二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.204 )
日時: 2015/07/20 00:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 オープンキャンパスで取材しつつ即日レポート提出で明日も祝日なのに授業があるモノクロです。もう大学やだ……

 まあ、それはそれとして……本当ならコメントされたその日に返したかったですが、まあ色々あって遅れました。申し訳ない……
 ユースティティアとチャリオットについてですが、まあこいつらに関してはそうですね。恋とのあれこれを一つの区切りと定義するなら、奴らは黒幕みたいなもんですし。
 BWにおけるN戦後のゲーチス戦と言えば、分かりやすいかもしれません。
 そして奴らのデュエルは……まあ、期待するのは自由です。その期待通りになるとは限りませんが。

54話/烏ヶ森編 21話 「けじめ」 ( No.205 )
日時: 2015/07/21 21:41
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 螺旋階段を駆け上がる。ひたすらに上を目指して、暁と一騎の二人は、螺旋しながら階段を上り続ける。
 予想通り、外観のみならず、城の内部にも、多くの徘徊しているクリーチャーがいた。
 さらに城の内部も見た目以上に広く、ここに来る道中で一人、また一人と、立ちふさがるクリーチャーたちを相手していたら、いつの間にか残ったのは暁と一騎の二人だけになってしまった。
 最後に別れた浬は、二人だけになることを渋っていたが、しかし元よりこの二人を生かせることが目的だった。
 なので、渋々ながらも二人を先に行かせたわけだが、不安が残るのも確かである。
「とかなんとか、浬はそんなこと言ってたけど……でも、たぶんもうすぐ頂上だよね?」
「それは分からないけど、最後に霧島君と別れてから、もうずっとクリーチャーの姿を見ないし、この階段もかなり長い。この先に重要な部屋か施設か……なにかしらがあるのは、間違いないと思う」
 そしてそのなにかしらというのが、チャリオット、そしてユースティティア。
 その二人がこの先にいるだろうと思うのは一種の願望でさえあるが、しかしなんとなく感じるのだ。
 この先にある、大きな存在を。
「……一騎さん! もうすぐだよ!」
 暁が張り上げるように声を上げた。
 もうすぐ、螺旋階段の終わりが見えてくる。
「っ、暁さん。上に誰かいる……!」
 階段の最上階に、ゆらりと人影が現れたのを、一騎は見逃さなかった。
 ユースティティアかチャリオットが、自分たちの動きを察知して迎え討ちにきたのか、それはならば、それはそれで好都合だ、などと考えながら、二人は階段を上りきる。
 だがそこで二人を待ち受けていたのは、チャリオットでもユースティティアでもなかった。
「——恋!?」
「……つきにぃ……あきら……」
「え!? なんで恋がここにいるの!?」
 階段の最上にいたのは、恋。工房で寝ているはずの彼女だった。
「……つららに、転送させた……私も、行く……」
 恋はまっすぐに、工房で見た時の彼女とは違う眼差しで見つめ、そして言った。
 その言葉には、確かな意志がある。彼女の、日向恋としての、確固たる意志が。
 しかし、
「っ……ダメだ!」
 一騎は、彼女が進むことを拒んだ。
「無理をするな、お前は怪我をしてるんだぞ。また、お前になにかがあったら、俺は……」
「つきにぃ……でも……」
「でもじゃない、帰るんだ。今から、リュンさんか氷麗さんに連絡して——」
「つきにぃ……聞いて」
 今すぐにでも恋を追い返そうとする一騎を、恋は宥めるように見据える。
「私は……けじめをつけにきた」
「けじめ……?」
「……うん」
 ゆっくり頷いて、恋は言葉を紡いでいく。
 自分の中で、自分自身を確認するように。
「私は、つきにぃに、あきらに……迷惑、かけた……キュプリスにも……それに、ユースティティアたちにも」
「え……?」
 一騎は恋に迷惑をかけられたというようには思っていないが、それは問題ではない。
 恋が、ユースティティアたちの肩を持つような発言に、二人は面食らってしまう。
 そんな二人の心情を察したように、恋は続ける。
「でも、それはラヴァーとしての私の思い……今の私は恋。だけど、ラヴァーとしての私は、ちゃんとあった」
「え? えーっと……どーゆーこと……?」
「私は、過去の私と決別したい……ラヴァーとしての私を捨てて、日向恋としての私とそて……生きる」
 今までの恋は、ラヴァーという名の、ラヴァーとしての、ユースティティアたちの仲間である恋だった。
 だが、暁の熱意に、太陽のような光に触れて、恋は今の日向恋となった。今の道を、進もうと思えたのだ。
 しかし歩む道を変えることは、容易なことではない。暁は確かに彼女の道を変えるきっかけにはなったが、だからといって、すぐに彼女の軌道が変わるわけではない。
 軌道を変える前にあった軌跡が、彼女にもあるのだ。その軌跡を辿り、過去の自分を清算しなければ、今の自分の道を歩むことはできない。だが恋は、今の道に進むのだ。
「……そのためには、ユースティティアと、ちゃんと話したい……必要なら、戦う……」
「戦うって、でも、お前……」
「分かってる……でも、私は、やらなくちゃ……今のままじゃ、いけないから……」
 恋は一騎を見上げる。
 自分を、やり直させてほしいと、懇願して。
 そしてそんな恋に賛同の意を示すのは、暁だった。
「……一騎さん、私からもお願い」
「暁さん……」
「私たちがあいつと戦っても、恋の問題は解決しないと思う。恋が、あいつと戦うからこそ、たぶん恋は自分に納得できると思うの」
 恋が、日向恋としての新しい自分となる。
 ユースティティアとの対立は、そのための儀式なのだ。
 恋がラヴァーとなった契機がユースティティアであるように、恋がラヴァーを捨てるために必要になるのも、またユースティティアである。
 そしてなにより、恋はそれを強く望んでいた。
 新しい自分のために、過去の自分と決別し、清算すること。
 けじめと称して、彼女は希う。
 そして、それを切り捨てることができる、一騎ではなかった。
「……分かった」
「つきにぃ……」
「でも、無理はするな。絶対に、無事に戻るんだ。これだけは、約束してくれ」
 もう二度と、あのような悲劇は起きてほしくない。
 もう二度と、あんな恋の姿は見たくない。
 一騎は、その一心で、恋に確約させる。
 恋も、そんな一騎に、応える。
「うん……絶対、つきにぃたちのところに、戻ってくる……約束」
 恋は小指を差し出した。
 手は握ったまま、小指だけを。
「あぁ、約束だ」
 一騎も小指だけを出して、彼女の小指と絡める。
 古典的で、子供っぽくて、ただの呪いでしかないが、しかし二人の約束は確実に交わされた。
 固く、固く。
 絡めた指を解くと、一騎は、暁は、そして恋は、前を向く。
 前へと、進み出る。
「……それじゃあ、行こう」
「うん……ユースティティアとチャリオットは、この先の部屋にいる……」
「分かるの?」
「私も、この城を拠点にしてたから……」
 だが、これからはそうでなくなる。
 自分の帰るべき場所は、ここではなくなるのだ。
 そのためにも、恋は前に進む。
 しかし、それを阻害する、障害もまた、彼女の前には立ちふさがっていた。
「っ、クリーチャー!? まだいたの!?」
「《爆裂右神 ストロークス》《聖霊左神 ジャスティス》……ここにきて、とんでもないクリーチャーが出てきたね……!」
 新生にして神聖なる神は、二体にして一対の存在となり、三人の前に立ちふさがる。
 高く、そして巨大な、壁として。
 この先に進むには、この神を乗り越えなければならない。そうしなければ、ユースティティアたちのもとへは辿り着けない。
 そんなことは言うまでもなく分かっている。暁と恋はそれぞれ、自らのデッキへと手を伸ばす——

「ここは、俺が食い止めるよ」

 ——が、しかし。
 それよりも早く、一騎がテインと共に、前に進み出ていた。
「一騎さん……」
「つきにぃ……」
 二人の少女を背にしながら、一騎は首だけ回して二人を見遣る。
「俺は、やっぱり恋が心配だ。本当なら、先に行かせたくはない」
 でも、と一騎は続ける。
「恋が自分で決めた道を、俺は否定できない……それに、恋が自分で自分の道を歩くというのなら、俺は、それを応援したいんだ」
 それが一騎の本音だった。
 不安で、心配で、放っておけないという気持ちは、確かに一騎の中にはある。むしろ、その思いがかなり強い。
 しかし、同時に恋の歩みを後押ししたい気持ちがあるのも、また確かなことだ。
 そして今は、どちらの気持ちが恋のためになるか、どちらが最後に自分が納得できるかを考えたら、それは後者だ。
 恋をこのまま先の進ませるのは心配だが、進まなければ、彼女のためにはならない。むしろここで引き留めることは、彼女の思いを踏みにじることになりかねない。
 そう思ったら、一騎は、自然と神に対して足を向けていた。
「それに、暁さん。君もいるから、俺も、それに恋も、安心できるはずだよ」
「わ、私……? や、そんなことは……」
「ううん、そんなことないよ。君は、君が思っている以上に、心強い存在なんだ……ねぇ、恋?」
「うん……私も、そう思う……」
「そ、そうかなぁ……?」
 珍しく、照れたようにそっぽを向く暁。案外、褒められ慣れていないのかもしれない。
 もしくは、純粋な賞賛というものに、耐性がないのか。
 なにはともあれ、一騎は後のすべてを暁と恋に託して、前に進み出る。
 そして、暁の方に、ふと振り返った。
「暁さん……恋を、頼んだよ」
「……はいっ!」
 刹那。
 一騎が、神話空間の中へと消えていく。
「……行こう、恋」
「うん……あきら」
 神が消えた先には、扉がある。
 二人は、その扉を、押し開けた——

54話/烏ヶ森編 21話 「けじめ」 ( No.206 )
日時: 2015/09/08 05:08
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

「——まさか、また舞い戻ってくるとはな、ラヴァー」
 扉の先にいたのは、機械のような両腕の青年——チャリオットだった。
「私が処分し損ねるところまでは想定内だった。すぐさま処置をすれば、まあ生きながらえることは可能だっただろう」
 しかし、
「ここまで早く、我らが元に戻ってくるとはな……いや、その人間の娘と一緒にいるところを見るからに、反旗を翻した、と見るべきか?」
「……その通り」
 恋は、チャリオットを威圧するように、一歩踏み出す。
「チャリオット……そこを退いて」
「なに?」
「私は、ユースティティアと話がしたい……だから……」
「ここを退けと。ふんっ、馬鹿馬鹿しい」
 チャリオットは、嘲笑するように鼻を鳴らす。
「貴様ら人間風情がユースティティア様の下へ行くなど、どれほど身の程知らずなことであるか、理解しているのか? ラヴァー、貴様とは一時は仲間とも言えるような関係ではあったが、今の貴様は裏切り者。我らの敵だ。ユースティティア様と合見えるなど、ありえん」
「……だったら」
 と、恋がキュプリスと目配せし、デッキケースに手をかける。
 その刹那。
「無理にでも退いてもらおうかな!」
 ——暁が、駆け出した。
「っ……!」
 同時にコルルも飛び出しており、チャリオットに突っ込んでいく。
 コルルの攻撃程度では、それほど強い力はない。しかしその間に、隙はできる。
「恋! 先に行って!」
「あきら……でも……」
「いいから! あいつとケリつけるんでしょ!」
 恋の目的はユースティティアであり、チャリオットではない。あくまで彼は、ユースティティアに至るまでの通過点でしかない。
 それは暁にも分かっていた。
 そしてそれが分かるなら、ただの通過点のことで、恋に手を煩わせるわけにはいかない。
「それに、私もリベンジしたいしね! だから行って、恋!」
 それは自己犠牲ではない。彼女の意志を尊重し、そして彼女への信頼からなる言葉だった。
 恋なら、行かせても大丈夫だと。
 いや、恋に行かせるべきである。
 恋に行かせなくてはならないと。
 だから暁は、自信に満ちた表情で、恋を送り出す。
「……あきら……ありがとう……」
 恋もまた、そんな暁に応える。
 デッキケースにかけた手を離し、再びキュプリスに目を向けた。
「……キュプリス」
「分かったよ。行こう」
「うん……」
 そして恋は、駆けだした。
 チャリオットの奥の扉へと。
 その先に待つ、ユースティティアの下へと。



「——ふんっ」
「うおっ!」
 チャリオットは腕を振るい、吹き飛ばすようにしてコルルを引き剥がした。
「コルル! 大丈夫?」
「あぁ、このくらいなんともないぜ。だけど、やっぱりオレの力だけじゃ無理だ……」
「当然だ。貴様程度の力に屈する私ではない。あまり甘くみないでもらおうか」
「やっぱそっかー……なら、こっちで決めるしかないね」
 そう言って、暁はデッキケースから、デッキを取り出した。
 それを見て、再びチャリオットは嘲りの笑みを浮かべる。
「ふん、前に叩きのめされたことはもう忘れたのか? どのような形であろうとも、貴様程度、私の敵ではない」
「忘れてなんていないよ。前にボコボコにされたからこそ、今度こそ勝つよ。それに——」
 ——恋が頑張ってるのに、私が負けるわけにはいかないからね。
「……頑張って、恋——!」
 激励の思いを心中でふっと呟き、暁は目の前の相手を見据える。
 そして、神話空間へと駆け出すのだった。



「……来たか、ラヴァー」
 扉の奥の通路を進み、そのさらに奥の扉の先の小部屋。
 真っ白で、ひたすら白く、光までもが白い、純白の空間。
 白色のみが支配し、それだけが存在する空間。
 その中央に、正義を司る者——ユースティティアが立っていた。
「貴様がいずれここに来るだろうことは、門番が攻撃を受けた時点で察していた……だが」
 それでも腑に落ちないことがある、とでも言いたげなユースティティアだったが、
「……いや、貴様は所詮、裏切り者。我が貴様を裁いたことによる、“理不尽なる報復”であろうとも、“下賤な者ども”に唆された結果であろうとも、関係ない」
 ただただ、ユースティティアは己の存在理由のまま、存在証明のように、正義を振るうまで。
「我は我が正義で、再び貴様を裁くまで。今度は、我が直々に裁きを下そう」
「……ユースティティア……私は……」
 恋はユースティティアに語りかけようとするが、しかし、ユースティティアはそれを意に介さない。
 もはや恋の言葉は届かず、己の正義のままに、ユースティティアは突き動かされる。
「我が名はユースティティア、正義を司る者——不義なる者、ラヴァー。我が正義に則り、貴様に我が正義を下す!」
 ユースティティアは宣告する。
 己の為すべき使命を、天命の如く。
「…………」
 恋の言葉は、なかった。
 なにか言いたそうにはしていたが、彼女はなにも言わなかった。
 すべてを受け入れたように、彼女はなすがままに身を投じる。

 正義が支配する、神話空間へ——



 とてもとても、深く深い、地の底に。
 それは眠っていた。
 塔のような高い城の下で、長い時を過ごした。
 己の身を守るように、幾重もの鎖を巻いて。
 しかしその鎖は、やがて自分以外のなにかを守るものとなり。
 自分をも含む、なにかを封じる縛鎖となる。
 それは、そう遠くない未来。
 少女が己の心を自覚したときに、目覚めるであろう。
 その時まで、“彼女”は待っている。
 小さな小さな恋人の、慈愛と恋心を。
 ほんの少しだけ。
 淡く儚く美しく。
 鎖が、光った——

55話/烏ヶ森編 22話 「正義」 ( No.207 )
日時: 2015/09/08 05:11
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 恋とユースティティアのデュエル。
 お互いにまだシールドは五枚。《制御の翼 オリオティス》を出しつつマナ伸ばすユースティティアに対し、恋も《栄光の翼 バロンアルデ》で後を追っている。
「我がターン。呪文《超次元ドラヴィタ・ホール》。墓地の《フェアリー・ライフ》を手札に加え、超次元ゾーンより《アクア・アタック<BAGOOON・パンツァー>》をバトルゾーンへ」
「私のターン……呪文《グローリー・スノー》で、2マナ追加……」
「ターン初めに、《アクア・アタック》の能力でカードを引き、我がターンだ」
 マナから手札の補充にシフトしたユースティティア。一方、恋はさらにマナを伸ばし、ユースティティアを追い抜く。
 ユースティティアは自然文明を追加し、サイキック・クリーチャーを採用している利点として、マナ加速と手札補充をバランスよく絡めながら展開しているが、光単色で、超次元ゾーンの枠をドラグハートにのみ割いている恋には、そのような器用な真似はなかなかできない、
 単純なマナの量ではユースティティアを超えても、総合的な質では、とても勝っているとは言い難い。
「《虚構の支配者メタフィクション》を召喚。ターン終了」
「呪文《ヘブンズ・ゲート》……《蒼華の精霊龍 ラ・ローゼ・ブルエ》と《龍覇 エバーローズ》をバトルゾーンへ」
 天国の門が開かれる。
 そこから舞い降りるのは、蒼い薔薇の花弁を散らす聖なる龍《ラ・ローゼ・ブルエ》と、龍と心を通わす光の使者《エバーローズ》。
 《エバーローズ》は天に、そして超次元の彼方に呼びかけ、一つの槍を手にする。
「来て……《不滅槍 パーフェクト》。《エバーローズ》に装備」
 先んじてドラグハートを呼び出し、ターン終える恋。
 しかし、龍解条件を満たすには、クリーチャーがまだ足りない。あとニ体必要だ。
 ふと、ユースティティアが声を発した。
「……愚かだな、ラヴァー」
「……私は、恋。日向恋。その名前は、もう捨てた。ユースティティア」
「己の世界で生きることができず、この世界に“逃避”した惰弱な人間がなにを言うか」
 恋はすかさず訂正するも、ユースティティアに切り捨てられる。
「貴様は惰弱であったが、我々にはなかったものを多く持っていた。貴様の存在は、我々にとっては非常に意義のあるものだった。たとえばそれは、語り手の存在。たとえばそれは、クリーチャーと通い合う才。それらを利用することは、我々の目的を達するためには有意義なものであった。そして、我の正義に沿うものであった」
 ユースティティアは、いつものような高圧的な語りではなく、回想するように、懐かしむように、悲しむように、そして、慈しむように、言葉を紡ぐ。
 しかし、
「だが、今はどうだ」
 その口調が、一気に強く、険しく、非難するかのような語調になった。
「貴様は我々を裏切り、我らの目的を阻害するものと組み、我の前に立ちふさがる。これは、如何なことか?」
「私は……」
 ユースティティアの言葉は、問いかけだった。
 恋は一瞬、戸惑う。自分が今、こうしている理由。今の自分がある理由。それは一体、なんなのか。
 彼女は迷う。悩み、惑う。
 いつかの自分の世界のように。
 しかし、その答えは、すぐに見つかった。
「……私は、戻っただけ。元通りに、なっただけ」
 静かに、彼女には告げた。
「私は最初から、あなたたちと一緒にいるべきではなかった、だから裏切った……私は昔から、つきにぃと一緒だった、だからあの人たちと一緒にいる……私は元々の、自分のあるべき姿を見つけた、だからあなたと戦っている……」
 ただ、それだけ……
 と、彼女は、日向恋は、答えた。
 ラヴァーではなく、日向恋としての、答えだった。
「……そうか」
 ユースティティアは、どこか残念そうに、呟く。
 だが、次の顔を上げた時。
 その瞳は裁く者の眼となっていた。
 己が正義を信じ、己の正義によって裁く者。
 ユースティティアにとって、恋は、完全なる裁かれるべき者へと成ったのだ。
「ならば委細なし。我々を裏切り、こうして立ちふさがる貴様は、我が正義で裁く」
 そう言ってユースティティアは、手札のカードを切る。
 切り札を呼ぶ、鍵となるカードを。
「《龍覇 セイントローズ》を召喚」



龍覇 セイントローズ 光文明 (7)
クリーチャー:ジャスティス・ウイング/ドラグナー 6500
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、光のコスト5以下のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
バトルゾーンに自分の光のドラグハートがあれば、このクリーチャーは「ブロッカー」を得る。
W・ブレイカー



 恋の召喚した《エバーローズ》よりも、さらに強き光を放つドラグナー、《セイントローズ》が現れる。
 《エバーローズ》は4コストまでのドラグハートしか呼び出せないが、《セイントローズ》は、5コストの光のドラグハートまで呼び出せる。
 呼び出されるドラグハートはなにか、そんなものは決まっている。
 少なくとも恋には分かっていた。
 呼応するのは、ユースティティアの正義そのもの。その具象が顕現する。

「さあ、来るのだ。我が正義の箱舟——《天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン》」

「っ……」
 恋は小さく歯噛みする。
 ユースティティアの場には《オリオティス》《メタフィクション》。そして能力が発動した《セイントローズ》と、既に三体のブロッカーが並んでいる。
 さらに箱舟からは、新たな光の使者が舞い降りる。
「ターン終了……そして、《ヘブンズ・ヘブン》の能力発動。手札より《天団の精霊龍 エスポワール》をバトルゾーンへ」



天獄の正義 ヘブンズ・ヘブン ≡V≡ 光文明 (5)
ドラグハート・フォートレス
自分のターンの終わりに、「ブロッカー」を持つ光のクリーチャーを1体、自分の手札からバトルゾーンに出してもよい。
光以外の呪文を唱えるコストは1多くなる。
龍解:自分のターンのはじめに、バトルゾーンにある自分の「ブロッカー」を持つクリーチャーが3体以上あれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。



 これで四体目。《ヘブンズ・ヘブン》の龍条件はブロッカーを三体場に残すことなので、ニ除去しなければ、龍解を許してしまう。
 しかし元々、恋のデッキは除去カードに乏しい。どうしたって次のターンに四体中ニ体以上のブロッカーを退かして、龍解を阻止することはできないだろう。
「……《導きの精霊龍 サリヴァン》を、召喚……カードを二枚ドローして、《殉教の翼 アンドロ・セイバ》を二体、バトルゾーンへ……そして」
 恋のバトルゾーンにクリーチャーが六体。《パーフェクト》の龍解条件が満たされた。
「世界の王よ、正義を掲げ天より降り立ち、不滅の生と命を授ける。龍解——」
 《エバーローズ》が《パーフェクト》を、天高く撃ち上げた。
 不滅の槍は一筋の光となり、そして、内に秘めた龍の魂を解放する。

「——《天命王 エバーラスト》」

 そして、《エバーラスト》が、その姿を現した。
 だが、ユースティティアは静かに、彼女を見据えている。
 彼女を、侮蔑するように。
「……ラヴァーよ、貴様は不義であった。我の前にこうして立つことこそが正義に反する業——即ち不義」
 それが貴様を裁く罪状だ、とユースティティアは告げる。
 恋の正義に反するように。
 《エバーラスト》に反目するように。
 ユースティティアは、己の正義を貫く。
「さあ——我が正義を、執行する」
 刹那、箱舟がより一層、光輝いた。
「我が正義、ここに現れよ! 龍解——」
 そして、ユースティティアの掲げる正義の形が、ここに具現と化す。

「——《天命讃華 ネバーラスト》!」

55話/烏ヶ森編 22話 「正義」 ( No.208 )
日時: 2015/07/22 21:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)

 暁とチャリオットのデュエル。
 現在、暁の場には《コッコ・ルピア》が一体。一方、チャリオットの場には《正々堂々 ホルモン》、そして彼のデッキのキーとなるクリーチャー、《進軍する巨砲 クロムウェル》。
 もう既に、彼のコンボの準備は整ってしまっている。
「呪文《ネクスト・チャージャー》! 手札を入れ替えて、ターン終了!」
「ふん、それだけか。ならばこの時点で、貴様に勝ちの目はなくなったも同然だ。私のターン」
 もしもこのターンで《ヒラメキ・プログラム》が発動してしまえば、また《桜舞う師匠》とのコンボで大型ガードマンを出され、押し切られてしまう。
 暁としても、ここが分水嶺だろう。
 そんな暁をよそに、チャリオットは手札を切る。
「呪文《フェアリー・シャワー》。山札から二枚を見る」
 チャリオットは《フェアリー・シャワー》を唱え、山札の上から二枚を、自らの目の前へと動かし、見る。
 そして、ふっ、と口元を緩ませた。
「来たぞ……《ルーパス》をマナへ置き、もう一枚を手札へ。そして、手札に加えた《ヒラメキ・プログラム》を発動!」
「!」
 一気に緊張が走る。
 《フェアリー・シャワー》で最後のキーカードを引き当てられてしまい、チャリオットのコンボが完成してしまった。
「破壊するのは当然《クロムウェル》だ。そして山札から現れるのも当然、《桜舞う師匠》だ! 《クロムウェル》はシールド・ゴーでシールドへ! そして能力発動!」
 《クロムウェル》が表向きでシールドにあるとき、自軍はすべてスピードアタッカーになる。
 つまり、《ヒラメキ・プログラム》で現れた《桜舞う師匠》は、すぐさま攻撃できるようになったのだ。
「《桜舞う師匠》で攻撃! その時、能力でマナゾーンからガードマンの《完善武装 ルーパス》をバトルゾーンへ!」



完善武装(フルアーマー) ルーパス 自然文明 (8)
クリーチャー:アウトレイジ 14000
ガードマン
自分の他の「ガードマン」を持つクリーチャーが相手クリーチャーとバトルする時、かわりにこのクリーチャーにバトルさせてもよい。
T・ブレイカー



 マナから《ニドギリ・ラゴン》よりもさらに巨大な、獣人のようなクリーチャーが現れる。
 《ルーパス》はTブレイカー。チャリオットの場にはWブレイカーの《桜舞う師匠》と、《ホルモン》がいる。合計六打点。つまり、暁はS・トリガーを引かなければ、敗北が確定してしまう。
 まずは、《桜舞う師匠》の斬撃が、シールドを二枚、切り裂く。
「う……っ!」
「まだ終わらんぞ! 《ルーパス》でTブレイク!」
 《桜舞う師匠》の一閃に続き、《ルーパス》の全身から光線や砲撃が絶え間なく放たれる。
 一枚、また一枚と、暁のシールドが次々と粉砕されていく。
 そして、彼女のシールドはなくなった。
「さあ、待たせたな……これで終わりだ! 《正々堂々 ホルモン》で、とどめ——」
「待った! S・トリガー発動だよ!」
 シールドは砕かれ、なくなった。
 しかし最後のシールドだけは、ただではなくならない。失われる直前に、光の束となって収束し、一体の龍となる。
「《熱血龍 バトクロス・バトル》を召喚! その能力で、《バトクロス・バトル》と《ホルモン》をバトル!」
 暁にとどめを刺そうと突っ込んでいった《ホルモン》は、《バトクロス・バトル》の拳で殴り倒されてしまい、チャリオットの最後の一撃は届かなかった。
「……ふん、1ターン生きながらえたか。だが所詮はたった1ターンだ。私のシールドは六枚、場には《桜舞う師匠》と《ルーパス》がいる。次のターンで、この二体を排除できるものか!」
「さーて、どうかな?」
 チャリオットがターンを終え、《バトクロス・バトル》は山札に帰っていく。
 それを見届ける前に——いや、チャリオットがターンを終える前、《ホルモン》が《バトクロス・バトル》に殴り飛ばされた直後に、暁は既に動いていた。
 手札から、一体の龍が飛び出す。
「私の火のドラゴンがバトルに勝ったから、手札からこの子をタダで出せる! おいで、《コルル》!」
「おうよ! 任せろ、暁!」
 《バトクロス・バトル》の勝利に反応して、《コルル》が現れた。
 《コルル》一体では大きな力は持たない、とてもチャリオットを倒す存在にはならない。
 だがしかし、チャリオットはこの時、言いようもない危機感を、本能的に察知していた。
 このままでは終わらないということを、知らせている。
「私のターン! 《コッコ・ルピア》がいるから、私が召喚するドラゴンのコストは2下がる! だから、このクリーチャーを6マナで召喚できる!」
 そう言って、暁は自分のマナをすべてタップする。
 そして解き放った。太陽の力を。
 継承された、神話の力を。
 その力を解放し、《コルル》は神翼の太陽へと昇華する。

「《コルル》を進化——《太陽神翼 コーヴァス》!」

 燃え盛る炎に包まれる《コルル》。その炎は《コルル》の本来あるべき姿を取り戻させ、そして未来を託す神話の力を授ける。
 太陽のように炎が球状に炎が収縮し、そして、爆発するように弾け飛ぶ。
 そこに存在しているのは、黒翼の太陽。烏羽色の翼を羽ばたかせ、陽光の如き輝きを放つ。
「な……っ! なんだ、このクリーチャーは……! 語り手のクリーチャーなのか!?」
 チャリオットは、見たこともないクリーチャー——自分自身が知っている語り手とは違う語り手の姿を見せられ、混乱している様子だった。
 だが、暁も《コーヴァス》も、そんなことは意に介さない。
 目の前の相手を、本気で殴るだけだ。
「《コーヴァス》がバトルゾーンに出た時、能力発動!、《コーヴァス》と《ルーパス》をバトル!」
「っ……ふん、馬鹿め。《ルーパス》のパワーは14000! パワー11000のそのクリーチャーで倒せるものか!」
「そう思うなら、しっかり見てなよ」
 漆黒の羽を散らして、《コーヴァス》が飛翔する。そんな《コーヴァス》に対し、《ルーパス》は自慢の装備から、あらゆる火器光線を乱射するが、
『馬鹿はどっちか教えてやるよ。俺はバトル中、パワーが+4000される。だから』
「そのパワーは15000! 《ルーパス》を破壊だよ!」
「な……っ、馬鹿な……!」
 《ルーパス》が放つ大量の砲撃を躱し、《コーヴァス》は肉薄する。
 そして、燃え上がる拳を突き出す。
 真正面から、《ルーパス》の誇る完全にして“完善”な武装を、木端微塵に粉砕した。
 同時に、《ルーパス》の身体も吹き飛ばされる。
「《ルーパス》が……こんなことが……!」
『おい、この程度で驚いてんじゃねえぞ馬鹿野郎。まだ終わっちゃいねえよ』
「そうそう。《コーヴァス》がバトルに勝ったから、山札から三枚を見て……《龍世界 ドラゴ大王》をバトルゾーンに! その能力で、今度は《桜舞う師匠》とバトル!」
 《コーヴァス》の声に応え、《ドラゴ大王》が君臨した。
 《ドラゴ大王》が君臨したことで、圧政が始まる。否が応でも《桜舞う師匠》は戦わなくてはならず、そしてその戦に駆り出されるのは、《コーヴァス》だ。
『行け《コーヴァス》! あのガラクタ紛いを打ち砕け!』
『おうよ! そっちは任せたぜ、《大王》!』
 剣を振るう《桜舞う師匠》。その一撃一撃は非常に鋭い。
 しかし《コーヴァス》の、太陽神話の力の前では、それは無力も同然。《コーヴァス》の拳は《桜舞う師匠》の刃を叩き折り、そのまま殴り倒す。
「また《コーヴァス》がバトルに勝ったから、今度は山札から《勝利天帝 Gメビウス》をバトルゾーンに! そして行くよ! 《Gメビウス》でシールドをTブレイク! 能力でアンタップして、もう一発Tブレイク!」
 《Gメビウス》が突貫し、チャリオットのシールドを三枚吹き飛ばす。そして、そのまま折り返してさらに三枚のシールドを粉砕し、これでチャリオットのシールドはゼロ。S・トリガーでも出なければ彼に勝ち目はないが、
「ぐ……S・トリガー! 《終末の時計 ザ・クロック》で残りのターンを飛ば——」
「無理無理、させないよ! 《ドラゴ大王》!」
『我に指図するなといつも言っているだろう、小娘。我が存在する限り、龍以外の存在は認めん! 無法者は立ち去るがいい!』
 その希望すらも、この太陽たちの前では燃え尽きてしまう。
 《ドラゴ大王》の圧政によって、消し炭にされる《クロック》。チャリオットに、これ以上のトリガーはない。
『さあ、お前をぶん殴る時間だ。歯ぁ食いしばりやがれ!』
 黒翼を羽ばたかせ、《コーヴァス》が飛翔する。黒い旋風が吹き荒び、黒羽が舞い散り、太陽が駆け抜ける。
「まさか、この私が……人間の小娘に、敗れるなど……!」
『てめえは人間を舐めすぎなんだよ。人間は、お前らが思う以上に弱くなんかねえ。確かに、人間は俺たちとは殴り合えない。仲間割れをする。死んでもすぐに生き返るわけじゃない。知能だってクリーチャーには劣る。絶対的な統制が敷かれているわけでもない……だがな』
 最後まで人間を見下していたチャリオット。《コーヴァス》もクリーチャーであり、人間とクリーチャーの違いを見てきた。ゆえに、人間の惰弱さは理解しているつもりだ。
 だが、しかし、
『それでもこいつらは、必死に生きてんだ! 悩み、苦しみ、時に衝突して、そして成長する。そしてそれは、人間だけじゃねえ。俺が今こうして、この姿でいるのは、人間の——暁のお陰だ!』
「《コーヴァス》……」
『俺たちは人間と共にあることで、さらなる高みを目指すことができる。身体が頑丈なだけが強さじゃねえんだよ! 共に歩み、助け合い、協力して、一緒に強くなる。それが人間の強さだ!』
 強さというものは、とても曖昧で、一概に定義できるものではない。
 クリーチャーの基準で強さを定義すれば、確かに人間は薄弱だ。斬り、突き、噛み、殴ればすぐに死ぬ。燃やせば簡単に燃えてしまう。些細なことですぐに恐怖し、知識の量は圧倒的に不足している。協調性も不完全だ。
 だが、それでも人間は、クリーチャーにはない強さを持つ。それは目には見えない、計測することもできないような事象であるが、しかし、確実に感じることができる。
 人間を見下し続けていたチャリオットには、理解できようはずもないことではあるが。
「そんなはずが……!」
『嘘だと思うなら、俺の拳を一発喰らってみやがれ。この拳が、俺が暁と共に歩んだ強さの証だ。てめえがそれを耐えられたら、俺の言葉に偽りがあると認めてやる』
 だが、もしも耐えられなければ——
 《コーヴァス》は最後まで言い切らず、チャリオットの下へと到達する。そして、拳を振り上げた。
「っ……!」
 今やただの一体のクリーチャーでしかない彼に、その拳を——振り下ろす。
「《太陽神翼 コーヴァス》で——ダイレクトアタック!」
『うらあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』
 その拳は、真正面からチャリオットを捉えた。

 そして戦車の男は——黒翼の太陽によって、打ち砕かれたのだった。


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