二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

98話「ボルメテウス・リターンズ」 ( No.304 )
日時: 2016/02/01 12:52
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

 暁とデウス・エクス・マキナのデュエル。
 互いにシールドは五枚。暁の場には《コッコ・ルピア》が一体。対するデウスの場には、まだなにもいない。
 ゆっくりとした立ち上がりのデウスだが、ここでようやく動きを見せる。
「私のターン。《禁術のカルマ カレイコ》を召喚。ターン終了だ」
 返しにクリーチャーを召喚。それでも、まだその動きは小さい。
「そんなちまちまやってたら、速攻で終わっちゃうよ。私のターン! 《ボルシャック・NEX》召喚!」
 《コッコ・ルピア》の力を得て、僅か4マナで現れる《ボルシャック・NEX》。ファイアー・バードとの絆が特に強いこの龍は、次なる仲間を呼び出す力を行使する。
「山札から、二体目の《コッコ・ルピア》をバトルゾーンに——」
「させぬよ」
 が、しかし。
 その時、《カレイコ》の杖が妖しく光る。
「《禁術のカルマ カレイコ》の能力。如何なる者も、山札から手札以外にカードを移動させることを禁ずる」
 《カレイコ》は、封殺の力を持つカルマの階級のオラクル。その力は、禁術によってカードの移動を制限するというもの。《カレイコ》が存在する限り、互いのプレイヤーは山札から手札以外にカードを移動できなくなる。つまり、山札からのマナ加速や墓地肥やし、シールド追加、そして山札からの踏み倒し——リクルートもすべて禁止されてしまう。
 その禁を破ったものは、容赦なく元の場所に戻される。《ボルシャック・NEX》に導かれた《コッコ・ルピア》は、《カレイコ》の禁術によって山札へと送り返されてしまう。
「そんな……ターン終了」
「《墓守の鐘ベルリン》《制御の翼 オリオティス》を召喚」
 守りを固めつつ、さらに呼び出すクリーチャーを制限してくるデウス。《オリオティス》が出てしまったせいで、暁はコスト踏み倒しどころか、コスト軽減でクリーチャーを早期召喚することすらできなくなってしまった。
「マナチャージして5マナ……だったら、《熱血龍 バクアドルガン》召喚! そのまま攻撃だよ!」
 《バクアドルガン》の攻撃と同時に、暁は山札をめくる。《バクアドルガン》は攻めるたびに援軍を呼び寄せる戦闘龍、増援を率いて攻め込む切り込み隊長だ。
 めくれたのは、同族の《バクアドルガン》。ドラゴンなので、手札に入る。
「シールドブレイク!」
「……ふむ。S・トリガーだ。《モエル 鬼スナイパー》を召喚。能力でパワー4000以下のクリーチャー、《コッコ・ルピア》を破壊」
 《鬼スナイパー》の狙撃が、《コッコ・ルピア》を撃ち抜く。猟師に撃ち落とされる鳥の如く、《コッコ・ルピア》は地に落ち、そして燃え尽きた。
「でも、今はとにかく攻める! 《ボルシャック・NEX》でも攻撃!」
「《墓守の鐘ベルリン》でブロック」
 《ボルシャック・NEX》の炎爪が、進路を阻む《ベルリン》を引き裂く。
 《コッコ・ルピア》こそ破壊されたが、既に暁のエンジンはかかっている。《バクアドルガン》《ボルシャック・NEX》らによって、攻撃の手は緩まない。
 しかし、それとは関係なく、デウスは盤面を支配する。
 そのために、一つの伝説が返り咲く。
「私のターン……お見せしようか、かつての伝説を。この世に呼び戻された、偉大なる存在を」
「伝説……? なんのこと?」
「見れば分かる。君も、かの龍の力はよく知るところではないだろうか」
 刹那、デウスの手に二つの光が宿る。
 希望に満ちた青い光と、勝利に導く赤い光。
 二つの光が彼に力を与える。

「詠唱——《希望と勝利の伝説》」

 デウスの手に宿った二つの光は、やがてカードの形となった。
「《希望と勝利の伝説》の能力。カードを二枚ドロー」
「ドロー? それだけ?」
「そうだな。知識を得る。この呪文は、ただそれだけで終わることもある」
 だが、そうではない時もある。
 それが今だ。
「《希望と勝利の伝説》は、一つの伝説を蘇らせる。白く美しく、そして猛々しい、灼熱の龍の伝説を」
 そのための儀式のように、デウスは呪詛を唱える。
「白き装甲の偉大なる龍よ。希望を抱き、勝利を求め、伝説をここに呼び覚ませ」
 そして、その名を呼ぶ。
 伝説として受け継がれる、大いなる龍の名を。

「かの龍は伝説として蘇る——《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》」

98話「ボルメテウス・リターンズ」 ( No.305 )
日時: 2016/02/01 15:32
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

 希望と勝利の光が炎となり吹き荒れ、伝説の龍が舞い降りた。
 《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》。ボルメテウスの名を冠する最初の龍。
 聖なる炎で悪を焼き尽くし、かの龍を呼ぶ声があれば幾度でも舞い戻る、伝説の存在。
 それが今、デウスの下につき、暁に牙を剥く。
「ターン終了だ」
「っ、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》……いきなり大きなドラゴンが出てビックリだけど、それじゃあ遅いよ! 《バクアドルガン》召喚! そのまま攻撃して、山札をめくるよ!」
 次にめくれたのは《熱血龍 メッタギルス》。またもドラゴンなので、手札へ。
 そして、直後に《バクアドルガン》が突進し、デウスのシールドを砕く。
 確かに《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》は強力なドラゴンだが、先にドラゴンを展開した暁の方が、盤面上は有利だ。このまま展開力と速度を持って、暁はドラゴンの攻撃力で押し切ろうとする。
 だが、《バクアドルガン》によって砕かれたシールドは、光の束となり収束した。
「S・トリガー、《ボルメテウス・ホワイト・フレア》」



ボルメテウス・ホワイト・フレア 光/火文明 (5)
呪文
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
S・トリガー
次のうちいずれかひとつを選ぶ。名前に《ボルメテウス》とある自分のクリーチャーがバトルゾーンにあれば、両方選んでもよい。
▼相手のパワー6000以下のクリーチャーを1体破壊する。
▼相手のクリーチャーをすべてタップする。



 収束した光はデウスの手に。そして、彼は《ボルメテウス》へとその光を託した。
 すると、《ボルメテウス》は背中の砲塔から、灼熱の火炎を放つ。白く、轟々と燃え盛る火炎放射は、瞬く間に暁の《バクアドルガン》を飲み込み、灰塵へと変えてしまった。
「二体目の《熱血龍 バクアドルガン》を破壊だ」
「くぅ……!」
「さらに、私の場に《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》が存在するので、《ボルメテウス・ホワイト・フレア》のもう一つの能力も使わせてもらおう。相手クリーチャーをすべてタップ」
 続けて、主砲の両横に取り付けられた二つの副砲から、眩い閃光が放たれる。
 その光を浴びた《ボルシャック・NEX》は動きを封じられ、地に伏せてしまった。
「攻撃を止められた……!」
「では、私のターンだ。《光器パーフェクト・マドンナ》を召喚。そして《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》で《ボルシャック・NEX》を攻撃だ」
 《ボルメテウス》が《ボルシャック・NEX》に肉薄し、巨大な爪で引き裂いた。
 一体、また一体と暁のクリーチャーは破壊され、徐々に勢いを奪われていく。先に展開したアドバンテージが失われていく。
「でも、まだ止まらないよ! 《英雄奥義 バーニング銀河》! コスト5以下の《カレイコ》を破壊! さらにマナ武装7、コスト12以下の《ボルメテウス》も破壊!」
「《禁術のカルマ カレイコ》だけでなく《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》までもが破壊されたか。これで踏み倒しを禁ずることはできなくなったが、では君はどう攻める?」
「……ターン終了だよ」
 デウスの場には《パーフェクト・マドンナ》がいる。どんな攻撃も、一発であれば《パーフェクト・マドンナ》が受け止めるので、攻撃可能なクリーチャーが《バクアドルガン》しかいない暁は、攻撃せずにターンを終える。
「呪文《エナジー・ライト》。カードを二枚ドローする。続けて呪文《クリスタル・メモリー》。山札からカードを一枚手札に加える。ターンは終了だ」
 暁が攻めあぐねている間に、デウスは着々と下準備を進める。手札を潤し、知識を蓄え、じっくりゆっくりと、盤面を制圧していく。
 しかし、暁を甘く見てはいけない。
 たった1ターン、一瞬であっても、彼女は爆ぜる。
 それは火山が噴火し、爆発するかの如く、急激に、迅速に、そして猛烈に、怒涛の勢いで攻める。
 爆発的な展開と、爆発的な攻撃力を、発揮するのだ。

「暁の先に並ぶ英雄、龍の力をその身に宿し、熱血の戦火で武装せよ——《怒英雄 ガイムソウ》!」

 まずは、英雄の力が解き放たれた。
「ほぅ、英雄か」
「《ガイムソウ》の能力、マナ武装7発動! 手札から火のクリーチャーをバトルゾーンに出すよ! 出て来て《龍覇 グレンモルト「爆」》!」
 暁のマナが、赤く光る。七枚の火のカードが、《ガイムソウ》に力を与える。
 怒りのような激情を、力に変換。変換した力を、仲間に授与。
 《ガイムソウ》の武装を推進力に、新たな戦士、龍と心を通わす者、ドラグナー。《龍覇 グレンモルト「爆」》が、戦場へと駆け出した。
「《グレンモルト「爆」》の能力で、超次元ゾーンからコスト5以下の火のドラグハートを呼べる!」
 さらに《グレンモルト「爆」》の力で、今度は超次元の門扉をこじ開ける。
 彼の熱血の心に惹かれ、爆熱の城が築城された。

「2D龍解! そしてここに! 来て——《爆熱天守 バトライ閣》!」

 龍の天守を持つ城、《バトライ閣》が《グレンモルト「爆」》に呼ばれる。
「《グレンモルト「爆」》で攻撃! その時、山札の上から一枚目を捲って、ドラゴンかヒューマノイドならバトルゾーンに!」
 剣の一振りと共に、《バトライ閣》から法螺貝の音が響き渡る。
 その音は《グレンモルト「爆」》の熱血と共鳴することで、新たな仲間を呼び起こす。
 共鳴の可否は、暁の捲ったカードが証明した。
「捲れたのは《永遠のリュウセイ・カイザー》だよ! ドラゴンだからバトルゾーンに! そして!」
 暁は、ビシッと、二本の指を突き立てて、Vサインのように、デウスへと腕を突き出した。
「このターン、二体以上ドラゴンを場に出したことで、《バトライ閣》の龍解条件成立!」
 《バトライ閣》が鳴動する。
 二体のドラゴンの熱き血潮が力となり、《バトライ閣》に熱血の魂を注ぎ込んだ。
 爆ぜるように激しく、灼熱の心が、《バトライ閣》の姿を変える。
「暁の先に——3D龍解!」
 それは、暁の先に、勝利を刻む龍——

「——《爆熱DX バトライ武神》!」

 《バトライ武神》が、姿を現した。
 《バトライ閣》が形を変え、《バトライ武神》へと変化する。城そのものを纏うかのような鎧を身に着け、長大で巨大な太刀を手に、戦場をしっかりと踏み締める。
 暁の陣営に《バトライ武神》がそびえるように立つ。そして、その脇をすり抜けるように、一人の剣士が駆け抜けて行った。《グレンモルト「爆」》だ。彼の攻撃は、まだ終わっていない。
「《グレンモルト「爆」》でWブレイク!」
「……S・トリガー、《埋没のカルマ オリーブオイル》をバトルゾーンに。私の墓地のカードをすべて、山札に戻す」
「まだまだ! 《バトライ武神》で攻撃! その時、山札から三枚を捲って、ドラゴンとヒューマノイドをすべてバトルゾーンに!」
 《グレンモルト「爆」》に続き、《バトライ武神》が戦場を駆け、太刀を振るう。
 爆炎と爆風が轟音を上げ、暁の山札のカードを吹き飛ばし、その中の仲間を一挙に呼び出した。
「《爆竜 バトラッシュ・ナックル》! 《龍世界 ドラゴ大王》! そして——」
 暁の場には《ガイムソウ》《グレンモルト「爆」》《リュウセイ・カイザー》《バトライ武神》、さらに《バトライ武神》によって呼び出された《バトラッシュ・ナックル》と《ドラゴ大王》。合計六体のクリーチャーが存在する。
 そのコスト合計は、12をゆうに超えていた。さらに《バトラッシュ・ナックル》の種族は、アーマード・ドラゴンとフレイム・コマンド。
 太陽が昇る時が来た。
「——私の場は、アーマード・ドラゴンを含む火のクリーチャーのコスト合計が12以上! 条件達成!」
 数多くの仲間の力を得て、神話は継承する。
 そして彼は、仲間を導く太陽となる。

「進化! メソロギィ・ゼロ——《太陽神翼 コーヴァス》!」

 黒翼に抱かれし太陽の化身が、仲間たちの声に導かれ、戦場へと駆けつけた。
「……《コーヴァス》」
『言わなくても分かるぜ。あいつをぶん殴ればいいんだろ? 任せとけ』
「うん、お願い! 《コーヴァス》の能力で、相手クリーチャー一体とバトルするよ! 《オリオティス》とバトル!」
『——はぁっ!』
 黒羽が舞い、一陣の風が吹くと、次の瞬間には《オリオティス》の姿はなくなっていた。一瞬のうちに、《コーヴァス》が殴り倒したのだ。
 そしてこれで、暁の展開を邪魔するクリーチャーはいなくなった。
「さぁ、行くよ! 《コーヴァス》がバトルに勝ったから、山札の上から三枚を見て、《爆竜 GENJI・XX》をバトルゾーンに!」
「やられたか……だが、《制御の翼 オリオティス》の能力は発動する。そちらのマナゾーンのカードは八枚、《爆熱DX バトライ武神》の能力で現れた、コスト10の《龍世界 ドラゴ大王》は山札に戻って貰おう」
「それでも、《ドラゴ大王》の能力は発動する! 《コーヴァス》と《オリーブオイル》をバトルだよ!」
 《オリオティス》によってクリーチャーの存在は制御され、《ドラゴ大王》は山札へと戻らざるを得なくなってしまったが、タダでは消えない。
『我の王権は不滅、決して消えることはない! その印を貴様の身に刻もうぞ! 行け、《コーヴァス》よ!』
「承知だ、《大王》! まだまだ、殴り倒してやるよ!」
 次は、《オリーブオイル》に接近する。大きく振りかぶった燃える拳を突き出し、《オリーブオイル》は無数のパーツとなり、バラバラになって吹き飛んだ。
 《ドラゴ大王》が山札に戻される中、《コーヴァス》の勝利によってもたらされた風が吹く。
「もう一度、山札を捲るよ!」
 今度は《オリオティス》に邪魔されることもない。どれだけ大きなクリーチャーでも呼び出せる。
 そして、《ドラゴ大王》の匹敵するほどの力を持つ龍が、降り立った。

「暁の先に、歴史を残せ——《勝利天帝 Gメビウス》!」

 クリーチャーそのものに制限をかけて制圧する《ドラゴ大王》と違い、直線的な強さを持つドラゴン《Gメビウス》。
 オーバーキルすぎるほどの打点を揃えながら、暁のドラゴンは次々と呼び寄せられる。ちょっとやそっとのS・トリガーでは、防ぎきることは不可能だ。
「《バトライ武神》、行って!」
「《光器パーフェクト・マドンナ》でブロック」
「まだまだ! 《コーヴァス》で攻撃! その時、《鬼スナイパー》とバトルして、山札から《シャックポット・バトライザー》をバトルゾーンに!」
 ドラゴンがドラゴンを呼び、そのドラゴンが新たなドラゴンを呼ぶ引き金となる。
 これが暁のスタイルだ。数多の龍を操り、爆発的展開力を叩き出す。すべてのドラゴンは、彼女の下に集うのだ。
 しかし、その展開力は、必ずしも良い方向に作用するとは限らない。
 暁だってわかっていたはずだ。一度、痛い目を見ているはずなのだから。
「……S・トリガー」
 デウスは砕かれたシールドを集め、一つのカードの形へと変える。
 かつて暁は、自らの展開力によって盤面を覆されたことがある。
 それが、その“終焉”が今、再現される。
 奇しくも、あの時と同じ場所で。
 彼女の時のように。

「かの世界は終焉を迎える——《アポカリプス・デイ》」

98話「ボルメテウス・リターンズ」 ( No.306 )
日時: 2016/02/02 20:58
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

 強烈な光が戦場を包み込む。
 その刹那、世界は終わりを告げた。
 一瞬にしてバトルゾーンは灰塵と帰す。
「……! そんな……!」
「クリーチャーを展開したことが仇となったな。クリーチャーが六体以上存在しているため、《アポカリプス・デイ》によってすべてのクリーチャーを破壊だ。ただし、私の《光器パーフェクト・マドンナ》はパワーが0以下になっていないので、場に留まるが」
「で、でも! こっちだって《バトライ武神》の龍回避で、《バトライ閣》に戻るよ!」
 消滅した世界の中でも、《バトライ武神》は完全には死なない。その身を天守閣へと変え、再び龍の姿に戻る時まで、身体を休める。
 フォートレス状態ならば、通常以上の除去耐性を維持することができる。もう一度、ドラゴンを二体以上場に出すことができれば、追撃をかけ、今度こそ押し切れるはずだ。
 もっともそれは、《バトライ閣》が場に残っていれば、の話だが。 
「私のターン。《トンギヌスの槍》を発動。《爆熱天守 バトライ閣》を超次元ゾーンへ」
「あ……!」
 神をも殺す神槍が飛び、《バトライ閣》を貫く。長大な槍が突き刺さった天守はボロボロと崩れ落ち、一瞬にして《バトライ閣》までもが消えてしまった。
 いくら除去耐性がクリーチャー以上にあると言っても、フォートレスを剥がす手段がないわけではない。カードを指定する除去であれば、フォートレスも潰れてしまうのだ。
「くぅ、《コッコ・ルピア》を召喚!」
 返しのターン。手札のない暁は、山札から引いたカードをそのまま繰り出すしかない。
 場に残っているのは、非力な《コッコ・ルピア》が一体。一撃でも攻撃を通せば勝てるが、デウスの場には《パーフェクト・マドンナ》が鎮座し続けている。そのせいで、クリーチャー一体では突破できない。
 だが、それどころの話ではなかった。攻撃を通すとか通さないとか、そんな問題はデウスの前では些末なもの。
 手札も場も失った暁ができることなど、たかが知れている。手札を使い切って攻めた結果、盤上を完全にリセットされてしまった。その時点で、勝負はほぼ決していたのだ。
 あとはただ、緩やかに死に向かって行くだけだ。
「緩慢に、されど確実に。知識を奪い、命を奪う。最後に残る壁も、罠ごと燃やし、灰と化す。なにかを得るためならば、それが得なければならない重大なものであるのならば、悪魔にだって魂を売り渡そう。勝利のために——出でよ」
 八枚のマナをタップし、デウスは伝説を呼ぶ。
 しかしそれは、高潔な龍の姿ではない。
 大切なものを得るために、己の魂を犠牲にした、醜く悍ましい、穢れた黒き龍。
 すべてを燃やし尽くす炎も、大空を翔る翼も、障害を引き裂く爪も、純白の鎧も——肉体も精神も、身も魂もすべてが黒く染まった、伝説だった龍の今が、ここにある。

「かの龍は悪魔と契りを交わす——《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》」



ボルメテウス・ブラック・ドラゴン 闇/火文明 (8)
クリーチャー:アーマード・ドラゴン/デーモン・コマンド 8000
マナゾーンに置く時、このカードはタップして置く。
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手のクリーチャーを1体破壊する。
このクリーチャーがシールドをブレイクする時、相手はそのシールドを自身の手札に加えるかわりに墓地に置く。



「黒い……《ボルメテウス》……?」
「そうだ。守るべき者のため、悪魔に魂を売った気高き龍の、成れの果て……その力は、すべてを燃やし尽くす炎だけではない。かの龍の黒き魂は、命を奪う。《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》がバトルゾーンに出た時、相手クリーチャーを一体破壊する。《コッコ・ルピア》を破壊」
 《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》は、炎を吐く。真っ黒な炎だ。闇のように深い炎は《コッコ・ルピア》を包み込むと、一瞬で灰と化し、魂ごと燃やし尽くした。
「ターン終了だ」
「な……う……《ガイアール・アクセル》を召喚!」
「私のターン。呪文《勝利と希望の伝説》」
 またも引いてきたカードをそのまま飛ばす暁だが、デウスは悠々と、それでいて着々と場を詰めていく。
 再び唱えられた《希望と勝利の伝説》によって新たな知識を得たデウスは、引き寄せられるかのようにして呼び込んだ龍を、戦場へと送り出す。
「かの龍は伝説となり蘇る——《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》」
 皆の希望を背負い、勝利を目指し、白き《ボルメテウス》の龍が現れる。
 悪魔に魂を売り渡した己と、肩を並べて。
「白い方まで。まずい……」
「さらに呪文《魂と記憶の盾》。《ガイアール・アクセル》をシールドへ」
 残ったマナで呪文を放つ。デウスはどんなクリーチャーも見逃さない。自分が圧倒的有利に立っていても、慢心はなく、あらゆる可能性を排除する。
 《ガイアール・アクセル》はシールドへと封じられてしまった。これでシールドが増えた、などと喜べるほど、暁も楽観的ではない。
 シールドが増えたところで、それは二度と手札には戻って来ないのだから。
「《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》で、シールドをWブレイク」
 再び、黒い《ボルメテウス》は炎を放つ。深淵のような漆黒の炎を。
 黒炎は暁のシールドを飲み込むと、じりじりと焼き焦がし、そして燃やし尽くし、灰にする。
 砕かれる、だなんて生易しいものではない。もはやなにも残らない。さらさらと、シールドだった残骸のようなものだけが、風に吹かれ、暁の脇を過ぎて墓地へと降り積もるように落ちる。
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》同様、《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》がブレイクしたシールドも、手札ではなく墓地へと送られる。ターン終了。君のターンだ」
「…………」
 白黒両方の《ボルメテウス》はシールドを燃やす。ブレイクされたシールドは手札に入らないため、トリガーを唱えるどころか、暁の手札が増えることもない。デュエル・マスターズの逆転要素をほぼ完全に封殺し、なおかつ反撃の隙すらも作らない。また、山札の一番上のカードを投げることしかできないのだった。
「……ターン終了」
 暁はカードを引いて、少しそれを眺めると、なにもせずにターンを終えた。
 使えるカードではなかったのか、使う意義のないカードだったのか。なんにせよ、その不確定要素すらも、デウスは摘み取る。
「手札を温存しても無意味だ。呪文《サイバー・ブック》。三枚ドローし、手札一枚を山札の底へ。《パクリオ》を召喚。その手札をシールドへ」
「……捨てることすら、しないんだね……ひどいや」
 暁の手の中にあったのは、《熱血提督 ザーク・タイザー》。手札から捨てられたらバトルゾーンに出るクリーチャーで、登場と同時に山札からクリーチャーを手に入れることができるのだが、能力でバトルゾーンに出すためには、手札から“捨てられ”なければならない。
 《パクリオ》のようにシールドに送られては、場には出て来れないのだ。
 《ザーク・タイザー》は鍵をかけられ、盾の中へと封じ込められる。
「そして、《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》、《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》。シールドをWブレイクだ」
 二体の《ボルメテウス》が同時に灼熱の炎を放つ。白黒綯い交ぜとなった炎は、暁のシールドを四枚、奪い去っていく。
 めらめらと燃え盛り、崩れ落ちていく盾。一発逆転のS・トリガーも灰になる。残るシールドは一枚だが、それにしたって《パクリオ》で埋められた《ザーク・タイザー》だ。なにも期待できない。《ボルメテウス》が存在する時点で、期待するだけ無駄なのだが。
「《爆竜勝利 バトイライオウ》を召喚……!」
 手札に握っていても、なんにもならない。悪足掻きだと分かっていても、クリーチャーを召喚する暁。
 しかし、既に決着はついている。
「《魔刻の斬将オルゼキア》を召喚。《光器パーフェクト・マドンナ》を破壊。さあ、そちらにもクリーチャーを破壊してもらおう」
「《バトライオウ》……!」
 《オルゼキア》の刀が命を奪う。《パーフェクト・マドンナ》は不滅ゆえに生き残るが、一介の戦士に過ぎない《バトライオウ》は、あっけなくその黒い刃に断ち切られてしまった。
 なにもできない痛苦の数ターンは過ぎた。ここが、すべての終着点だった。
「安心していい。最初にも言ったが、ここで君たちの命を終わらせるわけではない。君たちはまだ、生かしておく。この戦いが終わったとしても、なにもしない。我々はすぐに撤収しよう」
 だが、だからこそ、今だけは無慈悲にすべてを焼き尽くす。
 蘇った伝説の龍。白と黒に染まった気高き龍が、最後の牙を剥く。
「《ボルメテウス・ホワイト・ドラゴン》で、最後のシールドをブレイク」
 白い炎が、最後のシールドを、焼き尽くす。
 黒い炎が、最後の一撃として、暁を燃やす。
 白と黒が混ざり合った炎は、荒々しく、猛々しく、神々しくも、禍々しい。
 白と黒。二つの炎が、すべてを終わらせる。

「《ボルメテウス・ブラック・ドラゴン》で、ダイレクトアタック——」

99話「悔恨」 ( No.307 )
日時: 2016/02/02 21:30
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

「——負けちゃったなぁ」
 ベッドに寝転がりながら、暁は天井に向かって溜息を吐く。
 あの後。デウスの言う通り、彼らはすぐさまその場を去っていった。
 残ったものは、暁がデウス・エクス・マキナに敗北したという結果だけ。
 なにもなかったのだ。怪我もない、なにも失わなかった。みんな、無事だったのだ。
 ただし、暁の中では、まだ蟠りが残っていた。
「《ドラゴ大王》も《バトライ武神》も、そして《コーヴァス》も……みんな頑張ってくれたのに」
 それでも、負けた。
 世界を終わらせる一撃を受けても、恋と戦った時は、《コーヴァス》の力を借りることで乗り切れた。
 今回は最初から《コーヴァス》の力を借りたが、それでも届かなかった。
「まだ、私は弱いのかな……」
 正直なところ、《コーヴァス》の力には絶対的な自信があった。どんな逆境でも、どんな強敵でも、どんな困難でも、《コーヴァス》が来てくれれば絶対に乗り越えられる。そう信じていた。
 根拠のない自信だ。今まで《コーヴァス》を呼び出して無敗だったからといって、これからも勝ち続けられる保証は、どこにもないというのに。
 自分は、コルルと、そして《コーヴァス》に、甘えていたのだろうか。
 頼りになる相棒。ここぞという時に助けてくれる仲間。最後は共に勝利を掴む切り札。
 暁にとっての《コーヴァス》は、そういう存在だ。しかしそれは、《コーヴァス》だけではなかったはず。
 《バトライオウ》、《GENJI》、《ドラゴ大王》、《Gメビウス》、《ガイゲンスイ》に《ガイムソウ》、そして《バトライ武神》。暁には多くの仲間がいる。龍として共に戦う、仲間が。
 自分は本当に彼らの力を引き出しているのか? 《コーヴァス》の強さに甘えて、カード扱いがぞんざいになっているのではないか?
 上手くカードを扱えている、ファイアー・バードとドラゴンの連携も取れている。それらはすべてただの思い上がりで、本当は、《コーヴァス》に頼り切りになっていただけではないのか?
 そう思うと、胸の内からなにかが込み上げてくる。沸々と湧き上がるように、胸を締め付けるような息苦しさ。
 枕に顔を埋めて、ぽつりと、言葉を漏らす。
「……悔しい」
 デウスに圧倒的に敗北したことが。
 そして、自分の弱さと、不甲斐なさが。
「もっと、強くならなきゃ。リュンの言うこととかよく分かんないけど、でも、このまま負けっぱなしは嫌」
 いまだにリュンの目的や、目指すもの、その明確なビジョンどころか、ぼんやりとした想像図すらも暁には描けないが、それでも、自分のしたいことは、はっきりした。

「強くなるんだ。私も、コルルたちと——!」

100話「侵略」 ( No.308 )
日時: 2016/02/03 18:34
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: 9Mczrpye)

「問題ない……かな」
 春の森、スプリング・フォレスト。
 自然文明の領土全域に広がるその森を、リュンは散策していた。散策と言っても、見回りのようなものだが。彼の日課のようなものだ。
「自然文明はやっぱり平和だな。まだ分裂しがちだけど、着々とまとまり始めてるし、血の気の多い火文明や、倫理のタガが外れてる闇文明と違って、争いを起こさない。しばらくは放置してても大丈夫そうだ」
 満足げに一人でぶつぶつ呟くリュン。ふと、顔に陰りが差す。
「だけど、奥の方はどうだろう。特に“源界”は……自然のタブーに触れかねないから近づかなかったけど、そろそろ、ちゃんと確認すべきかな。まだ見つからない豊穣の語り手のこともあるし……」
 スプリング・フォレストは広大な森で、場所によってその地域の呼び方が変わる。しかしあえて大きく分けるなら、スプリング・フォレストは周辺部と奥部の二つに分けられる。
 周辺部は主に萌芽神話が統治していた、森の大部分を占める地域。今リュンが立っており、今まで暁たちが訪れていたのも、ここ周辺部だ。
 そして奥部。主に豊穣神話が管理していた、自然文明、そしてこの星の“核”。マナの源泉が存在し、ごく限られたクリーチャーしか入ることが許されない絶対的聖域。軽々しく触れることのできない、ある種の禁忌の場所。
 十二神話が消え去ってからは完全に放置され、手入れを怠った山野のようになっていることだろう。
 放置していても機能はしているようだが、この星の根幹に関わるということは、この世界における統治、秩序に関わるということ。たとえその聖域を侵すことが禁忌であっても、その禁忌を犯す必要が出て来た。
「ある意味、あの“戦争”の発端みたいなものだし、無視できるはずもない。豊穣の語り手を見つけるか、せめてプルさんが神話継承をするまで待つつもりだったけど、そろそろーー」
 言いかけて、リュンは口をつぐんだ。
 なにか聞こえる。
 まだ遠いが、その音はだんだん大きく、そして近づいている。いや、近づいているどころか、こちらに向かってきている。
 空気が振動するような、ビリビリとした音が肌で伝わってくる。
 音の肥大化のスピードは早かった。すぐに轟くような爆音が響いて、森の木々が鳴くように揺れている。
「音だけじゃないな。誰かが近づいてくる……しかも、一人じゃない」
 複数人。音量からして、かなりの大人数だ。
 クリーチャーが大群で移動しているのかと思ったが、これは自然文明のクリーチャーが出すような音ではない。ジャイアント・インセクトやビークル・ビーの羽音に近いが、それらの音よりも荒々しく激しい。
 さらには地面の振動までもが伝わってきた。激しい地鳴りが、身体を震わせる。
「地面を走ってる……? 振動的に、地中を移動しているわけじゃなさそうだけど……」
 なんにせよ、このまま突っ立ってるのは危険だ。早くこの場から離れなければ。
 リュンは地響きで揺れる地面から離れて、近くの太い木の枝に飛び乗る。そのまま適当に木々の枝を跳んで渡る。
 その途中で、この轟音の原因の姿を見た。
 猛烈な風を切り裂き、その風を押し出すように周囲に撒き散らして、それらは森の中を爆走していた。
「あれは……?」
 木の上で、ぼそりとリュンは呟く。
 森の中を凄まじい速度で駆け抜ける大量の赤い機械。目視が非常に厳しいが、その一つ一つには誰かが乗っている。
 バイクだ。幾人ものライダーたちが、暴走族のように森を疾駆している。
「火文明のクリーチャーか? でもなんでこんなところに……」
 この先にあるものと言えば、自然文明の集落くらいだ。
「まさか……」
 リュンの中に、一つの可能性が浮かんだ。その可能性を確認したいところだが、バイク集団はあっと言う間に姿が見えなくなった。今から走って追うには遅すぎる。
「……この先にある一番近い集落は、ビーストフォークのもの。座標は確か——」



「男子ってさ、車とか好きなものなの?」
「は?」
 いつも通り、夏休みでも遊戯部の部室に集う暁たち。
 暁は唐突に、浬に
「なんだよ、藪から棒に」
「今日さ、補習があったんだけどね」
「期末試験、赤点だったのね、暁」
「そ、それはいいんだけど……」
「よくないだろ馬鹿」
「むぅ、馬鹿とはなにさ、馬鹿とは! そんなことはどーだっていーんだよ!」
 キレ気味に叫ぶ暁。そのまま、強引に話し出す。
「その補習中にさ、男子たちが、車カッケー! みたいな話で盛り上がってたから、気になって」
「もっと真面目にに補習受けろよ……そういうのは人によるだろ。俺は工業や工学には、あまり興味はないな」
「ふぅん」
「だが、速さを追求することで、限りある人生の時間、有限であるエネルギーの消費を抑えることへの邁進、あらゆる無駄を削ぎ落とし、最適解を求めていく姿勢は、評価に値するな。最高効率や最高速度を求めて、究極を目指す。その一直線な技術の進歩の仕方は好ましく思う」
「なに言ってんの?」
「……なんでもねぇよ」
 自分から振ってきた癖に、少し熱を込めて返しただけでこの冷たい反応。なにか言い返そうかとも思ったが、あまり意味があるように思えなかったので、抑えた。理不尽さに苛立ちを覚えるも、引き下がる。
「カイは無駄なことが嫌いだものね。無駄に小難しい言い回しをするくせに」
「うるさい」
「車云々にしたって、もっとフォルムとかを褒めれば可愛げが出るのに」
「そんなものを出すつもりはない。そもそも、そのフォルムだって機能美に組み込まれているものだ。結局は、速さと燃費を重視していることに代わりはない」
「車なんて、乗れたらなんでもいいのにね」
「それは流石に暴論すぎるだろ。そんなこと言ったら、女が買い求める服やら鞄やらだって、着れたらいい入れられたらいいになるだろう」
「む……確かに」
「一理あるわね。ブランドものだと質の良さっていうのもあるけれど、機能美でブランドものの服やら鞄やらを買う人って、少数派だし」
 いわゆるネームバリューというやつだ。名前そのものに価値があり、その名前によってステータスが決まる。
「ブランドものと言えば、柚ちゃんなんかは、さらりとブランドものの高い服着てたりするわよね」
「はぅっ……あ、あれは、おとうさんが買ってくれたもので……」
「……家柄か」
「わたしにはよくわかりませんけど、おにいさんは、「うちは大々的に看板をかけられないから、身なりで飾って羽振りの良さを他の組に宣伝してるんだ」って言ってました」
「……知りたくない裏事情だったな」
 こういう話がちょいちょう上がるだけで、柚が自分たちとは違う世界と繋がっていることを、しみじみ感じる。
 そんな風に、雑談しているいつもの遊戯部。そしてそこに、一人の来訪者が来ることも、もはや日常の一部と化していた。
「——お待たせ」
「あらリュン。来たわね」
「今日は遅かったねー、なにしてたの?」
「うん、まあ、ちょっと、調べ物というか、捜査というか、調査というか……」
 いまいち歯切れの悪いリュン。流石に気になる。
 なので、問い詰めようとしてみるが、それよりも先に、彼が口を開く。
「もしかしたら僕は、ヤバい集団を見つけてしまったかもしれないんだ」
「ヤバい集団……? どういうことだ?」
「バイクに乗って他者を襲う、乱暴な集団の存在が、確認されたかもしれない」
「はぅ、こわいです……」
「柚ちゃんちの黒服さんの方が私は怖いけどね。で、かもしれないって言ってたけど、それはどういう意味?」
「まだはっきりしていないってことさ。これはあくまで僕の推測だから、もしかしたら健全な集団かもしれないけど、なにか胸騒ぎがするんだ。よくないことが起っているような感じ……」
 表情に陰りを見せるリュン。不安感がこちらにも伝わって来るかのようだ。
 よく分からないが、リュンが言うには、危険かもしれない集団が超獣世界にはいるということ。今までも、問題となるクリーチャーの制圧はしてきた。やることは今までと変わりはない。
 そのはずなのだが、それでもリュンが不安そうにしているということは、やはりその集団は、ただの集団ではないのだろうか。実際に見てもいない暁たちには分かりかねる。
「とりあえず、今日は本格的な偵察をしたい。あんな集団、見たことがない。下手に放置するのは、危険な気がするんだ」
「オッケー。なんかよく分かんないけど、とりあえず今日もクリーチャー世界に行くんだね」
「お前は能天気だな……」
 そうして、一同はリュンに導かれるまま、超獣世界へと飛び立っていく。
 そこで、侵略に駆られた欲望を、目の当たりにするのだった——


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