは、《ガミラタール》と似ている。相手にクリーチャーを踏み倒させるデメリットだ。
 そして、その対象はプレイヤー一人。この時、八が選ぶプレイヤーは、
「空護先輩、山札をめくるっす!」
 空護だった。
「? 僕でいいんですかー? またクリーチャーが増えますよー?」
「増えればいいっすね」
「……? まさか……」
 《ラッキーロトファイブ》のデメリットは、《ガミラタール》と似ている、と述べたが、同じではなく似ているということは、違いがあるということ。
 《ガミラタール》は手札から、任意で踏み倒しさせる能力を持っていた。対して《ラッキーロトファイブ》は、“山札から”“強制的に”踏み倒しをさせる能力だ。
 つまり、なにが捲れようとも、その未来が確定していたとしても、避ける術はない。
 空護は山札を捲る。その一枚目は——

「っ、《デス・クルーザー》……!」

「ビンゴっす! そのクリーチャー、場に出してもらうっすよ!」
 山札の上から四枚は、八が操作した順番通りに並んでいる。浬がドローして一枚、八がドローして二枚、そして、《ラッキーロトファイブ》に捲られて三枚。
 八の計画通り、浬に《シナプス・キューブ》をチャージさせて水マナを用意させ、八自身が《ラッキーロトファイブ》を召喚し、空護に《デス・クルーザー》を捲らせることに成功した。
 《殺戮の羅刹デス・クルーザー》の能力は、自軍をすべて破壊すること。空護の場のクリーチャーは、一瞬で灰燼に帰した。
「これで僕の場は一掃、残ったのは《デス・クルーザー》だけですが……《グレイテスト・アース》の能力は、使わせてもらいますよー」
 《グレイテスト・アース》は、破壊されても仕事をこなすところが厄介だ。このクリーチャーが破壊された時、クリーチャーを一体をタップ、さらにバウンスする能力を持つ。
「夢谷君の《イノス》をタップ。さらに黒月さんの《ドルベロス》をバウンスしますよー」
「ターン終了っす!」



美琴ターン
マナ:11
手札:4
盾:4
場:《ミリエス》



「私のターン。《クスダルフ》はいないから、マナはアンタップね」
 マナを起き上がらせてから、美琴がカードを引く。すると、彼女は少し瞳を揺らした。
 そのカードは、八が操作してトップに仕込んだ、四枚目——最後のカードだ。
「夢谷君、あなたがここまで考える人だとは思わなかったわ……《グレイテスト・アース》とか、怖いのは消えたけど、代わりに《デス・クルーザー》。なんだかんだでパワーが高いし、打点もあるから、これはこれで厄介なクリーチャーよね。だけど、その処理も考えてたなんて」
 言って、美琴はそのカードをスッと引き抜く。
「《ミリエス》で2コスト重くなって、10マナ。《バックベアード》を召喚」



バックベアード 闇文明 (8)
クリーチャー:ダークロード 8000
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、他のアンタップされているクリーチャーをすべて破壊する。



 巨大な眼球が現れた。
 あらゆる物の怪、妖怪の頂点に君臨する魔眼。
 その眼光は、あらゆる生者に死をもたらす。
「《バックベアード》の能力発動! 他のアンタップされているクリーチャーをすべて破壊するわ。つまり、私の《ミリエス》、焔君の《デス・クルーザー》、夢谷君の《ラッキーロトファイブ》を破壊よ!」
「むぅ……」
 唸る空護。彼は、場に残された唯一の大型クリーチャーすらをも消し飛ばされてしまった。
 いくら《グレイテスト・アース》や《クスダルフ》を消しても、《デス・クルーザー》とてパワー13000のTブレイカーだ。このサイズのクリーチャーは放置できない。
 しかしそこも、八は手を打っていた。
 浬が水マナを用意し、八が踏み倒しを強要し、空護が自軍を破壊し、そして、美琴が残党を狩る。
 すべては、八の思い描いた通りだ。
「ターン終了よ」



空護ターン
マナ:11
手札:3
盾:5
場:なし



「ちょっと前まではラッキーでいい盤面だったのに、一転して場がすっからかんですねー……《チェンジ・ザ・ワールド》をチャージ」
 一巡する間に、ここまで場が変動している。《クスダルフ》のロックは一巡も持たなかった。
 どころか、空護はクリーチャーゼロだ。
 しかし今度は、その場数の少なさを、逆手に取る。
「それなら、孤独に戦いましょうかねー……《神聖綺神 クロスオーバー・ヨミ》」



新聖綺神 クロスオーバー・ヨミ SR 無色 (9)
クリーチャー:オラクリオン 12000
ブロッカー
T・ブレイカー
バトルゾーンにある自分のクリーチャーがこのクリーチャーだけであれば、このクリーチャーはブロックされず、バトルゾーンを離れる時、離れるかわりにとどまる。
自分のターンの終わりに、このクリーチャーをアンタップする。



 オラクリオンとなった《神人類 ヨミ》こと、《クロスオーバー・ヨミ》。
 場に他のクリーチャーがいなければ、場を離れない大型クリーチャーだ。除去を受け付けない大型クリーチャーは非常に厄介で、それどころか、ブロックで凌ぐこともできず、ターンの終わりにアンタップするブロッカーなので、こちらの攻撃も通らない。
 やっとの思いで場を壊滅できたと思ったらこれだ。勘弁してほしい。
「ターン終了ですー」
「俺のターン」


浬ターン
マナ:12
手札:4
盾:4
場:なし



 《クロスオーバー・ヨミ》は確かに厄介だ。しかし、それに直接対抗できるわけではないが、浬はこの対戦についてわかったことがある。
(このデッキは、このレギュレーション用に調整されたデッキだと部長は言っていた。つまりリミテッドのように適当ではなく、デッキのコンセプトがある)
 どのようなデッキにも、必ずコンセプトが存在する。早いうちに殴り切る速攻、ビートダウン。盤面を制圧し、相手の身動きを封じるコントロール。過剰なほどのマナを溜めるビッグマナ、ターボ。
 そしてそれらのデッキにも、さらに細かく目的、特徴が変わってくる。とにかく早さを追求した赤単速攻、リソースを絶やさない黒緑速攻、息切れを起こさないラムダビート、一瞬の爆発力が強いグレンモルトビート。殴るデッキだけでも、その種類は様々。殴るタイミングもカードの使い方もまったく違う。
 それゆえに、それぞれのコンセプトに沿った戦い方がある。自分のプレイングをデッキコンセプトに合わせなければ、プレイヤーはそのデッキを十分に生かすことはできない。それは、この『ワンデッキデュエル』でも同じはず。
 ならばこのデッキのコンセプトとはなにか。
(恐らくこのデッキは、デメリット持ちクリーチャーの扱い方を主眼に置いて組まれている。さっきは上手く嵌められそうになったが、《クスダルフ》は本来、自分に強烈なデメリットを課すクリーチャーだ。このルールでも、使いどころを間違えれば自分の首を絞めかねない)
 今まで引いたカードもどこか妙なところがあったが、その正体がやっとわかった。
 それは、デメリット持ちのクリーチャーが非常に多いことだ。
(俺が出した《ボーン・リーパー》もデメリット持ちだ。それらのデメリット持ちクリーチャーを、《シナプス・キューブ》や《フューチャー・カプセル》でトップを操作して、《転生プログラム》や《ラッキーロトファイブ》などで相手に押し付けることもできるだろう。だが逆に、それらのクリーチャーを《デス・クルーザー》のような自分の場をリセットするカードで取り除くこともできる)
 恋と美琴の計略デュエルでは、恋に害を与えていたデメリット持ちクリーチャーを《デス・クルーザー》で焼き払っていたが、今回は空護の展開したクリーチャーを、《デス・クルーザー》を押し付けて焼き払った。デッキ共有というルールを生かせば、この対戦ではどちらでも使えるだろう。
(デメリット持ちクリーチャーや、クリーチャーを入れ替えるカード、踏み倒させるカード、敵味方問わずクリーチャーを除去するカード、それに山札操作系のカード……そんなカードが多く見えるこのデッキは、恣意的に一つのコンセプトに基づいて作られていることは明白。恐らく、割合からして相手にデメリット持ちカードを押し付けることを一番の目的にしているな)
 《転生プログラム》も相手の有用なクリーチャーを破壊し、デメリット持ちのクリーチャーを出させるためのカードだと考えられる。だとすれば、浬の最初の転生は、失敗だった。
 なんにせよ、そんなデッキの特色がわかれば、ここからは多少は動きやすくなるはずだ。
「デメリット持ちが跋扈するのであれば、盤面が混沌とするのは目に見えている。怖気づいて縮こまるよりは、殴り続ける方がいいはずだ。《スカイ・ジェット》をチャージ! 8マナで《呪縛の剣豪バロスト》、5マナで《超速リベンジ・ドラゴン》を召喚!」
 今までは見に構えていた浬が、ここで動き出す。
 クリーチャーはあくまでも打点。打点として生きているうちに、殴る。
「《リベンジ・ドラゴン》で……黒月さんのシールドをブレイクする」
「こっち? トリガーはないわ」
「なら、ターン終了」
「自分のターンっすね」



八ターン
マナ:13
手札:5
盾:2
場:《イノス》



 八のターン。《グレイテスト・アース》にタップされていたお陰で、《バックベアード》の除去から生き残った《イノス》が起き上がる。
「みなさん、大きなクリーチャーばっかで怖いっすねー。でも、大きいことはいいことばかりじゃないっす。《ミリエス》をチャージ、4マナで《預言者マリエル》を召喚っす!」
予言者マリエル R 光文明 (4)
クリーチャー:ライトブリンガー 1000
パワー3000以上のクリーチャーは攻撃できない。



「っ、そのクリーチャーは……!」
「あー、困る奴ですねー……」
「流石は夢谷君、いいところでいいカード引くわね……!」
 ここで出て来たのは、《預言者マリエル》。
 パワー3000以上のクリーチャーの攻撃をすべて停止させるクリーチャーだ。パワーが低く、場持ちも良いとは言えないが、それでも出るだけでほとんどのクリーチャーの攻撃を止めてしまうロック能力ゆえに、殿堂入りとなったクリーチャーである。
 《マリエル》で3000以上、《ノーブル・エンフォーサー》で2000以下のクリーチャーの攻撃を停止させ、パワー2500程度のごく限られたクリーチャーしか攻撃できない盤面を生み出すロックが、最も有名だろう。
 今回は《ノーブル・エオンフォーサー》まではないが、場に出ているクリーチャーはすべてパワー3000以上。すべてのクリーチャーの攻撃が止まってしまった。
 しかも、それだけでは終わらない。
「さらに6マナで、《イノス》を進化っす! 《イノス》はどんな種族進化もこなせるっすよ!」



無垢なる大剣士イノス R 自然文明 (7)
クリーチャー:ドリームメイト 5000
どんな種族の進化クリーチャーを、このクリーチャーの上に置いてもよい。



 種族進化限定だが、どんなクリーチャーにでも進化可能な《イノス》。普通なら、《無垢の宝剣》《無垢なる刃ビャッコ》が重くなっただけだが、このマナが溜まりやすいルールでは、それほどの枷にはならない。
 あらゆる進化の可能性を秘めた、無垢なる大剣士は、なにに進化するのか。
 それは、天に君臨する天使たちの王。
 さらなる法をを制定するものだった。

「進化——《聖霊王アルカディアス》!」


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