二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 烏ヶ森編14話「一騎vsラヴァー」 ( No.184 )
- 日時: 2015/06/22 01:22
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「っ……《ガイギンガ・ソウル》で、もう一度攻撃! シールドをWブレイク!」
《ガイギンガ・ソウル》のパワーは8000、《ゾディアック》があるとはいえ、《ヴァルハラナイツ》とは相打てるパワーだ。勿論、チャンプブロックという線もあるが、相手としても、あまりこんな大型クリーチャーは残しておきたいとは思わないはずだ。特に、《ガイギンガ・ソウル》にはアンタップ能力も備わっているのだから。
だが彼女は、一騎の思い通りには動かない。
次の瞬間、攻撃をかけたシールドがすべて切り裂かれた。
「ブロックしない……!?」
「……S・トリガー、発動」
いくら守りを固めているとはいえ、シールドゼロは流石にリスキーだ。相手は守りの牙城を崩落させる火文明。いつ何時、その鉄壁が崩されるとも分からないのだ。
だが彼女は、最後の防衛ラインだけは、いつだって死守している。
その結果が、彼女の盾から展開される、龍門の印だった。
「《ドラゴンズ・サイン》……《天運の精霊龍 ヴァールハイト》をバトルゾーンへ」
「くっ、またシールド追加か……!」
先ほど《エメラルーダ》で仕込んだシールドだ。さらに、手札に《ヴァールハイト》も握っていたのだろう。
いくら一騎が攻め、彼女の守りを崩したと思っても、彼女の盾は絶え間なく生み出され、彼女と一騎の接触を妨げるかの如く立ち塞がる。
そして、彼女の盾はさらなる鎧となるのだ。
「……私のターンの初め、《浮遊する讃美歌 ゾディアック》、龍解——《賛美の精霊龍 ハレルヤ・ゾディア》」
賛美の聖歌が響き渡る、浮遊する教会。その真の姿は龍。
《ゾディアック》は機械的に変形し、巨大な槍を携え、一体の天使龍へと姿を変えた。
さらに、
「《導きの精霊龍 サリヴァン》を召喚……二枚ドロー……《純白の翼 キグナシオン》《聖龍の翼 コッコルア》を、バトルゾーンへ……」
後続のドラゴンに加え、軽量ブロッカーを並べてくる。しかも、このタイミングで小型クリーチャーが現れるということは、即ち支配が始まるということだ。
「《ヴァルハラナイツ》の能力、発動……《ガイバーン》《マッカラン・ファイン》をフリーズ……《ラ・ローゼ・ブルエ》、《ヴァルハラナイツ》で、《ガイギンガ・ソウル》、《マッカラン・ファイン》を、攻撃……」
「く……っ!」
一騎の主要なクリーチャーが立て続けに破壊され、しかも《ラ・ローゼ・ブルエ》の能力で相手のシールドは増える一方。特に、マナ武装でスピードアタッカーを付加する《マッカラン・ファイン》を失ったことは大きい。
「……ターン終了……《ハレルヤ・ゾディア》の能力で、私の光クリーチャーをすべて、アンタップ……」
攻め手を潰し、守りを固め、反撃は許さないとでも言わんばかりの鉄壁。殴り返し要員は再び起き上がり、守りの体勢を取った。
この強固な守りを突破することなんてできるのだろうか。一騎は、一瞬そんな思いがよぎる。
——このままでは、恋を救うことなんて、できないのではないのか。
「……いや、まだだ! まだ終わらないぞ、恋!」
マイナスへと向かいそうになる思考を振り切って、一騎は手札のカードを、叩きつけるように場へと繰り出す。
「呪文《メテオ・チャージャー》を二枚発動! 《ヴァルハラナイツ》と《キグナシオン》を破壊! さらに《爆熱血 ロイヤル・アイラ》を召喚! マナ武装3発動、手札を一枚捨てて二枚ドロー!」
とりあえず、フリースで動きを止める《ヴァルハラナイツ》と、増えたシールドにS・トリガーを与える《キグナシオン》を優先的に破壊する。厄介な《ラ・ローゼ・ブルエ》も破壊したいが、生憎ながら光の呪文以外では選べないので、今は放置するしかない。
《ロイヤル・アイラ》の能力で手札も補充し、一騎は次のターンに備える。
「……呪文《ジャスティス・プラン》……《光神龍セブンス》を、召喚……ターン終了……」
「俺のターン!」
相手も相手で、息切れし始めたのか、動きが緩んでいた。まだ攻め時ではないため、打つ手も今はないということだろうか。
「っ……《ネクスト・チャージャー》を発動! 手札をすべて山札の下に戻して、戻した枚数分ドローだ!」
しかし打つ手がないのは一騎も同じだった。小型のヒューマノイドを並べても、今は効果が薄い。
この状況を打開できるカードを引くことに賭けて、一騎は手札をすべて入れ替える。
そして、
「《グレンモルト》……!」
果たして手札に来たのは、《龍覇 グレンモルト》だった。
今まで、幾度と一騎を助けて来た、彼のエースと言っても過言ではないクリーチャーだ。様々な武器を振るい、いざという時には頼りになる存在だ。
(いや……でも、この状況は《グレンモルト》じゃ突破できない……)
いくらなんでもブロッカーの数が多すぎる。《ガイバーン》が行動できるようになったとはいえ、彼女には《ラ・ローゼ・ブルエ》や《セブンス》を初めとした、ブロッカー軍団と増え続ける盾がある。
「どうすれば……」
「一騎」
と、その時。
すぐ横で、テインが彼を呼んだ。
その呼びかけは、いつもと同じ調子。しかし、どこか優しげで、一騎をなにかに導くかのようであった。
「テイン……」
「前にも言ったよね。倒せない相手には、武器を変えるんだって」
「そうだけど、でも、ここはあの場所じゃない……まさか、ここにも君の隊長の武器が眠っているとでも言うのか?」
「いいや、違うよ。この状況を打開する武器、それは《グレンモルト》と、彼の剣、そして、一騎。君自身にある」
「《グレンモルト》に《プロトハート》、そして、俺……?」
いまいちなにを言っているのか分からない。
「そうだ。見てごらん、かの刃を。聞いてごらん、魂の唸りを。感じてごらん、龍の鼓動を」
「刃……魂……龍……」
「《プロトハート》は、一つの剣としては完成していない。本当の龍の魂は、そこにはまだないんだ。でも、君ならきっとそれを引き出せる。いや、もう彼は目覚めている。そして、解放されたがっている。君たちの、その手によって」
一騎は、ゆっくりと超次元ゾーンへと目を向ける。
そして、感じる。テインに言われた通り、《プロトハート》を、その刀身を見つめる。そして、刃から伝わる魂の叫びを、魂から轟く龍の鼓動を、感じ取る。
「さあ、あとは感じたままにカードを繰るだけさ。君の、彼女を救いたい気持ちが本物であれば——その強き志に、熱血の魂は応える」
導くようなテインの言葉に引き寄せられるように、自然と一騎の手は動いていた。
「……《龍覇 グレンモルト》、召喚」
呼び出すのは、《グレンモルト》。
そしてこの時、彼の能力が発動する。
「その能力で、超次元ゾーンから、コスト4以下のドラグハートを、バトルゾーンへ……」
一騎の眼に炎が灯る。
今までは理解が及ばない中でカードを繰っていた。
だが、今は違う。はっきりと感じる。《プロトハート》に眠る、真の龍の魂を。
そして、その力を解き放つ術を。
「超次元ゾーンから、来い——」
銀河の果てから飛来する、一振りの大剣。
それが今、一人の剣士の手に渡る。
「——《銀河大剣 ガイハート》!」
《グレンモルト》は大剣を握る。
《プロトハート》という仮の姿を破り捨て、二重に勝利を重ねた熱血の剣、《ガイハート》。
今、彼は、彼らは、その力を解放せんとする。
「……行くよ、恋」
そう、小さく呟いて、一騎は動く。
この戦いを、終わらせるために。
「《猛烈将龍 ガイバーン》で攻撃! その能力で、《ガイバーン》よりパワーの低いクリーチャー、《セブンス》を破壊!」
「……《デネブモンゴ》で、ブロック……」
「まだだ! 《ガイハート》を装備していない《グレンモルト》で攻撃!」
「……《ラ・ローゼ・ブルエ》で、ブロック……」
《ガイバーン》の斬撃で、《セブンス》と《デネブモンゴ》が消し飛ぶ。
《グレンモルト》の攻撃は通らず、《ラ・ローゼ・ブルエ》に返り討ちにされる。
「……これで決まりだ、恋」
「…………」
その言葉に、彼女はなんの反応も示さない。
それはその言葉の意味を理解していないのか、それとも、理解していてなお策があるのか、それは定かではない。
だが彼女がどう思っていようと、もう一騎は止まらなかった。
「《ガイハート》の龍解条件は、ターン中に二回攻撃すること。そして俺は、《ガイバーン》と《グレンモルト》、二体のクリーチャーで二回攻撃した。よって、龍解条件成立だ!」
銀河大剣 ガイハート ≡V≡≡V≡ 火文明 (4)
ドラグハート・ウエポン
これを装備したクリーチャーは「スピードアタッカー」を得る。
龍解:自分のクリーチャーが攻撃する時、そのターン2度目のクリーチャー攻撃であれば、攻撃の後、このドラグハートをクリーチャー側に裏返し、アンタップする。
一騎は二本の指を突き立てる。
それはまるで、勝利を確信し、それを証明するかのように。
《グレンモルト》は、大剣を空高く投げ飛ばす。
「勝利の銀河、熱き闘魂を呼び覚まし、熱血の未来を解放せよ——」
《ガイハート》は仲間の熱血に応え、銀河の力を得て、内に秘めたる龍の魂を解き放つ。
それこそが、龍解。
その姿が、ここに現れる——
「——《熱血星龍 ガイギンガ》!」
- 烏ヶ森編14話「一騎vsラヴァー」 ( No.185 )
- 日時: 2015/06/23 23:01
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
星々を剣に込め、銀河を盾に宿し、宇宙の彼方より現れた、火文明のドラグハート・クリーチャー。
燃える志を忘れた火の軍勢に、熱血の心を注ぎ込んだ勝利の龍。
大剣に宿る龍の魂が解放され、二重に勝利を重ねる戦闘龍は、熱血の闘魂のまま、咆哮する。
「《ガイギンガ》の能力発動! 登場時、相手のパワー7000以下のクリーチャーを破壊する! 《コッコルア》を破壊!」
刹那、大剣が振るわれる。
そして次の刹那、《コッコルア》が両断されていた。
《ガイギンガ》の斬撃による衝撃波が、恋のブロッカーを薙ぎ払う。
「続けて、スピードアタッカーの《ガイギンガ》で、《ラ・ローゼ・ブルエ》を攻撃!」
「《エメラルーダ》でブロック……」
シールドを追加できる《ラ・ローゼ・ブルエ》はまだ生かしておきたいようで、ラヴァーは《エメラルーダ》を盾に、《ラ・ローゼ・ブルエ》を守る。
「まだ終わらないぞ! 《ロイヤル・アイラ》でシールドをブレイク!」
《ガイギンガ》に続き、《ロイヤル・アイラ》がシールドを斬る。
だが、しかし、
「それは、失敗……S・トリガー、発動……《ドラゴンズ・サイン》」
《ロイヤル・アイラ》が砕いたシールドが光の束となり収束する。
そして、龍門が開かれた。
「私の世界の英雄、龍の力をその身に宿し、聖歌の祈で武装せよ……《護英雄 シール・ド・レイユ》」
光の龍門から降り立つのは、聖なる賛美歌を一身に受け、武装する英雄、《シール・ド・レイユ》。
白きマナの力を得て、かの龍は光の盾により自身を武装する。
そして、内包した光を、解き放つ。
「マナ武装7、発動……《ガイバーン》と《ガイギンガ》を、超次元ゾーンへ——」
《シール・ド・レイユ》が《ガイバーン》と《ガイギンガ》、二体の戦闘龍へと光を照射し、魂を盾へと封じこめようとする。
と、こそで、ラヴァーはハッとするような仕草を見せた。
まるで誰かに失策を教えられたような仕草だったが、直後、一騎が言葉を紡ぐ。
「失敗したのはお前だ、恋。《シール・ド・レイユ》に選ばれたことで、《ガイギンガ》のもう一つの能力が発動する」
刹那、《ガイギンガ》の内から、銀河が膨張する。
その銀河は無限に広がり続け、時間という概念すらをも飲み込んでしまう。
「《ガイギンガ》が相手に選ばれた時、このターンが終わった後、もう一度自分のターンを行う。つまり——」
言い終わる前に一騎は、ターン終了、と静かに告げる。
しかし、自分のターンの終わりが、相手のターンに直結するなどというルールは、デュエル・マスターズには存在しない。
いやさ、そんな常識は、常識を破るような熱血の炎で、捻じ曲げてしまうのだ。
膨張した銀河が、遂に収縮を始める。だがそれは力が弱まっているのではなく、圧縮されているのだ。
圧縮された銀河は、時間という概念を吸収し、“未来”という形に変え、一騎の手元で弾ける。
一騎は、デッキに手をかけた。それは降参を意味するものでは、当然なく——
「——もう一度、俺のターンだ!」
熱血星龍 ガイギンガ ≡V≡≡V≡ 火文明 (7)
ドラグハート・クリーチャー:ガイアール・コマンド・ドラゴン 9000+
スピードアタッカー
W・ブレイカー
このクリーチャーが龍解した時、相手のパワー7000以下のクリーチャーを1体破壊する。
バトル中、このクリーチャーのパワーは+4000される。
相手がこのクリーチャーを選んだ時、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。
——新たなカードを引く、証左だった。
再び、一騎のターンが訪れる。
「呪文《メテオ・チャージャー》で、《シール・ド・レイユ》を破壊!」
クリーチャーもマナもアンタップし、追撃の準備は万端だ。
まず、一騎はブロッカーを殲滅しにかかる。
多くのクリーチャーに守られた彼女に届くためには、とにかくブロッカーを排除しなければならない。前の1ターンだけでは足りなかったが、この2ターン目があれば、それも叶わないことではない。
「さらに《龍覇 グレンモルト》を召喚! 《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
再び《グレンモルト》が地に立ち、銀河の果てより飛来する《ガイハート》を、掴み取った。
大剣の柄をしっかりと握り締めた彼は、仲間と共に、戦場を駆け抜ける。
「《ロイヤル・アイラ》でシールドをブレイク! 続けて、《ガイハート》を装備することでスピードアタッカーになった《グレンモルト》で、シールドをブレイク!」
一撃目は、《ロイヤル・アイラ》が切り捨てた。
二撃目は、《グレンモルト》が《ガイハート》を振るう。
そして一騎は、再び二本の指を突き立てた。
「ターン中に二回の攻撃! 龍解条件成立!」
《ガイハート》が鳴動する。秘めたる魂が、再燃する熱血の心に触れ、銀河の果てまでも鼓動を響かせる——
「龍解——《熱血星龍 ガイギンガ》!」
——そして、火文明の根底に眠る熱血の心を、解き放つ。
「《ガイギンガ》の能力で、パワー7000以下の《ハレルヤ・ゾディア》を破壊! そしてそのまま、《ラ・ローゼ・ブルエ》を攻撃!」
衝撃波が、《ハレルヤ・ゾディア》を真っ二つに両断する。
斬撃が、《ラ・ローゼ・ブルエ》を横薙ぎに切り捨てる。
「最後だ! 《グレンモルト》でシールドをブレイク!」
一騎の最後のアタッカー、《グレンモルト》の攻撃が、彼女の最後のシールドを打ち砕く。
「なんで……こんな……!」
迫り来る猛攻を受けてか、彼女の顔には焦りが滲み始めているように見えた。
冷徹なまでの無表情は崩れ、すべてを否定するような昏い眼も、虚無以外のなにかが灯っている。
ほんの少しの、わずかな変化だが、彼女の鉄壁が綻ぶ。
そして、口を突くように、言葉を漏らした。
「……なんで、なんで……あの女みたいに……!」
「え……?」
刹那。
《グレンモルト》によって砕かれたシールドが、収束する。光と讃美歌を伴って。
「S・トリガー……《聖歌の聖堂ゾディアック》……!」
光の束がその力を放つと、聖なる讃美歌によって、一騎のクリーチャーの動きが封じられる。
「マナ武装5、発動……《グレンモルト》二体と、《ロイヤル・アイラ》を、フリーズ……!」
聖堂から響き渡る讃美歌によって、一騎のクリーチャーは動きを封じられる。
しかし《ガイギンガ》は選ばれていない——相手としても一度痛い目を見ているため選びたくないだろう——ので、まだ生きている。
それでも、フリーズによって攻撃手を一気に減衰されてしまったことは確かだ。
「……ターン、終了だ」
少々不利な部分も付きまといつつ、一騎はターンを終える。
「……私のターン……」
少々落ち着きを取り戻したのか、彼女は静かにカードを引き、自身のターンを始める。
「呪文《ヘブンズ・ゲート》……《光線の精霊龍 カチャルディ》……《龍覇 エバーローズ》を、バトルゾーンへ……」
天国の門扉が開かれ、そこから正義の執行者たる天使龍と、真の正義に最も近い存在である、《エバーローズ》が地上へと降り立つ。
そして《エバーローズ》が現れたことで、天より一筋の光が差し、一つの槍となった。
「来て……《不滅槍 パーフェクト》……《エバーローズ》に装備」
《エバーローズ》は不滅の槍を握る。現在、彼女の場にクリーチャーは四体。
あと一体だ。
そしてその一体は、容易く現れる。
「……《純潔の翼 メダロス》を召喚……ターン終了……」
これで彼女のクリーチャーは五体以上。《パーフェクト》の龍解条件が達成された。
ターン終了、という言葉を合図に、《エバーローズ》は手にした槍を、天高く撃ち上げる。
「——《天命王 エバーラスト》」
これで、場にブロッカーが三体。
一騎の場で、攻撃できるクリーチャーは《ガイギンガ》のみだ。
「俺のターン」
相手のシールドはゼロ。一撃でも通せれば勝ちだが、そのためには立ちふさがる防壁を突破しなければならない。
その突破は酷く困難なものだが、しかし、
(もうすぐ、もすうぐだ……もうすぐ、恋に届く……!)
もはや一騎には、目の前のことしか見えていない。
ただひたすらに、彼女へ向かって行く。
「……《爆冒険 キルホルマン》を召喚! 山札の一番上を墓地へ!」
そしてそれが、ドラゴンかヒューマノイドであれば、《キルホルマン》はスピードアタッカーとなる。
果たして、捲れたのは、
「……ヒューマノイド爆、《爆鏡 ヒビキ》! これで《キルホルマン》はスピードアタッカーだ! 続けて《禍々しき取引 パルサー》召喚! 二枚ドロー!」
手札は既に切れているので、《パルサー》の能力はカードを引くのみ。
引けるのはたった二枚だが、ブロッカーが並ぶ中を掻い潜り、剣を振るうには十分だ。
「頼むよ……! 《焦土の語り手 テイン》を召喚! その能力で、《エバーローズ》を破壊だ!」
『了解したよ。一騎、君のその志は、絶対に絶やさない。僕が繋げて見せよう!』
一騎の手札から飛び出した《テイン》は軍刀を抜き、その一振りで、武器を持たない《エバーローズ》を斬り捨てる。
「…………」
これでラヴァーのブロッカーは二体。相手にシールドはないので、《キルホルマン》と《ガイギンガ》で、その二体は突破できれば、もう一打点。
そしてこれが、その最後の一押しだ。
「G・ゼロ! 呪文《暴龍警報》! 《テイン》をスピードアタッカーに!」
動きを止められた《グレンモルト》の力を受け、《テイン》はスピードアタッカーと化す。
これで、相手ブロッカーは二体、こちらのアタッカーは三体。
とどめに届くまでの戦力を、揃えられた。
攻め込むだけの兵士を揃えれば、あとは、攻めるだけだ。
「頼むぞ——《キルホルマン》、《ガイギンガ》!」
「……《エバーラスト》……《カチャルディ》……」
一騎のクリーチャーたちが、一斉に飛び出した。
《キルホルマン》の突撃は、《エバーラスト》によって防がれ、槍の一突きで消滅する。
だが、まだ終わらない。
続けて、《ガイギンガ》の巨大な剣が《カチャルディ》を一刀両断にする。
しかし、やはり終わらない。
「これで、とどめだ——恋!」
最後に、軍刀を携えた《テイン》が駆ける。
もはや彼の進軍を妨げるものはいない。研ぎ澄まされたその白刃をもって、彼は、彼女を討つ。
己の主人である、彼のために。
その刃を、振るう——
「《焦土の語り手 テイン》で、ダイレクトアタック——!」
「……ブロック」
「——え?」
キィン、と。
渇いた金属音が、鳴り響いた。
そして、直後、彼女の静かな声が、届く。
「——《慈愛の語り手 キュプリス》」
慈愛の語り手 キュプリス 光文明 (5)
クリーチャー:メカ・デル・ソル/アポロニア・ドラゴン 4000
自分の光のクリーチャーがブロック中に破壊された時、このクリーチャーを手札からバトルゾーンに出してもよい。
ブロッカー
《テイン》の攻撃を止めたのは、《キュプリス》だった。
《ガイギンガ》の攻撃によって消滅した《エスポワール》の声を受けて、《キュプリス》は守りを繋ぐ。
ブロッカーの死によって綻んだ守りは、《キュプリス》が埋める。
それが、《慈愛の語り手》の役目だった。
『あはは、ごめんね。ボクもラヴァーに仕える身……彼女に刃は向けさせないよ』
『くっ……そこを、退け!』
《テイン》は軍刀を横薙ぎに、袈裟懸けに、唐竹割りに振るうが、その斬撃はすべて《キュプリス》に受け止められてしまう。
『この……! 僕は、一騎のためにも、一騎の思いを彼女に繋げるんだ! それが僕の役目だ! 僕は自分の使命を全うしたいだけだ! だから、そこを退け!』
『残念だけど、それはボクも同じなんだ。僕の役目は主を守ること……火文明の君とは逆だね。だから、ここを通すわけにはいかない』
やがて、《テイン》の身体になにかが纏わりついた。
それは鎖だ。淡く光る鉄鎖が、《テイン》の動きを封じている。
『ぐっ、これは……!』
『悪いね、少し、大人しくしていてくれ。君の刃は代わりにボクが受けるからさ——』
そう言って《キュプリス》は、鎖の先端を掴む。そして、鋭利に尖ったそれを《テイン》に向ける。
直後、《テイン》を縛り付けていた鎖と、《キュプリス》の鎖が一斉に引き寄せられ、二人はぶつかり合うように密着する。
同時に、《テイン》の握っていた軍刀が《キュプリス》の胸を貫き、《キュプリス》の向けていた鎖の先端が、《テイン》の首を抉るのだった。
『——君も一緒に、眠ってくれ』
『あ……が……』
そうして、《焦土の語り手 テイン》と《慈愛の語り手 キュプリス》は、同時に墓地へと落ちて行った。
これで、一騎はアタッカーがいなくなった。
「テイン……そんな……」
あと一撃。あと一手。
あと一歩で届いたはずの手は、いとも簡単に振り払われてしまった。
「……私のターン」
そして、無情にもラヴァーのターンが訪れる。
「……《サリヴァン》を進化……私の世界を照らし出す——《聖霊龍王 バラディオス》」
ラヴァーは《バラディオス》の能力で、一騎のクリーチャーの動きを完全に封じる。
これで、一騎の逆転の芽は、万に一つもなくなった。
あとはただただ、光という重圧に、押し潰されるだけだ。
「……《ヴァールハイト》でWブレイク……《バラディオス》でTブレイク……」
天使龍たちによる制裁が、一騎に下される。
次々とシールドは砕け散った。S・トリガーは出たような気もするが、そんなものは関係ない。
この状況をひっくり返すようなカードは元来入れていないのだ。シールドをいくらチェックしても、無意味である。
それ以上に、一騎は、すべてが虚無だった。
彼自身の意志、そして、心さえも。
彼女に手が届かなかった。その事実を知ったこの時だけは。
剣崎一騎は、鎮火した戦火のような、ただ焼け焦げただけの焦土のような、虚無だけがそこにはあった。
虚無は言葉を発する。
——恋
当然ながら。
その儚く惰弱な言葉は、光の防壁で覆われてしまった彼女に、届くことなどないのだが。
「《天命王 エバーラスト》で、ダイレクトアタック——」
「恋——」
果たして、剣崎一騎の思いは、ラヴァーには届かなかった。
一騎の意志は、日向恋という少女には届かなかった。
届くことがなければ、響くこともなく、彼女に拒絶された。
彼の伸ばした手は、彼女に振り払われた。
そして彼女は、この一戦において、なにも救われなかったのだ。
最後の、最後まで——
- 48話/烏ヶ森編15話 「懺悔のように希う」 ( No.186 )
- 日時: 2015/06/28 00:52
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
神話空間が閉じる。
そこに立っていたのは、ラヴァーと名乗る少女。そして、彼女が見下ろすのは、一騎と呼ばれる少年。
少年は放心したように、膝をつき、虚ろな眼で彼女を見つめている。
「そんな……恋……どうして、どうしてなんだ……」
一騎は手を伸ばす。それはとても、弱々しく、簡単に払いのけてしまえそうな手だが、彼女はその手を払おうとはしなかった。
もう少し、もう少しで彼女にその手が届く。
そう思って、ぐっとさらに手を伸ばした時だ。
彼の手は虚空を掴み、するりと彼女がすり抜けていく。
彼の手は、彼女には届かない。
そんな結果だけが、そこにはあった。
「恋——」
バタリ
そうして、それっきり、一騎は動かなかった。
一騎の手をかわしたラヴァーは、そんな彼をジッと見据えている。
「…………」
「どうしたの? なんか機嫌悪そうだけど?」
「……別に」
「そう? ならいいんだけど」
「……もう行こう、キュプリス」
ラヴァーは最後に一騎を一瞥すると、それっきり彼を視線から外した。
そして、彼のことなど見ることはなく、踵を返して歩を進める。
一騎の暗雲がかった視界から、どんどん彼女が離れていく。もうすぐ、その姿すら見えなくなる。彼女が、本当に手の届かないところに行ってしまうかのように、彼女が消えていく。
その、直前だった。
誰にも聞こえない声で、彼女は、言葉をこぼす。
小さな小さな、声として。
「……つきにぃ——」
作戦は失敗した。
その旨をリュンから告げられた暁たち。
これによって、皆の勢いはすっかり削がれてしまっていた。ラヴァーに最も近いと思われた一騎は、ラヴァーに敗れ、またその声も彼女には届かなかった。
彼の言葉さえも届かないラヴァーを、果たしてどうしようと言うのだろうか。
ことは、もはや単純に彼女にデュエマで勝利すればいいなどというものではなくなっていた。彼女には誰も勝てず、そのうえ、ただ勝つだけでは根本的な解決にはならない。
ラヴァー——日向恋という少女を救い出す。彼女を、一騎の言う以前の彼女へと戻すこと。
それが成されなければ、結局はなにも変わらないだろう。
「……どうすればいいんだろう、本当にさ……」
放課後、暁は教室でぼーっとしていた。大抵のクラスメイトは帰るか、部活に行っているので、教室には自分以外に誰もいない。
暁も柚に部活へ行こうと誘われたが、なんとなくぼーっとしていたかったので、後で行くと言ってその場は断った。
自分がいったいどうしたいのか、自分にもよく分からない。しかし、なぜだか心がもやもやするのだ。
外は曇天。灰色の雲が空を覆い、太陽を隠している。
自分の気持ちが分からない、それゆえに落ち着かない、調子が狂う、悩んでしまう——なにに悩んでいるかも分からず、苦悩の種ばかりが大きくなる。
——私はいったい、どうすればいいの?
そんなことばかり、自分に何度も問いただす。答えなんて、出てこないというのに。
そんな時だった。
ガラガラと、教室の扉が開く。
「あ、空城さん。教室にいたんだ」
それはクラスメイトの女子だった。
どうやら自分を探していたらしいが、いったい何用だろうか。
そう思って立ち上がると、彼女の後ろから、見覚えのある少年が姿を現した。
「空城さんに会いたいっていう人が訪ねてきて……えっと、邪魔しちゃ悪いから、私はこれで」
そう言って、そのクラスメイトはなにを勘違いしてか、頬なんぞ染めてたったか走り去ってしまった。
明らかに誤解されていると暁は思ったが、しかしそんなことはどうでいい。
今は、彼が訪ねてきたこと。それが重要だ。
暁は確認するように、彼の名を口にした。
「……剣崎さん……」
「急に押し掛けてきてごめんね。迷惑だったかな」
「いえ……そんなこと、ないですよ」
誰もいないとはいえ、いつ誰が来るかも分からない教室では話しづらいと言うことで、本来は進入禁止となっている屋上に、二人はやってきた。
ここならば、人はまず来ないだろう。
すぐ真上を見上げると、曇天が支配する屋上で、暁と一騎は向かい合う。
「まずは、ごめん」
一騎は開口一番、頭を下げて、謝罪した。。
「そんな……謝らないでくださいよ。剣崎さんは、なにも悪くないです」
「いや、そんなことはない。俺が、一人で恋をなんとかできるだなんて自惚れたから、今回のチャンスをふいにしてしまった。本当に、申し訳ない」
本当に、心の底から申し訳なさそうな一騎。確かに、一騎が一人で彼女に立ち向かうと言わず、戦力となり得る人員——少なくとも、暁たちのうちの誰かがいれば、また違っていたかもしれない。
それを考えると、今回の作戦が失敗した原因は、一騎にあると考えることはできる。
だが、だからといって、暁は彼を責める気にはなれなかった。暁だけではない、誰だってそうだ。一騎が一人で立ち向かうことを了承したのも暁たちだし、一騎にばかり負担をかけてしまったのも事実だ。
それ以上に、今の悲嘆に暮れたような一騎を見て、誰が彼を糾弾できようか。
「恋を救えなかったのは、俺の慢心とエゴだ。そのせいで、空城さんたち皆にも迷惑をかけてしまった……それは、分かってる……!」
一騎はなにかを堪えるように歯を噛みしめていたが、それももう限界が来たかのように、顔つきに綻びが生まれた。
今回の作戦の失敗の原因に、一騎が大きく関与することは否定できない。一騎が戦犯と罵られてもそれは仕方のないことだ。そんなことは、一騎自身にも分かっている。
「分かっていて、それを承知で、君に、頼みたいことがあるんだ」
「私に、ですか……?」
意外そうな顔をする暁。沙弓でも浬でもなく、自分に頼みだなんて、なにかの冗談ではないだろうか。
しかし一騎の目は真剣そのものだ。とても冗談を言うような眼差しではない。
だがそれでも一騎は、どこか迷っている——本当に、彼女に言ってもいいのだろうか、言うべきなのだろうかと、悩んだ瞳をしていた。
そんな苦悩の末に、一騎は決意して、懇願する。
「——恋を、助けてくれ……!」
それは頼みと言うにはあまりに大きく、懇願と言ってもあまりに重かった。
短く、簡潔で、分かりやすい、たった一文の願い。しかしその中に込められた、一騎の中に巡り巡る思いの大きさ、重さ、強さは尋常ではない。
それは、暁でもひしひしと感じ取れた。だからこそ、しばらく彼女は圧倒されたように呆けてしまったが、やがてその重みを、十全とは行かずとも、それに近いほどまで理解すると、焦ったように手を振った。
「え、わ、私がそんなこと……無理ですよ。私は、一度もあの子に勝ったことがないのに……私よりも、部長とかの方が——」
「いや、君じゃないとダメなんだ。俺は確かに聞いた。恋は、君になにかを感じている」
彼女は、一騎との戦いの最中で、「あの女」と口にした。
それはきっと、暁のことだと、一騎は思っている。
「でも、そんな……女の子なんて、他にもいっぱいいますよ」
「根拠はある。俺は恋と戦う中で、あいつがまだ“あの時”のことを払拭できていないって分かったんだ」
そのことが、恋の中で君が引っかかっている根源だと思う、と一騎は言う。
だが暁は、その言葉の中に、引っかかり——というほどのものでもなく、純粋で素朴な疑問を抱いた。
「あの時……? なんなんですか、あの時って」
彼女になにかしら、訳ありな過去があるだろうことは、暁でもなんとなく想像していた。なので、なにかがある、ということ自体には、驚きはない。
問題は、その過去が、どのような過去であるかだ。
暁の問いを受けて、一騎は少し口ごもる。
しかし、すぐに意を決して、口を開いた。
「……あいつは、恋は、火が苦手なんだ」
「火が……?」
「正確には、苦手と言うより、忌んでいる、と言うべきかな。昔、ちょっとした事件があってね……」
やや唐突な物言いで面食らってしまった暁だが、すぐに真剣な面もちで、一騎の話に耳を傾ける。
それは、たった一人の少女に起こった事件としてはとても小さなことであった。
しかし、日向恋という小さな少女を大きく変えてしまうには、十分すぎるほどの大事件でもあった。
一騎はぽつぽつと、どこか申し訳なさそうに、そして女神像に懺悔をするかのように、たった一人の小さな少女。
日向恋の過去について、語り始めた——
- 49話/烏ヶ森編16話 「焼けた過去」 ( No.187 )
- 日時: 2015/06/28 12:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
日向恋という少女の話をしよう。
彼女は自らをラヴァーと名乗るまで、ごくごく平凡な少女であったかというと、お世辞にもそうとは言えない。
むしろ、変わっていた。
どう変わっていたかというと、周りの人間からは、俗に“電波”“厨ニ病”などと蔑まれていた。
具体的に言うならば、彼女には、聞こえないはずの声が聞こえていたのだ。それも、彼女にだけ。
さらに具体的に、なんの声が聞こえていたかと言えば、その答えは一つ。
クリーチャーだ。
彼女もまた、幼い頃よりデュエル・マスターズというカードゲームにはよく触れていた。非常によく面倒を見てくれる、兄のような存在の彼の影響を受けて、彼女はデュエル・マスターズというものがとても好きであった。
それが、当時から不器用で、人付き合いも苦手であった彼女のコミュニケーションツールでもあり、心の拠り所でもあった。
そう、依存していたのだ。
それゆえに、依存しすぎていた故に、彼女は絶望を見ることになった。
クリーチャーの声が聞こえる。これが彼女の依存がいきすぎた結果なのか、単なる彼女の妄想なのか、それともなにか大いなる意志による天からの授かりものなのか、それは分からない。
しかし、考えてもみたまえ。一般の目には、たかだかイラストや文字が印刷されただけの薄い紙から、声が聞こえるだなんて言っても、妄言としか聞こえないだろう。
実際、多くの者は彼女の妄想だと信じて疑わなかった。彼女の最大の理解者の一人であった、兄のような少年さえも、心の奥底ではそう思っていた。
しかし、神話の存在が統治し、去った世界を見たことのある諸君らであれば、クリーチャーの声が聞こえるということがあり得ないと、一蹴するすることはできないだろう。当時の彼女は、まだ神話世界に足を踏み入れていないことなど、不可解な点は残るのだが。
それはそれとして、そんなクリーチャーの声が聞こえる少女だが、それは現実問題、彼女だけであった。他の者には聞こえず、またクリーチャーの声が聞こえるなどと言う少女は、当然ながら気味悪がられた。疎まれ、見放されていった。
そして、孤立していった。
彼女の非社交性もそれに拍車をかけたのだろう。掛け値なしで本当に人付き合いのできない彼女は、通っていた小学校でたびたび問題が起こり、今まで計四回も転校している。
一回目は、彼女の言い分——クリーチャーの声が聞こえるという奇怪な言い分——を、担任だった教師までもが気味悪がり、それを良しとしなかった彼女の親によって転校。
二回目もほぼ同じだ。担任教師どころか、校長まで彼女を敵視にも近い疑惑の目を向けていたため、その学校を離れることにした。
そして、三回目。
この三回目の転校で、彼女は今の土地にいて——烏ヶ森学園に籍を置いている。
彼女がラヴァーという名前を得たのも、恐らくはこれ以降だ。
そしてその三回目は、彼女がそれまでにいた土地を離れたいがために、そこであった凄惨な出来事を忘れたいがために、思い出したくないがために、自分の世界の外に放り出したいがために、転校した。
それはどういう意味か。
つまり、三回目の転校をする前、二回目の転校によって訪れた、辺境にある学校で、その事件は起こったのだ。
そこは今いる土地からは、かなり離れている。少なくとも同じ都道府県ではない。
そこには海があった。海の近くにある学校だった。生徒数が少なく、かなり過疎化が進んだ、閉鎖的な田舎の学校。
彼女の親からすれば、今までの都会暮らしから気分を一転させようという意図があったのかもしれない。今までは不気味だなんだと蔑まれた彼女の妄言も、科学の最先端から何歩も引いている田舎の過疎地域ならば、受け入れられるのではないかと。
しかしそれはただの願望でしかない。閉鎖的であるその空間において、他の地方からやってきたオカルトがどれほど受け入れられるのか、それを彼女の親は考慮していなかった。
そもそも閉鎖的であるということは、ある意味では縄張り意識が強いということだ。過疎化の進んだ地域であればなおさらその傾向は強い。
さらに言うと、思慮分別のある大人ならばともかく、子供からすれば他の地域からやってきた者は“よそ者”と認識されてもおかしくはない。
加えてその“よそ者”がわけも分からない妄言を吐いているともなれば、今までと同じような扱いを受けるのも当然とも言える。
だがここでの悲劇は、今までと同じ扱いという枠には収まらない。
閉鎖的である田舎の地域。その性質が生んだのは、今までと同じ扱い——それ以上の過激さだった。
孤立する、罵られる、石を投げられる……そんなことは毎日のようにあったし、最初からそうだった。その程度のことは、彼女にとってはなんてこともなかった。
カードといること、クリーチャーと共にあること、それが彼女の最上の喜びであった。彼女とクリーチャーの繋がりさえあれば、現実での出来事など些事でしかない。
そう、カードは、クリーチャーは、彼女の拠り所だったのだ。それゆえに、彼女はその拠り所に依存していた。
だから、あの事件が起こって以来、彼女はすべてを閉ざしてしまった。
それは、一騎がまだ小学四年生——彼女は小学三年生の頃だった。
彼女は上級生の集団に呼び出された。上級生の集団と言っても、そこには同級生や下級生の姿もおり、特に彼女を強く敵視する一集団だ。
本来なら呼び出しなんて無視するはずだった。しかし家に閉じこもりがちな彼女は非力で、小学生とはいえ年上の男子に力で敵うはずもなく、無理やり外へと連れ出されたのだ。
彼らはなにかを言っていた。なんと言っていたのか、そんなことは覚えていないし、どうでもよかった。
適当に聞き流していると、突然、羽交い絞めにされた。抵抗なんてできるはずもなかった。身体は微塵も動かせず、彼らは彼女の衣服をまさぐる。
彼らには下劣な心などはなかった。妖怪に性欲を抱く者などいないように、日向恋という異物のような少女は、彼らにとっては敵視の対象であってまともな人間としては見ていない。
だから彼らが手に入れたのは、箱。
デッキケースだ。
彼女の仲間である、同胞である、親友であるカード——クリーチャーたちは、瞬く間に略奪された。
そして、赤い揺らめきが起こる。
カードの端が、黒く染まり、失われていく。
灰が零れ落ちる、風に舞い、消えていく。
彼女のカードに火が灯り、焼けていく。
一枚、また一枚——じれったくなったのか、最後にはデッキの中身を乱雑にぶちまけて、ゴミを燃やすかのように、炎上する。
彼女の仲間は、同胞は、親友は——
——すべて、焼け死んだ。
一騎が駆けつけた時には、もう遅かった。
すべてのカードは灰になり、跡形など残ろうはずもない。
彼女は泣いていなかった。しかしその瞳には、なにもなかった。
この事件は後に大きな騒ぎとなり、その時はリュウと呼ばれたりナガレと名乗ったりする少年の手によってひとまずは収まった。
だが、彼女のことを気味悪がっていたのは少年たちだけではない。
学校はただの悪ふざけが少し行き過ぎただけとして、一切関与せず。閉鎖的な地域であったこともあり、報道すらされない。
しかし仮に学校が謝罪しようがなにをしようが、彼女にとっては関係なかった。
すべてを失った彼女には、もう、何も残ってなどはいないのだから。
そんな事件もあり、その後すぐに二人は転校した。
それ以降、彼女は外界とのすべての接触を断ち切り、すべてを閉鎖してしまった。
四回目の転校は、単なる親の仕事の都合というものだった。だがもはや、彼女にはそんなことは関係ない。
剣崎一騎という少年が彼女の傍を離れようとせず、四回目の転校先にも着いてきたが、それも関係ないことだ。
なにせ彼女にとって、彼女の世界は、すべて崩壊していたのだから。
彼女の世界は、悪意の火によって、存在しなくなってしまったのだから——
- 50話/烏ヶ森編17話 「決意」 ( No.188 )
- 日時: 2015/06/28 14:12
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 0qnzCmXU)
「……そんなことが……」
なにも知らない者からすれば、それは行きすぎた子供の悪戯のようなものに見えるのだろう。暁も、中学生になる前だったら、そう思ったかもしれない。
だが、日向恋は、確かにクリーチャーの声を聞いていた。
つまり、彼女とカードの中のクリーチャーは、彼女らにしか介さない、友人どうしだったに違いない。
彼女は、友人たるカードを、目の前で燃やされた。
轟々と燃える炎に焼かれる友の姿を、目の当たりにしたのだ。
その痛みは、想像に難くない。暁も、今の自分のデッキが同じ目に遭ったら——そう思うと、心が痛いどころではない。
なにもかもが、閉ざされたような錯覚に陥りそうになる。
そしてその錯覚は、日向恋が、ラヴァーという名であることで、現実となっている。
「あの時、俺はなにもできなかった……だから恋も……!」
一騎の後悔は止まらない。なにもかも、すべてを吐き出してもなお、彼の心の奥底からは、懺悔のような思いが、言葉が、溢れ出る。
むしろ、溢れ出る彼の感情は、氾濫するかのように、増大しているようですらあった。
「……頼むっ!」
「っ……!」
ガシッと。
一騎の手が、暁の小さな肩を強く掴んだ。
気遣いもなにもない、必死さだけが募った力で、強く、強く。
だが、とても悲しい眼で、一騎は告げる。
救済を求めるように、自分より小さな少女に。
恥も外聞もなく、滴る滴が地面を濡らすことも厭わず。
たった一人の少女を思うだけの感情で。
彼は、ただひたすらに、希う——
「——恋を、助けてくれ——!」
「——うん、了解。ありがとう、氷麗さん」
そう言い終えてから、リュンはもうすっかり手に馴染んだ携帯の通話を切る。受話器の向こうの彼女は自分から切れないので、こちらから切るしかないのだが。
「一度は取り逃がしたけど、今度はそうは行かないよ、慈愛の恋人さん」
彼女に一騎敗れ、作戦は失敗した。だが、たった一度の失敗で諦めるリュンではない。
一騎自身や暁たちは今回の失敗を大分引きずっているようだが、リュンは失敗は仕方のないことだと割り切っていた。そもそも現在無敗のラヴァーに勝利することが作戦成功の必須事項なのだから、場合によっては失敗の可能性も十分考えていた。
だからリュンはすぐさま動き、次の手を打つ。氷麗やウルカの協力も得て、かなり早い段階で彼女の尻尾をつかむことができた。
準備が完了するのはもうすぐだ。後は彼女に気付かれないよう動き、彼女たちにこのことを伝えるだけ。
リュンとしても、世界の調和云々もそうだが、《慈愛の語り手》を従える彼女のことは放っておけないのだ。
その時、ふとリュンは思い至る。
「神話の語り手たち……僕は十二神話そのものじゃないから、彼らがどのような意図を持って彼らを“あんな姿”で封印したのかは分からない」
だけど、とリュンは続ける。
「神話の意志は継がなくてはならない。そのためには、語り手の存在は絶対に欠かせないんだ」
語り手たちの力を解放する存在を導くことが、自分の役目。すべての語り手が集結し、力を合わせなくては、この世界に新たな秩序、調和、平和は訪れない。
現状、《慈愛の語り手》だけがその枠から外れている。
「だから、僕は語り手が本来あるべき姿に戻さなくてはならないんだ」
それが自分のなすべき使命であると言うように、リュンは拳を握りしめ、そして、言葉を紡ぐ。
己の命を思い返すかのように。
「オリュンポスの名にかけて——」
「——おまえらー、席に着けー、授業始めるぞー」
個人の事情などとは関係なしに、日々の時間は流れている。
今日もまた、いつものように東鷲宮中学では、授業が行われるのだった。
教室に科目担当の教師が入ってくる。点呼は取らず、ざっと教室を見回して、出欠を確認する。
その中で、ふとその教師はいつもとは違う点を察知し、声を上げる。
「あれ? やけに今日は静かだな。空城はどこいった?」
教師が教室内を見回す。
いつもは騒がしく落ち着きのない素振りを見せるはずの生徒の姿がない。
代わりに、おずおずと小さな手が上がった。
「あ、あの、先生……」
「ん? どうした霞。空城がどうしたのか知ってるのか?」
「はい……あきらちゃ——えっと、空城さんは、体調が悪いからって、保健室にいきました……」
「あいつが? はぁん、珍しいこともあるもんだなぁ……まあ、なら後でノートでも見せてやってくれ。んじゃ、授業を始める。今日は一昨日の続きで、ページは——」
教師としてはあるまじき、かなり粗雑な対応だったが、柚は内心ホッとしていた。下手に詮索されては困るのだ。
柚とて彼女がどこに行ったのかなどは知らない。ただ、柚に分かるのは、今の彼女は一人にしておくべきだということだけだ。
いや、それも少し違う。
彼女がそうありたいと願うことは、自分はするだけだ。
それでも柚は心配そうな表情で、窓の外を見遣る。
「……あきらちゃん……」
太陽山脈サンライズ・マウンテン。
その頂上には、二つの影が見える。
一つは人間の少女。セミショートの黒髪を小さくなびかせて、頂からどこかを見つめている。
もう一つは、小さなクリーチャー。二等身程度の小さな体躯に、黒い翼を持つ。
「……暁、ガッコーとかいうのはいいのか?」
「うん……」
クリーチャー——コルルは、自身の今の主である少女、空城暁に問うた。だが、暁からはぼんやりとした返事が返ってくるだけ。
しかし、やがて暁の方から口を開く。
「……ねぇ、コルル」
「なんだ?」
「私……もう負けないよ」
それは、決意の言葉だった。
自分のあり方を見つめ直し、彼女との戦いをやり直すための、大きな決意。
「一騎さんと話をして、あの人の声を聞いて——分かったの。負けたくないんじゃない、負けられないんだって」
負けたくない、負けられない。似ているようで、結末は同じのようで、その実体はまるで違う。
本人の意志の現れ方はまったく別物だ。
「今までの私は、あの子にずっと負けてたから、負けたくないって思ってた。対抗心を燃やしてたんだよ」
でも、次は違う。
「次にあの子と戦う時は、私だけの戦いじゃないんだ。リュンや遊戯部のみんな、烏ヶ森の人、そして——一騎さん。私は、自分だけで、自分の意志だけで戦ってるわけじゃないんだって、気づいたの」
だから負けられない、と暁は独白のように言う。
いや、やはりそれは決心だった。
自分の意志を、皆の意志を貫き通すための、宣言だ。
「……それに、私自身も、もっとあの子のことが知りたくなった」
少しばかり声の調子を変えて、暁は言う。
「これはまだ、私にもよく分かんないんだけど……とにかく、私はもう一度、あの子と戦いたい。そして、一騎さんの代わりに、あの人の言葉を伝えるんだ」
そして、自分の中に蟠る、このもやもやとした気分も、はっきりさせる。
それが、彼女との、ラヴァーとの——日向恋のなにかと、繋がるはずだから。
「……ん? なんだろ」
その時、暁はふと背中に違和感を感じた。
リュックサックを下ろして、中身を開ける。勉強道具や教科書はすべて学校に置いてきた。なので今その中にあるのは、いつかドラゴ大王が託した、黒翼に抱かれた太陽のような物体だけ。
暁は、それにそっと手を触れる。
「……ちょっとあったかい。どうしたんだろ?」
「オレにもわかんねぇ。でも、これからは強い力を感じるぞ。それに、なんか、懐かしいような……」
「うーん、よく分かんないな……今までは何の反応もなかったのに、なんで急に?」
そんなことを思っていると、ほんのりと帯びた熱が、だんだんを引いていくのを感じた。やがて太陽からは、熱を感じなくなる。
「……冷たくなっちゃった。なんだったんだろ」
「さあな」
しばらく考えていたが、暁の頭では思考がうまく進まない。暁自身、自分の頭の悪さは自覚しているつもりなので、自分には分からない、と早々に結論を出して、考えることをやめた。
代わりに、暁はコルルへと向き直る。
「……ねぇ、コルル」
「なんだ、暁」
「私と一緒に戦ってくれる?」
「ああ、勿論だ!」
即答だった。
そんなことは当たり前だといわんばかりに、力強く、彼は応える。
そんな彼の応えに安心したかのように、暁の表情も少し綻んだ。
「……ありがとう、コルル。よろしくね」
「おう!」
こうして、ラヴァーと、日向恋と戦う決意を新たに固めた暁。
暁が彼女と再び合間見える日は、そう遠くない、近い未来だ。
その時に、彼女たちの物語に、一つの終結が訪れる。
そして、黒翼の太陽は、暁の中で、目覚めの時を待っていた——
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