二次創作小説(紙ほか)
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- デュエル・マスターズ Another Mythology
- 日時: 2016/11/05 01:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)
初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。
珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——
目次
プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63
16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213
59話〜119話『継承する語り手編』
>>369
『侵革新話編』
120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415
■
Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213
Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355
■
番外編
東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528
■
東鷲宮中学校放送部
第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299
■
登場人物目録
>>57
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線4」 ( No.425 )
- 日時: 2016/08/16 15:37
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
先んじて《スペルビー》を出し、男子側のターンは終了。女子のターンへと渡る。
「先を越されちゃったわね」
「もたもたしてるからだ」
「しょうがないじゃないの。でも、やっとこっちも動けるわ。《ツミトバツ》をチャージして、4マナ。《白骨の守護者ホネンビー》召喚よ」
流石に相手も動き出してきた。《スペルビー》のクリーチャー版——登場時期的には、《スペルビー》が呪文版の《ホネンビー》だが——とも言える《ホネンビー》。
「山札の上から三枚を落として、その中の《ホネンビー》を回収するわ」
落とされたのは《煉獄と魔弾の印》《爆砕面 ジョニーウォーカー》《白骨の守護者ホネンビー》だった。
「あたしのカードも固まってるな……」
「わたしのカード、全然出て来ません……」
「これでターン終了よ」
「よし、こっちのターン。《フェアリー・ライフ》をチャージして、3マナで《フェアリーの火の子祭》だ。山札の上から二枚を見て……《ハチ公》をマナに置くよ。残りは山札の下に置いて、《火の子祭》を回収。ターン終了だ」
捲れた二枚は《若頭の忠剣ハチ公》と《斬込の哲》だった。火の割合が半分以下なので、回収はあまり期待していなかったが、運が良かった。
「バリバリ動いてるわね、相手」
「先に大型を出されたらまずいね」
「でも、こっちの手札もよくないです……」
「そうね。だから、今できることをするしかないわ。とりあえず、《ジョニーウォーカー》をチャージ。4マナで《ホネンビー》を召喚よ」
山札の上から三枚が墓地に落ちる。落ちたのは、《邪眼皇ロマノフⅠ世》《死神城 XENOM》《仁義類鬼流目 ブラキオヤイバ》。
「……《ジョニーウォーカー》を回収するわ。ターン終了」
墓地を整えつつ、場を固めていく沙弓たち。
相手のデッキは、闇単色の沙弓に、墓地利用をメイン戦術に据えているミシェル、水をタッチした隼闇単色の美琴と、墓地を絡めた戦術が取りやすい。そのうえ、各々のカードも闇に寄っているので、色事故も起きにくいと思われる。
あまり墓地を増やされると、まずいかもしれない。
しかし、先んじているのはこちらだ。そのアドバンテージを有効活用するしかない。
「《ヤッタレ・ピッピー》をマナチャージ。6マナで《龍覇 メタルアベンジャー》を召喚!」
「……厄介なのが出て来たぞ」
「《龍波動空母 エビデゴラス》をバトルゾーンに出すね。ターン終了だよ」
これで毎ターン、手札が二枚増える。マナも溜まってきたので、取れる戦術の幅も広がるはずだ。
「……《ラグマトックス》をチャージ。2マナで《ジョニーウォーカー》を召喚。即座に破壊するわ。能力でマナ加速を選択」
マナに置かれたのは、《陰謀と計略の手》。タップイン。
「さらに5マナで《墓標の悪魔龍 グレイブモット》を召喚。山札の上から二枚を墓地に置いて、ターン終了」
墓地に行ったのは《ボーンおどり・チャージャー》と《魔刻の斬将オルゼキア》だった。
ここまでで沙弓たちの行動は、ブロッカーの召喚と、それに伴う墓地肥やしや回収、そして先ほどのマナ加速程度。大きな動きは見せていない。
「女子の皆さん、動きが鈍いっすね」
「墓地を肥やしてるのが怖いですけど、先に倒せれば問題はない……ですかねー」
「そうだね。長引くとこっちが不利そうだし、一気に攻めるよ! 《アクア・ジェット》をチャージ。2マナで《ヤッタレ・ピッピー》を召喚。さらに6マナで《龍覇 グレンモルト》も召喚だ!」
ここで召喚するのは、手札に温存しておいた《グレンモルト》。
それを見た瞬間、相手に動揺が走る。
「あ、まずいやつねこれ。負けたかも」
「ぶちょーさん!?」
「いやしかし、これは……」
「トリガーないと敗北の道を歩むだけだな」
場には《グレンモルト》と《メタルアベンジャー》、アタッカーが二体。
ということは、
「《グレンモルト》に《銀河大剣 ガイハート》を装備!」
当然、《ガイハート》が超次元ゾーンからやって来る。
沙弓たちの場に、《グレンモルト》を超えるパワーのブロッカーはいない。つまり、《ガイハート》を残した状態で、二回の攻撃を許してしまう場となっている。
「行くよ、《グレンモルト》でシールドをブレイクだ!」
「トリガーで返せないとまずいわね……とりえず受けるわ。シールドチェック、っと」
場で防げないなら、トリガーに賭けるしかない。しかし、《メタルアベンジャー》は呪文では選ばれないため、《デス・ゲート》や《エウル=ブッカ》では凌げない。
それ以外にもトリガーはあるので、なにかしらのトリガーが出て来ることを信じて、沙弓はブレイクされたシールドを捲る。
「お、S・トリガー……だけど、よりにもよってこれかぁ……」
「なんだ? 《ライフ》でも引いたか?」
「まあ、似たようなものよ」
捲られたカードを見て、あまり芳しくない表情を見せる沙弓。トリガーは引いたが、盤面をひっくり返す類のものではないということだろう。
「でもこの場面なら《ライフ》よりマシでしょうし、一応使うわ……《死神スクリーム》」
「……《死神スクリーム》?」
あまり見ないカードに、疑問符を浮かべる。
効果自体はそれほど複雑ではないので、沙弓は口で説明しながら、その呪文の効果内容を処理していく。
「《死神スクリーム》の効果。山札の上から六枚を墓地に置いて、墓地から闇のクリーチャーと進化クリーチャーを一体ずつ回収するわ」
「……それで返せるの?」
「さぁ? でも返せないとほぼ負けよ。やるしかないじゃない」
あっけらかんとした態度で返す沙弓。
出て来たのは確かにトリガーだが、除去ではなく墓地肥やしと回収。やや重い呪文なので、トリガーで出た時のお得感はなかなかだが、この場面では《フェアリー・ライフ》をトリガーしたのとあまり変わらない。
とはいえ、これで残りの攻撃を防げる可能性も、ないわけではないのだが。
沙弓は山札の上から六枚を墓地に落とす。墓地に落ちるのは、《死神ギガアニマ》《永遠の悪魔龍 デッド・リュウセイ》《古龍遺跡エウル=ブッカ》《ダーク・ライフ》《霞み妖精ジャスミン》《威牙の幻ハンゾウ》。
その中から沙弓は、すかさず一枚のカードをすくい取った。
「ラッキー、《ハンゾウ》を回収するわ。進化クリーチャーはいないから、そっちは回収できずね」
「よりもよって、そいつか……!」
浬は憎々しげに沙弓たちのマナを見る。マナゾーンにはカードが七枚。ニンジャ・ストライクの条件は満たしている。
「《ハンゾウ》を握られてしまったら、このまま殴っても《メタルアベンジャ−》と《グレンモルト》を失うだけですねー」
「そうだね。攻撃はせずにターン終了だ」
「な、なんとか耐えられましたね……」
「間一髪だったわね。《ハンゾウ》を入れておいてよかった……」
「《死神スクリーム》と合わせて、黒月さんには感謝ね。そして、こっちも攻め返すわよ。《デスゲート》をチャージして、7マナで《邪眼教皇ロマノフⅡ世》を召喚よ。《ロマノフⅡ世》の能力で、山札の上から五枚を墓地へ!」
「《ロマノフⅡ世》……普段のミシェルのデッキなら、高確率でアレが落ちるけど……」
160枚のあのデッキでは、最高でも四枚しかないだろうあのカードが落ちる確率は、それほど高くないはず。
しかしそれは、あくまで確率。
確率は、0でなければ起こり得るのだ。
墓地に送られたのは、《インフェルノ・サイン》《霞み妖精ジャスミン》《煉獄と魔弾の印》《死神戦鬼ベル・ヘル・デ・バラン》《龍鳥の面 ピーア》。
落ちたカードを見て、沙弓はニヤリと笑う。
「またまたラッキー、唱えるのは《煉獄と魔弾の印》!」
「来たか……!」
最も捲れて欲しくないカードが、捲れてしまった。
《ロマノフⅡ世》から唱えられたのは、《煉獄と魔弾の印》。
墓地からクリーチャーを蘇生させる呪文で、その制約や付加される能力など、考慮すべき要素は多々あるが、とりあえず。
この状況は出されるクリーチャーは、一体しかいないだろう。
「さぁ、墓地から蘇りなさい——《邪眼皇ロマノフⅠ世》、復活!」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線5」 ( No.426 )
- 日時: 2016/08/16 21:47
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
墓地から蘇ったのは、《邪眼皇ロマノフⅠ世》。
《ロマノフⅡ世》から《煉獄と魔弾の印》を唱え、そこから《ロマノフⅠ世》が蘇る。そして、既に墓地には《ロマノフⅠ世》と《煉獄と魔弾の印》が揃っている。綺麗すぎる流れだ。
「まずは《ロマノフⅠ世》の能力で、山札を見るわ……落とすのは《ロマノフⅠ世》!」
これで墓地の《ロマノフⅠ世》が二体、《煉獄と魔弾の印》も二枚。《ロマノフⅡ世》で唱えた呪文は墓地に置かれたままになるため、次弾装填済み。
今度は沙弓たちの反撃だ。
「攻撃開始! 《煉獄と魔弾の印》でスピードアタッカーを得た《ロマノフⅠ世》で、《グレンモルト》を攻撃よ! その時、墓地からコスト6以下の闇の呪文——《煉獄と魔弾の印》を唱えるわ。二体目の《ロマノフⅠ世》を、スピードアタッカー付きで復活! 唱えた《煉獄と魔弾の印》は山札の下に戻して、《ロマノフⅠ世》の登場時能力! 山札から、四体目の《ロマノフⅠ世》を墓地へ落とす!」
この一連の流れで、墓地の《ロマノフⅠ世》は二体、《煉獄と魔弾の印》は一枚だ。
トリガーの可能性も考慮して、残しておいたら確実に危険な《グレンモルト》の処理にかかる沙弓たち。
《スペルビー》でブロックすることも考えたが、ブロックしても、結局は破壊されてさらに展開されるだけ。素直に倒されることにした。
「バトルよ。《ロマノフⅠ世》のパワーは8000!」
「《グレンモルト》のバトル中のパワーは7000……こっちの負けだね」
「続けて二体目の《ロマノフ》で攻撃! 墓地の《煉獄と魔弾の印》を唱えて、三体目の《ロマノフ》を復活よ。山札から《煉獄と魔弾の印》を落とすわ」
これで墓地には、《ロマノフⅠ世》と《煉獄と魔弾の印》が一枚ずつ。最後の弾が込められた。
そして、続けざまにシールドへの攻撃を放つ。
「シールドをWブレイク!」
「……S・トリガー! 《ドンドン吸い込むナウ》! 山札を五枚見て、その中から《ボルシャック・ホール》を手札に加えて、三体目の《ロマノフⅠ世》を手札に!」
「早速トリガーか。これでロマノフサインが止まったな」
とりあえずこれで、ロマノフサインの連鎖は止めることができた。
とはいえまだ《クロスファイア》も残っているので、物量に任せて押し込まれたらまずいが、
「もう一枚S・トリガー! 《イフリート・ハンド》! コスト9以下の《クロスファイア》を破壊だ!」
「あぅ、こっちもやられちゃましたね……」
「もう攻撃できるクリーチャーはいないわね。ターン終了よ」
なんとかロマノフサインの猛攻を食い止め、一騎たちのターン。
場はまだボロボロというほどではない。《ロマノフⅠ世》が二体、《ロマノフⅡ世》が一体、その他ブロッカーが並んでいるが、まだ持ち直せる盤面だ。
「俺たちのターン。《エビデゴラス》の効果でドロー、そして通常ドローするよ」
カードを余分に引き、手札を眺める。
盤面はまだ立て直せるとはいえ、相手の場に大型クリーチャーが三体並んでしまっているのは確かだ。うち二体は後続を射出したり、除去を撃ちかねない《ロマノフⅠ世》。最低限この二体は、なんとかしなければならないだろう。
「一騎さん、このカードは……」
「これ? このデッキだと、なにが出る?」
「俺なら《サイクリカ》か《アマテ・ラジアル》あたりでしょうか。《デカルトQ》の可能性もありますが」
「……俺のデッキ、《グレンモルト「覇」》積んでるんだけど、大丈夫?」
「自分のデッキにも《クシャルダオラ》が……あと、《ベア子姫》もいるっす」
「……分の悪い賭けになりますねー」
「しかし、他に方法が……」
「部長、どうするっすか?」
「うーん……」
手札を握っているのは一騎だ。最終的には彼に決めてもらう。
一騎はしばし考え込み、そして、
「まあ、この盤面だ。多少の運には味方してもらわないとね。ちょっと賭けになるのは仕方ない。《火の子祭》をチャージして、3マナで《ヒラメキ・プログラム》を唱えるよ。《メタルアベンジャー》を破壊して、コスト7のクリーチャーが出るまで山札を捲る」
一騎は浬の賭けに乗ることにして、《ヒラメキ・プログラム》を撃つ。
いつもなら使いたいカードを絞って使えるのだが、今は他人のデッキと同居している状態。踏み倒したいクリーチャーが都合よく出てくるとは限らない。
しかしそれでも、活路を見出すにはこのカードしかない。この場を乗り切れるカードが来ることを信じて、山札を捲っていく。
《ミラー怪人 ドテラバラ》《魔光ヴィルジニア卿》《若頭の忠剣ハチ公》《モエル 鬼スナイパー》《爆熱血 ロイヤル・アイラ》《斬英雄 マッカラン・ボナパルト》《超次元エナジー・ホール》——
「——来た」
そして遂に、指定されたカードが捲れる。
それを見て一騎は、なんとも表現しがたい、喜ばしいのかどうかすら微妙な表情を見せた。
「比較的当たりだけど、こっちか。まあ、仕方ないね。《龍素記号Og アマテ・ラジアル》をバトルゾーンに。山札を見て、その中からコスト4以下の呪文《スパイラル・ハリケーン》を唱えるよ。《ロマノフⅠ世》を手札に戻す」
捲られたのは《アマテ・ラジアル》。《グレンモルト「覇」》や《ベア子姫》よりはマシだが、ここは《スペルサイクリカ》が欲しかった場面。
しかしそんなことを言っても仕方ない。クリーチャーが除去できただけで儲けものと思考を切り替えて、次のカードを使う。
「次に《超次元ミカド・ホール》を唱えるよ。一応、《グレイブモット》のパワーを下げて、《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》をバトルゾーンに。タップ状態の《ロマノフⅠ世》を破壊だ」
「《グレイブモット》の能力で、相手のサイキック・クリーチャーのパワーは5000下がり続けるから、その《ガンヴィート》は破壊よ」
「ターン終了だ」
ひとまず、アタックトリガーで場を荒らしてくる《ロマノフⅠ世》は除去できた。
しかしマナは溜っているので、次のターンに素出しされるだけだろう。時間稼ぎでしかない。
「1ターンで随分と巻き返されたな」
「そうねぇ。でも、結構押してるし、なんとかなるんじゃない? 《ロマノフⅠ世》をチャージして、《ロマノフⅠ世》を召喚。ここは……ささやかながら、山札を圧縮しましょうか。《死神明王バロム・モナーク》を墓地へ」
墓地は十分。呪文もクリーチャーも揃えられているので、沙弓は山札で比較的重要度が低いと思われるカードを墓地に落とす。この場合の重要度は、ハンドゼロでトップから引いて来た時に使えるかどうか。場の状況を選ばず使えるかどうかを基準にしている。その点では、進化クリーチャーの《バロム・モナーク》は腐る恐れがそれなりにあるので、墓地に落としておく。
「……今、私のカードが邪魔扱いされた気がするんだけど」
「そういうつもりじゃないんだけど……」
美琴からの視線が痛い。
正直、そういうつもりを感じさせる意図はあったのだが。
「えぇっと、じゃあ、終了で」
「俺たちのターンだね。《エビデゴラス》の効果を合わせて二枚引くよ……うーん、これ、かな?」
「そこが最善だと思いますけど」
「ですねー」
少し悩んで、一騎は手札のカードを引き抜く。
「じゃあ、まずは《ハチ公》をチャージ。2マナで呪文《連唱 ハルカス・ドロー》。カードを一枚引くよ。次に《超次元ボルシャック・ホール》を唱えるね。《ホネンビー》を破壊して、《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに。《プリンプリン》の登場時能力で、《ロマノフⅠ世》を拘束するよ」
「《グレイブモット》の能力、《プリンプリン》のパワーも落として破壊するわ」
「いつもは空気な《グレイブモット》が地味に機能してるな……」
「私もビックリよ」
出したそばから破壊される一騎たちのサイキック・クリーチャー。沙弓としても、比較的軽量なデーモン・コマンド・ドラゴンで、墓地肥やしができて、ブロッカーであるという理由で《グレイブモット》採用している。サイキックメタなど度外視しての運用なので、この活躍は意外だった。
「しかし、膠着してるわね。こっちのターン……おっと? 面白いカードが引けたわ」
「なに?」
面白いカード、というのが、どういう意味を指すのか。この膠着した場を抜け出せるという意味か。なんにせよ、場が動きそうな予感がする。
「《ザマル》をチャージ。まずは4マナで《パイレーツ・チャージャー》! 山札の上から二枚を見て……《死神盗掘男》を墓地へ置いて、もう一枚は手札へ。チャージャーはマナに置かれるわ」
多色チャージャーで墓地、手札、マナの三つを同時に増やす。
しかし、これはただのおまけでしかない。
本命は、次に現れる。
「6マナタップ! 可愛い後輩の可愛い切り札よ、《龍覇 サソリス》を召喚!」
現れたのは、《サソリス》。柚のカードだ。
このタイミングで現れたドラグナーに、男子陣に戦慄が走る。
「ここで《サソリス》か……!」
「自然のドラグハートですねー。えっと、ここで出るとしたら……」
《サソリス》は登場時、コスト4以下のドラグハートを呼ぶことができる。
沙弓が手にしたドラグハートは、武器だった。
「《サソリス》に、《始原塊 ジュダイナ》を——装備」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線6」 ( No.427 )
- 日時: 2016/08/17 20:36
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
思った以上に場は動かなかったが、しかし、とんでもない爆弾が設置されてしまった。
《サソリス》——否、《ジュダイナ》だ。
あのウエポンがある限り、沙弓たちは1ターンに一度、マナから好きなドラゴンが呼べる。
今、相手の場には数体のドラゴン。マナは10枚以上。そして、マナゾーンには《ドルバロムD》。
この三つの事実が、一騎たちを敗北の道へと叩き落す材料になる。
「《ジュダイナ》はまずい……マナから《ドルバロムD》が出て来ますよ!」
場もマナも一掃する化け物が出て来てしまえば、一瞬でゲームセットだ。相手も被害を受けるとはいえ、デッキ内の闇のカードの比率が50%以上の女子陣と、25パーセント以下の男子陣。被害の差は歴然としている。
先ほどまでは《ロマノフ》の処理に追われていたが、今度は《ジュダイナ》をどうにかしなくてはならない。
しかし、
「分かってる。でも手札に対処法はないし、このドローに賭けるしか……なにか、引け!」
ここまでの《ロマノフ》の対処で、除去札等はかなり使ってしまっている。ゆえに、このドローに賭けるしかない。
幸いにして、《エビデゴラス》のお陰で手札のアドバンテージはそれなりに約束されている。除去カードが引ける確率も、それなりだろう。
「よし、引いたよ! 《焦土と開拓の天変》をチャージ。6マナで《地獄門デス・ゲート》!」
「あちゃー、引かれちゃったか……」
「まあ、仕方ないわね。長引けば長引くほど、《エビデゴラス》のアドバンテージが効いてくる」
「本当だよ。浬君のお陰だ」
「いえ、そんな……別に……」
「カイ、照れてるの? うわぁ、珍しい……」
「……うるせぇよ」
「……なんでもいいが、その《デスゲ》はなにを破壊するんだ?」
「あぁ、ごめんよ。対象は《ロマノフⅠ世》だよ。破壊して、それよりコストの小さい《龍覇 グレンモルト》をバトルゾーンに出すね」
《デス・ゲート》の対象は《ロマノフⅠ世》。《ジュダイナ》の方が脅威だが、こちらのアタックトリガーも無視できない。
《ロマノフ》を破壊した後は、墓地から《グレンモルト》が帰ってくる。当然、ドラグハートを携えて。
「《ガイハート》もいいけど、相手はまだ《ハンゾウ》を握ってるし、ここは《将龍剣 ガイアール》を装備だ。《サソリス》とバトルだよ!」
《ガイギンガ》の龍解狙いで、攻めつつ除去という考えも一瞬よぎったが、同時に沙弓がまだ《ハンゾウ》を手札に抱えていることを思い出し、強制バトルで安全に場を処理する方へと手を打つ。
「《サソリス》は破壊されても、墓地の代わりにマナへ行くわ」
「あぅ、《サソリス》さんが……」
「3マナ残ってるから、一応、リサイクルで墓地の《ハルカス・ドロー》を唱えておくよ。ターン終了」
なんとか厄介な《ロマノフ》を墓地に落としつつ、《ジュダイナ》も処理できた。一騎たちに、ひとまずの安息が訪れた——かに思われたが。
「こっちのターン。ドローよ」
沙弓がカードを引く。そして、引いたカードを見て、目を細めた。
「……ここは、決めに行く場面よね?」
「この盤面だと、《グレンモルト》で奇襲されかねないしな……トリガーが怖いところではあるが」
「でもこのまま長引かせると、ハンドアドにおいてはあちらが有利よ。やっぱり、《エビデゴラス》が厄介だわ」
「そうよねぇ。まったく、カイは面倒なものを置いて行ったわね。あ、置いたのは剣埼さんか」
「そんなことはどうでもいいが、あたしは攻めに賛成だ」
「わ、わたしも……さっきからこちらの出すクリーチャーは全部やられちゃってますし、攻撃できるときにしたほうが、いいんじゃないかと思います……」
どうも女子陣は、なにかのキーカードを引いたのか、押し引きについて相談している。
元々はロマノフサインで攻めに入ったところで、《ロマノフⅠ世》のアタックトリガー警戒からずっと防戦に回っていたので、まだ一騎たちが防御に徹しているうちに攻めた方がいいのではないか、ということなのだろう。
「ふむ……黒月さんは?」
「私も攻撃でいいわ。さっきの汚名も晴らせるしね」
「あ、気にしてたんだ……ごめん」
「今はいいわ。せっかく二枚目を引いたんだから、しっかり頑張ってもらわないと」
「了解よ。じゃあ、行ってもらおうかしらね!」
満場一致。沙弓たちは、攻める。
「マナチャージなし。7マナで《グレイブモット》を進化!」
マナを溜めずにそのまま、手札のカーをお《グレイブモット》の上に重ねる。
守りを捨てて、攻めてくる。
「さぁ、一騎当千の死神が斬り込むわよ! 《死神明王バロム・モナーク》!」
《グレイブモット》から進化したのは、《バロム・モナーク》。
進化元は死神ではなく、“デーモン・コマンド”・ドラゴンの《グレイブモット》が選ばれた。バトルに勝つことをトリガーとして、墓地の死神、もしくはデーモン・コマンドを復活させる、その名の通り死神の明王。
一騎たちの表情が、吃驚と戦慄に染まる。
「ここで《バロム・モナーク》……!?」
「まずいですねー……三打点の脅威に加え、ブロックしても墓地から増援が戻って来るだけですし……」
「ブロック? そんな選択肢はないわよ。続けて4マナ、呪文《陰謀と計略の手》……《スペルビー》をバウンスして、一枚ハンデス」
「うぐ……!」
唯一のブロッカーが消し飛ばされた。沙弓の言う通り、これで選択肢はなくなった。
防御の選択が消えたということは、残っているのは、無抵抗のまま、ただ攻撃を喰らうのみ。
「守りは消えたわ。一気に突っ込むわよ! 《バロム・モナーク》で攻撃、Tブレイク!」
「これはまずい……トリガーを引かないと……」
一撃で三枚のシールドが叩き割られる。一枚、二枚と、シールドを捲っていくが、トリガーの姿はない。
「……トリガーなしだ」
「ならとどめね。一番風呂はいただきよ。《ロマノフⅡ世》でダイレクトアタック!」
「させない! トリガーは引けなかったけど、こっちがあるよ! ニンジャ・ストライク7! 《斬隠オロチ》!」
残り三枚のシールドから、トリガーの代わりに手に入れた防御札、ニンジャ・ストライク。
出てくるカード次第では、攻撃を止められずにとどめを刺されたり、よしんば防げても、大きく不利になったりする可能性のある博打的な要素を含むカードだが、今はこれに縋るしかない。
「《オロチ》の能力で《ロマノフⅡ世》を山札の下に戻すよ。そして、非進化クリーチャーが出るまで山札を捲ってもらう」
「止められたけど……チャンスでもあるわね」
「そうね。さーて、なにが出るかしら?」
沙弓は楽しそうにカードを捲っていく。《フェアリー・ライフ》《インフェルノ・サイン》《地獄門デス・ゲート》《ボーンおどり・チャージャー》——
「——《死神の邪蹄ベル・ヘル・デ・ガウル》! バトルゾーンに!」
「……面倒くさいのが出てきたな」
「こちらのクリーチャーが破壊されるたびに、デーモン・コマンドが出るか、手札補充がされますねー。まあ、黒月さんのデッキはそれほどデーモン・コマンドが詰め込まれているわけではないので、大丈夫そうですが」
「部長のデッキも呪文を多く絡めているから、比率的にはそこまでだな。しかし……」
シールドがゼロのこの状況で、手札を増やされるとまずい。
ブロッカーもいないので、《クロスファイア》や《5000GT》でも引かれようものなら、一瞬で勝負を決められてしまう。
「とにかく、早めに処理しないとね。《エビデゴラス》で2ドロー、《ギャラクシー・ファルコン》をチャージ」
先ほどのシールドブレイクもあり、手札は豊潤だ。マナも溜まってきているので、大抵のことはできる。
「……《超次元ミカド・ホール》! 《ベル・ヘル・デ・ガウル》のパワーを2000下げて、《ブラック・ガンヴィート》をバトルゾーンに! その能力で、まずは《バロム・モナーク》を破壊!」
「あらら、すぐにやられちゃったわね。でもまあ、打点で相手を追いつめられたし、活躍はしたわよね?」
「次は《超次元ボルシャック・ホール》! 破壊できるクリーチャーはいないけど、《勝利のガイアール・カイザー》をバトルゾーンに出すよ!」
ここで呼び出されるのは《勝利のガイアール・カイザー》。《ミカド・ホール》でパワーの下がった《ベル・ヘル・デ・ガウル》を狙い撃ちするつもりなのだ。
まだ沙弓が、《ハンゾウ》を握っているにもかかわらず。
「《勝利のガイアール・カイザー》で《ベル・ヘル・デ・ガウル》を攻撃——」
「させないわ、ニンジャ——」
「待て、そいつはまだ使うな」
「シェリー……?」
「あいつの場を見ろ」
「剣埼先輩のドラグハート……龍解するわ」
ミシェルと美琴に制止され、沙弓はハッと気づく。
一騎が《勝利のガイアール・カイザー》を出した理由に。
「——する時に、名前に《ガイアール》と名のつくクリーチャーの攻撃だから、《将龍剣 ガイアール》の龍解条件成立だよ!」
一騎がここで《勝利のガイアール・カイザー》を呼び出した理由は二つ。
一つは、《ベル・ヘル・デ・ガウル》を討ち取るため。
そしてもう一つは、《ガイアール》の龍解条件を満たすためだ。
「龍解! 《猛烈将龍 ガイバーン》!」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線7」 ( No.428 )
- 日時: 2016/08/18 00:09
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
《勝利のガイアール・カイザー》の攻撃をトリガーに、《将龍剣 ガイアール》は龍解し、《猛烈将龍 ガイバーン》となる。
《ガイバーン》は攻撃時に、自身のパワー以下の相手クリーチャーを破壊する。《勝利のガイアール・カイザー》の攻撃を《ハンゾウ》で防いでも、《ガイバーン》の攻撃で、どの道《ベル・ヘル・デ・ガウル》は破壊されてしまう。そのため、ここで《ハンゾウ》を使っても、機能は薄いのだ。
「《ガイアール》の龍解ね、忘れてたわ……でも、あそこで生姜をすりおろしておけば、《ガウル》の能力を一回使えたわよ? シールドブレイクで手札も増えたし」
「《ガウル》の不確定さを考えると、《ハンゾウ》はまだ握っておきたい。こっちもギリギリだからな」
「いざとなればブロッカー除去にもなるしね。とりあえず抱えておいていいと思うわ」
「うーん、私は使った方がいいと思うけど……まあ、二人が言うなら。これ、美琴のカードだしね」
「やっぱりそうなの……って、なんで名前?」
「えっと、いいかな? 《勝利のガイアール・カイザー》と《ベル・ヘル・デ・ガウル》でバトルだよ」
「あぁ、うん。こっちの負けね」
破壊される《ベル・ヘル・デ・ガウル》。とりあえず、最低限の目的は達した。
龍解によって戦線も拡大し、一騎たちは決して小さくないフィールドアドバンテージを稼ぐことができたと言えるだろう。
「うぅん、これはまずいわね……とりあえずドローで」
一騎たちの場には《アマテ・ラジアル》《グレンモルト》《ブラック・ガンヴィート》《勝利のガイアール・カイザー》《ガイバーン》と、かなりクリーチャーが並んできた。
そろそろ防戦も終わり、一転攻勢して反撃に出てくる可能性がある。
その反撃が怖いところではあるが、
「おっと、またね。いい引き」
「ぶちょーさん……」
「なに、大丈夫よ。今度は上手く使うから、私に任せなさいな。マナチャージなし。6マナで《龍覇 サソリス》を召喚よ」
「っ、また《サソリス》か……!」
「《サソリス》に《ジュダイナ》を装備。そして、《ジュダイナ》の効果発動! 1ターンに1度だけ、マナからドラゴンを召喚するわ」
再び現れた《サソリス》。そして、先ほども恐れていた《ジュダイナ》の効果。それを、沙弓はこのタイミングで解き放つ。
「さぁ、殺戮の時間よ! マナゾーンから《凶英雄 ツミトバツ》を召喚!」
残りのマナをすべて使い切り、マナゾーンから呼び出されるのは、《凶英雄 ツミトバツ》。
マナ武装で全体除去を放つ凶悪な英雄のクリーチャーだが、そのマナ武装の条件は7と厳しい。
しかし、今の沙弓たちのマナには、黒いカードが七枚以上見えていた。
「マナ武装7達成! 相手クリーチャーすべてのパワーをマイナス7000よ!」
「これはきつい……場が半壊したね……!」
残ったのは《ガイバーン》のみ。他のクリーチャーはすべて、パワーが0以下になって死んでしまった。
これで沙弓たちはターンを終える。
展開した場をボロボロにされ、《サソリス》と《ツミトバツ》という新たなアタッカー。さらに、再び襲い掛かる《ジュダイナ》の恐怖。場に《ツミトバツ》という進化元がいるので、《ドルバロムD》を召喚する準備は整っている。
「《アパッチ・ヒャッホー》をチャージ……7マナタップ」
一騎は静かにマナゾーンのカードを七枚倒す。
そこにある、赤く染まったカードの枚数を数えながら。
「《次元龍覇 グレンモルト「覇」》を召喚!」
「!」
「ここで《グレンモルト「覇」》かよ……!」
「マナ武装も……達成、されちゃってますね……」
「さらに呪文だよ。《英雄奥義 バーニング・銀河》で、コスト5以下の《ジュダイナ》を破壊。マナ武装7を達成してるから、《ツミトバツ》も破壊だ!」
《バーニング・銀河》で場のクリーチャーも破壊され、沙弓たちにはいよいよもって厳しい状況に。
「《グレンモルト「覇」》で攻撃! その時、マナ武装7発動! 超次元ゾーンからコスト6以下のカードを呼び出す!」
沙弓たちは、そもそも闇のカードの割合が多かったので、あまり意識せずとも《ツミトバツ》のマナ武装が達成できるだけのマナを溜めることができた。
しかし一騎たちはそうはいかない。が、それでも一騎は、ある程度意識して、マナゾーンに火のカードを溜めていた。
《ロイヤル・アイラ》《マッカラン・ボナパルト》《龍王武陣》《バーニング・銀河》そして《グレンモルト「覇」》。
一騎の擁する、マナ武装によって大幅に強化されるカードが、いつ手元に来てもいいように、準備していたのだ。
さらに《グレンモルト「覇」》のマナ武装は、超次元ゾーンからコスト6以下の“カード”を呼び出す。
つまり、サイキックも呼べるのだ。
「いつもならドラグハートしか呼ばないけど、今は皆のサイキックがある! 防御も考えて、打点を集めるよ! 呼ぶのはコスト6《舞姫の覚醒者ユリア・マティーナ》だ!」
「恐れていた《グレンモルト「覇」》が来ちゃったわね……」
「しかも、面倒くさいブロッカーを引き連れて、な」
超次元ゾーンがいつも以上に拡張されているため、出せるカードの幅も大きく広がっている。膨大な超次元ゾーンを扱いこなせるのは、恐らくこのクリーチャーぐらいなものだろう。通常なら枠に収まらないだろう《ユリア・マティーナ》が、バトルゾーンに現れた。
「そのままWブレイク!」
「トリガーは……ないわね」
「続けて《ガイバーン》で攻撃! 《ガイバーン》よりパワーの低い《サソリス》を破壊するよ!」
「こっちもトリガーなし……」
「ターン終了だよ」
シールドをすべて砕いて、ターンを終える一騎。
そこに、ふと浬が口を出す。
「……さっきの、《ガイハート》出した方が良くなかったですか?」
「うん、俺も後から思った。トリガーを怖がりすぎちゃった。完全に俺のミスだ」
「部長でもミスってするんすね」
「俺もまだまだ未熟者だからね」
流れるように有利な展開に持って行ったが、しかし完全に一騎のプレイングミスだった。
あそこは、有利が取れる場面ではない。勝てる場面だ。
そのチャンスを、一騎は自ら潰してしまった。
「なんかお相手のミスで生き残った感あるけど、気にせず続けましょうか」
どちらもノートリガーだったので、《ガイハート》を装備されていたら、龍解されてゲームセットだった。
結果的にも、完全に命拾いしたことになるが、とりあえず気にせずゲームを続ける。
「まずい状況……でも、まだ負けてないのよね」
カードを引き、手札を眺める。
一騎たちの場には《グレンモルト「覇」》《ガイバーン》《ユリア・マティーナ》と、厳しい盤面だが、まだなんとかなりそうだ。
「《ホネンビー》を召喚。山札を三枚墓地に置いて、墓地の《クロスファイア》を回収よ。G・ゼロで《クロスファイア》を召喚!」
まずはブロッカーを出し、《クロスファイア》を回収しつつアタッカーを展開。
次に盤面の処理にかかる。
「さらに《超次元ロマノフ・ホール》! クリーチャーを一体選んで破壊してもらうわ」
「なら……《ガイバーン》を破壊するよ」
「次に超次元ゾーンからクリーチャーを呼べる……《時空の凶兵ブラック・ガンヴィート》。タップ状態の《グレンモルト「覇」》を破壊よ」
《ガイバーン》《グレンモルト「覇」》と立て続けのクリーチャーを処理される一騎たち。こうなってくると、正直、苦しい。
「ここは……攻撃しない方がいいかしら?」
「いや、殴る場面だろ。《ユリア・マティーナ》も殴れるんだぞ」
「あぁ、そういえばそうだったわね。防御札というイメージが強くて失念してたわ……じゃあ、攻撃よ。《クロスファイア》でダイレクトアタック!」
「《ユリア・マティーナ》でブロック! 《ユリア・マティーナ》がブロックした時、シールドを一枚追加するよ」
場のクリーチャーはいなくなったが、代わりにシールドが増えた。
とはいえ沙弓たちの場には、《ホネンビー》《クロスファイア》《ブラック・ガンヴィート》と、ブロッカーに加えアタッカーも揃えてきているので、やはり苦しいことに変わりはないが。
残りシールド一枚。耐え凌ぐならブロッカーを出すかアタッカーを潰す。もしくは、決着をつけるなら相手のブロッカーを潰してアタッカーを呼ぶ。
この場合、どちらが正解か。一騎はカードを引いてから、選択する。
「《エビデゴラス》で二枚ドロー」
カードを引き、一騎は目を見開く。
「! いいカードを引いた。夢谷君」
「自分っすか?」
「うん。まずは1マナ。《反撃の城 ギャラクシー・ファルコン》を要塞化!」
「っ、ここで城……!」
《クロスファイア》で殴ったことが裏目に出た。まさか、このタイミングで城が出てくるとは、予想外だ。
ここで出てくるなら、ハンターだろう。ハンターを使うのは八だけだ。彼が使うハンターで、この状況を打開するカードというと——
「突破口を切り開くよ! 《鋼龍 クシャルダオラ》!」
- 番外編 合同合宿1日目 「花園へ至る道の防衛線8」 ( No.429 )
- 日時: 2016/08/18 13:40
- 名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)
7マナをタップして、現れたのは《クシャルダオラ》。
元々はデュエマのクリーチャーではなく、とあるゲームのコラボカードで、それゆえに個性的かつエキセントリックな能力を持っている。
「《クシャルダオラ》……なんでそんなカードが……」
「相性いいと思ってい入れたっす」
「アタックトリガーの起動の遅さに目を瞑れば、結構強い能力だしね。アンタッチャブルの方は条件がちょっとあれだけど……ちなみに今日は、注意報や警報は出てないね」
「合宿どころじゃなくなるものね……」
なんにせよ、ここで《クシャルダオラ》は大きな意味を持つ。
対戦を長引かせるより、決められるときに決めてしまう方がいいに決まっている。そしてその決める時は、今だ。
「ついでに《ポーク・ビーフ》も召喚して……行くよ」
一騎たちは、決めに行く。
「《クシャルダオラ》はハンターだから、《ギャラクシー・ファルコン》でスピードアタッカー! そのまま攻撃して、能力発動!」
攻撃時、《クシャルダオラ》の能力が起動した。
「《クシャルダオラ》が攻撃する時、相手クリーチャーを一体フリースするよ! 対象は《ホネンビー》だ!」
《ギャラクシー・ファルコン》によるスピードアタッカー付与、それによるアタックトリガーの即時起動で、ブロッカーを無力化。
シールドのなくなったところに、とどめを刺す、はずだったが、
「ダイレクトアタック!」
「ここは奥の手……ニンジャ・ストライク4! 《光牙忍ハヤブサマル》よ! 自身をブロッカーにしてブロック!」
「防がれたか……ターン終了」
互いにシールドはゼロ。僅かなブロッカーと、いつ飛び出すか分からないスピードアタッカーをデッキに抱えている状況。
「ここからは凌ぎ合いね。一撃決めた方が勝つ……」
「攻防共に意識しないと、一瞬で持って行かれるね……」
攻めるなら、ニンジャ・ストライクなどの防御札を警戒しつつ、トリガーも考慮しなくてはならない。
守るなら、相手のアタッカーから潰す方が確実だが、スピードアタッカーの存在がブロッカーに重要性を与える。
お互い、攻防両方の面でギリギリの戦線だ。攻めでも守りでも、気を抜けない。
「こっちのアタッカーは《クロスファイア》と《ガンヴィート》。相手の場にはブロッカー一体とシールド一枚ね」
沙弓は一度、場を見る。現状を分析し、打点を計算する。
「このまま攻めきるのは無理っぽいし、ここは……《電脳封魔マクスヴァル》と《龍神ヘヴィ》も召喚よ。こっちは《ヘヴィ》を破壊」
「うぅ、ブロッカーは残さないといけないし、仕方ない。《クシャルダオラ》を破壊するよ」
ここで一騎たちはアタッカーが潰された。
さらに沙弓はカードを引く。ここで除去カードやスピードアタッカーが引ければいいのだが。
「ん……二体目の《マクスヴァル》を召喚よ。さらに4マナで《壊滅の悪魔龍 カナシミドミノ》を召喚」
「たくさん出て来たっすねぇ……」
「並んだのは《マクスヴァル》二体に《カナシミドミノ》か……厄介だな」
単純にブロッカーが二体、アタッカーが一体。しかも《カナシミドミノ》は、こちらのパワーラインを下げてくる。パワー1000以下のクリーチャーは生き残れない上に、まだ手札に握っている《ハンゾウ》が除去できる範囲も広がるので、厄介なクリーチャーだ。
「このターンにとどめは無理そうだけど……最低限、あのお城は引っぺがさないとね」
「そうね。単純にスピードアタッカーを増やされるのも困るし」
「……1ターン待った方がいい気もするけどなぁ。《ハンゾウ》に《カナシミドミ》、ブロッカー二枚だぞ? 耐えられるだろ」
「でも、スピードアタッカーは怖いですよね……」
「そうよ。ハンターは面倒くさいの多いから、《ギャラクシー・ファルコン》は放っておけない。トリガーが怖いけど、ここは攻撃よ」
ミシェルが少し渋ってはいるが、沙弓は攻撃する方向で進んでいく。
「《ブラック・ガンヴィート》でシールドを攻撃!」
「……ブロックはしないよ」
一騎は攻撃をそのまま通す。
そして、このシールドブレイクは、沙弓と一騎の選択は、残り短いこの対戦の行く末を、大きく左右するものだった。
「! S・トリガーだよ!」
追加された最後のシールドが、S・トリガーとして捲られる。
「《天守閣 龍王武陣》!」
「ここでトリガーだなんて、ついてない……しかも《龍王武陣》って」
「除去としては不確定だから、不発の可能性もあるけど……当たったら手札補充までされる」
「だから1ターン待てと言ったんだ。今更、後の祭だがな」
こうなってしまえば沙弓たちは、不発の可能性を信じて見守るしかない。
一騎たちとしても、デッキに占める火文明の割合が25%程度、その中のクリーチャー比率はさらに下がる。五枚捲れるとはいえ、そんな低確率の除去呪文がどこまで信用できるものか。固唾を飲んで見守る。
一枚目——《龍覇 M・A・S》。
二枚目——《龍覇 スコチ・フィディック》。
三枚目——《龍覇 ドクロスカル》
四枚目——《爆砕面 ジョニーウォーカー》
五枚目——《暗黒皇グレイテスト・シーザー》。
「……さぁ、来たよ! 選ぶのは《グレイテスト・シーザー》! 効果で《クロスファイア》を破壊!」
一騎が選び取ったのは《グレイテスト・シーザー》。パワーは13000。その火力で《クロスファイア》を焼き払う。
「ブロッカーじゃなくて、《クロスファイア》を狙った……」
「おいおい、ここでそいつはまずいぞ……!」
女子陣がざわめき立つ。
このタイミングで《グレイテスト・シーザー》が来る。その意味を、彼女たちは知っている。特に、烏ヶ森の面々は。
「マナ武装5で《シーザー》は手札に加えるよ。そして、俺たちのターン!」
《龍王武陣》のマナ武装は達成している。そのまま《グレイテスト・シーザー》は手札へと入る。
そして、《エビデゴラス》で加算されたドローを経て、一騎たちのターンが訪れる。
「《氷牙フランツⅠ世》を召喚。1マナで《ハルカス・ドロー》を唱えてドロー、さらに2マナでリサイクル。もう一度《ハルカス・ドロー》だよ」
ここでドローを連打する一騎。しかし、二回のドローで、彼は呻く。
「念のために《エビデゴラス》も龍解させたかったけど、無理っぽいな……まあいいや」
あと一枚、追加のドローができない。もう一枚引ければ《エビデゴラス》が龍解するのだが、その一枚が足りない。
しかし、それはあくまで保険だ。ないならないで、問題はない。
既に勝負を決める切り札は、手中に収められている。
「これで俺の場には、ナイトの《フランツ》と、ファンキー・“ナイト”メアを持つ《ポーク・ビーフ》がいる。この二体のナイトを進化元にして、進化V!」
種族には、種族カテゴリという概念がある。
アウトレイジMAXもアウトレイジと、ゴッド・ノヴァもゴッドと、リキッド・ピープル閃もリキッド・ピープルと扱われるように、種族の種族名が、他の種族の中に含まれていれば、同一の種族という扱いになるのだ。
つまり、ジャイアント・インセクトもジャイアントであり、ゲル・フィッシュもフィッシュになり——ファンキー・“ナイト”メアも、ナイトとなる。
ナイトの《フランツ》と“ナイト”メアの《ポーク・ビーフ》。種族カテゴリにおいてナイトとして扱われる二体のクリーチャーを種にして、最凶最悪のナイトが姿を現した。
「これで決めるよ——《暗黒皇グレイテスト・シーザー》!」
「あー……終わり、かしらね。流石に」
「シールドなしであいつを止められると思うか?」
「無理ね」
「あきらめちゃいますかっ!?」
「いやまあ、仕方ないでしょう、これは……」
アタッカーは《グレイテスト・シーザー》一体だが、一騎たちの墓地と、自分たちの場を見れば、なにが起こるのかは明白だ。
期待できるのは、精々プレミ程度だ。
「ゲームセットだよ! 《グレイテスト・シーザー》で攻撃する時、能力発動! 墓地から《超次元ボルシャック・ホール》を唱えるよ!」
墓地から放たれたのは、超次元の扉を開く火の呪文。《ボルシャック・ホール》。
呪文選びにミスはない。プレミがあるとすれば、ここからだが、
「まずはパワー3000以下の《マクスヴァル》を破壊! 続けて超次元ゾーンから《勝利のプリンプリン》をバトルゾーンに! 能力でもう一体の《マクスヴァル》を拘束!」
「……生姜だったら、《ハンゾウ》ですりおろしてたんだけどねぇ」
残念ながら、もうプレミはなかった。
《ボルシャック・ホール》の火力で一体目の《マクスヴァル》を仕留め、超次元ゾーンから出て来た《プリンプリン》で二体目の《マクスヴァル》の行動を封じる。
これで、少なくともこのターンにおいては、二体のブロッカーを処理されたことと同義。つまり、シールドのないプレイヤーへの道が開けているのだ。
「……《ハンゾウ》がいても止まらないわね、これじゃ」
沙弓は諦めて目を閉じる。
そして、とどめの一撃が、放たれた——
「《暗黒皇グレイテスト・シーザー》で、ダイレクトアタックだ——!」
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