二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て1」 ( No.445 )
- 日時: 2016/08/28 15:43
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
「それで部長、今日はなにするの?」
朝食を終えた後、全員が居間に集められた。
詳細がほとんど伝えられていないこの合宿だが、二日目と最終日だけは、なにをするのか、事前に言われていた。
今日は二日目。事前に聞いていた今日することは確か——レクレーションだ。
まるで具体性に欠けた、なにをするのかまったくわからない説明だと、浬が憤慨しているのを思い出した。
「ふふふ、刮目しなさい。今日は今回の合宿の目玉よ。今日一日かけて……これをするわ!」
そう言って沙弓が取り出したのは、大きな板だった。板の上には様々な絵が描かれている。板には小さいマスのような正方形が繋がって、大きく歪な円形を描いている。マスの一つ一つにもなにかが書き込まれていた。
その巨大な板を一目見て、暁は言った。
「……人生ゲーム?」
「いや、ゴールがないし、このマス目に書かれていることから考えると、モノポリーだよ」
「モノポリー? 人生ゲームと違うの?」
「あ、えーっと……似てるんだけど、細かいルールとかが違うんだよ」
すごろくのようなボードゲームだということは同じだが、細かいルールの違いを説明するが難しい。一騎も、決してモノポリーに詳しいわけではないのだ。
すると、空護が助け船を出した。
「人生ゲームの方が日本ではポピュラーだと思いますけど、日本で一番知名度が高くて、モノポリーと類似したゲームがあるとするなら、桃鉄とかになりますかねー」
「あぁ! それなら知ってる。小さい頃、お兄ちゃんやいとこの子とやったことある」
空護の例示で、暁も理解したようだ。他にモノポリーを知らない者もいないようだったので、話を進めることができる。
「しっかし、わざわざ合宿でやることがただのモノポリー? それに、この人数だと時間はかかると思うが、一日も使うか?」
「いやいや。これはただのモノポリーじゃないわよ、シェリー」
怪訝な表情のミシェル。当然だ。レクレーション、などとわざと曖昧な表現をされて出されたのが、ただのモノポリーだ。確かに大人数でプレイするにはうってつけのボードゲームだが、些か定番というか、インパクトに欠ける。
しかしそんな懸念を、沙弓は否定した。
「これは去年、先代部長たちが制作し、私がその意思を継いで、ついぞ一週間前に完成した、遊戯部特製オリジナルデュエマモノポリー……名付けて『人生はゲームだ! 生涯はデュエマだ! 目指せデュエリスト頂点! ゲーム』よ」
「頭悪そうなネーミングだな」
「私が付けたんじゃないもの」
先代部長のネーミングよ、と訂正する沙弓。
「まあ、名前なんてどうでもいいわ。とりあえず、簡単にルール説明ね。一騎君が言ったように、このボードゲームは基本的にモノポリーよ。ルーレット回してお金を稼いで、他人を破産させる。最後まで残った一人が勝ちよ」
ただし、と沙弓は付け加える。
「このモノポリーには、デュエマが介入するわ」
「そこが分からん」
名前から察するに、デュエマが絡んでいることは予想できるが、モノポリーとデュエマの関連性がまるで見出せない。
「じゃあ、まずこのモノポリーの設定から説明しましょうか。このモノポリーでは、プレイヤーは皆デュエリストよ。日々の生計を立てるため、そして最強のデュエリストになるため、あらゆる手を尽くして、あらゆるカードを使って、この世界のトップを狙う。それがこのモノポリーにおける目的になるわ」
「他人を破産させてトップになるっていうのも、生々しい話だな」
「デュエリストって設定ってことは、どこかで対戦するのよね。そこはどうなっているの?」
「簡単よ。周回するマスに、デュエマをするマスがあるから、そこに止まったら指定の誰かと対戦するの。もしくは、同じマスに止まった場合も、同じマスに止まった人同士で対戦してもらうわ。対戦のルールとかはその都度変化するわ。あと、対戦して負けた方は、勿論ペナルティとしてお金を払ってもらうから、そのつもりで」
「デュエマも戦略的に重要になる、ということですかー」
「三人以上が同じマスに止まった場合は?」
「シェリー。デュエマって、複数人でも対戦できるルールがあるのよ?」
「……マジか」
つまり、場合によって変則ルールでの対戦もあり得るということだ。慣れないルールでの対戦となると、少々不安になる。
「そういえば、皆。例のものは持って来た?」
「あぁ。各自、普段使ってるのとは別に、なんでもいいからデッキを作って持って来てほしい、ってやつだよね。俺は持って来てるよ」
「寄せ集めでもなんでもいいから作れ、ってやつだよな? 一応、組んできたが……」
「私もー!」
「自分もっす!」
「……面倒だったから適当にカードの束を持って来た……」
各々、自分が作ってきたデッキを提示する。
この合宿は、基本的に着替えや洗面具など、宿泊に必要な最低限のものさえあればいいということで、特別な持ち物は必要がない。
しかし沙弓は、事前にあるものを持ってくるように指示していた。そのあるものは、たった二つ。
自分が最も強いと思うデッキ一つと、それとは別に、安価でも寄せ集めでもジャンクでも構わない、もう一つのデッキ。
今回、沙弓が皆に求めたのは、後者の方だ。
「このデッキをどうするんですか?」
「今までの説明を聞いて分かったと思うけど、このモノポリーはデュエマで勝つことも重要な要素なの。だからそこもフラットに、それでいてエキサイティングで、モノポリーらしくしたいと思うわ」
「部長、前置きや余計な修飾はいいから、単刀直入に要点だけを言え」
浬に切り捨てられた沙弓は、やれやれと大袈裟な身振りで、仕方ないわね、などと言いながら説明を続ける。
「今回、皆には別に用意してもらったデッキを使ってもらう。ただし、皆の用意したデッキはシャッフルされて、各プレイヤーに再分配されるわ」
「え? どういうこと?」
「つまりね、皆が作ったデッキをモノポリーで使うプレイヤーは、ランダムで決められるのよ」
「俺たちが組んできたデッキは、組んだ人が使うとは限らない。他人の手に渡る可能性がある、ってことか?」
「そうね。誰が誰のデッキを使うかは、アミダかなにかで決めましょう」
と、いうわけで。
即興でアミダくじを作り、各自のデッキをそれぞれ分配する。
分配されたデッキを見た、各人の反応は、
「うわ、デッキの中身が真っ黒だ。部長みたい!」
「このデッキ……呪文が多くて、難しそうです……」
「自分のデッキ、凄く見覚えがあるんすけど。これ絶対に自分が組んだやつなんすけど!」
「あきらのじゃない……やりなおし……」
「私のデッキも見覚えあるわねー。市販品?」
「おい……なんか俺の、枚数が既におかしくないか?」
大体こんな感じだった。
自分の作ったものではないデッキ。しかも、メインのデッキとは別に作られたデッキだ。決して一般的な型に収まっているとは限らない。
「……つきにぃ、デッキ、見ないの……?」
「うん、まだいいかなって。説明が終わってからの方が、先入観なくゲームができそうだし」
「そうね。説明もそこそこにして、ちゃっちゃと始めちゃいましょう」
次に沙弓は、ゲーム内における資産について説明する。
「このゲームの通貨はデュ円よ。各自、100万デュ円を十枚、500万デュ円を十枚、1000万デュ円を二枚、2000万デュ円を一枚、合計1億デュ円が初期財産ね。これが0デュ円未満になったら破産となってゲームオーバーよ」
「デュ円……このぺらぺらの紙か?」
「流石に本物は用意できなかったから、印刷したわ」
「まあ、そうなるよな」
この辺は普通にモノポリーなどで使用される疑似通貨を使えばよいと思うのだが、妙なこだわりだった。
「さらにこのゲームでは、通常の貨幣資産に加えて、カード資産も重要になるわ」
「カード資産? カードをお金代わりにできるってこと?」
「いい視点よ、美琴。それもあるけど、この場合のカード資産っていうのは、私たちが普段使用している感覚の言葉でいいわ」
「つまり、所持しているカードの量、質だな」
「このモノポリーでは、お金を稼ぐことは勿論だけど、稼いだお金を使ってカードを買うこともできる。さっき分配したデッキは、手に入れたカードで改造してもOKよ」
「成程ね。そうやってお金の使い方に幅を持たせるってわけか。面白そうだ」
「だが、カードを買うって、買うカードはどうするんだ?」
「大丈夫、用意してるから」
そう言って沙弓は、浬が運んでいた大きなキャリーバッグとリュックサックの中から、これまた巨大な箱を一つ取り出した。
その箱を開けて、一同は目を丸くする。
「え……これって……」
「す、すごい量です……」
「これ……全部デュエマのカード?」
「えぇ、そうよ」
箱の中には、びっしりとカードが詰まっていた。バッグを見る限り、箱は他にもある。枚数は全部合わせて何枚あるかも分からない。少なくとも、千や二千では利かないだろう膨大な枚数だ。
「俺が運んでいたのは、これだったのか……」
「しかし、よくこんなに集まったな……これ全部、このゲームのために集めたのか?」
「まあね。色んなカードショップのストレージやオリパを漁ったわ。ちなみに、一番協力してくれたのは『御舟屋』と『Wonder Land』よ」
「『御舟屋』って、シオ先輩のとこだ」
「合宿で一度やるゲームのために、ここまでするなんて……」
「遊戯部部長、侮りがたし、ですねー……」
カードの傷を見る限り、不要なカードの寄せ集めだろう。しかし、いくらストレージに眠った日陰もののカードと言えど、これだけの数を集めるには、労力、時間、そして資産をかなり費やしたことだろう。
馬鹿げたことをやっていると笑うのは簡単だが、その馬鹿げたことのために、ここまで身を削る彼女の遊びへの姿勢には、頭が下がる。
「原則的に、カードの購入はこれらのカードの中から行うこと。ゲーム全体の総カード資産はこれってことになるわ」
これで説明は終わり。対戦のおける規定など、細かいルールはその都度説明していくようだ。
「皆、お金とデッキは持ったわね? じゃあ最後の仕上げ、ルーレットを回す順番を決めましょう」
「どうやって決めるの? じゃんけん?」
「いや、これで決めるわ」
そう言って沙弓が取り出したのは、カードだった。
「おい、まさか順番までュエマで決めるのか?」
「流石にそこまで手間のかかることはしないわ。ここに十枚のカードがある。中身は、《1月》から《10月》までのカレンダーよ。《1月》を引いた人が一番、《二月》を引いた人が二番、って感じで、引いたカードで順番を決めるわ」
「意外とまともだな……」
「まさかカレンダーもこんな使われ方をするとは思わなかっただろうな」
浬とミシェルの言葉を受けながら、沙弓は各自にカードを配る。
そうして決まった順番は、以下の通りだ。
1月.沙弓
2月.一騎
3月.暁
4月.空護
5月.八
6月.柚
7月.恋
8月.美琴
9月.ミシェル
10月.浬
準備は完了。説明も終了。
あとは、指示円盤を回すだけだ。
いつもと違うデッキで、いつもと違う動機で、一同はカードを握る。
二日目の遊戯の始まりだ。
「それじゃあ——ゲームスタート!」
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て2」 ( No.446 )
- 日時: 2016/08/29 05:04
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
ルールまとめ
・プレイヤーの行動は、原則的にそのプレイヤーの手番にルーレットで決める。
・止まったマスに書いてあることは、可能な限り実行しなければならない。
・同じマスに二人以上のプレイヤーが止まったら、デュエマを行う。この時、レギュレーションを即座に決定する。ただし、対戦開始は次の巡目の順番が遅い方のプレイヤーの手番が終わってから。
・同じマスに三人以上のプレイヤーが止まったら、新しいプレイヤーが止まるたびにレギュレーションを更新する。
・デッキはゲーム用に作成されたものを使用する(今回は各プレイヤーが事前に制作したデッキをランダムで使用する)。初期カード資産はそのデッキとなる。
・レギュレーション違反をした場合、その対戦で敗北扱いとなる(ゲーム自体は破産していなければゲームオーバーにはならない)。
・ゲームにおけるカード購入は、原則的にゲーム用に用意されたカードを用いる。
・所持金が0デュ円未満になったら破産。破産したプレイヤーはゲームオーバーとなり、ゲームに関わることができない。
・プレイヤーが最後の一人になった時点でゲームは終了。最後に残ったプレイヤーの勝利となる。
「まずは私からね。ルーレットを回して……4が出たから、4マス進むわ。『デュエリストとリアルファイトで勝利。500万デュ円を巻き上げる』で、500万デュ円ゲットよ」
「おい、デュエルしろよ」
「いきなりデュエマ要素を無視しやがった」
しかもやっていることは強盗とまるで変わりない。思った以上に殺伐とした世界設定だった。
「次は俺だね」
一騎もルーレットを回す。すると、ルーレットの針は4を示した。
「おっと、いきなり同じマスに止まったね。とりあえず俺も500万デュ円を手に入れて……ここからどうするの?」
「まずはレギュレーションを決めるわ。レギュレーションは……」
沙弓がリュックの中から別の箱を取り出す。カードが収納されていた箱よりも小さい箱だ。中には、なにやら大量の折り畳まれた紙が入っており、一見するとくじ引きのように見える。
「この紙からランダムで一枚選んで。レギュレーションはそこに書いてあること準拠よ」
「いつもと違うルールで対戦っていうのも、面白いね。なにが引けるかな……」
一騎は引いた紙を広げる。そこには『普通』と書かれていた。
「『普通』?」
「いつもと同じレギュレーションね。今現在の公式ルール準拠よ」
「面白くないですねー」
「まあ、分かりやすくていいだろ」
「次に、この対戦で賭ける金額を決めてもらうわ。対戦に負けたら、負けた側は勝った側に、その金額を支払わなくちゃいけないから」
ここが、このゲームの肝になる部分だろう。
不定期に様々な相手と対戦し、金が移動する。大量の土地や不動産を買収してゲームを有利に進めるのがモノポリーだが、デュエマによって金を稼ぐことができるということは、土地を先に取られたとしても、またそれを買収して逆転するチャンスが生まれるのだ。
土地や不動産に金をかけて、通常のモノポリーのセオリーを守るか。カード資産に金をかけて、対戦を有利に進めるか。ゲームの幅が普通のモノポリーより広く、戦略性を増していた。
一騎は『賭け金』と書かれた箱から、一枚の紙を取る。どうやら対戦する場合は、レギュレーションから賭け金まで、すべてランダムのようだ。
「賭け金は……『2億デュ円』? え? これ、まずくない?」
「レギュレーションはつまらなかったけど、こっちは面白いの引いたわね。ごく少数しか入ってないとんでもない地雷を引き当てるなんて」
賭け金は2億デュ円。初期の資産は1億デュ円。一騎はさらに500万デュ円を手に入れているが、2億−1億500万は、どう考えても数字が負の数になる。
「つまり、負けた方が一発で破産、ゲームオーバーか……」
「まさか初っ端からゲームオーバーを出すゲームになるだなんて思わなかったぞ……」
いきなり負けられない戦いが始まった。ここで負けた方が、なにもせずにこのゲームを降りることとなる。
それがどれほど恐ろしいことか、この場にいる全員は理解できているはずだ。
「ふふふ、燃えるわね一騎君。最初からクライマックスじゃない。絶対に負けられない戦いね」
「そうだね。たかがゲーム、されどゲーム。負けてなにかを失うわけではないとはいえ、俺も全力だよ」
「いいえ。ここで負けたら、地獄の苦痛が待っているわ」
「え?」
地獄の苦痛、という大仰な表現に、一騎は呆けてしまう。
確かにここで負ければゲームオーバー。大事な一戦だが、そこまで苦しむことはないだろう。そこまで一騎はこのゲームにかけているつもりはなかったが、
「考えてもみなさい、そして思い出しなさい。私は、“今日一日かけて”このゲームをするって言ったのよ。この意味、わかる?」
「え、えーっと……つまり?」
「つまり、ここで負けてゲームオーバーになったら、今日一日皆が楽しくわいわいモノポリーをやっている様子を、脇で銀行員をしながらずっと黙って見ているしかないのよ。皆は楽しい思いをしているのに、自分だけは混じることができず、せっせとデュ円を皆に配るだけに従事するのよ」
「それは地獄だ!」
そういうことである。
ここで負ければ、一日中ただ皆が遊ぶ様子を見ているだけ。退屈という名の苦痛が待っている。
ゆえに、絶対に負けられない戦いなのだ。
「あぁ、それと。レギュレーション違反は負け扱いだからね。対戦開始時点で、レギュレーションに合うデッキを用意できなかったら、問答無用で敗者だから」
「成程。そういう面でも、カード資産が重要になるのね……」
「デッキかぁ。そういえば俺、まだデッキを確認してなかったな……」
すべてのルール説明が終わってから確認するつもりだったが、すっかり忘れていたことを思い出す一騎。
そして彼は、自分に分配されたデッキに目を通すが、その瞬間、
「って、ちょっと待って! なにこのデッキ!?」
吃驚のあまり、素っ頓狂な声を上げる。
それもそのはずだ。なぜなら、彼のデッキは、
「このデッキ——プレミアム殿堂カードしか入ってないよ!?」
「え」
「というか枚数がそもそも足りてないし! これ誰が作ったの!?」
「あぁ、それは私が組んだデッキね」
「沙弓ちゃん!? これデッキじゃないでしょ!?」
「デッキよ。私は各自デッキを用意してと言ったけど、“今現在のレギュレーションにおけるデッキを用意しろ”だなんて一言も言わなかったわ」
「……そういうことか。部長め、なんて姑息な真似を……」
「……あぁ。理解した……」
「? どういうこと?」
首を傾げる暁に、恋が説明する。
まず、レギュレーションとルールの違いからだ。レギュレーションとルールを混同する者も少なくないが、厳密には違う。ルールはそのゲーム全体の規則であり、レギュレーションはその規則の中にある枠組みの一つにすぎない。
さらに言えば、レギュレーションとは、概ね“デッキ構築段階における制限”を意味する。
つまり、「こういうデッキでなくてはならない」ということを定めるのがレギュレーションだ。デッキの枚数は何枚、殿堂ルール準拠、といった制約は、デュエマの大原則のルールではない。メガデッキデュエル7や、殿堂ゼロなど、デッキ枚数が変わっていたり、殿堂ルールを無視したものもある。デッキ四十枚、殿堂ルール準拠という規則はあくまで、一般的なレギュレーションというだけだ。
ここで沙弓の言に立ち返ると、彼女の指示は、「安価でも寄せ集めでもジャンクでも構わない。いつものデッキとは別に、もう一つデッキを持って来てほしい」というものだ。その際に、彼女はレギュレーションについてはまったく触れていない。つまり、レギュレーションは『無制限』ということになる。
レギュレーションが『無制限』とはどういう意味か。それは、デッキ枚数に指定はなく、殿堂ルールも無視できるということだ。ゆえに沙弓が作ったプレミアム殿堂カードのみ(しかも四十枚未満)のデッキも、デッキと言い張ることは可能だ。
しかし、今から行う沙弓と一騎の対戦でのレギュレーションは『普通』。沙弓が作ったデッキのレギュレーションとはそぐわないものだ。
「だからつきにぃは、次のターンにデッキを揃えないと、不戦敗……」
「待って。このゲームって、そんなすぐに四十枚のデッキを用意できるの?」
「カードショップマスに止まれば、カードを購入できるわ」
「カードショップマスっていうのは?」
「これのこと?」
と、いつの間にかルーレットを回していた暁が、一つのマスを指差す。そこには、『カードショップ』と書いてあった。
「そうそう、それそれ。そこに止まると、100万デュ円で十枚のカードを購入することができるわ」
「一度に十枚まで?」
「いいえ、購入に制限はないわ」
「ということは、部長は次のルーレットでカードショップマスに止まれば、まだワンチャンあるわけですねー」
次の一騎の手番で、カードショップマスに止まり、四十枚のカードを購入して即席でデッキを作る。
沙弓のデッキは、完成度は通常のデッキよりも劣るかもしれないが、それでもなにかしらのコンセプトに沿って作られただろうデッキ。ただの寄せ集めジャンクにしかならないだろうデッキで勝てるとも思えないが、なにもしないよりはマシだ。
「せっかく止まったし、とりあえず300万デュ円くらい払って買ってみようかな」
「じゃあ次は僕ですねー」
そんな感じで、各人それぞれの手番が動いていく。
対戦に発展した者はおらず、微小な資産の移動があったのみで、まだ大勢は動かない。
そう、沙弓と一騎を除いては。
「私と一騎君の対戦はストックした状態で、私も移動するわ。次は……9ね。結構進んだわ。この土地は購入、っと。次、一騎君の番よ」
「一騎にとっては運命のターンだな……」
「よし……!」
一騎は勇んでルーレットを回す。これでカードショップマスに止まれば、まだワンチャンス。可能性が残っている。
そうして、彼が止めた数字は。
「……9」
「あ」
「私の土地に止まったから、500万デュ円徴収よ」
絶望の徴収を受ける一騎。そして、
「対戦が確定した二人の手番が一巡したから、対戦開始よ。この時点でデッキを提示してもらうわ。私はこれね」
「……ありません」
「はい、じゃあレギュレーション違反扱いで一騎君は敗北決定。2億デュ円を私に謙譲して、財産が0デュ円以下になったから破産ね。ゲームオーバーよ。ありがとー」
「…………」
対戦する望みすら与えられず、一騎は僅か2巡で破産した。
「これは酷い……」
「えげつねぇ……」
「ちょっと引くわね……」
と、いうわけで。
脱落者一人目——剣埼一騎。
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て3」 ( No.447 )
- 日時: 2016/08/29 17:19
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
一騎が脱落したといっても、元が大人数なので特に支障はなかった。というより、順番が早く回ってくるようになるので、ラッキー、と思っている者も少なからずいるほどだ。
その後も無難に遊戯部モノポリーは進行していき、各人、金を稼いだり、カードを買ったり、対戦したり、目まぐるしく資産を移動させていた。
「夢谷。俺の土地に止まったから、200万デュ円を徴収するぞ」
「好きな人から700万デュ円徴収ね。暁、払いなさい」
「一騎、100万デュ円くれ」
「あ、ちょっと待って……はい、ミシェル」
「ショップマス……カード買えるけど……いいや、いらない……」
「対戦マスですね。えっと、後方の最も近い相手と対戦……黒月さん、おねがいします」
「ふぅ、ギリギリ勝てましたねー。とりあえず、空城さんには、500万デュ円、払ってもらいますよー」
「うぅ、もう少しだったのに、また負けた……」
今しがた対戦を終えた空護と暁。普段はあまり対戦しない者どうしでも対戦する機会が自然に巡って来るので、新鮮な気持ちだった。
それになによりも、自分ではない者が組んだデッキを使う、という点が、一番新鮮で、違和感がある。
「いつものデッキじゃないって、変な感じね」
「そうですね。なんだか、戸惑っちゃいます……」
「自分は自分で組んだデッキなので、なんかスッキリしないっす」
「対戦もそうだが、各所にあるカードショップでカードを買って、カード資産を整えるっていうのも、特徴的なルールだな。金の運用を不動産だけでなく、デッキにも向ける分、考えることが多いし、戦略性も増す」
「ま、斬新ではあるか」
「でも、まだ面白いルールが出てないのよねぇ……結構色んなレギュレーション入れたんだけど」
「そうか? さっきの『全カードオープンデュエル』はとんでもなかったぞ?」
「ゆずの思考がショートしてた……」
ゲームは説明を聞いた開けでは真髄を理解できない。実際にやってみて分かったことがいくつかある。
対戦要素がこのモノポリーにおいては重要だが、対戦内容にも注目すべき点が多い。それは、レギュレーションが変わること。単純に殿堂カードが使えるかどうかという問題だけではない。今まで出たものでも、デッキ構築時点ですべてのカードを一積みにしなければならない『ハイランダー限定戦』、デッキ枚数の上限を取っ払う『無制限デッキデュエマ』、そして、シールド、手札、デッキすべてを公開して対戦する『全カードオープンデュエル』と、破天荒なレギュレーションが少なくない。その中で、デッキを用意できずに不戦敗になった者も(一騎以外で)いる。
これらの特殊レギュレーションに対応できるかどうか。また、デッキ構築を縛られることもあるので、レギュレーションが確定するまでにカード資産を整えて、どんなレギュレーションにも対応できるようにする必要も出て来る。
準備と手間が恐ろしくかかるが、その労力があるだけあって、想像以上に奥深いゲームだ。その努力だけは、沙弓を認めてもいいと思う。
なお、今現在トップを走っているのは、卑劣な謀略によって一騎の初期資産をすべて強奪した沙弓である。
「流石にあのデッキは酷かったな……事前にルール知ってる奴の特権じゃねぇか」
「まともなレギュレーションじゃ運用できないデッキで対戦におけるディスアドバンテージを押し付けているわけだからな。ある種の番外戦術だな。わりとグレーゾーンギリギリの行為だと思うぞ」
「いや、まともなレギュレーションじゃ運用できないって言っても、レギュレーションの種類はたくさんあるし、殿堂ゼロとかもあるのよ? それに、私以外にもまともにデッキ作ってない人、いるみたいだし」
「あぁ……俺のデッキだな。枚数が明らかに四十枚を超えてるジャンクというか……」
ストレージの中のいらないカードを手づかみで引っ張り出したようなデッキだった。枚数が四十枚以上あるだけマシではあるが、まとまりがなさすぎて、一枚一枚のカードパワーも低い。とても実戦に耐えうるようなデッキではなかった。
「誰だよ、こんなの持って来た奴……」
ぽつりと浬が零すと、恋が小さく返した。
「……たぶん私……」
「お前か!」
「昨夜の恨み……!」
「偶発的なうえに俺は悪くないだろ!」
「結局あの後、暁と一緒に入ることになったからよかったけど……私の邪魔をした罪は重い……そのジャンクデッキで苦しめ……」
およそ恋とは思えない、怨恨に満ちた視線を向けられる浬。逆恨みだ、と言わんばかりに睨み返すが、恋も動じない。
「はいはい、二人とも喧嘩しない。とりあえず次、暁よ」
「うーん、そろそろお金が欲しいよ……」
今現在の最下位は暁だ。既に資産は半分を切っており、危ない状態に入りつつある。
「数字は3だね……あ、対戦マスだ。前方の一番近い人と対戦だって」
「自分っすね。勝負っす」
「うぅ、対戦かぁ……」
いつもなら喜び勇んでデッキを握る暁だが、なぜか今は困ったような表情を見せる。
それもそのはず、暁はここまででも何戦かしているのだが、すべて敗北で終わっている。暁の資産が削られているのも、多くは対戦で敗北したせいだ。
美琴の作ったデッキを握る暁と、自分のデッキを握らされた八との対戦。
ここまで暁が惨敗していると言っても、美琴のデッキが悪いわけではない。沙弓のような意地の悪い組み方をしているわけではなく、普通のデッキだ。カードパワーの高いカードは少ないが、安価で組んだ死神デッキ。カード間のシナジーはそれなりにあり、十分運用できるデッキではある。
しかし、
「《デスマーチ》を召喚! 《デスマーチ》と《デスプルーフ》で攻撃!」
「自分のターンっす! 《タイガ》と《エグゼドライブ》を召喚っすよ! 《ゴンタ》《青銅の鎧》《タイガ》でシールドブレイクっす!」
「あ、やば……」
「《エグゼドライブ》でとどめっす!」
単純に暁自身が、美琴の作ったデッキを上手く扱えていないのだ。
「なにこのデッキ……遅いし、殴ればいいのかなんなのかわかんないよ……いつ攻撃すればいいの?」
「自分で考えなさい。黒単は考えないと扱えないデッキよ」
「うぅ……」
「それに残念ながら、これはゲームよ。あなたが脱落しても、喜ぶ人はいても悲しむ人は——」
「……さゆみ」
「ぶちょーさん……」
「——れんちゃんとゆずちゃんくらいよ。頑張りなさい」
「発破をかけるのか慰めるのかくらいはハッキリさせとけ」
しかしこれがゲームである以上、暁一人に温情をかける必要がないことも確か。暁が脱落すれば、ライバルが一人減る。勝ちに近づくのだ。
少なくとも、トップを独走している沙弓は彼女を助ける理由はない。
むしろ搾取して脱落させることで、自分のトップを盤石にする餌だ。
「じゃあ、私のターンね。数字は5か。5マス進んで……お、面白いマス踏んだわ。『脱落者のデッキからカードを一枚ランダムで徴収』」
「死体蹴りもいいところだな……」
「でも、一騎さんのデッキって全部プレ殿なんでしょ? 基本的には使えないんじゃない?」
「死んでも価値がないわね」
「……ごめん」
脱落してから黙々と銀行員となり、皆の移動する金を管理している一騎は、暗い表情で謝る。酷い光景だった。
「さ、さすがに今のはひどいですよ、ぶちょーさん……」
「まあそうね。プレ殿カードでも、レギュレーション次第では価値があるわね」
「そっちのフォローはいいから一騎さんのフォローをしろよ」
「いや、いいんだ浬君……俺の運がなさ過ぎたのがいけないんだ……」
もはや完全にブルーになった一騎。落ち着くまで放っておいた方がいいのだろうか。
「——カードショップマスね。100万デュ円だけ使うわ。次、四天寺先輩ですよ」
「あたしの番か。数字は9だな……おっと」
「私と同じマスに止まったわね、シェリー。対戦よ」
「こいつとの対戦かぁ……」
露骨な嫌そうな顔を見せるミシェル。
単純に沙弓の性格がやりにくいというのもあるが、それ以上の理由もある。
それは、このゲームの不平等性だ。ミシェルはそれを見抜いていた。
モノポリーというゲームの性質上、プレイヤーはゲーム開始時点では平等だ。しかしこの特殊なモノポリーは、デッキがランダムで決定する、という点で不平等になっている。それは一騎が身を持って証明したことだ。
とはいえその点に関しては、運で多くの物事が決まるモノポリーの原則から外れていないとも言える。結局のところ、いいデッキが手にはいるかどうかは自分の運次第だ。ミシェルは比較的強いデッキを手に入れたので、単純に運が良かった。しかしこれが他人の手に渡る可能性もあったわけで、そう考えれば不平等とも言い切れない。
ミシェルが不平等だと思っているのは、沙弓自身についてだ。彼女はこのゲームの製作者。つまり、誰もが経験していないこのゲームを、唯一知っている人物。
レギュレーションの種類も把握しているだろうし、このゲームで勝ちやすいコツなども知っているだろう。効率計算、確率計算、入手できるカードの種類……すべてを計算し、把握しているとは思えないが、ある程度は頭に入っているものと思われる。
特に対戦レギュレーションの把握。どんなレギュレーションが来てもいいように、という準備は、そもそもどのようなレギュレーションがあるのかを知らなくてはならない。それを知っているのは沙弓だけ。つまり、彼女だけが自分の準備状況を正確に把握できるのだ。
これが不平等でなくてなんだと言うのか。
「レギュレーションは……『殿堂ゼロ』ね。そこそこ面白いのを引いたわ。しかも、タイミングもバッチリね」
「……さっき、一騎からプレ殿カード強奪したばかりだからな。よかったな一騎、役に立ったぞ」
「それはなによりだよ……頑張って、二人とも」
憂鬱な一騎を慰めながら、ミシェルと沙弓の、殿堂ゼロデュエルが始まる。
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て4」 ( No.448 )
- 日時: 2016/08/29 20:48
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
ミシェルと沙弓の対戦。レギュレーションは、『殿堂ゼロ』。
『殿堂ゼロ』とは簡単に言えば、殿堂、プレミアム殿堂といった、枚数制限をかけられたカードがすべて解禁されるレギュレーションだ。
このレギュレーション内であれば、ボルバルマスターズと称された《無双竜機ボルバルザーク》でも、坊主捲りと言われた《鬼丸「覇」》でも、どんなカードでも四枚フルで使うことができる。八枚は入れられない。
殿堂、プレミアム殿堂の制約を解禁するレギュレーション。それ以外は原則的なルールに従うため、このモノポリーだと意味がないこともあるが、最初に沙弓が止まったマスは、脱落者からカードを一枚奪うマス。それによって、一騎のプレミアム殿堂しかないカード群から、確実に殿堂ゼロデュエルでしか使えないカードが引き抜かれている。現状況に対して有用に作用するレギュレーションだ。
「沙弓ちゃんのデッキは確か、ミシェルの作った青赤アウトレイジ墓地ソ……」
「というか、まんまアウトレイジダッシュの構築済みそのままだったけどね」
「作るのが面倒くさかったからな。それに、お前がなにか企んでいることは読めてた。まともに作る気なんか最初からなかった」
「でも完成度の高いデッキをチョイスするあたり、流石シェリー。使いやすくていいわ、これ」
「煽り方がうぜぇ……!」
そんなやり取りのうちに順番が一巡し、二人の対戦が始まった。
「先攻は私ね。とりあえず、《ブータン転生》をチャージするわ。ターン終了よ」
「黒のカード? 闇入りか?」
「ちょっとだけね」
「……なんかキナ臭いな。あたしのターン。《無双竜機ドルザーク》をチャージして終了だ」
ミシェルのデッキは、暁が組んだ、ステロイドで旧式のバルガ連ドラ。《紅神龍バルガゲイザー》からドラゴンを踏み倒す、古き良き連ドラだ。
「私のターン。《アクア・サーファー》をチャージして、呪文《エマージェンシー・タイフーン》よ。二枚引いて一枚捨てるわ」
捨てられたのは《飛翔する啓示 ゼッツー》。まずは一枚、墓地が増えた。
沙弓のデッキで最も気を付けるべきは、《クロスファイア》による奇襲だ。パワータッカー100万での殴り返し、単純なスピードアタッカーの二打点。墓地にクリーチャーが六体いるだけで、タダで出て来るのだから脅威的だ。
理想としては、《クロスファイア》が出て来る前、つまり墓地にクリーチャーが六体以上落ちる前に勝負をつけること。幸い、特化した墓地ソースとは違い、墓地にクリーチャーが落ちる速度はそこまで早くないはずだ。先に《バルガゲイザー》を出せれば、十分チャンスはある。
「《ナチュラル・トラップ》をチャージ。呪文《フェアリー・ライフ》。マナを一枚追加して、ターン終了だな」
ミシェルはマナを伸ばしてターンを終える。この動きなら、最速パターンで《バルガゲイザー》を出せそうだった。
「私のターン。《ゼッツー》をチャージ。3マナで《デュエマの鬼!キクチ師範代》を召喚。ターン終了よ」
「《キクチ》だと?」
出て来たのは、人型のクリーチャー……というか人間だ。ある人物がカード化した、一種のジョークカードだ。
しかしその能力は本物である。かの《禁術のカルマ カレイコ》と同じ能力を持っており、山札から手札以外にカードが移動することを禁止する。
本来ならば、どちらかといえば墓地ソースの動きを阻害するメタカードだ。山札からの墓地肥やしを邪魔するのだから、相容れないこともある。
それが、どこか妙だった。
「嫌な予感がするな……あたしのターン。《炎獄スクラッパー》をチャージして、《ルピア・ラピア》を召喚。ターン終了だ」
これで次のターンには《バルガゲイザー》が出せる、というところで、ミシェルは気づいた。
「……まさか」
この《キクチ》は、自分へのメタカードなのではないかと。
「ミシェル、ちょっと厳しいかな」
「そうですねー。《師範代》がいるから、《バルガ》が止められちゃいますからねー」
空護の言う通り、《キクチ》はミシェルの《バルガゲイザー》を無力化する。
《バルガゲイザー》は、山札から直接クリーチャーを出す。つまり、山札が手札以外から移動しているのだ。《キクチ》でその能力は阻害されてしまう。
墓地ソースはドローして、手札から捨てることで墓地を増やすカードも少なくない。そのため、《キクチ》に邪魔されないことも多いのだ。だとすると、この《キクチ》は《バルガゲイザー》へのメタだと考えた方が自然だ。
「面倒くさいことしやがって……!」
「あらら、気が立ってるわね、シェリー。でも、次はもっと面倒よ。《ダキテー・ドラグーン》をチャージ。4マナで呪文、《スケルトン・バイス》!」
「な……!?」
ここで飛び出すのは、凶悪なハンデス呪文、《スケルトン・バイス》。あまりの凶悪さに、プレミアム殿堂となったカードだ。
4コストで二枚のハンデス。《ゴースト・タッチ》二回分と言えば普通に聞こえるが、これはたった一枚で二枚のカードを叩き落すのだ。そのうえ、《フェアリー・ライフ》などの2コスト加速から繋がり、僅か3ターン目で相手の行動を大きく縛ることができる。
実際ミシェルは、この一撃で手札が一枚まで削られてしまった。これは痛い。
「あたしのターン……一応、《紅神龍バルガゲイザー》を召喚だ。《ルピア・ラピア》でシールドをブレイク」
《バルガゲイザー》を最速で出すも、場には《キクチ》がいるため、能力は無力化されている。打点も少ないため、戦力としてはかなり弱くなっていた。
「私のターンね。《ゴースト・タッチ》をチャージ。呪文《ドンドン吸い込むナウ》よ。山札から五枚見て、《ロードスター》を手札に加えるわ。火のカードだから、クリーチャーをバウンスできるけど……」
沙弓はミシェルの場を見て、なにを戻すべきかを考える。
「そうねぇ……《バルガゲイザー》は《師範代》がいるから怖くないし、コスト軽減の《ルピア・ラピア》をバウンスよ」
バウンスされたのは《ルピラ・ラピア》。ドラゴンのコストを下げるため、大型のドラゴンを呼ぶサポートとなる可能性がある。一打点のアタッカーにしかならない《バルガゲイザー》より、そちらの方が重要と考え、沙弓はそちらを除去したのだろう。疑似的なランデスとも言える。
そして沙弓のターンは終了。ミシェルのターンだが、
「……《ルピア・ラピア》をチャージ。ターン終了だ」
「あら、なにもしないの?」
「あぁ……なんか、嫌な予感がするしな」
「ふぅん。ま、いいけど。私のターン。《エナジー・ライト》をチャージ。2マナで《エマージェンシー・タイフーン》を唱えるわ」
再び《エマージェンシー・タイフーン》で手札を整えつつ、墓地を肥やす沙弓。まだ墓地にクリーチャーは一体だが、油断はできない。
なぜなら、ここまでの沙弓の動きは、およそ墓地ソースらしくないからだ。墓地ソースは、墓地を増やしながら《クロスファイア》などのクリーチャーに繋げる“ビートダウン”デッキ。にも拘わらず、沙弓は《キクチ》で《バルガゲイザー》をメタったり、ハンデスでこちらの動きを封じたりと、コントロールのような動きをしている。このターンにチャージされた《エナジー・ライト》も怪しい。
《キクチ》で殴らなかったのは、《バルガゲイザー》を抑えるためとしても、どうにもここまでの動きがおかしいのだ。彼女は確実に、なにかを隠している。
「効果で二枚引いて……お、やっと来たわね、このデッキの切り札」
「切り札? 《クロスファイア》はまだ出せないはずだが……」
その、隠されたものが今、明らかになろうとしていた。
「残念ながら、今回のメインディッシュはこっちよ」
そう言って沙弓は、残りの4マナをタップした。
「ジ・エンドよ、シェリー——《アクア・パトロール》」
「キクチパトロールだ!」
「鬼畜パトロールだ……」
一騎と恋が同時に言う。
そしてミシェルも、悔しそうに歯噛みしていた。
「ぐっ、まさかと思ったが、本当に来るか……しかも、こんな早く出るとはな……!」
「じゃあ、覚悟してもらうわ、シェリー。《アクア・パトロール》の能力発動。対象はシェリー、勿論あなたよ。シールドを全部山札に戻して、同じ枚数だけ山札からシールドに置いてちょうだい」
「ん? シールドを全部山札に戻して、同じ枚数のシールドを回復させるの? 意味ないじゃん」
「いや、違うよ暁さん。これは殿堂ゼロだけで可能な、恐ろしいコンボだ」
状況が理解できていない暁に、一騎が説明する
「《デュエマの鬼!キクチ師範代》は、山札のカードが手札以外に移動することを禁止する。こいつがいる時に《アクア・パトロール》を出せば、シールドがすべて山札に戻されてゼロになった後、山札からシールドを追加する行為だけが阻害され、シールドはゼロのままになるんだ」
アクア・パトロール VR 水文明 (4)
クリーチャー:リキッド・ピープル 2000
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、プレイヤーをひとり選ぶ。そのプレイヤーは自分自身のシールドの枚数を数え、それを山札に入れてシャッフルし、その後、山札の上から同じ枚数のカードを裏向きのまま自分自身のシールドゾーンに置く。
※プレミアム殿堂
デュエマの鬼!キクチ師範代 闇文明 (3)
クリーチャー:ヒューマノイド 3000
いずれかのプレイヤーの山札から、手札以外のゾーンにカードが置かれる時、かわりにそのプレイヤーはそのカードを山札に加えてシャッフルする。
この強力無比なコンボゆえ《アクア・パトロール》は、単体ではそれほど高いカードパワーを持っていないにもかかわらず、プレミアム殿堂カードに指定されているのだ。
もっとも、このクリーチャーがプレミアム殿堂入りした頃では、《海王龍聖ラスト・アヴァタール》という別のカードとのコンボによるものだが、挙動は似ている。というより、《キクチ》《カレイコ》とのコンボの方が、早くて強力だ。そのあまりの理不尽さから、鬼畜パトロールとも呼ばれ、畏怖されている。
「山札に送還するから、S・トリガーは勿論、《キューブリック》みたいな墓地に送られた時の能力も誘発しない……決まりね」
シールドをすべて山札に戻した後、ミシェルは山札からシールドゾーンにカードを置こうとするが、《キクチ》がそれを許さない。
五回分のシールド回復すべてが山札に戻され、ミシェルのシールドはゼロ。ブロッカーもおらず、がら空きだ。
「くっ……!」
「ごめんなさいね、シェリー。どっちも一積みなんだけど、思った以上に上手く決まっちゃったわ」
「一積みカードのためにここまでするか……!? 盾落ちしてたら殴るほうがよかった場面になるだろ……!」
「せっかくだから、ちょっとやってみたかったのよ。いざとなれば打点並べて殴るプランも、なくはなかったけど」
しかし、決まってしまったものは決まったのだ。
沙弓は静かに《キクチ》を横に倒す。
「《キクチ師範代》でダイレクトアタック!」
「させるか! ニンジャ・ストライク6! 《不知火グレンマル》!」
《キクチ》の攻撃が届く寸前、ミシェルはたった一枚の手札から、クリーチャーを叩きつけた。
「《グレンマル》の登場時能力で、パワー4000以下の《キクチ》を破壊だ!」
ダイレクトアタックの直前で《キクチ》を破壊し、なんとか難を逃れたミシェル。間一髪だ。
沙弓はこのタイミングでの《グレンマル》は予想していなかったようで、目を丸くしていた。
「ちょっとビックリ。連ドラにそんなカードを入れてるなんて」
「お前はビートダウンだと思ってたらな。対策として一枚だけ積んだ。まさか、こんな時に使うとは思わなかったが」
「……まあいいわ。シェリーはシールドゼロだもの。私の場にはまだ《アクア・パトロール》が残ってるし、次で決めるわ……懸念材料はあるけどね」
ミシェルの手札はゼロだが、マナは6マナ。マナゾーンには《フレミングジェット・ドラゴン》が見え、場には《バルガゲイザー》。沙弓は《キクチ》を失ってしまった。
ここで、《バルガゲイザー》の対策を《キクチ》で甘え、《ルピラ・ラピア》をバウンスしたツケが回ってきた。
「《バルガゲイザー》で捲れるカード次第では、危険ね……それでも、大丈夫そうではあるけど……」
《フレミングジェット》をドローしてこのターンに召喚。ドラゴンを三枚捲ってこのターンにブレイク数を三枚増やしたうえで、《バルガゲイザー》でスピードアタッカーも捲る。ドラゴン四連打だ。
ドラゴン比率が多いと言っても、そこまで都合よく捲れるものだろうか。確率はゼロではないが、かなり低い。
しかし、確率が低いほど。ゼロに近いほど。
ここぞというところでは、恐怖心を煽る。
「あたしのターン……もう一体《バルガゲイザー》を召喚」
マナチャージはせず、そのまま二体目の《バルガゲイザー》を繰り出すミシェル。
しかしまだ安心できない《バルガゲイザー》から《バルガライザー》、その《バルガライザー》からさらに《バルガライザー》を呼んで、スピードアタッカーに繋げるなど、考え得る可能性は残っている。
「一体目の《バルガゲイザー》で攻撃! その時、山札を捲りドラゴンならバトルゾーンへ!」
ミシェルは山札を捲る。
すると、
「……!」
捲ったカードを見て、彼女は一瞬、停止した。
そして静かに、言った。
「……お前が一騎のデッキからプレ殿カードを抜いたように」
「ん?」
「あたしもプレ殿カードをゲットしてるんだよ。それも、デュエマ史上最悪のとっておきをな」
ミシェルは、捲ったカードを公開する。
過去のデュエマを支配した、一強の権化。恐れられ、疎まれ、そして愛された天下無双のドラゴン。
その原点は封じられ、禁じられた。しかし、今この時、この場だけで——復活する。
「さぁ、ボルバルマスターズの始まりだ——《無双竜機ボルバルザーク》!」
- 番外編 合同合宿2日目 「慈悲なき遊戯は豊潤が全て5」 ( No.449 )
- 日時: 2016/08/30 06:50
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
無双竜機ボルバルザーク VR 火/自然文明 (7)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/アース・ドラゴン 6000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
このクリーチャーをバトルゾーンに出した時、他のパワー6000のクリーチャーをすべて破壊する。その後、このターンの後にもう一度自分のターンを行う。そのターンの終わりに、自分はゲームに負ける。
スピードアタッカー
W・ブレイカー
※プレミアム殿堂
《バルガゲイザー》の能力で現れたのは、《無双竜機ボルバルザーク》。
デュエマの環境の一世代を築いた、強力で凶悪なドラゴンだ。
「《無双竜機ボルバルザーク》がバトルゾーンに出た時、パワー6000のクリーチャーを破壊するが、これは不発。だがもう一つの能力は発動だ!」
かのクリーチャーが強力で、凶悪で、恐れられ、疎まれ、愛され、禁じられた理由。
それが、この力だ。
「このターンの終わりに、あたしはエクストラターンを得る!」
登場しただけで、追加のターンを得る能力。
元祖のエクストラターン持ちのクリーチャーは、《聖剣炎獣バーレスク》。アーマード・ワイバーンというマイナー種族の進化クリーチャー、コストは9と重く、相手プレイヤーを攻撃してブロックされなかった時のみ追加ターンを得られる条件、そして極めつけにはターン終了時に手札へと戻る能力と、非常に使いづらい。逆に言えば、エクストラターンとは、それほどがんじがらめに縛りつけるほどに巨大なアドバンテージになるのだ。
他のエクストラターンを得るクリーチャーでは、コスト10と《バーレスク》より重く、攻撃時のガチンコ・ジャッジで勝たなくてはならないという条件がある《勝利宣言 鬼丸「覇」》。山札の上から三枚を捲り、デッキに何枚も積めないフェニックスが捲れた数だけエクストラターンを得られる《ザ・ユニバース・ゲート》。相手に選ばれなければ発動しない《熱血星龍 ガイギンガ》などがあるが、どれも簡単に追加ターンを得ることはできない。
しかし《無双竜機ボルバルザーク》は、登場しただけで、無条件に追加のターンを得られる。この能力がどれほど凶悪かは、それらと比較すればよく分かるだろう。
だが勿論、それだけではない。エクストラターンは無条件だが、その代償もまた、大きい
「次もシェリーのターン……だけど、そのターンの終わりに、シェリーは負ける……」
「どう足掻いても次がラストターンだな」
これが、《無双竜機ボルバルザーク》が禁じられた、裏の理由。
強力な能力の代償が大き過ぎるのだ。出れば問答無用でエクストラターン、攻めきれなければ問答無用で敗北。
このクリーチャーが出た瞬間に、どちらに転ぼうとも決着がついてしまう。強制的にゲームを終了させる特異性も、禁止となる要因だったと言われている。
他にも、一世代の環境を、このクリーチャーが主軸となったデッキだけで独占してしまい、《ボルバルザーク》に勝つために《ボルバルザーク》を使う、というような光景は当たり前だったとされる。
そんな、ある種デュエル・マスターズのゲーム性を崩しかねないカードだったが、アニメ、漫画などの各種メディアでも取り上げられ、人気のあるクリーチャーであることも確かだ。今でも根強いファンは残っており、このクリーチャーがプレミアム殿堂入りした後も、ジョークエキスパンションなどでは再録されている。《ボルバルザーク・紫電・ドラゴン》《ボルバルザーク・エクス》などのリメイク、派生カードも出ており、《ボルバルザーク》の名を後世に伝えた始祖でもあるのだ。
環境において暴れていた時でも、時の流れと共に、非常に多くのデッキタイプを確立しており、盛行具合の異常性を示すとともに、常に使われ、好まれ、研究され続けた証左でもある。
それだけ、このクリーチャーは強くあり、そして愛されたカードなのである。
兎にも角にも、ミシェルは《ボルバルザーク》の登場によってエクストラターンを確定させた。沙弓のシールドは残り四枚。ミシェルの場には、《バルガゲイザー》二体と《ボルバルザーク》。エクストラターンを考慮すれば、単純計算で打点が二倍。このターンに殴れるクリーチャーは、残り《ボルバルザーク》のみだが、次のターンにとどめは刺せるが、
「打点は揃ってるけど、トリガー次第では逆転されちゃうね」
「とはいえ、四天寺先輩には手札がありませんから、殴るしかないと思いますけど……」
「大正解だ! 《ボルバルザーク》でWブレイク!」
手札がない、そしてこのデッキは連ドラ、ステロイドのビートダウン。
次のターンの終わりには負けが確定しているのだ。ごちゃごちゃ考えるより、殴るほかない。
「くっ……S・トリガー発動よ! 《アクア・サーファー》を召喚! 《バルガゲイザー》をバウンス!」
砕かれた二枚のシールドから、《アクア・サーファー》が飛び出る。二体の《バルガゲイザー》のうち一体を処理したが、まだもう一体残っている。打点は削り切れていない。
これでミシェルの殴れるクリーチャーはいなくなった。彼女のこのターンは終わりだが、
「ターン終了……そして、もう一度あたしのターンだ!」
再び、彼女のターンがやって来る。
「まずはドロー」
「手札がないのが救いだけど、さて、なにが出るかしらね……」
このターン、マナチャージしても7マナ。見ているカードから推察するに、《フレミングジェット・ドラゴン》などのスピードアタッカーが怖いところだが、一番恐ろしい可能性は《インフィニティ・ドラゴン》だ。アタッカーを除去しなければ耐えられない沙弓は、トリガーを祈るしかない。しかし除去トリガーが引けても、《インフィニティ・ドラゴン》はその除去を無力化する。運が絡むので出されたら完全に詰みではないが、まず負けると思っていいだろう。
「……《バルガゲイザー》をチャージ。7マナをタップ」
「う、嫌な予感……」
「《インフィニティ・刃隠・ドラゴン》を召喚」
「あ、そっちなのね」
《インフィニティ》違いだった。《バルガゲイザー》よりは仕事をする可能性はあるだろうが。
「さて、後がなくなったところで、《サーファー》踏まないことを祈って殴るか・《ボルバルザーク》でWブレイク!」
《ボルバルザーク》が沙弓のシールドを二枚、砕く。これで沙弓のシールドはゼロだ。
一枚目のシールドに、トリガーはない。
だが、しかし、
「……S・トリガー! 《支配からの開放》よ! 手札の《ゼッツー》を捨てて、パワー6000以下の《バルガゲイザー》を破壊!」
「ちぃ! 運のいい奴め……!」
最後のシールドから捲られたのは、手札一枚を犠牲にして6000火力を放つトリガー呪文、《支配からの開放》。
ギリギリのところで、除去系のS・トリガーを引き当てた沙弓だが、《アクア・サーファー》や《スパイラル・ゲート》でなかったことが悔やまれる。
なぜなら、
「これでミッシェル先輩のアタッカーはいなくなったっす!」
「いいや、まだだ! 《刃隠・ドラゴン》の能力で、あたしのドラゴンは破壊されても転生できる!」
《インフィニティ・刃隠・ドラゴン》は、自分のドラゴンが破壊された時、山札を捲ることができる。そして、捲ったカードがコスト7以下のドラゴン、またはサムライであれば、そのままバトルゾーンに出せるのだ。
《インフィニティ・ドラゴン》のように不死のドラゴン軍団を築くことはできないが、死したドラゴンを転生し、新たな戦力とする可能性を秘めている《刃隠・ドラゴン》でも、この状況を切り抜ける可能性が残っている。
その可能性を祈って、ミシェルはカードを引く。
「……引いたぞ」
そして、捲られたのは、
「コスト6——《フレミングジェット・ドラゴン》だ!」
《刃隠・ドラゴン》の転生対象となる、スピードアタッカーのドラゴンだった。
これで沙弓は、《バルガゲイザー》の除去分が帳消しにされてしまった。
「……終わったわね」
《フレミングジェット》はスピードアタッカー。
《バルガゲイザー》を止めても、後続が出て来てしまえば、どうにもならない。シールドはゼロ。手札にシノビもなかった。
「《フレミングジェット・ドラゴン》で、ダイレクトアタック!」
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