二次創作小説(紙ほか)

■漢字にルビが振れるようになりました!使用方法は漢字のよみがなを半角かっこで括るだけ。
 入力例)鳴(な)かぬなら 鳴(な)くまでまとう 不如帰(ホトトギス)

デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.329 )
日時: 2016/03/03 03:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「……コルル」
「どうしたんだ、暁?」
「私、分かったかもしれない」
 柚を捜索する暁とコルル。しかし、探せど探せど、いくら歩き回っても、柚の姿は見えない。
 それでもめげずに、暁はどんどん森の奥へと入っていき、柚の捜索を続けていた。
 捜索を始めてからかなりの時間が経ったある時、暁はふとそう言った。
「ずっと考えてたんだよ。今、私たちがどんな状況にあるのか」
「そうだったのか? 悪い、オレ、柚やプルを探すだけで頭がいっぱいで、そっちまで気が回らなかったよ」
「ううん、いいの。私も最初はそうだったんだけど、昔のことをちょっと思い出してさ。そうしたら、分かったんだよ」
「なにが分かったんだ? これは一体、どういう状況なんだ?」
「うん、あのね。私たち……」
 暁は、彼女らしからぬ神妙な面持ちで、おもむろに口を開く。

「……迷ったよね」

「へ?」
 一瞬、コルルは言葉を失う。いったい暁はなにを言っているんだ、と。
 暁は続けた。
「昔さ、小学校低学年くらいの頃に、ゆずと近くの雑木林を探検してたんだけど、途中ではぐれて、道に迷っちゃってね。あの時のゆずは、今以上におどおどしてて、泣き虫で、私がそばにいなきゃ! って思ってたから、ずっと必死で探したんだよ。でもさ」
「でも……?」
「あれ、実はゆずが迷子になったんじゃなくて、私が迷子だったんだよね。ゆず、先に林を出て家に帰って事情を話したみたいでさ、ゆずんちの黒服のおじさんたちが迎えに来てくれて、私はそれに気づいたの。それを、今思い出した。それで分かったんだ」
 それは、つまり、
「私たちは迷子だよ。帰り道わかんない」
「大丈夫か!? おい暁、しっかりしてくれよ!」
 いきなりそんなことをカミングアウトされ、焦るコルル。
 この森はかなり深い。下手に迷ったら出て来れなくなることは火を見るより明らかだ。
 しかしその事実を気づかせた当人は、さほど焦る様子もなく返した。
「んー、きっと大丈夫だよ。部長とかリュンとかが迎えに来てくれるって」
「本当か? 本当に大丈夫なのか?」
「たぶんね」
 非常に不安な言葉だった。
 いずれリュンが戻ってくるはずとはいえ、いつ戻ってくるかなんて分からない。どれほどの時間、この暗い森を歩かなければいけないのかと思うと、途端に暗い気分になる。
「迷子になっちゃったものは仕方ないし、とりあえずゆずを探そう。ゆずも迷子なんだから」
「前向きだなぁ、暁は。でも、オレは暁のそーゆーところ、好きだぜ」
「お兄ちゃんには能天気って言われるんだけどね。でも、ありがと」
 そうして、二人はまた明るい表情を取り戻しつつ、歩を進める。
 それからほどなくして。
「……暁」
「コルル? どうしたの?」
「今、なにか聞こえたぞ」
「なにかって、なにが聞こえたの?」
「分からないけど、なんか、乾いたような音だ。耳に残る感じの」
「んー……?」
 コルルに言われて、暁も耳を澄ます。
 木々が擦れる音。風の音。それらが合わさった森のざわめき。
 静かな自然のハーモニーが鼓膜を震わせているが、そこに、なにかが混じってきた。

 ——パァン——

「っ、聞こえた!」
「やっぱりか」
「今の音はなんだろう? 運動会のピストルみたいだったけど」
「とりあえず行こうぜ!」
「うんっ!」
 暁たちは、その音に向かって走り出した。
 時々立ち止まり、耳を澄ます。音は少しずつ大きくなっているので、確実に近づいている。
 また走る。耳を澄まして音の方向を探り、走り出す。遠のいたら後戻りして、とにかく走り続ける。
 そうしてしばらく走り続け、そして、音の発生源を見つけた。
 太い木の幹にもたれかかり、息も絶え絶えになった、闇夜のような黒衣を纏う者。
「——ドライゼ!?」
「……やっと来たか」
 ドライゼは力なく言った。
「だが、空砲を撃ち続けた甲斐は、あったな……」
「さっきの音って、ドライゼの銃の音だったの? なんでそんなことを……っていうか、ボロボロだけど、どうしたの!?」
「……嬢ちゃんにやられたのさ」
 ドライゼはマガジンが抜かれた銃口を、指の代わりに差し向けた。
 その方向には、同じように木の幹に背中を預け、ぐったりとしている浬と沙弓の姿があった。
「部長! 浬!」
 暁が慌てて駆け寄る。大きな声で呼びかけ、身体を揺する。
 すると、小さな呻き声が聞こえる。少なくとも生きてはいるようだった。
「暁……?」
「どうしたの部長、なにがあったんですか?」
「……暁、よく聞きなさい」
 沙弓も肩で息をしながら、弱々しい声を発する。
 しかし、それでも彼女は、暁に伝えなければならなかった。
 たとえ彼女にとって残酷な現実だったとしても。
 自分たちの仲間に起った、異変を——

「柚ちゃんが、私たちを狙っているわ」

 暁には沙弓の言葉が理解できなかった。
 柚が、自分たちを狙っている。
 なぜなのか、なにを狙っているのか、分からなかった。
「正確には、英雄、かしらね……」
「英雄? 《ガイゲンスイ》たちのこと?」
「えぇ、後で私のデッキを見せてあげる。カイのデッキも見るといいわ……私からは《ツミトバツ》、カイからは《デカルトQ》が、抜き取られているはずよ」
「抜き取られてるって……誰がそんなことを……」
「柚ちゃんよ」
 沙弓は、はっきりと言った。
 迷いも濁りもない、断言だった。
「私たちは、あの子にやられたの」
「…………」
 信じられなかった。信じたくなかった。
 あの柚が、沙弓や浬に、手をあげるなど。
 そんな事実を、暁は認められない。
「な、なに言ってるんですか部長、ゆずがそんなことするわけ——」
「暁」
 言葉を遮って、沙弓は諭すように暁へと語りかける。
「私だって認めたくないけど、今のあの子は明らかにおかしい。なにかあったのよ……今の柚ちゃんは、私たちの知る、いつもの柚ちゃんじゃないわ」
「そんな……でも、だって……」
 言葉が上手く出て来ない。
 柚が仲間を襲ったという事実を信じたくない心と、真摯に言葉を紡ぐ沙弓の言葉を信じたい心がぶつかり合い、暁は困惑する。
 それでも、もう分かっていた。沙弓の眼は、彼女の言葉は、嘘を紡いでいないと。
 彼女の言葉は、嘘偽りのない、真実であると。
「私があの子と戦った時、あの子はカイの《デカルトQ》を使ってた。わたしのデッキから《ツミトバツ》も消えてるし、あの子の狙いは恐らく、英雄のカード……なら、《ガイゲンスイ》を持ってるあなたも、狙われるんじゃないかしら」
「……だからって……じゃあ、どうすればいいんですか?」
「分からない。どうすれば柚ちゃんの異変が戻るのか、その原因はなにか。私も負けちゃったし、彼女がおかしくなった、というところまでしか掴めていないわ」
 今は情報が足りなさすぎる。どうやって彼女を元に戻すのか、そんな方法はまったく分からない。
 だから今は、雲を掴むようなことでも、考え得る可能性を手繰り寄せるしかないのだ。
「暁、あなたに今の柚ちゃんについて教えるわ。だからあの子を探して。そして、あの子に——勝って」



「——緑の英雄さん、青の英雄さん、黒の英雄さん。これで三種類ですか」
 はだけたままの衣を直すこともせず、柚は三枚のカードを眺めながら、呟く。
 彼女の手にあるのは、《牙英雄 オトマ=クット》《理英雄 デカルトQ》《凶英雄 ツミトバツ》。
 《オトマ=クット》は彼女が持つカードだが、残りの二枚は違う。本来ならば、別の人物が使うものであり、そして、柚の色では扱えないクリーチャーたちだ。
 緑色の彼女は、他の色を扱えないはず。それでも彼女は、求めるのだった。
 一つの色に染まる、英雄たちを。
「手に入るとすれば、あと二種類……んー、でも、どうしましょう。絶対必要じゃ、ないんですよね……」
 だが、少し考える。
 緑、青、黒。
 この三色の英雄の力だけでも、十分に強い。そこにさらなる二色の英雄を足す必要はあるのかどうか。
 今この手にある邪帝の力。あまりに原始的で暴力的な欲望の力。それさえあれば、赤い英雄の力は必要ないと言える。
 青の英雄と黒の英雄もこの手にあるので、白い英雄も、必要ではない。行使する力が被ってしまっている。
 現時点でできることのバリエーションは広い。さらに他の色があったところで、それは大きく変化するわけではない。ゆえに、このまま英雄の力を収集する必要はないと判断することもできる。
 が、しかし、
「……いえ、やっぱり、集めましょう」
 最後は、その答えに行き着く。
「ちゃんと最後まで集めたいですからね。それに」
 なぜそうなのか。そんなものは分かり切っている。
 今自分がこうしているのも、これのせいだからだ。
 全身から湧き上がる衝動。それは、ただ一つの単純な概念から生み出される。
 それは即ち、“欲”。

「あの魅力的な力は、ぜんぶ“ほしい”です——」

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.330 )
日時: 2016/03/03 22:33
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「——あ」
 ふと、見つけた。
 お互いに、それぞれの姿が、視界に入り、声をあげる。
「ゆず……!」
「あきらちゃん……いたんですか。いつからそこに……」
 少しだけ、驚いたように目を見開く柚。
 だが、すぐに彼女は微笑を見せる。彼女らしからぬ、艶っぽい笑みを。
「いいタイミングですね、あきらちゃん。わたし、あきらちゃんを探してたんですよ」
「……私もだよ、ゆず」
「そうなんですか。きぐうですね」
 微笑を絶やさない柚。だが彼女の笑みの裏には、なにかが隠れているようで、非常に不気味だった。胸の内がささくれ立つような不安を煽られる。
 そして、同時に察した。
(この感じ……確かに、いつものゆずじゃない……)
 一目見ただけで、直感的に分かった。
 こうして言葉を交わし、彼女の挙動を見て、自分の直感が正しいことを確認した。
 彼女に、異変が起こっていることを。
「ゆず……どうしちゃったの?」
「どうしちゃった、ですか? どういうことですか?」
「今のゆずのことだよ。ゆず、変だよ」
「変? わたしがですか?」
 柚は首を傾げる。まったく身に覚えがない、と言うかのように。
「そんなことを言うあきらちゃんのほうが、変ですよ。わたしはどこもおかしくありません」
「おかしいよ! いつものゆずなら、迷子になったら泣いてるし、もっとおどおどしてるし、肌を見せるのが恥ずかしいって言って薄着にならないし、そんなエロい格好もしないし、それに……」
 それに、と、暁は言葉を紡ぐ。
「部長や浬に、あんなことはしない……!」
「……ぶちょーさんたちと、あったんですね」
 柚の眼が、少しだけ細められた。自然と彼女の微笑も消えていた。
 だが、彼女はまた違う笑みを取り戻す。
 先ほどよりもさらに小さく、細やかな微笑み。それでいて、先ほどよりも、より不気味で、怖気が走る笑みだった。
 柚と向かい合って、こんな気分になるのは初めてだった。
「あきらちゃん、わたし、あきらちゃんにご用事があるんです」
「奇遇だね。私も柚に用事がある」
「わたし、あきらちゃんに伝えたいことが、あるんですよ」
 暁の言葉を待たずして、柚は動いた。
 これも、暁の知らない柚の動きだった。ゆらゆらと揺れるように、不自然なほど自然に、距離を詰める。
 浬や沙弓ほど、暁と柚の身長差はない。それでも下から覗き込むような形になる。
「っ、ゆず……!」
「……あきらちゃん」
 柚は手を伸ばす。細い枝のような腕、小さな葉のような手が、暁の顔に触れる。
 なめらかで瑞々しい、柔らかな指が、絡みつくように頬を撫でる。
 そして——

「あきらちゃん……あなたが、ほしいです」

 ——神話空間が開かれた。



 暁と柚のデュエル。
 《メテオ・チャージャー》でマナを伸ばし、《熱血龍 バクアドルガン》を召喚しつつ攻める暁に対し、柚は《青銅の面 ナム=ダエッド》と《ベニジシ・スパイダー》を展開している。
 浬や沙弓の時と流れは同じだった。
「《熱血龍 バトルネード》を召喚! そして《バクアドルガン》で攻撃! 能力発動だよ!」
 山札の一番上をめくり、ドラゴンならば手札に入る。
 《バクアドルガン》の咆哮により、暁の山札が飛ぶ。そして、めくられたのは、
「よっし! 《ガイゲンスイ》をゲット! そして、そのままシールドをブレイク!」
 柚の二枚目のシールドが砕かれた。
 柚の爆発的な展開力は、それを達成するための準備が必要となる。なので、速度のある火文明などを相手にすると、その準備をしている間に攻められ、展開が追いつかないことも少なくない。
「わたしのターンです。《牙英雄 オトマ=クット》を召喚します。そして、マナ武装7、発動です」
 柚のマナが緑色の輝きを放つ。
 そして、その輝きが《オトマ=クット》に武装され、原生林を繁茂させる。
「マナを七枚アンタップします……そしてこのマナを使って……」
 起きあがったマナを再びすべてタップして、柚は手札を切る。
 ここまでの流れは、完全に浬と沙弓から聞いたとおりだ。つまり、あのクリーチャーが出て来る。

「《龍覇 イメン=ブーゴ》を召喚」

 のっぺりとした白面を付けた、大地のシャーマンが現れる。
「《イメン=ブーゴ》がバトルゾーンにでたとき、超次元ゾーンからコスト4以下の自然のドラグハートを呼ぶことができます。きてください……《邪帝斧 ボアロアックス》」



龍覇 イメン=ブーゴ 自然文明 (7)
クリーチャー:ビーストフォーク號/ドラグナー 7000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト4以下の自然のドラグハートを1枚、自分の超次元ゾーンからバトルゾーンに出す。
自分のマナゾーンにあるカードを、すべての文明のカードとして扱う。
W・ブレイカー



邪帝斧(イビルトマホーク) ボアロアックス 自然文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
このウエポンをバトルゾーンに出した時またはこれを装備したクリーチャーが攻撃する時、自然のコスト5以下のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
龍解:自分のターンの終わりに、バトルゾーンにある自分のクリーチャーのコストの合計が20以上であれば、このドラグハートをフォートレス側に裏返してもよい。



 ザクリ、と超次元の彼方より飛来し、地面に突き刺さった邪悪な斧、《ボアロアックス》。
 《イメン=ブーゴ》はそれを引き抜くと、再び地面に向かって、その斧を振り下ろした。
「《ボアロアックス》がバトルゾーンにでたことで、マナゾーンからコスト5以下の自然クリーチャーをバトルゾーンにだしますよ。《有毒類罠顎目 ドクゲーター》をバトルゾーンに」
 暁の場にコスト4以下のカードはないため、《ドクゲーター》の能力は発動しない。
 しかしそれでも構わないのだ。柚の目的は、場数を増やすこと。
 さらに言えば、自分の場のクリーチャーのコストを増やすことなのだから。
「これでわたしのターンは終了ですが……このターンの終わり、私のバトルゾーンにいるクリーチャーのコストの合計が20以上です。《ボアロアックス》の龍解条件を満たしました。なので、《ボアロアックス》は龍解します」
 柚の場にいるクリーチャーは、《ナム=ダエッド》《ベニジシスパイダー》《オトマ=クット》《イメン=ブーゴ》《ドクゲーター》の五体。
 その合計コストは、3+5+7+7+5=27。龍解に必要なコスト20を大きく上回っている。
「っ、やっぱり、部長が言ってた通りだよ……!」

 ——暁。柚ちゃんのマナが7マナまで溜まりそうになったら、バトルゾーンに注意しなさい。クリーチャーが残ってたら、《イメン=ブーゴ》から《ボアロアックス》をバトルゾーンに出された時点で、龍解はまず止められないわ。

 沙弓の言葉が蘇る。
 《ボアロアックス》はバトルゾーンに出ただけで、コスト5以下のクリーチャーを呼べる。《イメン=ブーゴ》のコストは7なので、《ボアロアックス》でコスト5のクリーチャーを呼べば、合計コストは12。
 さらにここに、事前に《ナム=ダエッド》や《ベニジシ・スパイダー》などを召喚していれば、二体のコスト合計が8なので、さらに足して合計コストはピッタリ20となる。ちょうど、《ナム=ダエッド》《ベニジシ・スパイダー》がマナ加速する能力持ちで、3→5→7と《イメン=ブーゴ》のマナカーブに沿う形にもなっている。
 他にも、マナ武装を達成すればノーコストで召喚できる《オトマ=クット》を絡めれば、さらにコストが7上乗せされる。これによって、さらにコストを稼がれてしまう。
 ゆえに《ボアロアックス》の龍解は、よほど除去を連打し続けない限り、止めることができないのだ。沙弓はあの一戦だけで、それを悟ったらしい。
 破壊を得意とする沙弓ですら止められなかった龍解だ。暁では、なおさら止めることは難しい。
 龍解に必要な力を溜めた《ボアロアックス》は、《イメン=ブーゴ》によって地面に埋められる。
 そして、そこから発芽するように、一気にその姿を邪悪な遺跡へと変貌させた。

「2D龍解——《邪帝遺跡 ボアロパゴス》」

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.331 )
日時: 2016/03/06 01:19
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

邪帝遺跡 ボアロパゴス 自然文明 (7)
ドラグハート・フォートレス
クリーチャーを自分の手札から召喚した時、自然のコスト5以下のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
龍解:自分のターンのはじめに、バトルゾーンにある自分のクリーチャーのコストの合計が30以上であれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップしてもよい。



 ゴゴゴゴゴ、と地鳴りが響き渡り、古代の要塞は姿を現す。
 五つの龍の頭を象った、邪悪なる古代遺跡、《ボアロパゴス》。
 それぞれの龍の口からは、光、水、闇、火、自然——各文明のエネルギーが、滝のように流れ出ており、どことなく神秘的で、そして禍々しい。
 自然文明に他の文明が奪われ、支配されているかのような錯覚を覚えさせるほどに、その遺跡は途方もない邪気を発していた。
「わたしの一番大切なお友達であるあきらちゃんには、特別におしえてあげます」
「なにを?」
「《ボアロパゴス》の龍解条件です。《ボアロパゴス》は、わたしのターンの最初に、わたしのクリーチャーのコスト合計が30以上なら、龍解します」
 柚の場のクリーチャーのコスト合計は27。つまり、あと3マナのクリーチャーが出るだけで、龍解されてしまう。
「ってことは、なんとしてでも柚のクリーチャーを破壊しないといけないのか……」
 純粋な場数でも暁は負けているのだ。ここはなんとしてでも、柚のクリーチャーを除去しておきたい。
 もしくは、相手に仕掛けられる前に、ブロッカーがおらず、シールドも残り三枚の柚を一気に攻め落としてしまいたい。
 クリーチャーを減らして龍解を防ぐか、このターンで一気に殴り切ってしまうか。このターンの最善の選択は、この二者択一だろう。
 ともすればそれはただの願望だが、暁にはそれができるクリーチャーがいたのだった。

「暁の先に立つ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の炎で武装せよ——《撃英雄 ガイゲンスイ》!」

 火のマナの力を轟々と燃え上がらせ、紅き英雄が姿を現す。
「……来ましたね」
 柚はその姿を見るなり、ほんの少し、蟲惑的な微笑みを見せた。
 《ガイゲンスイ》は戦場に立つと、己の内に秘めた熱き闘志を燃焼させ、気勢を発するように雄叫びを上げる。暁のマナから、さらなる力を受け取るのだ。
「《ガイゲンスイ》のマナ武装7発動! このターン、私のクリーチャーすべてのパワーは+7000! さらにシールドも一枚多くブレイクできる!」
 暁のマナから光が迸ると、それは闘魂の鎧となる。熱血の証である鎧が、《ガイゲンスイ》の身に装備され、武装する。
 そして《ガイゲンスイ》の解き放つ熱血の力が、暁のクリーチャーの闘志をさらに燃やし、爆発的な力を与えた。
「ごちゃごちゃ考える前に、勝負をつけるよ、柚!」
「…………」
 威勢よく宣言する暁に対し、柚はなにも言わなかった。
 暁が選択した一手は、このターンで殴り切ること。除去してもまたクリーチャーは出て来るのだ。それならば、時間をかけて数で圧倒される前に、勝負をつけた方がいいと、暁は判断した。なによりもそちらの方が、暁の性に合う一手だ。
 暁も柚の返答を待たずして、一気に攻める。
「《バトルネード》で攻撃! 《バトルネード》は攻撃のたびに、相手と自分のクリーチャー二体をバトルさせることができる! 《ガイゲンスイ》と《イメン=ブーゴ》をバトル!」
 熱を帯びた鎖が伸びる。《バトルネード》の鎖が《イメン=ブーゴ》を捕え、無理やり《ガイゲンスイ》へと、放るように引き合わせる。
 本来なら《ガイゲンスイ》も《イメン=ブーゴ》もパワー7000で相打ちだが、今の《ガイゲンスイ》は己のマナ武装によって、パワーが14000まで膨れ上がっている。
 《イメン=ブーゴ》など、敵ではなかった。
『——覚悟!』
 スパッ、と。
 居合抜きのような一閃によって、《イメン=ブーゴ》は真っ二つにされた。
 このターンで殴り切るつもりだからと言っても、暁は除去を諦めたわけではない。《イメン=ブーゴ》が破壊し、これで《ボアロパゴス》の龍解が遠のいた。
 そして柚は、マナ武装で強化された暁のクリーチャーの猛攻を防がなくては、このまま押し切られる。これは暁にとって、非常に優位な状況だ。
 《バトルネード》の鎖は、今度は柚のシールドを砕くべく伸長し、薙ぎ払うようにまとめて三枚のシールドを粉砕した。
「……S・トリガーですよ、あきらちゃん」
 砕かれたシールドの一枚目、それは光の束となり収束する。
「《古龍遺跡エウル=ブッカ》です。《バクアドルガン》をマナゾーンに送ります」
「トリガー……っ、しかも《エウル=ブッカ》ってことは……」
「そのとおりです。マナ武装5を発動させて、もう一体のクリーチャー、《ガイゲンスイ》もマナ送りですよ」
 一気に二体のクリーチャーを除去されてしまい、このターンでとどめを刺すことができなくなってしまった暁。
 しかし柚のクリーチャーは破壊し、龍解は防いだはず。さらにこの攻撃で柚のシールドはなくなるため、形勢が暁の方へと一気に傾くのは必然だ。
 そう思っていた。
 だが、しかし。
 二枚目のシールドが、砕かれた瞬間。
「……あきらちゃんは、とっても攻撃には積極的ですよね」
「え? なに、いきなり? そりゃまあ、そうだけどさ……」
「わたしはあきらちゃんの、そういう前向きで自分から動こうとするところ、大好きですよ。わたしはいつも、受け身になってしまうので」
 でも、と柚は微笑む。
 彼女らしからぬ、妖艶な笑みを浮かべて。
「積極的なことが、絶対にいいことばかりじゃないってことも、わたしは知ってるんです。あきらちゃんのことは、小学校からずっとみてますから」
「なにが言いたいの? 私には柚がなにを言いたいのか、全然わかんない。そんなこと言うのは……ゆずらしく、ないよ」
 確かに柚はおどおどしていて、あまり自分の言いたいことをはっきり言える性格ではない。それは暁だって知っている。
 だが、だからといって、こんな物事を迂遠に言うようなことはしない。
 今の柚はいつもの柚とは違う。最初から分かっていたことだが、今になって、それをさらに強く感じる。
「わたしらしくない、ですか……いいえ、これがわたしです。この、受け身の姿勢は、わたしそのものですよ」
 柚はそう言うと、手札に加わった二枚目のシールドを、墓地に置いた。

「S・バック発動——《天真妖精オチャッピィ》を召喚です」



天真妖精オチャッピィ 自然文明 (3)
クリーチャー:スノーフェアリー 1000
S・バック—自然
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、カードを1枚、自分の墓地からマナゾーンに置いてもよい。



 指定された文明のシールドが手札に加わった時、そのカードを墓地に送ることで手札から使うことのできるカードの能力、S・バック。
 柚はシールドから手札に加わった《鳴動するギガ・ホーン》を捨て、手札から《オチャッピィ》を繰り出す。
「っ、クリーチャーが……!」
「《オチャッピィ》の能力で、今さっき捨てた《ギガ・ホーン》をマナに送ります」
 S・トリガーは警戒していたが、まさかこのような形でクリーチャーを展開されるとは思っておらず、吃驚する暁。
 これでクリーチャーがさらに並べられてまずい、と思ったが、そこでふと暁は思う。
 《イメン=ブーゴ》を破壊したことで、柚は《ボアロパゴス》の龍解まで、コストが10足らない状態なのだ。そこで《オチャッピィ》が出て来たとしても、上乗せされるコストは3。
「ってことは、まだ龍解するコストは足りてな——」
「あきらちゃん」
 しかしそんな暁の言うことなどお見通し、と言わんばかりに柚が声を遮った。
 まだ、これだけでは終わらない、とでも言うかのように。
「忘れちゃいけませんよ、あきらちゃん。S・バックは——“手札から”の“召喚”、なんですよ?」
 刹那。
 《ボアロパゴス》が動き始めた。
「っ、なに!?」
「《オチャッピィ》が召喚されたことで、《ボアロパゴス》の能力が発動したんです」
 《ボアロパゴス》は、手札からクリーチャーを召喚するたびに、《ボアロアックス》と同じくコスト5以下の自然クリーチャーをマナから呼ぶことができる。
 本来この能力は召喚にしか適応されないため、コスト踏み倒しでバトルゾーンにクリーチャーを出しても、《ボアロパゴス》は反応しない。しかし、S・バックによるクリーチャーのコスト踏み倒しは、S・トリガーと扱いが同じ——即ち、出される場所は“手札から”であり、コストを踏み倒していても、“召喚”扱いになるのだ。
 よって、《ボアロパゴス》の機構が起動する。
「《ボアロパゴス》の能力で、マナゾーンから《ギガ・ホーン》をバトルゾーンへ。《ギガ・ホーン》の能力で、山札から二体目の《オチャッピィ》を手札に加えます」
「二枚目……ってことは」
「そうです。《バトルネード》の攻撃は……終わってませんよね?」
 一度繰り出されたシールドブレイクは、もう止められない。
 否応なしに、暁は、《バトルネード》は、柚の三枚目のシールドをブレイクした。
 そして、
「もう一度、S・バック発動です。《ドミティウス》を捨てて《天真妖精オチャッピィ》を召喚します。それにより《ボアロパゴス》の能力も発動。マナゾーンから《ブロンズザウルス》をバトルゾーンに」
 《ギガ・ホーン》でサーチした《オチャッピィ》を再びS・バックで召喚され、《ボアロパゴス》の能力もあわせてクリーチャーが展開されていく。
 これで柚の場は、《ナム=ダエッド》と《オチャッピィ》が二体ずつ、あとは《ベニジシ・スパイダー》《ドクゲーター》《ギガ・ホーン》《ブロンズザウルス》そして《オトマ=クット》となる。
「……それじゃあ、わたしのターンですね」
「う……」
 暁はこれ以上、攻撃できない。なのでもう柚にターンを明け渡すしかないのだ。
 そしてこのターンの初め、柚の場のクリーチャーのコストを数える。
 3+5+7+5+3+5+3+5=36。
 《オチャッピィ》のS・バックと《ボアロパゴス》を組み合わせることで、《イメン=ブーゴ》を破壊されてもクリーチャーを展開した柚。暁のターンだというにも関わらず、14コスト分のクリーチャーを並べている。
 そして、これにより、
「《ボアロパゴス》の龍解条件が満たされました」
 場のクリーチャーの合計コスト30以上。それが、柚の、そして《ボアロパゴス》の求める龍解条件。
「わたしの欲望がうずまいて……わたしの牙にひれ伏して……邪悪なわたしはここにいます……3D龍解」
 その条件を満たした今、《ボアロパゴス》は最後の姿を見せる。
 戦場に立つクリーチャーたちの命を数え、その力のすべてを吸収し、解き放つ。
 原始的なまでの、強大で凶悪な欲望に憑りつかれた、邪悪な古代龍の姿を。
「あなたのすべてを、わたしにください——」
 そして、欲望の化身が——現れた。

「——《我臥牙 ヴェロキボアロス》」

113話「欲望——戦闘欲」 ( No.332 )
日時: 2016/03/06 01:17
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

我臥牙(ガガガ) ヴェロキボアロス 自然文明 (10)
ドラグハート・クリーチャー:ジュラシック・コマンド・ドラゴン 15000
自分の手札からクリーチャーを召喚した時またはこのクリーチャーが攻撃する時、自然のクリーチャーを1体、自分のマナゾーンからバトルゾーンに出してもよい。
T・ブレイカー



「な、なにこれ……!?」
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》……これが、今の“わたし”です」
 緑色の屈強な肉体。湾曲した鋭利な角。身体を覆う頑強で凶悪な装飾。すべてが刺々しく、毒々しく、禍々しい。
 そして、両手に握るのは、白、青、黒、赤、緑——五つの文明を飲み込んだかのように、虹色に光る戦斧。
 これが、こんなものが、今の“柚自身”なのか。
 目の前のこの存在にも、そして彼女の言葉にも、暁は戦慄を覚えざるを得ない。
 しかし、彼女は、暁を待ってくれない。欲望に突き動かされるかのように、攻める手を止めない。
 すべてを、貪り尽くすまで。
「《ナム=ダエッド》を召喚。そして、《ヴェロキボアロス》の能力発動です」
 柚が《ナム=ダエッド》を呼ぶ。すると、《ヴェロキボアロス》が天地を揺るがすほどの声で、咆哮した。
「《ヴェロキボアロス》は、手札からクリーチャーを召喚すれば、マナゾーンから自然のクリーチャーを一体だけ呼んできてくれるんです。コストのしばりもありません……それではお願いします、《ヴェロキボアロス》」
 その咆哮は、天空を貫き、大地を割る。
 その割れた大地から、《ヴェロキボアロス》は邪悪な古代龍を引きずり出す。

「支配します、邪龍様——《邪帝類五龍目 ドミティウス》」

 蜘蛛のように、邪悪な古代の龍が這い出てくる。
 腕なのか脚なのか判別もつかないが、肉が盛り上がり、暗緑色に染められた身体。二重になった下顎には、巨大な牙が剥き出しになっている。さらに鋭利な爪と頭部には、五つの文明を示す、五つの色の宝玉が埋め込まれていた。
 不慮の事故によって生み出されてしまった、五つの文明すべてを飲み込む力を持つ、邪帝類のジュラシック・コマンド・ドラゴン。
 それが《邪帝類五龍目 ドミティウス》だ。
「《ドミティウス》の能力で、山札の上から五枚をみます……そして、その中から各文明のコスト7以下のクリーチャーを、バトルゾーンへ」
 今度は《ドミティウス》が咆える。耳を覆いたくなるほどに邪なその雄叫びは、さらなる力を求め、山札を掘り進む。
 まるでその声に聞き惚れてしまったかのように、うっとりと蕩けた表情を見せる柚は、五枚のカードを捲り、その中から三枚を抜き出した。
「ふふっ、でてきてください。《理英雄 デカルトQ》《凶英雄 ツミトバツ》《龍覇 イメン=ブーゴ》」
「っ、浬と部長のカード! それに、また《イメン=ブーゴ》が……!」
「そうですよ、あきらちゃん。《イメン=ブーゴ》がいれば、わたしのマナはすべての文明をもちます。なので、《デカルトQ》のマナ武装7、発動です」
 《イメン=ブーゴ》の力によって、虹色に輝く柚のマナゾーン。その中の青色が、一際強く光った。
「《デカルトQ》のマナ武装で、カードを五枚ひきますね。続けて《ツミトバツ》のマナ武装7も発動です。あきらちゃんのクリーチャーのパワーは、ぜんぶ−7000です」
「う……っ!」
 《イメン=ブーゴ》がマナを虹色に染め上げ、すべての色に染まったマナの力で、《デカルトQ》と《ツミトバツ》は武装する。
 本来の色ではな仮初のマナで、偽りの武装を為す。
 《デカルトQ》の生み出す知識は柚の手に渡り、《ツミトバツ》が放つ凶器が暁のクリーチャーを惨殺する。
 《ナム=ダエッド》の召喚だけで、連鎖的に四体のクリーチャーが現れた挙句、柚の手札は大量に増え、暁は場を壊滅させられた。
「ぜ、全滅……! 流石、部長の英雄……強烈だよ……! 手札も増やされたし、マナは多いし……」
「そうです、終わりじゃないですよ、あきらちゃん。5マナで《次元流の豪力》を召喚です。能力で、超次元ゾーンから《光器セイント・アヴェ・マリア》をバトルゾーンに。手札からクリーチャーを召喚したので、《ヴェロキボアロス》の能力発動です。マナゾーンから《ベニジシ・スパイダー》をバトルゾーンに」
 一体のクリーチャーが現れるたびに、二体目、三体目のクリーチャーが、次々と現れる。
 最初から展開を続けてきた柚の展開力は加速する。もはや、その数の暴力をすべて防ぐ術は、暁にはない。
 そして、その絶望を確かなものにするかのように、柚は進み出る。
 欲望を、突きつけるかの如く。
「さぁ、いってください。《ヴェロキボアロス》で攻撃です。そして、このときにも《ヴェロキボアロス》の能力発動ですよ」
「え……っ!? 攻撃する時も!?」
「そうですよ、あきらちゃん。でてきてください」
 《ヴェロキボアロス》の咆哮が、再び大地を割り砕く。
「絶対です、界王様……《界王類絶対目 ワルド・ブラッキオ》」
「今度は《ワルド・ブラッキオ》……!」
 それは柚のカード。暁にも見覚えのある彼女のカードに、多少の安堵を覚えるがそのような感覚はすぐさま霧散してしまう。
「《ヴェロキボアロス》で、シールドをTブレイクです」
 直後、《ヴェロキボアロス》の戦斧の一撃が、暁のシールドを砕く。
 あまりの衝撃に、身体が吹き飛ばされそうだ。その破壊力は、あまりに暴力的すぎる。とても、柚の従えるクリーチャーとは思えない。
「くぅ……! S・トリガー《ミラクルバースト・ショット》! パワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊!」
 だが、そんなことを考えている暇はなかった。暁は割られたシールドから、即座にS・トリガーで切り返す。
 引いたトリガーは《ミラクル》バースト・ショット。放たれる無数の弾丸が、《ナム=ダエッド》《オチャッピィ》《ギガ・ホーン》を始めとする、多くの柚のクリーチャーを撃ち抜き、吹き飛ばした。
 だがそれでも、柚の場には《オトマ=クット》《ベニジシ・スパイダー》《ドクゲーター》《ブロンズザウルス》といったアタッカーが、まだ何体も立ち並ぶ。下級クリーチャーを一掃した程度では、なにも解決しない。
 さらに、《ヴェロキボアロス》が残るシールドも薙ぎ払う。
「二枚目……S・トリガー! 《天守閣 龍王武陣》!」
 法螺貝の音が鳴り響き、暁の山札が五枚捲られる。
 次々と視界に飛び込んでくるカードを見送りながら、その中のカードを一枚、掴み取る。
「これ! 選ぶのは《爆竜勝利 バトライオウ》! パワー8000以下の《オトマ=クット》を破壊だよ!」
「でも、まだ足りないですよ、あきらちゃん。わたしの攻撃できるクリーチャーは、まだあと三体います。あきらちゃんのシールドは、残り二枚ですよね」
「…………」
 このターン攻撃可能なクリーチャーを半分ほど破壊したが、それでもまだ足りない。
 暁のシールドは二枚、柚のアタッカーは三体。
 もう一枚S・トリガーを引いて、一体でもアタッカーを除去しなければ、このターンで暁の敗北は確定してしまう。
「《ベニジシ・スパイダー》で、シールドをブレイクです」
「トリガーは……《バトクロス・バトル》、でもこれじゃダメだ……」
 《ワルド・ブラッキオ》が存在する限り、バトルゾーンに出た時にトリガーする能力は発動しない。《バトクロス・バトル》を出してもバトルが起らず、ターン終了時に山札に戻ってしまうのでは、出す意味がない。
「次ですよ、《ドクゲーター》でシールドをブレイクです。これで、あきらちゃんのシールドはなくなりましたよ」
 《ドクゲーター》がシールドを割り、暁のシールドはこれでゼロ。
 最後の一撃、とどめの攻撃が、柚のクリーチャーから放たれようとするが、
「まだ……まだ終わらないよ、ゆず!」
 五枚目に割られた最後のシールドが、光の束となって収束し、それは一つの刃となる。
「S・トリガー発動! 《めった切り・スクラッパー》! 《ブロンズサウルス》を破壊!」
 鋸のような刃は《ブロンズザウルス》の身体を真っ二つに断裁し、破壊する。
 これで、このターンの攻撃は凌ぎ切った。本当に、ギリギリの攻防だ。
「さすがです、あきらちゃん。わたしの攻撃をたえきるなんて、やっぱりあきらちゃんはすごいです……ですが」
 ぱちぱち、と手を叩く柚。
 だが、たった一瞬の淡い夢は、残酷すぎる現実に塗り潰されるだけである。
 柚はにっこりと笑いかけた。
「ここから、どうやって逆転しますか?」
「それは……」

 無理だ。

 脳裏によぎる言葉は、それしかなかった。
 シールドはお互いにゼロだが、場のクリーチャーの数が違いすぎる。暁はゼロ、柚は無数。戦力差は圧倒的だ。
 加えて柚の場には《デカルトQ》と《セイント・アヴェ・マリア》、二体のブロッカーがいる。スピードアタッカーを召喚するだけでは、突破できない。
 さらに言えば《ワルド・ブラッキオ》がいるため、暁はクリーチャーの召喚に大きな制限をかけられる。登場時に発動する能力は無力だ。かといって、アタックトリガーでどうにかなるとも思えない。ブロッカーを破壊するスピードアタッカーの《GENJI・XX》がいたとしても、突破不能な布陣である。
「……《爆竜勝利 バトライオウ》を召喚……ターン、終了だよ……」
「では、このターンで終わりですね。わたしのターン」
 カードを引く柚。豊富な手札とマナを使おうともせず、彼女はそのまま《ヴェロキボアロス》へと手をかける。潤沢な手札もマナも、使うまでもないと言うかのように。
 実際、今の暁には、なにかを手を打つほど警戒する要素はない。
 完全に、柚が支配し、すべて貪り尽くしてしまった。
「楽しかったですよ、あきらちゃん。でも——もう、用はないんです」
 そう、切り捨てるように言って。
 邪悪なる古代龍が、三度目の咆哮を響かせる。
 戦いに終焉を告げる、咆哮を。
「《我臥牙 ヴェロキボアロス》——ダイレクトアタックです」
 彼女の一言で、《ヴェロキボアロス》は戦斧を振り上げた。
 すべて、終わったのだ。
 あらゆる生命が、欲望が、力が、暁を蹂躙する——

「熱血の英雄の力……いただきます、あきらちゃん——」

114話「欲望——愛欲」 ( No.333 )
日時: 2016/03/09 17:18
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: Ak1jHfcH)

「恋、なんだか今日は積極的?」
「いきなりなに……なんで……?」
 柚を捜索中の恋とキュプリス。
 寡黙な恋は道中、一切合切口を開かなかったが、キュプリスに呼びかけられ、初めて開口する。
「柚ちゃんだっけ? あの子になにか思うところがあるの? 恋敵じゃなかったの?」
 恋の目が、少しだけ細められる。なんでそんなことを言うのか、と言わんばかりの目だ。
 確かに、今日の恋はいつも以上に積極的ではある。文句一つ言わずにこうして柚を探しているし、暁と一緒に行動することを希望もしなかった。
 それがどうしてか。キュプリスは、わざわざ自分の口からそんなことを言わせたいのか。そう思うと、若干不快になった。
 逆に、キュプリスはなぜ自分にそんなことを言わせたいのかを考えてみる。
「……キュプリス……この前のゆずとの対戦……出さなかったの、怒ってる……?」
「え、なんで?」
「質問を質問で返さないで……」
「別に怒ってないよ? 恋がそうしたいって思ったんなら、ボクはそれでいいもん」
「そう……」
 ということは、彼女の気まぐれか。
 そう思うと不快感もだいぶ薄れる。しかし、同じ場所に居合わせたというのに、そんなことも察せないのか、とやや呆れつつ、面倒そうに口を開いた。
「ゆずは……あきらの大事な人、だから……」
 そして、暁の大事な人は、自分にとっても大事な人だ。
「この前まではあんなに突っかかってたのにねぇ。ツンデレさんめ」
「私はクーデレだから……」
「自分で言っちゃうんだ。デレるところは否定しないんだ。というか君がクールなのは表面だけだよね?」
 恋の周りをちょこまかと動き回りながら、言葉も散らしてくるキュプリス。正直、少し鬱陶しかった。
 キュプリスはたまに、こんな風に絡んでくることがある。それは彼女の気まぐれから引き起こされるものなのだが、恋がそれを邪険に思うのは、彼女がこちらの心中を見透かしたようなことを言うからだ。
 今回も、そうだった。
「そんなにあの子と同調したんだ?」
「…………」
「沈黙は肯定と解釈すればいいのかな?」
「……好きにすればいい」
 投げやりに答える。
 今まで何度もこういうことはあったが、このしつこさには慣れない。
「恋って、同族嫌悪激しそうに見えて、実際は仲間意識強いよね。同じ趣味の人とかと会ったら、際限なく語り合うタイプでしょ」
「うるさい……」
「照れ屋さんだなぁ、恋は。暁ちゃんや柚ちゃんみたいに、ボクにも素直になればいいのに。それともなにかな? ボクのこと、信用してない?」
「……そうかも」
 否定は、しなかった。
 言われて初めて、自覚した。
 自分がどれだけ彼女について無知であるかを。
「……私、キュプリスのこと、あんまり知らないし……」
「え、そう?」
「こっちの世界に来て、偶然見つけて……そのまま、なりゆきでいっしょにいただけだし……」
「そういえばそうだっけ」
 それからは【秘団】の一員として動き、ユースティティの手足となっていた。心的にも、キュプリスと向き合う余裕は、かつての自分にはなかった。
 だから、彼女が慈愛の語り手であることも、時々忘れそうになっていた。
 ものはついでだ。この機に、恋は言及してみる。
「キュプリスって、慈愛の語り手、なんだよね……?」
「そうだよ。今更だね」
「でも、あんまり慈愛って感じ、しない……キャラ薄いし……ボクっ娘なんて、今時はやらない……本当に、慈愛の語り手……?」
「痛いとこ突くなぁ。まあでも、仕方ないよ」
 キュプリスは、いつもよりも憂いを帯び、どこか諦念を感じさせる調子で、言った。
「他の語り手がどうかなんて知らないけど、ボクは、なるべくして語り手に選ばれたわけじゃないから」
「……? それ、どういう——」
 こと、と続けようとする恋の言葉は、遮られた。
 なににか。それは、木陰の奥から歩み寄る人物にだ。
「……っ」
 その人物を見て、恋は少しだけ目を見開く。
 正確には、その人物ではなく、その人物の出で立ちに、だった。
 転んだわけではないだろうが、全身ボロボロだ。足取りもどこか重そうだ。
 そのただ事じゃない様子に小さくない吃驚を感じながら、恋は彼女らの名を呼ぶ。
「さゆみ……メガネ……」
「日向さん……ちょうどよかったわ」
 その人物——沙弓は、力ない声で言う。その後ろに付いていた浬も、焦燥しきっていた。
「流石にそろそろ、疲れたわ。カイは情けないし、この子も休ませたいし」
 そう言って、沙弓は背負っていた誰かを降ろして、丁寧に寝かせた。
 そして今度こそ、恋は明らかな吃驚を持って、目を見開く。
「あきら……!」
 沙弓が背負っていたのは、一人の少女——暁だった。
 彼女も、沙弓や浬同様にボロボロだ。
 困惑する恋。何者かにやられたのだろうが、暁ともあろう者が、そう簡単に負けるとも思えなかった。
 心中で渦巻くものをなんとか抑えて、恋は声を絞り出す。
「……なにが、あったの……?」


Page:1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 32 33 34 35 36 37 38 39 40 41 42 43 44 45 46 47 48 49 50 51 52 53 54 55 56 57 58 59 60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 74 75 76 77 78 79 80 81 82 83 84 85 86 87 88 89 90 91 92 93 94 95 96 97 98 99 100 101 102 103 104 105 106 107 108 109 110 111 112 113 114



小説をトップへ上げる
題名 *必須


名前 *必須


作家プロフィールURL (登録はこちら


パスワード *必須
(記事編集時に使用)

本文(最大 7000 文字まで)*必須

現在、0文字入力(半角/全角/スペースも1文字にカウントします)


名前とパスワードを記憶する
※記憶したものと異なるPCを使用した際には、名前とパスワードは呼び出しされません。