二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿3日目 「叡智を抱き戦場に立て21」 ( No.526 )
- 日時: 2016/11/01 04:19
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
「あははははっ! 本当に、楽しくなってきちゃった……っ!」
もはや笑い声と、緩んだ表情を隠そうともしない。
顕在化された彼の歓喜が、周囲に困惑を与える。
「つきにぃ、笑ってる……」
「一騎さんって、あんな風にも笑うんだ……ちょっと子供っぽいというか、かわいい……」
「む……あきら、それはどういう……」
「え? いや……」
暁の言うように、笑う一騎に年長者としての面影はなく、純粋にゲームを楽しむ少年そのものだった。
ひとしきり笑うと、顔に笑みを残したまま、一騎は浬の布陣に対して指摘する。
「たった1ターンで俺の場を殲滅したうえに、ブロッカーと囮、アタッカーを用意しつつ、シールド追加のプランまで立てるのは見事だよ、浬君。でも、浬君ならわかってると思うけど、その防御じゃ足りてないよ。君のチャンスは、トリガーワンチャンスだけだ」
「…………」
「まあ、言うより見せる方が早いよね。《グレンモルト》と《グレンモルト「覇」》を召喚! 《グレンモルト》に《ガイハート》を装備!」
一騎は再び二体の《グレンモルト》を呼び出す。当然、片方には《ガイハート》を装備させる。
この時点で、浬は一騎の攻撃を防ぎ切ることが出来なくなった。
「《グレンモルト「覇」》の攻撃で《ガイオウバーン》を装備して、《デコイ》を破壊。その攻撃は《ユリア・マティーナ》がブロックしてシールドを追加せざるを得ないだろうな。この時点で《ガイオウバーン》が龍解して、《ガイラオウ》が出る」
「そうなれば一騎君のアタッカーは《グレンモルト》と《ガイラオウ》、カイの守りはシールド一枚と《スペルビー》になるけど、《グレンモルト》が攻撃したら《ガイギンガ》が龍解する。そうなれば、実質的にアタッカーは三体。そのままダイレクトアタックまで届くわね」
「ってことは、浬さんは勝てないってことっすか?」
「そんな……」
「いや、シールド追加があるから、トリガーでワンチャンス残っていますけどねー」
しかし、あくまでワンチャンスだ。可能性として、耐えられるかもしれない、という程度でしかない。
《ユリア・マティーナ》でS・トリガーが仕込まれる可能性。その可能性が、それほど高いとは思えない。
それでも、浬はそれに賭けるしかないのだ。
不確定で未知数な、偶発的にしか起こり得ない可能性に。
しかし、
「さらに、3マナで呪文——」
一騎は、その可能性さえも、
「——《勝負だ!チャージャー》!」
潰しにかかる。
「っ!? 緑入りで、チャージャーだと……!?」
驚きを禁じ得ない浬。いや、浬だけではない。他の者たちも驚いている。
一騎のデッキは、赤単ドラグナーを軸として、タッチ気味に自然を入れている。それは素早くマナを溜めることで、強力な火文明のマナ武装を達成するためだ。
かつて一騎は、今の切り札である《ガイグレン》と戦った。あの時の《ガイグレン》は火文明のチャージャーを連打することで強引に火文明単色でマナ武装を達成させていたが、一騎は他文明の力を借りることで、スムーズに加速できるようにしている。
言い換えれば、自然文明を入れることで、わざわざチャージャー呪文をマナ加速のために入れる必要がなくなったのだ。にもかかわらず、一騎はここでチャージャー呪文を唱えた。
つまりこの呪文は、マナ加速が目的ではない。
「対象は《グレンモルト》だ。このターン、《グレンモルト》はアンタップキラーになる!」
「これはまさか……」
ふと、浬の頭の中で嫌な展開が浮かび上がってくる。
しかしその展開が完全に再現されるより早く、一騎が攻めてきた。
「まずは《グレンモルト「覇」》で攻撃! マナ武装7で《ガイオウバーン》を装備! 《デコイ》とバトル!」
「くっ……《ユリア・マティーナ》でブロック! ブロックしたことで、シールドを一枚追加!」
「こっちも、俺のクリーチャーがターン中に二回バトルに勝ったから、《ガイオウバーン》を《勝利の覇闘 ガイラオウ》に龍解!」
ここまでは予想通り。《グレンモルト》と《ガイラオウ》がアタッカーとして場に残っている状態。
しかし浬が予想できなかったのは、《グレンモルト》がアンタップキラーを付与されていること。
わざわざ《グレンモルト》にアンタップキラーを付与したということは、そこには理由があり、目的がある。
目的はともかく、少なくともその理由として、《グレンモルト》は自身に付与された力を行使する。
「《グレンモルト》で《スペルビー》を攻撃! シノビとかは、ないよね?」
「……はい」
《グレンモルト》が《スペルビー》をバトルで破壊する。
《ガイハート》を使う時によくあるテクニックだ。《ガイハート》は龍解すれば、そのまま勝負を決めてしまうほど強い。ゆえに、できるだけ安全に攻撃することが求められる。
たとえばそれは、パワーが高いクリーチャーへの自爆特攻であったり。
たとえばそれは、相手クリーチャーへの殴り返しだったり。
たとえばそれは、アンタップキラーを付与した攻撃だったり。
安全に、トリガーを踏むことなく、確実に龍解するための攻撃を、仕掛ける。
「これでターン中、二回の攻撃に成功した。よって、《ガイハート》の龍解条件成立!」
《グレンモルト「覇」》《グレンモルト》。二体の《グレンモルト》の攻撃によって、《ガイハート》は龍解条件となる二回の攻撃を達成する。
《グレンモルト》に装備された一振りの大剣が、裏返り、ひっくり返り——龍解する。
「龍解——《熱血星龍 ガイギンガ》!」
遂に、《ガイハート》が龍解し、《熱血星龍 ガイギンガ》が現れる。
浬の場には《アンタッチャブル》のみで、ブロッカーは全滅。シールドは一枚だけ。
一騎の場には《ガイギンガ》と《ガイラオウ》、二体のドラグハート・クリーチャーが控えている。
「念には念を、だ。これで君の勝てる確率を下げたよ」
「くっ……」
一騎が《勝負だ!チャージャー》で行ったことは、自らが勝てる確率の引き上げ。
浬としては、S・トリガーが出なければ負ける状況だが、逆に言えば、S・トリガーさえ出れば、そのまま勝てるのだ。
《スパイラル・ゲート》でも《水霊の計》でも《目的不明の作戦》でもいい。《グレンモルト》の攻撃時になにかが出て、《グレンモルト》さえ除去できれば、《ガイラオウ》の攻撃を《スペルビー》でブロックして、このターンは凌げた。
ただしそれは、《グレンモルト》がシールドをブレイクする場合だ。
《グレンモルト》が《勝負だ!チャージャー》でアンタップキラーとなり、直接クリーチャーを狙って安全に龍解したことで、浬は逆転可能なトリガーを制限されてしまった。
具体的には《スパイラル・ゲート》や《水霊の計》では無理だ。《ガイギンガ》選ぶことはできないので、対象を選ぶ除去では耐えられない。
耐えられる可能性があるとすれば、全体除去の《スパイラル・ハリケーン》か、《エナジー・ホール》で《マティーニ》を引っ張り出せる《目的不明の作戦》くらいなもの。
それらが引けるかどうか。確率が下がっただけであり、すべきことは、なにも変わらない。
「《ガイギンガ》の能力は不発だけど、これで決めるよ! 《ガイラオウ》で最後のシールドをブレイク!」
「っ、S・トリガー——」
これが、最後の一枚。
このシールドで、すべてが決まる。
《ガイギンガ》の攻撃を止められるトリガーか、そうではないのか。そもそもトリガーですらないかもしれない。
なんでもいい、だなんて言えない。来てほしいカードは選り好む。我儘かもしれないが、我を通さなければ勝つことはできない。
浬はそのシールドを捲る。
「《幾何学艦隊ピタゴラス》……!」
静寂だけが、世界だった。
言葉はない。声も、音も、なにもなかった。
やがて、ぽつりと浬がか細い声を絞り出す。
「……俺の……負けです」
「……うん。それじゃあ、決めるよ」
敗北と、勝利を、互いに受け入れる。
すべてが終結する区切りとして、一騎は、最後に宣言した。
「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック——」
- 番外編 合同合宿終了 「再び統治と誕生の世界へ」 ( No.527 )
- 日時: 2016/11/02 04:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
ガタン、ゴトンと一定のリズムで車体が揺れる。時間はわりと遅いが、まだ夏だということもあり、車窓から注がれるのは眩しいほどの夕陽だった。
三日間にわたる東鷲宮と烏ヶ森、二校合同合宿は終わった。烏ヶ森の面々とも別れ、遊戯部の部員たちは帰りの電車で揺られている。
「いやー、楽しかったわねぇ、合宿。色々と想定外のこともあったけど、それがチャラになるくらいには楽しかったわ。皆も仲良くなれたし、なんやかんやでやって良かったわ」
「…………」
「中学生だけで三日間も外泊なんて、なかなか厳しいものがあったけど、お屋敷一つ貸切っていうのが大きかったわね。お陰でおばさんの許可も取りやすかったし、柚ちゃん様々ね」
「…………」
「カイ? 私が話振ってんのに無視するのはやめなさい」
「なんで俺なんだよ」
遂に浬が口を開いた。いつも通りのムスッとした表情で、どこか機嫌が悪そうだ。
しかし沙弓もいつも通りで、そんな浬を無視して続ける。
「だって、暁も柚ちゃんも、こんなだからね」
横目で隣に座っている二人を見遣る。
暁も柚も、互いに肩を寄せ合い、小さな寝息を立てて眠っていた。
「三日目は午前中だけだったけど、あのトーナメントもだいぶ盛り上がったからね。二人とも疲れたんでしょう」
「……そのトーナメントのことなんだが」
浬は寝ている二人に視線を向ける。ぐっすりと眠っていて、なかなか起きそうにはない。それを確認すると、今度は沙弓に目を向けた。
まっすぐに彼女を見据える。どこか、非難がましい眼で。
「ゆみ姉。一つ、聞かせろ」
浬は「部長」ではなく「ゆみ姉」と呼んだ。
それはつまり、この場は自分たち二人だけの場であるとということ。
誰も関与しない、二人だけの空間であると、暗に主張しているということの表れだった。
二人だけだからこそ、言えることがある。二人でなければ、言えないことがある。
浬はずっと黙っていたそれを、口にした。
「なんで、あんなトーナメントやったんだ?」
「どういう意味かしら?」
「とぼけんな。あんたは知ってるだろ……俺のこと」
「まあね。それが?」
こともなげに、どこ吹く風で簡単に言ってのける沙弓。
その態度が、浬の神経を逆撫でする。
「知っててなんで、あんなことやったんだよ。対戦カードもランダム。場合によっては、俺はあいつと当たっていた」
「だから?」
「だからって……」
「あんまり自惚れないでほしいわね、カイ。確かにあなたは私にとって特別な存在であるけれど、だからといって特別扱いしてあげるわじゃないのよ。私には私のやりたいことがあるしね。それは、あなたがあなたとしてやりたいこととは別だし、互いに譲歩し合うものでもない」
「…………」
黙らされる浬。一言も言い返せなかった。
沙弓は畳み掛けるように、さらに続ける。
「あのトーナメントであなたがあの子と戦うことになっても、私には関係ない。それはあなたが計画するものであって、私はあなたのためにお膳立てなんてしないわよ」
「……わかったよ。俺が悪かった」
「だけどね、カイ」
スッと、沙弓の表情が和らぐ。
お互いに切り離された話し振りではなく、むしろ、こちらに歩み寄るように、彼女は告げる。
「仮にあなたが、あなたの目的のために謀反することになっても、その結果として遊戯部から離れることがあっても、それによって多くの非難や軽蔑を受けても、私だけは取り違えないから」
そして、
「そこだけは安心しなさい。どんなに多くの人を敵に回しても、私はあなたの味方よ、カイ君」
ガタン、ゴトンと。
車体が揺れる音だけが聞こえる静寂。規則的な振動が、二人の世界で響いている。
「……その呼び方やめろ。いつの呼び名だよ……むずむずする」
「うふふ、実は私もゆみ姉って呼ばれるたびにそんな感じしてたし、ちょっとは私の気持ちがわかったんじゃない?」
「あんたの気持ちなんて知るかよ」
だが、しかし、
「まあ、その、なんだ……」
少し戸惑う。言葉を選ぶ。自分で言おうとして困惑する。
口にするのも恥ずかしいが、これは言葉にしなくてはいけないような気がする。
だから浬は、しっかりと告げた。
「……ありがとうな、ゆみ姉」
「別に。私もあなたには恩があるし、可愛げなくても大事な弟分で副部長だからね」
また静寂。しかし今度は、ずっと短い静寂だった。
「合宿、どうだった?」
「……楽しかったよ。ありがとうな、ゆみ姉」
「そう、それはよかったわ。というか、なんだかんだであなたが一番楽しそうにしてたわよね」
「楽しかったことは認める。今までにない体験、経験ができて、色んな話も聞いた。見聞も広がったと思う……とにかく、いい刺激だった」
「私としては、そんなことは関係なしに、単純に楽しんでほしかったけどね。でも、そうね。糧になったと言えば、カイと一騎君があんなに意気投合するだなんて、私は思ってもみなかったわ……私の目的としては、ハチ君と仲良くなってもらう予定だったのに。まさか一騎君とはねぇ……お互い逆ベクトルに生きてると思ってたけど、蓋を開けてみれば意外と似た者同士っていうのが面白いわね」
「そういえばゆみ姉。あんたはいつの間に一騎さんと仲良くなってたんだ? 夜にどうこう言ってたが……」
「あぁ、あれね。別に大したことじゃないわ。まあ、あの夜のことはしばらく忘れられそうにないけど」
「……これはどう解釈すればいいんだ? 二人の人間性を信用していいのか……?」
「ご自由にー」
ひらひらと手を振って軽く流す沙弓。彼女と一騎の言う「あの夜のこと」は、いまだ誰もその全貌を知らない。
それっきり、二人の間で会話がなくなり、また静寂が訪れるが、この静けさもまた、長くは続かなかった。
少しばかりの雑音の直後、車内にアナウンスが流れる。
『次は、中雀、中雀。お降りのお客様は——』
「着いたか。電車の移動だけでも結構かかったな」
「安いプランにしたら変なルートになったしね。加えて鈍行ばっかりだと、そうなるわ」
「こいつら、起こさなくてもいいのか」
「いやいや、いいわけないでしょう。暁、柚ちゃん。ほら、駅着いたわよ」
「んにゃ……? ぶちょう……?」
「ふぁ……わたし、ねちゃってました……?」
「ぐっすりスリーピングだったわね。ほら、早く出る準備しなさい」
沙弓に促され、まだ少し寝ぼけ眼のままだったが、暁と柚はそれぞれ荷物を持つ。
電車が止まり、扉が開くと、四人は駅のホームへと降り立つ。
「帰ってきたぁー!」
「長かったですね……」
「ここまで来たら、もう各自解散でいいわよね」
そんな沙弓の一言で、旅の疲れもあってか各々は素早く帰路につく。
長かった合宿は、これで終わった。
しかし、彼女たちの夏はまだ長い。
革命と侵略の抗争。新たな神話。反転する運命。世界を崩壊へと導く意志。
そこにあるのは、温くて甘い日常とは程遠い、非現実的で壮大な世界。
一時の安寧は、ひとまずここまで。
また、かの世界へと戻って行こう——
- 番外編:合宿のしおり ( No.528 )
- 日時: 2016/11/05 01:33
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
東鷲宮中学・烏ヶ森学園
二校合同合宿のしおり
1日目「陽光の下に大海あり」
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1日目「花園へ至る道の防衛線」
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1日目「月夜に二人は冥府を語る」
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2日目「慈悲なき遊戯は豊潤が全て」
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3日目「叡智を抱き戦場に立て」
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合宿終了「再び統治と誕生の世界へ」
>>527
- 135話「Φ」 ( No.529 )
- 日時: 2016/11/05 14:08
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
——おにーちゃん、なにやってるの?
——デュエマっていうんだ。学校では、みんなやってるよ
——おもしろそう! おにーちゃんがやってるなら、わたしもやりたい!
——いいよ。ルール、おしえてあげるよ
——わーい! ありがとっ、おにーちゃん!
——ほい、とどめ
——うー、まけたぁ。おにいちゃん、そのカードなに?
——このみにもらった
——えー、いいなー! わたしもほしい!
——いやだよ。これはぼくのだ
——ほしいよほしいよ! おにいちゃん!
——あーもう、しかたないやつだな……
——お兄ちゃん! 見て見て! あたらしいデッキつくった!
——へぇ、どれどれ……ん? これって、ぼくのデッキとほとんど同じじゃないか
——えへへー、お兄ちゃんとおそろいー
——ぼくのマネしたって意味ないだろう……
——なぁ、これあげるよ
——なにこのカード? キラキラしててすっごく強そう! もらっていいの?
——いいよ
——やったぁ! お兄ちゃん、ありがとう!
——……プレミアム殿堂して使えないし、こいつに押し付けておけばとりあえずいいだろ
——ん? なにか言った?
——いや……なにも
——ちょっとお兄ちゃん! この前もらったカード、使えないってゆずに言われたよ! どーゆーこと!?
——遂に気づいたか……馬鹿なお前にしては早かったな
——馬鹿ってなにさ! なんでお兄ちゃんはいつも私のことを馬鹿にするの!
——だって馬鹿だしな。なぜ血の繋がりがないのに、このみの遺伝子が受け継がれているのか……
——とにかく! これ返す! 使えないならいらない!
——いや、僕もいらないし。いいから持っとけよ、そのうち使えるかもしれないし
——またそーやって私を騙そうとする……!
——馬鹿だから騙されるんだ。お前も柚ちゃんを見習って、もう少し落ち着いて思慮深くなるべきだ
——し、しりょ……? なに?
——やっぱり馬鹿か……
——お兄ちゃん、もう中学生かぁ。いいないいな
——なにが? お前もそのうちなれるだろ
——私まだ三年生だから、あと三年もあるよ! 待ちきれないよ
——四年な。まあ、もうすぐお前も四年生だけど
——お兄ちゃんと同じ学校じゃなくなるんだね。いっしょに学校、いけないのかー……
——そうだな。三つ違いだから、中学も高校も、もう一緒にはならないな
——なんか、さびしいな……
——あ、でも大学は四年間だっけ。一年は一緒になれるな
——そんなに待てないよ!
——お兄ちゃん、デュエマしよ! 新しいデッキ組んだんだよ!
——悪い、今は無理だ。ちょっとこのみと御舟と用があって
——あ、そっか……わかった
——お前の相手はまた今度してやるよ。じゃあな
——うん……
——お兄ちゃん……お兄ちゃん?
——お兄ちゃん……どこ……? どこにいるの……?
——私を、おいてかないで——
「——お兄ちゃんっ!」
ガバッ
暁は、勢いよく身を起こした。
目の前には岩肌。そこには誰もいない。
「…………」
左右、前後、上下、周囲を見回しても、誰もいない。
最後にさっきまで頭の中で渦巻いていた映像を思い起こして、ぼそりと呟く。
「……変な夢。気持ちわる……」
気付けば変な寝汗もかいている。二重に不快だった。
「はぁ……なんで今さら、こんな夢……」
ふと、枕元に置いてあるデッキケースに触れる。
誰ものもでもない、自分のデッキがそこにはあるはずだった。今は、そうではないが。
「メラリーにカードをもらってから、なんか変な感じだなぁ……落ち着かないっていうか、胸の奥がむずむずする……」
誰に言うでもなく一人で愚痴を垂れるように呟く暁。小さな声は洞穴の中で響くこともなく、静寂に飲み込まれる。
「……お兄ちゃん」
暁は炎天下の渓谷を歩き続ける。
メラリーと別れてから丸一日は歩き通したが、道に終わりは見えなかった。
終わりの見えない道を歩む。それは、終わりを見据えて生きる人間にとっては、この上ない苦行であった。
それでも暁が歩み続けられるのは、信じているからだろう。
仲間たちのことを。
愚直な盲信と言われても仕方ないくらいに根拠がない信頼だが、それが今の彼女の支えとなっている。
それに、メラリーに与えられたものも、大きく力となっているだろう。
「ん……」
渓谷の岩壁に、穴が空いている。洞穴だ。
そろそろ疲労も溜まってきたところだ。ちょうど休憩したいと思っていたので、暁は早足で駆け込んだ。
「ふぅ……」
袖で汗を拭ってから、袋の中に手を突っ込んで水の入ったボトルを取り出し、口を付ける。
「……それにしても、不思議な袋だよねぇ」
ボトルを地面に置いて、一人呟く。
「そんなに重くないし、大きくないのに、なんかたくさんものが入ってるし……どうなってるんだろ。四次元ポケット?」
メラリーに渡された袋の中には、水と食料を初めとした、最低限の生活用品が入っていた。その量も十分すぎるほどにある。全力で飲み食いしても、終わりが見えないくらいには入っている。
それだけの量の物資が入っていれば、当然ながら運搬も難しいはずだ。総質量は女子中学生が引きずって運ぶのもきついだろう。そもそも、それだけの物資を一人が人力で運ぶということ自体、おかしい。
しかし、暁は運搬に関してはまるで苦労をしていない。通学鞄とさほど変わらない大きさ、重さの袋を苦もなく背負い、喉が渇けば水が出て、腹が減れば食べ物が出る。
正に四次元ポケットのような袋だった。
これの存在が、暁を肉体的に支えていた。ここから出てくる水や食料がなければ、暁はとっくに倒れている。流石の暁も、信じているだなんて根性頼りの精神論だけで生きていけるほど、頑丈かつ能天気にはできていない。水や食料のアテがあるからこそ、肉体的にも精神的にも健康体でいられるのだ。
「デッキもくれたし、メラリーには本当に感謝してるけど……」
しかし、疑問がないわけではなかった。
これでも暁は、考える方なのだ。脳の機能がその思考に追いつかないだけで、結果を出す途中で知識や能力の不足によって挫折するだけで、考えようとする頭はあるのだ。
それは、両親には兄妹で似ていると言われた。そこだけが、少し気に食わなかった。
善意そのものは素直に受け取るが、受け取ってから、今までの道中でも、考えた。考えることは得意ではなかったが、他にすることもなかったので、慣れないながらも頭を働かせて、考えたのだ。
「メラリーは、なんで——」
「——見つけたよ」
と、その時。
洞穴の入口から、声が聞こえてきた。男——まだ年若そうな、子供の声だ。
ハッと顔を上げると、そこには一人の少年が立っていた。若い、というより幼い。暁たちと、歳はそう変わらなさそうに見える。体つきも、小柄で華奢。肌は色白で、髪はさらさらの金髪。エメラルドグリーンの瞳が特徴的だ。
一瞬、少女と見間違えそうなほどの美少年だった。
少年は、弾むような声で言う。
「えーっと、太陽の語り手の女の子……アキラちゃん、だよね?」
「……誰? なんで私のこと知ってるの?」
「ぼくはファイ。君のことは聞いたの。ともだちから」
「ともだちから?」
「うん、はちさんから」
はちさん——はち、ハチ、蜂。
——『蜂』。
暁は、いつかの寄生虫を思い出した。
彼女の目が、スッと細くなる。
「……あいつの仲間なの?」
「うん。はちさんはぼくのおともだちだよ。はちさんと、ガジュマルさんと、ぼく。三人いつも一緒だよ」
ガジュマル。その名も聞いたことがある。
やはりあの『蜂』の仲間。はちさんというのも、『蜂』のことで間違いないだろう。
柚を——大切な親友を傷つけた、寄生虫の。
「私になんの用?」
「なんの? んっと、えーっとねー……」
ファイは幼げな言葉遣いで、思案する。言葉を選んでいるようだ。
「んー、ぼくとしては、ともだちになりにきた、のかな?」
「ともだちに?」
「うん、そう。ぼくと、ともだちになろうよ」
無邪気に笑い、手を差し伸べるファイ。
その姿は、同年代の少年を相手にするのと変わらない。ともすれば、もっと幼い時代を想起させ得る様相だ。
彼の言葉に嘘偽りはない。欺瞞も虚飾も、陰謀も策謀もない。透き通るほど純粋な言葉で、そのままの意味で、そう言っているのだ。
本来なら、暁はこんな純真で純朴な少年の笑顔を消すようなことは言わないし、好き好んで言いたいとも思わない。幼き日の記憶を思い起こさせる少年の言葉には、少なからず引かれるものは確かにあった。だが、
「……でもさ。君、あの『蜂』の仲間なんでしょ?」
「うん、そうだよ」
「それなら、ともだちにはなれないよ」
たとえ彼そのものに邪気がなくとも、彼の裏に控える存在には、邪な思惑を感じずにはいられない。
「なんで? どうして? はちさん、優しいよ?」
「優しい? そんなわけない!」
暁は、力強くファイの言葉を否定する。
「あいつは私の友達を傷つけた。そんな奴の仲間には、なりたくない!」
「うーん、でもぼくは、はちさんにお願いされてるんだよ。アキラちゃんと、ともだちになってきて、って」
「何度頼まれても、私は嫌だよ。絶対に嫌」
そして、断固として拒否の姿勢を見せる。
柚に寄生し、その身を使って遊戯部の面々から英雄の力を奪い取った『蜂』。
あの時の傷は癒え、奪われた力は取り戻せたかもしれないが、そこにあった陰謀と結果は消えない。仲間が傷つけられたという事実は残る。
それがある限り、暁は決して彼らへはなびかない。その意思は強固で、絶対的なものだった。
「どうしよう、はちさん……」
暁の揺るがない意志をファイも感じ取ったようで、弱ったように呻くファイ。
目を閉じて、静かに自身の腹を撫でるような仕草を見せると、彼はパッと顔を上げた。
「……うん、わかったよ」
そして彼は、『蜂』の意志に従う。
「じゃあ——こうしよう」
固い意思に別の意志を通すのならば、無理やりこじ開けるしかない。
その意思が固ければ固いほど、大きな力で。
「っ、神話空間……!」
「少し強引でもいいからって、はちさんは言ってたよ……だから、ごめんね」
周囲の空間が変質していくのを肌で感じる。何度も味わった感覚だ。
次は視覚で感じる。目に見えて、空間が歪む。天地がつかめないほどに歪むと、最後に刹那の暗転。
気づいた時には、完全で完璧な神話空間が広がっていた——
- 136話「サバイバー進化論」 ( No.530 )
- 日時: 2017/01/21 14:26
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
暁とファイのデュエル。
まだお互いのシールドは五枚。バトルゾーンにクリーチャーもいない。
先に動いたのは、ファイだった。
「《電磁星樹アマリンα》を召喚! ターン終了だよ」
「先を越されちゃったね。なら私は、《シルド・ポルカ》を召喚!」
「ぼくのターン。でてきてっ、《猛毒モクレンβ》!」
ファイはさらにクリーチャーを並べてくる。それは、非常に毒々しい姿をした、巨大な木蓮の木。
その姿が指し示すとおり、それはただの植物ではない。体内に猛毒を秘めた、意志を持つクリーチャーだ。
「《アマリンα》で攻撃! その時、能力で山札からマナを追加!」
「え、ちょ、ちょっと待って! 《アマリンα》は能力のないクリーチャーでしょ? それに、光と水でマナ加速っておかしいじゃん!」
クリーチャーを呼ぶと、すぐさま攻撃に移るファイ。だが、その攻撃が、非常に不可解だった。
本来ならなにも能力を持たないはずの《アマリンα》が、まるで自然文明の力を得たかのように、大地に養分を与えている。しかもその養分は、一見すると非常に禍々しい色をしており、まるで猛毒のようだ。
さらに、見れば《アマリンα》と《モクレンβ》の体内に埋まる球体が、共鳴するかのように発光していた。
「えへへ、これがサバイバー——ぼくの“ともだち”の力だよ」
はにかむように、ファイは言った。誇らしげに、友を自慢するかのように、無邪気な笑顔で。
「サバイバーは、サバイブっていう能力がある。サバイブを持つ能力は、サバイバー同士でその能力を共有できるんだ。《アマリンα》も《モクレンβ》もサバイバー。だから、《アマリンα》は《モクレンβ》の能力を使うことができるんだよ」
「うっそ、そんな能力アリ……?」
同族同士で共有しあう種族、サバイバー。単体での力は、それほど強くはない。一体一体のカードパワーなら、単純比較はできないとはいえ、暁に分があるだろう。
しかしサバイバーはその性質故に、クリーチャーを展開することで、その力を発揮する。大群となった時には、暁のクリーチャーでも太刀打ちできないほどの脅威となりかねない。
ならば、
「サバイバー同士で能力を共有する、か……だったら、並べられる前に倒すだけだよ! 《シルド・ポルカ》の能力発動!」
《アマリンα》の電磁波が暁のシールドを割る、その時。
《シルド・ポルカ》の身体が大きく燃え盛る。
「シールド・セイバーで《シルド・ポルカ》を破壊、シールドを守るよ。さらに《シルド・ポルカ》が場を離れたから、《モクレンβ》を破壊!」
「あ……ぼくのともだちが……」
《シルド・ポルカ》は炎となり、弾け飛ぶ。その炎が《モクレンβ》の身体を燃やし尽くした。
「私のターン! 《燃えるメラッチ》を召喚して、ターン終了だよ」
「だったら《トリトーンβ》を召喚だよ! 《アマリンα》で攻撃する時、《トリトーンβ》の能力を共有して、一枚ドロー! シールドブレイク!」
ファイは《アマリンα》で攻撃。その際にも《トリトーンβ》の、攻撃時にドローする能力を《アマリンα》と共有し、手札を増やす。
「私のターン! ……ん?」
攻めながら手札やマナを整えていくファイに対して、暁はその対抗策となり得るかもしれないカードを引く。
かもしれないというのは、まだファイの力の底が見えないから。
そして、
「これ……鎖?」
そのカードの全貌が、わからないからだった。
テキストの欄に鎖が巻かれており、能力が読めない。
「こんなカードあったんだ……ちゃんとデッキの中身確認しておけばよかったよ。でも……」
召喚コスト、パワー、そして最低限の召喚条件だけは理解した。
後は、どうとでもなる。
「《燃えるメラッチ》の能力で、私の火の進化クリーチャーの召喚コストを2軽減! 5マナで《メラッチ》を進化!」
《メラッチ》の支援を受け、革命の囀りが大空に響き渡った。
革命が起こる時、羽ばたいた小鳥は、龍として飛翔する——
「——《燃える革命 ドギラゴン》!」
《燃えるメラッチ》は進化して、《燃える革命 ドギラゴン》となる。
龍の先に存在する龍、ドラゴンを超えたドラゴン。それが《ドギラゴン》。
しかしその肉体には幾重にも鎖が巻かれ、縛りつけられており、身体を動かすのも不自由そうだった。
「強そうなクリーチャーが出たけど……なんで鎖で縛られてるの?」
「そんなの私が知りたいよ。メラリーは、このことについてなにも言ってなかったし」
鎖は主に、盾の装着された胴体と、そこから伸びる剣を束縛している。動きづらそうではあるが、決して攻撃できないわけではないようだ。
「これで攻撃できなかったら大損だしね。能力はなにも発動しないっぽいけど……とにかく、《ドギラゴン》で《アマリンα》を攻撃だよ!」
《ドギラゴン》は鎖に縛られた不自由そうな身体で空を翔け、押し潰すように《アマリンα》を破壊する。
大群となれば恐ろしいまでの力を発揮するサバイバーだが、逆に言えば、単体ならばそれほどの脅威ではない。数を並べられる前に破壊して、押し切ってしまえば、勝機は十分にあった。
そう思われたが、
「むぅ、鎖で縛られたクリーチャーにやられるなんて……でも、ぼくのともだちは、小さい子ばっかりじゃないんだよ! 《キング・ムーγ》を召喚!」
キング・ムーγ 水文明 (6)
クリーチャー:リヴァイアサン[サバイバー] 6000
W・ブレイカー
SV—このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを1体選び、手札に戻す。
サバイバー
新たに表れたサバイバーは、大陸にも匹敵するほどの巨大な魚竜。大海を統べるリヴァイアサンだった。
「登場時の能力で《ドギラゴン》を手札に!」
《キング・ムーγ》は大波を引き起こし、暁のクリーチャーを手札に押し返す。
サイズとしてもそれなりに大きく、登場時にクリーチャーを除去。その能力をサバイバー同士で共有するのだ。《キング・ムーγ》がいる限り、展開すればするほど、暁のクリーチャーを除去してフィールドアドバンテージを広げていく。
これでは、逆に暁の展開が阻害されてしまう。
「ぼくはターン終了だよ」
「攻撃しないんだ。じゃあ、私のターン。とりあえず《ドギラゴン》は重いし、能力使えないし、マナに置こうかな……うーん」
考え込む暁。
《キング・ムーγ》のせいで、クリーチャーが出しづらい。下手に出してもすぐに手札に戻されてしまうので、テンポを奪われる。そのため、呼び出すクリーチャーにも気を遣わなくてはならなかった。
「……よし、4マナで《ハート・メラッチ》を召喚! コスト3以下の《トリトーンβ》を破壊! さらに《ビシット・アメッチ》召喚! ターン終了!」
暁の選択は、やはり盤面の除去。場に残っているだけで、互いに能力を共有するのだ。数は減らしておきたい。なので《ハート・メラッチ》で《トリトーンβ》を焼き払う。
互いに盤面を取り合うような形の暁とファイだが、ここでまた、ファイが大きなクリーチャーを呼び出す。
「それなら、これはどうかなっ? 《雲上の精霊オービスγ》を召喚!」
雲上の精霊オービスγ 光文明 (7)
クリーチャー:エンジェル・コマンド[サバイバー] 7500
ブロッカー
W・ブレイカー
SV—このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のアンタップしているクリーチャーを1体選び、タップする。そのクリーチャーは、次の相手のターンのはじめにアンタップしない。
サバイバー
次に現れたのは、精霊だ。機械的な身体を持ち、遥か雲の上から洗礼を浴びせる、漂流の天使。
身体に埋め込まれた、漂流者の証たるオーブを輝かせ、《オービスγ》は停止の光を放つ。
「《オービスγ》の能力で、《ビシット・アメッチ》をタップ! 次のターンアンタップもできないよ! 続けて《キング・ムーγ》の能力も共有するから、《ハート・メラッチ》を手札に!」
「フリーズとバウンスを同時に……!?」
「えへへ。でも、フリーズの方はタップだけで十分! 《キング・ムーγ》で《ビシット・アメッチ》を攻撃だよ!」
《キング・ムーγ》の尻尾の一撃で、《ビシット・アメッチ》が吹き飛ばされる。
バウンスだけでなく、《オービスγ》によって、サバイバーが出るたびにフリーズもされてしまうようになった。一体のクリーチャーが出るだけで、暁は二体のクリーチャーを無力化される。盤面の制圧が、どんどん進んでいく。
流石にこのままではまずい。どうにかして、片方だけでも除去しなければならない。
「ちょっと運任せだけど、呪文《天守閣 龍王武陣》を発動! 山札の上から五枚を見て……《ストライク・アメッチ》を選ぶよ! 《ストライク・アメッチ》のパワーは7000だから、《キング・ムーγ》を破壊!」
「あぁ! 《キング・ムーγ》が……!」
なんとか《キング・ムーγ》は破壊する。これで、少なくとも場から退かされることはなくなった。
しかし相手クリーチャーに手こずっている間にも、ファイは着々と軍団を形成しようとしている。
「《飛散する斧 プロメテウス》を召喚! 山札の上から二枚をマナに置いて……マナゾーンから《シェル・ファクトリーγ》を手札に戻すよ!」
「私のターン! 《燃えるメラッチ》と、《ハート・メラッチ》を召喚! ターン終了」
遂にサバイバーでないクリーチャーが見えたが、マナと手札を同時に増やす《プロメテウス》だ。純粋に汎用性が高く、色が合えば多くのデッキに入るようなカードであるため、ファイのデッキでも潤滑油のような働きをしているのだろう。次のターンへの布石だ。
暁はとにかくクリーチャーを並べることしかできない。幸いにも《燃えるメラッチ》はバトルでは破壊されない。《オービスγ》の的になることはない。
「ぼくのターン」
しかしファイはここで砦を築く。
漂流者たちが生き残るための、生きた砦を。
「《シェル・ファクトリーγ》を召喚!」
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