二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

141話 「発明王」 ( No.546 )
日時: 2017/03/01 22:40
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「《ガチャンコ ガチロボ》を召喚だ!」
「三体目……」
 現れたのは、三体目の《ガチロボ》。
 登場時の能力で捲られた三枚は《アクア・スーパーエメラル》《ガチャンコ ミニロボ2号》《弾丸透魂スケルハンター》。
 この三体がバトルゾーンに出ると、発明王は少し思案してから、山札を取った。
「……よし。《ミニロボ2号》の能力発動だ。山札から《ミニロボ2号》をサーチ、手札に加える」
「? ここに来てサーチした……?」
 最初、発明王は《ミニロボ2号》を出してもサーチしなかった。
 このタイミングで《ミニロボ2号》を手札に加える必要などないはず。
 そう思った時、《ガチロボ》が剛腕を振り上げた。
「さぁ、攻撃だ! 《ガチロボ》でシールドを攻撃! その時、能力発動! 山札を三枚捲るぞ!」
 攻撃時、さらに山札の上から三枚が捲られ、《ガチロボ》の内部へと装填される。
 捲られたカードはクリーチャーの姿となり、腹部のカタパルトから次々と射出されていく。
「《弾丸透魂スケルハンター》! 《ミセス・アクア》! そして——」
 最後に、三体目のクリーチャーが、出撃した。

「——《ガチャンコ ミニロボ3号》!」

「!」
 最後に現れたクリーチャーを見て、ルミスは少なからず目を見開く。
 この状況で出て来た《ミニロボ3号》。その意味がわからない彼女ではなかった。
「ふふふ、僕の可愛い《ミニロボ》は応えてくれたぞ! 《ミニロボ3号》で、《エメラルーダ》で仕込んだシールドを見せてもらおう」
 《ミニロボ》は《ガチロボ》をサポートする小型支援ロボット。
 《1号》は妨害電波による呪文ジャマー。《2号》は同名クリーチャーサーチによる後続確保。
 そして《3号》は、安全に攻撃するために、相手の罠を取り除く地雷処理班だ
「やはりか……これは山札の下へ!」
 発明王はルミスのシールドを見て、ニヤリと笑みを浮かべながら山札の下に送り返す。
 そして、代わりのシールドが補填された。
「《2号》のサーチは、《3号》を出す確率を上げるための、山札圧縮……!」
「その通りだ。僕の可愛い《ミニロボ》たちは、各々の連携も完璧だ! さぁ、これでトリガーの脅威はほぼ去ったな。終わりだ! 《ガチロボ》! 最後のシールドをブレイク!」
 《ガチロボ》が繰り出す鉄拳が、ルミスのシールドを粉砕する。
 仕込んだ罠が取り除かれた盾。粉々に砕け散ったそのカードを、手に取る。
「……トリガーは、ありません……」
 トップがトリガーという可能性がまだ残っていたが、割られたシールドを確認して、その可能性が潰えたことが証明される、
 その瞬間、発明王のダイレクトアタックが決まることが確定した——

「《終末の時計 ザ・クロック》で、ダイレクトアタック!」

「革命0トリガー! 発動!」

 ——ただし手札に、もう一種のトリガーを握っていなければ、だが。
「呪文《革命の防壁》!」
「っ、革命0トリガーか……! だが、それは失敗のリスクもある呪文なはず……」
「その通りです。しかし、私はこれを手札から二枚唱えます。私のデッキはクリーチャーを多く積んでいます。二回も唱えれば、流石に一枚くらいは捲れるでしょう」
 言いながら、ルミスはトップデックの一枚目を捲る。
 一回目は《DNA・スパーク》だった。
「いきなり幸先悪いです……一回目は不発で、《革命の防壁》は山札に戻ります。では、二回目!」
 革命0トリガー呪文は、使えばデッキに戻ってしまう。なので、連続使用すればデッキ内の呪文比率が上がり、失敗しやすくなる。
 一回目よりも分の悪い賭けだが、しかし、二回目のルミスのトップは、
「《天星の玉 ラ・クルスタ》! 光のクリーチャーなので、シールドを追加します!」
「ぐっ……!」
 これで、ルミスのシールドが一枚だけ復活した。
 《クロック》がそのシールドを突き破るが、それだけだ。
 これ以上の攻撃は、《スタルリード》が時を停滞させており、不可能である。
「発明王さん。あなたは確かに、聡明で、技術も知識も持っているようですが……こと戦闘に関しては、私の方が上だったようですね」
「くぅ……!」
 緩慢な時流の中、雷光の鎖に縛られた発明王のクリーチャーは、動くことができない。
 相対的に速い時流で動く、光の革命軍の前では、もはや為す術はなかった。
「これでまた、逆転ですね」
 次は、ルミスが決める番だ。
 二度も決め損ねた攻撃。
 相手にシールドはない。
 もう、時間は止まらない。
「《スタルリード》で攻撃する時に、《スーパーエメラル》をタップ……終わりです」
 一切の抵抗も許さず、革命の龍が、雷光となって発明王に牙を剥く。

「《聖霊龍王 スタルリード》で、ダイレクトアタック——!」



「く……っ」
「流石は開発部長。王の名を冠するだけあって、強い方でしたね」
 神話空間が閉じる。
 勝敗が決し、片膝をつく発明王。
 なんやかんやで戦うこととなってしまい、口では余裕ぶるものの、勝利できたことに胸を値で下すルミスは、振り返る。
「さて、終わりましたよ、ミリンさん……ミリンさん?」
 しかし、そこにミリンの姿はない。
「あ、あれ? ミリンさんはどこへ? 恋さんと浬さんもいない……」
 影も形もない。三人とも、姿を消していた。
 まさか発明王がなにかしたのかと、鋭い眼差しで彼をキッと睨むルミスだが、発明王自身も困惑している様子だった。
 と、その時。
「おや、終わったか。こちらが先に済ませるつもりだったのだが」
「ミリンさん!」
 ガラガラと、重そうなシャッターを押し上げながら、ミリンが姿を現した。後ろには、恋と浬もいる。
「ミリン……これ、重……」
「む、ならば早く入りたまえ。シャッターとリンクする回線をすべて切ったから手動で押し上げるしかないのだが、これがまた重くてな。私も肉体は強くない。結構辛いのだ」
「もっと押し上げてくれないと、俺が入れないんだが……」
 シャッターの下を潜るように、三人が戻ってくる。恋と浬の腕の中には、よくわからない金属片のようなパーツや、太さがバラバラな何本ものコードがある。
 それを見るや否や、サァッと発明王の顔が青ざめる。
 と思ったら、直後には赤くなっていた。
 発明王は階下のミリンらへ、怒声を飛ばす。
「お前ら! 僕のラボの備品を引っこ抜いたな!?」
「そうだが? いろいろ持て余していたようだから、少し貰っていくぞ」
「明らかに使用中の部品を剥ぎ取っておいてなんという言い草だ……!」
 そのやり取りで、ルミスも理解した。
 ミリンらはルミスと発明王が対戦している間、この研究所の中を回って、車の修理に必要な部品をかき集めていたようだ。
 落とされたシャッター等の防犯機能は、ミリンがどうにかして潰したらしい。
 発明王とあそこまでいがみ合っておきながらルミスを戦いに向かわせたのも、ここに犬猿の仲たる発明王がいると予測しながら足を運んだのも、このためだったようだ。
 ハッキリ言って他人のものを無理やり奪い取っているので、人道的には明らかな悪行なのだが、あまり手段を選んでいられないのは確かだ。
 修理に必要なパーツは手に入り、防犯機能も落とした。
 となると、あとは逃走するだけだ。
「追跡されるのも嫌ですし、あまり使いたくありませんが……致し方ないですね」
 ルミスはガウンの中に手を入れる。下に着ている服。その脇腹の少し下あたりにあるスリットに指を差し込んだ。

 ——カチッ



「……? なにが起こったんだ……?」
 目の前の光景に、発明王は困惑する。
 瞬きをした覚えはない。恨みを込めて、憎き【フィストブロウ】の者どもを注視していたはず。
 だというのに、いつの間にか連中は消えていた。クルミスリィトがなにか不審な動きを見せていたが、彼女の力によるものなのだろうか。
(クルミスリィト……組織の長たるメラリヴレイムや、悪鬼羅刹と恐れられるラーザキダルク、そして技術革命者のノミリンクゥアに比べて、目立つ存在ではなかったが、仮にも【フィストブロウ】のサブリーダーか)
 そういえば、と発明王は思い出す。
 血の気が多く先走ってばかりの【鳳】戦闘部隊には、本部への連絡を徹底させている(それでもかなり疎かになっているが)。発明王は本部への中継や、情報の集積、整理も担当しているのだが、その中にあった復讐王からの報告があったのだ。
(……彼からの報告によると、クルミスリィトは、物質を空間に固定するような類の能力があるらしい。現象の結果しかわからないから、解析と調査、研究を進めなければならんが……)
 復讐王からの報告といっても、厳密には復讐者の疑似死骸から抽出した記憶を元にした、復讐王の脚色や憶測等々が混じった報告なので信憑性と正確性に欠けるのだが、ありのまま話された現象自体は「空中に浮いていた時計針に貫かれた」だ。
 空間固定能力と聞けばわかりやすいが、彼女らが姿を消したことについては、それだけでは説明がつかない。
「……やれやれ。成熟した女に興味はなし反吐が出るんだが、これは放置できる案件じゃなさそうだ」
 ノミリンクゥアにしてやられたのは非常に腹立たしく遺憾なことだが、過ぎてしまったことは仕方ない。
 発明王はゆっくりと立ちあがると、研究所の奥へと消えて行った。

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.547 )
日時: 2017/03/12 23:01
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 七月下旬。烏ヶ森学園中等部の夏休みが始まってすぐのことだった。
 壊れかけているせいで、妙に生暖かい冷風と一緒に異音を吐き出す空調の音が、静かな部室の中に響き渡る。
 暑さと涼しさが絶妙に混ざり合った生ぬるい空気に耐えられなくなったかのように、一騎が声を上げた。
「そろそろ、部会を始めたいんだけど……」
「来てない奴は誰だ?」
 一騎の言葉に、ミシェルが続ける。事実上の部会開始宣言だ。
 まずは、出欠を確認する。
「ミシェルと俺はいる。二年生も揃ってるね?」
「はい。私と焔君、どっちもいます」
「じゃあ日向さん……」
「……いる」
「今日は珍しくちゃんといるな。ならハチ公」
「いるっすよ!」
「えーっと、後は……」
 ぐるっと見回す。
 すぐ隣の副部長席にはミシェル。自分と彼女のすぐ隣、書記席には美琴、会計席には空護。彼らそれぞれの隣にも、八と恋が座っている。
 人数をカウントする。ミシェル、美琴、空護、八、恋……五人。自分を合わせて、六人。
 しかしこの部の総員は七人だ。名簿に記した時点で何度も数えた。間違うはずがない。
 では、誰がいないのかというと、
「……氷麗さんか」
「こっちも珍しいな。あいつは事情が事情だから休みがちだが、部会がある日はいつも来てるはずなんだが」
「連絡も来てないね」
「そもそも氷麗さんは携帯使えなかったような……」
 葛城氷麗。一応、部員ということになっている女子生徒だった。
 彼女の場合は、存在そのものがかなり特殊なので、無理に活動に参加する必要はないと言っているのだが、真面目なので休む場合には必ず一報があるはず。
 それもないということは、なにかあったのだろうか。そう思った時、部室の扉が開く。
「すいません、遅くなりました」
「……来た」
「あぁ、よかったよ。ちょうどさっき、氷麗さんがいないって話をしてたんだ」
「どうしたんすか? 補習っすか?」
「お前じゃあるまい。それはないだろ」
 開かれた扉から見えたのは、小柄な女子生徒——氷麗だった。
 なぜか彼女は、片手を後ろに回したまま、部室に入ってきた。
「どうしたの?」、 
「いえ……ちょっと、向こうへ行ってました」
「学校で?」
「簡単に言うと、私の張った“網”に引っかかったものがあったようなので、その確認に……反応の伝達があまりに急だったのと、妙な反応だったので、慌てて確認に行きました」
「それで、なにかあったの?」
「過程を省いて結果だけをお見せするなら……これです」
 そう言って彼女は、ずっと後ろ手で持っていた“それ”を、皆の前に晒す。

 にゃぁん

 そんな鈴が鳴るような声が、部室にこだました。
「……猫」
「猫だな」
「夏休み前にもありましたねー、野良猫騒ぎ」
「あったわね、そんなことも。いつの間にか収束してたけど」
「あの時は恋の友達のお陰だったね」
「それで、その猫がどうかしたのか?」
 思ったよりも淡白な反応だったが、実は以前にも、烏ヶ森で野良猫騒ぎがあったばかりなので、猫程度には驚かない。
 しかし、よく考えてみたら、この猫は校内で見つかったものではない。
 氷麗が見つけたのは“あちらの世界”。となると、この猫は……

「いえ、それがこの猫……クリーチャーなんです」

 そういうことなのだ。
 そしてその言葉に真っ先に反応したのは、ミシェルだった。
「おいおい、クリーチャーって、そんなの連れてきていいのかよ?」
「調べましたが、害はほとんどない種なので大丈夫です。この星のネコと呼ばれる生き物と、極めて酷似したクリーチャーなので」
「そんなのいるのか」
「アウトレイジのような種族ならあり得ます」
「あぁ……なんでもありな奴らだからな……」
 常識が通じない種族なので、猫型のアウトレイジがいてもおかしくはないだろう。
 では、なぜただの猫がクリーチャー世界にいたのか。そもそも、それになんの意味があるのか、という問題になる。
 それを言及しようとした矢先、猫がペッと口からなにかを吐き出した。
 ペチャっと、黒い塊が床に落ちる。よく見ればそれは、細い糸のようなものの塊だった。
「っ! こいつ、毛玉吐き出しやがった……!」
「へぇ。俺、猫が毛玉を吐くところって初めて見たよ」
「私もです。こうやって吐くんですね」
「そんなこと言ってる場合か。汚ねぇ……誰か箒と塵取を持ってこい」
「待ってください。これです」
 吐かれた毛玉を掃除しようとするミシェルを制する氷麗。
 すると、床に落ちた毛玉、その毛の一本一本が、蠢動し始めた。
「!」
「毛玉が……!」
 毛玉はやがて散り散りになり、床の上で別の形を形成する。
「これは……文字、か?」
「アルファベット? L、O、V……」
 うねうねと蠢く毛は、自分たちでもわかる文字のような形へと変わっていく。
「E……ラブ?」
「いや、まだ続きがあるよ」
 L、O、V、E。誰でも知ってるような英単語だ。
 しかしそれだけで終わらず、残った毛の塊が、最後の一文字を形作る
「R……LOVER……って」
 その瞬間、全員の視線が一点に向いた。
 LOVER、ラヴァー——かつてその名を有していた、恋へと。
 さらに、猫は毛玉を吐き出した。それもまた、別の文字や図形を形成する。
 図形は、まるで地図のようだった。
「これは……?」
「これも調べました。この図形は地図。この地図が示す場所は島。かつて光文明、闇文明、自然文明が共同開設しようとしたらしい“クリーチャー保護施設”……ズーパークと呼ばれる場所です」
「保護施設……?」
「保護とは名ばかりの、歓楽施設だったようですけどね」
 氷麗はそれ以上の詳細は言わなかった。なぜなら、その場所は既に廃墟化していることと、それゆえに過去がどうであろうと関係ないからだ。
 それ以上に重要なことが、他にある。
「ここまでをまとめると、この猫は、そのズーパークで恋さんを待っている、という旨のメッセージだと思われます」
「なんか回りくどいな。なんで猫に毛玉吐かせるんだ?」
「流石にそこまでは……ただ、明らかに私が張った情報網を狙って放たれた痕跡があったのが、偶然などではありませんね」
 相手は誰なのか。その目的はなにか。なにもわからない。
 ただ、一人を除いては。
「……だ」
「恋……?」
「この猫……それに、ズーパーク……間違いない——」
 恋はおもむろに顔を上げると、誰に言うでもなく、それとも、誰かに向けてなのか、小さくか細い声で、それでいてはっきりとした声で、その名を呼んだ。

「——リオンだ」

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.548 )
日時: 2017/03/17 08:25
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「リオン?」
「……私が【秘団】にいた頃の……友達」
「は? 友達?」
 【秘団】。正式には【神劇の秘団】。
 デウス・エクス・マキナを頂点とする22名の団員によって構成される組織。
 その目的は謎が多いが、はっきりしているのは、リュン同様に、この世界に秩序を求めていること。リュンとの違いは、彼があくまでも十二神話の遺した語り手に固執しているのに対し、【秘団】は必ずしもそうではないこと。語り手を利用こそしても、それが絶対の手段ではない。
 だからこそ、なにを考えているのか、わからないのだが。
 恋もかつては【秘団】の一員であったが、その頃はほぼ己の意思を持たない傀儡だった。
 その中で、彼女が友達と呼ぶ存在がいるとは、まるで考えていなかったし、一度も聞いたことがない。ゆえに彼女の言葉には、少なからず驚いた。
「友達って、どういうこと?」
「……そのまんまの、意味……仲が良かった……リオンとは……」
 実際に彼女がその時のことをどう思っているのかはわからないが、少なくとも現在はリュンの意向から、自分たちは【秘団】とは真っ向から対立している。
 恋自身も、自分から【秘団】を抜けるという意志を示している。
 なので、友達、中が良かった、という言葉には、些か疑問があった。
「私に指示してたのは、ユースティティア……あとついでにチャリオット……ほとんど、あの二人と行動、してた……だけど、少しだけ、それ以外の【秘団】のメンバーとも、交流……あった」
「その一人が、リオンさん?」
「うん……」
 コクリと、恋は頷く。
「リオンは、【秘団】の拠点内でしか会ったこと、ないけど……普段は、そのズーパークで遊んでるって、言ってた……」
「遊んで……?」
 いつもと同じように、感情を顔に出さずに話す恋。
 しかしその声は、いつもと違っていて、どこか波があるように感じられた。沈んでいるようにも、弾んでいるようにも、どちらにも感じられる。はたまた、どちらでもあるのか。
 リオンという人物のことはわからないが、かつて恋の上に立っていた二人組、ユースティティアとチャリオット。あの二人と恋の関係は、およそ友達と言えるようなものではなかった。仲間、という表現さえも適切かどうか怪しい。
 だが恋の語るリオンという人物は、少なくとも恋の視点からは、悪い印象は感じられない。
「つきにぃ……私……ズーパーク、行きたい……」
 不意に、恋がそう言い出した。
 自分のやりたいことは勝手にやってて、やりたいことよりもやりたくないことの方が多い、そんな彼女が、一騎をまっすぐに見て、行きたいと告げている。
 とてもそんな雰囲気ではなくなってしまったが、元々はこれから部会を開く予定だったのだ。夏休み、ひいては二学期に向けて、すべきことも少なくない。
 どうしようかと、一騎は隣に座る副部長に視線を向けた。
「……ミシェル」
「好きにしろ」
 即座に返答された。
 呆れ半分、諦め半分。肯定はしないが、否定もしない。
 書面上はまだ一騎が部長ということになっている。世代交代しようという時に長の権力を使うのは些か気が引けるものの、一騎は采配を考える。
「じゃあ、俺と恋……それから、ミシェルで行こう」
「三人、ですか?」
「うん。今日の活動は、ひとまず三年生と恋を抜いたメンバーでお願いしたい」
「代替わりを見据えて、ってことですかねー」
「こじつけっぽいけどね。今日のことは任せたよ」
「わかったっす!」
「……交代前の予行演習と思っておきますよ。行ってらっしゃい」
 こうして。
 氷麗に連れられて、恋と一騎、ミシェルは、向こうの世界へと飛ぶ。
 恋の友人だという、リオンなる人物を求めて——



 いつもの如く、転送は一瞬。
 気づいた時には、既にそこにいた。
「ここが、ズーパーク……?」
 土と一緒に雑草を踏みしめる感触が伝わってくる。空は雲がかかって暗い。
 見渡せば、檻。まるで獣を閉じ込めておくかのような鉄の檻が、そこかしこに並んでいる。しかしそれらはすべて開け放たれていたり、壊れていたり、錆びついている。
「随分と荒れてるな」
「というか……くさい……」
「獣のにおいだね」
 そしてなによりも鼻につく、獣臭さ。
 荒廃してはいるものの、そこらに転がっている鉄檻や、この獣独特の臭気からして、動物園のような場所だと感じた。
「島一つを改造して作られたこの施設がズーパークです。絶滅寸前のクリーチャーの保護と銘打って、それらを見世物としていたとか……リュンさんが言うには、光、火、自然の連盟軍の手で閉鎖されたらしいですが」
「だから手入れが行き届いてないんだね」
「というか、クリーチャーもそんな動物みたいな扱いされるんだな」
「知能の低い種族は、そのような扱いをされることもありますね」
 クリーチャーといえども、人型から獣型、有機物から無機物、物体から思念まで多種多様だ。
 その多様ゆえに、地球における、人類と動物のような関係が構築されるケースも存在するということなのだろう。
 と、その時。
「……! 一騎、気をつけて!」
 テインが、鋭い声を発した。
「え? な、なに?」
「殺気だ。敵がいるよ……しかも、一体じゃない」
 その言葉で、一同に緊張感が走る。
 そして、直後、檻と木々の隙間から、二つの人影が現れた。
「なんなのだ、お前たちは!」
「ここらじゃ見ない顔だねぇ?」
 現れたのは、少年とも少女とも言い切れない、中性的な容姿の二人。
 片やあからさまに敵意を剥き出しに警戒しており、もう片方は首を傾げて不思議そうな表情を見せている。
「人間……いや、そんなわけないか」
 この世界に、そう人間がいるはずもない。恋や、遊戯部の面々から聞いた風水という少女のこともあるので、絶対とは言い切れないが。
 しかし今回に限ってはあり得ないという確証があった。確かに目の前の二人組は、自分たちと同じような人の形をしているが、明らかに自分たちには存在しない、決定的なものがあった。
「ケモミミ……尻尾……」
 顔の両横とは別に、頭頂部から突き出している二つの耳。正面からでも見える、臀部から伸びている毛の塊。
 それは、犬や猫のような、獣の耳と尻尾だ。人間にはあり得ない場所にあり、存在しないものである。
 それらの存在が、二人組を人間ならざる者として証明している。
「人型のクリーチャーかな? でも、なんのクリーチャーかわからない……」
 人型のクリーチャーと言えばそれなりに数が限られるのだが、一騎らの知る知識の中に、目の前の二人組に該当するクリーチャーはいない。
 自分たちの知らないクリーチャーなのだろうか。
「聞いているのか!? お前たちは何者なのだ! 誰の許可を取って、この場所に足を踏み入れているのだ!」
 獣人の片方が声を荒げる。かなり興奮していて、なにやら怒っているようだが、
「ごめんねー。この子ちょっと神経質だから。でも、確かに不思議なんだよねー、こんなところに誰か来るなんて」
 もう片方は、気楽な様子だった。まるで正反対の二人組だ。
 まったく違う反応を見せる二人なので、こちらもどう対応したものか決めかねていると、
「ボスのシマに不法侵入する奴は許さないのだ! ぶっ潰してやるのだ!」
「乱暴だなぁ。でもまぁ、どーせ抵抗されそうだし、先に大人しくしてから、話を聞こうか?」
 向けられる敵意が、確固なものとなった。
「結局そうなるのか……」
「恋、下がってて。俺たちでなんとかする」
「でも……」
「リオンって人に会うんだろう。だったら、ここは俺たちに任せて」
「……うん」
 恋は一歩後ろに下がり、それと同時に、一騎とミシェルが前に出る。
 獣人の二人組もまた、にじり寄ってくる。
「ボスのシマは荒らさせないのだ!」
「そーゆーわけだから、ちょっとだけ覚悟してくれると助かるなー」
「……やるか」
「うん。そうだね」
 双方の二人組が向き合う。
 そして、直後。
 彼らにとっての戦場が用意され、誘われる——

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.549 )
日時: 2017/03/19 03:40
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 ミシェルが相手するのは、大人しい方の獣人型クリーチャー。
 いまいちなにを考えているのかわからず、不気味な相手である。
「《ブラック・オブ・ライオネル》をチャージして、2マナで《ジャスミン》を召喚。もちろん破壊して、マナを増やすよ。ターン終了」
 ここでマナに落ちたのは《ブラック・オブ・ライオネル》。
 マナには《偽りの星夜 コングラチュレーション》も見えており、闇のエンジェル・コマンドが二枚見えた。
 ミシェルは確認するように、相手の超次元ゾーンにも目を向ける。

《勝利のガイアール・カイザー》
《魂の大番長「四つ牙」》
《タイタンの大地ジオ・ザ・マン》
《勝利のプリンプリン》
《時空の霊魔シュヴァル》
《ブーストグレンオー》
《時空の英雄アンタッチャブル》
《時空の喧嘩屋キル》

(《ジャスティス》入りの黒緑祝門ってところか……)
 中身は比較的普通で、汎用性の高いサイキックが並んでいるものの、《シュヴァル》の存在がその予想を確信に近づける。
 相手が祝門デッキなのであれば、《ウェディング・ゲート》を唱えられる前に決めてしまいたいところだが、
「……《ジョニーウォーカー》をチャージ。ターンエンドだ……」
 いまいち手札がよくない。
 色が上手く噛みあわず、他の初動も来ない。2ターン目の加速を逃して、ミシェルはターンを渡す。
(完全にハンドで《ロマノフ》を持て余したな……《カラフル・ダンス》が引ければいいんだが……)
 現在、ミシェルの手札には《ロマノフ》が二枚ある。墓地にある方が都合の良いカードで、手札にあっても使いにくいだけ。やや腐りかけており、少々困ったことになった。。
「私のターン。《ブラック・オブ・ライオネル》をチャージして……4マナで《超次元の手ブラックグリーン・ホール》を唱えるよ。墓地の《ジャスミン》をマナに置いて、《時空の霊魔シュヴァル》をバトルゾーンに出すねぇ。これでターンは終了かなぁ」
「あたしのターン……」
 2ターン目、4ターン目とテンポよく加速し、相手はかなり順調なようだ。
 完全にミシェルは出遅れてしまったが、
(! 引けた……!)
 ここで引きたかった《カラフル・ダンス》がドローできた。
 この呪文があれば、手札で持て余している《ロマノフ》をまとめて墓地に落とすことができる。
「《ロマノフⅠ世》をチャージして、ターンエンドだ」
 初動は相変わらず来ないので、このターンはなにもできない。出遅れていることに変わりはないが、無抵抗のままということはなくなりそうだ。
「私のターン。《ライフプラン》をチャージしてー……6マナ」
「来るか……?」
 そして、相手のマナに6マナが揃う。
 手札が二枚しかないので《ウェディング・ゲート》を唱えられても出て来るクリーチャーは一体だが、油断はできない。祝門で採用されるエンジェル・コマンドは、ピーキーだが強力な能力を持っているのだから。
 《ジャステイス》から呪文を唱えられるだけでも厄介だと、ミシェルが相手の動きを考えていると、
「《剛撃古龍テラネスク》を召喚だよ」
「《テラネスク》……? 祝門じゃないのか……」
 ミシェルの予想に反したクリーチャーが現れた。
 巨人の力を得た古代龍が戦場に現れると、大地を揺るがす咆哮を放つ。。



剛撃古龍テラネスク SR 自然文明 (6)
クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン/ジャイアント 5000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から3枚を表向きにする。その中から好きな数のクリーチャーを選んで手札に加え、残りをタップしてマナゾーンに置く。



「《テラネスク》の能力で、山札の上から三枚を見せるよー……で、《ダーク・ライフ》《聖霊左神ジャスティス》《テラネスク》の三枚をマナゾーンに」
「3マナ加速……!」
 手札補充とマナ加速を自由に使い分けられる、繋ぎとしては最高レベルのスペックを誇る《テラネスク》。その力で、一気に3マナも増えた。
 しかし、少し妙でもある。
 自然文明では貴重なドローソースにもなり得るクリーチャーなので、クリーチャーを引き入れるために使うのかと思っていたが、《ウェディング・ゲート》で出せる《コングラチュレーション》や、二枚目の《テラネスク》を手札に加えないのは、どういうことなのだろうか。
「流石にここまで見えてるカードで、祝門じゃないなんてあり得ないと思うが……あたしのターン。《ロマノフ》をマナチャージし、4マナで《カラフル・ダンス》! 山札の上から五枚をマナへ置き、マナから五枚を墓地へ!」
 気になるところではあるが、スタートダッシュに失敗したミシェルができることは限られている。とりあえず、《カラフル・ダンス》を唱えて、下準備をする。
 墓地に送ったのは《ロマノフⅠ世》が二体、《煉獄と魔弾の印》《ジョニーウォーカー》《デス・ハンズ》の五枚。マナには《ジョニーウォーカー》《ジャスミン》《クロスファイア》《デスゲート》が残った。
「さらに4マナで《白骨の守護者ホネンビー》! トップ三枚を落とし……」
 ここで落ちたのが《クロスファイア》《ロマノフⅡ世》《ホネンビー》の三枚。
 ミシェルはそこで思案する。
(ここはなにを回収すべきだ? 《クロスファイア》のG・ゼロは達しているが、こっちはかなり出遅れている。相手は9マナ。殴って手札を増やすのは得策ではないか)
 想定していた動きとは違う動きをされているので、少し不気味ではあるが、相手が祝門デッキであることに変わりはないはず。
 なら、中途半端な状態で殴って、《ウェディング・ゲート》などがトリガーしようものなら手痛いカウンターを喰らいかねない。
(今は4マナしかないし、《Ⅱ世》も遠い……《ホネンビー》でワンクッションおいて誤魔化すか)
 攻めるには時期尚早。そう判断して、ミシェルは《ホネンビー》をすくい取った。
「《ホネンビー》を回収する。ターンエンドだ」
「こっちのターンだねぇ。《ライフプラン》をチャージするよ……じゃあ、やっちゃおっか」
 これで、相手のマナは10マナ。
 相手はそれらすべてを、横に倒した。

「行くよー——《「十尾」の頂 バック・トゥ・ザ・オレ》」



「十尾」の頂 バック・トゥ・ザ・オレ  SR 無色 (10)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/ゼニス 11000
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、自分の山札を見る。その中からコスト6以下の呪文を2枚選び、相手に見せてもよい。その後、山札をシャッフルする。選んだ呪文のうち1枚を相手に選ばせて墓地に置く。もう1枚をコストを支払わずに唱える。
このクリーチャーが攻撃する時、コスト6以下の呪文を1枚、自分の墓地からコストを支払わずに唱えてもよい。その後、その呪文を自分の山札の一番下に置く。
W・ブレイカー
エターナル・Ω



「なっ……《バック・トゥ・ザ・オレ》!?」
 マナコストがすべて二桁に達するほど巨大な種族、ゼニス。
 マナコストの重さや、召喚時限定の能力があるなど、いくつか制約はあるものの、一体一体がゲームを決めかねないほど強力な力を持っている。
 あまりに巨大で、召喚しないと十分に効果を発揮できないことも多く、使用するには専用気味な構築になることが多いため、《ウェディング・ゲート》で踏み倒せるとはいえ、正直祝門デッキに採用されているとは思わなかった。
「《バック・トゥ・ザ・オレ》の召喚時能力を発動するよ。まずは山札から呪文を二枚選ぶねぇ……選ぶのは《超次元フェアリー・ホール》を二枚」
「選択肢はないか……」
 ゼニス特有の、召喚時限定の能力。《バック・トゥ・ザ・オレ》はコスト6以下の呪文を二枚、山札から選び、片方をタダで唱えられる。
 選んだ二枚のうち、どちらの呪文を唱えるかは相手が決めるのだが、同じカードを選べば当然、どちらを選んでも結果は同じとなり、確実なリクルートとなる。
「片方を墓地に置いて、もう片方を唱えるねぇ。1マナ加速、《タイタンの大地ジオ・ザ・マン》をバトルゾーンに出すよ」
「くっ……」
「ターン終了するけど、《ジオ・ザ・マン》の能力で《テラネスク》を回収……はい、君のターンね」
「あたしのターン……これは、厳しいぞ」
 相手の場には《シュヴァル》《テラネスク》《バック・トゥ・ザ・オレ》の三体。
 《テラネスク》はともかく、《シュヴァル》は覚醒にリーチがかかり、《バック・トゥ・ザ・オレ》も放置しておけば墓地から呪文を唱えられてしまう。
 加えて、《バック・トゥ・ザ・オレ》はゼニス特有のエターナル・Ωを持っているので、除去してもまた山札から呪文をリクルートされてしまうというのが、非常に厄介だ。
「……《ジャスミン》チャージ。2マナで《ジョニーウォーカー》を召喚だ。破壊してマナを追加。4マナで《ホネンビー》を召喚。トップ三枚を墓地へ」
 《シュヴァル》か《バック・トゥ・ザ・オレ》を処理したいところだが、マナもろくに溜まっていないミシェルができることなど、たかが知れている。
 今はまだ、耐えるしかない。
 ここで落ちたのは《ジャスミン》《ホネンビー》《ダーク・ライフ》の三枚。
(次はなにを回収すべきだ? 《クロスファイア》を握っておけば、《バック・トゥ・ザ・オレ》を殴り返せるが、どうせエターナル・Ωで戻されて、能力を使い回されるだけ……だったらここは、《煉獄と魔弾の印》が捲れることに賭けて、《Ⅱ世》を回収すべきか……?)
 運頼みになってしまうが、《クロスファイア》で殴り返すにしてもラグがある。呪文を連打されてアドバンテージに大きく差を付けられたら本当にどうしようもなくなりそうだ。
 《シュヴァル》が厄介ではあるが、相手の防御は薄い。なのでここは耐え忍びつつ、ロマノフサインからのワンショットキルに賭けることにした。
「墓地から《ロマノフⅡ世》を手札に加える。ターン終了だ」
 ミシェルのマナは6マナ。次のターンには出せるが、《シュヴァル》が怖い。
 とはいえ相手の手札は、《ジオ・ザ・マン》で回収した《テラネスク》のみ。次のターンにコスト6以上のエンジェル・コマンドが出て来ない可能性も十分にある。
 だが、しかし、
「7マナで《偽りの星夜 オレオレ・ダークネス》を召喚!」
「っ、ここでそいつを今引きか……!」
「登場時能力で、コマンドの数だけ手札を捨てちゃうねぇ」
 相手の場のコマンドの数は四体。
 ミシェルの手札四枚、つまりはすべてが墓地に叩き落された。
「さらに《バック・トゥ・ザ・オレ》で攻撃! その時、能力を使うよ。墓地から《フェアリー・ホール》を唱えて、1マナ加速。《魂の大番長「四つ牙」》をバトルゾーンに出すねぇ。そのままWブレイク!」
「……トリガーはない」
「じゃあターン終了しよう。ターンの終わりに、マナから《コングラチュレーション》を回収するよ」
 手札の次は盤面を制するつもりらしい。除去札となる《コングラチュレーション》を
「あたしのターン」
「あ、ここで《シュヴァル》の覚醒条件達成したね。《シュヴァル》を《シューヴェルト》に覚醒するよ」
 《バック・トゥ・ザ・オレ》と《オレオレ・ダークネス》で条件を満たし、《シュヴァル》が覚醒してしまう。
 これでミシェルは、クリーチャーを出せばシールドを回復され、呪文を唱えればシールドを減らされるという、厳しい状態になってしまう。
「……少し危険だが、使うか。《ホネンビー》をチャージして、5マナで詠唱! 《超次元ごっつぁん・ホール》! 《不死身のブーストグレンオー》をバトルゾーンに!」
「おっとっと、呪文を唱えたねー? 《シューヴェルト》の能力でシールドをブレイクするよ」
「トリガーはなしだ」
 呪文に反応した《シューヴェルト》が、自身の能力でミシェルのシールドを粉砕する。これでシールドは残り二枚。
 《オレオレ・ダークネス》のハンデスは痛烈だったが、《バック・トゥ・ザ・オレ》で殴ってくれて助かった。手札が増えたのだから。
「さらに、あたしの墓地にクリーチャーは十体! マナコストを10軽減し、2マナでこいつを召喚だ!」
 お陰で、少しだけ生き延びる道が見えた。

「《暴走龍 5000GT》!」

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.550 )
日時: 2017/03/22 06:06
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「《5000GT》の能力で、サイキック・クリーチャー、パワー5000以下のクリーチャーをすべて吹き飛ばす!」
「えぇー……そんなぁー」
 《5000GT》の前に、サイキックや弱小なクリーチャーは、その存在が許されない。
 この能力で、相手の場から《シューヴェルト》《ジオ・ザ・マン》《四つ牙》《テラネスク》の四体がまとめて消し飛んだ。
「あたしの場にもサイキックはいるが、《不死身のブーストグレンオー》はバトル以外では破壊されないから生き残るな。《5000GT》で《バック・トゥ・ザ・オレ》を攻撃!」
「《バック・トゥ・ザ・オレ》はエターナル・Ωで手札に戻るね。あと、《シューヴェルト》の能力でシールドも増やすよ」
 ゼニスにしてはパワーが低い《バック・トゥ・ザ・オレ》なら、《5000GT》でギリギリ殴り返せる。
 手札に戻ってしまったが、これで相手の場には《オレオレ・ダークネス》のみ。かなり盤面を取り返した。
「私のターン。再び《バック・トゥ・ザ・オレ》を召喚!」
「ま、そうだよなぁ……」
 残りシールド枚数的にダイレクトアタックに届いてしまうので、仕方なく《バック・トゥ・ザ・オレ》を殴り返したが、エターナル・Ωで手札に戻るということは、再び召喚時の能力を使われるということ。
 《5000GT》で破壊し尽くしたアドバンテージが、取り戻される。
「《バック・トゥ・ザ・オレ》の能力で、山札から《ウェディング・ゲート》を二枚選ぶよ」
「やっぱり選択権はないんだな……」
「片方を墓地に置いて、もう片方を唱えるねぇ。《コングラチュレーション》と《ブラック・オブ・ライオネル》をバトルゾーンに出すよー」
 黒き祝福の門から舞い降りる、闇の天使たち。
 戦戦地に降り立った瞬間、その力を解き放った。
「《コングラチュレーション》の能力で、シールドを一枚、墓地に置くよ。クリーチャーを二体、破壊してねー」
「《5000GT》と《不死身のブーストグレンオー》を選ぶが、《不死身のブーストグレンオー》は破壊されない」
「次に《ブラック・オブ・ライオネル》の能力で、シールドを一枚墓地に置くよ。さらに墓地のコマンド……《テラネスク》をシールドにするねぇ」
「……厳しすぎる状況だな」
 ミシェルのシールドは残り一枚。バトルゾーンには《不死身のブーストグレンオー》のみ。
 《5000GT》で壊滅させた場もすぐに立て直された。相手にはWブレイカーが四体で、うち一体が、墓地から呪文を唱える《バック・トゥ・ザ・オレ》。トリガーが一枚や二枚出たところで、耐えきれる打点ではない。
 加えて相手のシールドは七枚も残っている。生半可な攻撃さえも通らない。
「どうしたものか……あたしのターン」
 逆転手はなくもないが、無理に攻めるのもリスキーではある。
 とはいえここまで盤面を制圧されていると、どこかで無理をしなければいけないのも確かなのだが。
 自分が無理をする以上に、この状況が続く方がまずい。一刻も早く、なにかしら逆転に繋がる切札を引きたいところだ。
「! ここでこれか……!」
 そう思っていたら、引いた。
 切り札とは言い難いが、この状況であれば、この上なく有効に作用するカードを。
「……やるしかないな。6マナタップ!」
 次のターンにはとどめを刺されるような状況だ。無理ができるのであればするしかないし、そのタイミングは今しかない。
 ミシェルは今しがた引いたばかりのそのカードを、放つ。
「呪文、《地獄門デス・ゲート》!」
「!」
 ミシェルが引いたのは、《デス・ゲート》。
 墓地を絡めた除去カードで防御札。手撃ちも考慮した除去トリガーとして採用しているが、この状況では、ただの除去にとどまらない。
「《バック・トゥ・ザ・オレ》を破壊!」
「エターナル・Ωで《バック・トゥ・ザ・オレ》を手札に戻すよ」
「だが、墓地に行かなくともクリーチャーは復活できる。コスト10未満のクリーチャー……こいつだ!」
 《バック・トゥ・ザ・オレ》はコスト10のファッティ。強力だが、その巨大さが仇となることもある。
 《デス・ゲート》は飲み込んだ命が大きければ大きいほど、より強く大きな命を蘇らせる。
 ゼニスを飲み込んだ地獄の門は、死した闇の血統を、呼び覚ました。

「高貴なる血統を受け継ぎし騎士よ、邪眼の秘術を呼び起こせ——《邪眼教皇ロマノフⅡ世》!」



邪眼教皇ロマノフⅡ世 闇文明 (7)
クリーチャー:ダークロード/ドラゴン・ゾンビ/ナイト 8000
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札の上から5枚を墓地に置く。その中から、コスト6以下の呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。



 ミシェルが呼び戻すのは、コスト7の《ロマノフⅡ世》。《ロマノフ》の名と血筋を受け継ぎ、教皇の称号を得た邪眼財閥の2代目頭目。
 《Ⅰ世》とは違い攻撃時の能力は持っておらず、一発しか魔弾を放つことができないが、登場してすぐに呪文を放つことが可能という速射性が強みの《ロマノフ》。
 ただし、山札の上から五枚捲り、その中の呪文しか唱えられない。ありていに言えば、呪文を唱えられるかどうかは運任せなのだ。
 しかし今は、これに賭けるしかない。
「ここまで掘り進んだんだ、流石に捲れるだろ……《ロマノフⅡ世》の能力で、トップ五枚を墓地に落とし、その中からコスト6以下の呪文を唱える」
 ミシェルはデッキに手を置き、一気に五枚のカードを宙に放つ。
 宙を舞うカードが、一枚ずつ墓地へと落ちていく。落ちたのは《邪眼皇ロマノフⅠ世》《凶殺皇 デス・ハンズ》《ダーク・ライフ》《暴走龍 5000GT》——
「……ヒット!」
 そして、最後の一枚が——

「死を覆す邪眼の秘術よ、煉獄に墜ちし者を解き放て——《煉獄と魔弾の印》!」



煉獄と魔弾のエターナル・サイン 闇/火文明 (6)
呪文:ナイト
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
コスト7以下の進化ではない闇か火のクリーチャーを1体、自分の墓地からバトルゾーンに出す。そのターン、そのクリーチャーに「スピードアタッカー」を与える。



 邪眼の血統を蘇らせる呪印が結ばれた。
 赤き血と炎を捧げ、漆黒の闇が蠢く地獄と交わる。
 煉獄へと続く門扉は、放たれた魔弾が鍵となり、邪眼の印が道筋となる。
 復活の儀式を経て、最初の邪眼が目覚める——

「煉獄より蘇りし邪眼の始祖よ、阻む者を滅ぼし尽くせ——《邪眼皇ロマノフⅠ世》!」



邪眼皇ロマノフⅠ世 SR 闇文明 (7)
クリーチャー:ダークロード/ドラゴン・ゾンビ/ナイト 8000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、自分の山札を見る。その中から闇のカードを1枚選び、自分の墓地に置いてもよい。その後、山札をシャッフルする。
このクリーチャーが攻撃する時、自分の墓地にある闇のコストが6以下の呪文を1枚、コストを支払わずに唱えてもよい。その後、その呪文を自分の山札の一番下に置く。
W・ブレイカー



 《地獄門デス・ゲート》から始まり、《邪眼教皇ロマノフⅡ世》が《煉獄と魔弾の印》を唱え、《邪眼皇ロマノフⅠ世》が復活する。
 これで、逆転の準備は整った。
「まずは《ロマノフ》の登場時能力で、山札から《ロマノフⅠ世》を落とす」
 ついでにシールドの中身も見ておいたが、トリガーはないようだった。
 となるとやはり、リロードはできないようだ。
 今ある弾丸すべてを使い切るしかない。
「このターンでぶち抜くぞ。《煉獄と魔弾の印》の効果で、《ロマノフⅠ世》はスピードアタッカーだ。《ロマノフⅠ世》で攻撃する時、能力発動! 墓地からコスト6以下の闇の呪文を唱える。唱えるのは勿論《煉獄と魔弾の印》だ」
 《Ⅱ世》が唱えた呪文は、そのまま墓地に置かれる。失われたままの秘術を《Ⅰ世》の魔銃に装填。射出する。
「《煉獄と魔弾の印》の効果で二体目の《ロマノフⅠ世》を復活! 《ロマノフⅠ世》の能力で、山札から《煉獄と魔弾の印》を落とす」
「……あれ? これって、墓地の《ロマノフ》の数だけ攻撃できる?」
「正確には、《ロマノフⅠ世》の数+1だな。Wブレイク、トリガーは?」
「んー……ないねぇ」
「なら二体目の《ロマノフⅠ世》で攻撃! 墓地の《煉獄と魔弾の印》を唱え、三体目の《ロマノフⅠ世》を復活、山札の《煉獄と魔弾の印》を墓地に送り、Wブレイクだ!」
「これもトリガーないよ」
「三体目の《ロマノフ》で攻撃する時も、同じ挙動で四体目の《ロマノフ》をバトルゾーンに出す。《煉獄と魔弾の印》を落とし、Wブレイクだ!」
 俗にロマノフサインと呼ばれるコンボ。《ロマノフⅡ世》を起爆剤として、《煉獄と魔弾の印》によってスピードアタッカーを得た《ロマノフ》を復活、《ロマノフ》のアタックトリガーで《煉獄と魔弾の印》を唱え、次々と《ロマノフ》を繰り出す連続攻撃。
 普通なら途中でトリガーなどを踏んで攻撃を止められるか、殴り切ってしまうので、すべての《ロマノフ》を並べきるということはほとんどないのだが、ミシェルの場には四体の《ロマノフⅠ世》が揃った。
 それでもまだ、相手のシールドは削り切れていないのだが、残るアタッカーには《ロマノフⅠ世》と《不死身のブーストグレンオー》がいる。打点は足りていた。
「トリガーこないなぁ……」
 三体目の《ロマノフ》の攻撃でも、トリガーはなかった。相手のシールドは残り一枚。
 四体目の《ロマノフ》が撃鉄を落とし、魔銃を構える。
「これがラストだ。四体目の《ロマノフ》で攻撃! 墓地から《デス・ゲート》を唱える! 《コングラチュレーション》を破壊し、《クロスファイア》を復活! 最後のシールドをブレイクだ!」
 追加のアタッカーを用意しつつ、最後に残ったシールドを撃ち抜く。
 すると、最後のシールドが光の束となって収束した。
「……! 出たねぇ、S・トリガー《ウェディング・ゲート》! 《聖霊左神ジャスティス》と《偽りの星夜 ブラック・オブ・ライオネル》をバトルゾーンへ!」
「っ、これは、少しまずいか……?」
「《ジャスティス》で山札の上から五枚を墓地に置いてー……《超次元の手ブラックグリーン・ホール》を唱えるよ! 墓地の《ジャスミン》をマナに置いて、《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに出すね。《クロスファイア》を拘束するよ」
 《プリンプリン》によって、《クロスファイア》の攻撃が止められる。
 しかし、
「次に《ブラック・オブ・ライオネル》の能力でー、君のシールドを一枚墓地へ! 私の墓地から《ジャスティス》をシールドへ」
「……だが、《ロマノフⅠ世》はWブレイカーだ。その増えたシールドもブレイクするぞ」
「そうなんだよねぇ……当然、トリガーじゃないよ」
 アタッカーを一体止めただけでは、防ぎきれない。
 魔弾の硝煙が立ち込める戦場で、暴走した力にさえも屈しない、不死身の獣が牙を剥く。

「《不死身のブーストグレンオー》で、ダイレクトアタック!」


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