二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.551 )
日時: 2017/03/23 01:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 一騎が相手するのは、敵意を剥き出しにしていた方の獣人型クリーチャー。
 攻撃的で興奮しており、今にも噛みついてきそうな雰囲気があったが、
「《爆熱血 ロイヤル・アイラ》を召喚。手札の《マッカラン・ボナパルト》を捨てて、二枚ドローするよ。ターン終了」
「こっちは《ウェディング》をチャージして、ターン終了なのだ」
 前のめりな姿勢に反して、動きそのものは非常に大人しい。
 相手のマナゾーンには《星龍の記憶》《青音の精霊龍 リンガール》《「祝」の頂 ウェディング》三枚が見えており、なんとなく嫌な予感のするマナゾーンだ。
「俺のターン……ここは《焦土と開拓の天変》だ。1マナ追加して、マナゾーンの《リンガール》を墓地に送るよ」
「ドロー。《クロック》をチャージして、ターン終了なのだ」
 ランデスして動きを鈍らせるも、気にする様子もなくひたすらドローとマナチャージのみを繰り返す。一見すると初動が引けず、手札事故を起こしているように見える。
 しかし、どこか不穏だ。
「俺のターン……これは、やるしかないか……?」
 まだ相手のデッキタイプは確定できない。下手に突っ込むのも危険な気がするが、気を窺いすぎても仕方がない。
 しばし思案してから、一騎は攻める決意を固め、このターン引いてきたそのカードを、戦場に放つ。
「《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を召喚! そして、そのまま攻撃する時、マナ武装7発動! 超次元ゾーンからコスト6以下のカードをバトルゾーンに出すよ。 出すのは……」
 一騎の場には《ロイヤル・アイラ》がいる。ここで《ガイハート》を呼び出せば、龍解して大きなプレッシャーをかけつつ、シールドをすべて割ることができるが、
「……《最前戦 XX幕府》だよ。Wブレイクだ!」
 一騎はフォートレスを設置する方を選んだ。《ガイハート》だと、S・トリガーなどを踏んだ時に龍解が止まってしまう。それを考慮しての選択であろうか。
 直後、《グレンモルト「覇」》が、シールドを二枚粉砕する。
 そして、
「! S・トリガーなのだ! 《天運ゼニスクラッチ》!」
「…………」
「山札をシャッフルするのだ。そして、山札の一番上をめくるのだ!」
 不運にもと言うべきか、はたまた案の定と言うべきか、S・トリガーを踏んでしまった。
 除去トリガーではないものの、これから起こり得る事次第では、それ以上に脅威となるカード。
 光が収まると、掻き混ぜられた山札の一番上が、公開される。
 それは、
「《「俺」の頂 ライオネル》だったのだ!」
「えぇ……」
 最悪のトップだった。



「俺」の頂 ライオネル ≡V≡ 無色 (10)
クリーチャー:アンノウン/ゼニス 13000
ブロッカー
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、自分の山札の上から1枚目を裏向きのまま、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに加える。その後、自分のシールドをひとつ、相手に選ばせる。そのシールドを自分の手札に加えてもよい。
自分の手札に加えるシールドカードはすべて「S・トリガー」を得る。
T・ブレイカー
エターナル・Ω



「《ゼニスクラッチ》の踏み倒し効果は召喚なのだ。だから、《ライオネル》の召喚時能力発動なのだ! 山札からシールドを追加。さぁ、シールドを一枚選ぶのだ!」
「……じゃあ、さっき加えたシールドで」
「これを手札に加えるのだ。でも、《ライオネル》の能力で、S・トリガーなのだ! 《「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ》! S・トリガーで召喚なのだ!」
「うわぁ……」



「獅子」の頂 ライオネル・フィナーレ VR 無色 (10)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/アンノウン/ゼニス 12000
このクリーチャーを召喚してバトルゾーンに出した時、自分のシールドを好きな数、手札に加えてもよい。その後、自分の手札を5枚まで、新しいシールドとして自分のシールドゾーンに裏向きにして加える。
T・ブレイカー
エターナル・Ω



 不運は連鎖する。
 《ゼニスクラッチ》から召喚された《ライオネル》が、S・トリガーを与えられた《ライオネル・フィナーレ》を呼び出す。
 当然、S・トリガーも“召喚”で場に出るため、《ライオネル・フィナーレ》の召喚時限定の能力が発動する。
「《ライオネル・フィナーレ》の能力で、シールドを三枚、手札に加えるのだ! そして、このS・トリガーも使えるのだ!」
 一騎にとっての不運は相手のとっての幸運。必然に変えられた奇跡の力が、《ライオネル・フィナーレ》の力でさらに暴発する。
「こっちは使わないのだ……だけど、こっちはS・トリガーなのだ! 《スペルブック・チャージャー》! 山札から五枚見て、《ゼニスクラッチ》を手札に加えるのだ。さらにもう一枚S・トリガー! 《「修羅」の頂 VAN・ベートーベン》を召喚なのだ!」
「あぁ……やっぱりいたか」
 今まで一枚も見えなかったが、《ウェディング》が見えた時点で、なんとなく察していた。
 繰り返すが、S・トリガーは召喚。なので《ライオネル》でS・トリガーを得て、《ライオネル・フィナーレ》によって暴発させられた《VAN・ベートーベン》も、召喚でバトルゾーンに出て来る。
「《VAN・ベートーベン》の召喚時能力で、そっちのクリーチャーをすべて手札に戻すのだ!」
 刹那。
 一騎の場が吹き飛んだ。
 一体のクリーチャーも残さず、全滅する。
「……これは詰んだかな」
「一騎!」
「《VAN》は流石に……俺のクリーチャー、ほとんど封殺されるし……」
 《VAN・ベートーベン》は召喚時に相手クリーチャーをすべて手札に戻すだけでなく、場に存在する限り、一騎はコマンドとドラゴンを出すことができなくなる。
 一騎のデッキは、フィニッシャーの多くがドラゴンとドラグハートの準赤単。手札に戻された《グレンモルト「覇」》に加え、《テイン》や最終兵器《ガイグレン》も出すことが出来なくなる。
 それ以前に、ゼニスが三体も並んでいるこの状況は、あまりに絶望的だ。
「《ライオネル・フィナーレ》の能力処理を続行するのだ。手札を五枚、シールドに置くのだ!」
「……ターン終了だよ」
 ダメ押しのようにシールドを完全回復され、結果としては相手の場にクリーチャーが三体並び、一騎のクリーチャーはすべて消し飛ばされただけ。
 こうなってしまえば為す術もなく、ターン終了を宣言する。
「行くのだ! 《VAN》をチャージして、5マナで呪文《ホーガン・ブラスター》なのだ!」
「っ、やばい……!」
 召喚ではないものの、クリーチャーや呪文を問答無用で踏み倒す殿堂呪文《ホーガン・ブラスター》。
 これ以上ゼニスが増えると、ますます逆転が難しくなる。
「山札をシャッフルして、公開!」
 しかし、
「……《カーネル》なのだ。ハズレなのだ」
「よ、よかった……」
 それでも現状が辛いことに変わりはない。
 相手の場には、一騎にとどめを刺すだけの打点が揃っているのだから。
「こうなったら、とっとと決めてしまうのだ。《VAN》でTブレイク!」
「くっ……トリガーはないよ」
「次に《ライオネル》でTブレイクなのだ!」
「……S・トリガー!」
 《VAN・ベートーベン》の槍が、《ライオネル》の拳が、一騎のシールドを突き砕く。
 しかし《ライオネル》の攻撃によって砕かれた一枚もシールドが、光の束となり収束した。
「《英雄奥義 バーニング・銀河》! まずはコスト5以下の《カーネル》を破壊! 続けてマナ武装7! コスト12以下の《VAN》を破壊!」
「ぬ? 《ライオネル・フィナーレ》を破壊しないのか? もうとどめだぞ?」
「《VAN》がいたら本当にきついからね……最後のシールドでトリガー、来てくれるかな」
 まだシールドは一枚残っている。そこで《ライオネル・フィナーレ》を除去できれば。
 最後のシールドを捲る一騎。しかし、それはそっと手札に加えられた。
「……トリガーはなかったよ」
「だったらこれでとどめなのだ! 《ライオネル・フィナーレ》でダイレクトアタック!」
「ニンジャ・ストライク4、《ハヤブサマル》を召喚してブロックするよ」
「ぬおぉぉぉ!?」
 突如現れたシノビに、相手の吃驚の声が響く。
 とどめの一撃が繰り出されると、その瞬間、一騎の手札から《ハヤブサマル》が飛来し、《ライオネル・フィナーレ》の攻撃を防ぐ。
 《ハヤブサマル》は粉々に粉砕されて散ったが、これで一騎は、とどめの一撃を防いだ。
「いくら《VAN》がきついからって、ラストアタック防げないんじゃ、流石に《フィナーレ》を倒すよ」
「ぐぬぬ……ターン終了なのだ……!」
「俺のターン。《龍覇 グレンモルト》を召喚! 《ガイハート》を装備して、さらに呪文《二刀流トレーニング》!」
 《VAN・ベートーベン》を倒し、なんとか生きながらえた一騎だが、状況が厳しいことに違いはない。
 現在の手札から導き出せる唯一の生き残る道。それも、非常にか細い。
「あとはトリガー次第だな……《グレンモルト》で攻撃! 《二刀流トレーニング》の効果で《グレンモルト》をアンタップして、シールドをブレイク!」
 《ライオネル》の能力で相手のシールドはすべてトリガーとなっている。《ガイハート》が龍解するまでの二回の攻撃で、《グレンモルト》の攻撃が止まったり、除去されなければ、生き残れる。
 最初の一枚目が、ブレイクされた。
「……S・トリガーなのだ! 《ゼニスクラッチ》!」
「そっちか……」
 一枚目のS・トリガーは、《天運ゼニスクラッチ》。
 さっきは《ライオネル》を捲られた。次はなにを捲られるのか、非常に怖い。
 《ライオネル》が捲られると《グレンモルト》が攻撃できなくなるので非常に困る。《VAN・ベートーベン》は直接的に除去を仕掛け、《ライオネル・フィナーレ》ならシールドを暴発させてくるだろう。
 一番マシなのは《ウェディング》だが、捲られたのは、
「うあぁぁ! 《ポジトロン・サイン》なのだ! 違うのだ!」
「……よかった。なら、もう一枚をブレイク!」
 一枚目のトリガーは潜り抜け、二枚目のトリガー勝負。
 ここを乗り切れば、龍解できるが、果たして、
「S・トリガー……《星龍の記憶》なのだ」
「ふぅ……じゃあ、これで《ガイハート》の龍解条件成立だ!」
 二枚目のトリガーも、除去カードではない。
 《グレンモルト》は生き残り、二回の攻撃を達成した。
 よって、装備された《ガイハート》が、ひっくり返る。
「龍解! 《熱血星龍 ガイギンガ》!」
 《ガイハート》が龍解し、《ガイギンガ》となる。
 だが、それだけではない。
「さらに《XX幕府》も、《熱血龍 GENJI「天」》に龍解だ!」
「っ! さっき設置したフォートレスなのだ……!」
「嫌な予感がしたから、ちょっとした保険を掛けておいたけど、大正解だったな。《ガイギンガ》で《フィナーレ》を攻撃! その時《GENJI「天」》の能力でブロッカーを破壊するよ! 《ライオネル》を破壊!」
「え、エターナル・Ωでどっちも手札に戻るのだ……」
「ターン終了するよ」
 なんとか相手の場を殲滅できた一騎。
 とはいえ、どこから突然ゼニスを投げられるかもわからないので、油断はできないが。
「呪文《ポジトロン・サイン》なのだ! トップを捲って……S・トリガー呪文を唱えるのだ! 唱えるのは《ゼニスクラッチ》!」
「とか思ってたら、またか……」
 三度唱えられる《ゼニスクラッチ》。
 またしても、《ライオネル》と《VAN・ベートーベン》の恐怖が襲い掛かる。
「……よし来たのだ! 《「祝」の頂 ウェディング》を召喚するのだ! カードを四枚、シールドにするのだ!」
「《ウェディング》か、それならまだ大丈夫だ。手札三枚と《グレンモルト》をシールドにするよ」
「ターン終了なのだ」
 一騎はカードを一枚残して、《グレンモルト》と共に手札をシールドに埋める。
 ブレイクされたシールドの多くが元に戻っただけなので、あまりディスアドバンテージとは感じない。
 そして、一騎のターン。
「俺のバトルゾーンにはコマンド・ドラゴンを含む、合計12コスト分の火のカードがある」
「そ、それがなんなのだ……?」
「このカードが出せる。進化メソロギィ・ゼロ!」
 バトルゾーンに特定の種族が存在し、指定された文明のカードのコストが12以上の時、進化クリーチャーを非進化クリーチャーとして場に出せる能力、メソロギィ・ゼロ。
 疑似的な神話の力が、戦場に再現される。

「《焦土神剣 レーヴァテイン》!」

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.552 )
日時: 2017/03/23 06:39
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「《レーヴァテイン》がバトルゾーンに出たから《銀河剣 プロトハート》を装備! さらに《レーヴァテイン》で攻撃する時、アンタップしつつ、《天守閣 龍王武陣》を設置だ!」
「二回攻撃するのだ!?」
「それだけじゃないよ。もうひとつの能力発動、マナゾーンのカードも一枚墓地へ! シールドをWブレイクだ!」
 《レーヴァテイン》の燃える軍刀が放たれ、シールドを切り裂く。
「S・トリガー……」
「使わせないよ。《レーヴァテイン》がブレイクする一枚目のシールドは、墓地に置かれる!」
「な……せっかく仕込んだ《クロック》が!」
 軍刀に灯る炎が、盾に仕込まれた罠を焼き払った。
 そしてそのまま、もう一枚のシールドも切り裂いた。
「こっちはS・トリガー《ミステリー・キューブ》なのだ! 山札をシャッフルして……来たのだ! 《ライオネル》!」
「召喚で出てこないなら、問題ないよ。《GENJI「天」》で攻撃! 能力でブロッカーの《ライオネル》を破壊だ!」
 最後のシールドがブレイクされる。
 相手のシールドはすべて《ライオネル・フィナーレ》でセットしたシールド。
 となると、ここまで何度もトリガーであったように、この一枚もトリガーの可能性が十分ある。
 それは、すぐさま証明された。
「S・トリガーなのだ! 《天運ゼニスクラッチ》!」
「っ、最後まで運ゲーか……!」
 ここで捲られたのは、四枚目の《ゼニスクラッチ》。
 一騎の胃をキリキリさせるような、凶悪な最後の運ゲーが始まる。
「山札をシャッフルし、トップ公開! 来るのだ!」
 相手のデッキにどれほどのゼニスが入っているのかはわからないが、恐らく半分くらいはゼニスで埋まっているはず。
 ここまで見えているカードからして、なにかしらの凶悪なゼニスが捲れる可能性は十分高い。特に怖いのは、やはり盤面をリセットする《VAN・ベートーベン》だ。
 《ウェディング》や《ライオネル・フィナーレ》ならどうとでもなる。一騎としては、《VAN・ベートーベン》以外のカードを望ましい。
 そして、捲られたのは、

「《「俺」の頂 ライオネル》!」

「《ライオネル》か……!」
 非常に、微妙なカードだ。
 しかし、何度だって運ゲーになる、ということだけは理解した。
「召喚時の能力で、シールドを追加! そして、このシールドを手札に加えるのだ!」
 ここでまたしても天運に任せることとなる。
 この捲れるカード次第、S・トリガーとして放たれるカード次第で、一騎の攻撃が通るか通らないかが決まる。
 光の束となり、収束していく一枚のカード。それは、
「……《カーネル》なのだ! 《レーヴァテイン》の攻撃を禁止するのだ!」
「絶妙なカードだね……!」
 最初からS・トリガーを持つ《青寂の精霊龍 カーネル》。パワーカードが多いだろう相手のデッキで引くカードとしては、弱い。
 しかしこれで相手は、このターン、ギリギリ一騎の攻撃を止められる。その意味では、はずれではない。
「《カーネル》は殴れるし、打点は揃えさせたくないね。《ガイギンガ》でダイレクトアタック! 《GENJI「天」》の能力で《ライオネル》を破壊だ!」
「エターナル・Ωで手札にもどして、《カーネル》でブロックするのだ!」
「ターン終了だ!」
 相手の場には《ウェディング》のみ。シールドはゼロ。
 一騎の場には《ガイギンガ》《GENJI「天」》《レーヴァテイン》。そしてシールドは四枚。
 さり気なく相手の《ウェディング》で防御を固めて、一気に盤面を取り返すことができた。ここまで来れば、そう負けない。
「……《リンガール》を召喚なのだ。手札を一枚シールドに置いて、《ウェディング》で《GENJI「天」》を攻撃なのだ! ターン終了なのだ!」
「俺のターン……これで、終わりだね」
 《龍王武陣》を龍解させつつ、カードを引く一騎。
 この状態まで持って来たならば、一騎の勝利は揺るがない。
「《レーヴァテイン》で攻撃! その時、マナゾーンのカード一枚と、パワー4000以下の《リンガール》を破壊!」
「ブロッカーが……」
「さらに、《レーヴァテイン》は、各ターンブレイクする一枚目のシールドを焼却する!」
 炎を纏う軍刀が、たった一枚のシールドを焼き切る。
 当然の如くS・トリガーだったそれは無残にも墓地へと焼け落ちていった。

「《熱血星龍 ガイギンガ》で、ダイレクトアタック!」

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.553 )
日時: 2017/03/24 13:16
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「なんとか片づいたな」
「正直、かなりヒヤッとしたよ……」
 ただのクリーチャーと思って少し舐めていたところがあったが、想像以上に苦戦させられた。
「ぐぬぬ、こんな奴らに負けるなんて……屈辱なのだ……!」
「そーだねー、負けちゃったねー。それじゃあ、どうしようか? 素直に通す?」
「そんなことするはずないのだ! このままじゃ、ボスに合わせる顔がないのだ!」
 苦戦させられた。それでもなんとか勝てたわけだが、だからといって素直に通してくれるわけでもなさそうだった。
 ここからが大変そうだと思いつつ、恋が一歩踏み出す。
「リオンは……どこ……」
「ボスのことー? 君ら、ボスに用があるんだ」
「ボスには簡単には会わせられないのだ! アポを取ってから出直すのだ!」
 直球で用件を突きつけるも、ストレートに拒否される。
 しかしこの台詞から、この場所にリオンなる人物がいることは確定した。罠の可能性こそ否めないが、ガセの情報ではない。ここに来たことは無駄足ではなかった。
 だとしても、どうしても先に通してくれそうにないクリーチャーらをどうにかするのは、非常に骨が折れそうだ。
 さてどうしようかと一騎ら頭を悩ませていると、

「アポにゃらもうとってんよ」

 奥から低く唸るような、それでいてはっきりと通る声が響き渡った。
 その直後、檻の森の向こうから人影が現れた。
 小柄な少女のような姿。手足がすらりと伸びた、しなやかな肢体。ぼんやりしているようで射抜くように鋭い眼光。口元から飛び出す野性味を感じさせる犬歯。指先の爪。
 そしてなにより、臀部と頭部からそれぞれ伸びる、獣のような尻尾と耳。さらに、雄々しいたてがみのように存在感を放つ金色の髪。
 明らかに人間ではなく、かといって一騎らの知るクリーチャーでもない。未知の獣人クリーチャー。
 しかしその風格は、先の二人とはまるで違う。まるで王者のような、威風堂々とした勇敢さが見て取れた。
 二人の獣人クリーチャーはその人影を見るや否や、口を揃えて声を上げる。
『ボス!』
「おう。てめーら下がってろ。こいつらはオレの客だ……つっても、見にゃい顔もちっとあるみたいだが」
 スッと鋭い眼光を向ける、ボスと呼ばれた獣人少女。
 その威圧的な視線に二人の獣人クリーチャーは身体を震わせる。
「……どうするー?」
「ボスが下がれというのなら、引き下がるしかないのだ……行くのだ」
「わかったよー」
 そして、さっきまでの食い下がりようが嘘であるかのように、瞬く間に撤退していった。
 残ったのは一騎らと、ボスと呼ばれた獣人少女だけ。
 恋は、その少女を見つめていた。彼女が誰であるのか、一騎らは知らないが、恋だけは知っている。
 それを証明するように、二人は口を開いた。
「リオン……」
「久しぶりだにゃ、ラヴァー。わりーにゃ、昼寝してたらすっかり遅れちまったぜ」
「なんか……感じ、変わった……? 前はもっと、けもけもしかった……ような……」
「そのことか。ま、色々あるんだよ。にゃはははは!」
 快活に笑う獣人少女——リオン。
 確かに恋はその名を呼んだ。
 ということは、この獣人少女が、恋の求めるリオンなのか。
「ま、姿が変化しつつあるのは、オレだけじゃにゃいんだよだにゃぁ。さっき二人、オレの部下にゃんだけどよ、あいつらも元々は普通のクリーチャーだ」
「それが、どうして人間みたいな姿になったの?」
「それをてめーが言うかよ、人間……つっても、自覚があるわきゃねーよにゃぁ。ま、仕方にゃいことだわにゃ」
「……どういうことだ?」
 ミシェルが怪訝な視線を向けると、リオンはおもむろに口を開いた。
「この世界は概念世界。新しい概念が世界に生まれるたびに、新しい理が世界の規則として上書きされる世界だ」
「概念世界……?」
「外的要因の影響を受けやすく、常に変化する世界だということです」
「存在そのものが不安定にゃんだよな、この世界。だからこそ神話の力が必要だったわけだが……まあ色々あって、連中はいなくなった。で、そんな時、てめーら人間が現れた」
「そこで世界の概念が上書きされた? ってことなのか?」
「そーゆーこった。一人や二人ならともかく、何人も来たうえに、よりにもよって神話の語り手を手にゃずけるモンだから、かなーり強い影響力ににゃったんよ」
「俺らがこの世界に来たから……」
「連れて来られた、っていう方が正しいんだけどな」
「この世界も広いからにゃ。すぐに変わるわけじゃにゃいが、クリーチャーの“人間化”が少しずつ進んでいるのは確かだ」
 クリーチャーの人間化。
 そんな現象が起こっているとは、微塵も知らなかった。
 そもそも人型のクリーチャーも存在しているうえに、一騎らの知らないクリーチャーも少なくない。人間化が具体的にどのような影響を及ぼすのかもわからず、その現象の意味は不明だ。
 しかし既存のクリーチャーに変化をもたらす影響力が、自分たちにはあった。そしてその力で、この世界は変化している。
 それは、どのような意味を持つのだろうか。
「……イメチェンじゃないんだ……」
「オレは元々獣人型クリーチャーだしにゃ。もうしばらくすれば、お前とお揃いににゃるかもな! にゃはははは!」
 またしても、豪快に笑うリオン。
 その笑いは嘲笑でも皮肉でもない。純粋な喜びの笑いだ。
 恋はリオンのことを友達を言っていたが、その言葉に偽りはなく、そして変化もないようだ。
「しかし、あいつに地味巨乳と銀髪外人以外の友達なんていたんだな」
「……伊勢さんとユーリアさんのことだと仮定して言うけど、それはあんまりな呼び方だよ……」
「つってもよ、伊勢ってあいつの……」
「そうだけど、伊勢さんはいい子だよ。ユーリアさんや、水早君、香取さんも、皆いい人たちだ」
「……ま、別にいいけど」
 そんな恋とリオンの関係確認よりも、重要なことは、他にある。
「……リオン、どうして私を呼んだの……?」
「しかも、あんなに回りくどい方法で……噛み合わせがもう少し悪かったら、完全にスルーしていましたよ」
「にゃはははは、悪かったって。一応、オレにも【秘団】としての体面があるんだよ。ほら、ラヴァー。お前って裏切り者扱いされてんにゃん? あんま公に会うと、他の連中がうるさくてにゃー」
「そんな理由……」
「悪いにゃ。これでもオレは【秘団】の11番の座……『力』を担ってんだよ。ぶっちゃけ、こんなポスト鬱陶しくて捨てたいんだがにゃ」
 にゃはははは、と冗談めかして笑うリオン。
「と、お喋りしすぎたぜ。体面は気にするが、そんでも今はお前のダチとしてここにいるつもりだから、安心しにゃ。【秘団】の連中は連れてきてねーよ」
「……それで、なんで私を……?」
「御託が長すぎたにゃ、オレらしくもねぇ。お前と会ってやることにゃんざ、単純明快にたった一つだ」
 ニィッと、犬歯を剥き出しにするかのように、リオンは笑った。
「遊ぼうぜ、ラヴァー」
 純粋に、純真に、無邪気な、笑みだった。
 まるで子供のように、リオンは手を差し伸べる。
「…………」
 しかし、恋は黙したまま。
 その手を取ることもなく、ジッと立ち尽くしている。
「……ま、そーだわな。今のオレらはそういう関係だ。気ににゃんのも無理はにゃい」
 その意を察したかのように、リオンは手を引く。
 しかし、身までは引かなかった。
「んじゃ、お前が……少なくともお前らが気ににゃる情報を一個、提供してやる」
「……?」

「《守護の語り手》についてだ」

「!」
 緊張が走る。
 語り手。その言葉だけで、全員が食いかかるように、一斉にリオンを注視した。
「《守護の語り手》……それって……」
「おっと、これ以上は言わにゃいぜ? 聞きたくば、オレと勝負だ」
 まるで餌を与えられているかのようだ。
 語り手の情報を得たくば、リオンと戦うしかない。
 《守護の語り手》は、リュンや氷麗が捜索しても、いまだ情報が掴めていない語り手。
 なぜリオンがそれを知っているのかはわからないが、その情報が本当なのであれば、ここで聞き出すことには大きな意味がある。
「……わかった。やろう……リオン」
 恋はデッキを取り、リオンの前に立つ。
「そうこにゃくっちゃにゃ。オレとお前の、久々の遊びだ……にゃはははは! 燃えるぜ!」
「…………」
 あくまでも無邪気に笑うリオン。それに対し、静かに俯きがちな恋。
 遊びと称した二人の戦いが、始まった——

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.554 )
日時: 2017/04/12 13:21
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 恋とリオンのデュエル。
 互いに光を軸としたデッキ構成であり、まだ攻撃はない。シールドはどちらも五枚だ。
 恋の場には《聖龍の翼 コッコルア》。リオンの場にはなにもないが、《コアクアンのおつかい》で手札を増やしている。
 だが、増やすのは手札だけではなかった。
「呪文《スペルブック・チャージャー》! 山札の上から五枚を捲り……《ヘブンズ・ゲート》をゲット! ターンエンドだぜ」
「私のターン……4マナで《ジャスティス・プラン》……トップ三枚を捲って、《コッコルア》《アンドロム》《エバーローズ》の三枚を手札に……ターン終了」
 共に手札を整え、素早くクリーチャーを呼び出す準備を進めている。
 恋は光文明単色、リオンは光と水の混色という違いこそあれど、どちらも《ヘブンズ・ゲート》をメインとして防御に重きを置いた、いわゆる天門デッキ。
 しかし、動き出すのはリオンが早かった。
「オレのターン……そろそろだにゃ」
 マナにカードを置き、6マナ。
 彼女のデッキの核となる呪文が唱えられる瞬間だ。

「開け、天国の門! 《ヘブンズ・ゲート》!」

「来た……」
「手札から光のブロッカー、《龍覇 エバーローズ》と《音感の精霊龍 エメラルーダ》をバトルゾーンに!」
 天国の門から舞い降りるのは、正義の翼を持つ使者と、その正義を執行する聖なる龍。
 口角を上げるリオン。この二体は、彼女の想定するベストの組み合わせだった。
「こいつらの能力は……ま、お前には言うまでもにゃいにゃ」
「……うん」
「んじゃ、遠慮にゃく飛ばすぜっ! 《エバーローズ》の能力で、《百獣槍 ジャベレオン》を呼び出し、装備!」
 天空から一筋の光が差し、龍の魂が封じられた槍が、大地に突き刺さる。
 ただの龍ではない。天頂にすらも君臨する、百獣の王の如き覇気を放つ、猛々しい槍だ。《エバーローズ》はそれを引き抜き、構えた。
「続けて《エメラルーダ》の能力を使用! シールドのカードを手札に加える!」
 次に《エメラルーダ》が、盾を知識に変換し、リオンへと与える。
 シールドを手札に加えたリオンは、牙を剥き、口の端を釣り上げて、ニヤリと微笑む。
「……ラッキィ! S・トリガーだ。呪文《緊急再誕》!」
 手札に加わったシールドは、S・トリガーを持つカード。リオンは躊躇いなくそれを公開し、効果を発動させる。
「《エバーローズ》を破壊し、手札から《知識の精霊ロードリエス》をバトルゾーンに!」
 リオンは、《ヘブンズ・ゲート》で出したばかりの《エバーローズ》を破壊する。それも、ウエポンを装備したばかり、龍解もしていない、武器を持ったままのドラグナーを。
 しかし、この破壊には、ただの破壊以上の意味がある。
 そもそも、素直にウエポンを装備したままのドラグナーを、破壊すると思うだろうか。
 そんなことなど言うまでもないというように、リオンは恋へと言葉を投げかける。自分と、彼女との間にあったはずのなにかを、確認するように。
「お前にゃら分かってるよにゃ? 《ジャベレオン》の能力」
「……うん」
「にゃらよし。行くぜ、《ジャベレオン》を装備したクリーチャーが破壊される時、破壊される代わりに、オレのシールドを一枚、手札に加える」
 《エメラルーダ》に続き、二枚目のシールドを手札に加えるリオン。《緊急再誕》で破壊するクリーチャーを《エバーローズ》にしたのは、このためだ。シールドを一枚犠牲にして破壊を免れることで、場の損失ゼロで、手札からクリーチャーを呼ぶことができる。
 しかし、いくら恋が攻撃的でないとはいえ、自らシールドを減らしていくのはリスキーだ。速攻デッキのように、速度で圧倒するスタイルならともかく、リオンのデッキはそうではない。ブロッカーが多いものの、下手をすれば《マスター・スパーク》などを撃たれてクリーチャーをすべてタップされ、突破口を開かれる恐れがある。
 だがそれでも、リオンは自分のシールドを削ることに意味を見出していた。
 彼女が、更なる力を得るために、必要なことであると信じて。
 力を得るための代償として、己の命を削っていく。
「さあさあ、どんどん行くぜ! 《エメラルーダ》のシールド追加はにゃしでターンエンド。そしてこのターン終了時、オレのシールドが三枚以下! よって、《ジャベレオン》の龍解条件成立だ!」
 その力は次の段階に移行する。
 所有者と寄り添う武器から、すべてを守る要塞へと。

「賛美の歌声で吼えろ! 祝福の鐘の音の如く唸れ! 聖獣の存在を、ここに信仰せよ! 2D龍解——《百獣聖堂 レオサイユ》!」



百獣槍 ジャベレオン 光文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
これを装備したクリーチャーが破壊される時、かわりに自分のシールドをひとつ、手札に加えてもよい。ただし、その「S・トリガー」は使えない。
龍解:自分のターンの終わりに、自分のシールドが3つ以下であれば、このドラグハートをフォートレス側に裏返してもよい。



百獣聖堂 レオサイユ 光文明 (7)
ドラグハート・フォートレス
自分の光のクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、かわりに自分のシールドをひとつ自分の手札に加えてもよい。ただし、その「S・トリガー」は使えない。
龍解:自分のターンのはじめに、自分のシールドがひとつ以下であれば、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップしてもよい。



 《エバーローズ》が《ジャベレオン》を天高く撃ち出した。
 遙か天空で、獣の槍は姿を変える。削り取られた守りに呼応して、その空白を埋めるかのように、すべてを守るために、その力を聖域として発現する。
 そして、一つの聖なる城塞が、舞い降りた。勇猛なる百獣の王の顔を模した聖堂。それは、何者をも守る力の証左だった。
 その力を内包する聖堂は、大空に浮かびながら、リオンらを守るように浮かび続ける。
「さぁ、オレのドラグハートは二段階目に突入だ。お前に、止められるかにゃ?」
「……私のターン」
 リオンの問いかけには応えず、恋はカードを引く。
「呪文《トロワ・チャージャー》、手札から《聖歌の翼 アンドロム》をバトルゾーンに。マナ武装3発動、《エメラルーダ》をフリーズ。さらに《コッコルア》を召喚……ターン終了」
「いいのかぁ? それで。お前がのろのろしてる間にも、オレはガンガン進んで行くぜ」
 まだ静かな立ち上がりの恋。マナを溜め、ブロッカーを並べ、《エメラルーダ》の動きを封じ、守りこそ固めていくが、まだ準備を調ているといった段階。
 自らの勝利のために動きだし、最終段階を見据えているリオンの速度には、追いついていない。
 リオンは獅子の如く、目標を定めた途端、一気に加速する。
「オレのターン。呪文《緊急再誕》!」
 再び、《緊急再誕》が発動する。
 力のために生み出される生命。ひとつの命が、新たな命へと生まれ変わる。
「《エバーローズ》を破壊し、手札から《エメラルーダ》をバトルゾーンに!」
 《緊急再誕》によって、《エバーローズ》の魂から二体目の《エメラルーダ》が誕生する。
 だが、破壊される《エバーローズ》の魂は、《レオサイユ》によって守られるのだった。
「《レオサイユ》の能力発動! オレの光のクリーチャーが場を離れる時、その代わりに、オレのシールドを一枚手札に加える!」
 聖なる光の加護が《エバーローズ》の魂を守る。守りの力を削り、その魂を肉体へとつなぎ止め、《エバーローズ》は破壊を免れた。
 《ジャベレオン》の能力をさらに拡大させた《レオサイユ》。この要塞が存在する限り、そしてリオンのシールドが残っている限り、彼女のクリーチャーが退くことは叶わない。
「さらに《エメラルーダ》の能力で、シールドを手札に加える……シールド追加は、しにゃいぜ。続けて《天門の精霊キバッテ・キャット》を召喚、《ヘブンズ・ゲート》をゲットだ」
「…………」
 しかし、また、リオンは自らシールドを削った。
 前のターンに二枚、このターンに二枚。合計で四枚ものシールドを自ら削り取り、もう残りシールドは一枚しかない。
 あと、たった二回の攻撃で、リオンは敗北する。それほどに、追い込まれてるのだ。
 いや、違う。
 自らを、追い込んでいるのだ。
 命の危機に直結する、窮地へと。
「……やっぱり、変わってない……自分から死に近づいていく、そのスタイル……」
「にゃはは、まあにゃ。本当に力ってモンを引き出すには、命を差し出すっきゃねぇ。安心安全に力を得れるなんて、思っちゃいねぇよ。それに、こがオレの“力”の在り方だからにゃ」
「……そう……なら、私も」
 恋のターン。
 遂に彼女も、天国の扉を開く。

「呪文……《ヘブンズ・ゲート》」

「来たにゃ……!」
「手札から光のブロッカー……《コッコルア》と《エバーローズ》をバトルゾーンに」
 恋の前に開かれた、天国の門。そこから降り立つのは、翼を抱く二人の使者。
 三体目の《コッコルア》に加え、リオン同様に《エバーローズ》を呼び出した恋。だが、彼女が操る槍は、彼女とは違うものだ。
「さぁ、来て……《不滅槍 パーフェクト》。《エバーローズ》に装備」
 己を死に近づけるリオンを嘲笑うかのように、死という概念から遠ざかる、不滅の槍。
 かの槍は数多の魂を受け、その命を持って、力を発現させる。
「ターン終了時、私の場にクリーチャーが五体以上……《パーフェクト》の龍解条件成立……」
 槍に封じられた龍の魂が、戦場に漂う光の魂たちの加護を受け、今、目覚める。
「世界の王よ、正義を掲げ天より降り立ち、不滅の生と命を授ける……」
 《エバーローズ》が槍を撃ち出した。
 天をも貫く光が、雲を射抜き、大地を穿ち、聖なる者たちに天命をもたらす龍を降臨させる。

「龍解——《天命王 エバーラスト》」

烏ヶ森編 31話「猫の恩返し」 ( No.555 )
日時: 2017/04/22 13:23
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

「龍解……完了……」
「おーおー、出やがったにゃ、お前の切り札——《エバーラスト》」
 恋の切り札、《エバーラスト》。その登場にも臆することなく、ニヤニヤと笑っている。
 余裕の態度を崩さない。なぜそれほど余裕なのか。彼女の自身の根拠はなにか。
「だが、忘れんにゃよ? お前はオレより先にドラグハート・クリーチャーを呼び出したが——」
 その存在は、直後に証明される。
「——オレも、既に《レオサイユ》の龍解条件を満たしてるんだぜ?」
 リオンのターン。
 天空に座すように浮遊する《レオサイユ》が鳴動する。
 まるで、溜め込んだ力を解放するかのように。
 獅子が唸り、威嚇するかのように。
 その聖堂は、光を放った。
「オレのターン! その開始時に、オレのシールドが一枚以下ならば、《百獣聖堂レオサイユ》は、最後の龍解を成す!」
 獅子の槍は聖堂となった。
「天まで轟け、賛美の咆哮! 聖なる福音、世界となれ! これが、百獣の王が座す頂だ! 3D龍解——」
 その聖堂は天空に座し、最後にはすべてに座す頂——世界となる。
 刹那、世界に座する百獣の王が咆える。

「——《頂天聖 レオザワルド》!」



頂天聖 レオザワルド 光文明 (10)
ドラグハート・クリーチャー:エンジェル・コマンド・ドラゴン 13500
ブロッカー
T・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンを離れる時、自分のシールドがひとつもなければ、離れるかわりにとどまる。
自分がゲームに負ける時または相手がゲームに勝つ時、かわりに自分の、ドラグハートではないクリーチャーを1体破壊してもよい。



「出た……」
 恋は知っている。これが、リオンの最大の切り札だ。
 リオンが【秘団】において担っているのは『力』。
 力の形は多種多様で、リオン自身もその多様な力の姿を複数顕現させる術を持っている。
 《レオザワルド》は、そんな彼女が有する“力”の顕現の最大形。彼女が最も信頼し、信仰し、崇拝する力の権化。
 絶対的な不滅による圧倒的な守護。それこそが、《レオザワルド》の力の在り方だ。
「呪文《スペルブック・チャージャー》! 山札の上から五枚を見て《おつかい》を手札に。さらに《エメラルーダ》を召喚! 今度はシールド追加だけだぜ」
 龍解のために減らしたシールドだが、龍解した今となっては減ったままの必要はない。シールドを増やして守りを固める。
「まだだ! オレの場にはエンジェル・コマンドが五体以上! よってG・ゼロ発動!」
 リオンの場に存在するクリーチャーたちが、光り輝く。
 発せられる光は繋ぎ合わさり、共鳴し、一つの扉を形作る。
 その扉はゆっくりと開き、正義と叡智を掛け合わせた、最強の聖霊王が降臨する——

「——《聖霊王アルファリオン》!」



聖霊王アルファリオン 光/水文明 (10)
進化クリーチャー:エンジェル・コマンド 15500
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
G・ゼロ:バトルゾーンに自分のエンジェル・コマンドが5体以上あれば、このクリーチャーをコストを支払わずに召喚してもよい。
進化:自分のエンジェル・コマンド1体の上に置く。
T・ブレイカー
相手は呪文を唱えられない。
相手のクリーチャーを召喚するコストは5多くなる。



 複数の天使が描く秘術によって降臨する聖霊王、《アルファリオン》。
 白き正義と青き叡智が混ざり合ったその力は、言霊を封じ、過剰な重圧をかけ、あらゆる行動を雁字搦めに規制する。
 力を突き詰めた先にある一つの形。《レオザワルド》とは違う“力”の顕現。《アルファリオン》が示すのは、苛烈な規律による規制だった。
「さぁ、殴るぜ! 《レオザワルド》でTブレイクだ!」
「……受ける」
 遂にリオンが攻める。
 自ら削って生まれたシールド差を取り返すかのように、《レオザワルド》は二振りの光の大剣を振るう。
 恋の三枚のシールドがまとめて切り裂かれた。
「……ノートリガー」
「続けて《アルファリオン》でも攻撃! Tブレイク!」
「そっちは《アンドロム》でブロック……」
「残りは……《エバーラスト》いるし、殴らにゃい方がいいか。ターン終了だ」
 絶望的な盤面で、恋のターンが返ってくる。
 《レオザワルド》の能力で、リオンを倒すにはクリーチャーを先に倒さなくてはならない。
 《アルファリオン》の能力で、恋は呪文を唱えれず、クリーチャーの召喚コストも著しく重くなる。
 この状況で、恋にはなにができるというのだろうか。
「……私の場には、《コッコルア》が三体」
 状況は非常に厳しい。
 しかし、それでも恋は、なにもしないわけにはいかなかった。
「《アルファリオン》でコストを5増加……《コッコルア》三体でコストを3軽減……差し引きして、コストを2増加……7マナで《エメラルーダ》を召喚……手札を一枚、シールドに……」
 幸いにも《コッコルア》が三体もいるので、召喚コスト上昇はある程度緩和できる。《エメラルーダ》を出して、申し訳程度に守りを固めるが、
「……ターン終了」
「オレのターンだにゃ。念には念をだ。こいつでとどめだぜ」
 リオンはマナゾーンのカードを、十枚タップした。
 そして恋に、さらなる力の顕現を見せつける——

「——《「獅星」の頂 ザ・ライオネル》!」



獅星レオ」の頂 ザ・ライオネル SR 光文明 (10)
クリーチャー:エンジェル・コマンド/ゼニス 13000
ブロッカー
T・ブレイカー
このクリーチャーが召喚によってバトルゾーンに出た時、カードを3枚引いてもよい。その後、手札を3枚まで裏向きにして、それぞれを新しいシールドとして自分のシールドゾーンに置く。
各ターン、相手のクリーチャーがはじめて、1つ以上自分のシールドをブレイクした時、それらのシールドの光のカードすべてに「S・トリガー」を与える。



 それは、色を持ち、文明を有した、光の《ライオネル》。
 屈強な白き獅子の姿は勇敢で、勇猛で、燦々と煌めく太陽の如く輝いている。
 リオンの顕現する“力”の形の一つ、《ザ・ライオネル》。その性質は《レオザワルド》と近い。圧倒的な守護の力だ。
 しかし《ザ・ライオネル》の力は、ただの守護ではない。
 知識と奇跡による、確定的な未来を見通す守護の力だ。
「《ザ・ライオネル》の召喚時の能力で三枚ドロー! さらに、手札を三枚シールドへ!」
「シールドが……」
「言うまでもにゃいとは思うが、《ザ・ライオネル》の能力で、お前が最初にブレイクするシールドが光のカードだった場合、S・トリガーににゃるぜ」
 奇跡の力とは、即ちS・トリガー。しかも手札という知識を介した、策略を用いた計画的未来の確定による奇跡だ。
 天運に任せた奇跡は単なる偶然に過ぎない。自ら奇跡を生み出してこそ、それは確かな“力”となる。《ザ・ライオネル》が示す力は、正にそれだ。
「馬鹿みてーにゃ殴り合いも楽しいけどよ、“力”を示すってなると、また話は変わってくるんだよにゃ」
「…………」
「死にゃにゃいこと、制すること、そして、決定すること。死にゃにゃいだけじゃ意味がにゃい、敵を制する力が必要だ。制するだけじゃまだ足りにゃい、死んだら終いだ。そして、死にゃずに制しても、薄弱な意志に未来はにゃい。強い意志で決定を下し、望む未来を確定させにゃいとにゃ」
 不滅の《レオザワルド》、制圧の《アルファリオン》、そして決定の《ザ・ライオネル》。
 滅することのない不撓不屈の存在、混乱のない完璧な規律、運命すらも凌駕する強固な意志。それら三体の力の在り方が戦場に並び、リオンにとって最強で無敵の布陣が完成する。
 そこにあるのは圧倒的な力。
 リオンが担う、彼女の在り方そのものだ。


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