二次創作小説(紙ほか)

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デュエル・マスターズ Another Mythology
日時: 2016/11/05 01:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: U7ARsfaj)

 初めましての方は初めまして。モノクロと申す者です。
 今作品はモノクロが執筆しているもう一つの作品『デュエル・マスターズ Mythology』の外伝、いわゆるスピンオフ作品と銘打ってはいますが、ほぼ別物と化しています。
 一応今作は、本編とは違った独自のストーリーを展開しつつ、『デュエル・マスターズ Mythology』の謎を別のアプローチで解き明かしていく、というスタンスで執筆する予定です。さらに言えば、こちらはあちらの作品よりもライトで軽い作風に仕上げたいと思っています。
 カード解説は『デュエル・マスターズ Mythology』と同じ。また、オリジナルカードも登場する予定です。

 珍しく前置きがコンパクトになったところで、モノクロの新しい物語を、始めたいと思います——



目次

プロローグ「とある思考」
>>1
1話「始動」
>>4
2話「超獣世界」
>>7
3話「太陽の語り手」
>>8 >>9
4話「遊戯部」
>>12
5話「適正」
>>15
6話「賢愚の語り手」
>>16 >>17
7話「ピースタウン」
>>18 >>24
8話「月魔館」
>>27 >>28
9話「月影の語り手」
>>29 >>30
10話「北部要塞」
>>31 >>35
11話「バニラビート」
>>36 >>37
12話「幻想妖精」
>>38 >>39
13話「萌芽の語り手」
>>40 >>43
14話「デッキ構築の基本講座」
>>60
15話「従兄」
>>63

16話〜58話『ラヴァーの世界編』
>>213

59話〜119話『継承する語り手編』
>>369



『侵革新話編』

120話「侵略開始」
>>367
121話「十二新話」
>>368 >>370
122話「離散」
>>371 >>372
123話「略奪」
>>373 >>374
124話「復讐者」
>>375 >>378
125話「time reverse」
>>379 >>380 >>381
126話「賭け」
>>382 >>383 >>384 >>385
127話「砂漠の下の研究所」
>>386 >>387 >>389 >>390 >>391
128話「円筒の龍」
>>392 >>393 >>394 >>395
129話「奇襲」
>>396 >>397 >>398 >>399 >>400
130話「死の意志」
>>401 >>402 >>403 >>404
131話「殺戮の資格」
>>405 >>406
132話「煩悩欲界」
>>407 >>408 >>409 >>410 >>412
133話「革命類目」
>>413 >>414
134話「一難去って」
>>415




Another Mythology 〜烏ヶ森編〜
1話〜25話『ラヴァーの世界編』
>>213

Another Mythology —烏ヶ森新編—
26話「日向愛」
>>215
27話「■■■■」
>>221 >>225 >>229 >>337 >>338
28話「暴龍事変」
>>339 >>340 >>341 >>344 >>345 >>346 >>347 >>348 >>349 >>350 >>351 >>352 >>353
29話「焦土神剣」
>>354
30話「事変終結」
>>355




番外編

東鷲宮・烏ヶ森二校合同合宿
>>528





東鷲宮中学校放送部

第一回「空城 暁」
>>83
第二回「霧島 浬」
>>93
第三回「卯月 沙弓」
>>95
第四回「霞 柚」
>>132
第五回「日向 恋」
>>299






登場人物目録
>>57

127話「砂漠の下の研究所」 ( No.389 )
日時: 2016/05/15 17:48
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「それで、どうやって波動とやらを取り出すんだ?」
「方法はいくつかあるが、今は時間が惜しい。最も確実で手っ取り早い方法を取ろうか。しかし、少しばかり君に負担をかけてしまうかもしれない。疲弊しているところ、申し訳ないがね」
「少しくらいなら構わん。で、どうするんだ?」
「君の身体そのものを使う」
 ミリンは真顔で言った。
 対する浬は、あまりにストレートな表現に、顔をしかめる。
 いや、それ以上に、彼女の言葉にどこか不穏さを感じた。なにか、妙な怖気が身体を巡る。そんな不快感。
 不安を募らせる浬のことなどお構いなしに、ミリンは続ける。
「正確には、君の身体から、“生命を吹き込むための素”を抽出する。生命力の根源的なものをそのまま利用するから、確実に命を吹き込むことができると言ってもいい。それに、これは生命のサイクルの中で絶対的に存在するものであるため、採取も容易だ。その時に君の身体に少々負担がかかるのだが」
「……おい、なんか嫌な気がしてきたぞ」
「ちなみにこの手法は、ホムンクルス——いわゆる人造生命体を生み出す際にも使われていた。原始的な方法なため、今ではあまり使われないが、原始的であるがゆえに確実である。能率は良くないがね。大量生産にも向かない。そうだな、自分の遺伝子を確実に残すためとか、“個人の性質”を重要視する場合は利用するかな」
「あ、私も分かっちゃいました……」
 エリアスも苦笑いを浮かべる。
 ミリンが欲しているもの。それを知って顔が引きつる二人だが、ミリンはそれに気づいていないのか、今までと同じ調子のまま、もう一つビーカーを浬に差し出した。
「というわけで、採取するから、出してきたまえ」
「…………」
 受け取れない。
 要求されているものがものなので、流石に軽々しく受け取れなかった。
 ミリンはそんな浬の心情に気付いていない。なぜ受け取らないのか疑問符を浮かべている。
「ん? もしかして今の説明で分からなかったか? すまない、君なら既知の知識だと思ったのだが、違ったか。では具体的に言おう。せ——」
「やめろ言うな!」
 それ以上は倫理的にも言わせてはならないと思い、慌ててミリンの口を塞ぐ。
「うむむ、ではなにが問題なのだ?」
「なにがって、いろいろ問題だろう……その、倫理とか」
 なまじ知識があるだけに、恥じらってしまう。もごもごとはっきりしない物言いで、ささやかな反論をする浬。
 しかしミリンには、その反論は届いておらず、疑問符を浮かべ続けるだけだ。
 しかも疑問符を浮かべるだけではなく、自分でそのまま別の方向へと考えを進めてしまう。
「……興奮剤がないのが不満なのか? 参ったな、その手の薬剤は必要ないと思って切らしている。今すぐ調合しようにも、材料もない」
「そういうことじゃない」
「そうだ。ならば私が手伝おう。ちょうど今の私は少女の姿だ。男性体に対してならば、視覚的、聴覚的、嗅覚的に性的興奮を与えることが可能だろう」
「違うつってんだろうが!」
 ミリンの無遠慮な物言いに、遂に怒声を上げる浬。
 彼女はあくまでも研究のためであり、他意はないのだろうが、流石に耐えきれない。
「君はなにを怒っているのだ? ……あ、そうか。私としたことが失念していた。すまない、同性愛者への配慮が足りていなかったな」
「俺は同性愛者じゃない!」
「ではなんだ? 異種族に対してしか興奮を示さない特殊な性癖なのか? 確かに私はクリーチャーだが、今の姿は人間のそれに近いからな……」
「そんな特殊な性癖もねぇよ!」
 どんどん自分の嗜好が誤解されそうな方向へと進んでいく。
 このままではいけないと、どうにか軌道修正したいところだが、変に思い込みが激しいのか、ミリンは止まらない。
「むぅ、この姿は稼働率が高くて案外よかったのだが、開発のためだ。君のために身体を弄ろう。なに、安心したまえ。私は過去に男性体を114回、女性体を100回、無性別体を125回、雌雄同体を99回、無生物体を64回、概念体を7回ほど経験している。性別などとうの昔に忘れ、肉体への執着もすべて捨てている。君が望む身体を提供しよう」
「その発言が一番安心できねぇよ! なんなんだあんた!? 腹の中が思い切りマッドネスじゃねぇか!」
 声を荒げる浬。怒鳴り散らしていたせいで、疲れがドッと押し寄せてきた。ぜいぜいと肩で息をしながら、目の前の研究者を睨むような目つきで見据える。
「本性を隠してやがったな、こいつ……!」
 ついでに浬のクールぶった化けの皮も剥がれかけていた。
「イカれた研究者だって話はデマかと思いましたけど、本当にマッドサイエンティストでしたね……」
 どこか変な奴だとは思っていたが、想像以上におかしな研究者だった。人間とクリーチャーであるのだから、考え方——倫理観の違いなどはあってもおかしくないが、それにしてもあまりに無遠慮すぎる。
 地球ならセクハラで訴えられるほどの問題発言だ。
「ふーむ、どうしても嫌というのであれば、こちらも強硬手段に出ざるを得ないな」
「……は?」
「人間の身体は脆いと聞く。動きも鈍い、力も弱い、簡単に拘束可能である。それに刺激を与え続ければ、必ず反応が出るはずだ」
「おい、待て……」
「君は大事な協力者だ、手荒な真似はしたくない。できれば君自身の手でやってほしいのだがね」
 ミリンは白衣のポケットから小さな機械を取り出す。いくつかのボタンがついているリモコンのようで、いつでも押せるように手をかけた。
 あのボタンが押された時、浬はどうなってしまうのか。想像できないが、トラウマを受け付けられるレベルで酷い目に遭うだろうことは想像できた。
「さぁ、どうする? 自分の手で行うか、私に無理やり出させるか。君がマゾヒストの可能性も考慮して、選ばせてあげよう」
「…………」
 選択肢は、なかった。
 自分はマゾヒストなどではないと反論することもなく、両手を上げて、ただただ降参するだけだ。
 仕方なくビーカーを受け取る。「この部屋を出てすぐ右に個室があるから、そこを使いたまえ」と最後に良心的な配慮をしてくれた。
 しかし去り際に、彼女は追撃するように言う。
「失敗の可能性も考慮して、量はできるだけ多く頼むよ」
「……分かったよ」
 もはや言い返す気力もなかった。

127話「砂漠の下の研究所」 ( No.390 )
日時: 2016/05/16 00:13
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「——ここですか?」
 寄天烈隊員の一人から怪しい場所があるという報告があったので、奇々姫たちはその場所へと向かった。
 この広大な砂漠地帯のどこに行こうとも、景色が変わることはない。だから怪しいと言っても、一目でそれと分かるようなものはどこにもなかった。
 奇々姫はくるりとステッキを回すと、柄の先の方を握り、ステッキを長く持ってその先端を砂の中に突っ込んだ。
 ぐりぐりとねじ込むようにステッキを挿入していく奇々姫。やがて、ステッキが半分くらい砂中に埋まると、ステッキが止まった。
 それでも奇々姫は力を込めるが、ステッキの先端はそれ以上進まない。
 少しステッキを持ち上げて、力一杯振り降ろす。それでも先ほど止まったところ以上に深いところまで埋まることはなかったが、代わりに妙な感触が手に伝わった。
 もう一度同じことをする。今度はさらに力を込め、耳を澄まして。

カツン

 砂の中から、かすかにそんな音が聞こえた。手に伝わる感触も、先ほど感じたもの以上に克明だ。
「掘ってください」
 ステッキを砂中から引き抜き、隊員たちに指示を出す。力仕事は不慣れではあるが、これだけの数がいれば、そこまで時間はかからないだろう。
 奇々姫を除く奇天烈隊員総出で穴掘りをする。砂なので、掘り返す作業にはかなり手間がかかった。
「インペーさんや、獣軍隊のみなさんなら、もっとぱっぱと掘れるんでしょうねぇ……」
 つい口からそんな言葉が漏れる。
 自分の部隊に不満があるわけではないが、限定状況下でしか力を発揮できない奇天烈隊ゆえに、通常の活動が非効率的になってしまうのは、課題であった。
 もっとも、そこが奇天烈隊のよいところであり、だからこそ信頼できるのであると、奇々姫は思っているが。
 大切なのは、如何に効率的に結果を得るかではない。どれだけ価値のある結果を得られるかだ。効率のみを重視して得た結果など、ただの作業報酬であり、価値はない。真に価値のある結果とは、最大限のリスクとリターンを天秤に掛け、自分の力が及ばない領域すらをも超越して勝ち取ったものだ。
 そう、たとえば、天運に委ねた勝利などだ。
 知恵があるから、技術があるから。そんな理由では得られないもの。いくら努力しても勝ち取れず、理不尽に搾取され、幸運という絶対的に不確定の概念によってのみ手にすることができるものにこそ、最大の価値を見いだすことができる。
 奇天烈隊はそれを分かっている。だからこそ、いくら努力していなくても、力がなくても、知恵がなくても、技術がなくても、ハイリスクハイリターンのギャンブルがどれほど大切で、どれほど価値があり、どれほど刺激的で、どれほど楽しいものであるかを理解しているから、奇々姫は彼らを信用しているし、仲間だと思っている。
 それらをすべて内包している存在が、自分自身であるから。それゆえに、自分は奇天烈隊の隊長となった。
 奇に奇を重ね、遇となるか奇となるか。不確定で不確実を楽しみ、嬉々として危機を享受する者、ゆえに奇々姫。
 それが、奇々姫の侵略者としての特異性だった。
 そして、“彼女”に認められた、奇天烈な素質である。
「……掘れました?」
 少しばかり物思いに耽っていた奇々姫は、隊員たちに問う。すると彼らは首肯し、掘った穴を奇々姫に見せつける。
 奇々姫は穴まで歩いていき、覗き込む。その奥には、確かにあった。
 砂漠の陽光に照らされ、鈍色に光を放つ、金属板が。
「ほうほう、なるほど。地下に秘密基地を作っていたんですね、これは一本取られました。そして、これが入り口なんでしょうか?」
 もう一度尋ねると、恐らくそうだと言う。他の場所もいくつか掘ったようだが、金属版に不自然な切れ目があり、ここが入り口の可能性は高いとのこと。
「そうですか、ありがとうございます。しかしこの大きさの入り口となると、ちまちま穴掘りしていては埒があきませんねぇ」
 どうしましょうか、などと口では言いながら、奇々姫はトランクを開き、中からいくつものサイコロを取り出す。
「今まで掘った穴を埋めかねませんが、これで一気に砂を吹き飛ばすというのはどうでしょう? ついでに硬い扉もぶち破れるかもしれませんし、一石二鳥です!」
 奇々姫は小さな手一杯にサイコロを鷲掴みし、盛大にばらまく。
 誰も彼女の行いに異を唱える者はいない。彼女の決定は即ち奇天烈隊の意志であり、彼女が右と言えば右に進み、彼女が1目賭けをすれば全員一つの数字だけに賭け金を払う。 それになにより、奇天烈隊員にとって、彼女は女神なのだ。
 ただし、勝利の女神ではない。
 効率も確率も度外視して、無謀なギャンブルに投じる身を後ろから押してくれる、天使のような死神だ。
 あらん限りのサイコロをばらまき、奇々姫は後ろに下がって勝ち気に微笑む。
 まるで根拠のない自信に満ちた、不敵な笑みで。
「それでは、吉と出るか凶と出るか……ゲーム開始です!」
 刹那。

 砂漠が爆発した。



「死にたい……」
「ご主人様、お気を確かに」
 ミリン曰く採取が終了した浬は、魂の抜け殻のように、壁にもたれてぐったりしていた。今までの人生で最大の精神的疲労だ。エリアスの慰めが虚しく響く。
 採取(婉曲表現)によって、肉体的に多大なる負荷がかかった浬。そのせいで体はだるく、眠気まで差している。数十分前の地上でのこともあり、もういっそ寝てしまおうかと投げやりなことを考えるほど、思考能力が低下していた。
「えーっと、その、ご主人様……だ、大丈夫ですよ。ほら、私を創ったヘルメス様も、同じようなことをして材料を用意して、その結果として私ができたわけですし、気にすることじゃありませんよ!」
「……ぶっ殺すぞ」
「ひぅっ、ご主人様が荒れてます……」
 力なく応える浬に、涙目になるエリアス。脱力しすぎて、言葉のセーブが利いていない。
 なお、浬をこのような状態にした張本人は、巨大な円筒の前に張り付いていた。
「おぉ、おぉ! 素晴らしい! 素晴らしいよ浬君! 君の持つ力がこれほどとは……私は今、猛烈に感動しているよ!」
「……あぁ、そうかよ……そいつはよかったな……」
「ご主人様がもうダメです……どうしてくれるんですか!」
「む? なにが不満なのかね? 実験はこの通り大成功だ。むしろ喜ぶべきだろう」
「そういうことじゃありませんっ!」
「確かに浬君には少々負担をかけてしまった、そこは申し訳なく思っている。だからその分の疲労回復剤は用意すると言ったのだが」
「……いらねぇよ」
 虚ろな目で応える浬。この返しは二度目だっ。
「まあ、別段、身体を害することでもあるまい。彼が構わないのなら無理強いはせんよ、薬剤に頼るとそれこそ毒になりかねんからな。それよりもこの結晶龍、なんと名付けようか。円筒に眠る龍、シリンダーの中のドラゴン……」
 円筒の中身が収縮し、備え付けられている機械からカードらしきものを取り出すミリン。クリーチャーがクリーチャーのカードを持つという奇妙な光景を見た瞬間だった。
 ミリンはどうやらご満悦の様子。実験とやらは成功したようなので、そこは良いとしよう。
 では、これからどうするのか。ずっとここに籠っているわけにもいかない。浬が一人はぐれているように、他の皆もばらばらになっていることだろう。一刻も早く見つけなければいけない。
 ミリンも仲間を探していると言っていたので、そのついでにこちらの要望も通せないだろうか、と働き始めた頭を回していた、その時だ。

 研究所が大きく揺れ動いた。

「っ、な、なんだ……!?」
「地震ですか!?」
 研究所全体が、大きく振動している。それと同時に、棚から様々な器具や資料がガシャガシャと地面に落ちる。
 流石に眠気も吹き飛んで、慌てて立ち上がる浬。
 一方ミリンは、なにやら別のモニターを見て、歯噛みしていた。
「連中め……遂にここを嗅ぎ付けたか。実験が成功して、つい盛り上がりすぎてしまったよ」
 地上の確認を怠っていた、と悔しそうに舌打ちするミリン。
 そして、その直後だった。
 部屋の扉を突き破るようにして、ガラガラとローラーを鳴らしながら、彼女は黒いトランクに跨って突入してきた。
 静止すると、トランクから下りて、彼女はクイッとシルクハットの鍔を上げる。
 そして、甲高い嬉々とした声を発した。

「見つけましたよ、メガネのお兄さん……それと、ノミリンクゥア博士?」

 砂漠の下の研究所を侵略しにやってきたのは、奇天烈の侵略者を束ねる姫君——奇々姫だった。

127話「砂漠の下の研究所」 ( No.391 )
日時: 2016/05/16 22:36
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

「いやはや、まさかこんな砂漠の真っただ中の下に秘密基地を隠していただなんて、びっくりですよ」
 くるくるとステッキを回しながら、奇々姫を室内を見回すように歩を進める。彼女の足音と、耳に残る甲高い声が部屋に響く。
 奇々姫はある程度のところまで歩くと、おもむろにしゃがみ込み、トランクの中を漁り始めた。
「ちょっとすみません。地上はどうにも暑くてかないませんね。喉が渇いてしまいました」
「敵陣に乗り込んできて水分補給か。余裕だな」
「いざとなれば、わたしの信頼する部下のみなさんが助けに来てくださいますし、わたし一人でもそれなりの事態なら切り抜けられる自身はありますので」
 言いながら奇々姫は、トランクからペットボトルのような容器を取り出す。しゅわしゅわと泡が立っており、炭酸水のように見える。
 奇々姫は容器の蓋を外し、口をつけた。
「んく、んく……ん、んん、ぷはぁ! ふぅ、スッキリです」
「……よくもまあ、そんなゲテモノを飲めるな」
「おっと? その発言は聞き捨てなりませんね! わたしをバカにするならともかく、ヒーローソーダをバカにすることは許しませんよ! これはどんなものにも代えがたい、どれほどのコインを積んででも手に入れる価値のある——いや、むしろ無限の価値を備えた至高の一品なんですから!」
「変な体液が混じってる炭酸水じゃないか。成分的には毒のようなものではないが、体内で生成され、口腔から吐き出されるものだ。衛生面が不安だな。それと、研究者としての威厳を無視して言うなら、生理的に無理だ。あと純粋に不味い、味がない」
「味の好みはともかく、味がないだなんて失礼ですね! これの味がわからないなんて、人生の楽しみ方を一つ失くしているようなものですよ。もったいない」
 などと頬を膨らませて憤慨する奇々姫は、容器に蓋をして、飲んでいたヒーローソーダなる飲料をトランクの中に放り投げるように落とす。
 だが次の瞬間には、彼女の表情はいつも通りに戻っている。とんだポーカーフェイスだ。
 奇々姫は鼻孔をほんの少し動かす。その仕草に、浬の体が少しだけビクッと跳ねた。
「それよりもここ、なんかにおいますねぇ……くんくん」
「やめろ、嗅ぐな……」
「くさいというか、ちょっと独特のにおいがしますね。また変な実験でもしてたんですか?」
「変なとは失礼な。そこにいる浬君の力を借りた、【フィストブロウ】きっての大発明さ。このにおいは、浬君の努力の結晶とも言えよう」
「あんたも変なこと言ってんじゃねぇ」
 浬は非難の声を漏らすも、それは虚しく木霊するだけだった。
 しかしこの状況、【鳳】の侵略者が研究所に乗り込んできたという、浬にとってもミリンにとっても、悪い状況だ。
 片や、地上で負けて身ぐるみを剥がされかけており、片や、狩りの対象とされている。
 およそ歓迎できる来客ではなく、特に敗北を喫した浬は身構えるが、ミリンがそれを制するように前に出た。
「下がりたまえ、浬君」
 浬を自らの後ろに置き、ミリンは奇々姫を向かい合う。
 彼女も【鳳】には狙われている立場。できれば戦闘は避けたいと思うだろうに、ここで浬を庇うようにして奇々姫に立ち向かっている。
 色々あったが、やはりミリンは浬を味方してくれている。そのことを、深く実感した瞬間だったが、
「君はまだ行為の後で、疲れているだろう? ここは私に任せろ」
 やはり、彼女には配慮が決定的に欠けていた。若干キメ顔で言うミリンだが、浬に強要したことを考えれば、最低の発言だ。
「……あぁ、そうだな。あんたに任せる……」
 しかし疲れていることは事実。体は気だるげだし、精神はもっとズタズタのボロボロなので、ここは大人しく引き下がった。
 そうして、改めてミリンと奇々姫が対面する。少女の身体に燕尾服姿の奇々姫も奇妙だが、同じく少女の姿で白衣をまとったミリンも普通とは言い難い。
 おかしな出で立ちの少女が二人、多少なりともの敵意を見せながら、相対する。
「ノミリンクゥア博士、ですか」
「なにかね?」
「いえいえ、あまりお会いしたことがなかったものですから、ちょっと緊張してまして」
「緊張? 君からは随分と縁遠い言葉に聞こえるがね、奇々姫。それよりも、さっきの揺れは君の仕業か?」
「はい、そうですよ? 少々乱暴になってしまいましたが、そこはご容赦ください。ちょーっと賭けてみたかったんですよ」
 と言って奇々姫は、腕を振り、袖からばらばらとなにかを床に落とす。
 サイコロだ。六面が均一な面を持つ立方体。それぞれの面には1〜6つの点が穿たれている。
 大きさは奇々姫の手にもすっぽり収まる程度。一見してなんの変哲もないサイコロだ
 一つ、浬の足元に転がってきた。何気なくそれを拾おうとすると
「やめたまえ。危険だよ」
 ミリンが制した。
 ただのサイコロにしか見えないが、なにが危険なのか。
「さすが博士ですね。というか、わたしの手の内は透けちゃってますか」
「そうでなくてもにおいで分かる。浬君のにおいに紛れさせてるつもりなのかもしれないが、微かに火薬のにおいがする」
「火薬だと?」
「そうだ。つまりそれは爆弾なのだよ。暴発を警戒するなら、触らない方がいい。というか触らないでくれ。誘爆して研究所が埋まる」
「……!」
 戦慄する浬。今、奇々姫がばら撒いたサイコロ、それらがすべて爆弾だというのか。
 サイコロ自体は小さい、その中に詰まっている炸薬の量はさほど多くないだろうが、数がとにかく多い。十や二十では利かないほどの数だ。
 これらの爆弾がすべて爆発したとしたら……考えるだけでも恐ろしい。
「で、人の研究所にサイコロを撒いてなにをしようというのかね?」
「そんな怖い顔しないでくださいよー。わたしは、ちょっと遊びたいだけですよ?」
「遊びだと? 悪いが、私は子供の遊びに付き合うほどの余裕はないのだが」
「またまたぁ、つれないですね。でも、博士も博士で楽しいこと、たくさんしてるんでしょう?」
「私の研究のことか? ふん、それを君の児戯と同じにされては困るな。私の研究は遊びなどではない。いつだって真剣さ」
「遊びが真剣じゃないなんて、ひどい偏見ですよ。わたしは遊びにだっていつも真剣です。全力全開、全身全霊で遊びに尽くしますよ? この世は、楽しむ余裕を失った人から死んでいくんです。だから博士も楽しみましょうよ」
 熱っぽく語りつつ、彼女の言う“遊び”を要求する奇々姫。
 彼女にとっての遊びは、あらゆるものを賭けた、熱狂的なゲーム。確率を超えた先にある価値を求める、狂った賭博だ。
 幼くとも【鳳】の一隊長。それ相応に威厳があり、そしてそれ相応に壊れている。
 ミリンは諦めたように息を吐いた。
「……君との議論も時間の無駄かね。まあいい。で、君の遊びとやらはなんだ?」
「乗ってくれましたね、ゲーム成立です!」
「まだ乗ってない。話を聞くだけだ」
「はいはい、分かってますよ。なに、簡単な賭け事です。わたしは今、博士の研究室に爆弾をばら撒きました。これの起爆権を賭けて、わたしと勝負しましょう」
 穏やかではない提案をされる。概ね予想はしていたことではあるが。
「具体的に言いますね。わたしが勝ったら、この研究室を爆破します。でも、博士が勝ったら、爆破しない。わたしも奇天烈隊のみなさんといっしょに撤退します。これでどうですか?」
「私にメリットがない賭け事だな。まあいいさ。起爆する権限は今、君が持っているんだろう? ここを爆破されると困る。ならば大人しく受けようじゃないか」
「いいですねぇ、賭けは成立しました。では、肝心のゲームはどうしましょう? せっかくですし、爆弾サイコロ使ってスリリングなチンチロでも——」
「いいや、これにしよう」
 そう言ってミリンが掲げたのは、先ほど円筒の中から取り出したクリーチャー——そのカードだ。
「あー……またですか。いえいえ! あまりできないゲームなので、むしろ大歓迎ですよ!」
 一瞬、辟易したような表情を見せるが、即座に笑顔を取り繕う奇々姫。この表情筋の器用さは素直に感服する。
「それでは、賭けの内容も、ゲームのチョイスも済んだところで、さっそく始めましょう!」
「あぁ。君たち【鳳】に対抗するために生み出した、私の“革命”の力を初お披露目と行こうか」
 互いに、言葉では表しづらい、気迫のようなものを発しながら、構える。
 同時に、二人の賭博の場が、用意されていく。

「それでは! 侵略ゲーム、スタートです——!」

128話「円筒の龍」 ( No.392 )
日時: 2016/05/21 14:51
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

 ミリンと奇々姫のデュエル。
 シールドは、ミリンが四枚、奇々姫が五枚。
 ミリンの場には《マリン・フラワー》《一撃奪取 マイパッド》がそれぞれ一体ずつ。
 奇々姫の場には《侵略者 BJ》と《奇天烈 ディーラー》。
「私のターン、《K・マノーミ》を召喚。マナ武装3発動で《ディーラー》を手札に戻してもらおうか」
「むむ、嫌なことしますね。使ったお金の返金はいいですけど、クリーチャーを返品されるのは困ります」
「そんな事情は知らないね。残ったマナで二体目の《マリン・フラワー》を召喚、ターン終了だ」
「それではわたしのターン! ルーレットチャンスです! 《奇天烈 ベガス》を召喚!」
 奇々姫は足元のトランクを蹴り開けながらクリーチャーを呼び、回転盤ホイールを盤上に投げ出した。
「本日の数字は5、配当金は手札三枚! 種も仕掛けもございません。ルーレット・スタート!」
 ホイールが回り、ボールが投げ入れられる。カンカンと乾いた音を立てて、縁を跳ねる。
 そして、ボールがポケットへと入った瞬間、ミリンは山札を捲った。
 捲られたカードは、《アクア・サーファー》。
 コスト6のカードだった。
「大当たりです! 今日はついてますね、カードを三枚ドローしますよ! 続けて《BJ》でシールドをブレイク!」
 その攻撃をミリンはブロックせず、これでミリンのシールドは残り三枚に。
「比較的コストの低いカードの多いこのデッキ相手に、コスト5以上を引き当てたか……確かに、君は運がいいのかもしれないな。だがしかし、そんなものは所詮は確率論でしかない。それに、ここで運が良くても、大勢に影響は与えない。私のターン、呪文《ブレイン・チャージャー》でカードを引き、チャージャーをマナへ。ターン終了」
 カードを引き、マナを伸ばすだけで終わるミリン。
 対して奇々姫は、常に攻める姿勢を忘れない。
 どれだけ子供っぽい声で言葉を話そうと、幼い姿を見せようと、彼女は侵略者。
 いつだって、相手を侵略することに力を注いでいる。
「お、それでは、次はこれで行ってみましょうか。《奇天烈 サイコロン》を召喚です!」



奇天烈 サイコロン 水文明 (3)
クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 4000
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを2枚引く。その後、自分の手札を相手に2枚見ないで選ばせ、好きな順序で山札の一番下に置く。



 次に現れたのは、シルクハットにスーツを着たかのような姿のロボット。手には短めのステッキと、掌サイズのサイコロが握られている。
「ルーレットもそろそろ飽きたでしょうし、お次はダイスゲームはいかがですか?」
「別になんでもいいよ。早くしたまえ」
「つれないですねぇ……《サイコロン》の能力でカードを二枚引きます。そして!」
 バッ、と奇々姫は自分の手札を、裏向きのまま、ミリンに見せつけるように前に突き出した。
「これでわたしの手札は六枚に増えましたが、この増えた手札から、カードを二枚山札の下に戻さなければなりません。どのカードを山札に戻すのかは、これで決めます」
 そう言って取り出したのは、一つのサイコロ。
 奇々姫はそれをミリンに投げ渡す。
「サイコロか……」
「ご安心ください。爆発しないタイプの、普通のサイコロですよ? 種も仕掛けもございません」
 ポーカーフェイスで言う奇々姫。信用できる言葉ではないが、確認する手段がないので、なにも仕掛けられていないと思うことにする。
 触った感じ、重量や重心におかしなところはなさそうだ。
「そのサイコロ——あなたの出した目の数に応じて、わたしの手札の内容が決まります。どうです? ゾクゾクするでしょう?」
「ふぅむ。まあ、侵略は手札ありきのギミックだし、これで手札に侵略カードが残るかどうかと考えると、確かにゾクゾクするかもしれないな。もっとも、私には君の手札の内容も、どのカードが山札に戻されるのかも分からない。あまり気負わず、賽を投げるとしようか——」
 ミリンは手にした二つのサイコロを、放るように投げた。
 カランカラン、と音を立てて、ミリンの賽は地面を転がる。
「……6、か」
 ミリンが出した目は6。
 その時、奇姫の手札が二枚、青く光った。
「では、この二枚を山札に戻しますよ。さーて、なにが残りましたかね?」
 と楽しげに言いながら残った手札を見ると、奇々姫は小さな悲鳴のような声を上げた。
「って、え!? ちょっと! なんでよりにもよってあのカードがないんですか!?」
「……知らないよ。《サイコロン》で山札に戻ったんじゃないのかい?」
「そ、そんなぁ……」
 若干涙目でガックリと肩を落とす奇々姫。今回の賭けは、どうやら彼女の負けらしい。
「……いえ、ここで挫けてはいられません。まだ手札に侵略のカードは残っていますし、まだ行けます! わたしの侵略は《ベガスダラー》だけではないんですよ! 《ベガス》で攻撃! 《ベガス》で攻撃する時に、侵略発動です!」
 《サイコロン》で目当てのカードが残らなくとも、奇々姫の手にはまだ、侵略者が存在している。
 《ベガス》が攻撃する時、彼女の手中から、奇天烈を超えた奇天烈の侵略者が、侵略する。
「このゲームにわたしのすべてを賭けて、最高に狂ったゲームを始めましょう! そして——侵略です!」
 攻撃途中の《ベガス》に重ねられる、次なる侵略者。
 熱狂的に侵略するギャンブラーたちの、新たなゲームが始まる時だった。

「オールイン——《超奇天烈 ギャンブル》!」



超奇天烈 ギャブル 水文明 (5)
進化クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 7000
進化—自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—水のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、相手は自身の山札の上から5枚を表向きにする。その中から呪文を1枚選び、その後相手は残りを好きな順序で自身の山札の一番下に置く。選んだ呪文を自分がコストを支払わずに唱え、相手の墓地に置く。



 《ベガス》が侵略して現れたのは、腕が四つある、建造物の如きロボット。手や肩が眩しいくらいに発光しており、体のあらゆるパーツがルーレットやスロットなどを彷彿とさせ、まるでカジノのような雰囲気を漂わせている。
 《超奇天烈 ギャンブル》。浬との対戦では見せなかった、奇々姫の侵略者。
 場に出るや否や、《ギャンブル》はミリンのデッキを掴んだ。
「む、人のデッキになにをする気だ」
「変なことはしませんよ。ただ、新しいゲームを始めるだけです。《ギャンブル》の能力であなたの山札を上から五枚、見せていただきます」
「一気に五枚を捲るのか。それで一体なにをするというのだね?」
「なんとですね、《ギャンブル》はその捲った中にある呪文を、わたしが使えてしまうのです。もちろんコストはタダ! お金を払う必要はなし。必要経費ゼロのノーコストですよ! さあ、山札を捲ってください」
 そして、ミリンの山札が五枚、公開される。
 捲った五枚は、《終末の時計 ザ・クロック》《アクア・サーファー》《K・マノーミ》《一撃奪取 マイパッド》《ストリーミング・シェイパー》。
 ほとんどクリーチャーだが、ただ一枚、呪文があった。
「ビンゴ! それいただきです! 呪文《ストリーミング・シェイパー》で、山札の上から四枚を捲りますよ!」
 《ギャンブル》が、ミリンの捲ったカードの中から呪文を選び抜き、その力を吸収し、解き放つ。
 放たれた力が奇々姫の山札に降り注ぎ、上から四枚のカードを晒す。奇々姫も水単色のデッキを使用しているので、当然すべて奇々姫の手札に入った。
「さぁ、ガッポリ儲けましたよ! そのままWブレイクです!」
「《マリン・フラワー》でブロックだ」
「なら《BJ》でも攻撃!」
「もう一度《マリン・フラワー》でブロック」
 攻め手を緩めない奇々姫の猛攻を、ミリンはジッと耐え凌ぐことしかできない。
 幼くとも【鳳】の一隊長。彼女の秘めたる攻撃性は、侵略者の姿そのものだった。
「《アクア・スーパーエメラル》を召喚。手札を一枚シールドと入れ替えさせてもらおう。さらに《ブレイン・チャージャー》を唱え、ターン終了」
「《アクア・ベララー》と《BJ》を召喚です! 《アクア・ベララー》の能力でわたしの山札を捲って……おや? ふふふ、これはこのままです」
 奇々姫は《アクア・ベララー》で山札を動かす。
 含みありげな笑みを零して、山札の操作。なにか、嫌な予感がする。
「では、参りましょう! 《奇天烈 サイコロン》で攻撃する時に、侵略発動です!」
 奇々姫はさらに攻撃し、侵略する。
 確率を超えた熱狂を求め、ひたすらに攻め続けて来る。
「この賽にわたしのすべてを賭けて、最高に狂ったゲームを始めましょう! そして——侵略です!」
 《サイコロン》が攻撃するその時、さらなる侵略者が姿を現した。
 カランカラン、と賽を転がす音を鳴らして、賭博に狂った奇天烈の侵略者がすべての賭けベットを支払い、次のゲームを始める。

「オールイン——《超奇天烈 ダイスダイス》!」

128話「円筒の龍」 ( No.393 )
日時: 2016/05/21 22:45
名前: モノクロ ◆QpSaO9ekaY (ID: ugLLkdYi)

超奇天烈 ダイスダイス 水文明 (5)
進化クリーチャー:マジック・コマンド/侵略者 7000
進化—自分の水のクリーチャー1体の上に置く。
侵略—水のコマンド
W・ブレイカー
このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを4枚引く。その後、自分の手札を相手に2枚、見ないで選ばせ、好きな順序で山札の一番下に置く。



 《サイコロン》が侵略し、現れたのは、やはり巨大なロボット。両手がサイコロのような立方体になっており、ライトのようなレーザーを発している。
「……はぁ」
「おや? 溜息なんてついてどうされました?」
「君の侵略クリーチャーを見ていると、どうにも苛々するのだよ。設計者が誰かが分かっているだけにね」
「そういえば博士は、あの方とは仲が悪かったですね。でもでも、わたしのゲームには一切合切無関係なので、お気になさらず!」
 そう言って奇々姫は、侵略した《ダイスダイス》へと目を向ける。
「《ダイスダイス》の能力発動! このクリーチャーがバトルゾーンに出た時、カードを四枚引けますよ!」
 両手から放たれるレーザーが、奇々姫の山札を照らす。照らされ、浮かび上がった四枚のカードを、奇々姫は手に取った。
 場に出るだけに四枚の手札を手に入れる能力。ビートダウンで積極的にクリーチャーを出して殴り、侵略というギミックによって手札消費も激しい奇々姫にとっては、重要な能力だ。
 しかしそれを差し引いても、侵略による踏み倒しに、大きなハンドアドバンテージ、素のコストの軽さなどを考慮すれば、四枚の手札補充は強すぎると言っても過言ではない。
「それゆえに、当然それだけのデメリットはあるんだろう?」
「デメリット? さて、どうでしょう?」
 まさか本当に四枚もカードが手に入るとは思えない。ミリンはデメリットがあると予想するも、奇々姫ははぐらかす。
「ですがおっしゃるとおり、四枚も配当はもらえません。こうして増えたわたしの手札から、カードを二枚山札に戻さなければならないのです。そして、それを決めるのが」
 奇々姫はポケットから“それ”を取り出すと、またもミリンに投げ渡す。
 それは、やはり二つのサイコロだった。
「ダイスか……」
「二つのダイスで、わたしの手札は変わります。手札が変われば、戦略も変わります。その六面の賽で、わたしたちの運命は分かたれるのですよ!」
 四枚のカードを引き、手札から二枚をランダムで山札に戻す。
 《サイコロン》と同じだ。なにが手札に残るかが分からない不安定さと、そのスリル。
 手札に残したいカードが戻るのか、不要なカードが戻るのか。蓋を開けるまで結果は分からない。だからこそ、ゾクゾクする。
 そんな緊張感を味わいながら、奇々姫はミリンが投げる賽の目の行方を眺める。
 カランカランと、二つのダイスが運命を決めた。
「1・1(ピンゾロ)……」
 賽の目が表しているのは、二つとも1。1(ピン)のゾロ目でピンゾロだった。
「では、この二枚を山札に戻しますね。《アクア・ベララー》の能力で、あなたの山札を見て……ふふ、そのままです。そして、《ダイスダイス》でシールドブレイク!」
「《アクア・スーパーエメラル》でブロック」
 奇々姫の手札が確定し、《ダイスダイス》の攻撃が続行される。
 相手の手札がどうあれ、ミリンとしては今の状態でWブレイクを受けるのは厳しい。それに、奇々姫の手札に新たな侵略者が引き入れられたことも考慮して、先にブロッカーを消費しておくことにした。
「……ふっふっふ、この手札はなかなかですね。どうやらこの賭けに勝ったのは、わたしのようですよ!」
 《ダイスダイス》で増えた手札を眺めつつ、わざとらしく笑みを見せる奇々姫。
 彼女はまだ攻撃していない《ギャンブル》に手をかけた。
「《ギャンブル》で攻撃——する時に!」
「また侵略か……」
「その通り! 侵略発動です!」
 既に侵略を為した《ギャンブル》は、さらに侵略を重ね、熱狂に憑りつかれる。
 一度侵略したからといって、もうそのクリーチャーが侵略できないわけではない。
 《ギャンブル》は水のコマンド。つまり、奇々姫が抱える侵略者の、侵略条件を満たしているのだ。
「この一球にわたしのすべてを賭けて、最高に狂ったゲームを始めましょう! そして——侵略です!」
 条件を満たせば、あとは始めるだけだ。
 熱狂的に奇天烈な、侵略という賭博を。

「オールイン——《超奇天烈 ベガスダラー》!」

 《ベガス》から《ギャンブル》を経て、さらに侵略し、《ベガスダラー》が現れる。
 恐らくは、《ダイスダイス》で引き入れ、山札に戻されることもなかったのだろう。直前に《アクア・ベララー》で自身の山札の上を把握していたため、《ベガスダラー》が引けることも分かっていたのかもしれない。
 なんにせよ、《ダイスダイス》の能力で手札に《ベガスダラー》が残らなければ意味のないことで、結果として奇々姫はその賭けに勝ったのだ。
 そして次のギャンブルが始まる。盤上には回転盤ホイールが設置され、《ベガスダラー》がディーラーとなってボールを放る。
「さあさあ、お捲りください。だいじょーぶです、種も仕掛けもございません。はい!」
 そんな台詞を聞きながら、ミリンは山札を捲る。
 捲られたのは、《サイバー・I・チョイス》。
 コスト7のカードだった。
「ふぅむ。君は直前に《アクア・ベララー》で私の山札も見ていたね。ということは、私のトップデックを把握したうえでやってるね、これは」
「さーて、なんのことでしょう?」
 とぼける奇々姫。顔が笑っている。
 どこからどう見ても、奇々姫がミリンの山札を確認した事実は変わらない。とぼけても無意味だったが、それを摘発することこそ、この場では無意味だった。
 《ベガスダラー》の能力によって、ミリンの場は一掃される。さらに、シールドを二枚、打ち砕いた。
「S・トリガー発動だ。《終末の時計 クロック》。君のターンはここまでだよ」
「うむむ、せっかく場を一掃したのに。しかしもう攻撃できるクリーチャーはいませんし、無問題ですね! それにあなたのシールドは残り二枚! わたしのシールドは五枚! 持ち金の差は心的余裕の差にもつながりますし、冷静さを欠いていては、勝てるゲームも勝てませんよ?」
「私は至って冷静さ。君の言う通り、この状況、私が不利なのは明確だ。だが、背水の陣という言葉もある。この窮地こそが、逆転へと結びつける要素にもなりうるのさ。それが、革命というものだ」
 状況は圧倒的にミリンが不利。シールドの枚数、バトルゾーンの状態、手札の枚数、どれをとってもミリンは負けている。
「《K・マノーミ》を召喚。マナ武装3で、《アクア・ベララー》を手札へ」
 ミリンのターン。ミリンは手札に戻された《K・マノーミ》を出し、《アクア・ベララー》を押し戻す。
 奇々姫の場には、《ダイスダイス》と《ベガスダラー》、大型のマジック・コマンドが二体もいる。これら二体を差し置いて、ミリンは《アクア・ベララー》を戻した。 奇々姫の場には《BJ》もいるので、一体戻すだけであれば、とどめを刺す打点が残っていることに変わりはないのだが。もしかしたら、登場時の能力を使い回されることを嫌ったのかもしれない。
 しかし、ミリンが考えているのは、もっと別のことだった。
「……決めたぞ」
「はい?」
「名前さ。私の開発したクリーチャーだ」
 奇々姫は首を捻る。彼女の言っていることの意味が分からない、といった様子だった。
 ミリンは奇々姫の理解力に合わせるつもりはなく、己の思うがままに事を進める。
「革命の力を宿し、龍程式を解いて生まれた、円筒シリンダーに眠りし結晶龍——今、君に命名しよう」
 そして、5マナがタップされ、彼女の手札から一枚のカードが飛ぶ。
「行くぞ。《K・マノーミ》を進化!」
 《K・マノーミ》は、巨大な結晶に覆われる。その中で小さな身体を変質させていく。
 鮮やかな鱗は、曇った結晶に。胸鰭は刃のような扁平な腕に。背鰭は海賊旗と共に両翼に。ゴーグルは金色の顔となる。
「安全装置解除。出力最大。データの解凍完了。円筒に眠りし龍よ、すべてを凍らせたまえ——さぁ、私の革命の完成だ!」
 結晶が気化することを待たずして、結晶を砕き、中から龍程式によって導かれた結晶龍が現れる。
 溢れ出るエネルギーを光線状に散らし、2の数字を描きながら、革命の龍程式が解明された。

「解析完了——《革命龍程式 シリンダ》!」


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