二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線14」 ( No.435 )
- 日時: 2016/08/24 14:24
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「マナチャージして6マナタップ! 《爆竜 バトラッシュ・ナックル》を召喚!」
《バクアドルガン》に続き、次はコスト6の《バトラッシュ・ナックル》。暁は順調にクリーチャーを展開していく。
「《バトラッシュ・ナックル》の能力でバトルができるけど……一騎さんの場にクリーチャーはいないから、使えないね」
普段の暁なら、相手クリーチャーがいない時に、能力が不発する《バトラッシュ・ナックル》は出さないのだが、今は明確な目的がある。《バトラッシュ・ナックル》はただの打点。一騎のシールドを割るための存在だ。
「さぁ、《バクアドルガン》で攻撃だよ! その時に《バクアドルガン》の能力発動! 山札の一番上をめくるね!」
再び山札を捲り、今度は《ミラクル・バーストショット》が捲られた。今度はドラゴンではない。
しかも、これで暁のデッキのS・トリガーのうち一枚は、シールドに埋まっていないことが確定。貴重なトリガーの可能性が一つ消えてしまった。
とはいえ、一騎のデッキはクリーチャーの平均パワーが高めなので、小型を一掃する《ミラクル・バーストショット》がなくとも問題はなさそうだ。より性能の高いトリガーがある可能性が出て来たと、前向きに考えることにする。
「これは山札に下に戻すよ。で、《バクアドルガン》でシールドをブレイク!」
「打点が揃ってきた、ちょっと厳しいかな……これもトリガーはないよ」
「ターン終了です!」
これで一騎のシールドは三枚。暁の場にはWブレイカーの《バトラッシュ・ナックル》もいるので、次のターンにはシールドがすべて砕け散る。スピードアタッカーが来れば、そのままとどめを刺す打点が揃ってしまう。その状況だけは避けなくてはならない。
一騎の場にクリーチャーはいない。殴り返しもできない盤面だが、
「俺のターン。《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》を召喚だ!」
そこで一騎は、前のターンに出さなかった《マッカラン・ボナパルト》を繰り出す。
前のターンには出すつもりがまったくなかった《マッカラン・ボナパルト》だが、前のターンととこのターンには、大きな違いがある。
《バトラッシュ・ナックル》同様、《マッカラン・ボナパルト》は登場時に強制バトルを行うクリーチャーだ。しかし、それだけではない。このクリーチャーには、《バトラッシュ・ナックル》にはない利点がある。その利点を生かすために、一騎は1ターン待ったのだ。
このターン、一騎のマナは7マナ。つまり、
「《マッカラン・ボナパルト》の能力発動! マナ武装7でパワーを+4000! その状態で強制バトルだ! 対象は《バトラッシュ・ナックル》!」
「《バトラッシュ・ナックル》はパワー6000あるけど……」
「マナ武装7で強化された《マッカラン・ボナパルト》のパワーは7000だよ。だからバトルはこっちの勝ちだね」
《マッカラン・ボナパルト》は素の状態でパワー3000しかないため、強制バトルでも《バクアドルガン》を倒せない。しかしマナ武装を達成すれば、パワーは7000。《バトラッシュ・ナックル》でも倒せるようになる。
ひとまず二打点持つ《バトラッシュ・ナックル》は破壊できた。《バクアドルガン》は残ってしまったが、《バクアドルガン》殴ってきたら《マッカラン・ボナパルト》が殴り返すので、軽々しく殴れないだろう。
「ついでに《爆熱血 ロイヤル・アイラ》も召喚しておくよ。マナ武装3で手札の《ウインドアックス》を捨てて二枚ドロー。これで俺のターンは終了だよ」
「うー、《バトラッシュ・ナックル》がやられちゃったのは、ちょっときついかも。それに《マッカラン・ボナパルト》も厄介だし……とりあえずドロー」
困ったような表情を見せる暁。打点を削られただけでなく、殴り返し要員の《マッカラ・ボナパルト》が辛いようだ。マナ武装を達成している《マッカラン・ボナパルト》は、地味に厄介だ。それなりに高いパワーを持ち、おまけのガードマンも備えているため、殴り返しと、相手からの殴り返し防止、さらにWブレイカーという打点にもなるという、多くの役割を持てるクリーチャー。シナジーは淡白で地味だが、無視できる存在ではない。
しかし、
「! ……ふっふっふ」
「?」
暁はカードを引くや否や、不敵な笑みを浮かべる。
明らかにこの状況を覆すようなカードを引いた様子だが、なにが出てくるのか。
「ごめんね一騎さん! 私の勝ちだよ!」
そう高らかに宣言すると、マナを溜める。
そして、7マナすべてを支払い、現れた——
「《怒英雄 ガイムソウ》を召喚!」
——火文明の擁する、英雄の一体が。
「《ガイムソウ》のマナ武装7! 手札から火のクリーチャーをタダ出しするよ!」
「ここで《ガイムソウ》か……嫌なパターンが見事に来たけど、なにが出るのか……」
暁のデッキで怖いクリーチャーと言えば、強制バトルとロックをかける《龍世界 ドラゴ大王》や、二回攻撃、火力を放つ《勝利天帝 Gメビウス》などだ。
(あとは《グレンモルト「爆」》も怖いよね……《バトライ閣》を建てられるとドラゴンを連打されるし、既に《ガイムソウ》が出てるから、一体でも踏み倒されたら《バトライ武神》に龍解しちゃう……)
しかしここで勝ちを宣言するということは、恐らく運任せな展開などではなく、三打点以上のクリーチャーだ。スピードアタッカーの有無は《ガイムソウ》の前では関係ないので、とにかく打点があればいい。しかし暁のデッキで、Tブレイカー以上を持つクリーチャーは、それほど多くないはず。精々、さきほど挙げた二体くらいだ。
そう思いながら現れたのは——
「さぁ、出て来て——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」
——二体目の英雄だった。
現れたのは、光以外の呪文では選ばれない《ラ・ローゼ・ブルエ》に、ドラグナーの《エバーローズ》。
《ラ・ローゼ・ブルエ》は自分のドラゴンの攻撃、ブロックをトリガーにシールドを増やす。浬が削ったシールドも、すぐに回復されかねない。
しかしそれ以上にまずいのが《エバーローズ》。そして、《エバーローズ》が装備した《パーフェクト》だ。破壊以外の除去を受け付けなくなるので、これで浬は《エバーローズ》を殴り返し以外の方法で処理することができなくなった。しかも、もたもたしているとさらに展開され、《パーフェクト》が龍解してしまう。そうなると除去耐性を得た光のドラゴン軍団を止められず、踏み潰されるだけだ。
手遅れになる前に、対処しなければ。
「俺のターン。まずは《Q.E.D.+》の能力で、山札の上から五枚を見て、その中の一枚をトップに固定、残りはボトムへ送還。その後ドロー、そして通常ドローだ」
疑似的なサーチ&ドローで、手札の質、量の両方を充実させていく浬。
恋は《ヘブンズ・ゲート》から強力な光ブロッカーをガンガン踏み倒してくる。こちらの除去はバウンスしかないので、一体一体除去していては埒が明かない。
そうなると、攻めるならば手数で。そして、短期決戦を目指す。
いつもの浬とは、違うスタイルになる。
「《アクア特攻兵 デコイ》を召喚、続けて《龍覇 M・A・S》を召喚だ! バウンスはせず、《真理銃 エビデンス》を装備! 一枚ドロー!」
《デコイ》で味方クリーチャーを守りつつ、さらにドラグハートを呼び出す。この時点では、水のカードの使用枚数は二枚だが、
「俺の場に水のドラグナーがいるため、G・ゼロで《龍素力学の特異点》を唱える! 二枚引き、一枚を山札の下に」
これで三枚。《エビデンス》の龍解条件も満たした。
次は攻撃だ。
「行くぞ! 《Q.E.D.+》でWブレイク!」
「ブロックはできない……受けるしか……でも」
《Q.E.D.+》のアンブロッカブル付与により、恋は浬の攻撃を防御できない。
しかし、恋の防御は、なにもブロッカーだけではないのだ。
「S・トリガー発動……《記憶の精霊龍 ソウルガルド》」
「《ソウルガルド》だと……?」
浬は最初の《エメラルーダ》で《ヘブンズ・ゲート》を仕込んだと考え、一撃目を《エメラルーダ》で入れ替えたシールドに向けたが、そこから飛び出るトリガーは《ソウルガルド》。マナ武装5を達成しているため、S・トリガーで現れる。
「《デコイ》しか選べない……シールドへ」
「コスト5以下のカードが、そもそもこいつだけだからな」
浬のデッキは、始動が遅めな分、場に展開されるクリーチャーは比較的コストが高めであることが多いため、コスト指定の除去を受けにくくなっている。
もっとも、《ソウルガルド》はフォートレス状態の《エビデゴラス》を場から離すことのできる光の貴重な除去カードなので、危ないところではあったが。
しかし、それも乗り切った。
「このままシールドは貰っていくぞ! 《デカルトQ》も攻撃だ! Wブレイク!」
この攻撃も、《Q.E.D.+》の能力でブロック不可能。甘んじて受け、恋のシールドはすべて砕かれるが、
「ん……S・トリガー」
「またか……! 今度はなんだ?」
《ヘブンズ・ゲート》だとまずいかもしれないと思いつつ、放たれたのは——
「呪文……《ドラゴンズ・サイン》」
——龍を呼び出す刻印だった。
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線15」 ( No.436 )
- 日時: 2016/08/24 20:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
《怒英雄 ガイムソウ》の能力で《撃英雄 ガイゲンスイ》が現れた。二体の英雄が並ぶ様は見事だが、それどころではない。
このタイミングで《ガイゲンスイ》の登場は、非常にまずい。
「《ガイゲンスイ》もマナ武装7を発動! 私のクリーチャー全部のパワーは+7000! シールドブレイクの数も一枚増えるよ! そして、《ガイゲンスイ》はスピードアタッカー!」
「即座に三打点生成で、ダイレクトアタックの圏内か……トリガーに賭けるしかないね」
《ドラゴ大王》や《Gメビウス》よりもマシではあるが、それでもキルルートに入っている。トリガーが来ることを祈らなければいけないという状況は、辛いものがあった。
「さぁ、決めるよ! 《ガイゲンスイ》でTブレイク!」
まずはじめに、《ガイゲンスイ》がシールドを三枚叩き割る。
一枚、二枚とシールドが割られていき、三枚目を捲る一騎。
「S・トリガー! 《天守閣 龍王武陣》!」
なんとかS・トリガーを引くことはできた。
一騎のデッキは、マナ加速からドラグナーを投げて、ドラグハートやマナ武装のカードパワーを叩きつけるデッキなので、基本的に防御はトリガーしか考えていない。それでも重要なカードは案外少なく設定されたデッキなので、あまり気味な枠の多くをトリガーに費やし、防御力を向上させている。《テイン》や《レーヴァテイン》を入れている時なら、それに合わせたデッキの調整が必要で、いつも以上にトリガーが減るのだが、今はそれらのカードはない。なので、その枠をトリガーやメタカードに費やすことができていることも大きい。
ともあれトリガーを引くことができた一騎だが、出て来たトリガーは、あまり都合の良いものではない。
「不確定火力の《龍王武陣》かぁ……不安だな」
《天守閣 龍王武陣》は、マナ武装を達成すれば、火力に加え、火文明では貴重な手札補充もできるため、除去とサーチを同時にこなす器用なトリガー呪文になる。その挙動はさしずめ、赤単の《ドンドン吸い込むナウ》と言ったところか。
しかし、火文明である特色が、ここでは足を引っ張る。
「とりあえず、山札を五枚捲るよ。その中の火のクリーチャー以下のパワーの相手クリーチャーを破壊するけど……」
火力が不安定だ。
元々火文明は、闇文明と比べると除去が弱い。破壊という点では共通するが、闇が条件なしの確定除去を放つのに対し、火文明はパワーやコストの制限があり、破壊できる範囲が決まっている。強制バトルも、そのクリーチャーのパワー以下のクリーチャーしか破壊できないので、火力の一種と言えるだろう。
ただでさえ破壊できるラインが決まっているというのに、《龍王武陣》はその範囲が不安定だ。とりあえず巨大なクリーチャーを入れれば、確定除去に近い火力をぶち込むことは可能だが、そんな大型ばかりをデッキに入れないだろう。そもそも、デュエマはパワーよりも能力重視だ。この呪文のために、能力を捨てた《グラディアン・レッド・ドラゴン》や、打点まで放棄した《激竜王》を入れることなんてあり得ない。
要するに、捲れるカードで生死が決まってしまうので、不安なのだ。
《バクアドルガン》のパワーは4000。《ロイヤル・アイラ》や《マッカラン・ボナパルト》では倒せないが、《スコッチ・フィディック》や《グレンモルト》の除去圏内に入っている。そう考えると、わりと簡単に当たりそうではあるが、残念ながらそうはいかない。
「《ガイゲンスイ》のマナ武装7で、私のクリーチャーはすべて、パワーが7000プラスされてますからね! だから《バクアドルガン》のパワーも11000に跳ね上がってる! そう簡単には破壊できませんよっ!」
そうなのだ。
ここで暁が、《ドラゴ大王》などではなく、《ガイゲンスイ》を出してきたことが効いてくる。
《ガイゲンスイ》のマナ武装7は、1ターン限りの強化だが、それは味方全体に効果が及ぶ。そのため、ドラゴンにしては貧弱な《バクアドルガン》も、今ではパワー11000のWブレイカーに早変わり。このパワーを超えるクリーチャーは、一騎のメインデッキでは一体しかいない。それを引かなくては、《バクアドルガン》は止められない。
「信じるしかないよなぁ……とりあえず、引くよ」
恐る恐る、一騎はカードを捲っていく。
龍の刻印によって、光龍の扉が開かれる。
《ヘブンズ・ゲート》ではなかったが、数が二体ではなく一体というだけで、ブロッカーを展開される事実は変わらなかった。
「正直、天門の方がよかった……抜こうかな、これ……」
「活躍できる時に、カードに対してそんなこと言うのはやめろよ……」
「……とりあえず、効果……コスト7以下の光のドラゴン……《支配の精霊龍 ヴァルハラナイツ》をバトルゾーンへ……」
現れたのは、恋の相棒的精霊龍、《ヴァルハラナイツ》。
非難されたトリガーから出て来るクリーチャーとしては、十分すぎる。
「くっ、面倒な奴が……!」
「《デコイ》はいない、《ソウルガルド》は仕事した……《ヴァルハラナイツ》の能力で、《Q.E.D.+》をフリーズ……」
《ヴァルハラナイツ》のフリーズ能力が、《Q.E.D.+》を封じ込める。《デコイ》がいればそちらに誘導できたのだが、直前の《ソウルガルド》にキッチリと始末されてしまっている。
これで浬の攻撃は終了。《Q.E.D.+》は長い眠りにつかされ、相手には大型クリーチャーも並んだ。《デカルトQ》の攻撃は余計だったと反省しなければならないが、
「ターン終了時、俺はこのターンに水のカードを三枚使用したので、《エビデンス》の龍解条件成立! 龍解! 《龍素王 Q.E.D.》!」
このターンの終わりに《エビデンス》が龍解し、《Q.E.D.》が現れる。盤面では、まだ負けていない。
とはいえ、大型が数体程度では、恋は止められない。なによりもここは、《ヴァルハラナイツ》の登場を許してしまったことが、痛手となっている。
「止める……《聖龍の翼 コッコルア》と、《制御の翼 オリオティス》二体を召喚……《ヴァルハラナイツ》の能力で、《デカルトQ》と《Q.E.D.》、ついでに《メタルアベンジャー》をフリーズ……」
「ちぃ、やはり《ヴァルハラナイツ》は厄介だな……!」
小型を並べ、恋は浬の大型ドラゴンの動きを封じていく。
これでメインアタッカーの動きはほぼ封じられた。しかし、完全に止められたわけではない。
《Q.E.D.+》は一度場から離せば、龍回避でフォートレスに戻り、再龍解することでフリーズを解くことができる。
《Q.E.D.》も、身動きは取れずとも、ノーコストで水のカードを使う能力は行使できる。
これらの能力を駆使した逆転が、恋にとっては懸念材料だった。
しばし考え込む恋。
やがて、彼女は決断する——
「……決める」
——ここで、攻撃に転じることを。
「《ヴァルハラナイツ》でWブレイク……」
「っ、来るか……!」
浬が攻めている場面であったが、恋も《ヘブンズ・ゲート》やトリガーでクリーチャーをかなり展開しており、アタッカーが多く並んでいる。
《エメラルーダ》《エバーローズ》《ラ・ローゼ・ブルエ》《ソウルガルド》《バルハラナイツ》と、五体のアタッカーのうち、Wブレイカーが三体、除去耐性持ちが一体と、勝負をつけられるだけの戦力は揃っている。
浬のシールドは《ソウルガルド》で増やされて六枚だが、問題ない。打点は十分に足りている。
「次……《ソウルガルド》でWブレイク……」
「トリガーはなし、だな」
加えて恋は、この攻撃で同時に防御も行っていた。
《ラ・ローゼ・ブルエ》の能力で、恋のドラゴンが攻撃するたびにシールドが増える。よって、攻撃しながらも守りを固めることで、仮に《クロック》などで防がれても、次のターンを耐えられるようになるのだ。
「これでシールドはなくなる……《ラ・ローゼ・ブルエ》でWブレイク……」
ここまでで、浬のトリガーはゼロ。《ラ・ローゼ・ブルエ》のブレイクで、シールドがすべて砕かれる。
しかし、最後に破ったシールドは、浬が《デカルトQ》で入れ替えたシールドだ。
つまり——
「S・トリガー! 《幾何学艦隊ピタゴラス》!」
——S・トリガーが仕込まれている。
《デカルトQ》は五枚のドローの後にシールド交換ができるため、かなり高い確率で、引き入れたトリガーをシールドに埋めることができる。自身もブロッカーなので、何気に防御力の高いクリーチャーなのだ。
本当なら《スパイラル・ハリケーン》が欲しかったところだが、この場合は仕方ない。とりあえず、マナ武装で強化された《ピタゴラス》を放つ。
「《エバーローズ》は《パーフェクト》のせいで除去できないな……《エメラルーダ》と《コッコルア》をバウンスだ」
しかしこの場合、どんなトリガーを引いてもあまり意味はない。
というのも、《エバーローズ》の存在があるからだ。《パーフェクト》を装備した《エバーローズ》は、破壊以外の除去を受け付けない。バウンスも効かないので、《ピタゴラス》だろうと《スパイラル・ハリケーン》だろうと、止まらないのだ。
「……なら、これで終わり」
恋が《エバーローズ》に手をかける。
「《龍覇 エバーローズ》で、ダイレクトアタック……」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線16」 ( No.437 )
- 日時: 2016/08/24 23:11
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
山札を一枚ずつ捲っていく一騎。そして、捲れたのは、
一枚目《焦土と開拓の天変》
二枚目《イフリート・ハンド》
三枚目《爆砕面 ジョニーウォーカー》
四枚目《英雄奥義 バーニング・銀河》
五枚目《暴龍事変 ガイグレン》
「あ……よかった、来た……! 《ガイグレン》を選択! 《ガイグレン》のパワーは11000だから、それ以下のパワーを持つ《バクアドルガン》を破壊だ!」
「う……と、止められちゃった……」
「さらにマナ武装5で《ガイグレン》は手札に加えるよ」
暁としても、火力で焼かれるとは思っていなかったのだろう。悔しそうに口をつぐんでいる。
「でも、一騎さんのマナは次のターンでも8マナだから、《ガイグレン》は出せないよね。ターン終了時に、《ガイムソウ》の能力で出た《ガイゲンスイ》は手札に戻るよ」
ここでまた問題が発生する。
ターン終了時《ガイムソウ》の能力で踏み倒された《ガイゲンスイ》は手札に戻るのだ。
一騎のシールドはゼロなので、これで次のターン、暁はスピードアタッカーの《ガイゲンスイ》でとどめを刺せるようになってしまった。
「覚悟してください、一騎さん! 一騎さんを倒して、私は女風呂を覗きに行く!」
「くっ……君に、そんなことをさせるわけにはいかない……! 俺のターン!」
勝利を宣言する暁に対し、気丈な一騎だが、状況は厳しい。
《ガイムソウ》を処理しても《ガイゲンスイ》が手札にある。一騎の手札にブロッカーはいない、ハンデスも積んでいない。ランデスしても《ガイゲンスイ》の召喚は止められない。
つまり、一騎は次のターンの《ガイゲンスイ》を止める手立てがない。
(……それなら、俺が取れる行動は一つだけか)
このターンに殴り切る。一騎の勝ち筋は、これ一つだろう。
場には《マッカラン・ボナパルト》と《ロイヤル・アイラ》。三打点あるため、あと三打点でギリギリ暁のシールドを割り切り、とどめを刺せる打点が揃う。
トリガーはこの際考慮しない。そうなると問題は、どうやってその打点を揃えるかだ。
(手札に《グレンモルト「覇」》がいれば、《ガイハート》を装備して《ガイギンガ》への龍解を狙えたんだけど……)
残念ながら今は手札にない。
そこで一騎は再び逆算する。自分のこのデッキで、即座に三打点を確保することのできるカードはないか。
しばし思案して、結論を出した。
「……あれしかないよね」
幸いにも盤面は揃ってる。なので、あとは引けるかどうかだ。
一縷の望みを託して、2マナをタップした。
「呪文《勇愛の天秤》! 手札を一枚捨てて、二枚ドロー!」
ここで、温存しておいた《勇愛の天秤》が役に立つ。手札にないキーカードを引くためのドローソースが今は必要なのだが、もう一枚の《ロイヤル・アイラ》では繋がらない。
どちらも手札交換カードだが、《ロイヤル・アイラ》は3マナ、《勇愛の天秤》は2マナ。一騎はこのターン2マナ使い、6マナ残った。
一騎のデッキにおいて、6マナで出せるクリーチャーと言えば——
「あ……まさか!」
「そのまさかだよ! これを待ってた!」
引いた二枚から目的のカードを抜き、6マナタップ。そして、
「《龍覇 グレンモルト》を召喚!」
ドラグナーが現れた。
「《グレンモルト》に《銀河大剣 ガイハート》を装備だ!」
「う……ヤバいかも……」
前のターンは一騎がトリガーを祈ったが、今度は暁がトリガーに頼る番だ。
この時点で《ガイハート》を装備した《グレンモルト》、龍解前提の《ガイギンガ》、《マッカラン・ボナパルト》に《ロイヤル・アイラ》。合わせれば六打点。龍解できれば、一騎は押し切ることができる。
龍解できれば、だが。
「行くよ! 《グレンモルト》でシールドをブレイク!」
「一枚目は、トリガーないです……」
「次だ! 《マッカラン・ボナパルト》でWブレイク!」
「うー……トリガー出ない……!」
ここまでは順調だ。一騎のクリーチャーの二度目の攻撃が通り、《ガイハート》を装備した《グレンモルト》は生きている。
龍解条件成立だ。
「《銀河大剣 ガイハート》、龍解!」
ここが、最大の山場となる。
「——《熱血星龍 ガイギンガ》!」
「ニンジャ・ストライク7! 《斬隠オロチ》を召喚!」
《エバーローズ》のダイレクトアタックが宣言された瞬間。このタイミングで、浬は手札のカードを場に繰り出した。
「《オロチ》……でも、それじゃ《エバーローズ》は処理できない……」
《オロチ》は攻撃中のクリーチャーを山札に戻し、攻撃をキャンセルすることで相手の攻撃を止められる。しかし破壊以外では除去できない《エバーローズ》に、その方法は効かない。
そのため浬は、もう一つの防御手段を取るしかない。
「ここからは、かなりの賭けだな……来てくれよ」
今まで堀り進んだ山札の枚数。このデッキの非進化クリーチャーと呪文の割合。諸々を計算しても、捲れる確率は低い。しかし、低確率でも、当たらないわけではない。シールドはゼロなので、盾落ちの可能性はゼロ。ならば、ここで引ける可能性は存在している。
可能性があれば、出て来るのだ。
「俺の《メタルアベンジャー》を山札に送還。そして、山札を捲るぞ……」
浬は一枚一枚、慎重に山札を捲っていく。
そして、
「《アクア呪文師 スペルビー》をバトルゾーンに! 《エバーローズ》の攻撃をブロックだ!」
間一髪、《エバーローズ》の攻撃を《スペルビー》で防ぎ、九死に一生を得る浬。
《オロチ》を使ったもう一つの防御方法。それはブロッカーを出すこと。自分の他のクリーチャーを山札のブロッカーに変換することで、攻撃を止める方法だ。
しかし、この方法はあまりに運任せで、都合よくブロッカーが出るとは限らないので、相手に使うことが多いのだが。また、ブロッカーでなくとも、登場時の能力で除去を放ったり、《クロック》のようにターンをスキップするようなクリーチャーを出しても、攻撃は止められる。やはり運任せだが。
このターンで攻めきるつもりだった恋だが、攻撃を止められてしまった。しかし、それでも彼女の有利は変わらない。
「……まあ、いい。ターン終了時、私のバトルゾーンにクリーチャーが五体以上……《パーフェクト》の龍解条件成立」
ターン終了時、場に展開されたクリーチャーの数を数えるまでもなく、《パーフェクト》が龍解する。
「龍解……《天命王 エバーラスト》」
《エバーラスト》が現れた。大型ブロッカーが増えただけなく、攻撃できないブロッカーはアタッカーになり、恋のドラゴンは破壊以外の方法で除去できない。しかも、《ヴァルハラナイツ》が軒並みクリーチャーを寝かせ、《ラ・ローゼ・ブルエ》がシールドを三枚まで回復させている。
こうなってしまっては、浬の反撃はかなり困難だ。
「俺のターン……まずは《Q.E.D.+》の能力で、山札を五枚見るぞ」
浬はひとまず《Q.E.D.+》の能力で山札を操作する。五枚のカードをジッと見つめる浬。やがて、その中から一枚を抜き取ってトップへ、残りをボトムへと戻した。
「追加ドロー、そして通常ドローだ」
カードを二枚引くと、浬は静かに目を閉じた。
「山札の中身はああなってるはず、それなら外れは起きない。問題はそこからだが、残りの山札と手札状況からして、確率的には……」
そして、ぶつぶつと呟きながら考え込む。
浬の山札は度重なるドローで大きく減り、そこに《Q.E.D.+》の疑似サーチで山札が掘り進められ、すべてのカードが浬の目に触れている。つまり、今の浬は、どのカードがどのゾーンにあるかを、把握できる状態にあるのだ。
自分のデッキ内容は勿論、今まで捲ってきたカードの種類、順番などを記憶していなければ無理な話だが、最初から山札が一周する前提で思考を巡らせておけば、不可能ではない。
記憶を引き出すのに少々時間がかかったようだが、思考が終わったようで、浬は目を開いて顔を上げる。そして、宣言した。
「よし、このターンに決める」
「……できるものなら」
「やってやるさ。《Q.E.D.》の能力発動。各ターン一体目の水のクリーチャーをノーコストで召喚できる。《龍素記号IQ サイクロペディア》を召喚!」
浬はQ.E.D.》の能力で《サイクロペディア》を踏み倒す。
「《サイクロペディア》の能力で二枚だけドロー。そして、続けてノーコストで水の呪文、《ヒラメキ・プログラム》を起動!」
踏み倒された《サイクロペディア》のドローは任意、ドロー枚数も選択可能だが、引くのは二枚だけ。
その直後、今度は呪文が《Q.E.D.》の力で唱えられる。唱えられるのは、《ヒラメキ・プログラム》。
「《ヒラメキ・プログラム》はサイキックをコストにできないが、ドラグハートは問題なく破壊できる。破壊するのは《Q.E.D.+》! 《Q.E.D.+》は龍回避でフォートレスに戻るが、《ヒラメキ・プログラム》の効果は続行。山札を捲り……来い!」
《Q.E.D.+》はコスト7のクリーチャー。それをコストにヒラメくのは、コスト8のクリーチャー。
浬のデッキで、コスト8のクリーチャー。それは——
「——《甲型龍帝式 キリコ3》!」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線17」 ( No.438 )
- 日時: 2016/08/25 00:49
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「うぅ、出ちゃったよ、《ガイギンガ》……!」
二度目の攻撃が成功し、《ガイハート》は《ガイギンガ》へと龍解する。いよいよ、暁は追い込まれてしまった。
「あんまり意味はないけど、一応使うよ。《ガイギンガ》が龍解した時の能力で、《ガイムソウ》を破壊だ!」
どうせ手札に《ガイゲンスイ》を握られているが、とりあえず《ガイムソウ》を破壊する。
一騎は《ガイギンガ》へと龍解を果たせたわけだが、しかしまだ気は抜けない。残るアタッカーは《ガイギンガ》と《ロイヤル・アイラ》。暁のシールドは二枚。つまり、とどめは《ロイヤル・アイラ》が刺すことになる。《ガイギンガ》の攻撃でトリガーが出て、《ロイヤル・アイラ》が破壊されれば、それで一騎の負けなのだ。
「これが最後の攻撃か……《ガイギンガ》で攻撃だ! Wブレイク!」
「トリガー……ない」
一枚目のシールドからは、トリガーは出ない。
「もう一枚……!」
そして、二枚目のシールドからは、
「やった、S・トリガー!」
「《天守閣 龍王武陣》! 山札の上から五枚を見るよ! その中にある火のクリーチャー以下のパワーを持つ相手クリーチャーを破壊する!」
「くっ、引かれてしまったか……!」
飛び出たS・トリガーは《天守閣 龍王武陣》。奇しくも、一騎が助けられたトリガーは、一騎を苦しめることになった。
《天守閣 龍王武陣》は不安定、不確定な火力除去だが、暁のデッキは強力なドラゴンが多い。パワー2000の《ロイヤル・アイラ》程度なら、簡単に焼かれてしまう。
もはや、ほとんど一騎の負けだった。
「山札を五枚、めくっていくよ!」
そして、暁は山札を捲る。
一枚目《ミラクル・バーストショット》
二枚目《英雄奥義 バーニング・銀河》
三枚目《勝負だ!チャージャー》
四枚目《イフリート・ハンド》
五枚目《コッコ・ルピア》
「……あれ?」
おかしい、と言いたげに首を傾げる暁。
捲った五枚のカードを、穴が開くのではないかというくらい、ジッと見つめる。しかし、いくら見てもカードの内容は変わらない。
暁が捲ったカードの中身はほとんど呪文。唯一のクリーチャーは、パワー1000の《コッコ・ルピア》。これでは、パワー2000の《ロイヤル・アイラ》を倒せない。
「マナ武装5で《コッコ・ルピア》を手札に……」
「……なんかよくわからないけど、火力は届かなかったみたいだね」
「うー! こんなことってある!? 五枚もめくったのに、ほとんど呪文だなんて!」
喚く暁。しかし、実際にそんな不幸が訪れてしまったのだから仕方ない。
「じゃあ、これで終わりだ!」
暁の不運によって、幸運にも攻撃手が減らなかった一騎。暁のシールドはもう存在しない。
この一撃で、勝利だ。
「《爆熱血 ロイヤル・アイラ》で、ダイレクトアタック!」
《Q.E.D.+》を種に起動した《ヒラメキ・プログラム》から現れたのは、《甲型龍帝式 キリコ3》。
浬の持つ、最大の砲塔だ。その力は、今まで幾人もの相手に、幾度と見せつけてきた。
「……やっぱり……芸がない……」
「なら、その芸のなさに負けるお前はなんなんだろうな」
《サイクロペディア》を進化元に、《キリコ3》をバトルゾーンに出る。能力で十枚以上に膨れ上がった浬の手札をすべて山札に戻してシャッフルする。デッキ枚数も残り少なかったので、山札回復のような感覚もあった。
呪文が三枚見えるまで、山札が捲られていく。唱えられる可能性のある呪文はすべて把握している。その中から、必要な呪文が出て来る可能性は、決して低くない。
まず間違いなく、捲られるはずだ。
「呪文……一枚目《英雄奥義 スパイラル・ハリケーン》だ」
「私の光のドラゴンは《エバーラスト》に守られる……効かない」
「知っている。捲れたから使うだけだ。次、二枚目……ちっ、こっちか。《スペルブック・チャージャー》」
浬は捲られた二枚目を見て、小さく舌打ちする。役割としては目的のカードと似た効果だが、この呪文ではない。
必要なカードは来ていない。捲れる呪文は残り一枚。果たして、捲れるか。
「最後、三枚目……《超次元エナジー・ホール》」
これで三枚捲られた。
これらの呪文全ての効果を解決する。
「まずは《スパイラル・ハリケーン》の効果で《エバーローズ》をバウンス、マナ武装7達成で、他のクリーチャーもすべてバウンスだ」
しかし光のドラゴンは動かない。横の小型ブロッカーを吹き飛ばす。
「次に《スペルブック・チャージャー》。山札を五枚見て、《スパイラル・ハリケーン》を手札に。チャージャーはマナへ」
とりあえず適当な呪文を手札に加えたが、関係ない。
次で最後だ。
「最後に《エナジー・ホール》。カードを一枚ドローし、《勝利のリュウセイ・カイザー》をバトルゾーンに」
カードを引きつつサイキック・クリーチャーを展開。《勝利のリュウセイ・カイザー》も、実は水のドラゴン。《Q.E.D.+》でアンブロッカブルになる。
そう——《Q.E.D.+》だ。
「このドローが、このターンの俺の五枚目のドローだ! 《エビデゴラス》の龍解条件成立!」
「……っ」
浬が求めていたのは、除去でもサーチでもない、ドロースペルだ。
一度龍回避した《Q.E.D.+》を、再龍解させるためのカードが必要だった。
「……もしかして、《サイクロペディア》で二枚だけ引いたのって……」
「すべてはこのためだな」
《エビデゴラス》の龍解条件は、ターン中にカードを五枚引くこと。正確には、カードをドローしたとき、そのドローが“そのターンに引く五枚目のカード”だった時に、龍解する。つまり、五枚以上引いても、六枚目では龍解しないのだ。このあたりは、三度目の攻撃では龍解できない《ガイハート》の龍解条件と通じるところがある。
《サイクロペディア》を出した時、浬の《Q.E.D.+》はまだ龍回避していなかったので、あそこで三枚ドローしてしまうと、ターン最初のドロー、追加ドローを含め、五枚のドローとなってしまい、このターンに龍解はできなかった。だから、浬はドロー枚数を減らして、《キリコ3》でドロースペルを捲ることに賭けたのだ。
「少し冷や冷やしたが、ほぼ問題は解決できたな。《エビデゴラス》を龍解! 《最終龍理 Q.E.D.+》!」
これで浬の場には、Tブレイカーの《キリコ3》と、フリーズから解き放たれた《Q.E.D.+》が並ぶ。
打点は揃った。ブロッカーは関係ない。
「ついでに、保健をかけておくか。《アクア特攻兵 デコイ》を召喚」
先ほどの《エナジー・ホール》でたまたま引けたのだろう《デコイ》を場に出し、浬は決着をつけるために、攻める。
「行くぞ! 《キリコ3》でTブレイク! 《Q.E.D.+》の能力で、俺の水のドラゴンはアンブロッカブル! ブロックはさせないからな」
「トリガーは……《聖歌の聖堂ゾディアック》……」
いきなり一枚目からトリガーを踏んでしまうが、捲られたのは《ゾディアック》。
「スパーク呪文が怖いところだったが、《ゾディアック》なら問題ない」
対象を取らないことが多いスパーク系の呪文と異なり、《ゾディアック》は三体のクリーチャーを指定しなくてはならない。つまり、選ぶのだ。
対象を選ぶ効果であれば、マナ武装が働いた《デコイ》がすべて引き寄せてくれる。特に問題なく、次のシールドを叩き割った。
「二枚目……ない。三枚目……S・トリガー」
「またかよ……!」
トリガーで返すことの多い恋だが、それにしてもよくトリガーしている。
ここでスパーク呪文が捲られたら相当まずいが、しかし、トリガーしたのは別の呪文だった。
「……《ヘブンズ・ゲート》」
「っ、来るか……!」
なんとなく覚悟はしていたが、本当に来るとは思わなかった。
手札の光ブロッカーをなんでも踏み倒せる天国の門。ここで出てくるカード次第では、浬の攻勢も止められてしまうが、
「……《オリオティス》と《エバーローズ》をバトルゾーンに……《エバーローズ》に《ジャベレオン》を装備……《オリオティス》が出たから、《ヴァルハラナイツ》の能力で……」
出てきたのは、《オリオティス》と《エバーローズ》。
《エバーローズ》は特に意味のなさそうなウエポンを装備し、《オリオティス》は《ヴァルハラナイツ》の能力をトリガーさせるが、
「……《デコイ》をフリーズ」
対象を取る能力は、すべて《デコイ》へと誘導される。《デコイ》を除去しなければ、その誘導は消えない。
フリーズで動きを止める恋では、そのフリーズすらも《デコイ》に無力化されてしまい、肝心のアタッカーを止めることができないでいた。
「……安心した。《シール・ド・レイユ》でも出されてたら、終わってたな」
「むぅ……」
これで恋のシールドはゼロ。ブロッカーは考えなくてもいい。
決着だ。
「《Q.E.D.+》で、ダイレクトアタック!」
- 番外編 合同合宿2日目 「月夜に二人は冥府を語る1」 ( No.439 )
- 日時: 2016/08/26 09:39
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「——で、これはどういうことなの?」
女子たちが風呂から上がったところで、居間に全員が集められた。
集められたと言っても、放っておけば勝手に集まるのだが、今回は形式的に明確な召集がかけられたのだ。
その理由は、部屋の真ん中で正座をしている、暁と恋の二人だろう。
二人とも気まずそうに口をつぐんでおり、目線も合わせない。なので沙弓は、二人の首根っこを掴んで引きずってきた一騎と浬に目を向けるが、
「知らん。本人から聞け」
「えっと、俺もなんだかよくわからない……」
こんな調子である。
「後のことは知らん。そっちで煮るなり焼くなり好きにしてくれ」
「そういうことだから……俺たちはこれで」
「あ、ちょっと……!」
そう言って二人は、空護と八も連れて男子部屋に引っ込んでしまった。追って問い詰めることも考えたが、一騎まで黙っているということは、よほど話したくないことなのか。
「煮るなり焼くなりって、物騒な物言いだけど……カイと剣埼さんが急にあなたたち二人を連れて来て、私たち集めて、どういうことなのかまるでわけが分からないわ」
肝心の証人が二人消えた。
となれば残るは二人だ。
「だからとりあえず……どういうことなの、あなたたち?」
沙弓は正座している暁と恋に視線を向けた。
「ぶ、部長……あのね、これには深いわけがあってね……」
「さゆみ……私は、さゆみの人格を認めてる……さゆみは優しい、話せばわかる……」
「いや、そういうのどうでもいいから、とりあえずなにがあったのか、分かるように説明してちょうだい——」
男部屋にて。
腰を下ろした一騎と浬に、空護が尋ねた。
「それで部長、霧島君。あの二人となにがあったんですかー?」
「なんなんだろう……女の子が女風呂に行くことを食い止めた、のかな?」
「は?」
「もっと詳しくお願いするっす」
「馬鹿馬鹿しすぎて、とても俺の口から言う気にはなれん」
覗きの犯行を食い止めたと言えば聞こえはいいのかもしれないが、女が女風呂を覗きに行こうとしたのでを阻止した、だなんて自分で言って意味が分からない。あまりにふざけた行動を、自分たちが咎めようとは思わなかったし、わざわざ口にする気にもなれなかった。
その後、暁と恋の処遇がどうなったのか、男子たちはわからないまま、就寝時間を迎えた。
しかし、丑三つ時も過ぎ、皆が寝静まった頃。
一騎はふと目を覚ました。
「……眠れないな」
むくりと起き上がる。仄かな月明かりが照らす室内を見回すと、当然ながら静かだ。朝から海に行った浬、夕方まで部活の業務をこなしていた空護と八。全員、疲れているのだろう。よく寝ている。
一騎も境遇としては同じなのだが、しかし、目が冴えて眠れなかった。理由は恐らく、
(合宿が楽しみで、興奮して寝てられないな……)
自分もまだまだ子供だと、内心笑ってしまう。
(……ちょっと、気晴らしでもしようかな)
自分の荷物を軽く漁ってから、一騎は男部屋を出た。
家でもたまに眠れない時はある。そういう時は、よくこの気晴らしをして、気持ちを落ち着けたものだ。思考はゆるやかに脳に休息を求めさせ、興奮を鎮静させる。最近は夜中まで起きている恋に注意することが多くなり、むしろ興奮することの方が多いが。
居間を使おうかと思ったが、居間だとそれぞれの寝部屋のすぐ近くだ。物音を立てたり、電気をつけると、皆の睡眠を邪魔してしまうかもしれない。
なので、別の部屋を使うことにする。台所と隣接した、本来なら食事や宴会で使うのだと思われる部屋がある。そこなら邪魔にならないだろう。
そう思って、その部屋に移動しようとするが、
「ん……なんだろう、電気がついてる……?」
部屋の前まで来ると、襖の隙間から光が漏れていることに気付く。誰か起きているのだろうか。
男部屋には全員揃っていた。となると女子の誰かだろうか、などと考えながら、襖を開いた。すると、
「あら?」
中にいたのは、沙弓だった。脚の低い木製の長机の上に、何枚ものルーズリーフを広げて、ペンを走らせている。
「卯月さん? どうしたの、こんな夜中に」
「それはこっちの台詞だけれども、先に答えるなら、私は明日の予定のチェックとか、準備をしているだけですよ」
「明日の準備?」
見れば、部屋の隅には大きなバッグがあり、口が空いている。そこから板のようなものが飛び出しているが、なにかはよくわからなかった。
机の上のルーズリーフは、計画表だろうか。びっしりと書き込まれており、かなりの量がある。
「これを全部、今夜のうちにやってたの?」
「まさか。ほとんど事前に作ってましたって。ただ、あんまり細かい計画は立ててなかったから、今日一日、カイに無計画すぎるって口うるさく言われてね。あいつに言われっぱなしなのも癪だし、だから少し練り直してたのよ。あ、でも大きな変更はないし、重要なことはちゃんと知らせますから」
「卯月さんって、思ったよりも真面目なんだね」
「……どういう意味?」
「あ、いや、変な意味じゃないよ。ただ、もっと自由な人……暁さんに近い気質の人かと思ってたから」
自由奔放、傍若無人。少し極端な表現だと思うが、一騎は沙弓の性格については、そんな風に感じていた。
自分の好きなことを、好きなようにやる。この合宿も、元はと言えば沙弓の発案だし、ほとんどは彼女が計画したものだ。合同合宿という体を取っていたので、一騎も部長として計画に協力していた。その中で彼女については見てきたが、沙弓は自分がやりたいと思ったこと、興味を持ったことには、全力を尽くす人物であるようだ。
だから、何者にも縛られずにいるのかと思ったが、他人に指図されてすぐに実行に移すというのは、少し意外だった。
もっとも、相手が浬だから、というのはあったかもしれないが。
「私はやる時はやりますよ。流石にあの子ほど考えなしじゃありません」
「そっか。そうだよね、東鷲宮の部長だもんね」
「そういう剣埼さんは、こんな夜中にどうしたんですか?」
「俺はもっと単純だよ。眠れなくてね。気晴らしに、最終日のための調整でもしようかなって」
「こんな時間に?」
「こんな時間に」
復唱して答える一騎。いつも似たようなことをしているので、日課ではないが、一騎にとっては普通のことだ。
しかし、一人なら調整する気でいたが、沙弓を見つけたことで、気が変わった。
「って、最初は思ってたけど、邪魔じゃなければ、ちょっと時間いいかな? 大したことじゃないんだけど」
「? 別に大丈夫ですけど。大体のことは終わってるし。なんですか?」
ペンを置いて、ルーズリーフをまとめながら沙弓は首を傾げる。
「ちょっと、卯月さんとも話がしたいな、って思っててさ」
「あぁ、そういうこと……それなら、私と同じね」
「え?」
沙弓も一騎に話しておきたいことがあったのだろうか、と今度は一騎が首を傾げていると、沙弓はまっすぐに一騎を見つめて、口を開いた。
「カイのこと、お礼を言っときたくて」
「お礼? 俺、浬君になにかしたっけ?」
まるで身に覚えがない。今日、浬としたことと言えば、海でのことと、デュエマくらいしかないはずだ。
「たぶん、特別ななにかはしてないと思うけど、あいつ、随分と剣埼さんに懐いてますよ」
「そ、そうかな……」
「そうよ。ほら、東鷲宮の遊戯部って、女所帯でしょ? カイはあれでも異性が苦手っていうか、女嫌いの気があるから、いつも居心地悪そうにしてるの」
「そうなんだ、そうは見えなかったけど……」
「ところがどっこい、そうなんですよ。異性に対しては結構人当たり強いのよ。烏ヶ森の人でも、シェリーや美琴とはほとんど話してないでしょ? 遊戯部でも、暁だけじゃなくて、柚ちゃんともあんまり話したがらないのよね」
「言われてみれば、今日一日だけでも、浬君が女の子と話してるところって、あんまり見たことないな……」
時々、恋と話していることがあったが、大抵は恋の方から突っかかっていた気がする。覗き騒ぎで恋を捕まえた時も、恋の思い込みだと聞いた。
「でも、今回の合宿で、剣埼さん、焔君、夢谷君……烏ヶ森の男の子と交流を持てて、カイ、楽しそうだったわ」
「う、うーん。確かに話は弾んだけど、そんなにかなぁ」
「私は付き合いが長いから、なんとなく分かるんですよ」
沙弓本人がそう言うなら、そうなのかもしれない。浬は否定しそうだが。
「小学校の頃も、たぶん今のクラスでも、カイと仲のいい男友達っていないし、元々あいつは人間関係の構築が下手くそだからね。こんな機会でもないと、同性同士で密な交流もできないから、そういう面でも、今回の合宿は良かったと思ってるわ。話が合う相手もできたみたいだし、だから、改めてお礼を言わせてもらうわ」
「そんな、お礼を言われるほど大したことはしてないよ。俺も楽しかったし」
そこまで言われるようなことをした覚えはない。一騎としては、自分がしたいと思ったことをしただけだ。特別なことはなにもないし、彼の事情を察しての行動でもない。ただただ、自分が彼に興味を抱いただけだ。
だから、礼を言われるようなことではないのだが。
「そう……とにかく、あいつのこと、これからもよろしくお願いします」
「そう言われると、ちょっと照れくさいけど……うん、こっちもよろしく。って、本人はいないけど」
「いいのよ。あいつは案外照れ屋だから、そういうことは口に出さないし」
「確かに。そんな感じする」
本人のいないところで、二人は笑う。
ただただ、楽しそうだからというだけで、特別な意味は見出していなかった。しかし、沙弓にとって、浬にとって、誰かにとって、この合宿が大きな意味を持つのであれば、それは良いことだと思う。
それだけで、今回の合宿を引き受けた甲斐があるというものだ。
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