二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

Another Mythology 4話「遊戯部」 ( No.12 )
日時: 2014/04/20 18:00
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 クリーチャー世界に行くという超常的体験をした暁だったが、彼女は翌日、なんの変哲もなく普通に登校していた。
 いきなり地球とは違う星に飛ばされたというのにだ。
 唐突に十二神話云々と押しつけられたというのにだ。
 突然クリーチャーが襲ってきたりしたというのにだ。
 それでも暁は、平然と学校に通っていた。
 だが、平然としていない者もいる。
「あきらちゃん、あきらちゃん」
「んー? どーしたの、ゆず?」
「どうしたのじゃありませんよぅ。昨日のことですっ」
「昨日?」
「急にいなくなったじゃないですか。わたし、本当に心配で心配で……ゆーひさんに連絡しようかどうかとか、連絡してもなんていえばいいのかとか、すごく迷ったんですよ」
「そっかー、ごめんごめん」
 軽く頭を下げる暁。勿論、柚が求めているのは謝罪などではない。
「いったい昨日、なにがあったんですか? あの男の人はなんなんですか?」
「なにがあったって言うとねー……あれ? でもこれって他の人に言っていいのかな?」
 普通の人間ならクリーチャー世界に行ったなどと言っても信じてもらえないだろう。だが相手は柚だ。しかも暁の言うことなら、鵜呑みにするのも十分に考えられる。
 それ以前に、あの出来事を軽々に人に言うのも憚られる。リュンは軽い調子ではあったが、あのクリーチャー世界を元に戻そうという気概は本物だった。あまり軽々しく扱っていいものではないだろう。
「……まあいっか、ゆずだし。昨日はクリーチャー世界に行ったんだよ。というか、連れて行かれたの」
 軽々しく扱っていいものではない、と思いながらも軽く言ってしまう暁。しかし、
「そんな冗談言ってる場合じゃありませんっ。わたし、これでもちょっと怒ってるんですよ、ぷんぷんです!」
「おおぅ、珍しくゆずがマジでおこだ……」
 あまり本気で怒っているという風には見えず、暁も怒られている自覚があるようには思えないが、これでも当人たちは真面目そのものだ。
「本当のことを話してください。昨日、なにがあったのかを」
「って言われても、本当のことだし……あ」
 暁が思い出したように声を上げる。
「どうしたんですか?」
「忘れてた……早く一組に行かないと!」
「え? ちょ、ちょっと待ってください、まだ話は——あきらちゃんっ!」
 手早く荷物をまとめて教室から飛び出す暁。その後を追う柚。
 たとえ片方が一度日常からかけ離れたとしても、この二人の日常は変わらなかった——今のところは。



 暁が一組にダッシュした理由は、昨日の眼鏡の生徒と対戦するためだった。たとえクリーチャー世界に行ったとしても、彼との対戦希望が消えたわけではない。
 しかし、暁が一組に行った時には、その生徒はおらず、クラスメイトから聞くに部活に行ったそうだ。
 そのため暁と柚は、目的の男子生徒を探すべく、学校中を歩き回っていた。
「部活って……なに部なのさ、あの眼鏡。科学部とか?」
「眼鏡だから科学って、ちょっと安直では……?」
「あ、あの教室、扉が開いてる。誰かいるのかな。ちょっと聞いてみよう」
「お邪魔じゃないですか……って、あ、あきらちゃんっ」
 柚が制止する間もなく、暁はその教室の扉に手をかけていた。
「邪魔したらダメですよぅ……」
「邪魔じゃない邪魔じゃない。ちょっと聞くだけだって」
「関係ない部活だったら知らないですよ、普通は」
 そう言って止めようとするも、暁は言うことを聞かず、ガラガラと教室の扉を開け放った。
「失礼しまーす。眼鏡をかけた一年生を見ません、でし、た……か……?」
「ん?」
「あら?」
 中にいたのは、二人の生徒。一つの台を挟んで立っている。奥にいたのは、中学生のわりに背の高い、利発そうな顔立ちの女子生徒だ。そして手前にいたのは男子生徒。こちらも中学生とは思えないほど背が高く、上履きの色から判断するに同じ一年生。そして眼鏡をかけており、
「あ、いた! こんなところに!」
「お前、昨日の……!」
 それは、暁が探していた男子生徒だった。
 突然の出会いに驚く二人。そこに、疑問符を浮かべながら女子生徒が問う。
「カイ、その子たちは? 友達……じゃあないだろうし、クラスメイト? 入部希望者?」
「違います」
 カイと呼ばれた眼鏡の男子生徒は、はっきりと否定する。
「っていうかそれ、デュエマテーブルじゃん。やっぱりデュエマするんじゃん!」
「しないなんて一言も言っていない」
「じゃあなんで私と対戦してくれなかったのさ!」
「お前には関係ない」
「あ、あきらちゃん……」
「なんか、二人の仲、悪いっぽい感じ?」
 柚と女子生徒をよそに、険悪な空気を流し始める二人。二人の睨み合いがしばらく続いたが、それを打ち破ったのは女子生徒だった。
「はいはい! とりあえずそこまで!」
「っ……はい」
「むぅ……」
 パンパンと手を叩いて、女子生徒は二人を引き剥がす。
「なんかよく分からないけど、とりあえず話をしましょう。私は卯月沙弓、この遊戯部の部長よ。あなたは?」
「……空城暁です。あの、遊戯部ってなんですか? 私にはデュエマしてるようにしか見えないんですけど」
 そんな部活は知らない。入学してすぐ学校説明会があったが、その時には名前すら挙がっていない部活だ。
「そのまんまの意味よ。表向きは世界各国の遊戯と呼べる文化に触れあうのが主な活動。同時に現代における流行も追っていくの。それが」
 デュエル・マスターズというわけだ。
「えっと、つまり、デュエマをする部活ってことですか?」
「ぶっちゃけるとそうね。人数が足りないから、正確には同好会だけど」
 遊戯とは、言うなれば遊び。そして遊びも文化の一つと言えなくもない。
 それを遊び=文化などとこじつけて、デュエマを部活動として行っている、というのが遊戯部の実態のようだ。実態と言っても、案外あっさりとばらしたが。
「……で、なにしに来たんだ?」
 男子生徒は眼鏡越しでも分かる鋭い視線で、暁を睨みつける。口調もどこか低い。
 そんな彼を、沙弓がなだめる。
「まったくもう、ガン付けないの。せっかくの入部希望者なんだから」
「別にまだ入部希望と決まっては……」
「いや、入ってもいいよ?」
「あきらちゃんっ!?」
 あっさりと首を縦に振る暁に、柚が驚愕の眼差しを向ける。
「なんだかんだで部活ってやってみたかったし、それでデュエマできるならいいかなーって」
「そう、それは良かったわ。これで部員二人確保、部活に昇格できるわね」
「あれ? わたしもカウントされちゃってるんですか?」
「……はぁ」
 色々しっちゃかめっちゃかになりながらもどんどんことが進んでいき、男性とは溜息を吐く。その様子を見た沙弓は思い出したように、
「あー、そうそう。言い忘れてたけど、この眼つきの悪い眼鏡は霧島浬。さんずいに里って書いて、かいりって読むの。変な名前でしょ?」
「へー、確かに変ですね」
「本人がいる前で堂々と言うな。部長も、変なこと言わないでください」
「事実じゃない」
 言い合う浬と沙弓。その時、また教室の扉が開かれる。
 しかし入って来たのは、生徒でも教師でもなかった。
「ここにいたかぁ……やっと見つけたよ」
「リ、リュン!?」
 入って来たのは、リュンだ。四人のうち沙弓と浬は生徒でも教師でもないその男に怪訝な目を向け、柚は昨日のことがあるからかなにか言いたそうにしている。そして暁は、
「なんでここにいるの!?」
「君を探してたんだよ。僕の端末、持って行っちゃっただろう。あれがないと僕は星間移動ができないんだ」
「あ、あぁ……そうだったね。ごめんごめん」
 非難がましい視線を向けるリュンに、暁は軽く謝りながら古ぼけた携帯電話を渡す。
「あれ? でもそれがないと移動できないなら、どうやってここに来たの?」
「……知り合いにエンジニアというかメカニックというかブラックスミスというか、まあそんな感じの人……じゃないか。クリーチャーがいてね。頼んでこっちの世界に飛ばしてもらったんだ」
 お陰で痛い出費をしたよ、とまた非難の眼差し。
「あ、あの、あきらちゃん……その人は……?」
「えっとねー、教室でもちょっと話したけど、こいつは——」
「お、それは」
 おずおずと尋ねようとする柚と答えようとする暁を無視して、リュンはデュエマテーブルに置かれているカードを見遣る。
「カードのクリーチャー……へぇ、この世界でクリーチャーを扱えるのは暁さんだけじゃないのか。だったら人では多いに越したことはないし……よし、一緒に連れて行こう」
「リュン? どうしたの?」
 急に携帯を操作し始めるリュンを覗き込む暁。そして次の瞬間——四人の姿が消えた。

Re: デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.13 )
日時: 2014/04/20 19:05
名前: タク ◆K8cyYJxmSM (ID: sEySjxoq)

どうも、昨日更新しまくった勢いの反動で、今日は書く気が起きないタクです。いよいよ物語も動いて来ましたね。最初の相手は、《爆竜トルネードシヴァXX》でしたか。にしても、シューティングガイアールの強いこと強いこと。一度大会でやられた事があったので、身にしみて理解しているつもりです。

さて、まだ《コルル》自体は登場しないんですね。というか、最初もう少し獣型のクリーチャーかと思ったんですが、蓋を開けたら人型でしたか。ありきたりな気がしなくもないですが……まあ、自分がとやかく言うことでもないですね。

というか、移動機器が携帯電話やPCって、完全にデジ○ンかと思ったのは、自分だけでしょうか。

そして、次の戦い、そして浬の実力も気になるところです。

さて、ドラグハート・ウェポンですが、自分の続編作のオリカはこれにしていきたいと思っています。

というわけで、続きを楽しみにしています。それでは、また。

デュエル・マスターズ Another Mythology ( No.14 )
日時: 2014/04/20 19:46
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

タクさん


 モノクロは更新をサボっていたので、今日中に次のステージだけでも攻略しておきたいです(婉曲表現)。
 どこかでチラッと言った気がしますが、今回はある程度ドラゴン・サーガと連動させているので(現在では《バトライオウ》がその象徴)とりあえずバトルに関係のあるドラゴンを適当に初戦の相手にしました。と言っても、《トルネードシヴァ》自体はあまり戦闘龍と相性良くないですけど。重いしタイムラグあるし。
 実は《バトライオウ》がいない方が暁のデッキは強かったりします。いても困るもんではありませんが。

 一応、十二神話と対応させているので、基本的には人型です。個人的なイメージだと妖精さん、みたいな感じでしょうか。
 《コルル》のデュエル中における登場はまだ先ですね。初回は《バトライオウ》に譲ったということで。

 実を言うと、今作は一部その作品(特に二作目)を意識したりしています。移動手段は独自に考えがあったところがありますけど、今作における対戦のスタンスというか、話の流れなんかは参考にしていますかね。

 とりあえず浬は、部内では暁のライバルポジということで。

 ドラグハート・ウェポンは、どうしようかと悩んでいます。今モノクロの考えている流れだと、ドラグハート・ウェポンを軸としたデッキは作りにくいんですよね。そもそもオリカとの折り合わせがあまり良くないという……
 ただ、新しくなってフィーチャーされている種族(ヒューマノイド爆、リキッド・ピープル閃、ビーストフォーク號)は面白いくらいに『神話カード』と種族が被っているので、活躍させたいと思います。惜しむべくは、新コマンド・ドラゴンが生かしづらいと言うところか……

Another Mythology 5話「適正」 ( No.15 )
日時: 2014/04/20 21:49
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

「また来ちゃったよ……」
 ゆっくりと体を起こす暁。この、自分の身体がどこかに飛んでいく感覚は、間違いない。
 またクリーチャー世界に来たのだ。
「ゆず、大丈夫?」
「ん……あきらちゃん……?」
 とりあえず暁は、近くで倒れていた柚を揺すり起こす。見れば、浬と沙弓も体を起こしていた。
「なんなんだ、一体……」
「ここは……岬、かしら……?」
 潮の匂いが鼻孔をつつく。波の音も聞こえる。そしてなにより、海が見える。沙弓の言うように、どうやらここは岬のようだった。
「ここは火文明と水文明の支配地域の境界線である沿岸地帯だ。陸に向かえば火文明、海に向かえば水文明の治める地域に入る。」
「あ、リュン」
 暁たちと一緒に来た、というより連れて来たであろうリュンが、そう説明しながら一歩踏み出す。
「話は後だよ。新しい十二神話の配下が封印されている場所を見つけたんだ」
「オレがな!」
「コルル! どこに行ってたの?」
 リュンの後ろからコルルが飛び出し、暁がそれを受け止める。
「どこ行ってたはこっちの台詞だ。一人でどっか行ったのは暁だろ」
「えー……私、ただ家に帰っただけなんだけど……まあいいや。ごめんね」
「あ、あの、あきらちゃん……」
「ん?」
 ここまでのやり取りを、呆然と眺めていた三人は、それぞれ度合いが違うものの驚きを隠せていなかった。
「えっと、その、それは……?」
「それ? コルルのこと?」
「いったい、なんなのでしょう、これって……」
「流石にちょっと急展開過ぎないかしら? 説明が欲しいわね」
「…………」
 どうやら柚たち三人も混乱しているようだ。なまじ暁よりも常識を備えているため、暁が最初に来た以上に混乱している。
「えーっと、どう言ったらいいかな……リュン」
「分かってるよ、連れてきたのは僕だし、僕が説明する。とりあえず歩くよ、一ヶ所にずっといたら、この前みたいに狙われかねない」
 そう言ってリュンは、速足で歩き始める。
 暁たち四人は、その後をついて行くのだった。



「——クリーチャー世界に十二神話、世界の荒廃とその復興、ねぇ……いまいちピンと来ないわね」
「はい……」
「…………」
 道中にリュンが説明したことをまとめ、呟く沙弓。柚もとりあえず今のこの状況は飲み込んだようだ。
「もうすぐ着くはず……ここだ」
 リュンが足を止める。そこには穴、岬から下へと——つまり海中へと続くであろう穴がった。
「この中だ」
「え、いやこの中って、海……」
「入るよ」
 そう言って暁を引っ張り込み、穴の中へと落ちていくリュン。そして暁。
「ちょ、待——」
「あきらちゃんっ!? ま、待ってくださいっ」
「……行っちゃった」
 無理やり引きずり込まれた暁の後を追って、柚も穴へと飛び込む。
「これは私たちも言った方がいいのかしら。ねぇ、カイ」
「……やめた方がいいと——」
「それじゃあ行こうかしら」
「俺の話聞いてます!?」
 あからさまに浬を無視して、沙弓も穴へと入っていった。最後に残されたのは、浬一人。
「……仕方ないな」
 そう呟くと、彼も穴の中に身を滑り込ませた。



 穴の中は海の中、と思ったが、そうではなかった。
 確かに海の中なのだが、そこは言うなれば海中トンネル。壁面がガラスのような材質でできた通路だ。
「凄い、海の中が見える……」
「水族館みたいですねぇ……」
「クリーチャーの世界にもこういうのってあるのね。びっくりだわ」
「…………」
 各々海中トンネルの感想を言う。ここに来てからほとんど口を開かず、仏頂面の浬だけがなにも言わない。
「ここは《賢愚神話》の支配地域でね、彼は十二神話で最も多くの知識を有していたと言われている」
「へぇ、頭いいんだ」
 酷く単純に捉えた表現をする暁。間違ってはいないのだが。
「彼はその知識を用いて、光文明にも負けないほど高度な技術を発展させた。これはその産物の一つだよ」
 トンネルを抜けると、今度は小部屋だ。壁面には画面のようなものが映し出され、チカチカと光が点滅し、四方向には通路が伸びている。
「こっち」
 リュンに導かれるままにその通路をまっすぐ進むと、また同じような小部屋。ここも直進し、次も小部屋。ここも直進する。
「さっきからずっとまっすぐ進んでるけど、大丈夫なの?」
「一本道だからね。横道にそれると、逆に時間を食う。直進が最短ルートなのさ」
「ふぅん」
 リュンがそう言うのならそうなのだろう。それ以上はなにも言わず、暁は歩を進める。
 十回ほど小部屋を抜けると、今度は今までの部屋よりも一回り大きな部屋へと辿り着いた。暁は、この部屋に見覚えがある。
「この部屋って……コルルが封印されていたところと似てる……」
 違う点と言えば、祭壇の台座に置かれている物体。そこには、綺麗な形をした水晶のようなものが置かれている。
「あれにクリーチャーが封印されているんですか?」
「うん。なんか別のやつだったけど、コルルもあんな感じのを触ったら出て来たし」
 既に一回経験していることだ。ならば、勝手は分かる。暁は誰に言われるでもなく祭壇に上っていった。
「さーて、今度はどんなクリーチャーが出て来るのかな?」
「《賢愚神話》の配下だろ? オレ、あいつ嫌いなんだよな……きっと嫌な奴だよ」
「そんなことないと思うけどなぁ……ま、やってみれば分かるか」
 あまり乗り気でないコルルと対照的に、上機嫌な暁。そして彼女は、目の前の台座に置かれている水晶に手を伸ばす。
 そして、
「……あれ?」
 なにも起きない。
「あれ、あれれ? おかしいな、クリーチャーが出て来ないよ?」
 ペタペタと何度も触ったり、撫でたり叩いたりしてみるが、うんともすんとも言わない。
「……もしかしたらと思ったけど」
 すると、リュンが静かに口を開く。
「やっぱり、十二神話の配下の封印を解くのは、誰でもいいってわけじゃないみたいだね」
「どういうこと?」
 暁が尋ねるとリュンは、初回が成功だったから気付き難かったけどね、と前置きしてから言う。
「あの十二神話が最も信頼していたと言われる配下の封印を、他世界の生命体ならなんでも解けるっていうのは甘い考えだったんだ。たぶん、封印を解くためにはなにかしらの条件があるのだと思う」
 もしくは適正か、と締めるリュン。
「条件……ってことは、私はここに封印されているクリーチャーの封印を解く条件を満たしてないってこと?」
「そうなるね。そもそも《賢愚神話》は十二神話でも飛び抜けた嫌われ者だったけど、特に《太陽神話》とはかなり険悪な敵対関係にあったから、《太陽神話》の配下であるコルルくんの封印が解けた暁さんとも、《賢愚神話》の配下は相性悪いんじゃないかな?」
「むぅ……じゃあどうするの? これ、このまま放っておいてもいいの?」
「それは困るなぁ……」
 暁ではこの水晶に封じられているクリーチャーを目覚めさせることができない。ならば、どうすればいいか。
 答えは簡単だった。
「ゆず、ちょっとやってみて」
「えっ? わ、わたしですか?」
 暁が柚を手招きする。
 暁と入れ替わりに台座の前に立った柚は、恐る恐るその水晶に手を触れる。だが、水晶に変化はなかった。
「わ、わたしではダメみたいです……」
「なら、今度は私がやってみようかしら」
 今度は何気に乗り気な沙弓が出て来る。腕まくりなどしながら腕まで回しているほどだ。
「部長……」
 そんな沙弓を、呆れたように眺める浬。勿論、沙弓はそんな浬のことなど意にも介さず、その水晶に触れた。
 しかし、またしてもなにも起こらない。
「ダメみたいね」
「じゃあ次は……」
 一同の視線が浬に集まった。
「な、なんだよ……」
「なんだよ、じゃないでしょ」
「次、霧島の番だよ」
 さも当然というような暁。そしてその態度に異を唱える者もいない。
 浬を除いては。
「なんで俺まで付き合わされなけなきゃいけないんだ」
「いいじゃん別に、減るもんじゃなし。一緒に来たんだから、ほら、ねぇ」
「知るか。俺はこんな得体の知れないことに首を突っ込む気はない」
「はぁ、まったくこれだからこの子は……ほら、駄々こねてないで行きなさいな」
「ちょっ、部長……!」
 拒絶する浬を、沙弓が強引に引っ張っていき、台座の前に立たせた。
「なんで俺がこんなことに……部室にいるところも見られたし、今日は災難だ」
 ぼやくように呟きながら、浬はジッと目の前の水晶を見つめる。
「……触るだけで、いいんだよな……?」
 そして、ゆっくりとその水晶に手を伸ばしていき——触れた。

 刹那、賢愚の殻が破れる——

Another Mythology 6話「賢愚の語り手」 ( No.16 )
日時: 2014/04/21 00:05
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: hF19FRKd)

 中から冷気と蒸気を発しながら、賢愚の殻が綻び、破れる。そして——
「……?」
 小さなクリーチャーであろう生物が現れた。
 非常に人と酷似した、少女のような姿だ。白と水色を基調としたエプロンドレスのような衣装を纏い、その所々と耳に当たる部分が凍っている。そして、コルルと同様に二頭身の矮躯。
 そのクリーチャーは目をパチパチさせながら周囲をキョロキョロと見ている。
「封印、解けてる……?」
 今度は自分の手を握ったり開いたりする。どうやら、自分の封印が解けたという実感があまりないようだ。
 だがそれも、すぐに理解が及ぶ。
「やっぱり解けてる……もしかして、あなたが私の封印を解いてくださったんですか?」
「あ、ああ。まあ……」
 実際はその通りなのだが、曖昧に答える浬。しかしそのクリーチャーは、そんな曖昧な答えでも、封印を解いたのが浬だとしっかり認識したようで、
「ということは、これから私はあなたにお仕えするということになるんですね。私の名はエリアス、《賢愚の語り手 エリアス》です。以後お見知り置きください、ご主人様」
「誰がご主人様か!」
 最後の一文で、ほぼ反射的に拒否反応を示す浬。
「? 私の封印を解いたということは、あなたには《賢愚神話》の力を継げるだけの資質があるということではないのですか? だったら、あなたは私の主人ということになるのですけれど……」
「知るか。俺はお前の主人になるつもりはない。そんなに主人が欲しければ、一人で勝手に探せ」
「……そうですか」
 浬の辛辣な言葉に、エリアスは寂しそうに項垂れる。それを見て、暁が非難めいた声を上げる。
「ちょっと霧島、言い過ぎだって。いいじゃんご主人様で。私は封印を解いたコルルは相棒みたいなものだよ」
「お前と同じにするな。俺はクリーチャーの主人になるつもりはない」
「相変わらずこういうとこだけ頭固いわねぇ、カイは」
 それからもあーだこーだと暁が浬に言葉を浴びせるが、浬が首を縦に振ることはなかった。
 そのやりとりはあまりに不毛で、見かねたリュンが、
「もう言い合うのはやめにしよう。ここなら早々他のクリーチャーが襲ってくるってことはないと思うけど、早く上に出た方がいい」
「……あ、それでしたら、少し待ってください」
 そう言うと、エリアスは幾何学的な紋様の描かれた壁へと飛んで行き、その壁に手を触れる。
「ここは、私が前に仕えていた主人……ヘルメス様がその知識で生み出したクリーチャーを保存する場所なんです。あの方は自分の欲を満たすこと以外には無頓着な方だったので、作られたクリーチャーの大半は作りっぱなしか、試運転として戦いに参加しても、すぐに眠りに着いたものばかりですが……」
 エリアスが触れた壁の一ヶ所が、ぼうっと光る。するとその箇所から、渦巻く水の球が現れ、スーッと浬の手元にまでやって来る。
 思わず浬は手を出す。水球が割れると、その手の上に一枚のカードが落ちた。
「デュエマのカード……?」
「コルルの時と同じだ。あの時、私は《バトライオウ》を手に入れたんだ」
「《太陽神話》は戦友の魂を配下と共に神殿に眠らせていたけど、《賢愚神話》はクリーチャーを生み出す実験のモルモットを保存させていたみたいだね」
 コルルが嫌うのも、分からなくもない。《賢愚神話》が嫌われ者だというのも、理解できる。
「まだすべてのクリーチャーを解放できるわけではないのですが、確かもう一体、解放できるクリーチャーがいたと思います」
 そう言うとエリアスは、また違う面の壁まで飛び、その一ヶ所に触れる。
「これ、でしたっけ……?」
 すると、その箇所が光り始め——

 ビー! ビー! ビー!

 ——警報音が鳴り始めた。
「!? な、何事ですかっ?」
「なんかヤバそうな音だけど……」
「明らかに警報音よね、これ」
「……おい、お前。なにをしたんだ?」
 浬が睨みつけると、エリアスは困ったように慌てふためき、
「ま、間違えて警備プログラムを作動させちゃったかもしれません……」
「なにやってんの!?」
「えっと……こっちでしたっけ? いや、こっち?」
 ペタペタと壁面を触るエリアスだが、大抵はなにも起きない。それならばまだいい。
 しかし、
「なんか出た!」
 エリアスが触れた箇所がたまに光ると、どこからかクリーチャーが現れた。今鳴っているやかましい警報と合わせて考えれば、警備員のような者だろうか。
「《クゥリャン》か……《賢愚神話》の設置した警備員だろうね。たぶんすぐ攻撃してくるよ」
「だったら、私がちょちょいと倒しちゃうよ。コルル!」
「おう!」
「ちょっと待って!」
 暁がデッキケースに手をかけ飛び出そうとするのを、沙弓が制する。
「な、なんですか?」
「あれを見て」
 沙弓がクゥリャンを指差す。すると、そこには二体のクゥリャンがいた。
「あれ? なんか増えてる……?」
 目をこすって、もう一度確認。するとそこには、四体のクゥリャン。
「また増えた!? どういうこと!?」
「クゥリャンは召喚時にカードを引いて、後続を呼び込めるクリーチャー。もしカードの能力とこの世界のクリーチャーの能力が一致するなら、その能力で援軍を呼んだ、ってところかしら」
 成程と思った。その推理力は称賛に値するものであったが、今はそれどころではない。
 クゥリャンはどんどん味方を増やしていき、暁たちに迫る。
「これはまずい……逃げよう。一対一ならともかく、この数相手じゃ無理だよ」
「そうっぽい! 流石にこんなに相手してらんないよ! 逃げよう!」
 リュンが先んじて走り出し、その後に四人が続く。一目散に逃げ出した。
「おい、いつまでやっている! 早く行くぞ」
「あ、はい! ご主人様」
「だから俺は主人じゃない」
 ずっと壁を触り続けていたエリアスを引き剥がして、浬が最後に続き、走り出した。



「ルートの一部が閉鎖されている……これも警備システムの一つか。他の小部屋を通って迂回するしかないね」
 まっすぐに進む道が使えず、暁たちは最初に来た時とは違うルートで出口を目指していた。
 右に逸れたり左に逸れたり、一度後ろに戻ってはまた前に進む。同じ場所をぐるぐると回っている感覚に襲われながらも、リュンのエスコート通りに進んでいく。
「この調子だと、逃げ切れそうだね……!」
「まだ安心はできないさ。あの《賢愚神話》だし、最後にとんでもないのが待ってるかもしれない」
 そんなこんなですべての小部屋を通り抜けた一同は、海中トンネルまでたどり着く。あとはこのトンネルを一直線に抜けるだけだ。
 と、その時だった。
「っ! な、なんですか、あれ……っ?」
 柚が指差す方向に、なにかが立っている。人のようなシルエットだが、全身が水色で、顔にはマスクのようなものを付けている。
「《アクア戦士 バットマスク》だね。最後の警備があれか。他にはいないみたいだし、あの程度ならすぐに倒せるんじゃないかな」
「だったら力ずくで突破するよ。コルル!」
「おう!」
「っ、あ、あきらちゃんっ!」
 また柚の声が聞こえるが、それは暁を制止するためのものではなかった。
「なに、ゆず?」
 暁が振り返ると、彼女はぎょっとする。
「げ、なにあれ……」
 トンネルの向こう、暁たちが出て来た方向から、大量の水文明のクリーチャーが押し寄せてくる。
「これって、挟まれたってこと……?」
「どうもそうみたいね」
 前にはバットマスク、後ろには水の軍勢。これでは、暁が《バットマスク》と戦っている間に大量のクリーチャーが襲ってきてしまう。
「まずいよまずよ、どうするのリュン」
「僕に言われても……」
 非常に困った。バットマスクはただの番兵のような者なのか、動く気配はない。しかし後ろのクリーチャーばかりに気を取られていては、先に進めない。
「私たちはクリーチャーとデュエマできないの?」
「無理だね。この世界において君たちの土俵で戦うには、常時実体化できるようなクリーチャーが神話空間を開くしかない」
「ということは、コルルさんがいる暁ちゃんしか、戦えないってことですか……」
 しかし、暁一人でこの大量のクリーチャーをすべて倒すと言うと、かなり不安である。
 その時だ。
「……ご主人様」
「ご主人様じゃないって言ってるだろ」
「そんなことは今はどうだっていいんです。ご主人様、私たちも戦いましょう」
「なに?」
 露骨に嫌そう、というより、そんなことはするものかとでも言いたげな視線を向ける浬。しかし、エリアスは怯まない。
「このままでは、全員やられてしまいます。私もコルルさん同様、神話空間が開けます。なのでご主人様、私と一緒に戦ってください」
「…………」
 考え込む浬。今まで否定的な態度を取っていた彼だが、この状況ではそんなことを言っていられないのもまた事実。それは分かっていた。
「……仕方ないな。空城」
「な、なに?」
「バットマスクは俺が引き受けた。その間に、あいつらを足止めしておいてくれ」
「大丈夫なの?」
「心配するな。お前よりは強い」
 そう言ってバットマスクに向き直ると、浬はデッキを取り出した。
「言うじゃん。だったらこの後帰って、私と対戦してよね」
「だったら俺が勝つまで、負けるなよ」
 二人は背中を向け合うと、それぞれの相手に、向かっていくのだった。


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。