二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て11」 ( No.455 )
日時: 2016/09/01 13:09
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

『DM Pauper』ルール
・このレギュレーションは構築にのみ制限をかける。その制限は以下の通りである。
・レアリティがコモンのカードのみ使用可能。
・レアリティがコモンであれば、殿堂レギュレーションによる制限を受けない。
・最新のレアリティがコモンでなくても、一度でもコモンとして収録されたことのあるカードは使用可能。



「私の先攻ね。《フラスコビーカ》をチャージ。ターン終了」
 暁と美琴の対戦は、美琴の先攻で始まった。
 美琴はビートダウンだと思われる暁の攻撃を止めるために、S・トリガーを多くデッキに積んだ。そのため、色の合わないトリガーもいくつか入っており、そういったカードは手札に来たらマナに置くしかない。素出ししても旨みはないだろう《フラスコビーカ》がマナに埋まる。
「私のターン。《死神ハンド》をチャージ」
 そして、暁のターン。
 彼女は、静かにマナを溜め、そして、
「……やっと、らしい動きができそうだよ」
「?」
「1マナタップ」
 柵を振り切ったような、解放感に満ちた表情で、クリーチャーを繰り出す。
「《闇戦士ザビ・クロー》を召喚!」
「っ、速攻で来るのね……!」
 ビートダウンという読みは恐らく正解だ。しかし、1コストクリーチャーから殴り始めるほど早いとは思わなかった。
 しかし、相手の攻撃速度が少々気がかりだが、攻撃的なデッキであることに変わりはない。ならば大量に投入したS・トリガーが仕事するはず。計画に変更はない。
「自分の組んだデッキじゃなかったし、今まで全然デッキの使い方が分からなかったけど、こうすればなにをすればいいのかすぐわかる。とにかく殴るよ! ターン終了!」
「速度で負けないようにしないと……私のターン。《ティンクル》をチャージして、2マナで《ジャスミン》を召喚! すぐに破壊して、マナを追加!」
「ガンガン攻めるよ! 《ビッグ・パルサー》をチャージして、2マナで《爆獣博士 メテオ》を召喚! 《ザビ・クロー》でシールドをブレイクだよ!」
「《フェアリー・ライフ》をチャージ。4マナで《ライフプラン・チャージャー》! 山札の上から五枚を見る。その中から《ジオブリード》を手札に加えて、チャージャーをマナへ。ターン終了」
「まだまだぁ! 《ボーン・アミーゴ》召喚! 《メテオ》でシールドブレイク!」
「S・トリガー《死亡遊戯》よ! 相手のパワー1000以下のクリーチャー、《ザビ・クロー》を破壊!」
 とにかく攻撃する暁に対し、トリガーで受けつつ、マナを伸ばしていく美琴。既にかなり受けに回っていた。
「《デーモン・ハンド》をチャージして《緑神龍ジオブリード》を召喚! バトルゾーンの最もパワーの低いクリーチャーをマナに送る! 《メテオ》をマナへ!」
「《ボーン・スライム》をチャージ! 3マナで《不退転の遺志 チョイノリ》を召喚! さらに2マナ、《ダッシュ・リピート》! これで《チョイノリ》をスピードアタッカーに!」
「攻め手が休まる気配がないわね……しかも、《ダッシュ・リピート》か……」
 《ダッシュ・リピート》は自分のクリーチャー一体にスピードアタッカーを付与する呪文。似た効果の呪文には、次の召喚するクリーチャーのコストを下げつつスピードアタッカーを付与する《キリモミ・ヤマアラシ》、味方全体にスピードアタッカーを付与する《キリモミ・スラッシュ》などがあり、どちらもコストは1だ。
 だが、2コストの《ダッシュ・リピード》には、それらよりも勝っている点が、一つだけある。それは、唱えた後に手札に戻るということ。これによって暁は、2コストを追加で払うことで、手札のクリーチャーを常にスピードアタッカーで射出できるようになった。
「唱えた《ダッシュ・リピート》は手札に戻って、《チョイノリ》でシールドをブレイク!」
「S・トリガーよ、《クレイジー・マンドレイカー》! パワー3000以下のクリーチャーの攻撃をストップ!」
 《ボーン・アミーゴ》の攻撃を止めつつ、シールドに目を落とす美琴。残りのシールドは二枚。思った以上に、展開が早い。
 《ダッシュ・リピート》が地味ながら厄介だった。手札が枯渇しているとはいえ、今の暁なら、3コスト以下のクリーチャーはすべてスピードアタッカーになる。ブロッカーを立てるなどして、早めに対処しなければ、次々とシールドが削られてしまう。
「……ちょっと、まずいかもね。《オンソク・ハリテ》をチャージ……4マナで《龍素遊戯》を唱えるわ」
 しかし今の手札ではどうしようもない。なにかしらの解決策を見出すために、ドロースペルに賭ける。
 《龍素遊戯》は山札の上から四枚を捲って、ドラゴン、ドラゴン以外のクリーチャー、呪文をそれぞれ手札に加える呪文。ドラゴンと呪文がそこそこ入っているこのデッキなら、二枚くらいなら普通に手札に入るはずだ。
 そう思って捲った四枚は《黒鱗類 ヴィロプレトス》《霞み妖精ジャスミン》《土隠類ハコオシディーディ》《ゴースト・タッチ》。
「よしっ、《ヴィロプレトス》《ジャスミン》《ゴースト・タッチ》を手札に加えるわ」
 幸運にも、最大数の三枚のカードが手に入った。しかも、その中には、この状況を打開するカードもある。
 美琴は即座にあまったマナを払い、暁の一枚の手札を叩き落す。
「2マナで《ゴースト・タッチ》! その手札には落ちてもらう!」
「っ、せっかくの《ダッシュ・リピート》が……」
 これで暁はクリーチャーにスピードアタッカーを付与できない。手札もゼロなので、攻めるのも苦しくなっただろう。
 そして次は、盤面を掃除していく。
「《ジオブリード》で《チョイノリ》に攻撃! ブロックはどうする?」
「うー、《ボーン・アミーゴ》でブロック!」
 《チョイノリ》を残して《ボーン・アミーゴ》を捨てる暁。殴ると自爆する《ボーン・アミーゴ》より、普通に殴れる《チョイノリ》を残す方がマシだと考えたのだろう。
「私のターン! チャージはなし。《漆黒の猛虎 チェイサー》を召喚! 山札の一番上を墓地へ!」
 墓地に落ちたのは、《怠惰の影ウーザ・ダーリー》。闇のカードだ。
 火のカードではないので、《チェイサー》のスピードアタッカーを得る条件を満たせていない。
「あぁ、違うよっ! これじゃあスピードアタッカーにならない……でも、攻撃は止めないよ! 《チョイノリ》で攻撃! シールドブレイク!」
 攻めるのも苦しくなった暁だが、攻撃することをやめはしない。殴り返される覚悟で、《チョイノリ》が殴る。
 これで美琴のシールドは、残り一枚。
「《黒鱗類 ヴィロプレトス》を召喚、さらに2マナで《ジャスミン》も召喚! 破壊してマナを追加よ」
 少しずつだが、美琴の場もクリーチャーが揃っていく。
 暁の猛攻を止め、じりじりと巻き返していく。
「《ジオブリード》で《チョイノリ》に攻撃!」
「シールド・ゴー! 《チョイノリ》は表向きでシールドになるよ!」
 シールド・ゴーした時の能力は使えないが、一応、シールドが増えたアドバンテージになった。
 もっともそれはおまけで、暁は殴ることしか頭にないが。
「! これだ! 墓地進化!」
 手札がなくなり、山札の上を投げつけるだけとなった暁。しかしこの状況、このタイミングで、彼女は最高のカードを引く。

「このターンで決めるよ! 《死神凰ドルゲドス》!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て12」 ( No.456 )
日時: 2016/09/05 04:04
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……! 《ドルゲドス》……!?」
 歯噛みする美琴。ここでの《ドルゲドス》は、美琴としてはまずい。
 美琴のシールドは残り一枚で、暁の場には《チェイサー》がいるのだ。即座に殴れる打点が出たということは、トリガーが出なければ押し切られるということ。
「《ドルゲドス》進化元は墓地の《ボーン・アミーゴ》だよ! 《チェイサー》で最後のシールドをブレイクだよ!」
「っ……S・トリガー発動!」
 とはいえ、こういう場合も想定して、美琴は大量のトリガーを積んだのだ。
 期待値は決して低くない。メタ読みして組んだデッキは、その読みに応えてくれる。
「《インディア・カレッチ》を召喚! 登場時、相手のコスト4以下のクリーチャーを破壊する! 破壊するのはコスト3の《ドルゲドス》よ!」
「うぐ……と、止められた……」
 あともう一歩というところで、攻撃を止められてしまった暁。仕方なく、このターンは終了するしかない。
「《蝙蝠の面 トーブ》を召喚。さらに《エコ・アイニー》も召喚よ。マナを増やして、ドラゴンの《ジオブリード》が落ちたからもう一枚追加」
 ブロッカーを出しつつ、マナをさらに伸ばしていく美琴。
 この局面でブロッカーを出すことは、かなり重要だ。暁は手札がないが、美琴もシールドがない。美琴が怖いのは、スピードアタッカーによる奇襲だ。しかしそれは、ブロッカーが一体いるだけで届かなくなる。
 非常に単純な手だが、デッキトップを投げるしかない今の暁には、かなり有効だ。
「《ヴィロプレトス》で《チェイサー》を攻撃よ」
「うぅ、《チェイサー》はバトルに負けて墓地に……」
「さらに《ジオブリード》で《チョイノリ》のシールドをブレイク。シールド・ゴーされたシールドだから、そのまま墓地へ」
 タップする以外は損をしないので、ついでのようにシールド・ゴーされたシールドを割る美琴。タップされていても、暁が殴り返しに来るとは思えないが。仮に殴り返しに来ても、特に問題はない。
「……3マナで呪文《メテオ・チャージャー》! ブロッカーの《トーブ》を破壊!」
「《トーブ》は墓地に行く代わりにマナへ行くわ」
 ブロッカーは即座に破壊されてしまったが、《トーブ》は破壊されても無駄にはならない。マナとしてリソースに還元される。
 そのお陰で、美琴はこのターンで13マナだ。
「6マナで《長鼻類 マンモスドン》を召喚よ。さらに7マナ《龍素記号St フラスコビーカ》も召喚。ターン終了」
「これ、やば……」
 美琴の場には、《ジオブリード》《ヴィロプレトス》《インディア・カレッチ》《エコ・アイニー》《マンモスドン》《フラスコビーカ》の六体。うちアタッカーは五体で、その中にWブレイカーが二体。
 暁にとどめを刺す打点が揃ってしまった。加えてまたブロッカーが出て来てしまった。
 打点は七もあり、打点を削ることは難しい。スピードアタッカーで奇襲もできない。ここで暁は、完全に逆転されてしまった。
「《拳撃と混乱のアシスト》を使うよ。パワー3000以下の《インディア・カレッチ》を破壊……ターン終了」
 このターンに引いて来たのは、火力とハンデスを同時に撃てる《拳撃と混乱のアシスト》。しかし、Wブレイカーの二体を倒すことはできず、一打点しか削れなかった。
 まだ美琴には、暁にとどめを刺すだけの打点が残っている。
「さぁ、そろそろ攻撃に移るわよ。《ヴィロプレトス》でWブレイク!」
「う……トリガーはないよ」
「《マンモスドン》でWブレイク!」
 あっという間に暁のシールドは残り一枚まで削られた。ここまででトリガーはゼロ。
 低コストかつ火と闇のアタッカーをつぎ込んだ暁のデッキには、そもそもトリガーが多くない。初期デッキに入っていたトリガーも《デーモン・ハンド》くらいで、それもこのレギュレーションでは入れられなかった。
「《エコ・アイニー》で最後のシールドをブレイク!」
 そう、暁は最初からトリガーをあまり積むことができなかったのだ。コントロールがまるで使えなかったということの方が大きいが、その防御の薄さを補う意味もあり、彼女は速攻に近いビートダウンを選んだ。
 だが、しかし、
「……!」
 だからといって、S・トリガーをまったく積んでいないわけではない。
「S・トリガー《奈落のニャンコ・ハンド》! コスト6以下の《ジオブリード》を破壊!」
「止められた……! くっ、ターン終了よ」
 美琴も、暁のデッキにトリガーは少ない、もしくはまったく積んでいないだろうと踏んでいた。初期デッキのトリガー数を美琴は把握していたし、ここまで暁のトリガーも見えていない。速攻気味なビートダウンというデッキの性質から、そのように予想していた。そのため、追加の打点を並べず殴ったが、結果としては止められてしまった。
 こうなると、少々まずいかもしれない。手札が増えたことで、スピードアタッカーによる奇襲が怖くなる。場にはブロッカーの《フラスコビーカ》がいるとはいえ、増えた手札でそれも除去してくるかもしれない。
「まだ、行ける……!」
 暁はマナにカードを落としつつ、手札を一枚引き抜いた。
「呪文《ブータンの収穫》! 墓地からエグザイルじゃない《チェイサー》を一体回収するよ!」
「ここで墓地回収? ……でも、それだけなら、《フラスコビーカ》で止められるわ。《チェイサー》一体じゃ突破できないわよ」
「…………」
 確かに、美琴の言う通りだ。美琴のアタッカーをすべて破壊するなんてことはできない。このターンに決めなければ、暁の負けだ。
 しかし《チェイサー》を出せば、残り2マナ。手札にあるカードでは、どうしようもない。
「でも、これに賭けるしかないんだもん。やるしかないんだよ!」
 ほとんど敗北に近い状況だが、暁は諦めなかった。負けに近い状況であっても、まだ負けではないから。
(まだチャンスはある……あのカードが来れば……!)
 一縷の望みに縋り、暁は2枚のマナをタップする。
「《漆黒の猛虎 チェイサー》を召喚! 能力発動、山札の一番上を墓地へ!」
 《チェイサー》を召喚し、山札を捲る。
 捲ったカードに視線を向ける。すると彼女は、小さく、告げた。

「……勝った」

 そして、そのカードを墓地へと落とす。
「《GENJI・ファイアー》を墓地へ! 火のカードが墓地に行ったから、このターン《チェイサー》はスピードアタッカーになるよ!」
「でも、それだけじゃ《フラスコビーカ》は……」
「だから、その邪魔なブロッカーを倒す! ブロッカー破壊は私の得意技なんだよ!」
 暁はさらに、マナのカードを二枚、タップした。
 手札のカードでは、美琴の防御を突破できない。
 しかし、手札のカードで対応できないなら、手札以外のカードで対処すればいいだけのことだ。
「リサイクル2! 墓地の《連唱 GENJI・ファイアー》を2マナで唱えるよ! その効果で、相手ブロッカーを一体破壊!」
「リサイクル呪文……! 《チェイサー》の効果で狙っていたのはこれ……!?」
「その通り! 破壊するのは当然《フラスコビーカ》だよ!」
 墓地からでも唱えることのできるリサイクル呪文。手札になくとも唱えられ、また《GENJI・ファイアー》は、リサイクルで唱えるコストの方が少ない。
 残ったマナをすべて使い切り、墓地から放たれた《GENJI・ファイアー》が、《フラスコビーカ》を焼き払う。
「っ……!」
「これで、とどめ!」
 ブロッカーのいなくなった美琴に、身を守る術はない。
 最後の防衛線を打ち砕かれ、墓地から戻って来た無法者の奇襲が迫る。

「《漆黒の猛虎 チェイサー》で、ダイレクトアタック!」

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て13」 ( No.457 )
日時: 2016/09/02 15:12
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「……なんか面白みがないわね」
 対戦が終わるや否や、ぽつりと沙弓が零した。
「そう? 《チェイサー》の墓地肥やしとスピードアタッカー付与、それに《GENJI・ファイアー》のリサイクルが上手くシナジーして、噛み合ってたと思うけど。なかなかいい対戦じゃなかった?」
「私はもっと、美琴が想定していなかった死神の使い方を見たかったわ。構築者の考えにない、斬新で奇想天外な一手で逆転、みたいなのを見たかった。なのに、即席で速攻染みた黒赤ビートなんて作っちゃって。出て来た死神なんて、《ボーン・アミーゴ》と《ドルゲドス》だけじゃない」
「部長、それはちょっと無茶振りだよ」
「ここは普通にコントロールデッキをビートダウンに改造した空城さんの構築を褒めなさいよ」
「あんな対戦じゃ満足できないわ。もっと面白いものが見たいの、私は」
「……面倒くせぇ奴だな」
「えぇ……いつも以上に」



「やっとショップマスに止まったか」
「霧島君は、これが初ショップですねー」
「えぇ、やっとカードが買える……2000万払う」
「おぉ? いいの、カイ? そんなに使っちゃって」
「構わん。買える時に買わないと、いつ対戦になるか分からないしな。それにこのモノポリー、思った以上に対戦要素が重要みたいだ」
 普通のモノポリーなら、土地などを他のプレイヤーに買い占められて、なかなか逆転できないというような状況もあるが、このモノポリーは一発逆転の要素が強い。その要素が、対戦に集約されている。
 どれだけ収入源がなくとも、対戦できれば収入になる。そして初っ端、沙弓が「地雷」と称した1億デュ円の賭け金。恐らく、もっと莫大な金額の賭け金もあるのだろう。それを引けば、最下位がトップに浮上することも不可能ではない。
 勿論、狙ってやるにはかなり博打だが、対戦で負けても搾り取られるのだ。それなら、いつでも対戦で勝てるように、カード資産を整えておいて損はないだろう。
「それに、俺のデッキは誰かの怠慢で、ただのカードの束だからな。いい加減、まともな形にしておきたい」
 浬は恋へと視線を向ける。すると彼女に睨み返された後、視線を逸らされた。なぜこちらが悪い、みたいな反応なのか。
「とりあえず、2000万デュ円分のカードを買うぞ。これで俺の番は終わりだな」
「この出費で、四位以下の順位が変わりましたね……」
 トップは今でも沙弓のままで、二位がミシェル、三位が空護と並び、四位だった浬だが、この大きな出費で下位の美琴、恋に抜かれてしまった。
 とはいえこの順位変動は仕方ない。浬はそれなりに土地も入手しており、ある程度の収入は確保されている。あとは対戦で勝てるように、デッキを弄るだけだ。
「自分の番っすねー。数字は……8っす! 自分の数字っすよ!」
「あっそ」
「……というか、お前の8マス先って……」
 八が8マス進むと、ちょうど浬とぶつかった。
 大戦勃発だ。
(まだ、あまりまともと言えるデッキじゃないから、対戦は避けたかったんだが……仕方ないな)
 200枚のカードを手に入れたとはいえ、その中にはカードはカードパワーの低い、見たこともないようなカードも少なくない。カード間のシナジーもなく、方向性などがバラバラなので、まとまりのあるデッキを作るのはまだ難しい。
 しかし二人のプレイヤーがかち合ってしまった以上、対戦は避けられない。
「そういえば、浬君はこれが初対戦だね」
「何気に対戦に関与してなかったからね。つまらない奴ね」
「俺に非はない」
 沙弓のいちゃもんを受け流しつつ、レギュレーションの紙を引く。変なレギュレーションでなければいいが。
 そう思いながら紙を開くと、
「……なんだこれ? 『ワンデッキデュエル:リミテッド』……?」
「おっと、それを引いたわね……待ってて、準備するから」
「準備? 計略デッキみたいなものが他にもあるのか?」
「いくらでもあるわよ。私の準備に抜かりはないわ」
「なら飯の準備も考えとけ……」
 という苦言を聞き流しながら、沙弓はまたもバッグの中からカードの束を取り出す——
 ——箱ごと。
「デッキはこれ一つよ」
「は?」
 ドンッ、と浬と八の間に、その箱を置いた。その行為も意味が分からないし、彼女の言葉の意味も分からない。
「ワンデッキデュエルは、その名の通り、一つのデッキだけで対戦するデュエマのルールよ」
「え? デュエマって普通、デッキ一つじゃないの?」
「そういう意味じゃないわ、暁。デュエマは普通、お互いのプレイヤーがデッキを一つずつ持ち寄って対戦する。だから場に出ているデッキは二つになるわ。だけどワンデッキデュエルは、“二人のプレイヤーが一つのデッキを共同で使う”のよ」
「成程な……一つのデッキを共有するから、互いの戦略ではなく、その場その場の状況やカードで即時対応しなければならないということか。それで、リミテッドってどういうことだ?」
「あら、カイ知らないの?」
「リミテッド自体は知ってる。その場で開封したパックで即席デッキを作るレギュレーションだが……これは即席なのか? 確かに部長が出したカードは、明らかにカードの束から適当に引っこ抜いたように見えたが……」
「あー、そのへんはあまり深く考えなくてもいいわ。そのデッキの中身はかなり適当ってだけだから」
「おい、どういうことだ部長」
「正確にはリミテッドじゃなくて、用意したデッキってことなんだけど、でも、ハイランダー構築になってるだけだから、それ以外は本当に適当よ? なにが入ってるのかとか、枚数とか覚えてないし。たぶん枚数は600くらいはあるかしらね? あと、デッキだけじゃなくて、墓地も共有だから、そこんところよろしくね」
 デッキと墓地は共有、。デッキの枚数はおよそ600枚……要するに山札切れはないということだろう。そして、ハイランダー構築。
 特に重要なのは、デッキ内のカードがすべて一積みということだろう。一枚カードが見えれば、二枚目はない。一度出たカードが使える選択肢が消えるわけだ。もっとも、枚数が多すぎて、どのカードが入っているかなどという考えは無意味だろうが。
「とりあえずルールは概ね理解した。随分と破天荒だが……仕方ない。やるか」
「そうっすね」
 正直、このレギュレーションは浬にとってはありがたい。というのも、浬はまともなデッキが作れていないため、使用デッキの時点で不利がついているからだ。
 しかし一つのデッキを共有ということであれば、デッキに関してはイーブン。お互いに内容を把握しておらず、同じデッキを使うのであれば、そこに有利不利はない。そこをフラットにできれば、あとは実力と運だ。
 己の力だけが物を言う対戦。リミテッドのワンデッキデュエル。
 浬と八の対戦が、始まった。

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て14」 ( No.458 )
日時: 2016/09/02 20:10
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

『ワンデッキデュエル:リミテッド』ルール
・約600枚のカードが入った一つのワンデッキを使用する。
・ワンデッキはハイランダー、すべてのカードが一枚ずつしか入っていない。
・ワンデッキは互いのプレイヤーで共有する。ドローなど山札に関わる行動、効果はすべてワンデッキから行う。
・墓地も共有する。使用した呪文、破壊されたクリーチャーなどは、共有する墓地へと置かれる。



 かくして始まった、浬と八のワンデッキデュエル。
 デッキの大きさは凄まじいまでに大きい。普通のデッキの何倍も大きいので、横転防止のため、箱に入れた状態で横倒しのままデッキは配置された。
「んじゃ、とりあえずシールドを並べて——」
 カードを適当に取って、五枚のシールドと手札にする浬。そこで、彼のシールドを展開する手が止まった。
「どうしたんすか? 浬さん?」
「……おい部長」
「なに?」
「なんか変なカード混ざってないか?」
 見れば浬のシールドのうち一枚だけが、異彩を放っている。明らかに一枚だけがおかしい。どうおかしいかと言えば、
「かいりくんのシールド、一枚だけ赤いです……?」
「でも、デュエマのカードの裏面とよく似てるね」
「いきなり使用禁止カードが見えるってどういうことだ!」
 そう、このカードは、デザインだけならデュエマのそれと酷似したカードなのだが、裏面が赤い。おおよそのカードゲームは、裏面が統一されているからこそ、各カードの区別がつかないようにしているので、一枚だけ赤いというのは問題だ。それゆえに禁止カードにされている。
 だが、しかし、
「このレギュレーションで禁止とかそういうのないから。構築段階でのルールなんて存在しないわ。禁止殿堂すべてが入り乱れているのが、このデュエルよ」
「普通の色のカードもあるだろ! なぜわざわざ使用禁止の方を混ぜる!?」
「んー、面白いから?」
「こいつ……!」
 非常にムカついたが、一騎らに宥められ、ひとまず落ち着く浬。
 とりあえず、今は対戦だ。一枚がS・トリガーでないことが確定したが、それはそれとして置いておき、シールド展開の後に五枚の手札を引く。
 その五枚を見た瞬間に、顔が引きつる。
 その後枚は、《芸術機甲サン・オブ・サンダー》《メビウスの回廊》《ボーンブレイド・ドラグーン》《ブルーザー・ドラゴン》《獣達の輪舞》。
(なんだ、この手札は……)
 綺麗に五色が揃った、ドマイナーなカードばかり並ぶ手札。シナジーもなく、単体のカードパワーも高くない。そもそも、効果がよくわからないカードも多い。
 こんな手札でどう戦えと言うのだろうか。
「ええぃ、こうなった以上、やるしかない! 俺のターンからだな。《獣達に輪舞》をチャージしてターン終了だ」
「自分のターンっすね。《鎧亜の紅滅コルンダ》をチャージ。終了っす」
「俺のターン」
 ドローしてきたのは、《霊峰の守護者ルキア・レックス》。
 3コスト、光と自然のカードで、パワーアタッカーとターン終了時にアンタップするだけの、淡白なスペックのクリーチャーだが、
(まともに使えそうなカードが来たか……)
 このルールだと、引いてきたカードと、その場その場での対応がものを言う。
 さらに、なにが来るのか分からないので、駆け引きよりも、単純な殴り合いに発展することの方が多いだろう。
 そう考えると、早めに使えるカードを持っておくのは、決して悪くない。
「《サン・オブ・サンダー》をチャージ。終了だ」
「自分のターンっす。ドローっす」
 八はなにを考えているのか分からない。あまり作戦を立てるような性格には見えないが、どう動くのか。
「《大作家ホメロス》をチャージして、2マナで《フェアリー・ライフ》を唱えるっすよ」
「デッキに一枚しかない《フェアリー・ライフ》を、このタイミングで……!」
 八のマナに置かれたのは、《超次元グリーンレッド・ホール》。
 そのカードを見て、ふと浬が尋ねる。
「なぁ、これって超次元は……」
「超次元ゾーンなんてものはないわ」
「やっぱりか。それだとさっきの、物凄く悲しいカードになるぞ」
 超次元ゾーンからクリーチャーが呼べないので、まるで効果のないバニラ呪文に成り下がる。多色バニラ呪文だなんて、どこにも需要がない残念すぎるカードだ。
「俺のターン」
 次に引いたのは《偶発と弾幕の要塞》。
 多色カードの上に、重く不確実な除去。正直いらないカードだが、これをチャージすると、このターンに3マナ使えない。
 なので、《ブルーザー・ドラゴン》をマナに置く。
「3マナで《ルキア・レックス》を召喚! ターン終了だ」
「じゃあ自分のターンっすね。ドローして、こっちは、《ワンケングレンオー〜全速前進〜》をチャージ。4マナで《グシャット・フィスト》っすよ! パワー3000以下のクリーチャーを破壊っす!」
「っ、出したそばから破壊されたか……!」
 せっかく出した《ルキア・レックス》が即座に破壊されてしまう。これは少々痛い。
「《偶発と弾幕の要塞》をチャージ。《ジオ・コーヒーボーイ》を召喚」
 果たしてスペース・チャージがどれほど機能するかが疑問だが、出さないよりはマシだろうと思いつつ、今しがた引いたばかりのクリーチャーを展開する浬。しかし、たかが1000火力とはいえ、なにが来るのか分からないこのデッキなら、火のカードさえ手札にキープしていれば、使う機会はありそうだ。
「《聖霊王アルカディアス》をチャージっす」
「強いカード来てんな……」
 出せるかどうかはさておき、あんなフィニッシャーを出されたら、相当きついだろう。マナに行って助かった。
 というより、八はやたら使えない進化クリーチャーを引いているような気がする。沙弓は、デッキの中身は適当だと言っていたが、進化元になるクリーチャーは入っているのだろうか。
「2マナで《秘護精ラビリオン》召喚っす。これで食い止めるっすよ!」
「ただの2マナ3000の準バニラブロッカーだけどな」
 しかし、攻めようとした手が止められたのは確かだ。貧弱な《ジオ・コーヒーボーイ》が殴れなくなった。
 どうしようかと思いながら、浬がカードを引くと、
「! いいカードを引いた」
 この状況を打開できるとは限らないが、それでも、かなりの“当たり”を引いたことは間違いないだろう。
 わりと博打気味にはなるが、ここでこれを出さない理由はない。
「《ボーンブレイド・ドラグーン》をチャージ。4マナで《アクアン》を召喚だ!」



アクアン R 水文明 (4)
クリーチャー:サイバーロード 2000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から5枚を表向きにしてもよい。その中から光と闇のカードをすべて自分の手札に加え、残りを自分の墓地に置く。
※プレミアム殿堂



 やはりというかなんというか、当然のように入っているプレミアム殿堂カード。その一枚、《アクアン》。
 出た瞬間に最大で五枚の手札補充が可能な、4コストのクリーチャーにはあるまじきアドバンテージの塊。その強すぎるアドバンテージの獲得が、このクリーチャーをプレミアム殿堂に押し上げた。
 しかし手にはいるカードは光と闇のカードのみ。多くのカードを得るには、デッキ構築を工夫しなければならなず、このデッキで十分にその力が発揮できるかは分からない。だが、試す価値は十分にある。
 浬はカードを五枚捲る。捲った五枚のカードは《電脳聖者タージマル》《ライト・ディフェンス》《スカル・チェーンソー》《霊王機ブルファリオン》《五元のロードライト》。
「五枚すべて、光、闇のカードだ」
『おぉ!』
 一同がざわめく。二、三枚の手札補充でも十分だったが、五枚も手に入るとは、嬉しい誤算だ。
 決して有用なカードばかりではないが、手札を多く持っている。なにが引けるか分からない。また、デッキそのものに強いカードの少ないこのデュエルなら、その膨大なハンドアドバンテージだけでも武器になる。
 なんにせよ、これで形勢は一気に浬が有利になったと言えるだろう。
「自分のターンっすね。《セイント・キャッスル》をチャージっす」
 しかし八は、まるで動揺を見せない。ハンドアドバンテージに莫大な差が付いたことは彼にも分かっているだろう。それでもまったく反応を見せていなかった。
 そもそも彼は、この対戦における手札の重要性を理解しているのだろうか。その場その場で対処するしかないこの対戦における、手札枚数の意義を。
 浬がそう思った、次の瞬間、
「6マナで《ソウル・アドバンテージ》を唱えるっすよ!」
「な……っ!?」

 戦国最悪のプレミアム呪文が放たれた。

番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て15」 ( No.459 )
日時: 2016/09/03 00:11
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

ソウル・アドバンテージ R 闇文明 (6)
呪文
自分のシールド1枚につき相手の手札を1枚見ないで選び、捨てさせる。
※プレミアム殿堂



『おぉぉっ!』
 このカウンターの一枚で、さらに湧き上がる一同。
 《ソウル・アドバンテージ》。自分のシールドの枚数に応じてハンデスする、プレミアム殿堂カード。
 このカードがプレミアム殿堂たるゆえんは、《ロスト・ソウル》のようなオールハンデスに近い効果を、《ロスト・ソウル》よりも早く撃てる点だ。四、五枚のハンデスを喰らえば、普通のデッキなら手札をほぼすべて叩き落される。それが単純に《ロスト・ソウル》よりも1ターン早く襲ってくるのだ。脅威でないわけがない。
 勿論、《ロスト・ソウル》に劣る面もあるし、そもそも速攻などのビートダウンには効果が薄いため、《アクアン》のように単純に膨大なアドバンテージを得られるから強いのではなく、環境の変化による規制という意味合いが強いだろう。
 なんにせよ、このタイミング、この局面で、このカードチョイスは、この上なく正しい一手だ。
 八のシールドは五枚。つまり、5ハンデスが浬に襲い掛かる。
「引いたカードがすべて叩き落された……!」
 先ほど《アクアン》で手に入れたカードがすべて墓地に落とされ、結果的に浬は《アクアン》一体を場に残しただけとなる。手札も一枚しかない。
 《ラビリオン》に攻撃を止められ、手札も少ない浬は、また足踏みすることになってしまう。
「……いや、まだだ! マナチャージはなし! 5マナで《トリプル・ブレイン》! カードを三枚ドローする!」
「《8月》をチャージ! またまた6マナで《炎槍と水剣の裁》を唱えるっす! パワー3000以下のクリーチャーをすべて破壊して、破壊した数だけドローっすよ!」
「くっ……!」
「三体破壊したから、三枚ドローっす! さらに、あまった1マナで《ブルース・ガー》を召喚っす!」
 盤面をリセットされた上に、手札補充に攻撃準備。完全にペースを八に持って行かれた。
「《偽りの名 13》をチャージ! 《青銅目 ブロンズザウルス》召喚! マナを一枚追加!」
 浬も負けじとクリーチャーを並べる。《ブロンズザウルス》で増えたマナは、幸運にも《ホーリー・スパーク》。単色カードなら、このターンに使えるマナが一枚増える。
「追加だ、2マナで《シャーマン・ブロッコリー》を召喚! ターン終了だ」
「《パラダイス・アロマ》をチャージっす。5マナで《デス・チェイサー》を唱えるっすよ! アンタップしている相手クリーチャーを一体破壊っす! 破壊するのは《ブロンズザウルス》!」
「除去が強いな……!」
「除去だけじゃないっす! 3マナで《エナジー・ライト》、2枚ドローっす!」
 火力に始まり、ハンデスに全体除去、確定除去と、ここまで八はこちらのカードを墓地に送る行為を繰り返している。お陰で、浬は思い通りに動けない。
「さらに《ブルース・ガー》でシールドをブレイクっす!」
「遂に一枚目のシールドが破られたか……!」
 ここまでコントロールのような動きを見せていた八だが、ここで殴ってきた。コントロールであれば、打点を揃えてから殴るのが吉だが、この対戦はワンデッキデュエル。引いてくるカードがコントロール向きとは限らない。むしろ、とりあえずなんでもいいから打点として並べ、殴り合うのが本質と言えるだろう。
 単純な殴り合いは得意ではない。加えて先手を取られた。デッキ内容が分からないからコンボを組むこともできない。
 とにかく今は、今できることをするしかなかった。
「俺のターン! 《暗黒導師ブラックルシファー》をチャージ! 4マナで《幻槍のジルコン》を召喚。カードを一枚引き、一枚捨てるぞ」
 とりあえず、クリーチャーを並べる殴れないブロッカーだが、相手の追撃を防ぎつつ、手札を整えられるため、悪くないクリーチャーだ。単純な墓地肥やしとしては、もはや使われないカードだが。
「さらに2マナで《ハッピー・とラッキーの一撃》を唱える! 俺のシールドを一枚見るぞ。見るカードは決まってるがな」
 《ハッピーとラッキーの一撃》は、自分のシールドを一枚見て、手札に加えられる呪文。手札に加えれば山札から一枚シールドを補填し、加えなければ一枚ドローできる。得られるアドバンテージはささやかだが、トリガーの有無など、情報アドバンテージも利用することで、よりテクニカルな使い道もある。
 もっともこの場合、浬の目的はかなり単純だが。
 浬はシールドを一枚選ぶ。選ぶのは、例がの裏面が赤いカードだ。
「当然、このカードは手札に加え、山札の一番上をシールドに追加する」
 一枚だけ明らかにトリガーではないことを公表していたが、これでその心配もない。ただし手札になにを持っているのか、ばればれだが。
「だがそれも、ハンデスを喰らう前に出せば問題ない。《ブロッコリー》で《ブルース・ガー》に攻撃、相打ちだ。俺の《ブロッコリー》は、破壊される代わりにマナに行くがな」
 一度タップすれば起き上がらない《ブルース・ガー》は放置しててもよいのだが、浬はあえて《シャーマン・ブロッコリー》と相打ちにして、マナを伸ばす。殴り手も重要だが、今はまだリソースの確保を優先する。
「ターン終了」
「自分のターンっすね。《無敵巨兵ゴーマッハV》をチャージ。2マナで《ゴースト・タッチ》っす!」
「ハンデス……!」
「それっすよ!」
 狙われたのは、やはり赤いカードだった。見ないで選ぶということは、決してランダムではないということを示しながら、赤いカードは墓地に落ちていった。
「《ガルベリアス》が……! この裏面の赤さ、どうにかならないのか!」
「残念ながら無理ねぇ。まあ、フラグを立てたカイが悪いってことで」
「納得できん……!」
「さらに7マナで《ルナ・ヘドウィック》を召喚っす! カードを一枚引くっすよ!」
 追加で出て来たクリーチャーは、《ルナ・ヘドウィック》。コストは高いものの、パワー3000のブロッカー、S・トリガーにキャントリップがついてあるだけの、淡白なスペックのクリーチャーだ。
 とりあえずブロッカーが一体出て来たとだけ考えて、浬はカードを引く。
「ん……? 妙なカードが来たな……」
 引いたカードを見て、浬は小さく反応を見せた。
「とりあえず唱えておくか。4マナで《カラフル・ダンス》」
 浬が唱えるのは、《カラフル・ダンス》。五枚のマナ加速の後、マナゾーンのカードを五枚墓地に置かなくてはならない呪文。主に墓地肥やしや、コンボなどに使われる呪文で、基本的にこれ一枚ではアドバンテージは得られない。
 しかし浬の手札には、これといって有用なカードもない。墓地利用するようなカードを引くかどうかも分からない。だが《カラフル・ダンス》は、墓地に置くカードをタップしたマナにすれば、ほぼノーコストで唱えられる。
 だから、とりあえず、で唱えるのだが、
「山札の上から五枚をマナに置くぞ」
 マナに置かれたのは《次元流の豪力》《双月怪鳥 パルプ・フィクション》《暗黒皇女アンドゥ・トロワ》《ぼくらの友情パワー!》《アクア・マスター》。
 浬はマナに置かれたカードをジッと見据える。そして、なにかを決したように、マナのカードを五枚手に取った。
「……成程な。《13》《ブラックルシファー》《ブロッコリー》《ホーリー・スパーク》《パルプ・フィクション》の五枚を落とす」
 手に取ったカードを墓地に落とす。そして今度は、マナに置かれた《アクア・マスター》をタップした。
「いざという時、マナにも対応できるように握り続けていたが、その甲斐はあったな。1マナで《メビウスの回廊》を唱える!」
「な、なんすか、それ?」
「この呪文は、マナゾーンから光、闇、火、自然いずれかの文明を持つカードを回収できる。回収するのは《アンドゥ・トロワ》だ。そして6マナで《暗黒皇女アンドゥ・トロワ》を召喚!」



メビウスの回廊 C 水文明 (1)
呪文
光、闇、火または自然のカードを1枚、自分のマナゾーンから手札に戻す。



暗黒皇女(あんこくおうじょ)アンドゥ・トロワ R 闇文明 (6)
クリーチャー:ダークロード 4000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、コスト1のクリーチャー、コスト2のクリーチャー、コスト3のクリーチャーをそれぞれ1体ずつ、自分の墓地からバトルゾーンに出す。




「墓地は共有だったな? そのルールを利用させてもらう。《アンドゥ・トロワ》の能力で、墓地からコスト1、2、3のクリーチャーをそれぞれ復活させる! コスト1からは《ブルース・ガー》! コスト2からは《ブロッコリー》! コスト3からは《ルキア・レックス》だ!」
「う、まずいっす……」
 小型ばかりとはいえ、浬の場に、一気に四体ものクリーチャーが現れた。しかもそのうち一体は、八が召喚し、破壊された《ブルース・ガー》。
 墓地が共有ということは、墓地回収やリアニメイトによって、破壊した相手のクリーチャーも使えるということ。今回は、浬がそれを利用した形だ。
「《カラフル・ダンス》から《メビウスの回廊》、そして《アンドゥ・トロワ》か。いい感じにカードが繋がってるね。流石は浬君だ」
「そう? 《アンドゥ・トロワ》がマナに落ちたのは偶然だし、たまたまじゃない?」
「でも、《メビウスの回廊》を握り続けていたのは、見事だと思うわ。私ならとっくにマナに置いてた」
「なんにせよ、墓地共有のルールが生かされたな。ハチ公は自分で出した《ブルース・ガー》を奪われて、一気に展開されたが、どう返すのか」
 殴り合いが主となるこの対戦。数を展開した浬に戦況が傾いた。
 しかし殴り合いにおいて重要なのは、数だけではない。殴り合いには、大きく分けて二つの方法で、場を制する術がある。
 その一つが数。大量の軍団で、敵を押し潰す方法。浬が今現在取ろうとしているのが、これだ。
 そして、もう一つは——
「だったらこっちはこれっすよ! 《インフェルノ・サイン》!」
「!」
「墓地からコスト7以下のクリーチャーを復活っすよ! さぁ、出るっす!」
 ——巨大なクリーチャーで、ねじ伏せることだ。

「——《ガルベリアス・ドラゴン》!」


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